特許第6101541号(P6101541)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6101541
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】振動滴下用ノズル
(51)【国際特許分類】
   B05B 3/14 20060101AFI20170313BHJP
   B05C 5/00 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
   B05B3/14
   B05C5/00 101
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-74920(P2013-74920)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-198304(P2014-198304A)
(43)【公開日】2014年10月23日
【審査請求日】2016年2月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000165697
【氏名又は名称】原子燃料工業株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】100144048
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 智弘
(74)【代理人】
【識別番号】100087594
【弁理士】
【氏名又は名称】福村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】柿添 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】本田 真樹
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 実開平05−056261(JP,U)
【文献】 特開2007−216213(JP,A)
【文献】 特開平5−119905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 1/00 〜 3/18
7/00 〜 9/08
15/00 〜15/12
B05C 5/00 〜 5/04
B01J 2/00 〜 2/30
B05D 1/00 〜 7/26
C01G25/00 〜47/00
49/10 〜99/00
B41J 2/015〜 2/16
2/205
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部に開口部を有するノズル本体をその軸線方向に1.0mmから4.0mmの振幅振動させ、滴下原液を前記開口部から滴下する振動滴下用ノズルであって、
前記先端部が、前記開口部に付着する液滴を、前記滴下原液である液滴の落下を阻害することなく覆う覆い部を有し、
前記覆い部が、前記開口部より吐出される液滴の容積よりも大きな内部空間容積滴下原液をはじく性質を有する接液面を有するとともに、
前記覆い部の外側の表面が、前記滴下原液をはじく性質を有する領域を有し、
前記領域の軸線方向の長さは、前記ノズル本体に付与される振動の振幅よりも大きいことを特徴とする振動滴下用ノズル。
【請求項2】
前記接液面が、前記滴下原液の溶媒又は分散媒が水であるときには撥水性であり、前記滴下原液の溶媒又は分散媒が有機溶剤であるときには親水性であることを特徴とする前記請求項1に記載の振動滴下用ノズル。
【請求項3】
前記覆い部が、前記ノズル本体の先端部に着脱可能であることを特徴とする前記請求項1又は請求項2に記載の振動滴下用ノズル。
【請求項4】
前記覆い部が、熱収縮性プラスチックで形成されてなることを特徴とする前記請求項3に記載の振動滴下用ノズル。
【請求項5】
前記ノズル本体は、前記軸線方向に20回/秒から120回/秒の振動数で振動させられることを特徴とする前記請求項1〜4のいずれか一項に記載の振動滴下用ノズル。
【請求項6】
前記ノズル本体は、その外表面が前記滴下原液をはじく性質を有する物質で形成されてなることを特徴とする前記請求項1〜5のいずれか一項に記載の振動滴下用ノズル。
【請求項7】
前記ノズル本体の、前記滴下原液に接する内部表面が、前記滴下原液の溶媒又は分散媒が水であるときには親水性であり、前記滴下原液の溶媒又は分散媒が有機溶剤であるときには撥水性であることを特徴とする前記請求項1〜6のいずれか一項に記載の振動滴下用ノズル。
【請求項8】
前記ノズル本体は、その先端部に複数の前記開口部を有することを特徴とする前記請求項1〜7のいずれか一項に記載の振動滴下用ノズル。
【請求項9】
前記複数の開口部は、他の前記開口部の口径と異なる口径を有する前記開口部を含むことを特徴とする前記請求項8に記載の振動滴下用ノズル。
【請求項10】
前記ノズル本体は、前記開口部からの滴下を阻止することのできる着脱可能な栓体を有することを特徴とする前記請求項8又は9に記載の振動滴下用ノズル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、振動滴下用ノズルに関し、より詳しくは、滴下原液を収容するノズル本体をその軸線方向に沿って振動させることにより、ノズル本体の開口部から液滴を滴下させるときに、開口部から出てくる滴下原液がノズル本体の外周面を這い上がることを防止し、ひいてはノズル本体の基部近傍に滞留した滴下原液が落下することを防止するとともに、ノズル本体の開口部の近傍に滴下原液の液だまりが集合することを防止することによって、ノズル本体の開口部から滴下される液滴の粒径を一定にすることのできる振動滴下用ノズルに関する。
【0002】
