【実施例】
【0115】
[実施例1]
(1)ヒト化H0L0抗体の点変異遺伝子の作製
WO2006/046751に開示されるヒト化GC33抗体のCDRを含むグリピカン3抗体をコードする遺伝子を出発材料として、各種の点変異遺伝子を作製した。改変部位を含む順鎖および逆鎖の配列に基づいて設計されたオリゴDNAが合成された。市販のQuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)を用いて複数の点変異遺伝子が作製された。点変異遺伝子の作製は以下の条件に従ってPCR法によって実施された。10 ngの鋳型プラスミドと、10 pmolの順鎖および逆鎖の合成オリゴDNA、キットに添付された10x Buffer、dNTP mixおよびPfu turbo DNA polymeraseからなる反応混合物を、95℃にて30秒間加熱した後、95 ℃にて30秒、55 ℃にて1分、68 ℃にて4分から構成されるPCR反応サイクルが18回実施された。キットに添付されたDpnIが反応混合物に添加された後に37℃にて1時間の制限酵素による制限消化反応が継続された。当該反応液によってDH5αコンピテント細胞(TOYOBO)が形質転換された結果、形質転換体が得られた。当該形質転換体から単離されたプラスミドDNAの塩基配列の決定に基づいて、点変異が導入されたことが確認された点変異遺伝子は、動物細胞において挿入遺伝子を発現可能ならしめる発現ベクター中にクローン化された。改変遺伝子は以下に示す構成を有する改変により取得された。
【0116】
ヒト化H0L0抗体およびその点変異改変抗体の一過性発現はPolyethyleneimine(Polysciences Inc.)を用いた一過性発現により実施された。Trypsin EDTA(Invitrogen)にて剥離されたHEK293細胞が、10cm
2培養ディッシュに6 x 10
6 cells/10mLとなるように播種された。翌日、手順書に従い、H鎖発現プラスミドDNAおよびL鎖発現プラスミドDNAに、SFMII培地およびPolyetyleneimineが混合された後、当該混合液は室温にて10分間静置された。混合液の全量は、HEK293細胞が前記記載の通り播種された培養ディッシュに滴下された。その約72時間後に回収された培養上清から、発現したヒト化H0L0抗体およびその点変異改変抗体の精製がrProteinA sepharoseTM Fast Flow(GE Healthcare)を用いて、その手順書に従い実施された。
【0117】
(1−1)ヒト化H0L0抗体のTm値の改変
熱変性中間温度(Tm)は、一定のプログラムされた加熱速度で被検試料溶液を加熱した後に得られるサーモグラム(Cp対T)における変性ピークの頂点として把握される。DSC測定用試料溶液の調製を以下の様に実施することによって、ヒト化H0L0抗体のTm値が測定された。まず、150 mmol/lの塩化ナトリウムを含む20 mol/lの酢酸ナトリウム緩衝溶液(pH6.0)を透析外液に対して、透析膜に封入された50-100μg相当量の抗体溶液が一昼夜の間、透析に供された。その後、透析外液を用いてその抗体濃度が50-100μg/mlに調製された試料溶液がDSC測定用試料溶液として使用された。
【0118】
適切なDSC装置、例えばDSC-II(Calorimetry Sciences Corporation)が、この実験のために好適に使用される。前記方法により調製された試料溶液およびリファレンス溶液(透析外液)が十分に脱気された後に、それぞれの被験検体が熱量計セルに封入され40℃にて熱充分な平衡化が行われた。次にDSC走査が40℃〜100℃にて約1K/分の走査速度で行われた。当該測定の結果は、温度の関数としての変性ピークの頂点として表される。非特許文献(Rodolfoら、Immunology Letters (1999), 47-52)を参考にしたFabドメインのピークアサインが行われ、ヒト化H0L0抗体の熱変性中間温度が算出された。具体例としてHspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体のDSC(示差走査熱量計)測定から得られたチャートが
図1に例示される。
【0119】
前記記載の方法による算出に基づいた配列番号1で表されるH鎖、および、配列番号7で表されるL鎖からなるヒト化H0L0抗体のTm値は76.6℃であるが、既存の抗体として例示されるSynagisおよびHerceptinのTm値はそれぞれ85.4℃および81.8℃と計測される。したがってヒト化H0L0抗体のTm値は既存の抗体のそれよりも低いことが示されたこととなる。
【0120】
そこで、そのTm値の向上を目的として、ヒト化H0L0抗体の改変抗体を作製した。配列番号1で表されるH0L0抗体のH鎖のFR2に対して、そのVH1bのサブクラスをVH4のサブクラスに改変するV37I、A40P、M48I、L51Iの改変が加えられたH15(配列番号2)が作製された。そのTm値は79.1℃に改善された。配列番号7で表されるH0L0抗体のL鎖のFR2をVK2からVK3のサブクラスに改変するL42Q、S48A、Q50Rの改変、および、FR1のV2を生殖細胞系列の配列であるIに置換するV2Iの改変が実施されたL4(配列番号8)が作製された。各抗体のTm値の測定は前記の記載の方法により実施された。その結果、H15L0及びH0L4のTm値はそれぞれ、79.2℃及び77.2℃と測定され、H0L0のTm値である76.6℃よりも改善された。この2つの改変体が組み合わされたH15L4抗体のTm値は80.5℃に改善された。
【0121】
(1−2)ヒト化H0L0抗体のpI値の改変
抗体が有するpI値が減少することにより、抗体の血漿中半減期が伸長する。それとは逆に抗体のpI値が増大することにより、抗体の組織移行性が改善される。癌治療に対する効果を奏する抗体のpI値の増加または減少のいずれかが、腫瘍抑制効果の増強をもたらすかは分かっていない。そこで、pI値が減少したヒト化H0L0抗体の改変抗体とpI値が増加したヒト化H0L0抗体の改変抗体を作製し、両者の抗腫瘍効果を比較検討することによって、いずれの改変が高い腫瘍抑制効果をもたらすかが検証された。
【0122】
各抗体のpI値は等電点電気泳動による分析に基づいて算出された。当該電気泳動は以下のとおり行われた。Phastsystem Cassette(AmerchamBioscience社製)を用いて以下の組成を有する膨潤液によって60分ほどPhast-Gel Dry IEF(AmerchamBioscience)ゲルが膨潤された。
(a)高pI用の膨潤液の組成:
1.5 mlの10% Glycerol
100μlのPharmalyte 8-10.5 for IEF(AmerchamBioscience)
(b)低pI用の膨潤液の組成:
1.5 mlの精製水
20μlのPharmalyte 8-10.5 for IEF(AmerchamBioscience)
80μlのPharmalyte 5-8 for IEF(AmerchamBioscience)
【0123】
約0.5μgの抗体が膨潤したゲルに供され、以下のプログラムにより制御されたPhastSystem(AmerchamBioscience)を用いることによって等電点電気泳動が行われた。サンプルは下記プログラムにおけるStep 2の段階でゲルに添加された。pIマーカーとして、Calibration Kit for pI(AmerchamBioscience)が使用された。
Step 1:2000 V、2.5 mA、3.5 W、15℃、75 Vh
Step 2:200 V、2.5 mA、3.5 W、15℃、15 Vh
Step 3:2000 V、2.5 mA、3.5 W、15℃、410 Vh
【0124】
泳動後のゲルが20 % TCAによって固定化された後、Silver staining Kit, protein(AmerchamBioscience)を用い、キットに添付されている手順書に従って銀染色が行われた。染色後、pIマーカーが有する既知の等電点を基準にして被験試料である各抗体の等電点が算出された。
図2および
