(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6101524
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】塗材組成物及びその床施工方法並びにそれによる床構造
(51)【国際特許分類】
C04B 28/04 20060101AFI20170313BHJP
C04B 7/02 20060101ALI20170313BHJP
C04B 24/28 20060101ALI20170313BHJP
C04B 41/71 20060101ALI20170313BHJP
C09D 1/08 20060101ALI20170313BHJP
C09D 163/00 20060101ALI20170313BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20170313BHJP
E04G 21/02 20060101ALI20170313BHJP
E04G 21/10 20060101ALI20170313BHJP
E04F 15/12 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
C04B28/04
C04B7/02
C04B24/28 A
C04B41/71
C09D1/08
C09D163/00
C09D175/04
E04G21/02 101
E04G21/10 Z
E04F15/12 K
E04F15/12 C
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-54820(P2013-54820)
(22)【出願日】2013年3月18日
(65)【公開番号】特開2014-181137(P2014-181137A)
(43)【公開日】2014年9月29日
【審査請求日】2015年12月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】内田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宏一
【審査官】
岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】
特許第4794007(JP,B2)
【文献】
特開2009−143776(JP,A)
【文献】
特開2001−122651(JP,A)
【文献】
特開昭63−182244(JP,A)
【文献】
特開2007−277047(JP,A)
【文献】
特開平09−077547(JP,A)
【文献】
特開平09−059051(JP,A)
【文献】
特開2001−262789(JP,A)
【文献】
特開平10−176424(JP,A)
【文献】
特開2009−096814(JP,A)
【文献】
特開2013−216523(JP,A)
【文献】
特開2013−217028(JP,A)
【文献】
特開2013−217031(JP,A)
【文献】
特開2013−217033(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第00309609(EP,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0135656(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性セメントと骨材と水系エポキシ樹脂を含む水系エポキシ樹脂モルタル組成物であって、水硬性セメントと水の重量比が0.35以上0.37以下、エポキシ樹脂に該エポキシ樹脂と反応する硬化剤を加えたものを樹脂とした場合の該樹脂の樹脂固形分重量が、水を含んだ全配合物の重量に対して8%以上9%以下であり、硬化物の総細孔量が0.10cc/g以上0.15cc/g以下、T.I値が1.1以上1.3以下であり、水系エポキシ樹脂は、非乳化型のエポキシ樹脂と自己乳化型の硬化剤とから成り、塗材組成物の混合直後における粘度が2Pa・s以上3Pa・s以下/23℃であり、水硬性セメントが白セメントであり、下地コンクリートに0.8〜1.2mm厚みに塗付して硬化させることを特徴とする塗材組成物。
【請求項2】
下地コンクリート表面に請求項1記載の塗材組成物を塗付して硬化させ、無溶剤系エポキシ樹脂又は無溶剤系硬質ウレタン樹脂の仕上塗材を重層することを特徴とするコンクリート床施工方法。
【請求項3】
下地コンクリート表面に請求項1記載の塗材組成物を塗付して硬化させ、溶剤系若しくは水系のエポキシ樹脂又は溶剤系若しくは水系のウレタン樹脂の仕上塗材を重層することを特徴とするコンクリート床施工方法。
【請求項4】
非乳化型のエポキシ樹脂と自己乳化型の硬化剤から成る水系エポキシ樹脂100重量部に普通ポルトランドセメント80〜120重量部を混合して下地コンクリート表面に0.08〜0.12kg/m2擦り込むように塗付し、次に請求項1記載の塗材組成物を塗付して硬化させ、無溶剤系エポキシ樹脂又は無溶剤系硬質ウレタン樹脂の仕上塗材を重層することを特徴とするコンクリート床施工方法。
【請求項5】
非乳化型のエポキシ樹脂と自己乳化型の硬化剤から成る水系エポキシ樹脂100重量部に普通ポルトランドセメント80〜120重量部を混合して下地コンクリート表面に0.08〜0.12kg/m2擦り込むように塗付し、次に請求項1記載の塗材組成物を塗付して硬化させ、溶剤系若しくは水系のエポキシ樹脂又は溶剤系若しくは水系のウレタン樹脂の仕上塗材を重層することを特徴とするコンクリート床施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下地コンクリート表面に塗付する塗材組成物及び床施工方法並びにそれによって形成される床構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水分が多く含まれている床下地コンクリートや地下水位の高い場所に打設した土間コンクリート等にはコンクリート中に断続的に水分が供給される。このような床下地コンクリートに塗床材や高分子系長尺シート床材又は木質フローリング等の床仕上材を施工すると、コンクリート中に過剰に含まれている水分が下地コンクリートと床仕上材との界面に移動し、床仕上材に剥がれやふくれが生じ、木質フローリングにあっては水分により長さ変化が生じて仕上げ面が反り返ることが多々あった。
