(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6101079
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】多部分ピストンリング
(51)【国際特許分類】
F16J 9/06 20060101AFI20170313BHJP
F02F 5/00 20060101ALI20170313BHJP
F16J 9/20 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
F16J9/06 A
F02F5/00 C
F02F5/00 301A
F16J9/20
【請求項の数】7
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-533548(P2012-533548)
(86)(22)【出願日】2010年9月9日
(65)【公表番号】特表2013-508623(P2013-508623A)
(43)【公表日】2013年3月7日
(86)【国際出願番号】EP2010063243
(87)【国際公開番号】WO2011047922
(87)【国際公開日】20110428
【審査請求日】2013年6月6日
【審判番号】不服2015-18968(P2015-18968/J1)
【審判請求日】2015年10月21日
(31)【優先権主張番号】102009049788.9
(32)【優先日】2009年10月19日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】509340078
【氏名又は名称】フェデラル−モーグル ブルシェイド ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】FEDERAL−MOGUL BURSCHEID GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(72)【発明者】
【氏名】リチャード ミトラー
(72)【発明者】
【氏名】トーマス シュルツ−サッセ
(72)【発明者】
【氏名】マンフレッド ミュラー
【合議体】
【審判長】
阿部 利英
【審判官】
冨岡 和人
【審判官】
小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】
特公昭44−6646(JP,B1)
【文献】
特開2002−122238(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第0347547(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 9/06
F16J 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンリングの合い口(4)の領域が設けられた少なくとも1部品のバネ支持材(2)と、
前記バネ支持材(2)の内周面の領域内に設けた円周溝(9)内に配置された少なくとも1部品のバネ要素(3)と、を含む、複合ピストンリング(1)であって、
前記バネ支持材(2)の肉厚は、前記合い口(4)に対面する前記バネ支持材(2)の端部(5,6)の領域内と、前記バネ支持材の背後領域(7)内と、で基本的に等しく、
前記背後領域(7)と前記ピストンリングの合い口端部(5,6)との間の各々に、少なくとも1つのポケット(2’ ,2” )を設け、このポケットは、少なくとも60°の円周範囲にわたって延在し、前記バネ支持材(2)の全体的な肉厚の局所的な低減(a-b)によって作製されており、
不均一な半径方向圧力の分布を生成するために、前記ピストンリングの合い口(4)を始点に、前記ピストンリングの合い口端部(5,6)から測った角度α>20°から最大角度α’=120°までの円周範囲(β)内で、前記バネ支持材(2)の肉厚が、局所的な低減(a-b)をしていき、これにより、半径方向圧力の分布は、ピストンリングの合い口端部(5,6)の領域内で最小値となり、前記円周範囲β内で最大値となることを特徴とする複合ピストンリング。
【請求項2】
前記バネ支持材(2)は、前記ピストンリングの合い口(4)を始点に、4つの四分円(I〜IV)に分割され、2つの前記ポケット(2’ ,2” )は、1つのポケット(2’)が、前記四分円の1番目(I)及び2番目(II)を跨ぐ前記バネ支持材(2)の円周範囲に位置し、1つのポケット(2”)が、前記四分円の3番目(III)及び4番目(IV)を跨ぐ前記バネ支持材の円周範囲内に位置するように設けられていることを特徴とする請求項1に記載の複合ピストンリング。
【請求項3】
前記ポケット(2’ ,2” )は、軸方向に推移して前記リングの中心を構成すると共に、前記バネ支持材(2)の前記端部(5,6)の間を推移する平面に対して対称に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合ピストンリング。
【請求項4】
