【文献】
Journal of Medicinal Food,2012年 5月,Vol.15, No.5,p.461-468
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、経口液剤、シロップ剤、経口ゼリー剤、口腔用錠剤、口腔用スプレー剤、口腔用半固形剤、含嗽剤、注射剤および吸入剤からなる群より選ばれる剤形のものである、請求項1に記載の組成物。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸と還元糖の混合物を加熱すると褐変する現象は、一般にメイラード反応と呼ばれ、食品分野では、食品の加熱処理や貯蔵中に生じる現象として知られている。メイラード反応は、生体内においても発生しており、1968年にはグリコシルヘモグロビン(HbA1c)が生体内で同定されたことにより、糖尿病や老化の進行に伴い蛋白質の糖化反応が進行することが明らかにされた。そして、近年では、蛋白質の糖化反応における終末糖化産物(Advanced glycation end products、以下「AGEs」とも称する)が糖尿病合併症や動脈硬化といった生活習慣病の発症や老化の進行に関与することが報告されている(非特許文献1〜3)。
【0003】
生体内における蛋白質糖化反応の詳細は明らかとなっていないが、蛋白質に存在するアミノ基と還元糖に存在するアルデヒド基が反応し、シッフ塩基を形成した後、安定なアマドリ化合物を経由し、さらに長期の反応を経て、AGEsに移行すると考えられている。
【0004】
AGEsは特定の物質を指すものではなく、その全容は未だ解明されていないが、蛍光性や架橋構造の有無によって、ペントシジン、ピロピリジン、ピラリン等、様々な物質の存在が確認されている。AGEsの物理化学的な特徴としては、黄褐色で蛍光性(主に、Ex:370nm、Em:440nm)を持ち、タンパク質間に架橋を形成することがある。しかし、ピラリンのように蛍光性を示さず、架橋構造を有しないAGEsも確認されている。
【0005】
これらAGEsの体内蓄積は、皮膚老化、腎糸球体組織硬化部や腎動脈硬化症などの糖尿病合併症だけでなく、アルツハイマー病などの神経変性疾患、皮膚老化、骨の老化、眼球の老化、アルブミン蛋白の老化に深く関与することが報告されている(非特許文献4)。
【0006】
したがって、生体内の糖化反応を阻止することは、糖尿病合併症や加齢に伴う動脈硬化、心筋異常などの発症・進展を防ぐ効果が期待される。このため、さまざまな糖化反応阻害剤やAGEs生成阻害剤が開発検討されてきている。
【0007】
特許文献1には、アミノグアニジン等の化合物を含むメイラード反応阻害剤が開示されている。アミノグアニジンは当該技術分野における医薬品の開発において最も研究されている、抗糖化作用を示す物質であるが、肝障害等の副作用を有することが確認されており、実用化には至っていない。
【0008】
その他にも、特許文献2に記載のガンビールノキやシラカバ等の植物抽出物によるメイラード反応阻害剤などが知られているが、有効性や安全性の点に課題を残すものであった。
【0009】
そこで、種々の疾患の発症、悪化に関与するAGEsの生成抑制において、重篤な副作用を有さない安全性の高い薬剤が求められている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のAGEs生成抑制剤および糖尿病予防/治療用医薬組成物はハイペリンおよび/またはペルシカリンを有効成分として含有するものである。
【0020】
本発明のAGEs生成抑制剤および糖尿病予防/治療用医薬組成物の有効成分であるハイペリンおよび/またはペルシカリンは合成品であってもよく、植物から抽出、単離されたものであってもよい。
【0021】
