【実施例】
【0016】
〔実施例1の構成〕
実施例1の燃料噴射ノズル1(以下、ノズル1と呼ぶ。)の構成を、
図1〜
図8を用いて説明する。
ノズル1は、開弁して燃料を噴射するものであり、ノズル1を開弁駆動または閉弁駆動するアクチュエータ(図示せず。)とともに燃料噴射弁を構成する。そして、燃料噴射弁は、例えば、内燃機関(図示せず。)に搭載され、100MPaを超える高圧の燃料を気筒内に直接噴射するために用いられる。
【0017】
なお、アクチュエータは、例えば、ノズル1の弁体(後記するニードル2)に作用する背圧を増減して弁体を駆動するものであり、コイル(図示せず。)への通電により発生する磁気力を利用して背圧室(図示せず。)を開閉することで背圧を増減する。
そして、燃料噴射弁は、例えば、燃料を高圧化して吐出する燃料供給ポンプ(図示せず。)、および、燃料供給ポンプから吐出された燃料を高圧状態で蓄圧する蓄圧容器(図示せず。)とともに蓄圧式の燃料供給装置を構成し、蓄圧容器から高圧の燃料を分配されて気筒内に噴射する。
【0018】
ノズル1は、
図1に示すように、円筒状のノズルボディ3と、ノズルボディ3の内周に軸方向に移動可能となるように収容される弁体としてのニードル2とを備える。そして、ノズル1は、ニードル2がノズルボディ3の内周で軸方向に移動することで燃料の噴射を開始または停止する。
【0019】
ここで、ニードル2は、ノズルボディ3により軸方向に摺動自在に支持される摺動軸部2a、および、実質的に弁部として機能する円錐状の先端部2bを有し、摺動軸部2aと先端部2bとの間は軸方向に長い円柱部2cをなす。
ノズルボディ3の内周は、軸方向に長い円筒状をなし先端が閉じられている。また、ノズルボディ3の内周の一部は、局部的に径方向に拡大され、噴射すべき燃料が一時的に溜まる燃料溜まり4をなす。
【0020】
そして、ノズルボディ3の内周の内、燃料溜まり4の軸方向後端側の領域は、摺動軸部2aを摺動自在に支持するための摺動孔5をなし、燃料溜まり4の軸方向先端側の領域は、先端部2bおよび円柱部2cを収容して円環筒状の燃料通路6を形成する。なお、ノズルボディ3には、蓄圧容器から受け入れた燃料を燃料溜まり4に導くための燃料通路7が、別途、燃料溜まり4に接続している。
【0021】
また、ノズル1は、以下に示すシート位置10と噴孔11を備える。
まず、シート位置10は、ノズルボディ3の内壁の一部であり、ニードル2の軸方向の先端近傍に設けられたシート部13が離着する部分である。
【0022】
ノズルボディ3の内壁は、以下の円錐面15a、円筒面15bおよび半球面15cを有し、ノズルボディ3の内周先端を袋状に閉じている。
円錐面15aは、ノズルボディ3の軸βと同軸に設けられ、軸方向先端側ほど小径であって先端が円17である。そして、円錐面15a上のシート位置10が存在している。
【0023】
また、円筒面15bは、軸βと同軸に設けられ、円17と同径であって円17から軸方向先端側に連続する。さらに、半球面15cは、円筒面15bと同径であり、軸方向先端側に凸を形成するように円筒面15bに連続する。そして、シート位置10よりも軸方向先端側の内周領域はサック室19を形成している。
【0024】
ここで、ニードル2の先端部2bの外周面は、3つの異なる円錐面21a、21b、21cが先端から軸方向後端側に同軸に連続するものである。そして、円錐面21bは円錐面21cよりも母線とニードル2の軸αとの間に形成される角度が大きい。そして、円錐面21b、21c同士の交線23は軸αに垂直な円であり、交線23がシート部13として機能し、シート位置10は円形である。
【0025】
噴孔11は、シート位置10よりも軸方向の先端側でノズルボディ3の内壁に開口するとともに、ノズルボディ3の外壁に開口し、シート部13がシート位置10から離座することでノズルボディ3の内周から外部に燃料を導く。つまり、シート部13がシート位置10から離座することで、シート部13とシート位置10との間に隙間が形成され、この隙間を通って燃料通路6から噴孔11に燃料が導入されてノズルボディ3の外部に噴射される。
【0026】
噴孔11の入口11aはサック室19を形成するノズルボディ3の内壁に開口している。具体的には、円筒面15bに噴孔11の入口11aが開口している。この噴孔11の入口11aが開口した円筒面15bをサック壁面25と呼ぶ。そして、噴孔11の出口11bは、サック室16を形成するノズルボディ3の外壁に開口している。
【0027】
〔本実施例の特徴〕
本実施例のノズル1は、以下に説明するニードル2の先端形状と、最大リフト時の配置関係とを備える。
【0028】
ニードル2の先端部2bのシート部13より先端側の形状は、2つの異なる円錐面21a、21bが先端から軸方向後端側に同軸に連続し、円錐面21a、21bはそれぞれの母線とニードル2の軸αとの間に形成される角度が先端側ほど小さい。すなわち、円錐面21bの母線とニードル2の軸αとの間に形成される角度θ1とし、円錐面21aの母線とニードル2の軸αとの間に形成される角度θ2とすると、
θ1>θ2
の関係が成り立つ。
【0029】
