特許第6101510号(P6101510)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6101510
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】非シアン銅−錫合金めっき浴
(51)【国際特許分類】
   C25D 3/58 20060101AFI20170313BHJP
   C25D 3/60 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
   C25D3/58
   C25D3/60
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-29315(P2013-29315)
(22)【出願日】2013年2月18日
(65)【公開番号】特開2014-156643(P2014-156643A)
(43)【公開日】2014年8月28日
【審査請求日】2015年12月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】390035219
【氏名又は名称】株式会社シミズ
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】河本 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小倉 亮太
(72)【発明者】
【氏名】清水 剛
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭56−072196(JP,A)
【文献】 特表2005−537394(JP,A)
【文献】 特表2008−537017(JP,A)
【文献】 特開2009−185381(JP,A)
【文献】 特開2001−342592(JP,A)
【文献】 特開2004−035980(JP,A)
【文献】 特開2004−091882(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2価の銅塩と、
2価の錫塩と、
錯化剤と、
鉄の水溶性塩、ビスマスの水溶性塩、アンチモンの水溶性塩およびジルコニウムの水溶性塩から選ばれる1種以上の水溶性金属塩と、
ピリジン類化合物と有機スルホン酸化合物との反応生成物からなる黒味光沢剤とを含み、
前記ピリジン類化合物は、ピリジン、ピコリン、ニコチン、ニコチン酸、ニコチン酸アミドおよびピペリジンから選ばれる1種以上のピリジン類化合物であり、
前記有機スルホン酸化合物は、アルカノ−ルスルホン酸化合物であることを特徴とする非シアン銅−錫合金めっき浴。
【請求項2】
前記錯化剤は、ピロリン酸塩であることを特徴とする請求項1記載の非シアン銅−錫合金めっき浴。
【請求項3】
前記アルカノ−ルスルホン酸化合物は、3−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸サルトンおよび2−ヒドロキシ−3−クロルプロパンスルホン酸ナトリウムから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項記載の非シアン銅−錫合金めっき浴。
【請求項4】
ポリエチレングリコ−ル、トリエチレングリコ−ル、ヘキサエチレングリコ−ル、ヘプタエチレングリコ−ルおよびオクタエチレングリコ−ルから選ばれる1種以上のノニオン系高分子界面活性剤からなる黒味光沢補助剤をさらに含むことを特徴とする請求項1〜のいずれか1つに記載の非シアン銅−錫合金めっき浴。
【請求項5】
エチレンジアミン、ジメチルアミン、ヘキサメチレンテトラミン、トリエタノ−ルアミンおよびヘキサメチレンジアミンから選ばれる1種以上からなるアミン誘導体をさらに含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の非シアン銅−錫合金めっき浴。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装飾用のめっきを行うためのめっき浴であって、シアン化合物を含有しない非シアン銅−錫合金めっき浴に関する。
【背景技術】
【0002】
シアン化合物は生物に有害であり、水質汚染、大気汚染、作業者の健康などに厳重な管理が必要である。その為、シアン化合物を含有しない弱酸性領域から弱アルカリ性領域の銅−錫合金めっきが求められているが、そのほとんどは、白色系の光沢外観を付与するための銅−錫合金めっきである。
