特許第6100596号(P6100596)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6100596
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】延伸用難燃ポリエステル樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20170313BHJP
   C08K 5/5333 20060101ALI20170313BHJP
   C08K 5/29 20060101ALI20170313BHJP
   C08K 5/1515 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
   C08L67/00
   C08K5/5333
   C08K5/29
   C08K5/1515
【請求項の数】9
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-90424(P2013-90424)
(22)【出願日】2013年4月23日
(65)【公開番号】特開2014-214180(P2014-214180A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2016年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】設楽 善一郎
(72)【発明者】
【氏名】光永 正樹
(72)【発明者】
【氏名】銭 肖伊
【審査官】 藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−181489(JP,A)
【文献】 特開2002−264213(JP,A)
【文献】 特開2004−051818(JP,A)
【文献】 特開2004−051819(JP,A)
【文献】 特開2007−052118(JP,A)
【文献】 特開2011−236286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00 − 67/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリエチレンナフタレート系樹脂(A1成分)およびポリエチレンテレフタレート系樹脂(A2成分)を50重量%以上含有し、かつA1成分とA2成分の比(A1/A2)が重量比で100/0〜80/20の範囲である芳香族ポリエステル系樹脂(A成分)100重量部に対し、(B)下記一般式(1)で表される有機リン系難燃剤(B成分)1〜100重量部、および(C)鎖延長剤(C成分)0.1〜5重量部を含有する延伸用難燃ポリエステル樹脂組成物であって、MVR(300℃、2.16kgf)が5〜39cm/10minであり、かつ本文中に定める引張試験による歪開始温度が100〜160℃の範囲である延伸用難燃ポリエステル樹脂組成物。
【化1】
(式中、XおよびXは、同一もしくは異なり、下記一般式(I)で表される芳香族置換アルキル基である。)
【化2】
(式中、ALは炭素数1〜5の分岐状もしくは直鎖状の脂肪族炭化水素基、Arはフェニル基、ナフチル基またはアントリル基であり、nは1〜3の整数を示す。なお、ArはALの任意の炭素に結合することができる。)
【請求項2】
C成分がカルボジイミド基含有化合物およびエポキシ基含有化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の鎖延長剤であることを特徴とする請求項1記載の延伸用難燃ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
A成分100重量部に対し、(D)熱可塑性エラストマー(D成分)を1〜40重量部含有することを特徴とする請求項1または2記載の延伸用難燃ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
A成分100重量部に対し、(E)導電剤(E成分)を1〜30重量部含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の延伸用難燃ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
A成分100重量部に対し、(F)相溶化剤(F成分)を0.1〜10重量部含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の延伸用難燃ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
A成分100重量部に対し、(G)離型剤(G成分)を0.05〜5重量部含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の延伸用難燃ポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
A成分100重量部に対し、(H)鉱物(H成分)を0.1〜5重量部含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の延伸用難燃ポリエステル樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の延伸用難燃ポリエステル樹脂組成物からなる成形品。
【請求項9】
成形品が延伸されていることを特徴とする請求項8記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃剤として特定の有機リン化合物を含有する、ブリードアウト性、難燃性およびブロー加工性に優れた延伸用難燃ポリエステル樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート(以下PBTと略する)やポリブチレンナフタレート(以下PBNと略する)をはじめとする熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂は、結晶化し易いため、良好な機械特性、耐熱性、耐薬品性等を有し、電気・電子機器分野、OA機器分野、自動車分野などの用途に広く使用されている。結晶性を有するが、結晶化の遅い熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂として、ポリエチレンテレフタレート(以下PETと略する)、ポリエチレンナフタレート(以下PENと略する)が挙げられ、さらに、PENはPETに比べ融点が高く、より高レベルな耐熱用途に対応できるため、延伸やブローといった加工における優れた性能を有する。そのため、難燃性等の特性を付与する場合、優れた加工性を維持することが必要である。特にPENはコンパウンド時の加工温度が高いため、粘度低下もしくはIV低下を抑えることが、延伸やブローといった加工における加工性には極めて重要となる。
