特許第6100692号(P6100692)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6100692
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】睡眠の質改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/353 20060101AFI20170313BHJP
   A61K 36/63 20060101ALI20170313BHJP
   A61K 36/15 20060101ALI20170313BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
   A61K31/353
   A61K36/63
   A61K36/15
   A61P25/20
【請求項の数】12
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-537583(P2013-537583)
(86)(22)【出願日】2012年10月9日
(86)【国際出願番号】JP2012076088
(87)【国際公開番号】WO2013051727
(87)【国際公開日】20130411
【審査請求日】2015年6月5日
(31)【優先権主張番号】特願2011-222255(P2011-222255)
(32)【優先日】2011年10月6日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-222256(P2011-222256)
(32)【優先日】2011年10月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】裏出 良博
(72)【発明者】
【氏名】五木田 智夫
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 育子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 究
(72)【発明者】
【氏名】村越 倫明
【審査官】 石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−266319(JP,A)
【文献】 特表2011−503009(JP,A)
【文献】 特開2010−064992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/353
A61K 36/00 −36/9068
A61P 25/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セイヨウトネリコ、セイヨウトネリコエキスおよびシベリアカラマツエキスからなる群より選ばれる1または2以上を有効成分とする睡眠の質改善剤。
【請求項2】
セイヨウトネリコエキスが、セイヨウトネリコの種子の抽出エキスである請求項1に記載の睡眠の質改善剤。
【請求項3】
シベリアカラマツエキスを有効成分とする請求項1または2に記載の睡眠の質改善剤。
【請求項4】
入眠潜時を短縮する請求項1〜3のいずれか一項に記載の睡眠の質改善剤。
【請求項5】
睡眠初期のノンレム睡眠を深くする請求項1〜4のいずれか一項に記載の睡眠の質改善剤。
【請求項6】
睡眠時間全体に占めるノンレム睡眠時間の割合を増加する請求項1〜5のいずれか一項に記載の睡眠の質改善剤。
【請求項7】
起床時の眠気のなさを改善する請求項1〜6のいずれか一項に記載の睡眠の質改善剤。
【請求項8】
寝つきと熟眠感を改善する請求項1〜7のいずれか一項に記載の睡眠の質改善剤。
【請求項9】
夢見を改善する請求項1〜8のいずれか一項に記載の睡眠の質改善剤。
【請求項10】
疲労感を改善する請求項1〜9のいずれか一項に記載の睡眠の質改善剤。
【請求項11】
睡眠時間の満足感を改善する請求項1〜10のいずれか一項に記載の睡眠の質改善剤。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の睡眠の質改善剤を含有する睡眠の質改善組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、睡眠の質改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
睡眠は、大脳の活動がほとんど停止しているノンレム睡眠と全身は脱力状態にあるが脳の一部は活発に活動し夢を見ているレム睡眠の2種に大別される。この2種の眠りが一定の間隔で繰り返され、眠りが形成される(図1)。良質な睡眠には、就寝からノンレム睡眠出現までの時間(入眠潜時)が短く、十分なノンレム睡眠時間と深いノンレム睡眠、特に睡眠初期の十分に深いノンレム睡眠の確保が必要である。
【0003】
しかしながら、近年、24時間社会化が進むにつれ、日本人の平均睡眠時間は大きく減少し、それと共に、睡眠への不満を訴える患者数が増加している。平成8年の健康づくりに関する意識調査によれば、21.4%の人が何らかの睡眠への不満を訴えていることが報告されている。また、高齢者では低年齢者と比較してノンレム睡眠時間が大きく減少しており、加齢により睡眠の質が低下していることが報告されている。
【0004】
睡眠に対する不満として、例えば、寝つきが悪い、悪夢を見る、朝起きたとき眠気がする、ぐっすり眠った感じがしない、朝起きても疲労が残っている、昼間に眠気を感じる、等が挙げられる。これらにより仕事の効率が低下したり、思わぬ事故につながったりする。これらの原因として、睡眠時間が短いことだけではなく、良質の睡眠が得られていないことが挙げられる。すなわち、就寝からノンレム睡眠出現までの時間(入眠潜時)が長かったり、ノンレム睡眠の時間が短かったり、深いノンレム睡眠が得られていないためである。これらに対し医薬品の睡眠薬の利用が考えられる。しかし、睡眠薬を利用する際には医師の診断が必要である。睡眠薬には目覚めの悪さ、記憶障害、依存性などの副作用がある。このように睡眠薬は、手軽に安全に利用することが困難な場合が多い。また、医薬品の睡眠薬の中には、ベンゾジアゼピン系睡眠薬、バルビルツール酸系睡眠薬のように、ノンレム睡眠を減少させる医薬品もあり、正しく使用しなければかえって睡眠の質が低下することもある。
【0005】
医薬品以外では、天然成分や飲食品からの睡眠改善剤の研究開発が盛んに行われており、種々の睡眠改善剤が提案されている。このような睡眠改善剤の有効成分としては、例えば、ナス科ウィザニア属植物由来成分(特許文献1)、アキノワスレグサの発酵処理物(特許文献2)、茶葉由来のテアミン(特許文献3)、高麗人参エキス(非特許文献1)などが提案されている。しかしながら、入眠潜時やノンレム睡眠の時間と深さに対するこれらの成分の効果は明らかではなく、睡眠の質を改善する作用は十分ではない。
【0006】
トネリコ属植物(fraxinus)は、北半球に分布するモクセイ科の双子葉植物である。トネリコ属植物のうち、セイヨウトネリコの種子の抽出エキスに含まれるセコイリドイド類は、血圧降下作用、体重減少作用、体脂肪減少作用、インスリン分泌の調整作用などの生理作用を有し、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、高インスリン血症の治療に効果があることが報告されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−28051号公報
