(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6102135
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】ガスバリア性積層フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 9/00 20060101AFI20170316BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B32B27/40
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-206249(P2012-206249)
(22)【出願日】2012年9月19日
(65)【公開番号】特開2014-61596(P2014-61596A)
(43)【公開日】2014年4月10日
【審査請求日】2015年8月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼島 菜穂
【審査官】
安藤 達也
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−014440(JP,A)
【文献】
特開2004−082598(JP,A)
【文献】
特開2003−071968(JP,A)
【文献】
特開2007−253588(JP,A)
【文献】
特開2005−212229(JP,A)
【文献】
特開2011−062977(JP,A)
【文献】
特開2006−068967(JP,A)
【文献】
特開平11−042746(JP,A)
【文献】
特開平09−208658(JP,A)
【文献】
特開平02−131940(JP,A)
【文献】
特開2005−271467(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0224392(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0003482(US,A1)
【文献】
特開2013−123893(JP,A)
【文献】
特開2013−000931(JP,A)
【文献】
特開2004−181793(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00〜B32B43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、この基材層の少なくとも一方の面に第一のガスバリア層、有機層、第二のガスバリア層を順次設けてなるガスバリア性積層フィルムにおいて、
前記第一および第二のガスバリア層を、厚みが10nm以上1000nm以下でSiOxで表される酸化珪素からなる金属酸化物で形成し、
前記有機層が、少なくともポリオール類とイソシアネート化合物を混合し、ポリオール類のヒドロキシル価を70〜200KOHmg/gの間とし、イソシアネート化合物由来のイソシアネート基とポリオール類由来のヒドロキシル基を当量となるように配合比を調整するとともに、前記有機層の厚みを10nm以上500nm以下として、前記有機層の引張弾性率を0.5GPa以上5GPa以下で、前記有機層のガラス転移点(Tg)を50℃以上120℃以下に設定したことを特徴とするガスバリア性積層フィルム。
【請求項2】
前記有機層において、ポリオール類がアクリルポリオールとされ、イソシアネート化合物がヘキサメチレンジイソシアネートとされることを特徴とする請求項1に記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項3】
基材層と、この基材層の少なくとも一方の面に第一のガスバリア層、第一の有機層、第二のガスバリア層、第二の有機層、第三のガスバリア層を順次設けてなるガスバリア性積層フィルムにおいて、
前記第一乃至第三のガスバリア層を、厚みが10nm以上1000nm以下でSiOxで表される酸化珪素からなる金属酸化物で形成し、
前記第一および第二の有機層が、少なくともポリオール類とイソシアネート化合物を混合し、ポリオール類のヒドロキシル価を70〜200KOHmg/gの間とし、イソシアネート化合物由来のイソシアネート基とポリオール類由来のヒドロキシル基を当量となるように配合比を調整するとともに、前記第一および第二の有機層の厚みを10nm以上500nm以下として、前記第一および第二の有機層の引張弾性率を0.5GPa以上5GPa以下で、前記第一および第二の有機層のガラス転移点(Tg)を50℃以上120℃以下に設定したことを特徴とするガスバリア性積層フィルム。
【請求項4】
