特許第6102516号(P6102516)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6102516永久磁石形同期電動機の制御方法及び制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6102516
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】永久磁石形同期電動機の制御方法及び制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/182 20160101AFI20170316BHJP
【FI】
   H02P6/182
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-110507(P2013-110507)
(22)【出願日】2013年5月27日
(65)【公開番号】特開2014-230450(P2014-230450A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2016年3月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091281
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】野村 尚史
(72)【発明者】
【氏名】樋口 新一
【審査官】 マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−67556(JP,A)
【文献】 特開2008−283848(JP,A)
【文献】 特開2004−64903(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/182
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子の磁極位置検出器を持たない永久磁石形同期電動機を電力変換器により制御する制御方法であって、前記電動機の端子電圧相当値及び前記電動機の電流を用いて前記回転子の磁極の位置演算誤差を求め、その位置演算誤差から前記電動機の速度及び磁極位置を検出するようにした永久磁石形同期電動機の制御方法において、
現在の第1のサンプル点と過去の第2のサンプル点との間に前記電動機の電流を検出できないサンプル点が存在し、前記第1,第2のサンプル点で前記電動機の電流を検出できる場合は、前記第1,第2のサンプル点における第1,第2の電動機電流検出値と、前記第1,第2のサンプル点間の時間間隔と、前記電動機の端子電圧相当値の前記時間間隔における平均値と、前記電動機の速度演算値の前回値と、に基づいて前記第1のサンプル点における前記位置演算誤差を求め、
前記電動機の電流を検出できないサンプル点については、前記位置演算誤差の前回値を保持することを特徴とする永久磁石形同期電動機の制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載した永久磁石形同期電動機の制御方法において、
前記第1のサンプル点における前記位置演算誤差を求めるための情報を用いて前記回転子の磁極方向に直交する方向の拡張誘起電圧を演算し、前記拡張誘起電圧を構成する直交電圧成分から前記位置演算誤差を求めることを特徴とする永久磁石形同期電動機の制御方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載した永久磁石形同期電動機の制御方法において、
前記電力変換器としてのインバータの各相の下アームの電流を検出し、この電流検出値と前記インバータの変調率とから演算した前記電動機の相電流を前記電動機電流検出値として用いることを特徴とする永久磁石形同期電動機の制御方法。
【請求項4】
請求項3に記載した永久磁石形同期電動機の制御方法において、
前記下アームの電流をシャント抵抗により検出することを特徴とする永久磁石形同期電動機の制御方法。
【請求項5】
回転子の磁極位置検出器を持たない永久磁石形同期電動機を電力変換器により制御する制御装置であって、前記電動機の端子電圧相当値及び前記電動機の電流を用いて前記回転子の磁極の位置演算誤差を求め、その位置演算誤差から前記電動機の速度及び磁極位置を検出するようにした永久磁石形同期電動機の制御装置において、
前記電動機の電流を検出する電流検出部と、前記端子電圧相当値を生成する電圧生成部と、前記位置演算誤差を推定する位置演算誤差推定部と、前記位置演算誤差から前記電動機の速度及び磁極位置を演算する速度・位置演算部と、を備え、
