特許第6100611号(P6100611)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6100611
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】X線発生装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 35/14 20060101AFI20170313BHJP
   H01J 35/30 20060101ALI20170313BHJP
   G21K 1/00 20060101ALI20170313BHJP
   G21K 1/093 20060101ALI20170313BHJP
   G21K 5/02 20060101ALI20170313BHJP
   H05G 1/52 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
   H01J35/14
   H01J35/30
   G21K1/00 E
   G21K1/093 F
   G21K5/02 X
   H05G1/52 B
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-111248(P2013-111248)
(22)【出願日】2013年5月27日
(65)【公開番号】特開2014-229596(P2014-229596A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2016年5月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124291
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 悟
(72)【発明者】
【氏名】石井 淳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 直伸
【審査官】 杉田 翠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−104272(JP,A)
【文献】 特開2004−265602(JP,A)
【文献】 特表2008−516388(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K1/00−3/00
5/00−7/00
H01J35/00−35/32
H05G1/00−2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを出射する電子銃部と、
基板と、該基板に埋設されており前記電子ビームの入射によりX線を発生する材料からなるターゲット体と、を有するターゲット部と、
前記電子銃部から前記ターゲット部まで前記電子ビームを通過させる電子通過路と、
前記電子通過路を通過する前記電子ビームを集束させる集束部と、
前記電子通過路において前記ターゲット部と対面するように配置され、前記集束部と前記ターゲット部との間における前記電子通過路の電子通過領域を制限するアパーチャ部と、
前記アパーチャ部を通過した前記電子ビームの進行方向軸と、前記アパーチャ部を通過する前の前記電子ビームの進行方向軸とが交わるように前記電子ビームを偏向させる偏向部と、
を備えることを特徴とするX線発生装置。
【請求項2】
前記偏向部は、
前記電子ビームを偏向させる磁力を発生する磁力発生部と、
前記磁力発生部よりも前記電子通過路側に配置され、前記電子ビームに前記磁力を伝達する伝達部と、を有し、
前記伝達部は、前記アパーチャ部における電子銃側端部よりも前記ターゲット部側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のX線発生装置。
【請求項3】
前記ターゲット部がX線出射窓であり、
前記偏向部は、前記ターゲット部におけるX線出射側の面よりも前記アパーチャ部側に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のX線発生装置。
【請求項4】
前記偏向部は、
前記電子ビームを偏向させる磁力を発生する磁力発生部と、
前記磁力発生部よりも前記電子通過路側に配置され、前記電子ビームに前記磁力を伝達する伝達部と、を有し、