【特許文献2】特開2006−62998号公報
【特許文献3】国際公開第2005/097101号
【特許文献4】特表2011−503009号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Young Ho Rhee,et al.,Psychopharmacology,101,p.486−488(1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながらトネリコ属植物またはその抽出エキスが、睡眠の質改善に効果があることは知られていなかった。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、睡眠の質改善効果を十分に発揮することができ、かつ身体への安全性が保証されている睡眠の質改善剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記目的を達成すべく検討を重ねた。その結果、トネリコ属植物およびその抽出エキスに睡眠の質改善効果を見出した。シベリアカラマツエキス、およびその成分であるジヒドロケルセチン、ジヒドロケンフェロールおよびナリンゲニンに睡眠の質改善効果を見出した。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0012】
〔1〕トネリコ属植物、トネリコ属植物の抽出エキス、シベリアカラマツエキス、ジヒドロケルセチン、ジヒドロケンフェロールおよびナリンゲニンからなる群より選ばれる1または2以上を有効成分とする睡眠の質改善剤。
〔2〕トネリコ属植物またはその抽出エキスを有効成分とする前記〔1〕に記載の睡眠の質改善剤。
〔3〕トネリコ属植物がセイヨウトネリコである前記〔1〕または〔2〕に記載の睡眠の質改善剤。
〔4〕トネリコ属植物の抽出エキスがセイヨウトネリコエキスである前記〔1〕または〔2〕に記載の睡眠の質改善剤。
〔5〕セイヨウトネリコエキスが、セイヨウトネリコの種子の抽出エキスである前記〔4〕に記載の睡眠の質改善剤。
〔6〕シベリアカラマツエキスを有効成分とする前記〔1〕に記載の睡眠の質改善剤。
〔7〕ジヒドロケルセチン、ジヒドロケンフェロールおよびナリンゲニンからなる群より選ばれる1または2以上の化合物を有効成分とする前記〔1〕に記載の睡眠の質改善剤。
〔8〕入眠潜時を短縮する前記〔1〕〜〔7〕のいずれか一項に記載の睡眠の質改善剤。
〔9〕睡眠初期のノンレム睡眠を深くする前記〔1〕〜〔8〕のいずれか一項に記載の睡眠の質改善剤。
〔10〕睡眠時間全体に占めるノンレム睡眠時間の割合を増加する前記〔1〕〜〔9〕のいずれか一項に記載の睡眠の質改善剤。
〔11〕起床時の眠気のなさを改善する前記〔1〕〜〔10〕のいずれか一項に記載の睡眠の質改善剤。
〔12〕寝つきと熟眠感を改善する前記〔1〕〜〔11〕のいずれか一項に記載の睡眠の質改善剤。
〔13〕夢見を改善する前記〔1〕〜〔12〕のいずれか一項に記載の睡眠の質改善剤。
〔14〕疲労感を改善する前記〔1〕〜〔13〕のいずれか一項に記載の睡眠の質改善剤。
〔15〕睡眠時間の満足感を改善する前記〔1〕〜〔14〕のいずれか一項に記載の睡眠の質改善剤。
〔16〕前記〔1〕〜〔15〕のいずれか一項に記載の睡眠の質改善剤を含有する睡眠の質改善組成物。
〔17〕トネリコ属植物またはその抽出エキスを睡眠の質改善のために使用する方法。
〔18〕シベリアカラマツエキスを睡眠の質改善のために使用する方法。
〔19〕ジヒドロケルセチン、ジヒドロケンフェロールおよびナリンゲニンからなる群より選ばれる1または2以上の化合物を睡眠の質改善のために使用する方法。
【0013】
本発明の好ましい実施態様は、以下の通りである。
〔1−1〕トネリコ属植物またはその抽出エキスを有効成分とする睡眠の質改善剤。
〔1−2〕トネリコ属植物がセイヨウトネリコである上記〔1−1〕に記載の睡眠の質改善剤。
〔1−3〕トネリコ属植物の抽出エキスがセイヨウトネリコエキスである上記〔1−1〕に記載の睡眠の質改善剤。
〔1−4〕入眠潜時を短縮する上記〔1−1〕〜〔1−3〕のいずれか一項に記載の睡眠の質改善剤。
〔1−5〕睡眠初期のノンレム睡眠を深くする上記〔1−1〕〜〔1−4〕のいずれか一項に記載の睡眠の質改善剤。
〔1−6〕睡眠時間全体に占めるノンレム睡眠時間の割合を増加する上記〔1−1〕〜〔1−5〕のいずれか一項に記載の睡眠の質改善剤。
〔1−7〕起床時の眠気のなさを改善する上記〔1−1〕〜〔1−6〕のいずれか一項に記載の睡眠の質改善剤。
〔1−8〕寝つきと熟眠感を改善する上記〔1−1〕〜〔1−7〕のいずれか一項に記載の睡眠の質改善剤。
〔1−9〕夢見を改善する上記〔1−1〕〜〔1−8〕のいずれか一項に記載の睡眠の質改善剤。
〔1−10〕疲労感を改善する上記〔1−1〕〜〔1−9〕のいずれか一項に記載の睡眠の質改善剤。
〔1−11〕睡眠時間の満足感を改善する上記〔1−1〕〜〔1−10〕のいずれか一項に記載の睡眠の質改善剤。
〔1−12〕セイヨウトネリコエキスが、セイヨウトネリコの種子の抽出エキスである上記〔1−1〕〜〔1−11〕のいずれか一項に記載の睡眠の質改善剤。
〔1−13〕上記〔1−1〕〜〔1−12〕のいずれか一項に記載の睡眠の質改善剤を含有する睡眠の質改善組成物。
〔1−14〕トネリコ属植物またはその抽出エキスを睡眠の質改善のために使用する方法。
【0014】
本発明の他の好ましい実施態様は以下の通りである。
〔2−1〕シベリアカラマツエキスを有効成分とする睡眠の質改善剤。
〔2−2〕ジヒドロケルセチン、ジヒドロケンフェロールおよびナリンゲニンからなる群より選ばれる1または2以上の化合物を有効成分とする睡眠の質改善剤。
〔2−3〕起床時の眠気のなさを改善する上記〔2−1〕または〔2−2〕に記載の睡眠の質改善剤。
〔2−4〕寝つきと熟眠感を改善する上記〔2−1〕〜〔2−3〕のいずれか一項に記載の睡眠の質改善剤。
〔2−5〕夢見を改善する上記〔2−1〕〜〔2−4〕のいずれか一項に記載の睡眠の質改善剤。
〔2−6〕疲労感を改善する上記〔2−1〕〜〔2−5〕のいずれか一項に記載の睡眠の質改善剤。
〔2−7〕睡眠時間の満足感を改善する上記〔2−1〕〜〔2−6〕のいずれか一項に記載の睡眠の質改善剤。
〔2−8〕上記〔2−1〕〜〔2−7〕のいずれか一項に記載の睡眠の質改善剤を含有する睡眠の質改善組成物。
〔2−9〕シベリアカラマツエキスを睡眠の質改善のために使用する方法。
〔2−10〕ジヒドロケルセチン、ジヒドロケンフェロールおよびナリンゲニンからなる群より選ばれる1または2以上の化合物を睡眠の質改善のために使用する方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、睡眠の質改善効果を十分に発揮し得る、食品、医薬品、医薬部外品として有用な、睡眠の質改善剤が提供される。本発明の睡眠の質改善剤は、トネリコ属植物、トネリコ属植物の抽出エキス、シベリアカラマツエキス、シベリアカラマツエキスの成分である、ジヒドロケルセチン、ジヒドロケンフェロールおよびナリンゲニンからなる群より選ばれる1または2以上の化合物を有効成分とするので、身体への安全性も保障されている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、一般的な睡眠のパターンを示す図である。
