(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリトリメチレンテレフタレートが、主たる繰り返し単位をトリメチレンテレフタレート単位とするポリエステルであり、下記(a)〜(d)の各要件を同時に満足する、ポリトリメチレンテレフタレート組成物。
(a)固有粘度が0.50〜1.60dL/gの範囲にあること。
(b)レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置による粒度分布測定における、粒径1.0μmを超える粒子の重量分布が5.0重量%以下である二酸化チタンを0.05〜3.0重量%含有すること。
(c)示差走査熱量計を用いて、融点以上に加熱したポリトリメチレンテレフタレート組成物を10℃/分の速度で降温した際に表れる結晶化発熱ピークトップ温度が165℃以上であること。
(d)示差走査熱量計を用いて、融点以上に加熱したポリトリメチレンテレフタレート組成物を10℃/分の速度で降温した際に表れる結晶化発熱ピークの半値幅が20℃以下であること。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明に用いるポリエステルは、トリメチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルである。ここで主たる繰り返し単位とは、ポリエステルを構成する全繰り返し単位中、85モル%以上、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上がトリメチレンテレフタレートからなるポリエステルであることを表す。このポリエステルは、トリメチレンテレフタレート単位を構成する成分以外の第3成分を共重合した、共重合ポリトリメチレンテレフタレートであってもよい。
【0018】
そして本発明のポリトリメチレンテレフタレー
トは、(a)固有粘度が0.50〜1.60dL/gの範囲にあることを必須とする。固有粘度が上記の範囲内にあるときには、最終的に得られるポリエステル繊維の機械的強度が充分高く、また取り扱い性もさらに良好となる。さらには該固有粘度が0.60〜1.50dL/gの範囲にあることが好ましく、特には0.70〜1.40dL/gの範囲にあることが好ましい。固有粘度は後述のよう
にポリトリメチレンテレフタレート組成物を適切な溶媒に溶解し、ウベローデ粘度計を用いて測定することができる。また、該ポリトリメチレンテレフタレート組成物は固有粘度を適切な範囲とするためには、溶融重縮合時の反応温度、反応時間、減圧度を調整したり、ポリトリメチレンテレフタレート組成物の融点以下、詳しくは195〜215℃の範囲の窒素気流下または真空下での固相重合も好ましく実施される。
【0019】
さらに本発明のポリトリメチレンテレフタレート組成物は、(b)レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置による粒度分布測定における、粒径1.0μmを超える粒子の重量分布が5.0重量%以下である二酸化チタンを0.05〜3.0重量%含有する、必要がある。粒径1.0μmを超える粒子とは、具体的に好ましくは粒径1.0μmを超え粒径20.0μm以下の粒子であり、より好ましくは1.0μmを超え粒径15.0μmの粒子を表すものである。
【0020】
本発明で用いられる二酸化チタンの種類としてはアナターゼ型、ルチル型のいずれでもよいが、アナターゼ型であることが好ましい。この二酸化チタンの含有量は目的とする繊維の用途に応じて調整される。一般的な紳士衣料や婦人衣料の表地、裏地などの衣料用途として用いる場合には0.1〜1.0重量%の範囲にあることが好ましい。
【0021】
また、ここで本発明のポリトリメチレンテレフタレート組成物に含有している二酸化チタンは、粒度分布測定における粒径が1.0μmを超える粒子の含有量が5.0重量%以下であるものであることを特徴としている。さらに好ましくは粒径が1.0μmを超える粒子の含有量は、0.001〜5.0重量%の範囲であり、より好ましくは0.01〜4.9重量%、特に好ましくは0.02〜3.0重量%、そして0.03〜2.0重量%の範囲であることが最も好ましい。粒径が1.0μmを超える粒子の含有量を上記範囲にすることにより、紡糸口金における濾過昇圧が発生しにくく、連続して長時間安定して溶融紡糸法によるポリエステル繊維を製造することができ、また得られるポリエステル繊維の毛羽の発生を抑制することができる。二酸化チタンの粒度分布の測定評価は後述するようにレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて行うことができる。
【0022】
このように二酸化チタン中における1.0μmを超える粒子の含有量を所定量の範囲内とするためには、後に詳細に述べる湿式粉砕処理を行うことが好ましい。湿式粉砕処理としてはビーズミルなどの粉砕装置を用いることが好ましく、さらには複数回の湿式粉砕処理を行うことが好ましい。また当該湿式粉砕処理が同じ経路を複数回通過する循環式処理であることが好ましい。さらに粉砕メディアであるビーズとしては、ガラスビーズが好ましい。またそのビーズの直径は大きすぎると湿式粉砕が不十分となり、小さすぎると湿式粉砕を複数回実施した場合でも、効果を得にくい傾向にある。使用するビーズの直径は0.6〜1.4mmの範囲が好ましく、0.7〜1.2mmの範囲がさらに好ましい。さらに二酸化チタンを湿式粉砕処理するためには、トリメチレングリコールに二酸化チタンの粉体を分散させてスラリーとすることが好ましい。
【0023】
そしてこのような粒径1.0μmを超える粒子の重量分布を所定量に調製した二酸化チタンは、ポリトリメチレンテレフタレート組成物中の含有率が所定量となるように混合される。
【0024】
さらに本発明のポリトリメチレンテレフタレート組成物は、(c)示差走査熱量計を用いて、融点以上に加熱したポリトリメチレンテレフタレート組成物を10℃/分の速度で降温した際に示される結晶化発熱ピークトップ温度が165℃以上であること、及び(d)示差走査熱量計を用いて、融点以上に加熱したポリトリメチレンテレフタレート組成物を10℃/分の速度で降温した際に示される結晶化発熱ピークの半値幅が20℃以下であること、を同時に満足する必要がある。結晶化発熱ピークトップ温度が高いことにより耐熱性や溶融安定性が向上する。結晶化発熱ピークの半値幅が小さいことによりポリマーの均一性が向上し、高品質なポリマーとなる。さらに好ましくは、結晶化発熱ピークトップ温度は165〜196℃であり、より好ましくは167℃〜195℃、さらにより好ましくは170〜190℃の範囲である。また結晶化発熱ピークの半値幅は、好ましくは2〜20℃であり、より好ましくは3〜17℃、さらにより好ましくは5〜15℃の範囲である。