前記位置演算誤差推定部は、
現在の第1のサンプル点と過去の第2のサンプル点との間に前記電動機の電流を検出できないサンプル点が存在する場合に前記第1,第2のサンプル点において前記電流検出部により検出した第1,第2の電動機電流検出値と、前記第1,第2のサンプル点間の時間間隔と、前記電圧生成部により生成した前記端子電圧相当値の前記時間間隔における平均値と、前記電動機の速度演算値の前回値と、に基づいて前記第1のサンプル点における前記位置演算誤差を求め、
前記電動機の電流を検出できないサンプル点については、前記位置演算誤差の前回値を保持することを特徴とする永久磁石形同期電動機の制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載した永久磁石形同期電動機の制御装置において、
前記位置演算誤差推定部は、
前記第1のサンプル点における前記位置演算誤差を求めるための情報を用いて前記回転子の磁極方向に直交する方向の拡張誘起電圧を演算する拡張誘起電圧演算部と、前記拡張誘起電圧を構成する直交電圧成分から前記位置演算誤差を求める角度差演算部と、
を備えたことを特徴とする永久磁石形同期電動機の制御装置。
【請求項7】
請求項5または6に記載した永久磁石形同期電動機の制御装置において、
前記電力変換器としてのインバータの各相の下アームの電流を検出する電流検出部と、 前記電流検出値による電流検出値と前記インバータの変調率とから前記電動機の相電流を演算する相電流演算部と、を備え、
前記相電流を前記電動機電流検出値として用いることを特徴とする永久磁石形同期電動機の制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載した永久磁石形同期電動機の制御装置において、
前記電流検出部をシャント抵抗により構成したことを特徴とする永久磁石形同期電動機の制御装置。
【請求項9】
請求項7に記載した永久磁石形同期電動機の制御装置において、
前記電流検出部、前記電圧生成部、前記位置演算誤差推定部及び前記速度・位置演算部を、前記インバータ及びその駆動信号生成部と一体化したことを特徴とする永久磁石形同期電動機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石形同期電動機の回転子の磁極位置を演算する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
永久磁石形同期電動機(以下、PMSMともいう)の制御装置を低価格化するための技術として、回転子の磁極位置検出器を用いずに運転する、いわゆるセンサレス制御が実用化されている。センサレス制御は、同期電動機の端子電圧及び電流の情報から回転子の速度と磁極位置とを演算し、これらに基づいて電流制御を行うことで同期電動機のトルク制御や速度制御を実現するものである。
【0003】
例えば、特許文献1や非特許文献1に記載されたセンサレス制御技術では、回転子の磁極方向に対して直交方向に発生する拡張誘起電圧を演算し、その演算値から、制御上で推定した磁束軸と実際の磁束軸との間の位置演算誤差(磁極位置誤差または軸ずれ量)を検出し、この位置演算誤差から磁極位置及び速度を演算している。
【0004】
また、特許文献2には、交流電動機の端子電圧を制御する三相PWMインバータの制御装置を低価格化する技術として、インバータの各相の下アームに流れる電流をシャント抵抗により検出する電流検出装置が開示されている。この従来技術では、インバータの下アームがオンしたときのシャント抵抗による電流検出値からインバータの相電流を検出しており、ホール素子等の比較的高価な電流検出素子を用いる場合に比べて、装置の低価格化、小型化を可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3411878号公報(段落[0058]〜[0083]、図1図4等)
