特許第6100704号(P6100704)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6100704治療用抗体についてのインビボ試験の手段および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6100704
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】治療用抗体についてのインビボ試験の手段および方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 49/00 20060101AFI20170313BHJP
   A61B 10/00 20060101ALI20170313BHJP
   A61B 5/06 20060101ALI20170313BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20170313BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
   A61K49/00 Z
   A61B10/00 E
   A61B5/06
   G01N33/574
   G01N21/64 F
【請求項の数】14
【全頁数】42
(21)【出願番号】特願2013-557068(P2013-557068)
(86)(22)【出願日】2012年3月6日
(65)【公表番号】特表2014-510075(P2014-510075A)
(43)【公表日】2014年4月24日
(86)【国際出願番号】EP2012053786
(87)【国際公開番号】WO2012119999
(87)【国際公開日】20120913
【審査請求日】2015年3月5日
(31)【優先権主張番号】11001857.9
(32)【優先日】2011年3月7日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】306021192
【氏名又は名称】エフ・ホフマン−ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ドボス, ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ショイアー, ヴェルナー
【審査官】 伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】 GEE, M.S. et al.,Int J Cancer,2007年,Vol.121, No.11,p.2492-500
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 49/00
A61B 10/00
A61B 5/00
G01N 21/00
G01N 33/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療用抗体に対して好ましく応答する傾向があるがん患者を同定するための非侵襲的方法であって、
(a)少なくとも1つの所定の波長の励起光を前記患者の所定領域へと方向付けるステップと、
(b)蛍光標識された治療用抗体から放射される、(a)の所定の波長から識別可能な波長を有する放射光を近赤外蛍光イメージング(NIRF)により検出し、検出した放射光に基づき、前記治療用抗体に対して好ましく応答する傾向があるがん患者を同定するステップと
を含み、
前記がん患者が、蛍光標識された形態にある前記治療用抗体を、同定前に施された患者であり;前記蛍光標識された治療用抗体が、がん患者の腫瘍細胞に結合し;かつ
患者に由来する組織試料中の腫瘍細胞のサブセットをエクスビボにおいて検出するステップをさらに含み、前記患者が、蛍光標識された治療用抗体を、前記組織試料の摘出前に施された患者であり;前記蛍光標識された治療用抗体が、がん患者の腫瘍細胞に結合する、方法。
【請求項2】
前記患者が、がんを患うと診断された患者である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記患者の前記所定領域が、前記患者の少なくとも乳房、肝臓、腎臓、膀胱、肺、前立腺、または膵臓を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記がんが乳がんである、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記蛍光標識が、量子ドット剤、蛍光染料、pH感受性蛍光染料、電圧感受性蛍光染料、および蛍光標識されたマイクロスフェアからなる群から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞のサブセットが、直接的または間接的免疫組織化学により検出される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記免疫組織化学が、以下のステップ:
(a)前記組織試料を、免疫組織化学に適する条件下で用意するステップ;
(b)場合によって、前記組織試料を固定するステップ;
(c)治療用抗体、およびこれにより、細胞のサブセットを、直接的または間接的に検出するステップ
を特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
がん患者が、異種移植片腫瘍モデルである、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記異種移植片腫瘍モデルが、腫瘍を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記腫瘍が、ヒトに由来する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記異種移植片腫瘍モデルが、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、またはヒト以外のサルである、請求項8から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
− 前記異種移植片腫瘍モデルにおいて、前記治療用抗体を、前記異種移植片腫瘍モデル内のその標的に結合させた後で、近赤外蛍光イメージング(NIRF)により検出するステップと;
− 前記治療的に有効な抗体を前記異種移植片腫瘍モデル内の前記標的に結合させた後で、最も強い蛍光シグナルを示す異種移植片腫瘍モデルを選択するステップと
をさらに含む、請求項8から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記異種移植片腫瘍モデルが、蛍光標識された治療用抗体を、前記治療用抗体を検出する前に投与される、請求項8から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
治療用抗体に対して好ましく応答する傾向があるがん患者を同定するためのキットであって、
(a)少なくとも1つの所定の波長の励起光を前記患者の所定領域へと方向付けるための手段と、
(b)蛍光標識された治療用抗体から放射される、(a)の所定の波長から識別可能な波長を有する放射光を近赤外蛍光イメージング(NIRF)により検出するための手段であって、検出した放射光に基づき、前記治療用抗体に対して好ましく応答する傾向があるがん患者を同定するための手段と
を含み、
前記がん患者が、蛍光標識された形態にある前記治療用抗体を、同定前に施された患者であり;前記蛍光標識された治療用抗体が、がん患者の腫瘍細胞に結合し;かつ
クスビボにおいて、蛍光標識された治療用抗体が患者からの組織試料中の腫瘍細胞のサブセットに結合することを検出するための手段をさらに含み、前記患者が、蛍光標識された治療用抗体を、前記組織試料の摘出前に施された患者であるキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療用抗体に対して好ましく応答する傾向がある癌患者を同定する方法および手段の他、治療用抗体についての前臨床試験に最も適格な異種移植片腫瘍モデルをインビボにおいて選択する方法を提供する。これらの方法は、その単純さ、短い走査時間、および危険のない放射のために優れたイメージング技術である、近赤外蛍光イメージングを適用する。
【背景技術】
【0002】
動物モデルとは、工程中に実際のヒトに危害を及ぼす危険性を伴わずに疾患をよりよく理解する目的で、ヒト疾患の研究および探索において用いられる、ヒト以外の生きた動物である。選択される動物は通常、必要に応じて、ヒトの生理学的特質に類似する形で疾患またはその処置に反応するように決定されたヒトとの分類学的同等性を満たす。ヒト疾患のためには、動物モデルを用いることにより多くの薬物、処置、および治癒が開発されている。
【0003】
癌のマウスモデルは、ヒト臨床試験を進めるために新たな抗癌薬の適格性を調べるのに、長期間にわたり用いられている。最もよく用いられているモデルは、無胸腺(ヌード)マウスまたは重度複合免疫不全(SCID)マウスなどの免疫不全マウスにおいて皮下増殖させたヒト腫瘍の異種移植片である(SausvilleおよびBurger、Cancer Res.(2006)、66:3351〜3354;Kerbel、Cancer Biology & Therapy 2:4:増刊1(2003):S134〜S139;Troianiら、Crit.Rev.Oncol/Hematol(2008)、65:200〜211)。
【0004】
新たな潜在的医薬についての試験は、その医薬についての、動物における前臨床試験を要請する。とりわけ、医薬として試験する分子を選択したら、利用可能な適格性が最良の動物モデルを有することが重要である。ヒト用の抗腫瘍薬を試験する場合は、利用可能な最も適切な異種移植片腫瘍モデルを有することが要請される。実のところ、各特定のモデルの関与性は、同じヒト腫瘍型において観察される組織学的特質、生理学的効果、生化学的経路、および転移パターンをどれほど近似的に再現するのかに依存する。したがって、最も適切な異種移植片モデルの作製および選択が最重要である。とりわけ、抗癌抗体を試験する場合は、利用可能な最も適切な異種移植片モデルを有することが高度に所望される。
【0005】
こうして、研究者らは、同系モデル、ヒト腫瘍異種移植片モデル、同所性モデル、転移モデル、トランスジェニックモデル、および遺伝子ノックアウトモデルを含め、患者の臨床試験にかける化合物および処置を選択するための多くのモデルを開発した。しかし、モデルの開発に多大な努力が投入されたが、モデルを、医薬、例えば、抗体を試験するのに要請される必要に適合させるのに有効な戦略は利用可能となっていない。特に、多くのモデルが利用可能であるが、研究者らが、例えば、潜在的な、治療的に有効な抗体についてそれらを試験するのに最も適切なモデル(異種移植片モデル)を選択することを可能とする基準は、利用可能となっていない。したがって、より良好な異種移植片モデルが利用可能でありえたにもかかわらず、誤った(すなわち、不適合性の)異種移植片モデルを選択することが生じうる。しかし、誤った異種移植片モデルは、抗体の標的を大量に発現させることが知られていたために選択された可能性もあり、インビトロの免疫組織化学により決定される抗体−標的間相互作用の解析において良好な効能を示した可能性もある。したがって、より適切なモデルが利用可能でありえたにもかかわらず、最も適切な異種移植片モデルの選択を可能とする手段および方法が手中になかったために選択されなかったことになろう。
【発明の概要】
【0006】
よって、本発明の技術的問題は、上記の必要を満たすことである。
【0007】
本発明は、これらの必要に対処し、これにより、技術的問題に対する解決として、手段、例えば、ツールおよびキットの他、治療的に有効な抗体についての前臨床試験に最も適格な異種移植片腫瘍モデルをインビボにおいて選択するためにこれらの手段を適用する方法および使用に関する実施形態を提供する。同様に、本発明は、治療用抗体に対して好ましく応答する傾向がある癌患者を同定する手段および方法も提供する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書では、これらの実施形態が特徴付けられ、記載され、実施例では、これらが例示され、特許請求の範囲では、これらが反映される。
【0009】
本明細書で用いられる単数形の「ある(a)」、「ある(an)」、および「その」は、文脈により別段に明確に示されない限り、複数の言及を包含することに注意しなければならない。したがって、例えば、「ある試薬」に対する言及は、このような異なる試薬のうちの1または複数を包含し、「その方法」に対する言及は、当業者に知られている同等なステップおよび方法であって、改変することもでき、本明細書で記載される方法と置換することもできるステップおよび方法に対する言及を包含する。
【0010】
本開示で引用される全ての刊行物および特許は、参照によりそれらの全体において組み込まれる。参照により組み込まれる文献が、本明細書と矛盾するか、または不整合である程度において、本明細書は、任意のこのような文献に優先される。
【0011】
別段に示されない限り、一連の要素に前置される「少なくとも」という用語は、その一連の要素の中のあらゆる要素を指すと理解すべきである。当業者は、本明細書で記載される本発明の特定の実施形態との多くの同等物を認識するか、または日常的な実験だけを用いてこれらを確認することができるであろう。このような同等物は、本発明に包摂されることが意図される。
【0012】
後続する本明細書および特許請求の範囲の全体において、文脈が別段に要請しない限り、「〜を含む(comprise)」という語、ならびに「〜を含む(comprises)」および「〜を含む(comprising)」などの変化形は、言明された整数もしくはステップまたは整数もしくはステップの群の包含を含意するが、他の任意の整数もしくはステップまたは整数もしくはステップの群の除外は含意しないと理解される。本明細書で用いられる場合の「〜を含む」という用語は、「〜を含有する」という用語、または、場合によって、本明細書で用いられる場合の「〜を有する」という用語で置換することができる。
【0013】
本明細書で用いられる場合の「〜からなる」は、特許請求の範囲内の要素に特定されない任意の要素、ステップ、または成分を除外する。本明細書で用いられる場合の「〜から本質的になる」は、特許請求の範囲の基礎的で新規な特徴に物質的に影響を及ぼさない材料またはステップを除外しない。本明細書の各場合において、「〜を含む」、「〜から本質的になる」、および「〜からなる」という用語のうちのいずれかは、他の2つの用語のうちのいずれかで置き換えることができる。
【0014】
本明細書で用いられる列挙される複数の要素の間の「および/または」という接続詞用語は、個別の選択肢および組み合わされた選択肢の両方を包摂するものとして理解される。例えば、2つの要素を「および/または」で接続する場合、第1の選択肢は、第2の要素を伴わない第1の要素の適用可能性を指す。第2の選択肢は、第1の要素を伴わない第2の要素の適用可能性を指す。第3の選択肢は、第1の要素と第2の要素とを併せた適用可能性を指す。これらの選択肢のうちの任意の1つは、その意味の範囲内に収まる、したがって、本明細書で用いられる「および/または」という用語の要請を満たすと理解される。また、並列される複数の選択肢の適用可能性もその意味の範囲内に収まり、したがって、本明細書で用いられる「および/または」という用語の要請を満たすと理解される。
【0015】
本明細書で記載される「好ましい実施形態」は、「本発明の好ましい実施形態」を意味する。また、本明細書で記載される「多様な実施形態」および「別の実施形態」も、それぞれ、「本発明の多様な実施形態」および「本発明の別の実施形態」を意味する。
【0016】
本明細書の本文全体では、いくつかの文書が引用される。本明細書で引用される文書(全ての特許、特許出願、研究刊行物、製造元の規格書、指示書などを含めた)の各々は、前出であれ、後出であれ、参照によりそれらの全体において本明細書に組み込まれる。本明細書におけるいかなる内容も、本発明が、先行の発明によりこのような開示に先行する権利が与えられていないことの容認として解釈すべきではない。
【0017】
治療的に有効な抗体についての前臨床試験に最も適格な異種移植片腫瘍モデルを選択することを目的とする本出願の発明者らは、本明細書で記載される本発明の方法であって、最も適格な異種移植片腫瘍モデルの選択を可能とする方法を開発した。
【0018】
したがって、本発明は、治療的に有効な抗体についての前臨床試験に最も適格な異種移植片腫瘍モデルをインビボにおいて選択する非侵襲的方法であって、
(a)1または複数の異種移植片腫瘍モデルにおいて、蛍光標識された前記治療的に有効な抗体を、前記異種移植片腫瘍モデル内のその標的に結合させた後で、近赤外蛍光イメージング(NIRF)により検出するステップと;
(b)前記治療的に有効な抗体を前記異種移植片腫瘍モデル内の前記標的に結合させた後で、最も強い蛍光シグナルを示す異種移植片腫瘍モデルを選択するステップと
を含む方法を提供する。
【0019】
したがって、本発明の方法は、治療的に有効な抗体についての前臨床試験に最も適格な(すなわち、適切な)異種移植片腫瘍モデルをインビボにおいて選択するものであり、本質的にそうである。本発明の方法はまた、異種移植片腫瘍モデルを、治療的に有効な抗体についての前臨床試験に最適化するものでもある。
【0020】
