特許第6102334号(P6102334)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6102334炭酸ジアルキル及びシュウ酸ジアルキルの製造方法、並びに製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6102334
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】炭酸ジアルキル及びシュウ酸ジアルキルの製造方法、並びに製造装置
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/36 20060101AFI20170316BHJP
   C07C 68/00 20060101ALI20170316BHJP
   C07C 69/36 20060101ALI20170316BHJP
   C07C 69/96 20060101ALI20170316BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20170316BHJP
【FI】
   C07C67/36
   C07C68/00 A
   C07C69/36
   C07C69/96 Z
   !C07B61/00 300
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-34566(P2013-34566)
(22)【出願日】2013年2月25日
(65)【公開番号】特開2014-162746(P2014-162746A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2015年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】森下 啓之
(72)【発明者】
【氏名】瀧 元伸
(72)【発明者】
【氏名】千鳥 増広
(72)【発明者】
【氏名】久保 宜昭
【審査官】 斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−323470(JP,A)
【文献】 特開2004−107336(JP,A)
【文献】 特開平09−062368(JP,A)
【文献】 特開2002−284724(JP,A)
【文献】 特開平10−139754(JP,A)
【文献】 特開2006−063070(JP,A)
【文献】 特開平08−100222(JP,A)
【文献】 特開2005−121666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 67/36
C07C 68/00
C07C 69/36
C07C 69/96
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一酸化炭素と亜硝酸アルキルと一酸化窒素とを含有する第1ガスを第1反応器に導入し、触媒の存在下で前記一酸化炭素と前記亜硝酸アルキルとを反応させて、シュウ酸ジアルキル及び/又は炭酸ジアルキルと一酸化窒素とを含有する第2ガスを生成させる第一工程と、
前記第2ガスをシュウ酸ジアルキル及び/又は炭酸ジアルキルを吸収する吸収液と接触させて、シュウ酸ジアルキル及び/又は炭酸ジアルキルを含む凝縮液と、前記一酸化窒素を含有する非凝縮ガスとを得る第二工程と、
前記非凝縮ガス及び分子状酸素を混合して得られた混合ガスとアルコールとを第2反応器に導入し、前記一酸化窒素、前記分子状酸素及び前記アルコールを反応させて、前記一酸化窒素とともに前記亜硝酸アルキルを含有する第3ガスを得る第三工程と、
前記凝縮液を蒸留し、シュウ酸ジアルキル及び/又は炭酸ジアルキルを得る第四工程と、
前記第3ガスと一酸化炭素とを混合して得られた前記第1ガスを前記第一工程に循環する第五工程と、を有するシュウ酸ジアルキル及び/又は炭酸ジアルキルの製造方法であって、
前記第1ガスにおける前記一酸化窒素の濃度を検出器で検出し、制御部において、検出された前記一酸化窒素の前記濃度が目標の範囲内であるか否かを判断し、前記濃度が目標の範囲外であるときに前記分子状酸素の量を調整する流量調整弁の開度を変えて前記非凝縮ガスに混合する前記分子状酸素の量を調整し、前記濃度を前記目標の範囲内とする工程を有するシュウ酸ジアルキル及び/又は炭酸ジアルキルの製造方法。
【請求項2】
前記第1ガスにおける前記一酸化窒素の濃度を、前記第1ガス全体を基準として、1〜20体積%の範囲に維持する、請求項1に記載のシュウ酸ジアルキル及び/又は炭酸ジアルキルの製造方法。
【請求項3】
前記工程では、前記第3ガスにおける一酸化窒素の濃度を検出器で検出し、前記制御部において、前記第3ガスの前記一酸化窒素の濃度が目標の範囲内であるか否かを判断し、前記第3ガスの前記濃度が目標の範囲外であるときに前記流量調整弁の開度を変えて前記非凝縮ガスに混合する前記分子状酸素の量を調整し、前記第3ガスの前記濃度を前記目標の範囲内とする、請求項1又は2に記載のシュウ酸ジアルキル及び/又は炭酸ジアルキルの製造方法。
【請求項4】
一酸化炭素と亜硝酸アルキルとを反応させて、シュウ酸ジアルキル及び/又は炭酸ジアルキルと一酸化窒素とを生成する触媒を有し、一酸化炭素と亜硝酸アルキルと一酸化窒素とを含有する第1ガスからシュウ酸ジアルキル及び/又は炭酸ジアルキルと一酸化窒素とを含有する第2ガスを生成する第1反応器と、
前記第2ガスとシュウ酸ジアルキル及び/又は炭酸ジアルキルを吸収する吸収液とを接触させて、シュウ酸ジアルキル及び/又は炭酸ジアルキルを含む凝縮液と、前記一酸化窒素を含有する非凝縮ガスとに分離する吸収塔と、
前記非凝縮ガス及び分子状酸素の混合ガスとアルコールとを導入し、前記一酸化窒素、前記分子状酸素及び前記アルコールを反応させて、前記一酸化窒素とともに亜硝酸アルキルを含有する第3ガスを生成する第2反応器と、
前記第3ガスと一酸化炭素とを混合して得られる前記第1ガスにおける前記一酸化窒素の濃度を検出する検出器と、
前記非凝縮ガスに混合する前記分子状酸素の量を調整する流量調整弁と、
前記検出器で検出された前記濃度が目標の範囲内であるか否かを判断し、前記濃度が目標の範囲外であるときに、前記流量調整弁の開度を変えて前記濃度を前記目標の範囲内とする制御部と、を備える、シュウ酸ジアルキル及び/又は炭酸ジアルキルの製造装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1ガスにおける前記一酸化窒素の濃度を、前記第1ガス全体を基準として、1〜20体積%の範囲に維持するように、前記流量調整弁を制御する、請求項4に記載のシュウ酸ジアルキル及び/又は炭酸ジアルキルの製造装置。
【請求項6】
前記第3ガスにおける一酸化窒素の濃度を検出する検出器をさらに備え、
前記制御部は、検出された前記第3ガスの前記一酸化窒素の濃度が目標の範囲内であるか否かを判断し、前記第3ガスの前記濃度が目標の範囲外であるときに、前記流量調整弁の開度を変えて前記第3ガスの前記濃度を前記目標の範囲内とする、請求項4又は5に記載のシュウ酸ジアルキル及び/又は炭酸ジアルキルの製造装置
【請求項7】
前記第1反応器を複数有する請求項4〜6のいずれか一項に記載のシュウ酸ジアルキル及び/又は炭酸ジアルキルの製造装置。
【請求項8】
