【文献】
Cario Venture and Rino D'Aloisio,Quaternary Ammonium Tetrakis(diperoxotungusto)phophates(3-) as a New Class of Catalists for Efficient Alkene Epoxidation eith Hydrogen,J. Org. Chem.,American Chemical Society,1998年,Vol.53,No7, 1988,1553-1557
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の反応において出発物質として用いられるオレフィン化合物は、不飽和結合を有するいかなるオレフィンでもよい。オレフィンは、少なくとも1個の二重結合を有し;ジエン、又は複数の二重結合を有するオレフィンなどのように、2若しくは3個以上の二重結合を有してもよい。二重結合は内部にあってもよく末端部にあってもよい。オレフィンはC
6〜C
18の炭素原子を有していてよく、脂肪族化合物、環状化合物、又は芳香族化合物であってもよい。オレフィンは、窒素原子を有さない化合物であることが好ましい。本発明の方法は、有利に、pH感受性であるオレフィンが出発物質として用いられ、反応媒体のpHの制御が、そこからエポキシ生成物を得るために必要である。
【0012】
本発明で有用なオレフィンとしては、例えば、脂肪酸トリグリセリド(亜麻仁油、大豆油、その他の天然油)、C6〜C18のアルファオレフィン及び内部オレフィンなどを挙げることができる。大豆油は、大豆の持つ自然の力によって得られるトリグリセリド(三官能アルコールであるグリセリンの脂肪酸エステル)のランダムな混合物である。大豆油は、以下のような平均構造を有し、コレステロールを意識してダイエット中の人が好むポリ不飽和(二重結合の多い)脂肪酸が豊富である。
【0014】
亜麻仁油は、亜麻布産業の亜麻仁副生物から製造される。亜麻仁油は、以下の平均構造を有する脂肪酸トリグリセリドのランダムな混合物から成るポリ不飽和油であり、不飽和結合を3個有するリノレン酸が特に豊富である。
【0016】
トール油、及びトール油から誘導される脂肪酸(主に、オレイン酸及びリノール酸)は、クラフト紙用木材のパルプ化プロセスの副生物である。これらの副生物は、紙パルプの製造に用いられる木材中に元々存在する油分の硫酸触媒による加水分解から発生する。
【0018】
トール油脂肪酸をテトラアルコールであるペンタエリスリトールでエステル化することにより、以下の構造が得られる。
【0020】
本発明で用いられるオレフィンは、脂肪族ジエンが好ましい。本発明の実施にあたって用いることができる種々の脂肪族ジエンとしては、例えば、3−シクロヘキセン−1−カルボン酸3−シクロヘキセン−1−イルメチルエステル(「Diene221」)(式IA);ヘキサン二酸ビス(3−シクロヘキセン−1−イルメチル)エステル(式IIA);4,4’−(1−メチルエチリデン)ビスシクロヘキセン(式IIIA);ビニルシクロヘキセン(VCH)(式IVA);トリプロピレングリコール3−シクロヘキセンカルボン酸ジエステル(式VA);シクロヘキシル−1,4−ビス(3−シクロヘキセンカルボン酸メチル)(式VIA);1,3−及び1,4−シクロヘキサンジメタノールの異性体混合物を用いて製造したシクロヘキシル−1,4−ビス(3−シクロヘキセンカルボン酸メチル)の1,3−及び1,4−異性体の混合物(式VIIA);3−シクロヘキセン−1−カルボン酸メチルエステル(式VIIIA);3−シクロヘキセンカルボン酸2−エチルヘキシル(式IXA);及び、これらの混合物が挙げられる。本発明で用いられるオレフィンは、Diene221が好ましい。
【0021】
本発明の方法の出発物質として用いられるジエンの化学構造を、式IA〜IXAで、これらの対応するエポキシドを各々式IB〜IXBで以下に示す。
【0024】
本発明で出発物質として用いられる脂肪族ジエンは、以下の式を有する脂環式ジエンが好ましい。
【0026】
上記の式IAのジエンのエポキシ化から得られる対応するエポキシ化物、ジエポキシ化ジエン、は、以下の式を有する。
【0028】
本発明の方法で製造される上述の式IBを有する特に望ましいエポキシド化合物には、モノエポキシドの含有量が約10重量パーセント(wtパーセント)未満、好ましくは約8重量パーセント未満であるエポキシド生成物が含まれる。式IBの好ましい化合物には、例えば、モノエポキシド含有量が、3重量パーセント〜10重量パーセント、好ましくは3重量パーセント〜7重量パーセントであるエポキシドが含まれる。
【0029】
以下のモノエポキシド及びその異性体が、エポキシ化方法の間に形成される場合がある。
【0031】
通常、上述のモノエポキシド異性体は、約236の分子量を有する。
【0032】
本発明の過酸化水素(H
2O
2)水は、本発明のエポキシ化反応を実施する際に使用される好ましい過酸化化合物である。過酸化水素は、その酸化作用が汚染などの環境問題を伴わないことから、本発明のエポキシ化方法のための酸化剤として適切である。H
2O
2水は、例えば5重量パーセント〜70重量パーセントなど、広い濃度範囲で市販されている。本発明で用いる過酸化水素の量は、エポキシ化されるオレフィン化合物の二重結合すべてをエポキシ化するのに必要な理論量よりも、0〜20パーセント化学量論的に過剰な量を含む。
【0033】
本発明のエポキシ化反応混合物中には、過酸化水素(100パーセントを基準にして)は、一般に、1重量パーセント〜20重量パーセントの量で用いられ、好ましくは4重量パーセント〜16重量パーセント、より好ましくは8重量パーセント〜12重量パーセントである。
【0034】
本発明のエポキシ化反応は、相転移触媒の存在下で行うことが好ましい。この触媒は、遷移金属を含有することが好ましい。本発明のエポキシ化反応のためのエポキシ化触媒に有用な化合物は、好ましくは、Ti、Re、Mo、V、W、及びMnなどの金属を主体とする均一系及び不均一系触媒から選択され、W/オキソ/ペルオキソ複合体が好ましい。触媒は、両親媒性四級アンモニウムペルオキソタングストリン酸が好ましい。本発明で用いられる触媒は、Journal of Organic Chemistry,1988年,第53巻,p.1553−1557、米国特許第4,562,276号明細書、米国特許第4,595,671号明細書、及び米国特許第5,274,140号明細書、並びに欧州特許出願公開第1170291号明細書に記載の触媒であってもよい。