図3にそれぞれ高pI等電点電気泳動の泳動像および低pI等電点電気泳動の泳動像が示されている。
【0125】
(a)pI値が増加した改変
H15にQ43K、D52N、Q107Rの改変が更に施されたHspu2.2(Hu2.2)(配列番号6)が作製された。また、L4にE17Q、Q27R、Q105R、およびCDR2のS25を生殖細胞系列で多いAに置換したS25Aの改変が施されたLspu2.2(Lu2.2)(配列番号12)が作製された。Hspu2.2(Hu2.2)およびLspu2.2(Lu2.2)とからなる抗体であるHspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体のTm値は76.8℃と計測され、pI値は9.6と計測された。H0L0抗体のpI値は8.9であることから、Hspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体のpI値は0.7増大した。
【0126】
(b)pI値が減少した改変
H15にK19T、Q43E、K63S、K65Q、G66Dの改変が更に施されたHspd1.8(Hd1.8)(配列番号5)が作製された。L4にQ27Eの改変が施され、L4を構成するFR3の79-84の配列であるKISRVEがTISSLQに改変され、Lspu2.2(Lu2.2)に対する改変同様にS25Aの改変が施されたLspd1.6(Ld1.6)(配列番号11)が作製された。Hspd1.8(Hd1.8)およびLspd1.6(Ld1.6)からなる抗体であるHspd1.8Lspd1.6(Hd1.8Ld1.6)のpI値は7.4と計測された。H0L0抗体のpI値は8.9であることからHspd1.8Lspd1.6(Hd1.8Ld1.6)抗体のpI値は1.5減少した。
【0127】
(2)競合ELISAによるH0L0抗体の点変異改変抗体の結合活性の評価
(1)で精製されたH0L0抗体およびその点変異改変抗体の競合ELISAによる評価が行われた。1μg/mlとなるように調製された可溶型GPC3コアポリペプチド(配列番号13)が96穴プレートに1ウエル当たり100μl加えられた。当該プレートは4℃にて終夜静置され、可溶型GPC3コアポリペプチドが当該プレートに固相化された。当該プレートに固相化された可溶型GPC3コアポリペプチドはSkan WASHER400(Molecular Devices)を用いて洗浄緩衝液にて3回洗浄され200μlのブロッキング緩衝液が加えられ4℃にて30分以上ブロックされた。当可溶型GPC3コアポリペプチドが固相化されブロックされたプレートは次にSkan WASHER400を用いて洗浄緩衝液にて3回洗浄された。その後、種々の濃度のH0L0抗体またはその点変異改変抗体と終濃度0.3μg/mlのビオチン化されたH0L0抗体がそれぞれ100μl混合された混合液200μlがプレート1ウエル当たり加えられた。H0L0抗体のビオチン化はBiotin Labelingキット(Roche)を用いてキットの手順書に従い実施された。当該プレートは室温にて1時間静置された後、Skan WASHER400(Molecular Devices)を用いて洗浄緩衝液にて5回洗浄された。その1ウエル当たり基質緩衝液によって20,000倍に希釈された100μlの Goat anti streptabidin Alkaline phosphatase(ZYMED)が加えられた当該プレートは、室温にて1時間静置された後Skan WASHER400を用いて洗浄緩衝液にて5回洗浄された。基質緩衝液を用いて1 mg/mlとなるようにPhosphatase Substrate(Sigma)が調製され、1ウエル当たり100μl加えられ1時間静置された。Benchmark Plus(BIO-RAD)を用いて655 nmの対照吸光度を用いて、各ウエル中の反応液の405 nmにおける吸光度が測定された。
【0128】
図4で示されるように、H15L4抗体の抗原に対する結合活性は改変に供したH0L0抗体のそれとほぼ同等であることが示された。また、
図5で示されるように、Hspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体の抗原に対する結合活性は改変に供したH0L0抗体のそれとほぼ同等であることが示された。さらに、
図6で示されるように、Hspd1.8Lspd1.6 (Hd1.8Ld1.6)抗体の抗原に対する結合活性は改変に供したH0L0抗体のそれとほぼ同等であることが示された。
【0129】
[参考実施例2]CHO細胞におけるフコーストランスポーター遺伝子の破壊
(1)ターゲッティングベクターの構築
(1−1) KO1ベクターの作製
pcDNA3.1/Hygro(インビトロジェン)よりHyg5-BHとHyg3-NTのプライマーでPCRすることによって、Hygromycin耐性遺伝子(Hygr)の開始コドンの5’側にBamH IサイトとTGCGCの配列を付加することで、フコーストランスポーター遺伝子の開始コドンの5’側と同じ配列にし、SV40 polyA付加シグナルまでの領域を含む3’側にはNot Iサイトを付加してHygrを抜き出した。
フォワードプライマー
Hyg5-BH 5’- GGATCCTGCGCATGAAAAAGCCTGAACTCACC -3’(配列番号14)
リバースプライマー
Hyg3-NT 5’- GCGGCCGCCTATTCCTTTGCCCTCGGACG -3’(配列番号15)
【0130】
フコーストランスポーターのターゲッティングベクターver.1(以下、KO1ベクターと称する)はpMC1DT-Aベクター(Yagi T, Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1990) 87, 9918-22,)に、フコーストランスポーターの5’側(配列番号16に示す塩基配列のNo.2,780のSmaIからNo.4,232のBamH I)、3’側(No.4,284からNo.10,934のSac Iまで)、及びHygrフラグメントを各々挿入することで構築した。ベクターの特徴としては、Hygrにプロモーターが付加されていないことから、相同組み換えを起こしたときにフコーストランスポーターのプロモーターによって、Hygrが発現することとなる。しかしながら、相同組み換えによって1コピーのみベクターが細胞に導入されても、ハイグロマイシンBに対する耐性を獲得するほどHygrが発現するとは限らない。なお、KO1ベクターはNot Iで切断して細胞に導入した。KO1ベクターによって、フコーストランスポーターは開始コドンを含むエクソン1の41塩基対を欠損することになり、機能を失うものと考えられる。
【0131】
(1−2)pBSK-pgk-1-Hygrの作製
pKJ2ベクター(Popo H, Biochemical Genetics (1990) 28, 299-308,)よりマウスpgk-1遺伝子のプロモーターをEcoR I-Pst Iによって切り出し、pBluescript(ストラタジーン)のEcoR I-Pst IサイトにクローニングしてpBSK-pgk-1を作製した。HygrはpcDNA3.1/HygroよりHyg5-AVとHyg3-BHのプライマーでPCRすることによって、Hygrの5’側にEcoT22 IサイトとKozak配列を付加し、SV40 polyA付加シグナルまでの領域を含む3’側にはBamH Iサイトを付加してHygrを抜き出した。
フォワードプライマー
Hyg5-AV 5’- ATGCATGCCACCATGAAAAAGCCTGAACTCACC -3’(配列番号17)
リバースプライマー
Hyg3-BH 5’- GGATCCCAGGCTTTACACTTTATGCTTC -3’(配列番号18)
【0132】
このHygr(EcoT22 I-BamH I)フラグメントをpBSK-pgk-1のPst I-BamH Iサイトに挿入し、pBSK-pgk-1-Hygrを作製した。
【0133】
(1−3)KO2ベクターの作製
