(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転子の磁極位置検出器を持たない永久磁石形同期電動機を電力変換器により制御する制御方法であって、前記電動機の端子電圧相当値及び前記電動機の電流を用いて前記回転子の磁極の位置演算誤差を求め、その位置演算誤差から前記電動機の速度及び磁極位置を検出するようにした永久磁石形同期電動機の制御方法において、
現在の第1のサンプル点と過去の第2のサンプル点との間に前記電動機の電流を検出できないサンプル点が存在し、前記第1,第2のサンプル点で前記電動機の電流を検出できる場合は、前記第1,第2のサンプル点における第1,第2の電動機電流検出値と、前記第1,第2のサンプル点間の時間間隔と、前記電動機の端子電圧相当値の前記時間間隔における平均値と、前記電動機の速度演算値の前回値と、に基づいて前記第1のサンプル点における前記位置演算誤差を求め、
前記電動機の電流を検出できないサンプル点については、前記位置演算誤差の前回値を保持することを特徴とする永久磁石形同期電動機の制御方法。
回転子の磁極位置検出器を持たない永久磁石形同期電動機を電力変換器により制御する制御装置であって、前記電動機の端子電圧相当値及び前記電動機の電流を用いて前記回転子の磁極の位置演算誤差を求め、その位置演算誤差から前記電動機の速度及び磁極位置を検出するようにした永久磁石形同期電動機の制御装置において、
前記電動機の電流を検出する電流検出部と、前記端子電圧相当値を生成する電圧生成部と、前記位置演算誤差を推定する位置演算誤差推定部と、前記位置演算誤差から前記電動機の速度及び磁極位置を演算する速度・位置演算部と、を備え、
前記位置演算誤差推定部は、
現在の第1のサンプル点と過去の第2のサンプル点との間に前記電動機の電流を検出できないサンプル点が存在する場合に前記第1,第2のサンプル点において前記電流検出部により検出した第1,第2の電動機電流検出値と、前記第1,第2のサンプル点間の時間間隔と、前記電圧生成部により生成した前記端子電圧相当値の前記時間間隔における平均値と、前記電動機の速度演算値の前回値と、に基づいて前記第1のサンプル点における前記位置演算誤差を求め、
前記電動機の電流を検出できないサンプル点については、前記位置演算誤差の前回値を保持することを特徴とする永久磁石形同期電動機の制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載された電流検出装置により、三相のうち二相以上の相電流を検出してその直交回転座標成分であるd軸電流、q軸電流を検出できるのは、インバータの各相のうち少なくとも二相以上の下アームがオンするタイミングである。しかし、インバータの出力電圧の条件によっては、一時的に二相以上の下アームがオンするタイミングが存在せず、その場合には、d軸電流、q軸電流を検出できなくなる。
一方、例えば特許文献1では、段落[0059]〜[0068]の数式9〜数式13に示されるように、拡張誘起電圧を演算するために相電流から変換したq軸電流の微分演算が必要であり、また、位置演算誤差を求めるに当たってはd軸電流及びq軸電流の微分演算が必要である。
【0008】
このため、仮に特許文献2に記載された比較的安価な電流検出装置を用いて特許文献1等のセンサレス制御を実現しようとしても、d軸電流及びq軸電流を検出できないタイミングでは、拡張誘起電圧ひいては位置演算誤差を演算することができない。
また、特許文献1等において拡張誘起電圧を演算するために電流微分値を求めるには、サンプル点間の電流の差分演算が必要である。従って、相電流を検出できない場合には、その次のサンプル周期において電流の差分演算を行うことが不可能になる。この場合、前回の差分演算値による電流微分値を用いることも考えられるが、拡張誘起電圧演算値に誤差を含む可能性があり、その結果、速度演算値や位置演算値が誤差を含んだものになるという問題があった。
【0009】
