(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6102303
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】光硬化性組成物を薄板ガラス支持体上に塗工するフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 41/24 20060101AFI20170316BHJP
B29C 41/40 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
B29C41/24
B29C41/40
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-25738(P2013-25738)
(22)【出願日】2013年2月13日
(65)【公開番号】特開2014-151309(P2014-151309A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2016年1月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】特許業務法人 小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宗内 研二
【審査官】
増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−269946(JP,A)
【文献】
特開2000−127281(JP,A)
【文献】
特開2012−220887(JP,A)
【文献】
特開2006−306081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 41/00−41/52
B29C 39/00−39/44
B05D 1/00−7/26
C08F 2/46
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化性組成物の塗膜を硬化させたフィルム層の膜厚が20μm以上80μm以下であるフィルムの製造方法であって、
1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能性モノマーを含有する電離放射線硬化型樹脂、光重合開始剤、及び溶剤からなる光硬化性組成物を、ロール化可能な薄板ガラス支持体上に塗工する塗工工程と、
前記塗工工程後に、前記光硬化性組成物の塗膜中の溶媒を乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥工程後に、前記薄板ガラス支持体において前記光硬化性組成物を塗工した塗工面と、前記塗工面の反対面とに紫外光照射を行う照射工程と、
前記照射工程を経て前記光硬化性組成物の塗膜が硬化したフィルム層を、前記薄板ガラス支持体から剥離してフィルムを得る剥離工程と、
前記剥離工程後に前記フィルムの巻取りを行う巻取り工程と、を備えることを特徴とするフィルムの製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記薄板ガラス支持体の厚さが、0.05mm以上0.15mm以下であることを特徴とするフィルムの製造方法。
【請求項3】
請求項1、又は2において、
前記薄板ガラス支持体から剥離したフィルムを50mm×3mmの大きさに切り取った矩形のフィルム片に生じるカールの曲率半径が、140mm以上であることを特徴とするフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロールツーロールのウェットコーティング法などにて光硬化性組成物を薄板ガラス支持体上に塗工するフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルムの製造方法として、溶融押出成型法や溶液流延法などが一般的である。これらの方法を用いることで、安価で品質の高いフィルムが大量生産可能となっている。このとき、溶液流延法では、キャスティングドラムやステンレス製の平滑ベルトなどの支持体上に塗材を流延してフィルムを作製するのが一般的である(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−023312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、塗材に光硬化性組成物を用いる場合、塗膜の膜厚が厚くなると下層部まで反応が進まない場合がある。そのような場合は、表層部と下層部で硬化の進行度合いが異なってしまう。そのため、支持体から剥離したフィルムがカールしてしまうことや、フィルムをロール化した際に未反応部が起点となってブロッキングが生じてしまうことが懸念される。本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、カールやブロッキングの少ないフィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、光を透過しない金属性のドラムやベルトの代わりに、光を透過する薄板ガラス支持体(薄膜ガラス支持体)を用いることで、上記課題を解決するものである。具体的には、薄板ガラス支持体は透明であるため、ガラス側からも紫外光を透過させることが可能であり、下層部の重合反応が促進される。また、薄板ガラス支持体はPMMAやPETなどの有機系フィルムよりも耐熱性が高いことから、高温下でも変形することない。そのため、熱硬化性樹脂や高沸点溶剤を使用できることが可能であるため、幅広い組成物のチューニングが可能となる。
【0006】
本発明は、ロール化可能な薄板ガラス支持体を用いることにより、ロールツーロールにてフィルムの生産可能となり、この薄板ガラス支持体に光硬化性組成物を厚く塗工した場合でも下層部まで反応させることが可能となる。そのため、カールやブロッキングの少ないフィルムの製造方法を提供することが可能となる。
【0007】
第1の発明は、
光硬化性組成物の塗膜を硬化させたフィルム層の膜厚が20μm以上80μm以下であるフィルムの製造方法であって、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能性モノマーを含有する電離放射線硬化型樹脂、光重合開始剤、及び溶剤からなる光硬化性組成物を、ロール化可能な薄板ガラス支持体上に塗工する塗工工程と、
塗工工程後に、光硬化性組成物の塗膜中の溶媒を乾燥させる乾燥工程と、乾燥工程後に、薄板ガラス支持体において光硬化性組成物を塗工した塗工面と、塗工面の反対面とに紫外光照射を行う照射工程と
