(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6100727
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】リードスルー機能を有する人協調型産業用ロボット
(51)【国際特許分類】
B25J 13/08 20060101AFI20170313BHJP
B25J 19/06 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
B25J13/08 Z
B25J19/06
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-80164(P2014-80164)
(22)【出願日】2014年4月9日
(65)【公開番号】特開2015-199174(P2015-199174A)
(43)【公開日】2015年11月12日
【審査請求日】2016年3月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100159684
【弁理士】
【氏名又は名称】田原 正宏
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(74)【代理人】
【識別番号】100157211
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 一夫
(72)【発明者】
【氏名】中川 浩
(72)【発明者】
【氏名】岩山 貴敏
【審査官】
佐々木 一浩
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭61−203293(JP,A)
【文献】
特開平03−055195(JP,A)
【文献】
特開平9−62334(JP,A)
【文献】
特開2005−103674(JP,A)
【文献】
特開平11−231925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 13/08
B25J 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業者と作業空間を共有する人協調型の産業用ロボットであって、
作業者が操作力をロボットに付与して前記ロボットの位置及び姿勢を変更するリードスルー動作を実行するリードスルー実行部と、
前記リードスルー動作を実行する際に前記ロボットに付与される操作力を検出する操作力検出部と、
押圧力が付与されたときに前記リードスルー動作を有効化し、押圧力が解放されたときに前記リードスルー動作を無効化するリードスルースイッチと、
作業者と前記ロボットとが接触したときに前記ロボットに付与される接触力を検出する接触力検出部と、
前記接触力が所定の閾値を超えた場合に、前記ロボットを停止させるか、又は前記接触力を低減する方向に前記ロボットを退避させる接触力監視部と、を備えており、
前記リードスルー動作が有効であるときには、前記接触力監視部が無効化されるとともに、前記リードスルー動作が無効であるときには、前記接触力監視部が有効化される、産業用ロボット。
【請求項2】
前記操作力検出部が、前記ロボットの手首に取付けられた力センサによって前記操作力を検出する、請求項1に記載の産業用ロボット。
【請求項3】
前記接触力検出部が、前記ロボットの非可動部に取付けられた力センサ、又は前記ロボットの少なくとも3つの駆動軸にそれぞれ取付けられたトルクセンサによって前記接触力を検出する、請求項1又は2に記載の産業用ロボット。
【請求項4】
前記接触力検出部が、前記ロボットの非可動部に取付けられた力センサ、又は前記ロボットの少なくとも3つの駆動軸にそれぞれ取付けられたトルクセンサによって前記接触力を検出するようになっており、
前記操作力検出部が、前記力センサ又は前記トルクセンサによって前記操作力を検出する、請求項1に記載の産業用ロボット。
【請求項5】
ワークを解放可能に把持するハンドを手首に備えており、
