特許第6101070号(P6101070)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6101070-ヘッドカバーの注油構造 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6101070
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】ヘッドカバーの注油構造
(51)【国際特許分類】
   F01M 11/04 20060101AFI20170313BHJP
【FI】
   F01M11/04 A
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-277670(P2012-277670)
(22)【出願日】2012年12月20日
(65)【公開番号】特開2014-122559(P2014-122559A)
(43)【公開日】2014年7月3日
【審査請求日】2015年12月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000151209
【氏名又は名称】株式会社マーレ フィルターシステムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100096459
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 剛
(72)【発明者】
【氏名】野中 敦
【審査官】 小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−092637(JP,A)
【文献】 特開2001−193555(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 11/00−13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下面側が開口するボックス形状をなし、その下面周縁部でエンジンの上部に固定されるヘッドカバーに、上向きに開口する注油口を設けるヘッドカバーの注油構造において、
上記注油口の全体を、上記ヘッドカバーよりも外側に配置するとともに、
上記ヘッドカバーの側壁から外側へ延びる注油路によって、上記注油口と上記ヘッドカバーの内部とを連通し
上記注油路を上下に分割構成し、その下側部分をヘッドカバーに一体的に形成するとともに、その上側部分を構成する上側分割体に、上記注油口を形成し、
かつ、上記上側分割体の注油路の近傍に、上記下側部分と接合される所定厚さの取付座部を設け、この取付座部を、上記注油路の内側へ突出させたことを特徴とするヘッドカバーの注油構造。
【請求項2】
上記ヘッドカバーの下面周縁部に、当該ヘッドカバーをエンジンの上部に固定するためのボルトが挿通するボルトボス部が形成されており、
上記注油路を上記ボルトボス部に近接して配置したことを特徴とする請求項に記載のヘッドカバーの注油構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの上部に固定されるヘッドカバーに関し、特に、エンジンオイルをエンジン内部へ注入するための注油構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1等に記載されているように、エンジンのシリンダヘッドの上部に固定されるヘッドカバーには、エンジンオイルを注油するための注油口が設けられる。例えば図4に示すように、注油口2は、ヘッドカバー1の上壁部に上向きに開口して設けられている。この注油口2にはフィラーキャップ3が着脱可能に取り付けられており、注油時以外はフィラーキャップ3によりエンジン内部が密封されている。
【0003】
作業者がオイル交換作業を行う場合、フィラーキャップ3を外してエンジンオイルが注入されるが、作業終了後に作業者がフィラーキャップ3を閉め忘れた状態でエンジンを始動させた場合、シリンダヘッド4内のカムシャフト5等により飛散したエンジンオイルが注油口2を介してヘッドカバー1の外部へ漏れるおそれがあり、非常に危険である。
【0004】
そこで、従来より、注油口2の下部に遮蔽板6を設けて、カムシャフト5等により飛散するオイルを注油口2から遮断させたものが知られている。この遮蔽板6は、例えば図4に示すように注油口2を有するヘッドカバー1に一体的に形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平5−47318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したように遮蔽板を設ける構造とすると、遮蔽板の追加によるコストアップやヘッドカバーの大型化を招いてしまう。また、カムシャフト等から飛散するオイルは、基本的にその飛散方向などは予測不能であるために、遮蔽板の形状が複雑化する場合もあり、構造が複雑となるといった問題もある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、注油口からのオイルの漏洩を防止しつつ、ヘッドカバーの簡素化及びコンパクト化を図ることができる新規なヘッドカバーの注油構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明は、下面側が開口するボックス形状をなし、その下面周縁部でエンジンの上部に固定されるヘッドカバーに、上向きに開口する注油口を設けるヘッドカバーの注油構造において、上記注油口の全体を、上記ヘッドカバーよりも外側に配置するとともに、上記ヘッドカバーの側壁から外側へ延びる注油路によって、上記注油口と上記ヘッドカバーの内部とを連通した。
