(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ベースの表面に活物質および結着材を含む活物質層を有する電極を製造するために、前記活物質の粉末および前記結着材の粉末を混合して混合粉末を作成し、前記混合粉末を前記ベースの表面に静電塗装し、塗装された前記混合粉末を加熱して融着させる電極の製造方法であって、
前記結着材の粉末の前記活物質の粉末に対する平均粒径比が0.7以下であり、
前記混合粉末を前記ベースの表面に塗布する前に、前記活物質の粉末と前記結着材の粉末とを、回転羽根を有する攪拌機に導入し、攪拌により前記混合粉末を生成するとともに、前記混合粉末中の前記活物質の粉末と前記結着材の粉末とを摩擦帯電により結合させる処理を行うことを特徴とする電極の製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン電池などの電池は、セパレータを介してシート状の正極および負極を積層し、この積層体を円筒状などに巻いて形成される。
正極および負極として用いられるシート状の電極は、アルミニウムあるいは銅を圧延した箔(ベース)の表面に、正極あるいは負極としての活物質の層を形成したものである。
【0003】
活物質層は、活物質や導電助材などの粉体材料を有機溶剤に結着材(バインダー)や増粘剤を溶かした溶液に分散させてスラリー状とし、これをコータ等でベースの表面に塗布することにより形成されていた(湿式塗布法)。
このような湿式塗布法では、溶剤を蒸発させる工程が必須のため局所排気を必要とし、設備が大がかりになるだけでなく、湿式のため調合の際の粘度調整が活物質などの粉体材料の湿度の影響などを受けるため塗膜の安定性も十分でなかったことから、活物質、導電助材および結着材をベース上に粉体塗装する乾式塗布法が開発されている(特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1では、活物質の平均粒径1〜50μm(好ましくは20〜30μm)、導電助剤(導電化材粉末)の平均粒径0.01〜5μm(好ましくは0.03〜2μm)、結着材の平均粒径0.1〜50μm(好ましくは1〜10μm)とされている。
これらの活物質、導電助剤および結着材の粉末は、静電塗装にあたって加振器で加振されるとともに、電解印加用電極によりベースに対して正負逆に帯電され、静電気力によりベースに吸着される。そして、乾燥炉で過熱されることで、結着材が溶融されて活物質および導電助剤がベース上に固定される。
なお、特許文献1には、予め活物質に結着材を溶融付着させて複合粉末としておき、これをベース上に粉体塗装することも記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の乾式塗布法では、ベースに対する活物質層の密着強度が不足し、電極形成不良が生じることがあった。
一方、特許文献1に記載された複合粉末による粉体塗装では複合粉末による粉体塗装を行うためには、スプレードライ法などによる複合粉末を製造するための前工程として、溶剤に溶かしたPVDF(ポリフッ化ビニリデン)を活物質にスプレーした後に乾燥して溶剤を蒸発させる必要があり、既存の湿式塗布法と同様の問題があり採用が難しい。
このようなことから、特許文献1に記載されたような乾式塗布法は実用化が困難とされ、前述した従来の湿式塗布法に依存しているのが現状であった。
【0007】
本発明の目的は、製造工程が簡単でベースに対する活物質層の密着強度が確保できる電極の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前述した特許文献1におけるベースに対する活物質層の密着強度の問題ないし電極形成不良の問題が、活物質、導電助剤および結着材の粉末の挙動に依存し、この挙動が各々の粒径比率と活物質および導電助剤と結着材との静電塗布前の相互の結合に基づく、との本発明の発明者の独自の知見に基づいてなされたものである。
すなわち、
図7に示すように、ベース71に静電塗装を行って活物質層72を形成する場合、その主成分である活物質73の平均粒径に対し、結着材74の平均粒径が大きい(平均粒径比が大きい、例えば0.7超)であると、静電塗布後の加熱工程で結着材74の粒子が溶け流れて活物質73の粒子間に入り込み、所定の密着強度を得る為には後述する混合粉末の結着材74が15重量%以上となるように配合する必要がでてくる。
【0009】
また、活物質73は体積固有抵抗が低いため、塗装ブース内で電源装置により印加された電荷が逃げやすく、活物質73単体で付着させることは困難である。一方、結着材74に使用されるPVDFなどの熱可塑性樹脂は、静電塗布に適した体積固有抵抗値であるため、印荷された電荷は逃げることなく、ベース71に付着しやすい。そのため、活物質73と結着材74とを同時に静電塗装した際には、結着材74が先にベースに付着してしまい、活物質73は後から少量だけ付着することになり、活物質層72内の厚さ方向に活物質73と結着材74とが均一な分布とならない。このため、活物質層72に成分の偏りが生じることにより、後工程の加熱において密着強度を有する活物質層72が生成できないだけでなく、電極としての性能が発揮できない。