把持状態と解放状態との間を切替えるように前記ハンドを動作させるハンド操作スイッチが、前記ロボット、前記ハンド、又は前記ロボットの周囲に設けられる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の産業用ロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人協調型産業用ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な産業用ロボットは、作業者の安全を確保するために、作業者の立ち入りが制限される安全柵で包囲された空間内で動作するようになっている。しかしながら、近年、作業者の近くで動作するように構成された人協調型ロボットに対する要望が高まっている。人協調型ロボットの場合、ロボットが作業者に接触して作業者に危険が及ぶことがあるので、ロボットと作業者との間の接触の有無をセンサで監視するように構成される。例えば、ロボットに作用する接触力を力センサで検出し、その検出値が所定の閾値を超える場合、作業者の安全を確保するために、ロボットが停止される。
【0003】
特許文献1には、ロボットアームの任意の箇所に作用する接触力を検出する接触力検出装置を備えたロボットシステムが開示されている。このロボットシステムにおいては、検出された接触力を回避するようにロボットを動作させることによって、ロボットの周囲の人又は物に危害が加わることを防止するようになっている。
【0004】
人協調型ロボットにおいて、ロボットに対する教示位置を作業者が手動で教示するリードスルー動作が行われることがある。例えば特許文献2には、力センサの出力信号に基づいてロボットに直接教示するようにした教示方法が開示されている。また、特許文献3には、直接教示を安全に実行できるように、簡易教示装置に設けられたサーボ電源保持スイッチと、教示用ハンドルに設けられた操作可能ボタンと、の両方を押圧したときのみ、直接教示を実行可能であるように構成された直接教示装置が開示されている。
【0005】
図5には、既存の関連技術に係るロボット100が示されている。ロボット100は、リードスルー動作を実行する際に作業者によって操作されるハンドル110を手首102に備えている。また、手首102には、力センサ120がさらに設けられており、ハンドル110に作用する操作力を検出できるようになっている。作業者は、ロボット制御装置130に接続された教示操作盤140を操作して、リードスルー動作を実行する。
【0006】
教示操作盤140は、サーボイネーブルスイッチ142を備えている。サーボイネーブルスイッチ142は、所定の時間にわたって押圧されるとサーボ電源がオンに切替わり、ロボット100が動作可能な状態になる。また、押圧力が解放されると、サーボ電源がオフに切替わり、ロボット100の動作が停止する。他方、ハンドル110は、リードスルーイネーブルスイッチ112を有している。リードスルーイネーブルスイッチ112は、リードスルー動作の有効と無効を切替えるのに使用される。すなわち、サーボイネーブルスイッチ142を押圧してサーボ電源をオンにした状態で、リードスルーイネーブルスイッチ112が所定の時間にわたって押圧されると、リードスルー動作が可能になり、押圧力が解放されると、リードスルー動作が無効になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−21287号公報
【特許文献2】特開昭59−157715号公報
【特許文献3】特開平9−150382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図5を参照して説明した関連技術では、サーボイネーブルスイッチ142と、リードスルーイネーブルスイッチ112との両方を押圧した状態でなければリードスルー動作を実行できない。教示操作盤140の重量は決して小さくなく、また、2つのスイッチを同時に操作すると作業者の両手がふさがってしまうことになり、作業時の負担が重くなる。結果として作業性が低下し、また、誤操作の原因にもなりうる。
【0009】
また、ロボットと作業者との間に作用する接触力が閾値を超えたときにロボットを停止させる安全手段が設けられている場合、安全性を確保するために閾値を十分に小さくすることが好ましい。しかしながら、閾値が小さすぎると、リードスルー動作時に作業者によって付与される操作力が閾値を超えてしまい、ロボットが意図せずに停止されることがあった。
【0010】