前記第2反応器を複数有する請求項4〜7のいずれか一項に記載のシュウ酸ジアルキル及び/又は炭酸ジアルキルの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸ジアルキル及びシュウ酸ジアルキルの製造方法、並びに、炭酸ジアルキル及びシュウ酸ジアルキルの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸ジアルキルは、芳香族ポリカーボネートや医農薬等の合成原料として有用な化合物である。また、シュウ酸ジアルキルも、グリコール類、染料中間体、及び医薬などの合成原料として有用な化合物である。従来から、これらの化合物を、連続的に量産するための方法が提案されている。例えば、炭酸ジメチル及びシュウ酸ジメチルを連続的に製造するプロセスとして、一酸化炭素と亜硝酸メチル等を原料として、白金族金属系固体触媒の存在下、気相反応によって合成を行う方法が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−323470号公報
【特許文献2】特開平11−279116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1,2のような製造方法では、原料である亜硝酸アルキルを循環利用しながら触媒反応によって、所望の化合物を製造している。このような製造方法では、スケールアップによって大量生産することが可能であるが、連続的に安定して製造を継続する技術を確立することが求められる。これは、連続的な製造が一旦途切れてしまうと、装置の運転開始操作及び運転停止操作など煩雑な操作が必要になるうえに、運転停止に伴う機会損失が大きくなってしまうためである。
【0005】
安定的に製造を継続するためには、触媒活性を維持することが求められる。このような触媒は、酸素と接触すると活性が損なわれることから、運転中において、触媒が酸素と接触する頻度を可能な限り低減することが好ましい。また、循環ガス中には可燃性ガスが多量に含まれているため、安全性の観点からも循環ガス中の酸素濃度は低い方が望ましい。一方で、上記の炭酸ジアルキル及びシュウ酸ジアルキルの製造プロセスでは、触媒反応の前段階において、分子状酸素を導入して、一酸化窒素から原料となる亜硝酸アルキルを生成する反応が行われる。ここで導入される分子状酸素の量が過剰になると、後段にある炭酸ジアルキル又はシュウ酸ジアルキルを合成するための触媒と分子状酸素とが接触してしまい、触媒の活性が低下してしまう。
【0006】
このような事象を回避するために、触媒を有する反応器に供給する亜硝酸アルキルを含むガスにおいて、分子状酸素の混入量が増加しないように、分子状酸素(酸素ガス)の混入量を監視しながら装置の運転を継続することが考えられる。しかしながら、触媒を有する反応器に導入されるガス中の成分の大部分は亜硝酸アルキル及び一酸化炭素であり、分子状酸素の含有量は極めて低い。このような微量の分子状酸素を十分な精度で検出することは困難である。また、分子状酸素の混入を抑制しようとして、分子状酸素と反応する一酸化窒素の濃度を高くし過ぎると、反応剤である一酸化炭素や亜硝酸アルキルの濃度が低くなるため、目的生成物である炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルの生産効率が低下してしまうことが懸念される。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、触媒の活性の低下を十分に抑制することによって安定的に炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルを製造することを可能とし、しかもこれらを高効率で製造することが可能な製造方法を提供することを目的とする。また、本発明では、触媒の活性の低下を十分に抑制することによって安定的に炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルを製造することを可能とし、しかもこれらを高効率で製造することが可能な製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために、触媒を有する反応器に導入されるガス中の分子状酸素の濃度を管理するための指標を種々検討した。そして、当該ガス中に含まれる一酸化窒素の濃度が、分子状酸素の濃度と密接な関係があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、一酸化炭素と亜硝酸アルキルと一酸化窒素とを含有する第1ガスを第1反応器に導入し、触媒の存在下で一酸化炭素と亜硝酸アルキルとを反応させて、シュウ酸ジアルキル及び/又は炭酸ジアルキルと一酸化窒素とを含有する第2ガスを生成させる第一工程と、第2ガスをシュウ酸ジアルキル及び/又は炭酸ジアルキルを吸収する吸収液と接触させて、シュウ酸ジアルキル及び/又は炭酸ジアルキルを含む凝縮液と、一酸化窒素を含有する非凝縮ガスとを得る第二工程と、非凝縮ガス及び分子状酸素を混合して得られた混合ガスとアルコールとを第2反応器に導入し、一酸化窒素、分子状酸素及びアルコールを反応させて、亜硝酸アルキルを含有する第3ガスを得る第三工程と、凝縮液を蒸留し、シュウ酸ジアルキル及び/又は炭酸ジアルキルを得る第四工程と、第3ガスを第1ガスとして第一工程に循環させる第五工程と、を有するシュウ酸ジアルキル及び/又は炭酸ジアルキルの製造方法であって、第1ガス及び/又は第3ガスにおける一酸化窒素の濃度を検出し、該濃度に基づいて、第三工程における非凝縮ガスに混合する分子状酸素の量を調整する工程を有するシュウ酸ジアルキル及び/又は炭酸ジアルキルの製造方法を提供する。
【0010】
上述の本発明の製造方法では、第1反応器に導入される第1ガス及び/又は第3ガスの一酸化窒素の濃度を検出し、その濃度に基づいて非凝縮ガスに混合する分子状酸素の量を調整して、第三工程で用いられる混合ガスを得ている。一酸化窒素は、第一工程で第1反応器に導入されても、触媒の活性低下及び劣化等に重大な影響を及ぼさないことから、第1ガス及び第1ガスとなる第3ガス中には、一酸化窒素を分子状酸素よりも高い濃度で存在させることができる。このため、第1ガス及び第3ガスにおける一酸化窒素の濃度は、分子状酸素の濃度よりも精度よく検知することができる。そして、第1ガス及び第3ガスにおける一酸化窒素の濃度と分子状酸素の濃度とには密接な関係がある。このため、一酸化窒素の濃度を監視すれば、第1ガス及び第3ガスにおける分子状酸素を直接検出しなくても、第1ガスにおける分子状酸素の濃度を精度よく監視することができる。
【0011】
このように、第1ガス及び/又は第3ガスにおける一酸化窒素の濃度を監視しながら、非凝縮ガスに混合する分子状酸素の量を調整していることから、分子状酸素による触媒の活性低下や劣化を抑制しながら、製造装置の能力を十分に有効活用することができる。すなわち、従来は、触媒の活性低下や劣化を抑制するために、製造装置の運転効率を犠牲にして、非凝縮ガスに対する分子状酸素の混合比率を細かく調整することが難しかった。しかしながら、本発明の製造方法では、第1ガスにおける分子状酸素の濃度の管理指標として、分子状酸素の濃度と密接な関係がある一酸化窒素の濃度を採用している。第1ガス及び第3ガスにおける一酸化窒素の濃度は、十分な検出感度で検出できる程度に調整することができるため、従来よりも第三工程の混合ガス中における分子状酸素の割合を細かく調整することが可能となり、製造装置の能力を十分に有効活用することができる。
【0012】
本発明では、第1ガスにおける一酸化窒素の濃度は、第1ガス全体を基準として、1〜20体積%の範囲に維持することが好ましい。また、本発明では、第3ガスにおける一酸化窒素の濃度は、第3ガス全体を基準として、1〜20体積%の範囲に維持することが好ましい。第1ガス、第2ガス及び第3ガスは、窒素ガス、及びアルゴンガス等の不活性ガスを含んでいてもよい。これによって、触媒が分子状酸素と接触する頻度を一層低減し、一層長い期間に亘って高い効率で製造運転を継続することができる。また、安全性を十分に向上させた上で亜硝酸アルキルと一酸化炭素との反応速度を高くすることができる。