図2図2は、実施例1−1および比較例1−1における、サンプル投与後8.5時間のマウスの累積行動量を示す図である。
図3図3は、実施例1−2および比較例1−2の、それぞれの睡眠ステージの割合(覚醒およびノンレム睡眠)を示す図である。
図4図4は、比較例1−3に対する実施例1−3の、入眠潜時の変化率を示す図である。
図5図5は、比較例1−3に対する実施例1−3の、睡眠初期のデルタ波パワー値の変化率を示す図である。
図6図6は、比較例1−3に対する実施例1−3の、因子Iの点数の変化率を示す図である。
図7図7は、比較例1−3に対する実施例1−3の、因子IIの点数の変化率を示す図である。
図8図8は、比較例1−3に対する実施例1−3の、因子IIIの点数の変化率を示す図である。
図9図9は、比較例1−3に対する実施例1−3の、因子IVの点数の変化率を示す図である。
図10図10は、比較例1−3に対する実施例1−3の、因子Vの点数の変化率を示す図である。
図11図11は、比較例1−3に対する実施例1−3の、疲労感の点数の変化率を示す図である。
図12図12は、実施例2−1および比較例2−1における、サンプル投与後6時間のマウスの累積行動量を示す図である。
図13図13は、実施例2−2および比較例2−2における、サンプル投与後6時間のマウスの累積行動量を示す図である。
図14図14は、比較例2−3に対する実施例2−3の、因子Iの点数の変化率を示す図である。
図15図15は、比較例2−3に対する実施例2−3の、因子IIの点数の変化率を示す図である。
図16図16は、比較例2−3に対する実施例2−3の、因子IIIの点数の変化率を示す図である。
図17図17は、比較例2−3に対する実施例2−3の、因子IVの点数の変化率を示す図である。
図18図18は、比較例2−3に対する実施例2−3の、因子Vの点数の変化率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の睡眠の質改善剤は、トネリコ属植物、トネリコ属植物の抽出エキス、シベリアカラマツエキス、ジヒドロケルセチン、ジヒドロケンフェロールおよびナリンゲニンからなる群より選ばれる1または2以上を有効成分とする。
【0018】
本発明の第1の実施形態としては、トネリコ属植物またはトネリコ属植物の抽出エキスを有効成分とする睡眠の質改善剤が挙げられる。
【0019】
本発明の第2の実施形態としては、シベリアカラマツエキスを有効成分とする睡眠の質改善剤が挙げられる。本発明の第3の実施形態としては、ジヒドロケルセチン、ジヒドロケンフェロールおよびナリンゲニンからなる群より選ばれる1または2以上の化合物を有効成分とする睡眠の質改善剤が挙げられる。
【0020】
トネリコ属植物とはトネリコ属の植物体の一部または全部を意味し、トネリコ属植物の抽出エキスとは、トネリコ属植物から抽出されるエキスを意味する。本発明においては、有効成分として、トネリコ属植物、およびトネリコ属植物の抽出エキスのいずれか、或いはこれらを組み合わせて使用することができるが、投与の容易さおよび製剤化の容易さの面から、トネリコ属植物の抽出エキスを有効成分とすることが好ましい。
【0021】
トネリコ属(Fraxinus属)植物は、モクセイ科(Oleaceae)の双子葉植物である。トネリコ属植物には、落葉および常緑のもの、高木および低木のものがあり、本発明ではいずれも使用できる。トネリコ属植物は例えば北半球(例えばヨーロッパ、東アジア、西アジア、北米および地中海地方)に分布しているが、これ以外の地域に分布するものであってもよいし、また、天然に生息するものでも人工的に栽培されたものであってもよい。トネリコ属植物の例としては、アメリカトネリコ(F.americana L.)、シナトネリコ(F.chinensis Roxb.)、セイヨウトネリコ(F.excelsior L.、慣用名Common AshまたはEuropean Ash)、シマトネリコ(F.griffithii C.B.Clarke)、トネリコ(F.japonica Bl.)、ヒメトネリコ(F.bungeana DC.)ケアオダモ(F.lanuginosa Koidz.)、ヤチダモ(F.mandshurica Rupr.var. japonica Maxim.)、マンナノキ(F.ornus L.)、シオジ(F.spaethiana Lingelsh.)、マルバアオダモ(F.sieboldiana Bl.)、ニグラトネリコ(F.nigra Marsh.)およびF.paxiana Lingelsh.などがある。このうち、セイヨウトネリコ(Fraxinus excelsior L.)が好ましい。セイヨウトネリコは、花序を側生する落葉高木の植物である。セイヨウトネリコは主にヨーロッパから西アジアに分布しているが、これ以外に分布するものであってもよいし、また、天然に生息するものでも人工的に栽培されたものであってもよい。
【0022】
本発明の有効成分としてのトネリコ属植物は、トネリコ属植物の植物体の一部および全部のいずれであってもよく、トネリコ属植物の種子が好ましい。また、植物体の一部および全部をそのまま用いてもよく、それらに濃縮、乾燥、粉砕などの加工を施したものであってもよい。投与の容易さおよび製剤化の容易さからは、乾燥および粉砕後の粉末であることが好ましい。トネリコ属植物の形態は特に限定されず、粉末、ペーストであってもよい。トネリコ属植物は1種を用いてもよいし、植物種または植物体の部位の異なる2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
トネリコ属植物の抽出エキスは、トネリコ属植物(植物体の全部または一部)から抽出溶媒を用いて抽出できる。トネリコ属植物の抽出部位は特に限定されず、植物体の全部であってもよいし、一部(例えば葉、樹皮、木部、種子、花)であってもよいが、種子であることが好ましい。抽出溶媒としては例えば、水、有機溶媒(例えば、アルコール、アセトンなどから選ばれる1種の溶媒、または2種以上の混合溶媒)、水および有機溶媒の混合液を使用できる。中でも水、水とアルコールとの混合液、およびアルコールが好ましい。アルコールとしては、エタノール、メタノールが好ましい。抽出時間および温度は、トネリコ属植物の抽出部位、溶媒の種類などによって適宜定めることができる。抽出時間は、約2時間〜約24時間が好ましい。抽出温度は20℃〜100℃が好ましく、50℃〜70℃がより好ましい。トネリコ属植物の抽出エキスは、トネリコ属植物から抽出された粗抽出エキスであってもよいし、粗抽出エキスに濃縮、乾燥、粉砕などの加工を施したものであってもよい。さらに、分配法による処理、精製処理(例えば、イオン交換樹脂、カラムなどを利用して吸着処理後、溶媒による溶出、その後必要によりさらに濃縮処理)により不純物を除去したものも使用することができる。トネリコ属植物の抽出エキスの形態は特に限定されず、粉末、ペーストであってもよい。トネリコ属植物の抽出エキスは1種を用いてもよいし、抽出条件などの異なる2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
本発明における有効成分としてのトネリコ属植物またはその抽出エキスは、セイヨウトネリコの種子またはその抽出エキスであることが好ましく、セイヨウトネリコの種子の抽出エキスであることが好ましい。
【0025】