前記第一および第二の有機層において、ポリオール類がアクリルポリオールとされ、イソシアネート化合物がヘキサメチレンジイソシアネートとされることを特徴とする請求項3に記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項5】
400nm〜1000nmにおける分光透過率が85%以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば食品、日用品、医薬品などの包装分野、および電子機器関連部材などの分野において、特に高いガスバリア性が必要とされる場合に、好適に用いられる透明なガスバリア性積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
食品、日用品、医薬品などの包装に用いられる包装材料や電子機器関連部材などに用いられる包装材料は、収容物の変質を抑制して、その機能や性質を包装中においても保持できるようにするため、包装材料を透過する酸素、水蒸気など、収容物を変質させる気体による影響を防止する必要があり、これらの気体を遮断するガスバリア性を備えていることが求められている。
【0003】
通常のガスバリア性を有する包装材料としては、比較的ガスバリア性に優れている塩化ビニリデン樹脂フィルムまたは塩化ビニリデン樹脂をコーティングしたフィルムなどがよく用いられてきたが、これらの包装材料は、高度なガスバリア性が要求される包装に用いることはできない。従って、高度なガスバリア性が要求される場合には、アルミニウムなどの金属箔をガスバリア層として積層した包装材料を用いざるを得なかった。
【0004】
アルミニウムなどの金属箔を積層した包装材料は、温度や湿度の影響が殆どなく、高度なガスバリア性を有している。しかし、こうした包装材料では、それを透視して収容物を確認することができない、使用後に不燃物として廃棄処理しなければならない、収容物の検査に金属探知器が使用できない、などの多くの欠点を有していた。
【0005】
これらの問題を克服した包装材料として、特許文献1には、透明なプラスチックフィルムからなる基材層に、透明な酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムなどの無機酸化物の蒸着薄膜層をガスバリア層とし、その上に適宜のガスバリア性被膜層とを積層してなる積層フィルムが提案されている。
【0006】
近年、地球温暖化問題に対する関心が高まるなか、太陽電池市場が急速に拡大している。太陽電池の構造としては、太陽電池素子単体をそのままの状態で使用することはなく、一般的に数枚から数十枚の素子を直列、並列に配線し、素子を長期間保護するためにパッケージが行なわれ、ユニット化されている。このパッケージに組み込まれたユニットを太陽電池モジュールと呼び、一般的に太陽光が当たる面をガラスで覆い、熱可塑性プラスチックからなる充填材で隙間を埋め、裏面を耐熱、耐候性プラスチック材料などからなるシートで保護された構成になっている。
【0007】
また、この太陽電池モジュールをフレキシブル化させるべく開発も行なわれており、これを達成するためには太陽光が当たる表面のガラス基板もプラスチック材料などからなるシートに置き換える必要がある。太陽電池モジュールは屋外で利用されるため、太陽電池表面保護シートには透明性の他、十分な耐久性や耐候性が要求される。表面保護シートの耐久性を評価する手法として、加速試験が挙げられる。加速試験とは、太陽電池モジュールが屋外で高温・高湿度に長期間曝されたときの、表面保護シートの性質の変化を短時間で評価するための手法で、プレッシャークッカー試験(PCT)などが知られている。
【0008】
また近年、次世代のFPDとして期待される電子ペーパー、有機ELなどの開発が進むなかで、これらFPDのフレキシブル化を達成するため、ガラス基板をプラスチックフィルムに置き換えたいという要求が高まっている。
【0009】
ガラス基板は、環境由来の酸素や水蒸気による内部素子の劣化を抑制するため必要とされるガスバリア性が備わっている。しかし、上述した包装材料用のガスバリアフィルムは、そのバリアレベルには達しておらず、プラスチックフィルムが適用され得る電子ペーパー、有機ELなどでは、食品包材用バリアフィルムの100倍から1万倍のガスバリア性が必要とも言われている。
【0010】
このような高いガスバリア性を有するプラスチックフィルムを実現するために、電子ビーム蒸着や誘導加熱蒸着を用いた反応性蒸着法、スパッタリング法、プラズマ化学蒸着(CVD)法などのドライコーティング法により成膜された無機酸化物薄膜は、高いガスバリア性の発現が期待できるものとして検討されている。
【0011】
