特許第6101616号(P6101616)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6101616
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】変圧器
(51)【国際特許分類】
   H01F 30/10 20060101AFI20170313BHJP
   F16F 15/08 20060101ALI20170313BHJP
   H01F 27/30 20060101ALI20170313BHJP
   H01F 27/06 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
   H01F30/10 T
   F16F15/08 E
   H01F30/10 S
   H01F27/30
   H01F27/06
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-208717(P2013-208717)
(22)【出願日】2013年10月4日
(65)【公開番号】特開2015-73040(P2015-73040A)
(43)【公開日】2015年4月16日
【審査請求日】2016年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(72)【発明者】
【氏名】平野 雄大
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝平
【審査官】 佐久 聖子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−359124(JP,A)
【文献】 実開昭60−192422(JP,U)
【文献】 特開平06−176942(JP,A)
【文献】 特開2002−013573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00−15/315、15/32−15/36、
H01F 17/00−27/06、27/08、27/23、
27/28−27/30、27/36、27/42、
30/00−38/12、38/16、38/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄心と、前記鉄心に巻かれたコイルと、前記鉄心を支持するための下部金具とを有する変圧器において、
前記コイルを前記鉄心の窓部内側で支える鉄心窓内コイル支えは、両面または片面に溝を有する天然ゴム製の板状部材と、該天然ゴム製の板状部材の四隅に接着されたシリコンゴム製部材とから構成され、該鉄心窓内コイル支えの天然ゴム製の板状部材が鉄心に接触するように配置し、シリコンゴム製部材が前記コイルに接触するように配置していることを特徴とする変圧器。
【請求項2】
請求項1記載の変圧器であって、
前記鉄心窓内コイル支えは、天然ゴム製板状部材とシリコンゴム製部材との間にエポキシガラスマット積層板又はポリエステルの板状部材を挟んで構成されていることを特徴とする変圧器。
【請求項3】
請求項1又は2記載の変圧器であって、
前記天然ゴムは四角形形状であり、該天然ゴムの四隅にシリコンゴムを配置することを特徴とする変圧器。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか記載の変圧器であって、
前記鉄心と前記下部金具との間に天然ゴムを有していることを特徴とする変圧器。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか記載の変圧器であって、
前記下部金具と該変圧器を固定するベースとが防振ゴムを介さず直接接続されていることを特徴とする変圧器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変圧器などの静止誘導電器に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、特開2008−103578号公報(特許文献1)がある。この公報には、「防振装置として、変圧器本体に振れ止め金具を設け、盤側の外側板に振れ止め座を設け、前記振れ止め金具にボルトを固定し、振れ止め座には丸穴を設け、この丸穴にボルトを貫通させる構成とし、通常状態ではボルトと振れ止め座の丸穴が接触しない構成」とすることで、「変圧器の大きな揺れを抑制し、周辺機器との衝突やケーブル断線等の事故を防ぎ、耐震強度のある変圧器を提供できる」ことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−103578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の変圧器は、変圧器の主な振動源である鉄心材の磁歪振動を低減する目的で、変圧器本体部とベースの間に防振ゴムを配置した構造を採用している。