【0009】
このように、上向きに開口する注油口の全体をヘッドカバーよりも外側に外れた位置に配置することで、ヘッドカバーの側壁と注油口とを結ぶ注油路自体が遮蔽板として機能することとなり、ヘッドカバーの内部を飛散するオイルが注油口にかかることがなく、注油口からのオイルの漏洩を防止することができる。
【0010】
また、注油路自体が遮蔽板として機能することから、別途遮蔽板を設定する必要がなく、ヘッドカバーの形状の簡素化を図ることができるとともに、注油口の下方に遮蔽板を設定する必要がないために、特にエンジン上下方向に関してヘッドカバーのコンパクト化を図ることができる。
【0011】
更に、注油口及びフィラーキャップをヘッドカバーの上面に設けなくて良いために、エンジン全高を下げることができる。このために、ボンネットとの空間を広くとることによって、その空間が緩衝空間となって、車両衝突時の歩行者保護性能も向上する。
【0012】
好ましくは、注油路を上下に分割構成し、その下側部分をヘッドカバーに一体的に形成するとともに、その上側部分を構成する上側分割体に上記注油口を形成する。このように注油路を上下に分割構成することによって、アンダーカット形状を生じることなく合成樹脂材料等により容易にヘッドカバーと上側分割体とを成形することが可能となり、部品点数をヘッドカバーと注油路の下側部分の二部品に抑えつつ、注油路及び注油口を容易に形成することが可能となる。
【0013】
また、上側分割体の注油口の近傍には、上記下側部分と接合される所定厚さの取付座部を設け、この取付座部を、上記注油路の内側へ突出させている。このように取付座部を注油路の内側に設定することによって、取付座部が外側へ突出する場合に比して外側に張り出す部分を無くし、ヘッドカバーの形状・寸法を縮小することができ、車両搭載性が向上する。
【0014】
ヘッドカバーの下面周縁部には、当該ヘッドカバーをエンジンの上部に固定するためのボルトが挿通する複数のボルトボス部が形成されている。そして好ましくは、上記注油路を上記ボルトボス部に近接して配置する。このように注油路をボルトボス部に近接して配置することによって、両者の剛性を互いに向上することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、注油口からのオイルの漏洩を防止しつつ、ヘッドカバーの簡素化・小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施例に係る注油構造を適用したヘッドカバーを示す分解斜視図。
図2】上記ヘッドカバーを示す断面図。
図3図2の要部を拡大して示す断面図。
図4】従来のヘッドカバーの注油構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図示実施例により本発明を説明する。図1図3は、本発明の一実施例に係るエンジンのヘッドカバー10を示している。このエンジンのシリンダヘッド11には吸・排気弁の2本のカムシャフト12が回転可能に配設されており、その上方を覆うようにヘッドカバー10がシリンダヘッド11の上側に取り付けられている。
【0018】
ヘッドカバー10は、軽量かつ安価な合成樹脂材料により形成されており、下面側が開放するボックス形状をなしている。このヘッドカバー10の下面周縁部13には、円筒状のボルトボス部14が適宜間隔毎に形成されており、このボルトボス部14を挿通するボルト(図示省略)によって、ヘッドカバー10がシリンダヘッド11の上部に固定されている。このヘッドカバー10の下面周縁部13とシリンダヘッド11の上面フランジ部15との間には、シール性を確保するためのシールリング16が介装されている。
【0019】
図2にも示すように、ヘッドカバー10の内部には、ブローバイガス中からオイルを分離するオイルミストセパレータ17が設けられている。このようなオイルミストセパレータ17は周知であるために簡単に説明すると、ブローバイガスを細いガス通路18を通して衝突壁19に衝突させることでオイルを分離し、分離後のオイルを油落とし部20よりシリンダヘッド11の内部へ滴下するものである。これらのガス通路18,衝突壁19及び油落とし部20は、ヘッドカバー10の下面側に接合・固定される底部プレート21に設けられている。
【0020】
次に、本実施例の要部をなすヘッドカバー10の注油構造について説明する。このヘッドカバー10には、上向きに開口する略筒状の注油口22が設けられており、この注油口22にフィラーキャップ23が着脱可能に装着されている。注油口22の内周とフィラーヤップ23の外周には互いに螺合するネジ部24が形成されている。
【0021】
ここで本実施例では、この注油口22を、ヘッドカバー10の下面周縁部13よりも外側に配置している。つまり、図2において注油口22の全体を、ヘッドカバー10の下面周縁部13よりも外側に配置しており、言い換えると、ヘッドカバー10を上から見た場合に、注油口22をヘッドカバー10から外れた位置に配置している。
【0022】