【特許文献2】特開昭63-80774号公報(第2頁左下欄第13行〜第4頁左上欄第15行、第1図,第2図等)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Takahashi Aihara, Akio Toba, Takao Yanase, Akihide Mashimo, and Kenji Endo,「Sensorless Torque Control of Salient-Pole Synchronous Motor at Zero-Speed Operation」,IEEE TRANSACTIONS ON POWER ELECTRONICS, VOL.14, NO.1, JANUARY 1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載された電流検出装置により、三相のうち二相以上の相電流を検出してその直交回転座標成分であるd軸電流、q軸電流を検出できるのは、インバータの各相のうち少なくとも二相以上の下アームがオンするタイミングである。しかし、インバータの出力電圧の条件によっては、一時的に二相以上の下アームがオンするタイミングが存在せず、その場合には、d軸電流、q軸電流を検出できなくなる。
一方、例えば特許文献1では、段落[0059]〜[0068]の数式9〜数式13に示されるように、拡張誘起電圧を演算するために相電流から変換したq軸電流の微分演算が必要であり、また、位置演算誤差を求めるに当たってはd軸電流及びq軸電流の微分演算が必要である。
【0008】
このため、仮に特許文献2に記載された比較的安価な電流検出装置を用いて特許文献1等のセンサレス制御を実現しようとしても、d軸電流及びq軸電流を検出できないタイミングでは、拡張誘起電圧ひいては位置演算誤差を演算することができない。
また、特許文献1等において拡張誘起電圧を演算するために電流微分値を求めるには、サンプル点間の電流の差分演算が必要である。従って、相電流を検出できない場合には、その次のサンプル周期において電流の差分演算を行うことが不可能になる。この場合、前回の差分演算値による電流微分値を用いることも考えられるが、拡張誘起電圧演算値に誤差を含む可能性があり、その結果、速度演算値や位置演算値が誤差を含んだものになるという問題があった。
【0009】
なお、特許文献1の段落[0077],[0078]には、電動機の速度や負荷が一定であれば電動機電流の変化は微小であるという前提に基づき、位置演算誤差を求める演算式におけるd軸電流及びq軸電流の微分項を無視することが示唆されている。
しかし、電動機の速度や負荷を一定と仮定することは一般性を欠き、電動機の速度等が変化する場合には、結果的に速度や磁極位置の検出精度が低くなる等の問題がある。
【0010】
そこで、本発明の目的は、連続する複数のサンプル点で電動機電流を検出できない状況においても、回転子磁極の位置演算誤差を正確に演算して電動機の速度及び磁極位置を高精度に検出可能とした永久磁石形同期電動機の制御方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、上記制御方法を実現するための低価格かつ小型の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明に係る永久磁石形同期電動機の制御方法は、請求項1に記載するように、現在の第1のサンプル点と過去の第2のサンプル点との間に電動機の電流を検出できないサンプル点が存在し、第1,第2のサンプル点で電動機電流を検出できる場合は、第1,第2のサンプル点における第1,第2の電動機電流検出値と、第1,第2のサンプル点間の時間間隔と、電動機の電圧指令値等の端子電圧相当値の前記時間間隔における平均値と、電動機の速度演算値の前回値と、に基づいて第1のサンプル点における位置演算誤差を求め、電動機電流を検出できないサンプル点については、位置演算誤差の前回値を保持する。また、こうして求めた位置演算誤差から電動機の速度及び磁極位置を演算し、これらの速度演算値及び位置演算値を用いて電力変換器により電動機のセンサレス制御を行うものである。
【0012】
なお、請求項2に記載するように、第1のサンプル点における位置演算誤差を求めるに当たっては、第1,第2の電動機電流検出値と、第1,第2のサンプル点間の時間間隔と、電動機の端子電圧相当値の前記時間間隔における平均値と、電動機の速度演算値と、に基づいて、回転子の磁極方向に直交する方向の拡張誘起電圧を演算し、この拡張誘起電圧を構成する直交電圧成分から位置演算誤差を求めると良い。
【0013】
また、請求項3,4に記載するように、電動機を駆動するインバータの各相の下アームの電流をシャント抵抗により検出し、この電流検出値とインバータの変調率とから演算した電動機の相電流を、電動機電流検出値として用いることが望ましい。
【0014】
本発明に係る永久磁石形同期電動機の制御装置は、請求項5に記載するように、電動機の電流を検出する電流検出部と、電動機の端子電圧相当値を生成する電圧生成部と、回転子磁極の位置演算誤差を推定する位置演算誤差推定部と、位置演算誤差から電動機の速度及び磁極位置を演算する速度・位置演算部と、を備えている。