【0003】
これに対して、汎用セルフレベリング材へ水硬性セメント質100重量部当たり0.1〜2.0重量部相当量のアゾジカルボン酸エステル化合物を添加して成るとして、アゾジカルボン酸エステル化合物がもつアルカリ性雰囲気下で常温にて多量の微細発泡をする特質を有効に活用し、非通気性床仕上げ材用の通気性コンクリート下地層の形成に用いられるに好適なるセルフレベリング系床下地形成材組成物が開示されている(特許文献1)。
【0004】
また床面から上昇してくる水蒸気に対しJISK5400「塗料一般試験方法」8.17の水蒸気透過度が40g/m
2・24h以上、JISA6916「仕上塗材用下地調整塗材」6.13の圧縮強さが20N/mm
2以上、同6.14の付着強さが1N/mm
2以上となる塗膜を形成するポリマーセメント系下地調整塗材層(A)、下塗材層(B)、メタクリル酸メチルモノマー及び/またはオリゴマー、パラフィン及び/またはワックス、重合触媒を含有する仕上材によって形成される仕上材層(C)を順に積層する方法で、MMA系仕上材を用いた塗装仕上において、塗膜が膨れ、剥離、反り、割れ等を生じず、密着性に優れ、人や物の荷重に耐えることができ、特に水分を多く含有する下地に対しても十分に適用可能な床塗膜積層工法が開示されている(特許文献2)。
【0005】
また、防水材層であるウレタン系樹脂防水材と下地材層であるセメントの中間に用いる屋上用の下地調整剤であり、エポキシ樹脂とポルトランドセメントを質量比で1.0:1.0〜3.0で含有してなる下地調整剤組成物が、下地から生じる水分を吸収して防水材層に水分が達するのを抑えることで防水材層のふくれを防止することが開示されている(特許文献3)。
【0006】
また、コンクリートやモルタル等からなる建築構造物における表面滲出水圧のある下地表面に、反応硬化型のエポキシ樹脂エマルジヨンと水硬性セメントとの混合物からなる下地調整層を形成した後、この下地調整層の上に急速反応型弾性エポキシ樹脂塗膜を塗着することを特徴とする防湿・防水層の施工方法では、下地調整層用の混合物は、上記エポキシ樹脂エマルジヨンの固形分を25%以上で、この樹脂エマルジヨンの水分に対して400〜200重量%の範囲で水硬性セメントを混入したものが、エポキシ樹脂エマルジヨンの分散媒体である水分と反応し、エマルジヨンの造膜を促進させるとともに、下地から滲出してくる水分をその水和反応の過程で吸着・保水せしめ、表面滲出水圧の影響を低減させ、下地との同質性を高め、下地調整層の接着力を増強させることが開示されている(特許文献4)。
【0007】
また、水硬性セメントと骨材と水系エポキシ樹脂を含む水系エポキシ樹脂モルタル組成物であって、水硬性セメントと水の重量比が0.3以上0.4以下、かつ樹脂固形分が全固形分重量に対して4%以上10%以下であり、硬化物の総細孔量が0.05cc/g以上0.2cc/g以下で、混合直後の粘度が0.3Pa・s以上8Pa・s以下/23℃、かつT.I値が1.0〜1.5であり、また水硬性セメントが白セメントであることを特徴とする塗材組成物であり、この塗材組成物を塗付、硬化させ無溶剤系、溶剤系、若しくは水系エポキシ樹脂又は無溶剤系、溶剤系、若しくは水系ウレタン樹脂の仕上塗材を重層される床施工方法及び床構造が提案されている(特許文献5)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−317656号公報
【特許文献2】特開2002−70297号公報
【特許文献3】特開平9−59051号公報
【特許文献4】特公平3−79494号公報
【特許文献5】特開2008−230952号公報
【0009】
特許文献1ではセルフレベリング系下地形成材組成物に透気・透湿性能を併せ持たせその透気係数を10
−14〜10
−12m
2程度の高透気性能とし、特許文献2ではポリマーセメント系下地調整塗材層の水蒸気透過度を40g/m
2・24hr以上とし、また特許文献3では具体的な水蒸気透過度や透気係数に言及しないまでも、下地からの水分を下地調整剤層が吸収するとして下地調整剤層が透水性を有することを明記し、特許文献4では同様にエポキシ樹脂エマルションと混合する水硬性セメントが下地から滲出してくる水分をその水和反応の過程で吸着・保水せしめて表面滲出水圧の影響を低減させるとして、いずれも施工直後から供給される水分が、下地調整剤層内を移動することによって、その上層に施工された仕上塗材に膨れ等を発生させる原因となる浸透圧や水蒸気圧等の圧力を当該下地調整剤層内に散逸させて、結果として仕上塗材のふくれ等の発生を防止している。
【0010】
しかしながら、これらの文献に示された下地調整剤層の透気或いは透水性により仕上塗材をふくれさせる何らかの圧力を当該下地調整剤層内に散逸させる方式では、長期間にわたりコンクリート中に多量に水分が供給され続けるような湿潤な土地に打設されたコンクリートや、何らかの原因で水分がコンクリートに供給され続けるような場合には、いつかは床仕上材の下側に隣接する下地調整剤層内が水分で飽和状態となり、ついには当該下地調整剤層と塗床材界面或いは当該層と貼り床材の付着界面まで水分が到達し、塗り床材や貼り床材である仕上材と当該下地調整剤層との付着力が当該水分によって低下して仕上材が剥離し、さらに水分が供給され続ける場合は、水分の逃げるところが無くなって遂にはこれらの仕上材に膨れが生じていた。
【0011】
特に床仕上材として木質フローリング材を施工すると、下地コンクリートから上昇してくる水蒸気は、下地調整剤層の透気又は透水性により当該下地調整剤層を透過して、遂には木質フローリング材とこれに隣接する層との界面まで達する。このため、当該水分が木質フローリング材に吸収されて木質フローリング材に伸び変形が生じ、反り返り、最終的には剥がれが生じていた。
【0012】