前記伝達部は、
前記磁力発生部により前記磁力が伝達される第1部分と、
前記第1部分から前記電子通過路側に延在し、前記電子ビームに前記磁力を伝達する第2部分とを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のX線発生装置。
【請求項5】
前記ターゲット部を保持するとともに、前記電子通過路と、前記集束部と、前記アパーチャ部とを収容する筐体部を備え、
前記偏向部は、
前記電子ビームを偏向させる磁力を発生する磁力発生部と、
前記磁力発生部よりも前記電子通過路側に配置され、前記電子ビームに前記磁力を伝達する伝達部と、を有し、
前記伝達部は、前記筐体部の内側に配置されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のX線発生装置。
【請求項6】
前記磁力発生部は、前記筐体部の外側に配置されていることを特徴とする請求項5に記載のX線発生装置。
【請求項7】
前記磁力発生部は、前記筐体部の内側に配置されていることを特徴とする請求項5に記載のX線発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、X線発生装置として、電子ビームを出射する電子銃部と、基板と、基板に埋設されており、電子ビームの入射によりX線を発生する材料からなるターゲット体と、を有するターゲット部と、を備えるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−28845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ターゲット部が、基板に埋設されたターゲット体を有する場合、発生するX線の焦点の大きさは主にターゲット体の大きさ(径)に影響される。このため、所望の焦点径を有するX線を発生させるためには、必ずしもターゲット部への電子ビームの入射範囲を絞る必要はない。しかしながら、電子ビームの入射範囲を絞ることなく、電子ビームをターゲット部に照射すると、ターゲット体以外のターゲット部にも電子が入射する。ターゲット体以外のターゲット部(例えば基板)に入射した電子は、所望のX線の発生には寄与しないだけでなく、ターゲット部の発熱などの悪影響を及ぼす。したがって、ターゲット体以外のターゲット部へ電子が不要に入射することを抑制することが求められる。
【0005】
電子の不要な入射を抑制するためには、電子ビームを集束させつつ、ターゲット部の近傍に、電子通過領域を制限するアパーチャ部を設けることが有効である。しかし、ターゲット部の近傍で電子通過領域を制限した場合、ターゲット部上での電子ビームの走査可能な範囲も制限されてしまう。すなわち、電子の不要な入射を抑制可能である反面、電子ビームの入射可能な範囲が制限されるために、ターゲット部の一部しか有効に利用することができない。
【0006】
本発明は、アパーチャ部により電子が不要にターゲット部に入射することを抑制しつつ、集束された電子ビームを広範囲にターゲット部へ入射可能に制御することができるX線発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るX線発生装置は、電子ビームを出射する電子銃部と、基板と、該基板に埋設されており電子ビームの入射によりX線を発生する材料からなるターゲット体と、を有するターゲット部と、電子銃部からターゲット部まで電子ビームが通過させる電子通過路と、電子通過路を通過する電子ビームを集束させる集束部と、電子通過路においてターゲット部と対面するように配置され、集束部とターゲット部との間における電子通過路の電子通過領域を制限するアパーチャ部と、アパーチャ部を通過した電子ビームの進行方向軸と、アパーチャ部を通過する前の電子ビームの進行方向軸とが交わるように電子ビームを偏向させる偏向部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
このX線発生装置では、偏向部が、集束部で集束されたアパーチャ部を通過する前の電子ビームの進行方向軸と、アパーチャ部を通過した後の電子ビームの進行方向軸とが交わるように電子ビームを偏向させるので、アパーチャ通過後の集束された電子ビームを広い範囲で走査させることが可能となる。すなわち、X線発生装置は、アパーチャ部により電子が不要にターゲット部に入射することを抑制しつつ、集束された電子ビームを広範囲にターゲット部へ入射可能に制御することができる。
