(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6102165
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】着色の少ない核水素化ポリマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 8/04 20060101AFI20170316BHJP
C08F 12/08 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
C08F8/04
C08F12/08
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-224917(P2012-224917)
(22)【出願日】2012年10月10日
(65)【公開番号】特開2014-77043(P2014-77043A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2015年8月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英之
(72)【発明者】
【氏名】菅野 裕一
(72)【発明者】
【氏名】櫛田 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】山内 達也
(72)【発明者】
【氏名】石川 真介
【審査官】
松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−108809(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/020096(WO,A1)
【文献】
特開2007−254733(JP,A)
【文献】
特開平09−143224(JP,A)
【文献】
特開2009−051902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 8/00 − 8/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル化合物と(メタ)アクリレートとの共重合体である芳香族ポリマーの芳香環部を、水素添加触媒及び反応溶媒の存在下で水素添加し、該水素添加反応後のポリマー溶液から水素添加触媒及び揮発成分を分離して核水素化ポリマーを製造する方法であって、水素添加反応前のポリマー溶液中の水分濃度が0.5重量%以下であり、水素添加反応後のポリマー溶液から水素添加触媒を水素雰囲気下のまま分離し、さらに揮発成分を分離することを特徴とする核水素化ポリマーの製造方法。
【請求項2】
以下の(1)〜(3)から選ばれる少なくとも1つの方法により水素添加反応前のポリマー溶液中の水分濃度を0.5重量%以下とする請求項1に記載の製造方法。
(1)原料芳香族ポリマーを使用前に乾燥する
(2)蒸留法、又は乾燥剤を用いた化学的方法によって反応溶媒を乾燥する
(3)蒸留法、又は乾燥剤を用いた化学的方法によって水素添加反応前のポリマー溶液を乾燥する
【請求項3】
反応溶媒がエステル化合物、エーテル化合物又はそれらの混合物である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
反応溶媒が酢酸エステル、プロピオン酸エステル、n−酪酸エステル、イソ酪酸エステル、n−吉草酸エステル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル及びジエチレングリコールジメチルエーテルから選ばれる1種以上である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
反応溶媒がイソ酪酸メチル又はテトラヒドロフランである請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項6】
原料芳香族ポリマーの構成単位において芳香族ビニル化合物モノマーの構成単位(Bモル)に対する(メタ)アクリレートモノマー由来の構成単位(Aモル)のモル比(A/B)が0.25〜4.0である請求項1〜5いずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
