特許第6100919号(P6100919)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6100919温度及び流体の相対蒸気圧を測定するための装置及び関連する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6100919
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】温度及び流体の相対蒸気圧を測定するための装置及び関連する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/02 20060101AFI20170313BHJP
   G01N 27/12 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
   G01N27/02 B
   G01N27/12 B
   G01N27/12 C
   G01N27/12 G
   G01N27/12 J
【請求項の数】18
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-552116(P2015-552116)
(86)(22)【出願日】2013年12月4日
(65)【公表番号】特表2016-504596(P2016-504596A)
(43)【公表日】2016年2月12日
(86)【国際出願番号】FI2013051134
(87)【国際公開番号】WO2014108597
(87)【国際公開日】20140717
【審査請求日】2015年8月10日
(31)【優先権主張番号】13/739,518
(32)【優先日】2013年1月11日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】315002955
【氏名又は名称】ノキア テクノロジーズ オーユー
(74)【代理人】
【識別番号】100127188
【弁理士】
【氏名又は名称】川守田 光紀
(72)【発明者】
【氏名】ボリニ ステファノ
(72)【発明者】
【氏名】ホワイト リチャード
(72)【発明者】
【氏名】スピゴネ エリザベッタ
(72)【発明者】
【氏名】アストリー マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ ディ
(72)【発明者】
【氏名】キヴィオヤ ヤニ
(72)【発明者】
【氏名】リュハネン テウヴォ
【審査官】 佐々木 龍
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−034446(JP,A)
【文献】 特開2001−249099(JP,A)
【文献】 特開2011−169634(JP,A)
【文献】 特開平02−228546(JP,A)
【文献】 特開昭60−007349(JP,A)
【文献】 国際公開第98/003857(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00−27/49
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2のセンサ素子を含む装置であって、前記第1のセンサ素子は第1のセンサ材料を、前記第2のセンサ素子は第2のセンサ材料を含み、前記第1のセンサ材料は前記第1のセンサ材料の電気的特性が前記第1及び第2のセンサ素子が置かれた環境の温度に依存するように構成され、前記第2のセンサ材料は前記第2のセンサ材料の上記電気的特性が前記第1及び第2のセンサ素子が置かれた環境における流体の相対蒸気圧に依存するように構成され、前記第1及び第2のセンサ材料のそれぞれ温度及び流体の相対蒸気圧に対する依存性により、前記環境における前記第1及び第2のセンサ材料の前記電気的特性の複合測定値に基づいて、前記環境の温度及び流体の相対蒸気圧を決定可能にされた装置において、
前記第1のセンサ材料は前記第2のセンサ材料とは異なり、
前記第1及び第2のセンサ材料はそれぞれ格子間隙を有する擬似2次元プレートレットの積層を含み、前記第1のセンサ材料内の前記擬似2次元プレートレットの前記格子間隙は前記第2のセンサ材料内の前記擬似2次元プレートレットの前記格子間隙とは同一環境条件下で異なる、
装置
【請求項2】
前記第1のセンサ材料の前記電気的特性が前記環境における前記流体の相対蒸気圧にも依存し、前記第2のセンサ材料の前記電気的特性が前記環境の温度にも依存する、請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記第1のセンサ材料の温度及び流体の相対蒸気圧に対する依存性は、前記第2のセンサ材料の温度及び流体の相対蒸気圧に対する依存性とは異なる、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記第1及び第2のセンサ材料はそれぞれ酸化物材料を含み、前記第1のセンサ材料の酸化物材料は前記第2のセンサ材料の酸化物材料とは異なる酸化状態を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記第1のセンサ材料は前記第2のセンサ材料にはない1以上の官能基を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記第1及び第2のセンサ材料はそれぞれ1以上の官能基を含み、前記第1のセンサ材料の1以上の官能基は前記第2のセンサ材料の1以上の官能基とは異なる、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記第1のセンサ素子は前記第2のセンサ素子にはない不活性化層を含み、前記不活性化層は前記環境における前記流体に対する前記第1のセンサ材料の露出を防止するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記第1及び/又は第2のセンサ材料は、グラフェン、酸化グラフェン、窒化ホウ素、フルオログラフェン、水素化グラフェン、二硫化タングステン、及び二硫化モリブデンの1以上を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記第1及び第2のセンサ素子の1以上はそれぞれ第1及び第2のセンサ材料の損傷を防止するように構成された保護層を含み、前記保護層は前記環境における前記流体に浸透可能な材料を含み、前記環境における流体の相対蒸気圧の決定を妨げることなく前記センサ材料の損傷を防止可能にする、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記第1及び第2のセンサ素子はそれぞれ前記第1及び第2のセンサ材料の損傷を防止するように構成された保護層を含み、前記保護層は前記環境における前記流体に対する前記各センサ材料の露出を防止するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記流体の相対蒸気圧が前記環境の相対湿度の指標となる、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記第1及び第2のセンサ材料はそれぞれ前記各センサ材料に交流電流を流すことを可能にするように構成された電極対を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項13】