しかしながら、上記ドライコーティング法を用いたとしても、高いガスバリア性を目指すために緻密な膜を得ようとすると、高温プロセスが必要であったり、緻密であるために膜中の応力が大きくなる傾向がある。そのため、プラスチックフィルムの使用可能な温度範囲では緻密な膜を得ることが困難であったり、プラスチックフィルムと無機酸化物薄膜との熱膨張係数の差が大きいため密着不良やクラックが発生したりする問題が生じ、高いガスバリア性の発現は容易ではない。
【0012】
その中で、有機シラン化合物を用いたプラズマCVD法による酸化珪素薄膜は、高いガスバリア性を発現するバリア層として検討されており、食品包装分野では実用化されている。特許文献2には、炭素濃度および、酸化珪素薄膜の組成を制御することで、密着性と透明性が改善するとの報告があるが、水蒸気バリア性は若干劣ると記載されており、高いガスバリア性を必要とする電子ペーパーやLCD、有機ELなどのFPD向けとしては、ガスバリア性が不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平7−164591号公報
【特許文献2】特開平11−322981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1に記載された積層フィルムは、印刷、ラミネート、製袋などの、包装材料としての通常の加工を施したときに、水蒸気透過度などのガスバリア性が劣化してしまうという問題を有していた。
【0015】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、包装材料としての通常の加工を施してもガスバリア性が劣化することなく、高いガスバリア性が必要とされる使用に好適する透明なガスバリア性積層フィルムを提供することを目的とする。
【0016】
特に、上述した太陽電池モジュールの表面保護シート、電子ペーパーやLCD、有機ELなどのFPD向けとして、耐久性およびガスバリア性が不十分である問題を解決するものであり、水蒸気バリア性および耐久性に優れた、透明なガスバリア性積層フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のガスバリア性積層フィルムは、基材層と、この基材層の少なくとも一方の面に第一のガスバリア層、有機層、第二のガスバリア層を順次設けてなるガスバリア性積層フィルムにおいて、
前記第一および第二のガスバリア層を、厚みが10nm以上1000nm以下でSiOxで表される酸化珪素からなる金属酸化物で形成し、
前記有機層が、少なくともポリオール類とイソシアネート化合物を混合し、ポリオール類のヒドロキシル価を70〜200KOHmg/gの間とし、イソシアネート化合物由来のイソシアネート基とポリオール類由来のヒドロキシル基を当量となるように配合比を調整するとともに、前記有機層の厚みを10nm以上500nm以下として、前記有機層の引張弾性率を0.5GPa以上5GPa以下で、前記有機層のガラス転移点(Tg)を50℃以上120℃以下に設定した。
前記有機層において、ポリオール類がアクリルポリオールとされ、イソシアネート化合物がヘキサメチレンジイソシアネートとされることができる。
本発明のガスバリア性積層フィルムは、基材層と、この基材層の少なくとも一方の面に第一のガスバリア層、第一の有機層、第二のガスバリア層、第二の有機層、第三のガスバリア層を順次設けてなるガスバリア性積層フィルムにおいて、
前記第一乃至第三のガスバリア層を、厚みが10nm以上1000nm以下でSiOxで表される酸化珪素からなる金属酸化物で形成し、
前記第一および第二の有機層が、少なくともポリオール類とイソシアネート化合物を混合し、ポリオール類のヒドロキシル価を70〜200KOHmg/gの間とし、イソシアネート化合物由来のイソシアネート基とポリオール類由来のヒドロキシル基を当量となるように配合比を調整するとともに、前記第一および第二の有機層の厚みを10nm以上500nm以下として、前記第一および第二の有機層の引張弾性率を0.5GPa以上5GPa以下で、前記第一および第二の有機層のガラス転移点(Tg)を50℃以上120℃以下に設定した。
前記第一および第二の有機層において、ポリオール類がアクリルポリオールとされ、イソシアネート化合物がヘキサメチレンジイソシアネートとされることができる。
本発明は、基材層と、この基材層の少なくとも一方の面に第一のガスバリア層、有機層、第二のガスバリア層を順次設けてなるガスバリア性積層フィルムにおいて、前記第一および第二のガスバリア層を金属酸化物で形成し、前記有機層の引張弾性率を0.5GPa以上5GPa以下で、前記有機層のガラス転移点(Tg)を50℃以上120℃以下に設定したこと
ができる。
【0018】
本発明は、
上記のガスバリア性積層フィルムにおいて、前記有機層が少なくともポリオール類とイソシアネート化合物を含み、厚みが10nm以上500nm以下であること