【0009】
偏向部は、電子ビームを偏向させる磁力を発生する磁力発生部と、磁力発生部よりも電子通過側に配置され、電子ビームに磁力を伝達する伝達部と、を有し、伝達部はアパーチャ部の電子銃側端部よりもターゲット部側に配置されていてもよい。この場合、X線発生装置では、電子ビームを偏向させる磁力を、より確実に電子ビームに伝達することができる。
【0010】
ターゲット部がX線出射窓であり、偏向部は、ターゲット部におけるX線出射側の面よりもアパーチャ部側に配置されていてもよい。この場合、偏向部がX線出射窓におけるX線出射側の面よりもアパーチャ側に配置されているので、偏向部が、X線の被照射物をX線出射窓へ近接させることを妨げてしまうことを抑制することができる。
【0011】
偏向部は、電子ビームを偏向させる磁力を発生する磁力発生部と、磁力発生部よりも電子通過路側に配置され、電子ビームに磁力を伝達する伝達部と、を有し、伝達部は、磁力発生部により磁力が伝達される第1部分と、第1部分から電子通過路側に延在し、電子ビームに磁力を伝達する第2部分とを含んでもよい。この場合、偏向部は、電子通過路側に延在する伝達部の第2部分を介して磁力を電子ビームへ伝達するので、磁力発生部をアパーチャ部から離れた箇所に設けることが可能になる。これにより、X線発生装置では、伝達部を小型化した場合でも、磁力発生部を十分な磁力が発生可能な大きさにすることができる。すなわち、X線発生装置では、アパーチャ部とターゲット部とが近接した場合でも十分に電子ビームを偏向させることができる。
【0012】
ターゲット部を保持するとともに、電子通過路と、集束部と、アパーチャ部とを収容する筐体部を備え、偏向部は、偏向のための磁力を発生する磁力発生部と、磁力発生部よりも電子通過路側に配置され、電子ビームに磁力を伝達する伝達部と、を有し、伝達部は、筐体部の内側に配置されていてもよい。この場合、X線発生装置は、伝達部をより電子通過路に近接させることができるので、より確実に電子ビームを偏向させることができる。
【0013】
磁力発生部は、筐体部の外側に配置されていてもよい。この場合、X線発生装置は、伝達部を小型化しても、磁力発生部を十分な磁力が発生可能な大きさとすることができるので、アパーチャ部とターゲット部とが近接した場合でも十分に偏向させることができる。
【0014】
磁力発生部は、筐体部の内側に配置されていてもよい。この場合、偏向部は、外部環境要因による影響が抑制されるので、安定して偏向させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アパーチャ部により電子が不要にターゲット部に入射することを抑制しつつ、集束された電子ビームを広範囲にターゲット部へ入射可能に制御することができるX線発生装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態に係るX線発生装置を示す概略構成図である。
図2】ターゲット部の構成を示す図である。
図3図1のX線発生装置におけるターゲット部周辺の断面図である。
図4】本実施形態に係る電子ビームEBの調整手順のフローチャートである。
図5】本発明の他の実施形態のX線発生装置におけるターゲット部周辺の断面図である。
図6】本発明の他の実施形態のX線発生装置におけるターゲット部周辺の断面図である。
図7】本発明の他の実施形態のX線発生装置におけるターゲット部周辺の断面図である。
図8】本発明の他の実施形態のX線発生装置におけるターゲット部周辺の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0018】
まず、図1を参照して、本実施形態に係るX線発生装置の構成について説明する。図1は、本実施形態に係るX線発生装置を示す概略構成図である。
【0019】
