特許第6100669号(P6100669)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6100669
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】洗浄液組成物
(51)【国際特許分類】
   C11D 7/50 20060101AFI20170313BHJP
   C11D 7/24 20060101ALI20170313BHJP
   C11D 7/26 20060101ALI20170313BHJP
   B08B 3/08 20060101ALI20170313BHJP
   C09D 9/00 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
   C11D7/50
   C11D7/24
   C11D7/26
   B08B3/08 Z
   C09D9/00
【請求項の数】1
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-214179(P2013-214179)
(22)【出願日】2013年10月11日
(65)【公開番号】特開2015-74777(P2015-74777A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2016年3月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXエネルギー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】大塚 博栄
(72)【発明者】
【氏名】青柳 功
(72)【発明者】
【氏名】吉田 瑞穂
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 幸一路
【審査官】 古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−038196(JP,A)
【文献】 特開平09−059677(JP,A)
【文献】 特開2003−027090(JP,A)
【文献】 特開2006−342247(JP,A)
【文献】 特開平04−182062(JP,A)
【文献】 特開2004−002691(JP,A)
【文献】 特開2013−117008(JP,A)
【文献】 特開2011−020066(JP,A)
【文献】 特開平03−143999(JP,A)
【文献】 特開平01−158444(JP,A)
【文献】 特表平11−502558(JP,A)
【文献】 特開2006−251785(JP,A)
【文献】 特開2006−251786(JP,A)
【文献】 米国特許第05006279(US,A)
【文献】 米国特許第05015410(US,A)
【文献】 特開2014−105253(JP,A)
【文献】 特開2010−221479(JP,A)
【文献】 特表2012−515826(JP,A)
【文献】 特開2008−308631(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/085681(WO,A1)
【文献】 特表平07−508790(JP,A)
【文献】 特開平01−299878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 7/50
B08B 3/08
C09D 9/00
C11D 7/24
C11D 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数9〜16の炭化水素(A)を50〜80質量%、
下記式(1)
−O−(R−O)−H (1)
(式(1)中、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは炭素数2〜5のアルキレン基であり、nは1または2である)で表されるエーテル化合物(B1)、下記式(2)
−O−(R−O)−CO−R (2)
(式(2)中、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは炭素数2〜5のアルキレン基であり、Rは炭素数1または2のアルキル基であり、nは1または2である)で表されるエステル化合物(B2)、または下記式(3)
CH−O−CO−R−CO−O−CH (3)
(式(3)中、Rは炭素数1〜5のアルキレン基である)で表されるエステル化合物(B3)を20〜50質量%含み、