前記バネ支持材(2)の円周方向でみたときの、前記バネ支持材(2)の前記円周溝(9)の溝底と滑り面(10,11)との間の肉厚(c ,c’)を変化させることによって、前記円周溝(9)の溝底と前記バネ支持材(2)の滑り面(10, 11)との間の肉厚(c ,c’)を、前記バネ支持材(2)の円周方向に変化させ、これにより、環状の前記バネ要素(3)を、前記円周溝(9)内に所定の楕円率で配置することができることを特徴とする請求項3に記載の複合ピストンリング。
【請求項5】
前記円周溝(9)の溝底と滑り面(10,11)との間の肉厚(c ,c’)の変化は、前記バネ支持材(2)の前記ポケット(2’ ,2” )のそれぞれの領域内で与えられることを特徴とする請求項4に記載の複合ピストンリング。
【請求項6】
少なくとも、前記1部品のバネ支持材(2)と、前記1部品のバネ要素(3)とを備える、少なくとも2部品の油かきリング(1)によって形成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の複合ピストンリング。
【請求項7】
前記バネ支持材(2)が、少なくとも2つの滑り面ウェブ(10, 11)を有することを特徴とする請求項6に記載の複合ピストンリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多部分ピストンリングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
独国特許第10041802号明細書(特許文献1)は、ピストンリング継ぎ手(ジョイント)の領域を設けられ、リング円周上の断面状の弱点を有する単一部分の圧縮ピストンリングを開示し、この圧縮ピストンリングのリング円周は4つの四分円に分割され、ピストンリング継ぎ手の一方のエッジが1番目の仮想的四分円内に置かれると、ピストンリング継ぎ手の他方のエッジは4番目の仮想的四分円内に置かれ、それぞれの断面状の弱点は、1番目及び4番目の四分円内のみに設けられている。
【0003】
独国特許出願公告第1292447号明細書(特許文献2)は、内燃機関ピストン用の油かき(オイルスクレーパー)リングを開示し、この油かきリングは、環状溝内に置かれて張力を与える螺旋状バネリングを有し、この螺旋状バネリングを受ける環状溝は、ピストンリング継ぎ手の領域内に平らな凹部を有する。
【0004】
独国特許出願公開第2443299号明細書(特許文献3)は、内燃機関ピストン用の油かきリングを開示し、この油かきリングは、その円周上に分布したスロット、及びこの油かきリングをシリンダ壁に対して押圧するバネを有し、この油かきリングは、円周全体にわたって、少なくともほぼ一定の面積慣性モーメントを有する。こうした面積慣性モーメントを達成するために、油かきリングの半径方向内側の回転対称な領域上で、スロット間の材料を除去する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】独国特許第10041802号明細書
【特許文献2】独国特許出願公告第1292447号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第2443299号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、バネ要素と機能的に結合されるバネ支持材を最適化することによって、ピストンリングの円周全体にわたって見た半径方向圧力の分布を、より均一にすることのできる、バネ支持材及びバネ要素から成る多部分ピストンリングを開発する目的に基づく。温度の影響下にある、シリンダ内のピストンリングの半径方向圧力の分布は、特に、より均一にすべきである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、ピストンリング継ぎ手の領域を設けた少なくとも単一部分のバネ支持材、及びバネ支持材の内周面の領域内に設けた溝内に置かれた少なくとも単一部分のバネ要素を含む多部分ピストンリングによって達成され、バネ支持材の肉厚は基本的に、バネ支持材のピストンリング継ぎ手に対面する端部領域内、及びバネ支持材の背後領域内で等値であり、この背後領域とピストンリング継ぎ手の端部との間の各々にポケットが設けられ、このポケットは、少なくとも60°の円周範囲にわたって延在し、バネ支持材の肉厚の局所的低減によって作製される。
【0008】
本発明の主題の有利な展開は、従属請求項中に見出すことができる。
【0009】
特許文献1による従来技術と同様に、このピストンリングは概念的に4つの四分円に分割することができる。それぞれのポケットは、1番目または4番目の四分円内に配置することができる。その代わりに、ポケットは2番目または3番目の四分円内に配置することができる。
【0010】
ポケットを、四分円間にわたって、バネ支持材内の、リングの背後部とそれぞれのピストンリング継ぎ手の端部との間に作製することも、同様に考えられる。
【0011】
ポケットを、それぞれの四分円の領域内に対称に設ければ、半径方向圧力の分布に関して特に有利である。
【0012】
提案する方策が、最適な半径方向圧力の分布を、ピストンリングの円周方向に生成するために十分でなければ、半径方向の断面の肉厚を、バネ支持材の滑り面に対して変化させることによって、円周溝の半径方向の深さを、バネ支持材の円周方向に変化させ、これにより、環状のバネ素子が所定の楕円率で溝内に置かれることを、さらに提案する。
【0013】