前記第1のセンサ素子の前記電極対は前記第2のセンサ素子の前記電極対とは異なる電極配置及び/又は電極材料を含む、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記第1及び/又は第2のセンサ素子の前記電極対は櫛型電極、貫入渦巻電極、又は平行平板電極を含む、請求項12に記載の装置。
【請求項15】
前記第1及び/又は第2のセンサ素子の前記平行平板電極の一方または両方は前記各センサ素子の不活性化層及び/又は保護層として働くように構成された、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記装置は、電子デバイス、携帯電子デバイス、携帯電気通信デバイス、センサ、ウェアラブルデバイス、リストバンド、上記1以上のもの用のユーザインターフェース、上記1以上のもの用の電子ディスプレイ、及び上記1以上のもの用のモジュールのうちの1以上のものである、請求項1に記載の装置。
【請求項17】
装置を用いて環境の温度及び流体の相対蒸気圧を決定する方法であって、
前記装置は第1及び第2のセンサ素子を含み、前記第1のセンサ素子は第1のセンサ材料を、前記第2のセンサ素子は第2のセンサ材料を含み、前記第1のセンサ材料は前記第1のセンサ材料の電気的特性が前記第1及び第2のセンサ素子が置かれた環境の温度に依存するように構成され、前記第2のセンサ材料は前記第2のセンサ材料の上記電気的特性が前記第1及び第2のセンサ素子が置かれた環境における流体の相対蒸気圧に依存するように構成され、前記第1及び第2のセンサ材料のそれぞれ温度及び流体の相対蒸気圧に対する依存性により、前記環境における前記第1及び第2のセンサ材料の前記電気的特性の複合測定値に基づいて、前記環境の温度及び流体の相対蒸気圧を決定可能にされており、前記第1のセンサ材料は前記第2のセンサ材料とは異なり、前記第1及び第2のセンサ材料はそれぞれ格子間隙を有する擬似2次元プレートレットの積層を含み、前記第1のセンサ材料内の前記擬似2次元プレートレットの前記格子間隙は前記第2のセンサ材料内の前記擬似2次元プレートレットの前記格子間隙とは同一環境条件下で異なり、
前記方法は、前記第1及び第2のセンサ材料の前記電気的特性の測定と、前記電気的特性の複合測定値に基づく前記環境の温度及び流体の相対蒸気圧の決定とを含む方法。
【請求項18】
装置の処理手段で実行されると、前記装置に、環境の温度及び流体の相対蒸気圧を決定させるように構成されたコンピュータコードを含むコンピュータプログラムであって、
前記装置は第1及び第2のセンサ素子を含み、前記第1のセンサ素子は第1のセンサ材料を、前記第2のセンサ素子は第2のセンサ材料を含み、前記第1のセンサ材料は前記第1のセンサ材料の電気的特性が前記第1及び第2のセンサ素子が置かれた環境の温度に依存するように構成され、前記第2のセンサ材料は前記第2のセンサ材料の上記電気的特性が前記第1及び第2のセンサ素子が置かれた環境における流体の相対蒸気圧に依存するように構成され、前記第1及び第2のセンサ材料のそれぞれ温度及び流体の相対蒸気圧に対する依存性により、前記環境における前記第1及び第2のセンサ材料の前記電気的特性の複合測定値に基づいて、前記環境の温度及び流体の相対蒸気圧を決定可能にされており、前記第1のセンサ材料は前記第2のセンサ材料とは異なり、前記第1及び第2のセンサ材料はそれぞれ格子間隙を有する擬似2次元プレートレットの積層を含み、前記第1のセンサ材料内の前記擬似2次元プレートレットの前記格子間隙は前記第2のセンサ材料内の前記擬似2次元プレートレットの前記格子間隙とは同一環境条件下で異なり、
前記コンピュータコードは更に、前記処理手段で実行されると、前記装置に、前記第1及び第2のセンサ材料の前記電気的特性を測定し、前記電気的特性の複合測定値に基づいて前記環境の温度及び流体の相対蒸気圧を決定させるように構成されているコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、環境センサ、関連方法及び装置の分野に関し、特に周囲環境の温度及び流体の相対蒸気圧の両方を測定可能な低コスト集積型センサに関する。開示する態様/実施形態の例には、携帯電子デバイス、特に、手に保持して使用しうる(クレードルに置いても使用しうるが)いわゆる手携帯電子デバイスに関するものもある。そのような手携帯電子デバイスには、いわゆるパーソナルデジタルアシスタント(PDA)やタブレットPCが含まれる。
【0002】
開示する態様/実施形態の例に係る携帯電子デバイス/装置は、1以上の音声/文字/映像通信機能(例えば遠隔通信、映像通信、及び/又は文字送信、ショートメッセージサービス(SMS)/マルチメディアメッセージサービス(MMS)/eメール機能、インタラクティブ/非インタラクティブ視聴機能(例えばウェブ閲覧、ナビゲーション、テレビ/番組視聴機能)、音楽録音/再生機能(例えばMP3又は他の形式及び/又は(FM/AM)ラジオ放送録音/再生)、データダウンロード/送信機能、撮像機能(例えば(例えば内蔵)デジタルカメラ使用))及びゲーム機能を提供してもよい。
【背景】
【0003】
現在、低コストの集積型フレキシブル温度・湿度センサは市場では入手できない。本明細書に開示する装置及び方法は、この課題に対する取り組みになるかもしれないしならないかもしれない。
【0004】
本明細書中の既発表文献や背景のリストや記載は、該文献又は背景が既存技術の一部であることや一般的な知識であること認めたものであるとは必ずしも解釈されるべきではない。本開示の1以上の態様/実施形態は、1以上の背景課題に取り組むものであるかもしれないしないかもしれない。
【摘要】
【0005】
第1の態様によれば、第1及び第2のセンサ素子を含む装置であって、前記第1のセンサ素子は第1のセンサ材料を、前記第2のセンサ素子は第2のセンサ材料を含み、前記第1のセンサ材料は前記第1のセンサ材料の電気的特性が前記第1及び第2のセンサ素子が置かれた環境の温度に依存するように構成され、前記第2のセンサ材料は前記第2のセンサ材料の上記電気的特性が前記第1及び第2のセンサ素子が置かれた環境における流体の相対蒸気圧に依存するように構成され、前記第1及び第2のセンサ材料のそれぞれ温度及び流体の相対蒸気圧に対する依存性により、前記環境における前記第1及び第2のセンサ材料の前記電気的特性の複合測定値に基づいて、前記環境の温度及び流体の相対蒸気圧を決定可能にされた装置が提供される。
【0006】
