特許第6102548号(P6102548)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6102548新規エチルアダマンタンジカルボン酸エステル化合物、およびその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6102548
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】新規エチルアダマンタンジカルボン酸エステル化合物、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/14 20060101AFI20170316BHJP
   C07C 69/753 20060101ALI20170316BHJP
   C07C 69/608 20060101ALI20170316BHJP
   C07C 55/38 20060101ALI20170316BHJP
   C07C 51/58 20060101ALI20170316BHJP
   B01J 27/12 20060101ALI20170316BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20170316BHJP
【FI】
   C07C67/14CSP
   C07C69/753 Z
   C07C69/608
   C07C55/38
   C07C51/58
   B01J27/12 Z
   !C07B61/00 300
【請求項の数】2
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-127362(P2013-127362)
(22)【出願日】2013年6月18日
(65)【公開番号】特開2015-866(P2015-866A)
(43)【公開日】2015年1月5日
【審査請求日】2016年5月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】北村 光晴
【審査官】 小川 由美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−063313(JP,A)
【文献】 特開2010−150221(JP,A)
【文献】 ロシア国特許出願公開第02476421(RU,A)
【文献】 国際公開第98/040337(WO,A1)
【文献】 米国特許第03250805(US,A)
【文献】 特表昭57−500785(JP,A)
【文献】 特開2004−043362(JP,A)
【文献】 米国特許第02570793(US,A)
【文献】 特開2008−031151(JP,A)
【文献】 特開2015−000865(JP,A)
【文献】 Akhrem, Irena S.; Avetisyan, Dzhul'etta V.; Afanas'eva, Luidmila V.,The first selective one-pot synthesis of 1,3-dicarbonyl adamantanes from adamantane and 1,3-dimethyladamantane,Tetrahedron Letters,2012年,53(27),3493-3496
【文献】 Majerski, Zdenko; Skare, Danko; Vulic, Ljubica,A convenient synthesis of 1,3-divinyladamantane,Synthetic Communications,1986年,16(1),51-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学構造式が式(1)表されるエチルアダマンタンジカルボン酸エステル化合物。
【化1】
(式中Rは炭素数1〜4のアルキル基、m、nは0又は1の数値である。)
【請求項2】
フッ化水素及び三フッ化ホウ素の存在下、式(3)で表される1−エチルアダマンタンと一酸化炭素を反応させ、次いで得られた式(2)で表わされるエチルアダマンタンジカルボン酸フロライドをアルコールと反応させ、式(1)で表されるエチルアダマンタンジカルボン酸エステル化合物を製造することを特徴とするエチルアダマンタンジカルボン酸エステル化合物の製造方法。
【化2】
(式中Rは炭素数1〜4のアルキル基、m、nは0又は1の数値である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規エチルアダマンタンジカルボン酸エステル化合物、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂環式ジカルボン酸と脂環式ジオールから合成されるポリエステル樹脂は透明性や耐熱性や耐候性やガズバリヤー性や光学特性が優れているため、光学材料、電子情報材料、医療器具材料などの用途に用いることができる。