【0013】
本発明はまた、別の側面において、一酸化炭素と亜硝酸アルキルとを反応させて、シュウ酸ジアルキル及び/又は炭酸ジアルキルと一酸化窒素とを生成する触媒を有し、一酸化炭素と亜硝酸アルキルと一酸化窒素とを含有する第1ガスからシュウ酸ジアルキル及び/又は炭酸ジアルキルと一酸化窒素とを含有する第2ガスを生成する第1反応器と、第2ガスとシュウ酸ジアルキル及び/又は炭酸ジアルキルを吸収する吸収液とを接触させて、シュウ酸ジアルキル及び/又は炭酸ジアルキルを含む凝縮液と、一酸化窒素を含有する非凝縮ガスとに分離する吸収塔と、非凝縮ガス及び分子状酸素の混合ガスとアルコールとを導入し、一酸化窒素、分子状酸素及びアルコールを反応させて、一酸化窒素とともに亜硝酸アルキルを含有する第3ガスを生成する第2反応器と、第1ガス及び/又は第3ガスにおける一酸化窒素の濃度を検出する検出器と、該濃度に基づいて、非凝縮ガスに混合する分子状酸素の量を調整する流量調整手段と、を備える、シュウ酸ジアルキル及び/又は炭酸ジアルキルの製造装置を提供する。
【0014】
上述の本発明の製造装置では、第1反応器に導入される第1ガス及び/又は第3ガスの一酸化窒素の濃度を検出する検出器を備え、検出器で検出された一酸化窒素の濃度に基づいて、非凝縮ガスに混合する分子状酸素の量を調整する流量調整手段を備えている。一酸化窒素は、第1反応器に導入されても第1反応器の触媒の活性低下及び劣化等の作用を殆ど有しないことから、第1ガス中には、一酸化窒素を分子状酸素よりも高い濃度で存在させることができる。このため、第1ガスにおける一酸化窒素の濃度は、分子状酸素の濃度よりも精度よく検知することができる。そして、第1ガス及び第3ガスにおける一酸化窒素の濃度と分子状酸素の濃度とには密接な関係がある。このため、一酸化窒素の濃度を検出する検出器を有することによって、第1ガスにおける分子状酸素を直接検出しなくても、第1ガスにおける分子状酸素の濃度を精度よく監視することができる。
【0015】
このように、第1ガスにおける一酸化窒素の濃度を監視しながら、再生塔に導入される混合ガスにおける分子状酸素の割合を細かく調整できることから、分子状酸素よる触媒の活性低下や劣化を抑制しながら、製造装置の能力を十分に発揮することができる。すなわち、従来は、触媒の活性低下や劣化を抑制するために、製造装置の運転効率を犠牲にして、非凝縮ガスに混合する分子状酸素の量をかなり少なく調整する必要があった。しかしながら、本発明の製造装置では、第1ガスにおける分子状酸素の濃度を管理するために、分子状酸素の濃度と密接な関係がある一酸化窒素の濃度を検出する検出器を採用している。第1ガス及び/又は第3ガスにおける一酸化窒素の濃度を、十分な検出感度で検出できる程度に調整することによって、従来よりも第2反応器に導入される混合ガス中の分子状酸素の割合を従来よりも高くしても、分子状酸素の割合を細かく調整できるため、製造を継続することが可能となり、製造装置の能力を一層有効に活用することができる。
【0016】
本発明では、第3ガスにおける一酸化窒素の濃度を、第3ガス全体を基準として、1〜20体積%の範囲に維持するように、流量調整手段を制御する制御部を有することが好ましい。このような装置構成とすることによって、触媒が分子状酸素と接触する頻度を一層低減し、一層長い期間に亘って高い効率で製造運転を継続することができる。
【0017】
本発明の製造装置は、第1反応器を複数有することもできる。第1反応器を並列で利用することによって、シュウ酸ジアルキル及び/又は炭酸ジアルキルの生産量の向上を図ることができる。また、複数の第1反応器のうちの一つについて、メンテナンスや触媒の交換を行う場合にも、別の第1反応器を用いて製造を継続することができる。第2反応器は、単独でも複数でも差し支えなく、生産性、運転制御性、設備費等を勘案して総合的に決定すればよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、触媒の活性の低下を十分に抑制することによって安定的に炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルを製造することを可能とし、しかもこれらを高効率で製造することが可能な製造方法を提供することができる。また、本発明では、触媒の活性の低下を十分に抑制することによって安定的に炭酸ジアルキル及び/又はシュウ酸ジアルキルを製造することを可能とし、しかもこれらを高効率で製造することが可能な製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明のシュウ酸ジアルキル及び/又は炭酸ジアルキルの製造装置の好適な一実施形態を模式的に示す図である。
図2】本発明のシュウ酸ジアルキル及び/又は炭酸ジアルキルの製造方法の好適な一実施形態を示すフローチャートである。
図3】本発明のシュウ酸ジアルキル及び/又は炭酸ジアルキルの製造装置の好適な別の実施形態を模式的に示す図である。
図4ュウ酸ジアルキル及び/又は炭酸ジアルキルの製造装置の参考例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の好適な実施形態を、場合により図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
図1は、本実施形態の炭酸ジアルキルの製造装置の好適な実施形態を模式的に示す図である。炭酸ジアルキルの製造装置100は、一酸化炭素と亜硝酸アルキルとを反応させて、炭酸ジアルキルと一酸化窒素とを生成する触媒を有し、一酸化炭素と亜硝酸アルキルと一酸化窒素とを含有する第1ガスから炭酸ジアルキルと一酸化窒素とを含有する第2ガスを生成する第1反応器10と、第2ガスと炭酸ジアルキルを吸収する吸収液とを接触させて、炭酸ジアルキルを含む凝縮液と、一酸化窒素を含有する非凝縮ガスとに分離する吸収塔20と、非凝縮ガス及び分子状酸素の混合ガスとアルコールとを導入し、一酸化窒素、分子状酸素及びアルコールを反応させて、亜硝酸アルキルと一酸化窒素とを含有する第3ガスを生成する第2反応器30と、第1ガスにおける一酸化窒素の濃度を検出する検出器40と、検出器40での検出結果に基づいて、非凝縮ガスに混合する分子状酸素の量を調整する流量調整手段である分子状酸素の流量調整弁21と、検出器40での検出結果に基づいて、流量調整弁21での調整の要否を判断し、必要に応じて流量調整弁21の開度を調整する信号を発信する制御部50とを備える。
【0022】
第1反応器10は、一酸化炭素と亜硝酸アルキルとを反応させて、炭酸ジアルキルと一酸化窒素を生成させる炭酸ジアルキル製造用触媒を有する。炭酸ジアルキル製造用触媒としては、例えば、白金族金属やその化合物が担体に担持されている固体触媒が挙げられる。固体触媒における白金族金属やその化合物の担持量は、担体に対して0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜2重量%である。担体としては、活性炭、アルミナ(γ―アルミナ等)、ゼオライト、モレキュラーシーブ、スピネル(リチウムアルミネートスピネル等)等の不活性担体が挙げられる。白金族金属やその化合物は、含浸法や蒸発乾固法等の公知の方法を用いて担体に担持される。
【0023】
