(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6100419
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】アルミ鋳造ホイールの仕上げ加工法
(51)【国際特許分類】
B60B 3/06 20060101AFI20170313BHJP
B60B 1/08 20060101ALI20170313BHJP
B22C 9/28 20060101ALI20170313BHJP
B22D 31/00 20060101ALI20170313BHJP
B60B 21/02 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
B60B3/06
B60B1/08
B22C9/28
B22D31/00 Z
B60B21/02 P
B60B21/02 L
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-87630(P2016-87630)
(22)【出願日】2016年4月26日
【審査請求日】2016年5月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】396012193
【氏名又は名称】5ZIGENインターナショナル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230115336
【弁護士】
【氏名又は名称】山下 綾
(74)【代理人】
【識別番号】100071548
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 賢二
(72)【発明者】
【氏名】木下 正治
【審査官】
高島 壮基
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−166702(JP,A)
【文献】
実開昭60−84302(JP,U)
【文献】
特開2005−272931(JP,A)
【文献】
実開平3−45302(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 53/26
B22C 9/28
B22D 31/00
B60B 1/08
3/00
3/06
21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リムのリヤー側からウエルへタイヤが組み付けられるリバースタイプのアルミ鋳造ホイールを対象として、
上記リムにおけるウエルの内周面をホイール離型用の前下がり傾斜面として、そのウエルの最も厚肉な前端部がディスクの先端部と連続する形態に鋳造した後、
上記ウエルの前端部をその内側から一定幅だけ切削加工して、ホイール回転軸線との実質的に平行な内周面に保つことにより、ブレーキキャリパーとの干渉を防止したことを特徴とするアルミ鋳造ホイールの仕上げ加工法。
【請求項2】
ウエルの切削加工幅を、そのウエルが凹状に陥没する一定幅の二等分線からディスクとの付け根部に到達するまでの約前半部に設定したことを特徴とする請求項1記載のアルミ鋳造ホイールの仕上げ加工法。
【請求項3】
ウエルの切削加工幅を、そのウエルが凹状に陥没する一定幅の全体に設定したことを特徴とする請求項1記載のアルミ鋳造ホイールの仕上げ加工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリバースタイプのアルミ鋳造ホイールを対象とする仕上げ加工法に係り、殊更そのリムにおけるウエルの最も深い部分がブレーキキャリパーやその他の制動装置部品と干渉しないように改良したものである。
【背景技術】
【0002】
フォーミュラータイプ(ノーマルタイプ)のアルミ鋳造ホイールでは、タイヤを組み付けるために必要なリムのウエル(別名:ドロップ)が、フロント側へ寄った位置にあるに比して、リバースタイプのそれでは同じくリムのウエルが、リヤー側へ寄った位置にあるため、ディスクをフロントリムフランジから深く沈む状態に位置決め設定することができ、意匠性に優れる反面、リムにおけるウエルの内周面を金型から抜けやすくするために、そのリヤー側から最も深い部分(ディスクと連続する付け根部分)までの大きな傾斜角度に保てば保つ程、そのウエルの最も深い部分が内側(中心側)へますます大きく張り出して、自動車に装着されているブレーキキャリパーと干渉することとなり、交換ホイールとしての優位性が低下し、ブレーキキャリパーやブレーキディスクの大型化に対応することができない。