【0035】
本発明において有用である触媒は、上述のJournal of Organic Chemistryに記載の方法に従って調製された固体の形態であってよく、又は、触媒は、欧州特許出願公開第1170291号明細書に記載の液体組成物の形態であってもよい。
【0036】
例えば、本発明に用いられる触媒は、欧州特許出願公開第1170291号明細書に記載の触媒系であってよく、これには、タングステン化合物、四級オニウム塩、及び鉱酸を含有する組成物が含まれる。
【0037】
エポキシ化反応のためのエポキシ化触媒に使用可能なタングステン化合物は、タングステン原子を有する無機酸及びその塩から選択することができる。タングステン原子を有する酸及びその塩としては、例えば、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム、タングステン酸リチウム、タングステン酸アンモニウムなどのタングステン酸(ウォルフラム酸)及びその塩;並びに、例えば、ドデカタングステン酸ナトリウム、ドデカタングステン酸カリウム、及びドデカタングステン酸アンモニウムなどのドデカタングステン酸塩;並びに、例えば、リンタングステン酸、リンタングステン酸ナトリウム、ケイタングステン酸、ケイタングステン酸ナトリウム、リンバナドタングステン酸、及びリンモリブドタングステン酸などのヘテロポリ酸及びその塩が挙げられ、タングステン酸、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム、リンタングステン酸が好ましい。これらのタングステン化合物は、単独で用いてもよく、又は2若しくは3種類以上の混合物として用いてもよい。
【0038】
本発明の方法のエポキシ化反応のためのタングステン化合物は、反応に用いられるオレフィン化合物の量に対して、タングステン原子として0.0007重量パーセント〜5重量パーセントの量で用いることができ、より好ましくは0.002重量パーセント〜3重量パーセントである。
【0039】
本発明の方法において、エポキシ化触媒として使用可能な四級オニウム塩としては、例えば、塩化トリオクチルメチルアンモニウム、塩化トリデシルメチルアンモニウム、臭化トリオクチルメチルアンモニウム、塩化ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、塩化ジメチルジドデシルアンモニウム、塩化ベンジルトリブチルアンモニウム、ヨウ化ベンジルトリブチルアンモニウム、及び塩化フェニルトリメチルアンモニウムなどのハロゲン化四級アンモニウム;例えば、硫酸水素トリオクチルメチルアンモニウムなどの硫酸水素四級アンモニウム塩;例えば、過塩素酸トリオクチルメチルアンモニウムなどの過塩素酸四級アンモニウム塩;例えば、リン酸二水素トリオクチルメチルアンモニウムなどのリン酸二水素四級アンモニウム塩;例えば、硝酸トリオクチルメチルアンモニウムなどの硝酸四級アンモニウム塩;例えば、ケイフッ化水素酸トリオクチルメチルアンモニウムなどのケイフッ化水素酸四級アンモニウム塩;並びに、例えば、酢酸トリオクチルメチルアンモニウムなどの酢酸四級アンモニウム塩が挙げられる。上述の四級オニウム塩の中で、好ましくはハロゲン化四級アンモニウムが用いられ、より好ましくは塩化トリオクチルメチルアンモニウム、及び塩化トリデシルメチルアンモニウムが用いられる。
【0040】
エポキシ化触媒中の四級オニウム塩の含有量は、反応に用いられるオレフィン化合物の重量に対して、0.0003重量パーセント〜4重量パーセント、好ましくは0.003重量パーセント〜2.5重量パーセントとすることができる。
【0041】
エポキシ化触媒に使用可能な鉱酸としては、例えば、リン酸、硫酸、塩酸、過塩素酸、ヘキサフルオロケイ酸、硝酸、及びテトラフルオロケイ酸が挙げられる。好ましくは、リン酸及び硫酸が、より好ましくはリン酸がエポキシ化触媒に用いられる。上述の鉱酸は単独で用いてもよく、又は2若しくは3種類以上の混合物として用いてもよい。
【0042】
エポキシ化触媒中の鉱酸の含有量は、反応に用いられるオレフィン化合物の量(重量)に対して、0.001重量パーセント〜5重量パーセント、好ましくは0.005重量パーセント〜3重量パーセントとすることができる。
【0043】
より好ましくは、本発明で有用な触媒は、J.Org.Chem.,1988年,第53巻,p.1553−1557に記載の触媒であってよく、以下の化学構造で表され、
(R
4N
+)
3{PO
4[W(O)(O
2)
2]
4}
3-
ここで、Rは、C1−C24の炭化水素鎖である。上式中のRの例をいくつか挙げると、CH
3、C
6H
13、C
8H
17、C
16H
33、及びC
18H
37である。
【0044】
そして、より詳細には、上記の触媒の式中のR
4N
+の例をいくつか挙げると以下の通りである。
a:[(C
6H
13)
4N]
+,
b:[(C
8H
17)
3NCH
3]
+,及び
c:{[C
18H
37(76)+C
16H
33(24)]
2N(CH
3)
2]
+
【0045】
本方法のエポキシ化反応で用いられる触媒は、上述のcのタイプが好ましく、0.1重量パーセント〜1.5重量パーセント、好ましくは0.2重量パーセント〜1.2重量パーセント、より好ましくは0.4重量パーセント〜1重量パーセントの量で用いられる。
【0046】
本発明の方法において、エポキシ化反応は、緩衝剤の存在下で行うことが好ましい。緩衝剤を反応混合物へ添加することにより、エポキシ化反応中の反応混合物のpHが5未満に維持されるが、それは、そのエポキシドが酸触媒加水分解に対してより高い感受性を示す特定のオレフィンの場合、関連するエポキシドの開環を十分に防ぐのに適した値に水相のpHを調整することによって反応が最適化されるからである。
【0047】
緩衝剤としては、好ましくは、組み合わせることで本発明の緩衝剤として作用するよう混合された以下の3種類の物質、(a)触媒活性の維持を補助するためのタングステン酸塩成分、(b)同様に触媒活性の維持を補助するためのリン酸、及び(c)反応混合物のpHを維持するためのアルカリ金属塩、を含む成分の混合物を含む。
【0048】
緩衝剤の成分(a)は、触媒に関連して上記で述べたタングステン化合物のいずれであってもよい。本発明のエポキシ化反応のためのエポキシ化緩衝剤に用いられる成分(a)としては、好ましくは、Na
2WO
4・2H
2O、K
2WO
4、(NH
4)