白金族金属やその化合物としては、例えば、白金金属、パラジウム金属、ロジウム金属、イリジウム金属などが挙げられる。白金族金属の化合物としては、これらの金属の無機酸塩(硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩等)、ハロゲン化物(塩化物、臭化物等)、有機酸塩(酢酸塩、シュウ酸塩、安息香酸塩等)、錯体(テトラクロロパラジウム酸リチウム、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム等)などが挙げられる。これらの中でも、塩化パラジウム又はパラジウムの塩素含有錯体が好ましい。担体への白金族金属やその化合物の担持量としては、0.01〜10重量%が好ましく、0.2〜2重量%がより好ましい。
【0024】
炭酸ジアルキル製造用触媒には、白金族金属やその化合物の他に、銅、鉄、ビスマスやこれらの化合物を含有させることができる。これらの中でも、塩化物(塩化第一銅、塩化第二銅、塩化第一鉄、塩化第二鉄、塩化ビスマス等)が好ましい。担体へのこれらの担持量は、「白金族金属やその化合物」:「銅、鉄、ビスマスやこれらの化合物」(金属原子のモル比)として、1:0.1〜1:50が好ましく、1:1〜1:10がより好ましい。
【0025】
触媒の調製法は特に限定されず、例えば、白金族金属化合物を、含浸法又は蒸発乾固法などの公知の方法によって担体に担持させ、次いで、その担体を乾燥して調製することができる。
【0026】
上述の触媒を有する第1反応器10に、一酸化炭素と亜硝酸アルキルを含有する第1ガスを導入する。これによって、下記式(1)に示す気相反応が進行する。
【0027】
CO+2RONO → ROC(=O)OR+2NO (1)
【0028】
第1ガスにおける一酸化窒素の含有量は、一酸化炭素、亜硝酸アルキル及び一酸化窒素の合計を基準として、例えば5〜50体積%である。このように、第1ガスには、分子状酸素よりも高い濃度で一酸化窒素を含有する。このため、第1ガス中の一酸化窒素の濃度を、容易に且つ高い精度で検出することができる。第1ガスにおける一酸化炭素の含有量は、一酸化炭素、亜硝酸アルキル及び一酸化窒素の合計を基準として、例えば30〜70体積%である。第1ガスにおける亜硝酸アルキルの含有量は、一酸化炭素、亜硝酸アルキル及び一酸化窒素の合計を基準として、例えば10〜50体積%である。第1ガスは、一酸化炭素、亜硝酸アルキル及び一酸化窒素とともに、不活性ガスを含有していてもよい。この場合、第1ガスにおける一酸化窒素の濃度は、第1ガス全体を基準として、1〜20体積%であることが好ましい。また、第1ガスにおける一酸化炭素の濃度は、第1ガス全体を基準として、例えば10〜40体積%である。
【0029】
本実施形態では、第1反応器10を3つ備えている。本実施形態のように、第1反応器10を複数備えてもよいし、別の実施形態では、第1反応器が一つであってもよい。本実施形態のように第1反応器10を複数備えることによって、炭酸ジアルキルの生産量を増加することができる。複数の第1反応器10は、同時に用いて炭酸ジアルキルの生産量を増やしてもよいし、同時ではなく交互又は順番に用いて、第1反応器の触媒交換やメンテナンス時に、炭酸ジアルキルの製造装置100の運転を継続して行えるようにしてもよい。
【0030】
上記式(1)に示す反応によって、第1反応器10では、炭酸ジアルキルと一酸化窒素とを含有する第2ガスが生成する。第2ガスにおける炭酸ジアルキルの濃度は、第2ガス全体を基準として、例えば1〜50体積%であり、一酸化窒素の濃度は、例えば1〜20体積%である。本明細書における体積%は、標準状態(25℃、100kPa)における体積比率を示す。
【0031】
第1反応器10で生成した第2ガスは、流路12を通って吸収塔20に導入される。吸収塔20は、気液接触が可能なものであればよく、例えば、シーブトレイ、泡鐘トレイ、又はバルブトレイ等の棚段式、或いは、ポールリング又はラシッヒリング等の不規則充填材や、シート状若しくはガーゼ状の板又はこれらを合わせた複合板等の規則充填材が充填されている充填塔式の吸収塔が挙げられる。
【0032】
第1反応器10から流路12を経由して吸収塔20の下部に導入された第2ガスは、吸収塔20の上部から導入される炭酸ジアルキル吸収用吸収液(以下、単に「吸収液」という)と向流接触する。このようにして、第2ガスと吸収液とを気液接触させて、第2ガスに含まれる炭酸ジアルキルの少なくとも一部が吸収液に吸収される。これによって、炭酸ジアルキルを吸収した凝縮液と、一酸化窒素を含有する非凝縮ガスとが得られる。
【0033】
吸収塔20で用いられる吸収液としては、例えば炭酸ジアルキルのアルキル基に対応するアルコール、炭酸ジアルキル、及びシュウ酸ジアルキルなどが挙げられる。
【0034】
吸収塔20への吸収液の供給量は第2ガスにおける炭酸ジアルキルに対して、質量基準で例えば1〜30%である。アルコールとしては、メタノール又はエタノール等の炭素数1〜3の脂肪族アルコールが好ましい。回収の容易性の観点から、第1反応器10に一酸化炭素とともに導入される亜硝酸アルキルと同一のアルキル基を有するアルコールが好ましい。
【0035】
吸収塔20で得られた、吸収液と炭酸ジアルキルとを含有する凝縮液は、吸収塔20の底部に連結された流路14から抜き出される。凝縮液は、流路14を通って蒸留塔60に導入される。蒸留塔60では、沸点差によって、吸収液と炭酸ジアルキルとが分離される。吸収液としてメタノールやエタノールなどの低沸点のアルコールを用いた場合、蒸留塔60の塔頂部に連結された流路62からアルコールが、蒸留塔60の底部に連結された流路64からは目的物である炭酸ジアルキルが抜き出される。
【0036】
なお、炭酸ジメチルとメタノールとは共沸点において共沸混合物を生じる。この場合、単なる蒸留操作で各成分を分離することは困難であることから、加圧蒸留を行ったり、他成分を添加したりすることによって、共沸が生じるのを抑制して炭酸ジメチルを単離することができる。
【0037】
一方、吸収塔20で得られた、一酸化炭素を含有する非凝縮ガスは、吸収塔20の上部に連結された流路13から抜き出されて、流路13を第2反応器30に向かって流通する。流路13には、分子状酸素を導入するための流路22が連結されている。流路22から供給される分子状酸素は、非凝縮ガスと混合されて混合ガスとなる。混合ガスは、流路13を通って第2反応器30に導入される。流路22には、流路13への分子状酸素の導入量を調整するための流量調整弁21が設けられる。流量調整弁21の開度を調整することによって、混合ガスにおける分子状酸素の割合を調整することができる。
【0038】
流路13を通過した混合ガスを第2反応器30の下方から導入すると、第2反応器30の上方に連結された流路16から導入されるアルコール(ROH)と向流接触して、以下の反応式(2)で表される反応が進行する。この反応によって、亜硝酸アルキル(RONO)が生成する。式(2)中、Rはアルキル基を示す。Rは、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基である。亜硝酸アルキルの製造装置100全体で見たときに、第2反応器30は、亜硝酸アルキルを再生する機能を有する。
【0039】
第2反応器30では、反応式(3)で表される副反応が進行してもよい。設備全体の効率性を向上する観点から、反応式(3)よりも反応式(2)を促進することが好ましい。混合ガスにおける一酸化窒素と分子状酸素との混合割合は、混合ガスに含まれる一酸化窒素1モルに対して0.08〜0.2モルの割合とすることが好ましい。このような割合となるように分子状酸素を非凝縮ガスに混合することによって、未反応の分子状酸素が第1反応器10に流入することを抑制するとともに反応式(3)を抑制しつつ、反応式(2)を促進することができる。これによって亜硝酸アルキルの生産効率を高くすることができる。
