【実施例】
【0030】
以下に、本発明の実施例を説明する。本発明は下記実施例の記載内容のみに限定して解釈されるものではない。
【0031】
下記実施例では、PVP溶液を作製し、次いでPVP溶液を用いて分散体を作製し、次いで分散体を用いてインクジェットインクを作製した。
そこで、まず、実施例で用いたPVP溶液及び分散体の作製についてそれぞれ記載したのち、実施例の各インクジェットインクの作製について記載する。
さらに、実施例の記載に続いて比較例について記載するが、この比較例では、分散体を作製し、次いで分散体を用いてインクジェットインクを作製した。
そこで、比較例の記載においても、まず、比較例で用いた分散体の作製について記載したのち、比較例の各インクジェットインクの作製について記載する。
その後、各インクの物性、印字性能についての評価・考察を示す。
【0032】
〔実施例で用いたPVP溶液の作製〕
<PVP溶液(1)の作製>
精製水30重量部、エタノール30重量部の混合溶剤に、PVP(重量平均分子量25800、鉛2ppm以下、アルデヒド500ppm以下、1−ビニル−2−ピロリドン10ppm以下、ヒドラジン1ppm以下)0.6重量部を溶解させて、PVP溶液(1)を作製した。
【0033】
<PVP溶液(2)〜(7)の作製>
重量平均分子量の異なるPVP(いずれも、鉛2ppm以下、アルデヒド500ppm以下、1−ビニル−2−ピロリドン10ppm以下、ヒドラジン1ppm以下の条件を満たす)を用いて、下表1の処方としたこと以外は上記PVP溶液(1)の作製と同様にして、PVP溶液(2)〜(7)を作製した。
なお、下表1では、PVP溶液(1)の処方も併記した。また、表中、処方を示す数値は重量部を表している。
【0034】
【表1】
【0035】
〔実施例で用いた分散体の作製〕
<分散体(1)の作製>
PVP溶液(1)30.3重量部に、うばめかしを原料とする備長炭1重量部を混合して、ミルベースを作成した。
このミルベースを、ガラスビーズ(ビーズ組成:SiO
2が70〜73重量%、Al
2O
3が1〜3重量%、Na
2Oが12〜15重量%、K
2Oが0〜1.5重量%、CaOが7〜12重量%、MgOが1〜4.5重量%、ビーズ粒径:φ0.3〜0.5mm(分布あり))を充填した横型サンドミル(ウレタン樹脂製のビーズ撹拌ディスクを備え、ウレタンライニングを施したアシザワファインテック社製のスターミルLMZ06)により2時間分散処理して、分散体(1)を作製した。
分散体(1)では、顔料である備長炭の平均粒子径は0.36μmであった。
また、分散体(1)について、ジルコニウム濃度を、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置(堀場製作所製型式ULTIMA2)により測定したところ、ジルコニウムの含有量は検出限界5mg/kg以下、百万分率で表すと5ppm以下であった。
【0036】
<分散体(2)〜(10)の作製>
下表2の処方に従い、添加成分や添加量を変更したこと以外は上記分散体(1)の作製と同様にして、分散体(2)〜(10)を作製した。
分散体(2)〜(10)中の色素の平均粒子径は、それぞれ、下表2に示したとおりである。
また、分散体(2)〜(10)について、分散体(1)と同様にジルコニウム濃度を測定したところ、いずれにおいても、ジルコニウムの含有量は検出限界5mg/kg以下、百万分率で表すと5ppm以下であった。
なお、下表2では、分散体(1)の処方も併記した。また、表中、処方を示す数値は重量部を表している。
【0037】
【表2】
【0038】
〔実施例1〕
分散体(1)31.3重量部、プロピレングリコール30重量部、エタノール15重量部、精製水23.7重量部を、ガラス製のビーカーに入れ、ステンレス製のプロペラにて撹拌混合した後、濾過精度1μmのフィルタにより濾過し、インクジェットインクを作製した。
本実施例1で作製したインクジェットインクのジルコニウム濃度をICP発光分析装置(堀場製作所製型式ULTIMA2)で測定したところ、分散体(1)と同様、ジルコニウムの含有量は検出限界5mg/kg以下、すなわち百万分率で5ppm以下であった。
【0039】
〔実施例2〜19〕
下表3の処方に従い、添加成分や添加量を変更したりしたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜19のインクジェットインクを作製した。