前記炭化水素(A)として、炭素数9〜16の芳香族炭化水素(A1)を10〜40質量%含むとともに、本出願の出願時におけるPRTR法の第1種指定化学物質の含有量が1質量%未満であることを特徴とする接着剤、ピッチ、またはワックス洗浄用の洗浄液組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密機械部品、電気・電子部品、光学部品などの精密部品に付着したワックス、ピッチ、保護膜、接着剤などを洗浄するために用いられる洗浄液組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
精密機械部品、電気・電子部品、光学部品などの精密部品の製造においては、加工途中の部品の保護や固定のためにワックス、ピッチ、保護膜、接着剤などが用いられている。そのため、製造工程において、精密部品表面に付着したワックス、ピッチ、保護膜、接着剤などを除去する洗浄工程が必要となる。従来、このような洗浄には、フロン系溶剤、あるいはトリクロロエタン、トリクロロエチレン等の塩素系溶剤が洗浄剤として使用されていたが、フロン系溶剤およびトリクロロエタンは、オゾン層を破壊する物質として1995年末にその製造が禁止された。一方、トリクロロエチレン等の塩素系溶剤は、毒性が強く、水質汚染を防止するため、使用に際し法律により厳しい規制が課せられている。
【0003】
また、界面活性剤や無機アルカリを添加した水系洗浄剤、リン酸塩類等の水溶液系洗浄剤の利用も検討されているが、洗浄力が乏しく、かつ、排水処理設備に大きなスペースを必要とし、経済性の面から好ましくない。
【0004】
塩素系溶剤に代わる洗浄剤として、芳香族化合物にN-メチル-2-ピロリドン(以下、NMP)を含有させたもの(例えば、特許文献1または2参照)や、ジカルボン酸エステルを配合したもの(例えば、特許文献3または4参照)が提案されている。
【0005】
さらに、フラックス、ワックス用の洗浄液組成物として、脂肪族炭化水素に酢酸エステルや一価のアルコールを配合したものが提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1〜5に記載の洗浄剤は、種々のワックス、ピッチを良好に洗浄しうるものではなかった。
【0007】
また、特許文献1および2の洗浄剤に添加されるNMPは、人体への安全性に関して、生殖毒性、催奇形性を有する、などの理由で、2002年に日本産業衛生学会から作業環境許容濃度1ppmという極めて低い濃度が提案されている(非特許文献1参照)。このため、NMPの作業環境の制約が厳しいため、NMPを含まない洗浄剤の開発が希求されている。
【0008】
さらにまた、特許文献1〜4の洗浄剤において、芳香族化合物中に含まれるトリメチルベンゼンやメチルナフタレンは、特定学物質の環境への排出量の把握及び管理の改善の促進に関する法律(以下、PRTR法)の対象物質に指定されているため、これらを高濃度で含む洗浄液組成物を使用する場合、対象物質の排出量の届出が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−164291号公報
【特許文献2】特開2001−226700号公報
【特許文献3】特開2003−27097号公報
【特許文献4】特開2003−27090号公報
【特許文献5】特開2003−176498号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】産業衛生学雑誌、第44巻第4号、165−174頁、(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記問題を解決するもので、ワックス、ピッチ、保護膜、接着剤などが付着した精密部品を洗浄するための洗浄液組成物であって、PRTR法に該当せず、作業環境許容濃度による取り扱い上の制約が無く、かつ、十分な洗浄性を有し、酸化安定性が高く、加えて、精密部品を構成する洗浄対象材料自体に悪影響を与えない洗浄液組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、特定の構造を有するエーテル化合物、またはエステル化合物から選択される少なくとも1種の化合物と、炭素数9〜16の芳香族炭化水素を特定の割合で含有する洗浄液が、PRTR法に該当せず、作業環境許容濃度による取り扱い上の制約が無く、かつ、十分な洗浄性を有し、酸化安定性が高く、加えて、精密部品を構成する材料自体を劣化させない洗浄液組成物であることを見出し、本発明に想到した。
【0013】
すなわち、本発明の洗浄液組成物は、接着剤、ピッチ、またはワックス洗浄用の洗浄液組成物であって、炭素数9〜16の炭化水素(A)を50〜80質量%、
下記式(1)
−O−(R−O)−H (1)
(式(1)中、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは炭素数2〜5のアルキレン基であり、nは1または2である)で表されるエーテル化合物(B1)、下記式(2)
−O−(R−O)−CO−R (2)