【0040】
2NO+1/2O+2ROH→ 2RONO+HO (2)
NO+3/4O+1/2HO→ HNO (3)
【0041】
非凝縮ガスに分子状酸素が効率よく分散されないと、第2反応器30において、以下の反応式(4)に示す反応が進行して副生物である硝酸の生成量が増加する傾向にある。式(4)中、Rはアルキル基を示す。Rは、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基である。
【0042】
2NO+ROH+O→2NO+ROH→N+ROH→RONO+HNO (4)
【0043】
流路16から導入されるアルコールは、炭酸ジアルキルの製造装置100で製造する炭酸ジアルキルのアルキル基を有するアルコールを用いる。そのようなアルコールとしては、メタノール又はエタノール等の炭素数1〜3の脂肪族アルコールが好ましい。反応式(2)の反応を十分に進行させる観点から、第2反応器30へのアルコールの供給量は、混合ガスに含まれる一酸化窒素の供給量に対して、モル比で0.5〜1.5とすることが好ましい。
【0044】
第2反応器30における反応温度は、流路16から導入されるアルコールの種類に応じて適宜設定することができる。例えば、アルコールとしてメタノールを用いる場合、例えば0〜80℃である。反応圧力は、例えば0.1〜1MPaであり、気液接触の時間は、例えば0.5〜30秒間である。
【0045】
第2反応器30の上部から抜き出される第3ガスは、反応式(2)で生成した亜硝酸アルキルの他に、一酸化窒素、並びに一酸化二窒素及び二酸化炭素などの微量成分を含有する。これらの微量成分は、オフガスとして、流路11から分岐する流路17によって、適宜系外に排出することができる。
【0046】
第3ガスにおける一酸化窒素の含有量は、一酸化窒素と亜硝酸アルキルの合計に対して、5〜50体積%の範囲に維持することが好ましく、10〜40体積%の範囲に維持することがより好ましい。第3ガスにおける一酸化窒素の含有量が低くなりすぎると、第3ガス中における未反応の分子状酸素の混入量が高くなり、第1反応器10の触媒が分子酸素と接触して活性が低下する傾向にある。一方、第3ガスにおける一酸化窒素の含有量が高くなりすぎると、炭酸ジアルキルの製造装置100全体を循環する一酸化窒素の量が増加して、炭酸ジアルキルの生産効率が低下する傾向にある。
【0047】
第3ガスは、亜硝酸アルキル、一酸化窒素及び上述の微量成分とともに、不活性ガスを含有していてもよい。この場合、第3ガスにおける一酸化窒素の濃度は、第3ガス全体を基準として、1〜20体積%であることが好ましい。これによって、触媒が第1ガスに含まれる分子状酸素と接触する頻度を一層低減し、一層長い期間に亘って高い効率で製造運転を継続することができる。
【0048】
第2反応器30の底部に連結された流路15からは、反応式(2)及び反応式(3)で示される反応で生成した水及び硝酸、並びに未反応のアルコールが抜き出される。これらの成分は、必要に応じて下流側に設けられる回収設備によって処理して再使用してもよい。このような回収設備としては、タンクに一旦貯留された水、硝酸及びアルコールを、濃縮塔に導入して水及びアルコールと硝酸とを分離し、硝酸とアルコールに一酸化窒素や一酸化炭素を反応させて亜硝酸アルキルを生成させるものが挙げられる。このようにして得られる亜硝酸アルキルを、第2反応器30に導入してもよい。
【0049】
第3ガスは、流路11を第1反応器10に向けて流通する。流路11は、一酸化炭素を供給する流路18との合流部を有しており、合流部において第3ガスと一酸化炭素が混合される。合流部の下流側には、一酸化窒素の濃度を検出する検出器40が設けられている。検出器40で検出された一酸化窒素の濃度に応じて、検出器40から検出信号が制御部50に入力される。
【0050】
制御部50は、検出器40からの一酸化窒素の濃度に関する信号に基づいて、非凝縮ガスに混合する分子状酸素の量の制御処理を行うものであり、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及び入出力インターフェイスなどを備える。制御部50には、第1ガスの一酸化窒素の濃度に応じて流量調整弁21の開度を設定するための関数が記憶されている。
【0051】
図2は、本実施形態の炭酸ジアルキルの製造装置100に適用される分子状酸素の流量の制御方法を示すフローチャートである。図1の検出器40では、流路11における第1ガスの一酸化窒素の濃度を検出する。制御部50では、検出器40から入力された検出信号に基づいて、第1ガス中における一酸化窒素の濃度が目標の範囲内であるか否かを判断する。このときの一酸化窒素の濃度の目標範囲としては、一酸化窒素と亜硝酸アルキルの合計に対して、好ましくは5〜50体積%であり、より好ましくは15〜40体積%である。検出器40で検出された第1ガス中の一酸化窒素の濃度が目標の範囲内にあるときは、制御部50から流量調整弁21に弁の開度を調整するための信号は送信されなくてもよい。
【0052】
一方、検出器40で検出された第1ガス中の一酸化窒素の濃度が目標の範囲外であるときは、検出信号に基づいて、一酸化窒素の濃度を、目標の範囲内とするために流量調整弁21の目標開度(すなわち、目標となる分子状酸素の流量)を設定する。そして、制御部50は、その目標開度とするための制御信号を流量調整弁21に送信する。
【0053】
検出器40において、第1ガス中の一酸化窒素の濃度を検出することにより、第二反応器30の反応効率及び第1ガス中の分子状酸素の濃度を推定及び管理することできる。これは、第1ガス中における一酸化窒素の濃度が高い場合は、第2反応器30において分子状酸素が十分消費される状態であり、第1反応器10における触媒活性に影響を与えず、一方、第1ガス中における一酸化窒素の濃度が低い場合は、第2反応器30における未反応の分子状酸素が増える可能性が高まるからである。したがって、例えば、第1ガスに含まれる分子状酸素の濃度の許容上限値に基づいて、第1ガスにおける一酸化窒素の下限値を設定し、この下限値を下回らない範囲で流量調整弁21から分子状酸素を供給することによって、第1反応器10における触媒の活性低下を十分に抑制することができる。また、第1ガスにおける一酸化窒素の上限値を設定し、この上限値を上回らない範囲で流量調整弁21から分子状酸素を供給することによって、炭酸ジアルキルを高い生産効率で製造することができる。
【0054】
流量調整弁21は、電動モータなどからなるアクチュエータを備えており、アクチュエータによって弁の開度が変化する。流量調整弁21では、制御部50から流量制御信号を受信し、その流量制御信号に応じてアクチュエータが駆動して弁の開度が調整される。このように、流量調整弁21は、混合ガスにおける分子状酸素の割合を調整する流量調整手段として機能し、第2ガスに合流する分子状酸素の流量を調整する。このような制御部50を備えることによって、第3ガス中に混入する分子状酸素の濃度を高い精度で監視することができる。
【0055】