水素添加触媒がパラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム又はニッケルを担持した固体触媒である請求項1〜6いずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記担体が活性炭、酸化ジルコニウム、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ又は珪藻土である請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
ポリマー溶液を窒素雰囲気下でベント口を供えた脱揮押出機に導入してペレットを得る請求項1〜8いずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族水素化ポリマーを製造する方法に関するものである。さらに詳しくは、芳香族ポリマーの芳香環部を、水素添加触媒及び反応溶媒の存在下で水素添加して核水素化ポリマーを製造する際、着色が少なく光学材料に好適なポリマーを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、環状ポリオレフィン樹脂をはじめとする非晶性プラスチックは様々な用途で用いられており、特にその光学的特徴を生かして、光学レンズ、光ディスク基盤等の光学材料としての需要が多い。この種の光学材料においては高い透明性のみならず、高耐熱性、低吸水性、機械物性等のバランスに優れた高度な性能が要求されている。
【0003】
従来用いられてきた材料ではこれらの要件を全て備えているわけではなく、解決すべき問題点をそれぞれ有している。例えば、ポリスチレンは力学的に脆い、複屈折が大きい、透明性が劣るという欠点がある。ポリカーボネートは耐熱性に優れるが、これも複屈折が大きく、透明性もポリスチレンとほぼ同等である。ポリメタクリル酸メチルは、透明性は高いが吸水率が高いため寸法安定性に乏しく、また耐熱性も低いことが問題である。ポリスチレンを核水素化したポリビニルシクロヘキサンは透明性に優れるが、機械強度が弱い、耐熱性に乏しい、他材料との接着性も悪いという問題がある(例えば特許文献1〜3参照)。密着性を改良させる方法として、ポリスチレンの核水素化物と、共役ジエンーポリスチレンの二重結合及び芳香環の水素化物、飽和炭化水素樹脂を混合する例(特許文献4)があるが操作が煩雑である。また、スチレンのようなビニル芳香族化合物と無水マレイン酸のような不飽和2塩基酸を共重合したのち、芳香環の30%以上を核水素化した場合、ポリスチレンに比べ透明性及び複屈折が改良される例が開示されているが(特許文献5)、依然としてアクリル系の樹脂に比べて光学特性が劣る。
【0004】
これらの樹脂の中で、メタクリル酸メチル(以下、MMAと称する)とスチレンとの共重合体(以下、MS樹脂と称する)は高透明性を有し、かつ寸法安定性、剛性、比重等のバランスに優れた樹脂であるが、複屈折が大きいという問題がある。ところが、該MS樹脂を核水素化すると、原料MS樹脂と比べて複屈折が改善され、透明性、耐熱性、機械物性のバランスに優れた樹脂(以下MSHと呼称する)となる。特に、分子内にMMA由来の部位を50%以上持つMS樹脂を核水素化させると、複屈折の改善が顕著になる(特許文献6)。
【0005】
含芳香環ポリマーの芳香環部を水素化触媒存在下、水素化する方法は既に知られている(例えば、特許文献7〜11など)。芳香環ポリマーのみならず、共役ジエン重合体などポリマーの水素化に関する例(特許文献12参照)も多く知られており、水素化触媒としてはPd、Pt、Rh、Ru、Re、Niなどの金属を活性炭やアルミナ、シリカ、珪藻土などの担体に担持したものが主に用いられる。
【0006】
含芳香環ポリマーの核水素化反応は高分子反応であるため、溶媒の寄与も大きい。これまで一般的に炭化水素、アルコール、エーテル、エステルなど多くの反応溶媒が用いられている。しかし、炭化水素やアルコールは樹脂の溶解性が低い、1,4−ジオキサンなどのエーテル類は発火点が低いため高温の脱揮押出操作を施す際には他の溶媒に置換しなくてはならない、テトラヒドロフランは開環反応を起こしやすく不安定である、といった問題がある。エステル類は比較的安定であり、速やかに反応が進行するが、水素化率によっては反応溶液が白濁化し、得られた水素化ポリマーの透明性が低下する場合がある。そこでエステルを反応溶媒としてアルコールを添加することにより、安定的かつ速やかに透明度の高い核水素化ポリマーを得る方法が開示されている(特許文献13)。しかし、2種類の溶媒を併用することになり、溶媒の分離及び精製操作が煩雑になる。また、エーテル溶媒にアルコールや水を添加することによって低水素化率でも高透明性を達成する方法が開示されているが(特許文献14)、適用できる芳香族ポリマーが限られており、実用性には乏しい。
【0007】