フコーストランスポーターのターゲッティングベクターver.2(以下、KO2ベクターと称する)はpMC1DT-Aベクターにフコーストランスポーターの5’側(配列番号16に示す塩基配列のNo.2,780のSma IからNo.4,232のBamH I)、3’側(No.4,284からNo.10,934のSacIまで)、及びpgk-1- Hygrフラグメントを各々挿入することで構築した。KO1ベクターと異なり、KO2ベクターはHygrにpgk-1遺伝子のプロモーターが付加されていることから、相同組み換えによって1コピーのみベクターが細胞に導入されても、ハイグロマイシンBに対する耐性を獲得する。なお、KO2ベクターはNot Iで切断して細胞に導入した。KO2ベクターによって、フコーストランスポーターは開始コドンを含むエクソン1の46塩基対を欠損することになり、機能を失うものと考えられる。
【0134】
(1−4)pBSK-pgk-1-Purorの作製
pPURベクター(BD Biosciences)をPst IとBamH Iで切断し、切り出されたフラグメント(Puror)をpBSK-pgk-1のPst I-BamH Iサイトに挿入し、pBSK-pgk-1-Purorを作製した。
【0135】
(1−5)KO3ベクターの作製
フコーストランスポーターのターゲッティングベクターver.3(以下、KO3ベクターと称する)はpMC1DT-Aベクターにフコーストランスポーターの5’側(配列番号16に示す塩基配列のNo.2,780のSma IからNo.4,232のBamH I)、3’側(No.4,284からNo.10,934のSac Iまで)、及びpgk-1- Purorフラグメントを各々挿入することで構築した。なお、pgk-1-Purorの3’末端には、以下に示すスクリーニング用のプライマーが結合する配列を予め付加しておいた。なお、KO3ベクターはNot Iで切断して細胞に導入した。KO3ベクターによって、フコーストランスポーターは開始コドンを含むエクソン1の46塩基対を欠損することになり、機能を失うものと考えられる。
リバースプライマー
RSGR-A 5’- GCTGTCTGGAGTACTGTGCATCTGC -3’(配列番号19)
以上の3種類のターゲッティングベクターを用いて、フコーストランスポーター遺伝子のノックアウトを試みた。
【0136】
(2)CHO細胞へのベクターの導入
CHO-S-SFMII HT- (インビトロジェン)にHT Supplement(100x)(インビトロジェン)とペニシリンストレプトマイシン(インビトロジェン)をCHO-S-SFMII HT-の容量に対して、それぞれ1/100 量を加えた。これを培養用の培地(以下、SFMII (+)と称する)としてCHO細胞のDXB11株を継代し、さらに遺伝子導入後の培養もこのSFMII(+)で行った。8 x 10
6個のCHO細胞を0.8 mlのダルベッコリン酸緩衝液(以下、PBSと略す。インビトロジェン)に懸濁した。細胞懸濁液に30μgのターゲッティングベクターを加え、Gene Pulser Cuvette(4 mm)(バイオラッド)に細胞懸濁液を移した。氷上で10分間放置した後に、GENE-PULSER II(バイオラッド)で1.5kV, 25μFDの条件で、エレクトロポレーション法によりベクターを細胞に導入した。ベクターを導入後、細胞を200 mlのSFMII(+)培地に懸濁して20枚の96穴平底プレート(イワキ)に100μl/ウェルで細胞を播きこんだ。プレートをCO2インキュベータ内で、24時間、37℃で培養した後、薬剤を添加した。
【0137】
(3)ノックアウトの第一段階
KO1ベクター、もしくはKO2ベクターをそれぞれCHO細胞に導入し、ベクター導入から24時間後にハイグロマイシンB (インビトロジェン)による選抜を行った。ハイグロマイシンBは0.3 mg/mlになるようにSFMII(+)に溶解し、100μl/ウェル添加した。
【0138】
(4)PCRによる相同組み換え体のスクリーニング
(4−1)PCR用のサンプルの調整
相同組み換え体はPCR法によってスクリーニングした。スクリーニングで用いるCHO細胞は96穴平底プレートで培養し、培養上清除去後に細胞溶解用の緩衝液を50μl/ウェル加えて55℃、2時間加温し、続いて95℃、15分加熱することで、プロティナーゼ Kを失活させてPCRの鋳型とした。細胞溶解用の緩衝液は、1ウェルあたり10 X LA 緩衝液II(タカラLA Taqに添付)5μl、10% NP-40 (ロッシュ)2.5μl、プロティナーゼ K (20mg/ml、タカラ)4μl、及び蒸留水(ナカライテスク)38.5μlで構成されている。
【0139】
(4−2)PCRの条件
PCR反応混合物は上記のPCRサンプル1μl、10 x LA緩衝液II 5μl、MgCl
2 (25 mM) 5μl、dNTP(2.5 mM)5μl、プライマー(各10μM)2μl、LA Taq(5 IU/μl)0.5μl、及び蒸留水 29.5μl(全50μl)とした。KO1ベクターを導入した細胞のスクリーニングには、TP-F4とTHygro-R1、KO2ベクターを導入した細胞のスクリーニングには、TP-F4とTHygro-F1をPCRプライマーに用いた。
【0140】
KO1ベクターを導入した細胞のPCRは、95℃にて1分間の前加熱、95℃にて30秒間、60℃にて30秒間、及び60℃にて2分間の増幅サイクル40サイクル、並びに72℃にて7分の複加熱とした。KO2ベクターを導入した細胞のスクリーニングには95℃にて1分間の前加熱、95℃にて30秒間、及び70℃にて3分間の増幅サイクル40サイクル、並びに70℃にて7分の複加熱とした。
【0141】
プライマーは以下の通りで、相同組み換えを起こした細胞のサンプルでは、KO1ベクターでは、約1.6 kb、KO2ベクターでは約2.0 kbのDNAが増幅される。プライマーはTP-F4がベクターの外側で、かつ5’側のフコーストランスポーターのゲノム領域に設定し、THygro-F1、及びTHygro-R1はベクター内のHygrの中に設定した。
フォワードプライマー(KO1, KO2)
TP-F4 5’- GGAATGCAGCTTCCTCAAGGGACTCGC -3’(配列番号20)
リバースプライマー(KO1)
THygro-R1 5’- TGCATCAGGTCGGAGACGCTGTCGAAC -3’(配列番号21)
リバースプライマー(KO2)
THygro-F1 5’- GCACTCGTCCGAGGGCAAAGGAATAGC -3’(配列番号22)
【0142】
(5)PCRスクリーニング結果
KO1ベクターを導入した細胞は918個を解析し、そのうち相同組み換え体と考えられる細胞は1個であった(相同組み換え効率は約0.1%)。また、KO2ベクターを導入した細胞は537個を解析し、そのうち相同組み換え体と考えられる細胞は17個であった(相同組み換え効率は約3.2%)。
【0143】
(6)サザンブロット解析
さらに、サザンブロット法によっても確認を行った。培養した細胞から定法に従ってゲノムDNAを10μg調整し、サザンブロットを行った。配列番号16に示す塩基配列のNo.2,113-No.2,500 の領域から、以下の二種類のプライマーを用いてPCR法により387 bpのプローブを調整し、これをサザンブロット法による確認に用いた。ゲノムDNAはBgl IIで切断した。
フォワードプライマー
Bgl-F:5’- TGTGCTGGGAATTGAACCCAGGAC -3’(配列番号23)
リバースプライマー
Bgl-R:5’- CTACTTGTCTGTGCTTTCTTCC -3’(配列番号24)
【0144】
Bgl IIによる切断によって、フコーストランスポーターの染色体からは約3.0 kb、KO1ベクターで相同組み換えを起こした染色体からは約4.6 kb、KO2ベクターで相同組み換えを起こした染色体からは約5.0 kbのバンドがそれぞれ出現する。KO1ベクター、及びKO2ベクターによって相同組み換えを起こした細胞のそれぞれ1、7種類を実験に用いた。KO1ベクターで唯一獲得された細胞は5C1と名付けたが、その後の解析により複数の細胞集団から構成されることが明らかになったので、限界希釈によってクローン化し、その後の実験に用いることにした。また、KO2ベクターで獲得された細胞の一つを6E2と名付けた。
【0145】
(7)ノックアウトの第二段階