そして、位置演算誤差推定部は、現在の第1のサンプル点と過去の第2のサンプル点との間に電動機電流を検出できないサンプル点が存在する場合に第1,第2のサンプル点において検出した第1,第2の電動機電流検出値と、第1,第2のサンプル点間の時間間隔と、電圧生成部により生成した端子電圧相当値の前記時間間隔における平均値と、電動機の速度演算値の前回値と、に基づいて第1のサンプル点における位置演算誤差を求める。また、電動機電流を検出できないサンプル点については、位置演算誤差の前回値を保持するものである。
【0015】
請求項6に記載するように、位置演算誤差推定部は、第1,第2の電動機電流検出値と、第1,第2のサンプル点間の時間間隔と、電動機の端子電圧相当値の前記時間間隔における平均値と、電動機の速度演算値と、に基づいて拡張誘起電圧を演算する拡張誘起電圧演算部と、この拡張誘起電圧を構成する直交電圧成分から位置演算誤差を求める角度差演算部と、を備えることが望ましい。
【0016】
また、請求項7,8に記載するように、電動機を駆動するインバータの各相の下アームの電流を検出するシャント抵抗からなる電流検出部と、このシャント抵抗による電流検出値とインバータの変調率とから電動機の相電流を演算する相電流演算部と、を備え、前記相電流を電動機電流検出値として用いれば良い。
なお、本発明の制御装置は、請求項9に記載するように、電流検出部、電圧生成部、位置演算誤差推定部及び速度・位置演算部を、インバータ及びその駆動信号生成部と一体化することにより、1台の装置として構成することが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、永久磁石型同期電動機の電流が一時的に検出不能になったとしても、この検出不能期間を挟む現在のサンプル点及び過去のサンプル点において電動機電流を検出できれば、これらの電動機電流検出値、端子電圧相当値の平均値等に基づいて回転子磁極の位置演算誤差を検出することができる。従って、この位置演算誤差を用いて電動機の速度及び磁極位置を演算し、電動機のセンサレス制御を高精度に行うことが可能である。
更に、シャント抵抗を用いて電動機電流を検出することにより、制御装置の低価格化、小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】PMSMの駆動システムの構成を示すブロック図である。
図2】d,q軸直交回転座標及びγ,δ軸直交回転座標の説明図である。
図3図1におけるインバータの構成を示す回路図である。
図4】本発明の実施形態におけるγ,δ軸拡張誘起電圧演算のタイミングチャートである。
図5】本発明の実施形態の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。図1は、永久磁石型同期電動機の駆動システムの構成を示すブロック図である。
まず、図1において、50は三相交流電源、60は三相交流電圧を整流して直流電圧を出力する整流回路、70は直流電圧を所定の大きさ及び周波数の三相交流電圧に変換するインバータ、80は永久磁石型同期電動機(PMSM)である。
【0020】
インバータ70は、PMSM80の回転子の回転に同期したd,q軸直交回転座標上で制御を行うことにより、PMSM80の高精度のトルク制御や速度制御を実現可能としている。ここで、d,q軸は、回転子の磁極のN極方向をd軸と定義し、d軸から90°進み方向をq軸と定義している。しかしながら、磁極位置検出器を用いずに運転するセンサレス制御の場合、d,q軸の位置を直接検出することができない。そこで、PMSM80の制御装置では、d,q軸の推定軸であるγ,δ軸上に置き換えた電圧、電流を用いて制御演算を行っている。
【0021】
図2は、d,q軸直交回転座標及びγ,δ軸直交回転座標の説明図である。
図2において、θerrは、PMSM80のu相巻線を基準としたγ軸の角度(位置演算値)θとu相巻線を基準としたd軸の角度(実際の磁極位置)θとの角度差(位置演算誤差)であり、数式1によって定義される。
[数1]
θerr=θ−θ
また、図2に示すように、d,q軸の回転角速度(回転子速度)をωとし、γ,δ軸の回転角速度(速度演算値)をωとする。
【0022】
次に、図1におけるPMSM80の速度制御方法、電流制御方法及び電圧制御方法について、制御装置の構成、作用と共に説明する。
なお、図1における制御装置(三相交流電源50、整流回路60、インバータ70及びPMSM80以外の部分)は、主としてマイクロコンピュータ等の演算装置及び演算プログラムによって構成されており、必ずしもハードウェアのみで実現されるものではない。
