(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転部材と、前記駆動側回転部材の回転軸芯と同軸芯上に配置され前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと同期回転する従動側回転部材と、前記駆動側回転部材の径方向に延在する面のうち少なくとも1つの面と対向する位置に設けられるプレートとを備え、
前記駆動側回転部材の外周部から内方に延出する複数の区画部の間に形成される流体空間に対して、前記従動側回転部材の内周部から外方に延出するベーン部を嵌め込むことで前記駆動側回転部材と前記従動側回転部材とが前記ベーン部の移動可能な範囲内において相対回転自在に構成されると共に、前記流体空間を前記ベーン部で分割することで、前記駆動側回転部材に対する前記従動側回転部材の相対回転位相を遅角側に変化させる遅角室と、前記相対回転位相を進角側に変化させる進角室とが形成され、
前記相対回転位相を拘束する拘束機構が、最遅角位相及び最進角位相を除く前記相対回転位相で前記駆動側回転部材と前記従動側回転部材との相対回転を拘束する拘束位置と、この拘束を解除する解除位置とに切換自在な拘束体を備えて構成され、
前記プレートと、前記駆動側回転部材の前記区画部とを固定する締結部材を備え、
前記遅角室の少なくとも1つ及び前記進角室の少なくとも1つに、前記相対回転位相が前記最遅角位相または前記最進角位相のときに前記ベーン部が当接する保護体が備えられ、
前記駆動側回転部材の前記区画部に前記保護体を収容する収容部が設けられている弁開閉時期制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるようにベーン部と区画部との直接的な当接を抑制する構成では、ベーン部に凸部を形成し、この凸部が挿通する凹部を区画部に形成するため駆動側回転部材と従動側回転部材との構造の複雑化を招く。また、ボルトに対して凸部を当接させる構成では、ボルトは棒状で凸部との当接面積が比較的狭いため、繰り返して当接した場合には凸部の当接部位が変形することや摩耗することも考えられ、最遅角あるいは最進角の相対回転位相が予め設定された位相から変動する不都合を招くことが考えられる。
【0007】
従来からの弁開閉時期制御装置のように、最遅角あるいは最進角の位置を決めるために駆動側回転部材の区画部に対して従動側回転部材のベーン部を当接させる構成は、形状が単純であり製造が容易である。しかしながら、内燃機関の始動時のように作動油が充分に供給されない状況で駆動側回転部材と従動側回転部材とが回転軸芯を中心に大きく揺動して区画部とベーン部とが繰り返し強く当接することもある。このように強く当接した場合には、区画部に座屈等の塑性変形を招き、もしくは締結部材による軸方向に作用する締結力により、弾性変形したまま押さえ込まれる状態を招き、最遅角あるいは最進角の相対回転位相が予め設定された位相から変化することも考えられた。
【0008】
このように、区画部にベーン部が当接することで決まる最遅角あるいは最進角の相対回転位相が予め設定された位相から変化した場合には、この最遅角あるいは最進角を基準にした相対回転位相の制御を適正に行えず改善の余地がある。
【0009】
本発明の目的は、駆動側回転部材の区画部に対して従動側回転部材のベーン部を当接させる制御が行われる弁開閉時期制御装置において区画部の変形を抑制する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の特徴は、内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転部材と、前記駆動側回転部材の回転軸芯と同軸芯上に配置され前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと同期回転する従動側回転部材と、前記駆動側回転部材の径方向に延在する面のうち少なくとも1つの面と対向する位置に設けられるプレートとを備え、前記駆動側回転部材の外周部から内方に延出する複数の区画部の間に形成される流体空間に対して、前記従動側回転部材の内周部から外方に延出するベーン部を嵌め込むことで前記駆動側回転部材と前記従動側回転部材とが前記ベーン部の移動可能な範囲内において相対回転自在に構成されると共に、前記流体空間を前記ベーン部で分割することで、前記駆動側回転部材に対する前記従動側回転部材の相対回転位相を遅角側に変化させる遅角室と、前記相対回転位相を進角側に変化させる進角室とが形成され、前記相対回転位相を拘束する拘束機構が、最遅角位相及び最進角位相を除く前記相対回転位相で前記駆動側回転部材と前記従動側回転部材との相対回転を拘束する拘束位置と、この拘束を解除する解除位置とに切換自在な拘束体を備えて構成され、前記プレートと、前記駆動側回転部材の前記区画部とを固定する締結部材を備え、前記区画部のうち、前記相対回転位相が前記最遅角位相または前記最進角位相のときに前記ベーン部が当接する当接面を有する前記区画部には、補強体が係合されている点にある。