ポリマーの水素化を行う際、溶媒中の水分量を記載している例もある。例えば特許文献15ではポリヒドロキシ不飽和炭化水素系重合体を原料に水素添加反応を行う場合には、反応液中の水分濃度を2重量%以下に保つことで水添触媒の活性を維持できるとあるが、芳香環の水素化と非芳香環炭化水素の水素化は、モノマー/ポリマーどちらにおいても反応性に大きな違いがあることが知られている。また芳香族ポリマーを原料とした場合に溶媒中の水分を記載した例があるが、溶媒種が炭化水素系もしくは脂環式飽和エーテル系の場合についてのみ記載されており、加えて通常ポリマーは飽和吸水量の水分を含有しているが、実際の水素添加反応前のポリマー溶液中の水分量については特に記述はない(特許文献16)。芳香族ポリマーの重合反応から水素添加反応までを一貫して行う際に、単量体中の水分量を低減する効果について述べている例もあるが(特許文献17)、水分量を低減することによる主な効果としては核水素化反応の反応性向上についてのみ言及している。さらにどの例においても、水素添加反応後操作のガス雰囲気についての記述は無く、そのガス雰囲気が生成する核水素化ポリマーの物性に与える影響にまで注目している例はない。
【0008】
以上のように、核水素化された芳香族ポリマーに関して、水素添加反応条件に対して成分モノマーの配合比や分子量分布に関しては説明があるものの、その工業的な製造方法について詳細な記述を上げている例は少ない。
【0009】
芳香族の核水素化を含む工業的なポリマー製造の際には、重合反応器や水添反応器、押出機や成型機中で高温に長時間曝されることによって、樹脂の品質低下や着色といったトラブルがしばしば起こる。その対策として、反応後に酸化防止剤や着色防止剤といった薬剤を混錬する方法が一般的に行われているが、必ずしも完全に防止できるわけではない。よって反応工程での着色を軽減することは、高透明性を有する光学材料向けポリマーを工業的に生産するうえで、重要な意義がある。
【0010】
ポリマーが着色する原因の一つには、反応器や押出機、成型機内の腐食による金属成分の溶出が考えられる。特にポリマー溶液中に微量の酸成分が含まれている場合には、その金属溶出による着色が起こりやすい。接液部に耐腐食性の高い材質を用いることでその金属溶出による着色は低減できるが、耐食性を必要とする時に一般的に用いられるオーステナイト系ステンレス鋼や、それ以上の耐腐食性を有する材質は高価である。よって過剰に高性能な材質の選定はプラント建設費用の高騰に繋がり、工業的に不利となる。
【0011】
ポリマー溶液中の酸成分を低減することも上記と同様の理由からポリマーの着色低減効果が期待できる。例えば不飽和脂肪酸エステルやその誘導体を原料にしたポリマー中には必ず未反応のモノマーや低分子のオリゴマーが残存しており、それらエステルモノマー/オリゴマーが加水分解を受けることでカルボン酸が生成し、溶出を促進させる。よってポリマー溶液中に加水分解によって酸成分となる化合物が存在する場合には、ポリマー溶液中の水分量を低減することで加水分解が抑制され、結果としてポリマー着色の低減につながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−138078号公報
【特許文献2】特許第3094555号公報
【特許文献3】特開2004−149549号公報
【特許文献4】特許第2725402号公報
【特許文献5】特許第2062439号公報
【特許文献6】特開2006−89713号公報
【特許文献7】独国特許出願公開第1131885号明細書
【特許文献8】特許第4111540号公報
【特許文献9】特表2002−521508号公報
【特許文献10】特表2002−521509号公報
【特許文献11】特許第4255150号公報
【特許文献12】特開平1−213306号公報
【特許文献13】特開2006−291184号公報
【特許文献14】特許第2890748号公報
【特許文献15】特許第3232860号公報
【特許文献16】特表2002−536470号公報
【特許文献17】特開2002−3506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、着色の少ない芳香環水素化ポリマー(核水素化ポリマー)を工業的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、芳香族ポリマーの芳香環部を、水素添加触媒及び反応溶媒の存在下で水素添加して核水素化ポリマーを製造する際に、反応液中の水分量を低減させることで上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。加えて水素添加反応以降の操作を不活性ガス又は非酸化性ガス雰囲気下で行うことで、その着色低減効果をさらに高められることを発見した。
