(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6101983
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】発電回路およびこれを用いた発信装置
(51)【国際特許分類】
H02N 2/18 20060101AFI20170316BHJP
【FI】
H02N2/18
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-284856(P2012-284856)
(22)【出願日】2012年12月27日
(65)【公開番号】特開2014-128161(P2014-128161A)
(43)【公開日】2014年7月7日
【審査請求日】2015年11月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】黒崎 信之
(72)【発明者】
【氏名】浅倉 綾太
(72)【発明者】
【氏名】館山 雄一
【審査官】
槻木澤 昌司
(56)【参考文献】
【文献】
特表2009−542169(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/122165(WO,A1)
【文献】
特開2012−126396(JP,A)
【文献】
特表2009−524387(JP,A)
【文献】
特開2008−172996(JP,A)
【文献】
特開2000−092842(JP,A)
【文献】
特開2011−017605(JP,A)
【文献】
米国特許第07781943(US,B1)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0170548(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動により発電し、直流電力を蓄積する発電回路であって、
振動を交流電圧に変換する第1の圧電素子および前記第1の圧電素子の両電極に接続された第1の並列接続ダイオードからなる第1の発電ユニットと、
前記第1の発電ユニットに対して直列に接続された直列接続ダイオードと、
前記直列接続ダイオードに対して直列に接続されたコンデンサと、を備え、
振動を交流電圧に変換する圧電素子および前記圧電素子の両電極に接続された並列接続ダイオードからなり、第n−1の発電ユニットに直列に接続する第n(n=2以上の自然数)の発電ユニットを更に備えることを特徴とする発電回路。
【請求項2】
請求項1記載の発電回路と、
前記発電回路に蓄積された直流電力で発信する発信器と、を備えることを特徴とする発信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動により発電し、直流電力を蓄積する発電回路およびこれを用いた発信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電体の振動発電を利用した回路が知られている。
図6は、従来の回路を示す回路図である。
図6に示すように、従来の回路は、分極方向α
0の圧電体P
0による方向b
0への振動で発生した交流電圧をダイオードd
0を4個用いてブリッジ接続して整流し、その先に接続されたコンデンサC
0に電力を蓄える。このようなダイオードd
0を4個用いたブリッジ回路による全波整流回路が一般的に用いられる(非特許文献1参照)。
【0003】
例えば、非特許文献1記載の回路は、振動発電用ICの内部回路の例を示しており、全波ブリッジ整流器と降圧コンバータを一体化し、圧電トランスデューサなどの高出力インピーダンスのエネルギー源向けに開発されたものである。この回路では、低消費電流のモードにより、降圧コンバータが蓄えられた電荷の一部を出力に転送できるようになるまで電荷を入力コンデンサに蓄積している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】リニアテクノロジー株式会社、“LTC3588-1圧電環境発電(エナジーハーベスト)電源“、[online]、インターネット<URL:http://cds.linear.com/docs/Japanese%20Datasheet/j35881fa.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような圧電体の振動により電力を発生させる回路では、発生電力が小さいこともあり、全波整流回路において多くの電力をダイオードで消費してしまう。そのため、発電のエネルギー効率が低くなる。
【0006】
また、圧電素子1個あたりに、4個のダイオードが必要となり、携帯機器にこれらを搭載すると、重量が増大し、収容すべき回路サイズも嵩んでしまう。また、整流回路にかかるコストで携帯機器の高価格化を招く。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、エネルギー効率が極めて高く、低コストで構成でき、嵩張らない発電回路およびこれを用いた発信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の発電回路は、振動により発電し、直流電力を蓄積する発電回路であって、振動を交流電圧に変換する第1の圧電素子および前記第1の圧電素子の両電極に接続された第1の並列接続ダイオードからなる第1の発電ユニットと、前記第1の発電ユニットに対して直列に接続された直列接続ダイオードと、前記直列接続ダイオードに対して直列に接続されたコンデンサと、を備えることを特徴としている。