【0025】
ここで半値幅とは
図1におけるFWHM(full width at half maximum)のことであり、さらに詳しくはピークトップ値(fmax)の半分の値(1/2*fmax)が当該関数f(x)と交わる点(X1、X2)の差の絶対値である。
図1における縦軸は示差走査熱量計におけるチャートのヒートフロー(W/g)を表し、横軸は温度(℃)を表す。
【0026】
そして本発明のポリトリメチレンテレフタレート組成物は、上記のような(a)〜(d)の各要件を同時に満足することによって、特に得られたポリトリメチレンテレフタレート組成物を溶融紡糸によって繊維を製造する工程において、成形時のフィルター詰まりや紡糸時の糸切れなどの発生が大幅に減少し、最終的に得られる繊維の品質が大幅に改善されるものとなった。特に本発明は単糸繊度が2.0dtex以下の細い繊維を連続的に製造する工程において、その生産の安定化に有効である。さらには1.3dtex以下、特には0.6〜1.2dtexの範囲の繊維の製造において効果的である。本発明のポリトリメチレンテレフタレート組成物を用いて得られる繊維は、その引張強度や引張伸度の値を落とすことなく、毛羽の発生も大きく抑制することが可能となった。
【0027】
さて、本発明のポリトリメチレンテレフタレー
トは、先にも述べたように、トリメチレンテレフタレート単位を構成する成分以外の第3成分を共重合した、共重合ポリトリメチレンテレフタレートであってもよい。そしてこの第3成分(共重合成分)は、ジカルボン酸成分またはグリコール成分のいずれでもよい。
さらに具体的に第3成分として好ましく用いられる成分について述べる。
【0028】
ジカルボン酸成分としては、フタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、3,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルチオエーテル−4,4’−ジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸等の芳香族ジカルボン酸を挙げることができる。脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、エイコサン二酸、ドコサン二酸、フマール酸、マレイン酸、イタコン酸等の脂肪族ジカルボン酸を挙げることができる。脂環族ジカルボン酸としては、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、パーヒドロナフタレンジカルボン酸(デカリンジカルボン酸)、ダイマー酸、シクロブテンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、アダマンタンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸が挙げられる。これらは無水物や誘導体であってもよい。これらのジカルボン酸成分はいずれか1種または2種以上を用いることがより好ましい。好ましくはこれらの化合物はポリエステルを構成する全繰り返し単位中の共重合率が0〜15モル%、より好ましくは1〜10モル%であることである。さらに1〜5モル%の範囲でトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、没食子酸、トリカルバリル酸等の分子内に3以上のカルボキシル基を有する化合物が共重合されていても良い。
【0029】
第3成分として好ましく用いられるもう一方のグリコール成分(ジオール成分)としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ヘプタメチレングリコール、オクタメチレングリコール、ノナメチレングリコール、デカメチレングリコール、ウンデカメチレングリコール、ドデカメチレングリコール、トリデカメチレングリコール、テトラデカメチレングリコール、ペンタデカメチレングリコール、ヘキサデカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジ(トリメチレン)グリコール、トリプロピレングリコール、トリス(トリメチレン)グリコール、テトラペンチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、1,1−ジヒドロキシシクロヘキサン、1,2−ジヒドロキシシクロヘキサン、1,3−ジヒドロキシシクロヘキサン、1,4−ジヒドロキシシクロヘキサン、1,1−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、p−(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、p−(3−ヒドロキシプロキシ)ベンゼン、4,4’−(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、4,4’−(3−ヒドロキシプロポキシ)ビフェニル、2,2−ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−γ−ヒドロキシプロポキシフェニル)プロパン、ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン、ビス(4−γ−ヒドロキシプロポキシフェニル)スルホン、ビス(4−β−ヒドロキシエトキシエトキシフェニル)スルホン、水素化ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物(2,2−ビス(4−β−ヒドロキシエトキシシクロヘキシル)プロパン)、水素化ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物(2,2−ビス(4−γ−ヒドロキシプロポキシシクロヘキシル)プロパン)、水素化ビスフェノールSのエチレンオキサイド付加物(ビス(4−β−ヒドロキシエトキシシクロヘキシル)スルホン)、水素化ビスフェノールSのプロピレンオキサイド付加物(ビス(4−γ−ヒドロキシプロポキシシクロヘキシル)スルホン)、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、アダマンタンジオール、スピログリコール、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールを挙げることができる。