2WO
4、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0049】
成分(a)は、成分(a)/触媒のモル比、0:1〜5:1で用いられる。
【0050】
緩衝剤の成分(b)は、触媒に関連して上記で述べた鉱酸のいずれであってもよい。本発明のエポキシ化反応のためのエポキシ化緩衝剤に用いられる成分(b)としては、好ましくは、H
3PO
4が挙げられる。
【0051】
成分(b)は、成分(b)/触媒のモル比、0:1〜約30:1で用いられる。
【0052】
緩衝剤の成分(c)は、本発明の方法に使用可能であるアルカリ水溶液であってよい。この水溶液は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の塩基性有機化合物、並びにアンモニアから選択される少なくとも1種類であってよい。このアルカリ水溶液は、7を超えるpH値を有し、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、さらにより好ましくは11以上である。塩基性有機化合物としては、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の炭酸水素塩、アルカリ金属の亜硫酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の炭酸水素塩、及びアルカリ土類金属の亜硫酸塩が挙げられる。好ましくは、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の炭酸水素塩、及びアルカリ金属の亜硫酸塩が用いられ、より好ましくはアルカリ金属の水酸化物が用いられる。
【0053】
水酸化アルカリ金属及び水酸化アルカリ土類金属の実用的な例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、及び水酸化カルシウムである。
【0054】
アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ土類金属炭酸塩の実用的な例としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、及び炭酸カルシウムである。
【0055】
アルカリ金属炭酸水素塩の実用的な例としては、炭酸水素カリウム及び炭酸水素ナトリウムである。アルカリ金属亜硫酸塩の実用的な例としては、亜硫酸カリウム及び亜硫酸ナトリウムである。
【0056】
好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び亜硫酸ナトリウムが、より好ましくは、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが用いられる。上述のアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物は、単独で用いてもよく、又は2若しくは3種類以上の混合物として用いてもよい。
【0057】
本発明のエポキシ化反応のためのエポキシ化緩衝剤に用いられる成分(c)としては、好ましくは、NaOH、KOH、NH
4OH、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0058】
成分(c)は、水相のpHを約4とするのに十分な量で用いられる。成分(c)は、成分(c)/触媒のモル比、5:1〜20:1で用いられる。
【0059】
緩衝剤によって、有利に、本方法を所望するように進行させることができる。成分(a)及び(b)は、触媒活性を維持するために添加される。成分(c)は、pHを約5若しくはそれ未満に維持するために用いられる。
【0060】
本方法のエポキシ化反応の緩衝剤は、反応混合物のpHを約5若しくはそれ未満に維持し、触媒の反応性を維持するのに十分な量で用いられる。緩衝剤により、反応混合物のpHは通常5未満、好ましくは3.5〜4.5となる。
【0061】
任意に、本発明のエポキシ化反応は、有利に、不活性溶媒中で行うことができる。本方法に有用であろう適切な不活性溶媒としては、例えば、アルキルエステル、ハロゲン化炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、アルコール、及びこれらの混合物が挙げられる。より詳細には、本発明に有用である1若しくは2種類以上の溶媒としては、ベンゼン、トルエン及び芳香族溶媒、ジクロロメタン、ジクロロメタン及び塩素化溶媒、ヘキサン、シクロヘキサノン、脂肪族及び脂環式アルケン、アルコール、エーテル、ハロゲン化及び窒化溶媒、並びにこれらの混合物を挙げることができる。
【0062】
溶媒を本発明の反応方法で用いる場合、その使用量は、反応混合物全体に対して、通常は、0.0001重量パーセント〜90重量パーセントの範囲であり、好ましくは0.5重量パーセント〜60重量パーセント、より好ましくは30重量パーセント〜50重量パーセントである。
【0063】
本発明の方法に従うエポキシ化反応では、反応系中に反応媒体として有機溶媒を含むことができる。有機溶媒がエポキシ化反応に悪影響を及ぼさない限り、有機溶媒の種類は限定されない。反応媒体のための有機溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロエタン、及びジクロロメタンなどの脂肪族ハロゲン化炭化水素;例えば、シクロヘキサン及びn−へプタンなどの脂肪族非ハロゲン化炭化水素;並びに、例えば、ベンゼン、トルエン、及びキシレンなどの芳香族炭化水素が挙げられる。上述の有機溶媒は、単独で用いてもよく、又は2若しくは3種類以上の混合物として用いてもよい。
【0064】
有機溶媒を使用する場合、有機溶媒の重量は、オレフィン化合物の重量の20倍を超えないことが好ましく、10倍を超えないことがより好ましい。
【0065】
本発明のエポキシド化合物は、出発物質中に含まれるオレフィン性結合のエポキシ化によって製造される。通常、エポキシ化反応は、広範囲にわたる反応条件で実施することができる。例えば、反応温度の範囲は、通常、10℃〜100℃であり、好ましくは50℃〜70℃である。
【0066】
反応の継続時間は、方法に使用される触媒の性質及び量、溶媒、並びにオレフィンによって異なる。反応時間としては、通常、何分という単位から何時間という単位で反応を完了させることができる。好ましくは、エポキシ化反応時間は、1時間〜20時間の範囲とすることができ、4時間〜6時間が最も好ましい。過酸化水素は、10℃〜100℃の範囲の温度にて、1分〜300分の時間をかけて添加されることが好ましい。