検出器40としては、ガスクロマトグラフィー法、質量分析法、赤外分光法、オゾンを用いた化学発光法、又はザルツマン試薬を用いた吸光度法等による通常のオンライン分析計を用いることができ、これらのうちの2つ以上を組み合わせてもよい。このような検出器40を備えることによって、第1ガスにおける一酸化窒素の濃度を常時監視することができる。第1ガスでは、分子状酸素よりも一酸化窒素の含有量が高いことから、一酸化窒素の検出器40を流路11に設けることによって、高い精度で炭酸ジアルキルの製造装置100の操業状態を把握して運転することができる。したがって、第1反応器に導入される第1ガス中の分子状酸素(酸素ガス)を十分に低減しつつ、炭酸ジアルキルの製造装置100の生産効率を十分に高くすることができる。なお、炭酸ジアルキルの製造装置100は、第1ガス又は第3ガスにおける炭酸ジアルキル及び一酸化炭素等の濃度を検出するために、検出器40と同様の検出器をさらに備えていてもよい。
【0056】
炭酸ジアルキルの製造装置100では、検出器40を第3ガスが流通する流路11と一酸化炭素を供給する流路18との合流部の下流側、すなわち、第1ガスが流通する流路に設けているが、本発明はこの態様に限定されない。例えば、別のいくつかの実施形態では、検出器40は、流路11と流路18との合流部の上流側、すなわち第3ガス中の一酸化窒素の濃度を検出するものであってもよい。この場合、制御部50では、検出器40から入力された検出信号に基づいて、第3ガス中における一酸化窒素の濃度が目標の範囲内であるか否かを判断する。検出器40で検出された第3ガス中の一酸化窒素の濃度が目標の範囲外であるときは、その目標濃度とするために流量調整弁21の目標開度(すなわち、目標となる分子状酸素の流量)を設定する。そして、制御部50は、その目標開度とするための制御信号を流量調整弁21に送信する。
【0057】
検出器40を流路11と流路18との合流部の下流側に設けて第1ガス中の一酸化窒素の濃度を検出すれば、第1反応器10に導入される第1ガス中の分子状酸素の濃度を一層高い精度で管理することが可能となる。一方、検出器40を合流部の上流側に設ける場合、流路11に設けられる圧縮機の上流側に検出器40を設けることが可能となるため、検出器40の導入に伴う設備コストを低減すること、及び検出器40のメンテナンス等の作業性を向上することができる。また、一酸化窒素の濃度を検出すべき箇所から、一部のガスを抜き出し、常圧等の、より低い圧力条件下において、検出器40を用いて検出することもできる。なお、第3ガスも、第1ガスと同様に分子状酸素よりも一酸化窒素の含有量が高いことから、高い精度で炭酸ジアルキルの製造装置100の操業状態を把握して運転することができる。
【0058】
検出器40は、合流部の上流側と下流側の両方に設けてもよい。この場合は、第1ガスにおける一酸化窒素の濃度と第3ガスにおける一酸化窒素の濃度の両方を検出し、両方の濃度がそれぞれの目標の範囲内となるように、流量調整弁21で分子状酸素の量を調整する。例えば、第1ガス及び第3ガスの両方の検出器40又はどちらか一方の検出器40において一酸化窒素の濃度が目標の範囲内から外れた場合、外れた方の検出器40から検出信号に基づいて、一酸化窒素の濃度を目標濃度とするために流量調整弁21の目標開度(すなわち、目標となる分子状酸素の流量)を設定する。そして、制御部50は、その目標開度とするための制御信号を流量調整弁21に送信する。これによって、流量調整弁21の開度が調整される。このようにして、第1ガスと第3ガスの両方の一酸化窒素の濃度を目標の範囲内に調整することが可能となり、分子状酸素の濃度を一層高い精度で制御することが可能となる。したがって、製造装置の能力を一層十分に有効活用することができる。
【0059】
第3ガスと一酸化炭素とを所定の比率で配合することによって、第1反応器10に供給される第1ガスが生成される。すなわち、炭酸ジアルキルの製造装置100では、以下の第一工程から第五工程を繰り返し行いつつ、第六工程を適宜行うことによって、高い生産効率で安定的に炭酸ジアルキルを連続的に製造することができる。
(1)一酸化炭素と亜硝酸アルキルと一酸化窒素とを含有する第1ガスを第1反応器10に導入し、触媒の存在下で一酸化炭素と亜硝酸アルキルとを反応させて、炭酸ジアルキルと一酸化窒素とを含有する第2ガスを生成させる第一工程
(2)第2ガスと炭酸ジアルキルを吸収する吸収液とを、吸収塔20で接触させて、炭酸ジアルキルを含む凝縮液と、一酸化窒素を含有する非凝縮ガスとを得る第二工程
(3)非凝縮ガス及び分子状酸素を混合して得られた混合ガスとアルコールとを第2反応器30に導入し、一酸化窒素、分子状酸素及びアルコールを反応させて、亜硝酸アルキルを含有する第3ガスを得る第三工程
(4)凝縮液を蒸留し、炭酸ジアルキルを得る第四工程
(5)第3ガスと一酸化炭素とを混合して第1ガスを得て、第一工程に反応剤等を循環させる第五工程
(6)第1ガス及び/又は第3ガスにおける一酸化窒素の濃度を検出し、その検出結果に基づいて、非凝縮ガスに混合する分子状酸素の量を調整する第六工程
【0060】
図3は、本発明の炭酸ジアルキルの製造装置の別の実施形態を模式的に示す図である。炭酸ジアルキルの製造装置200は、2系統の第2反応器30と、これらの第2反応器20に供給する混合ガスにおける分子状酸素の濃度をそれぞれ調整するための流量調整弁21及び流路22を2系統備える点で、上記実施形態に係る炭酸ジアルキルの製造装置100と異なっている。2系統の流量調整弁21には、制御部50からの制御信号がそれぞれ発信されるように構成されている。このように、第2反応器30及び流量調整弁21を2系統有することによって、炭酸ジアルキルの製造量を増加することができる。
【0061】
生産量の増加に対応する場合には、製造設備を大型化することもできるが、安全性向上や加熱・冷却効果の均等化(例えばジャケット中の熱媒からの伝熱の均等化)の目的から、このように設備の大型化と共に系列を増やすこともできる。
【0062】
図3では、2系統の第2反応器30に対し、それぞれ分子状酸素の流量調整弁21を設けているが、さらに別の実施形態では、流路13の吸収塔20の出口付近に、分子状酸素を供給するための流路を接続し、分子状酸素の流量を調整するための流量調整弁を設けて分子状酸素の供給を1箇所で行ってもよい。図1及び図3では、吸収塔20は1系統のみ設けられているが、さらに別の実施形態では吸収塔20を複数系統設けることもできる。第1反応器10、吸収塔20及び第2反応器30の系統数に特に制限はないが、第1反応器10の系列数よりも吸収塔20の系列数が少ない方が好ましく、第1反応器10の系列数よりも第2反応器30の系列数が少ない方が好ましい。
【0063】
図4、炭酸ジアルキルの製造装置の参考例を模式的に示す図である。炭酸ジアルキルの製造装置250は、第2反応器30を複数備えている。複数の第2反応器30の下流側には、検出器40がそれぞれ設けられており、検出器40での検出結果に基づいて、複数の流量調整弁21の開度をそれぞれ独立に調整することが可能な構成となっている。これによって、一方の第2反応器30の運転を継続しながら、他方の第2反応器30を停止してメンテナンスを行うこともできる。
【0064】
次に、シュウ酸ジアルキルの製造装置の好適な実施形態を以下に説明する。図1の炭酸ジアルキル製造装置100は、シュウ酸ジアルキルの製造装置300として用いることもできる。以下、図1を参照しつつ、シュウ酸ジアルキルの製造装置及びシュウ酸ジアルキルの製造方法の好適な実施形態を以下に説明する。
【0065】