ができる。
【0019】
本発明は、
上記のガスバリア性積層フィルムにおいて、前記第一および第二のガスバリア層が、SiO
xで表される酸化珪素からなり、厚みが10nm以上1000nm以下であること
ができる。
【0020】
本発明は、基材層と、この基材層の少なくとも一方の面に第一のガスバリア層、第一の有機層、第二のガスバリア層、第二の有機層、第三のガスバリア層を順次設けてなるガスバリア性積層フィルムにおいて、前記第一乃至第三のガスバリア層を金属酸化物で形成し、前記第一および第二の有機層の引張弾性率を0.5GPa以上5GPa以下で、前記第一および第二の有機層のガラス転移点(Tg)を50℃以上120℃以下に設定したこと
ができる。
【0021】
本発明は、
上記のガスバリア性積層フィルムにおいて、前記第一、第二および第三のガスバリア層が、SiO
xで表される酸化珪素からなり、厚みが10nm以上1000nm以下であること
ができる。
【0022】
本発明は、
上記のガスバリア性積層フィルムにおいて、前記第一、第二および第三のガスバリア層が、SiO
xで表される酸化珪素からなり、厚みが10nm以上1000nm以下であることを特徴とする。
【0023】
本発明は、
上記のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルムにおいて、400nm〜1000nmにおける分光透過率が85%以上であること
ができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、食品、日用品、医薬品などの包装分野や、電子機器関連部材などの分野において、包装材料としての通常の加工を施してもガスバリア性が劣化せず、また包装材料を透視して収容物を確認することができ、また、太陽電池やFPD向けとして特に高いガスバリア性が必要とされる場合に好適に用いることができる透明なガスバリア性積層フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るガスバリア性積層フィルムの要部を断面して示した断面図である。
【
図2】本発明の他の実施の形態に係るガスバリア性積層フィルムの要部を断面して示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0027】
図1は、本発明の一実施の形態に係るガスバリア性積層フィルムの要部を示すもので、基材層1上には、第一のガスバリア層2と、有機層3と、第二のガスバリア層4が順次積層されている。この基材層1は、透明なプラスチックフィルムからなっている。透明なプラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステルフィルム、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンフィルム、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリスチレンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリルニトリルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリ乳酸などの生分解性プラスチックフィルム、などが用いられる。
【0028】
この基材層1は、延伸、未延伸のどちらでもよいが、機械的強度や寸法安定性などが優れたものが好ましい。特に、耐熱性や寸法安定性などの面から、包装材料には二軸方向に延伸したポリエチレンテレフタレートが好ましく用いられており、さらに高度な耐熱性や寸法安定性が求められるLCDや有機ELなどのFPD向けにはポリエチレンナフタレートやポリエーテルスルフォン、ポリカーボネートなどが好ましく用いられている。また、基材層1は、帯電防止剤、紫外線防止剤、可塑剤、滑剤等などの添加剤を含有してもよい。さらに、透明なプラスチックフィルムにおいて、他の層を積層する側の表面には、密着性をよくするために、コロナ処理、低温プラズマ処理、イオンボンバード処理、薬品処理、溶剤処理などを施してもよい。
【0029】
この基材層1の厚さは、特に制限を受けるものではないが、包装材料としての適性や他の層を積層する場合の加工適性などを考慮すると、実用的には3μm以上200μm以下の範囲、特に6μm以上30μm以下の範囲であることが好ましく、太陽電池、電子ペーパーや有機ELなどのFPD向けとしては、加工適正などを考慮すると、実用的には25μm以上200μm以下の範囲であることが好ましい。
【0030】
上記有機層3は第一のガスバリア層2と第二のガスバリア層4の間に形成されるものであり、第一のガスバリア層2の表面を平滑化することにより、この有機層3上に形成する第二のガスバリア層4が優れたガスバリア性を発現するものである。
