(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6101314
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】潤滑式波動歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20170313BHJP
F16H 57/04 20100101ALI20170313BHJP
【FI】
F16H1/32 B
F16H57/04 J
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-136767(P2015-136767)
(22)【出願日】2015年7月8日
(65)【公開番号】特開2017-20537(P2017-20537A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2015年7月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】596016557
【氏名又は名称】上銀科技股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000660
【氏名又は名称】Knowledge Partners 特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100117396
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 大
(72)【発明者】
【氏名】▲黄▼ 柏▲融▼
(72)【発明者】
【氏名】▲蔡▼ 宗憲
【審査官】
塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭64−032953(JP,U)
【文献】
特開2008−089038(JP,A)
【文献】
特開平09−053707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
剛性サーキュラ・スプライン、可とう性フレックススプライン、ウェーブ・ジェネレータおよび少なくとも二つのスポイラーを備え、
前記可とう性フレックススプラインは、前記剛性サーキュラ・スプラインの内部に回転可能なように配置され、かつ前記剛性サーキュラ・スプラインと噛み合い、
前記ウェーブ・ジェネレータは、ベアリング、楕円状リングおよび軸連結器を有し、前記ベアリングは前記可とう性フレックススプラインの内部に配置され、前記楕円状リングは前記ベアリング内に配置され、前記軸連結器は前記楕円状リングに連結されるため、前記ウェーブ・ジェネレータと前記可とう性フレックススプラインとの間にチャンバーが形成され、
それぞれの前記スポイラーは、前記チャンバー内に位置するように前記ウェーブ・ジェネレータの前記軸連結器に連結され、前記軸連結器の駆動力によって前記軸連結器の軸心を中心とする互いに異なる半径の円周軌道に沿って回転する作動部を有することを特徴とする潤滑式波動歯車装置。
【請求項2】
前記スポイラーは、アーム部を有し、前記アーム部は一端が前記軸連結器に締め付けられ、他端が前記作動部に連結され、かつ延長方向が前記軸連結器の軸方向に垂直であり、前記作動部は前記アーム部から前記ウェーブ・ジェネレータと反対方向に伸びることを特徴とする請求項1に記載の潤滑式波動歯車装置。
【請求項3】
前記作動部は、少なくとも一つのガイド面を有し、前記ガイド面は前記円周軌道と交わることを特徴とする請求項2に記載の潤滑式波動歯車装置。
【請求項4】
前記スポイラーの前記ガイド面と前記軸心に垂直な参考面とは角度をなし、前記角度は50度から85度までであることを特徴とする請求項3に記載の潤滑式波動歯車装置。
【請求項5】
前記楕円状リングと前記軸連結器とは、接続・回転盤によって連結され、前記接続・回転盤は二つの相対する側面に形成された少なくとも一つの第一凸状部と、二つの相対する側面に形成された少なくとも一つの第二凸状部とを有し、前記楕円状リングは少なくとも一つの第一凹状部を有し、前記第一凹状部によって前記接続・回転盤の前記第一凸状部に嵌合され、前記軸連結器は少なくとも一つの第二凹状部を有し、前記第二凹状部によって前記接続・回転盤の第二凸状部に嵌合されることを特徴とする請求項1に記載の潤滑式波動歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波動歯車装置、特に潤滑式波動歯車装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
波動歯車装置は高減速比をもつ減速機である。従来の構造は剛性サーキュラ・スプラインと、可とう性フレックススプラインと、ウェーブ・ジェネレータとを備える。ウェーブ・ジェネレータは可とう性フレックススプラインの内部に回転できるように配置される。可とう性フレックススプラインは剛性サーキュラ・スプラインの内部に回転できるように配置され、かつウェーブ・ジェネレータにより楕円状にたわめられる。ウェーブ・ジェネレータが動力源により駆動され、回転する際、剛性サーキュラ・スプラインおよび可とう性フレックススプラインは、ウェーブ・ジェネレータの長軸に対応する歯が互いに噛み合い、ウェーブ・ジェネレータの短軸に対応する歯が完全に離れた状態になる。剛性サーキュラ・スプラインおよび可とう性フレックススプラインは歯数に差があるため、ウェーブ・ジェネレータを持続的に回転させれば、歯数の差により高減速比を実現させ、高トルクを生じることができる。