なお、特許文献1の段落[0077],[0078]には、電動機の速度や負荷が一定であれば電動機電流の変化は微小であるという前提に基づき、位置演算誤差を求める演算式におけるd軸電流及びq軸電流の微分項を無視することが示唆されている。
しかし、電動機の速度や負荷を一定と仮定することは一般性を欠き、電動機の速度等が変化する場合には、結果的に速度や磁極位置の検出精度が低くなる等の問題がある。
【0010】
そこで、本発明の目的は、連続する複数のサンプル点で電動機電流を検出できない状況においても、回転子磁極の位置演算誤差を正確に演算して電動機の速度及び磁極位置を高精度に検出可能とした永久磁石形同期電動機の制御方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、上記制御方法を実現するための低価格かつ小型の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明に係る永久磁石形同期電動機の制御方法は、請求項1に記載するように、現在の第1のサンプル点と過去の第2のサンプル点との間に電動機の電流を検出できないサンプル点が存在し、第1,第2のサンプル点で電動機電流を検出できる場合は、第1,第2のサンプル点における第1,第2の電動機電流検出値と、第1,第2のサンプル点間の時間間隔と、電動機の電圧指令値等の端子電圧相当値の前記時間間隔における平均値と、電動機の速度演算値の前回値と、に基づいて第1のサンプル点における位置演算誤差を求め、電動機電流を検出できないサンプル点については、位置演算誤差の前回値を保持する。また、こうして求めた位置演算誤差から電動機の速度及び磁極位置を演算し、これらの速度演算値及び位置演算値を用いて電力変換器により電動機のセンサレス制御を行うものである。
【0012】
なお、請求項2に記載するように、第1のサンプル点における位置演算誤差を求めるに当たっては、第1,第2の電動機電流検出値と、第1,第2のサンプル点間の時間間隔と、電動機の端子電圧相当値の前記時間間隔における平均値と、電動機の速度演算値と、に基づいて、回転子の磁極方向に直交する方向の拡張誘起電圧を演算し、この拡張誘起電圧を構成する直交電圧成分から位置演算誤差を求めると良い。
【0013】
また、請求項3,4に記載するように、電動機を駆動するインバータの各相の下アームの電流をシャント抵抗により検出し、この電流検出値とインバータの変調率とから演算した電動機の相電流を、電動機電流検出値として用いることが望ましい。
【0014】
本発明に係る永久磁石形同期電動機の制御装置は、請求項5に記載するように、電動機の電流を検出する電流検出部と、電動機の端子電圧相当値を生成する電圧生成部と、回転子磁極の位置演算誤差を推定する位置演算誤差推定部と、位置演算誤差から電動機の速度及び磁極位置を演算する速度・位置演算部と、を備えている。
そして、位置演算誤差推定部は、現在の第1のサンプル点と過去の第2のサンプル点との間に電動機電流を検出できないサンプル点が存在する場合に第1,第2のサンプル点において検出した第1,第2の電動機電流検出値と、第1,第2のサンプル点間の時間間隔と、電圧生成部により生成した端子電圧相当値の前記時間間隔における平均値と、電動機の速度演算値の前回値と、に基づいて第1のサンプル点における位置演算誤差を求める。また、電動機電流を検出できないサンプル点については、位置演算誤差の前回値を保持するものである。
【0015】
請求項6に記載するように、位置演算誤差推定部は、第1,第2の電動機電流検出値と、第1,第2のサンプル点間の時間間隔と、電動機の端子電圧相当値の前記時間間隔における平均値と、電動機の速度演算値と、に基づいて拡張誘起電圧を演算する拡張誘起電圧演算部と、この拡張誘起電圧を構成する直交電圧成分から位置演算誤差を求める角度差演算部と、を備えることが望ましい。
【0016】
また、請求項7,8に記載するように、電動機を駆動するインバータの各相の下アームの電流を検出するシャント抵抗からなる電流検出部と、このシャント抵抗による電流検出値とインバータの変調率とから電動機の相電流を演算する相電流演算部と、を備え、前記相電流を電動機電流検出値として用いれば良い。