(式(2)中、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは炭素数2〜5のアルキレン基であり、Rは炭素数1または2のアルキル基であり、nは1または2である)で表されるエステル化合物(B2)、または下記式(3)
CH−O−CO−R−CO−O−CH (3)
(式(3)中、Rは炭素数1〜5のアルキレン基である)で表されるエステル化合物(B3)を20〜50質量%含み、前記炭化水素(A)として、炭素数9〜16の芳香族化合物(A1)を10〜40質量%含むとともに、PRTR法の第1種指定化学物質の含有量が1質量%未満であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の洗浄液組成物によれば、特定のエーテル化合物またはエステル化合物と芳香族炭化水素を特定の割合で含有させたことから、取り扱い上の規制も少なく、かつ、ワックス、ピッチ、保護膜、接着剤などが付着した精密部品の洗浄において、十分な洗浄性を有し、炭化水素系溶剤でリンスを行った場合でも良好なリンス効果が得られ、酸化安定性が高く、加えて、精密部品を構成する材料自体に対して悪影響のない洗浄が可能となる。したがって、本発明の洗浄液組成物は、精密機械部品、電気・電子部品、光学部品などの精密部品の洗浄に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の洗浄液組成物は、接着剤、ピッチ、またはワックス洗浄用の洗浄液組成物であって、炭素数9〜16の炭化水素(A)を50〜80質量%、
下記式(1)
−O−(R−O)−H (1)
(式(1)中、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは炭素数2〜5のアルキレン基であり、nは1または2である)で表されるエーテル化合物(B1)、下記式(2)
−O−(R−O)−CO−R (2)
(式(2)中、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは炭素数2〜5のアルキレン基であり、Rは炭素数1または2のアルキル基であり、nは1または2である)で表されるエステル化合物(B2)、または下記式(3)
CH−O−CO−R−CO−O−CH (3)
(式(3)中、Rは炭素数1〜5のアルキレン基である)で表されるエステル化合物(B3)を20〜50質量%含み、前記炭化水素(A)として、炭素数9〜16の芳香族化合物(A1)を10〜40質量%含むとともに、PRTR法の第1種指定化学物質の含有量が1質量%未満であることを特徴とする。
【0016】
以下、本発明の洗浄液組成物に配合される成分について説明する。
本発明の洗浄液組成物において使用する、下記式(1)
−O−(R−O)−H (1)
で表されるエーテル化合物(B1)において、Rは炭素数1〜4のアルキル基、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、iso−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチルであり、Rは炭素数2〜5のアルキレン基、例えば、エチレン基、n−プロピレン基、iso−プロピレン基、n−ブチレン基、iso−ブチレン基、tert−ブチレン基、n−ペンチレン基、iso−ペンチレン基、tert−ペンチレン基であり、nは1または2である。
【0017】
式(1)に示すエーテル化合物(B1)としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ブチレングリコールモノメチルエーテル、ブチレングリコールモノエチルエーテル、ブチレングリコールモノプロピルエーテル、ブチレングリコールモノブチルエーテル、ペンチレングリコールモノメチルエーテル、ペンチレングリコールモノエチルエーテル、ペンチレングリコールモノプロピルエーテル、ペンチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジブチレングリコールモノメチルエーテル、ジブチレングリコールモノエチルエーテル、ジブチレングリコールモノプロピルエーテル、ジブチレングリコールモノブチルエーテル、ジペンチレングリコールモノメチルエーテル、ジペンチレングリコールモノエチルエーテル、ジペンチレングリコールモノプロピルエーテル、ジペンチレングリコールモノブチルエーテルが挙げられる。中でも、入手の容易性、引火点の高さからペンチレングリコールモノメチルエーテルの一種である3−メチル−3−メトキシブチルアルコールと、ジエチレングリコールモノブチルエーテルが好ましく用いられる。
【0018】
本発明の洗浄液組成物において使用する、下記式(2)
−O−(R−O)−CO−R (2)