シュウ酸ジアルキルの製造装置300は、一酸化炭素と亜硝酸アルキルとを反応させて、シュウ酸ジアルキルと一酸化窒素とを生成する触媒を有し、一酸化炭素とシュウ酸ジアルキルと一酸化窒素とを含有する第1ガスからシュウ酸ジアルキルと一酸化窒素とを含有する第2ガスを生成する第1反応器10と、第2ガスとシュウ酸ジアルキルを吸収する吸収液とを接触させて、シュウ酸ジアルキルを含む凝縮液と、一酸化窒素を含有する非凝縮ガスとに分離する吸収塔20と、非凝縮ガス及び分子状酸素の混合ガスとアルコールとを導入し、一酸化窒素、分子状酸素及びアルコールを反応させて、亜硝酸アルキルを含有する第3ガスを生成する第2反応器30と、第1ガスにおける一酸化窒素の濃度を検出する検出器40と、検出器40での検出結果に基づいて、非凝縮ガスに混合する分子状酸素の量を調整する流量調整手段である流量調整弁21と、検出器40での検出結果に基づいて、流量調整弁21での調整の要否を判断し、必要に応じて流量調整弁21の開度を調整する信号を発信するCPU50とを備える。
【0066】
このように、シュウ酸ジアルキルの製造装置300は、炭酸ジアルキルの製造装置100とほぼ同様の構成とすることができる。ここでは、炭酸ジアルキルの製造装置100と相違する部分を中心に説明する。
【0067】
第1反応器10の触媒としては、炭酸ジアルキルの製造装置100で用いられる触媒をシュウ酸ジアルキル製造用触媒に置き換えることとなる。シュウ酸ジアルキル製造用触媒としては、一般的に用いられる触媒を用いることができる。シュウ酸ジアルキル製造用触媒としては、具体的には、白金族金属やその化合物を担体に担持させた固体触媒が挙げられる。
【0068】
白金族金属やその化合物としては、例えば、白金金属、パラジウム金属、ロジウム金属、イリジウム金属などが挙げられる。白金族金属の化合物としては、これらの金属の無機酸塩(硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩等)、ハロゲン化物(塩化物、臭化物等)、有機酸塩(酢酸塩、シュウ酸塩、安息香酸塩等)、錯体などが挙げられる。これらの中でも、パラジウム金属、パラジウム無機酸塩、ハロゲン化パラジウム、パラジウム有機酸塩、及びパラジウム錯体からなる群から選ばれる少なくとも1種以上であることが好ましい。担体への白金族金属やその化合物の担持量としては、0.01〜10重量%が好ましく、0.2〜2重量%がより好ましい。
【0069】
担体としては、白金族金属やその化合物が不活性な担体が好ましく、具体的には、活性炭、アルミナ(α−アルミナ等)、シリカ、珪藻土、軽石、ゼオライト、モレキュラーシーブ、スピネル等が挙げられる。白金族金属やその化合物は、含浸法や蒸発乾固法等の公知の方法を用いて担体に担持される。
【0070】
シュウ酸ジアルキル製造用触媒には、白金族金属やその化合物の他に、鉄やその化合物を含有させることができる。鉄やその化合物としては、具体的には、金属鉄、鉄(II)化合物(硫酸第一鉄、硝酸第一鉄、塩化第一鉄、硫酸第一鉄アンモニウム、乳酸第一鉄、水酸化第一鉄等)、鉄(III)化合物(硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第二鉄、硫酸第二鉄アンモニウム、乳酸第二鉄、水酸化第二鉄、クエン酸第二鉄等)が挙げられる。担体への鉄やその化合物の担持量としては、「白金族金属やその化合物」:「鉄やその化合物」(金属原子のモル比)として、10000:1〜1:4が好ましく、5000:1〜1:3がより好ましい。
【0071】
シュウ酸ジアルキル製造用触媒を有する第1反応器10に、一酸化炭素と亜硝酸アルキルと一酸化窒素とを含有する第1ガスを導入する。これによって、下記式(5)に示す気相反応が進行する。式(5)中、Rはアルキル基を示す。Rは、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基である。
【0072】
2CO+2RONO → (RCO+2NO (5)
【0073】
第1ガスにおける一酸化窒素の含有量は、一酸化炭素、亜硝酸アルキル及び一酸化窒素の合計を基準として、例えば5〜50体積%である。このように、第1ガスには、分子状酸素よりも高い濃度で一酸化窒素を含有する。このため、第1ガス中の一酸化窒素の濃度は容易に且つ高い精度で検出することができる。第1ガスにおける一酸化炭素の含有量は、一酸化炭素、亜硝酸アルキル及び一酸化窒素の合計を基準として、例えば30〜70体積%である。第1ガスにおける亜硝酸アルキルの含有量は、一酸化炭素、亜硝酸アルキル及び一酸化窒素の合計を基準として、例えば10〜50体積%である。第1ガスは、一酸化炭素、亜硝酸アルキル及び一酸化窒素とともに、不活性ガスを含有していてもよい。この場合、第1ガスにおける一酸化窒素の含有量は、第1ガス全体を基準として、1〜20体積%であることが好ましい。また、第1ガスにおける一酸化炭素の含有量は、第1ガス全体を基準として、例えば10〜40体積%である。
【0074】
上記式(5)に示す反応によって、第1反応器10では、シュウ酸ジアルキルと一酸化窒素とを含有する第2ガスが生成する。第2ガスにおけるシュウ酸ジアルキルの濃度は、第2ガス全体を基準として、例えば1〜50体積%であり、一酸化窒素の含有量は、例えば1〜20体積%である。本明細書における体積%は、標準状態(25℃、100kPa)における体積比率を示す。
【0075】
第1反応器10から流路12を経由して吸収塔20の下部に導入された第2ガスは、吸収塔20の上部から導入されるシュウ酸ジアルキル吸収用吸収液(以下、単に「吸収液」という)と向流接触する。このようにして、第2ガスと吸収液とを気液接触させて、第2ガスに含まれるシュウ酸ジアルキルの少なくとも一部が吸収液に吸収される。これによって、シュウ酸ジアルキルを吸収した凝縮液と、一酸化窒素を含有する非凝縮ガスとが得られる。
【0076】
吸収塔20で用いられる吸収液としては、例えばシュウ酸ジアルキルのアルキル基に対応するアルコールが挙げられる。吸収塔20への吸収液の供給量は第2ガスにおけるシュウ酸ジアルキルに対して、質量基準で例えば1〜30%である。
【0077】
吸収塔20で得られた、吸収液とシュウ酸ジアルキルとを含有する凝縮液は、吸収塔20の底部から抜き出される。その後、凝縮液は流路14を通って、蒸留塔60に導入される。蒸留塔60では、沸点差によって、吸収液とシュウ酸ジアルキルとが分離される。吸収液としてメタノールやエタノールなどの低沸点のアルコールを用いた場合、蒸留塔60の塔頂部に連結された流路62からアルコールが、蒸留塔60の底部に連結された流路64からは目的物であるシュウ酸ジアルキルが抜き出される。
【0078】
一方、吸収塔20で得られた、一酸化炭素を含有する非凝縮ガスは、吸収塔20の上部に連結された流路13から抜き出されて、流路13を第2反応器30に向かって流通する。流路13には、分子状酸素を導入するための流路22が連結されている。流路22から供給される分子状酸素は、非凝縮ガスと混合されて混合ガスとなる。混合ガスは、流路13を通って第2反応器30に導入される。流路22には、流路13への分子状酸素の導入量を調整するための流量調整弁21が設けられる。流量調整弁21の開度を調整することによって、混合ガスにおける分子状酸素の割合を調整することができる。
【0079】
第2反応器30は、炭酸ジアルキルの製造装置100と同様にして運転を行い、第3ガスを生成する。この第3ガスと一酸化炭素とを混合して、炭酸ジアルキルの製造装置100と同様にして第1ガスを得ることができる。
【0080】
第3ガスにおける一酸化窒素の含有量は、一酸化窒素と亜硝酸アルキルの合計に対して、5〜50体積%の範囲に維持することが好ましく、10〜40体積%の範囲に維持することがより好ましい。第3ガスにおける一酸化窒素の含有量が低くなりすぎると、第3ガス中における未反応の分子状酸素の混入量が高くなり、第1反応器10の触媒が分子酸素と接触して活性が低下する傾向にある。一方、第3ガスにおける一酸化窒素の含有量が高くなりすぎると、シュウ酸ジアルキルの製造装置300全体を循環する一酸化窒素の量が増加して、シュウ酸ジアルキルの生産効率が低下する傾向にある。