バイブレーターなどを用いて、小径のノズルを、そのノズルの軸線方向に沿って振動させ、金属化合物、有機化合物の塩、無機化合物の塩、及びポリマーなどを溶解乃至分散させた液を滴下原液として、ノズルの先端から液滴として滴下させる振動滴下法が広く知られている。振動滴下法においては、得られる液滴が、小径であって直径分布が均一であることが求められる。
【0003】
ノズル本体の内部に収容された滴下原液は、滴下原液自身の重量によって生じる圧力と、滴下方向上流において滴下原液に加えられる圧力とによって、ノズル本体を鉛直下向きに移動する。さらに、振動滴下法においては、ノズル本体に付与される振動による力によっても、滴下原液は鉛直下向きへと移動する。ノズル本体の先端部に達した滴下原液は、やがてノズル本体の先端部に設けられた開口部から外に押し出され、ノズル本体の開口部から滴下原液が吐出される。開口部からの滴下原液の吐出量が、開口部が懸垂保持することのできる滴下原液の液量を超えると、ノズルの開口部は吐出した滴下原液を保持することができなくなり、滴下原液がノズルの開口部から分離して、液滴が落下する。ノズルの振動速度、一振動の間にノズルから吐出される滴下原液量の条件等に応じて、ノズルが一回若しくは複数回振動させられる毎に、ノズルの開口部から液滴が落下する。
【0004】
振動滴下法において、開口部から小径の液滴を効率的に得るために、振動滴下用ノズルの振動速度を上げ、振動数を大きくする方法が広く知られている。振動滴下用ノズルの振動速度を上げると、開口部から外に押し出された滴下原液が、開口部と分離しないまま多数の液が滞留、集合し、ノズル本体の開口部近傍に滴下原液の液だまりが形成される。開口部近傍に形成された液だまりから、随時液滴が形成されて落下するが、落下する液滴の大きさは一様ではないという問題がある。開口部近傍に液だまりが形成されてしまう理由として、開口部における液切れが悪いことが挙げられる。開口部における液切れが悪いと、開口部と開口部から突出した滴下原液とがスムーズに分離せず、液滴が落下しにくい。開口部に滴下原液が懸垂保持されたまま多数の振動が加えられ、多くの滴下原液が吐出されることによって、多量の滴下原液がノズルの開口部と分離することなく、液だまりを形成してしまうと考えられる。
【0005】
ノズルを用いて直径分布が均一である多数の液滴を得るために、ノズルの先端開口部における液切れを改善することを目的とした技術を開示した文献として、特許文献1が挙げられる。
特許文献1には、「ノズルの先端部には、前記滴下原液の滴下方向に向かうエッジが形成されていることを特徴とする前記請求項1〜4のいずれか1項に記載の滴下ノズル装置。」(特許文献1の請求項5)が開示されている。また、「前記ノズルは、その先端部の少なくとも前記滴下原液と接触する部分が撥水性材料で形成されてなることを特徴とする前記請求項1〜5のいずれか1項に記載の滴下ノズル装置。」という手段も開示されている(特許文献1の請求項6)。さらに詳しくは、「前記ノズル4の先端開口部における滴下球が形成される部分、たとえばエッジ4Bが形成されていないときにはノズル4の先端開口部、またはエッジ4Bが形成されているときにはそのエッジ4Bは、撥水性材料で形成されていることが好ましい。」(特許文献1の段落番号0042欄)と開示されている。これらの手段を用いると、ノズルの先端部と液滴とを円滑に分離することができ(特許文献1の段落番号0021(5)欄参照)、真球に近い液滴を滴下ノズル装置から滴下することができることにより、ほぼ真球に形成された多数の重ウラン酸アンモニウム粒子を均一に製造することができる(特許文献1の段落番号0021(8)欄参照)という技術的効果を奏する。つまり、特許文献1に記載された従来技術においては、ノズルの先端部にエッジを設けることによって、ノズルの先端開口部における液切れを改善し、ノズルの先端開口部から落下する液滴の直径分布を均一にすることができる。
【0006】
振動滴下操作を行っている間に、ノズル本体の開口部から突出した滴下原液が、ノズル本体の外周面へと回りこみ、ノズル本体の外周面に滴下原液の滴が付着し、ノズル本体の外周面において濡れが発生することがある。ノズル本体の外周面に付着した滴は、濡れ及びノズルの振動によって、ノズル本体の外周面を鉛直上向きに這い上がる。
この発明の発明者らの検討によると、特許文献1に開示されるように、ノズルの先端部にエッジを設け、ノズルの先端部の少なくとも滴下原液と接触する部分を撥水性材料によって形成した場合に、ノズルの振動によって、ノズル本体の開口部から突出した滴下原液が、撥水性材料で形成されたノズル本体の開口部を越えて、撥水性を有さないノズル本体の外周面に滴下原液が付着してしまうという問題が発生することを見出した。
ノズル本体の外周面に付着する滴下原液は、濡れ及びノズルの振動によって鉛直上向きに徐々に這い上がり、ノズル本体の基部近傍に滞留する。ノズル本体の外周面又はノズル本体の基部近傍に滞留した滴下原液は、多量の滴下原液が集合した後に大径の液滴となって落下することがある。ノズル本体の外周面又はノズル本体の基部近傍から落下する大径の液滴は、ノズル本体の開口部から滴下される液滴よりも粒径が大きいという問題がある。また、ノズル本体の開口部から滴下される液滴の直径分布が均一であっても、ノズル本体の外側面又はノズル本体の基部近傍から大径の液滴が落下してしまうために、全体として得られる液滴の直径分布が不均一になるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−96630号