で表されるエステル化合物(B2)において、Rは炭素数1〜4のアルキル基、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、iso−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチルであり、Rは炭素数2〜5のアルキレン基、例えば、エチレン基、n−プロピレン基、iso−プロピレン基、n−ブチレン基、iso−ブチレン基、tert−ブチレン基、n−ペンチレン基、iso−ペンチレン基、tert−ペンチレン基であり、Rは炭素数1または2のアルキル基、例えば、メチル、エチルであり、nは1または2である。
【0019】
式(2)に示すエステル化合物(B2)としては、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ペンチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ペンチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ペンチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ペンチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、エチレングリコールモノエチルエーテルプロピオネート、エチレングリコールモノプロピルエーテルプロピオネート、エチレングリコールモノブチルエーテルプロピオネート、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、プロピレングリコールモノエチルエーテルプロピオネート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルプロピオネート、プロピレングリコールモノブチルエーテルプロピオネート、ブチレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、ブチレングリコールモノエチルエーテルプロピオネート、ブチレングリコールモノプロピルエーテルプロピオネート、ブチレングリコールモノブチルエーテルプロピオネート、ペンチレングリコールモノエチルエーテルプロピオネート、ペンチレングリコールモノプロピルエーテルプロピオネート、ペンチレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、ペンチレングリコールモノブチルエーテルプロピオネート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルプロピオネートが好適である。入手の容易性、引火点の高さからペンチレングリコールモノメチルエーテルアセテートの一種である3−メチル−3−メトキシブチルアセテートとプロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネートの一種である1−メトキシ−2−プロピルプロピオネートが好ましく用いられる。
【0020】
上述の式(3)に示すエステル化合物(B3)としては、マロン酸ジメチル、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、ピメリン酸ジメチルが挙げられる。これらを単独で用いても、必要に応じて2種以上を混合して用いても差し支えない。
【0021】
本発明にかかる洗浄液組成物は、炭素数9〜16の炭化水素(A)を50〜80質量%、好ましくは、50〜75質量%含む。炭素数9〜16の炭化水素(A)としては、炭素数9〜16の芳香族炭化水素(A1)、炭素数9〜16の脂肪族炭化水素、環式脂肪族炭化水素(A2)が例示される。炭素数9〜16の炭化水素(A)を50〜80質量%含有することにより、洗浄力が向上する。
【0022】
本発明にかかる硬化性樹脂用洗浄液組成物は、炭素数9〜16の芳香族炭化水素(A1)を10〜40質量%、好ましくは、15〜35質量%含む。炭素数9〜16の芳香族炭化水素(A1)の含有量が40質量%を超えると洗浄力が低下するために好ましくなく、また、含有量が10質量%未満では洗浄力が低下するため好ましくない。
【0023】
本発明の洗浄液組成物において、炭素数9〜16の芳香族炭化水素化合物(A1)は、単環または多環芳香族炭化水素化合物であり、炭素数9〜16であれば、単環または多環芳香族炭化水素化合物のアルキル置換化合物などを含みうる。