(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6101434
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】リアクトル
(51)【国際特許分類】
H01F 27/00 20060101AFI20170313BHJP
H01F 37/00 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
H01F27/00 A
H01F37/00 M
H01F37/00 J
H01F37/00 K
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-104048(P2012-104048)
(22)【出願日】2012年4月27日
(65)【公開番号】特開2013-232542(P2013-232542A)
(43)【公開日】2013年11月14日
【審査請求日】2015年4月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 浩太郎
【審査官】
小池 秀介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−253319(JP,A)
【文献】
特開2010−203998(JP,A)
【文献】
特開2007−173702(JP,A)
【文献】
特開2013−153080(JP,A)
【文献】
特開2012−191172(JP,A)
【文献】
特開2012−114302(JP,A)
【文献】
特開2010−186766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F27/00
30/00−38/12
38/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアの周囲にボビンを介して巻回される環状のコイルと、
前記コイルを収納するケースと、
前記コイルに近接して配置されるセンサと、
前記センサを保持する板状のセンサ保持板と、
前記ケース内部に流し込まれる充填材と、
前記センサ保持板に隣接して前記ケースの上部から底部にわたって連続して形成される充填材の流通路、を備え、
前記コイルは2つの直線コイル部が所定の間隔を持って平行に配置されており、
前記充填材の流通路は2つの直線コイル部の間に設けられ、
前記ボビンは2つのボビンから構成され、
前記2つのボビンのうちの一方のボビンだけに前記センサ保持板が設けられ、
前記2つのボビンの間に前記充填材の流通路が形成されていることを特徴とするリアクトル。
【請求項2】
前記ボビンと一体に前記センサ保持板が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のリアクトル。
【請求項3】
前記センサはセンサ素子と当該センサ素子に接続されるリード線とからなり、前記センサ保持板に前記リード線を固定するフックを設けたことを特徴とする請求項1または2に記載のリアクトル。
【請求項4】
前記センサ保持板に凹部を設け、前記凹部は上方に開口部を形成して縦方向に前記センサを挿入することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のリアクトル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサの保持構造を備えたリアクトルに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ハイブリッド自動車などの駆動システムには昇圧回路としてリアクトルが用いられている。リアクトルでは高電流を流し続けると、コイルが過熱して電気特性が低下する。そのため、コイルが一定温度以上に発熱しないように温度制御を行うことが重要である。したがって、リアクトル内部に温度センサを取り付けて、内部温度を常に監視するようになっている。温度センサとしては、温度変化に対して電気抵抗が変化するサーミスタが主流である。
【0003】
温度センサの測定部位は常に同一箇所に位置決めする必要がある。そこで従来から、リアクトルには、
図8に示すような温度センサの保持構造が組み込まれている(特許文献1など)。
図8に示すように、コイル1が設けられており、コイル1の左右縁部には絶縁性部材からなる一対のボビン3,4が取り付けられている。これらコイル1およびボビン3,4が金属製のケース2内に収納され、ボビン3,4はケース2の壁面部に取り付けられている。
【0004】
コイル1は、平角線を巻いた2つの直線コイル部が所定の間隙を持って平行に配置され、端部同士が連結されている。コイル1の外周部とケース2の内壁面との間には若干の隙間が形成されている。