なお、本発明の制御装置は、請求項9に記載するように、電流検出部、電圧生成部、位置演算誤差推定部及び速度・位置演算部を、インバータ及びその駆動信号生成部と一体化することにより、1台の装置として構成することが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、永久磁石型同期電動機の電流が一時的に検出不能になったとしても、この検出不能期間を挟む現在のサンプル点及び過去のサンプル点において電動機電流を検出できれば、これらの電動機電流検出値、端子電圧相当値の平均値等に基づいて回転子磁極の位置演算誤差を検出することができる。従って、この位置演算誤差を用いて電動機の速度及び磁極位置を演算し、電動機のセンサレス制御を高精度に行うことが可能である。
更に、シャント抵抗を用いて電動機電流を検出することにより、制御装置の低価格化、小型化を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
図1は、永久磁石型同期電動機の駆動システムの構成を示すブロック図である。
まず、
図1において、50は三相交流電源、60は三相交流電圧を整流して直流電圧を出力する整流回路、70は直流電圧を所定の大きさ及び周波数の三相交流電圧に変換するインバータ、80は永久磁石型同期電動機(PMSM)である。
【0020】
インバータ70は、PMSM80の回転子の回転に同期したd,q軸直交回転座標上で制御を行うことにより、PMSM80の高精度のトルク制御や速度制御を実現可能としている。ここで、d,q軸は、回転子の磁極のN極方向をd軸と定義し、d軸から90°進み方向をq軸と定義している。しかしながら、磁極位置検出器を用いずに運転するセンサレス制御の場合、d,q軸の位置を直接検出することができない。そこで、PMSM80の制御装置では、d,q軸の推定軸であるγ,δ軸上に置き換えた電圧、電流を用いて制御演算を行っている。
【0021】
図2は、d,q軸直交回転座標及びγ,δ軸直交回転座標の説明図である。
図2において、θ
errは、PMSM80のu相巻線を基準としたγ軸の角度(位置演算値)θ
1とu相巻線を基準としたd軸の角度(実際の磁極位置)θ
rとの角度差(位置演算誤差)であり、数式1によって定義される。
[数1]
θ
err=θ
1−θ
r
また、
図2に示すように、d,q軸の回転角速度(回転子速度)をω
rとし、γ,δ軸の回転角速度(速度演算値)をω
1とする。
【0022】
次に、
図1におけるPMSM80の速度制御方法、電流制御方法及び電圧制御方法について、制御装置の構成、作用と共に説明する。
なお、
図1における制御装置(三相交流電源50、整流回路60、インバータ70及びPMSM80以外の部分)は、主としてマイクロコンピュータ等の演算装置及び演算プログラムによって構成されており、必ずしもハードウェアのみで実現されるものではない。
【0023】
図1の減算器16は、速度指令値ω
r*と速度演算値ω
1との偏差を演算する。速度調節器17は、前記偏差をゼロにするような演算を行ってトルク指令値τ
*を生成する。電流指令演算器18は、トルク指令値τ
*に応じたトルクを発生するように、γ軸電流指令値i
γ*及びδ軸電流指令値i
δ*を演算する。
【0024】
減算器19aは、γ軸電流指令値i
γ*とγ軸電流検出値i
γdetとの偏差を演算し、減算器19bは、δ軸電流指令値i
δ*とδ軸電流検出値i
δdetとの偏差を演算する。
γ軸電流調節器20aは、減算器19aから出力される偏差をゼロにするような演算を行ってγ軸電圧指令値v
γ*を生成する。δ軸電流調節器20bは、減算器19bから出力される偏差をゼロにするような演算を行ってδ軸電圧指令値v
δ*を生成する。これらのγ軸電圧指令値v
γ*及びδ軸電圧指令値v
δ*は、座標変換器15に入力される。
ここで、γ軸電流調節器20a及びδ軸電流調節器20bは、請求項における電圧生成部を構成している。
【0025】
座標変換器15は、積分器34により演算される位置演算値θ