【0067】
エポキシ化反応の圧力の範囲は、通常、真空から30気圧(atm)までであり、1atm〜5atmが最も好ましい。
【0068】
出発物質を添加する順序は重要ではなく、いかなる順序で行ってもよい。好ましくは、混合は以下の順序で行う。まず、トルエンと触媒(固体として、溶媒溶液として、又は触媒成分として別々に)を反応器に添加し、次に、ジエンを反応器に添加し、続いて、H
2O
2/緩衝剤を反応混合物へ添加する。この反応混合物を激しい混合条件下にて十分に混合する。
【0069】
反応は、窒素などの不活性ガス雰囲気下で行うことができる。
【0070】
好ましくは、エポキシ化反応は、オレフィン化合物を含む液相と過酸化水素水溶液を含む液相とから成り、互いに相分離されている二液相系中で行われる。例えば、エポキシ化反応は、オレフィン化合物と、過酸化水素水溶液と、遷移金属化合物を含む触媒とを、例えば窒素ガスなどの不活性ガスから成ってもよい雰囲気中で互いに激しく混合し、得られた混合物を、十分に攪拌しながら、環境大気圧又は加圧下で加熱することによって行われる。反応温度は制限されない。通常は、上述のように、反応温度は通常、10℃〜100℃であり、好ましくは50℃〜70℃である。
【0071】
エポキシドを製造する好ましい方法は、出発物質と過酸化水素を混合する工程、及び50℃〜70℃の温度で反応させる工程を含む。反応完了後、生成物は、例えば、蒸留又は抽出など、当業者に公知の都合の良いいかなる手段によっても回収することができる。触媒も、本技術分野で公知の手段によって反応から分離することができる。
【0072】
本発明の方法の一つの態様の例として、本方法は、スターラー、温度調節システム、及び還流冷媒を備えた反応器を用いて実施することができる。所定の分量及び比率の反応物(H
2O
2、及び溶媒中のオレフィン)を反応器内へ導入する。触媒及び緩衝剤も、所望の量を反応器内へ導入する。激しく攪拌しながら、この不均一な混合物を、所望の時間をかけて反応温度にする。反応時間の終わりには、反応混合物は二相に分離する。反応相を冷却した後、エポキシド及び反応物を、蒸留又は抽出などの従来の手段及び方法によって分離することができる。得られた反応混合物からのエポキシ化生成物の単離は、当業者に公知のいかなる技術によっても行うことができ、本発明は、反応混合物から反応生成物を単離するいかなる特定の方法にも限定されない。
【0073】
本発明の方法では、本方法の工業的な応用において本方法を魅力的なものとする、例えば好ましくは90パーセント超である高い収率、及び、例えば好ましくは生成物の90パーセント超である高い選択性が得られる。
【0074】
本発明のエポキシ化方法が提供する生成物は、特に、そのエポキシド生成物を種々の最終用途に用いた場合に有利な性質を有する。例えば、エポキシド生成物は、25℃で150センチポアズ(cps)〜350cps、好ましくは220cps〜320cps、より好ましくは230cps〜310cpsの範囲の粘度を有する。さらに、この生成物は、重量(wt)パーセントでのモノエポキシドの含有量が、全生成物に対して、0重量パーセント〜15重量パーセント、好ましくは2重量パーセント〜10重量パーセント、より好ましくは3重量パーセント〜7重量パーセントであり、及び、OH末端副生物の含有量が、例えば、0重量パーセント〜10重量パーセントの範囲であり、好ましくは2重量パーセント〜8重量パーセント、より好ましくは3重量パーセント〜7重量パーセントである。
【0075】
OH末端副生物は、まだ未反応のエポキシ基を有するオリゴマー分子である。式(X)に一般オリゴマー構造として示すように、モノマー成分はモノエポキシド、ダイマー成分はジエポキシド、トリマーはトリエポキシド、などである。例えば、以下に示すように、式(X)のモノマー構造は、n=0の場合であり(式X(A))、ダイマー構造は、n=1の場合である(式X(B))。
【0078】
最終生成物中に存在する式Xのオリゴマーは、nが0〜6であり得る複数のモノマーユニットから成るオリゴマーであり得る。
【0079】
本発明の得られた生成物は、高い可撓性を含む優れた性質を有する。可撓性は、折り曲げレトルト法(wedge bend retort method)によって測定される。
【0080】
折り曲げレトルト法は、例えばコーティングされたスチール板などのコーティングされた金属板サンプルを折り曲げ器具を用いて折り曲げ、次にそのサンプルをオートクレーブ中へ設置することで行われる。オートクレーブには水が入っており、約121℃にて、1時間作動させる。温度によって蒸気が発生し、約14ポンド/平方インチ(psi)の圧力がかかる。温度と蒸気によってコーティングが影響を受け、露出したスチール部分に錆が生ずる。コーティングを観察し、折り曲げ部の全長に沿ってクラック/ピットが生じたコーティングは不良であり、曲げが最もきつい部分に沿って不良度合いが最も悪く、曲げがよりきつくない部分に沿ってはピットの数が少なくなる。
【0081】
生成物は、その優れた性質によって、例えば、靭性を向上させる必要のある組成物などに有用となる。
【0082】
本方法の典型的な生成物の例として、生成物は例えば以下の成分を含有する。
【0084】
最終生成物は、例えば、分子量(MW)が270である生成物などの低分子量副生物、及び、例えば、分子量が522である生成物などの高分子量副生物、及び、その他のさらに高分子量である副生物を有する場合がある。
【0085】
本発明の方法によって製造されたエポキシド生成物は、コーティング、インク、接着剤、積層体、複合体、ポッティング、封入、及び成型組成物の分野での使用に適する生成物を製造する際の中間体として有用である。
【0086】
本発明の方法によって製造されたエポキシ化生成物は、硬化性エポキシ樹脂組成物の一成分として有用であり、この場合、エポキシ化合物は、他の典型的な成分と共に硬化剤と反応することで樹脂組成物を硬化させ、上述の様々な最終用途のための熱硬化樹脂を提供する。このエポキシ化合物を含有する硬化性エポキシ樹脂組成物は、1若しくは2種類以上のさらなるエポキシ化合物、溶媒、触媒、可塑剤、充填剤、顔料、及び/又は、使用される用途のために一般的に用いられるその他の添加剤を含有することもできる。
【0087】