【0031】
プラスチックフィルム上に、ガスバリア層と有機層を複数積層した場合、積層加工中の熱や応力により、有機層やガスバリア層にクラックが生じ、ガスバリア性やガスバリアフィルムの透明性が低下するという問題が生じる恐れがある。引張弾性率が0.5GPaより小さい有機層上にガスバリア層を形成した場合、積層加工中の応力によって有機層が変形し平滑性が失われ、均一なガスバリア層形成ができないため、優れたガスバリア性が発現しない。また引張弾性率が5GPaより大きい有機層上にガスバリア層を形成した場合、積層加工中の応力によりクラックが発生しやすく、ガスバリア層との密着が悪くなるためにガスバリア性が低下する。第一のガスバリア層2の表面を平滑化し、第二のガスバリア層4を加工する際の応力によるクラックを抑制する効果を最大限に得るために、有機層3の引張弾性率は1GPa以上3GPa以下に調整することがより好ましい。
【0032】
有機層3の引張弾性率を上述の範囲に調整するため、フィラーなどの添加物を用いたり、後述するポリオール類とイソシアネート化合物の配合比を調整してもよい。
【0033】
ガスバリア層との間に形成される有機層が複数ある場合、それらの有機層の引張弾性率は同程度でもよく、いずれかの引張弾性率が大きくても小さくても構わない。
【0034】
上述の引張弾性率は、例えば引張り試験によりプラスチック基材および有機層が形成されたプラスチック基材の荷重−ひずみを測定し、プラスチック基材の影響を取り除くことで求めることができる。
【0035】
ガラス転移点(Tg)が50℃より小さい有機層上にガスバリア層を形成した場合、積層加工中の熱や応力により有機層が変形し平滑性が失われ、均一なガスバリア層が形成できないため、優れたガスバリア性が発現しない。また、ガラス転移点(Tg)が120℃より大きい有機層上にガスバリア層を形成した場合、積層加工中の熱や応力によりクラックが発生しやすく、ガスバリア層との密着が悪くなるためにガスバリア性が低下する。
【0036】
有機層3のガラス転移点(Tg)を50℃以上120℃以下の範囲に調整するため、フィラーなどの添加物を用いたり、後述するポリオール類とイソシアネート化合物の配合比を調整する、あるいは水酸基価が大きいポリオール類を用いてもよい。
【0037】
第一のガスバリア層2の表面を平滑化し、第二のガスバリア層4を加工する際の熱や応力によるクラックを抑制する効果を最大限に得るために、有機層3のガラス転移点(Tg)は60℃以上100℃以下であることがより好ましい。
【0038】
ガスバリア層との間に形成される有機層が複数ある場合、それらの有機層の引張弾性率は同程度でもよく、いずれかの引張弾性率が大きくても小さくても構わない。
【0039】
上述のガラス転移点(Tg)は、例えば示差走査熱量測定装置(DSC)や熱機械分析装置(TMA)を用いて測定することができる。
【0040】
有機層3の膜厚は、10nm以上500nm以下であることが好ましい。膜厚が10nm未満であると均一な膜形成が困難であり、ガスバリア性や密着性が低下する恐れがある。また、500nmを超えるとガスバリア性積層体の光学特性を制御することが困難となる。
【0041】
第一のガスバリア層2の表面を平滑化し、第二のガスバリア層4を積層する際の熱や応力によるクラック発生を抑制するために、有機層3の膜厚は、50nm以上200nm以下であることがより好ましい。有機層3は、少なくともポリオール類とイソシアネート化合物を含む。
【0042】
ポリオール類とは、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリビニルアセタールなど高分子化合物の末端にヒドロキシル基を持つものであり、後述するイソシアネート化合物のイソシアネート基と反応しウレタン結合が生成するものである。イソシアネート化合物との反応を考慮すると、ポリオール類のヒドロキシル価は5〜200KOHmg/gの間であることが好ましく、上述したように有機層のガラス転移点(Tg)を制御するためには70〜200KOHmg/gの間であることがより好ましい。
【0043】
イソシアネート化合物とは、前記ポリオール類と反応してできるウレタン結合により、第一のガスバリア層2および第二のガスバリア層4との密着性を高めるために添加されるものである。一般にTDI(トリレンジイソシアネート)系、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)系、XDI(キシリレンジイソシアネート)系、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)系などやそれらのアダクト体、ヌレート体を用いることができ、さらに末端イソシアネート基のウレタンポリマーのようなものでもよい。イソシアネート化合物は、イソシアネート化合物由来のイソシアネート基とポリオール類由来のヒドロキシル基が当量となるように添加することが好ましく、添加方法は周知の方法が使用可能で特に限定されるものではない。