【0003】
服飾などの外観性を向上させることを目的として、たとえばボタン、ファスナ−などにめっきを施すことが多いが、この場合に白色系だけでなく黒色系のめっきに対する需要もある。黒色系のめっきには、錫−ニッケルめっき、あるいは錫−コバルトめっきが使用されている。
【0004】
しかし、ニッケルおよびコバルトは人体に対し金属アレルギ−を引き起こすため、装身具、ボタン、ファスナ−、クリップなどのように直接、肌に触れる製品に対して、ニッケルおよびコバルトの使用は避けることが好ましく、金属アレルギ−を引き起こす可能性が少ない非シアン系の銅−錫合金めっきが求められている。
【0005】
特許文献1には、アミノカルボン酸、アンモニウム塩およびアルデヒド類を必須成分として含有する非シアン系黒色銅−錫合金めっき浴が記載されている。また、特許文献2には、めっき中の酸素の含有率が1.5at%〜50at%である黒色Cu−Sn−O系合金めっきが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−91882号公報
【特許文献2】特許第4299239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1,2記載の技術では、施されためっき皮膜は、淡黒色の色調となり、装飾用の黒色めっきとしては不十分であり、安定した黒色の色調のめっきを施すことが難しい。
【0008】
本特許出願人は、優れためっき用ピロリン酸浴を開発するために長く研究を重ね、その結果として開発した銅塩、第1錫、ピロリン酸アルカリ金属塩、水溶性ポリマ−およびキレ−ト剤を特定範囲で含む光沢銅−錫合金メッキ(特公昭63−9032)をもとに、鋭意研究の結果、銅、錫に加えて第3の水溶性金属塩を使用することにより人体に対して金属アレルギ−を引き起こすおそれもなく、安定した濃黒色のめっき皮膜が得られることを見出し、本発明を完成したものである。
【0009】
本発明の目的は、金属アレルギ−を引き起こすおそれがなく、安定した濃黒色のめっき皮膜が得られる非シアン銅−錫合金めっき浴を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、2価の銅塩と、
2価の錫塩と、
錯化剤と、
鉄の水溶性塩、ビスマスの水溶性塩、アンチモンの水溶性塩およびジルコニウムの水溶性塩から選ばれる1種以上の水溶性金属塩と、
ピリジン類化合物と有機スルホン酸化合物との反応生成物からなる黒味光沢剤とを含み、
前記ピリジン類化合物は、ピリジン、ピコリン、ニコチン、ニコチン酸、ニコチン酸アミドおよびピペリジンから選ばれる1種以上のピリジン類化合物であり、
前記有機スルホン酸化合物は、アルカノ−ルスルホン酸化合物であることを特徴とする非シアン銅−錫合金めっき浴である。
【0011】
また本発明は、前記錯化剤が、ピロリン酸塩であることを特徴とする。
【0014】
また本発明は、ポリエチレングリコ−ル、トリエチレングリコ−ル、ヘキサエチレングリコ−ル、ヘプタエチレングリコ−ルおよびオクタエチレングリコ−ル等から選ばれる1種以上のノニオン系高分子界面活性剤からなる黒味光沢補助剤をさらに含むことを特徴とする。
【0015】
また本発明は、エチレンジアミン、ジメチルアミン、ヘキサメチレンテトラミン、トリエタノ−ルアミンおよびヘキサメチレンジアミン等から選ばれる1種以上からなるアミン誘導体をさらに含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、2価の銅塩および2価の錫塩に加えて、錯化剤と、第3の金属成分として、鉄の水溶性塩、ビスマスの水溶性塩、アンチモンの水溶性塩およびジルコニウムの水溶性塩から選ばれる1種以上の水溶性金属塩と、ピリジン類化合物と有機スルホン酸化合物との反応生成物からなる黒味光沢剤とを含み、前記ピリジン類化合物は、ピリジン、ピコリン、ニコチン、ニコチン酸、ニコチン酸アミドおよびピペリジンから選ばれる1種以上のピリジン類化合物であり、前記有機スルホン酸化合物は、アルカノ−ルスルホン酸化合物である非シアン銅−錫合金めっき浴である。
【0017】
本発明のめっき浴を用いためっきでは、ニッケルおよびコバルトを使用しないので、金属アレルギ−を引き起こすおそれがなく、また上記の第3の金属成分を含むことで、安定した濃黒色のめっき皮膜が得られる。