【0003】
一方、難燃性が要求される用途は非常に多く、従来は主にハロゲン含有化合物およびアンチモン化合物を配合し、難燃性を付与した樹脂が提供されてきた。しかしながら、ハロゲン含有難燃剤は環境への影響が問題になっており、樹脂成形品は欧州を中心として非ハロゲン化の動きが盛んになってきた。そのため難燃剤においても非ハロゲンの需要が高まり、各樹脂に対する非ハロゲンの難燃剤の開発が盛んになり、ポリエステル樹脂に関しても種々の非ハロゲンによる難燃化技術が報告されているが、種々の問題から実用化には至っていない。非ハロゲン難燃剤としては、リン含有化合物が一般に用いられていることが多く、本分野では赤リンやトリフェニルホスフェート(以下TPPと略する)等のリン酸エステルがよく用いられる。しかしながら、ポリエステル樹脂は比較的加工温度が高く赤リンでは毒性の高いホスフィンガスの発生が指摘され、また、赤リンを用いた場合には組成物が赤リン特有の褐色になり、その使用範囲が限定されるという問題もある。一方、低分子量のTPPではブリードアウトの問題があり、さらに、TPPに代表される芳香族リン酸エステルは一般に可塑化効果を有するため、組成物の耐熱性が著しく低下する問題がある。これらの問題を解決すべく、特定の有機リン含有化合物を難燃剤として使用した難燃性樹脂組成物の改良技術が開示されている。例えば、特許文献1には、スチレン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂またはポリカーボネート樹脂の如き熱可塑性樹脂を難燃化した組成物が開示されている。この公報には難燃剤として芳香族ホスフェートおよび特定のリン化合物の2種の難燃剤を特定量使用すること、さらにラジカル発生剤またはフェノール樹脂をこれら難燃剤に併用することが記載されている。しかしこの公報記載の組成物によって達成されている難燃性はV−1レベルであって、高度な難燃レベルは得られていない。また、特許文献2には、熱可塑性樹脂に特定のリン化合物およびフェノール樹脂、並びにフッ素含有樹脂またはラジカル発生剤を配合した難燃性樹脂組成物が記載されている。しかしこの公報記載の組成物は難燃レベルV−0が達成されることが現実的にしめされているのは、ABS樹脂、AS樹脂、PPE樹脂、ポリスチレン樹脂またはポリカーボネート樹脂であり、ポリエステル樹脂の難燃組成物について具体的な説明がない。特許文献3には、延伸に関する難燃性熱可塑性樹脂組成物が開示されている。この公報の組成物には、難燃レベルV−0が達成されているが、使用している難燃剤がハロゲン系難燃剤や酸化アンチモン化合物であるため、燃焼時のダイオキシン等の環境に悪影響を与えるといった問題がある。特許文献4には、延伸に関する難燃性芳香族ポリエステル樹脂としているが、高度な難燃レベルが達成されておらず、かつ延伸特性に良好な理由について詳細に言及していない。特許文献5には、熱可塑性樹脂に特定のリン化合物と酸化防止剤を配合した難燃性樹脂組成物が記載されている。この公報の組成物は、高度な難燃レベルが達成されているが、延伸特性に関して全く言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−103972号公報
【特許文献2】特開2000−103973号公報
【特許文献3】特開平11−116827号公報
【特許文献4】特開2011−195654号公報
【特許文献5】特開2011−236286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、特定の難燃剤を使用することで高度な難燃性を有し、良好なブリードアウト性とブロー加工性を有した延伸用難燃ポリエステル樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らの研究によれば、前記本発明の目的は、(A)ポリエチレンナフタレート系樹脂(A1成分)およびポリエチレンテレフタレート系樹脂(A2成分)を50重量%以上含有し、かつA1成分とA2成分の比(A1/A2)が重量比で100/0〜80/20の範囲である芳香族ポリエステル系樹脂(A成分)100重量部に対し、(B)下記一般式(1)で表される有機リン系難燃剤(B成分)1〜100重量部、および(C)鎖延長剤(C成分)0.1〜5重量部を含有する延伸用難燃ポリエステル樹脂組成物であって、MVRが5〜39cm/10min(300℃、2.16kgf)であり、かつ本文中に定める引張試験による歪開始温度が100〜160℃の範囲である延伸用難燃ポリエステル樹脂組成物により達成される。
【0007】
【化1】
(式中、XおよびXは、同一もしくは異なり、下記一般式(I)で表される芳香族置換アルキル基である。)
【0008】
【化2】
(式中、ALは炭素数1〜5、好ましくは1または2の分岐状もしくは直鎖状の脂肪族炭化水素基である。具体的にはALは下記式(2)で表されるアルキル基であることが好ましい。また、Arはフェニル基、ナフチル基またはアントリル基であり、そのうちフェニル基が好ましい、nは1〜3の整数を示し、好ましくは1または2である。ArはALの任意の炭素に結合することができる。)
【0009】
【化3】
【0010】
本発明によれば、ハロゲンを実質的に含有せず、高レベルな難燃性を有し、ブリードアウトがなく、且つ良好なブロー加工性を有する延伸用難燃ポリエステル樹脂組成物が得られる。
【0011】
以下本発明の延伸用難燃ポリエステル樹脂組成物についてさらに詳細に説明する。
<A成分:芳香族ポリエステル系樹脂>
本発明においてA成分として使用される芳香族ポリエステル系樹脂は、(A)ポリエチレンナフタレート系樹脂(A1成分)およびポリエチレンテレフタレート系樹脂(A2成分)を50重量%以上含有し、かつA1成分とA2成分の比(A1/A2)が重量比で100/0〜80/20の範囲である芳香族ポリエステル系樹脂である。(A)ポリエチレンナフタレート系樹脂(A1成分)およびポリエチレンテレフタレート系樹脂(A2成分)の含有率は好ましくは70重量部%、特に好ましくは100重量%である。含有率が50重量%未満の場合、ポリエステル樹脂組成物の延伸性が失われる場合があるので好ましくない。
【0012】
本発明におけるA1成分であるPENは、2,6−ナフタレンジカルボン酸単位を主たる酸成分とし、エチレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルであって、ジカルボン酸成分として2,6−ナフタレンジカルボン酸成分を75モル%以上、およびジオール成分としてエチレングリコールを85モル%以上含有していることが好ましい。
【0013】