本明細書を通して用いる「相対蒸気圧」という用語は、所与の温度における流体の部分蒸気圧とその飽和蒸気圧との比を意味すると解釈されてもよい。
【0007】
前記第1のセンサ材料の前記電気的特性が前記環境における前記流体の相対蒸気圧にも依存してもよい。前記第2のセンサ材料の前記電気的特性が前記環境の温度にも依存してもよい。前記第1のセンサ材料の温度及び流体の相対蒸気圧に対する依存性は、前記第2のセンサ材料の温度及び流体の相対蒸気圧に対する依存性とは異なっていてもよい
【0008】
前記第1のセンサ材料が前記第2のセンサ材料とは異なっていてもよい。前記第1及び第2のセンサ材料はそれぞれ酸化物材料を含んでいてもよい。前記第1のセンサ材料の酸化物材料は前記第2のセンサ材料の酸化物材料とは異なる酸化状態を有していてもよい。前記第1のセンサ材料は前記第2のセンサ材料にはない1以上の官能基を含んでいてもよい。前記第1及び第2のセンサ材料はそれぞれ1以上の官能基を含んでいてもよい。前記第1のセンサ材料の1以上の官能基は前記第2のセンサ材料の1以上の官能基とは異なっていてもよい。
【0009】
前記第1のセンサ素子は前記第2のセンサ素子にはない不活性化層を含んでいてもよい。前記不活性化層は前記環境における前記流体に対する前記第1のセンサ材料の露出を防止するように構成されていてもよい。前記不活性化層はフルオロポリマー(AGCケミカルズヨーロッパ社のCytopTM等)を含んでいてもよい。
【0010】
前記第1及び第2のセンサ材料はそれぞれ格子間隙を有する擬似2次元プレートレットの積層を含んでいてもよい。前記第1のセンサ材料内の前記擬似2次元プレートレットの前記格子間隙は前記第2のセンサ材料内の前記擬似2次元プレートレットの前記格子間隙とは同一環境条件下で異なっていてもよい。
【0011】
前記第1及び/又は第2のセンサ材料は、グラフェン、酸化グラフェン、窒化ホウ素、フルオログラフェン、水素化グラフェン、二硫化タングステン、及び二硫化モリブデンの1以上を含んでいてもよい。
【0012】
前記第1及び第2のセンサ素子の1以上はそれぞれ第1及び第2のセンサ材料の損傷を防止するように構成された保護層を含んでいてもよい。前記保護層は前記環境における前記流体に浸透可能な材料を含み、前記環境における流体の相対蒸気圧の決定を妨げることなく前記センサ材料の損傷を防止可能にしていてもよい。前記保護層はブロックコポリマーを含んでいてもよい。
【0013】
前記流体の相対蒸気圧が前記環境の相対湿度の指標となっていてもよい。前記流体は1以上の液体及び気体を含んでいてもよい。前記流体は水を含んでいてもよい。
【0014】
前記第1及び第2のセンサ材料はそれぞれ前記各センサ材料に交流電流を流すことを可能にするように構成された電極対を含んでいてもよい。前記第1のセンサ素子の前記電極対は前記第2のセンサ素子の前記電極対とは異なる電極配置及び/又は電極材料を含んでいてもよい。前記第1及び/又は第2のセンサ素子の前記電極対は櫛型電極、貫入渦巻電極、又は平行平板電極を含んでいてもよい。前記第1及び/又は第2のセンサ素子の前記平行平板電極の一方または両方は前記各センサ素子の不活性化層及び/又は保護層として働くように構成されていてもよい。
【0015】
前記電気的特性は、インピーダンス、抵抗、コンダクタンス、リアクタンス、及び容量の1以上であってもよい。前記装置は、前記第1及び第2のセンサ材料の前記電気的特性(例えば容量又は抵抗)をそれぞれ1以上の基準要素(例えばコンデンサ又は抵抗器)の電気的特性との比として測定できるように構成された前記1以上の基準要素を含んでいてもよい。
【0016】
前記装置は、前記第1及び第2のセンサ材料の電気的特性測定値を受信し、受信した電気的特性測定値に基づいて前記環境の温度及び流体の相対蒸気圧を決定するように構成されたコントローラを含んでいてもよい。前記装置は、前記第1及び第2のセンサ素子からの出力信号を前記コントローラによる使用に適した形式に変換するように構成されたインターフェース回路を含んでいてもよい。前記インターフェース回路は、分圧器、ホイートストンブリッジ、位相敏感検出回路、及びアナログデジタル変換器の1以上を含んでいてもよい。
【0017】
前記装置は、電子デバイス、携帯電子デバイス、携帯電気通信デバイス、センサ、ウェアラブルデバイス、リストバンド、上記1以上のもの用のユーザインターフェース、上記1以上のもの用の電子ディスプレイ、及び上記1以上のもの用のモジュールのうちの1以上のものであってもよい。
【0018】
更なる態様によれば、装置を用いて環境の温度及び流体の相対蒸気圧を決定する方法であって、
前記装置は第1及び第2のセンサ素子を含み、前記第1のセンサ素子は第1のセンサ材料を、前記第2のセンサ素子は第2のセンサ材料を含み、前記第1のセンサ材料は前記第1のセンサ材料の電気的特性が前記第1及び第2のセンサ素子が置かれた環境の温度に依存するように構成され、前記第2のセンサ材料は前記第2のセンサ材料の上記電気的特性が前記第1及び第2のセンサ素子が置かれた環境における流体の相対蒸気圧に依存するように構成され、前記第1及び第2のセンサ材料のそれぞれ温度及び流体の相対蒸気圧に対する依存性により、前記環境における前記第1及び第2のセンサ材料の前記電気的特性の複合測定値に基づいて、前記環境の温度及び流体の相対蒸気圧を決定可能にされており、
前記方法は、前記第1及び第2のセンサ材料の前記電気的特性の測定と、前記電気的特性の複合測定値に基づく前記環境の温度及び流体の相対蒸気圧の決定とを含む方法が提供される。
【0019】
更なる態様によれば、第1及び第2のセンサ素子を含む装置を製作する方法であって、
前記方法は第1のセンサ素子を形成することを含み、前記第1のセンサ素子は、電気的特性が前記第1及び第2のセンサ素子が置かれた環境の温度に依存するように構成された第1のセンサ材料を含み、
前記方法はまた第2のセンサ素子を形成することを含み、前記第2のセンサ素子は、上記電気的特性が前記第1及び第2のセンサ素子が置かれた環境における流体の相対蒸気圧に依存するように構成された第2のセンサ材料を含み、
前記第1及び第2のセンサ材料のそれぞれ温度及び流体の相対蒸気圧に対する依存性により、前記環境における前記第1及び第2のセンサ材料の前記電気的特性の複合測定値に基づいて、前記環境の温度及び流体の相対蒸気圧が決定可能にされている方法が提供される。
【0020】
本明細書に開示されたいかなる方法のステップも、明示的にそのように記載されるか当業者にそのように理解されない限りは、開示された順番通りに実行される必要はない。
【0021】
本明細書に記載する1以上の方法を実装した対応するコンピュータプログラム(担体に記録されていてもいなくてもよい)もまた本開示の範囲内であり、記載された1以上の実施形態例に含まれる。
【0022】
更なる態様によれば、装置を用いて環境の温度及び流体の相対蒸気圧を決定するように構成されたコンピュータコードを含むコンピュータプログラムであって、