トネリコ属植物の抽出エキスは市販されており、市販品を用いることができる。セイヨウトネリコの抽出エキスの市販品としては例えば、「fraxipure(商品名)」(NATUREX社)などが挙げられる。
【0026】
シベリアカラマツ(Larix sibirica)は、マツ科(Pinaceae)の針葉植物である。シベリアカラマツはシベリアおよび極東に分布しているが、これ以外の地域に分布するものであってもよいし、また、天然に生息するものでも人工的に栽培されたものであってもよい。
【0027】
シベリアカラマツエキスは、シベリアカラマツの植物体の全部または一部から抽出されるエキスを意味する。シベリアカラマツの植物体の全部または一部から抽出溶媒を用いて抽出できる。シベリアカラマツの抽出部位は特に限定されず、植物体の全部であってもよいし、一部(例えば葉、樹皮、木部、種子、花)であってもよいが、樹皮、木部が好ましく、木部がより好ましい。抽出溶媒としては例えば、水、有機溶媒(例えば、アルコール、アセトンなどから選ばれる1種の溶媒、または2種以上の混合溶媒)、水および有機溶媒の混合液を使用できる。中でも水、水とアルコールとの混合液、およびアルコールが好ましい。アルコールとしては、エタノール、メタノールが好ましい。抽出時間および温度は、シベリアカラマツの抽出部位、溶媒の種類などによって適宜定めることができる。シベリアカラマツエキスは、シベリアカラマツから抽出された粗抽出物であってもよいし、粗抽出物に濃縮、乾燥、粉砕などの加工を施したものであってもよい。さらに、分配法による処理、精製処理(例えば、イオン交換樹脂、カラムなどを利用して吸着処理後、溶媒による溶出、その後必要によりさらに濃縮処理)により不純物を除去したものも使用することができる。一方、ロシア特許第2091076号明細書に記載されているように、シベリアカラマツを細かく粉砕し、得られる粉砕物を水蒸気で湿らせた後、アセトンで抽出し、精製して得られる産物をシベリアカラマツエキスとして用いてもよい。シベリアカラマツエキスの形態は特に限定されず、粉末、ペーストであってもよい。シベリアカラマツエキスは1種を用いてもよいし、抽出条件などの異なる2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
シベリアカラマツエキスは市販されており、市販品を用いることができる。シベリアカラマツエキスの市販品としては例えば、「ジクベルチン(商品名)」(フラビール社;イルクーツク市、ロシア)などが挙げられる。
【0029】
ジヒドロケルセチン、ジヒドロケンフェロールおよびナリンゲニンは、いずれもシベリアカラマツエキスの成分であり、いずれもフラバン骨格を有するポリフェノールである。シベリアカラマツにはジヒドロケルセチンが最も多く含まれており、ジヒドロケンフェロールおよびナリンゲニンの含有量はわずかである。本発明における有効成分が、ジヒドロケルセチン、ジヒドロケンフェロールおよびナリンゲニンのいずれかであってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。本発明の有効成分がジヒドロケルセチン、ジヒドロケンフェロールおよびナリンゲニンから選ばれる1または2以上の化合物である場合、好ましくはジヒドロケルセチン単独、およびジヒドロケルセチンを含む組み合わせであり、より好ましくはジヒドロケルセチン単独である。
【0030】
ジヒドロケルセチン、ジヒドロケンフェロールおよびナリンゲニンの製造方法は限定されない。化学合成などにより人工的に製造されたものであってもよいし、シベリアカラマツまたはシベリアカラマツエキスから抽出、精製されたものであってもよい。
【0031】
本発明の睡眠の質改善剤の投与量は、本発明の効果を損なわない限り特に制限は無く、また適応される被投与生体の年齢、状態などの要因により適宜変えることができる。目的の効果を得る好ましい投与量は、以下の通りである。
【0032】
有効成分がセイヨウトネリコである場合、セイヨウトネリコの1日あたりの量として、通常0.045g〜18gであり、0.2g〜13.5gが好ましく、0.45g〜9gがより好ましい。有効成分がセイヨウトネリコエキスである場合、セイヨウトネリコエキスの1日あたりの量として、通常10mg〜4000mgであり、50mg〜3000mgが好ましく、100mg〜2000mgがより好ましい。
【0033】
有効成分がシベリアカラマツエキスの場合、シベリアカラマツエキスの1日あたりの量として、通常3mg〜1000mgであり、15mg〜500mgが好ましく、20mg〜200mgがより好ましく、30mg〜120mgがさらに好ましい。有効成分がジヒドロケルセチンの場合、ジヒドロケルセチンの1日あたりの量として、通常2.7mg〜900mgであり、13.5mg〜450mgが好ましく、18mg〜180mgがより好ましく、27mg〜108mgがさらに好ましい。有効成分がジヒドロケンフェロールの場合、ジヒドロケンフェロールの1日あたりの量として、通常2.7mg〜900mgであり、13.5mg〜450mgが好ましく、18mg〜180mgがより好ましく、27mg〜108mgがさらに好ましい。有効成分がナリンゲニンの場合、ナリンゲニンの1日あたりの量として、通常1日2.7mg〜900mgであり、13.5mg〜450mgが好ましく、18mg〜180mgがより好ましく、27mg〜108mgがさらに好ましい。
【0034】
本発明の睡眠の質改善剤は、そのままの形態で製剤化し、最終製品(例えば、飲食品、医薬品、医薬部外品など)として用いることもできる。また、飲食品用の添加剤、医薬用の添加剤、医薬部外品用の添加剤として用いることができる。これにより、飲食品、医薬品、医薬部外品に、睡眠の質改善効果を付与することができる。
【0035】
本発明の睡眠の質改善剤は、トネリコ属植物、トネリコ属植物の抽出エキス、シベリアカラマツエキス、ジヒドロケルセチン、ジヒドロケンフェロールおよびナリンゲニンからなる群より選ばれる1または2以上を有効成分としていればよく、これら以外の成分を有していてもよい。その他の成分の一例としては、主に貯蔵および流通における安定性を確保する成分(例えば保存安定剤など)が挙げられる。その他、目的の最終製品(例えば、飲食品、医薬品、医薬部外品など)を構成する諸成分から選ばれる1または2以上の種類の成分(好ましくは1〜3種類程度、より好ましくは1種類程度)を予め含有しておくことも可能である。
【0036】
本発明の睡眠の質改善剤は、トネリコ属植物、トネリコ属植物の抽出エキス、シベリアカラマツエキス、ジヒドロケルセチン、ジヒドロケンフェロールおよびナリンゲニン以外の成分と組み合わせて睡眠の質改善組成物としてもよい。
【0037】
本発明の睡眠の質改善組成物に含まれる、トネリコ属植物、およびトネリコ属植物の抽出エキス、シベリアカラマツエキス、ジヒドロケルセチン、ジヒドロケンフェロールおよびナリンゲニン以外の成分は、本発明の目的を損なわない限り、特に限定されない。例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、着色剤、発色剤、矯味剤、着香剤、酸化防止剤、防腐剤、呈味剤、酸味剤、甘味剤、強化剤、ビタミン剤、膨張剤、増粘剤、界面活性剤などの薬学的に許容可能な添加剤が挙げられる。これらの中から、睡眠の質改善効果、製剤に必要な諸特性(例えば、製剤安定性)を損なわず、かつ、最終製品の剤形に応じた添加剤を1種または2種以上選択することができる。また、上記成分は、睡眠の質改善効果を有する成分であってもよい。本発明の睡眠の質改善組成物に含まれる、トネリコ属植物、トネリコ属植物の抽出エキス、シベリアカラマツエキス、ジヒドロケルセチン、ジヒドロケンフェロールおよびナリンゲニン以外の成分は、1種でも2種以上の組み合わせであってもよい。