そして、ヘッドカバー10の側壁25から外側へ延びる管状をなす注油路26によって、注油口22とヘッドカバー10の内部とを連通している。つまり、注油路26の一端は側壁25に開口形成された開口部27を通してヘッドカバー10の内部へと連通しており、この注油路27の他端が上側へ向けてL字状に折曲する形で筒状の注油口22と連通している。
【0023】
この注油路26は、上下に分割構成されており、その下側部分28がヘッドカバー10に一体的に形成されており、その上側部分である上側分割体29に、上記の注油口22が一体的に形成されている。つまり、ヘッドカバー10と上側分割体29の二部品により注油路26が形成されている。
【0024】
図1にも示すように、注油路26の下側部分28は、上方が開放する管状をなしており、その一端がヘッドカバー10の側壁25に一体的に接続している。この下側部分28の開放する上方を閉塞するように、上側分割体29が接合されている。この上側分割体29は、下側部分28の上面開口周縁部30に接合されて、注油路26の天井部分を構成するプレート部31を有し、このプレート部31の一端に、筒状をなす上記の注油口22が一体的に付帯形成されている。この上側分割体29もまた、ヘッドカバー10と同様に、軽量かつ安価な合成樹脂材料により形成されている。下側部分28の上面開口周縁部30と上側分割体29の下面開口周縁部32とは、振動溶着により接合されている。
【0025】
このように本実施例では、上向きに開口する注油口22をヘッドカバー10の下面周縁部13よりも外側に外れた位置に配置することで、ヘッドカバー10の側壁25と注油口22とを接続する注油路26自体が遮蔽板として機能することとなり、ヘッドカバー10の内部を飛散するオイルが注油口22にかかることがなく、注油口22からのオイルの漏洩を確実に防止することができる。
【0026】
また、注油路26自体が遮蔽板として機能することから、別途遮蔽板を設定する必要がなく、ヘッドカバー10の形状の簡素化を図ることができるとともに、注油口22の下方に遮蔽板を設定する必要がないために、特にエンジン上下方向に関してヘッドカバー10のコンパクト化を図ることができる。しかも、注油口22及びフィラーキャップ23をヘッドカバー10の上面に設けなくて良いことに加え、注油路26がヘッドカバー10の側壁25から側方へ延びる形となっているために、図2にも示すように、注油口22及びフィラーキャップ23をヘッドカバー10の上端よりも低い位置に配置することが可能となり、エンジン全高を下げることができる。このために、ボンネットとの空間を広くとることによって、その空間が緩衝空間となって、車両衝突時の歩行者保護性能も向上する。
【0027】
更に、注油路26を上下に分割構成することで、アンダーカット形状を生じることなく合成樹脂製のヘッドカバー10と上側分割体29の二部品により注油路26を形成することが可能となる。更に言えば、注油路26の下側部分28をヘッドカバー10に一体的に形成するとともに、その上側部分である上側分割体29に注油口22を形成することで、これら二部品からなる簡素か構造で注油路26及び注油口22を容易に形成することができる。
【0028】
図3に示すように、上側分割体29における注油口22の近傍の下面開口周縁部32には、注油路26の下側部分28と接合される所定厚さのフランジ状の取付座部33が設けられている。この取付座部33の上面は、下側部分28の上面開口周縁部30と上側分割体29の下面開口周縁部32とを振動溶着により接合する際に、治具により押圧される座面34として機能する。この取付座部33を、注油路26の内側に設定している。つまり、フランジ状の取付座部33を注油路26の内側へ向けて張り出すように設定している。これによって、取付座部33を外側へ突出させる場合に比して、外側に張り出す部分が無くなるために、コンパクト化を図ることができ、レイアウト空間が小さい場合にも適用可能となり、車両搭載性に優れている。
【0029】
図1にも示すように、注油路26は、ボルトボス部14に近接して配置されている。つまり、注油路26はコーナー部に位置するボルトボス部14Aに近づくように、ヘッドカバー10の幅方向L1に対して斜めに傾斜する形で張り出しており、このボルトボス部14Aと実質的に一体的に連なるように一体的に形成されている。このように注油路26をボルトボス部14Aに近接して配置し、より具体的には両者を一体的に形成することによって、両者26,14Aの剛性を協働して向上させることができる。また、図1に示すように、注油路26をボルトボス部14Aに近づけるようにカバー幅方向L1に対して斜めに傾斜させることで、オイルの漏洩を防ぐために注油路26の長さをある程度確保しつつ、注油路26のカバー幅方向L1の張出し量を抑制し、コンパクト化及び車両搭載性の向上を図ることができる。
【0030】
以上のように本発明を具体的な実施例に基づいて説明してきたが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、種々の変形・変更を含むものである。例えば、上記実施例ではヘッドカバー10と上側分割体29とを振動溶着により固定しているが、ネジ止めや他の溶着工法で両者を固定するようにしても良い。
【符号の説明】
【0031】
10…ヘッドカバー
13…下面周縁部
14,14A…ボルトボス部
22…注油口
23…フィラーキャップ
25…側壁
26…注油路
28…下側部分
29…上側分割体
33…取付座部
図1
図2
図3
図4