(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
センサが各々のシャフトに取り付けられているとともに、前記センサの検出結果を示すデータを蓄積するメモリ、無線通信部、および前記メモリに蓄積されたデータを読み出して前記無線通信部に与える制御部が各々に取り付けられている複数のゴルフクラブと、
前記複数のゴルフクラブの各々に取り付けられている無線通信部と無線通信するフィッティング支援端末と、を備え、
前記複数のゴルフクラブに取り付けられた制御部の各々は、
他のゴルフクラブとの間で通信リソースを共用しつつ前記フィッティング支援端末と無線通信するための無線通信リンクを無線通信部に確立させ、当該ゴルフクラブによるボールの打撃を前記センサにより検出したことを契機として当該打撃から所定時間だけ遡った時刻以降の前記センサの検出結果を示すデータをメモリから読み出し、他のゴルフクラブ分の通信リソースも用いて前記フィッティング支援端末へ送信するように無線通信部を制御し、
前記センサの検出結果を示すデータを前記フィッティング支援端末へ送信する際に、当該制御部の取り付けられているゴルフクラブを識別するためのクラブ識別子を当該データとともに送信し、
前記フィッティング支援端末は、ボールの打撃に使用されたゴルフクラブに取り付けられている無線通信部から送信されてくるデータおよびクラブ識別子に、当該ゴルフクラブを使用したサービス利用者に関する情報を対応付けて記憶装置に記憶させ、
前記サービス利用者に関する情報は、性別、年齢、ゴルフ暦、および体格を示すデータである
ことを特徴とするゴルフクラブのフィッティング支援システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の技術では、歪みゲージにより検出された撓りの大きさ等を表すデータを有線通信により動的ひずみ計へ送信している。しかし、有線通信では、歪みゲージと動的ひずみ計とを接続する通信線が邪魔になり、フィッティングサービスの利用者が普段のスイングをできない虞がある。フィッティングサービスにおいては、サービス利用者の体格等を頼りにフィッティング担当者が選び出した複数のゴルフクラブの各々による試し打ちをサービス利用者に行わせ、それら試し打ちの各々におけるシャフトの動的挙動に基づいて最適な組み合わせを探し出すことが一般的である。動的ひずみ計に対して試し打ち用のゴルフクラブを1本ずつ接続する態様では、サービス利用者がゴルフクラブを持ち替える毎に通信線の繋ぎ替えを行わねばならず、繋ぎ替えが完了するまでの間、サービス利用者を待たせることになるといった問題がある。複数の試し打ち用ゴルフクラブの全てを予め動的ひずみ計に接続しておけば、サービス利用者を待たせるといった問題は発生しないものの、配線が煩雑になり、いっそうスイングの邪魔になってしまう。このような問題点を解決するための方策としては、動的ひずみ計と各試し打ち用ゴルフクラブの歪みゲージとの間のデータ通信を無線化することが考えられるが、スイング中のシャフトの動的挙動を示すデータはデータ量が多く、単純な無線化では対応しきれない虞がある。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みて為されたものであり、サービス利用者の自然なスイング動作を阻害したり、サービス利用者を無駄に待たせたりすることなく、ゴルフクラブのフィッティングサービスを提供することを可能にする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明は、シャフトに取り付けられたセンサと、メモリ、無線通信部および制御部と、を有し、前記制御部は、前記シャフトに配設された前記センサの検出結果を示すデータを前記メモリに蓄積する処理と、他のゴルフクラブとの間で通信リソースを共用しつつ所定の通信相手と無線通信を行うための無線通信リンクを前記無線通信部に確立させ、当該ゴルフクラブによるボールの打撃を前記センサにより検出したことを契機として当該打撃から所定時間だけ遡った時刻以降の前記センサの検出結果を示すデータを前記メモリから読み出し、他のゴルフクラブ分の通信リソースも用いて前記通信相手へ送信するように前記無線通信部を制御する処理と、を実行することを特徴とするゴルフクラブ、を提供する。
【0007】