上記のPENにおける他のジカルボン酸成分の例としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2,5−ジクロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、4,4−スチルベンジカルボン酸、4,4−ビフェニルジカルボン酸、オルトフタル酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ビス安息香酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4−ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−Naスルホイソフタル酸、エチレン−ビス−p−安息香酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、および1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸を例示することができるが、なかでもテレフタル酸が好ましい。これらのジカルボン酸は単独でまたは2種以上混合して使用することができる。
【0014】
上記PENにおける他のジオール成分としては、例えば、ジエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、トランス−または−2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジオール、p−キシレンジオール、ビスフェノールAなどを挙げることができる。これらは単独でも、2種以上を混合して使用することができる。更にジオール成分としてわずかにポリエチレングリコールを共重合したPENも使用できる。ポリエチレングリコールの分子量としては150〜6,000の範囲が好ましい。
【0015】
上記のPENは従来公知の製造方法によって製造することができる。すなわちジカルボン酸とジオールを直接反応させて水を留去しエステル化した後、減圧下に重縮合を行う直接エステル化法、またはジカルボン酸ジメチルエステルとジオールを反応させてメチルアルコールを留去しエステル交換させた後、減圧下に重縮合を行うエステル交換法により製造される。更に極限粘度数を増大させるために固相重合を行うことができる。
【0016】
上記のエステル交換反応、エステル化反応および重縮合反応時には、触媒および安定剤を使用することが好ましい。エステル交換触媒としてはMg化合物、Mn化合物、Ca化合物、Zn化合物などが使用され、例えばこれらの酢酸塩、モノカルボン酸塩、アルコラート、および酸化物などが挙げられる。またエステル化反応は触媒を添加せずに、ジカルボン酸およびジオールのみで実施することが可能であるが、後述の重縮合触媒の存在下に実施することもできる。重縮合触媒としては、Ge化合物、Ti化合物、Sb化合物などが使用可能であり、例えば二酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、ゲルマニウムアルコラート、チタンテトラブトキサイド、チタンテトライソプロポキサイド、および蓚酸チタンなどが挙げられる。安定剤としてはリン化合物を用いることが好ましい。好ましいリン化合物としては、リン酸およびそのエステル、亜リン酸およびそのエステル、次亜リン酸およびそのエステル、並びに次亜リン酸およびそのエステルなどが挙げられる。またエステル化反応時には、ジエチレングリコール副生を抑制するためにトリエチルアミンなどの第3級アミン、水酸化テトラエチルアンモニウムなどの水酸化第4級アンモニウム、および炭酸ナトリウムなどの塩基性化合物を添加することもできる。また得られたポリエステル樹脂には、各種の安定剤および改質剤を配合することができる。
【0017】
PENの35℃の条件下においてオルトクロロフェノール中で測定した固有粘度は、0.5〜0.8dl/gの範囲にあることが好ましく、より好ましくは0.6〜0.8dl/gである。固有粘度が0.5dl/g未満であると強度が低くなる場合があり好ましくない。一方、0.8dl/gを越えると溶融粘度が高すぎて加工性が悪くなる場合がある。また、末端カルボキシル基濃度は、35eq/10g以下であることが好ましく、より好ましくは25eq/10g以下である。該末端カルボキシル基濃度が35eq/10gを越えると熱安定性の悪化により、強度が低くなる場合があり好ましくない。
【0018】
本発明におけるA2成分であるPETは、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートであって、そのジカルボン酸成分100モル%中、テレフタル酸成分を80モル%以上(好ましくは85モル%以上、より好ましくは90モル%以上)含有し、そのジオール成分100モル%中、エチレングリコール成分を80モル%以上(好ましくは85モル%以上、より好ましくは90モル%以上)含有してなるポリエステルであることが好ましい。ここで、ジカルボン酸成分(もしくはテレフタル酸成分)とは、PETのジカルボン酸(もしくはテレフタル酸)またはそのエステル形成性誘導体に由来する構成単位を示し、またジオール成分(もしくはエチレングリコール成分)とは、PETのジオール(エチレングリコール)またはそのエステル系形成性誘導体に由来する構成単位を示す。
【0019】
本発明のPETは、テレフタル酸成分以外のジカルボン酸成分を含有することができる。かかるジカルボン酸としては、オルトフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4−ジフェニルジカルボン酸、スルホイソフタル酸ナトリウム、ヘキサヒドロテレフタル酸、ビス安息香酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、および4,4−ジフェニルエーテルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、およびドデカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸、並びにシクロヘキサンジカルボン酸の如き脂環式ジカルボン酸などが挙げられる。(上記の中でもジカルボン酸成分100モル%中0.5〜8モル%、好ましくは1〜5モル%、更に好ましくは1.5〜4モル%のイソフタル酸成分がその構成単位として含有されることが好ましい)。
【0020】