【0005】
ボビン3,4はケース2およびコア(図示せず)に対してコイル1の位置決めを行う部材である。
図8に示した温度センサの保持構造では、2つの直線コイル部の間であり、且つ一対のボビン3,4を突き合わせたときに生じるスペースを温度センサ5の保持スペースとして利用している。すなわち、ボビン3,4が温度センサ5の保持部材となっている。
【0006】
ボビン3の中央にはフック3aが設けられている。また、フック3aから連続して傾斜部3bが形成されている。ボビン4にはフック3aに対向して当接部4aが設けられている。ボビン4の当接部4aは傾斜部3bとほぼ平行となるように傾斜して形成されている。フック3aと当接部4aとの間には温度センサ5が挿入可能な挿入口6が開口されている。傾斜部3bと当接部4aとの間隔は挿入口6の開口部分よりも広く設定されている。
【0007】
温度センサ5はサーミスタからなり、センサ素子5aとこのセンサ素子5aに接続されるリード線5bを有している。温度センサ5はセンサ素子5aとリード線5bが折り曲げられた状態で折り曲げられた部分から挿入口6に挿入される。温度センサ5は、挿入口6に挿入後、センサ素子5aの先端側とリード線5bの先端側がV字状に拡がり、センサ素子5aの先端部がフック3aに係合し、リード線5bがボビン4の当接部4aに当接する。これにより、温度センサ5の位置決めがなされる。
【0008】
このような温度センサの保持構造によれば、温度センサ5をボビン3のフック3aとボビン4の当接部4aとで上下方向から挟む。このため、リード線5bが引っ張られても温度センサ5は抜けることがなく、温度センサ5の位置決めを正確に行うことができる。しかも、温度センサ5をネジなどによってケース2内部に固定するわけではないので、固定作業が容易であり、作業コストが低減するといったメリットがある。
【0009】
また、リアクトルには電気特性を維持するために優れた放熱性が求められている。したがって、ケース2の内部にエポキシ樹脂などにフィラーを混合してなる充填材7が上方から流し込まれ、コイル1とケース2との間に充填剤7が充填されている。充填材7は通常、コイル1の高さ寸法の中ほどまで注入される。充填剤7はコイル1をケース2内に固定する役割を果たしている。また、ケース2は金属製であるため、熱伝導性が良好である。このようなリアクトルによれば、充填材7とケース2を介して、コイル1からの発熱をリアクトル外部へ放散させることが可能であり、優れた放熱性を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−203998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
センサの保持構造を有するリアクトルには、次のような課題が指摘されていた。
(a)センサの保持部材である一対のボビンは形状が複雑であり、高価である。
図8に示した従来のセンサ保持構造では、温度センサ5を保持するスペースとして、一対のボビン3,4を突き合わせたときに生じるスペースを利用している。このため、温度センサ5を保持する形状をボビン3,4の両方に設けなくてはならない。その結果、ボビン3,4の形状が複雑となり、製造コストの高騰を招いていた。
【0012】
(b)充填材の注入時間が長く、作業性が低い。
従来、充填材7はコイル1の外周部とケース2の内壁面との間の狭い隙間から流し込んでいる。このとき、一対のボビン3,4にて温度センサ5を両側から保持する構造は、直線コイル部の間に設けられている。そのため、直線コイル部間では充填材7の流れるスペースが極めて狭く、ボビン3,4および温度センサ5が充填材7を流し込む際の障害物となっていた。この結果、充填材7が所定の領域全体に流れ切るまでに時間が長くかかってしまい、作業性が低下した。
【0013】
(c)充填材がコイルとケースの間に流れ込みにくく、隙間が生じて良好な放熱性が得にくい。
ボビン3のフック3aは傾斜部3bに対して上から被さるような形状となっている。そのため、充填材7をコイル1の上方から流した時にフック3aの先端部分が邪魔になり、充填材7はフック3aの下側にまで回り込みにくい。しかも、フック3aと温度センサ5のセンサ素子5a先端部との間には微小な隙間が存在することがあり、このような微小な隙間に充填材7が入り込むことは困難である。したがって、従来では、充填材7が存在しない空隙部分が生じることがあり、熱伝導性が低下して、所望の放熱性が発揮できないことがあった。
【0014】