芳香族炭化水素化合物(A1)は、例えば、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,3−トリメチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、iso−プロピルベンゼン、1−メチル−2−エチルベンゼン、1−メチル−3−エチルベンゼン、1−メチル−4−エチルベンゼン、n−ブチルベンゼン、iso−ブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、1,3−ジエチルベンゼン、1−メチル−3−n−プロピルベンゼン、1,4−ジエチルベンゼン、1,3−ジエチル−5−エチルベンゼン、1,2−ジエチルベンゼン、1−メチル−2−n−プロピルベンゼン、1,4−ジメチル−2−エチルベンゼン、1,3−ジメチル−2−エチルベンゼン、1,2−ジメチル−4−エチルベンゼン、1,2−ジメチル−3−エチルベンゼン、1,2,4,5−テトラメチルベンゼン、1,2,3,5−テトラメチルベンゼン、メチルインダン、エチルインダン、テトラリン、ナフタレン、メチルナフタレン、エチルナフタレン、プロピルナフタレン、ジメチルナフタレン、ジエチルナフタレン、ジメチルイソプロピルナフタレン、エチルプロピルナフタレン、ジプロピルナフタレン、ジフェニルメタン、フェニルキシリルエタン、フェニルエチルフェニルエタンなどを挙げることができる。上記の化合物を単独で用いても必要に応じて2種以上を混合して用いても差し支えない。また、芳香族炭化水素化合物(A1)を含有する石油留分などを用いることもできる。
【0024】
本発明の洗浄液組成物において、芳香族炭化水素化合物(A1)の炭素数が8以下では、引火の危険性が増大するため好ましくない。また、炭素数が17以上では粘度が高くなり洗浄力が低下するために好ましくない。
【0025】
本発明の洗浄液組成物において、PRTR法に該当する第1種指定化学物質の配合量は1質量%未満であることが好ましい。芳香族炭化水素化合物(A1)として石油留分を使用する場合、PRTR法の第1種指定化学物質である、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン、ナフタレン、メチルナフタレン、ビフェニル、アントラセン等を含む場合があるが、係る場合でも、硬化性樹脂用洗浄液組成物中の第1種指定化学物質の配合量が1質量%未満となるような、石油留分を使用することが好ましい。
【0026】
本発明の洗浄液組成物において、炭素数9〜16の炭化水素(A)は、上記の芳香族炭化水素(A1)に加えて、脂肪族炭化水素、または環式脂肪族炭化水素(A2)を含むことが好ましい。脂肪族炭化水素の具体例としては、直鎖および分岐鎖のノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカンなどが挙げられる。環式脂肪族炭化水素の具体例としては、1,2,4−トリメチルシクロヘキサン、メチルデカリン、ビシクロヘキシルなどが挙げられる。炭素数9〜16の炭化水素(A)中の、芳香族炭化水素(A1)と脂肪族炭化水素、または環式脂肪族炭化水素(A2)との配合比は、3:2〜1:3とすることが好ましい。
【0027】
本発明の洗浄液組成物は、式(1)に示すエーテル化合物(B1)、式(2)に示すエステル化合物(B2)、または、式(3)に示すエステル化合物(B3)を20〜50質量%、好ましくは、25〜50質量%含有する。式(1)に示すエーテル化合物(B1)、式(2)に示すエステル化合物(B2)、または、式(3)に示すエステル化合物(B3)の合計の含有量が20質量%未満では、洗浄力が低下するために好ましくなく、また、含有量が50質量%を超えても洗浄力が低下するために好ましくない。
【0028】
本発明の洗浄液組成物には、本発明の目的を損なわない範囲、望ましくは20質量%以下で、他の炭化水素類、エステル類、アルコール類、ケトン類等の配合成分や、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防錆剤等の慣用の添加剤を含めることができる。
界面活性剤としては非イオン性界面活性剤が好ましく、例えば高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、ソルビトール及びソルビタンの脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、シリコン系、フッ素系等いずれのものも使用できる。
【0029】
また、紫外線吸収剤及び酸化防止剤としては、本発明の洗浄液組成物に溶解するものであれば公知のものが使用でき、洗浄液の長期保存等における安定性の向上に役立つ。紫外線吸収剤としては例えばベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等の紫外線吸収剤が挙げられる。
さらに、酸化防止剤としては例えばフェノール系、アミン系、硫黄系、リン系等の酸化防止剤が挙げられ、フェノール系酸化防止剤を100〜1000ppm添加することが特に好ましい。
【0030】