【0011】
駆動側回転部材は、外周部から内方に突出する複数の区画部を備えた構成であるため、ベーン部が当接した場合には区画部が変位する。拘束機構は、ベーン部の移動可能な範囲内で最遅角位相及び最進角位相を除く相対回転位相で駆動側回転部材と従動側回転部材との相対回転を拘束する。これにより、内燃機関の始動時に拘束機構の拘束を解除して、相対回転位相を最遅角方向に変化させる場合には、拘束機構の拘束が解除された時点でベーン部と遅角側の区画部との距離が比較的大きく、しかも、遅角室に作動油が殆ど存在しないためベーン部を区画部に強く当接させる現象を招くこともある。このようにベーン部を区画部に強く当接させる現象はクランクシャフトの回転に伴う反力が従動側回転部材に作用することが原因であり、当接は繰り返して行われる。このような不都合に対して、本発明のように構成することにより、区画部に対してベーン部が強い力で当接する状況が発生しても、区画部に作用する力を補強体がプレートに伝える形態で受け止めることになり変形を抑制できる。
従って、駆動側回転部材の区画部に対して従動側回転部材のベーン部を当接させる制御が行われる弁開閉時期制御装置において区画部の変形を抑制することにより、適正な制御を実現する弁開閉時期制御装置が構成された。
【0012】
本発明は、前記回転軸芯から前記補強体までの半径方向での距離が、前記回転軸芯から前記締結部材までの半径方向での距離より短く設定されても良い。
【0013】
駆動側回転部材は、外周部から内方に突出する複数の区画部を備えた構成であるため、ベーン部が当接した場合には区画部の突出端(回転軸芯に近い端部)が、より大きく変位する。このような理由から、締結部材の位置を基準にして、回転軸芯に近い位置においてプレートと区画部とに係合する補強体を配置することにより、区画部に対してベーン部が強い力で当接する状況が発生しても、区画部に作用する力を補強体がプレートに伝える形態で受け止めることになり変形を抑制できる。
【0014】
本発明は、前記プレートと前記区画部とに対して前記回転軸芯と平行姿勢となる係合孔が形成され、各々の係合孔に係合するように前記補強体がピン状に構成されても良い。
【0015】
これによると、プレートと区画部とに係合孔を形成し、これらの係合孔に亘って係合するピン状の補強体を用いることにより、例えば、係合孔を形成し、この係合孔に補強体を打ち込む等の工程の採用によりプレートと区画部とを一体化して夫々の相対変位を抑制できる。
【0016】
本発明は、前記プレートが、前記駆動側回転部材と前記従動側回転部材とを前記回転軸芯に沿う方向から挟み込むように一対備えられると共に、一対の前記プレートが前記締結部材により前記区画部に固定され、一対の前記プレートと前記区画部とに対して前記回転軸芯と平行姿勢となる係合孔が形成され、これらの係合孔に係合するように前記補強体がピン状に構成されても良い。
【0017】
これによると、一対のプレートの一方と、区画部と、他方のプレートとに亘って係合孔を形成し、この係合孔にピン状の補強体を打ち込む等の工程の採用により、一対のプレートと区画部とを一体化して夫々の相対変位を抑制できる。特に、一対のプレートの一方の外周にスプロケット部等を形成し、このスプロケット部等にクランクシャフトからの駆動力が伝えられるものでは、駆動力が伝えられるプレートと区画部とが補強体で一体化されるので、このプレートと区画部との相対的な変位も抑制してクランクシャフトからの駆動力を区画部に対して確実に伝えることも可能となる。
【0018】