これに対して特許文献5では、下地コンクリートに塗付する水系エポキシ樹脂モルタル組成物である塗材組成物は、下地コンクリート及び重層される仕上塗材との付着性が良好であるが、特許文献1乃至特許文献4とは下地水分に対する作用効果が異なり、塗材組成物が緻密に形成されて下地からの水分の透過が殆ど無く、該塗材組成物によって下地水分を遮蔽することによって、仕上塗材である塗床材等の膨れを防止するものである。
【0013】
しかし、塗床材等に発生する膨れは、耐ふくれ性試験による評価ではその膨れ面積率は1%以下ではあるが、下地コンクリートの表面の状態や塗材組成物の配合、塗付厚みによっては、該ふくれ面積率が0.5%を超える場合があるという課題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、発明の効果を評価する過酷な試験方法として、耐ふくれ性試験を行っても膨れ面積率が0.5%以下となる塗材組成物であって、仕上塗材との付着性に優れ、強靱で、下地コンクリートからの水分の透過を防止する塗材組成物及び床施工方法並びにこれによって形成される床構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1記載の発明は、水硬性セメントと骨材と水系エポキシ樹脂を含む水系エポキシ樹脂モルタル組成物であって、水硬性セメントと水の重量比が
0.35以上0.37以下、エポキシ樹脂に該エポキシ樹脂と反応する硬化剤を加えたものを樹脂とした場合の該樹脂の樹脂固形分重量が、水を含んだ全配合物の重量に対して8%以上9%以下であり、硬化物の総細孔量が0.10cc/g以上0.15cc/g以下、T.I値が1.1以上1.3以下であり、水系エポキシ樹脂は、非乳化型のエポキシ樹脂と自己乳化型の硬化剤とから成り、塗材組成物の混合直後における粘度が2Pa・s以上3Pa・s以下/23℃であり、水硬性セメントが白セメントであり、下地コンクリートに0.8〜1.2mm厚みに塗付して硬化させることを特徴とする塗材組成物を提供する。
【0016】
また請求項2記載の発明は、下地コンクリート表面に請求項1記載の塗材組成物を塗付して硬化させ、無溶剤系エポキシ樹脂又は無溶剤系硬質ウレタン樹脂の仕上塗材を重層することを特徴とするコンクリート床施工方法を提供する。
【0017】
また請求項3記載の発明は、下地コンクリート表面に請求項1記載の塗材組成物を塗付して硬化させ、溶剤系若しくは水系のエポキシ樹脂又は溶剤系若しくは水系のウレタン樹脂の仕上塗材を重層することを特徴とするコンクリート床施工方法を提供する。
【0018】
また請求項4記載の発明は、非乳化型のエポキシ樹脂と自己乳化型の硬化剤から成る水系エポキシ樹脂100重量部に普通ポルトランドセメント80〜120重量部を混合して下地コンクリート表面に0.08〜0.12kg/m
2擦り込むように塗布し、次に請求項1記載の塗材組成物を塗付して硬化させ、無溶剤系エポキシ樹脂又は無溶剤系硬質ウレタン樹脂の仕上塗材を重層することを特徴とするコンクリート床施工方法を提供する。
【0019】
また請求項5記載の発明は、非乳化型のエポキシ樹脂と自己乳化型の硬化剤から成る水系エポキシ樹脂100重量部に普通ポルトランドセメント80〜120重量部を混合して下地コンクリート表面に0.08〜0.12kg/m
2擦り込むように塗布し、次に請求項1記載の塗材組成物を塗付して硬化させ、溶剤系若しくは水系のエポキシ樹脂又は溶剤系若しくは水系のウレタン樹脂の仕上塗材を重層することを特徴とするコンクリート床施工方法を提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の請求項1記載の塗材組成物は、下地コンクリート及び仕上塗材に対する付着性に優れ、セルフレベリング性があり、且つ圧縮強さが高いため塗床材用の下地調整材料として適しているという効果がある。また硬化物は緻密であるため下地コンクリートからの水分を遮断する効果があり、さらには下地コンクリートに0.8〜1.2mm厚みに塗付して硬化させることにより、硬化後の塗材組成物中に下地コンクリートから供給される水分の通り道となる空隙がなく、結果としてこの上に塗付される仕上塗材は、従来と比較して格段に膨れが生じにくく、以下に示す耐ふくれ性試験において膨れ面積率は0.5%以下となる効果がある。
【0025】
また請求項2記載のコンクリート床施工方法は、請求項1記載の塗材組成物の硬化後の状態は緻密であるため、プライマーや下塗りを塗付すること無しに、該塗材組成物の上に直接、無溶剤系エポキシ樹脂又は無溶剤系硬質ウレタン樹脂の仕上塗材である塗床材を塗付して仕上げることができる効果がある。また塗付された該塗床材は従来と比較して格段に膨れが生じにくく、以下に示す耐ふくれ性試験において膨れ面積率は0.5%以下となる効果がある。
【0026】
また請求項3記載のコンクリート床施工方法は、請求項1記載の塗材組成物の硬化後の状態は緻密であるため、プライマーや下塗りを塗付すること無しに、該塗材組成物の上に直接、溶剤系もしくは水系のエポキシ樹脂又は溶剤系若しくは水系のウレタン樹脂の仕上塗材を塗付して仕上ることができる効果がある。また塗付された仕上塗材は従来と比較して格段に膨れが生じにくく、また剥がれが生じにくいという効果がある。
【0027】
また請求項4記載のコンクリート床施工方法は、非乳化型のエポキシ樹脂と自己乳化型の硬化剤から成る水系エポキシ樹脂100重量部に普通ポルトランドセメント80〜120重量部を混合して下地コンクリート表面に0.08〜0.12kg/m
2擦り込むように塗付したあと、請求項1記載の塗材組成物を塗付して硬化させ、無溶剤系エポキシ樹脂又は無溶剤系硬質ウレタン樹脂の仕上塗材を重層するため、下地コンクリートの表層中にある水分が揮散して該コンクリート表層の細孔が空洞状態になっていても、塗付した請求項1記載の塗材組成物の水分がコンクリート表面に吸い込まれて該水成分が減少して塗付した塗材組成物の組成が硬化前に変化することがなく、塗材組成物に配合されている所定量の水で水硬性セメントが水和して塗材組成物が緻密な状態で硬化する効果がある。このため、塗材組成物の上に重層される無溶剤系エポキシ樹脂又は無溶剤系硬質ウレタン樹脂の仕上塗材はフクレが生じにくく、また剥がれが生じにくく、以下に示す耐ふくれ性試験において膨れ面積率は0.5%以下となる効果がある。
【0028】