したがって、リードスルー動作を実行する際の作業者の負担を軽減しながら、作業者の安全を確保できるようにした、人協調型産業用ロボットが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願の1番目の態様によれば、作業者と作業空間を共有する人協調型の産業用ロボットであって、作業者が操作力をロボットに付与して前記ロボットの位置及び姿勢を変更するリードスルー動作を実行するリードスルー実行部と、前記リードスルー動作を実行する際に前記ロボットに付与される操作力を検出する操作力検出部と、押圧力が付与されたときに前記リードスルー動作を有効化し、押圧力が解放されたときに前記リードスルー動作を無効化するリードスルースイッチと、作業者と前記ロボットとが接触したときに前記ロボットに付与される接触力を検出する接触力検出部と、前記接触力が所定の閾値を超えた場合に、前記ロボットを停止させるか、又は前記接触力を低減する方向に前記ロボットを退避させる接触力監視部と、を備えており、前記リードスルー動作が有効であるときには、前記接触力監視部が無効化されるとともに、前記リードスルー動作が無効であるときには、前記接触力監視部が有効化される、産業用ロボットが提供される。
本願の2番目の態様によれば、1番目の態様に係る産業用ロボットにおいて、前記操作力検出部が、前記ロボットの手首に取付けられた力センサによって前記操作力を検出する。
本願の3番目の態様によれば、1番目又は2番目の態様に係る産業用ロボットにおいて、前記接触力検出部が、前記ロボットの非可動部に取付けられた力センサ、又は前記ロボットの少なくとも3つの駆動軸にそれぞれ取付けられたトルクセンサによって前記接触力を検出するようになっている。
本願の4番目の態様によれば、1番目の態様に係る産業用ロボットにおいて、前記接触力検出部が、前記ロボットの非可動部に取付けられた力センサ、又は前記ロボットの少なくとも3つの駆動軸にそれぞれ取付けられたトルクセンサによって前記接触力を検出するようになっており、前記操作力検出部が、前記力センサ又は前記トルクセンサによって前記操作力を検出するようになっている。
本願の5番目の態様によれば、1番目から4番目のいずれかの態様に係る産業用ロボットにおいて、ワークを解放可能に把持するハンドを手首に備えており、把持状態と解放状態との間を切替えるように前記ハンドを動作させるハンド操作スイッチが、前記ロボット、前記ハンド、又は前記ロボットの周囲に設けられる。
【0012】
これら及び他の本発明の目的、特徴及び利点は、添付図面に示される本発明の例示的な実施形態に係る詳細な説明を参照することによって、より明らかになるであろう。
【発明の効果】
【0013】
上記構成を備えたロボットによれば、リードスルースイッチの操作を通じて、リードスルー動作の有効と無効とが切替えられる。また、リードスルー動作が有効であるときは接触力監視が無効化され、リードスルー動作が無効であるときは接触力監視が有効化される。すなわち、共通のスイッチを操作することによって、接触力監視とリードスルー動作とのうちのいずれか一方のみが有効になるので、それにより、作業者の負担が軽減され、作業性が向上する。また、作業者が危険を感じたときは、リードスルースイッチから手を話すことによって接触力監視が有効になるので、作業者の安全を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態に係るロボットの全体構成を示す図である。
【
図2】一実施形態に係るロボット制御装置の機能ブロック図である。
【
図3】接触力監視とリードスルー動作との間の関係を示す図である。
【
図4】別の実施形態に係るロボットの全体構成を示す図である。
【
図5】関連技術に係るロボットの全体構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。図示される実施形態の構成要素は、本発明の理解を助けるために縮尺が適宜変更されている。また、同一又は対応する構成要素には、同一の参照符号が複数の図面にわたって使用される。
【0016】
図1は、一実施形態に係るロボット10の全体構成を示す図である。ロボット10は、作業者と作業空間を共有する人協調型の産業用ロボットである(以下、単に「ロボット」と称する。)。図示されるロボット10は、6軸垂直多関節ロボットであるものの、例えばスカラ型若しくはパラレルリンク型のロボットを含む、任意の公知の構成を有するロボットであってもよい。
【0017】
ロボット10は、床面に固定された固定プレート11に載置されている。ロボット10は、ロボットベース12と、ロボットベース12に対して回転可能に取付けられる胴部13と、一方の端部において胴部13に対して回転可能に取付けられる下腕14と、胴部13とは反対側の下腕14の端部に回転可能に取付けられる上腕15と、上腕15に対して回転可能に取付けられる手首16と、を備えている。
【0018】