この防振ゴムは制振効果が得られる一方で、地震時には潰れてしまうため、防振ゴムが無い場合に比べて変圧器上部の変位量を大きくしてしまっていた。本願発明は、鉄心材の磁歪振動を低減しつつ、変圧器上部の変位量を抑制し、地震時の安定性を向上した変圧器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記課題を解決する為になされたものであり、本発明に係る変圧器は、鉄心と、鉄心に巻かれたコイルと、鉄心を支持するための下部金具とを有する変圧器において、コイルを鉄心の窓部内側で支える鉄心窓内コイル支えが、両面または片面に溝を有する天然ゴム製の板状部材と、この天然ゴム製の板状部材の四隅に接着されたシリコンゴム製部材とから構成され、この鉄心窓内コイル支えの天然ゴム製の板状部材が鉄心に接触するように配置し、シリコンゴム製部材が前記コイルに接触するように配置していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、鉄心の磁歪振動を抑制して静粛性を向上するとともに、耐震性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A】本発明の実施例の変圧器を示した図
図1B】本発明の実施例の鉄心窓内コイル支えの一例を示した図
図1C】本発明の実施例の鉄心窓内コイル支えの一例を示した図
図2A】従来の変圧器を示した図
図2B】従来の変圧器の鉄心窓内コイル支えを示した図
図3】本発明の実施例の鉄心窓部の部分拡大図
図4A】本発明の効果を測定した実験の測定箇所を示した図
図4B】振動加速度ピックアップ取付位置の上面図
図4C】振動加速度ピックアップ取付位置の正面図
図4D】振動加速度測定の実験条件を示した図
図5A】本発明の実施例における、変圧器の運転時に発生するZ方向の振動加速度を示す図
図5B】本発明の実施例における、変圧器の運転時に発生するX方向の振動加速度を示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施例を図面を用いて説明する。
【0009】
図2Aは、従来の変圧器を示したものである。変圧器1’は、コイル3、コイル3の上面と鉄心5との間に配置された鉄心窓内上部コイル支え4a、コイル3の下面と鉄心5との間に配置された鉄心窓内下部コイル支え4b、鉄心5、それらを支持する上部金具6、下部金具7、前記上下部金具を連結する当板8、変圧器本体部2’下部に設置され、変圧器を基盤上に固定するベース9を有する。ここで、鉄心窓内上部コイル支え4a、及び鉄心窓内下部コイル支え4bを、図2Bを用いて説明する。図2Bは、従来型変圧器の鉄心窓内下部コイル支え4bの部分拡大図である。なお、鉄心窓内上部コイル支え4a、及び鉄心窓内下部コイル支え4bは同一構造であり、これらをまとめて鉄心窓内コイル支えと称す。従来は、シリコンゴム12の上に、平板状のエポキシガラスマット積層板またはポリエステル13が配置された構造となっていた。また、図2Aに示されるように、ベース9と変圧器本体部との間には、鉄心材の磁歪振動を抑制する目的で防振ゴム10が挿入されていた。
【0010】
次に、図1を用いて本発明の実施例1を説明する。図2A図2Bと同一の部材については同一の符号を付している。
【0011】
図2と比較して本願発明の特徴を説明すると、本願発明は第一に、鉄心窓内上部コイル支え4aと鉄心窓内下部コイル支え4bの構造に特徴がある。また第二に、鉄心5と下部金具7の間に天然ゴム20を挿入している点に特徴がある。また第三に、ベース9と変圧器本体部との間に防振ゴム10が配置されていない点に特徴がある。これらについて順に説明する。
【0012】
第一の特徴は、図1Bに示されるように、実施例1の鉄心窓内上部コイル支え4aと鉄心窓内下部コイル支え4bでは、シリコンゴム12の片面に天然ゴム11を配置し、これらが接着された構造となっている点である。また、この天然ゴム11は、両面または片面に溝が形成された形状をしている。なお、本実施例では天然ゴム11は四角形形状とし、この天然ゴムの四隅にシリコンゴムを配置する形状とした。この鉄心窓内上部コイル支え4a及び鉄心窓内下部コイル支え4bは、図3に示すように、天然ゴム11を鉄心側に接触させ、シリコンゴム12をコイル3側に接触させるように配置されることが望ましい。このように、振動抑制効果の大きい天然ゴム11を鉄心側に接触させることにより、振動抑制効果を十分に確保することができる。特に鉄心窓内上部コイル支え4a、及び鉄心窓内下部コイル支え4bにより、鉄心を上下から天然ゴムで挟み込むことで、鉄心の磁歪振動を抑制し変圧器の振動を低減できる。また、耐熱性の比較的高いシリコンゴム12をコイル側に配置することにより、コイルが高温になっても安定してコイルを保持することができる。また、図1Cに示したように、シリコンゴム12と天然ゴム11との間にエポキシガラスマット積層板またはポリエステル14を挿入することにより、鉄心窓内上部コイル支え4a、及び鉄心窓内下部コイル支え4bの強度を向上することができる。