また請求項5記載のコンクリート床施工方法は、非乳化型のエポキシ樹脂と自己乳化型の硬化剤から成る水系エポキシ樹脂100重量部に普通ポルトランドセメント80〜120重量部を混合して下地コンクリート表面に0.08〜0.12kg/m
2擦り込むように塗付したあと、請求項1記載の塗材組成物を塗付して硬化させ、溶剤系若しくは水系のエポキシ樹脂又は溶剤系若しくは水系のウレタン樹脂の仕上塗材を重層するため、下地コンクリートの表層中にある水分が揮散して該コンクリート表層の細孔が空洞状態になっていても、塗付した請求項1記載の塗材組成物の水分がコンクリート表面に吸い込まれて該水成分が減少して塗付した塗材組成物の組成が硬化前に変化することがなく、塗材組成物に配合されている所定量の水で水硬性セメントが水和して塗材組成物が緻密な状態で硬化する効果がある。このため、塗材組成物の上に重層される溶剤系若しくは水系のエポキシ樹脂又は溶剤系若しくは水系のウレタン樹脂の仕上塗材はフクレが生じにくく、また剥がれが生じにくいという効果がある。
【0032】
なお、本願において総細孔量とは塗材組成物中の数nmから数十μm程度の非常に小さな穴の総量をいい、水銀圧入法により水銀の注入圧と注入量から細孔分布を求め、各細孔半径ごとの体積(細孔量)を合算したものである。
【0033】
また、本発明の塗材組成物は、エポキシ樹脂に該エポキシ樹脂と反応する硬化剤を加えたものを樹脂とした場合の該樹脂の樹脂固形分重量が、水を含んだ全配合物の重量に対して8%以上9%以下であって、その混合直後の粘度が2Pa・s以上3Pa・s以下/23℃、かつT.I値が1.1〜1.3であり、鏝さばきが従来と比較して極めて良く、セルフレベリング性のさらに良いものであると同時に、低粘度でT.I値が低いため、施工時に水硬性セメントと水系エポキシ樹脂を混合した際に巻き込まれる微細な泡が、当該塗材組成物の施工後であって塗材組成物の硬化前に破泡して消失し、大面積の施工であってもピンホールが生じない。したがって該ピンホールから下地コンクリート中の水分が仕上塗材裏面に上昇することがなく、これによる仕上塗材の膨れも発生することがない。さらに水硬性セメントが白セメントであると、本発明の塗材組成物は全体が白色となり、この上層に淡色系仕上塗材を塗付した際にも、仕上塗材の色ムラが目立ちにくく、また水硬性セメントに普通ポルトランドセメントを使用したときと比較してさらに低粘度、低T.I値となって鏝作業性や鏝さばきがさらに良好となる。
【0034】
さらに本発明の塗材組成物をコンクリートに塗付した後に無溶剤系エポキシ樹脂又は無溶剤系硬質ウレタン樹脂の仕上塗材、又は溶剤系若しくは水系のエポキシ樹脂又は溶剤系若しくは水系のウレタン樹脂の仕上塗材を重層すると、仕上塗材及び下地コンクリートとの付着性が良好で、仕上塗材に膨れ等の不具合が生じることがない強靱な床構造となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明の水系エポキシ樹脂モルタル組成物は下地コンクリートの表面に塗付することにより、下地コンクリートの表面を改質する塗材組成物であり、エポキシ樹脂と硬化剤とを撹拌混合して得られた分散組成物と、水硬性セメント及び骨材を混合したものである。
【0036】
また、本発明の塗材組成物は、硬化物の総細孔量が0.10cc/g以上0.15cc/gであるが、当該細孔量の塗材組成物は、少なくとも水硬性セメントと水の重量比が0.37以下であって、エポキシ樹脂に該エポキシ樹脂と反応する硬化剤を加えたものを樹脂とした場合の該樹脂の樹脂固形分重量が、水を含んだ全配合物の重量に対して8%以上9%以下であり、その硬化物の空隙は極めて小さく、連続した導管が無い。従って仕上塗材である塗床材や仕上げ材である貼り床材の裏面に水分が供給されることが無く、ふくれの駆動力となる浸透圧が発生することがない。
【0037】
また水を含んだ全配合物の重量に対する、エポキシ樹脂に該エポキシ樹脂と反応する硬化剤を加えたものを樹脂とした場合の該樹脂の樹脂固形分重量の割合が8%以上9%以下の本発明の塗材組成物は、その樹脂がエポキシ樹脂であることもあって、下地コンクリートとの付着性が良好であると共に、無溶剤系エポキシ樹脂又は無溶剤系硬質ウレタン樹脂の仕上塗材を重層の際、又は溶剤系若しくは水系のエポキシ樹脂又は溶剤系若しく水系のウレタン樹脂の仕上塗材を重層の際、これらの仕上塗材と十分な付着性を有する。
【0038】
さらには、本発明の塗材組成物の硬化物は総細孔量が0.10cc/g以上0.15cc/g以下の範囲に入り極めて緻密であるため、仕上塗材を直接塗付しても、当該仕上塗材が硬化した塗材組成物内に吸い込まれることがなく、このため塗り床材を塗付する際、一般的に必要とされるプライマーが不要で、本発明である塗材組成物の表面に無溶剤系エポキシ塗り床材や無溶剤系硬質ウレタン塗床材又は溶剤系若しくは水系のエポキシ樹脂又は溶剤系若しくは水系のウレタン樹脂の仕上塗材を直接塗付することが出来る。なお塗布に際しては本発明である塗材組成物の表面を目粗しすることが好ましい。
【0039】
本発明のエポキシ樹脂は、液状であり、常温硬化するものであればよく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、ジアリールスルホン型エポキシ樹脂、ヒドロキノン型エポキシ樹脂およびそれらの変性物などを単独あるいは併せて用いてもよく、また、希釈剤を用いて液状化してもよい。また好ましくはエポキシ樹脂が水に乳化せず不溶なものが良く本願ではこれを非乳化型と称している。最も多く配合するエポキシ樹脂の軟化点は、35℃以下が好ましく、このような液状エポキシ樹脂としては、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂が、汎用性、コスト等で適当である。なおこれらのエポキシ樹脂組成物の市販品例としてジョリエースJEX210A(アイカ工業(株)製エポキシ樹脂、商品名、エポキシ当量180、固形分100%、粘度0.7Pa・s/25℃)が挙げられる。
【0040】
本発明の水系硬化剤は、前記エポキシ樹脂と混合し、また水分を良好に分散させることができるものであればよく、下記脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミン等を選択し、単独或いは組み合わせて使用する。
