特許第6101668号(P6101668)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6101668
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】被鍛造部材の表面処理方法
(51)【国際特許分類】
   B24C 1/06 20060101AFI20170313BHJP
   B24C 3/00 20060101ALI20170313BHJP
   B24C 3/32 20060101ALI20170313BHJP
   B24C 11/00 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
   B24C1/06
   B24C3/00 A
   B24C3/32 Z
   B24C11/00 C
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-234350(P2014-234350)
(22)【出願日】2014年11月19日
(65)【公開番号】特開2016-97457(P2016-97457A)
(43)【公開日】2016年5月30日
【審査請求日】2015年10月26日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成26年5月20日 一般社団法人日本塑性加工学会発行の「塑性加工春季講演会 講演論文集」に公開すると共に、平成26年6月7日 つくば国際会議場で開催された「平成26年度塑性加工春季講演会」において公開(発表)。
(73)【特許権者】
【識別番号】591205732
【氏名又は名称】マコー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091373
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100097065
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 雅栄
(72)【発明者】
【氏名】松原 幸人
(72)【発明者】
【氏名】中村 保
(72)【発明者】
【氏名】早川 邦夫
【審査官】 亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−066901(JP,A)
【文献】 特開2014−000623(JP,A)
【文献】 特開平03−106531(JP,A)
【文献】 特開2009−248261(JP,A)
【文献】 特開平02−112843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24C 1/00 − 1/10
B24C 3/00 − 3/32
B24C 11/00
B21J 3/00
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロムモリブデン鋼から成る被鍛造部材の表面処理方法であって、前記被鍛造部材の表面に、液体と平均粒径が約150μmのステンレス砥粒との混合物であるスラリを圧搾空気と混合して噴射し、前記被鍛造部材の表面に深さ0.5μm〜2.00μm,開口巾75μm〜150μmの凹所を無数に設けることを特徴とする被鍛造部材の表面処理方法。
【請求項2】
請求項1記載の被鍛造部材の表面処理方法において、前記凹所の開口面積は0.006〜0.023mmであることを特徴とする被鍛造部材の表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被鍛造部材の表面処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
機械部品の製造方法として採用される冷間鍛造は、切削による製造に比し、製造できる形状が制約されるという点はあるものの、同形のものが量産でき、強度が得られ、加工時間が短く、材料が節減できるなどの数多くのメリットを有する。
【0003】
ところで、従来から、冷間鍛造される加工素材としての円柱状の被鍛造部材の表面には、型離れを良くし、加工時に生じる熱や接触圧力による金型の破損、被鍛造部材そのものの破損を防止する目的で、潤滑処理(通称:ボンデ処理と言われ、潤滑皮膜付着処理)が施されており、被鍛造部材表面への潤滑膜の良好な定着が望まれている。