実施例2〜19のインクジェットインクについても上記実施例1と同様にジルコニウムの濃度を測定したところ、いずれにおいても、ジルコニウムの含有量は検出限界の5ppm以下であった。
なお、下表3では、実施例1のインクの処方も併記した。また、表中、処方を示す数値は重量部を表している。
【0040】
【表3】
【0041】
〔比較例で用いた分散体の作製〕
<分散体(1A)〜(6A)の作製>
下表4の処方に従い、添加成分や添加量を変更したりしたこと以外は、分散体(1)の作製と同様にして、分散体(1A)〜(6A)を作製した。
なお、表中、処方を示す数値は重量部を表している。
また、HPC(※1)は2重量%HPC(ヒドロキシプロピルセルロース)水溶液の粘度が2.5mPa・sとなるものである。HPC(※2)は2重量%HPC水溶液の粘度が3.85mPa・sとなるものである。CMCはカルボキシメチルセルロースである。
【0042】
【表4】
【0043】
〔比較例1〜6〕
下表5の処方に従い、添加成分や添加量を変更したりしたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1〜6のインクジェットインクを作製した。
なお、表中、処方を示す数値は重量部を表している。
また、HPC(※1)は2重量%HPC水溶液の粘度が2.5mPa・sとなるものである。HPC(※2)は2重量%HPC水溶液の粘度が3.85mPa・sとなるものである。CMCはカルボキシメチルセルロースである。
【0044】
【表5】
【0045】
〔実施例1〜19及び比較例1〜6のインクの物性評価〕
各実施例及び比較例のインクジェットインクを、ドロップオンデマンド式インクジェットプリンタ(紀州技研工業社製 HQ−MSI)に充填し、連続して印字テストを行い、その印字テストに基づいて性能を評価した。このときの印字対象物には、素錠を用いている。
実施例1〜19についての結果を下表6に、比較例1〜6についての結果を下表7に、それぞれ示す。
【0046】
【表6】
【0047】
【表7】
【0048】
ここで、表6,7に示すインクの物性は、次の通り、測定、評価したものである。
「平均粒子径」は、日機装株式会社製の粒度分布計(UPA型)を用いてインクジェットインク中の顔料のメジアン径(d50)を測定した。
「粘度」(20℃、mPa・s)は、TOKI産業社製の粘度計(EHコーン型)を用いて測定した。
「再分散性」は、作製後24時間以上放置したインクジェットインクを、人の手によって20回振とうさせたのちに濾過し、その濾紙に顔料が残留するか否かで評価した。
「にじみ」は、印字した錠剤表面を目視にて評価した。
「定着性(剥離)」は、印字対象物を疑似錠剤(素錠)とし、当該錠剤に対して各実施例にて作製したインクジェットインクを用いて印字し、印字部分を綿棒で擦ったときの剥離の有無により確認した。
「視認性」は、印字物を目視し、文字の判別により評価した。
「こすり」は、錠剤と錠剤をこすっての剥離の有無を評価した。
「転写」は、印字直後の印字面に錠剤を接触させて、転写するかの確認をした。また、印字直後に毛ブラシに接触させてインクの付着を確認した。
「45℃環境印字性能」は、室温を45℃に保持した環境室内にてインクジェットプリンタでの印字テストを行なったときの、連続吐出性及び印字性能を評価した。
「5℃環境印字性能」は、室温を5℃に保持した環境室内にてインクジェットプリンタでの印字テストを行なったときの、連続吐出性及び印字性能を評価した。
「連続吐出性」は、ノズルの詰り、印字不良、フォント異常等の有無で判定した。
「循環機構なしの初期ドット」は、1時間放置後の最初の印字における印字状態で不吐出の有無で確認した。
「乾燥性」は、印字直後の印字面に、印字直後の秒数に設定したタイミングにて毛質の刷毛を接触させ、転写の有無にて評価した。
なお、判定基準は以下のとおりである。
◎は、非常に良好
○は、良好
△は、良好品よりも若干劣る。
×は、明らかな不良。
―は、評価なし。
【0049】
〔上記評価結果についての考察〕
上記試験では、いずれの実施例も、全般的に良好な印字性能を示すものであったといえる。なお、OD錠,FC錠にも同様に印字テストを行ったが、いずれも良好な印字を示した。
実施例のインクでは、いずれにおいても、分散でのジルコニウムのコンタミも検出されなかった。また、インクの再分散性、にじみもなく、良好な定着性も有していた。
錠剤での印刷におけるこすりや転写も生じない良好な視認性のある印字物を作成できた。