ハイペリンおよび/またはペルシカリンを植物から抽出、単離する場合、原料として用いることができる植物としては、これらに限定されないが、例えばヤナギタデ(Persicaria hydropiper (L.) Spach)、ミゾソバ(Persicariathunbergii (Sieb. et Zucc.) H. Gross)、サンザシ(Crataegus cuneata)、セイヨウオトギリ(Hypericum perforatum)等が挙げられる。これらの中でも、入手の容易さの点でヤナギタデが好ましく、AGEs生成抑制効果が高い点で、ヤナギタデの栽培品種あるいは変種であるムラサキタデ(Persicaria hydropiper (Polygonum hydropiper) f. purpurascens)およびアオタデ(Persicaria hydropiper (Polygonum hydropiper) var. laetevirens)がより好ましい。一つの態様において、本発明のAGEs生成抑制剤および糖尿病予防/治療用医薬組成物の有効成分であるハイペリンは、ムラサキタデ由来のハイペリンである。別の態様において、本発明のAGEs生成抑制剤および糖尿病予防/治療用医薬組成物の有効成分であるペルシカリンは、アオタデ由来のペルシカリンである。
【0022】
抽出原料として用いる植物体は、開花期のものであっても栄養生長期のものであってもよく、生の状態であっても乾燥させたものであってもよい。また、抽出効率を高めるため、植物体を適宜細断ないし粉砕等したもの、例えば粉末状のものを抽出原料として用いてもよい。原料として用いる植物体の部位に関しては、花、葉、茎、根、またはこれらを含む全草のいずれを抽出原料として用いてもよいが、ムラサキタデであれば子葉が展開した段階の若芽、アオタデであれば本葉がそれぞれ入手し易いため、かかる部位を用いることが便宜である。
【0023】
本発明のAGEs生成抑制剤および糖尿病予防/治療用医薬組成物の有効成分であるハイペリンおよび/またはペルシカリンを植物から抽出する場合、一般的な植物成分抽出方法を用いることができる。かかる抽出方法としては、例えば、熱水抽出法、煮沸抽出法、浸漬抽出法、振とう抽出法、ソックスレー抽出法、水蒸気蒸留法などが挙げられる。
【0024】
抽出溶媒としては、水、メタノール、エタノール等の低級アルコール類、プロピレングリコール、1,3‐ブチレングリコールなどの多価アルコール類、アセトン等のケトン類、ジエチルエーテル、アセトニトリル、酢酸エチル等のエステル類等を用いることができ、これらの中から対象とする植物の種類、後に行う加工処理、抽出物の使用目的などを考慮した上で選択すれば良い。抽出物を食品用途等へ使用するため有機溶媒の含有が好ましくない場合においては、水のみを使用すれば良く、抽出後に除去しやすいエタノールを単独で、又は水との任意の割合の混液として使用しても良い。一つの態様において、好ましい抽出溶媒は、水またはエタノールである。
【0025】
抽出溶媒の使用量は、重量比で、1:2〜1:30(植物原料:抽出溶媒)が好ましく、1:3〜1:20がより好ましく、1:4〜1:10がさらに好ましい。
【0026】
抽出温度は各溶媒によって適宜決定すれば良いが、水抽出の場合は4〜130℃が好ましく、25〜110℃がより好ましく、40〜100℃がさらに好ましい。抽出温度が4℃未満の場合、有効成分が抽出されにくい傾向があり、130℃を越える場合、有効成分が分解されやすい傾向がある。エタノール抽出の場合は4〜100℃が好ましく、10〜80℃がより好ましく、20〜60℃がさらに好ましい。抽出温度が4℃未満の場合、有効成分が抽出されにくい傾向があり、100℃を越える場合、有効成分が分解されやすい傾向がある。
【0027】
また、抽出時間は、水抽出の場合は1分〜15日間が好ましく、3分〜1日間がより好ましく、5分〜1時間がさらに好ましい。抽出時間が1分間未満の場合、有効成分が抽出されにくい傾向があり、15日間を越える場合、有効成分が分解されやすい傾向がある。エタノール抽出の場合は1時間〜15日間が好ましく、12時間〜10日間がより好ましく、1〜8日間がさらに好ましい。抽出時間が1時間未満の場合、有効成分が抽出されにくい傾向があり、15日間を越える場合、有効成分が分解されやすい傾向がある。
【0028】
本明細書において、「抽出物」の用語には、溶媒を用いる各種抽出方法によって得られる抽出液、該抽出液を濃縮した濃縮液、該抽出液を適当な溶媒で希釈した希釈液、該抽出液またはその濃縮液もしくは希釈液から加熱乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥などの種々の方法によって溶媒を除くことにより得られる固形の抽出物(粉末状や粒状のもの等)、ならびに固形化剤やゲル化剤の添加等によって得られる固形もしくは半固形の抽出物が含まれるものとする。