なお、円錐面21aを有するニードル2の先端は円錐台形状をしており、先端が平面21dとなっている。
【0030】
そして、燃料噴射ノズルは、シート部がシート位置から離座してシート部とシート位置との距離が最大となる最大リフト時において、ニードル2の軸方向の先端が
すべての入口11aよりも軸方向の先端側に位置する配置関係を備える。
すなわち、ノズルボディ3の軸β上において、最大リフト時の平面21dの位置が
すべての入口11aよりも先端側に位置している。
【0031】
〔本実施例の作用効果〕
本実施例の作用効果を
図3〜8を用いて説明する。
まず、従来例のノズルJついて、
図3を用いて説明する。
従来例のノズルJによれば、
図3に示すように、ニードル2の先端部を形成する円錐面21aj、21bjは、それぞれの母線とニードルの軸αとの間に形成される角度が先端側ほど大きい。
そして、最大リフト時において、ニードル2の軸方向の先端が
すべての入口11aよりも
先端側に位置している。
【0032】
このため、従来例のノズルJでは、サック室19の容量が大きい。特に、サック室19の入口11aよりも先端側の空間Sが大きくなっている。このため、サック室内に流入する燃料が空間Sに回り込んでから噴孔11へ流入しようとする旋回流が生じやすくなる。噴孔入口付近の燃料流れに旋回流の影響が及ぶと、噴霧貫徹力が低下して、スモークの低減効果が薄れてしまう。
【0033】
これに対して、本実施例のノズル1では、ニードル2の先端部2bが噴孔11よりも先端側の空間に大きく突き出す構成となるため、サック室19の容量が低減できる。また、サック室19の入口11aよりも先端側の空間Sを小さくできるため、旋回流の発生を抑制できる。
【0034】
また、円錐面21aをサック壁面25に近づけて、円錐面21aと入口11aとの間の距離を狭くすることが可能となるため、ニードル2とサック壁面25との間で燃料流れを整流して噴孔入口に燃料流れを導くことができる(
図4参照)。
したがって、サック室内で旋回流が生じても噴孔入口付近の燃料流れに旋回流の影響が及ばなくなり、噴霧貫徹力が向上する。
【0035】
すなわち、燃料噴射ノズルにおいて、サック室19の容量低減と噴霧貫徹力の向上とを両立させることができる。
【0036】
図5は、噴射開始からの時間と噴霧貫徹力との相関図であるが、本実施例は従来例と比較して噴霧貫徹力が向上していることがわかる。
【0037】
噴霧貫徹力を向上させる方法として、噴孔長Lと噴孔径Dとの比であるL/Dを大きくする方法がある。しかし、L/Dを大きくすると、その背反事象として、噴孔に生成されたコーキングの分解排出がされにくくなる。つまり、コーキング耐性が低下する。しかし、本実施例では、ニードル形状によって噴霧貫徹力を向上させるものであり、L/Dを大きくすることなく噴霧貫徹力を維持できるため、コーキング耐性を低下させることがない。また、L/Dを小さくしても噴霧貫徹力を維持でき、コーキング耐性を向上させることもできる。
【0038】
なお、ここで本実施例のノズル1と、ニードル先端が半球状を呈する比較例のノズルH(
図7参照)とを対比する。
図6及び
図7に示すように、軸αに垂直で且つ入口11aを通過する切断面でのニードル2と入口11aとの間の断面積Aとする。
そして、
図8は、ニードル2のリフト量と断面積Aとの相関図である。断面積Aが小さいほど、ニードル2と入口11aとの間の距離が狭く、上述の整流効果が高いことになる。
【0039】
図8に示すように、比較例でも従来例と比べて、ニードル2のリフト初期は断面積Aが小さく整流の効果がある。しかしながら、リフト量の増加に伴って指数関数的に断面積Aが増加すするため、整流効果は著しく低下する。
これに対して、本実施例では、リフト量の増加に伴う断面積Aの変化は小さく、最大リフトに到るまで整流効果を維持することができる。
【0040】
〔実施例2〕
実施例2のノズル1を実施例1とは異なる点を中心に
図9を用いて説明する。なお、実施例1と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
実施例2によれば、噴孔11は、入口11aから外側に向かって径が一定のストレート部11cと、ストレート部11cの外側に接続して出口11bに向かって拡径するテーパ部11dとを有する。
【0041】
これによれば、実施例1と比較して、燃焼室内での噴霧の拡散が大きくなり、安定した燃焼を得ることができる。またストレート部11cの長さを短くすることによって、コーキング耐性を向上させることもできる。
【0042】
〔変形例〕
ノズル1の態様は実施例に限定されず、種々の変形例を考えることができる。
例えば、実施例1のノズル1によれば、ニードル2のシート部13より先端側が円錐面21a及び円錐面21bから成っていたが、実施例1においてθ1=θ2として、1つの円錐面21eから成るようにしてもよい(
図10参照)。この場合でも、
図3に示すような従来例と比較して、ニードル2と入口11aとの間の距離を狭くすることができるため、整流効果を得ることができる。
また、シート部13は、円錐面21b上にあってもよい。