【0003】
この点、大きく見せたい意匠性と軽量化の両方を満足するための方法が、下記特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−71419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記特許文献1に開示された「ホイール状製品の軽量化方法」は、
図2、3から明白なように、一般的なフォーミュラータイプ(ノーマルタイプ)の鋳造ホイールを対象としており、しかもリム部付根部(21b)を一旦
図3のように意図的な余肉部分として鋳造した後、
図2の鎖線で示す内周方向から実線で示す部分まで切削して、その余肉部分(21b)を除肉しているが、あくまでも軽量化を図る目的に尽きるものである。
【0006】
つまり、特許文献1に記載の軽量化方法では、リム部(21a)におけるウエル部、就中その最も深い位置を切削しておらず、その切削しているリム部付根部(21b)はフロントビードシート部に相当し、ここを内周方向から切削しているものである。
【0007】
フロントビードシート部を内周方向から切削しても、フォーミュラータイプ(ノーマルタイプ)の場合、ここよりも内側へ大きく張り出すウエル部が存在するため、軽量化を図るだけであればともかく、ブレーキキャリパーとの干渉を防止することには少しも役立たない構成である。
【0008】
まして、リバースタイプの鋳造ホイールではウエルがリヤー側にあるため、特許文献1に記載のようなフロントビードシート部を内周方向から切削しても、ブレーキキャリパーは依然としてウエルの最も深い部分と干渉することになり、ワンランク上の大きいリム径を備えた高価な交換ホイールの装着を余儀なくされるのである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はこのような課題の改良を目的としてお、その目的を達成するために、請求項1ではリムのリヤー側からウエルへタイヤが組み付けられるリバースタイプのアルミ鋳造ホイールを対象として、
【0010】
上記リムにおけるウエルの内周面をホイール離型用の前下がり傾斜面として、そのウエルの最も厚肉な前端部がディスクの先端部と連続する形態に鋳造した後、
【0011】
上記ウエルの前端部をその内側から一定幅だけ切削加工して、ホイール回転軸線との実質的に平行な内周面に保つことにより、ブレーキキャリパーとの干渉を防止したことを特徴とする。
【0012】
また、請求項2ではウエルの切削加工幅を、そのウエルが凹状に陥没する一定幅の二等分線からディスクとの付け根部に到達するまでの約前半部に設定したことを特徴とする。
【0013】
更に、請求項3ではウエルの切削加工幅を、そのウエルが凹状に陥没する一定幅の全体に設定したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の上記構成によれば、タイヤをリムのリヤー側から組み付けるためのウエルの内周面が、一定角度の前下がり傾斜面として鋳造金型から容易に離型できるにも拘らず、その鋳造後にウエルの最も厚肉な前端部(ディスクとの付け根部)が内側から切削加工され、その内周面がホイール回転軸線との実質的に平行なブレーキキャリパー用逃がし面として形成されるため、自動車に装着されているブレーキキャリパーとの干渉を防止できる効果があり、交換ホイールとしての利便性が向上する。
【0015】
その場合、特に請求項2の構成を採用するならば、そのウエルの切削加工幅が比較的狭小であるため、引け巣の露出によるエヤー洩れを招来せず、切削加工もすばやく完了できるのであり、量産効果に優れる。
【0016】
更に、請求項3の構成を採用するならば、リムの中空内部にブレーキキャリパーなどの収納スペースを、極力大きな直径として確保できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係るアルミ鋳造ホイールの金型を示す概略断面図である。
【
図2】そのホイールの鋳物形状を示す正面図である。
【
図5】
図4のウエルを部分的に切削加工した製品としての側断面図である。
【
図6】