本発明の方法はまた、好ましくは、ヒト癌の組織学的に無傷な断片(細胞、腫瘍組織を含めた)を含めた腫瘍が、ヒト患者から直接採取(外植)され、ヒト以外の哺乳動物(好ましくは、マウスまたはラット)の対応する場所(ヒト以外の動物のそれぞれの器官を含めた)へと植え込まれる点で、抗体ベースの療法をカスタマイズするのにも適用することができる。したがって、治療的に有効な抗体を、抗体ベースの療法に最も有効であるのかどうかについて試験することができる。したがって、このような同所性モデルは、ヒトにおける腫瘍のインビボ状況を反映すると見なされる(さらなる詳細については、本明細書の別の箇所を参照されたい)。しかし、本発明の方法は、異種移植片腫瘍モデルに限定されるものではなく、また、治療用抗体に対して好ましく応答する傾向がある癌患者を同定するのにも適用可能である。言い換えれば、本発明の方法はまた、本明細書の下記で詳細に記載される通り、患者を層別化する目的でも用いられる。加えて、標識抗体は、術中術にも適用することができる。この近赤外誘導術は、腫瘍組織の同定において外科医師を支援する。さらに、標識抗体は、内視鏡手順に基づく腫瘍組織の診断も支援しうる。
【0021】
したがって、本発明は、腫瘍が皮下で増殖する異種移植片腫瘍モデルまたは同所性異種移植片腫瘍モデルなど、1または複数の異種移植片腫瘍モデルを作製し、その結果、本発明の方法を実施することにより治療的に最も有効な抗体について試験するのに最も適格な異種移植片腫瘍モデルを選択する点で、抗体ベースの療法の調整を可能とする。
【0022】
さらに、本発明の方法は、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50以上の異種移植片腫瘍モデルを含む潜在的な異種移植片腫瘍モデルのパネルが、治療的に有効な抗体についての前臨床試験に適するかどうかについての試験を可能とする。とりわけ、本明細書で記載される方法は、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50以上の異種移植片腫瘍モデルについての同時的な試験を可能とする。
【0023】
本明細書で記載される方法および使用は、治療的に有効な抗体についての前臨床試験に最も適格な異種移植片腫瘍モデルの、インビボにおけるリアルタイムの選択を可能とする、すなわち、選択におけるインビトロステップ(免疫組織化学など)が要請されず、かつ/または写真の現像など、データの作成および収集における遅延が生じない。したがって、治療的に有効な抗体の効能のいかなる変化も、直接的に(オンラインで)視覚化することができる。
【0024】
したがって、本発明の方法の利点は、本発明の方法が、最も適格な異種移植片腫瘍モデルの選択を可能とするように、潜在的な治療用抗体についての前臨床試験のための異種移植片腫瘍モデルの効能を、インビボにおいてリアルタイムの条件下でイメージングすることを可能とすることである。したがって、最も適格な異種移植片腫瘍モデルは、ヒトにおいて存在するインビボの条件を反映すると見なされるので、本発明の方法は、治療的に有効な抗体のその標的に対する効能についての、インビボにおけるシミュレーションを可能とする。
【0025】
実のところ、本発明者らは、IHCなど、インビトロ試験において良好な結果を示し、かつ/または治療的に有効な抗体の標的を発現させることが知られているために、治療的に有効な抗体についての前臨床試験に最も適格であると見なされた異種移植片腫瘍モデルが、例えば、治療的に有効な抗体がその標的に適正に結合せず、かつ/または免疫細胞を十分に活性化しない点で、この抗体がこのモデルにおいて前臨床活性を示すことを可能としないことを見出した(図1−1〜1−3および2−1〜2−3を参照されたい)。
【0026】
本発明者らはまた、IHCなど、インビトロ試験において失望すべき結果、なおまたは不満足な結果を示すために、治療的に有効な抗体についての前臨床試験に適格でないと見なされた異種移植片腫瘍モデルが、治療的に有効な抗体についての、このモデルにおける前臨床試験に適することも見出した(図3−1〜3−4を参照されたい)。
【0027】
特に、本発明者らは、異種移植片腫瘍モデルの、治療的に有効な抗体についての前臨床試験への適性を選択および/または検証するための標準的なインビトロ試験を適用するのではなく、近赤外蛍光(NIRF)イメージングを適用して、異種移植片腫瘍モデルの効能をモニタリングし、付属の実施例で例示される前述の知見を得た。
【0028】
よって、本発明者らは、治療的に有効な抗体についての前臨床試験に最も適格な異種移植片腫瘍モデルを選択するのにインビトロにおいて一般に適用される技法が信頼できるものではないのに対し、最も適格な異種移植片腫瘍モデルを選択するためのインビボにおけるモニタリングはより信頼できることを結論付けた。これにより、本発明者らは、本発明の方法を開発した。
【0029】
本発明の方法はまた、診断的に最も有効な抗体を(前臨床的)試験するための異種移植片腫瘍モデルを選択するのにも適用可能である。したがって、診断的態様に関する限り、本明細書で記載される全ての実施形態では、「治療的に」もしくは「治療的」という用語またはこれらの他の任意の文法的形態が、「診断的に」もしくは「診断的」またはこれらの任意の文法的形態も意味すると理解すべきである。例を目的として述べると、治療的に有効な抗体は、その結果、診断的に有効な抗体である。
【0030】
腫瘍(または癌)の多様な異種移植片腫瘍モデルが利用可能であることが知られている(National Cancer Institute(NCI)のMouse Models of Human Cancers Consortium(MMHCC)(http://emice.nci.nih.gov/mouse_models/)を参照されたい)。例えば、抗体など、薬物の前臨床試験に用いうる、消化器癌モデル、造血系癌モデル、肺癌モデル、乳腺癌モデル、神経系癌モデル、卵巣癌モデル、前立腺癌モデル、または皮膚癌および黒色腫モデルなどの多様なマウスモデルが利用可能である。
【0031】
しかし、あらゆる異種移植片腫瘍モデルが、薬物、特に、抗体を試験するのに適するわけではない。これは、抗体を試験することが、抗体がその標的に結合すことができるかどうか見ようと試験することを包含するためである。しかし、抗体のその標的への結合は、本明細書の別の箇所で記載される通り、十分な数の標的分子が異種移植片腫瘍の細胞により抗体へと供給されるような、その標的の十分な発現、そのグリコシル化状態などの標的の状態、標的が脱落しうるのか覆い隠されうるのかなど、多様な因子に依存しうる。
【0032】
したがって、治療的に有効な抗体についての前臨床試験に最も適格な異種移植片腫瘍モデルを選択することが決定的である。したがって、本発明は、本明細書で記載されるNIRF法を適用することにより、治療的に有効な抗体についての前臨床試験に最も適格な異種移植片腫瘍モデルをインビボにおいて選択する方法および手段を提供する。本明細書において言及される通り、治療的に有効な抗体を前臨床的に試験するための多くの異種移植片腫瘍モデルが利用可能である。したがって、本発明の方法および手段に従い選択される最も適格な異種移植片腫瘍モデルは、潜在的な異種移植片腫瘍モデルのパネルの中から選択されることが好ましい。
【0033】
「潜在的な異種移植片腫瘍モデルのパネル」は、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100以上の異種移植片腫瘍モデルを包含しうる。
【0034】
本発明の方法は、非侵襲的である。本明細書で用いられる「非侵襲的」とは、本発明の方法、使用、および/またはキット/デバイスが、前記対象の皮膚および/または粘膜の損傷を創出せず、皮膚/粘膜の放射との接触を可能とし、これを伴い、また、放射による皮膚/粘膜および全ての後続層の透過も可能とし、これも伴うことを意味する。したがって、放射は、例えば、本発明の文脈において本明細書で記載される励起光、放射光など、全ての種類の光を包含する。
【0035】
「インビボ」という用語は、治療的に有効な抗体についての前臨床試験に最も適格な異種移植片腫瘍モデルを、リアルタイムの条件下で選択することを包含する。したがって、「インビボ」とは、ヒト以外の生きた哺乳動物(被験動物)においてイメージング技術または走査技術を用いて、治療的に有効な可能性がある抗体を位置特定および/または検出することを指す。
【0036】
したがって、異種移植片腫瘍モデルにおける抗体の効能を、ヒト以外の生きた哺乳動物(被験動物)においてモニタリングすることができる。よって、本発明の方法は、生物の部分または死亡した生物において実行するものではない。したがって、異種移植片腫瘍モデルのインビボにおける選択は、ヒトにおいて生じる/存在するシナリオを反映すると見なされ、これにより、対象における自然発生の条件を考慮に入れるものである。
【0037】
したがって、本発明の方法は、治療的に活性な抗体についての前臨床試験に最も適切である、最も適格な異種移植片腫瘍モデルを選択することを可能とする。例えば、治療的に有効な抗体の標的抗原は、異種移植片腫瘍モデルにおけるその発現レベルの点で発現が異なる場合もあり、覆い隠される、通常とは異なる形でグリコシル化されるなどして、これにより、異種移植片腫瘍モデル間で差違を創出する場合もある。しかし、本発明の方法は、これらの潜在的な問題を克服し、これにより、抗体ベースの療法において適用されることが意図されることが好ましい、治療的に有効な抗体についての前臨床試験に最も適格な異種移植片腫瘍モデルの選択を利用可能とする。
【0038】
本発明の実施形態では、本発明の方法により選択される最も適格な異種移植片腫瘍モデルにおいてその前臨床活性について試験される抗体が、蛍光標識されている。
【0039】
治療的に活性な抗体は、治療的に活性でありうる抗体のパネルから選択しうることが好ましい。治療的に有効な可能性がある抗体の「パネル」は、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、120、140、150、160、180、200、220、240、250、260、280、300、400、500、600、700、800、900、または1000の抗体を包含しうる。したがって、治療的に有効な可能性がある抗体のパネルに含まれる抗体は蛍光標識されている、すなわち、前記パネルに含まれる抗体の各々は蛍光標識されている。
【0040】
理論に拘束されることなく述べると、パネルに含まれる抗体は、同じ所望の標的に結合するが、互いと異なることが想定される。例えば、パネルに含まれる抗体は、前記標的の異なるエピトープに結合する場合もあり、前記標的に異なるアフィニティーで結合する場合もある。
【0041】
好ましい実施形態では、治療的に有効な可能性がある抗体のパネルが、対象、好ましくは、ヒトの療法において用いられることが意図される抗体を含む。
【0042】
本明細書で用いられる場合の対象には、哺乳動物対象および非哺乳動物対象が含まれ、哺乳動物対象が好ましく、ヒトが、特に、好ましい。本発明の目的のための「哺乳動物」は、ヒト、家畜動物および農場動物、ヒト以外の霊長動物、および乳房組織を有する他の任意の動物を含め、哺乳動物として分類される任意の動物を指す。哺乳動物には、ヒト、マウス、ラット、モルモット、ウサギなどの齧歯動物、イヌ、ネコ、ウマ、ラクダ、ブタ、ウシ、ヤギ、チンパンジーなどが含まれるが、ヒトが好ましい。対象にはまた、ヒト患者および獣医科患者も含まれる。
【0043】
本明細書ではまた、本発明の文脈で用いられる場合の「異種移植片腫瘍モデル」という用語を、「異種移植片癌モデル」または「異種移植片モデル」とも称する。したがって、これらの用語は同等に用いることができる。
【0044】
本明細書で用いられる場合の「異種移植片」とは、1つの種の対象に由来する組織または器官であって、別の種、属、または科の生物へと移植される(transplantedまたはgrafted)組織または器官である。本発明では、異種移植片が、好ましくは、ヒト対象に由来し、ヒト以外の対象、好ましくは、ヒト以外の哺乳動物、好ましくは、ラット、マウス、モルモット、ハムスターなど、齧歯動物(マウスが好ましい)であるか、またはチンパンジーもしくはマカクザルなど、ヒト以外の霊長動物へと移植される(transplantedまたはgrafted)。
【0045】
組織または器官は、本明細書で記載される悪性/癌性細胞を含む腫瘍に由来することが好ましい。腫瘍は、ヒトに由来することが好ましい。腫瘍は、組織学的に無傷な断片を包含することが好ましい。断片は、腫瘍細胞および/または腫瘍組織を包含する。
【0046】
本発明の方法の異種移植片腫瘍モデルは、ヒト以外の哺乳動物(本明細書では、場合によってまた、「被験動物」とも称する)である。ヒト以外の哺乳動物は、齧歯動物であることが好ましい。齧歯動物は、マウス、ラット、モルモット、またはハムスターであることがより好ましい。ヒト以外の哺乳動物はまた、ウサギ、イヌ、ネコ、ウマ、ラクダ、ブタ、ウシ、ヤギ、またはチンパンジーもしくはマカクザルなど、ヒト以外のサルでもありうる。
【0047】
被験動物とは、本発明の文脈では腫瘍である異種移植片が移植される(graftedまたはtransplanted)、ヒト以外のレシピエントの哺乳動物(本明細書では場合によってまた「ヒト以外のレシピエントの哺乳動物」または「レシピエントの異種移植片腫瘍モデル」とも称する)である。ヒト以外のレシピエントの哺乳動物は、異種移植片を受容することが可能である。したがって、ヒト以外のレシピエントの哺乳動物は、免疫障害であることが好ましく、かつ/または移植片拒絶免疫応答を開始し、これにより、外来組織を自己として受容することが大抵は不可能であることが好ましい。免疫障害動物の例には、重度複合免疫不全(SCID)マウス、SCID/ベージュマウス、ヌードマウス、NIH−nu−bg−xidマウスなどが含まれる。
【0048】
被験動物に含まれる異種移植片腫瘍は、同じヒト腫瘍型において観察される腫瘍の組織学的特質、生理学的効果、生化学的経路、および転移パターンを再現することが好ましい。したがって、異種移植片腫瘍モデルは、腫瘍増殖、転移などについての研究を可能とする。
【0049】
「免疫障害」という用語は、移植された外来細胞または組織を、ヒト以外のレシピエントの哺乳動物による拒絶の可能性を最小限として増殖させるために、免疫系が部分的または完全に抑制された、ヒト以外のレシピエントの哺乳動物について記載するのに用いられる。特に、免疫障害という用語は、生物学的手段または化学的手段により部分的または完全に免疫抑制されたヒト以外の哺乳動物について記載するのに用いられる。当技術分野では、化学的免疫抑制剤がよく知られており、とりわけ、シクロスポリンによる処置の反復はよく知られている。免疫障害という用語はまた、部分的または完全に免疫不全であるヒト以外の哺乳動物も包含する。これらのヒト以外の哺乳動物には、機能的なT細胞免疫、および/またはB細胞免疫、および/またはNK細胞免疫を有さない齧歯動物が含まれる。このような齧歯動物のさらなる非限定的な例は、ヌードマウス、重度複合免疫不全(SCID)マウス、SCID/ベージュマウス、またはNIH−nu−bg−xidマウスである。例えば、Balb/cヌードマウス、CD−I、Fox Chase SCID、MRL、NIH−III、NOD−SCID、Nu/Nu、Swissヌードなど、およびこれらのマウスと交雑して免疫障害バックグラウンドを有するマウスなど、自然発生の場合もあり、誘導性の場合もある遺伝子欠損の結果として不全であるものを含め、さらに他の免疫障害または免疫不全のマウス、齧歯動物、または他の動物も用いることができる。マウスに加えてまた、免疫不全ラットまたは類似の齧歯動物も、本発明を実施するのに使用することができる。
【0050】
したがって、ヒト異種移植片腫瘍モデルは、腫瘍、好ましくは、ヒト腫瘍の組織学的に無傷な断片(細胞、組織などを含めた)を、ヒト以外の免疫不全哺乳動物(被験動物)、好ましくは、マウス、ラット、ハムスター、モルモットなど、齧歯動物(マウスが好ましい)へと移植する(graftingまたはtransplanting)ことにより作製する。また、好ましくはヒトに由来する初代腫瘍細胞または初代腫瘍細胞系を、ヒト以外の免疫不全哺乳動物へと移植する。さらに、また、好ましくはヒトに由来する確立された腫瘍細胞系も、ヒト以外の免疫不全哺乳動物へと移植することができる。
【0051】
「移植(grafting)」とは、ヒト以外の哺乳動物における組織または細胞の、対象(ドナー)、好ましくは、ヒト対象の1つの領域から、ヒト以外の哺乳動物(レシピエント)への接種、植込み、移植(transplanting)、または植替えを指す。
【0052】
例えば、植込みは、注射により達成することができる。このような異種移植片は、単独で導入することもでき、インビトロにおいて腫瘍細胞の増殖を増強することが示されている細胞外マトリックス調製物である、Matrigel(BD Biosciences)などの基底膜組成物と共に導入することもできる。移植は、皮内移植でありうる。「皮内移植」とは、皮膚の表面における組織の植込みを指す。移植は、皮下移植でありうる。「皮下移植」とは、レシピエントの異種移植片モデルの皮膚の下における、腫瘍細胞および/または腫瘍組織の植込みを指す。移植部位は、レシピエントの皮膚組織または宿主の皮膚組織で完全に包み込むことが好ましい。したがって、異種移植片は、ヒト以外のレシピエントの哺乳動物、例えば、ヌードマウスの脇腹への皮下注射を介して植え込まれる。移植はまた、同所性移植も包含する。「同所性移植」では、腫瘍組織および/または腫瘍細胞を、元の器官の部位に植え込む。この器官特異的な部位はおそらく、増殖および発育に最適の環境を腫瘍細胞に提供し、臨床状況を最も緊密に反映しうる。
【0053】