また、本発明の他の特徴は、内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転部材と、前記駆動側回転部材の回転軸芯と同軸芯上に配置され前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと同期回転する従動側回転部材と、前記駆動側回転部材の径方向に延在する面のうち少なくとも1つの面と対向する位置に設けられるプレートとを備え、前記駆動側回転部材の外周部から内方に延出する複数の区画部の間に形成される流体空間に対して、前記従動側回転部材の内周部から外方に延出するベーン部を嵌め込むことで前記駆動側回転部材と前記従動側回転部材とが前記ベーン部の移動可能な範囲内において相対回転自在に構成されると共に、前記流体空間を前記ベーン部で分割することで、前記駆動側回転部材に対する前記従動側回転部材の相対回転位相を遅角側に変化させる遅角室と、前記相対回転位相を進角側に変化させる進角室とが形成され、前記相対回転位相を拘束する拘束機構が、最遅角位相及び最進角位相を除く前記相対回転位相で前記駆動側回転部材と前記従動側回転部材との相対回転を拘束する拘束位置と、この拘束を解除する解除位置とに切換自在な拘束体を備えて構成され、前記プレートと、前記駆動側回転部材の前記区画部とを固定する締結部材を備え、前記遅角室の少なくとも1つ及び前記進角室の少なくとも1つに、前記相対回転位相が前記最遅角位相または前記最進角位相のときに前記ベーン部が当接する保護体が備えられてある点にある。
【0019】
本構成であれば、ベーン部が区画部に対して当接することがないので、区画部の変形を完全に無くすことができる。したがって、弁開閉時期制御装置において区画部の変形を抑制することにより、適正な制御を実現する弁開閉時期制御装置を実現することができる。
【0020】
また、前記保護体が前記回転軸芯と平行な軸芯を有する円柱状に形成され、前記ベーン部における前記保護体に対向する面に、前記保護体の外周面の曲率よりも小さい曲率を有し、前記保護体の少なくとも一部を収容可能な円弧状部が形成されてあっても良い。
【0021】
このような構成とすれば、ベーン部が保護体を収容する位置まで回転駆動することができるので、ベーン部の回転範囲を大きく確保することができる。また、ベーン部が最進角位置又は最遅角位置に達した場合に流体空間の端部の側に貯留する作動油の量を少なくすることができる。したがって、応答性を向上することができる。
【0022】
また、前記保護体は、同一の前記流体空間における前記遅角室及び前記進角室に備えられてあっても良い。
【0023】
このような構成とすれば、単一のベーン部を挟んで保護体を設けることができる。したがって、例えば保護体と当接するベーン部を補強する場合には、その対策が一つのベーン部材だけで良いので、構造を簡素化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
1.第1の実施形態
以下、本発明の第1の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔基本構成〕
図1及び
図2には本発明に拘わる弁開閉時期制御装置を示している。この弁開閉時期制御装置は、駆動側回転部材としての外部ロータ10と、従動側回転部材としての内部ロータ20を備えると共に、外部ロータ10と内部ロータ20との相対回転を阻止(拘束)する拘束機構としてのロック機構Lを備えている。外部ロータ10は、内燃機関としてのエンジンEのクランクシャフト1とタイミングチェーン2を介して同期回転する。内部ロータ20は、エンジンEの燃焼室の吸気弁を開閉するカムシャフト3に連結すると共に、外部ロータ10と相対回転自在となるように、外部ロータ10の回転軸芯X(カムシャフト3の軸芯と一致する)と同軸芯に配置されている。ロック機構Lは、外部ロータ10と内部ロータ20との相対回転を阻止(拘束)することにより、これらを予め設定された相対回転位相で保持する。
【0026】
この弁開閉時期制御装置は、外部ロータ10と内部ロータ20との間に形成される進角室R1と遅角室R2との一方を選択して回転位相制御弁V1により作動油(流体の一例)を供給することにより外部ロータ10と内部ロータ20との相対回転位相を任意に設定可能に構成され、ロック機構Lに対してロック制御弁V2から作動油を供給することによりロック機構Lのロック解除が実現する。
【0027】
回転位相制御弁V1とロック制御弁V2とは電磁弁として構成され、ECUとして機能する回転位相制御ユニット41の制御信号で制御される。回転位相制御ユニット41は、外部ロータ10と内部ロータ20との相対回転位相を検出する位相センサ(図示せず)、エンジンEの回転速度を検出する速度センサ(図示せず)等からの検出信号に基づき、目標とする相対回転位相を設定し、回転位相制御弁V1とロック制御弁V2とに制御信号を出力する。
【0028】
