特許第6100705号(P6100705)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本光電工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6100705-血圧測定システム 図000002
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6100705
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】血圧測定システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/0215 20060101AFI20170313BHJP
【FI】
   A61B5/02 610A
   A61B5/02 610F
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-9623(P2014-9623)
(22)【出願日】2014年1月22日
(65)【公開番号】特開2015-136484(P2015-136484A)
(43)【公開日】2015年7月30日
【審査請求日】2016年3月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 博
【審査官】 伊藤 幸仙
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−530769(JP,A)
【文献】 欧州特許第2898824(EP,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/201851(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/0215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の血圧値を観血的に測定する血圧計と、
前記血圧値の測定基準値を較正する較正部と、
前記被検者に装着されるように構成された第1気圧センサと、
所定の位置に固定された第2気圧センサと、
前記第1気圧センサにより検出された第1気圧値と前記第2気圧センサにより検出された第2気圧値の差分を取得する差分取得部と、
前記差分に基づいて、前記測定基準値の較正が必要かを判定する判定部と、
を備えている、血圧測定システム。
【請求項2】
前記較正が必要と前記判定部が判定した場合、前記較正部は、前記測定基準値を自動的に較正する、請求項1に記載の血圧測定システム。
【請求項3】
前記較正が必要と前記判定部が判定した場合にアラームを出力する報知部を備えている、請求項1または2に記載の血圧測定システム。
【請求項4】
前記第1気圧センサと前記第2気圧センサの少なくとも一方に隣接して設けられた温度センサを備えており、
前記判定部は、前記差分と前記温度センサにより検出された温度とに基づいて、前記較正が必要かを判定する、請求項1から3のいずれか一項に記載の血圧測定システム。
【請求項5】
前記第1気圧センサは、被検者の胸部に装着されるように構成されている、請求項1から4のいずれか一項に記載の血圧測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検者の血圧値を観血的に測定するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
被検者の血管内にカテーテルなどを挿入し、時々刻々と変化する血圧を連続的に測定する観血式血圧測定法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。血管内で発生している圧力は、モニタリングラインを介してカテーテルに接続されたトランスデューサによって電気信号に変換される。血圧計は、当該電気信号に対応する血圧値や血圧波形を、医療従事者などに表示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−269938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
観血式の血圧測定においては、測定の基準値を定めるためのゼロ点較正と呼ばれる処理が必須である。ゼロ点較正は、トランスデューサを基準点に配置し、トランスデューサに加わる圧力をゼロにしたとき(カテーテルを大気開放したとき)に、血圧値に対する電気信号が測定基準値(例えば0V)になるように行なわれる。
【0005】
ゼロ点較正は、被検者が変わるごとに行なわれる。しかしながら、同一の被検者に対する測定中においても、様々な要因で上記の測定基準値は変動(ドリフト)する。最も大きな変動要因は、被検者の体位変換などにより、血圧測定位置とトランスデューサの位置関係(相対高度)が変化することである。測定基準値が変動すると正確な血圧測定を遂行できないため、再度ゼロ点較正を行なう必要がある。ゼロ点較正に際しては、トランスデューサが接続された三方活栓を大気開放状態にする必要がある。被検者の体位が変わる度にゼロ点較正を行なうことは、被検者と医療従事者の双方にとって負担になっている。
【0006】
よって本発明は、観血式の血圧測定時における被検者と医療従事者の負担を軽減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために本発明がとりうる一態様は、血圧測定システムであって、
被検者の血圧値を観血的に測定する血圧計と、
前記血圧値の測定基準値を較正する較正部と、
前記被検者に装着されるように構成された第1気圧センサと、
所定の位置に固定された第2気圧センサと、
前記第1気圧センサにより検出された第1気圧値と前記第2気圧センサにより検出された第2気圧値の差分を取得する差分取得部と、
前記差分に基づいて、前記測定基準値の較正が必要かを判定する判定部と、