【0010】
そこで、本発明においては、活物質に対して結着材の平均粒径比を0.7以下の範囲に限定するとともに、活物質層での偏りを防止するために、静電塗布前に活物質と結着材とを相互に結合するような処理を行うものとする。
このために、本発明は次の通りの構成を備える。
【0011】
本発明は、ベースの表面に活物質および結着材を含む活物質層を有する電極を製造するために、前記活物質の粉末および前記結着材の粉末を混合して混合粉末を作成し、前記混合粉末を前記ベースの表面に静電塗装し、塗装された前記混合粉末を加熱して融着させる電極の製造方法であって、
前記結着材の粉末の前記活物質の粉末に対する平均粒径比が0.7以下であり、
前記混合粉末を前記ベースの表面に塗布する前に、前記活物質の粉末に前記結着材の粉末を結合させておくことを特徴とする。
【0012】
本発明において、前記混合粉末を前記ベースの表面に塗布する前に、前記活物質の粉末と前記結着材の粉末とを、回転羽根を有する攪拌機に導入し、攪拌により前記混合粉末を生成するとともに、前記混合粉末中の前記活物質の粉末と前記結着材の粉末とを摩擦帯電により結合させる処理を採用することができる。
このような攪拌機を用いる場合、各粉末に十分な摩擦帯電が生じる程度に回転羽根の回転速度を高めるように調整する。具体的には、撹拌の結果を観察し、前記活物質の粉末に前記結着材の粉末が結合した状態が得られるように調整を行う。
【0014】
このような本発明では、混合粉末をベースの表面に塗装する前の段階で、活物質の粉末および結着材の粉末が結合され、平均粒径比が小さな結着材の粒子が活物質の粒子の周囲に付着した状態とされる。このような付着状態でベースの表面に塗装することで、ベースの表面に形成される活物質層においては活物質と結着材との偏りが生じることがなく、加熱融着されることで強固な活物質層とすることができる。
これにより、製造工程が簡単でベースに対する活物質層の密着強度が確保できる電極の製造方法を実現することができる。
【0015】
静電塗装としては、例えば静電流動浸漬法や静電粉体スプレー法が利用できる。
結着材の粉末を活物質の粉末に対して平均粒径比0.7以下にする手段としては、既存の破砕機および分級機を用いるものとする。
混合粉末を加熱して融着させる手段としては、加熱炉を通す方法のほか、加熱を伴うロールプレスを利用することができる。プレスを行うようにすれば、活物質層における各粒子の間隔を詰めて強度を高めることにも好適である。
【0016】
本発明において、前記混合粉末は前記活物質が85〜95重量%、前記結着材が15〜5重量%であることが望ましい。
このような本発明では、リチウムイオン電池などに用いられる電極に好適な活物質層を形成することができる。
なお、活物質層には、活物質および結着材のほかに導電助剤が含まれていてもよく、このような導電助剤の好適な成分比率としては概ね5重量%である。
【発明の効果】
【0017】
このような本発明によれば、製造工程が簡単でベースに対する活物質層の密着強度が確保できる電極の製造方法を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1には、本発明に基づいて電極を製造する電極製造装置1が示されている。
電極製造装置1は、ベース71の表面に活物質73および結着材74を含む活物質層72を有する電極70(
図3参照)を製造するものであり、作成部2、塗装部3、融着部4および巻取部5を備えている。
【0020】
作成部2は、前述した通り、活物質73の粉末および結着材74の粉末を混合して混合粉末75を作成するものである。
作成部2は、架台21の上部に活物質タンク22および結着材タンク23を備え、各々の下方に撹拌機24および定量供給機25を備え、架台21の下部から塗装部3に至る空気輸送機26を備えている。
【0021】
活物質タンク22は、活物質73の粉末が貯留されており、この活物質73を撹拌機24へと供給する。活物質73としては、陰極用であれば天然黒鉛や人造黒鉛などの炭素材料が用いられ、正極用であればマンガン酸リチウム等が用いられる。活物質73には導電助剤としてカーボンブラック等が添加されることがある。
【0022】
結着材タンク23は、結着材74の粉末が貯留されており、この結着材74を撹拌機24へと供給する。結着材74としてはPVDF(ポリフッ化ビニリデン)が用いられる。
なお、詳細は後述するが、活物質73の粒径に対し、結着材74の粒径は小さいものとされている。
【0023】