【0015】
すなわち本発明は、芳香族ポリマーの芳香環部を、水素添加触媒及び反応溶媒の存在下で水素添加し、該水素添加反応後のポリマー溶液から水素添加触媒及び揮発成分を分離して核水素化ポリマーを製造する方法であって、水素添加反応前のポリマー溶液中の水分濃度を0.5重量%以下とすることを特徴とする核水素化ポリマーの製造方法に関するものである。また、本発明は該製造法によって得られる着色の少ない核水素化ポリマーに関するものである。加えて水素添加反応以降の核水素化ポリマー溶液から水素添加触媒及び揮発成分を除去して核水素化ポリマーを得る操作を、不活性ガス又は非酸化性ガス雰囲気下で行うことで、その着色低減効果をより高めることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、水分を低減した芳香族ポリマー溶液を原料に用いて水素添加反応を行うことで、着色の少ない核水素化ポリマーを得ることができる。加えて水素添加反応以降の操作を不活性ガス又は非酸化性ガス雰囲気下で行うことで、その着色低減効果を更に高めることができる。得られた核水素化ポリマーは高透明性、低複屈折、高耐熱性、高表面硬度、低吸水、低比重などの諸物性を示す。特に光学材料として優れた特性を有しており、光学レンズ、光導光板、光拡散板、光ディスク基板材料、前面パネル等の広範な用途に用いることができることから、本発明の工業的意義は大きい。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明で用いる芳香族ポリマーとは、芳香族ビニル化合物と(メタ)アクリレートとの共重合体である。芳香族ビニル化合物としては、具体的にはスチレン、α―メチルスチレン、p−ヒドロキシスチレン、アルコキシスチレン、クロロスチレンなどが挙げられるが、スチレンが好ましい。また、2種類以上の芳香族ビニル化合物を共重合することも可能である。
【0018】
本発明において(メタ)アクリレートとは、具体的には(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニルなどの(メタ)アクリル酸アルキル;(メタ)アクリル酸(2−ヒドロキシエステル)、(メタ)アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、(メタ)アクリル酸(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピル)などの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル;(メタ)アクリル酸(2−メトキシエチル)、(メタ)アクリル酸(2−エトキシエチル)などの(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニルなどの芳香環を有する(メタ)アクリル酸エステル、及び2−(メタ)アクロイルオキシエチルホスホリルコリンなどのリン脂質類似官能基を有する(メタ)アクリル酸エステルなどを挙げることができるが、物性面のバランスから、メタクリル酸アルキルを単独で用いるか、又はメタクリル酸アルキルとアクリル酸アルキルを併用することが好ましい。その場合、メタクリル酸メチル80〜100モル%及びアクリル酸アルキル0〜20モル%を用いることが特に好ましい。用いるアクリル酸アルキルのうち、特に好ましいものはアクリル酸メチル又はアクリル酸エチルである。 なお、本明細書においては、「アクリル酸」と「メタクリル酸」を総称して(メタ)アクリル酸といい、「アクリレート」と「メタクリレート」を総称して(メタ)アクリレートという。
【0019】
上記の芳香族ビニル化合物と(メタ)アクリレートを含むモノマーを重合する方法は公知の方法を用いることができるが、工業的にはラジカル重合による方法が簡便でよい。ラジカル重合は塊状重合法、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法など公知の方法を適宜選択することができる。例えば、塊状重合法や溶液重合法の例としては、モノマーと連鎖移動剤、重合開始剤を配合したモノマー組成物を完全混合槽に連続的にフィードし、100〜180℃で重合する連続重合法などがある。溶液重合法ではトルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの炭化水素系溶媒、酢酸エチルなどのエステル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶媒、メタノールやイソプロパノールなどのアルコール系溶媒などをモノマー組成物と共にフィードする。重合後の反応液は重合槽から抜き出して、脱揮押出機や減圧脱揮槽に導入することで揮発分を脱揮して芳香族ポリマーを得ることができる。