を備えている。
【0008】
このような構成によれば、被検者に装着された第1気圧センサにより検出された第1気圧値と、位置が固定された第2気圧センサにより検出された第2気圧値の差分がモニタされるため、被検者の体位変換に起因する測定基準値の変動のみを把握でき、的確な対応が可能となる。また、血圧測定に支障がない程度の体位変換であれば、較正の必要がないと判定するようにできる。したがって、三方活栓の大気開放を伴うゼロ点較正の機会を減らすことができ、観血式の血圧測定時における被検者と医療従事者の負担を軽減できる。
【0009】
前記較正が必要と前記判定部が判定した場合、前記較正部は、前記測定基準値を自動的に較正する構成としてもよい。
【0010】
このような構成によれば、測定基準値の較正が自動化され、三方活栓の大気開放を伴うゼロ点較正を行なう必要性をより抑制できる。したがって、観血式の血圧測定時における被検者と医療従事者の負担をさらに軽減できる。
【0011】
前記較正が必要と前記判定部が判定した場合にアラームを出力する報知部を備えている構成としてもよい。
【0012】
このような構成によれば、測定基準値の較正を手動で行う場合において、その必要性をより確実に医療従事者に報知できる。また測定基準値の較正が較正部により自動的に行なわれる場合においては、医療従事者は較正処理が行なわれている状況を(すなわち定常の測定状態ではないことを)容易に把握できる。したがって、観血式の血圧測定時における医療従事者の負担をさらに軽減できる。
【0013】
前記第1気圧センサと前記第2気圧センサの少なくとも一方に隣接して設けられた温度センサを備えている構成としてもよい。この場合、前記判定部は、前記差分と前記温度センサにより検出された温度とに基づいて、前記較正が必要かを判定する。
【0014】
血圧計における測定基準値は、測定中における温度変化によっても変動する。上記の構成によれば、測定中における周囲の温度変化も加味して較正の要否が判定されるため、より正確な判定結果を提供できる。したがって、観血式の血圧測定時における被検者と医療従事者の負担をさらに軽減できる。
【0015】
前記第1気圧センサは、被検者の胸部に装着される構成としてもよい。
【0016】
このような構成によれば、差分取得部により取得される第1気圧値と第2気圧値の差分は、より発明の趣旨に沿ったものとなり、較正の要否に係る判定の正確性が向上する。したがって、観血式の血圧測定時における被検者と医療従事者の負担をさらに軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る血圧測定システムを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る実施形態の例を添付の図面を参照しつつ以下詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る血圧測定システム1の構成を模式的に示す図である。なお同図においては、各部材を認識可能な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0019】
血圧測定システム1は、血圧計10を備えている。血圧計10は、被検者2の血圧値を観血的に測定する。
【0020】
図示の例は、動脈血圧の測定を行なう場合であり、被検者2の橈骨動脈にカテーテル(動脈針)21が挿入されている。静脈血圧の測定を行なう場合は、スワンガンツカテーテルを用いてもよい。トランスデューサ22は、被検者2の心臓の高さ(胸厚の半分に対応する位置の高さ)に固定される。カテーテル21とトランスデューサ22は、モニタリングライン23によって接続されている。
【0021】
モニタリングライン23は、第1チューブ23a、第2チューブ23b、第3チューブ23c、三方活栓23d、および輸液ボトル23eを含んでいる。第1チューブ23aは、カテーテル21と三方活栓23dを接続している。第2チューブ23bは、トランスデューサ22と三方活栓23dを接続している。第3チューブ23cは、輸液ボトル23eと三方活栓23dを接続している。輸液ボトル23eには、ヘパリン入り生理食塩水が収容されている。三方活栓23dを全て開放することにより、第1チューブ23a、第2チューブ23b、および第3チューブ23cは、ヘパリン入り生理食塩水で満たされる。
【0022】
トランスデューサ22は、ヘパリン入り生理食塩水を通じて伝達される被検者2の血管内の圧力に対応する電気信号を出力する。血圧計10は、当該電気信号に対応する血圧値や血圧波形を、医療従事者などのユーザに表示する。
【0023】
血圧測定システム1は、較正部11を備えている。較正部11は、血圧計10が測定する血圧値の測定基準値を較正するように構成されている。血圧の測定開始にあたって、血圧計10の初期ゼロ点較正が行なわれる。具体的には、カテーテル21を待機開放状態にしてトランスデューサ22にかかる圧力をゼロにする。較正部11は、この状態において血圧計10に入力される電気信号が基準値(例えば0V)となるように較正を行なう。
【0024】
血圧測定システム1は、第1気圧センサ31を備えている。第1気圧センサ31は、被検者2に装着されるように構成されている。第1気圧センサ31は、装着された位置における気圧(第1気圧値)を検出し、第1気圧値に対応する信号を出力するように構成されている。
【0025】
血圧測定システム1は、第2気圧センサ32を備えている。第2気圧センサ32は、所定の位置に固定されている。第2気圧センサ32は、当該所定の位置における気圧(第2気圧値)を検出し、第2気圧値に対応する信号を出力するように構成されている。
【0026】
血圧測定システム1は、差分取得部12を備えている。差分取得部12は、第1気圧センサ31により検出された第1気圧値と第2気圧センサ32により検出された第2気圧値の差分を取得するように構成されている。
【0027】