本発明に従って製造されるエポキシ化合物は、単独で、又はその他のエポキシ化合物と組み合わせて用いることができ、そのエポキシ化合物を公知のエポキシ硬化剤と反応させることによって、硬化エポキシ樹脂を製造することができる。そのような硬化剤としては、例えば、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルメタン、及びジアミノジフェニルスルホンなどのアミン硬化剤;無水ヘキサヒドロフタル酸及びスチレン−無水マレイン酸共重合体などの無水物;イミダゾール;フェノールノボラック樹脂などのフェノール硬化剤;並びにこれらの混合物が挙げられる。このような硬化剤は、硬化の直前に樹脂組成物へ添加してもよく、又は、硬化剤が潜在性である場合は、最初から組成物に含有させておいてもよい。使用する硬化剤の量は、通常、エポキシ成分のエポキシ当量あたり0.3〜1.5当量の範囲とすることができ、好ましくは、エポキシ成分のエポキシ当量あたり0.5〜1.1当量である。
【0088】
硬化剤としては、好ましくは、例えば、無水テトラヒドロフタル酸(THPA)、無水メチルテトラヒドロフタル酸(MTHPA)、無水ヘキサヒドロフタル酸(HHPA)、無水メチルヘキサヒドロフタル酸(MHHPA)、無水メチルナジック酸(nadic methyl anhydride)(NMA)、ポリアゼライン酸ポリ無水物、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、及び無水物の混合物を挙げることができる。
【0089】
より好ましくは、本発明で用いられる硬化剤は、無水メチルテトラヒドロフタル酸(MTHPA)、無水ヘキサヒドロフタル酸(HHPA)、及び無水メチルヘキサヒドロフタル酸(MHHPA)とすることができる。
【0090】
本発明の方法によって製造されたエポキシド化合物を含む典型的なエポキシ樹脂組成物は、任意成分として、さらにエポキシ化合物と硬化剤との反応に触媒作用をもたらすための触媒を含むことができる。適切な触媒の例としては、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、及び2−エチル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール;トリエチルアミン、トリプロピルアミン、及びトリブチルアミンなどの三級アミン;塩化エチルトリフェニルホスホニウム、臭化エチルトリフェニルホスホニウム、及び酢酸エチルトリフェニル−ホスホニウムなどのホスホニウム塩;並びに塩化ベンジルトリメチルアンモニウム及び水酸化ベンジルトリメチルアンモニウムなどのアンモニウム塩、並びに、これらの混合物である。
【0091】
紫外線(UV)又は電子線への曝露によって酸を放出するカチオン性光開始剤も、例えば、単独重合反応、及びこのエポキシ化合物と、例えばその他のエポキシ化合物、オキセタン、及びヒドロキシルなどとの反応を含む、このエポキシ化合物の反応に触媒作用をもたらす触媒として使用することができる。適切なカチオン性光開始剤としては、UV又は電子線への曝露によってエポキシ樹脂を硬化させることができる、非求核性アニオンを含むアリールスルホニウム塩及びアリールヨードニウム塩が挙げられる。本発明で用いられる触媒の量としては、通常、反応混合物の全重量に対して、0.001重量パーセント〜2重量パーセントの範囲であり、0.01重量パーセント〜0.5重量パーセントの範囲が好ましい。カチオン性光開始剤の量は、0.001重量パーセント〜20重量パーセントの範囲で変えることができ、好ましくは、0.1重量パーセント〜10重量パーセントである。
【0092】
好ましくは、触媒としては、ベンジルジメチルアミン(BDMA)、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、三級アミン、イミダゾール及びイミダゾールの誘導体、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(DBU)、塩素、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、ヨウ化エチルトリフェニルホスホニウム、臭化ベンジルトリフェニルホスホニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、Witco製Mark DBVIII、オクタン酸第一スズ、オクタン酸亜鉛、及びこれらの触媒の混合物を挙げることができる。
【0093】
より好ましくは、本発明で用いる触媒としては、ベンジルジメチルアミン、ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、並びにイミダゾール及びイミダゾールの誘導体が挙げられる。
【0094】
好ましくは、カチオン性光開始剤としては、例えば、Dow Chemical Companyの製品であるCYRACURE UVI−6992などのトリアリールスルホニウムヘキサフルオロリン酸塩混合物、及びCYRACURE UVI−6976などのトリアリールスルホニウムヘキサフルオロアンチモン酸塩混合物;並びに、例えば、Ciba Specialty Chemical Companyの製品であるIrgacure 250などのジアリールヨードニウムヘキサフルオロリン酸塩混合物が挙げられる。
【0095】
本発明のエポキシ化生成物が樹脂組成物の一成分として相当な濃度で用いられる熱硬化組成物の例としては、機器のトランス、スイッチギア、及びブッシングの絶縁体;中電圧電源ラインの絶縁体;発光ダイオード(LED)の封入剤;電気モーターの作製に用いられるワイヤー用のコーティング;コンデンサー用のポッティング配合物;高電圧アレスタ;高圧ロケット燃料タンク及び航空宇宙複合体用フィラメントワインディング;並びに、自動車トップコーティング用架橋剤が挙げられる。
【0096】
本発明のエポキシ化生成物が主成分として用いられるUV硬化組成物の例としては、プラスチックチューブのコーティング(例えば、パーソナルケア製品に使用されるチューブ);スチール缶蓋のコーティング(例えば、ベジタブル缶詰);スチール容器のコーティング(例えば、ビスケット缶及びエアゾール缶);飲料用ラミネートスチール缶に用いられる白色ベースコーティング;包装用フィルム及びホイル上のUVインク;ラピッドプロトタイピング;並びに電子コーティングが挙げられる。
【0097】
