【文献】
アンダーソンテクノロジー株式会社,ANDERSON POST−TENSIONING SYSTEM,日本,2008年 5月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述のように、透明の確認部を具える防錆キャップとすることで、防錆キャップ内のグラウトの充填状態を視認し易くできたとしても、グラウト自体が不透明な材料であるため、グラウトの充填後のPC鋼材やアンカーディスクなどは視認できないという問題がある。そのため、PC鋼材や定着具に錆びが生じたとしても定着構造体を解体するまで確認できなかった。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、防錆キャップ及び防錆体で覆われる緊張材やその定着具を防錆キャップの外側から視認できる緊張材の定着構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の緊張材の定着構造体は、複数の緊張材と、定着具と、支圧部材とを具え、支圧部材が定着されるコンクリート構造物に、当該支圧部材を介して各緊張材の緊張力を圧縮力として付与することで、当該コンクリート構造物を補強する部材である。定着具は、緊張された緊張材を個別に把持する複数のウェッジ、及びそれらウェッジを嵌め込む複数のウェッジ孔を有するアンカーディスクを具える。支圧部材は、緊張材が定着される定着具に圧接される部材である。本発明の緊張材の定着構造体は更に、防錆キャップ及び防錆体を具える。防錆キャップは、支圧部材におけるアンカーディスクが配置される側で、アンカーディスク、及びそのアンカーディスクから突出する緊張材を外周側から覆う。防錆体は、防錆キャップ内に充填され、アンカーディスクと、そのアンカーディスクから露出するウェッジ及び緊張材の端部を覆う。そして、防錆キャップ及び防錆体は、透明な樹脂で構成されている。
【0007】
本発明の緊張材の定着構造体は、防錆キャップ及び防錆体が透明な樹脂で構成されているため、防錆キャップの外側から緊張材及び定着具を視認できる。そのため、緊張材や定着具に錆などが生じたとしても、定着構造体を解体することなく確認できる。
【0008】
本発明の緊張材の定着構造体の一形態として、防錆体が後硬化型の脆性樹脂を含むことが挙げられる。
【0009】
この後硬化型の脆性樹脂は、硬化前には低粘度の液体状で、硬化後にはゼリー状の固体となる樹脂のことである。この脆性樹脂は、自立可能で自然崩壊しない程度の強度を有するが、人力で断片状に崩すことができる程度の強度を有するものである。脆性樹脂の脆性を物理量で表す場合、例えば、引張り強さを挙げることができる。例えば、脆性樹脂の引張り強さは、75kPa〜200kPaである。
【0010】
防錆を担う防錆体がこのような脆性樹脂からなるため、外ケーブルの定着構造体において長期にわたって防錆効果を発揮する。脆性樹脂は、脆くはあっても固体であるため、防錆対象となる部分に半永久的に存在し続けるからである。
【0011】
本発明の緊張材の定着構造体の一形態として、防錆キャップが、アクリル、ポリエチレンテレフタラート、ポリアミドのいずれかで構成されることが挙げられる。
【0012】
上記構成によれば、防錆キャップの外側から防錆キャップ内部を視認するのに十分な透明度を有する防錆キャップとすることができる。アクリルは耐候性に優れるため、長期に亘って防錆キャップ内を視認することができる。ポリアミドは耐圧性に優れるため、防錆体に十分な圧力を付与して防錆体を防錆キャップ内に充填できる。そのため、防錆キャップ内の気体を十分に防錆キャップの外部に排出でき、防錆体内に気泡が形成され難くできる。従って、その気泡が結露して緊張材や定着具が腐食することを防止できる。
【0013】
本発明の緊張材の定着構造体の一形態として、アンカーディスクと支圧部材との間に配置されて、アンカーディスクと支圧部材との間を封止する止水構造を具えることが挙げられる。この止水構造は、剛性材からなり、支圧部材側に配置される第一アンカープレート及びアンカーディスク側に配置される第二アンカープレートと、弾性材からなり、第一アンカープレートと第二アンカープレートとの間に介在されるシールプレートとを具える。