【0044】
上記有機層3は、ポリオール類とイソシアネート化合物を任意の配合比で混合した混合液を調製し、混合液を後述する第一のガスバリア層2にコーティングして形成する。混合液は溶媒を加え、任意の濃度に希釈してもよい。
【0045】
有機層3は、周知のコーティング方法、例えばディッピング法、ロールコート法、グラビアコート法、エアナイフコート法、コンマコート法などを用いてガスバリア層2の表面にコーティングし、その後溶媒などを除去し、コーティング膜を乾燥・硬化させることで得ることができる。
【0046】
また、第一のガスバリア層2および第二のガスバリア層4は、SiOxで表される酸化珪素からなっており、厚みは10nm以上1000nm以下である。膜厚が10nm未満であるとガスバリア材としての機能を十分に果たすことができず、また100nmを超えるとガスバリア層にクラックが生じやすくなる他、ガスバリア性積層体の光学特性を制御することが困難となる。
【0047】
第一のガスバリア層2および第二のガスバリア層4の形成方法は、特に限定されるものではないが、基材層1の表面に、酸化珪素からなるガスバリア層を真空中において成膜して、高いガスバリア性を発現させるためには、現時点ではプラズマ化学蒸着(CVD)法が好ましく、上記プラスチックフィルムからなる基材層1の片面もしくは両面に成膜することができる。また、プラスチック基材の特徴を活かした巻取(Roll to Roll)方式による連続蒸着を行うことができ、巻取式の真空蒸着成膜装置を用いることが好ましい。そして、プラズマ発生装置としては、直流(DC)プラズマ、低周波プラズマ、高周波プラズマ、パルス波プラズマ、3極構造プラズマ、マイクロ波プラズマなどの低温プラズマ発生装置が用いられる。
【0048】
プラズマCVD法により積層される酸化珪素からなるガスバリア層は、分子内に炭素を有するシラン化合物と酸素ガスを原料として成膜することができ、この原料に不活性ガスを加えて成膜することもできる。分子内に炭素を有するシラン化合物としては、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラメチルシラン(TMS)、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、テトラメチルジシロキサン、メチルトリメトキシシランなどの比較的低分子量のシラン化合物を選択し、これらシラン化合物の1つまたは、複数を選択しても良い。
【0049】
プラズマCVD法による成膜では、上記シラン化合物を気化させ酸素ガスと混合したものを電極間に導入し、低温プラズマ発生装置にて電力を印加してプラズマ化し、基材1上に積層することができる。また、プラズマCVD法では、酸化珪素からなるガスバリア層の膜質を様々な方法で変えることが可能であり、ガスバリア層の酸素成分や炭素成分の組成比を増減させることが比較的容易にでき、例えば、シラン化合物やガス種の変更、シラン化合物と酸素ガスの混合比や、印加電力の増減などがその有効な手法となる。
【0050】
ここで、本発明のガスバリア性積層フィルムを太陽電池モジュールの表面保護シートやFPD向けに用いる場合、高い光透過性が求められるため、400nm〜1000nmにおける分光透過率は、85%以上であることが好ましく、また90%以上であることがより好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の実施の形態に係るガスバリア性積層フィルムとして実施例1,2を作製すると共に、比較例1,2を作製して比較検討する。
【0052】
〈実施例1〉
図1に示すように基材層1として、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用意した。フィルムの片面に、プラズマCVD法を用い、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)/酸素=10/100sccmの混合ガスを電極間に導入し、電力を0.5kW印加してプラズマ化し、SiOx(x=1.8)で表される厚さ60nmの第一のガスバリア層2を積層した。続いてアクリルポリオール(140KOHmg/g)とヘキサメチレンジイソシアネートを1当量になるように混合した液をグラビアコート法によりコーティングし、乾燥・硬化させ厚さ100nmの有機層3を形成した。このとき、有機層3の引張弾性率は1.5GPa、ガラス転移点(Tg)は70℃であった。次に、第一のガスバリア層2と同様にして、有機層3上に第二のガスバリア層4を形成した。こうして、