【0018】
また本発明によれば、前記錯化剤が、ピロリン酸塩であり、ピリジン類化合物と有機スルホン酸化合物との反応生成物からなる黒味光沢剤をさらに含むことにより、濃黒色にさらに光沢が付与されためっき皮膜が得られる。
【0019】
また本発明によれば、黒味光沢剤の原料として、前記ピリジン類化合物は、ピリジン、ピコリン、ニコチン、ニコチン酸、ニコチン酸アミドおよびピペリジン等から選ばれる1種以上が好ましく、前記有機スルホン酸化合物は、アルカノ−ルスルホン酸化合物が好ましい。
【0020】
また本発明によれば、前記アルカノ−ルスルホン酸化合物として、3−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸サルトンおよび2−ヒドロキシ−3−クロルプロパンスルホン酸ナトリウム等から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。
【0021】
また本発明によれば、ポリエチレングリコ−ル、トリエチレングリコ−ル、ヘキサエチレングリコ−ル、ヘプタエチレングリコ−ルおよびオクタエチレングリコ−ル等から選ばれる1種以上のノニオン系高分子界面活性剤からなる黒味光沢補助剤をさらに含む。
【0022】
これにより、低電流部のめっきにおいても安定した黒色の皮膜が得られ、バレルめっき法でめっきを行った場合に、色のばらつきの無い黒色めっき皮膜が得られる。
【0023】
また本発明によれば、エチレンジアミン、ジメチルアミン、ヘキサメチレンテトラミン、トリエタノ−ルアミンおよびヘキサメチレンジアミン等から選ばれる1種以上からなるアミン誘導体をさらに含むので、めっき浴中の錯体が安定する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のめっき浴は、2価の銅塩、2価の錫塩および錯化剤に加えて、さらに第3の金属成分として、水溶性の金属塩を含み、ピリジン類化合物と有機スルホン酸化合物との反応生成物からなる黒味光沢剤とを含むことを特徴としている。含有させる水溶性の金属塩は、鉄の水溶性塩、ビスマスの水溶性塩、アンチモンの水溶性塩およびジルコニウムの水溶性塩から選ばれる1種以上の水溶性金属塩であり、前記ピリジン類化合物は、ピリジン、ピコリン、ニコチン、ニコチン酸、ニコチン酸アミドおよびピペリジンから選ばれる1種以上のピリジン類化合物であり、前記有機スルホン酸化合物は、アルカノ−ルスルホン酸化合物である非シアン銅−錫合金めっき浴である。
【0025】
本発明において、めっき浴を構成する2価の銅塩としては、2価の銅と無機酸もしくは有機酸との化合物、または2価の銅の酸化物または塩化物があげられる。具体的には、硫酸銅、ピロリン酸銅、酸化銅、塩化銅などがあげられる。
【0026】
2価の銅塩は、めっき浴中に金属銅として、1〜30g/Lとなる量が含まれることが好ましい。
【0027】
本発明において、めっき浴を構成する2価の錫塩としては、2価の錫と無機酸もしくは有機酸との化合物、または2価の錫の酸化物または塩化物があげられる。具体的には、硫酸第一錫、ピロリン酸第一錫、シュウ酸第一錫、酸化第一錫、塩化第一錫などがあげられる。
【0028】
2価の錫塩は、めっき浴中に金属錫として、1〜30g/Lとなる量が含まれることが好ましい。
【0029】
また、前記2価の銅塩と2価の錫塩とは、そのめっき浴中における金属銅と金属錫との重量比率が、金属銅1に対して、金属錫が0.5〜2.0となるよう配合されていればよい。好ましくは、金属銅1に対して金属錫が0.7〜1.8であり、より好ましくは、金属銅1に対して金属錫が0.8〜1.4であり、特に好ましくは金属銅1に対して金属錫が0.9〜1.2配合される。
【0030】
本発明のめっき浴においては、黒色外観のめっき皮膜を得るために、めっき浴中における金属銅と金属錫との重量比率が重要であり、金属銅1に対する金属錫の範囲が、0.5未満または2.0を越えて配合された場合には、析出する合金の組成が変動し、色調を制御することができなくなる。
【0031】
本発明のめっき浴において、第3の金属成分である水溶性金属塩としては、鉄の水溶性塩、ビスマスの水溶性塩、アンチモンの水溶性塩およびジルコニウムの水溶性塩から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0032】
水溶性塩としては、塩化物、酸化酒石酸塩、硝酸塩およびフッ化物などが挙げられる。