【0041】
脂肪族ポリアミンは、アミノ基及びイミノ基を分子中に少なくとも2個以上有する脂肪族化合物であり、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、イミノビスヘキシルアミン等がある。
【0042】
脂環式ポリアミンは、アミノ基及びイミノ基を分子中に少なくとも2個以上有する脂環式化合物であり、キシリレンジアミン、3,9ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、N−アミノエチルピペラジン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン等がある。
【0043】
この他、ポリエーテル等の親水性主鎖をエポキシ樹脂に導入し、過剰のアミンを反応させた自己乳化型硬化剤、脂肪族ポリアミンのエチレンオキサイド付加物、エポキシ樹脂付加物、ポリエチレンポリアミン変性物等の変性脂肪族ポリアミンや脂環式ポリアミンのモノグリシジルエーテル付加物、エポキシ樹脂付加物、アクリルニトリル付加物、フェノールホルマリン変性物(マンニッヒ変成物)、脂肪酸グリシジルエーテル付加物の変性脂環式ポリアミンやポリエチレンポリアミンへの脂肪酸、ポリエチレンポリアミンへのダイマー酸、キシリレンジアミン−ダイマー酸等の縮合反応生成物であるポリアミドアミン並びにこれらの変性物等が挙げられる。前記自己乳化型硬化剤の市販品例としてジョリエースJEX210B(アイカ工業(株)製エポキシ樹脂硬化剤、商品名、活性水素当量750、固形分18%水溶液、粘度7mPa・s/25℃)が挙げられる。
【0044】
本発明の塗材組成物は総細孔量が0.10cc/gから0.15cc/gの間にあり、その細孔組織は極めて緻密で連続した導管がなく、水分が自由に透過することが無い。このため、下地コンクリートに水分が多量に供給される場合であっても本発明の塗材組成物内に水分が浸透することがなく、仕上塗材である塗床材等の裏面に水分が到達することが無いため、仕上塗材のふくれの駆動力となる浸透圧が生じることも無く、結果として仕上塗材にふくれが発生しない。総細孔量が0.10cc/g未満とすると塗材組成物の粘度が上がって下地コンクリートに塗付する際の作業性が低下し、0.15cc/g超とすると、仕上塗材にふくれが発生したり、剥がれが発生する場合が生じる。
【0045】
本発明の塗材組成物は、水硬性セメントと水の重量比(水/水硬性成分であり、一般的にW/Cと呼称される)が
0.35以上0.37以下であると極めて堅固な硬化物となり、具体的には硬化後圧縮強度が50N/mm
2以上、JISA6909の透水試験B法の透水量が0.10ml以下であり、防水性及び遮水性能を有する。水硬性セメントと水の重量比が(水/水硬性分)が
0.35未満及び0.37超では、以下で示す耐ふくれ性試験で膨れ面積率が0.5%超となる場合がある。
【0046】
本発明の塗材組成物において、水を含んだ全配合物の重量に対する、エポキシ樹脂に該エポキシ樹脂と反応する硬化剤を加えたものを樹脂とした場合の該樹脂固形分重量は、8%以上9%以下で前記圧縮強度にかかる性能を損なうことがなく、また8%以上で、無溶剤系エポキシ樹脂又は無溶剤系硬質ウレタン樹脂又は溶剤系若しくは水系のエポキシ樹脂又は溶剤系若しくは水系のウレタン樹脂の仕上塗材を重層した際、当該仕上塗材と十分な付着性があり、脆さもないものとなる。8%未満ではこれらの仕上塗材との付着性が不十分な場合があり、9%超では塗材組成物の粘度が上がって下地コンクリートに塗付する際の作業性が低下する。
【0047】
なお、本願においてT.I値とはJIS A6024のチクソトロピックインデックスの試験方法に準じ、BH型回転粘度計の2rpmの粘度を20rpmの粘度で除したときの値である。T.I値が1.1未満ではセメントを含む骨材が沈降しやすく、T.I値が1.3超となると、セルフレベリング性が不十分となり、鏝で塗付した後に鏝波が残る易くなる。粘度はBH型粘度計で4号ローター20rpm時の粘度であるが、2Pa・s未満、3Pa・s超では鏝さばきが不十分となる。
【0048】
セルフレベリング性、表面仕上がり性、鏝さばきについてであるが、特にセルフレベリング性と表面仕上がり性は上塗りである仕上塗材を均一に塗布可能な下地としての必要条件である。例えば、平滑性の高い表面仕上げを得るにあたって、下地が平滑であれば本発明の塗材組成物の塗布量を比較的少な目に塗付しても目的とする表面仕上げを容易に得ることができる。
【0049】
また本発明の塗材組成物は鏝さばきが良いことにより、作業性が良好になり、単位時間あたりの施工面積を上げることができ、また汎用の金鏝のみで作業ができるだけでなく、ゴムレーキ等により、さらに短時間で広い面積を塗付することもできる。
【0050】
水硬性成分はセメント、水硬性ポゾランであり、セメントとしては、水硬性セメントであれば特に限定されることはない。普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントや高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント等の混合セメントや、アルミン酸石灰質セメント、ケイ酸アルミン酸石灰質セメント、リン酸セメント等がある。白セメントすなわち白色ポルトランドセメントが、流動性が良い点で好ましい。水硬性ポゾランとしてメタカオリンが挙げられる。市販メタカオリンとしてはメタマックスHRM((株)デグサコンストラクション、商品名)等がある。
【0051】
その他の材料として、骨材やAE減水剤が挙げられる。
【0052】
骨材は通常水硬性材料と混合して使用できるものであれば良いが、セルフレベリング性を持たせるにはJISG5901の48号〜150号のけい砂であることが好ましく、前記水硬性セメントと水の重量比、及び全固形分重量に対する樹脂固形分重量にて配合成分と配合量が確定するので、実際には残る成分となる。骨材は粒径等が同じであれば、等しい効果がえられるものの、コスト、入手性から、けい砂が最適となる。JISG5901の150号より細かいと粘度が高くなり、セルフレベリング性と鏝作業性が低下し、48号より大きいと強度、収縮による割れ、骨材の凹凸により表面仕上り性が劣る結果となる。市販品としては東北珪砂6、7号(北日本産業(株)、商品名)等がある。