【0081】
第3ガスは、亜硝酸アルキル、一酸化窒素及び上述の微量成分とともに、不活性ガスを含有していてもよい。この場合、第3ガスにおける一酸化窒素の濃度は、第3ガス全体を基準として、1〜20体積%であることが好ましい。これによって、触媒が第1ガスに含まれる分子状酸素と接触する頻度を一層低減し、一層長い期間に亘って高い効率で製造運転を継続することができる。
【0082】
シュウ酸ジアルキルの製造装置300も、図2に示すような分子状酸素の流量の制御方法を行うことが可能な構成となっている。これによって、第1ガスにおける一酸化窒素の濃度を常時監視することができる。第1ガスは、分子状酸素よりも一酸化窒素の含有量が高いことから、一酸化窒素の検出器40を流路11に設けることによって、高い精度でシュウ酸ジアルキルの製造装置100の運転状態を把握するとともに制御することができる。したがって、第1反応器に導入される第1ガス中の分子状酸素を十分に低減しつつ、シュウ酸ジアルキルの製造装置300の生産効率を十分に高くすることができる。なお、炭酸ジアルキルの製造方法と同様に、第1ガスの代わりに第3ガス中の一酸化窒素の濃度を検出する態様であってもよく、第1ガス及び第3ガスの両方の一酸化窒素の濃度を検出する態様であってもよい。
【0083】
検出器40としては、ガスクロマトグラフィー法や質量分析法、赤外分光法、オゾンを用いた化学発光法、ザルツマン試薬を用いた吸光度法等の通常のオンライン分析計を用いることができ、これらのうちの2つ以上を組み合わせてもよい。また、シュウ酸ジアルキルの製造装置300は、第1ガス又は第3ガスにおける亜硝酸アルキル及び一酸化炭素の濃度を検出するために、検出器40と同様の検出器を備えていてもよい。
【0084】
シュウ酸ジアルキルの製造装置300では、検出器40を第3ガスが流通する流路11と一酸化炭素を供給する流路18との合流部の下流側、すなわち、第1ガスが流通する流路に設けているが、本発明はこの態様に限定されない。例えば、別のいくつかの実施形態では、検出器40は、流路11と流路18との合流部の上流側、すなわち第3ガス中の一酸化窒素の濃度を検出するものであってもよい。検出器40を流路11と流路18との合流部の下流側に設けて第1ガス中の一酸化炭素の濃度を検出すれば、第1反応器10に導入される第1ガス中の分子状酸素の濃度を一層高い精度で管理することが可能となる。
【0085】
一方、検出器40を合流部の上流側に設ける場合、流路11に設けられる圧縮機の上流側に検出器40を設けることが可能となるため、検出器40の導入に伴う設備コストを低減すること、及び検出器40のメンテナンス等の作業性を向上することができる。また、一酸化窒素の濃度を検出すべき箇所から、一部のガスを抜き出し、常圧等の、より低い圧力条件下において、検出器40を用いて検出することもできる。
【0086】
なお、第3ガスも、第1ガスと同様に分子状酸素よりも一酸化窒素の含有量が高いことから、高い精度でシュウ酸ジアルキルの製造装置300の操業状態を把握して運転することができる。検出器40は、炭酸ジアルキルの製造装置300と同様に、合流部の上流側と下流側の両方に設けてもよい。これによって、分子状酸素の濃度を一層高い精度で制御することが可能となる。したがって、製造装置の能力を一層十分に有効活用することができる。
【0087】
シュウ酸ジアルキルの製造装置300では、以下の第一工程から第五工程を繰り返し行いつつ、第六工程を適宜行うことによって、高い生産効率で安定的にシュウ酸ジアルキルを連続的に製造することができる。
(1)一酸化炭素と亜硝酸アルキルと一酸化窒素とを含有する第1ガスを第1反応器10に導入し、触媒の存在下で一酸化炭素と亜硝酸アルキルとを反応させて、シュウ酸ジアルキルと一酸化窒素とを含有する第2ガスを生成させる第一工程
(2)第2ガスとシュウ酸ジアルキルを吸収する吸収液とを、吸収塔20で接触させて、シュウ酸ジアルキルを含む凝縮液と、一酸化窒素を含有する非凝縮ガスとを得る第二工程
(3)非凝縮ガス及び分子状酸素を混合して得られた混合ガスとアルコールとを第2反応器に導入し、一酸化窒素、分子状酸素及びアルコールを反応させて、亜硝酸アルキルを含有する第3ガスを得る第三工程
(4)凝縮液を蒸留し、シュウ酸ジアルキルを得る第四工程
(5)第3ガスと一酸化炭素とを混合して第1ガスを得て、第一工程に反応剤等を循環させる第五工程
(6)第1ガス又は第3ガスにおける一酸化窒素の濃度を検出し、その検出結果に基づいて、非凝縮ガスに混合する分子状酸素の量を調整する第六工程
【0088】
このような製造方法において、第三工程で、例えばメタノールを用いればシュウ酸ジメチルを、エタノールを用いればシュウ酸ジエチルを高い効率で製造することができる。
【0089】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明が上述の実施形態に限定されないことはいうまでもない。例えば、上述の実施形態では、炭酸ジアルキルとシュウ酸ジアルキルの製造装置を別々に説明したが、第1ガス中における一酸化炭素と亜硝酸アルキルとの含有割合を調整することによって、炭酸ジアルキルとシュウ酸ジアルキルとを同時に製造してこれらの混合物を得てもよい。
【0090】
また、上述の各実施形態では制御部50によって流量調整弁21を自動制御しているが、制御部50を用いずに、検出器40の検出結果をみながら手動で流量調整弁を調整してもよい。また、図3及び図4に示す製造装置400,450は、炭酸ジアルキルの製造と同様に、シュウ酸ジアルキル製造用の製造装置として用いることができる。
【0091】
図3に示すシュウ酸ジアルキルの製造装置400は、2系統の第2反応器30と、これらの第2反応器20に供給する混合ガスにおける分子状酸素の濃度をそれぞれ調整するための流量調整弁21及び流路22を2系統備える点で、上記実施形態に係る炭酸ジアルキルの製造装置100と異なっている。2系統の流量調整弁21には、制御部50からの制御信号がそれぞれ発信されるように構成されている。このように、第2反応器30及び流量調整弁21を2系統有することによって、炭酸ジアルキルの製造量を増加することができる。
【0092】
図4に示すシュウ酸ジアルキルの製造装置450は、第2反応器30を複数備えている。複数の第2反応器30の下流側には、検出器40がそれぞれ設けられており、検出器40での検出結果に基づいて、複数の流量調整弁21の開度をそれぞれ独立に調整することが可能な構成となっている。これによって、一方の第2反応器30を用いて運転を継続しながら、他方の第2反応器30を停止してメンテナンスを行うこともできる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明によれば、触媒と分子状酸素との接触を抑制することによって、触媒の活性の低下を十分に抑制して安定的に且つ高い効率で炭酸ジアルキル及びシュウ酸ジアルキルを製造することが可能な製造方法を提供することができる。また、触媒と分子状酸素との接触を抑制することによって触媒の活性の低下を十分に抑制して安定的に且つ高い効率で炭酸ジアルキル及びシュウ酸ジアルキルを製造することが可能な製造装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0094】
10…反応器、20…吸収塔、21…流量調整弁(流量調整手段)、30…反応器、40…検出器、60…蒸留塔、100,200,250…炭酸ジアルキルの製造装置、300,400,450…シュウ酸ジアルキルの製造装置。
図1
図2
図3
図4