この制御により、外部ロータ10と内部ロータ20との相対回転位相を変化させ、カムシャフト3の回転により開閉制御される吸気弁の開閉時期(タイミング)の制御を実現し、ロック機構Lのロック解除とロック状態への移行を実現する。尚、本発明の弁開閉時期制御装置は吸気弁だけでなく排気弁の開閉時期を制御するように構成されるものであっても良い。
【0029】
〔弁開閉時期制御装置の具体構成〕
弁開閉時期制御装置は、前述した外部ロータ10と内部ロータ20とを前部位置のフロントプレート4と、これと反対側(エンジン側)のリヤプレート5とで挟み込み、フロントプレート4から外部ロータ10に挿通した締結部材としての連結ボルト6をリヤプレート5に螺合させる形態で連結(締結)している。
【0030】
リヤプレート5の外周位置にはタイミングチェーン2が巻回するスプロケット5Sが一体的に形成され、フロントプレート4と内部ロータ20との間には、内部ロータ20を進角方向S1に付勢するトーションスプリング7が備えられている。内部ロータ20をカムシャフト3に連結固定する固定ボルト8が、回転軸芯Xと同軸芯で配置され、この固定ボルト8の外周側に後述する進角油路25の一部が形成されている。
【0031】
外部ロータ10は円筒形となる外周部としての外殻部11から内方に向けて延出する複数の区画部12が形成されている。内部ロータ20は円柱形となる内周部としての本体部分21から外方に延出する複数のベーン部22が放射状に形成されている。外部ロータ10の複数の区画部12の間に油室(流体空間の一例)が形成され、この油室にベーン部22を嵌め込むように外部ロータ10と内部ロータ20が配置されている。このような配置により油室をベーン部22で油室を仕切る形態となり、ベーン部22を基準にして一方側に進角室R1が形成され、他方側に遅角室R2が形成される。また、外部ロータ10と内部ロータ20とは、油室内でベーン部22が移動し得る角度(移動可能な範囲)だけ相対回転自在となる。
【0032】
外部ロータ10は、前述したタイミングチェーン2により
図2にS(回転方向S)で示す方向に回転駆動される。進角室R1は、作動油が供給されることにより相対回転位相を進角方向S1に変化させ、遅角室R2は、作動油が供給されることにより相対回転位相を遅角方向S2に変化させる。ベーン部22の突出端には外部ロータ10の外殻部11の内周面に接触するシール23が備えられている。区画部12には、
図3に示すように相対回転位相が最遅角に設定された際に区画部12に当接する当接面12Sが形成され、区画部12とベーン部22とが当接する状態で、進角油路25からの作動油を当接面12Sとベーン部22との間に供給する溝が形成されている。
【0033】
相対回転位相が最遅角と最進角との間の中央近傍を中間位相と称しており、トーションスプリング7は、相対回転位相が最遅角にある状態から相対回転位相を中間位相に達するまで付勢力を作用させるように付勢力が作用する範囲が設定されている。尚、トーションスプリング7の付勢力が作用する範囲は中間位相を超えるものであっても良く、中間位相に達しないものであっても良い。
【0034】
この弁開閉時期制御装置では、内部ロータ20に対し進角室R1に連通する進角油路25と、遅角室R2に連通する遅角油路26とが形成されると共に、ロック機構Lのロック解除を行うロック解除油路27が形成されている。これらの油路はカムシャフト3の内部の油路に連通しており、このカムシャフト3の外面から回転位相制御弁V1、及び、ロック制御弁V2に接続している。尚、回転位相制御弁V1とロック制御弁V2とに作動油を供給する油圧ポンプPはエンジンEで駆動される。
【0035】
〔ロック機構〕
ロック機構Lは、内部ロータ20に形成された複数のベーン部22の1つに対して、回転軸芯Xと平行姿勢の軸芯に沿って出退自在に備えた拘束体としてのロックピン31と、このロックピン31が嵌合するようにリヤプレート5に形成した嵌合凹部32と、ロックピン31を係合方向(延出方向)に付勢するロックスプリング33とを備えて構成されている。
【0036】
このロック機構Lは、拘束位置としての中間ロック位相Tにおいてロック状態となる(拘束する)ために嵌合凹部32の位置が設定されている。この中間ロック位相Tは相対回転位相が最遅角と最進角との間の中央となる中間位相のうち、エンジンEが良好な燃費で効率的に作動する位相に設定されている。また、回転位相制御ユニット41は、エンジンEの停止制御を行う際には相対回転位相を中間ロック位相Tまで変化させることでロック機構Lをロック状態に移行する制御を実行する。ロックピン31にはロック解除油路27が接続しておりロック状態を解除する場合には回転位相制御ユニット41がロック制御弁V2を制御してロック解除油路27に作動油を供給する制御が行われる。この制御により、嵌合凹部32からロックピン31を抜き出されロック状態が解除される。