KO1ベクター、及びKO2ベクターによって相同組み換えが成功した細胞に対し、3種類のベクターを用いて、フコーストランスポーター遺伝子が完全に欠損した細胞株の樹立を試みた。ベクターと細胞の組み合わせは、以下の通りである。方法1:KO2ベクターと5C1細胞(KO1)、方法2:KO2ベクターと6E2細胞(KO2)、方法3:KO3ベクターと6E2細胞(KO2)。ベクターをそれぞれの細胞に導入し、ベクター導入から24時間後にハイグロマイシンB、ピューロマイシン(ナカライテスク)による選抜を開始した。ハイグロマイシンBは方法1では最終濃度が1 mg/ml、方法2では最終濃度が7 mg/mlになるようにした。さらに方法3では、ハイグロマイシンBの最終濃度が0.15 mg/ml、ピューロマイシンの最終濃度が8μg/mlになるように添加した。
【0146】
(8)PCRによる相同組み換え体のスクリーニング
サンプルの調製は前述の通り。方法1に関するスクリーニングは、前述のKO1ベクター、及びKO2ベクターで相同組み換えを起こした細胞を検出するPCRを両方行った。方法2に関しては、下記のPCRプライマーを設計した。配列番号16に示す塩基配列のNo.3,924-3,950の領域にTPS-F1を、No.4,248-4,274にSHygro-R1を設定した。このPCRプライマーによって、KO2ベクターにより欠損するフコーストランスポーターの遺伝子領域の350 bpが増幅される。従って、方法2におけるPCRスクリーニングにおいては、350 bpが増幅されないものを、フコーストランスポーター遺伝子が完全に欠損した細胞とみなすことにした。PCRの条件は、95℃にて1分間の前加熱、95℃にて30秒間、70℃にて1分間の増幅サイクル35サイクル、並びに70℃にて7分の複加熱とした。
フォワードプライマー
TPS-F1:5’- CTCGACTCGTCCCTATTAGGCAACAGC -3’(配列番号25)
リバースプライマー
SHygro-R1:5’- TCAGAGGCAGTGGAGCCTCCAGTCAGC -3’(配列番号26)
【0147】
方法3に関しては、フォワードプライマーにTP-F4、リバースプライマーにRSGR-Aを用いた。PCRの条件は、95℃にて1分間の前加熱、95℃にて30秒間、60℃にて30秒間、72℃にて2分間の増幅サイクル35サイクル、並びに72℃にて7分の複加熱とした。KO3ベクターによって相同組み換えを起こした細胞のサンプルでは、約1.6 kbのDNAが増幅される。このPCRでKO3ベクターによって相同組み換えを起こした細胞を検出するとともに、KO2ベクターでの相同組み換えが残っていることも確認した。
【0148】
(9)PCRスクリーニング結果
方法1では616個を解析し、そのうち相同組換体と考えられる細胞は18個であった(相同組換効率は2.9%)。方法2では524個を解析し、そのうち相同組換体と考えられる細胞は2個であった(相同組換効率は約0.4%)。さらに、方法3では382個を解析し、そのうち相同組換体と考えられる細胞は7個であった(相同組換効率は約1.8%)。
【0149】
(10)サザンブロット解析
前述の方法に準じて解析を行った。その結果、解析できた細胞のうち、フコーストランスポーターの遺伝子が完全に欠損している細胞を1つ見出した。第一段階のノックアウトでは、PCRとサザンブロットの解析結果が一致したが、この第二段階のノックアウトでは、一致しなかった。
【0150】
(11)フコースの発現解析
さらに、PCRで相同組み換え体と判断された26の細胞におけるフコースの発現を解析した。5μg/mlのLens culinaris Agglutinin, FITC Conjugate(ベクターラボラトリー)、2.5% のFBS、0.02%のアジ化ナトリウムを含むPBS(以下、FACS溶解液と称する)100μlで1×10
6個の細胞を氷冷中で1時間染色した。その後、FACS溶解液で細胞を3回洗浄してFACSCalibur(ベクトンディッキンソン)で測定を行った。その結果、サザンブロット解析でフコーストランスポーターの遺伝子が完全に欠損していると判断された細胞であるFTP-KO株のみ、フコースの発現が低下していることが明らかになった。
【0151】
[参考実施例3] FTP-KO株由来の抗体産生細胞の樹立と当該細胞により産生された抗体の精製
SFMII (+)培地にハイグロマイシンBの最終濃度が1 mg/mlになるように調製し、実施例1で得られたフコーストランスポーター欠損株(FTP-KO細胞、クローン名 3F2)を継代した。8 x 10
6個の3F2を0.8 mlのダルベッコリン酸緩衝液に懸濁した。細胞懸濁液に25μgのヒト化グリピカン3抗体発現ベクターを加え、Gene Pulser Cuvetteに細胞懸濁液を移した。氷上で10分間放置した後に、GENE-PULSER IIで1.5 kV, 25μFDの条件で、エレクトロポレーション法によりベクターを細胞に導入した。ベクターを導入後、細胞をSFMII(+)培地40 mlに懸濁して96穴平底プレート(イワキ社)に100μl/ウェルで細胞を播きこんだ。プレートをCO2インキュベータ内で、24時間、37℃で培養した後、Geneticin(インビトロジェン)を終濃度0.5 mg/mlになるように添加した。薬剤に耐性になった細胞の抗体産生量を測定し、ヒト化グリピカン3抗体産生細胞株をそれぞれ樹立した。
【0152】
抗体発現株より培養上清が回収され、P-1ポンプ(Pharmacia)を用いてHitrap rProtein A (Pharmacia)カラムにアプライされた。カラムは結合バッファ(20 mM Sodium phosphate (pH 7.0))にて洗浄後、結合した抗体が溶出バッファ(0.1 M Glycin-HCl (pH 2.7))で溶出された。溶出液は直ちに中和バッファ(1M Tris-HCl(pH 9.0))で中和された。DC protein assay(BIO-RAD)により抗体の溶出画分が選択されプールした後、当該溶出画分はCentriprep-YM10(Millipore)にて2 ml程度まで濃縮された。次に、当該濃縮液は、150mM NaCl を含む20 mM 酢酸バッファ(pH 6.0)にて平衡化されたSuperdex200 26/60(Pharmacia)を用いたゲルろ過に供された。溶出液のモノマー画分のピークが回収され、当該画分がCentriprep-YM10にて濃縮された。当該濃縮液はMILLEX-GW 0.22μm Filter Unit(Millipore)を用いてろ過された後、4℃で保管された。精製された抗体の濃度は、280nmの波長で測定された吸光度に基づいて、モル吸光係数から換算して決定された。
【0153】
[参考実施例4] FTP-KO細胞により産生されたヒト化抗グリピカン3抗体に結合する糖鎖の解析
(1)2-アミノベンズアミド標識糖鎖(2-AB化糖鎖)の調製
本発明のFTP-KO細胞産生抗体、及び対照試料としてCHO細胞産生抗体に、N-Glycosidase F(Roche diagnostics)を作用させることによって、抗体に結合する糖鎖がタンパク質から遊離された(Weitzhandler M. et al., Journal of Pharmaceutical Sciences (1994) 83(12),,1670-5)。エタノールを用いた除タンパク質操作の後(Schenk B. et al., The Journal of Clinical Investigation (2001), 108(11), 1687-95)、遊離糖鎖が濃縮乾固され、次いで2-アミノピリジンによって蛍光標識が施された(Bigge J. C. et al., Analytical Biochemistry (1995) 230(2), 229-238)。得られた2-AB化糖鎖が、セルロースカートリッジを用いた固相抽出により脱試薬された後遠心分離により濃縮され、精製2-AB化糖鎖として以後の解析に供された。次に、β-Galactosidase(生化学工業)を精製2-AB化糖鎖に作用させることによって、アガラクトシル2-AB化糖鎖が調製された。
【0154】
(2)アガラクトシル2-AB化糖鎖の順相HPLCによる分析