【0003】
波動歯車装置の使用寿命を延長し、摩損を減少させるために潤滑処理を採用する従来技術において、特許文献1は剛性サーキュラ・スプラインの給油通路を介して可とう性フレックススプラインに潤滑油を注入し、ウェーブ・ジェネレータに潤滑効果を生じることを提示した。しかしながら、波動歯車装置が稼動すれば、可とう性フレックススプラインに弾性変形を持続させるため、給油孔のあたりに応力集中が起こり、可とう性フレックススプラインの構造を損壊させるという現象が発生する。一方、特許文献2は可とう性フレックススプラインとウェーブ・ジェネレータとの間の接触部位に固体の潤滑剤を配置することを提示した。しかしながら、固定の潤滑剤は潤滑効果がそれほど好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】US7,905,426号公報
【特許文献2】US6,627,181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、潤滑処理を充分に行い、使用寿命を延長し、摩損を減少させることが可能な潤滑式波動歯車装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するため、潤滑式波動歯車装置は、剛性サーキュラ・スプライン、可とう性フレックススプライン、ウェーブ・ジェネレータおよび少なくとも一つのスポイラーを備える。可とう性フレックススプラインは剛性サーキュラ・スプラインの内部に回転可能なように配置され、かつ剛性サーキュラ・スプラインと噛み合う。ウェーブ・ジェネレータはベアリング、楕円状リングおよび軸連結器を有する。ベアリングは可とう性フレックススプラインの内部に配置される。楕円状リングはベアリング内に配置され、軸連結器は楕円状リングに連結されるため、ウェーブ・ジェネレータと可とう性フレックススプラインとの間にチャンバーが形成される。スポイラーはチャンバー内に位置するようにウェーブ・ジェネレータの軸連結器に連結されるため、軸連結器の駆動力によって軸連結器の軸心を中心に円周軌道に沿って回転することができる。
【0007】
上述した構造により、軸連結器が動力源の駆動力を受けると回転する際、スポイラーは軸連結器の回転に伴ってチャンバー内の潤滑油をウェーブ・ジェネレータに流入させ、ウェーブ・ジェネレータのベアリングに潤滑効果を充分に生じると同時に、剛性サーキュラ・スプラインと可とう性フレックススプラインとの噛み合い側歯面に溢れた潤滑油を流入させ、潤滑効果を生じるため、全体構造の寿命を延長し、摩損を減少させることができる。
【0008】
好ましい場合、スポイラーは前進方向に向かうガイド面を有し、ガイド面によって潤滑油の流動効率を増大させる。
【0009】
好ましい場合、軸連結器の軸心は両側にスポイラーを別々に有する。二つのスポイラーの円周軌道と軸連結器の軸心との間の距離は一致しなくてもよいため、スポイラーの作動範囲を増大させ、潤滑効果を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態による潤滑式波動歯車装置を示す斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態による潤滑式波動歯車装置を示す分解斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態による潤滑式波動歯車のスポイラーを示す斜視図である。
【
図4】本発明の一実施形態による潤滑式波動歯車の別のスポイラーを示す斜視図である。
【
図5】本発明の一実施形態による潤滑式波動歯車の別のスポイラーを示す斜視図である。
【
図6】本発明の一実施形態による潤滑式波動歯車の別のスポイラーを示す斜視図である。
【
図7】本発明の一実施形態による潤滑式波動歯車においてウェーブ・ジェネレータとスポイラーとが結合した状態を示す斜視図である。
【
図8】本発明の一実施形態による潤滑式波動歯車を示す断面図である。
【
図9】
図7に示した二つのスポイラーと軸連結器の軸心との間の距離が一致する状態を示す底面図である。
【
図10】本発明の一実施形態による潤滑式波動歯車において二つのスポイラーと軸連結器の軸心との間の距離が一致しない状態を示す断面図である。
【
図11】
図9に示した二つのスポイラーと軸連結器の軸心との間の距離が一致しない状態を示す底面図である。
【
図12】本発明の一実施形態による潤滑式波動歯車のスポイラーを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(一実施形態)
図1および
図2に示すように、本発明の一実施形態による潤滑式波動歯車装置10は、剛性サーキュラ・スプライン20、可とう性フレックススプライン30、ウェーブ・ジェネレータ40および二つのスポイラー50を備える。本実施形態において、スポイラー50の数が一つ以上であればよい。二つであれば最も好ましい。
【0012】
可とう性フレックススプライン30は、剛性サーキュラ・スプライン20と噛み合うように剛性サーキュラ・スプライン20の内部に配置される。
【0013】
図2および
図7に示すように、ウェーブ・ジェネレータ40は、ベアリング41、楕円状リング42、軸連結器43および接続・回転盤44を有する。ベアリング41は可とう性フレックススプライン30内に配置される。楕円状リング42はベアリング41内に配置される。軸連結器43と楕円状リング42とは接続・回転盤44によって連結される。接続・回転盤44は二つの相対する側面に形成された第一凸状部45と、二つの相対する側面に形成された第二凸状部46とを有する。楕円状リング42は接続・回転盤44に向かう側面に二つの相対する第一凹状部47を有する。軸連結器43は外周辺縁部に二つの相対する第二凹状部48を有する。上述した構造により、