上記の2種以外の他のジオール成分としてこれらの化合物のいずれか1種または2種以上であることがより好ましい。さらに分子内に3以上のヒドロキシル基を有するペンタエリスリトール、テトラキス(ヒドロキシメチル)メタン等の化合物が、前記ポリエステルを構成する全繰り返し単位100%中、0〜15モル%の割合で共重合されていても良い。
【0030】
本発明に用いる二酸化チタンを添加する前のポリトリメチレンテレフタレートの製造方法については特に限定はなく、テレフタル酸をトリメチレングリコールと直接エステル化させた後、溶融重合法にて重合させる方法、テレフタル酸のエステル形成性誘導体をトリメチレングリコールとエステル交換反応させた後、溶融重合法にて重合させる方法のいずれを採用しても良い。いずれの方法を採用する場合でもトリメチレングリコールは、テレフタル酸あるいはそのエステル形成性誘導体の等モル以上のモル比で添加し、過剰のトリメチレングリコールを重合反応工程において減圧下で留去する方法が一般的に採用される。ここで、エステル形成性誘導体としては、炭素数1〜6個の低級ジアルキルエステル、炭素数6〜8個の低級ジアリールエステル、ジ酸ハライドを表す。より具体的にはジメチルエステル、ジエチルエステル、ジ−n−プロピルエステル、ジ−iso−プロピルエステル、ジ−n−ブチルエステル、ジ−sec−ブチルエステル、ジ−tert−ブチルエステル、ジペンチルエステル、ジヘキシルエステル、ジフェニルエステル、ジベンジルエステル、ジナフチルエステル、芳香族ジカルボン酸ジクロライド、芳香族ジカルボン酸ジブロマイド、芳香族ジカルボン酸ジアイオダイド等を挙げることができる。その炭素数1〜6個のジアルキルエステルや炭素数6〜10個のジアリールエステルはさらにその水素原子の1個または2個以上がハロゲン原子、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、アルキルエステル基、アリールエステル基、アセチル基等のアルキルカルボニル基、ベンゾイル基等のアリールカルボニル基で置換されているものであっても良い。
【0031】
本発明のポリトリメチレンテレフタレート製造工程において用いるポリエステルの重合触媒は触媒起因の異物低減の点で、ポリマー中に可溶な有機系チタン化合物を使用することが好ましい。該チタン化合物としては、ポリエステルの重縮合触媒として用いられるチタン化合物、例えば、酢酸チタン、テトラアルコキシチタンが挙げられるが、反応性や取扱い性などの点からテトラアルコキシチタンであることが好ましく、よし好ましくはテトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラノルマルプロポキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトライソブトキシチタン、テトラ−sec−ブトキシチタン、テトラ−tert−ブトキシチタン、テトラペンチルオキシチタン、テトラヘキシルオキシチタン、テトラヘプチルオキシチタン、テトラフェノキシチタンを挙げることができる。これらの中でも特にテトラ−n−ブトキシチタン、テトライソプロポキシチタンが好ましく選択される。該チタン化合物の含有量としては、重縮合反応性、得られるポリエステルの色相、耐熱性の観点から、ポリトリメチレンテレフタレートを構成する全ジカルボン酸成分に対し、チタン金属元素として2〜150ミリモル%程度含有されていることが好ましい。
【0032】
ここで、例えばテレフタル酸ジメチルなどテレフタル酸のエステル形成性誘導体をトリメチレングリコールとエステル交換反応させた後、重合させる方法を採用する場合、エステル交換反応触媒として、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、マンガン化合物、亜鉛化合物等、通常ポリエステルのエステル交換反応触媒として用いられる触媒を併用してもよいが、通常は上述のチタン化合物をエステル交換反応触媒および重合触媒の両方の役割で用いる方法が好ましく採用される。また、テレフタル酸をトリメチレングリコールと直接エステル化させた後、重合させる方法を採用する場合の触媒は上述のチタン化合物のみで十分であるが、一般的には、無触媒の条件下でテレフタル酸とトリメチレングリコールの直接エステル化反応を行い、得られた反応混合物に該チタン化合物を重合触媒として添加する方法が好ましく採用される。
【0033】
本発明のポリトリメチレンテレフタレート組成物は、リン元素量として3〜100重量ppm含有していることが好ましい。リン元素量として3〜100重量ppmのリン化合物を含有していることがより好ましい。リン化合物としては特に限定はないが、有機リン化合物であることが好ましく、ホスフェート化合物、ホスホン酸化合物、ホスフィン酸化合物がより好ましい。ホスホン酸化合物としては、より具体的にはアルキルホスホン酸、アリールホスホン酸、またはベンジルホスホン酸を挙げることができる。アルキルホスホン酸としては、具体的にはメチルホスホン酸、エチルホスホン酸、n−プロピルホスホン酸、tert−ブチルホスホン酸、n−ペンチルホスホン酸、iso−ペンチルホスホン酸、n−ヘキシルホスホン酸、iso−ヘキシルホスホン酸、ヘプチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、ノニルホスホン酸、デシルホスホン酸、ウンデシルホスホン酸、ドデシルホスホン酸を挙げることができる。