X線発生装置1は、開放型であり、使い捨てに供される密封型と異なり、真空状態を任意に作り出すことができ、ターゲット部Tや電子銃部3のカソード等の交換を可能にしている。X線発生装置1は、動作時に真空状態になり、導電性材料(例えばステンレスなど)からなる円筒形状の筒状部5(筐体部)を有している。筐体部5の内部には、電子銃部3から出射されてターゲット部Tに到る電子の通過領域となる電子通路11(電子通過路)が形成されている。X線発生装置1は、動作時には電子通路11およびその連通空間が真空状態を保持するように制御する。筒状部5は、下側に位置し、電子銃3を収容する電子銃収容部5aと上側に位置し、ターゲット部Tを保持するターゲット保持部5bとからなる。ターゲット保持部5bはヒンジ(不図示)を介して電子銃収容部5aに取り付けられている。したがって、ターゲット保持部5bが、ヒンジを介して横倒しになるように回動することで、電子銃収容部5aの上部を開放させることができ、電子銃収容部5a内に収容されている電子銃部3(カソード)へのアクセスを可能にする。なお、以降、ターゲット部T側を上方、電子銃3側を下方とする。
【0020】
ターゲット保持部5bの内側には、集束コイル(集束部)として機能する筒状のコイル部47と、調整コイルとして機能する筒状のコイル部49とが設けられる。ターゲット保持部5bの内側には、コイル部47,49の中心を通るよう、筒状部5の長手方向に、電子通路11の一部を構成する非磁性材料の管状部材10が延在するように配置されている。電子通路11はコイル部47,49で包囲される。ターゲット保持部5bの下端にはディスク板13が蓋をするように固定され、ディスク板13の中心には、電子通路11の下端側に一致させる電子導入孔13aが形成されている。
【0021】
X線発生装置1は、アパーチャ体6(アパーチャ部)を備える。アパーチャ体6は、コイル部47付近に配置され、ターゲット部Tと対面するように配置される。アパーチャ体6は、コイル部47で集束された電子ビームEBがターゲット部Tへ向かう際の電子通路11の一部を構成し、電子通路11の電子ビームEBの通過領域(電子通過領域)の径を狭窄するように制限する。アパーチャ体6は、管状部材10の内径よりも小径な貫通孔(アパーチャ6a)を有し、電子ビームEBの照射に耐え得る材料からなる筒状の部材である。
【0022】
アパーチャ体6は、コイル部47によって集束された電子ビームEBのうち、アパーチャ6aの径以上に拡がった電子(例えば拡散成分)の通過を制限することにより、ターゲット部Tに到る電子ビーム径を制限する。X線発生装置1は、アパーチャ体6近傍且つ筒状部5(ターゲット保持部5b)の外側にスキャンコイル52(偏向部)を備える。スキャンコイル52は、アパーチャ6aを通過した電子ビームEBを偏向させる。具体的には、例えば、図3(A)に示すように、スキャンコイル52は、アパーチャ6aを通過する前の電子ビームEBの進行方向軸EB1と、アパーチャ6aを通過した電子ビームEBの進行方向軸EB2とが交わるように電子ビームEBを偏向させる。ターゲット保持部5bは、電子レンズ機能を備えるヨークとしても機能し、コイル部47と着脱部5bと協同して集束部としても機能する。
【0023】
ターゲット保持部5bの上端は円錐台に形成され、頂部には、電子通路11の上端側に位置してX線出射窓を形成する透過型のターゲット部Tが装着されている。ターゲット部Tは、接地させた状態で電子通路11の上端部を真空封止するように、図示しない着脱構造によって着脱自在に固定されている。これにより、X線発生装置1では、消耗品であるターゲット部Tの交換も可能になる。
【0024】
電子銃収容部5aには真空ポンプ17が固定され、真空ポンプ17は筒状部5内を高真空状態にする。すなわち、X線発生装置1が真空ポンプ17を装備することによって、ターゲット部Tやカソード等の交換が可能になっている。
【0025】
筒状部5の基端側には、電子銃部3との一体化が図られたモールド電源部19が固定されている。モールド電源部19は、電気絶縁性の樹脂(例えば、エポキシ樹脂)でモールド成形されていると共に、金属製のケース内に収容されている。
【0026】
モールド電源部19内には、高電圧(例えば、−数十kV以下)を発生させるようなトランスを構成させた高圧発生部(不図示)が封入されている。モールド電源部19は、下側に位置して直方体形状をなすブロック状の電源本体部19aと、電源本体部19aから上方に向けて電子銃収容部5a内に突出する円柱状のネック部19bとからなる。高圧発生部は、電源本体部19a内に電気絶縁性の樹脂によって封入されている。ネック部19bの先端部には、電子通路11を挟むように、ターゲット部Tに対峙させるよう配置させた電子銃部3が装着されている。モールド電源部19の電源本体部19a内には、高圧発生部に電気的に接続させた電子放出制御部(不図示)が封入されている。電子放出制御部は、電子銃部3に接続されており、電子の放出のタイミングや管電流などを制御している。