【0014】
上記構成によれば、アンカーディスクと支圧部材との間に上記止水構造を具えることで、アンカーディスク側から支圧部材側へ流体の流通を防止できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の緊張材の定着構造体によれば、防錆キャップ内の緊張材や定着具を視認できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態を、コンクリート構造物である橋梁に本発明の緊張材の定着構造体を適用する場合を例として、図面に基づいて説明する。なお、図中において同一部材には同一符号を付している。
【0018】
〔コンクリート構造物〕
図1に示す橋梁(コンクリート構造物)100は、建造時に埋設された緊張材である外ケーブル(代表的にはPC鋼材)1によって補強されるものとした。この外ケーブル1の定着に本発明の緊張材の定着構造体αを適用する。なお、
図1では、外ケーブル1は単数で示しているが、実際には複数存在する。
【0019】
外ケーブル1は、橋梁100(橋脚)に埋設される支圧部材5(
図2で後述)に懸け渡されるように配置され、両橋脚間で露出している。外ケーブル1の両端部はそれぞれ、支圧部材5に定着具2,2で定着されており、外ケーブル1の中間部は、橋梁100の偏向部110に設けられたデビエータ(図示せず)に挿通され保持されている。デビエータは、外ケーブル1を偏向させるもので、橋梁100に曲げ上げ力(中間部を上方に凸となるように曲げる力)を付与し、橋梁100の曲げ耐力を向上させることができる。
【0020】
〔緊張材の定着構造体〕
次に、
図2に基づいて、外ケーブル1を定着具2で定着することで形成される緊張材の定着構造体αを説明する。
図2では、
図1の紙面左側の定着構造体αを説明する。
図1の紙面右側の定着構造体αは、紙面左側の定着構造体αと線対称の構造を有するため、その説明は省略する。
【0021】
緊張材の定着構造体αは、緊張された複数のPC鋼材1と、これらPC鋼材1を緊張状態で定着する定着具2とを具える。定着具2は、各PC鋼材1を個別に把持するウェッジ3と、PC鋼材1を把持した状態にあるウェッジ3が嵌め込まれるウェッジ孔40Hを有するアンカーディスク4とを具える。この定着具2によって緊張状態にある各PC鋼材1をアンカーディスク4に定着し、支圧部材(リブキャストアンカー)5を介して各PC鋼材1の緊張力を橋梁100に圧縮力として付与することができる。緊張材の定着構造体αは、更に、防錆キャップ6と防錆体9とを具える。防錆キャップ6は、アンカーディスク4及びアンカーディスク4から突出するPC鋼材1を外周側から覆う部材である。防錆体9は、防錆キャップ6に充填され、アンカーディスク4の周囲、特に、アンカーディスク4と、そのアンカーディスク4から露出するウェッジ3及びPC鋼材1の端部を覆う。本実施形態における緊張材の定着構造体αの最も特徴とするところは、これら防錆キャップ6及び防錆体9が透明な樹脂で構成されている点にある。以下、まず、防錆キャップ6及び防錆体9を説明し、これら以外の定着構造体αの具体的な構成は、後に定着構造体αの形成手順を説明する際に合わせて説明する。なお、本実施形態における防錆体9は上述した部分以外の箇所にも形成されており、具体的な防錆体9の形成箇所もその定着構造体αの形成手順の説明を行なう際に述べる。
【0022】
防錆キャップ6は、半球ドーム状の先端覆い部60と、先端覆い部60に連続して形成される円筒状の周壁部61と、周壁部61の開口端部に形成されるフランジ部6Fとを具える(
図3を合わせて参照)。先端覆い部60は、アンカーディスク4から突出するPC鋼材1のPC鋼撚り線10を外周側から覆う部分である。周壁部61は、後述する第二アンカープレート72(
図2、
図5)に取り付けられたアンカーディスク4の外周と、アンカーディスク4から突出する撚り線10を覆う中空円筒状の部分である。フランジ部6Fは、防錆キャップ6を第二アンカープレート72に取り付けるための取り付け部として機能する部分である。フランジ部6Fには、周方向に間隔を空けて配置される複数のネジ止め孔6FHが設けられている。ネジ止め孔6FHの位置は、第二アンカープレート72のキャップ止め穴72LH(