ヘッドおよびシャフトの組み合わせを各々異ならせた複数の上記ゴルフクラブと各クラブに内蔵されている無線通信部との間に無線通信コネクションを確立する端末(フィッティング担当者の使用するフィッティング支援端末)とを用いて構成されたフィッティング支援システムにおいては、各無線通信部とフィッティング支援端末との間のデータ通信が無線化されているため、サービス利用者が試し打ちを行う際に、自然なスイング動作を阻害されることはない。また、各無線通信部は通信リソースを共用しつつフィッティング支援端末と無線通信を行うための無線通信リンクを並列に確立するため、このような無線通信リンクを1つずつシーケンシャルに確立してフィッティングサービスを提供する場合の弊害(打撃後に確立を試みる場合には、確立に失敗して打撃動作が無駄になってしまうこと、クラブを持ち替える毎に打撃に先立って確立する場合には、その確立が完了するまで打撃の開始を待つ必要があること)は発生しない。この点については後に詳細に説明する。
【0008】
そして、上記複数のゴルフクラブのうちの何れかを用いてサービス利用者が試し打ち(ボールの打撃)を行うと、その打撃の検出を契機として当該打撃から所定時間だけ遡った時刻以降の上記センサの出力データが、他のゴルフクラブ分の通信リソースをも用いてフィッティング支援端末に送信される。ここで、上記ゴルフクラブのシャフトに配設するセンサとして歪みゲージを用いると、フィッティング担当者は、シャフトのしなりの時間波形をフィッティング支援端末に出力(例えば、画面表示など)させることで当該クラブのシャフトのスイング中の動的挙動を把握し、サービス利用者に適するゴルフクラブであるか否かを判定したり、より適すると推定される他のクラブを提案したりすることができる。このように、本発明によれば、サービス利用者の自然なスイング動作を阻害したり、サービス利用者を無駄に待たせたりすることなく、ゴルフクラブのフィッティングサービスを提供することが可能になる。なお、別の好ましい態様においては、センサの検出結果を示すデータ(信号)と当該センサの検出結果を示すデータのピークについて予め定めた閾値との比較、或いは信号波形の時間変化から算出したスイング速度がインパクトの時点で最も早くなっているか否かを判定すること等により、サービス利用者に適するゴルフクラブであるか否かをフィッティング支援端末に判定させ、その判定結果を画像やメッセージの表示、或いは音声出力により報知させるようにしても良い。
【0009】
例えば、上記各ゴルフクラブとフィッティング支援端末との間の無線通信として時分割多重化方式の無線通信を採用した場合には、ボールの打撃の検出を契機として、当該時分割多重化方式における複数のタイムスロットを用いて通信相手へのデータの送信を行わせるようにすれば良い。この場合、時分割多重化方式における各タイムスロットが上記通信リソースに対応する。また、上記各ゴルフクラブとフィッティング支援端末との間の無線通信として周波数分割多重化方式の無線通信を採用した場合には、ボールの打撃の検出を契機として、当該周波数分割多重化方式における複数の周波数(チャネル)を用いて通信相手へのデータの送信を行わせるようにすれば良い。この場合、周波数分割多重化方式における各周波数(チャネル)が上記通信リソースに対応する。
【0010】
より好ましい態様においては、前記グリップに着脱自在に装着されるグリップエンドには、前記制御部および前記無線通信部へ電力を供給する電池が内蔵されており、当該グリップエンドが前記グリップに装着されると、前記電池から前記無線通信部および前記制御部への給電が開始されることを特徴とする。このような態様によれば、例えば上記電池として充電式の電池を採用した場合にはグリップエンドをグリップから取りはずし、当該グリップエンドのみを充電器に接続して充電を行うことができ、ゴルフクラブそのものを充電器に接続する場合に比較して充電の際に広いスペースを必要としない、といった利点がある。
【0011】
また、別の好ましい態様においては、複数のセンサをシャフトに取り付けても良く、1または複数のセンサの各々と制御部とは、前記シャフトに螺旋状に巻きつけられたフレキシブル基板を介して接続されることを特徴とする。フレキシブル基板は軽量であるため、ゴルフクラブ全体の重量バランスを大きく変化させないといった利点がある。また、フレキシブル基板を螺旋状にシャフトに巻きつけることによって、シャフトに沿って真っ直ぐにフレキシブル基板を延在させる態様に比較してフレキシブル基板にスイング時の応力が均等に加わり、応力の偏在によるフレキシブル基板の破断を防止することができる、といった利点がある。