1に基づいて、γ軸電圧指令値v
γ*及びδ軸電圧指令値v
δ*を三相の電圧指令値v
u*,v
v*,v
w*に座標変換し、これらの電圧指令値v
u*,v
v*,v
w*を変調率演算器21に入力する。なお、変調率演算器21には、電圧検出回路12により検出した直流電圧検出値E
dcも入力されている。
変調率演算器21は、以下の数式2により、電圧指令値v
u*,v
v*,v
w*及び直流電圧検出値E
dcから変調率指令値λ
u*,λ
v*,λ
w*を演算する。
【数2】
【0026】
駆動信号生成部としてのPWM回路13は、変調率指令値λ
u*,λ
v*,λ
w*から、インバータ70の各相出力電圧をそれぞれ電圧指令値v
u*,v
v*,v
w*に制御するためのゲート信号を生成する。インバータ70は、ゲート信号に基づいて内部の半導体スイッチング素子のオン・オフを制御することにより、PMSM80の端子電圧を電圧指令値v
u*,v
v*,v
w*に制御する。
なお、この明細書において、γ,δ軸電圧指令値v
γ*,v
δ*、γ,δ軸電圧検出値v
γdet,v
δdet、三相の電圧指令値v
u*,v
v*,v
w*、及び、PMSM80の端子電圧自体を総称して、PMSM80の端子電圧相当値というものとする。
図1に示した駆動システムでは、上述した作用により、PMSM80の回転子速度ω
rを速度指令値ω
r*通りに制御している。
【0027】
次に、
図3はインバータ70の構成を示す回路図である。
図3において、P,Nは直流端子、u,v,wは交流端子、71〜73はIGBT等からなる上アーム主回路素子、74〜76は同じく下アーム主回路素子、77はコンデンサである。また、78u,78v,78wは、下アーム主回路素子74〜76にそれぞれ直列に接続されたシャント抵抗である。
シャント抵抗78u,78v,78wは、インバータ70の各相の下アーム電流を検出するためのものであり、下アーム電流検出値i
un,i
vn,i
wnは、下アーム主回路素子74〜76がオンしたときのPMSM80の各相電流に一致する。
【0028】
図1における相電流演算器11は、変調率指令値λ
u*,λ
v*,λ
w*からインバータ70の下アーム主回路素子74〜76のオン/オフ状態を求める。
そして、下アーム主回路素子74〜76のうち2つ以上がオンしている場合は、下アーム電流検出値i
un,i
vn,i
wnから相電流検出値i
udet,i
vdet,i
wdetを求めて座標変換器14に出力する。一方、下アーム主回路素子74〜76のうち2つ以上がオンしていない場合は、相電流の検出は不能と判断し、相電流検出値i
udet,i
vdet,i
wdetは、前回値のまま保持する。
【0029】
座標変換器14は、積分器34により演算される位置演算値θ
1に基づいて、相電流検出値i
udet,i
vdet,i
wdetをγ軸電流検出値i
γdet及びδ軸電流検出値i
δdetに座標変換する。なお、下アーム主回路素子74〜76のうち2つ以上がオンしないため相電流検出が不能であり、相電流検出値i
udet,i
vdet,i
wdetが前回値のまま保持されている場合は、γ軸電流検出値i
γdet及びδ軸電流検出値i
δdetについても前回値のまま保持する。
【0030】
次に、PMSM80の速度演算・磁極位置演算について説明する。まず、
図1における拡張誘起電圧演算器31の作用について説明する。
相電流検出値i
udet,i
vdet,i
wdetを電流検出周期(サンプル点)ごとに常に検出できる場合、サンプル点(n−1)〜(n)の区間のPMSMの離散系の電圧方程式に基づき、サンプル点(n)におけるγ,δ軸拡張誘起電圧演算値E
exγest(n),E
exδest(n)を数式3により求める。
【数3】
【0031】
数式3におけるγ,δ軸電圧検出値v
γdet,v
δdetは端子電圧相当値であり、電圧生成部としてのγ軸電流調節器20a及びδ軸電流調節器20bによって演算されるγ,δ軸電圧指令値v
γ*,v
δ*を用いる。ここで、サンプル点(n)におけるγ,δ軸電圧検出値v
γdet(n),v