【0033】
水溶性金属塩の配合量は、水溶性金属塩と2価の錫塩との重量比率(水溶性金属塩/2価の錫塩)が0.008〜0.4の重量比率で配合されていればよく、好ましくは0.01〜0.3であり、特に好ましくは0.03〜0.2である。
【0034】
本発明において、水溶性金属塩と2価の錫塩との重量比率が0.008未満または0.4を超えて配合された場合には、析出する合金の組成が変動し、色調を制御できなくなる。
【0035】
本発明のめっき浴において、使用できる錯化剤としては、2価の銅塩および2価の錫塩などの金属塩をピロリン酸錯塩として水に溶解させる作用を有するものであって、めっきによって得られた皮膜の光沢に影響を与えないものであれば特に限定されないが、ピロリン酸塩を用いることが好ましい。
【0036】
ピロリン酸塩としては、ピロリン酸のアルカリ金属塩が好ましく、ピロリン酸アルカリ金属塩としては、ピロリン酸カリウム、ピロリン酸ナトリウムがあげられる。
【0037】
錯化剤は、めっき浴中の濃度が、100〜500g/Lとなるように配合される。めっき浴中の錯化剤濃度が100g/L未満であれば銅や錫と不溶性錯塩を形成し、正常なめっき皮膜が得られなくなる。また錯化剤濃度が500g/Lを超えると電流効率が低下し、実用的でない。
【0038】
本発明のめっき浴において、上記の成分に加えて、さらに黒味光沢剤となるピリジン類化合物と有機スルホン酸化合物の反応生成物を含むことが好ましい。この反応生成物は、ピリジン類化合物と有機スルホン酸化合物とを溶媒中で反応させて得られる反応生成物(以下、この反応生成物をスルホベタインということがある)である。
【0039】
反応生成物であるスルホベタインは、ピリジン類化合物と有機スルホン酸化合物とを、モル比が、ピリジン類化合物:有機スルホン酸化合物=1:1〜1:1.2の割合で反応させて生成した化合物である。
【0040】
スルホベタインは、めっき浴中の濃度が0.1〜30ml/Lとなるように配合されればよく、好ましくは0.2〜10ml/Lであり、より好ましくは0.3〜3.0ml/Lとなるよう配合される。
【0041】
スルホベタインの配合量が0.1ml/L未満であれば光沢外観が得られず、また30ml/Lを超えると、めっき皮膜の付き回り性と耐食性が悪化する。
【0042】
スルホベタインの原料であるピリジン類化合物としては、ピリジンのほか、ピリジンに官能基または置換基を導入したもの、あるいはピリジンを還元したものを用いることができ、たとえばピリジン、ピコリン、ニコチン、ニコチン酸、ニコチン酸アミドおよびピペリジンなどがあげられ、これらの1種または2種以上を混合してスルホベタインの原料として用いることができる。
【0043】
また、ピコリンにおいてはピリジンの2位、3位または4位にメチル基が導入された2−メチルピコリン、3−メチルピコリンおよび4−メチルピコリンの3種類があり、本発明のめっき浴においては、これら3種類のメチルピコリンをいずれも好適に使用することができる。
【0044】
スルホベタインのもう一方の原料である有機スルホン酸化合物としては、アルカノ−ルスルホン酸もしくはその環状エステル、またはそれらの誘導体であるアルカノ−ルスルホン酸化合物があげられ、これらの1種または2種以上を混合してスルホベタインの原料として用いることができる。
【0045】
アルカノ−ルスルホン酸化合物としては、たとえば2−ヒドロキシエタン−1−スルホン酸、2−ヒドロキシプロパン−1−スルホン酸、1−ヒドロキシプロパン−2−スルホン酸、3−ヒドロキシプロパン−1−スルホン酸、2−ヒドロキシブタン−1−スルホン酸、4−ヒドロキシブタン−1−スルホン酸、2−ヒドロキシペンタン−1−スルホン酸、2−ヒドロキシヘキサン−1−スルホン酸、2−ヒドロキシデカン−1−スルホン酸、2−ヒドロキシドデカン−1−スルホン酸、3−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸サルトン、2−ヒドロキシ−3−クロルプロパンスルホン酸ナトリウムなどがあげられ、3−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸サルトンおよび2−ヒドロキシ−3−クロルプロパンスルホン酸ナトリウムが特に好ましい。
【0046】