【0003】
例えば、脂環式ジカルボン酸として1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(1,4-CHDA)、脂環式ジオールとして1,4-シクロヘキサンジメタノール(1,4-CHDM)を用いて生分解性に優れるポリエステル樹脂(特許文献1)や放出ガス量の少ない導電性ポリエステル(特許文献2)や泡の消失時間が短く医療用途に適するポリエステルを合成している(特許文献3)。また、脂環式ジカルボン酸としてトリシクロ[3.3.1.13、7]デカンジカルボン酸、脂環式ジオールとしてトリシクロ[3.3.1.13、7]デカンジオールを用いて光学異方性が小さく成形性に優れるポリエステル樹脂を合成している(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−290356号公報
【特許文献2】特開2004−124022号公報
【特許文献3】特開2005−298555号公報
【特許文献4】特許第3862538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、各種の工業化学原料、光学機能性材料や電子機能性材料の製造原料として有用な新規エチルアダマンタンジカルボン酸エステル化合物、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、式(3)で表される1−エチルアダマンタンから式(1)で表される新規エチルアダマンタンジカルボン酸エステル化合物を製造する方法について検討を行った結果、フッ化水素(以後HFともいう)及び三フッ化ホウ素(以後BFともいう)の存在下、式(3)で表される1−エチルアダマンタンと一酸化炭素を反応させ、次いで得られた式(2)で表わされるエチルアダマンタンジカルボン酸フロライドをアルコールと反応させ、式(1)で表される新規エチルアダマンタンジカルボン酸エステル化合物を製造できることが判明した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0007】
【化1】
(式中Rは炭素数1〜4のアルキル基、m、nは0又は1の数値である。)
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]式(1)で表されるエチルアダマンタンジカルボン酸エステル化合物。
【0009】
【化2】
(式中Rは炭素数1〜4のアルキル基、m、nは0又は1の数値である。)
【0010】
[2]フッ化水素及び三フッ化ホウ素の存在下、式(3)で表される1−エチルアダマンタンと一酸化炭素を反応させ、次いで、得られた式(2)で表わされるエチルアダマンタンジカルボン酸フロライドをアルコールと反応させ、式(1)で表されるエチルアダマンタンジカルボン酸エステル化合物を製造することを特徴とするエチルアダマンタンジカルボン酸エステル化合物の製造方法。
【0011】
【化3】
(式中Rは炭素数1〜4のアルキル基、m、nは0又は1の数値である。)
【発明の効果】
【0012】
本発明の式(1)で表される新規エチルアダマンタンジカルボン酸エステル化合物は、ポリエステル樹脂の原料として使用すると、その材料は優れた光学特性と耐熱性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1で得られたエチルアダマンタンジカルボン酸エステル化合物の一成分(ジ体〔A〕)のInverse gate decoupling法による13C−NMR測定の結果を示す。
図2】実施例1で得られたジ体〔A〕のDEPT135°−NMR測定の結果を示す。
図3】実施例1で得られたジ体〔A〕のDEPT90°−NMR測定の結果を示す。
図4】実施例1で得られたジ体〔A〕のHSQC−NMR測定の結果を示す。
図5図4における0.6〜2.8ppm部分の測定結果の拡大図である。
図6】実施例1で得られたジ体〔A〕のHMBC−NMR測定の結果を示す。
図7図6における−0.2〜2.7ppm部分の測定結果の拡大図である。
図8】実施例1で得られたジ体〔A〕のCOSY−NMR測定の結果を示す。
図9】実施例1で得られたエチルアダマンタンジカルボン酸エステル化合物の一成分(ジ体〔B〕)のInverse gate decoupling法による13C−NMR測定の結果を示す。
図10】実施例1で得られたジ体〔B〕のDEPT135°−NMR測定の結果を示す。