図5)の位置に対応している。
【0023】
防錆キャップ6の周壁部61における先端覆い部60側とその反対側(第二アンカープレート72側)との間の略中間地点には、防錆体9の注入口6
INが設けられ、その対向する側で、注入口6
INよりもリブキャストアンカー5側に、防錆体9の第一排出口6
OUT1が設けられている。また、先端覆い部60における第一排出口6
OUT1側に第一排出口6
OUT1と直交するように第二排出口6
OUT2が設けられている。この第一排出口6
OUT1が水平よりも上(好ましくは鉛直上方)を向くように、防錆キャップ6を第二アンカープレート72に取り付けている。即ち、注入口6
INは水平よりも下を向き、第二排出口6
OUT2は水平方向に向く。
【0024】
この防錆キャップ6は、上述のように透明な樹脂で構成される。この透明とは、外部から防錆キャップ6内部の防錆体9が視認できる程度を言う。そうすれば、防錆キャップ6の外側から防錆キャップ6の内部が視認し易い。防錆キャップ6の具体的な構成材料は、アクリル、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリアミド(PA)などが挙げられる。アクリルは耐候性に優れるため、長期に亘って防錆キャップ6内を視認することができて好ましい。PAは耐圧性に優れるため、防錆体9に十分な圧力を付与して防錆キャップ6内に充填できる。そのため、キャップ6内の気体を十分にキャップ6の外部に排出でき、防錆体9内に空隙部が形成され難くできる。この防錆キャップ6は、例えば射出成形により製造できる。
【0025】
防錆体9は、上述のように透明な樹脂で構成される。この透明とは、防錆キャップ6の外側から防錆体9で覆われるPC鋼材1や定着具2が視認できる程度を言う。そうすれば、防錆キャップ6の外側からでもPC鋼材1や定着具2が視認し易い。防錆体9の具体的な構成材料は、エポキシ樹脂や次述する後硬化型の脆性樹脂などが挙げられる。
【0026】
上記後硬化型の脆性樹脂は、硬化前には低粘度の液体状で、硬化後にはゼリー状の固体となる樹脂である。脆性樹脂の定義をより具体的に述べると、自立可能で自然崩壊しない程度の強度を有するが、人力で断片状に崩せる程度の強度を有する樹脂で、例えば、引張り強さが75kPa〜200kPa程度の樹脂である。具体的な脆性樹脂としては、例えば、住友スリーエム株式会社の『解体可能型レジン 4441J』や『解体可能型レジン 8882』などを挙げることができる。この『解体可能型レジン 8882』は、下記溶液Aと溶液Bとを混合し、その混合液を時間の経過によって硬化させることで得られる。硬化前の『解体可能型レジン』(混合液)は、約600〜700kPa・s(25℃)の粘度を有する液状体で、硬化後の『解体可能型レジン』は、約75kPaの引っ張り強度を有する脆性樹脂である。
・溶液A;植物油、ポリブタジエンポリマー、エポキシ化脂肪酸グリセロイド
・溶液B;鉱油、ポリブタジエン、N,N,N−トリ−アルキルアミン
【0027】
〔緊張材の定着構造体の効果〕
上記構成を具える緊張材の定着構造体αによれば、防錆キャップ6及び防錆体9が透明な樹脂で構成されているため、防錆キャップ6内に防錆体9が充填された状態でも、PC鋼材1及び定着具2を視認できる。そのため、PC鋼材1や定着具2に腐食が生じた場合でも確認することができる。
【0028】
防錆体9として上述の脆性樹脂を用いれば、PC鋼材1及び定着具2が視認できる上に、緊張材の定着構造体αにおいて長期にわたって防錆効果を発揮する。脆性樹脂は、脆くはあっても固体であるため、防錆対象となる部分に半永久的に存在し続けるからである。また、脆性樹脂を用いることで、PC鋼材1や定着具2が腐食して解体する必要が生じても、この脆性樹脂は簡単に人力で破壊できるので、解体作業が容易である。
【0029】
〔緊張材の定着構造体の形成手順〕
図2に示す定着構造体αは、例えば、次のような手順により形成できる。
[1]支圧部材5を橋梁100に埋設する。
[2]複数のPC鋼材1を、支圧部材5の内部に挿通させる。
[3]止水構造を形成する。
[4]各PC鋼材1を緊張し、定着する。