近年では、車載用などのリアクトルは大容量化やコンパクト化が進められており、これに伴ってリアクトルには、いっそう高い放熱性が要求されている。放熱性を高めるためには、熱伝導性が良好な充填材を使用することが有効である。しかし、高熱伝導タイプの充填材ほど粘性が強い傾向にあり、特にフィラーを混合したものは流動性が低い。したがって、放熱性を高めるべく熱伝導性の高い充填材を使用すれば、充填材は狭い隙間にますます入っていきにくくなる。このような状況に鑑み、充填材が高粘度であっても、スムーズに流れるようにしたリアクトルの開発が待たれていた。
【0015】
本発明は、上述した課題を解決するために提案されたものである。本発明の目的は、センサ保持構造を簡略化することにより製造コストを低減して経済性の向上を図り、充填材をスムーズに流すことで充填材を短い時間で且つ隙間なく充填して、良好な作業性および放熱性を獲得することができるリアクトルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明は、次の構成要素を有している。
(1)コアの周囲にボビンを介して巻回される環状のコイル。
(2)前記コイルを収納するケース。
(3)前記コイルに近接して配置されるセンサ。
(4)前記センサを保持する板状のセンサ保持板。
(5)前記ケース内部に流し込まれる充填材。
(6)前記センサ保持板に隣接して前記ケースの上部から底部にわたって連続して形成される充填材の流通路。
(7)前記コイルは2つの直線コイル部が所定の間隔を持って平行に配置されている。
(8)前記充填材の流通路は2つの直線コイル部の間に設けられている。
(9)前記ボビンは2つのボビンから構成される。
(10)前記2つのボビンのうちの一方のボビンだけに前記センサ保持板が設けられている。
(11) 前記2つのボビンの間に前記充填材の流通路が形成されている。
【0017】
本発明のリアクトルにおいて、前記ボビンと一体に前記
センサ保持板が形成されるようにしてもよい
。
【0018】
さらに、本発明のリアクトルにおいて、前記センサはセンサ素子と当該センサ素子に接続されるリード線とからなり、前記
センサ保持板に前記リード線を固定するフックを設けるようにしてもよい。また、本発明のリアクトルは、前記
センサ保持板に凹部を設け、前記凹部は上方に開口部を形成して縦方向に前記センサを挿入するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、センサの保持部材に隣接してケースの上部から底部にわたって連続して充填材の流通路を形成したため、充填材をケース内にくまなく短時間で充填することができ、放熱性および作業性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図6】本発明の他の実施形態の保持部材の拡大平面図。
【
図7】本発明の他の実施形態の保持部材の拡大平面図。
【
図8】従来の温度センサの保持構造を示すためのリアクトルの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[1]代表的な実施形態の構成
図1〜
図5を用いて本発明の係るリアクトルの代表的な実施形態について説明する。
図1〜
図4に示すように、本実施形態のリアクトルは、コア装着部21と、環状のコイル11と、サーミスタからなる温度センサ15と、ボビン13,14と、略箱形のケース12と、ケース12内に注入される充填材7(
図1、
図2、
図4に矢印にて図示)とから構成されている。
【0022】
コア装着部21には平行して並ぶ一対の中空部が設けられており、中空部の内部に直方体状のコア材22および板状のスペーサ23(ともに
図1に図示)が装着される。コア装着部21の周囲にはコイル11が巻回される。コイル11は、平角線を巻いた2つの直線コイル部11a,11bが所定の間隙を持って平行に配置され、端部同士が連結されている。
【0023】
ケース12は、コイル11、ボビン13,14および温度センサ15を収納する部材であり、熱伝導性が良好で且つ軽量であるアルミニウム合金などからなる。ボビン13,14はケース12の壁面部に取り付けられている。ボビン13,14は絶縁性部材であって、金型に囲まれて加熱固化された樹脂成型品からなる。このうち、ボビン14は、ケース12縁部に固定される固定板40を有している。固定板40にはコア装着部21が取り付けられている。
【0024】
一方、ボビン13は、ケース12縁部に固定される固定板30と、固定板30と直交して設置されるセンサ保持板31とを有している。センサ保持板31は温度センサ15を保持する部分である。つまり、ボビン13が温度センサ15の保持部材となっている。センサ保持板31はコイル11の直線コイル部11a,11b間の間隙に差し込まれるようにして配置される。温度センサ15には径寸法が3mm程度の棒状のセンサ素子15aが設けられている。センサ素子15aの上端部にはリード線15bが接続されている。
【0025】
本実施形態の構成上の特徴は、ボビン13,14のうち、ボビン13側だけに温度センサ15のセンサ保持板31が設けられている点にある。