【0012】
また、別の好ましい態様としては、フィッティングサービスの利用者に関する情報(性別、年齢、および体格を示すデータ)をフィッティング支援端末へ入力し、当該情報に各センサの検出結果を示すデータおよびサービス利用者が試し打ちに使用したゴルフクラブを識別するためのクラブ識別子を対応付けて記憶装置に記憶させてデータベース化する処理をフィッティング支援端末に実行させても良い。このようなデータベース化を行っておけば、その後のサービス利用者に対して、そのサービス利用者に適すると推定されるクラブを当該サービス利用者の性別、年齢、或いは体格に基づいて絞り込んで提案することが可能になる。
【0013】
特許文献2には、各ゴルフプレイヤの技量に適したシャフトを設計することを支援する発明が記載されている。特許文献2に記載の発明では、3軸の加速度と3軸の角速度を検出する6軸センサをシャフトに取り付け、それぞれ異なる複数のゴルフクラブのそれぞれを使用して試打した場合の6軸センサの出力データを計測データとしてゴルフシャフト設計装置に取得させる。このゴルフシャフト設計装置は、複数のゴルフクラブそれぞれの計測データから、ゴルフシャフトの曲げ剛性やねじれ剛性などの設計因子を表す設計因子データを最適化して出力する。また、特許文献2には、6軸センサとゴルフシャフト設計装置との間の計測データの授受を無線通信により実現することが記載されている。
【0014】
しかし、特許文献2には、複数のゴルフシャフトの各々に設けられた6軸センサの各々に通信リソースを共用しつつゴルフシャフト設計装置と無線通信するための無線通信リンクを並列に確立させることや、ボールの打撃を契機として試打に使用されたゴルフクラブの6軸センサの計測データを他のクラブ分の通信リソースも使用してゴルフシャフト設計装置へ送信することを示唆する記載はない。また、特許文献2に記載の発明は、シャフトの設計支援のための技術であって、フィッティングサービスの提供を支援するための技術でもない。つまり、特許文献2に記載の発明は本願発明とは全く異なる技術である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。
(A:構成)
図1は、本発明の一実施形態のフィッティング支援システム1の構成例を示すブロック図である。このフィッティング支援システム1は、ゴルフ用具販売店などに設置され、フィッティング担当者によるフィッティングサービスの提供を支援するためのシステムである。前述したように、フィッティングサービスとは、ゴルフクラブを構成するヘッドおよびシャフトについての複数種の組み合わせのうちから、新たなゴルフクラブを購入しようとするゴルフプレイヤなどのサービス利用者に対して、性別や年齢、体格、ゴルフ歴等に基づいて最適な組み合わせを探し出して提案するサービスのことをいう。以下、本実施形態では、1番ウッド(所謂ドライバー)と呼ばれるゴルフクラブのフィッティングサービスへの適用例を説明する。1番ウッドは、競技規則において使用が許可されているゴルフクラブのうちでは最も取り扱いが難しく、ヘッドおよびシャフトの組み合わせの最適化の重要性が極めて高いゴルフクラブだからである。
【0017】
図1に示すように、フィッティング支援システム1は、ゴルフクラブ10−n(n=1〜N:Nは2以上の整数)と、フィッティング支援端末20とを含んでいる。ゴルフクラブ10−n(n=1〜N)の各々は、ヘッドおよびシャフトの組み合わせが互いに異なる1番ウッドである。ゴルフクラブ10−n(n=1〜N)の各々は、実際の競技に使用可能なゴルフクラブに、ボールを打撃したときのシャフトの撓りを検出してフィッティング支援端末20へ無線で送信する撓り検出装置100を装着したものである。実際の競技に使用可能なゴルフクラブに撓り検出装置100を装着してゴルフクラブ10−nを構成したのは、競技時と同等の使用感をフィッティングサービスの利用者に体感させるためである。また、この目的を達成するために、撓り検出装置100は十分に小型軽量に構成されており、スイングの際の妨げとならないように装着されている。以下、ゴルフクラブ10−n(n=1〜N)の各々を区別する必要がない場合には、単に「ゴルフクラブ10」と表記する。