【0023】
図1の減算器16は、速度指令値ωと速度演算値ωとの偏差を演算する。速度調節器17は、前記偏差をゼロにするような演算を行ってトルク指令値τを生成する。電流指令演算器18は、トルク指令値τに応じたトルクを発生するように、γ軸電流指令値iγ及びδ軸電流指令値iδを演算する。
【0024】
減算器19aは、γ軸電流指令値iγとγ軸電流検出値iγdetとの偏差を演算し、減算器19bは、δ軸電流指令値iδとδ軸電流検出値iδdetとの偏差を演算する。
γ軸電流調節器20aは、減算器19aから出力される偏差をゼロにするような演算を行ってγ軸電圧指令値vγを生成する。δ軸電流調節器20bは、減算器19bから出力される偏差をゼロにするような演算を行ってδ軸電圧指令値vδを生成する。これらのγ軸電圧指令値vγ及びδ軸電圧指令値vδは、座標変換器15に入力される。
ここで、γ軸電流調節器20a及びδ軸電流調節器20bは、請求項における電圧生成部を構成している。
【0025】
座標変換器15は、積分器34により演算される位置演算値θに基づいて、γ軸電圧指令値vγ及びδ軸電圧指令値vδを三相の電圧指令値v,v,vに座標変換し、これらの電圧指令値v,v,vを変調率演算器21に入力する。なお、変調率演算器21には、電圧検出回路12により検出した直流電圧検出値Edcも入力されている。
変調率演算器21は、以下の数式2により、電圧指令値v,v,v及び直流電圧検出値Edcから変調率指令値λ,λ,λを演算する。
【数2】
【0026】
駆動信号生成部としてのPWM回路13は、変調率指令値λ,λ,λから、インバータ70の各相出力電圧をそれぞれ電圧指令値v,v,vに制御するためのゲート信号を生成する。インバータ70は、ゲート信号に基づいて内部の半導体スイッチング素子のオン・オフを制御することにより、PMSM80の端子電圧を電圧指令値v,v,vに制御する。
なお、この明細書において、γ,δ軸電圧指令値vγ,vδ、γ,δ軸電圧検出値vγdet,vδdet、三相の電圧指令値v,v,v、及び、PMSM80の端子電圧自体を総称して、PMSM80の端子電圧相当値というものとする。
図1に示した駆動システムでは、上述した作用により、PMSM80の回転子速度ωを速度指令値ω通りに制御している。
【0027】
次に、図3はインバータ70の構成を示す回路図である。
図3において、P,Nは直流端子、u,v,wは交流端子、71〜73はIGBT等からなる上アーム主回路素子、74〜76は同じく下アーム主回路素子、77はコンデンサである。また、78u,78v,78wは、下アーム主回路素子74〜76にそれぞれ直列に接続されたシャント抵抗である。
シャント抵抗78u,78v,78wは、インバータ70の各相の下アーム電流を検出するためのものであり、下アーム電流検出値iun,ivn,iwnは、下アーム主回路素子74〜76がオンしたときのPMSM80の各相電流に一致する。
【0028】
図1における相電流演算器11は、変調率指令値λ,λ,λからインバータ70の下アーム主回路素子74〜76のオン/オフ状態を求める。
そして、下アーム主回路素子74〜76のうち2つ以上がオンしている場合は、下アーム電流検出値iun,ivn,iwnから相電流検出値iudet,ivdet,iwdetを求めて座標変換器14に出力する。一方、下アーム主回路素子74〜76のうち2つ以上がオンしていない場合は、相電流の検出は不能と判断し、相電流検出値iudet,ivdet,iwdetは、前回値のまま保持する。
【0029】
座標変換器14は、積分器34により演算される位置演算値θに基づいて、相電流検出値iudet,ivdet,iwdetをγ軸電流検出値iγdet及びδ軸電流検出値iδdetに座標変換する。なお、下アーム主回路素子74〜76のうち2つ以上がオンしないため相電流検出が不能であり、相電流検出値iudet,ivdet,iwdetが前回値のまま保持されている場合は、γ軸電流検出値iγdet及びδ軸電流検出値iδdetについても前回値のまま保持する。
【0030】
次に、PMSM80の速度演算・磁極位置演算について説明する。まず、図1における拡張誘起電圧演算器31の作用について説明する。
相電流検出値iudet,ivdet,iwdetを電流検出周期(サンプル点)ごとに常に検出できる場合、サンプル点(n−1)〜(n)の区間のPMSMの離散系の電圧方程式に基づき、サンプル点(n)におけるγ,δ軸拡張誘起電圧演算値Eexγest(n),Eexδest(n)を数式3により求める。
【数3】
【0031】