【0029】
抽出方法の例としては、原料としてムラサキタデまたはアオタデを用いる場合、原料の植物体1重量部に対して2〜30重量部、好ましくは3〜10重量部の水を加え、40〜90℃で10〜120分間静置、あるいは100℃で5〜15分間煮沸する方法や、原料の植物体1重量部に対して2〜30重量部、好ましくは3〜10重量部のエタノールを加え、10〜80℃で12時間〜10日間静置、好ましくは20〜60℃で1〜8日間静置する方法等が挙げられる。
【0030】
原料植物から得られた抽出物は、所望により、ハイペリンおよび/またはペルシカリンを単離する操作の前に精製処理に供してもよい。精製処理は、例えば、クロマトグラフ法、イオン交換樹脂を使用する溶離法、溶媒による分配抽出等を単独または組み合わせて採用することができる。クロマトグラフ法としては、順相クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、薄相クロマトグラフィー、遠心液体クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等を挙げることができ、これらのいずれか、またはそれらを組み合わせて行う方法が挙げられる。分配抽出に用い得る溶媒としては、酢酸エチル、ヘキサン、1−ブタノール等が挙げられる。一つの態様において、ムラサキタデおよび/またはアオタデの粗抽出物から分配抽出によって酢酸エチル層に抽出されて回収される精製抽出物は、本発明のAGEs生成抑制剤または糖尿病予防/治療用医薬組成物の有効成分であるハイペリンおよび/またはペルシカリンを豊富に含むものである。
【0031】
本発明のAGEs生成抑制剤は、有効成分としてハイペリンおよび/またはペルシカリンを含有するものであればよく、ハイペリンおよび/またはペルシカリンによるAGEs生成抑制効果を妨げない限り、さらに賦形剤等を含むものであってもよい。したがって、本発明のAGEs生成抑制剤中のハイペリンおよび/またはペルシカリンの割合は特に限定されない。例えば、本発明のAGEs生成抑制剤は、ハイペリンおよび/またはペルシカリンを40重量%以上、45重量%以上、50重量%以上、60重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、85重量%以上、90重量%以上、95重量%以上または98重量%以上含むものであり得る。あるいは、本発明のAGEs生成抑制剤は、ハイペリンおよび/またはペルシカリンのみからなるものであってもよい。
【0032】
本発明のAGEs生成抑制剤は、ペントシジン、クロスリン、ピロピリジン等の蛍光性AGEsおよびピラリン、カルボキシメチルリジン(CML)、3−デオキシグルコソン由来リジンダイマー(DOLD)、グリオキサール由来リジンダイマー(GOLD)、メチルグリオキサール由来リジンダイマー(MOLD)、イミダゾロン化合物等の非蛍光性AGEsを含む種々のAGEsの生成を抑制することができる。一つの態様において、本発明のAGEs生成抑制剤は、蛍光性AGEsの生成抑制のために用いられるものである。
【0033】
本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物は、本発明のAGEs生成抑制剤と同様、有効成分としてハイペリンおよび/またはペルシカリンを含有するものである。
【0034】
本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物中に有効成分として含有させるハイペリンおよび/またはペルシカリンの量は、目的とする剤形等に応じて適宜設定することができるが、通常、1〜98重量%程度であればよく、2〜95重量%程度であることが好ましく、3〜90重量%程度であることがより好ましい。
【0035】
本明細書において、糖尿病もしくは糖尿病合併症の「治療」には、既に糖尿病もしくは糖尿病合併症に罹患している患者における症状の進行を阻止することも含まれる。
【0036】
