(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記判定手段により前記変更された送り速度または回転数および算出した切削負荷が前記工具切削条件設定手段に設定された回転数、送り速度および切削負荷の上限値および下限値の範囲内であると判定した場合、前記加工プログラムを実行することを特徴とする請求項1に記載の工作機械の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
本発明では、表1のような手順1〜手順6をとり、切削条件を自動で変更する機能を工作機械に持たせる。表1は本発明における切削条件の自動変更の実施手順を示している。
【0015】
上記表1における、各手順の詳細例を示す。
<手順1>切削条件変更の可否
作業者または生産ライン管理者は、現状の加工プログラムに対し、切削条件の変更を実施するか否かの判断を行なう。
【0016】
<手順2>工具毎の切削条件の上限値および下限値の入力
作業者又は生産ライン管理者は、対象の切削加工で使用する工具に対し、各工具毎の切削条件の上限値および下限値を入力する。工作機械は、これらの数値の入力手段と、入力された数値を記憶する手段とを備える必要がある。
【0017】
入力手段については、例えば表2のような内容を手動または自動で入力する手段を設ける。表2は各工具毎の切削条件の条件値および下限値の入力項目例を示す表である。表2の替わりに、
図1のような多角形で、切削条件範囲を図示的に表示および指定する手段であってもよい。
図1は図示による任意の工具の切削条件範囲指定例を示す図である。
【0019】
さらに、入力する条件の例として、加工プログラム内で具体的に指定する「工具回転数」および「送り速度」を提示したが、これらの替わりに例えば「工具回転の周速度」「工具刃一枚あたりの切り込み量」などとしてもよい。その場合は、工作機械内部で適宜換算を行ない、「工具回転数」と「送り速度」として切削条件の範囲が決められる手段を備えておく。
【0020】
なお、これらの条件の入力は、手動による入力でもよいし、あらかじめ工作機械内部にデータベースを設けておいて、工具のモデル番号もしくは管理番号を指定すると、自動的に切削条件範囲が入力される手段を設けておいても良いものとする。
【0021】
さらに、各工具の上限値および下限値は、切削を行なう材質、加工の種類(荒加工又は仕上げ加工)により異なる事もある。その為、材質に応じて変更が出来る様、工具毎の上限値および下限値を複数設定できるようにしておいても良いものとする。
【0022】
また、工具回転数および送り速度のほか、切削時の負荷についても、上限値または下限値を設定しておくものとする。上限値だけでも問題はないが、工具が完全に破損/脱落して加工物と接触しなくなった場合、切削時の負荷は著しく減少する事が予想される。その為、下限値を設けておくと、例えば工具の完全な破損/脱落をある程度推定する事ができる。
【0023】
切削時の負荷の計算には、例えば以下のような手段を用いる事が考えられる。もちろん、ここで挙げた例のみには限定しないものとする。ただし、手段4)および手段5)は加工条件以外の要素でも、変化量が左右される事が考えられる。その為、実際に使用する場合は単独では使用せず、手段1から手段3)のいずれかと組み合わせて使用する事が望ましい。
【0024】
なお、手段1)の場合は切削実施前に加工負荷が適切な範囲内になっているかどうかを判断する事ができる、つまり試し加工をする必要がない。一方、手段2)〜手段5)の場合は、実用上の問題として、どうしても試し加工(=テスト加工)が必要となる。
【0025】
手段1)主軸回転数および切削送り速度の変化量を元にした自動計算
適切な条件の範囲内では、主軸回転数を上げると切削負荷は反比例して減少する。一方、切削送り速度を上げると切削負荷は比例的に増加する。従って、工具回転数と切削送り速度の変化量より、切削負荷の変化量/変化率を自動計算により推定する事が出来る。
【0026】