前記装置は第1及び第2のセンサ素子を含み、前記第1のセンサ素子は第1のセンサ材料を、前記第2のセンサ素子は第2のセンサ材料を含み、前記第1のセンサ材料は前記第1のセンサ材料の電気的特性が前記第1及び第2のセンサ素子が置かれた環境の温度に依存するように構成され、前記第2のセンサ材料は前記第2のセンサ材料の上記電気的特性が前記第1及び第2のセンサ素子が置かれた環境における流体の相対蒸気圧に依存するように構成され、前記第1及び第2のセンサ材料のそれぞれ温度及び流体の相対蒸気圧に対する依存性により、前記環境における前記第1及び第2のセンサ材料の前記電気的特性の複合測定値に基づいて、前記環境の温度及び流体の相対蒸気圧を決定可能にされており、
前記コンピュータコードは、前記第1及び第2のセンサ材料の前記電気的特性を測定し、前記電気的特性の複合測定値に基づいて前記環境の温度及び流体の相対蒸気圧を決定するように構成されているコンピュータプログラムが提供される。
【0023】
本開示には、1以上の対応する態様、実施形態例、又は特徴を、別々に又は様々な組み合わせで、そのような組み合わせでもしくは別々に明示的に言及している(請求している場合も含む)かどうかにかかわらず含んでいる。記載された機能の1以上を実行する対応する手段もまた、本開示の範囲内である。
【0024】
上記の概要はあくまでも例示的で非限定的なものと意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
以下にあくまでも例示として記載をしていくが、以下のような添付図面を参照する。
図1a】酸化グラフェンのインピーダンススペクトル(周波数範囲40Hz−110MHz)を温度の関数として示す。
図1b】酸化グラフェンのインピーダンススペクトル(周波数範囲40Hz−110MHz)を相対湿度の関数として示す。
図2】酸化グラフェンプレートレットの擬似2次元積層を介した水の蒸発を示す。
図3】開放開口に酸化グラフェン膜を設けた場合と設けない場合の水の透過速度を相対湿度の関数として示す。
図4】本開示の一実施形態に係る第1及び第2のセンサ素子を示す。
図5】本開示の別の実施形態に係る第1及び第2のセンサ素子を示す。
図6a】酸化グラフェンの容量を2つの異なる温度での相対湿度の関数として示す。
図6b】酸化グラフェンのコンダクタンスを2つの異なる温度での相対湿度の関数として示す。
図7】本開示の別の実施形態に係る第1及び第2のセンサ素子を示す。
図8a】櫛型電極配置を示す。
図8b】貫入渦巻電極配置を示す。
図8c】平行平板電極配置を示す。
図8d図8cの平行平板電極配置の断面を示す。
図9】本明細書に記載する第1及び第2のセンサ素子を含む装置を示す。
図10図9の装置を用いて環境の温度及び流体の相対湿度を決定する方法の主なステップを示す。
図11図9の装置を製作する方法の主なステップを示す。
図12図10及び/又は図11の方法ステップの1以上を実行、制御、又は可能にするように構成されたコンピュータプログラムを含むコンピュータ可読媒体を示す。
図13a】酸化グラフェン系センサ素子を表現するのに用いる等価回路を示す。
図13b】厚さ50nm未満の酸化グラフェンセンサ材料を含むセンサ素子を表現するのに用いる等価回路を示す。
【具体的な特徴又は実施形態の説明】
【0026】
酸化グラフェンのインピーダンスは、置かれた環境の温度及び相対湿度に指数的に依存することが分かっている。図1a及び1bはこれを示しており、酸化グラフェンの複素インピーダンススペクトルを、それぞれ(相対湿度45%における)温度及び(温度25°Cにおける)相対湿度の関数として示している。
【0027】
温度及び湿度に対する依存性は完全に理解されてはいないが、材料の層状構造に関係している可能性がある。図2に示すように、酸化グラフェンは、水202が該材料を透過することを可能にする、(格子間隙「d」を有する)擬似2次元プレートレット201の積層を含む。透過速度は、環境の温度及び相対湿度の両方に依存する。図3は、開口を開放した場合と、同じ開口を0.5μm厚の酸化グラフェン膜で覆った場合の、水の蒸発速度を示す。相対湿度100%では、膜がそこにないかのように水は酸化グラフェンを透過する。この現象の説明としては、周囲環境の相対湿度(及び温度)が酸化グラフェンプレートレットの格子間隙に影響し、これにより該材料に吸収されうる水の量が規定されるということが考えられる。プレートレット間の間隙が水によって埋められると、該材料の厚さが増し、水分子と酸化グラフェンとの間で電荷移動が起こり、インピーダンスが変化する。
【0028】
酸化グラフェンのインピーダンスは、該材料を通過する交流電流の周波数(ω)にも依存する。デカルト形式では、複素インピーダンス(Z)は次式により与えられる。
[式1]
ここで、Xはインピーダンスの実数部(すなわち抵抗)、Yはインピーダンスの虚数部(すなわちリアクタンス)である。温度及び湿度の値のいくつかの範囲においては、実数部及び虚数部の周波数、温度(T)及び相対湿度(H)に対する依存性は、次式で表すことができる。
[式2]
[式3]
[式4]
ここで、α及びβは、材料固有の温度及び湿度係数である。
【0029】
背景の欄で言及した通り、低コストの集積型フレキシブル温度・湿度センサは、現在市場では入手できない。本明細書に開示する装置及び方法は、この課題に対する取り組みになるかもしれないし、ならないかもしれない。以下の議論では相対湿度の測定に言及しているが、本装置は空気中の水蒸気の相対蒸気圧(例えば濃度)のみに限定されるものではない。むしろ、本明細書に記載するように適切に構成された装置であれば、周囲環境のあらゆる流体(液体及び/又は気体を含んでいてもよい)の相対蒸気圧の測定に使用しうる。
【0030】
図4に示す通り、本装置は、第1及び第2のセンサ素子403及び404を含む。第1のセンサ素子403は、第1のセンサ材料405と、第1のセンサ材料405に交流電流を流せるように構成された電極対406、407とを含む。第2のセンサ素子404は、第2のセンサ材料408と、第2のセンサ材料408に交流電流を流せるように構成された電極対406、407とを含む。
【0031】
第1のセンサ材料405は、第1のセンサ材料405の電気的特性(例えばインピーダンス、抵抗、コンダクタンス、リアクタンス、及び/又は容量)が、第1及び第2のセンサ素子403及び404が置かれている環境409の温度に依存するように構成されている。第2のセンサ材料408は、第2のセンサ材料408の上記電気的特性が、第1及び第2のセンサ素子403及び404が置かれている環境409における流体(例えば水)の相対蒸気圧に依存するように構成されている。第1及び第2のセンサ材料405及び408のそれぞれ温度及び流体の相対蒸気圧に対する依存性により、環境409における第1及び第2のセンサ材料405及び408の電気的特性の複合測定に基づいて、環境409の温度及び流体の相対蒸気圧(例えば相対湿度)を決定することができる。
【0032】