アリールホスホン酸としては、具体的には、フェニルホスホン酸、メチルフェニルホスホン酸、ジメチルフェニルホスホン酸、トリメチルフェニルホスホン酸、テトラメチルフェニルホスホン酸、ペンタメチルフェニルホスホン酸、エチルフェニルホスホン酸、メチルエチルフェニルホスホン酸、ジエチルフェニルホスホン酸、モノメチルジエチルフェニルホスホン酸、ジメチルジエチルフェニルホスホン酸、トリエチルフェニルホスホン酸、プロピルフェニルホスホン酸、メチルプロピルフェニルホスホン酸、ジメチルプロピルフェニルホスホン酸、エチルプロピルフェニルホスホン酸、ジプロピルフェニルホスホン酸、ブチルフェニルホスホン酸、メチルブチルフェニルホスホン酸、エチルブチルフェニルホスホン酸、ジメチルブチルフェニルホスホン酸、ペンチルフェニルホスホン酸、メチルペンチルフェニルホスホン酸、ヘキシルフェニルホスホン酸、ナフチルホスホン酸、メチルナフチルホスホン酸、ジメチルナフチルホスホン酸、エチルナフチルホスホン酸、さらにベンジルホスホン酸を挙げることができる。また、ホスフィン酸化合物としては、モノメチルホスフィン酸、モノエチルホスフィン酸、モノプロピルホスフィン酸、モノブチルホスフィン酸、モノヘキシルホスフィン酸、モノフェニルホスフィン酸、モノ−4−メチルフェニルホスフィン酸、モノ−1−ナフチルホスフィン酸、モノ−2−ナフチルホスフィン酸、ジメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジプロピルホスフィン酸、ジブチルホスフィン酸、ジヘキシルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ジ−4−メチルフェニルホスフィン酸、ジ−1−ナフチルホスフィン酸、ジ−2−ナフチルホスフィン酸を挙げることができる。中でもトリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリプロピルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリス(2−ヒドロキシエチル)ホスフェート、トリス(3−ヒドロキシプロピル)ホスフェート、トリス(2−ヒドロキシプロピル)ホスフェート、トリス(ヒドロキシブチル)ホスフェート、トリフェニルホスフェートなどのホスフェート類であることがさらに好ましい。
【0034】
本発明のポリトリメチレンテレフタレート組成物中のリン化合物の量はリン元素量として5〜70重量ppmの範囲がより好ましく、7〜50重量ppmの範囲がさらに好ましく、8〜30重量ppmの範囲がさらにより好ましい。リン元素量は後述のようにポリトリメチレンテレフタレート組成物を溶融し、射出溶融成形して得られる成形品を蛍光X線装置を用いて測定することができる。ここで、該リン化合物を本発明のポリトリメチレンテレフタレート組成物に添加する時期は、上記のエステル化反応またはエステル交換反応の開始前の当初から重合反応の終了時点までのいずれかの段階で添加することができるが、上記のエステル化反応またはエステル交換反応の開始前の当初から、重合反応の開始までの間が好ましく、テレフタル酸のエステル形成性誘導体とトリメチレングリコールとのエステル交換反応が終了した後、あるいはテレフタル酸とトリメチレングリコールの直接エステル化反応が終了した後から重合反応の開始までに添加することがより好ましい。
【0035】
そして本発明のポリエステル繊維は、上記のような本発明のポリトリメチレンテレフタレート組成物から構成された繊維である。さらに本発明のポリエステル複合繊維は、上記のような本発明のポリトリメチレンテレフタレート組成物が少なくとも1成分を構成している複合繊維である。
【0036】
これらの本発明の繊維は、その原料となるポリトリメチレンテレフタレート組成物を溶融し紡糸する製造工程において、成形時のフィルター詰まりや紡糸時の糸切れなどの発生が大幅に減少するため、最終的に得られる本発明のポリエステル繊維やポリエステル複合繊維の品質が、大幅に改善されたものとなった。特に本発明の繊維としては、単糸繊度が2.0dtex以下、さらには1.3dtex以下、特には0.6〜1.2dtexの範囲の繊維である場合において特に効果的である。本発明のポリエステル繊維やポリエステル複合繊維は、その引張強度や引張伸度の値を落とすことなく、毛羽の発生も大きく抑制される。
【0037】
もう一つの本発明は、このような繊維の製造に用いられるポリトリメチレンテレフタレート組成物の製造方法である。そしてこの本発明の製造方法は、二酸化チタンを湿式粉砕処理して、粒径1.0μmを超える二酸化チタン粒子の重量含有率が5.0重量%以下である二酸化チタンスラリーとし、次いで主たる繰り返し単位がトリメチレンテレフタレート単位であるポリトリメチレンテレフタレー
トに該二酸化チタンスラリーを添加して
組成物とし、該組成物中の二酸化チタンの濃度を0.05〜3.0重量%として、ポリトリメチレンテレフタレー
トの重合後の固有粘度を0.50〜1.60dL/gの範囲とすることを特徴とする。
【0038】
ここで本発明の製造方法に用いる二酸化チタンスラリーを添加する前のポリトリメチレンテレフタレー
トの製造方法としては特に限定はなく、先に詳細を記したようにテレフタル酸をトリメチレングリコールと直接エステル化させた後、溶融重合法にて重合させる方法、テレフタル酸のエステル形成性誘導体をトリメチレングリコールとエステル交換反応させた後、溶融重合法にて重合させる方法のいずれを採用しても良い。
【0039】
そして本発明の製造方法では、二酸化チタンを湿式粉砕処理して、粒径1.0μmを超える二酸化チタン粒子の重量含有率が5.0重量%以下である二酸化チタンスラリーとすることが必要である。さらには湿式粉砕処理を複数回実施することが好ましく、特には2〜3回実施することが好ましい。また当該湿式粉砕処理が同じ経路を複数回通過する循環式処理であることが好ましい。断続的なバッチ処理と比較して複雑な経路で処理されるためである。またここで粒径1.0μmを超える粒子とは、具体的には例えば粒径1.0μmを超え粒径20.0μm以下の粒子であり、より好ましくは1.0μmを超え粒径15.0μmの粒子を表すものである。本発明で用いられる二酸化チタンの種類としてはアナターゼ型、ルチル型のいずれでもよいが、アナターゼ型であることが好ましい。
【0040】