、照射工程を経て光硬化性組成物の塗膜が硬化したフィルム層を、薄板ガラス支持体から剥離してフィルムを得る剥離工程と、剥離工程後にフィルムの巻取りを行う巻取り工程と、を備えることを特徴とするフィルムの製造方法である。
【0010】
第
2の発明は、第
1の発明において、薄板ガラス支持体の厚さが、0.05mm以上0.15mm以下である。
【0011】
第
3の発明は、第1
、又は第2の発明において、薄板ガラス支持体から剥離したフィルムを50mm×3mmの大きさに切り取った矩形のフィルム片に生じるカールの曲率半径が、140mm以上である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光硬化性組成物を例えば厚く塗布した場合において生じるフィルム表層部と下層部の硬化の進行度合いの差を少なくすることにより、薄板ガラス支持体を剥離したフィルムに生じるカールの曲率半径が小さく、ブロッキング発生の問題が生じない厚膜フィルムが作製可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】紫外光照射装置の配置の一例を示す概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一例として、実施の形態に係るフィルムの製造方法について説明する。フィルムの製造方法は、光硬化性組成物を薄板ガラスに塗工する塗工工程と、塗工工程後に薄板ガラスの塗工面とその塗工面の反対面とに紫外光照射を行う照射工程とを少なくとも備える。
【0015】
本発明に用いるロール化可能な薄板ガラス(薄膜ガラス)は、6インチコアに巻き取ることができれば良く、更に好ましくは3インチコアに巻き取れることが好ましい。薄板ガラスは、柔軟で曲げることができるフレキシブルガラスである。薄板ガラスの厚さに関しては、0.05以上0.15mm以下が好ましく、更に好ましくは0.1mmが好ましい。0.05mm未満では機械的強度が弱くなりクラックが入りやすくなり、0.15mmより厚い場合には巻き取りが困難となる。薄板ガラスは、例えばロールツーロールの基板として用いられる。
【0016】
次に、本発明における光硬化性組成物について説明する。光硬化性組成物は、少なくとも溶剤、電離放射線硬化型樹脂、及び光重合開始剤を混合攪拌するによって得ることができ、薄板ガラス上に塗工する塗材として用いられる。
【0017】
本発明における溶剤としては、ジブチルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、炭酸ジメチル、プロピレンオキシド、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、1,3,5−トリオキサン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトール等のエーテル類、またアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、およびメチルシクロヘキサノン等のケトン類、また蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸n−ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン醸エチル、酢酸n−ペンチル、およびγ−プチロラクトン等のエステル類、さらにメチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルブアセテート等のセロソルブ類が挙げられる。これらを単独、もしくは2種類以上合わせて用いても良い。
【0018】
本発明で用いられる電離放射線硬化型樹脂は、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を含有する多官能性モノマーを主成分とする。
【0019】
多官能性モノマーとしては、1,4‐ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、3−メチルペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールビスβ‐(メタ)アクリロイルオキシプロピネート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリ(2−ヒドロキシエチル)イソシアネートジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、2,3‐ビス(メタ)アクリロイルオキシエチルオキシメチル[2.2.1]ヘプタン、ポリ1,2−ブタジエンジ(メタ)アクリレート、1,2−ビス(メタ)アクリロイルオキシメチルヘキサン、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラデカンエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、10−デカンジオール(メタ)アクリレート、3,8−ビス(メタ)アクリロイルオキシメチルトリシクロ[5.2.10]デカン、水素添加ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、1,4−ビス((メタ)アクリロイルオキシメチル)シクロヘキサン、ヒドロキシピバリンサンエステルネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、エポキシ変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの多官能モノマーは、単独で使用しても良いし、2種類以上を併用しても良い。また、必要で有れば単官能モノマーと併用して共重合させることもできる。
【0020】
また、本発明にて好ましい多官能性モノマーとして、ウレタンアクリレートも挙げられ、一般にポリエステルポリオールにイソシアネートモノマー、もしくはプレポリマーを反応させて得られた生成物に、水酸基を有するアクリレートモノマーを反応させ容易に形成されるものを挙げることができる。
【0021】
具体的な例としては、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレートトルエンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートトルエンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレートイソホロンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートイソホロンジイソシアネートウレタンプレポリマーなどを用いることができる。また、これらの単量体は、1種で、または2種以上を混合して使用することができる。また、これらは塗液においてモノマーであってもよいし、一部が重合したオリゴマーであってもかまわない。