本発明のPETは、エチレングリコール成分以外のジオール成分を含有することができる。かかるジオールとしては、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサメチレングリコール、およびドデカメチレングリコールなどの脂肪族ジオール、シクロヘキサンジメタノールの如き脂環式ジオール、2,2−ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、パラキシレングリコール、およびビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物などの芳香族ジオール、並びにビスフェノール類およびハイドロキノンなどの二価フェノールが挙げられる。その他のジオールとしてポリ(エチレンオキサイド)グリコールおよびポリ(テトラメチレンオキサイド)グリコールなどのポリオール、並びにビスヒドロキシエポキシフェニルフルオレンなどのフルオレンなどが例示される。上記のなかでもジオール成分100モル%中0.1〜5モル%、好ましくは2〜4モル%のジエチレングリコール成分をその構成単位として含有するPETが好ましい。
【0021】
PETの35℃の条件下においてオルトクロロフェノール中で測定した固有粘度は、0.6〜1.2dl/gの範囲にあることが好ましく、より好ましくは0.7〜1.0である。該固有粘度が0.6dl/gを未満であると強度が低くなる場合があり好ましくない。一方、1.2dl/gを越えると溶融粘度が高すぎて、加工性が悪くなる場合がある。また、末端カルボキシル基濃度は、35eq/10g以下であることが好ましく、より好ましくは25eq/10g以下である。該末端カルボキシル基濃度が35eq/10gを越えると熱安定性の悪化により、強度が低くなる場合があり好ましくない。
【0022】
本発明のPETは、従来公知の各種製造方法によって製造することができる。すなわちジカルボン酸とジオールを直接反応させて水を留去しエステル化した後、減圧下に重縮合を行う直接エステル化法、またはジカルボン酸ジメチルエステルとジオールを反応させてメチルアルコールを留去しエステル交換させた後、減圧下に重縮合を行うエステル交換法により製造される。更に極限粘度数を増大させるために固相重合を行うことができる。
【0023】
上記のエステル交換反応またはエステル化反応および重縮合反応時には、触媒および安定剤を使用することが好ましい。エステル交換触媒としてはMg化合物、Mn化合物、Ca化合物、およびZn化合物などが使用され、例えばこれら金属の酢酸塩、モノカルボン酸塩、アルコラート、および酸化物などが挙げられる。また、エステル化反応は触媒を添加せずにジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、並びにジオールまたはそのエステル形成性誘導体のみで実施することが可能であるが、以下の重縮合触媒の存在下に実施することもできる。重縮合触媒としては、Ge化合物、Ti化合物、およびSb化合物などが使用可能であり、例えば二酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、ゲルマニウムテトラエトキシド、およびゲルマニウムテトラn−ブトキシドなどのゲルマニウム化合物、三酸化アンチモンの如きアンチモン化合物、並びにチタニウムテトラブトキサイド、チタンテトライソプロポキサイド、およびシュウ酸チタンなどのチタン化合物が例示され、いずれもPETの重縮合触媒として広く知られている。更に安定剤としてリン化合物を用いることが望ましい。好ましいリン化合物としては、リン酸およびそのエステル、亜リン酸およびそのエステル、次亜リン酸およびそのエステルなどが挙げられる。そのエステル化反応時には、ジエチレングリコール副生を抑制するためにトリエチルアミンなどの第3アミン、水酸化テトラエチルアンモニウムなどの水酸化第4級アンモニウム、および炭酸ナトリウムなどの塩基性化合物を添加することもできる。
【0024】
A成分中のA1成分とA2成分の比(A1/A2)は重量比で100/0〜80/20であり、100/0〜85/15であることが好ましく、100/0〜90/10であることがより好ましい。この範囲を外れた場合は、ブロー加工性を有することができない。
【0025】
本発明のA成分はPENやPET以外の芳香族ポリエステル樹脂を含有することができる。このPENやPET以外の芳香族ポリエステル樹脂としては、PBN、PBT、ポリシクロヘキサンジメチルテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートおよびポリトリメチレンナフタレートが具体例に例示できる。また、ポリエステルエラストマーを用いることもできる。
【0026】
ポリエステルエラストマーとしては、テトラメチレンテレフタレート、またはテトラメチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートをハードセグメントの主たる繰り返し単位とするポリエステルエラストマーであり、そのソフトセグメントとしては、例えばジカルボン酸がテレフタル酸、イソフタル酸、セバシン酸、アジピン酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸より選ばれる少なくとも1種のジカルボン酸からなり、ジオール成分が炭素数5〜10の長鎖ジオールおよび分子量が400〜10000のポリアルキレンエーテルグリコールよりなる群から選ばれる少なくとも1種のジオールからなる。ポリアルキレンエーテルグリコールとしては、例えばポリ(エチレンオキサイド)グリコール、ポリ(プロピレンオキサイド)グリコール、ポリ(トリメチレンオキサイド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキサイド)グリコールが例示できる。さらに融点が100℃以下または非晶性であるポリエステルまたはポリカプロラクトンからなるものを用いることができる。なお、主たる成分とは、全ジカルボン酸成分または全グリコール成分の80モル%以上、好ましくは90モル%以上の成分であり、主たる繰り返し単位とは、全繰り返し単位の80モル%以上、好ましくは90モル%以上の繰り返し単位である。
【0027】
PENやPET以外の芳香族ポリエステル樹脂の分子量は、通常成形品として使用しうる固有粘度を有していればよく、35℃、オルトクロロフェノール中で測定した固有粘度が好ましくは0.5〜1.6dl/g、さらに好ましくは0.6〜1.5dl/gである。またPENやPET以外の芳香族ポリエステル樹脂の末端カルボキシル基量は1〜60eq/10gであるのが有利である。この末端カルボキシル基量は、例えばm−フレゾール溶液をアルカリ溶液で電位差滴定法により求めることができる。
【0028】
<B成分:有機リン系難燃剤>
本発明の有機リン系難燃剤は、下記一般式(1)で表される有機リン系難燃剤であり、該有機リン系難燃剤は、一般的な有機リン系難燃剤よりも融点が高いため、高温雰囲気下においても、ブリードアウトが少なく、芳香族ポリエステル樹脂に対して極めて優れた難燃効果を発現する。
【0029】
【化4】
[式中、XおよびXは、同一もしくは異なり、下記一般式(I)で表される芳香族置換アルキル基を示す。]