【0037】
中間ロック位相Tは、相対回転位相が最遅角と最進角との間の中央位置に限る必要はなく、中央位置を基準にして遅角側と進角側とを含む領域に設定しても良い。
【0038】
〔補強体〕
この弁開閉時期制御装置では、回転位相制御ユニット41での制御モードの1つとして、エンジンEの始動時のクランキングにおいて区画部12の当接面12Sにベーン部22を当接させることで相対回転位相を最遅角にセットし、この後に、所定時間だけ作動油を供給した後に燃焼室の点火を開始する等のシーケンスが設定されている。
【0039】
この制御モードでの制御を実行する際には、油圧ポンプPから作動油をロック解除油路27に供給してロック機構Lのロック状態を解除し、遅角室R2に作動油を供給する制御により相対回転位相を遅角方向に変化させる。しかしながら、ロック機構Lのロック状態を解除したタイミングで、進角室R1には相対回転位相の変更に必要な油圧を充分に供給できない場合がある。もしくはロック機構Lの非ロック状態でエンジンEが停止した場合(エンジンストールなどのフェイル状態)、エンジンEの再始動時の初期は、ロック状態への移行に必要な油圧を供給できない。これらの状況下においては、カムシャフト3の回転に伴う反力により内部ロータ20が回転軸芯Xを中心に大きく揺動し、ベーン部22が区画部12の当接面12Sに対し繰り返し強く当接し、この区画部12の突出端を遅角方向S2に変形させる不都合を招くことがあった。
【0040】
この変形を防止するため
図2、
図4に示すように、フロントプレート4と区画部12とに係合するようにノックピンで構成される(ピン状に構成される)補強体15が備えられている。つまり、区画部12において、回転軸芯Xから連結ボルト6(締結部材の一例)までの距離D1を基準にして、回転軸芯Xからの短い距離D2となる係合位置に、回転軸芯Xと平行姿勢となる係合孔12Aを形成している。また、フロントプレート4には、係合孔12Aと一致する位置で回転軸芯Xと平行姿勢となる係合孔4Aを穿設し、これらに亘って補強体15を打ち込むことで区画部12とフロントプレート4とを一体化している。尚、打ち込んだ補強体15は係合孔4Aと係合孔12Aとに密嵌合する状態に達し抜け止め状態となる。
【0041】
このような構成から、駆動側回転部材としての外部ロータ10の区画部12の突出端近傍と、フロントプレート4とに亘って補強体15が係合することになり、ベーン部22が区画部12の当接面12Sに対して繰り返し強く当接しても、区画部12に作用する力を補強体15からフロントプレート4に伝える形態で受け止め、区画部12の変形が抑制されるのである。
【0042】
〔補強体の係合形態の変形例〕
本発明の補強体15は、前述したようにフロントプレート4と区画部12とに係合する係合形態に限るものではなく、
図5に示すように、フロントプレート4と、区画部12と、リヤプレート5とに亘って補強体15が係合する構成であっても良い。
【0043】
つまり、区画部12において、回転軸芯Xから連結ボルト6までの距離D1を基準にして、回転軸芯Xからの短い距離D2となる係合位置に、回転軸芯Xと平行姿勢となる係合孔12Aを形成する。フロントプレート4とリヤプレート5とには、係合孔12Aと一致する位置で回転軸芯Xと平行姿勢となる係合孔4A、係合孔5Aを穿設し、これらに亘って補強体15を打ち込んでこれらを一体化する。
【0044】
これにより、駆動側回転部材としての外部ロータ10の区画部12の突出端近傍と、フロントプレート4と、リヤプレート5とに亘って補強体15が係合することになり、ベーン部22が区画部12の当接面12Sに対して繰り返し強く当接しても、区画部12に作用する力を補強体15からフロントプレート4とリヤプレート5とに伝える形態で受け止め、区画部12の変形を抑制する。
【0045】