本発明の洗浄液組成物の使用方法は、特に制限はなく、精密機械部品、電気・電子部品、光学部品などの精密部品と接触、洗浄させる方法であれば、公知のどのような方法でも使用できる。例えば、洗浄液組成物を含浸したスポンジ等による拭き取り洗浄、洗浄液組成物中にひたす浸漬洗浄、スプレー等による噴射洗浄などが挙げられ、これらを適宜組み合わせて洗浄してもよい。例えば、洗浄対象物を洗浄液組成物中にひたし、そこにスプレーで洗浄液を噴射しながらブラシ等で汚れを拭き取ることも効果的である。特に、浸漬による洗浄においては、洗浄効果を高めるために、同時に攪拌、揺動、超音波照射、噴流又はエアバブリング等を組み合わせることが多い。超音波の場合、この照射条件は、例えば発振周波数20〜100kHz、発振出力0.1〜200W/Lが好ましい。超音波照射により洗浄液組成物に溶解する汚れの洗浄力が向上するとともに、洗浄液組成物に不溶性の汚れを分離して気泡と共に上昇させ、除去することもできる。洗浄液組成物のスプレーによる洗浄をする場合、その圧力は、例えば0.5〜10kg/cmGが好ましい。
【0031】
いずれの洗浄方法においても、洗浄時間は、好ましくは15秒間〜2時間、特に好ましくは30秒間〜20分間である。上記範囲未満では洗浄が不十分で、付着した汚れを十分に除去し得ず、一方、上記範囲を超えても洗浄効果は格別向上しない。また、洗浄温度は、好ましくは20〜120℃である。洗浄温度が上記範囲未満では、洗浄が不十分となり易いため、より高温で処理することにより洗浄効果を著しく上昇させることができるが、引火等の危険性を考慮し上記範囲内で洗浄することが好ましい。
【0032】
本発明の洗浄液組成物は、精密部品に付着したワックス、ピッチ、保護膜、接着剤などを洗浄するために好適に用いることができる。このような精密部品としては、精密機械部品、電気・電子部品、光学部品などが挙げられる。洗浄対象物としてより具体的には、精密機械部品として、工作機械、ロボット、時計、VTR、ハードディスクレコーダーなどに用いられる精密ベアリングなどの部品が挙げられる。電気・電子部品としては、プリント配線基板、セラミック配線基板などの配線基板、リードフレームなどの半導体パッケージ部品、リレー、コネクターなどの接点部材、液晶、プラズマディスプレイなどの表示部品、ハードディスク記憶媒体、磁気ヘッドなどの磁気記憶部品、水晶振動子などの圧電部品、モータ、ソレノイドなどの電動機部品、センサー部品などが挙げられる。光学部品としては、めがね、カメラ用などのレンズ、その筐体などが挙げられる。
【0033】
洗浄対象となる汚染物を具体的に例示すると、ピッチとしては、ストレートアスファルト系ピッチ、ブローンアスファルト系ピッチ、ウッド系ピッチ等の研磨用あるいは貼付用ピッチが挙げられる。また、ワックスは金属、ガラス等の仮止め接着剤として使用されている天然樹脂、天然ワックス、石油系ワックス等が挙げられる。保護膜としては、フェノール樹脂、アクリル、ポリエステル、アスファルトピッチ等を構成成分として持つもの、接着剤としてはUV硬化型接着剤、シアノアクリレート系瞬間接着剤などが挙げられる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0035】
実施例1〜6、および、比較例1〜16の洗浄液の組成を表1〜表3に示す。表1〜表3に示す各洗浄液組成物のワックス洗浄性、ピッチ洗浄性、酸化安定性、洗浄対象材料への悪影響、PRTR法の該否について表1に併せて示した。
【0036】
実施例1〜6、および、比較例1〜16において使用した成分は以下のとおりである。
<成分>
炭素数9〜16の芳香族炭化水素(A1)
A1−1:炭素数9〜11のアルキルベンゼンが主成分(PRTR法の指定化学物質で1質量%以上含有されるものは、6質量%の1,2,4−トリメチルベンゼンのみである)
A1−2:ジメチルナフタレン及び炭素数12〜13のアルキルナフタレンが主成分(PRTR法の指定化学物質で1質量%以上含有されるものは、3質量%のメチルナフタレンのみである)
A1−3:炭素数11〜13のアルキルベンゼン、メチルナフタレン及びジメチルナフタレンが主成分(PRTR法の指定化学物質で1質量%以上含有されるものは、58質量%のメチルナフタレンのみである)
A1−4:フェニルキシリルエタン、フェニルエチルフェフェルエタン混合物(PRTR法の指定化学物質で1質量%以上含有されるものはない)
炭素数9〜16の炭化水素(A1以外)
A2−1:ノルマルデカン
A2−2:ノルマルドデカン
式(1)で示すエーテル化合物(B1)
B1−1:3−メチル−3−メトキシブチルアルコール
B1−2:ジエチレングリコールモノブチルエーテル
式(2)で示すエステル化合物(B2)
B2−1:3−メチル−3−メトキシブチル酢酸エステル
B2−2:1−メトキシ−2−プロピルプロピオン酸エステル
式(3)で示すエステル化合物(B3)
B3−1:コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチルの混合物(コハク酸ジメチルとグルタル酸ジメチルとアジピン酸ジメチルの配合比は、1:4:1)
その他の化合物
C1:N−メチルピロリドン
【0037】