多様な皮下異種移植片腫瘍モデル:乳房(MCF−7、MDA−MB−231、SK−BR−3、BT474、MDA−MB−231、MDA−MB−435、MDA−MB−453、MDA−B−468、MDA−MB−469、MX−1、T−47D、ZR−75−1)、前立腺(DU−145細胞、PC−3細胞、LNCaP細胞)、結腸直腸(HT−29細胞、HCT−116細胞、DLD−1細胞、SW620細胞、LoVo細胞、Colo−205細胞、SW480細胞、Colo−320DM細胞、HCT116細胞、HCT8細胞)、肺(A549細胞、NCI−H460細胞、SK−MES−1細胞、NCI−H226細胞、Calu−3細胞、Calu−6細胞、H23細胞、h249細胞、H345細胞、H460細胞、H522細胞、H125細胞、H1299細胞、H1703細胞、H1975細胞、N−592細胞、SK−MES−1細胞、WI−38細胞)、膠芽腫/脳(9L細胞、C6細胞、D54細胞、DBTRG細胞、SF−295細胞、SF−539細胞、SF767細胞、SNB−19細胞、U87MG細胞、U251細胞、U−373MG細胞)、線維肉腫(HT−1080細胞)、膵臓(Mia−Paca−2細胞、Bx−PC−3細胞、Capan−1細胞、Capan−2細胞、Capan−3細胞、pa/III細胞、Pan02細胞、Pan03細胞、Panc−1細胞、Su.86.86細胞、AsPc−1細胞)、腎臓(786−O細胞、A498細胞)、肝臓(HepG2細胞、SK−HEP−1細胞、Hep3B細胞、PLC/PRF/5細胞)、骨肉腫(143B細胞、SJSA−1細胞、Saos−2細胞)、黒色腫(A375細胞、SK−MEL−5細胞、A2058細胞)、鼻咽頭(CNE2細胞)、胃(Gastric)(MGC803細胞、BGC823細胞、NCI−N87細胞)、卵巣(C−33A細胞、SK−OV−3細胞、OVCAR−3細胞、OVCAR−4細胞、OVCAR−5細胞)、白血病(K562細胞、HL−60細胞、MV−4−11細胞)、リンパ腫(Namalwa細胞、Daudi細胞)、多発性骨髄腫(RPMI−8226細胞)、ALL(MOLT−4)、AML/CML(HL60、KG1、OPM−2、P388、THP−1)、口腔癌(KB細胞)、膀胱(T24細胞、5637細胞)、頭頸部(HONE−T−1)、皮膚(A375、A431、b16、Lox IMVI、Malme−3m、WM−115)、胃(Stomach)(N87)、子宮(DX5)が利用可能である(これらのモデルにおいて用いられる細胞系をカッコ内に示す)。
【0054】
多様な同所性の異種移植片腫瘍モデル:乳房(BT474細胞、MDA−MB−231細胞、MCF−7細胞、MCF−7(her2+)細胞)、前立腺(LNCaP細胞、DU−145細胞)、肺(A549細胞、H1975細胞)、膠芽腫(U87MG細胞、LN−229細胞)、膵臓(MiaPaCa−2細胞、PANC−1細胞)、腎臓(786−O細胞)、肝臓(HepG2細胞)が利用可能である。
【0055】
前述の異種移植片腫瘍モデルは、本明細書の別の箇所で記載される、異種移植片腫瘍モデルのパネルの非網羅的な例である。
【0056】
理論に拘束されることなく述べると、有用ではあるが、ヒト癌の異種移植片腫瘍モデルは、実際の疾患をなおより緊密に再現するように改善しうるであろう。例えば、異種移植片は、通常の腫瘍の構成の喪失を示す場合があり、初代腫瘍では明らかでなかった優性のクローンからなることが多い。さらに異種移植片では、血管系およびリンパ系が十分に確立されない場合があり、免疫応答の異常が見られる場合もある。
【0057】
したがって、異種移植片腫瘍モデルは、異種移植片腫瘍モデルのヒト化を達成することを目的とする遺伝子操作により操作することができる。例えば、Eμ−Bcl2トランスジェニック動物またはEμ−Mycトランスジェニック動物における免疫グロブリン重鎖エンハンサーなど、異所性のプロモーターエレメントおよびエンハンサーエレメントを用いることにより、特定の組織内で癌遺伝子またはドミナントネガティブの腫瘍抑制遺伝子などのトランス遺伝子を過剰発現させることができる。転写(Tet系)を制御するデオキシサイクリン、またはタンパク質の機能を制御するタモキシフェンなど、外因性リガンドを用いることを介してトランス遺伝子の機能を制御する能力により、組織における癌遺伝子発現の一時的調節および「癌遺伝子の付加」の実証が可能となっている。例えば、K−rasおよびH−rasのデオキシサイクリンによる調節により、これらの癌タンパク質の、肺癌および黒色腫それぞれの誘導および維持における役割が実証されている。
【0058】
したがって、K−RAS、H−RAS、N−RAS、EGFR、MDM2、RhoC、AKT1、AKT2、c−myc、n−myc、ss−カテニン、PDGF、C−MET、PI3K−CA、CDK4、サイクリンB1、サイクリンD1、エストロゲン受容体遺伝子、プロゲステロン受容体遺伝子、Her2、ErbB1、ErbB3、ErbB4、TGFxx、TGF−ss、ras−GAP、Shc、Nck、Src、Yes、Fyn、Wnt、Bel2、PyV MT、および/またはSV40LTなどの癌遺伝子内に突然変異を導入することにより、異種移植片腫瘍細胞を遺伝子操作することが想定される。
【0059】
代替的に、かつ/または加えて、Rb、P53、INK4a、PTEN、LATS、Apafl、カスパーゼ8、APC、DPC4、KLF6、GSTP1、ELAC2/HPC2、またはNKX3−1、ATM、CHK2、ATR、BRCA1、BRCA2、MSH2、MSH6、PMS2、Ku70、Ku80、DNA/PK、XRCC4、またはMLH1、NF1、NF2、APC、WT、Patched、およびFHITなどの腫瘍抑制遺伝子内に突然変異を導入することにより、異種移植片腫瘍細胞を遺伝子操作することも想定される。
【0060】
このような技術はまた、ヒト家族性症候群において観察される、癌における腫瘍抑制遺伝子の喪失などの、癌における腫瘍抑制遺伝子の喪失が、ヒト以外の哺乳動物、好ましくは、齧歯動物、より好ましくは、マウスにおいて再現されることも可能とする。また、条件付けモデルも想定される。これらの技術は、Cre−LoxおよびFLP−FRTなどのリコンビナーゼを用いることにより、それらの内因性のプロモーターの制御下で、特定の組織における遺伝子の欠失または発現を可能とする。この技術はまた、タモキシフェン依存性のCre−ERTを用いることにより、Creのリガンド依存性活性化と組み合わせて、一時的制御の増大を達成することもできる。前述の癌遺伝子のうちのいずれかを条件付けで(過剰)発現させることもでき、かつ/または前述の腫瘍抑制遺伝子のうちのいずれかを条件付けで欠失させることもできる。
【0061】
したがって、非コード制御エレメント、免疫応答に関与する遺伝子、ならびに薬物代謝およびタンパク質のグリコシル化を制御する遺伝子を含め、ヒトゲノムの遺伝子座を保有するヒト以外の哺乳動物、好ましくは、齧歯動物、より好ましくは、マウスが操作されている。これらの改変の全ては、mRNAプロファイル、細胞バイオマーカーおよび血清バイオマーカー、腫瘍の代謝における変化および腫瘍の微小環境における関与性の変更が、ヒトにおける腫瘍形成において生じる変化をより緊密にモデル化することを可能とするはずであり、したがって、はるかにより有効に臨床へと変換されるはずである。
【0062】
したがって、本明細書で言及される異種移植片腫瘍モデルは、好ましくは、ヒト化の程度がより大きい異種移植片腫瘍モデルとなるように、前述の方法に従い遺伝子改変されることが想定される。異種移植片腫瘍モデルはまた、初代ヒト腫瘍細胞を、例えば、新鮮なヒト腫瘍断片として、ヒト以外の免疫不全哺乳動物、好ましくは、齧歯動物、より好ましくは、マウスへと移植するかまたは植え込む形でも確立することができる。理論に拘束されることなく述べると、細胞系ベースの従来の異種移植片腫瘍モデルと比較して、初代モデルは、患者の元の組織病理学的特質の他、遺伝子発現プロファイルもよりよく模倣することが可能であり、したがって、癌表徴に優先順位を付け、臨床有効性を推定するための予測値をよりよく提供しうる。以下は、Crown Bioscience Inc.(www.crownbio.com)から入手可能な、胃(gastric)癌モデル、結腸直腸癌モデル、肝臓癌モデル、肺癌モデル、頭頸部癌モデル、および腎臓癌モデルを含めた初代ヒト腫瘍モデルの非網羅的な例である。当然ながら、異種移植片腫瘍モデルはまた、当技術分野で知られる手段および方法によっても確立することができ、本明細書で言及される腫瘍を含めた任意の腫瘍から得られる任意の初代腫瘍細胞に基づきうる。
【0063】
しかし、治療的に有効な抗体が免疫系を介して作用しうる場合、例えば、ヌードマウスまたはSCIDマウスにおいて確立された腫瘍モデルは、実用的でないことがありえる。実際、ヌードマウスおよびSCIDマウスによる異種移植片モデルでは、T細胞機能が欠如するため、これらのモデルは、このような治療剤を試験するのに実用的ではない。したがって、この場合は、齧歯動物、好ましくは、マウスの同系腫瘍モデルが、研究を促進するのに最も適切である。
【0064】
したがってまた、本発明の方法が、治療的に有効な抗体についての前臨床試験に最も適格な同系腫瘍モデルをインビボにおいて選択するのに適用されることも想定される。本明細書で記載される方法ステップおよび実施形態は、この態様にも同等に適用可能である。例えば、同系腫瘍モデルは、マウスまたはラットの腫瘍細胞系を、対応する免疫コンピテントのマウス株またはラット株へと接種することにより創出する。肺(LLC細胞)、肝臓(H22細胞)、腎臓(Renca細胞)、または結腸(CT−26細胞)の同系腫瘍モデルが利用可能であり、本発明の方法において適用することが想定される。
【0065】
一般に、異種移植片腫瘍モデルおよび同系腫瘍モデルのいずれもが、腫瘍細胞増殖を評価するための堅実で再現可能なツールを提供する他、患者集団が腫瘍の処置および超音波による評価を容易に受けることも可能とする。転移性腫瘍の発生は、X線撮影、高解像度超音波イメージング、および剖検を介してモニタリングすることができる。
【0066】
本発明の実施形態では、ヒト以外の哺乳動物が、異種移植片、好ましくは、ヒト異種移植片を含み、前記異種移植片は、(ヒト)腫瘍(異種移植片(ヒト)腫瘍)である。したがって、本発明の方法および使用で適用される異種移植片腫瘍モデルは、腫瘍を含む。腫瘍は、異種移植片モデル種とは異なる種に由来する。好ましくは、異種移植片モデルが、ヒト腫瘍を含む。
【0067】
したがって、好ましい実施形態では、腫瘍が、ヒトに由来する。「腫瘍」という用語は、充実性腫瘍、対象から確立された、好ましくは、ヒト対象から確立された癌細胞系、または既に確立されて知られている細胞系、組織などを包含する。充実性腫瘍は、良性(癌でない)の場合もあり、悪性(癌)の場合もある。
【0068】
本明細書で用いられる場合の「充実性腫瘍」という用語は、消化器癌、膵臓癌、膠芽腫、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌(liver cancer)、膀胱癌、肝細胞癌、乳癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌腫または子宮癌腫、唾液腺癌腫、腎臓(kidneyまたはrenal)癌、前立腺癌、外陰癌、甲状腺癌、肝臓癌腫(hepatic carcinoma)、肛門癌腫、陰茎癌腫、精巣癌、食道癌、胆管の腫瘍の他、頭頸部癌、好ましくは乳癌の群から選択される腫瘍を指す。
【0069】
本発明の目的では、充実性腫瘍のサイズが、少なくとも1mm、好ましくは、2mmである。このサイズでは、充実性腫瘍が増殖および存続するかどうかが、増殖因子の十分な供給および毒性分子の除去の他、十分な酸素供給に依存する。固体組織では、酸素の毛細血管からの放射状の拡散は、例えば、約150〜200μmにわたるに過ぎず、このため、腫瘍は、血管による酸素の供給に依存し、このため、血管新生を開始する。
【0070】
例えば、充実性腫瘍は、消化器癌、膵臓癌、膠芽腫、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌(liver cancer)、膀胱癌、肝細胞癌、乳癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌腫または子宮癌腫、唾液腺癌腫、腎臓(kidneyまたはrenal)癌、前立腺癌、外陰癌、甲状腺癌、肝臓癌腫(hepatic carcinoma)、肛門癌腫、陰茎癌腫、精巣癌、食道癌、胆管の腫瘍の他、頭頸部癌の群から選択される腫瘍を指す。
【0071】
本明細書で用いられる場合の「癌」という用語は、腫瘍増殖を特徴とする医学的状態を指す。「癌」とは、したがって、制御されていない細胞増殖を典型的に特徴とする対象における生理学的状態である。
【0072】
腫瘍は、治療的に活性な抗体の(所望の)標的をそれらの表面において有する悪性/癌性細胞を含むことが好ましい。
【0073】
哺乳動物細胞の表面における(所望の)標的は、分子または分子の複合体であることが好ましい。
【0074】
細胞の「表面」は、細胞膜(また、原形質膜とも称する)を包含する。細胞膜とは、細胞(好ましくは、哺乳動物細胞)の内側を、外側の環境から分離する生物学的膜である。細胞膜は、全ての細胞を取り囲み、半浸透性であり、細胞内外への物質の移動を制御している。細胞膜は、多種多様な生物学的分子、主に、脂質およびタンパク質を含有する。これらのタンパク質は、本発明の意味における好ましい標的である膜貫通タンパク質、脂質アンカリングタンパク質、および末梢タンパク質を包含する。
【0075】
「膜貫通タンパク質」は、膜を貫通し、内部分子と相互作用する親水性の細胞質ドメインと、膜貫通タンパク質を細胞膜内にアンカリングさせる疎水性の膜貫通ドメインと、外部分子と相互作用する親水性の細胞外ドメインとを有する。「脂質アンカリングタンパク質」は、単一または複数の脂質分子に共有結合的に結合しており、疎水性相互作用により細胞膜へと挿入され、タンパク質をアンカリングさせる。「末梢タンパク質」は、内在性膜タンパク質に接合するか、または脂質二重層の末梢領域と会合する。
【0076】
本発明の教示に従い、受容体分子など、細胞の外側へと伸展するタンパク質は、抗体に標的とされうる抗原として典型的に利用可能である。これらのタンパク質は、好ましい。したがって、標的は、細胞外部分を有するタンパク質であることが好ましい。
【0077】
したがって、「受容体分子」という用語は、代謝型受容体、Gタンパク質共役型受容体、グアニリルシクラーゼ受容体、受容体チロシンキナーゼ、ムスカリン様アセチルコリン受容体、アデノシン受容体、アドレナリン受容体、GABA受容体、アンジオテンシン受容体、カンナビノイド受容体、コレシストキニン受容体、ドパミン受容体、グルカゴン受容体、代謝型グルタミン酸受容体、ヒスタミン受容体、嗅覚受容体、オピオイド受容体、サイトカイン受容体、カルシウム感知受容体、ソマトスタチン受容体、セロトニン受容体、セクレチン受容体、イオンチャネル型受容体、またはFc受容体を含めたケモカイン受容体など、リガンドに結合し、シグナルを典型的に伝達する、細胞膜上または細胞質内もしくは細胞核内のタンパク質に関する。
【0078】
さらなる好ましい標的は、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CFA、MUC−1、MAGE、p53、ETA、CA−125、CEA、AFP、PSA、PSMA、またはOE8である。
【0079】
本発明の腫瘍細胞または腫瘍細胞系は、制御されていない細胞増殖を特徴とする哺乳動物細胞である。本発明の腫瘍細胞または腫瘍細胞系は、全ての種類の細胞、例えば、器官細胞、筋細胞、神経細胞、免疫系細胞(PBMC、B細胞、T細胞、NK細胞、マクロファージを含めたリンパ球)、好酸球、好中球、好塩基球を包含しうる。好ましい実施形態では、前記哺乳動物細胞が悪性細胞である。
【0080】
「悪性」とは、漸進的に増悪する疾患、特に、腫瘍増殖または本明細書で記載される疾患に寄与する細胞について記載する。この用語は、腫瘍増殖を含めた癌についての記載として最もよく知られている。悪性細胞は、それらの増殖に自己限定されず、隣接組織へと侵襲することが可能であり、遠隔の組織へと拡大(転移)することが可能な場合がある。本明細書で用いられる場合の悪性とは、癌性と同義である。
【0081】
「前臨床試験」は、臨床試験のための情報を集めるための、ヒト以外の(被験)哺乳動物(被験動物)において治療的に有効な抗体についてのインビボ試験を包含する。この情報には、薬理学データ、毒性学データ、前処方データ、処方データ、薬物動態データ、薬力学データの収集および評価が含まれる。したがって、被験動物は、その標的への結合の有効性、半減期、血清クリアランスなど、抗体の典型的なパラメータについてのデータをもたらす。前臨床試験は、研究者が、ヒトにおける臨床試験のための抗体の安全な出発用量を相対成長的に推定することを可能とする。前臨床試験はまた、潜在的な有害作用を決定することも可能とする。前臨床試験に基づき、第1相臨床試験の初期用量レベルを患者体重当たりの医薬有効成分(API)質量ベースで決定するのに用いられる、薬物についての無影響量(NOEL)を確立する。
【0082】
前臨床試験は、治療的に有効な抗体の前臨床活性の決定を包含することが好ましい。前臨床活性には、治療的に有効な抗体の抗腫瘍活性、抗転移活性、腫瘍増殖の阻害、および/または転移の阻害についての試験が含まれ、好ましくは、腫瘍増殖の阻害についての試験が含まれる。腫瘍増殖の阻害は、治療的に有効な抗体が投与されない異種移植片腫瘍モデルと比較して、治療的に有効な抗体が投与される異種移植片腫瘍モデルにおいて生じる阻害%、例えば、10、20、30、40、50、60、70、80、90、または100%の腫瘍増殖の阻害(TGI)で示される(図および実施例を参照されたい)。