本発明のエポキシ化生成物は、酸捕捉剤組成物としても用いることができ、この場合、例えば、生成物は全組成物の5パーセント未満の量存在する添加剤として用いられ、例えば、有機リン酸エステル液圧作動液の酸捕捉剤;住宅用塩化ビニル(PVC)製羽目板の酸捕捉剤;臭素化防火組成物の酸捕捉剤;並びに、化学品製造方法に用いられる酸捕捉剤が含まれる。
【0098】
硬化性エポキシ樹脂組成物及び硬化配合物の好ましい用途としては、コーティング、インク、ポッティング、及び封入組成物が挙げられる。
【実施例】
【0099】
本発明を、以下の比較例と比較して、以下に示す限定されない例によってさらに説明する。
【0100】
実施例1
トルエン、触媒、及び3−シクロヘキセン−1−カルボン酸3−シクロヘキセン−1−イルメチルエステル(「Diene221」)の以下の表Iに示す量を、メカニカルスターラー、熱電対、及び還流凝縮器を装備した、ジャケット型ガラス反応器である1リットル(L)の連続攪拌式管型反応器(continuous stirred tube reactor)(CSTR)へ仕込んだ。
【0101】
【表2】
【0102】
反応温度は、反応器のジャケット部に連続的にポンプ注入される加熱油の温度設定により、60℃(最初の2.5時間)から約65℃(最後の2.5時間、冷却時間を含む)までの温度に調節した。Diene221とH
2O
2との反応の発熱性を考慮し、反応温度を制御して、温度を所望の値に固定して維持するため、反応器内部に水コイルを装着した。反応は大気圧(約1bar)で行い、マグネティックスターラーの回転速度は600rmpに設定して有機相と水相との十分な接触を確保する。
【0103】
以下の表IIに示す過酸化水素溶液(濃度30重量パーセント)と緩衝剤との混合物を、HPLCポンプの吸引側に装着した検量済みのガラスシリンダーへ投入した。ガラスシリンダーは、流速及び溶液を反応器へ供給するのに必要な時間(60分)を制御するために、天秤と接続されている。
【0104】
【表3】
【0105】
過酸化水素/緩衝剤混合溶液を、HPLCポンプを用い、4.9cc/分の供給速度で1時間供給し、そして、供給を停止して(60分後)、Diene221に対して2.2/1のモル比に相当する量(化学量論比よりも10パーセントH
2O
2が過剰)が添加された後、反応を4時間継続させる。この4時間は、本明細書において「分解(digestion)」時間と称する。
【0106】
分解時間の最後に、得られた混合物を5〜10分かけて室温(約25℃)まで冷却し、1.5リットルの分液漏斗へ投入すると、2つの分離相、有機相及び水相、を得る。
【0107】
続いて、以下に示す分析方法を用いたこの2相の分析及び同定を行った。
【0108】
【表4】
【0109】
トルエン溶液中に得られた生成物は、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(「ERL4221」)、及び3−シクロヘキセン−1−カルボン酸3−シクロヘキセン−1−イルメチルエステルのモノエポキシ(「モノエポキシ」)の混合物である。
【0110】
反応の結果を以下の表IVに示し、表VI中にもまとめた。
【0111】
【表5】
【0112】
モノエポキシ生成物と、モノエポキシ生成物及びERL4221生成物を足したものとの比は、以下の表Vの通りである。
【0113】
【表6】
【0114】
比較例A
比較例Aは、実施例1で述べたものと同じ手順を用いて行い、ただし、反応混合物中に緩衝溶液を添加しなかった。本例の結果を表VIに示す。
【0115】
比較例E
比較例Eは、実施例1で述べたものと同じ手順を用いて行い、ただし、反応時間を2時間とし、H
2O
2水の濃度を15重量パーセントとしたが、100パーセント基準のH
2O
2としては同じ量を用いた。本例の結果を表VIに示す。
【0116】
比較例B
比較例Bは、
比較例Eで述べたものと同じ手順を用いて行い、ただし、反応混合物中に緩衝溶液を添加しなかった。本例の結果を表VIに示す。
【0117】
実施例3
実施例3は、実施例1で述べたものと同じ手順を用いて行い、ただし、化学量論比から15重量パーセント過剰のH
2O
2を用い、緩衝H
2O
2溶液を90分かけて添加し、反応時間温度プロフィールを以下のようにした。最初の2時間は60℃、そして65℃で3時間(冷却時間を含む)。本例の結果を表VIに示す。
【0118】
比較例C
比較例Cは、実施例3で述べたものと同じ手順を用いて行い、ただし、化学量論比のH
2O
2を用いた。本例の結果を表VIに示す。
【0119】
実施例4
実施例4は、実施例3で述べたものと同じ手順を用いて行い、ただし、反応時間温度プロフィールを以下のようにした。最初の2時間は60℃、そして65℃で4時間(冷却時間を含む)。本例の結果を表VIに示す。
【0120】
【表7】
【0121】
表VI中の実施例1及び
比較例E、並びに比較例A及びBの結果は、緩衝溶液及びH
2O
2水の濃度による影響を示している。
【0122】
表VI中の実施例3及び4、並びに比較例Cの結果は、反応温度プロフィール及び反応時間による、生成物収率及びモノエポキシ−ERL4221比への影響を示している。
【0123】
実施例5
実施例5では、実施例4で製造された脂環式エポキシド生成物から、紫外線(UV)硬化コーティングを製造した。
【0124】
各脂環式エポキシドサンプルの粘度は、Cannon Instrument Company製のCannon−Fenskeキャピラリーチューブを用いて測定した。各脂環式エポキシドサンプルの粘度の算出に用いた密度は、1.17g/mLであった。実施例4の脂環式エポキシドの25℃における粘度は、304センチポアズであった。
【0125】
各脂環式エポキシドサンプルのエポキシド当量は、エポキシ樹脂のための標準的な滴定法を用いて測定した。実施例4の脂環式エポキシドのエポキシド当量は、132.4g/当量であった。
【0126】
UV硬化を用いる缶蓋の製造工程では、通常、UV硬化性コーティングをまずティンフリースチール板(TFS)へ塗布し、このコーティング板をコンベアーを装備したUV硬化ユニットに通してコーティングを硬化させる。次に、例えば溶媒系コーティングなどの熱硬化性衛生コーティングを、その板の反対面へ塗布する。続いて、この板を熱オーブンに通して衛生コーティングを硬化させる。衛生コーティングのための典型的な硬化プロフィールとしては、204℃で10分間とすることができる。UVコーティングは、このように、缶蓋の製造工程中、衛生コーティングの硬化に使用される熱プロセスにさらされる。缶蓋の製造などの製造プロセス中にUVコーティングが熱プロセスにさらされることが予見される場合は、UV硬化し、熱プロセスにさらされた後に、UVコーティングの試験を行うことが賢明である。