前項の方法で、本発明のFTP-KO細胞産生抗体、及び対照試料としてCHO細胞産生抗体から遊離された糖鎖を出発材料として調製されたアガラクトシル2-AB化糖鎖は、アミドカラムTSKgel Amide-80(東ソー)による順相HPLCによって分析され、そのクロマトグラムが比較された。CHO細胞産生抗体においてはG(0)がその糖鎖の主成分として存在しており、フコースの付加されていないG(0)-Fucはピーク面積比からの算出に基づき全糖鎖中4%程度存在すると見積もられた。一方,FTP-KO細胞産生抗体においては、G(0)-Fucが主成分であり、いずれの産生株から産生された抗体においてもピーク面積比からの算出に基づけば全糖鎖中の90%以上がフコースの付加されていない糖鎖として存在していた。
【0155】
【表1】
【0156】
[実施例5]ヒト化H0L0抗体およびその点変異改変抗体の安定性発現株の樹立
実施例1で記載された方法で作製されたH0L0抗体の改変抗体であるHspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体とHspd1.8Lspd1.6(Hd1.8Ld1.6)抗体、またはその改変に供したH0L0抗体をコードする遺伝子が発現ベクターにクローン化された。クローン化に際しては、抗体を構成するH鎖およびL鎖をコードする各遺伝子が発現されるように、H鎖およびL鎖をコードする各遺伝子がそれぞれ別の発現ベクターに挿入された。前記のようにH鎖およびL鎖をコードする各遺伝子が所望の組合せとなるように選択された二種類の発現ベクターがPvuIにて切断された後に、参考実施例2で作製されたFTP-KO株中へエレクトロポレーションを用いて導入された。
【0157】
エレクトロポレーションによるH0L0抗体およびその改変抗体を安定的に生産する形質導入株の作製はGene PulserII(Bio Rad社製)を用いて実施された。所望のH鎖およびL鎖を構成する組合せをもたらすH鎖、L鎖発現プラスミドDNAの各々10μgとPBSに懸濁されたCHO細胞(1x10
7細胞/ml)0.75mlが混合され、混合液が氷上で10分間静置された。混合液がGene PulserII用キュベットに移された後に1.5kV、25μFDの容量にて電気パルスが付与された。パルス付与された混合液は室温にて10分間静置された後に、CHO-S-SFMII / 1% HT / 1% PS培地に懸濁された。96ウエル培養用プレートの各ウエルに同培地で調製された5、10、50倍での各希釈懸濁液100μlが分注された。当該プレートは5%のCO2濃度に維持されたCO2インキュベーター中で24時間インキュベートされた。その後、Geneticin(GIBCO)を最終濃度500μg/ml、Zeocin(Invitrogen)を最終濃度600μg/mlになるように各ウエルに添加された当該プレートは更に2週間インキュベートされた。GeneticinおよびZeocin耐性を示す形質導入細胞のコロニーが、500μg/ml Geneticin(GIBCO)および600μg/ml Zeocin(Invitrogen)を含む同培地で継代されることによりさらに選抜された。前記のように選抜された当該形質導入細胞の培養上清中の抗体濃度がBiacoreQ(BIACORE)を用いて評価されることによって、所望の抗体を高発現する形質導入株が樹立された。培養上清中の抗体濃度の測定はBiacoreQ(BIACORE)に添付された手順書に基づいて実施された。樹立された細胞株は、500μg/ml Geneticin(Invitrogen)及び600μg/ml Zeocin(Invitrogen)を含むCHO-S-SFMII培地(Invitrogen)中で培養され、適切な期間の培養により得られた培養上清が回収された。回収された培養上清は、rProteinA-Sepharoseカラム(GE Healthcare)を用いて精製された。精製された抗体は、Amicon Ultra-4(MILLIPORE)を用いて濃縮された後に、濃縮液がPD-10 Desaltingカラム(Amersham Biosciences)を用いて200mM NaClを含有する20mM酢酸バッファー(pH6.0)に置換された。精製された抗体はND-1000 Spectrophotometer(NanoDrop)又は分光光度計DU-600(BECKMAN)に供され、その280nmでの吸光度が測定された。当該測定値を用いたRACE法に基づく算出法によって、その抗体の濃度が算出された。
【0158】
[実施例6] in vivoモデルを用いたヒト化H0L0抗体およびその点変異改変抗体の薬効試験
(1)in vivoモデルへの移植に供する細胞株の維持
Hep G2細胞(ATCC)が用いられた。Hep G2細胞は10%FBS、1 mmol/l MEM Sodium Pyruvate(Invitrogen)、1 mmol/l MEM Non-Essential Amino Acid(Invitrogen)を含むMinimun Essential Medium Eagle培地(SIGMA)(以下、継代用培地という。)中で継代されて維持された。
【0159】
(2)Hep G2細胞移植マウスモデルの作製
Hep G2細胞の細胞懸濁液が継代用培地とMATRIGEL Matrix(BD Bioscience)を1:1で含む溶液を用いて5x10
7細胞/mlになるように調製された。細胞の移植前日に、あらかじめ抗アシアロGM1抗体(和光純薬、1バイアル中の内容物が5 mlの当該溶液によって溶解された。)100μlが腹腔内へ投与されたSCIDマウス(オス、5週齢)(日本クレア)の腹部皮下へ当該細胞懸濁液100μl(5x10
6細胞/マウス)が移植された。腫瘍体積は、
式:腫瘍体積=長径×短径×短径/2
を用いて算出され、腫瘍体積の平均が130-330 mm
3になった時点でモデルが成立したものと判断された。
【0160】
(3)各被験抗体を含む投与試料の調製
H0L0抗体、Hu2.2Lu2.2抗体、Hd1.8Ld1.6抗体の各抗体を含む投与試料が、その投与当日に生理食塩水を用いて、0.5 mg/ml(5 mg/kg投与群)または0.1 mg/ml(1 mg/kg投与群)となるように調製された。
【0161】
(4)抗体を含む投与試料の投与
(2)で作製されたマウスモデルに対するHep G2細胞の移植後27日から週に1回ずつ、3週間の期間で、上記(3)で調製された投与試料が10 ml/kgの投与量で尾静脈より投与された。陰性対照として、生理食塩水を同様に週に1回ずつ、3週間の期間で、10 ml/kgの投与量で尾静脈より投与された。いずれの群も、5匹を1群として、各群に対して各被験抗体を含む投与試料の投与が実施された。投与とほぼ同時に、各群のうち3匹の個体から、各抗体のマウス血漿中濃度を測定するために使用する被験物質として、その静脈血が採取された。具体的には、初回投与後0.5時間、二回目投与直前の二つのタイムポイントにおいて背中足静脈より採血が行われた。20μl容量の採血がヘパリン処理によって行われ、遠心分離によって血漿が調製された。
【0162】
(5)各被験抗体の抗腫瘍効果の評価
ヒト肝癌移植マウスモデルにおける各被験抗体の抗腫瘍効果が、投与試料の投与の最終日から一週間後の腫瘍体積を測定することによって評価された。その結果、
図7に示すとおり、Hspd1.8Lspd1.6(Hd1.8Ld1.6)抗体で薬効が強くなる傾向があり、Hspu2.2Lspu2.2(Hu2.2Lu2.2)抗体で薬効が弱くなる傾向があった。
【0163】
(6)各被験抗体の血漿中濃度