【0030】
【化5】
[式中、ALは炭素数1〜5、好ましくは1または2の分岐状もしくは直鎖状の脂肪族炭化水素基である。具体的にはALは下記式(2)で表されるアルキル基であることが好ましい。また、Arはフェニル基、ナフチル基またはアントリル基であり、そのうちフェニル基が好ましい、nは1〜3の整数を示し、好ましくは1または2である。ArはALの任意の炭素に結合することができる。]
【0031】
【化6】
【0032】
有機リン系難燃剤は、前記一般式(1)で表されるが、最も好ましい代表的化合物は下記式(B−a)〜(B−d)からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である。
【0033】
【化7】
【0034】
【化8】
【0035】
【化9】
【0036】
【化10】
【0037】
これら式(B−a)〜(B−d)のうち、式(B−a)で表されるB−a成分または式(B−c)で表されるB−c成分は難燃効果あるいは合成の容易性などの点で好適である。
【0038】
本発明における前記有機リン系難燃剤の合成法については公知の方法によって合成され、以下に説明する方法以外の方法によって製造されたものであってもよい。
有機リン系難燃剤は例えばペンタエリスリトールに三塩化リンを反応させ、続いて酸化させた反応物を、ナトリウムメトキシド等のアルカリ金属化合物により処理し、次いでアラルキルハライドを反応させることにより得られる。また、ペンタエリスリトールにアラルキルホスホン酸ジクロリドを反応させる方法や、ペンタエリスリトールに三塩化リンを反応させることによって得られた化合物にアラルキルアルコールを反応させ、次いで高温でArbuzov転移を行う方法により得ることもできる。後者の反応は、例えば米国特許第3,141,032号明細書、特開昭54−157156号公報、特開昭53−39698号公報に開示されている。
【0039】
具体的合成法を以下説明するが、この合成法は単に説明のためであって、本説明において使用される有機リン系難燃剤は、これら合成法のみならず、その改変およびその他の合成法で合成されたものであってもよい。
【0040】
(i)前記(B−a)の有機リン化合物;
ペンタエリスリトールに三塩化リンを反応させ、次いでターシャリーブタノールにより酸化させた反応物を、ナトリウムメトキシドにより処理し、ベンジルブロマイドを反応させることにより得ることができる。
(ii)前記(B−b)の有機リン化合物;
ペンタエリスリトールに三塩化リンを反応させ、続いてターシャリーブタノールにより酸化させた反応物を、ナトリウムメトキシドにより処理し、1−ブロモエチルベンゼンを反応させることにより得ることができる。
(iii)前記(B−c)の有機リン化合物;
ペンタエリスリトールに三塩化リンを反応させ、続いてターシャリーブタノールにより酸化させた反応物を、ナトリウムメトキシドにより処理し、2−ブロモエチルベンゼンを反応させることにより得ることができる。
(iv)前記(B−d)の有機リン化合物;
ペンタエリスリトールとジフェニルメチルホスホン酸ジクロリドを反応させることにより得ることができる。
【0041】
有機リン系難燃剤の酸価は0.7mgKOH/g以下であることが好ましく、より好ましくは0.5mgKOH/g以下である。酸価がこの範囲の有機リン系難燃剤を使用することにより、ポリエステル樹脂の分解が起り難く熱安定性の良好となるため、加工性の良好な組成物となる。有機リン系難燃剤は、その酸価が0.4mgKOH/g以下のものが最も好ましい。ここで酸価とは、サンプル1g中の酸成分を中和するのに必要なKOHの量(mg)を意味する。該酸価が0.7mgKOH/gより大きいと、熱安定性が悪化し、加工性に劣る場合があり好ましくない。
【0042】
さらに、有機リン系難燃剤のHPLC純度は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。かかる高純度のものは成形品の難燃性や色相に優れ好ましい。ここでHPLC純度の測定は、以下の方法を用いることにより効果的に測定が可能となる。カラムは野村化学(株)製Develosil ODS−7 300mm×4mmφを用い、カラム温度は40℃とした。溶媒としてはアセトニトリルと水の6:4(容量比)の混合溶液を用い、5μlを注入した。検出器はUV−260nmを用いた。B成分中の不純物を除去する方法としては、特に限定されるものではないが、水、メタノール等の溶剤でリパルプ洗浄(溶剤で洗浄、ろ過を数回繰り返す)を行う方法が最も効果的で、且つコスト的にも有利である。
【0043】
B成分の含有量は、A成分100重量部に対して、1〜100重量部、好ましくは3〜70重量部、より好ましくは4〜50重量部の範囲で配合される。特に5〜30重量部の範囲が好ましい。含有量が1重量部未満の場合、樹脂組成物の難燃性が発現せず、含有量が100重量部を超える場合、難燃剤の影響により可塑化効果が強まりことにより、流動性が大きくなるだけでなく、PEN本来の特性である配向結晶が起こりにくくなるため、ブロー加工性が悪くなる。さらに、他の難燃剤や難燃助剤またはフッ素含有樹脂の使用によってもB成分の配合量を所望の難燃レベルに応じて変えることができ、多くの場合、これらの使用によりB成分の配合割合を低減することができる。他の難燃剤としては公知のものが使用でき、メラミンイソシアヌレート系としては 日産化学(株)製MC610、水酸化金属化合物系としてはAl(OH)試薬[純度95%]が例示でき、難燃助剤としてはポリフェニレンエーテルとしてはSabic IP社製、SA120が例示でき、フッ素含有樹脂としては、フィブリル化PTFEのダイキン化学工業(株)製ポリフロンMPA FA500、三菱レイヨン(株)製メタブレン A3750、が例示できる。
【0044】
<C成分:鎖延長剤>
本発明の鎖延長剤は粘度を増加させ、歪硬化度を高くする効果を持つ物質である。
本発明に用いる鎖延長剤としては、PENの末端官能基と鎖延長を伴う反応性を有する官能基、例えばエポキシ基、カルボジイミド基等を有する化合物が挙げられる。
【0045】
鎖延長剤として使用できるエポキシ基含有化合物としては、メタクリル酸グリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル化合物、グリシジルメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジメタクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、ポリ(エチレングリコール−テトラメチレングリコール)ジメタクリレート、ポリ(エチレングリコール−テトラメチレングリコール)ジアクリレート、ポリ(プロピレングリコール−テトラメチレングリコール)ジメタクリレート、ポリ(プロピレングリコール−テトラメチレングリコール)ジアクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールジアクリレート等のグリシジルエステル等を挙げることができる。