第1のセンサ材料405の電気的特性は、環境409の流体の相対蒸気圧にも依存していてもよく、第2のセンサ材料408の電気的特性は、環境409の温度にも依存していてもよい。ただしこの場合は、第1のセンサ材料405の温度及び流体の相対蒸気圧に対する依存性(それぞれ係数α及びβで表される)は、第2のセンサ材料408の温度及び流体の相対蒸気圧に対する依存性(それぞれ係数α及びβで表される)とは異なっていなければならない。
【0033】
実際には、これはいくつかの方法により実現しうる。1つの方法は、第1及び第2のセンサ素子403及び404に、異なるセンサ材料405、408を使用することである。各センサ材料405、408は、酸化グラフェンのように、環境409から流体を吸収できるように、擬似2次元プレートレットの積層を含んでいるとよい。適切な材料としては、グラフェン、酸化グラフェン、還元又は部分還元酸化グラフェン、窒化ホウ素、フルオログラフェン、水素化グラフェン、二硫化タングステン、二硫化モリブデン、又はこれらの組み合わせが挙げられる。第1及び第2のセンサ材料405及び408は、第1のセンサ材料405内の擬似2次元プレートレット402の格子間隙が、第2のセンサ材料408内の擬似2次元プレートレット402の格子間隙とは同じ環境条件下で異なるように選択されてもよい。
【0034】
別の選択肢として、同じ酸化物材料405、408(例えば酸化グラフェン)を、各センサ素子403、404に異なる酸化状態で使用することもできる。酸化レベルは、化学的方法、レーザ照射、又はその他の方法により制御することができる。この方法により、温度及び湿度に対する依存性を調整するために、(例えば材料405、408の親水性を変化させることによって)材料405、408への流体の浸透量を増加または減少させたり、及び/又は材料405、408の流体との相互作用を変化させることができる。これに加えてまたはこれに代えて、1以上の官能基を第1のセンサ材料405には付加し第2のセンサ材料408には付加しなくてもよく、又は異なる官能基を各センサ材料405、408に付加してもよい。
【0035】
また別の選択肢として、同じセンサ材料405、408を第1及び第2のセンサ素子403及び404に使用し、各センサ素子403及び404では異なる電極構造(例えば櫛型電極、貫入渦巻電極、又は平行平板電極)及び/又は異なる電極材料を使用することもできる。例えば、銀電極406、407を第1のセンサ素子403に使用し、酸化銀電極406、407を第2のセンサ素子404に使用することにより、係数α及びβを係数α及びβとは異ならせることができる。
【0036】
更なる選択肢として、センサ素子503、504の一方に不活性化層510を付加することもできる。この構成は図5に示されており、不活性化層510が第1のセンサ素子503には付加されているが第2のセンサ素子504には付加されていない。不活性化層510は、環境509におけるセンサ材料505の流体への露出を防止する任意の材料で形成しうる。例えば、流体が周囲の空気中の水である場合、そのような露出を防止するために、不活性化層510は疎水性材料(例えばフルオロポリマー)を含んでいてもよい。不活性化層510を一方のセンサ素子503に付加すると、各センサ材料505の電気的特性は周囲環境509の流体の相対蒸気圧に依存しなくなる(だが温度により変化はする)。結果的に、このセンサ素子503の湿度係数(β)はゼロになる。
【0037】
本装置を用いて環境509の温度及び相対湿度を測定できるようにするためには、各センサ材料505、508の温度及び湿度係数(α、β)を決定しなければならない。これは、各センサ素子503、504を、2つのパラメータのみが温度及び相対湿度の関数として変化する等価回路としてモデル化することにより行うことができる。酸化グラフェン膜のインピーダンススペクトルは一般的に、図13aに示す等価回路を用いて得ることができる。該等価回路は、直列抵抗(R)と、二重層容量(Cdl)と、電荷移動抵抗(Rct)と、定位相素子(CPE−W)とを含む。環境の温度及び/又は相対湿度を変化させると、電荷移動抵抗及び定位相素子だけが影響を受ける。例えば、ある温度及び相対湿度の範囲(例えば15°C≦T≦45°C及び0.3≦H≦0.8)においては、電荷移動抵抗の変化は次式により表すことができる。
[式5]
ここで、Rは温度及び湿度の基準条件(T、H)下における電荷移動抵抗、Rctは他の任意の温度及び湿度の条件(T、H)下における電荷移動抵抗である。等価回路の定位相素子(CPE−W)についても同様の関係が成立する。
【0038】
したがって、各センサ素子503、504の温度及び湿度の係数は、3つの異なる環境条件(T、H)、(T、H)、(T、H)下の環境制御室で電荷移動抵抗(又は他のパラメータ)を測定し、得られた連立方程式を解くことにより決定することができる。実際には、電荷移動抵抗の値は、インピーダンススペクトルを測定し、等価回路に従いフィッティングすることにより得ることができる。
【0039】
α、β、α、及びβの値が分かれば、(外部)環境509の温度及び相対湿度は、2つのセンサ素子503、504についての式5を組み合わせて得られる方程式を解くことにより測定することができる。
[式6]
[式7]
ここで、下付文字「1」及び「2」はそれぞれ、第1及び第2のセンサ素子503及び504に係る。
【0040】
非常に薄い酸化グラフェン膜(例えば厚さ50nm未満)の場合は、等価回路内の定位相素子(CPE−W)の影響は無視できる。結果的に、インピーダンススペクトルは、並列に配置された二重層コンデンサ(Cdl)及び電荷移動抵抗(Rct)のみを含むより単純な等価回路(図13bに示す)から得ることができる。この等価回路では、電荷移動抵抗のみが温度及び相対湿度に依存する。結果的に、温度及び相対湿度は、図13aの等価回路に従ってインピーダンススペクトル全体をフィッティングする必要なしに評価することができる。むしろ、二重層コンデンサ(Cdl)が温度及び相対湿度によらずほぼ一定で、センサ素子の時定数(Rctdl)が典型的には測定周波数と比較して短い(例えば〜100μs)ため、分圧回路またはホイートストンブリッジ回路の一部として電荷移動抵抗(Rct)を測定することができる。
【0041】
一方、より厚みのある酸化グラフェン膜(例えば厚さ50nm超)の場合は、インピーダンススペクトルの決定に、定位相素子(CPE−W)の影響が関係しうる。したがって、図13bの簡素化された等価回路はもはや適用できず、電荷移動抵抗(Rct)の値を得るには図13aの等価回路に従ってインピーダンススペクトルをフィッティングしなければならない。しかしながら、別の方法を用いて、比較的厚い酸化グラフェン膜のインピーダンスの依存性を、温度及び相対湿度の検知に利用することができる。
【0042】
単一の周波数でインピーダンスを測定した場合、インピーダンス(Z)の実数部(X)及び虚数部(Y)は、Y<0ならば、等価な抵抗(R)と容量(C)の並列回路に変換できる。該抵抗及び容量は、次式により与えられる。
[式8]
[式9]