【0083】
本明細書で用いられる場合の「検出すること」は、蛍光標識から、例えば、本明細書で記載される抗体の蛍光標識から放射されるシグナルを検出するのに用いられる蛍光イメージングおよび/または走査技術を含めた近赤外蛍光イメージングとの関連で、任意の技法または工程を指す。「検出すること」は、異種移植片腫瘍モデルの身体(またはその部分)の領域についての画像であって、蛍光シグナルが位置特定可能であると予測される画像を創出することを包含する。例を目的として述べると、蛍光標識された抗体が異種移植片腫瘍の悪性細胞の表面に結合することが予測される場合は、画像を、異種移植片腫瘍が位置するその身体領域から創出する。検出することは、蛍光標識から、例えば、本明細書で記載される抗体の蛍光標識から放射されるシグナルについての定量的解析および/または定性的解析を包含する。
【0084】
本発明の方法において適用される蛍光標識された抗体を検出する場合に好ましい近赤外蛍光イメージングは、電磁スペクトルの近赤外領域を用いる分光法である。好ましい実施形態では、近赤外蛍光イメージングに、蛍光反射率イメージング(FRI)または蛍光媒介型断層撮影法(FMT)が含まれる。
【0085】
「領域」には、異種移植片腫瘍モデルの身体の任意の部分、異種移植片腫瘍モデルの任意の器官、および皮膚、筋肉、および骨を含めた、異種移植片腫瘍モデルの身体の表面が含まれる。「器官」には、消化系(唾液腺、食道、胃、肝臓、胆嚢、膵臓、腸、直腸、および肛門を含めた);内分泌系(視床下部、下垂体(pituitaryまたはpituitary gland)、松果腺(pineal bodyまたはpineal gland)、甲状腺、副甲状腺、および副腎(adrenals、すなわち、adrenal glands)などの内分泌腺を含めた);外皮系(皮膚、毛髪、および爪を含めた);リンパ系(リンパ系、リンパ節、扁桃腺、咽頭扁桃腺、胸腺、および脾臓を含めた);筋肉系;神経系(脳、脊髄、末梢神経、および神経を含めた);生殖系(卵巣、卵管、子宮、膣、乳腺、精巣、輸精管、精嚢、前立腺、および陰茎を含めた);呼吸器系(咽頭、喉頭、気管、気管支、肺、および横隔膜を含めた);骨格系(骨、軟骨、靭帯、および腱を含めた);および泌尿器系(体液平衡、電解質平衡、および尿の排出に関与する腎臓、尿管、膀胱、および尿道を含めた)から選択される1または複数の器官が含まれる。
【0086】
また、画像を、本明細書で記載される領域および/または異種移植片腫瘍モデルのさらなる領域から創出することも想定される。とりわけ、画像を、異種移植片腫瘍モデルの全身から創出して、蛍光標識された抗体を位置特定することが対象でありうる。例えば、治療的に最も有効な抗体の候補物質を、治療的に有効な可能性がある抗体のパネルの中から選択する一助とするために、血中の抗体の結合および/または存在をモニタリングして、例えば、抗体の結合特異性および/またはその分布、半減期などを決定することが対象でありうる。
【0087】
「異種移植片腫瘍モデルのさらなる領域から」は、任意の種類の測定の対象となりうる、異種移植片腫瘍モデルのさらなる規定されたまたは個別の部分または領域を意味する。例えば、蛍光標識された抗体の器官における分布、および/または蓄積、および/または分泌(分泌経路の決定)、および/または代謝(例えば、薬物の代謝物の生成)が検出および/または評価され、これが、例えば、最も適格な異種移植片腫瘍モデルを、潜在的な異種移植片腫瘍モデルのパネルの中から決定する一助となることが想定される。したがって、「さらなる領域」は、例えば、異種移植片腫瘍モデルの器官の部分、器官、血管ネットワーク、または神経細胞系を含む。次いで、創出された画像は、定性的および/または定量的に解析することができる。本発明の方法の文脈では、(蛍光)シグナルの強さ(強度)および/または量に基づき最も適格な異種移植片腫瘍モデルを選択するために、創出された画像を解析して、蛍光標識された抗体からの(蛍光)シグナルを、前記異種移植片腫瘍モデル内のその標的に結合させた後で決定する。
【0088】
とりわけ、治療的に有効な抗体を異種移植片腫瘍モデル内のその標的に結合させた後で最も強い蛍光シグナルを示す異種移植片腫瘍モデルが、好ましくは、(潜在的な異種移植片腫瘍モデルのパネルの中で)最も適格な異種移植片腫瘍モデルの候補モデルである(選択ステップ)。より具体的に述べると、異種移植片腫瘍モデルの異種移植片腫瘍中でその標的に結合させた後、抗体の蛍光シグナルの強さ/強度(すなわち、定量的な量)を決定し、別の異種移植片腫瘍モデル内の同じ抗体の蛍光シグナルの強さと比較する(すなわち、互いと比べて)。したがって、被験抗体のシグナルの強さを決定し、互いと比較し、これにより、最も強いシグナルを決定することができる。場合によって、バックグラウンド値(すなわち、蛍光標識された抗体から放射される蛍光シグナルの強さであって、蛍光標識された抗体が異種移植片腫瘍モデルの身体の別の箇所に位置し、所望の標的に位置しない場合の蛍光シグナルの強さ)を各抗体の蛍光シグナルの強さから減じて(すなわち、各蛍光シグナルを標準化して)から、最も強いシグナルを決定することができる。
【0089】
本明細書で言及される場合の「最も適格な異種移植片腫瘍モデルの候補モデル」という用語は、異種移植片腫瘍モデルが、有望な異種移植片モデルであって、治療的に有効な抗体についての前臨床試験に潜在的に有用な(すなわち、最も適格な)異種移植片モデルであることを意味する。このような候補モデルは、他の異種移植片腫瘍モデルと比較して、治療的に有効な抗体についての前臨床試験のための、好ましくは改善された特性を示すと見なされるかまたはこれを示す。前記候補モデルは、治療的に有効な抗体を異種移植片腫瘍の表面においてその標的に結合させた後で最も強い蛍光シグナルをインビボにおいて示すことに基づき、潜在的に適格な異種移植片腫瘍モデルのパネルの中から本発明の方法に従い選択されることが好ましい。
【0090】
本明細書で用いられる場合の「最も適格な」という用語は、異種移植片腫瘍モデルが、治療的に有効な抗体についての前臨床試験に潜在的に最も適格であることを意味する。「潜在的に」とは、異種移植片腫瘍モデルが、治療的に有効な抗体についての前臨床試験のために高い価値を有する(すなわち、十分な適性を有する)可能性(likelihoodまたはprobability)のある異種移植片腫瘍モデルであることを意味する。したがって、本発明の方法に従い選択されうる異種移植片腫瘍モデルの文脈で用いられる場合の「潜在的な」という用語は、(ある異種移植片腫瘍モデルが最も適格であると見なされているが)前記異種移植片腫瘍モデルが必ずしも最も適格でなくともよいことを意味する。しかし、本発明の方法は、最も適格な異種移植片腫瘍モデルを、(潜在的に適格な異種移植片腫瘍モデルのパネルの中から)選択する一助となる。
【0091】
したがって、「最も適格な」という用語は、本発明の方法および使用に従い選択される異種移植片腫瘍モデルが、治療的に有効な抗体を異種移植片腫瘍モデル内のその標的に結合させた後で、異種移植片腫瘍モデルのパネルの中の他の異種移植片腫瘍モデルと比較して最も強い蛍光シグナルを示すことを意味することが好ましい。
【0092】
また、創出された画像についての定性的解析も想定されるが、本発明の方法は、治療的に有効な抗体についての前臨床試験に最も適格な異種移植片腫瘍モデルを選択するものであり、これにより、最も適格な異種移植片腫瘍モデルを、最も強い蛍光シグナルに基づき選択しうるので、定性的解析はそれほど好ましくない。実のところ、本発明者らは、治療的に活性な抗体をその標的に結合させた後で最も強い蛍光シグナルを示す異種移植片腫瘍が、このような最も適格な異種移植片腫瘍モデルであることを観察した。
【0093】
本明細書で用いられる通り、所望の標的と本発明に従い適用される抗体との相互作用との関連で用いられる場合の、その全ての文法的形態における「〜に結合する」という用語は、抗体のエピトープ結合ドメイン(すなわち、場合によって、フレームワーク領域に由来する1または複数のアミノ酸と組み合わせた、可変軽鎖および可変重鎖のCDR(ドメイン抗体の場合は、軽鎖または重鎖のCDRだけ))が、タンパク質一般との会合(すなわち、非特異的結合)と比較して統計学的に有意な程度に、標的と会合(例えば、標的と相互作用するかまたは標的と複合する)して抗体−抗原複合体になることを示す。「エピトープ結合ドメイン」という用語はまた、統計学的に有意な標的との会合または結合を有するドメインを指すとも理解される。
【0094】
本発明の方法は、治療的に有効な抗体についての前臨床試験に最も適格な異種移植片腫瘍モデルのインビボにおける選択の一助となることが好ましい。「一助となる」という用語は、本発明に従う方法が(他の方法および/または変数、例えば、治療的に有効な抗体についての前臨床試験に最も適格な異種移植片腫瘍モデルを選択する方法と共に)、悪性/癌性細胞の表面における所望の標的に対して、治療的に有効な抗体についての前臨床試験に最も適格な異種移植片腫瘍モデルを当業者が選択する一助となることを示すのに用いられる。言い換えれば、前記他の方法は、最も適格な異種移植片腫瘍モデルの選択を確認するのを助ける。前記他の方法の例は、免疫化学法、免疫組織化学法、組織学法、例えば、組織染色の適用、またはmRNA/PCRの適用である。
【0095】
とりわけ、組織染色のためには、対象、好ましくは、マウス、ラット、またはサルなどの被験動物の腫瘍を外植し、切片を調製し、固定し、パラフィン中に包埋し、例えば、ヘマトキシリン−エオシン(HE)で染色する。このようにして染色された腫瘍切片は、エクスビボにおいて、例えば、Nuance(登録商標)システムによりイメージングすることができる。腫瘍の外植についての例として述べると、関連するガイドライン(GVSolas、Felasa、TierschG)に従い、被験動物を屠殺し、腫瘍を外植する。動物を屠殺した後で、例えば、メスを用いて、腫瘍を外植し、包埋用カセットへと移すか、または免疫組織化学的適用にはイソペンタンを伴い、mRNA/PCR適用にはイソペンタンを伴わずに液体窒素中で瞬時凍結させる。
【0096】
固定についての例として述べると、外植された腫瘍を包埋用カセット内に包み込み、ホルマリン中、好ましくは約24時間にわたり、持続的な撹拌下でインキュベートする。その後、ホルマリンを廃棄し、腫瘍を蒸留水で洗浄した後、腫瘍を脱水し、パラフィンを浸透させる。全てのインキュベーションステップは、Tissue Tek(登録商標)VIP Vacuum Infiltration Processorを用いて実行する。パラフィンを浸透させた後、腫瘍は、Tissue Tek(登録商標)Paraffin Embedding Stationにより、最後の組織学的ブロックまで液体パラフィン中に包埋する。ミクロトームを用いて、これらのブロックから、厚さ2〜8μmの範囲のパラフィン切片を得る。それらを切断し、スライドガラス上に取り上げ、37℃で一晩にわたり空気乾燥させた後、脱パラフィン化し、HE染色する。スライドは、Nuanceシステムにより検討する。
【0097】
免疫組織化学については、未標識の抗体を非経口注射、好ましくは、静脈内注射し、好ましくは、抗体を注射した約24時間後に腫瘍を外植し、例えば、液体窒素およびイソペンタン中で瞬時凍結させ、切片化する。未標識の抗体は、未標識抗体のIg亜型、例えば、ヤギ抗マウスIgGを指向する二次抗体を用いることにより同定する。
【0098】
免疫組織化学適用には、腫瘍は、イソペンタンおよび液体窒素中で切除した直後に瞬時凍結させ、切片化するまで−20℃で保持する。例えば、10μmの腫瘍低温切片を、Cryostat(2800 Frigocut)により、−18℃の最適切断温度で切断し、アセトンで1分間にわたり固定し、空気乾燥させ、免疫組織化学適用に用いる。
【0099】
mRNA法に関して述べると、腫瘍を外植し、例えば、液体窒素(イソペンタンを伴わない)中で瞬時凍結させる。腫瘍を溶解させ、ホモジナイズし、RNAを、当技術分野で一般に知られている方法に従い調製する。その後、cDNAを調製し、対象の遺伝子、例えば、本発明の教示に従い抗体が選択される哺乳動物細胞の表面において標的をコードする遺伝子の発現について、定性的におよび/または定量的に解析する。定量的発現解析におけるローディング対照として、β−アクチンまたはGAPDHなどの典型的なハウスキーピング遺伝子を用いることができる。
【0100】
これらの他の方法は、当業者により考慮される構成要素であって、当業者が治療的に有効な抗体についての前臨床試験に最も適格な異種移植片腫瘍モデルを選択することを助ける、すなわち、その一助となる構成要素のうちの1つとなる。「治療的に有効な」もしくは「治療的有効性」という用語、またはこの用語の他の任意の文法的形態は、抗体が対象における疾患または障害「を処置する」能力を指す。
【0101】
本発明の方法および使用に従い選択される異種移植片腫瘍モデルにおいて前臨床的に試験される抗体の文脈で用いられる場合の「治療的に有効な」は、前記抗体(このような抗体は、治療効果であって、例えば、当技術分野で知られている手段および方法により試験しえた治療効果を及ぼすと見なされているが)が、例えば、対象、好ましくは、ヒトにおいて、必ずしも治療的に有効でなくともよいことを包含する。したがって、この場合、治療的に有効な抗体は何よりもまず、治療的に最も有効な抗体の候補物質である。しかし、本発明で用いられる場合の「治療的に有効な」抗体は、それが本発明の方法および使用で適用される前に、当技術分野で一般に適用されるインビトロ試験および/またはインビボ試験において治療効果を示したと見なされることが好ましい。
【0102】
「治療的に最も有効な抗体の候補物質」とは、有望な抗体であって、抗体ベースの療法において有用でありうる抗体である。このような候補物質は、他の治療的に有効な可能性がある抗体と比較して、好ましくは改善されたインビボにおける特性(結合、標的の認識、アフィニティーなど)を示す。前記候補物質は、哺乳動物細胞の表面においてその標的に結合させた後で最も強い蛍光シグナルをインビボにおいて示すことに基づき、治療的に有効な可能性がある抗体のパネルの中から本発明の方法に従い選択されることが好ましい。
【0103】
癌の場合、治療有効量の抗体は、癌細胞の数を低減することが可能であり;腫瘍サイズを低減することが可能であり;癌細胞の末梢器官への浸潤を阻害する(すなわち、ある程度遅らせる、好ましくは、停止させる)ことが可能であり;腫瘍の転移を阻害する(すなわち、ある程度遅らせる、好ましくは、停止させる)ことが可能であり;腫瘍増殖をある程度阻害することが可能であり;かつ/または癌と関連する症状のうちの1または複数をある程度軽減することが可能である。
【0104】
抗体が及ぼしうる治療効果は、全ての確立された方法、および治療効果を示す手法により検出することができる。例えば、治療効果は、後に免疫組織化学(IHC)法または同等な免疫学的技法を介して解析される、罹患した組織/器官の外科的切除または生検を介して検出することが想定される。代替的にまた、治療法が既に有効であるのかどうかを診断するために、患者の血清中の腫瘍マーカー(存在する場合)を検出することも想定される。加えて、または代替的にまた、それぞれの患者の全体的な外観(フィットネス、ウェルビーイング、腫瘍が媒介する不調の減少など)を評価することも可能であり、これはまた、治療効果が既に生じているのかどうかを当業者が評価する一助ともなる。当業者は、治療効果を観察することを可能とする他の多数の方策について承知している。癌療法の場合、治療的有効性は、例えば、疾患進行までの期間(TTP)を評価すること、および/または奏効率(RR)を決定することにより測定することができる。
【0105】
本発明を実施するのに有用なイメージングシステムは典型的に、3つの基本的構成要素:(1)励起光、(2)励起光と放射光とを分離または識別する手段(好ましくは、ソフトウェアおよび/またはハードウェアによる(1または複数の)フィルターであって、励起光および/または検出システムへと適合させうるフィルター)、および(3)本発明の少なくとも1つの蛍光標識から、および/または蛍光実体から、および/または蛍光解析物から放射される光を受容するための検出システム(光学検出器)を包含する。光源(励起手段)は場合によって、所定のフィルターまたは同調可能なフィルターを含みうることが想定される。光源は、適当にフィルター処理された白色光、すなわち、広帯域供給源からの帯域通過光でありうる。例えば、150ワットのハロゲンランプからの光は、適当な帯域通過フィルターを通過しうる。一部の実施形態では、光源がレーザーである。例えば、Boasら、1994、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:4887〜4891;Ntziachristosら、2000、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:2767〜2772;Alexander、1991、J.Clin.Laser Med.Surg.9:416〜418を参照されたい。イメージングのための近赤外レーザーについての情報は、http://www.imds.com、およびよく知られた他の多様な出典において見出すことができる。高域フィルターまたは帯域通過フィルター(例えば、700nm)を用いて、光学放射(放射光)を励起光から分離することができる。本発明では、任意の適当な光検出/画像記録構成要素(光学検出器)、例えば、電荷結合素子(CCD)システム、光ダイオード、光伝導性セル、相補型金属酸化物半導体(CMOS)、または光増倍管を用いることができる。前記構成要素は、本明細書の下記でより詳細に説明される。光検出/画像記録の選択は、用いられる集光構成要素/画像形成構成要素の種類を含めた因子に依存する。適当な構成要素を選択し、それらを本発明のイメージングシステムへと組み立て、このシステムを作動させることは、当技術分野の通常の技量の範囲内にある。