[5]PC鋼材1の先端部に防錆キャップ6を取り付ける。
[6]防錆体9を定着具2の内部に充填する。
【0030】
[1]支圧部材の配置
支圧部材5の内部に複数のPC鋼材1を挿通させるにあたり、支圧部材5と、PC鋼材1を橋脚内に挿通させるための部材として、
図2に示すように定着構造体αを組み立てた際、PC鋼材1の外周に配置される内トランペット体80、外トランペット体81、及びリセスチューブ82とを、橋梁100の建造時に橋梁100に埋設する。
【0031】
内トランペット体80は、内部にPC鋼材1を挿通させる筒状部材である。この内トランペット体80の一端側は、橋脚の幅方向(ここでは紙面左右方向)の一端面(紙面左側)に沿うように設けられ、内トランペット体80の他端側が、橋脚の幅方向の他端面(紙面右側)から露出するように設けられている。内トランペット体80の外周における上記他端面側にリセスチューブ82と、上記一端面側に外トランペット体81とが設けられている。リセスチューブ82は、橋脚の他端面から一部が露出するように配置され、外トランペット体81は、その一端側が橋脚の一端面に沿い、他端側がリセスチューブ82の外周に一部重なるように配置されている。この外トランペット体81とリセスチューブ82との境界は、テーピング84により封止している。外トランペット体81の外周には、さらに、定着具2(アンカーディスク4)による圧縮力を橋脚に付与する支圧部材(リブキャストアンカー)5と、その外周に、定着具2の圧縮力による橋脚の割裂を防止するためのスパイラル筋83とを具える。
【0032】
支圧部材5は、アンカーディスク4の圧力を分散させて橋梁100に伝達する部材であって、当該圧力による橋梁100の損傷を防止する部材である。支圧部材5の構成材料には、例えば、FCD450−10などの剛性の高い材料を利用することが挙げられる。ここでは、支圧部材5には、リブキャストアンカーを利用する。
【0033】
リブキャストアンカー5は、内部にPC鋼材1を挿通させると共に、一端側でアンカーディスク4の圧力を受け、この圧力を橋梁100に伝達する。ここでは、PC鋼材1の端部側の外径が大きい円錐台形状の筒状部材である。リブキャストアンカー5の一端側と他端側との間と、他端側とには、径方向外方に突出するリブが形成されている。このリブキャストアンカー5における上記一端側の端面は、コンクリート構造物から露出され、後述の第二アンカープレート72を固定するための複数のネジ止め穴50H(
図2)が同心円状に形成されている。
【0034】
[2]PC鋼材の配置
本実施形態で緊張材として使用するPC鋼材1は、単線、複数の素線を撚り合わせたPC鋼撚り線、それらの外周に形成されるエポキシなどの樹脂からなる被覆を具える被覆PC鋼線や被覆PC鋼撚り線などを利用できる。ここでは、PC鋼材1は、PC鋼撚り線10とその外周にエポキシからなる被覆(図示略)とを具える被覆PC鋼撚り線である。このPC鋼材1を内トランペット体80内に挿通させて、PC鋼材1の端部をリブキャストアンカー5の一端側から引き出す。
【0035】
[3]止水構造の形成
支圧部材5の内部にPC鋼材1を挿通させたら、PC鋼材1を定着部2により定着する前に、本例では後述する定着部2(アンカーディスク4)とリブキャストアンカー5との間で流体の流通を抑制するための止水構造を形成する。止水構造は、アンカーディスク4とリブキャストアンカー5との間で、リブキャストアンカー5側に第一アンカープレート71及びアンカーディスク4側に第二アンカープレート72と、両アンカープレート71,72の間に介在されるシールプレート73とを具える。
【0036】
第一アンカープレート71は、表裏に凹部71Cを有する円盤状の部材である(
図4を合わせて参照)。その表側(
図2及び
図4(B)の左側)の凹部71CFにはシールプレート73が配置される。また、凹部71Cの外周の周縁部71Lの表面にプレッシャーリング74が配置され、周縁部71Lの裏面(同図の右側)がリブキャストアンカー5に当接する。
【0037】
凹部71CにはPC鋼材1の数に対応したPC鋼材1の挿通孔71CHが形成されている。周縁部71Lの表面には、一対のガイド止め穴71LG及び一対のディスク止め穴71LSが同心円状で互いに直交する位置に設けられている(