【0018】
フィッティング支援端末20は、ボールの打撃に使用されたゴルフクラブ10の撓り検出装置100から送信されてくるデータに基づいて当該クラブにおけるシャフトの撓りの時間変化を表すグラフ曲線(例えば、横軸を時間、縦軸を撓りとしてアドレスからフィニッシュまでの各時刻におけるシャフトの撓りをプロットしたグラフ曲線)等の表示を行うタブレット端末である。フィッティング担当者はフィッティング支援端末20に表示されるグラフ曲線からシャフトの動的挙動を把握し、サービス利用者に適するゴルフクラブ(ヘッドとシャフトの組み合わせ)であるか否かを判断することができる。
【0019】
図2は、撓り検出装置100の構成例を示すブロック図である。
図2に示すように、撓り検出装置100は、撓り検出センサ110−k(k=1〜7)、データ処理回路120、無線通信部130、および電池140を含んでいる。
図3は、撓り検出装置100が装着されるゴルフクラブ10の外観を示す図であり、
図4はゴルフクラブ10のグリップ部分を拡大した図である。ゴルフクラブ10のグリップ部分は、シャフト10bに連接されたグリップ10cと、グリップ10cに着脱自在に装着されるグリップエンド10dとから構成されている。撓り検出センサ110−k(k=1〜7)の各々はゴルフクラブ10のシャフト10b(
図3参照)に接着されている。データ処理回路120はグリップ10c(
図3および
図4参照)に内蔵されており、無線通信部130と電池140はグリップエンド10d(
図4参照)に内蔵されている。
【0020】
撓り検出センサ110−k(k=1〜7)は、その接着場所のシャフト10bの撓りの大きさに応じて電気抵抗が変化する歪みゲージである。本実施形態では、撓り検出センサ110−kの電気抵抗の変化を計測することで、その接着場所におけるシャフト10bの撓りが計測される。本実施形態では、
図3に示すように、シャフト10bのスイング方向の側面においてヘッド10a側からグリップ10c側に向けて等間隔(例えば、150mm間隔)にX1〜X6の6箇所のセンサ取り付け位置が定められている。また、シャフト10bのスイング法線(スイングの際にヘッド10aが描く軌道を含む面の法線)方向の側面においては、X5に対応する位置Y5がセンサ取り付け位置として定められている。本実施形態では、これら7箇所のセンサ取り付け位置の各々に、撓り検出センサ110−k(k=1〜7)の各々が1箇所に1つずつ接着される。本実施形態では、シャフト10bに7個の撓り検出センサ110−kを装着したが、これより少ない個数(2〜6個)の撓り検出センサ110−kを用いても良く、また、8個以上の撓り検出センサ110−kを用いても良い。また、X2やX3に対応するスイング法線方向の位置をセンサ取り付け位置としても勿論良い。
【0021】
無線通信部130は2.4GHz帯等の予め定められた周波数の通信電波を使用してフィッティング支援端末20と無線通信する無線通信モジュールである。電池140は例えば3V出力のリチウム電池またはリチウム電池型蓄電池であり、データ処理回路120および無線通信部130に動作電力を供給する電源の役割を果たす。フィッティングサービスにおいては複数本(本実施形態では、最大6本)のゴルフクラブの各々による試し打ちを行わせ、シャフトの撓り具合の評価を行い、必要であればその評価結果に基づくアドバイス等をサービス利用者に与えるため、その所要時間は概ね一時間程度である。したがって、電池140の持続時間は1時間程度であることが好ましい。無線通信部130と電池140をグリップエンド10dに内蔵させたのは、グリップエンド10dを交換することで、無線通信部130の故障やメンテナンス、電池140の電池切れに簡便に対処できるようにするためである。また、電池140として充電式電池を採用した場合には、グリップエンド10dのみを充電器に接続して充電を行うことができ、ゴルフクラブ10全体を充電器に接続して充電する場合に比較して広いスペースを要しないといった利点がある。
【0022】
前述したように、グリップエンド10dがグリップ10cに装着されると、無線通信部130および電池140がデータ処理回路120に接続される。データ処理回路120は、電池140からの給電が開始されると、フィッティング支援端末20との間に時分割多重化方式の無線通信を行うための無線通信リンクを確立するように無線通信部130の作動制御を行う。ここで、時分割多重化方式の無線通信とは、
