【実施例】
【0013】
以下に本発明の一実施例による油溶性プラセンタエキスの製造方法について説明する。
【0014】
図1は、本実施例による油溶性プラセンタエキスの製造工程図である。
本実施例による油溶性プラセンタエキスの製造方法は、胎盤選定工程10と、細断工程20と、加熱工程30と、凍結乾燥工程40と、粉末化工程50と、抽出工程60と、除去工程70と、減圧乾燥工程80と、油溶解工程90を有する。
【0015】
まず、胎盤選定工程10において、油溶性プラセンタエキスの原料となる胎盤を選定する。
胎盤には、ブタ、ウマ、ヒツジなどの哺乳類動物の胎盤を用いることができるが、その中でもブタの胎盤が特に安全性に優れているため、本実施例では、ブタの胎盤を選定する。
【0016】
次に、細断工程20において、胎盤選定工程10で選定した胎盤から皮膚組織を除去し、絨毛組織を細断してミンチ状にする。
【0017】
次に、加熱工程30において、細断工程20で細断した胎盤を加熱する。
加熱工程30では、高圧環境下で110℃以上135℃以下の温度とした高圧蒸気を用いる。このような高圧蒸気を用いた加熱には、例えば、オートクレーブ等の加圧しながら加熱する装置を用いることができる。
加熱工程30における加熱処理により、抽出工程60でのリン含有成分の抽出効率が向上する。
また、油溶性プラセンタエキスは天然物からの抽出物であるが、その性質上、水溶性プラセンタエキスのように後工程で加熱やろ過などの殺菌工程を設定することができない。そこで、加熱工程30における加熱温度を110℃以上135℃以下、加熱時間を15分以上1時間以下として、胎盤に対する適切な殺菌処理を兼ねることが好ましい。なお、加熱処理の効率の観点からは、加熱温度を120℃以上122℃以下、加熱時間を20分以上30分以下とすることが更に好ましい。
【0018】
次に、凍結乾燥工程40において、加熱工程30で加熱した胎盤を凍結乾燥する。
凍結乾燥によって胎盤の含水量が低くなる。抽出工程60の前に胎盤の含水量を低くしておくことで、除去工程70におけるエーテル画分以外の分離作業が容易となる。
【0019】
次に、粉末化工程50において、凍結乾燥工程40で凍結乾燥された胎盤を粉砕等によって粉末状にする。
胎盤を粉末状にすることにより、エーテルとの接触効率を上げることができる。
【0020】
次に、抽出工程60において、粉末化工程50で粉末化した胎盤にエーテルを加えて抽出を行う。エーテルとしては、リン含有成分の抽出性の観点から、ジエチルエーテルを用いることが好ましい。
【0021】
本実施例では、凍結乾燥された胎盤に重量5倍量のジエチルエーテルを加えた場合と、凍結乾燥された胎盤に重量10倍量のジエチルエーテルを加えた場合のそれぞれについて、次の条件下で抽出を行った。
[条件1]重量5倍量、抽出温度:常温(25℃)、抽出時間:2時間
[条件2]重量5倍量、抽出温度:常温(25℃)、抽出時間:16時間
[条件3]重量5倍量、抽出温度:加温(55℃)、抽出時間:2時間
[条件4]重量10倍量、抽出温度:常温(25℃)、抽出時間:2時間
[条件5]重量10倍量、抽出温度:常温(25℃)、抽出時間:16時間
[条件6]重量10倍量、抽出温度:加温(55℃)、抽出時間:2時間
【0022】
なお、ジエチルエーテルは、大気圧で沸点36.4℃であるため、それより高い温度にする場合は、窒素ガスを吹き込んで加圧状態とすることによりジエチルエーテルの液体状態を保持する。
加温は、水蒸気を用いた間接加熱で行う。リン含有成分の変色、変質を避けるため、加温する場合は抽出時間を2時間以下とする。なお、抽出温度や加えるジエチルエーテルの量等にもよるが、抽出時間の下限は30分以上とすることが好ましく、1時間以上とすることが更に好ましい。また、抽出温度が高いと抽出効率は上がるが、抽出温度が高過ぎるとリン含有成分が変色、変質するため、加温する場合の抽出温度は40℃以上60℃以下にすることが好ましく、40℃以上55℃以下にすることが更に好ましい。
【0023】
次に、除去工程70において、抽出工程60で抽出した抽出液からジエチルエーテル画分以外を除去する。
凍結乾燥工程40で胎盤を凍結乾燥して事前に胎盤の含水量を低くしておいたことにより、ろ過等の簡便な方法でジエチルエーテル画分以外を除去することができる。