数式3におけるγ,δ軸電圧検出値vγdet,vδdetは端子電圧相当値であり、電圧生成部としてのγ軸電流調節器20a及びδ軸電流調節器20bによって演算されるγ,δ軸電圧指令値vγ,vδを用いる。ここで、サンプル点(n)におけるγ,δ軸電圧検出値vγdet(n),vδdet(n)には、インバータ70の制御遅れを考慮して、サンプル点(n−1)におけるγ,δ軸電圧指令値vγ(n−1),vδ(n−1)を用いている。
なお、詳細な説明は省略するが、γ,δ軸電圧検出値vγdet,vδdetの代わりに、電圧生成部としての電圧検出器(図示せず)により検出したインバータ70の出力電圧を用いても良い。
【0032】
一方、時間的に離れたサンプル点(n−m),(n)において相電流検出値iudet,ivdet,iwdetが得られ、これらのサンプル点に挟まれたサンプル点(n−m+1)〜(n−1)の区間において相電流検出値iudet,ivdet,iwdetが得られない場合、すなわち、連続していない二つのサンプル点(n−m),(n)で相電流検出値iudet,ivdet,iwdetが得られる場合には、サンプル点(n−m)〜(n)の区間におけるPMSMの離散系の電圧方程式に基づき、サンプル点(n)におけるγ,δ軸拡張誘起電圧演算値Eexγest(n),Eexδest(n)を数式4によって求める。
【数4】
【0033】
このときのγ,δ軸拡張誘起電圧演算のタイミングチャートを、図4に示す。なお、図4は、数式4におけるm=3の場合について示している。また、図4に示した各サンプル点については、一般式である数式3,4におけるサンプル点の添え字(n)と区別するために、サンプル点を(N−4),……,(N),(N+1)と表している。図4の例では、サンプル点(N)が請求項における第1のサンプル点、サンプル点(N−3)が請求項における第2のサンプル点に相当する。
【0034】
図4から明らかなように、すべてのサンプル点(n)(図4では、n=(N+1)〜(N−4))におけるγ,δ軸電圧検出値vγdet(n),vδdet(n)は、一つ前のサンプル点(n−1)におけるγ,δ軸電圧指令値vγ(n−1),vδ(n−1)となっている。
また、相電流を検出可能なサンプル点(N)における、数式4の但し書きのvγdetAVE(n),vδdetAVE(n)は、3つのサンプル点(N−3)〜(N−1)のγ,δ軸電圧検出値vγdet(n),vδdet(n)の、時間間隔(3T)における平均値である。
【0035】
このため、サンプル点(N)におけるγ,δ軸拡張誘起電圧Eexγest(N),Eexδest(N)は、サンプル点(N)におけるγ,δ軸電圧検出値の平均値vγdetAVE(N),vδdetAVE(N)と、サンプル点(N−3),(N)におけるγ,δ軸電流検出値iγdet(N−3),iδdet(N−3),iγdet(N),iδdet(N)と、速度演算値ω1(N−1)と、電動機定数R,L,Lとを用いて、前述した数式4により求めることができる。
なお、速度演算値ω1(N−1)は相電流を検出できなかった前回のサンプル点(N−1)の速度演算値であり、以下に述べるようにサンプル点(N−3)から保持し続けているγ,δ軸拡張誘起電圧演算値Eexγest(N−3),Eexδest(N−3)を用いて、速度演算値ω1(N−1)を求めれば良い。
【0036】
上記のサンプル点(N−1)を含むサンプル点(N−2),(N−1)のように、相電流検出値iudet,ivdet,iwdetが得られないサンプル点については、γ,δ軸拡張誘起電圧演算値Eexγest(n),Eexδest(n)として前回値Eexγest(n−1),Eexδest(n−1)を保持する。
速度演算値ω及び位置演算値θは、数式3または数式4により求めたγ,δ軸拡張誘起電圧演算値Eexγest,Eexδestを用いて、後述する演算により求めることができる。
【0037】
なお、数式4においてm=1とすると、数式4は数式3に等しくなる。このため、相電流検出値がサンプル点ごとに常に得られる場合のγ,δ軸拡張誘起電圧演算値は、数式4においてm=1とおけばよい。
すなわち、制御装置が数式4を実行するプログラムを備えておき、例えばm=3に設定した時には不連続のサンプル点(n−3),(n)で相電流検出値が得られる場合の、サンプル点(n)におけるγ,δ軸拡張誘起電圧演算を行うことができる。また、m=1に設定した時には、連続するサンプル点(n−1),(n)で相電流検出値が得られる場合の、サンプル点(n)におけるγ,δ軸拡張誘起電圧演算を行うことができる。つまり、制御装置としては、数式4におけるmの値を変更すれば済むため、数式3を実行するプログラムを敢えて備える必要がなくなる。