図8に示すように楕円状リング42の第一凹状部47と接続・回転盤44の第一凸状部45とを嵌め合わせ、
図7に示すように軸連結器43の第二凹状部48と接続・回転盤44の第二凹状部46とを嵌め合わせれば、軸連結器43と楕円状リング42の組立が完成する。一方、
図8に示すように、ウェーブ・ジェネレータ40が可とう性フレックススプライン30内に装着されれば、ウェーブ・ジェネレータ40と可とう性フレックススプライン30との間にチャンバー49が形成される。チャンバー49は潤滑油の保管に用いられる。
【0014】
図7および
図8に示すように、スポイラー50は、チャンバー49内に配置され、アーム部51、作動部52および締付ユニット53を有する。アーム部51は一端が作動部52に連結され、他端が締付ユニット53によって軸連結器43上のチャンバー49に向かう一端に締め付けられ、かつ延長方向が軸連結器43の軸方向に垂直である。作動部52はアーム部51からウェーブ・ジェネレータ40と反対方向に伸び、かつガイド面54を有する。
図3、
図5および
図7に示すように、ガイド面54は軸連結器43の駆動力によってスポイラー50を前進させる方向に向かう。ガイド面54は形が特に限定されず、斜面(
図3参照)または円弧面(
図5参照)になってもよい。
図9に示すように、スポイラー50に軸連結器43が駆動力を生じる際、スポイラー50の作動部52は軸連結器43の軸心Cを中心に円周軌道P1、P2に沿って回転することによってチャンバー49内の潤滑油の流動を妨害する。本実施形態において、軸連結器43の軸心Cと二つのスポイラー50の作動部52の円周軌道P1、P2との間の距離D1、D2は同じである。
【0015】
図1、
図2および
図8に示すように、潤滑油の漏出を防止するために、本発明はさらに漏出防止用キャップ60を備える。漏出防止用キャップ60はウェーブ・ジェネレータ40を遮蔽するように剛性サーキュラ・スプライン20の一端に配置され、かつ穿孔62を有する。軸連結器43は漏出防止用キャップ60の穿孔62を貫通する。
【0016】
軸連結器43が動力源の駆動力を受けると回転する際、スポイラー50は作動部52によってチャンバー49内の潤滑油の流動を妨害する。このとき潤滑油は作動部52のガイド面54に沿ってウェーブ・ジェネレータ40に流入させ、ウェーブ・ジェネレータ40のベアリング41に潤滑効果を生じる。同時に溢れた潤滑油は剛性サーキュラ・スプライン20と可とう性フレックススプライン30との噛み合い側歯面に流入し、一方、潤滑油は漏出防止用キャップ60に遮断されるため、剛性サーキュラ・スプライン20、可とう性フレックススプライン30およびウェーブ・ジェネレータ40をめぐり回って流れ、潤滑効果を持続させることができる。
【0017】
本実施形態において、スポイラー50はガイド面54一つしかないため、潤滑油を流動させる際、単一方向にしか向かって回転できない。スポイラー50の回転方向は上述に限らず、限定されなくてもよい。
図4および
図6に示すように、スポイラー50の作動部52は二つのガイド面54を有する。二つのガイド面54はアーム部51を中心に対称的に形成されるため、スポイラー50は時計回りに回転しても逆時計回りに回転しても潤滑油を順調に流動させ、潤滑効果を向上させることができる。
図10および
図11に示すように、スポイラー50の作動範囲を増大させるために、軸連結器43の軸心Cと二つのスポイラー50の作動部52の円周軌道P1、P2との間の距離D1、D2は一致しない。上述した構造により、軸連結器43の駆動力によって二つのスポイラー50が回転する際、二つのスポイラー50の作動部52は作動範囲が重ならないため、流動妨害作用を充分に発揮できる。
【0019】
図12に示すように、スポイラー50のガイド面54と軸心Cに垂直の参考面Pとは角度θをなす。角度θは数式1を満たす。角度θが50°以上である場合、潤滑油はガイド面54に沿って上に流動することができる。角度θが50°以下である場合、可とう性フレックススプライン30の作動を妨害しないという条件下でスポイラー50の長さが制限されることを配慮しなければならないため、可とう性フレックススプライン30の底部に潤滑油の流動を妨害する作用を低下させる。従って、角度θは50°以上に限定される。
【0020】
上述したとおり、本発明潤滑式波動歯車装置10はスポイラー50によってウェーブ・ジェネレータ40のベアリング41に潤滑効果を充分に生じることができるだけでなく、剛性サーキュラ・スプライン20と可とう性フレックススプライン30との噛み合い側歯面に潤滑効果を生じることができるため、従来の技術に対し、全体構造の使用寿命を延長し、摩損を減少させることは確実にされる。
【符号の説明】
【0021】
10:潤滑式波動歯車装置、
20:剛性サーキュラ・スプライン、
30:可とう性フレックススプライン、
40:ウェーブ・ジェネレータ、
41:ベアリング、
42:楕円状リング、
43:軸連結器、
44:接続・回転盤、
C:軸心、
45:第一凸状部
46:第二凸状部、
47:第一凹状部、
48:第二凹状部、
49:チャンバー、
50:スポイラー、
51:アーム部、
52:作動部、
53:締付ユニット、
54:ガイド面、
P1、P2:円周軌道、
D1、D2:距離、
60:漏出防止用キャップ、
62:穿孔、
P:参考面、
θ:角度