【特許文献2】特開2001−340756号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は、このような問題を解消し、振動滴下中に滴下原液がノズル本体の外周面に付着し、滴下原液がノズル本体の外周面を這い上がることを防止し、ノズル本体の基部に滞留した滴下原液が落下することを防止するとともに、ノズル本体の開口部近傍に滴下原液の液だまりが形成されることを防止することによって、ノズル本体の開口部から滴下される液滴の粒径を一定にすることのできる振動滴下用ノズルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段は、
(1) 先端部に開口部を有するノズル本体をその軸線方向に振動させ、滴下原液を前記開口部から滴下する振動滴下用ノズルであって、
前記先端部が、開口部に付着する液滴を、滴下原液である液滴の落下を阻害することなく覆う覆い部を有し、
前記覆い部が、前記開口部より吐出される液滴の容積よりも大きな内部空間容積を有すると共に、滴下原液をはじく性質を有する接液面を有することを特徴とする振動滴下用ノズルであり、
(2) 前記接液面が、前記滴下原液の溶媒又は分散媒が水であるときには撥水性であり、前記滴下原液の溶媒又は分散媒が有機溶剤であるときには親水性であることを特徴とする前記(1)に記載の振動滴下用ノズルであり、
(3) 前記覆い部が、ノズル本体の先端部に着脱可能であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の振動滴下用ノズルであり、
(4) 前記覆い部が、熱収縮性プラスチックで形成されてなることを特徴とする前記(3)に記載の振動滴下用ノズルであり、
(5) 前記覆い部は、その外側の表面が、滴下原液をはじく性質を有する領域を有し、
その領域の軸線方向の長さは、ノズル本体に付与される振動の振幅よりも大きいことを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一項に記載の振動滴下用ノズルであり、
(6) 前記ノズル本体は、その外表面が滴下原液に対してはじく性質を有する物質で形成されてなることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか一項に記載の振動滴下用ノズルであり、
(7) 前記ノズル本体の、前記滴下原液に接する内部表面が、前記滴下原液の溶媒又は分散媒が水であるであるときには親水性であり、前記滴下原液の溶媒又は分散媒が有機溶剤であるときには親油性であることを特徴とする前記請求項1〜6のいずれか一項に記載の振動滴下用ノズルであり、
(8) 前記ノズル本体は、その先端部に複数の開口部を有することを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれか一項に記載の振動滴下用ノズルであり、
(9) 前記複数の開口部は、他の開口部の口径と異なる口径を有する開口部を含むことを特徴とする前記(8)に記載の振動滴下用ノズルであり、
(10) 前記ノズル本体は、開口部からの滴下を阻止することのできる着脱可能な栓体を有することを特徴とする前記(8)又は(9)に記載の振動滴下用ノズルである。
【発明の効果】
【0010】
この発明によると、液滴の容積よりも大きい内部空間容積が覆い部によって形成されるので、開口部から突出した滴下原液が、覆い部の内部空間からはみ出すことがない。故に、ノズル本体の外周面に付着した滴下原液が、ノズル本体の外周面を這い上がり、ノズルの基部に滞留した滴下原液が集合して、大径の液滴となって落下するという問題が発生しない。ノズル本体の開口部から滴下される液滴のみが得られるので、全体として液滴の粒径を一定にすることができる。
【0011】
この発明によると、覆い部の滴下液滴と接する接液面は、滴下原液をはじく性質を有する。開口部から滴下された直後の液滴は、覆い部の滴下原液と接する接液面によって、はじかれてしまう。
液滴は覆い部の接液面に付着せず、覆い部の内部空間に滞留しないことから、覆い部の内部空間に滞留した液滴が、大粒径の液滴となって落下することがない。
また、開口部から突出した滴下原液は覆い部の接液面によって斥力を与えられるので、速やかに開口部と滴下原液が分離し、液滴が落下することが促される。故に、開口部から突出した滴下原液が開口部から分離せず、開口部近傍で滴下原液の液だまりが形成されることがない。
よって、開口部における液切れを改善することができ、開口部から滴下される液滴の粒径を一定にすることができる。
【0012】
また、この発明によると、滴下原液をはじく性質を有する覆い部の接液面によって、開口部から突出した滴下原液が鉛直下向きへの力を加えられる。故に、特に高振動条件下で振動滴下操作を行う場合には、覆い部を設けることによって、滴下原液が開口部と分離する際の液量が小さくなり、比較的小径の液滴を得ることができる。
【0013】
この発明によると、覆い部が、ノズル本体の先端部に着脱可能であるので、覆い部及びノズル本体の先端部の洗浄、メンテナンス等を行いやすい。また、安価に市販されている、覆い部を有しない振動滴下用ノズルに、別途作成した覆い部を装着させることにより、低コストで、本発明を実施することができる。
【0014】
この発明によると、覆い部は、熱収縮性プラスチックで形成されてなることから、覆い部をノズル本体の先端部に装着した後で、先端部に熱を加えると、覆い部が収縮し、ノズル本体の先端部に密着する。故に、簡単な操作によって、ノズル本体の先端部と覆い部とを緊密に装着させることができる。
【0015】
この発明によると、覆い部の外側の表面のうち、滴下原液をはじく性質を有する領域に滴下原液の滴が移動すると、覆い部の外側の表面の滴下原液をはじく性質により、滴下原液の滴が覆い部の外側の表面に移動することが阻止される。
【0016】
この発明によると、振動滴下中にノズル本体の周面に付着した滴下溶液は、滴下原液をはじく性質を有する周面によってはじかれてしまい、安定して保持されることがない。よって、ノズル本体の周面に付着した滴下溶液が、振動によって這い上がることを防止することができる。