手段2)切削時の、工具回転用(=主軸モータ)、および送り軸用モータに流れる電流の変化
一般に切削条件が上がるまたは工具/刃具の欠けおよび磨耗が発生した場合、工具回転および軸送り共に、切削時に必要な動力は増加する傾向にある。切削に必要な力を出す為、工具回転用モータおよび送り軸用モータに流れる電流は増加する。従って、例えば「モータの定格電流」または「工具の欠けがない状態で切削を実施した際のモータ電流」を基準値として記憶しておき、その基準値を元に、切削時の電流がどれだけ変化しているかを判断する事で、切削時の負荷を推定する。切削時の電流が基準値よりも大きくなれば、負荷が増大している事を示している。逆に切削時の電流が基準値よりも小さくなれば、負荷が減少していることを示している。
【0027】
なお、モータの電流値の測定は、電流センサの追加により実施しても良いし、主軸モータの制御装置または送り軸モータの制御装置との通信により、電流値を読み出しても良い。一般的な工作機械では、後者の方が追加装置なしで実施できる為、望ましいと考えられる。
【0028】
手段3)切削時、工具回転用(=主軸モータ)、および送り軸用モータの消費電力の変化
手段2)とほぼ同様であるが、モータの電流の替わりに消費電力を用いる。すなわち、一例として「モータの定格消費電力」または「工具の欠けがない状態で切削を実施した際の消費電力」を基準値として記憶しておき、切削時の消費電力がどれだけ変化しているかを判断する事で、切削時の負荷を推定する。消費電力の測定手段も、手段2)に準ずるものとする。
【0029】
手段4)切削時に発生する音の音圧レベルおよび周波数特定の変化
一般に切削条件が上がるまたは工具/刃具の欠けおよび磨耗が発生した場合、負荷の増加に伴い加工時に発生する音の音圧レベルは増加する。また、其れに伴い、周波数特性も変化する事が多い。
【0030】
一例として、「工具の欠け/磨耗がない状態で切削を実施した際の音の音量および周波数特性」を基準値として記憶しておき、切削時の音圧レベルまたは周波数特性と基準値のそれらとを比較し、切削時の負荷を推定する。音圧レベルの変化のみで切削時の負荷を推定しても良いが、周波数特性を合わせて変化を調べておくと、「音圧レベルは変化してないが、周波数特性が変化した」場合、切削に何らかの変化要因があった事が推定できる。
測定手段は、マイクなどの設置が考えられる。また、音の音圧レベルと周波数特性分析の演算処理、記憶と比較を実施する為の処理手段が、制御装置内部に必要となる。
【0031】
手段5)切削時に発生する機械振動のレベルおよび振動周波数特定の変化
手段4)で用いた音の替わりに、機械振動を用いる。すなわち、一例として「工具の欠け/磨耗がない状態で切削を実施した際の機械の振動のレベルおよび周波数特性」を基準値として記憶しておき、切削時の機械振動のレベルまたは周波数特性と基準値とを比較する。周波数特性は補助的な判断材料として用い、主な判断は、振動のレベル変化で実施するのが望ましい。測定手段は、振動計などの設置が考えられる。
【0032】
<手順3>切削条件の自動変更条件設定
現状の加工プログラムで設定されている切削条件に対し、作業者または生産ライン管理者は、自動変更をどのように行なうかを考慮し、設定を実施する。工作機械は、これらの設定の入力手段と記憶手段を備える必要がある。設定内容の例を表3および表4に示す。表3は各工具毎の切削条件変更内容の入力項目例1である。表4は各工具毎の切削条件変更内容の入力項目例1である。
【0035】
手順2と同様、これらの入力形態、入力内容、入力手段は特に限定しない。
以下は、表3および表4の「適用範囲の設定」についての補足説明で、適用例の一例を示したものである。加工プログラムの内容を、簡易的なブロック図で
図2に示す。「適用範囲の設定」において、「3)適用しない」を選択した場合、工具回転数、切削送り速度などの変更条件が設定されていたとしても、変更は適用されない。(
図3参照)
【0036】