【0106】
インビボイメージング法には、レーザーベースの三次元イメージングシステムであるFMT技術(蛍光分子断層撮影法)が含まれ、これにより、小型の動物モデルにおける非侵襲的で全身についての深部組織イメージングが提供され、蛍光供給源の3Dによる再構成が作成され、かつ/または蛍光標識された抗体の、本明細書で記載されるその所望の標的への結合により、蛍光標識された構造の蛍光濃度の測定が可能となる。FMTシステムは、平面的な二次元イメージングモードにおいて、蛍光標識された抗体の実際の分布を決定することを可能とし、かつ/またはFMTシステムによる3Dイメージング研究は、対象の身体における抗体分布の評価の改善を可能とする。したがって、蛍光シグナル強度の定量化は、より現実的な手法で解析することができる。近赤外蛍光イメージングシステムの例は、付属の実施例で記載されるMAESTROシステムである。したがって、MAESTROシステムは、本発明のキット、方法、および使用で適用しうる好ましいシステムである。
【0107】
MAESTROシステムとは、インビボにおける非侵襲的な蛍光測定を可能とする、平面的な蛍光反射イメージングシステムである。このマルチスペクトル解析では、一連の画像が、特定の波長で捕捉される。捕捉される波長の範囲は、検体において存在する標識の予測されるスペクトル放射の範囲にわたるべきである。結果は、「画像キューブ」と称する一連の画像となるが、「画像キューブ」とは、自己蛍光標識および特異的標識のいずれについても個別のスペクトルを規定するのに用いられる、この一連の画像内のデータである。生物学的な対象となる標識の多くが、高価な狭小帯域フィルターを用いる分離が困難または不可能となるほど酷似する放射スペクトルを有する。放射フィルターの大規模なコレクションが、単一のロングパス放射フィルターで置き換えられている。皮膚、毛皮、皮脂腺の天然の自己蛍光に加えてまた、共生生物(真菌、ダニなど)および摂取された食物(クロロフィル)に由来する異なる自己蛍光も認められる。マルチスペクトル解析は、所望されるシグナルの放射スペクトルと自己蛍光の放射スペクトルとが知られている限りにおいて、放射される蛍光の線形シグナル混合物の数学的分解(脱混合)を介して、これらのシグナルの全てを、検体へと適用される特異的標識から分離することが可能である。
【0108】
MAESTROシステムによる測定は、以下の通りになされる:照明モジュールは、白色光を励起するキセノンランプ(Cermax)を装備する。下流に接続された励起フィルター(実験者により選択される)を介して、光を、実験のために、所望の波長範囲へと限界付け、光ファイバーを介してイメージングモジュールへと導く。ここで、制限された光を、麻酔下の被験動物を照明する4つの光ファイバーへと分割する。MAESTROシステムは、過剰曝露の危険性が生じないように、最適の曝露時間を自動的に選択する。活性化した蛍光プローブにより放射される蛍光は、放射フィルター(表1を参照されたい)により選択され、液晶(LC)を介して高感受性の冷却CCDカメラへと導かれる。液晶は、カメラが特定の波長の写真を選択的に記録することを可能とする。波長の測定範囲は、選択されたフィルターセット(青色、緑色、黄色、赤色、真紅、NIR)に依存し、写真は、10nmずつの階梯で記録される。各単一写真のスペクトル情報は、「画像キューブ」と称する1つの「写真パッケージ」へと組み合わされる。
【0109】
表1:Maestroフィルターセット
【0110】
MAESTROシステムによる解析は、以下の通りになされる:各記録は、4096の異なるグレースケールで表示することが可能であり、したがって、放射強度の微小な差違も判別することが可能な12ビットの白黒写真から構成される。これに対し、ヒトの眼が識別しうるのは、30〜35のグレースケールである。放射強度(グレースケール)についてのこれらの値を波長範囲と対比してプロットし、結果として、各プローブの放射スペクトルおよび組織の自己蛍光が得られる。このソフトウェアは、三原色(赤色、緑色、青色)を、イメージングキューブに用いられる波長範囲へと細分化し、これにより、白黒写真をカラー画像へと変える。取得されたこれらのマルチスペクトル情報から、MAESTROシステムは、注射されたプローブと任意の光源による自己蛍光とを差別化することが可能である。MAESTROプログラムでは、純粋な各プローブの単一のスペクトルと、注射を伴わない研究動物(Balbc/ヌードマウスまたはScidベージュマウス)をイメージングすることにより取得されたスペクトル(マウスによる自己蛍光)とを含むスペクトルライブラリーを用いている。純粋なイメージングおよび自己蛍光の正確なスペクトルを知ることにより、MAESTROシステムは、所望のスペクトルについての画像全体にフィルターをかけ、スペクトルの各々に色を割り当てることが可能である。創成された画像(脱混合された合成画像)は、異なる色において現存するスペクトルを示す。プローブシグナルの強度分布を視覚化するためには、シグナルを擬似カラーで表示することができるが、弱い強度は青色であり、強い強度の領域は赤色である。この他、プローブのシグナル強度の検出限界を規定することができ、これにより、循環プローブおよび非特異的結合のシグナルを低減することが可能となる。
【0111】
MAESTROシステムによる比較および定量化は、以下の通りになされる:MAESTROが画像のフルオロフォア領域を比較する能力は、療法中における腫瘍による蛍光シグナル強度の比較を容易にする。MAESTROプログラムは、腫瘍領域(比較される画像)における異なるシグナル強度を比較するためのツールを提供する。全ての画像は、最適の曝露時間で取り込まれるので、シグナルの強さに応じて異なる。信頼できる比較のために、写真を1つの曝露時間に基準化する結果、シグナル強度の差違が表示される。測定領域を手作業で描画および改変することにより、シグナル強度を強度値で定量化することができる。測定領域を腫瘍の近傍で選択したら、これをクローニングして、比較される次の画像へと移ることができる。各領域は、現行の設定(載物台の高さおよびビニング)に基づき、ピクセルおよびmm単位で計算される。結果として、創出された測定領域内の平均シグナル、全シグナル、最大シグナルおよび平均シグナル/曝露時間(1/ミリ秒)についての情報がもたらされる。
【0112】
本発明との関連で適用されうる別のイメージング法は、レーザーベースの三次元イメージングシステムであるFMT法(蛍光分子断層撮影法)であり、これにより、小型の動物モデルにおける非侵襲的で全身についての深部組織イメージングが提供され、蛍光供給源の3Dによる再構成が作成され、かつ/または蛍光標識された解析物の測定が可能となる。FMT技術は、例えば、US6,615,063において記載されている。
【0113】
本発明の方法および使用を実施する場合は、蛍光標識された潜在的な治療用抗体を、異種移植片腫瘍モデルへと、抗体、すなわち、蛍光標識された抗体からのシグナルを検出する前に投与することが好ましい。抗体を異種移植片腫瘍モデルへと非経口投与する、好ましくは、静脈内投与することが好ましい。
【0114】
その全ての文法的形態における「〜を投与すること」という用語は、治療的に有効な抗体(好ましくは、医薬組成物の形態にある)の投与を意味する。治療的に有効な抗体のパネルを投与する場合、前記パネルの抗体は、個別に投与するか、またはパネルとして、すなわち、併せて投与するが、個別の投与が好ましい。併せて投与する場合、各抗体は、抗体の各々を同定するための、本明細書で記載される異なる蛍光標識を含むことが好ましい。
【0115】
「抗体」という用語は、標的に結合するモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体(HarlowおよびLane、「Antibodies、A Laboratory Manual」、CSH Press、Cold Spring Harbor、USA、1988を参照されたい)、またはその結合特異性を保持するかもしくは本質的に保持する前記抗体の誘導体を指す。このような抗体の好ましい誘導体は、例えば、マウス可変領域またはラット可変領域とヒト定常領域とを含むキメラ抗体である。抗体は、単離形態でありうる。本明細書で用いられる「機能的断片」という用語は、本明細書で特定される抗体の断片であって、分離された軽鎖および重鎖、Fab、Fab/c、Fv、Fab’、F(ab’)2など、抗体の結合特異性を保持するかまたは本質的に保持する断片を指す。「抗体」という用語はまた、単鎖Fv(scFv)または抗体融合タンパク質など、二官能性(二重特異性)の抗体および抗体構築物も含む。当技術分野では、「scFv断片」(単鎖Fv断片)という用語が十分に理解されており、その小型のサイズおよびこのような断片を組換え法により生成させる可能性のために好ましい。前記抗体または抗原結合部分は、ヒト抗体またはヒト化抗体である。本発明に従う「ヒト化抗体」という用語は、ヒト以外に由来する抗体であって、CDR3など、可変領域内の少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)、好ましくは、6つのCDR全てが、所望の特異性を有するヒトに由来する抗体のCDRにより置き換えられた抗体を意味する。場合によって、ヒト以外の抗体の(1または複数の)定常領域が、ヒト抗体の(1または複数の)定常領域により置き換えられている。ヒト化抗体を生成させる方法は、例えば、EP−A10239400およびWO90/07861において記載されている。抗体またはその機能的断片という用語はまた、重鎖抗体およびその可変ドメイン(WO94/04678、WO96/34103およびWO97/49805、WO04/062551、WO04/041863、WO04/041865、WO04/041862およびWO04/041867において言及されている)の他、従来の4本鎖抗体分子の重鎖可変ドメイン(VH)または軽鎖可変ドメイン(VL)に基づくかまたはこれらに由来するドメイン抗体または「dAb」(例えば、Wardら、1989、Nature 341、544〜546を参照されたい)も包含する。
【0116】
「単離抗体」とは、その天然環境の構成成分から同定および分離、および/または回収された抗体である。その天然環境の夾雑構成成分は、抗体の診断的使用または治療的使用に干渉し、酵素、ホルモン、および他のタンパク質性溶質または非タンパク質性溶質を包含しうる物質である。抗体は、(1)ローリー法により決定される抗体の95重量%超まで、最も好ましくは、99重量%超まで、(2)スピニングカップ型のシークエネーターを用いることにより、N末端のアミノ酸配列または内部のアミノ酸配列のうちの少なくとも15残基を得るのに十分な程度まで、または(3)還元条件下または非還元条件下でクーマシーブルー、または、好ましくは、銀染色を用いて、SDS−PAGEにより均一となるまで精製することが好ましい。単離抗体は、抗体の天然環境の少なくとも1つの構成成分が存在しないので、組換え細胞内のインサイツにおける抗体を包含する。しかし、単離抗体は通常、少なくとも1つの精製ステップにより調製する。
【0117】
免疫グロブリンの5つのクラス:それぞれ、α、δ、ε、γ、およびμと称する重鎖を有するIgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMが存在する。γクラスおよびαクラスは、CHの配列および機能における比較的小さな差違に基づき、サブクラスへとさらに分けられ、例えば、ヒトは、以下のサブクラス:IgGI、IgG2、IgG3、IgG4、IgAI、およびlgA2を発現させる。
【0118】
「可変」という用語は、可変ドメインのある特定のセグメントの配列が抗体間で大幅に異なるという事実を指す。Vドメインは、抗原の結合を媒介し、特定の抗体の、その特定の抗原に対する特異性を規定する。しかし、可変性は、1〜10アミノ酸の範囲の可変ドメインにわたり均等に配分されているわけではない。そうではなくて、V領域は、各々が9〜12アミノ酸の長さの、「超可変領域」と称する、より短く、可変性が極めて大きな領域により隔てられた、15〜30アミノ酸のフレームワーク領域(FR)と称する比較的不変性の連なりからなる。天然の重鎖および軽鎖の可変ドメインの各々は、大部分がβシートの立体構成をとる4つのFRであって、βシート構造を接続するループを形成し、場合によっては、βシート構造の部分を形成するループを形成する3つの超可変領域により接続された4つのFRを含む。各鎖内の超可変領域は、FRにより併せて近接して保持され、かつ、他の鎖に由来する超可変領域と共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与している(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD.(1991)を参照されたい)。定常ドメインは、抗体の抗原への結合に直接関与していないが、抗体の抗体依存性細胞性細胞傷害作用(ADCC)への関与など、多様なエフェクター機能を呈示する。
【0119】
本明細書で用いられる場合の「超可変領域」という用語は、抗原結合の一因となる抗体のアミノ酸残基を指す。超可変領域は一般に、「相補性決定領域」もしくは「CDR」に由来するアミノ酸残基(例えば、VL内の残基24〜34(LI)、50〜56(L2)、および89〜97(L3)の近傍、ならびにVH内の1〜35(HI)、50〜65(H2)、および95〜102(113)の近傍;Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD.(1991))、および/または「超可変ループ」に由来する残基(例えば、VL内の残基26〜32(LI)、50〜52(L2)、および91〜96(U)、ならびにVH内の26〜32(HI)、53〜55(1−12)、および96〜101(H3);ChothiaおよびLesk、J.Mol.Biol.196:901〜917(1987))を含む。
【0120】
本明細書で用いられる「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体、すなわち、少量で存在しうる自然発生の可能な突然変異を除いて同一な集団を構成する個別の抗体を指す。モノクローナル抗体は、高度に特異的であり、単一の抗原部位を指向する。さらに、異なる決定基(エピトープ)を指向する異なる抗体を包含するポリクローナル抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上における単一の決定基を指向する。それらの特異性に加え、他の抗体を夾雑させることなく合成しうる点でも、モノクローナル抗体は有利である。「モノクローナル」という修飾語が、任意の特定の方法による抗体の生成を要請すると解釈すべきではない。本明細書におけるモノクローナル抗体は、重鎖および/または軽鎖の部分が、特定の種に由来する抗体、または特定の抗体のクラスもしくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一であるかまたは相同である一方、(1または複数の)鎖の残りの部分は、それらが所望の生物学的活性を呈示する限りにおいて、別の種に由来する抗体、または別の抗体のクラスもしくはサブクラスに属する抗体の他、このような抗体の断片の対応する配列と同一であるかまたは相同な「キメラ」抗体を包含する(米国特許第4,816,567号;およびMorrisonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、81:6851〜6855(1984)を参照されたい)。対象のキメラ抗体は、ヒト以外の霊長動物(例えば、旧世界ザル、類人猿など)に由来する可変ドメインの抗原結合配列とヒト定常領域配列とを含む「霊長動物化」抗体を包含する。
【0121】
「無傷」抗体とは、抗原結合部位の他、CLを含み、少なくとも、重鎖定常ドメインであるCHI、CH2、およびCH3を含む抗体である。定常ドメインは、天然配列定常ドメイン(例えば、ヒト天然配列定常ドメイン)の場合もあり、その変異体のアミノ酸配列の場合もある。無傷抗体は、1または複数のエフェクター機能を有することが好ましい。
【0122】
「抗体断片」は、無傷抗体の部分、好ましくは、無傷抗体の抗原結合領域または可変領域を含む。抗体断片の例には、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、およびFv断片;ダイアボディ;直鎖状抗体(米国特許第5,641,870号、実施例2;Zapataら、Protein Eng.8(10):1057〜1062[1995]を参照されたい);単鎖抗体分子;および抗体断片から形成される多重特異性抗体が含まれる。抗体のパパイン消化は、「Fab」断片と称する2つの同一な抗原結合断片と、容易に結晶化する能力を反映する呼称である、残りの「Fc」断片とを生成させる。Fab断片は、H鎖の可変領域ドメイン(VH)、および1つの重鎖のうちの第1の定常ドメイン(CH1)と共に、L鎖の全体からなる。各Fab断片は、抗原の結合に関して一価である、すなわち、単一の抗原結合部位を有する。抗体のペプシン処理は、ほぼ二価の抗原結合活性を有する2つのジスルフィド連結されたFab断片に対応し、抗原を架橋することがなおも可能な単一の大型のF(ab’)2断片をもたらす。Fab’断片は、抗体のヒンジ領域に由来する1または複数のシステインを含め、CH1ドメインのカルボキシ末端におけるさらなる少数の残基を有することにより、Fab断片とは異なる。Fab’−SHとは、本明細書では、定常ドメインの(1または複数の)システイン残基が、遊離のチオール基を保有するFab’の呼称である。F(ab’)2抗体断片は元来、それらの間にヒンジのシステインを有する8つのFab’断片の対として生成した。また、抗体断片の他の化学的共役も知られている。