図5のホイール製品全体を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基いて本発明の実施形態を詳述すると、
図1はそのリバースタイプのアルミ鋳造ホイール(A)を得る(ダイカストする)ための金型に係り、(10)は溶湯注入口(11)を有する固定下型、(12)は図外の油圧シリンダーなどによって昇降される可動上型、(13)はその固定下型(10)と可動上型(12)との相互間へ全体的な放射対称分布配置として、円周方向(横方向)から進退自在に挿入セットされた複数の中子であり、これらの閉合によってキャビティ(14)が区画形成される。
【0019】
キャビティ(14)は上記ホイール(A)の成形空間(凹窩)であって、そのホイール(A)のディスク成形部(14a)とこれの中心に連続する比較的厚いハブ成形部(14b)並びに同じくディスク成形部(14a)の周辺に連続する比較的薄いリム成形部(14c)とから成り、上記固定下型(10)の溶湯注入口(11)からキャビティ(14)に注入されたアルミ溶湯が、そのハブ成形部(14b)とディスク成形部(14a)を経てリム成形部(14c)まで流動し、その冷却固化した後の型開きにより、成形品としての上記ホイール(A)がキャビティ(14)から取り出されることになる。
【0020】
図2〜4はその成形されたホイール(A)の鋳物形状を示しており、これを具体的に説明すると、(15)はリム(R)の中央部に一定幅(W)だけ陥没する凹状のウエル(ドロップ)であって、その一定幅(W)の二等分線とリム(R)の赤道線(Y−Y)とが同一線上に合致している。しかも、ウエル(15)の内周面は一定角度(好ましくは5度)(θ)の前下がり傾斜面(15a)をなしており、そのホイール回転軸線(O−O)と交叉する一定角度(θ)が所謂抜き勾配として、金型の就中可動上型(12)から抜く(離型する)ことができるようになっている。
【0021】
その場合、上記ウエル(15)の肉厚はその一定幅(W)分の全体的に均等でなく、ディスク(D)との付け根になる前端部では最も厚肉に成形されている。ウエル(15)の内周面が前下がり傾斜面(15a)をなしているに比して、そのウエル(15)の外周面(凹状の溝底面)(15b)は内周面との平行状態に形成されていないのである。
【0022】
(16)は上記一定幅(W)のウエル(15)からリヤーハンプ(17)を経て後続するリヤービードシート、(18)はそのリヤービードシート(16)の後端部から外方へほぼ直角に張り出し屈曲するリヤーリムフランジであり、これと向かい合うフロントリムフランジ(19)との前後相互間で、一定のリム幅(X)を規定している。(20)は上記ウエル(15)からフロントハンプ(21)を介して連続するフロントビードシートであり、その前端部からフロントリムフランジ(19)がやはり外方へほぼ直角に張り出し屈曲している。
【0023】
他方、上記リム(R)との1ピースをなすディスク(D)の前面は、フロントリムフランジ(19)の前端部とほぼ対応合致する線上まで到達しており、その中心部の最も厚肉なハブ(22)から上記リム(R)に向かって、滑らかな円弧面を描きながら後方へ弯曲していると共に、その後端部(ハブからの派出先端部)がリム(R)における上記ウエル(15)の最も深い前端部へ連続している。そのウエル(15)の最も深い前端部がディスク(D)との付け根になっている。
【0024】
そして、そのディスク(D)のハブ(22)から放射状に派出する後端部(先端部)までの円弧面には、多数の放熱窓(23)が全体的な放射対称分布型に開口されており、これによってディスク(D)が所謂スポーク形態に造形されているのである。(24)は上記ディスク(D)のハブ(22)に開口された大きなハブ穴(軸穴)、(25)は同じくハブ(22)の後面をなすフラットなハブ取付け面、(26)は複数のハブボルト受け入れ孔であり、全体的な放射対称分布型に開口されている。
【0025】
上記ホイールの鋳物形状では、そのリム(R)の中空内部にブレーキキャリパーなどの奥行が深い収納スペースを確保するため、ディスク(D)の前面がフロントリムフランジ(19)の前端部とほぼ対応合致する線上まで、大きく張り出す円弧状に弯曲形成されているが、あくまでもリバースタイプの1ピースホイールとして、そのリム(R)のウエル(15)がリヤー側へ寄った位置にあり、しかもそのウエル(15)の内周面を金型からの確実な離型のため、一定角度(θ)の前下がり傾斜面(15a)に造形しなければならない関係上、そのウエル(15)におけるディスク(D)との付け根をなす前端部が