【0004】
そこで、本出願人は、特開2007−38309号や特許第5523507号に開示されるワーク表面処理装置を提案している。これらの装置は、ワークとしての被鍛造部材の表面に潤滑皮膜を付着させる前に、液体と砥粒との混合物であるスラリを噴射して該被鍛造部材の表面をウエットブラスト処理するものである。
【0005】
このウエットブラスト処理が施されることにより、被鍛造部材の表面に付着している酸化膜や油等の汚れの除去が確実且つ良好に行なわれ、被鍛造部材の表面に細かい凹凸が形成されることで潤滑皮膜が剥がれにくく良好に定着することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−38309号公報
【特許文献2】特許第5523507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、上述したような被鍛造部材の表面処理について更なる研究開発を進め、その結果、従来にない作用効果を発揮する画期的な被鍛造部材の表面処理方法を開発した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0009】
クロムモリブデン鋼から成る被鍛造部材1の表面処理方法であって、前記被鍛造部材1の表面1aに、液体2と平均粒径が約150μmのステンレス砥粒3との混合物であるスラリ4を圧搾空気と混合して噴射し、前記被鍛造部材1の表面1aに深さ0.5μm〜2.00μm,開口巾75μm〜150μmの凹所5を無数に設けることを特徴とする被鍛造部材の表面処理方法に係るものである。
【0010】
また、請求項1記載の被鍛造部材の表面処理方法において、前記凹所5の開口面積は0.006〜0.023mmであることを特徴とする被鍛造部材の表面処理方法に係るものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明は上述のように構成したから、被鍛造部材の表面に形成される潤滑皮膜が剥がれにくく良好に定着することになるなど、従来にない作用効果を発揮する画期的な被鍛造部材の表面処理方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施例に係る被鍛造部材の表面処理方法を実施する装置の説明図である。
図2】本実施例で表面処理した被鍛造部材の状態を示す説明図である。
図3】本実施例で表面処理した被鍛造部材の表面の部分拡大図である。
図4】本実施例の有効性を示す試験の条件を説明する説明図である。
図5】前方軸/後方缶押出し試験装置を用いた被鍛造部材の性能試験を示す説明図である。
図6】前方軸/後方缶押出し試験装置を用いた被鍛造部材の性能試験を示す説明図である。
図7】本実施例の有効性を示す試験結果を説明する説明図である。
図8】本実施例の有効性を示す試験結果を説明する説明図である。
図9】本実施例の有効性を示す試験結果を説明する説明図である。
図10】本実施例の有効性を示す試験結果を説明する説明図である。
図11】本実施例の有効性を示す試験結果を説明する説明図である。
図12】本実施例の有効性を示す試験結果を説明する説明図である。
図13】本実施例の有効性を示す試験結果を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0014】
本発明は、被鍛造部材1の表面に、液体2と砥粒3との混合物であるスラリ4を圧搾空気と混合して噴射し、被鍛造部材1の表面に深さ0.5μm〜2.00μm,開口巾75μm〜150μmの凹所5を無数に設ける。
【0015】
この凹所5を無数に備えた被鍛造部材1は潤滑処理を行った際の油切れが生じにくく、鍛造する素材として極めて秀れたものとなる。
【実施例】
【0016】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0017】
本実施例は、搬送される円柱状の被鍛造部材1の表面1aに表面処理を施す被鍛造部材1の表面処理方法である。尚、被鍛造部材1は金属製(クロムモリブデン鋼)の円柱状の被鍛造部材1であり、本書面で言う円柱状とは断面円形状の長さを有するものであって、内部が中空の円筒状のものも含む広義の意味である。