また湿式粉砕処理としてはビーズミルなどの粉砕装置を用いることが好ましく、さらには複数回の湿式粉砕処理を行うことが好ましい。さらに粉砕メディアであるビーズとしては、ガラスビーズが好ましい。またそのビーズの直径は大きすぎると湿式粉砕が不十分となり、小さすぎると湿式粉砕を複数回実施した場合でも、効果を得にくい傾向にある。使用するビーズの直径は0.6〜1.4mmの範囲が好ましく、0.7〜1.2mmの範囲がさらに好ましい。さらに二酸化チタンの粉体を湿式粉砕処理するためには、トリメチレングリコールに分散させてスラリーとすることが好ましい。
【0041】
より具体的には、あらかじめ二酸化チタンの粉体をトリメチレングリコールに分散させたスラリーを、ビーズミルなどの粉砕装置で湿式粉砕させる方法であることが好ましい。この時、該スラリー中における二酸化チタンの重量比率としては、10〜70重量%の範囲内であることが好ましい。さらには15〜60重量%、特には20〜50重量%の範囲であることが好ましい。濃度が高すぎると十分に粉砕することが困難となり、濃度が低すぎると非効率である。
【0042】
またこのような二酸化チタンスラリーとなる前の、湿式粉砕処理前の二酸化チタンの平均粒径としては、0.1〜0.8μmの範囲にあることが好ましい。そして、湿式粉砕処理に用いるビーズの直径と被処理物の酸化チタンの直径の比としては、2000〜4000倍の範囲、特には2500〜3500倍の範囲であることが好ましい。
【0043】
そして湿式粉砕処理の条件としては、処理温度が55〜65℃の範囲であることが好ましい。また処理時の回転数としては2500〜3500ppmの範囲であることが好ましい。
【0044】
そして本発明のポリトリメチレンテレフタレート組成物の製造方法にて用いる二酸化チタンとしては、粒度分布測定における粒径が1.0μmを超える粒子の含有量が5.0重量%以下であるものであるが、さらに好ましくは粒径が1.0μmを超える粒子の含有量が0.001〜5.0重量%の範囲であり、より好ましくは0.01〜4.9重量%、特に好ましくは0.02〜3.0重量%、そしてさらには0.03〜2.0重量%の範囲であることが最も好ましい。粒径が1.0μmを超える粒子の含有量を上記範囲内にすることにより、繊維製造時の紡糸口金における濾過昇圧が発生しにくく、連続して長時間安定して溶融紡糸法によるポリエステル繊維を製造することができ、また得られるポリエステル繊維の毛羽の発生を抑制することができる。二酸化チタンの粒度分布の測定評価はレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて得た値である。
【0045】
このような粒径1.0μmを超える粒子の重量分布を所定量に調製した二酸化チタンスラリーは、次いで主たる繰り返し単位がトリメチレンテレフタレート単位であるポリトリメチレンテレフタレー
トに該二酸化チタンスラリーを添加して組成物中の二酸化チタンの濃度を0.05〜3.0重量%となるように混合される。さらには、この二酸化チタンの含有量は目的とする繊維の用途に応じて調整される。一般的な紳士衣料や婦人衣料の表地、裏地などの衣料用途として用いる場合には0.1〜1.0重量%の範囲にあることが好ましい。
【0046】
またここで、該二酸化チタンをポリトリメチレンテレフタレートに添加する時期は、特に限定されないが、テレフタル酸のエステル形成性誘導体とトリメチレングリコールとのエステル交換反応が終了した後、あるいはテレフタル酸とトリメチレングリコールの直接エステル化反応が終了した後に添加することが好ましい。また、十分な固有粘度の値を示すようになったポリトリメチレンテレフタレートと、上記二酸化チタンを単軸または二軸のエクストルーダー等の設備を用いて混練してもよい。
【0047】
そして本発明のポリトリメチレンテレフタレート組成物の製造方法は、このような二酸化チタンスラリーを添加されたポリトリメチレンテレフタレー
トの重合後の固有粘度を0.50〜1.60dL/gの範囲とする方法である。固有粘度が上記の範囲内にすることにより、最終的にポリエステル組成物を用いて得られるポリエステル繊維の機械的強度が充分高く、また取り扱い性もさらに良好となる。該固有粘度は0.60〜1.50dL/gの範囲にあることがさらに好ましく、特に0.70〜1.40dL/gの範囲にあることが好ましい。固有粘度は後述のようにからポリトリメチレンテレフタレート組成物を適切な溶媒に溶解し、ウベローデ粘度計を用いて測定することができる。また、該ポリトリメチレンテレフタレート組成物は固有粘度を適切な範囲とするために、溶融重縮合時の反応温度、反応時間、減圧度を調整したり、ポリトリメチレンテレフタレート組成物の融点以下、詳しくは195〜215℃の範囲の窒素気流下または真空下での固相重合も好ましく実施される。
【0048】
また、本発明のポリトリメチレンテレフタレート組成物の製造方法では、重合触媒が上述した有機系チタン化合物であることが好ましい。ポリマー中に可溶な有機系チタン化合物であることが好ましく、特に触媒起因の異物低減の点で有効である。チタン化合物としては、中でもテトラ−n−ブトキシチタン、テトライソプロポキシチタンが好ましく選択される。チタン化合物の含有量としては、重縮合反応性、得られるポリエステルの色相、耐熱性の観点から、ポリトリメチレンテレフタレートを構成する全ジカルボン酸成分に対し、チタン金属元素として2〜150ミリモル%程度含有されていることが好ましい。
【0049】
さらには本発明のポリトリメチレンテレフタレート組成物の製造方法は、示差走査熱量計を用いて、融点以上に加熱したポリトリメチレンテレフタレート組成物を10℃/分の速度で降温した際に示される結晶化発熱ピークトップ温度が165℃以上であることや、示差走査熱量計を用いて、融点以上に加熱したポリトリメチレンテレフタレート組成物を10℃/分の速度で降温した際に示される結晶化発熱ピークの半値幅が20℃以下であることが好ましい。
【0050】