本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物の投与方法は、経口投与または非経口投与のいずれであってもよい。また、投与時期は特に限定されず、食前、食中、食後、食間のいずれであってもよいが、例えば、糖類含有量が5g以上である食事、またはアミノ酸および/または蛋白質含有量が20g以上である食事の食前、食中、食後および食間のいずれかに投与するのが好ましく、糖類ならびにアミノ酸および/または蛋白質を前記含有量以上含有する食事の食前、食中、食後および食間のいずれかに投与するのがより好ましい。前記アミノ酸としては、リジン、アルギニン等が挙げられ、その中でもAGEs化し易いリジンおよび/またはアルギニンを前記含有量以上含有する食事の食前、食中、食後および食間のいずれかに投与するのが好ましい。また、前記蛋白質としては、卵白アルブミン、乳アルブミン、グリアジン、乳カゼイン、大豆カゼイン等が挙げられ、その中でもAGEs化し易い卵白アルブミン、乳アルブミンおよび乳カゼインから選ばれる1種以上を前記含有量以上含有する食事の食前、食中、食後および食間のいずれかに投与するのが好ましい。ここで、一般的に「食事」とは、生存に必要な栄養分をとるために毎日の習慣として物を食べること(飲食行為)あるいはその飲食物を意味するが、本明細書において用いる「食事」の用語は、一回の飲食行為において摂取する一まとまりの飲食物を意味するものとする。
【0037】
本明細書において用いる場合、「糖類」とは、単糖および/または二糖を意味するものとする。これに対し「糖質」とは、炭水化物のうち食物繊維以外のものをいい、糖類の他に、オリゴ糖、多糖、糖アルコール等が含まれる。
【0038】
本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物の投与量は、糖尿病またはその合併症の程度、その他の疾病の程度、年齢、性別等の条件に応じて適宜選択されるが、AGEsの生成を抑制することができる量(以下、「AGEs生成抑制有効量」とも称する)を投与すればよい。AGEs生成抑制有効量は、当業者に周知の方法(各種の非臨床および/または臨床試験を含む)を用いて適宜決定することができる。
【0039】
本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物は、AGEs生成抑制有効量のハイペリンおよび/またはペルシカリンを一度に投与するものであっても良く、間隔を置いて複数回に分けて投与するものであっても良い。複数回に分けて投与する場合は、一日に投与されるハイペリンおよび/またはペルシカリンの合計量がAGEs生成抑制有効量となればよく、食事の回数に合わせて投与するのが好ましい。
【0040】
本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物は、糖尿病もしくは糖尿病合併症に罹患した者、または健常者のいずれに対しても投与することができるが、AGEsとの関連性が高い糖尿病に罹患した者に対して投与するのが好ましい。糖尿病に罹患した者とは、ヘモグロビンA1cが6.1%(JDS値)以上で、且つ、以下の(1)〜(3)のいずれかに該当する者を指す:(1)空腹時血糖値が126mg/dL以上、(2)随時血糖値(空腹か食後かにかかわらず)が200mg/dL以上、および(3)ブドウ糖負荷後2時間値が200mg/dL以上。糖尿病診断基準の詳細は、日本糖尿病学会による「糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告」(同学会のホームページ等から入手可能)に記載されている。
【0041】
また、本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物は、糖尿病に伴って発症する糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病神経障害、糖尿病血管合併症、動脈硬化症、腎不全、アルツハイマー病、神経変性疾患、がん等の糖尿病合併症の予防および/または治療のために用いることができる。これらの糖尿病合併症の中でも、発症率の高い糖尿病網膜症、糖尿病腎症および/または糖尿病神経障害の予防および/または治療のために用いることが好ましい。