【0027】
ターゲット部Tは、図2にも示されるように、基板21と、ターゲット体23と、保護層25と、を有しており、X線発生装置1におけるX線出射部となるX線出射窓を兼ねた透過型ターゲットである。基板21は、電子入射によるX線の発生が少なく、X線透過性および放熱性に優れた材料、例えばダイヤモンドからなり、円形又は矩形などの外形を有する平板状部材である。基板21は、互いに対向し且つ平行な第一主面21aと第二主面21bとを有している。基板21の厚みは、基板の外径よりも小さい。たとえば、基板の外径は0.3〜1.5cm程度に設定され、基板21の厚みは50〜300μm程度に設定されている。
【0028】
基板21には、第一主面21a側から第二主面21bに向かって、第一主面21aに略垂直な方向に延びる有底状の穴部22が形成されている。穴部22は、底面22aと内側面22bとで画成される内側空間を有しており、当該内側空間は、第一及び第二主面21a,21bに沿った方向での断面が略円形である円柱体形状を呈している。内側面22bの第一主面21aに垂直な方向での長さ(すなわち、穴部22の深さ)は、底面22aの第一主面21aに平行な方向での長さ(すなわち、穴部22の内径)よりも大きい。穴部22の内径は0.05〜1μmの範囲に設定され、穴部22の深さは0.5〜4μmの範囲に設定されている。本実施形態では、穴部22の内径は0.5μmに設定され、穴部22の深さは1μmに設定されている。
【0029】
ターゲット体23は、基板21に形成されている穴部22内に埋設されて配置されている。ターゲット体23は、基板21とは異なる材料からなる金属(たとえば、タングステン、金、又は白金など)からなる。ターゲット体23は、穴部22の内側空間に対応した、すなわち穴部22に埋め込まれた円柱体形状を呈している。ターゲット体23は、互いに対向する第一及び第二端面23a,23bと、それらをつなぐ側面23cと、を有している。本実施形態では、ターゲット体23の金属として、タングステン(W)が採用されている。X線発生装置1は、第一主面21a側に電子ビームEBを入射させ、第二主面21b側からX線XRを出射させる。すなわち、第一主面21aが電子入射側の面であり、第二主面21bがX線出射側の面となる。本実施形態では、ターゲット部Tが、ターゲット体23を1つのみ有しているが、同様の構造のターゲット体23を複数有するようにしてもよい。
【0030】
再び、図1を参照する。X線発生装置1は、制御部としてのコントローラ31を備えている。コントローラ31は、X線発生装置1に関する各種の制御を行い、例えばモールド電源部19の高圧発生部及び電子放出制御部を制御する。これにより、電子銃部3とターゲット部T(ターゲット体23)との間に所定の電流及び電圧が印加され、電子銃部3から電子ビームEBが出射する。電子銃部3から出射された電子ビームEBは、コントローラ31により制御されたコイル部47にて適切に集束されて、ターゲットT(ターゲット体23)の第一主面21a側に入射する。ターゲット体23に電子ビームEBが入射すると、ターゲット体23からX線XRが放射され、このX線XRは、基板21を透過して第二主面21b側から外部に出射される。
【0031】
コントローラ31は、電子ビーム銃部3から電子ビームEBを出射させると、電子ビームEBと、アパーチャ体6(アパーチャ6a)の中心とが一致しているか否かを判断し、一致していなければ、コイル部49を用いて電子ビームEBを偏向させてその軌道を調整する。コントローラ31は、コイル部47で集束させてアパーチャ6aを通過した電子ビームEBに対してスキャンコイル52により電子ビームEBを偏向させて、当該電子ビームEBをターゲット体23上に走査させる。これにより、X線発生装置1は、例えば基板21上における微小なターゲット体23の位置を検出したり、複数のターゲット体23を備える場合に、電子ビームEBを別のターゲット体23へ移動させたりする。
【0032】