【0123】
Fc断片は、ジスルフィドにより併せて保持された両方のH鎖のカルボキシ末端部分を含む。抗体のエフェクター機能は、Fc領域内の配列により決定され、この領域はまた、ある特定の種類の細胞上において見出されるFc受容体(FcR)により認識される部分でもある。
【0124】
「Fv」とは、完全な抗原認識部位および抗原結合部位を含有する最小の抗体断片である。この断片は、緊密な非共有結合的会合により、1つの重鎖可変領域ドメインと1つの軽鎖可変領域ドメインとの二量体からなる。これらの2つのドメインのフォールディングからは、アミノ酸残基を抗原の結合のために供与し、抗原の抗体に対する結合特異性を付与する6つの超可変ループ(H鎖およびL鎖の各々に由来する3つずつのループ)が生じる。しかし、単一の可変ドメイン(または抗原に特異的な3つのCDRだけを含むFvの半分)もなお、結合部位全体より低いアフィニティーではあるが、抗原を認識し、これに結合する能力を有する。「sFv」または「scFv」としても略記される「単鎖Fv」は、単一のポリペプチド鎖へと接続されたVH抗体ドメインおよびVL抗体ドメインを含む抗体断片である。
【0125】
sFvポリペプチドは、sFvが抗原の結合に所望の構造を形成することを可能とする、VHドメインとVLドメインとの間のポリペプチドリンカーをさらに含むことが好ましい。sFvの総説については、Pluckthun、The Pharmacology of Monoclonal Antibodies、113巻、RosenburgおよびMoore編、Springer−Verlag、New York、269〜315ページ(1994);Borrebaeck、1995、後出を参照されたい。
【0126】
「ダイアボディ」という用語は、Vドメインの鎖内対合ではなく、鎖間対合が達成される結果として、二価断片、すなわち、2つの抗原結合部位を有する断片がもたらされるように、VHドメインとVLドメインとの間の短いリンカー(約5〜10残基)と共に、sFv断片を構築することにより調製される小型の抗体断片(前段を参照されたい)を指す。二重特異性のダイアボディとは、2つの「交差」sFv断片によるヘテロ二量体であって、2つの抗体のVHドメインおよびVLドメインが、異なるポリペプチド鎖上に存在するヘテロ二量体である。ダイアボディは、例えば、EP404,097;WO93/11161;およびHollingerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、90:6444〜6448(1993)においてより詳細に記載されている。
【0127】
ヒト以外の(例えば、齧歯動物の)抗体の「ヒト化」形態は、ヒト以外の抗体に由来する最小限の配列を含有するキメラ抗体である。大半の場合、ヒト化抗体とは、レシピエントの超可変領域に由来する残基が、所望の抗体特異性、アフィニティー、および能力を有する、マウス、ラット、ウサギ、またはヒト以外の霊長動物など、ヒト以外の種(ドナー抗体)の超可変領域に由来する残基により置き換えられたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基が、対応するヒト以外の残基により置き換えられている。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にもドナー抗体にも見出されない残基を含みうる。これらの改変を行って、抗体の効能をさらに洗練させる。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインであって、超可変ループのうちの全てまたは実質的に全てがヒト以外の免疫グロブリンの超可変ループに対応し、FRのうちの全てまたは実質的に全てがヒト免疫グロブリン配列のFRである可変ドメインのうちの実質的に全てを含む。場合によって、ヒト化抗体はまた、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、典型的に、ヒト免疫グロブリンのFcの少なくとも一部も含む。さらなる詳細については、Jonesら、Nature 321:522〜525(1986);Riechmannら、Nature 332:323〜329(1988);およびPresta、Curr.Op.Struct.Biol.2:593〜596(1992)を参照されたい。
【0128】
本発明の方法および使用で適用される抗体は、蛍光標識、好ましくは、近赤外蛍光イメージングにより検出可能な蛍光標識で標識される。したがって、本発明の文脈で用いられる場合の「蛍光」という用語は、当技術分野で一般に知られているか、または本明細書で記載される蛍光標識を包含し、また、好ましくは、近赤外蛍光標識も包含し、本発明の文脈では、近赤外蛍光標識が好ましい。
【0129】
本明細書で用いられる「蛍光標識」は、フルオロフォアを含む分子を特徴付ける。場合によってまた蛍光色素とも称するフルオロフォアは、特定の波長のエネルギーを吸収し、異なる波長のエネルギーを再放射する、分子内の官能基である。前記異なる波長は、前記特定の(所定の)波長と比較すると、特定の(所定の)波長から識別可能な波長により再放射され、例えば、より長い波長またはより短い波長により再放射されるが、後者の場合には、強度が低下する。放射されるエネルギーの量および波長は、フルオロフォアおよびフルオロフォアの化学的環境の両方に依存する。
【0130】
標識抗体は、複数の蛍光標識または複数の近赤外蛍光標識、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、または10の蛍光標識または近赤外蛍光標識を含むことが想定される。また、本発明の方法では、2、3、4、5、6、7、8、9、または10の異なる蛍光標識または近赤外蛍光標識された抗体を適用することも想定される。
【0131】
したがって、本発明の文脈で用いられる蛍光実体は、ただ1種類の蛍光標識、または少なくとも2つ、3つ、4つ、5つ、なおもしくはこれを超える異なる種類の蛍光標識の混合を含むことが想定される。「ただ1種類」とは、蛍光標識が1つの同じフルオロフォアを含有することを意味するのに対し、異なる種類とは、異なる蛍光標識が異なるフルオロフォアを含み、したがって、異なる吸収特徴および/または放射特徴を示すことを意味する。これらの「異なる」特徴は、例えば、ソフトウェアを一助とする評価を介して、後で「脱混合する」ことができる。当業者には、複数の異なるフルオロフォアの放射を脱混合する手段および方法がよく知られている。蛍光標識は、蛍光標識上の任意の適当な反応性基およびスペーサー上または第2の実体上の適合性の官能基を用いて、蛍光解析物のスペーサーまたは第2の実体へと共有結合的および/または非共有結合的に連結することができる。
【0132】
本発明の文脈では、前記蛍光標識が、量子ドット剤、蛍光タンパク質、蛍光染料、pH感受性蛍光染料、電圧感受性蛍光染料、および/または蛍光標識されたマイクロスフェアを含む群から選択されることが好ましい。蛍光標識の例は、「量子ドット剤」または「量子ドット」であるが、これはまたナノ結晶としても知られ、半導体として知られる特殊なクラスの物質である(周期族でII−VI族、III−V族、またはIV−VI族の物質から構成される結晶である)。別の例は、例えば、増強型または非増強型の緑色蛍光タンパク質(GFP)、CFP、YFP、BFPを包含する「蛍光タンパク質」である。さらなる蛍光タンパク質は、Zhang、Nat Rev Mol Cell Biol.2002、12、906〜18ページまたはGiepmans、Science.2006、312、217〜24ページにおいて記載されている。
【0133】
「蛍光染料」は、例えば、FITCのような、その全ての誘導体を含めたフルオレセイン;テトラメチルローダミン(TAMRA)およびそのイソチオシアン酸誘導体(TRITC)、スルホローダミン101(およびそのスルホニルクロリド形態であるTexas Red)、Rhodamine Red、ならびにAlexa546、Alexa555、Alexa633、DyLight549、およびDyLight633などの新たなフルオロフォアを包含するローダミンの他の誘導体など、その全ての誘導体を含めたローダミン;Alexa Fluor(蛍光染料のAlexa Fluorファミリーは、Molecular Probes製である);蛍光染料のファミリーであるDyLight Fluorは、Dyomics製であり、蛍光標識および染料のシリーズを表すATTO Dyeは、Siegen所在のATTO−TEC GmbH製である(WO/2007/067978、日本);LaJolla Blue(Diatron、Miami、Fla.);インドシアニングリーン(ICG)およびその類似体(Lichaら、1996、SPIE 2927:192〜198;Itoら、米国特許第5,968,479号);インドトリカルボシアニン(ITC;WO98/47538)、ならびにキレート化ランタニド化合物が含まれるがこれらに限定されない、全ての種類の蛍光標識を包含する。蛍光ランタニド金属には、ユーロピウムおよびテルビウムが含まれる。
【0134】
抗体は、NIRFにより検出可能な蛍光標識で標識することが好ましい、すなわち、抗体は、近赤外(NIR)蛍光標識で標識することが好ましい。励起波長および放射波長が近赤外スペクトル内にある、すなわち、640〜1300nm、好ましくは、640〜1200nm、より好ましくは、640〜900nmにあるNIR蛍光標識を用いる。この部分の電磁スペクトルを用いることにより、組織の透過が最大化され、ヘモグロビン(<650nm)および水(>1200nm)など、生理学的に豊富な吸収物質による吸収が最小化される。インビボにおける使用に理想的な近赤外蛍光色素は、以下を呈示する:
(1)スペクトル特徴の狭小さ、
(2)感度の高さ(量子収量)、
(3)生体適合性、
(4)吸収スペクトルおよび励起スペクトルの分離、ならびに
(5)光安定性。
【0135】
多様な近赤外(NIR)蛍光標識は市販されており、本発明に従う蛍光実体を調製するのに用いることができる。例示的なNIRF標識には、以下が含まれる:Cy5.5、Cy5、およびCy7(Amersham、Arlington Hts.、IL);IRD41およびIRD700(LI−COR、Lincoln、NE);NIR−I(同仁化学研究所、熊本、日本);LaJolla Blue(Diatron、Miami、FL);インドシアニングリーン(ICG)およびその類似体(Licha、K.ら、SPIE−The International Society for Optical Engineering、1996;2927巻:192〜198;US5,968,479);インドトリカルボシアニン(ITC;WO98/47538);ならびにキレート化ランタニド化合物、ならびにSF64、5−29、5−36、および5−41(WO2006/072580による)。蛍光ランタニド金属には、ユーロピウムおよびテルビウムが含まれる。ランタニドの蛍光特性は、Lackowicz,J.R.、Principles of Fluorescence Spectroscopy、2版、Kluwer Academic、New York、(1999)において記載されている。
【0136】
「蛍光マイクロスフェア」は、参照により本明細書に組み込まれるWO/2007/067978において極めて詳細に記載されている。
【0137】
本発明のさらなる実施形態では、蛍光実体のうちの少なくとも1つの蛍光標識が活性化可能である。また、蛍光実体が活性化可能であることも想定される。
【0138】
前出で言及した通り、蛍光染料により放射されるエネルギーの量および波長は、フルオロフォアおよびフルオロフォアの化学的環境の両方に依存することが知られている。したがって、蛍光染料は、pH感受性に反応する場合もあり、電圧感受性に反応する場合もある、すなわち、蛍光染料は、化学的環境におけるこのような変化により活性化可能である。活性化可能なさらなる蛍光標識については、例えば、それらの全てが参照により本明細書に組み込まれるUS2006/0147378A1、US6592847、US6,083,486、WO/2002/056670、またはUS2003/0044353A1において極めて詳細に記載されている。
【0139】
蛍光標識/実体の「活性化」とは、標識/実体の検出可能な特性、例えば、光学特性を変更する、標識/実体に対する任意の変化を意味する。これには、特性、例えば、光学特性における検出可能な差違、例えば、蛍光シグナルの振幅における変化(例えば、脱消光および消光)、波長、蛍光の寿命、スペクトル特性、または極性における変化を結果としてもたらす、標識/実体の任意の修飾、変更、または結合(共有結合的または非共有結合的)が含まれるがこれらに限定されない。光学特性には、例えば、電磁スペクトルの可視領域、紫外領域、近赤外領域、および赤外領域における波長が含まれる。限定なしに述べると、活性化は、酵素的切断、酵素的転換、リン酸化または脱リン酸化、結合に起因する立体構成の変化、酵素が媒介するスプライシング、酵素が媒介するフルオロフォアの移動、相補的なDNAまたはRNAのハイブリダイゼーション、解析物の、Na+、K+、Ca2+、Cl−、または別の解析物などの解析物との会合などの結合、プローブ環境の疎水性における変化、およびフルオロフォアの化学修飾を介しうる。光学特性の活性化は、磁気緩和および生体発光など(であるがこれらに限定されない)、他の検出可能な特性における変更を随伴する場合もあり、随伴しない場合もある。
【0140】
蛍光標識は、フルオロフォアの化学反応性の誘導体を用いて達成される。一般的な反応性基には、FITCおよびTRITC(フルオレセインおよびローダミンの誘導体)などのアミン反応性イソチオシアン酸誘導体、NHS−フルオレセインなどのアミン反応性スクシンイミジルエステル、およびフルオレセイン−5−マレイミドなどのスルフヒドリル反応性マレイミド活性化フルオルが含まれる。これらの反応性染料のうちのいずれかの、別の分子との反応は、フルオロフォアと標識された分子との間で形成される安定な共有結合的結合を結果としてもたらす。したがって、本発明の抗体は、前述の蛍光標識で標識することができる。本発明により想定される他の適当な蛍光標識は、Alexa Fluor、Dylight fluor、およびATTO Dyeである。また、GFP、YFP、またはCFPなどの蛍光タンパク質も用いることができる。また、活性化可能な蛍光染料であって、pHの変化または電圧、温度により活性化される蛍光染料も、用いることが想定される。また、標識抗体が、複数の蛍光標識または複数の近赤外蛍光標識、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、または10の蛍光標識または近赤外蛍光標識を含むことも想定される。また、本発明のキット、方法、および使用では、2、3、4、5、6、7、8、9、または10の異なる蛍光標識または近赤外蛍光標識された抗体を適用することも想定される。
【0141】
代替法では、本発明の方法で適用される抗体を、間接的に標識することもできる。例えば、未標識の抗体を、蛍光標識を含む第2の抗体であって、未標識抗体を指向する(その未標識抗体の定常領域への結合のために)第2の抗体により標識する。前記の代替法では、第2の抗体のエピトープ結合ドメインがその標的に結合したら、前記第2の抗体の蛍光標識が活性化される。
【0142】
「活性化した」は、本明細書の前出で言及された活性化可能な蛍光標識の活性化を包含する。「活性化した」はまた、「FRETベースの」効果も包含する。蛍光共鳴エネルギー移動、共鳴エネルギー移動(RET)、または電子エネルギー移動(EET)としても知られているフォスター共鳴エネルギー移動(FRETと略記される)は、2つのフルオロフォア間のエネルギー移動について描出する機構である。FRETは、ドナーフルオロフォアとアクセプターフルオロフォアとの近接についての表徴を提供する。ドナーが規定された周波数の入射放射により励起され、アクセプターがドナーと十分に近接している場合、ドナーが通常蛍光として放射するエネルギーの一部がアクセプターへと移動する(大半のドナーフルオロフォアについて典型的に、約50オングストローム以内)。アクセプターへと移動したエネルギーのうちの少なくとも一部が、アクセプターの蛍光周波数における放射として放射される。FRETは、参照により全ての目的で本明細書に組み込まれる「FRET Imaging」(Jares−Erijman,E.AおよびJovin,T.M、Nature Biotechnology、21(11)、(2003)、1387〜1395ページ)など、多様な出典においてもさらに記載されている。このようなFRET効果に基づくスクリーニングシステムは、よく知られており、例えば、その全体において本明細書に包含される、WO2006107864において記載されている。
【0143】