【0017】
この発明によると、ノズルの内部を滴下原液が移動する抵抗が少なく、円滑に滴下原液をノズル本体の開口部まで到達させることができる。
【0018】
この発明によると、1基のノズル本体を用いて同時に複数の液滴を形成することができるので、滴下操作を効率的に行うことができる。
【0019】
この発明によると、適切なノズル径を選択するために様々な粒径のノズルを用いて試験をする際に、一回ずつノズルの着脱操作を行う必要がなく、一度の試験で最適なノズル径を選定することができる。
【0020】
この発明によると、着脱可能な栓体を有することによって、ノズルの振動中でも開口部からの液滴の滴下を阻止することができる。複数の異なる大きさの開口部を有する振動滴下用ノズルにおいて、所望しない粒径を与える開口部からの滴下を、栓体を用いて防止することによって、適当な大きさの液滴のみを得ることができる。また、同じ大きさの開口部を複数有する振動滴下用ノズルにおいて、適当な数の開口部を除き、その他の開口部からの滴下を、栓体を用いて阻止することによって、ノズル本体から得られる液滴の数を調節することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、この発明に係る振動滴下用ノズルの一例であり、覆い部がノズル本体に着脱可能に設けられる例の縦断面図である。
図2図2は、振動滴下装置本体と図1で示された振動滴下用ノズルとが接続され、実際に振動滴下操作を行っている例の模式図である。
図3図3は、この発明に係る振動滴下用ノズルの一例であり、覆い部の表面に撥液面が設けられる例の縦断面図である。
図4図4は、この発明に係る振動滴下用ノズルの一例であり、ノズル本体と覆い部とが一体に設けられる例の縦断面図である。
図5図5は、この発明に係る振動滴下用ノズルの一例であり、ノズル本体と覆い部とが一体に設けられ、ノズル本体の先端部に複数の開口部を有する例の縦断面図である。
図6図6は、振動滴下装置本体と図5で示された振動滴下用ノズルとが接続され、実際に振動滴下操作を行っている例の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下においては、図面を参照しながら、この発明に係る振動滴下用ノズルを説明する。
【0023】
振動滴下用ノズル1は、図1に示されるように、ノズル本体3と覆い部4とを有する。ノズル本体3は、内部に中空部を有する筒状体である。ノズル本体3の滴下方向先端には開口部5が形成され、開口部5を含むノズル本体3の滴下方向先端側における領域が先端部6である。また、ノズル本体の滴下方向とは反対側の端部における領域が基部7であり、基部7の外周面に設けられた接続部8にて、振動滴下用ノズル1と振動滴下装置本体2とが接続されることにより、全体として振動滴下装置が形成され、振動滴下操作を行うことができるようになる。
【0024】
振動滴下用ノズル1は、図2に示されるように、接続部8において、振動滴下装置本体2と接続される。具体的には、ノズル本体の基部7は、輸送管等を介して滴下原液の調製槽に至り、またノズル本体にノズル本体の軸線方向に前後進の振動を付与する振動発生装置(図示せず。)に接続される。ノズル本体の接続部8は、ノズル本体3と振動滴下装置本体2とが、液密に接続できる限りにおいて、さまざまの構造を採用することができる。具体的には、ノズル本体の接続部8における構造としては、接続部8に形成されたオスネジと、振動滴下装置本体2に設けられた筒形の凹部内面に設けられたメスネジとを螺合させる例が挙げられる。図2においては、振動滴下用ノズル1と振動滴下装置本体2とが着脱可能に設けられる例を示しているが、振動滴下用ノズル1と振動滴下装置本体2とは一体に形成されていてもよい。
【0025】
この発明における滴下原液としては、水又は有機溶剤を溶媒として用いた溶液、及び水又は有機溶剤を分散媒として用いた懸濁液が用いられる。
滴下原液として用いられる水溶液としては、硝酸ウラニルを水に溶解してなる硝酸ウラニル水溶液、ポリビニルアルコール樹脂やアルカリ条件下で凝固する性質を有する樹脂の水溶液、ポリエチレングリコール水溶液、メトローズ水溶液、等を挙げることができる。
滴下原液として特に好ましいのは、特許文献2において開示された懸濁液、すなわち、アルギン酸ナトリウム水溶液中に、重金属の炭酸塩の粉末を懸濁させた懸濁液である。
滴下原液において用いられる有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン、四塩化炭素、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、トリクロロエチレン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロエチリデン、酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられ、これらの溶液を2種類以上混合してもよい。これらの有機溶剤に溶解される溶質、又は懸濁される分散質としては、ノズル本体2から適当な大きさの液滴が得られる限りにおいて、さまざまの物を使用することができる。
なお、滴下原液の粘度は、ノズル本体2から適当な大きさの液滴が得られる限りにおいて、さまざまの値を採用することができる。この発明における滴下原液の粘度は、通常、10℃で10〜500cPsが好適である。
【0026】
ノズル本体3の形状は通常は円筒形である。ノズル本体3の形状が円筒形である場合に、その円筒形の直径及びその円筒形を形成する部材の肉厚によって、ノズル本体3がニードルと称されることもある。この発明においては、ノズル本体3の形状は円筒形に限られず、この発明の課題を解決することができる限りにおいて、たとえば、軸線方向に直交する断面が多角形である角筒体形状、前記断面が半円形である筒体形状又は前記断面が楕円形である筒体形状等であってもよい。