図5(a)に示すように、1つのチャネルにおける通信フレームを複数のタイムスロット(
図5に示す例では、TS1〜TS6の6個)に区切り、タイムスロット毎に異なる無線通信装置を割り当てる多重化方式である。例えば、TSj(j=1〜6)にゴルフクラブ10−jの無線通信部130を割り当てた状況下で、仮にゴルフクラブ10−2および10−4みがデータの送信を行うとすると、TSj(j=1〜6)は
図5(b)に示すように使用される。このように時分割多重化方式で無線通信リンクを確立させるのは、複数のゴルフクラブ10が通信帯域などの通信リソースを共用しつつ並列に無線通信するための無線通信リンクをフィッティング支援端末20との間に確立できるようにするためである。本実施形態では、1つの通信フレームが6個のタイムスロットに区切られるため、1回のフィッティングサービス当り最大6本のゴルフクラブを選択することができるのである。
【0023】
データ処理回路120は、無線通信リンクの確立に成功すると、待機状態となり、撓り検出センサ110−k(k=1〜7)の各々の計測結果(抵抗値(撓り)の大きさを表すアナログ信号)にA/D変換を施して蓄積する。そして、データ処理回路120は、ゴルフクラブ10によるボールの打撃を、撓り検出センサ110−k(k=1〜7)の各々による検出結果に基づいて検出すると、当該打撃から所定時間(本実施形態では、2秒)だけ遡った時刻以降の撓り検出センサ110−k(k=1〜7)の各々の出力データを、
図5(c)に示すように、時分割方式における全てのタイムスロットを用いて(すなわち、他のゴルフクラブ分の通信リソースをも使用して)フィッティング支援端末20へ送信するように無線通信部130を制御する。なお、
図5(c)では、無線通信リンクの確立の際にTS6を割り当てられたフィッティングクラブ10−6においてボールの打撃が検出された場合について例示されている。また、本実施形態において、上記所定時間を2秒としたのは、打撃動作の始動(アドレス)から打撃(インパクト)までに要する時間は概ね2秒程度だからであり、アドレスからインパクトまでのシャフト10bの動的挙動(特に、インパクト直前の動的挙動)を確実に捕らえることができるようにするためである。
【0024】
データ処理回路120は、
図2に示すように、プリアンプ120a、制御部120bおよびデータ蓄積用メモリ120cを含んでいる。データ処理回路120は、プリアンプ120a、制御部120bおよびデータ蓄積用メモリ120cを1枚の基板に実装して構成されている。データ処理回路120は、ゴルフクラブ10のグリップ10cに内蔵されており、例えばPET(ポリエチレンテレフタラート)により薄膜状に形成されたフレキシブル基板(
図2および
図3では図示略)を介して撓り検出センサ110−k(k=1〜7)に接続されている。フレキシブル基板は軽量であるため、ゴルフクラブ10全体の重量バランスを大きく変化させないといった利点がある。また、フレキシブル基板を螺旋状に巻きつけるようシャフト10bに装着したのは、シャフト10bに沿って真っ直ぐにフレキシブル基板を延在させる態様に比較してスイング時に均等に応力が加わり、応力の偏在による破断を防止することができると期待されるからであるが、フレキシブル基板が十分な強度を有している場合には、シャフト10bに沿って真っ直ぐにフレキシブル基板を延在させても勿論良い。
【0025】
プリアンプ120aは、撓り検出センサ110−k(k=1〜7)の各々に対応するブリッジ回路と差動アンプとを含んでいる(
図2では、何れも図示略)。ブリッジ回路は、接続先の撓り検出センサ110−kの電気抵抗を計測するためのものであり、差動アンプはブリッジ回路により計測された抵抗値に応じた信号を後段の信号処理に適した信号レベルまで増幅して出力するためのものである。
【0026】
制御部120bは、例えばPSoC3などのマイクロコントローラである。制御部120bは、データ処理回路120の制御中枢として機能し、無線通信部130の作動制御、およびデータ蓄積用メモリ120cへのデータの書き込み(或いは読み出し)を行う。
図2に示すように、制御部120bは、マルチプレクサ1202、A/Dコンバータ1204、CPU(Central Processing Unit)1206、IDメモリ1208および通信インタフェース1210を含んでいる。