ここで、Q=|Y|/Xである。第1及び第2の酸化グラフェン系センサ素子の所与の周波数におけるインピーダンスを測定し、これらの測定値を式8及び式9を用いてそれぞれ抵抗(R)又は容量(C)に変換することにより、温度及び相対湿度の両方を検知することができる。実際には、抵抗(R)及び容量(C)は、位相敏感検出(典型的にはロックイン測定として知られている)により単一の周波数におけるインピーダンスを測定することにより決定することができる。インピーダンスの同相成分(X)及び異相成分(Y)は、駆動信号の複製を測定信号と混合しローパスフィルタを適用することにより得られる。これは、アナログミキサ、デジタル信号処理モジュール、ソフトウェアのいずれによっても行うことができる。
【0043】
交流電流の周波数によっては、酸化グラフェン(および他の材料)の容量(C)は、次式に従って温度及び相対湿度により変化する。
[式10]
ここで、Cは温度の関数であり、本明細書では「前因子」と呼ぶ。xは所与の周波数についての定数である。図6aに、25°C及び45°Cでの周波数10kHzにおける相対湿度による容量の変化を示す。図6bに示す通り、同様の関係が酸化グラフェンのコンダクタンス(G=1/R)についても当てはまる。したがって、所与の周波数における第1及び第2のセンサ素子の容量又はコンダクタンスの値をモニタリングすれば、温度及び相対湿度の測定値を得るのに十分である。
【0044】
相対湿度は、式10を次のように置き換えて決定することができる。
[式11]
【0045】
ただし、本装置を用いて温度及び相対湿度を測定できるようにするためには、前因子及び定数を決定する必要がある。本実施形態においては、第1のセンサ素子503は不活性化層510を含み、第2のセンサ素子504は含まない。
【0046】
定数は、一定温度で相対湿度を変化させつつ環境制御室内で第2のセンサ材料508の容量を測定し、得られた容量対湿度のデータに周知の線形回帰手法を適用することによって求めることができる。温度を一定に保つことにより、第2のセンサ材料508の容量の変化をすべて、相対湿度の変化に帰することができる。
【0047】
次なるステップは、温度を変化させつつ環境制御室内で第1のセンサ材料505の容量を測定することである。不活性化層510の存在により、第1のセンサ材料505からは湿度依存性がすべて排除される。よって、容量と温度との関係を、容量対温度の(較正)データから決定することができる。
【0048】
(外部)環境509の温度は、第1のセンサ材料505の容量を測定し、この値を較正データと比較することにより得ることができる。線形補間又は外挿を用いて、較正データ内のノード間に相当する容量測定値から温度を決定することができる。温度が分かれば、較正データから事前に決定された関係を用いて前因子を計算することができる。
【0049】
定数及び前因子が決定されると、第2のセンサ材料508の容量を測定し、その値を式11に用いることにより、(外部)環境509の相対湿度を計算することができる。
【0050】
一方のセンサ素子503に不活性化層510を用い、式10により定義される応答を生む周波数の交流電流を印加することにより、環境509の温度及び相対湿度の決定に要する処理能力及び時間を減らすことができる。これは、環境509の温度及び湿度を、連立方程式を解く必要なしに、(それぞれ)第1及び第2のセンサ素子503及び504を用いて直接的に測定することができるからである。
【0051】
式11を解くのに必要な計算能力を減らすために(相対湿度に対する容量の指数的依存は必ずしも簡単には計算できないため)、第2のセンサ材料508の容量の相対湿度による変化を、環境制御室内でいくつかの温度で測定してルックアップテーブルに保存することができる(すなわち、図6aに示す一連の較正データセットを得る)。第1のセンサ素子503から環境509の温度が決定されると、第2のセンサ材料508の容量を測定し、その値をルックアップテーブル内の該当するデータセットと比較することにより、相対湿度を決定することができる。線形補間又は外挿を用いて、較正データのノード間に相当する容量測定値から相対湿度を決定することができる。
【0052】
図7に示す通り、第1及び第2のセンサ素子703及び704の一方又は両方が、それぞれ第1及び第2のセンサ材料705及び708の損傷を防止するように構成された保護層711を含んでいてもよい。センサ素子703、704が周囲環境709における流体の相対蒸気圧を測定するように構成されている場合、保護層711は、該流体に浸透する材料(ブロックコポリマー等)を含み、環境709の該流体の相対蒸気圧の決定を妨げることなく、センサ材料705、708の損傷の防止を可能にするとよい。一方、センサ素子703、704が周囲環境709における流体の相対蒸気圧を測定するように構成されていない場合(例えば図5に示す第1のセンサ素子503)、保護層711は各センサ材料705、708の該流体に対する露出を防止するように構成されてもよい。この場合は、保護層711は実質的に不活性化層510としても働く。
【0053】
図8は、本装置に用いうる異なる電極構成を示す。前述の通り、第1及び第2のセンサ素子803及び804はそれぞれ、各センサ材料805、808に交流電流を流すことができるように構成された電極対806、807を含む。第1及び/又は第2のセンサ素子803及び/又は804の電極対806、807は、櫛型電極(図8a)、貫入渦巻電極(図8b)、又は平行平板電極(図8c)を含んでいてもよい。
【0054】
環境809における流体に対するセンサ材料805、808の親和性は、採用する電極構成に影響するであろう。櫛型電極及び貫入渦巻電極構成の場合は、電極対の両方の電極(すなわち陽極806及び陰極807)が、センサ材料805、808の同じ面(典型的には下面)に形成される。この構成によれば、平行平板構成と比べて、環境809と相互作用するセンサ材料805、808の表面積を大きくできるが、単位面積当たりの容量は小さくなる。平行平板構成によれば、センサ材料805、808が2つの電極806、807に挟まれ(図8dに示す通り)、周囲環境809に露出され流体と相互作用する材料805、808の量が小さくなる。しかしながら、表面積の減少にもかかわらず、平行平板構成は酸化グラフェンとの使用に適していることが分かっている。これは、材料のプレートレット間での水分子の可動性が高いことにより、センサ素子803、804の周囲の露出領域812内の材料に水がアクセス可能になることによる。平行平板構成により単位面積当たりの容量が大きくなると、センサ素子803、804を小型化しやすくなる。平行平板構成はまた、異なる流体を検知するための他の材料の場合にも適する可能性がある。
【0055】
第1及び/又は第2のセンサ素子803及び/又は804が1対の平行平板電極を含む場合、電極806、807の一方又は両方を、不活性化層510及び/又は保護層711として働くように構成してもよい。これは、本装置の形成に必要な材料層(及び製作ステップ)の数を減らすのに役立つ。これに加えて又はこれに代えて、電極806、807の一方又は両方が、環境809からセンサ材料805、806への流体の拡散を可能にするように構成された多孔質の電極材料を含んでいてもよい。