スルホベタインは、ピリジン類化合物と、有機スルホン酸化合物とを、溶媒中で加熱下に反応させることにより製造することができる。このとき、ピリジン類化合物と、有機スルホン酸化合物とは、ピリジン類化合物1モルに対して有機スルホン酸化合物を1〜1.2モルとなる量を用いるのが好ましく、より好ましくは1:1.1である。溶媒としては、水、エタノ−ルなどの極性溶媒があげられる。反応に際しては、溶媒とピリジン類化合物とのモル比率を2:1とすることが好ましい。加熱温度としては約90〜140℃、とりわけ105〜110℃が好ましく、反応時間は45分間〜2時間であり、概ね1時間で完結する。その後、未反応のピリジン類化合物を、たとえば200〜300mmHg程度の減圧下で、30〜40分間濃縮除去する。
【0047】
生成したスルホベタインは、減圧濃縮され未反応のピリジン類化合物が除去された濃縮液を冷却し、結晶を析出させて濾過などにより単離してめっき浴に配合してもよく、あるいはスルホベタインを含む反応液(濃縮してもよい)を、そのままめっき浴中に配合することもできる。
【0048】
スルホベタインを、反応液から単離してめっき浴に配合するときは、めっき浴中の濃度が0.05g〜15g/Lとなるように配合するのが好ましい。
【0049】
また、スルホベタインを反応液のままめっき浴に配合するときは、ピリジン類化合物の2倍の水を溶媒として反応させた場合を例にとれば、反応終了後に得られた反応液を0.1〜30ml/Lめっき浴に配合するのが好ましい。
【0050】
本発明のめっき浴には、さらに黒味光沢補助剤を配合することができ、黒味光沢補助剤としては、ポリエチレングリコ−ル、トリエチレングリコ−ル、ヘキサエチレングリコ−ル、ヘプタエチレングリコ−ル、オクタエチレングリコ−ルから選ばれる1種以上のノニオン系高分子界面活性剤が挙げられる。このような黒味光沢補助剤は、とりわけ低電部の光沢補助剤として有効である。
【0051】
黒味光沢補助剤は、めっき浴中の濃度が0.1〜30g/Lとなるように配合されるのが好ましく、その濃度が0.1g/L未満であれば、光沢が不均一となる。また濃度が30g/Lを超えると錯塩の状態が変化してめっき浴の液色が青緑色に変わり正常なめっきができなくなる。
【0052】
さらに、本発明のめっき浴においては、めっき浴安定剤を配合することができ、めっき浴安定化剤としては、エチレンジアミン、ジメチルアミン、ヘキサメチレンテトラミン、トリエタノ−ルアミン、ヘキサメチレンジアミンなどのアミン誘導体があげられる。これらの安定化剤は、めっき浴中のピロリン酸錯塩の状態を安定させるうえで有用であり、その濃度としてはめっき浴に0.1〜30g/Lとなるよう配合されるのが好ましい。安定剤の配合量が0.1g/L未満であれば錯塩の状態が不安定になり、黒色光沢外観が得られなくなる。
【0053】
本発明のめっき浴においては、さらに上記各成分以外にも、めっきの仕上がりに悪影響を与えない限り、この技術分野において常用ないし汎用される添加剤を配合することができる。
【0054】
本発明のめっき浴は、pHが中性〜アルカリ性の7〜10であり、好ましくは8.5〜9.5に調整される。pHが7未満の場合には、ピロリン酸塩がオルソリン酸塩に変化して均一電着性が低下する。また得られるめっき皮膜の表面が粗くなる。さらに、pHが10を超えた場合には、均一電着性や電流効率が低下して、めっき浴の安定性に悪影響を及ぼす。さらに、本発明のめっき浴を用いてめっきを施す場合の、めっき浴の液温は10〜60℃、好ましくは25〜50℃である。
【0055】
本発明のめっき浴は、電流密度が0.05〜0.2A/dmのような微小電流密度で通電されるバレルめっき法だけでなく、電流密度が0.5〜2.0A/dmのような比較的大きな電流密度で通電されるラックめっき法にも使用できる。
【0056】
以下、本発明を実施例などによりさらに詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではない。
(めっき浴の建浴)
<スルホベタインの製造例1>
ピコリン93g(1モル)と、3−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸サルトン134g(1.1モル)と、水160mlを反応容器に入れ、撹拌しながら110℃に加熱して1時間反応させた。その後、未反応のピリジン類を除去する為に減圧処理(300mmHg)を40分間行った。これにより、製造例1のスルホベタイン50gを含む反応液190mlを得た。
【0057】
<スルホベタインの製造例2>