【0038】
以上説明したように、数式4の演算によれば、図4のサンプル点(N−2),(N−1)のように相電流検出値iudet,ivdet,iwdetを一時的に得ることができない場合でも、サンプル点(N)におけるγ,δ軸拡張誘起電圧演算値を正確に求めることができる。また、サンプル点(N−2),(N−1)については、前回、相電流が検出可能であったサンプル点(N−3)におけるγ,δ軸拡張誘起電圧演算値を保持して用いることができる。
【0039】
次に、γ,δ軸拡張誘起電圧演算値Eexγest,Eexδestを用いてPMSM80の速度及び磁極位置を演算する方法について説明する。
図1の角度差演算器32は、γ,δ軸拡張誘起電圧演算値Eexγest,Eexδestから位置演算誤差(推定値)θerrestを数式5により演算する。
【数5】
【0040】
ここで、角度差演算器32は、拡張誘起電圧演算器31と共に位置演算誤差推定部30を構成している。
速度演算器33は、数式5により求めた位置演算誤差θerrestを用いて数式6の演算を行い、速度演算値ωを求める。なお、数式6において、Kは比例ゲイン、Tは積分時間である。こうして求めた速度演算値ωが、減算器16、及び積分器34に入力されると共に、数式4の演算を行うために拡張誘起電圧演算器31に入力される。
【数6】
積分器34は、速度演算値ωを積分して位置演算値θを算出する。ここで、速度演算器33及び積分器34は、速度・位置演算部35を構成している。
以上の演算により、位置演算誤差θerrが零になるように速度演算値ω及び位置演算値θを真値に収束させ、PMSM80のトルク制御、速度制御を高精度に行うことが可能になる。
【0041】
図5は、この実施形態の動作を示すフローチャートである。
図5において、現在のサンプル点(n)で相電流が検出された場合には(ステップS1 YES)、前回のサンプル点(n−1)でも相電流が検出されたか否かを判断する。そして、前回のサンプル点(n−1)でも相電流が検出された場合には(ステップS2 YES)、数式3,数式5等の演算を順次行って速度演算値ω及び位置演算値θを求め、センサレス制御を行う(ステップS3〜S6)。
【0042】
また、現在のサンプル点(n)で相電流が検出されず、γ,δ軸拡張誘起電圧の前回値が保持されている場合には(ステップS1 NO,ステップS7 YES)、その前回値を用いてステップS4以降の処理を実行する。γ,δ軸拡張誘起電圧の前回値が保持されていない場合には(ステップS7 NO)、そのまま処理を終了する。
ステップS2において、前回のサンプル点(n−1)で相電流が検出されなかった場合には(ステップS2 NO)、それ以前のサンプル点(n−m)で相電流が検出されたか否かを判断する。サンプル点(n−m)で相電流が検出された場合には(ステップS8 YES)、数式4によりγ,δ軸拡張誘起電圧を演算し(ステップS9)、その後にステップS4以降の処理を実行する。
【0043】
なお、サンプル点(n−m)で相電流が検出されなかった場合には(ステップS8 NO)、そのまま処理を終了する。この場合、mを逐次、インクリメントしていき、相電流が検出されたサンプル点までさかのぼって探索することにより、数式4の適用を可能にしてもよい。あるいは、mを上限値まで大きくしても相電流が検出された過去のサンプル点(n−m)が存在しない場合には、ある程度の演算誤差を許容できるのであれば、数式4のγ,δ軸拡張誘起電圧の各演算式における右辺カッコ内の第2項をゼロに近似して数式4を適用しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、ファン/ブロワやポンプ、空調機、各種搬送機械等の駆動源であるPMSMの制御方法及び制御装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0045】
11:相電流演算器
12:電圧検出回路
13:PWM回路
14,15:座標変換器
16,19a,19b:減算器
17:速度調節器
18:電流指令演算器
20a:γ軸電流調節器
20b:δ軸電流調節器
30:位置演算誤差推定部
31:拡張誘起電圧演算器
32:角度差演算器
33:速度演算器
34:積分器
35:速度・位置演算部
50:三相交流電源
60:整流回路
70:インバータ
71〜73:上アーム主回路素子
74〜76:下アーム主回路素子
77:コンデンサ
78u,78v,78w:シャント抵抗
80:永久磁石形同期電動機(PMSM)
図1
図2
図3
図4
図5