【0056】
図9に本装置の一例を示す。該装置は、電子デバイス、携帯電子デバイス、携帯電気通信デバイス、センサ、ウェアラブルデバイス、リストバンドの1以上のもの、上記1以上のもの用のユーザインターフェース、上記1以上のもの用の電子ディスプレイ、又は上記1以上のもの用のモジュールであってもよい。該装置がウェアラブルデバイス又はリストバンドである(又はその一部をなす)場合は、該装置を構成する材料の一部または全部は、可撓性及び/又は伸縮性をもつ材料(すなわち弾性材料)であってもよい。
【0057】
図に示す例では、該装置は、本明細書に記載する第1及び第2のセンサ素子903及び904と、インターフェース回路914と、バッテリー915と、プロセッサ/コントローラ916と、記憶媒体917と、電子ディスプレイ918と、スピーカー919と、送信機920とを含む電子デバイス913であり、これらがデータバス921により相互に電気的に接続されている。
【0058】
前述の通り、第1及び第2のセンサ素子903及び904は、環境の第1及び第2のセンサ材料の電気的特性の複合測定値に基づいて、環境の温度及び流体の相対蒸気圧を決定することができるように構成されている。本明細書中に記載した各例では2つのセンサ素子903、904のみを記載してきたが、装置913は2つよりも多くの(2つより少なくない)センサ素子を含んでいてもよい。センサ素子を追加的に設けることによって、測定値の正確性を向上させ、及び/又は複数の流体の相対蒸気圧を同時にモニタリング可能にできる。例えば後者の場合、第1及び第2のセンサ素子903及び904を温度及び湿度の両方に対する依存性を排除するために用いつつ、第3のセンサ素子を化学的蒸気を検出するように機能させることができる。
【0059】
プロセッサ916は、他の構成要素に信号を提供したり他の構成要素から信号を受信したりして他の構成要素の動作を管理することにより、装置913を全体として動作させるように構成されている。さらに、プロセッサ916は、電気的特性の測定値を受信し、本明細書に記載する計算を実行して(例えば記憶媒体917に記憶された1以上のアルゴリズムを使用して)、環境の温度及び流体の相対蒸気圧を決定するように構成されている。
【0060】
記憶媒体917は、装置913の動作を実行、制御、又は可能にするように構成されたコンピュータコードを記憶するように構成されている。記憶媒体917はまた、他の構成要素の設定を記憶するように構成されていてもよい。プロセッサ916は、他の構成要素の動作を管理するために、記憶媒体917にアクセスして構成要素の設定を取得することができる。記憶媒体917はまた、プロセッサ916が環境の温度及び流体の相対蒸気圧の決定に用いる、センサ素子903、904の一方又は両方の温度及び/又は湿度較正データを記憶するように構成されていてもよい。
【0061】
プロセッサ916は、特定用途向け集積回路(ASIC)を含む、マイクロプロセッサであってもよい。記憶媒体917は、揮発性ランダムアクセスメモリ等の一時記憶媒体であってもよい。一方、記憶媒体917は、ハードディスクドライブ、フラッシュメモリ、非揮発性ランダムアクセスメモリ等の永久記憶媒体であってもよい。
【0062】
インターフェース回路914は、第1及び第2のセンサ素子903及び904からの出力信号を、プロセッサ916による使用に適した形式に変換するように構成されている。インターフェース回路914は、分圧回路、ホイートストンブリッジ、位相敏感検出回路、又はその他の適切な測定回路を含んでいてもよい。インターフェース回路914はまた、センサの応答をコントローラの入力に適合させるための適切な増幅器、バッファ、フィルタ等及び/又はアナログセンサの応答をデジタルコントローラにより処理されるデジタル信号に変換するためのアナログデジタル変換器を含んでいてもよい。
【0063】
電子ディスプレイ918は、環境の温度及び湿度を装置913のユーザに対して表示するように構成されている。スピーカー919は、温度と湿度をユーザに検知可能な音声信号(すなわち音)として出力するように構成されている。送信機920は、温度と湿度(最終結果及び/又は生データ)を、ユーザの携帯電話等の遠隔装置に送信するように構成されている。したがって、送信機920により、装置913をユーザから離れた場所に設置してユーザが遠隔環境の温度及び湿度をモニタリング(例えばユーザの携帯電話を介して)できるようにすることが可能になる。
【0064】
測定しようとする電気的特性が容量の場合、装置913は、第1及び/又は第2のセンサ素子903及び/又は904に代えて、切替可能な1以上の基準コンデンサを含んでいてもよい。これにより、第1及び/又は第2のセンサ材料の容量を基準コンデンサの容量との比として計測することが可能になり、さもなければ様々な他の構成要素により導かれていたであろう(例えば増幅器のドリフト等による)あらゆる誤差を排除することができる。同様に、装置913は、測定しようとする電気的特性が抵抗の場合、1以上の基準抵抗器を含んでいてもよい。
【0065】
本装置を用いて環境の温度及び流体の相対蒸気圧を決定する方法の主なステップ1022−1023の概略を図10に示す。同様に、本装置を製作する方法の主なステップ1124−1126を図11に示す。選択される特定の材料により、第1及び第2のセンサ材料の製造にはいくつかの異なる製作技術を用いうる。酸化グラフェンの薄膜を形成するには、次の方法を用いうる。
【0066】
酸化グラフェンプレートレット、水、有機溶媒、及び安定剤を含む酸化グラフェン溶液は、例えばグラフェンスクウェア社から購入することができる。そして、スピンコーティング、ドロップキャスティング、スプレー塗布、又はインクジェット印刷により基板(PET又はPEN等)上に該溶液を堆積させることができ、その上に電極を標準的なリソグラフィープロセス又は印刷技術を用いて形成することができる。スピンコーティングは、厚さ数ナノメートルの大きく均一な膜の作成に有用であり、ドロップキャスティングは、センサ材料を基板の特定の領域に形成する場合に好ましいことがある。該溶液を堆積する前に、基板の疎水性を調整して濡れ性を確保するとよい(一般的に、基板の疎水性が強いほど溶液は広がりやすい)。これは、基板表面の官能基化又は酸素プラズマ処理により実現してもよい。膜厚は溶液の濃度及び粘度により、またスピンコーティングを用いる場合はスピン速度により制御できる。溶液を基板上に堆積した後は、サンプルを放置して水と有機溶媒を蒸発させる。真空オーブンを用いれば乾燥時間を短縮できるが、膜に裂け目ができる可能性がある。この代わりに、サンプルを制御環境条件下で事前に熱したローラー上で乾燥させることで、裂け目を形成することなく水と有機溶媒を確実に速く蒸発させるようにしてもよい。ピンホールのない膜を形成するためには、堆積及び乾燥のプロセスは一度又は二度繰り返す必要があるかもしれない。