なお、X線発生装置1は、ターゲット部Tを機械的に移動させる移動機構60を備える。移動機構60は、コントローラ31により制御される。コントローラ31は、移動機構60を動作させる。よって、コントローラ31は、移動機構60を介して、ターゲット部T自体をターゲット保持部5bに対して移動させることができる。これにより、X線発生装置1は、電子ビームEBのターゲット部T上への入射領域をさらに大きく移動させることができる。このように、スキャンコイル52による電子ビームEBの偏向と、移動機構60によるターゲット部T自体の移動とを組み合わせることで、ターゲット部Tをより広範囲に活用することができる。
【0033】
また、制御部としては、単一のコントローラ31がX線発生装置1に関する制御を行ってもよいし、X線発生装置1が複数のコントローラ31を備え、これらのコントローラ31が協働してX線発生装置1に関する制御を行ってもよい。また、複数のコントローラ31が備えられている場合、各コントローラ31は、制御対象(例えば、スキャンコイル52及び移動機構60など)が異なっていてもよい。
【0034】
次に、コイル部47からターゲット部Tまでの拡大図を図3に示す。図3(A)は、X線発生装置1を示す概略構成図のうち、コイル部47からターゲット部Tまでの図であり、図3(B)は、X線発生装置1の上面図である。
【0035】
コイル部47は、筒状部5(ターゲット保持部5b)の内部に収容されている。コイル部47と、真空領域である電子通路11とは、真空隔壁41によって仕切られている。ターゲット部T近傍の電子通路11は、真空隔壁41の内側に配置された非磁性材料の管状部材10、アパーチャ体6、Oリング20、ターゲット部Tおよび筒状部5(ターゲット保持部5b)の一部で形成されている。ターゲット保持部5bの上端とターゲット部Tとは、Oリング20を挟み込むことにより、真空封止されている。
【0036】
スキャンコイル52は、電子ビームEBを偏向する磁力を発生するコイル部52a(磁力発生部)と、電子通路11を通過する電子ビームEBに磁力を伝達する端面52b(伝達部)とを備える。端面52bは、コイル部52aよりも電子通路11側において電子通路11と対向するように配置される。端面52bは、アパーチャ体6の電子銃3側端部よりもターゲット部T側(上側)に配置されている。具体的には、端面52bは、電子通路11の延在方向と略直交し、アパーチャ体6の電子銃3側端部の端面を通る仮想面P1よりもターゲット部T側(上側)に配置されている。
【0037】
このように、スキャンコイル52の端面52bは、アパーチャ体6の電子銃3側端部の端面からターゲット部Tの電子入射面の間の空間に設けられているので、アパーチャ体6を通過してターゲット部Tへ向かう電子ビームEBを偏向させることができる。すなわち、スキャンコイル52の端面52bは、偏向空間と対向するように、当該偏向空間近傍に設けられている。ここで、偏向空間とは、仮想面P1と、電子通路11の延在方向と略直交し、ターゲット部Tの電子入射面を通る仮想面P2とで挟まれた電子通過空間であって、集束された電子ビームEBの偏向が可能な空間をいう。
【0038】
スキャンコイル52は、電子通路11の外側に設けられているので、スキャンコイル52を構成する部材(スキャンコイル52自体)が電子通路11における電子ビームEBの通過を物理的に妨げる等の悪影響を与えることを防止することができる。
【0039】
スキャンコイル52は、筒状部5(ターゲット保持部5b)に接しないように、筒状部5(ターゲット保持部5b)の外側に配置されている。図3(B)に示したように、スキャンコイル52は、ターゲット部Tの中心を基準に、周方向に約90度毎に、計4つ設けられている。スキャンコイル52を構成する部材(スキャンコイル52自体)がターゲット部TにおけるX線出射側の面(第二主面21b)よりもアパーチャ体6側(下側)に配置されている。具体的に、スキャンコイル52は、電子通路11の延在方向と略直交し、X線出射側の面(第二主面21b)上を通る仮想面P3よりもアパーチャ体6側(下側)に配置されている。
【0040】
この場合、スキャンコイル52が、ターゲット部TにおけるX線出射側の面(X線出射窓のX線出射面)よりもアパーチャ体6側に配置されている。スキャンコイル52が、X線の被照射物をX線出射窓へ近接させることを妨げてしまうことを抑制することができる。
【0041】