一方、「適用範囲の設定」において、「1)加工プログラム全体に適用」を選択した場合、加工プログラム全体に対し、工具回転数、切削送り速度などの変更条件が適用される。(
図4参照)
【0037】
さらに、「適用範囲の設定」において、「2)加工プログラムの指定範囲のみに適用」を選択した場合、加工プログラムに範囲を指定するプログラムコードなどを追加する、または別途適用する範囲を指定する手段を有する事で、工具回転数、切削送り速度などの変更条件が指定範囲のみに適用される。(
図5参照)
【0038】
また、複数条件を設定し、それぞれの適用範囲を設定する事で、
図6、
図7のように切削条件の複雑な変更ができる様になる。ただし、各条件間で重複又は矛盾した条件が指定されている場合、その旨を伝達する手段またはどちらか一方を優先させて適用する機能を工作機械側に設けておく事が望ましい。場合によっては、どちらの処理を実施するか、設定できる手段を設けても良いものとする。
【0039】
図5〜
図7では、各工具毎に異なる切削条件の変更を実施した例になっているが、プログラムコードを入れる位置を変更すれば、同じ工具による加工であっても、切削条件の変更の適用の有無、および変更する条件の内容を変化させる事が可能である。これにより、一例として以下のような事が可能になる。
【0040】
ア)2つの異なる方向または位置に対して、同一の工具で切削する場合において、2つ目の加工のみに切削条件の変更を適用する。
イ)荒加工と仕上げ加工を同一の工具で実施する場合、荒加工では当初の加工プログラムのままで切削を実施し、仕上げ加工は切削条件を変更して切削を実施する。
【0041】
また、
図3〜
図7で示した適用例、およびその他全ての場合において、変更後の切削条件が適切な切削条件の範囲から外れる場合は、以下のいずれかの機能を有している事が望ましい。
a)加工プログラムを一時停止させて、その旨を伝達する
b)加工条件の変更を中止して、元の加工プログラムで指定された条件で切削する
c)切削条件を適切な範囲内に自動修正して、切削する
【0042】
場合によっては、a)〜c)のどの処理を実施するか、設定できる手段を設けても良いものとする。なお、c)を実施する場合は、例えば以下ケース1)〜ケース4)のような手順で自動修正を行なう。
【0043】
ケース1)工具回転数、切削送り速度の少なくとも1つが適切な範囲よりも大きかった場合
⇒適切な範囲内の最大値に自動修正。ただし、実際の切削前に切削負荷が適切な範囲内に収まっているかは再度自動で確認を行なう。
ケース2)工具回転数、切削送り速度の少なくとも1つが適切な範囲よりも小さかった場合
⇒適切な範囲内の最小値に自動修正。ただし、実際の切削前に切削負荷が適切な範囲内に収まっているかは、再度自動で確認を行なう。
【0044】
ケース3)切削負荷が適切な範囲よりも大きかった場合
⇒工具回転数の増加、切削送り速度の削減のいずれか又は両方を自動で実施する。修正後の値が適切な範囲内に収まっているかは、再度自動で確認を行なう。
ケース4)切削負荷が適切な範囲よりも小さかった場合
⇒工具回転数の削減、切削送り速度の増加のいずれか又は両方を自動で実施する。修正後の値が適切な範囲内に収まっているかは、再度自動で確認を行なう。
【0045】
<手順4>加工プログラムの起動
作業者または生産ライン管理者の実行処理、または工作機械外部からの入力信号により、工作機械は加工プログラムを起動する。ただし、前述の手順4において提示した、「各条件間で重複又は矛盾した条件が指定されている場合、その旨を伝達」、又は「変更後の切削条件が適切な切削条件の範囲から外れる場合は、加工プログラムを一時停止させて、その旨を伝達」する機能が搭載されていた場合、加工プログラムを起動する前に伝達しても良いものとする。
【0046】
<手順5>設定された内容に従い、実行中の加工プログラムに対し、切削条件の変更を適用
工作機械は、定められた条件により、元の加工プログラムに対し、切削条件の変更を適用して、切削を実施する。
<手順6>加工プログラムの停止