【0022】
光重合開始剤としては、例えば、2,2−エトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ジベンゾイル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、p−クロロベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、ミヒラーケトン、アセトフェノン、2−クロロチオキサントン等が挙げられる。これらを単独で、もしくは2種類以上合わせて用いても良い。
【0023】
なお、光硬化性組成物は、溶媒、電離放射線硬化型樹脂、及び光重合開始剤以外に、添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、防汚剤、表面調整剤、レベリング剤、屈折率調整剤、密着性向上剤、光増感剤、導電材料、顔料、染料等を加えることもできる。
【0024】
次いで、本発明のフィルムの製造方法について説明する。
【0025】
本発明に使用する支持体としては、0.1mm厚のガラス(薄板ガラス)を用いている。
【0026】
塗膜の形成方法としては、ウェットコーティング法とされる、ディップコーティング法、スピンコーティング法、フローコーティング法、スプレーコーティング法、ロールコーティング法、グラビアロールコーティング法、エアドクターコーティング法、プレードコーティング法、ワイヤードクターコーティング法、ナイフコーティング法、リバースコーティング法、トランスファロールコーティング法、マイクログラビアコーティング法、キスコーティング法、キャストコーティング法、スロットオリフィスコーティング法、カレンダーコーティング法、ダイコーティング法等などにより、支持体の少なくとも片面に、光硬化性組成物を塗布することにより形成することができる。
【0027】
そして、光硬化性組成物を塗布する塗工工程後に、支持体上に形成された光硬化性組成物の塗膜中の溶媒を除去するために、乾燥手段を用いて溶媒を乾燥させる乾燥工程を行う。乾燥手段としては、加熱、送風、熱風等を用いることができる。
【0028】
フィルム層を形成する際の硬化方法としては、例えば、紫外線照射、加熱等を用いることができる。紫外線照射の場合、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ等を使用することができる。このとき、紫外線照射をフィルム面とガラス面から行うことができる。つまり、照射工程では、支持体(ガラス)の片面(表面)に光硬化性組成物を塗布した場合に、支持体の表面側と裏面側の両方に対して、紫外線照射を行うことができる。
図1に示すように、紫外線照射装置11、12は、支持体10の表側(塗膜15側)と裏側とにそれぞれ配置される。支持体上には、照射工程を経て塗膜が硬化することで、フィルム層が得られる。
【0029】
フィルム層の膜厚として、塗工精度、取扱いの観点から、20μm以上80μm以下の範囲が好ましい。フィルム層の膜厚が20μm未満の場合は、フィルムの機械的強度が低いためフィルムの取り扱い難く、フィルム層の膜厚が80μmより厚い場合は、フィルムの巻き取りや塗布が困難となる。照射工程の後は、フィルム層を支持体から剥離してフィルムを得る剥離工程が行われる。なお、本実施の形態では、支持体から剥離したフィルムを50mm×3mmの大きさに切り取った矩形のフィルム片に生じるカールの曲率半径が、140mm以上となる。
【0030】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は実施例の形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
[光硬化性組成物の調整]
下記材料を混合攪拌して光硬化性組成物を得た。
多官能モノマー(UA−306I 共栄社化学社製) 15重量部
2官能モノマー(ライトアクリレート4EG−A 共栄社化学社製) 50重量部
光重合開始剤(BASFジャパン社製、商品名;Irgacure184) 5重量部
溶剤(酢酸エチル) 30重量部
【0032】
[フィルム層の形成]
薄板ガラス上に、光硬化性組成物を、アプリケーターにて乾燥後の膜厚が20μm〜80μm程度になるように塗布し、100℃のオーブンにて2分間乾燥させ、高圧水銀灯により300mJ/cm2の紫外線を照射し、フィルム層を形成した。そして、薄板ガラスからフィルム層を剥離してフィルムを得た。下記の表1に実施例とその評価結果を示す。
【0033】
また、各実施例、及び各比較例で作製したフィルムの性能は、下記の方法に従って評価した。
【0034】
カールの評価では、支持体から剥離されたフィルムを50mm×3mmの大きさに切り取り、その切り取り片(矩形のフィルム片)の曲率半径を測定した。このとき、曲率半径が140mm未満では、フィルムを平板の上に載せた際に、フィルムの端部の浮きが見られる。一方、曲率半径が140mm以上では、フィルムの端部の浮きが見られない。
【0035】
ブロッキングの評価では、支持体から剥離されたフィルムを5cm角に切り取り、その5cm角の切り取り片を5枚重ねた積層体を、10kgの荷重で12時間プレスした。そして、プレス後に、ブロッキングしていない場合を“○”と評価し、ブロッキングしている場合を“×”と評価した。
【0036】
【表1】
【0037】
比較例1の場合(膜厚が薄く塗工面のみに紫外光を照射した場合)は、カールとブロッキングは共に見られなかった。しかし、塗工面のみに紫外線を照射する比較例において、膜厚を厚くすると、比較例2でブロッキングが発生し、更に膜厚を厚くした比較例3ではカールも見られた。これに対して、塗工面とそれとは反対面の両面に紫外光を照射した実施例1〜3では、カールとブロッキングが共に発生しない結果であった。比較例ではブロッキングが発生し、カールの曲率半径が140mm以下の膜厚においても、実施例では、カールとブロッキングが共に発生しない結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、液晶表示装置などの表示装置の部品、包装材、又は建築部材などに用いられる機能性フィルムの製造などに適用可能である。
【符号の説明】
【0039】
10 支持体
11、12 紫外線照射装置
15 塗膜