【0018】
具体的には、本実施例に係る被鍛造部材1の表面処理方法は、特許第5523507号に開示される表面処理装置10を用いて行なわれる。
【0019】
この表面処理装置10は、図1に図示したように基体11に円柱状の被鍛造部材1を搬送する搬送部12と、この搬送部12により搬送される被鍛造部材1にウエットブラスト処理及びその他の処理を行う表面処理部とを具備している。
【0020】
具体的には、表面処理部は、ウエットブラスト処理部13と、図示省略のその他の処理部(洗浄処理部、湯洗部、潤滑処理部及び乾燥処理部)とで構成されている。
【0021】
ウエットブラスト処理部13は、図1に図示したように円柱状の被鍛造部材1を通過せしめる基体11に設けられ、スラリ噴射部14と、下方位置に配設されるスラリ貯留部15と、このスラリ貯留部15からポンプ装置16を介してスラリ噴射部14へスラリ4を搬送するスラリ搬送部17とを具備し、スラリ噴射部14から噴射されたスラリ4はスラリ貯留部15へ送られて再利用される構成である。
【0022】
スラリ噴射部14は、図1に図示したように円柱状の被鍛造部材1を搬送する搬送部12の上方に配される巾広の噴射ノズルで構成されている。
【0023】
この噴射ノズルには前述したスラリ搬送部17が接続されるとともに、別回路で設けられ圧縮空気供給部18から延設される圧縮空気搬送部19が接続されており、スラリ搬送部17から供給されるスラリ4を圧縮空気搬送部19から供給される圧縮空気により加速して、所定の噴射速度で噴射ノズルから噴射されるように構成されている。
【0024】
また、本実施例で使用するスラリ4は、液体2と微粒子砥粒3との混合物である。
【0025】
以上の構成からなる表面処理装置10を使用した被鍛造部材1への表面処理について説明する。
【0026】
搬送部12で搬送される円柱状の被鍛造部材1の表面1aは表面処理部により適宜処理される。
【0027】
具体的には、搬送部12で搬送される円柱状の被鍛造部材1はウエットブラスト処理部13を通過した際、スラリ4を噴射することで円柱状の被鍛造部材1の全表面1a(周面及び前後端面)はブラスト処理され、この全表面1a(周面及び前後端面)に細かい凹所5が無数に形成される。
【0028】
続いて、ウエットブラスト処理部13でブラスト処理された円柱状の被鍛造部材1は、洗浄処理部を通過した際、洗浄液を噴射することで水洗処理(スラリや削り屑などが除去)される。
【0029】
続いて、洗浄処理部で水洗処理された円柱状の被鍛造部材1は、湯洗処理部を通過した際、高温水を噴射することで水洗処理及び加熱処理される。
【0030】
続いて、湯洗処理部で水洗処理及び加熱処理された円柱状の被鍛造部材1は、潤滑処理部を通過した際、潤滑剤(例えば金属セッケン)が付与されて潤滑処理される。
【0031】
続いて、潤滑処理部で潤滑処理された円柱状の被鍛造部材1は、乾燥処理部を通過した際、熱風を当てることで乾燥処理(潤滑剤の固化)され、円柱状の被鍛造部材1の全表面1a(周面及び前後端面)には潤滑皮膜が形成される。
【0032】
この乾燥処理部で乾燥処理された円柱状の被鍛造部材1は導出部で表面処理装置10の外部へ導出されることになる。この導出された円柱状の被鍛造部材1の全表面1a(周面及び前後端面)には潤滑皮膜が良好に定着している。
【0033】
ところで、本実施例では、後述する素材及びサイズの被鍛造部材1の表面1aには無数(約74,000個)に凹所5(角錐形状の凹部)が形成され、この凹所5は、深さ0.5μm〜2.00μm,開口巾75μm〜150μm,面積0.006〜0.023mmであり、被鍛造部材1として極めて秀れることになる。
【0034】
これは、以下の試験により確認している。
【0035】
即ち、先ずは、砥粒A(50μmステンレス砥粒),砥粒B(150μmステンレス砥粒),砥粒C(210μmステンレス砥粒),砥粒D(320μmステンレス砥粒),砥粒E(250μmアルミナ砥粒)及び砥粒F(300μmスチール砥粒)を用意し、これら砥粒A〜Eを前述した表面処理装置10で被鍛造部材1(クロムモリブデン鋼/SCM420径19.9mm/長さ20mm/表面積約1,030mm)の処理を行い(砥粒Fはショットブラストを行い)、この得られた被鍛造部材1を前方軸/後方缶押出し試験装置20を利用して前方押出し量及び後方押出し量を測定した(図4,5参照)。