撹拌機24は、閉構造の撹拌槽の内部に回転羽根(図示省略)を備えたものであり、活物質タンク22および結着材タンク23から供給される活物質73および結着材74を強く混合し、混合粉末75を生成する。
撹拌機24は、回転羽根の回転速度が調整可能とされ、この回転羽根は混合粉末75の各粒子(活物質73の粒子および結着材74の粒子)にそれぞれ所期の摩擦帯電が得られるように回転速度を調整される。
【0024】
定量供給機25は、撹拌機24で生成された混合粉末75を時間あたり所定量ずつ送り出す。
空気輸送機26は、定量供給機25から送り出された混合粉末75を、外部から供給される空気流により搬送し、塗装部3へ供給する。
【0025】
このような作成部2により、活物質73および結着材74を混合した混合粉末75が作成されるとともに、作成された混合粉末75は、活物質73および結着材74の各粒子が正負に帯電しており、粒径の大きな活物質73の粒子表面に粒径の小さな結着材74の粒子が静電吸着された状態(
図2参照)で送り出される。
【0026】
塗装部3は、混合粉末75をベース71の表面に乾式塗装するものである。
塗装部3は、架台31の上部に巻出機32を備え、架台31の上部から下部にかけて巻出機32から送り出されたベース71を搬送するローラ群33を備えている。架台31の内部には垂直に張られたベース71を包囲する塗装ブース34が設置され、塗装ブース34には集塵機36および静電塗装用の電極35が設置されている。
【0027】
巻出機32は、コイル状に巻かれたベース71が装着され、このコイルからベース71を連続的に引き出すものである。ベース71としては、負極用に銅箔が用いられ、正極用にはアルミニウム箔が用いられる。これらの箔は、厚さ数十μm、幅数百mmの帯状シートとして供給される。
ローラ群33は、巻出機32から引き出されたベース71を案内し、架台31内で縦方向に送り、後工程である融着部4へ送り出すように構成されている。
【0028】
塗装ブース34は、架台31内で縦方向に張られたベース71を包囲して外気から遮断する閉構造とされている。
塗装ブース34の下部には、作成部2の空気輸送機26により混合粉末75を含んだ空気が供給される。
【0029】
電極35は、塗装ブース34の内壁面に配列され、ベース71の塗装面側に所定間隔で対向されている。電極35とベース71との間には外部の図示しない電源装置から高電圧が印加されている。
塗装ブース34の下部に供給された混合粉末75を含む空気は、電極35とベース71との間を通る際に混合粉末75が帯電され、帯電した混合粉末75はベース71の表面に静電吸着されて活物質層72を形成する。
【0030】
図2に示すように、ベース71に静電吸着される混合粉末75においては、粒径の大きな活物質73の粒子の表面に粒径の小さな結着材74が静電気で付着した状態となっており、これらが一体の粒子としてベース71に静電吸着される。このため、従来のような活物質層72における成分の偏りが生じず、最小限の結着材74により活物質73の確実な結着が可能となる。
集塵機36は、塗装ブース34の上部に設置され、塗装ブース34内の搬送用の空気を吸引し、集塵したうえで外部へと排出する。
【0031】
このような塗装部3により、連続的に送られるベース71の表面に、混合粉末75を静電塗装し、活物質層72を形成することができる。
表面に活物質層72が形成されたベース71は、連続して融着部4へと送られる。
【0032】
融着部4は、塗装された活物質層72に対して加熱およびプレスを行ってベース71の表面に融着させるものである。
融着部4は、塗装部3から連続的に送られるベース71を加熱する加熱装置41と、加熱された活物質層72を圧迫してベース71に定着させるロールプレス42とを備えている。
【0033】
このような融着部4では、加熱装置41により、活物質層72中の結着材74が融着して活物質73を確実に結着することができる。更に、ロールプレス42により、軟化した結着材74を圧迫して活物質73の粒子間隙間を圧縮することができ、活物質73の体積密度を高めることができる。
このような融着を経て、表面に活物質層72が融着されたベース71が電極70(
図3参照)とされる。
巻取部5は、巻取機51を有し、融着部4で形成された電極70をコイル状に巻き取ることができる。
【0034】
本実施形態において、活物質73および結着材74には、本発明に基づく特定の条件が適用される。
本実施形態において、混合粉末75として混合される活物質73および結着材74は、活物質73が85〜95重量%、結着材74が15〜5重量%とされる。これは、電極70とした際に好適な電気的特性が得られ、かつ付着強度が好適となる範囲である。
【0035】
活物質73の粒子の平均粒径に対し、結着材74の粒子の平均粒径は小さく設定され、平均粒径比=結着材74の平均粒径/活物質73の平均粒径は0.2〜0.7(0.2以上で0.7以下)とされる(