図4(A))。ガイド止め穴71LGは、止水構造を形成する際に、止水構造を構成する上記各部材を位置決めし易くするためのガイドバー(図示せず)自体をネジ止めするための穴である。ディスク止め穴71LSは、アンカーディスク4を第一アンカープレート71にネジ止めするネジを止める孔である。また、周縁部71Lにおけるガイド止め孔71LG(ディスク止め穴71LS)よりも外側には、第一アンカープレート71自体をリブキャストアンカー5にネジ止めするためのネジを挿通させるネジ止め孔71LHが同心円状に形成されている。
【0038】
第一アンカープレート71の直径は、リブキャストアンカー5の太径側の外径と同様である。この表側の凹部71CFの直径は、シールプレート73が嵌め込まれる大きさで、裏側の凹部71CBの直径が、表側の凹部71CFの直径よりも若干大きい。
【0039】
この第一アンカープレート71の構成材料は、剛性に優れる材料、例えば、SS400などが挙げられる。
【0040】
第二アンカープレート72は、表裏に凹部72Cを有する円盤状の部材である(
図5を合わせて参照)。その裏側(
図2及び
図5(B)の右側)の凹部72CBにはシールプレート73が配置される。また、凹部72Cの外周の周縁部72Lの裏面にプレッシャーリング74が配置され、周縁部72Lの表面(
図2左側)にアンカーディスク4が当接される。
【0041】
凹部72Cには、PC鋼材1の数に対応したPC鋼材1の挿通孔72CHが形成されている(
図5)。また、後述するように防錆キャップ6内に防錆体9を充填した際に、防錆体9を凹部72Cのうち表側の凹部72CFから第二アンカープレート72の外側に排出するための排出口72
OUTが形成されている(
図2を合わせて参照)。この排出口72
OUTから防錆体9が排出されることで、後述のアンカーディスク4の裏側(アンカーディスク4と第二アンカープレート72の凹部72CFとの間)が満たされたことが分かる。ここでは、排出口72
OUTの一端は、表側の凹部72CFの表面に、他端は、第二アンカープレート72の外周面にそれぞれ開口している。そして、排出口72
OUTの一端側が、第二アンカープレート72の厚さ方向及び幅(直径)方向の両方に傾斜し、排出口72
OUTの他端側が、第二アンカープレート72の幅方向に平行となるように、排出口72
OUTは、その途中で屈曲している。周縁部72Lには、表裏に貫通する一対のガイド孔72LG及び一対の貫通孔72LTが同心円状で互いに直交する位置に設けられている。ガイド孔72LGは、上記ガイドバーを挿通させるための孔である。貫通孔72LTは、アンカーディスク4を第一アンカープレート71にネジ止めするネジを挿通させる孔である。また、周縁部72Lにおけるガイド孔72LG(貫通孔72LT)よりも外側には、上述の防錆キャップ6をネジ止めするための複数のキャップ止め穴72LHが同心円状に形成されている。
【0042】
第二アンカープレート72の直径は、リブキャストアンカー5の太径側の外径と同様である。この表側の凹部72CFの直径は、アンカーディスク4の凸部が嵌合する大きさであり、裏側の凹部72CBの直径は、シールプレート73が嵌め込まれる大きさである。
【0043】
この第二アンカープレート72の構成材料も、第一アンカープレート71と同様に、剛性に優れる材料、例えば、SS400などが挙げられる。
【0044】
シールプレート73は、両アンカープレート71,72に挟まれて、両アンカープレート71,72間で止水する。ここでは、特殊合成ゴムなどの弾性材からなる円盤状部材で、PC鋼材1の数に対応したPC鋼材1の挿通孔(図示せず)を有する。シールプレート73の外径は、第一(第二)アンカープレート71(72)の凹部71CF(72CB)(
図6)の直径よりも若干小さく、配置上、シールプレート73は、対向配置される第一及び第二アンカープレート71,72のそれぞれの凹部71CF,72CBの間に嵌まり込む。シールプレート73の非圧縮状態での厚みは、両アンカープレート71,72の凹部71CF,72CBの深さの合計よりも大きい。
【0045】