3−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸サルトンに代えて、2−ヒドロキシ−3−クロルプロパンスルホン酸ナトリウム215g(1.1モル)を用いる以外は、製造例1と同様にして、製造例2のスルホベタイン60gを含む反応液200mlを得た。
【0058】
<ピペラジンとエピハロヒドリンとの1:1反応生成物の製造例A>
水300mlとピペラジン86g(1モル)を撹拌溶解して液温を40℃にした。撹拌状態でエピクロロヒドリン92g(1モル)を10回に分けて投入した。この際、反応熱で液温が上昇したが上限を80℃としてエピクロロヒドリンの投入間隔を調節した。エピクロロヒドリンの全量投入後、液温を80℃に保ち1時間撹拌を続けた。その後、室温まで自然冷却し、水を加えて全量を1Lに調整して製造例Aの反応生成物を得た。
【0059】
実施例1〜12および比較例1,2として、表1〜5に記載の各成分を、脱イオン水に順次溶解させ、めっき浴5Lを建浴した。
【0060】
(めっき処理)
真鍮製ボタン100個(10dm)をアルカリ電解脱脂し、水洗、酸洗浄、水洗の前処理を行った後、実施例1〜12および比較例1,2のめっき浴を用いて、ミニバレル中で以下の条件によりめっき処理を行った。
【0061】
アルカリ脱脂条件
前処理剤(商品名:アクチベ−タCu、株式会社シミズ製)
陽極=カ−ボン板、電流密度=3A/dm、通電時間=5分間
めっき処理条件
陽極=SUS板、電流密度=0.5A/dm、めっき時間=5分間
めっき厚=約0.2μm
得られためっきボタンについて、外観および皮膜特性を評価した。各特性の評価方法は、以下のとおりである。
【0062】
(1)金属比
鉄板の表面を実施例1〜12および比較例1,2と同条件でめっき処理し、エネルギ−分散型X線分析装置(Genesis XM4、エダックス・ジャパン株式会社製)を用いて鉄板表面のめっき皮膜中の金属比を測定した。
【0063】
なお、めっき皮膜の金属比は、銅と錫の電位差により変化するが、電位差は金属塩の添加量だけでなく、錯化剤、光沢剤、添加剤濃度により少しずつ変化するため、実施例1〜12および比較例1,2の全てについて測定した。
【0064】
なお、黒色光沢外観を得るには錫/銅比が40/60〜60/40が必要であるが、めっき浴に含まれる各成分の含有量が上記実施形態で規定された範囲内にあれば、錫/銅比が40/60〜60/40を満たす。
【0065】
(2)めっき均一性外観
目視により全てのめっきボタンが同一光沢、同一色調であれば「○」とし、1個でも光沢または黒色色調の異なるものがあれば「×」とした。
【0066】
(3)めっき外観色(黒味色調)
めっきボタンを分光測色計(CM−3500、コニカミノルタオプティクス株式会社製)により、拡散照明8°受光方式、測定径Φ4mmにてL値を測定した。測定されたL値が小さいほど濃い黒色を呈し、黒味色調として好ましい。
【0067】
(4)耐食性
恒温恒湿試験機(PH−1KT、エスペック株式会社製)を用いて、温度70℃、湿度95%の雰囲気下で24時間静置し、めっき皮膜の変色の有無を目視により確認した。
変色が見られなかったものを「○」とし、変色が見られたものを「×」とした。
【0068】
(5)めっき剥がれ
めっきボタンをペンチで180°折り曲げたときのめっき皮膜の剥がれの有無を目視で確認した。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
【表4】
【0073】
【表5】
【0074】
結果は、以下の表6に示すとおりであり、実施例1〜9のめっき浴を用いてバレルめっきした場合には、厚膜(0.2〜0.3μm)で、分光側色計のL値が小さく、黒色光沢外観を有し、めっき剥がれの無いめっき皮膜が得られた。また、黒味光沢補助剤を含まない実施例10〜12のめっき浴では、分光側色計のL値が実施例1〜9に比べて少し大きいものの、比較例1,2に比べると十分に値が小さく、黒色光沢外観を有し、めっき剥がれの無いめっき皮膜が得られた。これに対して比較例1,2のめっき浴を用いてバレルめっきした場合には、分光側色計のL値が高く、外観は淡黒色であり、さらに、比較例1では変色が見られ、比較例2ではめっき剥がれが生じた。
【0075】
【表6】
【0076】
本発明のめっき浴を用いることにより、ニッケル、コバルトなどを含まないので、金属アレルギ−を引き起こすおそれがなく、安定した黒色のめっき皮膜が得られることが可能となった。