【0013】
第二の特徴は、図1Aに示されているように、鉄心5と下部金具7の間に天然ゴム20を挿入している点である。この鉄心5と下部金具7との間の面積は比較的広いため、この位置に天然ゴム20を挿入することにより、十分に振動を抑制し騒音を低減することができる。ここでいう天然ゴムとは、従来変圧器において変圧器本体とベースの間に挿入している防振ゴム10と同様のゴムマットを指す。本実施例では、鉄心と下部金具間の隙は10mm程度を想定しており、ここに天然ゴムを挟むため、天然ゴムも10mm程度を想定している。なお、本実施例では振動抑制効果がより大きい天然ゴムを挿入するものとしたが、要求される振動抑制効果が得られるのであれば、シリコンゴムであっても良い。
【0014】
第三の特徴は、図1Aに示されているように、ベース9と変圧器本体部との間に防振ゴム10が配置されていない点である。従来の変圧器であれば、図2Aに示されているように、ベース9と変圧器本体部との間に、鉄心材の磁歪振動を抑制するために防振ゴム10が配置されていた。しかしながら地震が発生した場合には地震の揺れによりこの防振ゴム10が変圧器の荷重で潰れてしまうため、防振ゴムが無い場合に比べて、変圧器上部の変位量を大きくしてしまっていた。本願発明では、上記の第二の特徴である鉄心5と下部金具7の間の天然ゴム20により振動を抑制し騒音を低減することができるため、ベース9と変圧器本体部との間から防振ゴム10を取り除くことができ、したがってベース9と変圧器本体部とを直接接触状態で固定することができるため、地震時に防振ゴム10が潰れて変圧器上部の変位が大きくなることを防止することができる。
【0015】
次に、本願発明による効果を実験結果を用いて説明する。
【0016】
図4A〜4Dに、振動加速度測定の実験条件を示し、図5A図5Bに振動加速度測定の結果を示す。図4Bは、図4Aの振動加速度測定箇所16を上面から見たものであり、X方向は地面又は床と平行な方向(水平方向)を示す。また図4Cは、図4Aの振動加速度測定箇所16を正面から見たものであり、Z方向は地面又は床と垂直な方向(鉛直方向)を示す。変圧器の部材の側面に振動加速度ピックアップを取り付け、定格周波数で定格電圧を印加した。ここで、変圧器の加振周波数は電源周波数の2倍であり、供試品変圧器の定格周波数は50Hzであることから、100の整数倍となる周波数において振動加速度が強められている。
【0017】
図5Aに示されているように、Z方向の振動は、本発明の一実施例に相当する構造(状態4)の方が、従来の変圧器である、従来の窓内コイル支えを使用して防振ゴムを取り付け、鉄心を下部金具から浮かせた構造(状態1)より大きいことが示されている。一方、図5Bに示されているように、X方向の振動は、本発明の一実施例に相当する構造(状態4)の方が状態1より小さいことが示されている。このことから、変圧器の振動は多自由度であるが、本発明の構造は特にX方向(横揺れ方向)のロッキング振動(横振れ)抑制に効果があることが示された。それぞれの構造における振動加速度を二乗和の平方根で比較すると、本発明構造と状態1の合成振動加速度が同程度であるため、本発明構造は状態1と同等の振動低減効果を得られていることがわかる。
【0018】
従って、発明の第一の特徴である鉄心窓内上部コイル支え4a、鉄心窓内下部コイル支え4bを備え、下部金具7の間に天然ゴム20を挿入することにより変圧器の振動抑制効果を維持しつつ、鉄心5と変圧器本体とベースの間の防振ゴム10を廃止して耐震強度を向上することが可能となることがわかる。
【符号の説明】
【0019】
1・・・変圧器
1’・・・従来構造変圧器
2・・・変圧器本体部
2’・・・従来品変圧器本体
3・・・コイル
4a・・・鉄心窓内上部コイル支え
4b・・・鉄心窓内下部コイル支え
5・・・鉄心
6・・・上部金具
7・・・下部金具
8・・・当板
9・・・ベース
10・・・防振ゴム
11・・・天然ゴム
12・・・シリコンゴム
13・・・エポキシガラスマット積層板またはポリエステル
14・・・エポキシガラスマット積層板またはポリエステル
15・・・天然ゴム
16・・・振動加速度測定箇所
17・・・鉄心と下部金具間の隙間
18・・・振動加速度ピックアップ
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B