【0046】
また、カルボジイミド基含有化合物は、多価イソシアネート化合物を用いた(共)重合体であることが好ましい。上記多価イソシアネートの具体例としては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、ピリジンジイソシアネート、2,4−トリレジンシソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、p−フェニレンジシソシアネート、m−フェニレンジシソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート等が挙げられる。その中でもシクロヘキサンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネートが好ましく使用される。
鎖延長剤としては、日清紡績(株)製のカルボジライトHMV−8CAやカルボジライトLA−1、BASF製のADR−4368CS等が挙げられる。
【0047】
C成分の含有量は、A成分100重量部に対し、0.1〜5重量部であり、好ましくは0.3〜3重量部、更に好ましくは0.5〜2.5重量部である。含有量が0.1重量部未満の場合、樹脂組成物のMVRの値が大きくなったり、引張試験による歪硬化度が小さくなるため、ブロー延伸により分子配向斑が起こりやすくなることによりボトルの肉厚が不均一になり、5重量部を超えると樹脂組成物の溶融粘度の増加によってMVRが小さくなり、歪硬化開始温度が高くなることにより分子配向斑が起こりやすくなったり、歪硬化自体が存在しなくなることによりブロー成形加工性が悪化する。
【0048】
<D成分:熱可塑性エラストマー>
本発明の熱可塑性エラストマーは、柔軟性および導電性向上の効果を持つ物質であり、本発明に使用されるPENおよびPETとの相溶性が高いものが好ましい。
熱可塑性エラストマーとしては特に制限はないが、例えばポリスチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、フッ素ポリマー系エラストマーなどが挙げられる。市販品としては、富士化成工業(株)製のTPAE−10HP−10、旭化成ケミカルズ(株)製のタフテックM1913などが挙げられる。
【0049】
D成分の含有量は、A成分100重量部に対し、1〜40重量部が好ましく、より好ましくは10〜35重量部、さらに好ましくは15〜30重量部である。含有量が1重量部未満の場合、柔軟性および導電性向上の効果が十分でなく、40重量部を超えるとPENやPETの特徴であるブロー延伸による分子配向による特徴が乏しくなり、強度不足となる場合がある。
【0050】
<E成分:導電剤>
本発明の導電剤とは、導電性の効果を持つ物質である。導電剤としては、カーボンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛、アルミニウムドープ酸化亜鉛、酸化スズ被覆酸化チタン、酸化スズ、酸化スズ被覆硫酸バリウム、チタン酸カリウム、アルミニウム金属粉末、ニッケル金属粉末、テトラアルキルアンモニウム塩、トリアルキルベンジン、アンモニウム塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルサルフェート、グルセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪アルコールエステル、アルキルベタイン、過塩素酸リチウム等が挙げられ、その中でもケッチェンブラックが好ましい。ケッチェンブラック市販品としてはライオン(株)製のケッチェンブラックEC−600JDが挙げられる。E成分の含有量は、A成分100重量部に対し、1〜30重量部が好ましく、より好ましくは3〜20重量部、さらに好ましくは5〜15重量部である。含有量が1重量部未満の場合、導電性向上の効果が十分でなく、30重量部を超えるとPENやPETの特徴であるブロー延伸性による分子配向による特徴が乏しくなり、強度不足となる場合がある。
【0051】
<F成分:相溶化剤>
本発明の相溶化剤は、PENとPET、有機リン系難燃剤、鎖延長剤、熱可塑性エラストマーおよび導電剤との密着性を高める効果を持つ物質である。相溶化剤としては、スチレン、ポリオレフィン、ポリエチレン、アクリル、ポリスチレン等が挙げられ、その中でもアクリル系のものが好ましい。アクリル系相溶化剤の市販品としては東亜合成(株)製のレゼダGP−301が挙げられる。F成分の含有量は、A成分100重量部に対して、0.1〜10重量部が好ましく、より好ましくは0.5〜7重量部、さらに好ましくは1〜5重量部である。含有量が0.1重量部未満の場合、密着性の向上効果が十分でなく、10重量部を超えるとブロー延伸性に悪影響を与える。
【0052】
<G成分:離型剤>
本発明の離型剤は、ブロー延伸体を取り出すための離型性を高める効果を持つ物質である。離型剤としては、飽和脂肪酸エステル、不飽和脂肪酸エステル、パラフィンワックス、フッ素樹脂粒子、シリコーン粒子などが挙げられ、その中でもシリコーン粒子が好ましい。シリコーン粒子の市販品としては、東レダウコーニング(株)製DC4−7081が挙げられる。G成分の含有量は、A成分100重量部に対して、0.05〜5重量部が好ましく、より好ましくは0.3〜3重量部、さらに好ましくは0.5〜2重量部である。含有量が0.05重量部未満の場合、離型性向上の効果が十分でなく、5重量部を超えるとブリードアウト性に悪影響を与える場合がある。
【0053】
<H成分:鉱物>
本発明の鉱物は、分解物を捕捉としてブリードアウトを抑制する効果を持つ物質である。鉱物としては、天然物あるいは合成品である、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、アルミニウム、ビスマス等の含水塩基性炭酸塩または結晶水を含まない塩基性炭酸塩が挙げられ、その中でもアルミニウムとマグネシウムを含有する炭酸塩が好ましい。その市販品としては協和化学工業(株)製DHT−4Cが挙げられる。H成分の含有量は、A成分100重量部に対して、0.1〜5重量部が好ましく、より好ましくは0.3〜3重量部、さらに好ましくは0.5〜2重量部である。含有量が0.1重量部未満の場合、ブリードアウトの抑制効果が少なく、5重量部を超えるとブロー延伸性に悪影響を与える場合がある。
【0054】
<その他の成分>