【0020】
本発明における芳香族ポリマーのようなビニル共重合体の場合、共重合体の構成単位の組成は仕込んだモノマーの組成とは必ずしも一致せず、重合反応によって実際に共重合体に取り込まれたモノマーの量によって決定される。共重合体の構成単位の比は、重合率が100%であれば仕込みモノマー組成比と一致するが、実際には50〜80%の重合率で製造する場合が多く、反応性の高いモノマーほど共重合体に取り込まれ易いため、モノマーの仕込み組成と共重合体の構成単位の組成にズレが生じるので、仕込みモノマーの組成比を適宜調整する必要がある。
【0021】
本発明における水素添加反応に用いる芳香族ポリマーの構成単位において、芳香族ビニル化合物モノマーの構成単位(Bモル)に対する(メタ)アクリレートモノマー由来の構成単位(Aモル)のモル比(A/B)は0.25以上4.0以下である。0.25未満になると機械強度が劣り、実用性に耐えない場合がある。4.0を超えると水素添加される芳香環が少ないため、水素添加反応によるガラス転移温度の向上などの性能向上効果が不足する場合がある。
【0022】
本発明において用いる芳香族ポリマーの重量平均分子量としては、10,000以上1,000,000以下が好ましく、50,000以上700,000以下がさらに好ましく、特に好ましい範囲は100,000以上500,000以下である。10,000未満又は1,000,000を超える芳香族ポリマーも本発明の方法によって水素添加することができるが、10,000未満では機械強度などの面で実用性に耐えない場合があり、1,000,000を超えると粘度などの面から取扱いが困難である場合がある。重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、THFを溶媒としてポリスチレン換算で求めることができる。
【0023】
本発明で用いる芳香族ポリマーは適当な溶媒に溶解して水素添加反応を行なうが、溶媒選定の際に考慮する点として、溶媒自体が反応条件で安定であり、加えて水素添加反応前後の共重合体(芳香族ポリマー、核水素化ポリマー)の溶解性及び水素の溶解性が良好、かつ反応が速やかに行なわれることも加味する必要がある。また、反応後の溶媒成分の脱揮を想定した場合、溶媒の発火点が高いことも重要となる。これらの要件を満たす溶媒としてn−ペンタン、n−ヘキサン、n−オクタン、シクロヘキサンなどの炭化水素系化合物、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングルコールジメチルエーテルなどのエーテル化合物、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド化合物、エステル化合物などが挙げられるが、特にエーテル化合物及びエステル化合物が好適である。エーテル化合物としてはテトラヒドロフランが特に好適である。
【0024】
エステル化合物としてはカルボン酸エステル化合物が好適である。該カルボン酸エステル化合物には脂肪族のエステル化合物が用いられ、下記一般式(1)で示される化合物が好適である。式中、R
1は炭素数1〜6のアルキル基、R
2は炭素数1〜6のアルキル基である。R
1及びR
2としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基が例として挙げられる。エステル化合物としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸‐n‐ブチル、酢酸ペンチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸‐n‐プロピル、プロピオン酸‐n‐ブチル、n‐酪酸メチル、イソ酪酸メチル、n‐酪酸‐n‐ブチル、n‐吉草酸メチル、n‐ヘキサン酸メチルなどが用いられるが、特に、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、イソ酪酸メチル、n―酪酸メチルが好適に用いられ、イソ酪酸メチルがさらに好適である。
R
1COOR
2 (1)
【0025】