【0042】
さらに、本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物は、健常者に投与することにより、糖尿病およびその合併症を効果的に予防することができる。
【0043】
本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物は、ハイペリンおよび/またはペルシカリンによる糖尿病もしくは糖尿病合併症の予防および/または治療効果を妨げない範囲であれば、ハイペリンおよび/またはペルシカリンの他にさらに賦形剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、矯味剤、懸濁化剤、乳化剤、着香剤、溶解補助剤、着色剤、粘稠剤等の成分を添加して各種の剤形とすることができる。
【0044】
本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物の剤形としては、錠剤(口腔内崩壊錠、チュアブル錠、発泡錠、分散錠、溶解錠)、カプセル剤、顆粒剤(発泡顆粒剤)、散剤、経口液剤(エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、リモナーデ剤)、シロップ剤(シロップ用剤)、経口ゼリー剤、口腔用錠剤(トローチ剤、舌下錠、バッカル錠、付着錠、ガム剤)、口腔用スプレー剤、口腔用半固形剤、含嗽剤、注射剤(輸液剤、埋め込み注射剤、持続性注射剤)、透析用剤(腹膜透析用剤、血液透析用剤)、吸入剤(吸入粉末剤、吸入液剤、吸入エアゾール剤)、坐剤、直腸用半固形剤、注腸剤、点眼剤、眼軟膏剤、点耳剤、点鼻剤(点鼻粉末剤、点鼻液剤)、膣錠、膣用坐剤、外用固形剤(外用散剤)、外用液剤(リニメント剤、ローション剤)、スプレー剤(外用エアゾール剤、ポンプスプレー剤)、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤(テープ剤、パップ剤)等が挙げられる。これらの中でも経口投与のし易さの点で、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、経口液剤、シロップ剤、経口ゼリー剤、口腔用錠剤、口腔用スプレー剤、口腔用半固形剤および含嗽剤が好ましく、生体内に吸収され易い点で、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤がより好ましい。
【0045】
また、本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物は、エキス剤、丸剤、酒精剤、浸剤・煎剤、茶剤、チンキ剤、芳香水剤、流エキス剤等の生薬関連製剤に本発明のAGEs生成抑制剤を添加した剤形で使用することもできる。これら剤形は、糖尿病またはその合併症の程度、その他の疾病の程度、年齢、性別等の条件に応じて適宜選択される。
【0046】
更に、本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物は、AGEs生成抑制効果を有する他の薬剤をさらに含むものとすることができる。これらの薬剤としては、例えば、インスリン抵抗性改善薬、脂質異常症治療薬、アンジオテンシンII1型受容体拮抗薬、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、メトホルミン等が例示される。
【0047】
また、本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物は、AGEs生成抑制効果を有する天然物または天然由来物質をさらに含むものとすることもできる。これらの天然物または天然由来物質としては、例えば、ドクダミ、セイヨウサンザシ、カモミール、ブドウ葉等のハーブ類、桜の花、トウモロコシの花柱および柱頭、セイヨウオオバコ種子、マロニエ、シャクヤク、バラの花、梅果実、山ぶどう、紫菊花、小麦胚芽、小麦胚芽由来のポリアミン、マンゴスチン等が例示される。
【0048】