ロボット10の各回転軸は、ロボット制御装置20によって制御されるサーボモータ(図示せず)によってそれぞれ駆動される。手首16には、エンドエフェクタ40がさらに取付けられている。ロボット10は、エンドエフェクタ40のタイプに応じて、部品の組立て、溶接、切削加工などの種々の作業を実行できるようになっている。このようなロボットの構成及び機能は周知であるので、本明細書では詳細な説明を省略する。
【0019】
ロボット10は、固定プレート11とロボットベース12との間に力センサ31(以下、「第1の力センサ」と称する。)が設けられている。第1の力センサ31は、ロボット10の各部位(例えば、ロボットベース12、胴部13、下腕14、上腕15又は手首16)の任意の箇所に作用する力を検出できるようになっている。例えば、上腕15に作用する力は、下腕14、胴部13及びロボットベース12を介して伝達され、第1の力センサ31によって検出される。このように、第1の力センサ31は、ロボット10の動作中に、ロボット10が作業者に接触したときに発生する接触力を検出できるようになっている。
【0020】
検出された接触力が所定の閾値を超える場合、作業者の安全を確保するためにロボット10を停止させるか、或いは、接触力を低減する方向にロボット10を退避させるようになっている。このような接触力の検出結果に基づいて、ロボット10を停止させるか、或いは、接触力を低減する方向にロボット10を退避させる機能を本明細書では「接触力監視」と称する。
【0021】
図示されるロボット10は、ワーク50に部品51を挿入する挿入工程を実行するのに使用される。エンドエフェクタ40は、例えば、アダプタ41を介して手首16に取付けられるハンド42を備えている。ハンド42は、例えば流体圧により駆動されるハンド、又は電気的に駆動されるハンドであり、部品51を解放可能に把持できるように構成される。部品51は、例えば作業テーブル60に載置されたワーク50の挿入穴52に受容されるように寸法決めされている。ロボット10は、ハンド42で部品51を把持した状態で、部品51の位置及び姿勢を変更するように駆動される。ロボット10は、部品51をワーク50の挿入穴52の付近まで移動させ、その後、リードスルー動作により挿入工程を実行する。
【0022】
また、
図1に示されるように、手首16に取付けられるアダプタ41には、リードスルー動作を実行する際の操作力を検出する力センサ32(以下、「第2の力センサ」と称する。)が取付けられている。第2の力センサ32は、アダプタ41と、リードスルーハンドル45との間に設けられている。
【0023】
作業者は、リードスルーハンドル45を操作してロボット10に対するリードスルー動作を実行する。第2の力センサ32は、このときに作業者によって付与される操作力を検出できるようになっている。ロボット10は、第2の力センサ32によって検出される操作力の大きさ及び作用方向に応じて各々の回転軸のサーボモータを駆動し、部品51の位置及び姿勢を変更する。このリードスルー動作により、作業者が部品51の位置及び姿勢を微調整しながら、部品51をワーク50の挿入穴52に挿入する。
【0024】
リードスルーハンドル45は、機能スイッチ43を備えている。機能スイッチ43は、例えばハンド操作スイッチと、並進移動スイッチと、回転移動スイッチと、速度変更スイッチと、位置教示スイッチと、を備えている。ハンド操作スイッチは、例えばハンド42を開閉動作させるのに使用される。例えば、作業者は、部品51がワーク50に対して所定の位置に位置決めされたときに、ハンド操作スイッチを操作して、ハンド42の把持力を解放させることができる。
【0025】
並進移動スイッチは、部品51の姿勢を変更することなく位置のみを変更するのに使用される。逆に、回転移動スイッチは、部品51の位置を変更することなく、部品51の姿勢のみを変更するために使用される。部品51とワーク50との間の位置関係によっては、部品51を並進移動のみさせたり、回転移動のみさせたりすることが望ましいことがある。
【0026】
速度変更スイッチは、例えばリードスルー動作において、ロボット10を低速で動作させるのに使用される。したがって、例えば速度変更スイッチが押圧されて速度変更機能がオンに切替わった場合は、同程度の操作力であっても、ロボット10がより低速で移動するようになる。このような機能は、例えば部品51をワーク50の挿入穴52に挿入する直前の操作など、より一層の正確性が要求されるときに利用される。
【0027】