δdet(n)には、インバータ70の制御遅れを考慮して、サンプル点(n−1)におけるγ,δ軸電圧指令値v
γ*(n−1),v
δ*(n−1)を用いている。
なお、詳細な説明は省略するが、γ,δ軸電圧検出値v
γdet,v
δdetの代わりに、電圧生成部としての電圧検出器(図示せず)により検出したインバータ70の出力電圧を用いても良い。
【0032】
一方、時間的に離れたサンプル点(n−m),(n)において相電流検出値i
udet,i
vdet,i
wdetが得られ、これらのサンプル点に挟まれたサンプル点(n−m+1)〜(n−1)の区間において相電流検出値i
udet,i
vdet,i
wdetが得られない場合、すなわち、連続していない二つのサンプル点(n−m),(n)で相電流検出値i
udet,i
vdet,i
wdetが得られる場合には、サンプル点(n−m)〜(n)の区間におけるPMSMの離散系の電圧方程式に基づき、サンプル点(n)におけるγ,δ軸拡張誘起電圧演算値E
exγest(n),E
exδest(n)を数式4によって求める。
【数4】
【0033】
このときのγ,δ軸拡張誘起電圧演算のタイミングチャートを、
図4に示す。なお、
図4は、数式4におけるm=3の場合について示している。また、
図4に示した各サンプル点については、一般式である数式3,4におけるサンプル点の添え字(n)と区別するために、サンプル点を(N−4),……,(N),(N+1)と表している。
図4の例では、サンプル点(N)が請求項における第1のサンプル点、サンプル点(N−3)が請求項における第2のサンプル点に相当する。
【0034】
図4から明らかなように、すべてのサンプル点(n)(
図4では、n=(N+1)〜(N−4))におけるγ,δ軸電圧検出値v
γdet(n),v
δdet(n)は、一つ前のサンプル点(n−1)におけるγ,δ軸電圧指令値v
γ*(n−1),v
δ*(n−1)となっている。
また、相電流を検出可能なサンプル点(N)における、数式4の但し書きのv
γdetAVE(n),v
δdetAVE(n)は、3つのサンプル点(N−3)〜(N−1)のγ,δ軸電圧検出値v
γdet(n),v
δdet(n)の、時間間隔(3T
s)における平均値である。
【0035】
このため、サンプル点(N)におけるγ,δ軸拡張誘起電圧E
exγest(N),E
exδest(N)は、サンプル点(N)におけるγ,δ軸電圧検出値の平均値v
γdetAVE(N),v
δdetAVE(N)と、サンプル点(N−3),(N)におけるγ,δ軸電流検出値i
γdet(N−3),i
δdet(N−3),i
γdet(N),i
δdet(N)と、速度演算値ω
1(N−1)と、電動機定数R
a,L
d,L
qとを用いて、前述した数式4により求めることができる。
なお、速度演算値ω
1(N−1)は相電流を検出できなかった前回のサンプル点(N−1)の速度演算値であり、以下に述べるようにサンプル点(N−3)から保持し続けているγ,δ軸拡張誘起電圧演算値E
exγest(N−3),E
exδest(N−3)を用いて、速度演算値ω
1(N−1)を求めれば良い。
【0036】
上記のサンプル点(N−1)を含むサンプル点(N−2),(N−1)のように、相電流検出値i
udet,i
vdet,i
wdetが得られないサンプル点については、γ,δ軸拡張誘起電圧演算値E
exγest(n),E
exδest(n)として前回値E
exγest(n−1),E
exδest(n−1)を保持する。
速度演算値ω
1及び位置演算値θ
1は、数式3または数式4により求めたγ,δ軸拡張誘起電圧演算値E
exγest,E
exδestを用いて、後述する演算により求めることができる。
【0037】
なお、数式4においてm=1とすると、数式4は数式3に等しくなる。このため、相電流検出値がサンプル点ごとに常に得られる場合のγ,δ軸拡張誘起電圧演算値は、数式4においてm=1とおけばよい。