水素添加反応時の溶液中における共重合体(芳香族ポリマー+核水素化ポリマー)の濃度は通常1〜50重量%であり、好ましくは3〜30重量%、さらに好ましくは5〜25重量%である。共重合体の濃度が高すぎると、反応速度の低下や溶液粘性の上昇による取扱いの不便さなどの面から好ましくなく、濃度が低いと、生産性、経済性の面から好ましくない。
【0026】
水素添加反応前のポリマー溶液中の水分濃度は0.5重量%以下であり、好ましくは0.2重量%以下、さらに好ましくは0.05重量%以下である。水分量が0.5重量%を超えると、製造した核水素化ポリマー(ペレット、粉)が着色することがあり、光学材料として好ましくない。
【0027】
反応液中の水分は、用いる反応溶媒、原料芳香族ポリマー、及び水素添加触媒に含有もしくは同伴して反応系へ持ち込まれるものがほとんどである。従って反応液中の水分量を上記範囲内に保つ必要性から、水分含有量の少ない反応溶媒、原料ポリマー、及び水素添加触媒を使用することが望ましい。
本発明では、以下の(1)〜(3)から選ばれる少なくとも1つの方法により水素添加反応前のポリマー溶液中の水分濃度を0.5重量%以下とすることが好ましい。
(1)原料芳香族ポリマーを使用前に乾燥する
(2)蒸留法、又は乾燥剤を用いた化学的方法によって反応溶媒を乾燥する
(3)蒸留法、又は乾燥剤を用いた化学的方法によって水素添加反応前のポリマー溶液を乾燥する
【0028】
反応溶媒としては、工業的には通常、前回もしくはそれ以前の水素添加反応液から蒸留操作等によって分離、回収した回収溶媒がリサイクル使用される。このような回収溶媒からの水分除去方法としては、蒸留分離の際に除去する方法が最も簡便であるが、そのほかに乾燥剤を用いた化学的方法も利用できる。具体的には金属ナトリウム、金属カリウム等のアルカリ金属、金属マグネシウム等のアルカリ土類金属、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の水素化物、又は五酸化二リン等の不可逆脱水を利用する乾燥剤、硫酸ナトリウムや硫酸カルシウム等の無機塩類の水和形成を利用する乾燥剤、又はシリカゲルやモレキュラーシーブ等の吸収、吸着を利用する乾燥剤などがあげられる。
【0029】
原料である芳香族ポリマーは通常、飽和吸水分の水分を含有している。それを水素添加反応前に低減する方法としては、一般的な物理的方法である風乾法、減圧法、加熱法等を用いれば良い。通常は市販されているペレット乾燥機等を使用することで簡便に乾燥することができる。
【0030】
反応溶媒及び原料芳香族ポリマーをそれぞれ単独で乾燥させる方法と併せて、原料芳香族ポリマーを反応溶媒に溶解させたのちに乾燥操作を行うこともできる。その際の乾燥法としては、蒸留や共沸脱水による水分除去が最も簡便である。乾燥剤を用いる化学的方法は、使用済み乾燥剤のポリマー溶液からの除去が問題となるが、ろ過や遠心分離等の操作で容易に除去できる場合は利用してもよい。
【0031】
本発明における水素添加反応に用いる触媒(水素添加触媒)としては水素化活性を有するものであれば何でも良く特に制限されない。具体的にはニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金等が挙げられる。その中でも反応速度が高く、また溶媒が副反応を起こさず反応前後において保持されるようなものとして特にパラジウムを担体に担持したものが好ましい。一般に、触媒担体としては、活性炭、アルミナ(Al
2O
3)、シリカ(SiO
2)、シリカ−アルミナ(SiO
2−Al
2O
3)、珪藻土、酸化ジルコニウムなどが用いられる。本発明における触媒の担体として制限は無いが、活性炭又はアルミナ、又は酸化ジルコニウムを用いることが好ましい。
【0032】
担体上のパラジウム金属の担持量は、通常0.01〜50重量%の範囲であり、好ましくは0.05〜20重量%、さらに好ましくは0.1〜10重量%である。経済上、高価な貴金属であるパラジウムの使用量はなるべく少ないことが好ましいが、活性炭又は酸化ジルコニウムを担体に用いた場合、高分散にパラジウムを担持することが可能であり、また、単位パラジウムあたりの反応速度が非常に大きいため、パラジウムの担持量を0.1〜1.0重量%にした場合でも十分な反応速度を保持することができる。なお、パラジウムの分散度を測る際には一酸化炭素のパルス吸着法など既知の方法を用いる。
【0033】
パラジウムの前駆体としては塩化パラジウム、硝酸パラジウム、酢酸パラジウムなどの公知の塩、又は錯体を用いることができる。担体上に含浸担持させる際には前駆体を溶液にするが、前駆体溶液の組み合わせ(前駆体/溶媒)の例としては塩化パラジウム/塩酸水、塩化パラジウム/塩化ナトリウム水、硝酸パラジウム/水、硝酸パラジウム/塩酸水、酢酸パラジウム/塩酸水、酢酸パラジウム/有機溶媒などがある。