図4から明白なように、最も深い位置として必らず内側へ大きく張り出すこととなり、ここにブレーキキャリパー(B)が干渉する結果、径大なブレーキキャリパー(B)を装着した自動車については、リバースタイプの上記ホイール(A)を交換使用できないのである。
【0026】
そこで、本発明では金型からの抜き勾配を確保するために、そのホイール(A)の鋳物形状としては上記ウエル(15)の内周面における前下がり傾斜面(15a)の未だ最も厚肉な前端部を、
図4の点線から
図5、6の実線のように、一定幅(W1)だけ内側から切削加工して、そのディスク(D)との付け根を抜き勾配がない傾斜角度(θ)の零度に形成するのである。
【0027】
つまり、ウエル(15)の未だ厚肉な前端部をほぼ三角形の面積(Z)分だけ内側から削除することにより、そのホイール回転軸線(O−O)との実質的な平行状態に形成された前端部の内周面が、ブレーキキャリパー(B)の逃がし面(15c)として働くようになっているのである。その切削加工は旋盤やフライス、エンドミルなどによって行えば良い。
【0028】
その場合、上記ウエル(15)の切削加工幅(W1)について、そのウエル(15)が凹状に陥没する一定幅(W)との関係から言えば、その二等分線(ホイールの赤道線)(Y−Y)からディスク(D)との付け根に到達するまでの約前半部だけを、ホイール回転軸線(O−O)と交叉しないほぼ平行な内周面として切削加工すれば足りるが、
図5と対応する
図7の部分変形実施形態に示す如く、上記ウエル(15)の内周面をその一定幅(W)の全体に亘って、その肉厚を均等に薄く保つ如く、傾斜角度(θ)の零度に切削加工しても良い。
【0029】
何れにしても、リム(R)の一定幅(W)だけ凹状に陥没するウエル(15)の前下がり傾斜面(15a)が、アルミ鋳造後の切削加工により、その最も深い前端部(ディスクとの付け根部)での径大なブレーキキャリパー用逃がし面(15c)として形成されるため、その鋳造金型からの円滑・確実な離型を可能としつつも、ブレーキキャリパー(B)との干渉を防ぐことができ、そのブレーキキャリパー(B)やブレーキディスクなどの大型化に対応し得るのである。
【0030】
更に言えば、リム(R)の中空内部にブレーキキャリパー(B)などの収納スペースを確保する場合、その奥行(深さ)はディスク(D)の配置や弯曲形状などによって大きく確保できるが、直径は金型からの抜き勾配を要する関係上、制約なく拡大することができないので、ましてリバースタイプの1ピースホイールではタイヤを組み付けるためのウエル(15)が、リヤー側へ寄った位置にあるため、その前下がり傾斜面(15a)のうちの最も深い前端部を上記したとおり切削加工しなければならず、その切削加工位置を特定することには格別の意味がある。
【0031】
この点、冒頭の特許文献1に記載された「ホイール状製品の軽量化方法」のように、軽量化を図ることが目的であれば、ホイールの如何なる部位を切削加工しても同じであり、その部位を特定することに意味がないため、本発明とは異なる。
【符号の説明】
【0032】
(10)・固定下型
(11)・溶湯注入口
(12)・可動上型
(13)・中子
(14)・キャビティ
(15)・ウエル
(15a)・前下がり傾斜面
(15b)・外周面
(15c)・ブレーキキャリパー逃がし面
(A)・アルミ鋳造ホイール
(B)・ブレーキキャリパー
(D)・ディスク
(R)・リム
(Z)・切削面積
(W)・リム幅
(W1)・切削幅
(O−O)・ホイール回転軸線
(Y−Y)・リムの赤道線
(θ)・抜き勾配(傾斜角度)
【要約】
【課題】鋳造金型から円滑・確実に離型できるにも拘らず、ブレーキキャリパーと干渉することがないリバースタイプのアルミ鋳造ホイールを提供する。
【解決手段】リム(R)のリヤー側からウエル(15)へタイヤが組み付けられるリバースタイプのアルミ鋳造ホイール(A)を対象として、上記リム(R)におけるウエル(15)の内周面をホイール離型用の前下がり傾斜面(15a)として、そのウエル(15)の最も厚肉な前端部がディスク(D)の先端部と連続する形態に鋳造した後、上記ウエル(15)の前端部をその内側から一定幅(W1)だけ切削加工して、ホイール回転軸線(O−O)との実質的に平行な内周面に保つことにより、ブレーキキャリパー(B)との干渉を防止した。
【選択図】
図6