すなわち、制御装置が数式4を実行するプログラムを備えておき、例えばm=3に設定した時には不連続のサンプル点(n−3),(n)で相電流検出値が得られる場合の、サンプル点(n)におけるγ,δ軸拡張誘起電圧演算を行うことができる。また、m=1に設定した時には、連続するサンプル点(n−1),(n)で相電流検出値が得られる場合の、サンプル点(n)におけるγ,δ軸拡張誘起電圧演算を行うことができる。つまり、制御装置としては、数式4におけるmの値を変更すれば済むため、数式3を実行するプログラムを敢えて備える必要がなくなる。
【0038】
以上説明したように、数式4の演算によれば、
図4のサンプル点(N−2),(N−1)のように相電流検出値i
udet,i
vdet,i
wdetを一時的に得ることができない場合でも、サンプル点(N)におけるγ,δ軸拡張誘起電圧演算値を正確に求めることができる。また、サンプル点(N−2),(N−1)については、前回、相電流が検出可能であったサンプル点(N−3)におけるγ,δ軸拡張誘起電圧演算値を保持して用いることができる。
【0039】
次に、γ,δ軸拡張誘起電圧演算値E
exγest,E
exδestを用いてPMSM80の速度及び磁極位置を演算する方法について説明する。
図1の角度差演算器32は、γ,δ軸拡張誘起電圧演算値E
exγest,E
exδestから位置演算誤差(推定値)θ
errestを数式5により演算する。
【数5】
【0040】
ここで、角度差演算器32は、拡張誘起電圧演算器31と共に位置演算誤差推定部30を構成している。
速度演算器33は、数式5により求めた位置演算誤差θ
errestを用いて数式6の演算を行い、速度演算値ω
1を求める。なお、数式6において、K
Pは比例ゲイン、T
Iは積分時間である。こうして求めた速度演算値ω
1が、減算器16、及び積分器34に入力されると共に、数式4の演算を行うために拡張誘起電圧演算器31に入力される。
【数6】
積分器34は、速度演算値ω
1を積分して位置演算値θ
1を算出する。ここで、速度演算器33及び積分器34は、速度・位置演算部35を構成している。
以上の演算により、位置演算誤差θ
errが零になるように速度演算値ω
1及び位置演算値θ
1を真値に収束させ、PMSM80のトルク制御、速度制御を高精度に行うことが可能になる。
【0041】
図5は、この実施形態の動作を示すフローチャートである。
図5において、現在のサンプル点(n)で相電流が検出された場合には(ステップS1 YES)、前回のサンプル点(n−1)でも相電流が検出されたか否かを判断する。そして、前回のサンプル点(n−1)でも相電流が検出された場合には(ステップS2 YES)、数式3,数式5等の演算を順次行って速度演算値ω
1及び位置演算値θ
1を求め、センサレス制御を行う(ステップS3〜S6)。
【0042】
また、現在のサンプル点(n)で相電流が検出されず、γ,δ軸拡張誘起電圧の前回値が保持されている場合には(ステップS1 NO,ステップS7 YES)、その前回値を用いてステップS4以降の処理を実行する。γ,δ軸拡張誘起電圧の前回値が保持されていない場合には(ステップS7 NO)、そのまま処理を終了する。
ステップS2において、前回のサンプル点(n−1)で相電流が検出されなかった場合には(ステップS2 NO)、それ以前のサンプル点(n−m)で相電流が検出されたか否かを判断する。サンプル点(n−m)で相電流が検出された場合には(ステップS8 YES)、数式4によりγ,δ軸拡張誘起電圧を演算し(ステップS9)、その後にステップS4以降の処理を実行する。
【0043】
なお、サンプル点(n−m)で相電流が検出されなかった場合には(ステップS8 NO)、そのまま処理を終了する。この場合、mを逐次、インクリメントしていき、相電流が検出されたサンプル点までさかのぼって探索することにより、数式4の適用を可能にしてもよい。あるいは、mを上限値まで大きくしても相電流が検出された過去のサンプル点(n−m)が存在しない場合には、ある程度の演算誤差を許容できるのであれば、数式4のγ,δ軸拡張誘起電圧の各演算式における右辺カッコ内の第2項をゼロに近似して数式4を適用しても良い。