特に、この変形例では、ベーン部22が区画部12の当接面12Sに繰り返し強く当接することにより、外部ロータ10とリヤプレート5との位置関係が変化する状況であっても、補強体15が外部ロータ10とリヤプレート5の相対変位を阻止する。つまり、連結ボルト6により区画部12に対してリヤプレート5を連結する構成では、区画部12に穿設された孔部と連結ボルト6の外周との間の隙間だけ外部ロータ10とリヤプレート5との相対変位(ズレ)が可能である。このように相対変位した場合には、スプロケット5Sと外部ロータ10との相対回転位相が変化する不都合に繋がるが、補強体15が区画部12とリヤプレート5との相対変位を阻止し、当接面12Sとベーン部22とが当接した状態での相対回転位相を決まった位相に保持して精度の高い制御の維持を現出する。
【0046】
〔補強体の係合形態のその他の変形例〕
(a)区画部12において前述したものと同様の係合位置に係合孔12Aを形成し、リヤプレート5において係合孔12Aと一致する位置に係合孔5Aを形成し、これらに係合するように、補強体15を備える。このようにリヤプレート5と区画部12との間だけに補強体15を備えたものでも、区画部12の変形の抑制が可能となる。
【0047】
(b)ベーン部22が最進角に達した際に当接する位置の区画部12に対して実施形態と同様に、
図2に仮想線で示す位置に補強体15を備える。このように構成することにより、ベーン部22が最進角の方向に変化し区画部12に当接した際の区画部12の変形も抑制できる。
【0048】
(c)2つ以上の区画部12の係合位置に係合孔12Aを形成し、フロントプレート4とリヤプレート5との少なくとも一方に、係合孔12Aと一致する位置に係合孔を形成し、これらに係合するように、補強体15を備える。このように構成したものでも、区画部12の変形の抑制が可能となる。
【0049】
(d)区画部12において前述したものと同様の係合位置にスタッドボルトのようにネジ式に係合する補強体15を備え、この補強体15をフロントプレート4あるいはリヤプレート5に係合させる。これと同様に、フロントプレート4あるいはリヤプレート5に対してスタッドボルトのようにネジ式に備え、この補強体15を、区画部12の係合位置に形成した係合孔12Aに係合させるように構成する。この構成では、補強体15の脱落を招くことがなく、継続的な係合が実現する。
【0050】
(e)外部ロータ10として、フロント側、又は、リヤ側にプレートが一体形成されることで、一方の開放する構成のものに適用する。この構成では、開放部を閉塞する位置にプレートが配置されることになり、このプレートと区画部12とに係合するように補強体15を備える。このように構成したものでも、区画部12の変形の抑制が可能となる。
【0051】
〔実施形態の作用・効果〕
このような構成から、エンジンEの始動時等においてベーン部22が区画部12の当接面12Sに対して繰り返し強く当接する状況が発生しても、区画部12の変形を補強体15が抑制する。従って、相対回転位相を最遅角とし、この後に最遅角を基準にして相対回転位相を目標とする位相まで変化させる制御を行う場合にも、基準となる最遅角位置が変動する不都合を抑制して長期に亘って高い精度での制御を実現する。これと同様に、相対回転位相を最進角に設定し、この後に最進角を基準にして相対回転位相を目標とする位相まで変化させる制御を行う場合にも、基準となる最進角位置が変動する不都合を抑制して長期に亘って高い精度での制御を実現する。
【0052】
また、この構成では、従来からの弁開閉時期制御装置の構成をそのまま利用にして、外部ロータ10の区画部12とフロントプレート4あるいはリヤプレート5とに貫通するようにノックピン等の補強体15を係合させる程度の改良により、区画部12の変形を抑制して高精度の制御を継続させることが可能となる。
【0053】
2.第2の実施形態
次に、第2の実施形態について説明する。上記第1の実施形態では区画部12に備えられる補強体15に替えて、複数の区画部12の間に形成される油室(流体空間の一例)に保護体91が備えられる。基本構成、弁開閉時期制御装置の具体構成、ロック機構Lについては、上記第1の実施形態と同様であるので、以下で異なる点を中心に説明する。
【0054】
上記第1の実施形態と同様に、本実施形態でも
図6に示されるように、区画部12の間には複数の油室(流体空間の一例)が形成される。各油室にはベーン部22で仕切られた一対の進角室R1及び遅角室R2が形成される。したがって、進角室R1及び遅角室R2は、
図6に示されるように油室の数に応じて複数備えられる。
【0055】
本実施形態では、このような複数の進角室R1及び遅角室R2のうち、遅角室R2の少なくとも1つ及び進角室R1の少なくとも1つに保護体91が備えられる。特に、本実施形態では、保護体91が同一の油室における遅角室R2及び進角室R1に1つずつ備えられているとして説明する。したがって、本実施形態では