【0034】
本発明における水素添加反応は、原料芳香族ポリマーを溶媒に溶解させた原料液を用いて行うが、懸濁床、又は固定床での反応いずれでもよく、バッチ式反応や連続流通式反応など公知の手法を用いることができる。懸濁床で反応を行なう場合、担体粒径は通常0.1〜1,000μmの範囲であり、好ましくは1〜500μm、さらに好ましくは5〜200μmである。粒径は小さすぎると水素添加反応後の触媒分離が困難であり、大きすぎると反応速度が低下してしまう。
【0035】
好ましい反応条件は、60〜250℃の温度、3〜30MPaの水素圧、3〜20hrの反応時間である。反応温度が低すぎると反応速度が遅くなり、反応温度が高すぎると重合体の分解や溶媒の水素化分解といった副反応が起きるため好ましくない。また、水素圧が低い場合には反応速度が遅く、逆に水素圧をさらに高くしようとすると高耐圧の反応器を要するため、経済的に好ましくない。
【0036】
該水素添加反応後のポリマー溶液から水素添加触媒及び揮発成分(溶媒等)を分離することにより核水素化ポリマーを得ることができる。
触媒の分離は、濾過又は遠心分離などの公知の手法で行なうことができる。着色、機械物性への影響などを考慮すると、ポリマー内の残留触媒金属濃度は出来るだけ少なくする必要があり、10ppm以下が好ましく、さらに好ましくは1ppm以下である。
【0037】
触媒を分離後、得られた核水素化ポリマー溶液から溶媒等の揮発成分を分離してポリマーを精製する方法としては、1)ポリマー溶液から溶媒を連続的に除去して濃縮液とし、溶融状態で押し出すことによりペレット化する方法、2)ポリマー溶液から溶媒を蒸発させて塊状物を得た後ペレット化する方法、3)ポリマー溶液を貧溶媒に加える、又はポリマー溶液に貧溶媒を加えて沈殿させた後ペレット化する方法、4)熱水と接触させて塊状物を得た後ペレット化する方法などの公知の方法を用いることができる。
【0038】
触媒の分離及び揮発成分の分離を行う際には、不活性ガス又は非酸化性ガス雰囲気下で操作することが望ましい。空気等の酸化性ガス雰囲気下とすると、触媒成分の溶出や溶媒の酸化が起き、結果として目的物である核水添ポリマーの着色原因となる。不活性ガス及び非酸化性ガスとしては水素や窒素、ヘリウム、アルゴンが利用できるが、工業的には安価な窒素か反応ガスである水素の雰囲気下で操作することが望ましい。
【0039】
本発明によって得られる核水素化ポリマーは光学材料として有用である。該核水素化ポリマーは熱可塑性を有しているため、公知の方法、例えば、押し出し成型や射出成型、シート成型体の二次加工成型など、種々の熱成型によって精密かつ経済的に光拡散性光学物品を製造することが可能である。光拡散性光学物品の具体的な用途としては、各種導光版や導光体、ディスプレイ前面パネル、プラスチックレンズ基板、光学フィルター、光学フィルム、照明カバー、照明看板などを挙げることができる。
【0040】
本発明によって得られる核水素化ポリマーは、着色が少ないため、上述した光学材料用途に適している。該核水素化ポリマーの着色度(YI)は、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.0以下である。着色度(YI)が3.0を越えるようなポリマーは、着色により透明性が損なわれ、光学材料用途として好ましくない。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により特に限定されるものではない。例中の部数は、特記しない限り重量基準である。なお、樹脂の評価方法は次の通りである。
(1)原料ポリマー溶液中の水分量はTCD検出器を使用し、ガスクロマトグラフィー(GC)にて内部標準法で定量した。
(2)核水素化率は水素添加反応前後のUVスペクトル測定により求めた。すなわち、THFを溶媒として芳香環に特徴的な260nmの吸収スペクトルを測定し、原料MS樹脂を用いて検量することで、未水素添加芳香環の割合を計算した。
(3)重量平均分子量(Mw)はRI検出器を使用し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求めた。溶媒としてTHFを用い、標準ポリスチレンで検量した。
(4)核水素化ポリマーのYI(イエローインデックス)は、日本電色工業(株)製、色差・濁度測定器COH−300Aを用いて、3.2mm厚の平板を透過法で測定した。
【0042】
実施例1