【0038】
本発明の睡眠の質改善組成物の投与量は、上記本発明の睡眠の質改善剤の投与量の説明中で示した、トネリコ属植物、トネリコ属植物の抽出エキス、シベリアカラマツエキス、ジヒドロケルセチン、ジヒドロケンフェロールまたはナリンゲニンの量の範囲となるように調整すればよい。
【0039】
本発明の睡眠の質改善組成物は、そのままの形態で、最終製品(例えば、飲食品、医薬品、医薬部外品など)として用いることができる。また、飲食品用の添加剤、医薬用の添加剤、医薬部外品用の添加剤として用いることができる。これにより、飲食品、医薬品、医薬部外品に、睡眠の質改善効果を付与することができる。
【0040】
本発明の睡眠の質改善剤および睡眠の質改善組成物の投与形態は特に限定されない。例えば、経口投与(例えば、口腔内投与、舌下投与など)、非経口投与(静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、経皮投与、経鼻投与、経肺投与など)などが挙げられる。これらの中でも侵襲性の少ない投与形態が好ましく、経口投与であることがより好ましく、飲食品として経口投与されることがさらに好ましい。
【0041】
本発明の睡眠の質改善剤および睡眠の質改善組成物の剤形は、特に限定されない。経口投与される際の剤形の例としては、液状(液剤)、シロップ状(シロップ剤)、固形状(錠剤)、カプセル状(カプセル剤)、粉末状(顆粒、細粒)、ソフトカプセル状(ソフトカプセル剤)、半液体状、クリーム状、ペースト状が挙げられる。非経口投与する場合の剤形の例としては、液剤(注射剤、点鼻剤)、霧状(噴霧剤、吸入剤)などが挙げられる。
【0042】
本発明の睡眠の質改善剤および睡眠の質改善組成物の投与時期は特に限定されないが、通常は就寝前に投与され、就寝3時間前から就寝までの間に投与されることが好ましく、就寝2時間前から就寝の間に投与されることがより好ましく、就寝1時間前から就寝の間に投与されることがさらに好ましく、就寝1時間前に投与されることが特に好ましい。
【0043】
本発明の睡眠の質改善剤の有効成分は、顕著な睡眠の質改善作用を有する。
【0044】
本発明における「睡眠の質」とは、睡眠により疲れた身体および脳を休めることができることを意味する。睡眠時間が長くても睡眠の質が伴わなければ、疲れを十分に取ることはできない。睡眠の質を測る指標としては、例えば、就寝からノンレム睡眠出現までの時間(以下、入眠潜時という。)、睡眠初期のノンレム睡眠の深さ、睡眠時間全体に占めるノンレム睡眠時間の割合、起床時の眠気のなさ、寝つき並びに熟眠感、夢見、睡眠時間の満足感および疲労感が挙げられる。このうち、入眠潜時、睡眠初期のノンレム睡眠の深さ、睡眠時間全体に占めるノンレム睡眠時間の割合、起床時の眠気のなさ、寝つき並びに熟眠感、夢見、睡眠時間の満足感および疲労感が好ましい。睡眠初期のノンレム睡眠とは、就寝直後からレム睡眠の出現前に出現するノンレム睡眠を意味する。入眠潜時は、実施例に示すとおり、就寝中の脳波を測定して得られる脳波記録により確認できる。睡眠初期のノンレム睡眠の深さは、実施例に示すとおり、睡眠中の脳波のデルタ波パワー値により確認できる。デルタ波パワー値が大きくなると睡眠の深さは深くなる。睡眠時間全体に占めるノンレム睡眠時間の割合も、実施例に示すとおり、就寝中の脳波を測定して得られる脳波記録により確認できる。起床時の眠気のなさ、寝つき並びに熟眠感、夢見、睡眠時間の満足感および疲労感は、実施例に示すとおり、OSA睡眠調査票MA版(山本由華吏,田中秀樹,高瀬美紀,山崎勝男,阿住一雄,白川修一郎:中高年・高齢者を対象としたOSA睡眠調査票(MA版)の開発と標準化.脳と精神の医学 10:401−409,1999.)を用いて評価できる。疲労感は、実施例に示すとおり、日本疲労学会が特定保健用食品の抗疲労臨床評価における疲労感の評価方法のガイドラインに示している日本疲労学会推奨のVisual Analogue Scale(VAS)検査用紙を用いて評価できる。
【0045】
本発明における「睡眠の質を改善する」とは、上記の睡眠の質が改善または向上したことを意味する。睡眠の質が改善されていることは、例えば、入眠潜時が短縮されること、睡眠初期のノンレム睡眠が深いこと、睡眠時間全体に占めるノンレム睡眠時間の割合が増加していること、起床時の眠気のなさが改善されていること、寝つきと熟眠感が改善されていること、夢見が改善されていること(例えば、頻繁に夢を見ることまたは悪夢を見ることがなくなる)、睡眠時間の満足感が改善されていること、および疲労回復感の増加(疲労感の軽減)からなる群より選ばれる1つ以上から判断できる。睡眠の質が改善されていることは、実施例の条件にて確認することができる。
【0046】
本発明の睡眠の質改善剤によれば、効果的に睡眠の質を改善することができる。また、トネリコ属植物(セイヨウトネリコなど)は、従来より強壮、慢性リウマチ、足指の通風の治療用、または漢方薬として、一部地域(モロッコの南東地域など)では食品としても利用されている。シベリアカラマツエキスは、ロシア東部の先住民の食歴がある。ジヒドロケルセチン、ジヒドロケンフェロールおよびナリンゲニンも、シベリアカラマツに含まれる成分であり、植物の二次代謝産物の一種である。したがって、トネリコ属植物、トネリコ属植物の抽出エキス、シベリアカラマツエキス、ジヒドロケルセチン、ジヒドロケンフェロールおよびナリンゲニンからなる群より選ばれる1または2以上を有効成分とする本発明の睡眠の質改善剤は、生体に対し安全であり、利用者は安心して使用できる。さらに、本発明の睡眠の質改善剤は、下記の実施例に示すように、睡眠中の中途覚醒時間を減少させ睡眠時間を持続することができるので、疲労回復にいっそう顕著な効果が発揮されうる。よって、睡眠の質低下が関連する疾病、例えば、糖尿病、心疾患、高血圧、高脂血症、アルツハイマー等の疾病の予防および治療への応用が期待される。従って、本発明の睡眠の質改善剤は、飲食品、医薬品、医薬部外品等の最終製品として有用である。
【0047】
本発明の睡眠の質改善剤または睡眠の質改善組成物の摂取対象者は特に限定されない。例えば、眠りが浅いと感じている対象者、起床時に眠気が残っていると感じている対象者、寝つきが悪いと感じている対象者、熟眠感が足りない(深く眠れない)と感じている対象者、夢見が悪いと感じている対象者、疲労感を感じている対象者、睡眠後にも疲れが取れないと感じている対象者などが挙げられる。また、特段の問題のない対象者であっても、睡眠の質改善または維持を目的として日常的に摂取することができる。
【0048】
本発明の睡眠の質改善剤は、各種飲食品として利用することが好ましい。例えば、飲料(清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、粉末飲料、果実飲料、乳飲料、ゼリー飲料など)、菓子類(クッキー、ケーキ、ガム、キャンディー、タブレット、グミ、饅頭、羊羹、プリン、ゼリー、アイスクリーム、シャーベットなど)、水産加工品(かまぼこ、ちくわ、はんぺんなど)、畜産加工品(ハンバーグ、ハム、ソーセージ、ウィンナー、チーズ、バター、ヨーグルト、生クリーム、マーガリン、発酵乳など)、スープ(粉末状スープ、液状スープなど)、主食類(ご飯類、麺(乾麺、生麺)、パン、シリアルなど)、調味料(マヨネーズ、ショートニング、ドレッシング、ソース、たれ、しょうゆなど)が挙げられる。