ちなみにここで本発明者らは、ポリトリメチレンテレフタレート組成物を製造する段階での二酸化チタンの分散方法、ポリトリメチレンテレフタレート組成物を用いてポリエステル繊維を製造する際の製造工程における安定性、およびポリトリメチレンテレフタレート組成物の示差走査熱量計を用いた、融点以上に加熱したポリトリメチレンテレフタレート組成物を10℃/分の速度で降温した際に示される結晶化発熱ピークトップ温度と該結晶化発熱ピークの半値幅について検討を重ねた結果、これらが大きく相関していることを見出した。即ち、該ポリトリメチレンテレフタレート組成物が、粒度分布測定における、粒径1.0μmを超える粒子の重量分布が5.0重量%以下である二酸化チタンを0.05〜3.0重量%含有していることにより、該二酸化チタンがポリトリメチレンテレフタレート組成物中で、二酸化チタン粒子が過度に凝集することなくミクロな状態で分散されており、その結果、ポリトリメチレンテレフタレート組成物の溶融状態から10℃/分の速度で降温した際の結晶化の程度と結晶化速度が促進され、結晶化発熱ピークトップ温度が165℃以上に上昇し、該結晶化発熱ピークの半値幅が20℃以下に狭まることである。さらにその結果として、二酸化チタンがポリトリメチレンテレフタレート内で過度に凝集することなくミクロな状態で分散されていることにより、ポリトリメチレンテレフタレート組成物を溶融紡糸によって繊維を製造する工程において、成形時のフィルター詰まりや紡糸時の糸切れなどの発生が大幅に減少し、特に単糸繊度が2.0dtex以下の細い繊維を連続的に製造する工程を安定化し、さらに得られる繊維の引張強度、引張伸度を落とすことなく、毛羽の発生も大きく抑制して、最終的に得られる繊維の品質が改善されるものである。
【0051】
すなわち本発明のポリトリメチレンテレフタレート組成物の製造方法では、示差走査熱量計を用いて、融点以上に加熱したポリトリメチレンテレフタレート組成物を降温した際に示される結晶化発熱ピークトップ温度を165℃以上、結晶化発熱ピークの半値幅を20℃以下で管理することが好ましい。
【0052】
ポリトリメチレンテレフタレート組成物の製造工程における品質管理は、従来から、固有粘度や色相、融点、カルボキシル基末端量などを分析して管理されていた。しかしこれらの管理項目のみでは、上述した溶融紡糸による繊維成形時のフィルター詰まりや紡糸時の糸切れ、得られる繊維の毛羽の発生量、ダイ法による溶融押出成型法によるフィルム成形時のフィルター詰まりなどを予測するには不十分であった。例えば特許文献1にはポリトリメチレンテレフタレート組成物をカバーグラス内で溶融させたポリマー中に分散した二酸化チタン粒子を顕微鏡観察して、その最長部長さが5μmを超える凝集体の数を数える方法が開示されている。しかし、この方法は、作業が煩雑であり、測定する作業者によって得られる結果に差が発生する他、最長部長さが5μm以下の二酸化チタン粒子の分散状態は全く考慮されていない。
【0053】
一方、本発明の好ましい製造方法によれば、示差走査熱量計を用いて、ポリトリメチレンテレフタレート組成物を融点以上に加熱し、その後降温した際に示される結晶化発熱ピークトップ温度と結晶化発熱ピークの半値幅を測定し、管理することによって上述したフィルター詰まり等が発生しにくいポリトリメチレンテレフタレート組成物か否か等、ポリトリメチレンテレフタレート組成物の製造工程における品質管理を容易に行うことが可能となる。本発明のポリトリメチレンテレフタレート組成物の製造方法において、ポリトリメチレンテレフタレート組成物を融点以上に加熱する際の到達温度が低すぎると、十分に溶融していないポリマーが残って結晶化を促進される要因となり、適切に測定が行うことが出来ず、高すぎるとポリトリメチレンテレフタレート組成物の熱分解が促進される傾向にある。さらにはポリトリメチレンテレフタレート組成物を融点以上に加熱する際の到達温度は250℃〜300℃の範囲が好ましく、260℃〜290℃の範囲がさらに好ましい。また、ポリトリメチレンテレフタレート組成物を融点以上に加熱し、その後降温する際の降温速度は、速すぎると溶融したポリトリメチレンテレフタレート組成物が結晶化されずに非晶状態で固化し、遅すぎると測定に時間がかかりすぎる傾向にある。ポリトリメチレンテレフタレート組成物を融点以上に加熱し、その後降温する際の降温速度は3〜30℃/分の範囲が好ましく、5〜20℃/分の範囲がさらに好ましい。この時、該ポリトリメチレンテレフタレート組成物を融点以上に加熱させる時の昇温速度は特に限定はないが、一般的には10〜50℃/分の範囲である。
【0054】
すなわち本発明のポリトリメチレンテレフタレート組成物の製造方法としては、先に述べた下記の(a)〜(d)の各要件を同時に満足することが特に好ましい。
(a)固有粘度が0.50〜1.60dL/gの範囲にあること。
(b)レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置による粒度分布測定における、粒径1.0μmを超える粒子の重量分布が5.0重量%以下である二酸化チタンを0.05〜3.0重量%含有すること。
(c)示差走査熱量計を用いて、融点以上に加熱したポリトリメチレンテレフタレート組成物を10℃/分の速度で降温した際に表れる結晶化発熱ピークトップ温度が165℃以上であること。
(d)示差走査熱量計を用いて、融点以上に加熱したポリトリメチレンテレフタレート組成物を10℃/分の速度で降温した際に表れる結晶化発熱ピークの半値幅が20℃以下であること。
【0055】
そして本発明のポリトリメチレンテレフタレート組成物からポリエステル繊維を製造する時の製造方法としては特に限定はなく、従来公知のポリエステルを溶融紡糸する方法を用いることができるが、例えばポリエステルを240℃〜280℃の範囲で溶融紡糸して製造することが好ましく、溶融紡糸の速度は400〜5000m/分で紡糸することが好ましい。紡糸速度がこの範囲にあると、得られる繊維の強度も十分なものであると共に、安定して巻き取りを行うこともできる。また、ポリエステル繊維の延伸加工はポリエステル繊維を巻き取ってから、あるいは一旦巻き取ることなく連続的に延伸処理することによって、延伸糸を得ることができる。特にポリエステル長繊維を製造する場合には、途中で一旦巻き取ることなく、巻取速度を1000〜4000m/分として、連続的に延伸処理する方法が好ましく採用される。さらに、1000〜4000m/分の巻取速度で一旦巻き取った部分配向糸(POY)に、0.9〜2.5倍の延伸を加えながら仮撚り加工を加えて巻き取り、仮撚加工糸(DTY)を製造する方法も本発明のポリエステル繊維において有用な方法である。また、本発明のポリエステル繊維を短繊維とする場合は、延伸糸を一旦巻き取ることなくトウの状態で牽切機により切断して短繊維としても良く、この短繊維を紡績工程に投入して紡績糸としてもよい。さらに本発明のポリエステル繊維には風合いを高める為に、アルカリ減量処理も好ましく実施される。