図4参照)。
活物質73に用いる黒鉛の平均粒径は一般に5〜30μm程度とされる。一方、結着材74に用いるPVDFの平均粒径は一般に150〜200μmである。このため、結着材74として用いる際には、予め粉砕機で数μmから数十μm程度にまで粉砕し、前述した平均粒径比となるように調整しておく。
【0036】
なお、混合粉末75における結着材74は15〜5重量%とされるが、
図4のグラフでは、好ましい結着材74の下限は必ずしも5重量%とならない。
結着材74の平均粒径比が活物質73に対して0.2のとき、結着材74の下限は5重量%でよい。しかし、平均粒径比が大きくなるにつれ、活物質73の間に入り込みにくくなるため、同じ活物質73に対してより多くの結着材74が必要となる。このために、平均粒径比が大きくなるに従って好ましい結着材74の下限は高くなり、平均粒径比0.7のとき結着材74は10重量%を確保することが望ましい(
図4の下の曲線)。
更に好ましくは、平均粒径比が0.2のとき結着材74が8重量%以上で、平均粒径比が0.7のとき結着材74が15重量%以上である(
図4の上の曲線)。
【0037】
ここで、結着材74の成分比率の設定にあたっては、電極70を用いて製造される放電容量との関係を考慮することが望ましい。
図5に示すように、混合粉末75における結着材74の比率(横軸)が高まると、活物質73の比率が相対的に低下するので、放電容量(縦軸)が小さくなる傾向にある。
【0038】
撹拌機24における混合粉末75の撹拌にあたっては、混合粉末75中の活物質73の粒子および結着材74の粒子に、所期の摩擦帯電が生じるように、撹拌機24の回転羽根の回転速度を調整する。
実際には、混合粉末75中の活物質73の粒子および結着材74の粒子における摩擦帯電の状況は測定が困難である。従って、幾つかの条件設定のもとで実際に電極70を製造し、その活物質層72の密着強度を評価することが望ましい。
【0039】
図6において、本実施形態の電極製造装置1で回転速度を変えて電極70を製造した結果、撹拌機24の羽根(300mm径)の回転速度が700rpm(毎分回転数)から高くなるに従って活物質層72の密着強度が漸増し、1300rpm付近から密着強度の向上が急峻になり、1500rpm以上では1300rpm付近での密着強度に対して2〜3倍の強度が得られることが判った。
なお、回転数が1700rpmを超えると、活物質に割れが生じることがあるので、この回転速度以下で使用することが望ましい。
【0040】
以上に述べたように本実施形態によれば、混合粉末75をベース71の表面に塗装する前の段階で、活物質73の粉末および結着材74の粉末が撹拌により摩擦帯電され、平均粒径比が小さな結着材74の粒子が活物質73の粒子の周囲に付着した状態とされる。このような付着状態でベース71の表面に塗装することで、ベース71の表面に形成される活物質層72においては活物質73と結着材74との偏りが生じることがなく、加熱融着されることで強固な活物質層72を有する電極70とすることができる。
これにより、製造工程が簡単でベース71に対する活物質層72の密着強度が確保された電極70を製造することができる。
【0041】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形等は本発明に含まれるものである。
例えば、活物質73としては、正極用のマンガン酸リチウムのほか、ニッケル酸リチウムあるいはコバルト酸リチウム等、他の金属酸化物を用いてもよい。また、活物質73には導電助剤を添加してもよいが、導電助剤としては黒鉛に限らず、他の導電材料であってもよい。
【0042】
また、結着材74としては、PVDFに限らず、PTEF(4フッ化エチレン)等を用いてもよく、加熱融着に適した他の熱可塑性樹脂を用いてもよい。
電極製造装置1において、作成部2、塗装部3、融着部4および巻取部5の各部要素は適宜変更してもよく、追加的な他の要素を含んでいてもよい。
前述した実施形態では、電極製造装置1の作成部2に撹拌機24を設置し、混合粉末75を生成する際に、攪拌による摩擦帯電を利用して活物質73の粉末に結着材74の粉末を結合させていた。
これに対し、活物質73の粉末に結着材74の粉末をメカノケミカル的に結合させる処理を行ってもよい。
【0043】
本発明
に含まれない参考形態として、前述した
図1の電極製造装置1の作成部2において、撹拌機24に代えてメカノフュージョン装置(例えば株式会社奈良製作所製の「ハイブリタイゼーションシステムNHS」装置あるいはホソカワミクロン株式会社製の「循環型メカノフュージョンシステムAMS」装置)を設置する
ことができる。
このような
参考形態によれば、メカノフュージョン装置において、活物質73の粉末と結着材74の粉末とをメカノケミカル的に結合させ、混合粉末75として生成することができ
る。