(ワックス洗浄性の評価1)
ワックス(プルーフワックス(日化精工製))50mgをスライドガラス(76×26×1mm)上に置き、80℃に加熱し、1分間放置して溶融させ、その後室温まで放冷したものを洗浄対象物として用いた。この洗浄対象物を洗浄液が充填された洗浄槽に浸漬して液温25℃で超音波照射下に3分間洗浄を行った(超音波発生器:本田電子製W−110、発振周波数28kHz、発振出力29.6W/L)。洗浄槽から取りだしたスライドガラスを、新しい洗浄液が充填されたリンス槽に浸漬して、液温25℃で超音波照射下、1分間リンスを行った。その後、スライドガラスをリンス槽から取り出し、10分間立てて静置後、乾燥機で90℃の温風を0.5時間当てて、スライドガラスに残っているリンス用洗浄液を蒸散除去し乾燥した。肉眼によりワックスの痕跡が全く認められないものを○、明らかに痕跡のあるものを×と評価した。
【0038】
(ワックス洗浄性の評価2)
ワックス(イエローワックスNo.A(九重電気製))50mgをスライドガラス(76×26×1mm)上に置き、80℃に加熱し、1分間放置して溶融させ、その後室温まで放冷したものを洗浄対象物として用いた。この洗浄対象物を洗浄液が充填された洗浄槽に浸漬して液温25℃で超音波照射下に3分間洗浄を行った(超音波発生器:本田電子製W−110、発振周波数28kHz、発振出力29.6W/L)。洗浄槽から取りだしたスライドガラスを、新しい洗浄液が充填されたリンス槽に浸漬して、液温25℃で超音波照射下、1分間リンスを行った。その後、スライドガラスをリンス槽から取り出し、10分間立てて静置後、乾燥機で90℃の温風を0.5時間当てて、スライドガラスに残っているリンス用洗浄液を蒸散除去し乾燥した。肉眼によりワックスの痕跡が全く認められないものを○、明らかに痕跡のあるものを×と評価した。
【0039】
(ピッチ洗浄性の評価)
研磨用ピッチ(ココノエ研磨用ピッチK級(九重電気製))50mgをスライドガラス(76×26×1mm)上に置き、80℃に加熱し、1分間放置して溶融させ、その後室温まで放冷したものを洗浄対象物として用いた。この洗浄対象物を洗浄液が充填された洗浄槽に浸漬して液温25℃で超音波照射下に3分間洗浄を行った。洗浄槽から取りだしたスライドガラスを、新しい洗浄液が充填されたリンス槽に浸漬して、液温25℃で超音波照射下、1分間リンスを行った。その後、10分間立てて静置後、乾燥機で90℃の温風を0.5時間当てて、スライドガラスに残っているリンス用洗浄液を蒸散除去し乾燥した。肉眼によりピッチの痕跡が全く認められないものを○、明らかに痕跡のあるものを×と評価した。
【0040】
(酸化安定性評価)
JIS K2287ガソリン−酸化安定度試験方法(誘導期間法)に準じ、700kPaの酸素加圧下、温度100℃にて、酸素圧の低下を観測した。酸素圧の降下速度が55.2kPa/hに到達するまでの時間を誘導期間とし、その時間を測定した。この値が短いほど、酸素が洗浄液に与える影響が大きいことを示しており、誘導期間が960分以上であるものを○、960分未満であるものを×評価とした。
【0041】
(洗浄対象材料への悪影響)
表面を鏡面磨きした銅板(50×10×2mm)を、洗浄液が充填された洗浄槽に浸漬して液温25℃で30分間、超音波照射を行った。その後、10分間立てて静置後、乾燥機で90℃の温風を0.5時間当てて、銅板に残っている洗浄液を蒸散除去し乾燥した。肉眼により表面に、錆、洗傷、洗浄シミなどによる変色やくもりが全く認められないものを○、変色やくもりのあるものを×と評価した。
【0042】
(作業環境許容濃度)
毎日繰り返しある物質に暴露したときほとんどの労働者に悪影響がみられないと思われる大気中の濃度を作業環境許容濃度(あるいは暴露限界閾値)といい、低濃度で悪影響を及ぼす特定の物質とその作業環境許容濃度を日本産業衛生学会で勧告している。各洗浄液組成物に含まれる成分中に日本産業衛生学会で勧告している物質があれば、その物質とその作業環境許容濃度を表1〜表3に示した。
【0043】
(PRTR法の該否)
PRTR法の指定化学物質を1質量%以上含む場合は国への届出が必要になる。PRTR法の指定化学物質が1質量%未満の場合を〇、PRTR法の指定化学物質が1質量%以上の場合を×として、表1〜表3に示した。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
表1〜表3に示す評価結果から、炭素数9〜16の炭化水素(A)と、式(1)で示すエーテル化合物(B1)、式(2)で示すエステル化合物(B2)、または式(3)で示すエステル化合物(B3)とを所定の割合で含む、実施例1〜6の洗浄液組成物は、取り扱い上の規制が少なく、かつ、ワックス、ピッチが付着した精密部品の洗浄において、十分な洗浄性を有し、酸化安定性が高く、加えて、精密部品を構成する材料自体に対して悪影響のない洗浄剤組成物であることが確認された。