位置教示スイッチは、リードスルー動作を介して変更したロボットの位置及び姿勢をロボットの動作プログラムの教示点として取り込む際に使用される。取り込まれた教示点は、ロボットに対する動作プログラムを作成する場合、又は変更する場合に利用される。なお、機能スイッチ43には、前述した機能以外の機能を有するスイッチが必要に応じてさらに設けられていてもよいし、例示されたスイッチのうちの1つ又は2つ以上が省略されてもよい。
【0028】
また、リードスルーハンドル45は、リードスルースイッチ44をさらに備えている。リードスルースイッチ44は、リードスルー動作の有効と無効とを互いに切替えるのに使用される。具体的には、リードスルースイッチ44は、作業者によって押圧力が付与されたときにリードスルー動作がオンに切替わり、押圧力が解放されたときにリードスルー動作がオフに切替わるように構成されている。すなわち、作業者がリードスルー動作を実行する場合、リードスルースイッチ44を押圧し続ける必要がある。
【0029】
また、本実施形態によれば、リードスルースイッチ44が押圧されてリードスルー動作が有効化されたときに、接触力監視が無効化されるようになっている。反対に、押圧力が解放されて、リードスルー動作が無効化されたときに、接触力監視が有効化される。このことについては、さらに後述する。
【0030】
図2は、一実施形態に係るロボット制御装置20の機能ブロック図である。図示されるように、ロボット制御装置20は、制御部21と、接触力検出部22と、接触力監視部23と、操作力検出部24と、リードスルー実行部25と、を備えている。
【0031】
制御部21は、ロボット10に対して動作指令を送出する。制御部21は、例えば所定の制御プログラムに従って、又はリードスルー動作時の操作力に従って、ロボット10を制御する。接触力監視が有効であるとき、制御部21は、検出される接触力の大きさに応じてロボット10を停止させる停止指令、或いは、接触力を低減する方向にロボット10を退避させる退避指令を出力するようになっている。また、リードスルー動作が有効であるとき、制御部21は、リードスルー実行部25と協働して、操作力の大きさ及び作用方向に応じてロボット10を駆動するよう動作指令を出力するようになっている。
【0032】
接触力検出部22は、第1の力センサ31によって、ロボット10と作業者との間に作用する接触力を検出する。検出された接触力は、接触力監視部23に出力される。
【0033】
接触力監視部23は、ロボット10と作業者との間に作用する接触力を監視し、接触力が所定の閾値を超えたか否かを判定する。接触力が閾値を超えた場合、制御部21によってロボット10を停止させるか、或いは、接触力を低減する方向にロボット10を退避させる。このように、作業者が負傷しかねない接触力が作用する場合には、ロボット10が停止するか、又は接触力を低減するように退避するので、作業者の安全を確保できる。接触力監視部23は、リードスルースイッチ44がオフの状態において有効化される。なお、接触力監視部23は、作業者とロボット10の周囲にある他の物体とを識別しないので、作業者との接触事故のみならず、ロボット10が周囲の物体に接触する接触事故も同様に防止できる。
【0034】
操作力検出部24は、第2の力センサ32によって、作業者がリードスルー動作を実行する際に、リードスルーハンドル45に付与される操作力を検出する。
【0035】
リードスルー実行部25は、作業者がリードスルーハンドル45に付与する操作力に従って、リードスルー動作を実行する。すなわち、リードスルー実行部25は、制御部21と協働して、操作力の大きさ及び作用方向に応じて定まる動作指令を生成する。リードスルー実行部25は、リードスルースイッチ44がオンの状態で有効化される。
【0036】
図3は、接触力監視とリードスルー動作との間の関係を示す図である。本実施形態によれば、接触力監視とリードスルー動作とは、一方が有効であるときには、他方が無効になるようになっている。すなわち、接触力監視が有効であるとき、リードスルー動作は無効化される。他方、リードスルー動作が有効であるとき、接触力監視は無効化される。そして、これら2つの状態は、リードスルースイッチ44を操作することによって切替えられる。
【0037】
本実施形態によれば、以下のような効果が得られる。
(1)リードスルー動作を実行する際には、リードスルースイッチ44が押圧され、接触力監視が無効化される。したがって、リードスルー動作時に作業者がロボット10に対して付与する操作力に起因してロボット10が意図せずに停止してしまうことを防止できる。他方、リードスルー動作の実行中に、作業者が危険を感じた場合、リードスルースイッチ44に対する押圧力を解放することによって接触力監視が再度有効化される。それにより、ロボット10と作業者との接触事故を防止できる。