【0053】
AE減水剤は陰イオン系、非イオン系、陽イオン系又は両性イオン系のAE剤とリグニンスルホン酸塩系、高級多価アルコールのスルホン酸塩系、オキシ有機酸、アルキルアリールスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ポリカルボン酸系又はポリオール複合体の減水剤、これらの複合または混合したものを使うことができるが、最も効果を有するものに変性ポリカルボン酸系又はポリエーテル・ポリカルボン酸系の高性能AE減水剤がある。変性ポリカルボン酸系AE減水剤の市販品例としてはMelflux AP101F((株)デグサコンストラクション、商品名)が、ポリエーテル・ポリカルボン酸系の高性能AE減水剤の市販品例としてはMelflux 2641F((株)デグサコンストラクション、商品名)が挙げられる。これらのAE減水剤は水硬性セメント100部に対し0.1重量部から1重量部を配合することにより塗材組成物をより低粘度とし、またT.I値を下げることが出来る。
【0054】
配合物の混合形態として、エポキシ樹脂、水系硬化剤、水、水硬性成分、骨材が主たる配合物であるが、2液、1粉体とするのが使用に際して好ましい。すなわち、水系硬化剤と水、エポキシ樹脂、骨材と水硬性成分とするのが、混合・分散不十分、特性の失活、計量ミス・誤差を防ぐには好ましいが、別個に配合しても構わない。
【0055】
本発明の塗材組成物は下地コンクリートに0.8〜1.2mm厚みに塗付して硬化させるが、0.8mm未満1.2mm超では耐ふくれ性試験での膨れ面積率が0.5%超となる場合があり、十分な耐膨れ性を有しているとは言えない。また下地コンクリート表層が打設後に乾燥してコンクリート表層の水分が揮散し、コンクリート表面の細孔が空洞状態になっているばあいは、塗付した塗材組成物の水分がコンクリート表層に吸い込まれて該水成分が減少し塗付した塗材組成物の組成が変化して(主として水/水硬性セメントの比の減少)、所定の性能を発現しない恐れがあるが、本発明の樹脂部(エポキシ樹脂と水系硬化剤及び水を混合した水系エポキシ樹脂)と普通ポルトランドセメントを水系エポキシ樹脂:普通ポルトランドセメント=1:0.8〜1.2で配合し、金鏝で下地コンクリート表面に0.08〜0.12kg/m
2擦り込むように塗布することで、これらの課題を解決することができる。
【0056】
本発明の塗材組成物を塗付後、重層できる仕上げ塗材としては無溶剤系エポキシ樹脂又は無溶剤系硬質ウレタン樹脂の仕上塗材に限定されない。これらはコンクリートの水分に影響されやすく、ふくれ、剥がれが生じやすい例であり、仕上げ塗材の市販品としては無溶剤系硬質ウレタン樹脂としてアイカピュールJJ103(アイカ工業(株)、商品名)、無溶剤系エポキシ樹脂としてジョリエースJE2520、JE20(アイカ工業(株)、商品名)等がある。なお無溶剤系ではないが、溶剤系エポキシ塗床材ジョリエースJE2510、JE10、水系エポキシ塗床材ジョリエースJA100(アイカ工業(株)、商品名)など市販の仕上塗材でも付着性は良好である。
【0057】
以下、実施例・比較例にて詳細に説明する。
【実施例】
【0058】
〔実施例1〕
攪拌機にジョリエースJEX210A(アイカ工業(株)製エポキシ樹脂、商品名、エポキシ当量180、固形分100%、粘度0.7Pa・s/25℃)100重量部とジョリエースJEX210B(アイカ工業(株)製エポキシ樹脂硬化剤、商品名、活性水素当量750、固形分18%水溶液、粘度7mPa・s/25℃)400重量部を入れ、けい砂(JISけい砂100号)563重量部、ホワイトセメント(太平洋セメント(株)、白色ポルトランドセメント)937重量部とMelflux AP101F((株)デグサコンストラクション社製、変成ポリカルボン酸系減水剤、商品名)5重量部を配合し、水硬性セメントと水の重量比0.35、樹脂固形分重量が全固形分重量に対して8.6%の塗材組成物を調製し、打設2日後の下地コンクリートに1.0mm厚に塗付して実施例1とした。
【0059】
〔実施例2〕
実施例1の塗材組成物を打設4日後の下地コンクリートに1.0mm厚に塗付して実施例2とした。
【0060】
〔実施例3〕
実施例1の塗材組成物を打設6日後の下地コンクリートに1.0mm厚に塗付して実施例3とした。
【0061】
〔実施例4〕
実施例1の塗材組成物を打設9日後の下地コンクリートに1.0mm厚に塗付して実施例4とした。
【0062】
〔比較例1〕
攪拌機にジョリエースJEX210A(アイカ工業(株)製エポキシ樹脂、商品名、エポキシ当量180、固形分100%、粘度0.7Pa・s/25℃)100重量部とジョリエースJEX210B(アイカ工業(株)製エポキシ樹脂硬化剤、商品名、活性水素当量750、固形分18%水溶液、粘度7mPa・s/25℃)400重量部を入れ、けい砂(JISけい砂100号)407重量部、ホワイトセメント(太平洋セメント(株)、白色ポルトランドセメント)1093重量部とMelflux AP101F((株)デグサコンストラクション社製、変成ポリカルボン酸系減水剤、商品名)5重量部を配合し、水硬性セメントと水の重量比0.30、樹脂固形分重量が全固形分重量に対して8.6%の塗材組成物を調製し、打設6日後の下地コンクリートに1.0mm厚に塗付して比較例1とした。
【0063】
攪拌機にジョリエースJEX210A(アイカ工業(株)製エポキシ樹脂、商品名、エポキシ当量180、固形分100%、粘度0.7Pa・s/25℃)100重量部とジョリエースJEX210B(アイカ工業(株)製エポキシ樹脂硬化剤、商品名、活性水素当量750、固形分18%水溶液、粘度7mPa・s/25℃)400重量部を入れ、けい砂(JISけい砂100号)680重量部、ホワイトセメント(太平洋セメント(株)、白色ポルトランドセメント)820重量部とMelflux AP101F((株)デグサコンストラクション社製、変成ポリカルボン酸系減水剤、商品名)5重量部を配合し、水硬性セメントと水の重量比