【0056】
本発明のポリエステル繊維を製造する際において、紡糸時に使用する口金の形状について制限は無く、円形、楕円形、三角形以上の多角形もしくは多葉用形等の異形断面、中実断面、または中空断面等のいずれも採用することができる。また、本発明のポリトリメチレンテレフタレート組成物が複合繊維の一成分として配してなり、他の成分としてポリエチレンテレフタレートなど本発明のポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステル、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチルなどのポリオレフィン、その他のポリマーを併用して、芯鞘型、海島型やサイドバイサイド型などの複合繊維とすることもできる。複合繊維においては、上記の各種ポリマーを用いて3成分以上を配置される複合繊維であってもよい。 さらに、本発明のポリトリメチレンテレフタレート組成物および繊維は、必要に応じて少量の添加剤、例えば滑剤、顔料、染料、酸化防止剤、固相重縮合促進剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、遮光剤等を含んでいてもよい。
【0057】
本発明のポリトリメチレンテレフタレート組成物は、特に、繊維の繊度の小さい、即ち細い繊維を紡糸する場合に、毛羽率、断糸率を小さくすることが出来、好適に使用される。また、本発明のポリトリメチレンテレフタレート組成物を用いて異型断面繊維や複合繊維を製造した場合や、あるいは仮撚加工等の後加工を行った場合の毛羽率や断糸率をも、有効に下げることが可能となった。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例中の各値は下記記載の方法により測定した。
【0059】
(1)固有粘度
ポリエステルポリマーの固有粘度は、ウベローデ粘度計を用い、オルトクロロフェノール溶液中、35℃において測定した粘度の値から求めた。
【0060】
(2)結晶化発熱ピーク温度、半値幅
ポリトリメチレンテレフタレート組成物の結晶化発熱ピーク温度、半値幅は、TA Instruments社製示差走査熱量計 DSC Q20を用いて、サンプル10mgを窒素雰囲気下20℃/分の速度で30℃から280℃まで昇温し、280℃到達後2分間保持し、その後10℃/分の速度で50℃まで降温した。降温の過程で表示される降温結晶化温度のピークトップ温度とピーク半値幅を求めた。また昇温時の吸熱ピークトップ温度を測定することにより、ポリトリメチレンテレフタレート組成物の融点を測定することができ、評価している組成物がポリトリメチレンテレフタレート組成物であることを示す指標となりうる。
【0061】
(3)ポリトリメチレンテレフタレート組成物中の二酸化チタン量、リン元素量の測定
サンプルを加熱溶融して、円形ディスクを作成し、(株)リガク製蛍光X線装置 ZSX100E型を用いて含有しているチタン元素量とリン元素量を定量した。二酸化チタン量は定量されたチタン元素量から換算して求めた。
【0062】
(4)ポリトリメチレンテレフタレート組成物中の二酸化チタン粗大粒子の数
ポリマー50mgを2枚のカバーグラス間にはさんで280℃で溶融プレスし、急冷したのち、位相差顕微鏡を用いて観察し、日本レギュレーター(株)製画像解析装置 ルーゼックス500で顕微鏡像内の最大長が5.0μm以上の粒子数をカウントした。
【0063】
(5)二酸化チタンの粒度分布
調製された二酸化チタン/トリメチレングリコールスラリーを(株)堀場製作所製レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置 LA−950を用いて、粒度分布を測定した。測定されたデータから粒径1.0μmを超える粒子の重量比率を求めた。
【0064】
(6)ポリエステル繊維の力学特性(引張強度、引張伸度)
JIS L−1070記載の方法に準拠して測定を行った。
【0065】
(7)ポリエステル繊維の単糸繊度
ポリエステル繊維100mを検尺機で巻取り、その重量から繊度(dtex)を求め、マルチフィラメントの単糸数で除した値を単糸繊度とした。
【0066】
(8)ポリエステル繊維の断糸率
マルチフィラメントパッケージを100本分巻き取り、断糸の発生により3kgパッケージの完巻が出来なかった割合を断糸率として評価した。
【0067】
(9)ポリエステル繊維の毛羽率
マルチフィラメントパッケージを100本分巻き取り、巻き取られた繊維の表面に毛羽があるものを数えて、その割合を毛羽率とした。
【0068】
(10)ポリエステル繊維製造工程での濾過圧上昇率
ポリトリメチレンテレフタレート組成物中の粗大粒子が含まれている影響を評価するために下記の操作にて、濾過圧上昇率を評価した。小型1軸スクリュータイプ押出機の溶融ポリエステルの出側にポリエステルの定量供給装置を取り付けた紡糸口金中に金網フィルターを装着した。次いで、溶融ポリエステルの温度、溶融ポリエステルの流量が一定となるようにコントロールし、3日間にわたって連続的に溶融紡糸を行った。この時の紡糸口金に備えた圧力計の圧力を記録し、溶融紡糸開始初期の圧力値に対する3日後の圧力値の上昇率を求めた。
【0069】
(11)一次化学構造(ポリエステルの繰り返し単位構造)
得られたポリエステル組成物中のポリエステル部分の繰り返し単位の化学構造は、ポリエステル組成物のサンプルを適切な溶媒に溶解させ、日本電子製JEOLA−600を用いて600MHzの1H−NMRスペクトルを測定し算出した。
【0070】
(12)繊維軸に直交する方向の繊維浴断面形状の観察
得られた繊維サンプルを繊維軸に直交する方向で切断し、その切断面を光学顕微鏡で観察し、複合繊維の横断面の形状を観察した。その断面形状から異形度の評価を行った。
【0071】
[参考例1]
ヘリカル式撹拌翼を有する混合器において、Sachtleben Chemie社製二酸化チタン HOMBITAN LW−S(アナターゼ型、平均粒径0.3μm)を50重量%の濃度となるようにトリメチレングリコールと1時間混合させて二酸化チタンスラリーを調製し、粉砕メディアとして平均粒径0.8mmのガラスビーズを重点させたNETZSCH−Feinmahltechnik社製Agitator Bead Mill LME30に導入して該スラリーの湿式粉砕を2回、装置内でスラリーを循環させて実施し、トリメチレングリコールを添加して二酸化チタンが20重量%の濃度となるように希釈した。この粉砕処理時の処理条件は、処理温度58〜62度、回転数3000〜3100ppm、流量31〜32kg/hであった。その後、スラリー中の二酸化チタンの粒度分布を測定した。得られた結果を表1に示した。