【0027】
マルチプレクサ1202は、プリアンプ120aによる増幅を経た信号を順次選択してA/Dコンバータ1204に与える。A/Dコンバータ1204は、プリアンプ120aによる増幅を経た信号に、分解能16bit、サンプリング周波数Fs=1kHzのΣΔ変換によるA/D変換を施して出力する。詳細については後述するが、A/Dコンバータ1204の出力データはデータ蓄積用メモリ120cに蓄積される。CPU1206は、各種信号処理を実行するとともに、データ蓄積用メモリ120cへのデータの書き込み、或いはデータ蓄積用メモリ120cからのデータの読み出しの制御を実行する。CPU1206により実行される信号処理の一例としては、A/Dコンバータ1204の出力データをデータ蓄積用メモリ120cに書き込む際に高周波成分などの雑音成分を除去するフィルタ処理が挙げられる。
【0028】
データ蓄積用メモリ120cは、例えばSRAMであり、撓り検出センサ110−k(k=1〜7)の各々の検出結果を示す信号にA/D変換を施して得られるデータを、直近のものから所定時間(本実施形態では、2秒)だけ遡った時点のものまでを格納するリングバッファの役割を果たす。このような役割を果たすため、データ蓄積用メモリ120cは256kbitの記憶容量を有している。撓り検出センサ110−k(k=1〜7)の各々による検出結果を示す信号に分解能16bitおよびサンプリング周波数Fs=1kHzのA/D変換を施して得られるデータの上記所定時間(2秒)分のデータ量は7×16×1000=224kbitとなるからである。
【0029】
制御部120bのIDメモリ1208は、例えばFlashメモリなどの不揮発性メモリである。このIDメモリ1208には、ゴルフクラブ10毎に固有のクラブ識別子が予め記憶されている。このクラブ識別子は、フィッティング支援端末20との無線通信において利用される。具体的には、フィッティング支援端末20は、通信相手のゴルフクラブから送信されてくるクラブ識別子によりその通信相手のゴルフクラブを一意に識別する、といった具合である。通信インタフェース1210は、例えばSPI(Serial Peripheral Interface)またはRS232Cインタフェースである。この通信インタフェース1210には、無線通信部130が接続され、データ処理回路120から出力されるデータは通信インタフェース部1210を介して無線通信部130に与えられる。
以上がデータ処理回路120の構成である。
【0030】
(B:動作)
次いで、フィッティング支援システム1を利用したフィッティングサービスの提供の流れに即して撓り検出装置100およびフィッティング支援端末20の動作を説明する。
【0031】
フィッティング支援システム1を利用したフィッティングサービスの提供は概ね以下の要領で行われる。フィッティング担当者は、サービス利用者からフィッティングサービスの提供を所望されると、当該サービス利用者の性別や年齢、体格、当該利用者から聞き出したゴルフ歴等を参考にそのサービス利用者に適すると推定されるm(2以上、かつN以下の整数:本実施形態ではm=6)本のゴルフクラブ10を選び出す。そして、フィッティング担当者は、選択したm本のゴルフクラブ10の各々のグリップ10cにグリップエンド10dを装着する。
【0032】
グリップ10cにグリップエンド10dが装着されることによって、上記m本のゴルフクラブ10の各々では、電池140からデータ処理回路120への給電が開始され、データ処理回路120の制御部120bは、時分割多重化方式の無線通信のための無線通信リンクをフィッティング支援端末20との間に確立するように無線通信部130の作動制御を行う。そして、データ処理回路120は、無線通信リンクの確立に成功すると、IDメモリ1208から読み出したクラブ識別子をフィッティング支援端末20へ送信し、待機状態となる。待機状態のデータ処理回路120では、撓り検出センサ110−k(k=1〜7)の出力信号にA/D変換を施してデータ蓄積用メモリ120cに蓄積しつつ、打撃の有無を監視する処理が制御部120bによって実行される。
【0033】
データ処理回路120が待機状態となっているm本のゴルフクラブ10のうちの何れか1本をサービス利用者が手に取って試し打ちを行うと、当該ゴルフクラブ10のシャフト10bに装着された撓り検出センサ110−k(k=1〜7)の検出結果を示す信号は