0.40、樹脂固形分重量が全固形分重量に対して8.6%の塗材組成物を調製し、打設6日後の下地コンクリートに1.0mm厚に塗付して比較例2とした。
【0064】
〔比較例3〕
実施例1に示した塗材組成物を打設2日後の下地コンクリートに0.5mm厚に塗付して比較例3とした。
【0065】
〔比較例4〕
実施例1に示した塗材組成物を打設2日後の下地コンクリートに2.0mm厚に塗付して比較例4とした。
【0066】
〔比較例5〕
実施例1に示した塗材組成物を打設4日後の下地コンクリートに0.5mm厚に塗付して比較例5とした。
【0067】
〔比較例6〕
実施例1に示した塗材組成物を打設4日後の下地コンクリートに2.0mm厚に塗付して比較例6とした。
【0068】
〔比較例7〕
実施例1に示した塗材組成物を打設6日後の下地コンクリートに0.5mm厚に塗付して比較例7とした。
【0069】
〔比較例8〕
実施例1に示した塗材組成物を打設6日後の下地コンクリートに2.0mm厚に塗付して比較例8とした。
【0070】
〔比較例9〕
実施例1に示した塗材組成物を打設9日後の下地コンクリートに0.5mm厚に塗付して比較例9とした。
【0071】
〔比較例10〕
実施例1に示した塗材組成物を打設9日後の下地コンクリートに2.0mm厚に塗付して比較例10とした。
【0072】
〔比較例11〕
打設2日後の下地コンクリートに塗材組成物を塗付しないものを比較例11とした。
【0073】
〔比較例12〕
打設4日後の下地コンクリートに塗材組成物を塗付しないものを比較例12とした。
【0074】
〔比較例13〕
打設6日後の下地コンクリートに塗材組成物を塗付しないものを比較例13とした。
【0075】
〔比較例14〕
打設9日後の下地コンクリートに塗材組成物を塗付しないものを比較例14とした。
【0076】
〔評価方法〕
【0077】
〔総細孔量〕
実施例1、比較例1及び比較例2に示した塗材組成物をガラスシャーレ内に厚さ2.5mmで流し込み、24時間後にシャーレ内より取り出した後、ハンマーで細かく砕く。次にふるいにより2.5〜5.0mmの破砕片を取り出し真空脱水とドライアイスによるトラップ処理(D-dry処理)をして、塗材組成物中の水分を除去した上で水銀圧入法により測定した。測定には島津製作所製自動ポロシメータオートポアIV9500を使用した。
【0078】
〔耐ふくれ性〕
水硬性セメントと水の重量比が0.8のコンクリートをφ200×150mmの円柱型とし、材齢2日、4日、6日、9日のものを調製する。この上面に実施例1乃至実施例4及び比較例1乃至比較例14の仕様で塗材組成物を塗付し(比較例11乃至比較例14は塗材組成物を塗付せず)、1日後、無溶剤系エポキシ樹脂の仕上塗材としては、無溶剤エポキシ塗床材ジョリエースJE2520(アイカ工業(株)製、商品名)に希釈剤としてベンジルアルコールを5%添加したもの(圧縮強度2N/mm
2の低強度品)を、無溶剤系硬質ウレタン樹脂の仕上塗材としては、無溶剤系硬質ウレタン塗床材ファブリカJJ-103(アイカ工業(株)製、商品名)を塗付し、7日間23℃にて静置後、試験体とし、試験体の上面より、10mmを残して、28日30℃温水に浸漬する。発生したふくれの状態を目視にて観察するとともにふくれを透明なシートに写し取る。中央部100φ部分をふくれ観察部位とし、100φ部分に発生したふくれ面積を100φ部分の面積で除してふくれ面積%とする。ふくれ面積%が無溶剤エポキシ塗床材及び無溶剤硬質ウレタン塗床材共に
0.5%以下のものを○、これ以外を×とする。
【0079】
〔鏝作業性〕
90×90cmの8mm厚フレキシブル板を水平に置き、これに実施例1乃至実施例4及び比較例1乃至比較例10の仕様で塗材組成物を塗付し評価する。全ての目隠しサンプルで官能評価し、金ごてが重くないものを○とし、それ以外のものを×とした。ここで金ごてが重くないというのは、金ごてにかかる力がおおよそ1N以下となるものである。
【0080】
〔表面仕上り性〕
90×90cmの8mm厚フレキシブル板を水平に置き、これに金鏝で実施例1乃至実施例4及び比較例1乃至比較例10の仕様で塗材組成物を塗付し、硬化後1メートル高さから目視観察する。ピンホールやクレータなどの表面欠陥が無いものを○、それ以外は×とした。
【0081】
〔セルフレベリング性〕
90×90cmの8mm厚フレキシブル板を水平に置き、これに金鏝で実施例1乃至実施例4及び比較例1乃至比較例10の仕様で塗材組成物を塗付し、硬化後1メートル高さから目視観察する。表面に鏝の動線に沿った鏝波(波うち)が無いものを○、それ以外は×とした。
【0082】
〔遮水性〕
厚さ1mmの塩ビ板の上に実施例1、比較例1及び比較例2に示した塗材組成物を1.8kg/m
2(1mm厚み)で塗布し、48時間後に塩ビ板を脱型する。その後該塗材組成物を5日間養生して試験体とし下地の無い塗材組成物層のみで JISA6909の透水試験B法の透水量を測定した。0.1ml以下で防水性能を有すると判断し、これを○とした。
【0083】
〔上塗り付着性1〕
上記耐ふくれ性試験終了後の試験体を使用し、試験終了後ヒーターの電源を遮断し水温を23℃とする。この状態で24時間放置し、水中から試験体を取り出し、カッターナイフにて前記仕上塗材が3cm×5cm残るようにその周囲を除去する。その上で残った仕上塗材の短辺側(3cm)部分の仕上塗材(
図1及び
図2においては塗材10)と塗材組成物層(
図1及び
図2においては被塗物11)との界面に
図1及び
図2に示す付着力測定器の刃先1を挿入させ、刃先1に荷重することにより仕上塗材と塗材組成物層との界面に刃先1をさらに挿入進展して仕上塗材を塗材組成物表層から剥離させ、剥離時の荷重を付着力とし付着性を評価した。付着力測定器の正面図を
図1に、同平面図を
図2に示す。刃先角度は11°とし、本付着力測定器での測定値がすべての仕上塗材で20N/cm以上を○とし、それ以外を×とする。
【0084】
〔上塗り付着性2〕