本発明の延伸用難燃ポリエステル樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、芳香族ポリエステル系樹脂以外の熱可塑性樹脂(ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリスチレン樹脂、高衝撃ポリスチレン樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、ポリメタクリレート樹脂、並びにフェノキシまたはエポキシ樹脂など)、無機充填剤(ガラス繊維、ガラスフレーク、炭素繊維、炭素フレーク、タルク、ワラストナイトなど)、有機充填剤(アラミド繊維、ケナフ繊維など)、衝撃改質剤(コアシェル型アクリルゴム、コアシェル型ブタジエンゴムなど)、紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾフェノン系など)、酸化防止剤(ホスファイト系化合物、ホスホナイト系化合物、ヒンダードフェノール系化合物)、安定剤(HALSなど)、流動改質剤(ポリカプロラクトンなど)、着色剤(二酸化チタン、各種の有機染料、メタリック顔料など)、末端封鎖剤、帯電防止剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどの第4級アンモニウム塩系など)、無機および有機の抗菌剤、光触媒系防汚剤(微粒子酸化チタン、微粒子酸化亜鉛など)、赤外線吸収剤、並びにフォトクロミック剤紫外線吸収剤などを配合してもよい。これら各種の添加剤は、周知の配合量で利用することができる。
【0055】
<樹脂組成物の製造>
本発明の延伸用難燃ポリエステル樹脂組成物の調製は、芳香族ポリエステル系樹脂(A成分)、有機リン系難燃剤(B成分)、鎖延長剤(C成分)および必要に応じてその他成分を、V型ブレンダー、スーパーミキサー、スーパーフローター、ヘンシェルミキサーなどの混合機を用いて予備混合し、かかる予備混合物を混練機に供給し、溶融混合する方法が好ましく採用される。混練機としては、種々の溶融混合機、例えばニーダー、単軸または二軸押出機などが使用でき、なかでも二軸押出機を用いて樹脂組成物を260〜310℃、好ましくは280〜290℃の温度で溶融して、押出しペレタイザーによりペレット化する方法が好ましく使用される。得られたペレットを成形する方法としては、チューブ押出し、インフレーション、回転成形方法、ブロー成形方法、射出成形方法などがある。これらの中で、ブロー成形、特に延伸ブロー成形方法はブロー成形の特徴である延伸によって、分子配向が起こり、強度が向上することと、繰り返しの再現性が高く、均質な品質の製品が安定して製造されるためより好ましい。
【0056】
本発明の樹脂組成物の300℃、2.16kgfで測定したMVRは5〜39cm/10minであり、6〜30cm/10minであることが好ましく、7〜20cm/10minであることがより好ましい。MVRの数値が5cm/10min未満である場合や39cm/10minを超える場合には、ブロー延伸による分子配向に斑が起こりやすくなるためボトルの肉厚斑が起こる。
さらに、本発明の樹脂組成物の歪開始温度は100〜160℃であり、110〜150℃であることが好ましく、120〜150℃であることがより好ましい。歪開始温度が100℃未満の場合、ブロー加工時において高いブロー圧力が必要となるため、通常の延伸ブロー機では製造不可能である。160℃を超える場合、ブロー延伸の温度が高いため、ブロー延伸による分子配向の延伸斑が起こしやすく、ボトルの肉厚が不均一となる。なお歪開始温度は引張試験で得られるS−Sカーブより算出した。
【発明の効果】
【0057】
本発明の延伸用難燃ポリエステル樹脂組成物は、非常に高い難燃性を有し、またブリードアウト性およびブロー加工性に優れているため、家電製品部品、電気・電子部品、自動車部品、機械・機構部品、化粧品容器などの種々の成形品を成形する材料として有用である。具体的には、ブレーカー部品、スイッチ部品、モーター部品、イグニッションコイルケース、電源プラグ、電源コンセント、コイルボビン、プリンター各種ベルト部品(転写ベルトや定着ベルト等)、コネクター、リレーケース、ヒューズケース、フライバグトランス部品、フォーカスブロック部品、ディストリビューターキャップ、ハーネスコネクターなどに好適に用いることができる。特に優れた耐熱性、難燃性が要求されるプリンターの筐体、転写や定着ユニット部品、ファックスなど家電・OA製品の機械・機構部品などとしても有用である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下に、本発明を実施するための形態を説明するが、この実施の形態は例示的に示されるもので、本発明の技術思想から逸脱しない限り種々の変形が可能である。
【実施例】
【0059】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、評価は下記の方法で行った。
【0060】
(1)難燃性(UL−94評価)
得られた組成物ペレットを140℃で5時間、熱風循環式乾燥機で乾燥した後、射出成形機(日精樹脂工業(株)製:NEX−50−5E)を使用して、難燃性評価用の試験片を成形した。試験片は、厚さ1/16インチ(1.6mm)を用い、難燃性の評価尺度として、米国UL規格のUL−94に規定されている垂直燃焼試験に準じた評価を使用した。どの試験片も炎を取り去った後の燃焼が10秒以内で消火し、且つ、滴下物が綿着火をおこさないものがV−0、燃焼が30秒以内で消火し、且つ、滴下物が綿着火をおこすものがV−2であり、この評価基準以下のものをnotVとした。
【0061】
(2)ブリードアウト性
上記の難燃性評価用の試験片を、恒温恒湿槽を使用して80℃、90%RHで48時間熱処理を行った後、表面の目視観察を実施した。難燃剤の染み出し(べたつき)が一切認められないものを「○」、難燃剤の染み出しが多く、べたつきが大きいものを「×」と評価した。
【0062】
(3)流動性
組成物ペレットを140℃で5時間乾燥し、温度300℃、荷重2.16kgfの条件下でISO 1133に準拠した方法でMVR(メルトボリュームレイト)測定を行った。測定は東洋精機(株)製セミオートメルトインデクサー2A型により実施した。
【0063】
(4)歪硬化開始温度
組成物ペレットを熱風循環式乾燥機で140℃で5時間乾燥し、射出成形機(三菱重工業(株)製:80MSP−5)を使用して、シリンダー温度280℃、金型温度50℃にてISO527−1、ISO527−2に準拠して試験片を作成した。次に、成形品を予め小型の恒温槽を用いて引張試験を実施する温度で10分間予備加熱してから、恒温槽付の引張試験機(島津製作所(製)AG−10KNX)に取り付けた。取り付けた成形品は、チャック間距離110mm、試験速度100mm/minの条件で、温度が設定温度に到達してから6分後に試験を開始させ、引張試験のS-Sカーブを得た。得られたS-Sカーブは、初期の引張降伏での立ち上がる領域と、中間として実質立ち上がり、立ち下り部分がない安定した領域と、最後の引張強度の立ち上がり領域とに分けることができ、最後の引張強度の立ち上がり部分で線形近似曲線を用いて線形近似曲線数式を導き出した。その線形近似曲線数式のピアソン積分相関係数Rの2乗であるR−2乗値が0.9以上の時の傾きを歪硬化度とし、その時の傾きが0.01以上である最低温度を歪硬化度開始温度とし、傾きが0.01以下で歪硬化がないものについては記載を無しとした。この歪硬化開始温度が特定の範囲に存在すると実施のブロー成形をした場合に延伸斑がなく、かつボトル強度が良好な延伸体を得ることができる。