このように、X線発生装置1では、スキャンコイル52が仮想面P1と仮想面P3との間の空間に収まるように配置されている。端面52bの少なくとも一部が仮想面P1と仮想面P2との間の空間に含まれるように配置されている。これにより、X線発生装置1は、集束された電子ビームEBを確実に偏向させつつ、X線の被照射物をX線出射窓(ターゲット部T)へ近接させることができる。
【0042】
続いて、本実施形態のX線発生装置における電子ビームEBの調整処理手順の一例を図4のフローチャートに従って説明する。本手順においては、ターゲット部Tにおけるターゲット体23の位置を特定することを目的とする。
【0043】
まず、コントローラ31は、電子銃3から電子ビームEBを出射させ(S1)、電子ビームEBがアパーチャ体6のアパーチャ6aの中心位置を通過しているか(電子ビームEBの通過位置とアパーチャ6aの中心と一致しているか)否かを判断する(S2)。電子ビームEBがアパーチャ6aの中心位置を通過していない場合、コントローラ31は、コイル部49を動作させることにより電子ビームEBを偏向して調整し(S3)、S2の処理に進む。
【0044】
電子ビームEBがアパーチャ体6のアパーチャ6aの中心位置を通過している場合、コントローラ31は、スキャンコイル52により電子ビームEBを偏向させ、ターゲット部Tの面上を走査させて(S4)、ターゲット体23の位置を検出し(S5)、電子ビームEBの調整処理を終了する。
【0045】
このように、X線発生装置1は、アパーチャ体6付近に設けているスキャンコイル52を用いて電子ビームEBを偏向させることにより、X線発生装置1は、集束された電子ビームEBをアパーチャ体6のアパーチャ6aを通過させつつ、通過後の電子ビームEBを広い範囲で走査させることが可能となる。
【0046】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。図5に示されるように、スキャンコイル52に電子通路11側に向かって延在する延在部14(伝達部)を接続し、当該延在部14の先端部14b(第2部分)が、ターゲット部Tとアパーチャ体6との間(すなわち、アパーチャ体6における電子銃側端部よりもターゲット部側)の空間領域に対向するように設けられるようにしてもよい。延在部14は、鉄等の磁性体材料からなり、電子通路11の延在方向の大きさ(厚さ)がスキャンコイル52の延在方向の大きさ(厚さ)よりも小さく、より狭い空間への挿入が可能となっている。
【0047】
この場合、スキャンコイル52が磁力を発生し、スキャンコイル52による磁力が延在部14の基端部14a(第1部分)に伝達され、延在部14の先端部14bが、スキャンコイル52が発生した磁力を電子ビームEBに伝達する。これにより、X線発生装置1は、アパーチャ体6のアパーチャ6aを通過した電子ビームEBを広い範囲で走査させることが可能となる。
【0048】
電子通路11側に延在する延在部14の先端部14bによって、電子通路11内の電子ビームEB近傍に磁界を誘導することができるので、スキャンコイル52の磁力発生部52aをアパーチャ体6から離れた場所に設けることが可能となる。これにより、X線発生装置1は、伝達部を延在部14のように小型化した場合でも、磁力発生部52aを十分な磁力が発生可能な大きさにして、電子ビームEBに対して十分な磁力を与えることができる。よって、アパーチャ体6とターゲット部Tとが近接し、偏向空間が短い場合でも十分に偏向させることができる。
【0049】
延在部14及びスキャンコイル52がターゲット保持部5bの外側に配置されているので、X線発生装置1は、メンテナンスや配置の微調整等が容易であるのに加え、既製品に外付け可能でもあり、構成が簡易である。
【0050】
図6に示されるように、X線発生装置1では、スキャンコイル52をターゲット保持部5bの内側且つ、アパーチャ体6の近傍(側方)に配置するようにしてもよい。この場合、スキャンコイル52が、アパーチャ体6の側方から電子ビームEBを偏向させるので、アパーチャ体6とターゲット部Tとが近接した場合であっても、集束された電子ビームEBを、アパーチャ体6のアパーチャ6a内から偏向させることにより、通過後の電子ビームEBを広い範囲で走査させることが可能となる。
【0051】
X線発生装置1では、スキャンコイル52がアパーチャ体6の近傍に配置されるので、比較的小さい磁力でも電子ビームEBを大きく偏向させることができることに加え、X線発生装置1の外部環境要因による影響が抑制されるので、安定して偏向させることができる。