水硬性セメントと水の重量比が0.8のコンクリートをφ200×150mmの円柱型とし、材齢2日、4日、6日、9日のものを調製する。この上面に実施例1乃至実施例4及び比較例1乃至比較例14の仕様で塗材組成物を塗付し、1日後、溶剤系エポキシ樹脂の仕上塗材として溶剤系エポキシ塗床材ジョリエースJE10(アイカ工業(株)製、商品名)を、水形エポキシ樹脂の仕上塗材としては水系エポキシ塗床材ジョリエースJA100(アイカ工業(株)製、商品名)を、溶剤系ウレタン樹脂の仕上塗材としては溶剤系ウレタン塗床材ジョリエースJU1385(アイカ工業(株)製、商品名)を、水形ウレタン樹脂の仕上塗材としては水系ウレタン塗床材ジョリエースJA1620(アイカ工業(株)製、商品名)を塗付し、7日間23℃にて静置後、試験体とし、試験体の上面より、10mmを残して、28日30℃温水に浸漬する。その後ヒーターの電源を遮断し水温を23℃とする。この状態で24時間放置し、水中から試験体を取り出し、JISK5600−5−6クロスカット法にて仕上塗材である上記塗床材を1mm間隔にカットして評価し、すべての上記塗床材にて当該JISに記載された試験結果の分類0を○とし、これ以外を×とする。
【0085】
〔T.I値〕
JISA6024のチクソトロピックインデックスの試験方法に準じて、下記粘度の測定直後に、同じくBH型回転粘度計4号ローター2rpm時の粘度を測定し、2rpm時の粘度を下記20rpm時の粘度で除してT.I値として算出した。
【0086】
〔粘度〕
実施例1、比較例1及び比較例2に示した塗材組成物の各材料を23℃に調整し、撹拌機を用いて90秒間均一になるように混合し、その直後の粘度をBH型回転粘度計(東京測器株式会社製)で4号ローター20rpm時の粘度(Pa・s)を測定した。
【0087】
〔圧縮強さ〕
試験片の形状はJISK6911に規定する縦12.7mm×横12.7mm×高差25.4mmとし、これと同形状の金型に、均一に混合した実施例1、比較例1及び比較例2に示した塗材組成物の各材料を充填することにより成形した。養生は7日間金型内で養生した後、試験片を金型より取り出し、さらに21日間気中養生した。万能試験機(インストロン5500R)によりクロスヘッド移動速度1±0.5mm/minで荷重を加え、試験片が破壊した時の荷重を(N)で測定し圧縮強さ(MPa)を算出した。
【0088】
〔引張付着力〕
JISA5371に規定する300mm×300mm×60mmのコンクリート平板(下地)の表面をサンドペーパー(No.180)で研磨し十分に清掃した後、実施例1、比較例1及び比較例2に示した塗材組成物を厚さ1mmに塗付する。その後23℃7日間養生後、40mm×40mmの鋼製アタッチメントを5分硬化型の市販二液エポキシ樹脂接着剤にて貼り付け、十分に該接着剤が硬化後、鋼製アタッチメントの周囲を下地コンクリートに達するまで切り込みをいれ、建研式引張試験機により垂直に引っ張って、塗材組成物のコンクリートに対する引張付着力(MPa)を測定した。なお破壊状態は実施例1、比較例1及び比較例2共に100%下地破壊であった。
【0089】
表1に実施例と比較例の評価結果を示す。
【0090】
【表1】
【0091】
〔評価結果のまとめ〕
実施例1乃至実施例4ではすべての評価結果が良好であった。
【0092】
〔付着力測定器〕
上記上塗り付着性1で使用した付着力測定器の詳細を以下に示す。
【0093】
図1及び
図2に示した付着力測定器は、当該付着力測定器は刃先(刃物)1と、刃先1に角度(
図1においては11°)を保持させる支持輪2と、刃先1を先端方向に被測定物である塗材10側に連結棒6及び秤外筒8を介して押し付けるための取っ手3と、この押力の最大を測定する器具4(筒状のばね秤)からなる。当該付着力測定器は、被塗物11に塗材10が塗付されて硬化した後、所定の幅に切り出された被測定物である塗材10の端部において、塗材10と被塗物11の付着界面に刃先1の先端を、取っ手3を手で握りながら押し付け、塗材10が被塗物11より剥離する際の最大応力を、押力の最大を測定する器具4によって測定するものである。
【0094】
押力の最大を測定する器具4は秤外筒8に秤内筒9が擦動自在に内接され、該秤内筒9の下側前後には連結棒6が略垂直に固着され、該連結棒6には刃先1と一体となったカワスキが固着されている。秤内筒9は秤外筒8の内部において秤外秤8の取って3側の端部にコイルバネ(図示せず)によって張着されている。従って秤内筒9の後端部(
図1において右側)は秤外筒8の開放右端(
図1において右側)より突出し、刃先1が塗材10に押し付けられると、その押力が大きくなるにつれ、秤内筒9の後端部が序々に秤外筒8の開放右端から遠ざかるように摺動する。つまり、前記コイルバネ(図示せず)が伸展することによって刃先1が塗材10に押し付けられる力も大きくなることになる。測定時において秤内筒9が最大に摺動した時点が刃先1が塗材10に最も大きな力で押されたこととなり、その際塗材10は被塗物11より剥離することになる。この秤内筒9の最大の摺動位置が置き針5によって秤外筒8の所定位置に添着されて、塗材10が被塗物11より剥離して秤内筒9が秤外筒8内にすべて収納され
図1の状態になった後でも、置き針5が置かれた位置によって刃先1が塗材10に押し付けられた力を読み取ることが出来るものである。なお12は秤外筒8の下部前後に渡って細長に設けられた秤外筒の切り欠き部であり、この秤外筒の切り欠き部12を連通して連結部6が秤内筒9と固着されている。また7は両側に配置された2個の支持輪2を回転自在に固着する支持輪台であり、前記刃先1と一体となったカワスキの下側に固着されている。刃先1の角度は当該支持輪2の位置を前後することや支持輪2の直径を変化させることにより変えることが出来る。つまり支持輪2の位置を
図1において左側に移動させ、又は支持輪2の直径を小さくすることにより刃先1の角度を小さくすることが出来る。
【0095】
なお、押力の最大を測定する器具4は
図1及び
図2では円筒状のバネ秤を用いたが、デジタルセンサー式でも構わない。
【符号の説明】
【0097】
1 刃先(刃物)
2 支持輪
3 取っ手(秤外筒に固定する。)
4 押力の最大を測定する器具
5 置き針(最大値を示す針)
6 連結棒(刃物と秤内筒を固定する。)
7 支持輪台(刃先方向に前後させることに角度を変える。)
8 秤外筒
9 秤内筒
10 塗材
11 被塗物
12 秤外筒の切り欠き部