加工プログラム内の指令コードにより、工作機械は加工プログラムを終了し、停止させる。加工プログラムの指令コードによっては、自動的に次の部品の切削加工に移行しても良い。
【0047】
図8は手順2〜手順6を示すフローチャートを示す図である。フローチャート例は
図8のみに限定しない。特に点線で囲んだ部分は、加工プログラムの起動前に実施してもよい。以下、各ステップにしたがって説明する。
【0048】
[sa01]切削条件自動変更機能の設定、切削条件の上限値と下限値を入力を行う(手順2と手順3)。
[sa02]加工プログラムを起動する。
[sa03]切削条件自動変更機能の設定が有効であるか無効であるかを判断し、有効である場合はステップsa04へ移行し、無効である場合はステップsa12へ移行する。
[sa04]加工プログラム内に、切削条件自動変更機能の適用可能範囲はあるか否かを判断し、ある場合にはステップsa05へ移行し、ない場合はステップsa06へ移行する。
【0049】
[sa05]変更後の切削条件は適切な範囲内であるか否かを判断し、適切な範囲内である場合にはステップsa09へ移行し、範囲外であればステップsa06へ移行する。
[sa06]切削条件自動変更機能が適用できない場合の設定を確認し、切削条件を自動修正する場合にはステップsa07へ移行し、加工プログラム実行中止の場合にはステップsa08へ移行し、加工プログラムをそのまま実行する場合にはステップsa12へ移行する。
[sa07]切削条件を自動修正し、ステップsa05へ移行する。
[sa08]加工プログラムの実行中止と実行中止した旨を通知する。
[sa09]加工プログラム内の切削条件自動変更の適用範囲はプログラム全体であるのか、指定範囲のみであるかを判断し、指定範囲のみである場合にはステプsa10へ移行し、プログラム全体の場合にはステップsa11へ移行する。
[sa10]加工プログラムの指定範囲内に切削条件の変更を適用して実行し、加工プログラムを終了する。
[sa11]加工プログラムの全体に切削条件の変更を適用して実行し、加工プログラムを終了する。
[sa12]加工プログラムをそのまま実行し、加工プログラムを終了する。
【0050】
図9は本発明に係る切削条件変更機能を有する工作機械を制御する制御装置を示す図である。加工プログラムに従ってワークに加工を行う工作機械の制御装置10は、加工に使用される工具の回転数、送り速度、切削負荷のそれぞれの上限値および下限値を設定する工具切削条件設定手段11と、前記加工プログラムにおいて工具の回転数および送り速度の少なくとも1つを変更する範囲および変更条件を設定する変更条件設定手段12と、加工プログラムの変更前の切削条件と前記変更した加工プログラムの切削条件の変化量から切削時の負荷を算出する負荷算出手段13と、前記変更された送り速度、回転数および算出した切削負荷の少なくとも1つが前記工具切削条件設定手段に設定された回転数、送り速度および切削負荷のそれぞれの上限値および下限値の範囲内であるか判定する判定手段14と、判定手段14により前記変更された送り速度または回転数および算出した切削負荷が前記工具切削条件設定手段に設定された回転数、送り速度および切削負荷の上限値および下限値の範囲内であると判定した場合、前記加工プログラムを実行する加工プログラム実行手段15と、判定手段14による判定結果を表示する表示手段16と、を有する。
【0051】
本発明により、切削条件を自動で変更する機能を有する工作機械を制御する制御装置を提供できる。より具体的には、本発明により、作業者または生産ラインの管理者の、以下の要求/課題を解決する事が可能になる。
【0052】
1) サイクルタイムに余裕がある場合、適切な範囲内で切削条件を下げ、切削工具への負荷を低減させて工具の持ちを長くさせる(工具の長寿命化)。
2) 切削条件にまだ余裕がある場合、適切な範囲内で切削条件を上げ、サイクルタイムを短縮させる。
3) 1)または2)の要求/課題に対し、加工プログラムの微調整を簡易にさせる。
1)または2)の要求/課題に対し、変更後の切削条件を適切な範囲内に保つ。