【0052】
図7に示されるように、X線発生装置1では、スキャンコイル52(磁力発生部52a)と延在部14(伝達部)とが、ターゲット保持部5bの内側に設けられ、延在部14の先端部14bがアパーチャ体6付近(側方)に設けられるようにしてもよい。この場合、スキャンコイル52が発生した磁力を延在部14の基端部14aに伝達し、延在部14の先端部14bからアパーチャ体6のアパーチャ6a内の電子ビームEBへスキャンコイル52による磁力を伝達する。
【0053】
これにより、X線発生装置1は、アパーチャ体6とターゲット部Tとが近接した場合であっても、集束された電子ビームEBを、アパーチャ体6のアパーチャ6a内から偏向させることにより、通過後の電子ビームEBを広い範囲で走査させることが可能となる。X線発生装置1では、スキャンコイル52(磁力発生部52a)と延在部14(伝達部)とがターゲット保持部5bの内側に設けられていることにより、X線発生装置1の外部環境要因によるスキャンコイル52への影響を抑制するので、安定して電子ビームEBを偏向させることができる。
【0054】
延在部14の先端部14bは、アパーチャ体6のより近傍で電子ビームEBを偏向させるので、比較的小さい磁力でも電子ビームEBを大きく偏向させることができる。スキャンコイル52が延在部14を介して磁力を電子ビームEBへ伝達するので、X線発生装置1では、スキャンコイル52の磁力発生部52aをアパーチャ体6から離れた場所に設けることが可能となる。
【0055】
このように、X線発生装置1は、伝達部を延在部14のように小型化した場合でも、磁力発生部52aを十分な磁力が発生可能な大きさとすることができるので、電子ビームEBに対して十分な磁力を与えることができる。よって、X線発生装置1は、アパーチャ体6とターゲット部Tとが近接し、偏向空間が短い場合でも十分に偏向させることができる。
【0056】
図8に示されるように、X線発生装置1は、ターゲット保持部5bに貫通孔42を設け、ターゲット保持部5bの外側のスキャンコイル52(磁力発生部52a)に延在部14(伝達部)を接続し、貫通孔42を通して当該延在部14の先端部14bをアパーチャ体6付近(側方)に設けるようにしてもよい。
【0057】
この場合、X線発生装置1は、スキャンコイル52から発生させた磁力を延在部14の基端部14aへ伝達し、延在部14の先端部14bからアパーチャ体6のアパーチャ6a内の電子ビームEBへスキャンコイル52による磁力を伝達する。これにより、X線発生装置1は、アパーチャ体6とターゲット部Tとが近接した場合であっても、集束された電子ビームEBを、アパーチャ体6のアパーチャ6a内から偏向させることにより、通過後の電子ビームEBを広い範囲で走査させることが可能となる。
【0058】
延在部14の先端部14bは、アパーチャ体6の近傍で偏向させるので、比較的小さい磁力でも電子ビームEBを大きく偏向させることができる。スキャンコイル52が延在部14を介して磁力を電子ビームEBへ伝達するので、X線発生装置1では、スキャンコイル52の磁力発生部52aをアパーチャ体6から離れた場所に設けることが可能となる。そのため、伝達部を延在部14のように小型化しても、磁力発生部52aを十分な磁力が発生可能な大きさとすることができるので、X線発生装置1は、電子ビームEBに対して十分な磁力を与えることができる。
【0059】
特に本実施形態においては、磁力発生部52aがターゲット保持部5bの外側に配置されるため、より大きなコイルを磁力発生部52aとすることができ、X線発生装置1は、電子ビームEBをより大きく偏向させることができる。よって、X線発生装置1は、アパーチャ体6とターゲット部Tとが近接し、偏向空間が短い場合でも十分に偏向させることができる。
【0060】
上記実施形態においては、集束部としてのコイル部は1つのみであったが、複数のコイル部を備えていてもよい。アパーチャ体6に入射する電子ビームEBは電子通路11と同軸に限らず、予め偏向させておいてもよい。偏向部はコイルに限らず、磁石を用いたものでもよい。
【符号の説明】
【0061】
1…X線発生装置、3…電子銃部、21…基板、23…ターゲット体、25…保護層、EB…電子ビーム、T…ターゲット部、XR…X線。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8