【0009】
これにより、圧電素子1個あたり2個のダイオードで回路が構成されるため、発電により得られる電力のロスを低減でき、エネルギー効率が極めて高い発電回路を実現できる。また、低コストで構成でき、嵩張らない。
【0010】
(2)また、本発明の発電回路は、振動を交流電圧に変換する圧電素子および前記圧電素子の両電極に接続された並列接続ダイオードからなり、第n−1の発電ユニットに直列に接続する第n(n=2以上の自然数)の発電ユニットを更に備えることを特徴としている。
【0011】
これにより、n+1個のダイオードでn個の圧電素子を有する回路を構成できるため、必要な部品数が少なくて済む。また、ダイオードの順方向のロスが減る結果、エネルギー効率が大幅に向上する。
【0012】
(3)また、本発明の発信装置は、上記の発電回路と、前記発電回路に蓄積された直流電力で発信する発信器と、を備えることを特徴としている。これにより、僅かな振動があれば電力供給のない場所からも発信することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、発電回路のエネルギー効率が極めて高く、回路が低コストで構成でき、嵩張らない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1の実施形態に係る発電回路を示す回路図である。
【
図2】(a)、(b)それぞれ並列接続ダイオードがない場合とある場合の発生電圧を模式的に示すグラフである。
【
図3】第2の実施形態に係る発電回路を示す回路図である。
【
図4】実施例(単一)および比較例の取出電力を示すグラフである。
【
図5】実施例(単一、多段)および比較例の取出電力を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0016】
[第1の実施形態]
(発電回路の構成)
図1は、発電回路100を示す回路図である。発電回路100は、圧電体の振動により発電し、直流電力を蓄積する。
図1に示すように、発電回路100は、発電ユニットU
1(第1の発電ユニット)、直列接続ダイオードd
s1およびコンデンサC
1を備えている。
【0017】
発電ユニットU
1は、さらに圧電素子P
1(第1の圧電素子)および並列接続ダイオードd
p1を備えている。圧電素子P
1は、振動発電素子として機能し、振動を交流電圧に変換する。圧電素子P
1は、板状に形成され、振動方向b
1に振動する屈曲型のものであることが好ましい。これにより、自由端の僅かな振動を電圧に変換できる。
【0018】
圧電素子P
1は、たとえばPZTを主成分とする材料で形成された圧電セラミックスで構成されている。圧電素子P
1では、分極方向α
1に分極処理がなされた圧電層とその両側に設けられた電極とを備える圧電板がシム板に接着されている。圧電体は、圧電層と電極とを交互に積層した積層体とすることができ、その場合には振動から高い電圧を発生させることができるため、好ましい。
【0019】
並列接続ダイオードd
p1は、圧電素子P
1の両電極に接続されている。
図1に示す例では、並列接続ダイオードd
p1の順方向に発電ユニットU
1から概略で極小値を0とした正電圧の波形が生じる(すなわち、ab間でb側をGNDとしてa側に+側電圧にする)。仮に、
図1に示す向きとは逆向きに並列接続ダイオードd
p1を接続した場合には、概略で極大値を0とした負電圧の波形が生じる。このように圧電素子P
1の両電極に1本のダイオードが接続されることで、発電の極性が決定されている。
【0020】
直列接続ダイオードd
s1は、上記の発電ユニットU
1に対して直列に接続されている。また、コンデンサC
1は、直列接続ダイオードd
s1に対して直列に接続されている。このような回路構成で、発電回路100は、発電ユニットU
1で発生した電圧を発電ユニットU
1に直列に接続した直列接続ダイオードd
s1を通して、コンデンサC
1の一方の電極e側に正電圧を出力し、コンデンサC
1に充電する。このようにして電力ロスの小さい発電回路を構成することができる。仮に、
図1に示す向きとは逆向きに並列接続ダイオードd
p1および直列接続ダイオードd
s1が接続された場合には、コンデンサC
1の電極e側に負電圧を出力する。
【0021】
発電回路100は、圧電素子1個あたり2個のダイオードで回路が構成されている。そのため、発電により得られる電力のロスを低減でき、エネルギー効率が極めて高い発電回路を実現できる。また、低コストで回路を構成でき、嵩張らない。
【0022】
(発電回路の動作)
次に、上記のように構成された発電回路100の動作を説明する。
図2(a)、(b)は、それぞれ並列接続ダイオードがない場合とある場合の発生電圧を模式的に示すグラフである。
図2(a)は、発電ユニットU
1と同様の構成で端子ab間に並列接続ダイオードd
p1がない回路で、一定の振動が与えられたとき発電ユニットU
1が発生させる電圧を示している。
図2(b)は、発電ユニットU
1で、一定の振動が与えられたとき圧電素子P