本発明のAGEs生成抑制剤またはその有効成分であるハイペリンおよび/またはペルシカリンは、非ヒト動物における糖尿病もしくは糖尿病合併症を予防および/または治療するために用いることもできる。したがって、本発明の一態様において、非ヒト動物における糖尿病もしくは糖尿病合併症の予防および/または治療のための、ハイペリンおよび/またはペルシカリンを含む非ヒト動物用医薬組成物(以下、本発明の非ヒト動物用医薬組成物とも称する)が提供される。また、該非ヒト動物用医薬組成物または本発明のAGEs生成抑制剤を非ヒト動物に投与することを含む、非ヒト動物における糖尿病もしくは糖尿病合併症を予防および/または治療する方法も提供される。非ヒト動物としては、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ等の家畜類や、イヌ、ネコ等のペットとして飼育される動物等が例示される。
【0049】
本発明の非ヒト動物用医薬組成物に含有させるハイペリンおよび/またはペルシカリンの量、該医薬組成物の投与方法、投与時期、投与量および剤形、該医薬組成物においてハイペリンおよび/またはペルシカリンと併用可能な他の薬剤、天然物および天然由来物質、ならびに本発明のAGEs生成抑制剤を非ヒト動物に投与する場合における投与方法、投与時期、投与量等については、「本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物」について上述した内容と同様である。
【0050】
さらに、本発明のAGEs生成抑制剤は、食品添加剤として用いることもできる。したがって、本発明のAGEs生成抑制剤を飲食品に配合または添加することにより、AGEsの生成を抑制する機能性飲食品を提供することができる。また、本発明のAGEs生成抑制剤を成分として使用することにより、AGEs生成を抑制するサプリメントを製造することもできる。この場合、製造するサプリメントの剤形に応じて適宜、賦形剤等を配合することができる。
【0051】
以下、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら記載に限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
ムラサキタデの抽出と有効成分の単離(エタノールによる抽出)
ムラサキタデの若芽(子葉)(400g)をエタノール(2.0L)に浸漬し、25℃で7日間静置して抽出を行い、濾過にて抽出液と残渣に分け、抽出液を得た(素材と抽出溶媒の重量比は1:5)。抽出液を減圧乾燥にて乾燥させ、抽出物(11.03g)を得た。
次に、かかる抽出物を10mg/mlの濃度でメタノールに溶解させ、下記条件においてLC/TOF−MS測定を行い、
図1のTIC(トータルイオンクロマトグラム)を得た。
図1の溶出時間11.65〜11.75min付近に、抽出物において含有量の多い成分のピークを確認した。
さらに、かかる抽出物192.86mgをシリカゲル薄層(MERCK社 TLC Silica gel 60 RP-18 F254S)を用いて水:メタノール=1:1の溶媒で展開させた。LC/TOF−MS測定において、溶出時間11.65〜11.75min付近のピーク成分に相当するメジャースポット(Rf値=0.24)を、254nmUVランプを用いて確認し、回収することにより単一の成分を得た。このように単離した成分は遠心減圧乾燥にて粉状に乾燥させた(14.9mg)。
[LC/TOF−MS測定条件]
使用機器:LCMS−IT−TOF(島津製作所)
使用カラム:Atlantis
(登録商標) T3 5mm 2.1×150mm (Waters社製)
カラム温度:40℃
移動相組成:アセトニトリル/5mM酢酸アンモニウム水溶液 10%−90%グラジエント
流量 :0.2ml/min
観測源 :Photodiode Array 190〜800nm
1H‐NMR、
13C‐NMRおよびMSを測定し、文献(Planta Med., 61, 377-378 (1995) および Bot. Mag. Tokyo, 99, 63-74 (1986))のスペクトルデータにより、単離された成分をハイペリンと同定した。以下、かかる工程により得られたハイペリンをムラサキタデ由来ハイペリン(E)と表記する。
【0053】
ムラサキタデの抽出と有効成分の単離(水による抽出)