【0064】
(5)延伸ブロー成形におけるブロー加工性
組成物ペレットを熱風循環式乾燥機で140℃で5時間乾燥し、射出成形機(日精樹脂工業(株)製:FN2000)を使用して、シリンダー温度280℃、金型温度10℃にて、1.5Lボトルのプリフォームを作成した。作成したプリフォームを延伸ブロー機(フロンティア(株)製:FDB−1D)を使用して、延伸ロッド速度600mm/sec、ブロー圧力4MPaの条件で1.5L容器を作成した。得られたボトルの胴部部分の肉厚が0.2mm〜0.35mmの範囲にあるものを○として、ブロー時に割れるもしくは肉厚が0.2mm未満または0.35mmより大きい部分があるものは×とした。
【0065】
なお、表1中記号表記の各成分の内容は下記の通りである。
<A成分:芳香族ポリエステル樹脂>
PEN:帝人化成(株)製テオネックス TN8065S(直接エステル法の後、固相重合法で製造、IV=0.68dl/g、末端カルボキシル基濃度=15eq/10g、300℃、2,16kg荷重で測定したMVR=8cm/10min)
PET:帝人化成(株)製PET TRN−8550FF(直接エステル法の後、固相重合法)で製造、IV=0.77dl/g、末端カルボキシル基濃度=9eq/10g、280℃、2,16kg荷重で測定したMVR=25)
<B成分>有機リン系難燃剤
FR:2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン,3,9−ジベンジル−3,9−ジオキサイド(前記一般式(1)において、XおよびXが同一であり、且つALがメチレン基、Arがフェニル基であり、nが1である有機リン系難燃剤)、(融点:257℃)
[FRの調製方法]
攪拌機、温度計、コンデンサーを有する反応容器に、3,9−ジベンジロキシ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン408.3g(1.0mol)およびベンジルブロマイド342.1g(2.0mol)を充填し、室温下攪拌しながら、乾燥窒素をフローさせた。次いでオイルバスで加熱を開始し、オイルバス温度150℃で10分保持した。その後オイルバスを取り除き室温まで冷却した。得られた白色固体状の反応物にメタノール2000mlを加えて攪拌洗浄後、グラスフィルターを用いて白色粉末を濾別した。次いで濾別した白色粉末を50wt%のメタノール水溶液2000mlで洗浄し、得られた白色粉末を100Pa、120℃で8時間乾燥させて、ビスベンジルペンタエリスリトールジホスホネート334.6gを得た。生成物は質量スペクトル分析、H、31P核磁気共鳴スペクトル分析および元素分析でビスベンジルペンタエリスリトールジホスホネートであることを確認した。(収率82%、HPLC純度99.2%)
PX200(比較用):大八化学工業(株)製リン酸エステル系難燃剤 PX−200[レゾルシノールビス(ジ−2,6−キシリルホスフェート)、融点:92℃]
<C成分>鎖延長剤
C−1:日清紡績(株)製 カルボジイミド基含有化合物、商品名:HMV−8CA
C−2:日清紡績(株)製 カルボジイミド基含有化合物、商品名:LA−1
C−3:BASF社製 エポキシ基含有化合物、商品名:ADR4368CS
<D成分>熱可塑性エラストマー
D−1:富士化成工業(株)製 ポリアミド系エラストマー、商品名:TPAE−10HP−10
D−2:旭化成ケミカルズ(株)製 スチレン系エラストマー、商品名:タフテックM1913
<E成分>導電剤
E−1:ライオン(株)製 ケッチェンブラック、商品名:EC−600JD
<F成分>相溶化剤
F−1:東亜合成(株)製 アクリル系グラフトポリマー 商品名:レゼダGP−301
<G成分>離型剤
G−1:東レダウコーニング(株)製 シリコーン粒子 商品名:DC4−7081
<H成分>鉱物
H−1:協和化学工業(株)製 ハイドロタルサイト化合物 商品名:DHT−4C
【0066】
(実施例1〜11、および比較例1〜7)
表1および表2記載の各成分を表1および表2記載の量でタンブラーにて配合し、径30mmФ、L/D=33.2、混練ゾーン2箇所のスクリューで装備したベント付き二軸押出機(神戸製鋼所(株)製):KTX30)を用い、シリンダー温度290℃にて溶融混練し、押出し、ストランドカットすることで、各組成物のペレットを得た。各評価結果を表1および表2に示した。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
表1および表2において、実施例1〜11は高度な難燃性を有しつつ、ブリードアウト性に優れ、MVRが本特許範囲内であることから、PEN系樹脂の特性を有する配向結晶がしやすくなるため、優れたブロー加工性を有していることがわかる。特に、実施例8および9は、鎖延長剤としてカルボジイミド基含有化合物とエポキシ基含有化合物とを併用することにより分子配向しやすくなるためブロー加工性がより良好になり、また実施例9では、さらにA成分としてPETを添加しているためさらにブロー加工性に優れる。このことは、より肉厚が均質な品質の製品ができることを意味する。
【0070】
これに対して、比較例1は特定の難燃剤を添加しているため、難燃性とブリードアウト性に優れるが、鎖延長剤の含有量が下限未満であるため、MVRが大きくなり、ブロー加工時に配向結晶斑が起こりやすくなるため、ブロー加工したボトルの肉厚の範囲から外れることから、ブロー加工性に劣ることがわかる。比較例2は、本願発明で規定されている難燃剤以外の難燃剤を使用しているためブリードアウト性が悪い。比較例3は、鎖延長剤の含有量が上限を超えているため、MVRの値が小さくなり本特許範囲より外れ、かつブロー加工延伸性の指標となる歪開始温度が高くなり本特許範囲より外れるため、ブロー加工性が悪い。比較例4は、B成分の含有量が上限を超えているためMVRの値が大きくなり本特許範囲より外れ、かつブロー加工性の指標となる歪開始温度が無いため、ブロー加工性が悪い。比較例5は、PETの含有量が上限を超えているため、ブロー加工性の指標となる歪開始温度が無く、ブロー加工性が悪い。比較例6は、難燃剤を添加してないため、難燃性に劣る。比較例7は、B成分の含有量が上限を超えているため、MVRの値が大きくなり、本特許範囲より外れ、ブロー圧力の不足のためブロー加工ができなかった。