溝の断面の変化を、バネ支持材のそれぞれのポケットの領域内のみに与えれば、さらに有利である。
【0014】
第1の例では、本発明の主題は概ね、あらゆる種類のピストンリングに適用されるべきである。しかし、圧縮リングは一般に単一部分のピストンリングとして形成されるので、本発明によるピストンリングは、少なくとも2部分の油かきリングとして使用することが特に有利である。
【0015】
本発明によるピストンリングが油かきリングである場合は、バネ支持材に少なくとも2つの滑り面ウェブを設けることを、さらに提案する。
【0016】
本発明の主題により、バネの位置を適応させることによって、及びバネ支持材の面積慣性モーメントを局所的に変化させることによって、バネ支持材の接触面によるシリンダ壁に対する表面圧力を、局所的に調整することができる。この場合は、断面の変化は、円周上で局所的に行い(面積慣性モーメントの局所的変化)、このことは、バネの位置、及びバネ支持材に対する、従ってシリンダ壁に対するバネの接触力に、共に好影響する。
【0017】
バネ支持材に対するシステム内の温度効果は、注油されたエンジンの運転中に、正の楕円率を生じさせる。これらの正の楕円率は(シリンダ壁に作用する、ピストンリング継ぎ手の端部に対する半径方向圧力を増加させて)、油かきの悪化、及びシリンダ壁上への条痕の形成のような、シリンダ内での悪影響を生じさせる。バネ支持材における局所的変化の結果として、温度の影響下での、シリンダ内の半径方向圧力の分布を均一にすることができる。
【0018】
このように、本発明により、半径方向圧力の分布が、ピストンリング継ぎ手の端部領域内で最小値となり、ピストンリングの継ぎ手から測って20°〜120°の範囲内で最大値となるような、バネ支持のピストンリング、特に油かきリングを提案する。この場合、肉厚の変化は、むき出しのバネ支持材の曲率半径に5次コサイン関数を重畳して生成され、これにより、滑り面上の半径方向圧力の分布は定数関数となり、従ってジャンプ(跳躍)がない。
【0019】
本発明の主題を、好適な実施例を用いた図面中に示して、以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明によるピストンリングの原理図であり、このピストンリングは油かきリングとして構成され、図に示す放射状の圧力分布を有する。
【
図2】
図1による油かきリングを示す図であり、バネ要素を受ける溝を有する。
【
図3】
図1よる油かきリングを示す図であり、ピストンリングの円周の上方から見て、バネ要素を受ける溝の肉厚が変化する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に、本発明によるピストンリング1の原理図を示し、このピストンリングは油かきリングとして形成され、半径方向圧力の分布を併せて示す。特許請求の範囲に記載のように、油かきリング1は2部分であるべきであり、環状のバネ支持材2及び同様な環状のバネ要素3を含み、この図では、バネ要素3は単に指示する。バネ支持材2はピストンリング継ぎ手4を設けられ、従って、2つのピストンリング継ぎ手の端部5、6が形成される。従来技術と同様に、ピストンリング1は、時計回りに配置された4つの四分円I、II、III、IVに分割されている。バネ支持材2の肉厚は基本的に、ピストンリング継ぎ手の端部5、6の領域内、及びピストンリング継ぎ手4に対向する背後領域7内で等値である。円周方向に見て、半径方向圧力の不均一な分布が存在することがわかる。バネ支持材2の断面は、ピストンリング継ぎ手4から測り始めた範囲β(α>20°から最大値α’=120°まで)内で肉厚の変化があり、この変化により、半径方向圧力の分布は、ピストンリング継ぎ手の端部5、6の領域内で最小値を有し、範囲β内で最大値を有する。肉厚の変化a−bは、むき出しのバネ支持材の曲率半径に5次コサイン関数を重畳して生成され、滑り面8上の半径方向圧力の分布は定数関数となり、従ってジャンプのない形態で生成される。
【0022】
この場合、円周内の範囲α〜α’は、ポケット2’、2”を形成することによって生成され、これらのポケットは、肉厚の低減a−bを伴う。
【0023】
図2に、
図1によるピストンリング1を、異なる視角及び断面で示す。同じ構成要素には同じ参照符号を与える。環状のバネ支持材2、並びに同様な環状のバネ要素3を示し、バネ要素3は、バネ支持材2中の円周溝9内に取り込まれる。
図1と同様に、ピストンリング1は4つの四分円I〜IVに分割されることがわかる。ピストンリング継ぎ手には、参照符号4を与える。この例では、ピストンリング1は、2つの滑り面ウェブ10、11を有する。断面D−D及びE−Eにおいて、ピストンリング継ぎ手の端部5、6が最大肉厚aを含むことがわかる。aからbへの肉厚の低減は、
図1と同様に、20°の角度αから始まり、ピストンリング継ぎ手4から測り始めて120°の角度α’までに及ぶ。最小肉厚bは、
図2の断面D−Dに見られる。円周方向に見て、円周溝9の溝底部9’から滑り面ウェブ10、11までの肉厚cは変化しないままである。
【0024】
この図では、
図1に示すポケット2’、2”を、同じように見ることができる。
【0025】
このことは、
図3では異なる。この図は、2番目の四分円から1番目の四分円までに、肉厚c(断面A−A、B−B)が肉厚c’まで低減される様子を示す。