【0067】
図12は、一実施形態に係るコンピュータプログラムを提供するコンピュータ/プロセッサ可読媒体1227の概略を示す。この例においては、コンピュータ/プロセッサ可読媒体1227は、デジタルバーサタイルディスク(DVD)又はコンパクトディスク(CD)等のディスクである。他の実施形態においては、コンピュータ/プロセッサ可読媒体1227は、発明の機能を実行するようにプログラムされた任意の媒体であってもよい。コンピュータ/プロセッサ可読媒体1227は、メモリスティック又はメモリカード(SD、ミニSD、マイクロSD、又はナノSD)等の着脱可能なメモリデバイスであってもよい。
【0068】
該コンピュータプログラムは、図10又は図11の方法のステップ1022−1023、1124−1126の1以上を実行、制御、又は可能にするように構成されたコンピュータコードを含んでいてもよい。特に、該コンピュータプログラムは、環境における第1及び第2のセンサ材料の電気的特性を測定し、電気的特性の複合測定値に基づいて環境の温度及び流体の相対蒸気圧を決定するように構成されていてもよい。
【0069】
図示した他の実施形態には、前述の実施形態の類似する特徴に対応する参照番号を付した。例えば、特徴番号1は、番号101、201、301等にも対応しうる。これらの番号を付された特徴が図面に出ているかもしれないが、これらの特定の実施形態の説明では直接的に言及されていないかもしれない。それでもなお、特に前述の実施形態の類似する特徴との関連において更なる実施形態の理解を助けるために、これらの番号を図面に付している。
【0070】
当業読者には、記載された装置/デバイス及び/又は特定の記載された装置/デバイスの他の特徴は、例えばスイッチがオン状態の時等、これらが動作可能状態の時のみ望ましい動作を実行するように装置が構成されることにより提供されうると理解されるであろう。そのような場合は、非動作可能状態(例えばスイッチオフ状態)では適切なソフトウェアがアクティブメモリに必ずしもロードされているとは限らず、適切なソフトウェアは動作可能状態(例えばオン状態)でのみロードされるかもしれない。該装置は、ハードウェア回路及び/又はファームウェアを含んでいてもよい。該装置はメモリにロードされたソフトウェアを含んでいてもよい。そのようなソフトウェア/コンピュータプログラムは、同じメモリ/プロセッサ/機能ユニット及び/又は1以上のメモリ/プロセッサ/機能ユニット上に記録されていてもよい。
【0071】
いくつかの実施形態においては、記載された特定の装置/デバイスは、望ましい動作を実行するように適切なソフトウェアにより事前にプログラムされていてもよく、該適切なソフトウェアは、ユーザが「鍵」をダウンロードして例えば該ソフトウェア及び関連機能のロックを解除する/それらを実行可能にすることにより使用可能にすることもできる。そのような実施形態による効果には、デバイスに更なる機能が必要になった際にデータをダウンロードする必要が軽減されることが含まれうる。これはまた、ユーザに実行可能にされていないかもしれない、そのような事前にプログラムされたソフトウェアを記憶するのに十分な容量をデバイスが有すると考えられる例においても有用でありうる。
【0072】
記載の装置/回路/素子/プロセッサは、記載された機能に加えて他の機能を有していてもよく、これらの機能は同じ装置/回路/素子/プロセッサにより実行されてもよいことは理解されるであろう。1以上の開示された態様は、関連するコンピュータプログラムの電子的配信及び適切な担体(例えばメモリや信号)に記録されたコンピュータブログラム(情報源/伝送路符号化されていてもよい)を含んでいてもよい。
【0073】
本明細書に記載する「コンピュータ」は、同じ回路基板上、回路基板の同じ領域/位置、又は同じデバイス上に位置していてもいなくてもよい1以上の個々のプロセッサ/処理要素の集合を含んでいてもよいことは理解されるであろう。いくつかの実施形態においては、1以上の記載されたプロセッサは、複数のデバイス上に分散されていてもよい。同じ又は異なるプロセッサ/処理要素により、本明細書に記載された1以上の機能を実行してもよい。
【0074】
「信号」という用語は、一連の送信及び/又は受信信号として送信される1以上の信号を意味しうることは理解されるであろう。該一連の信号は、上記の信号をなす1つ、2つ、3つ、4つ、又はより多くの個々の信号成分又は個別信号を含んでいてもよい。これらの個々の信号の一部又は全部を、同時に、順番に、及び/又は時間的に相互に重なるように送信/受信してもよい。
【0075】
記載したコンピュータ及び/又はプロセッサ及びメモリ(例えばROM、CD−ROM等を含む)の議論について、これらは、発明の機能を実行するようにプログラムされた、コンピュータプロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、及び/又は他のハードウェア要素を含んでいてもよい。
【0076】
出願人はここに、本明細書に記載した個々の特徴及びそれらの特徴の2以上のあらゆる組み合わせを、それらの特徴や特徴の組み合わせが本明細書に開示したいずれかの問題を解決するかどうかにかかわらず、また請求項の範囲に限定されず、当業者の一般的な知識に照らせばそれらの特徴や組み合わせを本明細書全体に基づいて実施可能な程度に、別々に開示している。出願人は、開示された態様/実施形態が、そのような個々の特徴又は特徴の組み合わせから構成されうることを示唆している。上記の記載に鑑みて、開示の範囲内で様々な変形がなされうることは当業者には明らかであろう。
【0077】
異なる実施形態に適用された基礎的な新規特徴を図示、記載、及び指摘してきたが、記載されたデバイス及び方法の形態及び詳細については様々な省略、置換、変更が、発明の趣旨を逸脱することなく当業者によりなされうることは理解されるであろう。例えば、実質的に同じ機能を実質的に同じやり方で実行して同じ結果を得るような要素及び/又は方法ステップのすべての組み合わせが発明の範囲内にあることは、明示的に表現されている。さらに、開示された形態又は実施形態に関連して図示及び/又は記載された構造及び/又は要素及び/又は方法ステップは、設計上の選択の一般的な問題として、他の開示された、記載された、又は示唆された形態又は実施形態に組み込まれうると認識されるべきである。さらに、請求項においては、ミーンズプラスファンクション条項は、本明細書に記載の構造が記載の機能を実行するものを含み、構造的等価物のみならず等価な構造物を含むものと意図されている。よって、木製部品同士を固定するのに釘は円筒状の表面を用いるがネジは螺旋状の表面を用いる点において、釘とネジは構造的等価物ではないかもしれないが、木製部品を固定する環境において、釘とネジは等価な構造物でありうる。
図1a
図1b
図2
図3
図4
図5
図6a
図6b
図7
図8a
図8b
図8c
図8d
図9
図10
図11
図12
図13a
図13b