ムラサキタデの若芽(子葉)(300g)に水(1.2L)を加え、100℃で5分間煮沸して抽出を行い、濾過にて抽出液と残渣に分け、抽出液を得た(素材と抽出溶媒の重量比は1:4)。抽出液を凍結乾燥にて乾燥させ、抽出物(11.30g)を得た。
次に、かかる抽出物を10mg/mlの濃度でメタノールに溶解させ、前記条件と同様の条件においてLC/TOF−MS測定を行い、
図2のTICを得た。
図2の溶出時間11.6〜11.7min付近に、抽出物において含有量の多い成分のピークを確認した。
さらに、かかる抽出物2.95gを水100mLに溶解させ、ヘキサン100mLを加えて10分間攪拌後、分配を行い、水可溶部をヘキサンにより合計3回抽出を行い、ヘキサン可溶部と水可溶部に分けた。次に、得られた水可溶部を、水可溶部と同量の酢酸エチルを用いて3回抽出(攪拌10分間/回)を行い、酢酸エチル可溶部と水可溶部に分け、酢酸エチル可溶部を減圧下溶媒留去し、0.97gの乾燥固形物を得た。
次に、この酢酸エチル可溶部175mgをシリカゲル薄層(MERCK社 TLC Silica gel 60 RP-18 F254S)を用いて水:メタノール=1:1の溶媒で展開させた。LC/TOF−MS測定において、溶出時間11.6〜11.7min付近のピーク成分に相当するメジャースポット(Rf値=0.26)を254nmUVランプを用いて確認し、回収することにより単一の成分を得た。このように単離した成分は遠心減圧乾燥にて粉状に乾燥させた(65.3mg)。
1H‐NMR、
13C‐NMRおよびMSを測定し、文献(Planta Med., 61, 377-378 (1995) および Bot. Mag. Tokyo, 99, 63-74 (1986))のスペクトルデータにより、単離された成分をハイペリンと同定した。以下、かかる工程により得られたハイペリンをムラサキタデ由来ハイペリン(W)と表記する。
【0054】
アオタデの抽出と有効成分の単離(エタノールによる抽出)
2〜10mm四方の大きさに細断したアオタデの本葉および葉柄(334g)をエタノール(1.67L)に浸漬し、25℃で7日間静置して抽出を行い、濾過にて抽出液と残渣に分け、抽出液を得た(素材と抽出溶媒の比は1:5)。抽出液を減圧乾燥にて乾燥させ、抽出物(11.75g)を得た。
次に、かかる抽出物を10mg/mlの濃度でメタノールに溶解させ、前記条件と同様の条件においてLC/TOF−MS測定を行い、
図3のTICを得た。
図3の溶出時間11.45〜11.55min付近に、抽出物において含有量の多い成分のピークを確認した。
さらに、かかる抽出物180.5mgをシリカゲル薄層(MERCK社 TLC Silica gel 60 RP-18 F254S)を用いて水:アセトニトリル=6:4の溶媒で展開させた。LC/TOF−MS測定において、溶出時間11.45〜11.55min付近のピーク成分に相当するメジャースポット(Rf値=0.60)を254nmUVランプを用いて確認し、回収することにより単一の成分を得た。このように単離した成分は遠心減圧乾燥にて粉状に乾燥させた(9.4mg)。
1H‐NMR、
13C‐NMRおよびMSを測定し、文献(Planta Med., 61, 377-378 (1995) および Bot. Mag. Tokyo, 99, 63-74 (1986))のスペクトルデータにより、単離された成分をペルシカリンと同定した。以下、かかる工程により得られたペルシカリンをアオタデ由来ペルシカリン(E)と表記する。
【0055】
アオタデの抽出と有効成分の単離(水による抽出)
2〜10mm四方の大きさに細断したアオタデの本葉および葉柄(150g)に水(0.6L)を加え、100℃で5分間煮沸して抽出を行い、濾過にて抽出液と残渣に分け、抽出液を得た(素材と抽出溶媒の重量比は1:4)。抽出液を凍結乾燥にて乾燥させ、抽出物(9.25g)を得た。
次に、かかる抽出物を10mg/mlの濃度でメタノールに溶解させ、前記条件と同様の条件においてLC/TOF−MS測定を行い、
図4のTICを得た。
図4の溶出時間11.4〜11.6min付近に、抽出物において含有量の多い成分のピークを確認した。