マウス血漿中の被験抗体の濃度が実施例1に記載されたELISA法に準じた方法によって測定された。血漿中濃度として12.8、6.4、3.2、1.6、0.8、0.4、0.2μg/mlの検量線試料が調製された。検量線試料および所望の濃度になる様に適宜希釈されたマウス血漿被験試料がsoluble Glypican-3 core(中外製薬社製)を固相化したイムノプレート(Nunc−Immuno Plate, MaxiSoup(Nalge nunc International))に分注され、当該プレートが室温で1時間静置された。その後、Goat Anti-Human IgG-BIOT(Southern Biotechnology Associates)およびStreptavidin-alkaline phosphatase conjugate(Roche Diagnostics)が順次分注され、BluePhos Microwell Phosphatase Substrates System(Kirkegaard & Perry Laboratories)を基質として用いた発色反応が行われた。各ウエル中の反応液の呈色がマイクロプレートリーダーを用いて反応液の650nmの吸光度を測定することによって算出された。各検量線試料の吸光度から作成された検量線に基づいて、解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いてマウス血漿中の抗体濃度が算出された。
【0164】
投与30分および7日後のマウス血漿中濃度が
図8に示されている。被験抗体のいずれの投与量でも、被験抗体のpIがより低下していれば、投与7日後のマウス血漿中の抗体濃度が高くなることが示された。
【0165】
[実施例7] ヒト末梢血単核球をエフェクター細胞として用いた各被験抗体のADCC活性
ヒト末梢血単核球(以下、ヒトPBMCと指称する。)をエフェクター細胞として用いて各被験抗体のADCC活性が以下のように測定された。
【0166】
(1)ヒトPBMC溶液の調製
1000単位/mlのヘパリン溶液(ノボ・ヘパリン注5千単位,ノボ・ノルディスク)が予め200μl注入された注射器を用い、中外製薬株式会社所属の健常人ボランティア(成人男性)より末梢血50 mlが採取された。PBS(-)を用いて2倍に希釈された当該末梢血が4等分され、15 mlのFicoll-Paque PLUSが予め注入されて遠心操作が行なわれたLeucosepリンパ球分離管(Greiner bio-one)に加えられた。当該末梢血が分注された分離管が2150 rpmの速度によって10分間室温にて遠心分離の操作がされた後、単核球画分層が分取された。10%FBSを含むDulbecco’s Modified Eagle’s Medium(SIGMA)(以下10%FBS/D-MEMと称する。)によって1回当該各分層に含まれる細胞が洗浄された後、当該細胞が10%FBS/D-MEM中にその細胞密度が5x10
6/mlとなるように懸濁された。当該細胞懸濁液がヒトPBMC溶液として以後の実験に供された。
【0167】
(2)標的細胞の調製
Hep G2細胞がディッシュから剥離されて、1x10
4cells/ウエルとなるように96ウェルU底プレートに播種された。当該プレートは5%炭酸ガスインキュベータ中において37℃で一晩インキュベートされた。翌日、当該プレートの各ウェル中に5.55MBqのCr-51が加えられ、当該プレートは5%炭酸ガスインキュベータ中において37℃で3時間インキュベートされた。当該プレートの各ウエル中に存在するHep G2細胞が標的細胞として、以後のADCC活性の測定に際して用いられた。
【0168】
(3)クロム遊離試験(ADCC活性)
ADCC活性はクロムリリース法による特異的クロム遊離率にて評価される。(2)で調製された標的細胞が培地で洗浄され、各濃度(0、0.004、0.04、0.4、4、40 μg/ml)に調製されたH0L0抗体, Hu2.2Lu2.2抗体, Hd1.8Ld1.6抗体の各抗体100μlがそれぞれ添加された。当該プレートは、室温にて15分間反応された後に抗体溶液が除去された。次に、各ウエル中に継代用培地が各100μl添加された当該プレートは、5%炭酸ガスインキュベータ中において37℃で1時間インキュベートされた。各ウエル中に(1)で調製されたヒトPBMC溶液各100μl(5x10
5 細胞/ウェル)が加えられた当該プレートは、5%炭酸ガスインキュベータ中において37℃で4時間静置された後に、遠心分離操作された。当該プレートの各ウエル中の100μlの培養上清の放射活性がガンマカウンターを用いて測定された。下式:
特異的クロム遊離率(%)=(A-C)×100/(B-C)
に基づいて特異的クロム遊離率が求められた。
【0169】
上式において、Aは各ウェル中の100μlの培養上清の放射活性(cpm)の平均値を表す。また、Bは標的細胞に100μlの2% NP-40水溶液(Nonidet P-40、ナカライテスク)および50μlの10% FBS/D-MEM培地を添加したウェル中の100μlの培養上清の放射活性(cpm)の平均値を表す。さらに、Cは標的細胞に10% FBS/D-MEM培地を150 μl添加したウェル中の100μlの培養上清の放射活性(cpm)の平均値を表す。試験はtriplicateにて実施され、各被験抗体のADCC活性が反映される前記試験における特異的クロム遊離率(%)の平均値および標準偏差が算出された。
【0170】
(4)各被験抗体のADCC活性の評価
各被験抗体を介してヒトPBMCが発揮するADCC活性が評価された結果、全ての被験抗体がADCC活性を有することが認められた。その結果が
図9に示されている。各濃度での各被験抗体が示す特異的クロム遊離率に対して有意差検定が行われた結果、全ての抗体濃度において各被験抗体が示す特異的クロム遊離率の各被験抗体間での有意な差が認められなかった。統計解析にはSAS前臨床パッケージ(SAS Institute Inc.)を用いられた。以上の結果に基づき、そのpIが改変された各被験抗体のADCC活性の間には差がないことが示された。
【0171】
[実施例8]点変異pI改変抗体の作製と当該抗体の特徴
(1)pI低下のための改変箇所の選定
Hd1.8Ld1.6抗体の腫瘍抑制効果をさらに向上するために、可変領域のpIの低下を可能とする改変箇所の検討が行われた。その結果、可変領域のpIの低下を可能とするアミノ酸残基が見出され、当該残基が表2(重鎖)及び表3(軽鎖)にまとめられている。それらの改変のうちpI低下の具体例として、pH7pL14抗体及びpH7pL16抗体が挙げられる。それぞれのpI改変抗体の作製は以下のように実施された。
【0172】
改変部位の作製はPCRを用いたAssemble PCRを行うことによって行われた。改変部位を含む順鎖および逆鎖の配列に基づいて設計されたオリゴDNAが合成された。改変部位を含む逆鎖オリゴDNAと改変を行う遺伝子が挿入されているベクターの順鎖オリゴDNA、改変部位を含む順鎖オリゴDNAと改変を行う遺伝子が挿入されているベクターの逆鎖オリゴDNAをそれぞれ組み合わせ、PrimeSTAR(TAKARA)を用いてPCRを行うことによって、改変部位を含む断片を5末端側と3末端側の2つが作製された。その2つの断片をAssemble PCRによりつなぎ合わせることによって、各変異体が作製された。
【0173】
作製された変異体を動物細胞において挿入遺伝子を発現可能ならしめる発現ベクターに挿入され、得られた発現ベクターの塩基配列は当業者公知の方法で決定された。プラスミドDNAの塩基配列の決定に基づいて、点変異が導入されたことが確認された点変異遺伝子は、動物細胞において挿入遺伝子を発現可能ならしめる発現ベクター中にクローン化された。抗体の発現、精製等の方法は、実施例1記載の方法又はそれに順ずる方法を用いて実施された。
【0174】
Hd1.8を出発物質に用いてHd1.8のCDR1に存在するkabatナンバリングに基づく61番目のグルタミン(Q)がグルタミン酸(E)に置換されたpH7(配列番号27)が作製された。Ld1.6を出発物質に用いてLd1.6のCDR1に存在するkabatナンバリングに基づく24番目のアルギニン(R)がグルタミン(Q)に、FR2及びFR3に存在する37番目のグルタミン(Q)がロイシン(L)、43番目のアラニン(A)がセリン(S)、45番目のアルギニン(R)がグルタミン(Q)、74番目のスレオニン(T)がリジン(K)、77番目のセリン(S)がアルギニン(R)、78番目のロイシン(L)がバリン(V)、79番目のグルタミン(Q)がグルタミン酸(E)にそれぞれ置換されたpL14(配列番号28)が作製された。
【0175】
pL14を出発物質に用いてpL14のFR4に存在するkabatナンバリングに基づく104番目のロイシン(L)がバリン(V)、107番目のリジン(K)がグルタミン酸(E)にそれぞれ置換されたpL16(配列番号29)が作製された。