図6に示されるように、ベーン部22で仕切られた1つの油室内において、ベーン部22を挟んで一対の保護体91が備えられる。
【0056】
一対の保護体91は、夫々、油室内において、回転軸芯Xから連結ボルト6までの距離より短い距離の位置に、相対回転位相が最遅角位相または最進角位相のときにベーン部22が当接するように備えられる。すなわち、進角室R1内に備えられる保護体91は、径方向の位置が回転軸芯Xから連結ボルト6までの距離より短い距離となる位置であって、周方向の位置が
図7に示されるように相対回転位相が最遅角位相のときにベーン部22が当接する位置に備えられる。ここで、回転軸芯Xとは外部ロータ10の回転中心であり、連結ボルト6とはフロントプレート4から外部ロータ10に挿通し、リヤプレート5に螺合している締結用のボルトである。したがって、進角室R1内の保護体91は、回転軸芯Xから連結ボルト6までの距離D1を基準にして、回転軸芯Xからの短い距離D3となる位置を径方向の位置として備えられる。また、その際の周方向の位置は、遅角室R2に作動油が供給され、外部ロータ10と内部ロータ20との相対回転位相が最遅角位相となった場合にベーン部22が保護体91に当接する位置に設けられる。このように構成することにより、連結ボルト6と保護体91とが周方向において互いに干渉することを抑制できる。したがって、油室の周方向の距離をできるだけ長くすることができるので、相対回転位相の変位角を大きく設定することが可能となる。
【0057】
同様に、遅角室R2内に備えられる保護体91は、径方向の位置が回転軸芯Xから連結ボルト6までの距離より短い距離となる位置であって、周方向の位置が
図8に示されるように相対回転位相が最進角位相のときにベーン部22が当接する位置に備えられる。すなわち、遅角室R2内の保護体91は、回転軸芯Xから連結ボルト6までの距離D1を基準にして、回転軸芯Xからの短い距離D3となる位置を径方向の位置として備えられる。また、その際の周方向の位置は、進角室R1に作動油が供給され、外部ロータ10と内部ロータ20との相対回転位相が最進角位相となった場合にベーン部22が保護体91に当接する位置に設けられる。これにより、ベーン部22の動きを最遅角位相と最進角位相との間で規制することができる。
【0058】
また、本実施形態では保護体91は、外部ロータ10の回転軸芯Xと平行な軸芯を有する円柱状に形成される。保護体91は、進角室R1及び遅角室R2の夫々を回転軸芯Xの軸芯方向に貫通し、フロントプレート4とリヤプレート5とに亘って係合するように設けられる。
【0059】
ベーン部22における保護体91に対向する面には、保護体91の外周面の曲率よりも小さい曲率を有し、保護体91の少なくとも一部が収容可能な円弧状部92が形成されている。ベーン部22における保護体91に対向する面とは、ベーン部22の回転駆動に伴い、保護体91に当接する側の面であり、進角室R1又は遅角室R2に作動油が供給された場合に、ベーン部22に油圧が作用する面が相当する。
【0060】
保護体91の外周面の曲率とは、保護体91の外周面が形成する円弧の曲がり具合を示す指標であり、保護体91の半径の逆数により規定される値に相当する。一方、ベーン部22における保護体91に対向する面には円弧状部92が形成される。円弧状部92とは、円弧の一部の形状を有して形成された部位である。円弧状部92は、その曲率が保護体91の外周面の曲率よりも小さい曲率で形成される。すなわち、円弧状部92を円弧の一部として有する円の半径が、保護体91の半径よりも大きく形成される。
【0061】
この円弧状部92は、ベーン部22において回転軸芯X方向に亘って形成される。したがって、保護体91と円弧状部92とは、夫々の軸芯が平行に構成される。また、円弧状部92はベーン部22の進角方向S1側の面及び遅角方向S2側の面に設けられ、円弧状部92は夫々の方向に対して凹形状で形成される。したがって、ベーン部22が遅角方向S2の側に回転駆動した場合には、
図7に示されるように進角室R1に配設された保護体91がベーン部22の遅角方向S2の側を向く円弧状部92に一部が収容される。一方、ベーン部22が進角方向S1の側に回転駆動した場合には、
図8に示されるように遅角室R2に配設された保護体91がベーン部22の進角方向S1の側を向く円弧状部92に一部が収容される。
【0062】