【0027】
ノズル本体3を形成する材料としては、滴下原液に対する耐腐食性を有するとともに滴下原液に対して反応性の低い不活性な材料が選ばれる。例えば、滴下原液がアルギン酸ナトリウム水溶液中に、重金属の炭酸塩の粉末を懸濁させた懸濁液である場合、ノズル本体3の物質としては、ガラス、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、ジルコニウムまたはジルコニウム合金等を挙げることができる。
好適なノズル本体3は、例えば、ノズル本体3が滴下原液をはじく性質を有する物質で形成することができる。ノズル本体3が滴下原液をはじく性質を有する物質で形成されていると、ノズル本体の外表面もまた滴下原液をはじく性質を有することになるので、ノズル本体3の外表面に滴下原液が付着滞留することが防止される。ノズル本体3の外表面に滴下原液が付着滞留することが防止されると、ノズル本体3が振動しているうちにノズル本体3の外表面に付着する滴下原液の容積が増大し、ついにはノズル本体3の外表面から滴下原液が落下するという現象を引き起こさないようにすることができる。
滴下原液をはじく性質を有する物質として、滴下原液の溶媒又は分散媒が水である場合には、例えば、滴下原液の滴との接触角が90度以上となる撥水性物質、例えば、シリコーン化合物、フルオロアルキル基を有する有機ケイ素化合物、フルオロアルキル基を有するポリオレフィン等を挙げることができる。
滴下原液の溶媒又は分散媒が有機溶剤である場合には、例えば、滴下原液の滴との接触角が90度以上となる親水性物質、例えば水酸基またはカルボキシル基を持ったポリマーが挙げられ、さらに具体的には、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸(PAA)、及びポリエチレン−アクリル酸(EAA)を挙げることができる。
【0028】
ノズル本体の内表面9は、滴下原液に親和性を有する材料で形成されていることが好ましい。滴下原液の溶媒又は分散媒が水である場合には、ノズル本体の内表面9を形成する材料として前記親水性物質を挙げることができる。また、滴下原液の溶媒又は分散媒が有機溶剤である場合には、ノズル本体の内表面9を形成する材料として前記撥水性物質を挙げることができる。具体的に、アルギン酸ナトリウム水溶液中に、重金属の炭酸塩の粉末を懸濁させた懸濁液を滴下原液とする場合には、ノズル本体の内表面9は、ステンレスで形成されることが好ましい。
ノズル本体の内表面9が滴下原液に対して親和性を有する材料で形成されていると、ノズル本体3の内部を滴下原液が移動する際の抵抗が小さく、ノズル本体3の内部に存在する滴下原液がノズル本体3の先端部6へと円滑に移送されることができる。そのため、親和性を有しない材料で形成されている場合に比べて、滴下原液に加える圧力を小さくしたり、ノズル本体3の振動速度を小さくしたりすることができる。ノズル本体3の滴下原液に接する内表面を、滴下原液に対して親和性のある材料で形成する手段として、ノズル本体の内表面9に親和性のある材料をコーティング等すること、ノズル本体の内表面9に親和性のある材料で形成されたチューブを挿入配置すること等を挙げることができる。滴下原液に対して親和性のある材料で形成されたチューブをノズル本体の内部に挿入配置する場合、そのチューブの外表面とノズル本体の内表面とに間隙が生じないように、チューブの外表面をノズル本体の内表面9に密着させることが、好ましい。
【0029】
開口部5から滴下される液滴は、通常、その直径が0.3〜0.4mmの球状である。このように微小な液滴を滴下するために、ノズル本体が円筒管状の内部形状を有するときに、ノズル本体の好適な内径は、通常、0.15〜0.5mmである。さらに、ノズル本体の先端部6の端面又はその端面の一部が、滴下原液に対して親和性を有する材料によって形成されている例においては、ノズル本体3の好適な外径は、0.25〜1.0mmである。また、ノズル本体は、通常、直管であるが、場合によっては曲管であってもよい。例えば、アルギン酸ナトリウム水溶液中に、重金属の炭酸塩の粉末を懸濁させた懸濁液を用いる例において、ノズル本体が直管である場合、ノズル本体の軸線方向の長さは、1.0mm〜40.0mmが好ましい。
【0030】
また、ノズル本体3における先端部6の形状は、この先端部6に設けられた開口部5から押し出された滴下原液が液滴となって開口部5から落下することができる限りにおいて、さまざまに設計変更することができる。ノズル本体3における先端部6の形状として、具体的には、(a)ノズル本体3が円筒管である場合にその円筒管をその軸線方向に直交する方向に切断することにより形成され、円筒管の外周面と円筒管の切断端面とが直角をなす形状、(b)特許文献1にも記載されているように、ノズル本体3が円筒管である場合にその円筒管をその軸線方向に直交する方向に切断することにより形成された先端部端面における先端部外周面を更に加工して、その先端部外周面が開口部の内周面に収斂するように、かつその先端部の軸線を含む平面である切断面において先端部外周が楔形に形成される形状、(c) ノズル本体3が円筒管である場合にその円筒管をその軸線方向に直交する方向に切断することにより形成された先端部端面を更に鋸歯状に加工されてなる形状等を、挙げることができる。
【0031】
この発明におけるノズル本体3に付与される振動の振動数、及び振幅は、使用されるノズルの種類、ノズルに付与される一振動の間に吐出される液量、及び滴下原液の種類等によって変更することができる。例えば、滴下原液としてアルギン酸ナトリウム水溶液中に、重金属の炭酸塩の粉末を懸濁させた懸濁液を用いる場合、振動滴下用ノズルに付与される振動の振動数は、通常、20回/秒〜120回/秒であり、振幅は通常、1.0mm〜4.0mmである。