【0024】
次に、減圧乾燥工程80において、除去工程70のろ過により得られたろ液に対して減圧乾燥を行う。
これにより、ジエチルエーテルを除去し、リン含有成分を含んだペースト状の乾燥物が得られる。
【0025】
図2(a)は、加熱工程における加熱温度を120℃、加熱時間を20分以上30分以下とし、凍結乾燥した胎盤に抽出工程において重量5倍量のジエチルエーテルを加えた場合の、抽出温度と抽出時間ごとのリン含有成分量を示す図である。
図2(b)は、加熱工程における加熱温度を120℃、加熱時間を20分以上30分以下とし、凍結乾燥した胎盤に抽出工程において重量10倍量のジエチルエーテルを加えた場合の、抽出温度と抽出時間ごとのリン含有成分量を示す図である。
図2では、減圧乾燥工程で得られたペースト状の乾燥物のリン含有成分量について、最も高い値を「100」として示している。
【0026】
図2に示すように、常温(25℃)で抽出する場合は、凍結乾燥した胎盤に重量10倍量のジエチルエーテルを加えて16時間抽出する条件(条件5)が最も効率が良く、55℃に加温して抽出する場合は、凍結乾燥した胎盤に重量5倍量のジエチルエーテルを加えて2時間抽出する条件(条件3)が最も効率が良いことが分かる。
なお、加温条件下では、少ない量の溶媒(ジエチルエーテル)で抽出できることから、作業員の健康や環境負荷の面からもより良い条件であると言える。
また、常温条件下での抽出も、抽出時間を長くすることで加温条件下と殆ど変わらないリン含有成分量が得られるため、製造設備等の製造環境によって、加温条件下での抽出か常温条件下での抽出かを選択することが可能である。
【0027】
ここで、比較例として、細断工程20の後、加熱工程30を省略して凍結乾燥工程40に移行し、粉末化工程50を経て粉末化した胎盤にエーテルを加えてリン含有成分の抽出を行った。抽出条件は、条件5(重量10倍量、抽出温度:常温(25℃)、抽出時間:16時間)とした。
結果、リン含有成分量は、上記した実施例のうち、加熱工程30において加熱温度を120℃、加熱時間を20分以上30分以下として加熱処理を行い、凍結乾燥工程40、粉末化工程50を経て抽出工程60で10倍量のジエチルエーテル抽出を行ったときの最も高い値を「100」とすると、「64」であった。
実施例では、加熱工程30において加熱温度を120℃、加熱時間を20分以上30分以下として加熱処理を行い、凍結乾燥工程40、粉末化工程50を経て抽出工程60において条件5で抽出した場合、
図2に示すように、リン含有成分量は「97」という結果であるから、加熱工程30を行うことで、リン含有成分の抽出効率が約1.5倍に向上することが分かる。
【0028】
次に、油溶解工程90において、減圧乾燥工程80で得られたペースト状の乾燥物を油に溶解する。
油には、オリブ油又はゴマ油を用いることが好ましいが、その他の油を用いることもできる。
ペースト状の乾燥物をオリブ油に溶解した後、沈殿物があれば適宜ろ過等で除去し、油溶性プラセンタエキスの完成となる。
【0029】
油溶解工程90では、油に溶解させる乾燥物の割合を0.1%以上5.0%以下とすることが好ましい。これにより、油溶性プラセンタエキスに含まれるリン含有成分の量を0.1〜0.6%とすることができる。
また、油に溶解させる乾燥物の割合を0.5%以上2.0%以下とした場合に、油溶性プラセンタエキスに含まれるリン含有成分の量を0.2〜0.5%とすることができる。
なお、リン含有成分の分析には、ICP発光分光分析装置(アジレント・テクノロジー社製)を用い、試料を乾式灰化後、希塩酸で抽出した。
【0030】
上記製造方法により得られた油溶性プラセンタエキスについて、保湿効果を検討するために、ジェルに3%配合した時の肌水分の蒸発抑制効果を試験した。結果を
図3に示す。このとき、通常時(何も塗布していない時)の肌水分量は0μSとした。また、試験条件は、温度25℃、湿度30%とし、測定には、皮表角層水分量測定装置(SKICON−200EX)を用いた。
図3に示すように、油溶性プラセンタエキスは、グリセリン、スクワラン、及び水溶性プラセンタエキスに比べて高い保湿力を示すことが分かる。