【0049】
本発明の睡眠の質改善剤は、健康食品、機能性食品、栄養補助食品(サプリメント)、特定保健用食品、医療用食品、病者用食品、乳児用食品、介護用食品、高齢者用食品等の飲食品として利用することができる。中でも、健康食品、機能性食品とすることが好ましい。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例により説明する。
【0051】
1.睡眠誘発効果の評価(実施例1−1および比較例1−1:マウス行動量測定)
トネリコ属植物の抽出エキスの睡眠誘発効果を確認するために、表1に示す各サンプルを用いて以下の試験を行った。
【0052】
セイヨウトネリコエキス(実施例1−1のサンプル)は、NATUREX社製の「fraxipure(商品名)」を用いた。コントロールとしては、0.5質量%メチルセルロース水溶液(比較例1−1のサンプル)を用いた。
【0053】
サンプルが睡眠を誘発する機能を有する場合、サンプルを投与すると必ず行動量が低下する。そのため、サンプル溶液をマウスに投与して行動量が低下するか否かを確認することにより、サンプルの睡眠誘発効果を評価した。
【0054】
8週齢または9週齢雄性C57BL/6マウスを日本SLC株式会社より購入し、3〜6日馴化した。馴化中の行動量より、投与群分けを実施した。暗期開始直前に、セイヨウトネリコエキスマウス体重当たり3g/kg(実施例1−1)、0.5質量%メチルセルロース水溶液マウス体重当たり10mL/kg(比較例1−1)を経口投与し、投与後24時間行動量を測定した。各投与群は8匹とした(n=8)。
【0055】
行動量を以下の条件で測定した。ケージにマウスを個別に飼い、その上方に赤外線カメラを設置した。赤外線カメラの撮影範囲を64区画に分け、この区画を横切った回数を測定した。この回数を30分毎に集計した。
【0056】
表1に、実施例1−1および比較例1−1のサンプルの種類および投与後8.5時間の累積行動量(回/8.5時間)を示す。図2に、各実施例および比較例における、サンプル投与後8.5時間のマウスの累積行動量を示す。図2中「**」は、p<0.01において有意差があることを示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1および図2から、以下のことが分かる。
【0059】
サンプルとしてセイヨウトネリコエキスを用いた実施例1−1は、コントロール溶液を投与した比較例1−1に比べ、投与後8.5時間の累積行動量が有意に低下していた。
【0060】
この結果は、セイヨウトネリコエキスは睡眠誘発効果を発揮することを示している。
【0061】
2.睡眠の質改善効果の評価(実施例1−2および比較例1−2:マウスの脳波測定)
セイヨウトネリコエキスが睡眠の質に与える効果を確認するために、以下の試験を行い脳波を測定した。すなわち、マウス頭部に電極を装着し、記録用チャンバー内において自由行動下のマウス脳波を記録し、「覚醒」「レム睡眠」「ノンレム睡眠」の各時間を測定した。
【0062】
日本SLCより購入した8週齢雄性C57BL/6マウスに、脳波および筋電用の電極を装着した。電極装着後、回復チャンバーにて10日間回復させた。その後、記録用チャンバーに移し、ケーブルを接続した。脳波解析ソフトであるSleepSign(登録商標) Ver 3.0(キッセイコムテック株式会社)にて脳波判別可否を確認後、3日間馴化させた。その後、脳波を24時間測定し、睡眠覚醒リズムが維持されているかどうかを確認し、投与群分けを実施した。各投与群は6匹とした(n=6)。暗期開始直前に、セイヨウトネリコエキスを0.5質量%メチルセルロース水溶液に懸濁して調製し、セイヨウトネリコエキスとして3g/kgまたはコントロール溶液を10mL/kg経口投与し、24時間脳波を記録した。コントロール溶液は、0.5質量%メチルセルロース水溶液である。記録後、脳波をSleepSign(登録商標) Ver 3.0により自動解析を行い、評価実施者がその自動解析の結果を確認して、覚醒、レム睡眠およびノンレム睡眠の各睡眠ステージに分類した。脳波測定時間(9時間)全体に対する各睡眠ステージの時間の割合を、百分率として算出し、投与直後9時間の睡眠ステージの割合とした。6匹の平均値を算出した(表2および図3)。
【0063】
【表2】
【0064】
表2および図3から、以下のことが分かる。サンプルとしてセイヨウトネリコエキスを用いた実施例1−2は、コントロール溶液を投与した比較例1−2に比べ、覚醒時間が減少し、ノンレム睡眠が増加していた。
【0065】
この結果は、セイヨウトネリコエキスの投与により、睡眠時間全体に占めるノンレム睡眠時間の割合が増加しているので、睡眠の質が改善されることを示している。また、中途覚醒を減少し、睡眠時間を持続することができることが示される。
【0066】
3.睡眠の質改善効果の評価(実施例1−3および比較例1−3:ヒトの脳波測定および睡眠感調査)
セイヨウトネリコエキスがヒトの睡眠の質に与える効果を確認するために、表3に示す各サンプルを用いて以下の試験を行った。
【0067】
実施例1−3のサンプルとして、セイヨウトネリコエキスを配合した錠剤(2カプセル中のセイヨウトネリコエキス含有量:500mg)を用意した。また、比較例1−3のサンプルとして、セイヨウトネリコエキスを含まないプラセボのカプセルを用意した。各組成の詳細は、表3に示すとおりである。
【0068】
【表3】
【0069】
あらかじめピッツバーグ睡眠調査表で調査し、比較的睡眠状態の良くない成人男女12名をパネラーにした。これら12名のパネラーに上記実施例1−3のサンプルを就寝1時間前に経口摂取してもらい、2電極方式の携帯型脳波測定器を装着し、就寝中の脳波を測定した。また、同様にして、同じパネラー12名に比較例1−3のサンプルを就寝1時間前に経口摂取してもらい、2電極方式の携帯型脳波測定器を装着し、就寝中の脳波を測定した。翌朝、パネラーが睡眠感調査票および疲労感VAS検査用紙に回答した。各サンプルの投与および測定の実施回数は、パネラー各一人につきそれぞれ4回とした。なお、各パネラーの平均睡眠時間は、6.5時間であり、最も睡眠時間の短いパネラーの睡眠時間と最も睡眠時間が長いパネラーの睡眠時間の差は、2時間であり、大差はなかった。
【0070】
(脳波解析)
脳波はスリープウェル(株)に依頼して解析した。就寝(脳波測定開始)からノンレム睡眠出現までの時間を入眠潜時とした。睡眠の深さは睡眠中脳波のデルタ波パワー値によって知ることができ、デルタ波パワー値が大きいほど睡眠の深さは深い。就寝直後にノンレム睡眠が出現し、その後レム睡眠が出現する。レム睡眠が出現するまでの就寝直後のノンレム睡眠中のデルタ波パワー値を、睡眠初期のデルタ波パワー値とした。
【0071】
入眠潜時の値は、個々人により異なる。そこで、入眠潜時をパネラーごとに4回測定し、4回の測定値の平均値を算出し、パネラーごとのプラセボ摂取に対する入眠潜時の変化率(%)を下式(1−1)により算出した(表4および図4)。
【0072】
〔式(1−1)〕
入眠潜時の変化率(%)=