止水構造は、さらに、定着部2とリブキャストアンカー(支圧部材)5との間の止水性を向上させるために、両アンカープレート71,72間に配置されるプレッシャーリング74を具えることが好ましい。プレッシャーリング74は、特殊合成ゴムなどの弾性材からなるリング状部材で、表裏に貫通する一対のガイド孔(図示せず)及び一対の貫通孔74H(
図2)が同心円状で互いに直交する位置に設けられている。ガイド孔は、上記ガイドバーを挿通させるための孔である。貫通孔74Hは、アンカーディスク4を第一アンカープレート71にネジ止めするネジを挿通させる孔である。プレッシャーリング74の内径は第一(第二)アンカープレート71(72)の凹部71CF(72CB)の直径と略同じである。そのため、プレッシャーリング74は、PC鋼材1の長手方向にシールプレート73と同じ位置で、シールプレート73の外周側に配置される。
【0046】
以上の部材を用いて止水構造を形成する際、本例では、アンカーディスク4を利用する。アンカーディスク4は、略円柱状の部材で、PC鋼材1の緊張力を圧縮力としてリブキャストアンカー5に伝達できるように、S45Cなどの高剛性材料で構成される(
図6を合わせて参照)。アンカーディスク4には、その厚み方向に貫通する複数のウェッジ孔40H、貫通孔45H、ガイド孔47H、及びネジ止め孔49Hが設けられている。ウェッジ孔40Hは、ウェッジ3が嵌まり込むテーパー部と、テーパー部に連続する一様な内径を有する直線部とからなる。このテーパー部を除くアンカーディスク4の全面には、エポキシ塗装などにより防錆処理がされている。
【0047】
以上説明した第一アンカープレート71・第二アンカープレート72・シールプレート73・プレッシャーリング74をPC鋼材1に組みつける。まず、PC鋼材1に第一アンカープレート71の挿通孔71CHを嵌め込むと共に、ネジ止め孔71LHにネジを差し込んでリブキャストアンカー5のネジ止め穴50Hに第一アンカープレート71をネジ止めする。そして、第一アンカープレート71のガイド止め穴71LGにガイドバー(図示せず)をネジ止めする。続いて、PC鋼材1にシールプレート73の挿通孔を嵌め込んで、第一アンカープレート71の凹部71CFにシールプレート73を嵌める。次に、PC鋼材1とガイドバーのそれぞれにプレッシャーリング74の挿通孔とガイド孔、第二アンカープレート72の挿通孔72CHとガイド孔72LG、アンカーディスク4のウェッジ孔40Hとガイド孔47Hを順に嵌め合わせる。そして、ネジをアンカーディスク4のネジ止め孔49H、第二アンカープレート72の貫通孔72LT、プレッシャーリング74の貫通孔74H(
図2)の順に挿通して、アンカーディスク4を第一アンカープレート71のディスク止め穴71LSにネジ止めする。アンカーディスク4の第一アンカープレート71へのネジ止めが完了したら、ガイドバーを取り外す。
【0048】
なお、リブキャストアンカー5と第一アンカープレート71の凹部71CBとの間にリング状のパッキン75を介在させておくことが好ましい。そうすれば、第一アンカープレート71とリブキャストアンカー5との境界を止水でき、当該境界からの錆の原因物質の侵入を防止できる。さらに、リブキャストアンカー5におけるPC鋼材1の端部側の開口部に、PC鋼材1の数に対応したPC鋼材1の挿通孔(図示せず)を有するスペーサ76を介在させておくことが好ましい。そうすれば、更なる封止効果の向上が期待できる。これらパッキン75やスペーサ76は、第一アンカープレート71をリブキャストアンカー5のネジ止め穴50Hにネジ止めする前に設ける。
【0049】
[4]PC鋼材の緊張と定着
PC鋼材1の定着にあたり、複数のウェッジ3を用意する。ウェッジ3は、例えばSCM415Hなどの高剛性材料で形成された複数の分割片(本例では3つ)を組み合わせることで円錐台の楔状になる部材であって、PC鋼材1のPC鋼撚り線10を外周側から把持する部材である。ウェッジ3は、アンカーディスク4のウェッジ孔40H(
図6)に嵌め込まれる。
【0050】
PC鋼材1を定着するには、上述の止水構造の形成後にアンカーディスク4のウェッジ孔40Hに挿通させたPC鋼材1を一本ずつジャッキにより緊張する。緊張後のPC鋼材1の外周にウェッジ3を取り付けて、ウェッジ孔40Hに叩き込み、PC鋼材1を定着する。この操作を全てのPC鋼材1に対して行ない、ジャッキを取り外す。