これにより、保護体91を収容する位置までベーン部22が回転駆動することができるので、ベーン部22の回転範囲を大きく確保することができる。また、ベーン部22が最進角位置又は最遅角位置に達した場合に油室の端部の側に貯留する作動油の量を少なくすることができる。したがって、応答性を向上することができる。
【0063】
次に、本実施形態の変形例について説明する。上記第2の実施形態では、
図7において、相対回転位相が最遅角位相になった場合に、進角室R1の側の保護体91の周囲、特に保護体91よりも回転軸芯Xの径方向外側に油室が残存するように図示した。また、
図8において、相対回転位相が最進角位相になった場合に、遅角室R2の側の保護体91の周囲、特に保護体91よりも回転軸芯Xの径方向外側に油室が残存するように図示した。
【0064】
係る場合でも、上述のように応答性を向上させることができるが、本実施形態では更に始動時における応答性を向上するために、相対回転位相が最進角位相にある状態から遅角方向S2の側に回転駆動する場合、及び相対回転位相が最進角位相にある状態から進角方向S1の側に回転駆動する場合に残存する油室の容積を小さくするよう構成すると好適である。このような構成の一例が、
図9に示される。
図9の例では、進角室R1の側の保護体91及び遅角室R2の側の保護体91よりも、回転軸芯Xの径方向外側の区画部12がベーン部22の形状に沿ってベーン部22の側に張り出すように構成されている。これにより、
図6の例よりも、相対回転位相が最進角位相にある状態において残存する遅角室R2の容積、及び相対回転位相が最遅角位相にある状態において残存する進角室R1の容積を小さくすることが可能となる。したがって、相対回転位相が最進角位相にある状態において遅角室R2に作動油が満たされるまでの時間、及び相対回転位相が最遅角位相にある状態において進角室R1に作動油が満たされるまでの時間を短縮することができるので、特に始動時における応答性を向上することが可能となる。
【0065】
また、上記第2の実施形態では、一対の保護体91が同一の油室に備えられているものとして説明した。例えば、一対の保護体91が異なる油室に備えられているように構成することも可能である。このような例が
図10に示される。
図10の例では、隣接する油室に一対の保護体91が備えられている。したがって、1つの区画部12を挟む形態で一対の保護体91が配置される。このため、ベーン部22は、夫々の保護体91に対向する側の面にのみ円弧状部92を備えると好適である。係る場合でも、相対回転位相を最進角位相と最遅角位相との間で適切に規制することが可能である。
【0066】
3.別実施形態
本発明は、上記した実施形態以外に以下のように構成しても良い。
【0067】
(a)ロック機構Lとして外部ロータ10と内部ロータ20との一方に、半径方向の出退自在にロック部材を備え、これに対応する位置にロック凹部を形成し、ロック凹部にロック部材が係入することによりロック状態に達するよう構成しても良い。
【0068】
(b)補強体15を備える位置として、連結ボルト6より区画部12の突出側に備える必要はなく、回転軸芯Xを基準にして連結ボルト6までの距離と等しい位置に並列的に備えても良い。
【0069】
(c)前述した実施形態では、外部ロータ10とフロントプレート4とリヤプレート5とを備えた弁開閉時期制御装置を説明したが、例えば、外部ロータ10とフロントプレート4とを一体成形することでカップ状となる外部ロータ10を構成しても良い。この場合、ロックピン31はリヤプレート5と区画部12とに係合して良く、カップ状の外部ロータ10の底部と区画部12とに係合しても良い。これと同様に、外部ロータ10とリヤプレート5とを一体成形することでカップ状となる外部ロータ10を構成しても良い。このように構成した外部ロータ10においてもロックピン31の係合形態が、この別実施形態(c)において先に説明したものと同様に構成できる。
【0070】
(d)上記第2の実施形態では、一対の保護体91が備えられているとして説明したが、保護体91を全ての油室に備える構成とすることも可能である。更には、進角室R1に備えられる保護体91と、遅角室R2に備えられる保護体91との数が異なるように設けることも可能である。
【0071】
(e)上記第2の実施形態では、ベーン部22に円弧状部92が備えられるとして説明したが、円弧状部92を備えずにベーン部22を構成することも当然に可能である。また、保護体91は円柱状で形成されるとして説明したが、他の形状で構成することも当然に可能である。更には、円弧状部92は、円弧の形状に限らず、他の形状で構成することも当然に可能である。