さらに、かかる抽出物3.32gを水100mLに溶解させ、ヘキサン100mLを加えて10分間攪拌後、分配を行い、水可溶部をヘキサンにより合計3回抽出を行い、ヘキサン可溶部と水可溶部に分けた。次に、得られた水可溶部を、水可溶部と同量の酢酸エチルを用いて3回抽出(攪拌10分間/回)を行い、酢酸エチル可溶部と水可溶部に分け、酢酸エチル可溶部を減圧下溶媒留去し、0.20gの乾燥固形物を得た。
次に、この酢酸エチル可溶部(81.43mg)をシリカゲル薄層(MERCK社 TLC Silica gel 60 RP-18 F254S)を用いて水:アセトニトリル=6:4の溶媒で展開させた。LC/TOF−MS測定において、溶出時間11.4〜11.6min付近のピーク成分に相当するメジャースポット(Rf値=0.68)を254nmUVランプを用いて確認し、回収することにより単一の成分を得た。このように単離した成分は遠心減圧乾燥にて粉状に乾燥させた(15.23mg)。
1H‐NMR、
13C‐NMRおよびMSを測定し、文献(Planta Med., 61, 377-378 (1995) および Bot. Mag. Tokyo, 99, 63-74 (1986))のスペクトルデータにより、単離された成分をペルシカリンと同定した。以下、かかる工程により得られたペルシカリンをアオタデ由来ペルシカリン(W)と表記する。
【0056】
糖化反応阻害率の測定
それぞれムラサキタデおよびアオタデから単離した上記ハイペリンおよびペルシカリン、ならびに市販のハイペリン試薬(Wako社製、サンザシ由来)を用いて、AGEs形成に及ぼす作用について下記の方法で試験を行った。10重量%D−グルコース(SIGMA−ALDRICH社製)と1重量%ウシ血清アルブミン(fractionV、SIGMA−ALDRICH社製)を含有する67mMリン酸緩衝液(pH7.2)0.9mLに、表1に示す組成のサンプル溶液0.1mLを添加し、60℃で2日間静置した。反応液の蛍光強度(励起波長370nm,蛍光波長440nm)をVarioskan Flash(Thermo社製)を用いて測定し、この値を以下に示す糖化反応阻害率計算式中のAとした。該計算式中のB〜Dについても同様の条件で反応させて蛍光強度を測定し、糖化反応阻害率を算出した。
糖化反応阻害率(%)=100−{(A−B)/(C−D)}×100
A:各試験区のサンプル溶液0.1mL+(10重量%D−グルコース+1重量%ウシ血清アルブミン+67mMリン酸緩衝液)0.9mL
B:各試験区のサンプル溶液0.1mL+67mMリン酸緩衝液0.9mL
C:各試験区の溶媒0.1mL+(10重量%D−グルコース+1重量%ウシ血清アルブミン+67mMリン酸緩衝液)0.9mL
D:各試験区の溶媒0.1mL+67mMリン酸緩衝液0.9mL
【0057】
【表1】
DMSO:ジメチルスルホキシド
【0058】
本発明のAGEs生成抑制剤の有効成分であるハイペリンおよびペルシカリンは、アミノグアニジン塩酸塩よりも優れた糖化反応阻害率を示した。また、原料として用いる植物に限定されず、同等の結果を示した。結果を表2および
図5に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
散剤の製造
表3に示す原材料を混合し、散剤を製造した。該散剤は、本発明のAGEs生成抑制剤、または本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物の一形態である。
【0061】
【表3】
【0062】
錠剤の製造
表4に示す原材料を混合した後、連続式打錠機(Piccola B−10/RIVA社製)を用い、杵金型(φ8mm、R12mm)、1錠あたりの重量150〜200mg、回転盤の回転数12rpm、打錠圧4kNの打錠条件で直接打錠し、錠剤を製造した。該錠剤は、本発明のAGEs生成抑制剤、または本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物の一形態である。
【0063】
【表4】
【0064】
経口液剤の製造
表5に示す原材料を蒸留水に溶解し全量を500mLとし、経口液剤を製造した。該経口液剤は、本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物の一形態である。
【0065】
【表5】