予め乾燥した重量平均分子量17万のMMAとスチレンからなる共重合体(樹脂1)(新日鐵化学社製、MS600(MMA/スチレンモル比=6/4)、モル比(A/B)は1.5)0.5部を、蒸留脱水によって水分を低減させたイソ酪酸メチル(東京化成製、以下、IBMと称する)4.5部に溶解し、2.0重量%Pd/ZrO
2 (エヌイーケムキャット社製)0.025部と共に撹拌装置を備えた反応容器に仕込み、水素圧9MPa、温度180℃の条件にて15時間水素添加反応を行なった。その際の反応前ポリマー溶液中の水分量は0.04重量%だった。反応後は水素雰囲気のまま濾過操作によって触媒を除去、IBMを加熱留去して反応液をポリマー濃度が43重量%になるまで濃縮した。この濃縮液を窒素雰囲気下、ベント口を備えた脱揮押出機に導入して揮発分を脱揮、ストランドを切断してペレットを得た。この核水素化ポリマーの核水素化率は99.8%であり、YIは0.6だった。
【0043】
参考例1
未乾燥の樹脂1、0.5部をIBM5.0部に溶解したのち、ポリマー溶液から蒸留操作(共沸により0.5部留出)によって水分量の低減を行った。蒸留脱水後の水添反応前ポリマー溶液中の水分量は0.03重量%だった。得られた原料ポリマー溶液を実施例1と同様の条件で水素添加反応を行い、反応後に水素を脱圧、開放したのち濾過操作によって触媒を除去、IBMを加熱留去して反応液をポリマー濃度が43重量%になるまで濃縮した。この濃縮液を空気雰囲気下、ベント口を備えた脱揮押出機に導入して揮発分を脱揮、ストランドを切断してペレットを得た。このポリマーの核水素化率は99.6%であり、YIは1.3だった。
【0044】
実施例3
原料を重量平均分子量13万のMMAとスチレンからなる共重合体(樹脂2)(新日鐵化学社製、MS750(MMA/スチレンモル比=7.5/2.5)、モル比(A/B)は3.0)に変更すること以外は実施例1と同様の操作にて水素添加反応、ろ過、濃縮、脱揮押出を行い、核水素化ポリマーのペレットを得た。その際の反応前ポリマー溶液中の水分量は0.04重量%であり、その核水素化ポリマーの核水素化率は99.8%、YIは0.6だった。
【0045】
実施例4
触媒を1.0重量%Pd/Al
2O
3 (エヌイーケムキャット社製)0.05部に変更すること以外は実施例1と同様の操作にて水素添加反応、ろ過、濃縮、脱揮押出を行い、核水素化ポリマーのペレットを得た。その際の反応前ポリマー溶液中の水分量は0.05重量%であり、その核水素化ポリマーの核水素化率は99.2%、YIは0.7だった。
【0046】
比較例1
未乾燥の樹脂1をIBMに溶解させた後、蒸留操作による脱水を行わないこと以外は実施例1と同様の条件で水素添加反応を実施、反応後に水素を脱圧、開放したのち濾過操作によって触媒を除去、IBMを加熱留去して反応液をポリマー濃度が43重量%になるまで濃縮した。この濃縮液を空気雰囲気下、ベント口を備えた脱揮押出機に導入して核水素化ポリマーペレットを得た。その際の反応前ポリマー溶液中の水分量は0.9重量%であり、その核水素化ポリマーの核水素化率は99.4%、YIは3.5だった。
【0047】
実施例5
予め乾燥した樹脂1、0.5部を蒸留によって水分を低減させたテトラヒドロフラン(和光純薬工業製、安定剤無し、以下THFと称する)4.5部に溶解し、原料ポリマー溶液を調製した。その際の反応前ポリマー溶液中の水分量は0.05重量%だった。得られた原料ポリマー溶液を実施例1と同様の条件で水素添加反応を行い、水素雰囲気下でろ過、濃縮を実施した。その後トルエンでポリマー濃度が10重量%となるまで希釈、再濃縮することを繰り返して溶媒置換を行い、核水素化ポリマーの50重量%トルエン溶液を得た。この濃縮液を窒素雰囲気下、ベント口を備えた脱揮押出機に導入して核水素化ポリマーペレットを得た。このポリマーの核水素化率は98.3%であり、YIは0.7だった。
【0048】
参考例2
水素添加反応後に水素を脱圧、開放したのち濾過操作によって触媒を除去する以外は実施例5と同様の条件、雰囲気下で水素添加反応、ろ過、濃縮、溶媒置換、脱揮押出を行い、核水素化ポリマーペレットを得た。その際の反応前ポリマー溶液中の水分量は0.05重量%であり、その核水素化ポリマーの核水素化率は98.2%、YIは1.1だった。
【0049】
比較例2
原料ポリマーの乾燥及びTHFの蒸留による水分低減を行わないこと、かつ、水素添加反応後に水素を脱圧、開放したのち濾過操作によって触媒を除去すること以外は実施例5と同様の条件、雰囲気下で水素化反応、ろ過、濃縮、溶媒置換、脱揮押出を行い核水素化ポリマーペレットを得た。その際の反応前ポリマー溶液中の水分量は1.0重量%であり、その核水素化ポリマーの核水素化率は98.0%、YIは2.8だった。