図1に示す実施例1のガスバリア性積層フィルムを作製した。
【0053】
〈実施例2〉
図2に示すように基材層1として、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用意した。フィルムの片面に、プラズマCVD法を用い、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)/酸素=10/100sccmの混合ガスを電極間に導入し、電力を0.5kW印加してプラズマ化し、SiOx(x=1.8)で表される厚さ60nmの第一のガスバリア層2を積層した。続いてアクリルポリオール(140KOHmg/g)とヘキサメチレンジイソシアネートを1当量になるように混合した液をグラビアコート法によりコーティングし、乾燥・硬化させ厚さ100nmの第一の有機層31を形成した。このとき、第一の有機層31の引張弾性率は1.5GPa、ガラス転移点(Tg)は70℃であった。次に、第一のガスバリア層2と同様にして、第一の有機層31上に第二のガスバリア層4を形成した。第二のガスバリア層4上に、第一の有機層3と同様にして第二の有機層5を積層した。最後に、第二の有機層5上に第一のガスバリア層2と同様にして第三のガスバリア層6を形成した。こうして、
図2に示す実施例2のガスバリア性積層フィルムを作製した。
【0054】
〈比較例1〉
実施例1のガスバリア性積層フィルムにおいて、第一のガスバリア層2上にアクリルポリオール(200KOHmg/g)に対してヘキサメチレンジイソシアネートが2当量になるように混合した液をグラビアコート法によりコーティングし、乾燥・硬化させ厚さ100nmの有機層3を形成した。このとき、有機層3の引張弾性率は7GPa、ガラス転移点(Tg)は140℃であった。上記以外は実施例1と同様にして、比較例1のガスバリア性積層フィルムを作製した。
【0055】
〈比較例2〉
実施例1のガスバリア性積層フィルムにおいて、第一のガスバリア層2上にアクリルポリオール(80KOHmg/g)に対してヘキサメチレンジイソシアネートが0.5当量になるように混合した液をグラビアコート法によりコーティングし、乾燥・硬化させ厚さ100nmの有機層3を形成した。このとき、有機層3の引張弾性率は0.2GPa、ガラス転移点(Tg)は40℃であった。
【0056】
<比較評価>
実施例1、2および比較例1、2のガスバリア性積層フィルムについて、モダンコントロール社製の水蒸気透過率計(MOCON AQUATRAN)により、40℃−90%RH雰囲気下での水蒸気透過率(g/m
2/24h)を測定した。この測定結果を表1に示す。
【表1】
【0057】
表1からわかるように、実施例1および2のガスバリア性積層フィルムは、低い水蒸気透過率であった。一方、比較例1および2は、実施例1に比べて水蒸気透過率が高くなっている。比較例1のガスバリア性積層フィルムは、第二のガスバリア層4を積層したあとに、有機層3にクラックが入っていることが目視で確認できた。ガスバリア層4加工中の熱や応力により有機層3にクラックが入り、ガスバリア性が発現できなかったのだと考えられる。
【0058】
また、比較例2のガスバリア性積層フィルムは、第二のガスバリア層4を積層したあとに、有機層3が白濁していることが目視で確認できた。ガスバリア層4加工中の熱により、有機層3が変形または変質し、ガスバリア性が発現できなかったのだと考えられる。
【0059】
なお、本発明は、上記実施の形態に限ることなく、その他、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々の変形を実施し得ることが可能である。さらに、上記実施形態には、種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組合せにより種々の発明が抽出され得る。
【0060】
例えば実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、食品、日用品、医薬品などの包装分野や、電子機器関連部材などの分野において、包装材料としての通常の加工を施してもガスバリア性が劣化せず、また包装材料を透視して収容物を確認することができ、また、太陽電池やFPD向けとして特に高いガスバリア性が必要とされる場合に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0062】
1…基材層
2…第一のガスバリア層
3…有機層
31…第一の有機層
4…第二のガスバリア層
5…第二の有機層
6…第三のガスバリア層