図6に示すように時間変動する。
図6を参照すれば明らかなように、撓り検出センサ110−k(k=1〜7)の出力信号はインパクトを契機として激しく振動する。これに対して他のm−1本のゴルフクラブ10のシャフト10bに装着された撓り検出センサ110−k(k=1〜7)の出力信号には、
図6に示す変化は現われない。このため、上記m本のゴルフクラブ10の各々の制御部120bは、検出センサ110−k(k=1〜7)の検出結果を示す信号に
図6に示す変化が現れたか否かを監視することによって当該クラブによりボールの打撃が行われたのか否かを判定することができる。
【0034】
サービス利用者が試し打ちを行ったゴルフクラブ10に内蔵されているデータ処理回路120の制御部120bは、打撃の検出から所定時間だけ遡った時刻までの時間区間に対応するデータをデータ蓄積用メモリ120cから読み出し、これらデータを上記時分割多重化における全てのタイムスロットを使用してバースト送信するように(
図5(c)参照)、無線通信部130の作動制御を行う。このとき、他のm−1本のゴルフクラブ10においては打撃は検出されていないので、上記のように全てのタイムスロットが占有されたとしても特段の問題は生じない。なお、本実施形態では、打撃の検出を契機として当該打撃に使用されたゴルフクラブ10の制御部120bに、データ蓄積用メモリ120cから読み出したデータを全てのタイムスロットを使用してバースト送信させたが、十分な伝送速度を確保できる場合には、必ずしも全てのタイムスロットを用いる必要はなく、そられらタイムスロットのうちから任意に選択した複数のものを用いるようにしても良い。
【0035】
フィッティング支援端末20は、サービス利用者が試し打ちを行ったゴルフクラブ10の無線通信部130からバースト送信されてくるデータを受信し、当該クラブにおけるシャフト10bの各部(すなわち、撓り検出センサ110−kの取り付け位置)における撓りの時間変化を表すグラフ曲線(例えば、
図6に示すグラフ曲線)を表示部に表示させる。このグラフ曲線を視認したフィッティング担当者は、シャフト10bの各部の撓りの大きさ(すなわち、各信号波形のピーク)が所定の基準値に達しているか否か、或いは、信号波形の時間変化から推定されるスイング速度がインパクトの直前で最も早くなっているか否か等に基づいて、当該試し打ちに使用されたクラブがサービス利用者に適しているか否かを判断することができる。また、フィッティング担当者は、当該判断に基づくアドバイス(例えば、「もう少し長めのシャフトのほうが良いですよ」など)をサービス利用者に与えることができる。なお、上記基準値をフィッティング支援端末20に記憶させておくとともに、当該基準値に基づく判断処理(すなわち、試し打ちに使用されたクラブがサービス利用者に適しているか否かを判断する処理)をフィッティング端末20に実行させ、その判断結果を表示部に表示させたり、その判断結果に応じた音声を放音させたりしても良い。
【0036】
ここで注目すべき点は、フィッティング支援システム1においては、フィッティング担当者により選択されたm本のゴルフクラブ10の各々に内蔵されている無線通信部130とフィッティング支援端末20との間に時分割多重化方式の無線通信を行うための無線通信リンクを並列に確立させ、実際に試し打ちが行われたことを契機として当該試し打ちに使用されたゴルフクラブ10に内蔵されている無線通信部130に、シャフト10bの挙動を示すデータを時分割多重化における全てのタイムスロットを使用してバースト送信させる点である。このようにした理由は以下の通りである。
【0037】
ゴルフクラブ10とフィッティング支援端末20との間のデータ通信を無線化する方策としては、アドレスからフィニッシュに至るまでのデータを蓄積可能なリングバッファをゴルフクラブに設け、打撃音の検出等をトリガとしてフィッティング支援端末との間に無線通信リンクを確立し、そこから所定時間分だけ遡ったデータをリングバッファから読み出して送信することが考えられる。しかし、このような態様では、ボールを打った動作が全く無駄になってしまう場合がある。無線通信においては有線通信とは異なり、常に通信リンクを確立できるとは限らず、無線通信リンクの確立に失敗すれば、リングバッファに蓄積したデータをフィッティング支援端末へ送信することはできないからである。サービス利用者の動作が無駄になることを避けるため、サービス利用者がクラブを持ち換える毎に打撃に先立って予め無線通信リンクの確立しておくことも考えられる。しかし、このような態様では、サービス利用者は、クラブを持ち換えてから通信リンクの確立に成功するまでスイングの開始を待たねばならないといった問題がある。