【0051】
PC鋼材1の定着により、上述の止水構造の形成で組み付けられたシールプレート73は、アンカーディスク4の圧縮力を受けて径方向外方及び両アンカープレート71,72の挿通孔71CH,72CHの内方に広がり、シールプレート73の挿通孔の内周面が、PC鋼材1の外周面に密着する。その結果、シールプレート73を境界として、アンカーディスク4とリブキャストアンカー5との間が封止される。なお、シールプレート73の圧縮の際、その外周にあるプレッシャーリング74も両アンカープレート71,72の間で圧縮される。プレッシャーリング74は、シールプレート73の外周側で止水を担い、また、シールプレート73の径方向外方への広がりを抑制することで、止水構造の止水性を向上させる役割を持つ。
【0052】
[5]防錆キャップの取り付け
上述した防錆キャップ6を用意し、第二アンカープレート72に取り付ける。防錆キャップ6を取り付ける際は、第一排出口6
OUT1が水平よりも上(好ましくは鉛直上方)を向くように、即ち、注入口6
INは水平よりも下を向き、第二排出口6
OUT2は水平に向くように、防錆キャップ6を第二アンカープレート72に取り付ける。その際、防錆キャップ6と第二アンカープレート72との間に、リング状のゴム製パッキンを挟み込んで、当該部分の止水性を向上させることが好ましい。
【0053】
[6]防錆体の充填
防錆キャップ6の取り付けが終了したら、注入口6
INから防錆体9を注入する。その際、防錆キャップ6の第一排出口6
OUT1及び第二排出口6
OUT2と、第二アンカープレート72の排出口72
OUTとを開けておく。注入口6
INから注入された防錆体9は、アンカーディスク4の表面を満たしていくと共に、アンカーディスク4の貫通孔45Hを通ってアンカーディスク4の上記裏側へ侵入する。防錆キャップ6が防錆体9で満たされ、防錆キャップ6の第一排出口6
OUT1及び第二排出口6
OUT2と、第二アンカープレート72の排出口72
OUTとから防錆体9が溢れたら、注入口6
INからの防錆体9の注入を終了する。後は、防錆体9の硬化を待てば、上述した防錆体9の移動経路全体に防錆体9が形成された本発明の緊張材の定着構造体αが完成する。上述の止水構造によりアンカーディスク4とリブキャストアンカー5との間を封止できるので、上述の防錆体9の注入を防錆キャップ6内にのみとすることができる。
【0054】
勿論、リブキャストアンカー5におけるアンカーディスク4側と反対側にも防錆体を注入してもよい。その場合、PC鋼材1をリブキャストアンカー5(内トランペット体80)に挿通させる前に、内トランペット体80の内部に防錆体を充填するための注入口85
INを有する注入治具85を、内トランペット体80の外周に一部重なるように設けておく(
図2)。そして、上述のように、PC鋼材1を挿通して緊張・定着し、防錆キャップ6を装着したら、注入口85
INから防錆体を充填する。その際、防錆体が注入治具85から漏れないように、内トランペット体80と注入治具85との境界をテーピング84により封止する。また、PC鋼材1を内トランペット体80に挿通させる際に、PC鋼材1の数に対応したPC鋼材1の挿通孔(図示せず)を有するスペーサ86を、PC鋼材1の緊張後に注入口85
INよりもPC鋼材1の中心部側(
図2右側)に位置するように設けておく。この防錆体の注入は、内トランペット体80内が防錆体で満たされたら終了する。なお、内トランペット体80内には、防錆キャップ6内に注入した防錆体9と同様の材料を注入してもよいし、防錆体9と異なる材料で構成される防錆体(例えば、グラウト)を注入してもよい。
【0055】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。上述した実施の形態では、コンクリート構造物の建造時にコンクリート構造物を補強する外ケーブルの定着に本発明の緊張材の定着構造体を適用したが、例えば、既存のコンクリート構造物を後から補強・補修する外ケーブルの定着に本発明の緊張材の定着構造体を適用しても構わない。また、法面などの地崩れ、山崩れなどを防ぐために用いるアンカーに、本発明の緊張材の定着構造体を適用できる。