なお、PVPの重量平均分子量から粘度の調整範囲も広くとれ、使用量が1重量%をきっても定着性や転写の問題がなかった。錠剤表面との親和性が認められた。また、このような少量でのPVPの使用量であったため、温度変化の環境テスト、また、連続テストも良好な吐出性を示した。
エタノールが15重量%程度も含有されているため、錠剤表面での乾燥も早く、搬送系での未乾燥インクの転写も生じなかった。
【0050】
比較例1のインクジェットインクは、溶剤がエタノールでなく水のみでインクでの再分散性は良好であった。ただし、精製水の多い組成であり、錠剤表面での定着が弱い。DODプリンタでは、ノズルでの乾燥が早すぎて、吐出不良を発生した。
比較例2のインクジェットインクは、分散体(2A)においてCMCをエタノールも加えて溶かしているために、インクでの三二酸化鉄の分散状態が良くなく(再分散性)、それによって平均粒子径の測定もできなかった。プリンタにも入れられない状態であった。
比較例3、4のインクジェットインクは、分散体(3A)、(4A)において70重量%程度の多量のエタノールを使用しているため、ノズルの閉塞が生じやすく、DODプリンタでの適性がなかった。
比較例5のインクジェットインクは、分散体(5A)で精製水を全く用いず食用赤40号のアルミレーキを分散させているので、インクでの再分散性が悪く平均粒子径の測定もできなかった。
比較例6のインクジェットインクは、分散体(6A)の分散はすすんだが、エタノールを多量にいれたため、安定した吐出がやはりできなかった。
【0051】
〔実施例20〕
上記実施例1〜19において作製したインクジェットインクを、ドロップオンデマンド型インクジェット装置に充填し、連続した印字を実施した。
使用したドロップオンデマンド型インクジェット装置は、インクジェットヘッドとインクタンク筐体との間及びインクジェットヘッド内にインク循環経路を有する(循環型DOD)。
このような循環機構を有するインクジェット装置を使用することにより、インクジェットヘッド内にインクの滞留や顔料の沈降がなくなり、長時間安定した吐出及び高精細な印字を得た。このインク循環経路には、加熱手段及び放熱手段が設けられており、このような温度調整機構を利用することにより、環境温度変化、また、稼働状況でのインク温度の変化をなくすことができ、安定した吐出及び高精細な印字を継続することができた。
【0052】
〔実施例21〕
上記実施例1〜19において作製したインクジェットインクを、循環型DODに充填し、連続した印字を実施した。
本実施例21では、インクジェットインクをインクジェットヘッドとインクタンク筐体との間で循環させる際に、循環インクの脱気や脱泡を行うようにした。
具体的には、循環経路に、カートリッジ状の中空糸繊維を使用した脱気機構、及び、多孔質部材を使用した脱泡機構を付した。
これにより、インク圧力変化による気泡の発生、インクの流動に伴う振動や、外部からの振動による泡の発生があった場合にも、当該脱気機構及び消泡機構によりインクジェットインク中の気体や気泡を除去することができ、高速での印字を安定に継続できた。
【0053】
〔実施例22〕
上記実施例1〜19において作製したインクジェットインクを用い、インクジェット装置で印字対象物へ印字するために、循環型DODのインクジェットヘッドを2台設置した。
インクジェット装置が稼働し、上記2台の内、一方のインクジェットヘッドが印字対象物へ印字を行っている間、他方のインクジェットヘッドをメンテステーションに待機させ、待機中に、プリカーサ、フラッシング、ワイピングを一定間隔にて実施した。
そして、2台のインクジェットヘッドの内、印字に用いるインクジェットヘッドと、メンテナンスステーションに待機させるインクジェットヘッドとを、所定の時間ごとに変更することで、さらに、長時間安定した吐出及び印字を継続することができた。
また、印字の精度、印字品質共に良好であった。
【0054】
〔実施例23〕
上記実施例1〜19において作製したインクジェットインクを、ドロップオンデマンド型インクジェット装置に充填し、連続した印字を実施した。
使用したドロップオンデマンド型インクジェット装置は、インクジェットヘッドとインクタンク筐体との間及びインクジェットヘッド内にインク循環経路を有する(循環型DOD)。
このような循環機構のインク流路部に、深紫外LEDによる殺菌機構を設けインク循環での一般生菌類の殺菌をおこなった。
このインク循環経路に殺菌機構を設けることで、殺菌剤を使用せずとも、菌の繁殖を防ぐことができ、経口するインクの衛生性が確保されるようになった。