図4、
図5に示すように、センサ保持板31にはコイル11の中央付近に位置するように凹部32が形成されている。センサ保持板31において凹部32の上方にフック33が設けられている。
図4において一点鎖線で囲った部分に示すように、フック33は側面方向から見て断面がC字状となる係止部33aを有しており、この係止部33aにリード線15bを嵌め込むことにより、リード線15bをフック33に固定する。
【0026】
凹部32は上方に開口部を有しており、センサ素子15aを2方向から規制する切欠形状となっている。凹部32には温度センサ15のセンサ素子15aが縦方向から挿入される。前述したように充填材7は通常、コイル11の高さ寸法の中ほどまで注入される。このとき、センサ保持板31において充填材7と接する下半分は略四角形状に形成されている。
【0027】
また、ボビン13,14の間に充填材7の流通路17(
図4に示した点線で囲まれた部分)が形成された点も本実施形態の特徴である。流通路17はボビン13のセンサ保持板31に隣接してケース12の上部から底部にわたって連続して設けられている。なお、充填材7の流通路17は、
図3の点線で囲まれた部分に示すように、コイル11の外側縁部と、それと向かい合うケース12の内壁部との隙間にも形成されている。
【0028】
[2]代表的な実施形態の作用効果
代表的な実施形態の作用効果は次の通りである。
(a)温度センサを保持する構造がシンプルなので、低コストで済む。
本実施形態では、温度センサ15を1つのボビン13だけで保持しているので、ボビン14は温度センサ15を保持するための構成は不要となり、シンプルな形状で済む。
【0029】
また、ボビン13に関しても、凹部32とフック33を設けるといった簡単な形状であり、従来のように傾斜部分を設けていない。したがって、2つのボビンによって温度センサを保持した場合と比べて、ボビン13,14の簡略化を進めることができ、製造コストを低減する。
【0030】
(b)充填材の注入時間を短縮化することができ、作業性が向上する。
本実施形態では、充填材7の流通路17をケース12の上部から底部にわたって連続して形成している。そのため、上方から流す充填材7がケース2の底部に達するまでに、ボビン13,14はもとより温度センサ15にもぶつかることがない。すなわち、充填材7は何の障害物もなく、ケース12内の所定の領域全体に素早く行きわたることができる。その結果、充填材7の注入時間を短縮化することができ、作業性は大幅に向上する。
【0031】
(c)充填材がコイルとケースの間に流れ込み易く、良好な放熱性が得られる。
センサ保持板31にて充填材7が接する部分は単純な四角形状である。したがって、ボビン13のセンサ保持板31には上側から下側に被さるような部分はなく、充填材7をコイル11上方から流した時に流れが滞る部分がない。
【0032】
また、センサ保持板31では温度センサ15を保持するとき、凹部32によりセンサ素子15aを2方向から規制するだけなので、充填材7が入り込みにくい微小な隙間が生じることもない。したがって、充填材7はコイル11とケース12の間にくまなく流れ込むことができ、充填材7の存在しない箇所がなくなる。このような本実施形態では熱伝導性が向上し、放熱性を高めることが可能である。
【0033】
[3]他の実施形態
上記の実施形態では、センサの保持部材の形状や材質、充填材の粘度や充填量なども適宜選択可能である。また、上記の実施形態ではサーミスタなどの温度センサを保持する構造としたが、センサとしては温度センサに限定されるものではなく、磁気センサであってもよい。
【0034】
また、センサを保持する部分の形状や大きさ、配置箇所なども適宜変更可能である。例えば、温度センサ15が挿入される凹部の形状としては、センサを4方向から規制する貫通穴34(
図6に図示)や、センサを3方向から規制する断面がU字状の溝35であってもよい(
図7に図示)。前者はセンサを強固に保持できるといったメリットがあり、後者は保持力の強さとセンサの挿入し易さを兼ね備えている。
【0035】
また、センサのリード線を差し込むフックの形状としては、断面がC字状のものに限らず、リード線を係止可能であれば、その形状はコ字状など適宜変更可能である。さらに、充填材を構成する材料の種類や粘度、充填量、あるいは充填方法などは適宜選択可能である。また、ケースも金属製に限らず、複合材料から製造するなど自由に変更可能である。
【符号の説明】
【0036】
1、11…コイル
2、12…ケース
3、4、13、14…ボビン
5、15…温度センサ
6…挿入口
7…充填材
17…流通路
21…コア装着部
22…コア材
23…スペーサ
30、40…固定板
31…センサ保持板
32…凹部
33…フック
34…貫通穴
35…U字状の溝