【0032】
覆い部4は、ノズル本体3の先端部6に設けられる。覆い部4は、ノズル本体3の開口部5から液滴が落下するのを阻害しないように、ノズル本体3の開口部5から吐出されて膨満頭状になっている滴下原液を、囲繞することができる形状に形成される。前記覆い部の形状は、ノズル本体3の開口部5に懸垂保持されている膨満頭状の滴下原液、及びその開口部5から落下した液滴が開口部5から所定の距離まで移動する落下行程中の液滴を取り囲んだ形状に形成されるのが、好ましい。したがって、覆い部4の形状としては、
(1)図1に示されるように、肉薄の円筒管であるノズル本体3の先端部外周に装着される円筒状の装着部と、ノズル本体3の先端部6から、ノズル本体3の軸線方向に沿って順次に拡径していくテーパ形状に形成された傘部とを有する形状、
(2)図4に示されるように、ノズル本体3における開口部5から、ノズル本体3の軸線方向に直交する断面における内面輪郭線が湾曲線に形成された形状、
(3)図示していないが、図1に示されるような薄肉の円筒管であるノズル本体3の先端部外周面に装着される円筒状の装着部と、ノズル本体3の下端部と一致する位置にある装着部の下端部からノズル本体3の軸線と直交する方向にノズル本体3の外側に円盤状に張り出した鍔部と、その鍔部の外周縁から、ノズル本体3の軸線方向に沿って延在すると共に、ノズル本体3の軸線と同じ軸線を有するように形成された円筒部とを有する形状等を挙げることができる。
いずれの形状であっても、覆い部は、ノズル本体3の軸線に沿ってノズル本体3における開口部5から覆い部の下端までの範囲において覆い部により囲繞される領域を有し、この領域を内部空間と称される。
覆い部4の内部空間が占める容積を内部空間容積と称する。
この発明における覆い部4の内部空間容積は、開口部5より吐出される液滴の容積よりも大きい。
【0033】
開口部5より吐出される液滴の容積としては、以下の2つの場合に応じて、2種類の容積が挙げられる。
(1)ノズル本体3が比較的高速度で振動する場合について考える。
まず、一回の振動の間に開口部5から圧出される滴下原液量が、ノズル本体3の静止時に開口部5によって懸垂保持される滴下原液量(以下、「Lsmax」という)よりも大きい場合を考える。一回の振動とは、ノズル本体3が最下部の位置から鉛直上向きへの移動を開始し、途中でノズル本体3が鉛直下向きへと移動方向を変え、再度、ノズル本体3が最下部の位置に戻ってくるまでの移動を言う。この場合、ノズル本体3に付与された一回の振動が完了した後、若しくはノズル本体3に付与された一回の振動が完了する途中の段階で、ノズル本体3の開口部5から突出する滴下原液の容積は、ノズル本体3の振動時にLsmaxよりも大きくなり、一時的にノズル本体3の開口部5から滴下原液が分離される。ノズル本体3が高速振動していると、一回の振動の途中の段階において、一時的にノズル本体3の開口部5から分離された滴下原液の初期の落下速度よりも、ノズル本体3の振動速度の方が大きいことがある。つまり、高速で鉛直下向きに移動するノズル本体3の先端が、ノズル本体3の開口部5から一時的に分離した直後の滴下原液に追いついてしまう。ノズル本体3が一回の振動の途中であって、ノズル本体3が鉛直下向きに移動している間は、ノズル本体3の開口部5から滴下原液は完全に分離しない。ノズル本体3が一回の振動を完了し、ノズル本体3が鉛直上向きへの移動を開始した後に、ノズル本体3の開口部5から突出した滴下原液には、それまで鉛直下向きへと移動している間に、開口部5から突出した滴下原液の全体が受けていた覆い部4による強い下向きの力に基づく大きい慣性力と重力とが加わる。この慣性力と重力とによって、滴下原液は開口部5から完全に分離され、液滴として落下する。よって、開口部5から落下する液滴の容積は、Lsmaxよりも大きく、ノズル本体3の一振動によって吐出される滴下原液の容積と略同一となる。
次に、一回の振動の間に開口部5から圧出される滴下原液量が、Lsmaxよりも小さい場合を考える。この場合、一回の振動を終え、最下部の位置に戻って来た時には、開口部5に懸垂保持される滴下原液の量はLsmaxよりも小さい。一回の振動を終えた後に開口部5に懸垂保持される滴下原液に加わる、前述した慣性力と重力との合力が、開口部5が液滴を懸垂保持することのできる力よりも大きいので、滴下原液は開口部5から完全に分離されて、液滴が落下する。よって、この場合も、開口部5から落下する液滴の容積は、ノズル本体3の位置振動によって吐出される滴下原液の容積と略同一となる。
(2)上記(1)以外の場合では、ノズル本体3に振動が付与され、振動が付与される毎にノズル本体3の開口部5から突出する滴下原液の液量が増加し、やがてノズル本体3の開口部5が突出した滴下原液を懸垂保持することができなくなると、懸垂保持されていた滴下原液が液滴として落下する。よって、開口部5から落下する液滴の容積は、Lsmaxと略同一となる。
【0034】
よって、開口部5より吐出される液滴の容積は、(1)ノズル本体3の一振動によって吐出される滴下原液の容積と略同一である場合、(2)開口部5がノズル本体3の静止時に懸垂保持できる滴下原液の容積(Lsmax)と略同一である場合、の2つの場合がある。よって、覆い部4によって形成される内部空間容積が、ノズル本体3の一振動によって吐出される滴下原液の容積よりも大きく、かつ開口部5がノズル本体3の静止時に懸垂保持できる滴下原液の容積(Lsmax)よりも大きく設計されていると、開口部5より吐出される液滴の容積よりも大きな内部空間容積を有する覆い部4を実現することができる。
【0035】