血圧測定システム1は、判定部13を備えている。判定部13は、差分取得部12が取得した上記の差分に基づいて、血圧計10の測定基準値の較正が必要かを判定するように構成されている。例えば、測定開始時における第1気圧値と第2気圧値の差分の値が所定値以上変動した場合、較正が必要と判定される。当該所定値は、正確な血圧値の測定遂行に支障を生じる程度の値に定められる。換言すると、被検者2の体位が変化しても差分値の変化が所定値未満であれば、判定部13は、較正が必要と判定しない。
【0028】
単一の気圧センサを用いる場合、測定中における気圧検出値の変化が、大気圧の変化に起因するものなのか、被検者の体位変換に起因するものなのかを、検出値のみから把握することはできない。しかしながら本実施形態の構成によれば、被検者2に装着された第1気圧センサ31により検出された第1気圧値と、位置が固定された第2気圧センサ32により検出された第2気圧値の差分がモニタされるため、被検者2の体位変換に起因する測定基準値の変動のみを把握でき、的確な対応が可能となる。また、血圧測定に支障がない程度の体位変換であれば、較正の必要がないと判定するようにできる。したがって、三方活栓23dの大気開放を伴うゼロ点較正の機会を減らすことができ、観血式の血圧測定時における被検者と医療従事者の負担を軽減できる。
【0029】
較正部11は、ユーザが手動で操作可能なダイヤルやスイッチを通じて測定基準値の較正が遂行されるように構成されうる。一方、図1に破線で示すように、較正部11と判定部13を通信可能に接続してもよい。この場合、判定部13は、測定基準値の較正要否を示す信号を、較正部11へ出力するように構成される。較正部11は、較正が必要と判定部13が判定した場合、測定基準値を自動的に構成するように構成される。例えば、差分取得部12が取得した第1気圧値と第2気圧値の差分値と測定基準値の補正量の関係を、予めテーブルや関数として較正部11に格納しておく。較正が必要と判定部13が判定した場合、較正部11は、差分取得部12が取得した差分値を参照し、当該テーブルや関数に基づいて測定基準値の補正量を決定する。
【0030】
このような構成によれば、測定基準値の較正が自動化され、三方活栓23dの大気開放を伴うゼロ点較正を行なう必要性をより抑制できる。したがって、観血式の血圧測定時における被検者と医療従事者の負担をさらに軽減できる。
【0031】
図1に破線で示すように、血圧測定システム1は、報知部14を備えてもよい。この場合、報知部14は、較正が必要と判定部13が判定した場合にアラームを出力するように構成される。
【0032】
このような構成によれば、測定基準値の較正を手動で行う場合において、その必要性をより確実に医療従事者に報知できる。また測定基準値の較正が較正部11により自動的に行なわれる場合においては、医療従事者は較正処理が行なわれている状況を(すなわち定常の測定状態ではないことを)容易に把握できる。したがって、観血式の血圧測定時における医療従事者の負担をさらに軽減できる。
【0033】
図1に破線で示すように、血圧測定システム1は、温度センサ15を備えてもよい。この場合、温度センサ15は、第1気圧センサ31と第2気圧センサ32の少なくとも一方に隣接して設けられる。図1に示す例においては、温度センサ15は、第2気圧センサ32の近傍に配置されている。これに加えてあるいは代えて、温度センサ15は、第1気圧センサ31の近傍に配置されてもよい。本例における判定部13は、差分取得部12により取得された第1気圧値と第2気圧値の差分と、温度センサ15により検出された温度とに基づいて、測定基準値の較正が必要かを判定するように構成される。
【0034】
血圧計10における測定基準値は、測定中における温度変化によっても変動する。温度センサ15による検出結果は、測定基準値が温度変化により変動した可能性を示唆しうる。上記の構成によれば、測定中における周囲の温度変化も加味して較正の要否が判定されるため、より正確な判定結果を提供できる。したがって、観血式の血圧測定時における被検者と医療従事者の負担をさらに軽減できる。
【0035】
差分取得部12が第1気圧値と第2気圧値の差分を取得でき、当該差分に基づいて判定部13が較正の要否を判定できれば、第1気圧センサ31の装着位置は特に限定されない。しかしながら、図1に示すように、第1気圧センサ31は被検者2の胸部2aに配置されることが好ましい。トランスデューサ22は被検者2の心臓の高さに固定されているため、第1気圧センサ31により検出される第1気圧値は、被検者2の心臓の近傍の気圧値であることが好ましいからである。
【0036】
このような構成によれば、差分取得部12により取得される第1気圧値と第2気圧値の差分は、より本発明の趣旨に沿ったものとなり、較正の要否に係る判定の正確性が向上する。したがって、観血式の血圧測定時における被検者と医療従事者の負担をさらに軽減できる。
【0037】
上記の実施形態は本発明の理解を容易にするためのものであって、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく変更・改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは明らかである。
【0038】
図1に示した例においては、較正部11、差分取得部12、判定部13、および報知部14は、血圧計10の内部に設けられている。しかしながら、これらの少なくとも1つは、血圧計10とは別体の装置の内部に設けられてもよい。
【0039】
血圧計10は、必ずしも独立した装置であることを要しない。心電図などの生体情報を取得・表示する生体情報モニタ装置において実現される一機能として提供されてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1:血圧測定システム、2:被検者、2a:被検者の胸部、10:血圧計、11:較正部、12:差分取得部、13:判定部、14:報知部、15:温度センサ、31:第1気圧センサ、32:第2気圧センサ
図1