1が発生させる電圧を示している。
【0023】
図2(a)に示すように、圧電素子P
1に並列にダイオードが接続されていない場合には、発電ユニットU
1は、一定の振動が与えられたとき0Vを振幅Aの中心とする正弦波形を出力する。これに対し、
図2(b)に示すように、圧電素子P
1に並列に(ab間に)ダイオードが接続されている場合には、一定の振動が与えられたとき、発電ユニットU
1は概略0Vを極小値とする振幅Aの正弦波形を出力する。なお、実際は、ダイオードの順方向分だけ極小が0Vより少しマイナス側の電圧になるように移動した波形が出力される。
【0024】
このように、発電回路100ではab間にダイオードが挿入されていることで、圧電素子P
1から発生する電圧を、b側をGNDとした+側電圧にすることが可能である。従来のブリッジ型整流回路では、図中の振幅Aの1/2の電圧に、ダイオードの順方向電圧が2本分差し引かれた電圧が出力されるのに対し、発電回路100では、振幅Aのエネルギーをそのまま利用できる。さらに、そのエネルギーは直列接続ダイオードd
s1の1本しかダイオードを通さないので、従来回路に比べ発電回路100ははるかにエネルギー効率が良い。
【0025】
[第2の実施形態]
上記の実施形態では、発電回路100は単一の発電ユニットU
1を有しているが、必要な電圧に応じて、発電ユニットを複数接続することもできる。
図3は、2段の発電ユニットを設けた発電回路200を示す回路図である。
【0026】
発電回路200は、発電ユニットU
1(第1の発電ユニット)、発電ユニットU
2(第2の発電ユニット)、直列接続ダイオードd
s1およびコンデンサC
1を備えている。発電回路200において、発電ユニットU
2以外の構成は、発電回路100と同様である。
【0027】
発電ユニットU
2は、圧電素子P
2および並列接続ダイオードd
p2を備え、発電ユニットU
1に直列に接続されている。圧電素子P
2は、分極方向α
2に分極され、振動方向b
2の振動を交流電圧に変換している。並列接続ダイオードd
p2は、圧電素子P
2の両電極に接続され、発電の極性を決定している。
【0028】
このとき、発電ユニットの数をnとすると、n+1のダイオードで十分に発電回路を構成できる。従来の回路では、多段に発電ユニットを設けると、発電ユニットの数の4倍のダイオードが必要となり、部品数が多くなるが、発電回路200では、n+1個のダイオードで回路を構成できる。これにより、必要とされる部品数が少なくて済む。また、ダイオードの順方向に電流が流れたときのロスが減るため、エネルギー効率が大幅に向上する。
【0029】
上記の例では、発電回路に2段の発電ユニットが設けられているが、さらに多段であってもよい。その場合の発電回路は、第nの発電ユニットU
nが第n−1の発電ユニットU
n−1に直列に接続する。ただし、nは2以上の自然数である。本実施形態の発電回路200では、各発電ユニットU
n同士が必ずしも同期していなくても、発電ユニットU
nの寄与分の電圧を出力することができる。
【0030】
[応用された実施形態]
上記の発電回路を用いて発信装置を構成することもできる。発信装置は、発電回路と、発電回路に蓄積された直流電力で発信する発信器とを備える。これにより、僅かな振動があれば電力供給のない場所からも発信することができる。たとえば、このような発信装置を搭載したブイを海上に設置し、波の振動を利用して発電し、ブイの位置を発信することができる。
【0031】
[実施例、比較例]
実際に各回路を作製し、取出電力を測定した。同一構成の圧電素子を使用して、従来回路900、発電回路100および発電回路200を作製し、コンデンサC
1の両電極には負荷を接続した。そして、圧電素子に同じ振動を印加した場合に、負荷として接続した抵抗に供給できたエネルギーを比較した。
【0032】
図4は、実施例(発電回路100)および比較例(従来回路900)の出力電力E1、E0を示すグラフである。
図5は、実施例(発電回路100、200)および比較例(従来回路900)の出力電力E1、E21〜E23、E0を示すグラフである。いずれも周波数と出力電力との関係を示している。出力電力E21〜E23は、発電ユニット間の振動の位相差がそれぞれ、180°、90°、0°である場合の出力電力を示している。
【0033】
図4に示すように、振動の周波数が高くなるにつれて(周波数20Hz付近)、出力電力は実施例の出力電力の方が比較例のものの4倍程度大きく取れた。また、
図5に示すように、発電ユニット間の振動の位相差が小さい方が大きな出力電力が得られた。発電ユニット間の振動の位相差が180°の場合の出力電力に対し、それぞれ位相差が90°の場合の出力電力は約3倍の大きさであり、位相差が0°の場合の出力電力は約4倍の大きさであった。このように、比較例に比べ、実施例では大きな出力電力が得られた。特に発電ユニットを多段で設けた場合には、大きな出力電力が得られた。
【符号の説明】
【0034】
100、200 発電回路
P
1、P
2 圧電素子(第1、2の圧電素子)
α
1、α
2 分極方向
d
p1、d
p2 並列接続ダイオード(第1、2の並列接続ダイオード)
U
1、U
2 発電ユニット(第1、2の発電ユニット)
d
s1 直列接続ダイオード
C
1 コンデンサ
e (コンデンサの)電極
E0、E1、E21−E23 出力電力