覆い部4が装着部を有する場合には、図1に示されるように、その装着部がノズル本体3と着脱可能であってもよく、また、一体不可分に装着されていてもよい。覆い部4がノズル本体3に対して着脱自在に形成されていると、ノズル本体3及び覆い部4のメンテナンスが容易である。覆い部4がノズル本体3に対して着脱自在にするために、様々の形状乃至構造を採用することができ、例えば、覆い部4における装着部の内周面に形成されたオスネジとノズル本体3の先端部近傍の外周面に形成されたメスネジとを螺合することにより覆い部4とノズル本体3とを着脱自在にする螺着構造等を採用することができる。
【0036】
ノズル本体3とは別体である覆い部4を形成する材料としては、滴下原液に対して耐腐食性である限り、特に制限はなく、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン合金等の金属、及びプラスチック等を採用することができる。覆い部における装着部の材料として熱収縮性プラスチックを採用すると、熱を加えることにより、熱収縮性プラスチックで形成された装着部が収縮することにより、覆い部4における装着部とノズル本体の先端部6とが緊密、かつ液密に一体的に固着される。したがって、簡単な操作によって、ノズル本体3の先端部6に覆い部4を緊密かつ液密に装着し、一体化することができる。前記熱収縮性プラスチックとしては、例えば、ポリ塩化ビニル系化合物、ポリフッ化ビニリデン系化合物を用いることができる。
【0037】
また、ノズル本体3が、滴下原液を通過させる管状の内部流路の内周面とノズル本体3の外周面との厚みが前記内部流路の直径に比べて十分に大きい肉厚を有する円筒管体から形成される場合に、その肉厚の円筒管体の先端面を内部に向かって切削することにより、覆い部4とノズル本体3とが一体に形成される。この場合、ノズル本体3を形成する材料である前記肉厚の円筒管体からノズル本体3と覆い部4とが加工により形成され、ノズル本体3と覆い部4とが不離不可分に形成されている。
ノズル本体3と覆い部4とが不離不可分に一体に形成されている例として、図4に示されるように、肉厚の円筒管体であるノズル本体3と、そのノズル本体3の一端の基部7の外周面に設けられた接続部8と、ノズル本体3の一端から他端へと貫通し、滴下原液を流通移送させる流通路がノズル本体3の基部7側の一端で開口する滴下原液流入口10と、他端で開口する開口部5と、その開口部5から内径が軸線方向に沿って大きくなるように変化することにより軸線方向に沿う断面において椀状に輪郭線が形成される内壁面を有する覆い部4とを有する覆い部付きノズル本体が挙げられる。図4に示される例においては、覆い部4、特に傘部の内側形状は椀の内側形状となっている。
【0038】
覆い部4のうち、内部空間を形成する内表面は滴下原液と接触する可能性があるので接液面11とも称される。覆い部4における接液面11は滴下原液をはじく性質を有する部材乃至材料で形成される。
すなわち、滴下原液の溶媒又は分散媒が水であるときには、接液面11は撥水性を有する部材乃至材料で形成される。滴下原液の溶媒又は分散媒が水である場合には、例えば、滴下原液の滴との接触角が90度以上となる撥水性物質、例えば、シリコーン化合物、フルオロアルキル基を有する有機ケイ素化合物、フルオロアルキル基を有するポリオレフィン等で接液面11を形成することができる。
滴下原液の溶媒又は分散媒が有機溶剤である場合には、例えば、滴下原液の滴との接触角が90度以上となる親水性物質、例えば水酸基またはカルボキシル基を持ったポリマーが挙げられ、さらに具体的には、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリエチレン−アクリル酸(EAA)、及びステンレス、銅に代表される金属等で接液面11を形成することができる。
撥水性又は親水性の接液面11は、例えば、覆い部4自体を撥水性又は親水性の部材乃至材料で形成すること、又は覆い部4の内表面を、撥水性又は親水性の部材乃至材料で被覆することにより形成することができる。
接液面11が滴下原液をはじく性質を有することによって、開口部5から分離し、落下する液滴が、覆い部4の内周面である接液面11に付着して、覆い部4の内表面に滞留することなく、液滴がスムーズに落下する。覆い部4を設けることによって、開口部5の液切れが悪化することを防止することができる。
【0039】
この発明においては、覆い部4の外側の表面12を、滴下原液に対してはじく性質を有する領域とすることができる。すなわち、前記滴下原液の溶媒又は分散媒が水であるときには、覆い部の外側の表面12に撥水性の領域を形成し、滴下原液の溶媒又は分散媒が有機溶剤であるときには、覆い部の外側の表面12に親水性の領域を形成することができる。撥水性又は親水性の領域におけるノズル本体3の軸線方向に沿う長さが、振動滴下用ノズル1に付与される振動の振幅よりも大きい。さらに詳しくは、図2についていうと、覆い部4特に傘部の外側の表面12は、覆い部4の滴下方向先端つまり下端縁からノズル本体3に向かって、滴下原液をはじく性質である領域を有し、はじく性質である領域の軸線方向の長さは、振動滴下用ノズル1に付与される振動の振幅の大きさよりも大きい。したがって、ノズル本体3が軸線方向に振動し、滴下原液が覆い部の外側の表面12に付着することがなく、したがって、滴下溶液が振動によってノズル本体の基部7へとはい上がっていくことがない。それゆえ、ノズル本体の基部7の近傍に滴下原液が滞留し、多くの滴下原液が集合して、大径の液滴が落下することが防止される。
【0040】
覆い部の外側の表面12を、滴下原液をはじく性質を有する領域に形成するには、既に説明した撥水性の物質又は親水性の物質によって覆い部4自体を成形してもよい。また、図4に示すように、撥水性の物質又は親水性の物質をコーティングし、又は撥水性の物質又は親水性の物質で形成されたフィルムを貼着することによって、覆い部の芯体13の表面に、覆い部の撥液面14を成形してもよい。