【0176】
(2)点変異pI改変抗体のpI値の測定
実施例1に記載あるいは実施例1に準じた方法によりPhastGel IEF 4-6.5(GE Healthcase)を用いた泳動によりHd1.8Ld1.6抗体、pH7pL14抗体及びpH7pL16抗体のpI値が測定された。Hd1.8Ld1.6抗体、pH7pL14抗体及びpH7pL16抗体のpI値は、それぞれ、7.47、7.07及び6.52と測定され、pH7pL14抗体、pH7pL16抗体のpI値はHd1.8Ld1.6抗体のpI値よりそれぞれ0.4、0.95減少したことが示された。
【0177】
(3)点変異pI改変抗体のTm値の測定
Hd1.8Ld1.6抗体、pH7pL14抗体及びpH7pL16抗体から得られたFabのTm値が実施例1に記載の方法に準じて、VP-DSC(Micro Cal)を用いて測定された。この際、透析外液としてPBSが用いられた。また、DSC測定用試料溶液として抗体濃度が25-100μg/mlに調製された。20℃〜115℃にて約4K/分の走査速度となるよう設定されたDSC走査によって、リファレンス溶液(透析外液)およびDSC測定用試料溶液が測定された。Hd1.8Ld1.6抗体、pH7pL14抗体及びpH7pL16抗体のFab熱変性中間温度は、それぞれ77.5、78.0及び74.7℃と測定された。
【0178】
(4)競合ELISAによる点変異pI改変抗体の抗原に対する結合活性の評価
実施例1に記載された方法を用いて、抗原であるグリピカン3に対する各点変異pI改変抗体の結合活性が測定された(
図10)。pH7pH14抗体及びpH7pL16抗体のグリピカン3に対する結合活性はH0L0抗体のそれとほぼ同等であることが示された。
【0179】
[実施例9]FTP-KO株を用いた各点変異pI改変抗体の調製
実施例8で作製された各点変異pI改変抗体をコードする遺伝子を含む発現ベクターを、参考実施例2で作製されたFTP-KO株にPolyethylenimine(Polysciences Inc.)を用いて発現ベクターを細胞内に取り込ませることによって、当該改変抗体が発現された。前記細胞の培養上清からrProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当該改変抗体が精製された。精製された抗体溶液は実施例5に記載の方法で、調製され、その抗体濃度が測定された。
【0180】
[実施例10]in vivoモデルを用いたヒト化GC33抗体および各点変異pI改変抗体の薬効試験
(1)in vivoモデルへの移植に供する細胞株の維持
Hep G2細胞(ATCC)が用いられた。Hep G2細胞は10%FBS、1 mmol/l MEM Sodium Pyruvate(Invitrogen)、1 mmol/l MEM Non-Essential Amino Acid(Invitrogen)を含むMinimun Essential Medium Eagle培地(SIGMA)(以下、継代用培地という。)中で継代されて維持された。
【0181】
(2)Hep G2細胞移植マウスモデルの作製
Hep G2細胞の細胞懸濁液が継代用培地とMATRIGEL Matrix(BD Bioscience)を1:1で含む溶液を用いて5x10
7細胞/mlになるように調製された。細胞の移植前日に、あらかじめ抗アシアロGM1抗体(和光純薬、1バイアル中の内容物が5 mlの当該溶液によって溶解された。)100μlが腹腔内へ投与されたSCIDマウス(オス、5週齢)(日本クレア)の腹部皮下へ当該細胞懸濁液100μl(5x10
6細胞/マウス)が移植された。腫瘍体積は、
式:腫瘍体積=長径×短径×短径/2
を用いて算出され、腫瘍体積の平均が400 mm
3になった時点でモデルが成立したものと判断された。
【0182】
(3)各被験抗体を含む投与試料の調製
H0L0抗体、Hd1.8Ld1.6抗体、pH7pL14抗体、pH7pL16抗体の各抗体を含む投与試料が、その投与当日に生理食塩水を用いて、0.1 mg/ml(1 mg/kg投与群)となるように調製された。
【0183】
(4)抗体を含む投与試料の投与
(2)で作製されたマウスモデルに対するHep G2細胞の移植後34日から週に1回ずつ、5週間の期間で、上記(3)で調製された投与試料が10 ml/kgの投与量で尾静脈より投与された。陰性対照として、生理食塩水が同様に週に1回ずつ、5週間の期間で、10 ml/kgの投与量で尾静脈より投与された。いずれの群も、5匹を1群として、各群に対して各被験抗体を含む投与試料の投与が実施された。投与とほぼ同時に、各群のうち3匹の個体から、各抗体のマウス血漿中濃度を測定するために使用する被験物質として、その静脈血が採取された。具体的には、初回投与後0.5時間、三回目投与直前の二つのタイムポイントにおいて背中足静脈より採血が行われた。20μl容量の採血がヘパリン処理によって行われ、遠心分離によって血漿が調製された。
【0184】
(5)各被験抗体の抗腫瘍効果の評価
ヒト肝癌移植マウスモデルにおける各被験抗体の抗腫瘍効果が、投与試料の投与の最終日から一週間後の腫瘍体積を測定することによって評価された。その結果、
図11に示すとおり、pH7pL14抗体及びpH7pL16抗体では、H0L0抗体、Hd1.8Ld1.6抗体よりも薬効が強くなる傾向が認められた。
【0185】
[実施例11]in vivoモデルを用いたヒト化GC33抗体および各点変異抗体のPK試験
(1)各被験抗体を含む投与試料の調製
H0L0抗体、Hd1.8Ld1.6抗体、pH7pL14抗体、pH7pL16抗体、pH7M85pL16抗体の各抗体を含む投与試料が、その投与当日に生理食塩水を用いて、0.5 mg/ml(5 mg/kg投与)となるように調製された。
【0186】
(2)抗体を含む投与試料の投与
C.B-17/Icr-scidマウスに、上記(1)で調製された投与試料が10 ml/kgの投与量で尾静脈より投与された。いずれの群も、3匹を1群として、各群に対して各被験抗体を含む投与試料の投与が実施された。各抗体のマウス血漿中濃度を測定するために使用する被験物質として、その静脈血が採取された。具体的には、初回投与後0.5時間、2時間、8時間、24時間、72時間、168時間の七つのタイムポイントにおいて背中足静脈より採血が行われた。20μl容量の採血がヘパリン処理によって行われ、遠心分離によって血漿が調製された。
【0187】
(3)各被験抗体の血漿中濃度
マウス血漿中の被験抗体の濃度が実施例6に記載されたELISA法に準じた方法によって測定された。血漿中濃度として12.8、6.4、3.2、1.6、0.8、0.4、0.2μg/mlの検量線試料が調製された。検量線試料および所望の濃度になる様に適宜希釈されたマウス血漿被験試料がsoluble Glypican-3 core(中外製薬社製)を固相化したイムノプレート(Nunc−Immuno Plate, MaxiSoup(Nalge nunc International))に分注され、当該プレートが室温で1時間静置された。その後、Goat Anti-Human IgG-BIOT(Southern Biotechnology Associates)およびStreptavidin-alkaline phosphatase conjugate(Roche Diagnostics)が順次分注され、BluePhos Microwell Phosphatase Substrates System(Kirkegaard & Perry Laboratories)を基質として用いた発色反応が行われた。各ウエル中の反応液の呈色がマイクロプレートリーダーを用いて反応液の650nmの吸光度を測定することによって算出された。各検量線試料の吸光度から作成された検量線に基づいて、解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いてマウス血漿中の抗体濃度が算出された。
【0188】
投与後のマウス血漿中濃度が
図12に示されている。被験抗体のpIが低下していると、マウス血漿中の抗体濃度が高くなることが示された。
【0189】