【0038】
(2)リードスルー動作を完了した後、リードスルースイッチ44がオフに切替えられれば、接触力監視が直ちに有効化される。したがって、リードスルー動作の直後からロボット10の周囲にいる作業者の安全を確保できる。
(3)リードスルースイッチ44を操作することのみによって、リードスルー動作が有効になるので、
図5を参照して前述したように、サーボイネーブルスイッチとリードスルーイネーブルスイッチとの両方を同時に押圧する必要がない。したがって、リードスルー動作時における作業者の負担が軽減され、作業性が向上する。
【0039】
(4)リードスルースイッチ44に対する押圧力が解放された後は、接触力監視に切替わるので、サーボモータの電源が遮断されない。したがって、リードスルー動作の実行中に作業者がリードスルースイッチ44からいったん手を離したりした場合であっても、サーボ電源を再起動する必要がなくなるので、リードスルー動作を速やかに再開できる。
【0040】
(5)操作力を検出する第2の力センサ32が、ロボット10の手首16よりも先端側に設けられている。すなわち、第2の力センサ32は、操作力が作用するリードスルーハンドル45に対して近位に設けられているので、操作力を正確に検出できるようになる。
(6)機能スイッチ43がロボット10の手首16よりも先端側に設けられているので、作業者は、機能スイッチ43を容易に操作できるようになり、作業性が向上する。
【0041】
図4は、別の実施形態に係るロボット10の全体構成を示す図である。本実施形態においては、
図1に示される実施形態とは異なり、第1の力センサ31の代わりに3つのトルクセンサ33,34,35が設けられている。ロボットベース12と胴部13との間に設けられた第1のトルクセンサ33は、胴部13の回転軸線回りのトルクを検出する。また、第2のトルクセンサ34は、胴部13と下腕14との間の関節回りのトルクを検出する。第3のトルクセンサ35は、下腕14と上腕15との間の関節回りのトルクを検出する。
【0042】
これらトルクセンサ33,34,35からそれぞれ得られたトルクの値は、ロボット10の姿勢と関連付けられ、ロボット10と作業者との間に作用する接触力を算出するのに使用される。算出された接触力は、前述した実施形態と同様に、接触力監視の目的で利用される。図示されないものの、追加のトルクセンサが、例えば手首16に設けられてもよい。
【0043】
また、
図1に示されるロボット10において、第1の力センサ31によってリードスルー動作時の操作力を検出するようにしてもよい。同様に、
図4に示されるロボット10において、トルクセンサ33,34,35によってリードスルー動作時の操作力を検出するようにしてもよい。このように、接触監視時の接触力、及びリードスルー動作時の操作力を共通の力センサで検出することによって、第2の力センサ32を設ける必要がなくなり、コストを削減できる。
【0044】
前述した実施形態では、機能スイッチ43は、リードスルーハンドル45に設けられているものの、ロボット10の手首16に設けられていてもよいし、或いは、手首16よりもロボット本体側、例えば上腕15又は下腕14などに設けられていてもよい。或いは、ロボット10の周辺にロボット10とは独立して機能スイッチ43が備え付けられていてもよい。また、サーボ電源を強制的に遮断する非常停止ボタンが、ロボット10の手首16又はその周辺に設けられていてもよい。
【0045】
以上、本発明の種々の実施形態について説明したが、当業者であれば、他の実施形態によっても本発明の意図する作用効果を実現できることを認識するであろう。特に、本発明の範囲を逸脱することなく、前述した実施形態の構成要素を削除又は置換することができるし、公知の手段をさらに付加することができる。また、本明細書において明示的又は暗示的に開示される複数の実施形態の特徴を任意に組合せることによっても本発明を実施できることは当業者に自明である。
【符号の説明】
【0046】
10 ロボット
11 固定プレート
12 ロボットベース
13 胴部
14 下腕
15 上腕
16 手首
20 ロボット制御装置
21 制御部
22 接触力検出部
23 接触力監視部
24 操作力検出部
25 リードスルー実行部
31 第1の力センサ
32 第2の力センサ
33〜35 トルクセンサ
40 エンドエフェクタ
41 アダプタ
42 ハンド
43 機能スイッチ
44 リードスルースイッチ
45 リードスルーハンドル
50 ワーク
51 部品
52 挿入穴
60 作業テーブル