【0041】
この発明においては、ノズル本体3の先端部6に設けられる開口部5の数は一つであっても、また複数であっても良い。例えば、図5で示すように、振動滴下用ノズル1は、ノズル本体3の先端部6に複数の開口部5を有することができる。複数の開口部5の内径は、全て同じ大きさであってもよいし、複数の異なる大きさであってもよい。同じ大きさの内径を有する複数の開口部5を有する振動滴下用ノズル1にあっては、1基のノズル本体3を用いて同一径の液滴を多量に形成することができる。異なる大きさの内径を有する複数の開口部5を有する振動滴下用ノズル1にあっては、1基のノズル本体3を用いて、複数の異なる径の液滴を同時に形成することができる。
【0042】
この発明においては、図5に示されるように、先端部6が複数の開口部5を有すると、開口部5毎に覆い部4が個別に設けられる。図示されていないが、ノズル本体3が先端部6に複数の開口部5を有し、かつ覆い部4がノズル本体3の先端部6に着脱可能である例においても、開口部5毎に覆い部4が個別に設けられる。それぞれの覆い部4が形成する内部空間容積は、覆い部4が囲繞する1個の開口部5から吐出される液滴の容積よりも、大きい。
【0043】
図6では、先端部6が複数の異なる大きさの開口部5を有し、所望の粒径を有する液滴のみを得るために、栓体15が使用される。栓体15は、開口部からの滴下を阻止することができる限りにおいて、ノズル本体3において押栓される位置等を適宜設計変更することができる。例えば、図6のように、開口部5と連通する滴下原液導入口10を、栓体15が押栓するように設計されていてもよく、図示していないが、開口部5を栓体15が押栓するように設計されていてもよい。
栓体15を用いて所望しない粒径を与える開口部5からの滴下を阻止することによって、開口部5が一個であるノズル本体3を使用する場合に発生していたところの、開口径の異なる開口部5を有する複数種のノズル本体を用意しておいて必要に応じて複数のノズル本体から所定の1個のノズル本体を選択するという煩雑さ、ノズル本体を交換するという作業上の無駄等をなくすることができる。また、先端部6が同じ大きさの開口部5を複数有する振動滴下用ノズル2において、適当な数の開口部5を除き、その他の開口部5からの滴下を、栓体15を用いて阻止することによって、1基のノズル本体3から得られる液滴の数を調節することができる。
【0044】
単一の栓体15を用いることによって、複数種類の口径を有する開口部からの滴下を、阻止できるようにすることが好ましい。単一の栓体15を用いることによって、口径に応じて多数の異なる栓体を用意するという煩雑さをなくすことができる。単一の栓体15の形状として、様々のものを設計変更することができ、例えば、図6で示すように、外周面がテーパー形状を有する円錐台形状体の栓体15を用いることができる。また、複数の口径の異なる開口部5に対応する滴下原液導入口を同じ形状とすれば、同一の栓体15をいずれの滴下原液導入口にも使用することができるので、便利である。
【0045】
なお、図1から図6において、振動滴下用ノズル1と振動滴下装置本体2とが着脱可能に設けられる例を示して説明してきたが、振動滴下用ノズル1と振動滴下装置本体2とは一体に形成されていてもよい。
【0046】
次にこの発明における振動滴下ノズル1の作用について説明する。
【0047】
例えば、図1に示されるこの発明に係る振動滴下用ノズル1は、図2に示されるように振動滴下装置8に取り付けられ、振動滴下操作が行われる。滴下原液は、滴下原液自身の重量によって生じる圧力と、滴下方向上流において滴下原液に加えられる圧力とによって、ノズル本体を鉛直下向きに移動する。さらに、振動滴下法においては、ノズル本体に付与される振動による力によっても、滴下原液は鉛直下向きへと移動する。
【0048】
ノズル本体の先端部に達した滴下原液は、やがてノズル本体の先端部に設けられた開口部から外に押し出され、ノズル本体の開口部から滴下原液が吐出される。開口部からの滴下原液の吐出量が、開口部が懸垂保持することのできる滴下原液の液量を超えると、ノズルの開口部は吐出した滴下原液を保持することができなくなり、滴下原液がノズルの開口部から分離して、液滴が落下する。ノズルの振動速度、一振動の間においてノズルから吐出される滴下原液量の条件等に応じて、ノズルが一回若しくは複数回振動させられる毎に、ノズルの開口部から液滴が落下する。覆い部4の内部空間容積は開口部5より吐出される液滴の容積よりも大きいので、開口部5から突出した滴下原液が、覆い部4の内部空間を越えて外部へとはみ出すことがない。よって、ノズル本体3の外周面と滴下原液との接触が防止される。
【0049】
覆い部4の接液面11が、振動滴下用ノズル1から滴下される液体をはじく性質を有することから、ノズル本体3の開口部5から分離した液滴は、覆い部4の接液面11に安定して保持されず、ノズル本体3の開口部5から分離した液滴が、覆い部4の内部空間において滞留、集合することがない。故に、ノズル本体3の開口部5から分離した液滴は、速やかに落下する。
【0050】
開口部5から突出した滴下原液は覆い部4の接液面11によって斥力を与えられるので、速やかに開口部5と滴下原液が分離し、液滴が落下することが促される。故に、開口部5から突出した滴下原液が開口部5から分離せず、開口部5の近傍で滴下原液の液だまりが形成されることがない。
【符号の説明】
【0051】
1 振動滴下用ノズル
2 振動滴下装置本体
3 ノズル本体
4 覆い部
5 開口部
6 先端部
7 基部
8 接続部
9 ノズル本体の内表面
10 滴下原液導入口
11 接液面
12 覆い部の外側の表面
13 覆い部の芯体
14 覆い部の撥液面
15 栓体
図1
図2
図3
図4
図5
図6