【0127】
缶蓋は、コーティング済みスチール板から蓋用ブランクを打ち抜き、そのブランクを蓋に成形することによって製造される。缶蓋は、缶に食品を詰めた後のパッキングプロセス中に缶胴へ接合される。缶蓋は、二重巻締(double seaming)と称するプロセスを用いて缶胴へ接合される。二重巻締では、缶蓋と缶胴の端部同士を急速にそして激しく折り畳み、折り曲げる。コーティングされたスチールを急速に激しく折り曲げるため、コーティングには、二重巻締プロセスでクラックを生じない耐性を持たせるための高い可撓性と接着性が要求される。缶蓋を缶胴へ二重巻締した後、その食品を詰めた缶はレトルトと称するプロセスによって加熱調理され、殺菌される。殺菌は細菌を死滅させるために必要である。レトルト工程には、食品缶詰を、水、又は蒸気、又はその両方に接触させるようにプレッシャークッカー中に配置すること、及び水を沸点以上に加熱して圧力を発生させることが含まれる。食品缶詰に対するクッカーの条件としては、121℃にて30分〜90分とすることができ、圧力は14psiとすることができる。レトルト工程中の熱水、又は蒸気、又はその両方への接触により、缶蓋のコーティングはさらなるストレスを受ける。
【0128】
脂環式エポキシドは、缶蓋及びその他のスチール製包装製品をコーティングして保護するために使用されるUVコーティングに用いることができる。食品缶蓋の製造に用いられるティンフリースチール板は、Weirton Steelから入手し、パネル状に切断した。TFSパネル上に、4番の巻線ロッドを使用し、スチール表面の縦じわ(striation)に平行に、0.17〜0.22ミルの厚さでUVコーティングサンプルを塗布した。コンベアーを装備したFusion UV Systems,Inc.製のUVユニットを用いてUVコーティングを硬化した。UVランプは、標準的な(Fusion「H」)600W/インチの水銀ランプを使用した。可撓性の試験を行ったコーティングは、UV硬化ユニットのコンベアーを分速約100フィート(fpm)の速度で運転することで得た約290mJ/cm
2のエネルギー密度でUV硬化した。実施例5及び6、並びに比較例Dのコーティングは、UV硬化後、可撓性試験の前に、204℃のオーブンで10分間加熱した。実施例5及び6、並びに比較例Dのコーティングの可撓性試験は、レトルト折り曲げ試験法を用いて行った。
【0129】
コーティングしたTFSパネルを、ATSM D3281−84に従い、折り曲げ器(wedge-bend instrument)を用いて、スチール表面の縦じわに直角の方向で折り曲げ、衝撃を与えた。折り曲げられたパネルを、脱イオン水を収容したオートクレーブの蒸気相へ配置し、121℃、14psiで約1時間処理した。処理後の折り曲げ方向に沿ったクラックの長さを測定し、クラック長さとして報告した。コーティングの可撓性は、クラック長さと逆相関を示し、すなわち、可撓性の高いコーティングの方がクラック長さが短いことになる。
【0130】
UVコーティングの表面硬化速度を、タックフリーコットンボール法(tack-free cotton ball method)を用いて測定した。表面硬化速度実験に用いた基材の大きさは3インチ×5インチで、Leneta製の、アルミホイルを積層した紙カードであった。表面硬化速度の測定に用いたサンプルは、基材上に4番の巻線バーを使用して約0.2ミルの厚さでUVコーティングを塗布することで作製した。コーティングの表面硬化速度の測定は、コーティングされたカードを所定のコンベアー速度で運転するUVユニットに通し、次に、サンプルがUV硬化室の下部から出てきた2秒後に、コットンボールをコーティング表面に接触させることで行った。コットン繊維が付着しない場合に、コーティング表面が硬化したと判断した。コットン繊維が表面に付着した場合は、コーティングは、タックあり、又は未硬化と判断した。コンベアー速度は、10fpm単位で調節し、実験は、コーティングサンプルがタックフリーとなるか又は硬化する最大コンベアー速度が決定されるまで行った。この最大コンベアー速度を、表面硬化速度として報告した。
【0131】
脂環式エポキシドを含むUVコーティングにポリオールを添加して、コーティングの可撓性を向上させることができる。ヒドロキシル基が、UV硬化中にカチオン性光開始剤から発生する強酸の存在下で、脂環式エポキシド基と反応することができる。このヒドロキシル基は、エポキシドのカチオン性開環重合における連鎖停止剤として作用することができる。UVコーティング中における、脂環式エポキシドのヒドロキシル当量に対する比は、コーティングのこれらの反応性官能基の化学量論の有用な尺度とすることができる。コーティングの脂環式エポキシド−ヒドロキシル当量比を低下させることは、ポリオール濃度の増加と比例するが、通常はこれによって、コーティングの可撓性が高まる。この比の表面硬化速度に対する影響は、環境相対湿度に依存する。約50パーセントの相対湿度では、脂環式エポキシド−ヒドロキシル当量比の値を低下させると、通常は、表面硬化速度は低下する。ポリオールのヒドロキシルと空気の湿気とが合わせて、カチオン性UVコーティングの表面硬化速度の低下に寄与している。種々の脂環式エポキシサンプルのコーティング可撓性及び表面硬化速度への影響を比較する場合は、一定の脂環式エポキシド−ヒドロキシル当量比を用いることが賢明である。
【0132】
UVコーティング組成物中のポリオールとしてUNOXOL(登録商標)3,4Diolを用い、コーティングの可撓性を向上させた。UNOXOL 3,4Diolのヒドロキシル当量は、製品技術データシートに72g/当量と報告されていた。
【0133】
この実施例5で、可撓性及びUV硬化速度の測定に用いたUVコーティング組成物は、以下の成分を含有していた。
【0134】
【表8】
【0135】
実施例5のコーティングの場合、ヒドロキシルに対する脂環式エポキシドの比は、3.0であった。実施例5の表面硬化速度の測定時、及び可撓性測定のためのコーティングの硬化時における実験室の環境温度及び相対湿度は、各々、73°F及び51パーセントであった。
【0136】
実施例5のコーティングのレトルト折り曲げクラック長は、5個の折り曲げサンプルからの平均値で43mmであり、標準偏差は2.608mmであった。実施例5のコーティングの表面硬化速度は、120fpmであった。
【0137】