【0036】
図7は、砥粒A〜Fと前方押出し量との関係を示し、図8は、砥粒A〜Fと後方押出し量との関係を示している。
【0037】
前方軸/後方缶押出しにおいてパンチストロークを一定とした時、前方押出し量が多く且つ後方押出し量が少ないほど表面の摩擦抵抗が少ないことになるが、前方押出し量及び後方押出し量ともに最良であり、表面の摩擦抵抗が少ないのは順に砥粒B、砥粒C、砥粒D、砥粒E、砥粒F、砥粒Aの順になった。
【0038】
即ち、砥粒Bで処理された被鍛造部材1は、他の砥粒で処理された被鍛造部材1に比し、前方への伸びが多く且つ後方への伸びが少なく、よって、砥粒Bで処理された被鍛造部材1の表面1aにおける摩擦抵抗が少ないことが分かった。この結果により、使用する砥粒によって成型負荷に大きく影響することが明確になった。
【0039】
また、図9は、冷間鍛造成型時の最大荷重と前方押出し量との関係を示している。
【0040】
前述した砥粒Bで処理された被鍛造部材1は、その他の砥粒で処理された被鍛造部材1に比し、冷間鍛造成型時の最大荷重が小さい。
【0041】
即ち、前方押出し量が多い結果を生じる表面1aを備えた被鍛造部材1は、冷間鍛造成型時の最大荷重が小さく、この冷間鍛造成型時の最大荷重と押出し量とはほぼ反比例となるセオリー通りの結果となった。
【0042】
また、図10は、砥粒A〜Fを用いて被鍛造部材1の表面処理を行い、この被鍛造部材1の端面に生じた凹所5の深さ(H)と前方押出し量との関係、図11は、砥粒A〜Fを利用して被鍛造部材1の表面処理を行い、この被鍛造部材1の端面に生じた凹所5の開口巾(W)と前方押出し量との関係を示している。
【0043】
図10から分かるように、砥粒Bで処理して生じる凹所5の深さは、エアー圧が0.2MPaだと0.5μm、エアー圧が0.4MPaだと1.5μmであり、また、図11から分かるように、砥粒Bで処理して生じる凹所5の開口巾は、エアー圧が0.2MPaだと150μm、エアー圧が0.4MPaだと140μmである。
【0044】
また、図12は、砥粒A〜Fを用いて被鍛造部材1の表面処理を行い、この被鍛造部材1の側面に生じた凹所5の深さ(H)と前方押出し量との関係、図13は、砥粒A〜Fを利用して被鍛造部材1の表面処理を行い、この被鍛造部材1の側面に生じた凹所5の開口巾(W)と前方押出し量との関係を示している。
【0045】
図12から分かるように、砥粒Bで処理して生じる凹所5の深さは、エアー圧が0.2MPaだと0.5μm、エアー圧が0.4MPaだと2.00μmであり、また、図13から分かるように砥粒Bで処理して生じる凹所5の開口巾は、エアー圧が0.2MPaだと75μm、エアー圧が0.4MPaだと125μmである。
【0046】
以上の試験から、最適と判断された砥粒Bで処理した被鍛造部材1の表面1aに生じる凹所5の深さは0.5μm〜2.00μm,開口巾は75μm〜150μmであり、この深さ0.5μm〜2.00μm,開口巾75μm〜150μmの凹所5を無数に備えた被鍛造部材1は潤滑処理を行った際の油切れが生じにくく、冷間鍛造する素材として極めて秀れたものとなることが確認できた。
【0047】
本実施例は上述のように構成したから、被鍛造部材1の表面に、液体2と砥粒3との混合物であるスラリ4を圧搾空気と混合して噴射して、被鍛造部材1の表面に深さ0.5μm〜2.00μm,開口巾75μm〜150μmの凹所5を無数に設ける。
【0048】
この凹所5を無数に備えた被鍛造部材1は潤滑処理を行った際の油切れが生じにくく、鍛造する素材として極めて秀れたものとなる。
【0049】
また、本実施例は、被鍛造部材1はクロムモリブデン鋼であるから、前述した作用効果を確実に発揮し得ることになる。
【0050】
また、本実施例は、砥粒3として平均粒径が約150μmのステンレス砥粒を採用したから、前述した作用効果を確実に発揮し得ることになる。
【0051】
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【符号の説明】
【0052】
1 被鍛造部材
1a 表面
2 液体
3 砥粒
4 スラリ
5 凹所
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13