{(セイヨウトネリコエキス摂取後の入眠潜時の平均値)/(プラセボ摂取後の入眠潜時の値の平均値)}×100−100
【0073】
デルタ波パワー値も、入眠潜時と同様個々人により異なる。そこで、デルタ波パワー値をパネラーごとに4回測定し、4回の測定値の平均値を算出し、パネラーごとのプラセボ摂取に対するデルタ波パワー値の変化率(%)を下式(1−2)により算出した(表4および図5)。
【0074】
〔式(1−2)〕
デルタ波パワー値の変化率(%)=
{(セイヨウトネリコエキス摂取後のデルタ波パワー値の平均値)/(プラセボ摂取後のデルタ波パワー値の平均値)}×100−100
【0075】
(睡眠感調査)
睡眠感の調査には、OSA睡眠調査票MA版(山本由華吏,田中秀樹,高瀬美紀,山崎勝男,阿住一雄,白川修一郎:中高年・高齢者を対象としたOSA睡眠調査票(MA版)の開発と標準化.脳と精神の医学 10:401−409,1999.)を用いた。OSA睡眠調査票MA版は、20項目の質問から構成されており、因子I:起床時眠気(すなわち起床時の眠気のなさ)、因子II:入眠と睡眠維持(すなわち良い寝つきと熟眠感のよさ)、因子III:夢見(すなわち夢見のよさ)、因子IV:疲労回復(すなわち疲労感のなさ)、因子V:睡眠時間(すなわち睡眠時間の満足感)を評価するための評価法である。
【0076】
各因子の点数を計算し、各パネラーについて、摂取サンプル別に4回の平均値を算出した。パネラーごとのプラセボ摂取に対する各因子の点数の変化率(%)を下式(1−3)により算出した。パネラー12名の変化率の平均値を算出した(表5、図6〜10)。
【0077】
〔式(1−3)〕
各因子の点数の変化率(%)=
{(セイヨウトネリコエキス含有酵母摂取後の値の平均値)/(プラセボ摂取後の値の平均値)}×100−100
【0078】
(疲労感調査)
疲労感の調査には、日本疲労学会が特定保健用食品の抗疲労臨床評価における疲労感の評価方法のガイドラインに示している日本疲労学会推奨のVisual Analogue Scale(VAS)検査用紙を用いた。すなわち、一定の長さの水平な直線の左端を「疲れをまったく感じない最良の感覚」、右端を「何もできないほど疲れきった最悪の感覚」とし、パネラーが朝起きたときの感覚を、直線の左右両端に示した感覚を参考にこの直線上に×印で回答した。
【0079】
直線の左端から×印までの距離を測り、距離の数値が小さいほうが疲労を感じていないと判断した。それぞれのパネラーが摂取サンプルごとに、4回の測定を行いそれらの平均値を算出した。パネラーごとのプラセボ摂取に対する変化率(%)を下式(1−4)により算出した。パネラーごとの変化率について、パネラー12名の平均値を算出した(表6および図11)。
【0080】
〔式(1−4)〕
疲労感の変化率(%)={(セイヨウトネリコエキス摂取後の値の平均値)/(プラセボ摂取後の値の平均値)}×100−100
【0081】
(脳波解析の結果)
【0082】
【表4】
【0083】
表4、図4および図5から、以下のことが分かる。サンプルとしてセイヨウトネリコエキスのカプセルを経口摂取させた実施例1−3では、プラセボカプセルを経口摂取させた比較例1−3に比べ、入眠潜時が短縮した。また、睡眠初期のデルタ波パワー値が大きくなり、睡眠初期のノンレム睡眠が十分深くなった。
【0084】
この結果は、セイヨウトネリコエキスの投与により、入眠潜時が短縮し、睡眠初期のノンレム睡眠が深まり、睡眠の質が効果的に改善されることを示している。
【0085】
(睡眠感調査の結果)
【0086】
【表5】
【0087】
表5、図6〜10から、以下のことが分かる。サンプルとしてセイヨウトネリコエキスのカプセルを経口摂取させた実施例1−3では、プラセボカプセルを経口摂取させた比較例1−3に対する因子I(起床時の眠気のなさ)の変化率が高かった。また、因子II(入眠と睡眠維持)の点数の変化率、因子III(夢見の状態)の点数の変化率、因子IV(疲労回復)および因子V(睡眠時間の長さ)の点数の変化率も同様であった。この結果は、セイヨウトネリコエキスの投与により、睡眠の質改善効果が発揮され、起床時の眠気を改善したことを示している。また、睡眠の質改善効果が発揮され、寝つきと熟眠感を改善したことを示している。また、睡眠の質改善効果が発揮され、夢見の状態を改善したことを示している。さらに、睡眠の質改善効果が発揮され、疲労回復感を増加させたことを示している。そして、睡眠の質改善と合わせて、睡眠時間の長期化効果も発揮される(睡眠時間の満足感を得ることができる)ことが分かる。
【0088】
(疲労感調査の結果)
【0089】
【表6】
【0090】
表6および図11から、以下のことが分かる。サンプルとしてセイヨウトネリコエキスのカプセルを経口摂取させた実施例1−3では、プラセボカプセルを経口摂取させた比較例1−3に対する疲労感の起床時の眠気のなさ)がマイナスに変化していた。この結果は、セイヨウトネリコエキスの投与により、睡眠の質改善効果が発揮され、疲れを感じなくなった(疲労感が軽減した)ことを示している。
【0091】
本発明の睡眠の質改善剤および睡眠の質改善組成物の処方例を以下に示す。
【0092】
(処方例1−1:錠剤(1−1))
セイヨウトネリコエキス10mg、乳糖60mg、結晶セルロース80mg、カルボキシメチルセルロース−Ca5mg、ショ糖脂肪酸エステル5mgを常法どおり打錠し錠剤を製造した。
【0093】
(処方例1−2:錠剤(2−2))
セイヨウトネリコエキス250mg、結晶セルロース40mg、カルボキシメチルセルロース−Ca5mg、ショ糖脂肪酸エステル5mgを常法どおり打錠し錠剤を製造した。
【0094】
(処方例1−3:錠剤(2−3))
以下の原料を用いて、常法により錠剤を製造した。
【0095】
造粒品(108mg)、セイヨウトネリコエキス(20mg)、ソルビトール(110mg)、部分α化でんぷん(15mg)、リン酸マグネシウム(75mg)、ステアリン酸カルシウム(3mg)、メントール粒子(40mg)、アスパルテーム(5mg)を常法どおり打錠し錠剤を製造した。
【0096】
上記造粒品は、エリスリトール(1935g)およびコーンスターチ(300g)に、ヒドロキシプロピルセルロース6質量%水溶液(4000g)を加えることにより製造した。造粒品の平均粒径は290μmであった。
【0097】
(処方例1−4:ソフトカプセル)
以下の原料を用いて、常法によりソフトカプセルを製造した。
【0098】
まず、以下の原料を混合して内容物を調製した:セイヨウトネリコエキス(20mg)、植物油脂(110mg)、グリセリン脂肪酸エステル(10mg)、蜜蝋(10mg)
【0099】
上記内容物と、豚ゼラチンとを用いてソフトカプセルを製造した。
【0100】
4.睡眠誘発効果の評価(実施例2−1、実施例2−2、比較例2−1および比較例2−2:マウス行動量測定)
シベリアカラマツエキスおよびジヒドロケルセチンの睡眠誘発効果を確認するために、表7及び表8に示す各サンプルを用いて以下の試験を行った。
【0101】
シベリアカラマツエキス(実施例2−1のサンプル)は、フラビール社製の「ジクベルチン(商品名)」を用いた。また、ジヒドロケルセチン(実施例2−2のサンプル)は、試薬(MPバイオ社)を用いた。コントロールとしては、0.5質量%メチルセルロース水溶液(比較例2−1および2−2のサンプル)を用いた。
【0102】