当技術分野では、NIR蛍光標識を含めた蛍光標識を共役させる方法がよく知られている。これらの標識の抗体へのコンジュゲーション法は、近年になって大幅に精緻化されており、Aslam,M.およびDent,A.、Bioconjugation(1998)216〜363、London、ならびにTijssen,P.、「Practice and theory of enzyme immunoassays」(1990)、Elsevier、Amsterdam中の「Macromolecule conjugation」の章において優れた概説がなされている。適切な共役化学反応は、上記で引用した文献(Aslam、前出)から知られる。蛍光標識は、どの共役部分が存在するのかに応じて、水性溶媒中の抗体と直接に反応する場合もあり、有機溶媒中の抗体と直接に反応する場合もある。共役部分とは、蛍光色素標識の抗体への化学的共役に用いられる反応性基または活性化基である。蛍光色素標識は、抗体へと直接接合される場合もあり、スペーサーを介して抗体へと接続され、抗体とNIR蛍光標識とを含むNIR蛍光標識コンジュゲートを形成する場合もある。用いられるスペーサーは、インビボにおける適当に長時間にわたる持続(半減期)を本来的に有するように、選択またはデザインすることができる。
【0144】
さらなる態様では、本発明は、治療的に有効な抗体についての前臨床試験に最も適格な異種移植片腫瘍モデルをインビボにおいて選択する本発明の方法の使用に関する。
【0145】
別の態様では、本発明は、治療的に有効な抗体についての前臨床試験に最も適格な異種移植片腫瘍モデルをインビボにおいて選択する非侵襲的方法であり、
(a)1または複数の異種移植片腫瘍モデルにおいて、蛍光標識された前記治療的に有効な抗体を、前記異種移植片腫瘍モデル内のその標的に結合させた後で、近赤外蛍光イメージング(NIRF)により検出するステップと;
(b)前記治療的に有効な抗体を前記異種移植片腫瘍モデル内の前記標的に結合させた後で、最も強い蛍光シグナルを示す異種移植片腫瘍モデルを選択するステップと
を含む方法における近赤外蛍光イメージング(NIRF)の使用に関する。
【0146】
本発明の方法の文脈で記載される実施形態は、変更すべきことを変更して、本発明の使用の文脈で適用可能である。
【0147】
本発明ではまた、治療的に有効な抗体についての前臨床試験における使用のための、前出の実施形態のうちのいずれかの方法により選択される異種移植片腫瘍モデルも企図される。
【0148】
本発明の別の態様は、異種移植片腫瘍モデルをインビボにおいて選択するためのキットであって、治療的に有効な抗体と、(本明細書で記載される)前記抗体を蛍光標識するための手段と、1または複数の異種移植片腫瘍モデルとを含むキットである。
【0149】
本発明の方法の文脈で記載される実施形態は、変更すべきことを変更して、本発明のキットの文脈で適用可能である。
【0150】
本発明のさらなる態様は、治療的に有効な抗体についての前臨床試験のためのキットであって、治療的に有効な抗体と、(本明細書で記載される)前記抗体を蛍光標識するための手段と、前出の実施形態のうちのいずれかの方法により選択される1または複数の異種移植片腫瘍モデル、好ましくは、最も適格な異種移植片腫瘍モデルとを含むキットである。代替的に、キットは、異種移植片腫瘍モデルではなく、異種移植片腫瘍モデルを作製するのに用いうる、1または複数のヒト腫瘍細胞系または初代ヒト腫瘍細胞もしくは細胞系を含む場合もある。
【0151】
本発明の方法の文脈で記載される実施形態は、変更すべきことを変更して、本発明のキットの文脈で適用可能である。
【0152】
つまり、治療的に有効な抗体についての前臨床試験に最も適格な異種移植片腫瘍モデルの選択に関する本発明の態様は、以下の項目にまとめることができる。
(1)治療的に有効な抗体についての前臨床試験に最も適格な異種移植片腫瘍モデルをインビボにおいて選択する非侵襲的方法であって、
(a)1または複数の異種移植片腫瘍モデルにおいて、蛍光標識された前記治療的に有効な抗体を、前記異種移植片腫瘍モデル内のその標的に結合させた後で、近赤外蛍光イメージング(NIRF)により検出するステップと;
(b)前記治療的に有効な抗体を前記異種移植片腫瘍モデル内の前記標的に結合させた後で、最も強い蛍光シグナルを示す異種移植片腫瘍モデルを選択するステップと
を含む方法。
(2)前記異種移植片腫瘍モデルが、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、またはヒト以外のサルである、項目1の方法。
(3)前記異種移植片腫瘍モデルが、腫瘍を含む、前出の項目のうちのいずれかの方法。
(4)前記腫瘍が、ヒトに由来する、項目3の方法。
(5)前記腫瘍が、治療的に活性な抗体の標的をそれらの表面上に有する悪性/癌性細胞を含む、項目3または4の方法。
(6)前記標的が、細胞外部分を有するタンパク質である、項目5の方法。
(7)近赤外蛍光イメージングが、蛍光反射率イメージング(FRI)または蛍光媒介型断層撮影法(FMT)を包含する、前出の項目のうちのいずれかの方法。
(8)前記異種移植片腫瘍モデルに、蛍光標識された治療的に有効な抗体を、前記抗体を検出する前に投与する、前出の項目のうちのいずれかの方法。
(9)治療的に有効な抗体についての前臨床試験に最も適格な異種移植片腫瘍モデルをインビボにおいて選択する、前出の項目のうちのいずれかの方法。
(10)治療的に有効な抗体についての前臨床試験に最も適格な異種移植片腫瘍モデルをインビボにおいて選択する、前出の項目のうちのいずれかの方法の使用。
(11)治療的に有効な抗体についての前臨床試験に最も適格な異種移植片腫瘍モデルをインビボにおいて選択する非侵襲的方法であり、
(a)1または複数の異種移植片腫瘍モデルにおいて、蛍光標識された前記治療的に有効な抗体を、前記異種移植片腫瘍モデル内のその標的に結合させた後で、近赤外蛍光イメージング(NIRF)により検出するステップと;
(b)前記治療的に有効な抗体を前記異種移植片腫瘍モデル内の前記標的に結合させた後で、最も強い蛍光シグナルを示す異種移植片腫瘍モデルを選択するステップと
を含む方法における近赤外蛍光イメージング(NIRF)の使用。
(12)治療的に有効な抗体についての前臨床試験における使用のための、前出の項目のうちのいずれかの方法により選択される異種移植片腫瘍モデル。
(13)異種移植片腫瘍モデルをインビボにおいて選択するためのキットであって、治療的に有効な抗体と、前記抗体を蛍光標識するための手段と、1または複数の異種移植片腫瘍モデルとを含むキット。
(14)治療的に有効な抗体についての前臨床試験のためのキットであって、治療的に有効な抗体と、前記抗体を蛍光標識するための手段と、前出の項目のうちのいずれかの方法により選択される1または複数の異種移植片腫瘍モデルとを含むキット。
【0153】
上記の知見はまた、以下で詳細に説明されるヒト患者の層別化にも適用可能である。
【0154】
上記の異種移植片腫瘍モデルの文脈で記載される実施形態/定義は、別段に言明されない限り、変更すべきことを変更して、これより以後の実施形態へ適用される。
【0155】
さらなる態様では、本発明は、治療用抗体に対して好ましく応答する傾向がある癌/腫瘍患者を同定する非侵襲的方法であって、
(a)少なくとも1つの所定の波長の励起光を前記患者の所定領域へと方向付けるステップと、
(b)蛍光標識された治療用抗体から放射される、(a)の所定の波長から識別可能な波長を有する放射光を受容し、これにより、前記抗体に対して好ましく応答する傾向がある癌患者を同定するステップと
を含み、
前記癌/腫瘍患者が、蛍光標識された形態にある前記治療用抗体を、同定前に、ステップ(a)の前に、またはステップ(b)の前に施された患者である方法に関する。
【0156】
前記治療用抗体は、前記患者に治療有効量で投与する、すなわち、前記患者は、前記標識抗体を治療有効量で施されていることが好ましい。「治療有効量」または「治療的に活性な」とは、そのために治療用抗体が投与される治療効果をもたらす治療用抗体の用量を意味する。
【0157】
癌の場合、治療有効量の薬物は、癌細胞の数を低減することが可能であり;腫瘍サイズを低減することが可能であり;癌細胞の末梢器官への浸潤を阻害する(すなわち、ある程度遅らせる、好ましくは、停止させる)ことが可能であり;腫瘍の転移を阻害する(すなわち、ある程度遅らせる、好ましくは、停止させる)ことが可能であり;腫瘍増殖をある程度阻害することが可能であり;かつ/または障害と関連する症状のうちの1または複数をある程度軽減することが可能である。正確な用量は、処置の目的に依存し、既知の技法を用いて当業者により確認可能である。当技術分野で知られており上記した通り、年齢、体重、全身の健康状態、性別、食餌、薬物相互作用、および状態の重症度についての補正が必要な場合があり、当業者により日常的な実験を用いて確認可能である。本発明のそれぞれの方法または方法ステップの治療効果は、本明細書で記載される通りに検出可能である。
【0158】
上記のステップ(a)において用いられる励起光は、前記治療用抗体の標識を励起することが理論的に可能なことが理解されるであろう。
【0159】
本明細書で用いられる「非侵襲的」とは、本発明の方法、使用、および/またはキット/デバイスが、前記対象の皮膚および/または粘膜の損傷を創出せず、皮膚/粘膜の放射との接触を可能とし、これを伴い、また、放射による皮膚/粘膜および全ての後続層の透過も可能とし、これも伴うことを意味する。したがって、放射は、例えば、本発明の文脈において本明細書で記載される励起光、放射光など、全ての種類の光を包含する。
【0160】
本発明の方法/使用/キットは、前記治療用抗体に対して好ましく応答する傾向がある患者を同定するのに用いることができる。「治療用抗体に対して好ましく応答する傾向がある患者を同定する」という用語は、患者を層別化することを包含する。「〜を層別化すること」という用語は、患者を、前記治療用抗体による抗腫瘍療法から利益を得る可能性がある患者、またはその可能性がない患者へと分類することを指す。特に、患者を層別化することは、本明細書で記載される教示に従い放射光を決定し、これにより、患者が前記治療用抗体から利益を得る可能性があるのかどうかを判定することを伴う。癌/腫瘍細胞が前記蛍光治療用抗体により標識された患者は、前記療法から利益を得る可能性があるのに対し、腫瘍細胞が前記抗体により標識されていない患者は、利益を得る可能性がない。この目的で、少なくとも1つの所定の波長の励起光を、前記腫瘍/癌細胞または腫瘍自体を含む前記患者の所定領域へと方向付けることが想定される。言い換えれば、標識された治療用抗体は、言及された腫瘍細胞に結合し、これにより、上記で言及した方法のステップ(b)ならびに本明細書で開示される対応する方法および使用において検出可能なシグナルが結果としてもたらされる。その場合、標識された治療用抗体は、有益な効果を及ぼしうる、すなわち、患者が処置に対して好ましく応答する場合もあり、処置から利益を得る場合もあることが明らかである。抗体が前記患者の腫瘍に結合しないと仮定すると、シグナル(放射光)が見られないか、または、それ自体、治療用抗体が有益な効果を及ぼしうると考えられたにもかかわらず、実のところ、まさにその患者に対する最良の選択ではないことを既に示す、関与性でないシグナル(放射光)だけしか見られない。上記の方法(および本明細書で開示される対応する全ての方法)のステップ(b)の中の放射ステップから得られるシグナルが、関与性であるのか、関与性でないのかを判定することが可能であるためには、得られたシグナルを、前記患者のさらなる所定領域であって、供給源または由来が問題の組織(実のところ、腫瘍自体、腫瘍または腫瘍細胞の部分)と同じである健康な細胞または組織(例えば、いずれも乳房組織であるか、またはいずれも肺組織などである)を主に含有する点で特徴付けられる、さらなる所定領域におけるまさに同じ標識抗体により得られたシグナルと比較することが想定される。この比較は、当業者が、陰性と見なされる可能性がある蛍光の適当な閾値レベル(例えば、好ましくは同じ患者の、健康な乳房組織が、何らかの不特定の蛍光であって、療法の奏効について予測的でない蛍光を示す可能性がある)を規定する一助となるであろう。代替的にまた、得られたデータを、データベース内の基準データ、または異なる患者であるが健康な(腫瘍/癌に関して「健康な」)患者について得られた基準データと比較することも想定される。前記患者が、癌を患うと診断された患者であることが好ましい。
【0161】
層別化法の文脈において本明細書で用いられる「腫瘍」という用語は、制御されていない細胞増殖を典型的に特徴とする、哺乳動物における生理学的状態を指すか、またはこれについて記載する。腫瘍の例には、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫(髄芽細胞腫および網膜芽細胞腫を含めた)、肉腫(脂肪肉腫および滑膜細胞肉腫を含めた)、神経内分泌腫瘍(カルチノイド腫瘍、ガストリノーマ、および膵島細胞癌を含めた)、中皮腫、神経鞘腫(聴神経腫を含めた)、髄膜腫、腺癌腫、および黒色腫が含まれるがこれらに限定されない。また、消化器癌、膵臓癌、膠芽腫、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌(liver cancer)、膀胱癌、肝細胞癌、乳癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌腫または子宮癌腫、唾液腺癌腫、腎臓(kidneyまたはrenal)癌、前立腺癌、外陰癌、甲状腺癌、肝臓癌腫(hepatic carcinoma)、肛門癌腫、陰茎癌腫、精巣癌、食道癌、胆管の腫瘍の他、頭頸部癌、好ましくは乳癌の群から選択される充実性腫瘍も含まれる。乳癌が好ましい。
【0162】
また、本発明の治療用抗体を、1または複数のさらなる抗腫瘍剤と共に使用することも想定される。「抗腫瘍剤」という用語は、抗新生物剤、抗血管新生剤、化学療法剤、およびペプチドによる癌療法剤から選択されうる療法を包含する。抗新生物剤は、抗生剤型薬剤、アルキル化剤、代謝拮抗剤、ホルモン剤、免疫剤、インターフェロン型薬剤、キナーゼ阻害剤、およびこれらの組合せから選択することができる。このような医薬としての活性化合物/薬剤は、従来の低分子の有機化学分子の場合もあり、タンパク質、抗体(これらの断片を含めた)、ペプチボディ、DNA、RNA、またはこのような高分子の断片など、高分子の場合もある。
【0163】
本明細書で用いられる「励起光」という用語は、励起光源を介して発生させる光について記載するのに用いられる。励起光には、フルオロフォアに由来する蛍光を励起することが可能な光のスペクトル構成成分(すなわち、波長)が含まれるがこれらに限定されない。蛍光を励起することが可能な励起光中のスペクトル構成成分には、単一の波長、単一帯域の波長、複数の波長、または複数のスペクトル帯域の波長が含まれうる。蛍光を励起することが可能な励起光中のスペクトル構成成分は、約400〜700ナノメートル(nm)の可視スペクトル領域内の1または複数の波長を包含しうる。しかし、蛍光を励起することが可能な励起光中のスペクトル構成成分はまた、他のスペクトル領域内、例えば、約700〜1000ナノメートルの近赤外(NIR)スペクトル領域内、または約1〜400ナノメートルの紫外(UV)スペクトル領域内の1または複数の波長も包含しうる。励起光は、蛍光を励起しないスペクトル構成成分もさらに包含しうる。蛍光を励起することが可能な励起光のスペクトル構成成分は、それらが励起する蛍光より短い波長を有しうる。しかし、他の配置では、励起光の一部のさらなるスペクトル構成成分が、それらが励起する蛍光より長い波長を有しうる。好ましい実施形態では、励起光が、約671〜705nmの範囲のスペクトル帯域(ICG)を含む。励起光は、強度において連続性の場合もあり、波において連続性の場合もあり、パルス光の場合もあり、調整される場合もあり(例えば、周波数または振幅により)、これらの任意の適当な組合せの場合もある。
【0164】
励起光は、蛍光標識と遭遇すると吸収される。蛍光は、蛍光標識が励起された後でその基底状態へと戻るときに生じる。そこで、蛍光標識は、励起光とは検出可能な形で異なる(識別可能な)特性、すなわち、スペクトル特性(例えば、波長がわずかに長いなど)を有する光を放射する。吸収されたエネルギーの一部は、熱へと変換される。このエネルギーの喪失により、より短い励起波長からより長い放射波長への波長のシフトが引き起こされる。この過程は、ストークスシフトとして知られている。しかし、また、Xuら、(1996)、Proc.Natl.Acad.Sci.93:10763〜10768において記載される光学現象などの異なる光学現象を用いて蛍光を発生させることもできる。本発明の文脈では、少なくとも1つの、すなわち、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、なおまたはこれを超える、所定であり、好ましくは、識別されるかまたは識別可能な(1または複数の)波長を含む励起光を、対象の所定領域(場合によってまた、「描出」領域とも称する)へと方向付けることが想定される。したがって、「描出領域」または「所定領域」は、最大で(at most(maximal))対象の全身またはその身体の任意のより小さな部分を包摂する。本発明の使用/方法/キットのさらなる好ましい実施形態では、前記患者の前記所定領域が、前記患者の少なくとも乳房、肝臓、腎臓、膀胱、肺、前立腺、または膵臓を含む。
【0165】
本発明の方法ではまた、前記少なくとも1つの所定の波長の励起光を、前記対象の描出領域へともっぱら方向付けることも想定される。この点における「もっぱら」とは、前記励起光を、最大で(at most(maximal))言及される描出領域へと方向付けるが、対象の他のいかなる部分へも方向付けないことを意味する。
【0166】
蛍光シグナルを生成させる他、前記シグナルを検出するために、所定領域および励起光を規定することについては、その参照により本明細書に組み込まれるWO2011/012646(PCT/EP2010/060957)において極めて詳細に説明されている。
【0167】