【0038】
これに対して、本実施形態では、フィッティング担当者の選択したm本のゴルフクラブ10の各々について予めフィッティング支援端末20との間に無線通信リンクを確立しておくので、サービス利用者はクラブを持ち換えてから即座に打撃動作に移ることができ、無駄に待たされることはない。また、フィッティング担当者が選択したm本のクラブの中にフィッティング支援端末20との無線通信リンクを確立できないものがあったとしても、その確立に失敗したことが判明した時点でフィッティング担当者は他のクラブを提案することができ、サービス利用者の動作が無駄になるといった事態の発生を確実に回避することができる。また、本実施形態では、ゴルフクラブ10とフィッティング支援端末20との間の通信は無線化されているため、有線方式を採用した場合のようにサービス利用者のスイング動作が妨げられることはない。
【0039】
このように、本実施形態によれば、サービス利用者の自然なスイング動作を阻害したり、サービス利用者を無駄に待たせたりすることなく、ゴルフクラブのフィッティングサービスを提供するこが可能になる。
【0040】
以上本発明の一実施形態について説明したが、この実施形態を以下のように変形しても勿論良い。
(1)上記実施形態では、1番ウッド(所謂ドライバー)のフィッティングへの適用例を説明したが、他の種類のクラブのフィッティングに適用しても勿論良い。また、フィッティングの対象となる1または複数種のクラブに対応付けて、それらとともに最適なクラブセットを構成すると思われる他のクラブを示す情報を格納したデータベースをフィッティング支援端末からアクセスできるようにし、特定種類のクラブのフィッティングを行うだけで、クラブセット全体のフィッティングを行えるようにしても良い。
【0041】
(2)フィッティングサービスの利用者に関する情報(性別、年齢、ゴルフ暦、および体格を示すデータ)に、当該利用者が打撃に使用したグラブのクラブ識別子およびその際のシャフトの撓りの時間変動を示すデータを対応付けてフィッティング支援端末の記憶部やフィッティング支援端末のアクセス可能な記憶装置に記憶させるなどしてデータベース化しても良い。このようなデータベース化を行っておけば、その後のフィッティングサービスの利用者に対して、その利用者に適すると推定されるクラブを当該利用者の性別、年齢、体格、或いはゴルフ暦に基づいて絞り込んで提案することが可能になる。
【0042】
(3)上記実施形態では、ゴルフクラブ10−nの各々に時分割多重化方式の無線通信を行わせるための無線通信リンクをフィッティング支援端末20との間に確立させ、ボールの打撃の検出を契機として上記時分割多重化方式における複数のタイムスロットを用いてシャフトの撓りの時間変化を示すデータを制御部120bに送信させた。しかし、ゴルフクラブ10−nの各々に周波数多重化方式の通信を行わせるための無線通信リンクを確立させ、ボールの打撃の検出を契機として上記時周波数多重化方式における複数の周波数を用いてシャフトの撓りの時間変化を示すデータを送信させても良い。
【0043】
(4)上記実施形態では、無線通信部130と電池140とがグリップエンド10dに内蔵されていたが、電池140のみをグリップエンド10dに内蔵させ、無線通信部130については、データ処理回路120と同一の基板に実装するなど、グリップ10cに内蔵させておいても良い。このような態様においても、電池140が充電式である場合に、グリップエンド10eのみを充電器に接続して充電することが可能になるからである。また、上記実施形態では、ゴルフクラブ10の動的挙動を計測するためのセンサとして歪みゲージを用いたが加速度センサを用いても勿論良い。
【0044】
(5)上記実施形態では、シャフト10bの撓りを検出するために複数のセンサをシャフト10bに取り付けたが、当該センサは1つであっても構わない。例えば、X5のセンサが1つだけであっても、シャフト10bの撓りを検出することができる。