【0072】
[参考例2]
スラリーの湿式粉砕を3回、装置内でスラリーを循環させて実施したこと以外は参考例1と同様に行った。得られた結果を表1に併せて示した。
【0073】
[参考例3]
二酸化チタンとして、チタン工業(株)製KRONOS KA−30(アナターゼ型、平均粒径0.2〜0.4μm)を使用したこと以外は参考例1と同様に行った。得られた結果を表1に併せて示した。
【0074】
[参考例4]
スラリーの湿式粉砕を1回実施したこと以外は参考例1と同様に行った。得られた結果を表1に併せて示した。
【0075】
[参考例5]
粉砕メディアとして平均粒径0.5mmのガラスビーズを使用したこと以外は参考例1と同様に行った。得られた結果を表1に併せて示した。
【0076】
[参考例6]
粉砕メディアとして平均粒径1.5mmのガラスビーズを使用したこと以外は参考例1と同様に行った。得られた結果を表1に併せて示した。
【0077】
[実施例1]
テレフタル酸に対するモル比が2.3となるようにトリメチレングリコールを分散させ、水およびトリメチレングリコール蒸気を留出できる連続式エステル化反応装置に連続的に供給し、徐々に反応させながら、250℃まで昇温して予備重合を行った。その後、得られた反応物に対して、最終的に得られるポリトリメチレンテレフタレー
トに対して、テトラ−n−ブトキシチタンを0.08重量%、リン酸トリメチルを0.01重量%、参考例1で調製した二酸化チタンスラリーを二酸化チタン量として0.3重量%となるように連続的に添加しながら、連続式重合反応装置に供給した。反応混合物は徐々に昇温しながら減圧して過剰のトリメチレングリコールを除去し、最終的に温度を265℃、圧力を70Pa以下として、固有粘度が0.96dL/gとなる時点で反応装置から押し出し、ストランドカッターによってペレット化した。ペレット化されたポリトリメチレンテレフタレート組成物の固有粘度、結晶化発熱ピーク温度と半値幅、二酸化チタン量とリン元素量、二酸化チタン粗大粒子の数をそれぞれ測定した。得られた結果を表2に示す。
【0078】
得られたペレットは110℃で8時間、予備結晶化および乾燥を行い、400メッシュの金網フィルター、パックサンド、口径0.27mmの円形紡糸口を72個備えた紡糸口金を取り付けたスピンパックを有する押出紡糸機を用いて265℃で溶融し、28g/分の流量で紡出した。そして、紡出した溶融ポリマーを、横吹式の冷却装置筒から糸条を横切るように吹き出される冷却空気によって冷却して固化し、ガイド式給油装置で油剤を給油しつつフィラメント群をガイド式給油装置のガイドによって集束した。その後、エアーノズルでマルチフィラメント同士を互いに交絡させる交絡処理を施し、1900m/分で回転している55℃に加熱された第1回転ローラーで巻回し、次いで3150m/分で回転している130℃に加熱された第2回転ローラーに巻回した後、3000m/分の巻取速度のワインダーによって3kgのポリエステル繊維のマルチフィラメントパッケージを巻き取った。3kgパッケージの巻き取り終了前に断糸が発生した場合は、その時点で巻き取りを終了し、新たなパッケージの巻き取りを行った。巻き取られた繊維の繊度、力学特性、毛羽数を測定した。結果を表3に示す。
【0079】
[実施例2、3、比較例1〜3]
実施例1において、使用した二酸化チタンスラリーを参考例1のものから参考例2〜6で調製したものに変更し、順に実施例2、3、比較例1、2、3とした以外は、実施例1と同様に行った。結果を表2及び表3に併せて示した。
【0080】
[実施例4]
実施例1で得られたポリトリメチレンテレフタレート組成物のペレットおよび固有粘度0.52dL/gのポリエチレンテレフタレートのペレットを、エクストルーダーを用いてポリトリメチレンテレフタレートは265℃、ポリエチレンテレフタレートは285℃でそれぞれ溶融したのち、両ポリマーの温度を270℃として、複合比が50:50となるように、すなわちそれぞれのポリマーの吐出量を10.6g/分とし、
図2に示すような繊維横断面形状の異形度が1.4となる形状で吐出口径0.29mm、吐出口数72個の公知の複合紡糸口金を通して紡出した。
【0081】
紡出した後、口金表面直下で融着した溶融ポリマーを、横吹式の冷却装置筒から糸条を横切るように吹き出される冷却空気によって冷却して固化し、ガイド式給油装置で油剤を給油しつつフィラメント群をガイド式給油装置のガイドによって集束した。その後、エアーノズルでマルチフィラメント同士を互いに交絡させる交絡処理を施し、1450m/分で回転している58℃に加熱された第1回転ローラーで巻回し、次いで4250m/分で回転している180℃に加熱された第2回転ローラーに巻回した後、再度エアーノズルで交絡させる交絡処理を施し、4050m/分の巻取速度のワインダーによって3kgの複合繊維のマルチフィラメントパッケージを巻き取った。実施例1と同様に、3kgパッケージの巻き取り終了前に断糸が発生した場合は、その時点で巻き取りを終了し、新たなパッケージの巻き取りを行った。巻き取られた複合繊維の繊度、力学特性、毛羽数を測定した。結果を表4に示す。ここで異形度とは繊維軸に直交する方向の繊維横断面形状において、外接する長方形の長辺と短辺の長さの比率(長辺の長さ/短辺の長さ)を表す。
【0082】
[比較例4]
実施例4において、使用したポリトリメチレンテレフタレート組成物のペレットを比較例1で調製したものに変更した以外は実施例4と同様に行った。すなわち二酸化チタンスラリーとしては参考例4で調製したものを用いた。結果を表4に併せて示す。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
【表3】
【0086】
【表4】
【0087】
表3からも明らかなように、本発明のポリトリメチレンテレフタレート組成物を溶融紡糸する工程は紡糸収率が高くてパック圧上昇が小さい為、紡糸工程が安定化されており、得られた繊維も毛羽の発生がほとんどなく、高い品質のものであった。