サンプルが睡眠を誘発する機能を有する場合、サンプルを投与すると必ず行動量が低下する。そのため、サンプル溶液をマウスに投与して行動量が低下するか否かを確認することにより、サンプルの睡眠誘発効果を評価した。
【0103】
8週齢または9週齢雄性C57BL/6マウスを日本SLC株式会社より購入し、3〜6日馴化した。馴化中の行動量より、投与群分けを実施した。暗期開始直前に、シベリアカラマツエキスマウス体重当たり3g/kg、ジヒドロケルセチンマウス体重あたり2.7g/kg、0.5質量%メチルセルロース水溶液10mL/kgを経口投与し、投与後24時間行動量を測定した。各投与群は、実施例2−1および比較例2−1は8匹(n=8)、実施例2−2および比較例2−2は4匹(n=4)とした。
【0104】
行動量を以下の条件で測定した。ケージにマウスを個別に飼い、その上方に赤外線カメラを設置した。赤外線カメラの撮影範囲を64区画に分け、この区画を横切った回数を測定した。この回数を30分毎に集計した。
【0105】
表7に、実施例2−1および比較例2−1のサンプルの種類および投与後6時間の累積行動量(回/6時間)を示す。図12に、各実施例および比較例における、サンプル投与後6時間のマウスの累積行動量を示す。図12中「**」は、p<0.01において有意差があることを示す。
【0106】
【表7】
【0107】
表7および図12から、以下のことが分かる。
【0108】
サンプルとしてシベリアカラマツエキスを用いた実施例2−1は、コントロール溶液を投与した比較例2−1に比べ、投与後6時間の累積行動量が有意に低下していた。
【0109】
この結果は、シベリアカラマツエキスは睡眠誘発効果を発揮することを示している。
【0110】
表8に、実施例2−2および比較例2−2のサンプルの種類および投与後6時間の累積行動量(回/6時間)を示す。図13に、各実施例および比較例における、サンプル投与後6時間のマウスの累積行動量を示す。図13中「**」は、p<0.01において有意差があることを示す。
【0111】
【表8】
【0112】
表8および図13から、以下のことが分かる。
【0113】
サンプルとしてジヒドロケルセチンを用いた実施例2−2は、コントロール溶液を投与した比較例2−1に比べ、投与後6時間の累積行動量が有意に低下していた。
【0114】
この結果は、ジヒドロケルセチンは睡眠誘発効果を発揮することを示している。
【0115】
5.睡眠の質改善効果の評価(実施例2−3および比較例2−3:睡眠感調査)
シベリアカラマツエキスがヒトの睡眠の質に与える効果を確認するために、表9に示す各サンプルを用いて以下の試験を行った。
【0116】
実施例2−3のサンプルとして、シベリアカラマツエキスを配合した錠剤(6錠中のシベリアカラマツエキス含有量:60mg)を用意した。また、比較例2−3のサンプルとして、シベリアカラマツエキスを含まないプラセボのカプセルを用意した。各組成の詳細は、表9に示すとおりである。
【0117】
【表9】
【0118】
あらかじめピッツバーグ睡眠調査表で調査し、比較的睡眠状態の良くない成人男女12名をパネラーにした。これら12名のパネラーに上記実施例2−3のサンプルを就寝1時間前に経口摂取してもらった。また、同様にして、同じパネラー12名に比較例2−3のサンプルを就寝1時間前に経口摂取してもらった。翌朝、パネラーが睡眠感調査票および疲労感VAS検査用紙に回答した。各サンプルの投与および測定の実施回数は、パネラー各一人につきそれぞれ4回とした。なお、各パネラーの平均睡眠時間は、6.5時間であり、最も睡眠時間の短いパネラーの睡眠時間と最も睡眠時間が長いパネラーの睡眠時間の差は、2時間であり、大差はなかった。
【0119】
睡眠感の調査には、OSA睡眠調査票MA版(山本由華吏,田中秀樹,高瀬美紀,山崎勝男,阿住一雄,白川修一郎:中高年・高齢者を対象としたOSA睡眠調査票(MA版)の開発と標準化.脳と精神の医学 10:401−409,1999.)を用いた。OSA睡眠調査票MA版は、20項目の質問から構成されており、因子I:起床時眠気(すなわち起床時の眠気のなさ)、因子II:入眠と睡眠維持(すなわち良い寝つきと熟眠感のよさ)、因子III:夢見(すなわち夢見のよさ)、因子IV:疲労回復(すなわち疲労感のなさ)、因子V:睡眠時間(すなわち睡眠時間の満足感)を評価するための評価法である。
【0120】
各因子の点数を計算し、各パネラーについて、摂取サンプル別に4回の平均値を算出した。パネラーごとのプラセボ摂取に対する各因子の点数の変化率(%)を下式(2−1)により算出した。パネラー12名の変化率の平均値を算出した(表10、図14〜18)。
【0121】
〔式(2−1)〕
各因子の点数の変化率(%)=
{(シベリアカラマツエキス含有酵母摂取後の値の平均値)/(プラセボ摂取後の値の平均値)}×100−100
【0122】
【表10】
【0123】
表10、図14〜18から、以下のことが分かる。サンプルとしてシベリアカラマツエキスのカプセルを経口摂取させた実施例2−3では、プラセボカプセルを経口摂取させた比較例2−3に対する因子I(起床時の眠気のなさ)の変化率が高かった。また、因子II(入眠と睡眠維持)の点数の変化率、因子III(夢見の状態)の点数の変化率、因子IV(疲労回復)および因子V(睡眠時間の長さ)の点数の変化率も同様であった。この結果は、シベリアカラマツエキスの投与により、睡眠の質改善効果が発揮され、起床時の眠気を改善したことを示している。また、睡眠の質改善効果が発揮され、寝つきと熟眠感を改善したことを示している。また、睡眠の質改善効果が発揮され、夢見の状態を改善したことを示している。さらに、睡眠の質改善効果が発揮され、疲労回復感を増加させたことを示している。そして、睡眠の質改善と合わせて、睡眠時間の長期化効果も発揮される(睡眠時間の満足感を得ることができる)ことが分かる。
【0124】
本発明の睡眠の質改善剤および睡眠の質改善組成物の処方例を以下に示す。
【0125】
(処方例2−1:錠剤(2−1))
シベリアカラマツエキス10mg、乳糖60mg、結晶セルロース80mg、カルボキシメチルセルロース−Ca5mg、ショ糖脂肪酸エステル5mgを常法どおり打錠し錠剤を製造した。
【0126】
(処方例2−2:錠剤(2−2))
以下の原料を用いて、常法により錠剤を製造した。
【0127】
造粒品(108mg)、シベリアカラマツエキス(20mg)、ソルビトール(110mg)、部分α化でんぷん(15mg)、リン酸マグネシウム(75mg)、ステアリン酸カルシウム(3mg)、メントール粒子(40mg)、アスパルテーム(5mg)を常法どおり打錠し錠剤を製造した。
【0128】
上記造粒品は、エリスリトール(1935g)およびコーンスターチ(300g)に、ヒドロキシプロピルセルロース6質量%水溶液(4000g)を加えることにより製造した。造粒品の平均粒径は290μmであった。
【0129】
(処方例2−3:ソフトカプセル)
以下の原料を用いて、常法によりソフトカプセルを製造した。
【0130】
まず、以下の原料を混合して内容物を調製した:シベリアカラマツエキス(20mg)、植物油脂(110mg)、グリセリン脂肪酸エステル(10mg)、蜜蝋(10mg)
【0131】
上記内容物と、豚ゼラチンとを用いてソフトカプセルを製造した。
図1
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