実施例6
この実施例6では、実施例3で製造した脂環式エポキシド生成物からUV硬化コーティングを製造した。
【0138】
実施例3の脂環式エポキシドの25℃での粘度は、250センチポアズであった。実施例3の脂環式エポキシドのエポキシド当量は、135.5g/当量であった。
【0139】
この実施例6で、可撓性及びUV硬化速度の測定に用いたUVコーティング組成物は、以下の成分を含有していた。
【0140】
【表9】
【0141】
実施例6におけるヒドロキシル当量に対する脂環式エポキシドの比は、3.0であり、これは実施例5と同じであった。実施例6の表面硬化速度の測定時、及び可撓性測定のためのコーティングの硬化時における実験室の環境温度及び相対湿度は、各々、73°F及び51パーセントであり、これは実施例5と同じであった。
【0142】
実施例6のコーティングのレトルト折り曲げクラック長は、5個の折り曲げサンプルからの平均値で39mmであり、標準偏差は2.168mmであった。実施例6のコーティングの表面硬化速度は、110fpmであった。
【0143】
実施例5及び6に対する可撓性の結果は、互いに非常に類似しており、報告された2つのサンプル間の可撓性の差(3.4mm)は、恐らく有意ではない。この結果は、実施例5及び6に示したコーティング組成物が優れた可撓性を有することを示す。実施例5及び6の表面硬化速度は、非常に類似しており、報告された差(10fpm)は、恐らく有意ではない。この結果は、実施例5及び6のコーティング組成物が優れた硬化速度を有することを示す。実施例5及び6のコーティングは、可撓性という点で、Dow Chemical Companyより市販されている市販樹脂「UVR−6107」から製造された比較例Dで述べるコーティングと非常に類似した機能を示した。
【0144】
比較例D
比較例Dの脂環式エポキシドのエポキシド当量は、136.1g/当量であった。
【0145】
この比較例Dで、可撓性及びUV硬化速度の測定に用いたUVコーティング組成物は、以下の成分を含有していた。
【0146】
【表10】
【0147】
比較例Dにおけるヒドロキシル当量に対する脂環式エポキシドの比は、3.0であり、これは実施例5及び実施例6と同じであった。比較例Dの表面硬化速度の測定時、及び可撓性測定のためのコーティングの硬化時における実験室の環境温度及び相対湿度は、各々、73°F及び51パーセントであり、これは実施例5及び実施例6と同じであった。
【0148】
比較例Dのコーティングのレトルト折り曲げクラック長は、5個の折り曲げサンプルからの平均値で38mmであり、標準偏差は2.191mmであった。比較例Dのコーティングの表面硬化速度は、120fpmであった。
本願発明は次の態様を含む。
[1] (a)ビスエポキシド化合物、及び(b)硬化剤を含む、硬化性エポキシ樹脂組成物であって、
前記ビスエポキシド化合物は、2個以上のシクロヘキセン環を有するオレフィン化合物から対応するビスエポキシド化合物を製造する方法によって製造されたものであり、
該方法は、
(a)(i)2個以上のシクロヘキセン環を有するオレフィン化合物、(ii)遷移金属触媒及び(iii)溶媒を混合する工程、
(b)(i)オレフィン化合物の二重結合すべてをエポキシ化するのに必要な理論量よりも0〜20パーセント化学量論的に過剰な量の過酸化水素酸化剤と(ii)緩衝剤とを含む水溶液を、5未満のpHで、調節されたあらかじめ定められた第一の反応温度で、あらかじめ定められた時間をかけて、計量供給する工程、及び
(c)第一の反応温度より少なくとも5℃高い第二の反応温度に上げ、第二の反応温度であらかじめ定められた時間、反応を継続させてビスエポキシド化合物を形成する工程
を含み、
前記触媒が、次の化学構造
(R4N+)3{PO4[W(O)(O2)2]4}3-
(ここで、RはC1〜C24の炭化水素鎖である。)
で示される触媒を含み、
前記緩衝剤が、(a)前記触媒の活性の維持を補助するためのタングステン酸塩物質、(b)同様に前記触媒の活性の維持を補助するためのリン酸、及び(c)前記反応混合物のpHを維持するためのアルカリ金属塩、の混合物を含む、組成物。
[2] (a)ビスエポキシド化合物と(b)硬化剤とを混合する工程を含む、硬化性エポキシ樹脂組成物を製造する方法であって、
前記ビスエポキシド化合物は、2個以上のシクロヘキセン環を有するオレフィン化合物から対応するビスエポキシド化合物を製造する方法によって製造されたものであり、
前記ビスエポキシド化合物を製造する方法は、
(a)(i)2個以上のシクロヘキセン環を有するオレフィン化合物、(ii)遷移金属触媒及び(iii)溶媒を混合する工程、
(b)(i)オレフィン化合物の二重結合すべてをエポキシ化するのに必要な理論量よりも0〜20パーセント化学量論的に過剰な量の過酸化水素酸化剤と(ii)緩衝剤とを含む水溶液を、5未満のpHで、調節されたあらかじめ定められた第一の反応温度で、あらかじめ定められた時間をかけて、計量供給する工程、及び
(c)第一の反応温度より少なくとも5℃高い第二の反応温度に上げ、第二の反応温度であらかじめ定められた時間、反応を継続させてビスエポキシド化合物を形成する工程
を含み、
前記触媒が、次の化学構造
(R4N+)3{PO4[W(O)(O2)2]4}3-
(ここで、RはC1〜C24の炭化水素鎖である。)
で示される触媒を含み、
前記緩衝剤が、(a)前記触媒の活性の維持を補助するためのタングステン酸塩物質、(b)同様に前記触媒の活性の維持を補助するためのリン酸、及び(c)前記反応混合物のpHを維持するためのアルカリ金属塩、の混合物を含む、方法。
[3] [1]に記載の硬化性エポキシ樹脂組成物を硬化することによって得ることができる、硬化されたエポキシ樹脂。
[4] ジエンのジエポキシド及び該ジエンのモノエポキシドを含む組成物であって、該組成物中のモノエポキシドの割合が全生成物の10重量パーセント未満であり、そして該組成物中のOH末端副生物の含有量が8重量パーセント未満である、組成物。
[5] 前記ジエポキシドが脂環式ジエポキシドを含み、そして前記脂環式ジエポキシドが次の式
【化12】
を有する化合物である、[4]に記載の組成物。
[6] 次のオリゴマー構造
【化13】
を、8重量パーセント未満含有する、[4]に記載の組成物。
[7] (a)ジエンのジエポキシド及び該ジエンのモノエポキシド(ただしモノエポキシドの割合が全生成物の3〜10重量パーセントの範囲である。)、並びに(b)硬化剤、を含む組成物から誘導される、コーティング。