[実施例12]ヒト末梢血単核球をエフェクター細胞として用いた各被験抗体のADCC活性
ヒト末梢血単核球(以下、ヒトPBMCと指称する。)をエフェクター細胞として用いて各被験抗体のADCC活性が以下のように測定された。
(1)ヒトPBMC溶液の調製
1000単位/mlのヘパリン溶液(ノボ・ヘパリン注5千単位,ノボ・ノルディスク)が予め200μl注入された注射器を用い、中外製薬株式会社所属の健常人ボランティア(成人男性)より末梢血50 mlが採取された。PBS(-)を用いて2倍に希釈された当該末梢血が4等分され、15 mlのFicoll-Paque PLUSが予め注入されて遠心操作が行なわれたLeucosepリンパ球分離管(Greiner bio-one)に加えられた。当該末梢血が分注された分離管が2150 rpmの速度によって10分間室温にて遠心分離の操作がされた後、単核球画分層が分取された。10%FBSを含むDulbecco’s Modified Eagle’s Medium(SIGMA)(以下10%FBS/D-MEMと称する。)によって1回当該各分層に含まれる細胞が洗浄された後、当該細胞が10%FBS/D-MEM中にその細胞密度が5x10
6 細胞/ mlとなるように懸濁された。当該細胞懸濁液がヒトPBMC溶液として以後の実験に供された。
【0190】
(2)標的細胞の調製
Hep G2細胞がディッシュから剥離されて、1x10
4cells/ウエルとなるように96ウェルU底プレートに播種された。当該プレートは5%炭酸ガスインキュベータ中において37℃で一晩インキュベートされた。翌日、当該プレートの各ウェル中に5.55MBqのCr-51が加えられ、当該プレートは5%炭酸ガスインキュベータ中において37℃で3時間インキュベートされた。当該プレートの各ウエル中に存在するHep G2細胞が標的細胞として、以後のADCC活性の測定に際して用いられた。
【0191】
(3)クロム遊離試験(ADCC活性)
ADCC活性はクロムリリース法による特異的クロム遊離率にて評価される。(2)で調製された標的細胞が培地で洗浄され、各濃度(0、0.004、0.04、0.4、4、40 μg/ml)に調製されたH0L0抗体、Hd1.8Ld1.6抗体、pH7pL14抗体、pH7pL16抗体の各抗体100μlがそれぞれ添加された。当該プレートは、室温にて15分間反応された後に抗体溶液が除去された。次に、各ウエル中に継代用培地が各100μl添加された当該プレートは、5%炭酸ガスインキュベータ中において37℃で1時間インキュベートされた。各ウエル中に(1)で調製されたヒトPBMC溶液各100μl(5x10
5 細胞/ウェル)が加えられた当該プレートは、5%炭酸ガスインキュベータ中において37℃で4時間静置された後に、遠心分離操作された。当該プレートの各ウエル中の100μlの培養上清の放射活性がガンマカウンターを用いて測定された。下式:
特異的クロム遊離率(%)=(A-C)×100/(B-C)
に基づいて特異的クロム遊離率が求められた。
上式において、Aは各ウェル中の100μlの培養上清の放射活性(cpm)の平均値を表す。また、Bは標的細胞に100μlの2% NP-40水溶液(Nonidet P-40、ナカライテスク)および50μlの10% FBS/D-MEM培地を添加したウェル中の100μlの培養上清の放射活性(cpm)の平均値を表す。さらに、Cは標的細胞に10% FBS/D-MEM培地を150 μl添加したウェル中の100μlの培養上清の放射活性(cpm)の平均値を表す。試験はtriplicateにて実施され、各被験抗体のADCC活性が反映される前記試験における特異的クロム遊離率(%)の平均値および標準偏差が算出された。
【0192】
(4)各被験抗体のADCC活性の評価
各被験抗体を介してヒトPBMCが発揮するADCC活性が評価された結果、全ての被験抗体がADCC活性を有することが認められた。その結果が
図13に示されている。各濃度での各被験抗体が示す特異的クロム遊離率に対して有意差検定が行われた結果、全ての抗体濃度において各被験抗体が示す特異的クロム遊離率は対照群のH0L0抗体と比較して有意な差が認められなかった。統計解析にはSAS前臨床パッケージ(SAS Institute Inc.)を用いられた。以上の結果に基づき、そのpIが改変された各被験抗体のADCC活性には差がないことが示された。
【0193】
[実施例13]定常領域のpI値を低下させる改変体の作製と評価
(1)定常領域のpI値低下のための改変箇所の選定
配列番号31に記載のアミノ酸配列を有するIgG1定常領域において、EUナンバリングに基づく446番目のGlyおよび447番目のLysが欠損したIgG1定常領域をIgG1ΔGK(配列番号32)が提供される。これらのアミノ酸を両方欠損させることにより、初めて抗体の重鎖定常末端に由来するヘテロジェニティーを低減することが可能である。
【0194】
IgG1ΔGKの一部のアミノ酸残基をそのEUナンバリングで対応するヒトIgG4定常領域配列のアミノ酸残基に置換することによって、定常領域のpI値を下げる改変が行われた。具体的には、IgG1ΔGKのEUナンバーリングに基づく268番目のヒスチジン(H)がIgG4の配列であるグルタミン(Q)へ、274番目のリジン(K)がグルタミン(Q)へ、355番アルギニン(R)がグルタミン(Q)へ、356番アスパラギン酸(D)がグルタミン酸(E)へ、358番ロイシン(L)がメチオニン(M)へ、419番グルタミン(Q)がグルタミン酸(E)へ置換された。これらの変異はいずれもT-cellエピトープになりうる9〜12アミノ酸としてはヒト定常領域に由来する配列のみを用いていることから免疫原性リスクが低いと考えられる。これら6箇所の改変がIgG1ΔGKに導入されたM85(配列番号:33)が作製された。
【0195】
この定常領域M85と可変領域pH7及びH0と組み合わせることにより)pH7M85(配列番号:34)及びH0M85(配列番号:35)が作製された。H鎖としてH0M85またはpH7M85、L鎖としてL0またはpL16を用いたH0M85L0抗体およびpH7M85pL16抗体が作製された。また、実施例1及び実施例8で作製した定常領域がともにIgG1であるH0L0抗体及びpH7pL16抗体が作製された。H0M85L0,pH7M85pL16,H0L0,pH7pL16の発現と精製はFTP-KO株、又はHEK293細胞を用いて実施され、実施例1又は9に記載した方法で調製された。
【0196】
(2)定常領域pI改変抗体のpI値の測定
H0L0抗体、H0M85L0抗体、pH7pL16抗体、pH7M85pL16抗体のpI値が実施例1に準じた方法により、PhastGel IEF 4-6.5(GE Healthcase)を用いて実施例1と同等の泳動条件により測定された。H0L0抗体、H0M85L0抗体、pH7pL16抗体及びpH7M85pL16抗体のpI値はそれぞれ、8.85、8.16、6.52及び5.78と測定された。定常領域の改変が、抗体の免疫原性に影響することなく、更なるそのpI値の低下に寄与することが明らかとなった。
【0197】
(3)競合ELISAによる定常領域pI改変抗体の結合活性の評価
各定常領域pI改変抗体の抗原に対する結合活性が実施例1に記載された方法により測定された(
図14)。H0L0抗体、H0M85L0抗体、pH7pL16抗体、pH7M85pL16抗体のグリピカン3に対する結合活性はほぼ同等であることが示された。
【0198】
[実施例14]定常領域pI改変抗体のヒト末梢単核球をエフェクター細胞として用いたADCC活性
実施例12に記載された方法に準じた方法によって、pH7pL16抗体とpH7M85pL16抗体によるADCC活性が測定された。その結果が
図15に示されている。各濃度における各被験抗体が示す特異的クロム遊離率に対して有意差検定が行われた結果、全ての抗体濃度において各被験抗体が示す特異的クロム遊離率の被験抗体間での有意な差は認められなかった。統計解析にはSAS前臨床パッケージ(SAS Institute Inc.)を用いられた。以上の結果に基づき、pH7pL16抗体とその定常領域が改変されたpH7M85pL16抗体のADCC活性には差がないことが示された。