蛍光標識は、量子ドット剤、蛍光染料、pH感受性蛍光染料、電圧感受性蛍光染料、および蛍光標識されたマイクロスフェアからなる群から選択されることが好ましい。
【0168】
治療用抗体は、これらの組合せを含めた、アレムツズマブ、アポリズマブ、セツキシマブ、エプラツズマブ、ガリキシマブ、ゲムツズマブ、イピリムマブ、ラベツズマブ、パニツムマブ、リツキシマブ、トラスツズマブ、ニモツズマブ、マパツムマブ、マツズマブ、rhMAb ICR62、rhMAb B−Ly1およびペルツズマブ、トラスツズマブ、および/またはオムニターグからなる群から選択されることが好ましい。ステップ(b)では、(a)の所定の波長から識別可能な波長を有する前記光が、光学検出器により受容されることが想定される。「光学検出器」という用語は、本明細書の別の箇所で規定されている。前記対象は、治療有効用量の前記治療用抗体を、同定前に施されていることが好ましい。
【0169】
上記の方法は、前記患者の腫瘍から受容された組織試料中の腫瘍細胞のサブセットをエクスビボにおいて検出するステップをさらに含み、前記患者は、蛍光標識された抗体を、前記組織試料の摘出前に施された患者でありうる。
【0170】
「腫瘍試料」(場合によってまた「組織試料」とも称する)は、対象に由来することが好ましく、注射針生検、外科生検、骨髄生検などの生検を介して得ることができる。したがって、腫瘍試料には、腫瘍、腫瘍の部分、腫瘍に由来する腫瘍細胞(腫瘍に由来する可能性があり、細胞培養物中で増殖する腫瘍細胞系を含めた)が含まれるが、また、腫瘍細胞系自体、ならびに対象に由来し、腫瘍形成性、なおもしくは癌性であることが疑われるか、または腫瘍形成性細胞もしくは癌性細胞を含むことが疑われる細胞および/または組織も含まれる。したがって、腫瘍試料にはまた、非腫瘍形成性細胞も含まれうることが想定される。例えば、腫瘍細胞および/または(微小)転移巣は、健康な、すなわち、非腫瘍形成性組織により取り囲まれていることが多い、すなわち、そうであれば、腫瘍細胞は、健康な組織内に細胞のサブセットを形成しうるであろう。腫瘍試料は、これによれば、健康な(非腫瘍形成性)細胞のサブセットと、腫瘍形成性細胞のサブセットとを含みうるであろう。
【0171】
前記細胞のサブセットは、直接的または間接的免疫組織化学(IHC)により検出されることが好ましい。
【0172】
さらなる実施形態では、本発明は、本明細書で規定される方法により、抗体に対して好ましく応答すると診断された患者の処置において用いられる前記抗体に関する。
【0173】
図とは、以下を示す。
【図面の簡単な説明】
【0174】
図1-1】Calu3肺癌異種移植片における、IGF1RについてのIHC染色を示す図である。
図1-2】Calu3肺癌異種移植片における、抗IGF1R−Cy5 mAbについてのインビボイメージングを示す図である。
図1-3】Calu3肺癌異種移植片における、抗IGF1R mAbの治療的有効性を示す図である。
図2-1】A549肺癌異種移植片における、IGF1RについてのIHC染色を示す図である。
図2-2】A549肺癌異種移植片における、抗IGF1R−Cy5 mAbについてのインビボイメージングを示す図である。
図2-3】A549肺癌異種移植片における、抗IGF1R mAbの治療的有効性を示す図である。
図3-1】Calu3肺癌異種移植片における、Her2およびHer3についてのIHC染色を示す図である。
図3-2】Calu3肺癌異種移植片における、抗HER2−Cy5 mAbおよび抗HER3−Cy5 mAbについてのインビボイメージングを示す図である。
図3-3】Calu3肺癌異種移植片における、抗HER2−Cy5 mAbおよび抗HER3−Cy5 mAbについてのエクスビボイメージングを示す図である。
図3-4】Calu3肺癌異種移植片における、抗HER3 mAbおよび抗HER2 mAbの治療的有効性を示す図である。
図4図4−1は、Calu3肺癌異種移植片における、抗HER2−Cy5 mAbおよび抗IGF1R−Cy5 mAbについてのインビボイメージングを示す図である。図4−2は、Calu3肺癌異種移植片における、抗HER2−Cy5 mAbおよび抗IGF1R−Cy5 mAbについてのエクスビボイメージングを示す図である。
【実施例】
【0175】
以下の実施例は、本発明を例示するものである。これらの実施例は、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。実施例は、例示を目的として包含されるものであり、本発明を限定するのは特許請求の範囲だけである。
【実施例1】
【0176】
第1の例では、免疫組織化学(IHC)の能力と、近赤外蛍光イメージング(NIRF)の能力とを比較して、腫瘍と関連するIGF1受容体の、Calu3肺癌異種移植片における発現レベルを検証する。
【0177】
古典的なIHCによりIGF1受容体を検出するために、Calu3腫瘍を動物から外植し、ホルマリン中で24時間にわたり固定する。その後、腫瘍組織を脱水し、パラフィン中に包埋する。組織を切断し、スライドガラス上に取り上げ、37℃で一晩にわたり空気乾燥させた後、脱パラフィン化し、熱誘導型エピトープ回復(Dako Target Retrieval Solution)を行う。IGF1受容体の染色には、Calbiochem製のマウス抗IGF1R mAb(Ab−4、Cl24−31)を用い、製造元により指定される通りに実施する。その後、スライドをカバーガラスで覆い、明視野顕微鏡法で視覚化する。陽性細胞の百分率および染色強度を、承認を経た病理学者に解析させた結果、++〜+++の高い染色強度および90%の陽性細胞がもたらされる。したがって、IGF1受容体のIHC検出は、Calu3肺癌異種移植片における高い発現レベルを呈示する(図1−1)。
【0178】
近赤外蛍光イメージングによりIGF1受容体を非侵襲的に検出するため、重度複合型Calu3腫瘍保有マウス5匹に、Cy5標識した抗IGF1R mAbを注射する。50マイクログラムの標識mAbを単回で静脈内注射した48時間後、腫瘍領域内の蛍光シグナルをイメージングする。全てのインビボ画像のシグナルを標準化し、擬似カラーへと転換する。イメージングの結果は、腫瘍領域内のシグナル強度が極めて弱いことを示す。イメージングの結果は、抗体のIGF1受容体への結合が生じていないか、極めて弱い結合しか生じていないことを示す(図1−2)。
【0179】
Calu3内のIGF1Rについての、IHCによる実験的実証とNIRFイメージングによる実験的実証とは、異なる結果をもたらす。IHCは、高度に陽性の受容体発現を示し、結果として、Calu3が、抗IGF1R mAbの抗腫瘍的有効性を試験するのに適切な前臨床異種移植片モデルであるはずであることを示す。これと対比して、治療用抗IGF1R−Cy5 mAbについてのNIRFイメージングは、腫瘍領域内のシグナルをほとんど示さず、したがって、Calu3を前臨床研究用に優先しない。
【0180】
これらの事前データを確認するため、抗IGF1R治療用抗体を前臨床研究において試験する。重度複合型Calu3保有Balb/cヌードマウスを、各群10匹ずつのマウスを伴う4つの群に分ける。非処置媒体群(1)には、ヒスチジン緩衝液を週1回腹腔内注射する。処置群(2〜4)には、治療用抗IGF1R抗体を、週1回0.6、6、および18mg/kgで腹腔内注射する。全ての動物の腫瘍体積は、キャリパーで経時的に測定する(図1−3)。
【0181】
抗IGF1Rモノクローナル抗体は、Calu3肺癌異種移植片における抗腫瘍活性を所有せず、したがって、NIRFイメージングによる結果を確認する。IHCによる優先は、誤った偽の結果をもたらす。
【実施例2】
【0182】
次の例では、A549肺癌異種移植片における、腫瘍と関連するIGF1受容体の発現レベルを検証する免疫組織化学(IHC)の能力と近赤外蛍光イメージング(NIRF)の能力とを比較する。
【0183】
古典的なIHCによりIGF1受容体を検出するために、A549腫瘍を動物から外植し、ホルマリン中で24時間にわたり固定する。その後、腫瘍組織を脱水し、パラフィン中に包埋する。組織を切断し、スライドガラス上に取り上げ、37℃で一晩にわたり空気乾燥させた後、脱パラフィン化し、熱誘導型エピトープ回復(Dako Target Retrieval Solution)を行う。IGF1受容体の染色には、Calbiochem製のマウス抗IGF1R mAb(Ab−4、Cl24−31)を用い、製造元により指定される通りに実施する。その後、スライドをカバーガラスで覆い、明視野顕微鏡法で視覚化する。陽性細胞の百分率および染色強度を、承認を経た病理学者に解析させた結果、++〜+++の高い染色強度および80〜90%の陽性細胞がもたらされる。したがって、IGF1受容体のIHC検出は、A549肺癌異種移植片における高い受容体発現レベルを呈示する(図2−1)。
【0184】
近赤外蛍光イメージングによりIGF1受容体を非侵襲的に検出するため、重度複合型A549腫瘍保有マウス4匹に、Cy5標識した抗IGF1R mAbを注射する。50マイクログラムの標識mAbを単回で静脈内注射した48時間後、腫瘍領域内の蛍光シグナルをイメージングする。全てのインビボ画像のシグナルを標準化し、擬似カラーへと転換する。イメージングの結果は、腫瘍領域内のシグナル強度が極めて弱いことを示す。イメージングの結果は、抗体のIGF1受容体への結合が生じていないか、極めて弱い結合しか生じていないことを示す(図2−2)。
【0185】
A549内のIGF1Rについての、IHCによる実験的実証とNIRFイメージングによる実験的実証とは、異なる結果をもたらす。IHCは、高度に陽性の受容体発現を示し、結果として、A549が、抗IGF1R mAbの抗腫瘍的有効性を試験するのに適切な前臨床異種移植片モデルであるはずであることを示す。これと対比して、治療用抗IGF1R−Cy5 mAbについてのNIRFイメージングは、腫瘍領域内のシグナルをほとんど示さず、したがって、A549を前臨床研究用に優先しない。
【0186】
これらの事前データを確認するため、抗IGF1R治療用抗体を前臨床研究において試験する。重度複合型A549保有Balb/cヌードマウスを、各群10匹ずつのマウスを伴う2つの群に分ける。非処置媒体群(1)には、ヒスチジン緩衝液を週1回腹腔内注射し、処置群(2)には、治療用抗IGF1R抗体を、週1回6mg/kgで腹腔内注射する。全ての動物の腫瘍体積は、キャリパーで経時的に測定する(図2−3)。
【0187】
抗IGF1Rモノクローナル抗体は、A549肺癌異種移植片における抗腫瘍活性を所有せず、したがって、NIRFイメージングによる結果を確認する。IHCによる優先は、誤った偽の結果をもたらす。
【実施例3】
【0188】
次の例では、Calu3肺癌異種移植片における、腫瘍と関連するHER2受容体およびHER3受容体の発現レベルを検証する免疫組織化学(IHC)の能力と近赤外蛍光イメージング(NIRF)の能力とを比較する。
【0189】
古典的なIHCによりHER2およびHER3を検出するために、Calu3腫瘍を動物から外植し、ホルマリン中で24時間にわたり固定する。その後、腫瘍組織を脱水し、パラフィン中に包埋する。組織を切断し、スライドガラス上に取り上げ、37℃で一晩にわたり空気乾燥させた後、脱パラフィン化し、熱誘導型エピトープ回復(Dako Target Retrieval Solution)を行う。HER2受容体およびHER3受容体の染色には、Ventana製のマウス抗Her2 mAb(4B5)およびDako製のマウス抗HER3 mAb(抗HER3)を用い、製造元により指定される通りに実施する。その後、スライドをカバーガラスで覆い、明視野顕微鏡法で視覚化する。陽性細胞の百分率および染色強度を、承認を経た病理学者に解析させる。その結果、HER2には、+++の極めて高い染色強度および>95%の陽性細胞がもたらされ、HER3には、++〜+++の高い染色強度および90%の陽性細胞がもたらされる。したがって、HER2受容体およびHER3受容体のIHC検出は、Calu3肺癌異種移植片における高い受容体発現レベルを呈示する(図3−1)。
【0190】
近赤外蛍光イメージングによりHER2受容体およびHER3受容体を非侵襲的に検出するため、重度複合型Calu3腫瘍保有マウス3匹に、Cy5標識した抗HER2 mAb(トラスツズマブ)を注射し、重度複合型Calu3腫瘍保有マウス3匹に、Cy5標識した抗HER3 mAb(WO2008100624(A2、A3)において記載されるAb#6)を注射する。50マイクログラムの標識mAbを単回で静脈内注射した48時間後、腫瘍領域内の蛍光シグナルをイメージングする。全てのインビボ画像のシグナルを標準化し、擬似カラーへと転換し、マウスの明視野画像へと重ね合せる。イメージングの結果は、腫瘍領域内のシグナル強度が、抗HER3−Cy5 mAbについては極めて弱いことを示し、抗HER2−Cy5 mAbについては極めて強いことを示す。イメージングの結果は、抗HER3−Cy5 mAbのHER3受容体への結合が生じていないか、極めて弱い結合しか生じていないことを示す。これに対し、抗HER2−Cy5 mAbは、HER2受容体への強いアフィニティーおよび結合を呈示する(図3−2)。
【0191】
インビボイメージングからの結果を、エクスビボにおける組織学的解析により確認する。このために、全ての腫瘍を外植し、ホルマリン中で8時間にわたり固定する。その後、腫瘍組織を脱水し、パラフィン中に包埋する。組織を切断し、スライドガラス上に取り上げ、暗所において37℃で一晩にわたり空気乾燥させる。脱パラフィン化の後、スライドをDAPIで染色し、蛍光顕微鏡法で視覚化する(図3−3)。エクスビボイメージングからの結果は、インビボにおけるデータと完全に相関する。マウス組織には、弱い抗HER3−Cy5シグナルしか位置せず、腫瘍細胞に結合する特異的抗体は目視できない(図3−3a)。他方、Calu3腫瘍細胞の近傍では、極めて強く、高度に特異的な抗HER2−Cy5シグナルが目視できる(図3−3b)。
【0192】
Calu3内のHER2およびHER3についての、IHCによる実験的実証とNIRFイメージングによる実験的実証とは、異なる結果をもたらす。IHCは、両方の受容体について高度に陽性の受容体発現を示し、結果として、Calu3が、抗HER2 mAbおよび抗HER3 mAbの抗腫瘍的有効性を試験するのに適切な前臨床異種移植片モデルであるはずであることを示す。これと対比して、治療用抗HER3−Cy5 mAbについてのNIRFイメージングは、腫瘍領域内で弱いシグナルを示すが、治療用抗HER2−Cy5 mAbについてのNIRFイメージングは、腫瘍領域内で極めて強いシグナルを示し、したがって、Calu3を、抗HER2 mAbのための前臨床モデルとして優先する。
【0193】
これらの事前データを確認するため、抗HER2治療用抗体および抗HER3治療用抗体を前臨床研究において試験する。重度複合型Calu3保有SHOマウスを、各群8匹ずつのマウスを伴う3つの群に分ける。非処置媒体群(1)には、ヒスチジン緩衝液を週1回腹腔内注射する。第1の処置群(2)には、治療用抗HER2抗体を、週1回10mg/kgで腹腔内注射する。第2の処置群(3)には、治療用抗HER3抗体を、週1回10mg/kgで腹腔内注射する。全ての動物の腫瘍体積は、キャリパーで経時的に測定する(図3−4)。
【0194】
治療用抗Her3 mAbは、Calu3肺癌異種移植片において抗腫瘍活性を所有しないが、治療用抗Her2 mAbは、Calu3肺癌異種移植片において強い抗腫瘍活性を示す。いずれの結果も、NIRFイメージングと一致する。
【実施例4】
【0195】
次の例では、Calu3肺癌異種移植片における、腫瘍と関連するHER2受容体およびIGF1受容体の発現レベルを検証する免疫組織化学(IHC)の能力と近赤外蛍光イメージング(NIRF)の能力とを比較する。
【0196】
この研究では、ヒト肺腺癌腫癌細胞系であるCalu−3を用いた。腫瘍細胞(100マイクロリットルのPBS中に5.0×106個の細胞)を、BALB/cヌードマウスに皮下注射した。150〜200mmの腫瘍体積で、Cy5蛍光標識された抗HER2(トラスツズマブ)モノクローナル抗体および抗IGF1R(cl18)モノクローナル抗体を静脈内注射し(2mg/kg)、Cambridge Research Instruments製のイメージングシステムであるMAESTROによりインビボイメージングを行った。インビボイメージングの直後に、腫瘍を外植し、ホルマリン中で固定し、パラフィン中に包埋した。スライドは、マルチスペクトル蛍光を介して、NUANCE蛍光顕微鏡(Cambridge Research Instruments)により解析した。
【0197】
インビボイメージングが同等なシグナル(蛍光標識された抗体から発生する)を明示することから、いずれの抗体も腫瘍細胞に結合することが示唆される(図4−1Aおよび4−1B)。抗体の腫瘍細胞への特異的結合が、有効性の前提条件である。外植された腫瘍組織のマルチスペクトル蛍光解析による検討は、抗HER2モノクローナル抗体が、腫瘍細胞に特異的に結合することを明示する(図4−2A)。腫瘍細胞は、製造元の指示書に従い、FISH検出キットで染色した。この試験は、HER2遺伝子のどれほど多くのコピーが腫瘍細胞内に存在するのかを示す。遺伝子のコピーが多いほど、その細胞は多くのHER2受容体を有する(緑色のドット)。しかし、IGF1受容体を標的とするcl18モノクローナル抗体は、腫瘍細胞に結合せず、マウスの間質組織内に位置する(図4−2B)。
図1-3】
図2-3】
図3-4】
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図4