図11】実施例1で得られたジ体〔B〕のDEPT90°−NMR測定の結果を示す。
図12】実施例1で得られたジ体〔B〕のHSQC−NMR測定の結果を示す。
図13図12における0.6〜2.7ppm部分の測定結果の拡大図である。
図14】実施例1で得られたジ体〔B〕のHMBC−NMR測定の結果を示す。
図15図14における0.5〜2.4ppm部分の測定結果の拡大図である。
図16】実施例1で得られたジ体〔B〕のCOSY−NMR測定の結果を示す。
図17】実施例1で得られたエチルアダマンタンジカルボン酸エステル化合物の一成分(ジ体〔C〕)のInverse gate decoupling法による13C−NMR測定の結果を示す。
図18】実施例1で得られたジ体〔C〕のDEPT135°−NMR測定の結果を示す。
図19】実施例1で得られたジ体〔C〕のDEPT90°−NMR測定の結果を示す。
図20】実施例1で得られたジ体〔C〕のHSQC−NMR測定の結果を示す。
図21図20における0.5〜2.4ppm部分の測定結果の拡大図である。
図22】実施例1で得られたジ体〔C〕のHMBC−NMR測定の結果を示す。
図23図22における−0.2〜2.5ppm部分の測定結果の拡大図である。
図24】実施例1で得られたジ体〔C〕のCOSY−NMR測定の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0015】
本実施形態の新規エチルアダマンタンジカルボン酸エステル化合物は、前記の式(1)で表される。式(1)中、Rで表される炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基が挙げられる。
【0016】
また、本実施形態の新規エチルアダマンタンジカルボン酸エステル化合物製造法は、(a)前記の式(3)で表される1−エチルアダマンタンをHF及びBF存在下、一酸化炭素と反応させて式(2)で表されるエチルアダマンタンジカルボン酸フロライドを得る工程(以下、「カルボニル化工程」と略すこともある)、
(b)次いでアルコールと反応させ、式(1)で表されるエチルアダマンタンジカルボン酸エステル化合物を得る工程(以下、「エステル化工程」と略すこともある)、からなる。
【0017】
<(a)カルボニル化工程>
1−エチルアダマンタンのカルボニル化反応は、HF及びBFの存在下で一酸化炭素の加圧下に実施する。これにより、式(2)で表されるエチルアダマンタンジカルボン酸フロライドが、種々の副生物(異性体を含む)とともに得られる。
【0018】
【化4】
(式中m、nは0又は1の数値である。)
【0019】
[一酸化炭素]
本実施形態のカルボニル化工程に使用する一酸化炭素は、窒素やメタン等の不活性ガスが含まれていても良いが、一酸化炭素分圧として0.5〜5MPa、好ましくは1〜4MPaの範囲で実施する。一酸化炭素分圧が0.5MPaより高ければ、カルボニル化反応が十分に進行し、不均化や重合等の副反応が併発せず、高収率で目的物であるエチルアダマンタンジカルボンジカルボン酸フロライドを得ることができる。また一酸化炭素分圧は5MPa以下であることが設備負荷の観点から好ましい。
【0020】
[フッ化水素]
カルボニル化工程に使用するHFは、反応の溶媒であり、触媒であり、かつ副原料となるため、実質的に無水のものを用いる。HFの使用量は、原料の1−エチルアダマンタンに対して10〜60モル倍、好ましくは15〜50モル倍である。HFのモル比が10モル倍以上あれば、カルボニル化反応は効率良く進行し、不均化や重合等の副反応を抑制でき、高収率で目的物であるエチルアダマンタンジカルボンジカルボン酸フロライドを得ることができる。また、原料コスト及び生産性の観点から60モル倍以下のHFの使用が好ましい。
【0021】
[三フッ化ホウ素]
BFの使用量は、原料の1−エチルアダマンタンに対して0.3〜2.0モル倍、好ましくは0.5〜1.5モル倍の範囲である。BFのモル比が0.3モル倍以上であれば、カルボニル化反応は効率良く進行する。また、BFのモル比が2.0モル倍以下であれば、BF3分圧が過剰になって一酸化炭素分圧が抑制される状態にはならないため良好な収率が得られる。
【0022】
[反応条件]
カルボニル化反応の形式には特に制限なく、回分式、半連続式、連続式等の何れの方法でも良い。
【0023】
カルボニル化反応の反応温度は45℃〜90℃、好ましくは60℃〜80℃の範囲で実施する。カルボニル化反応は反応温度45℃以上で進行するが、80℃以上では重合化が起こるため、選択性と反応速度の観点から70℃付近で行なうことが好ましい。
【0024】
<(b)エステル化工程>
カルボニル化反応で生成したエチルアダマンタンジカルボン酸フロライド反応液は、炭素数1〜4のアルコールと反応させてエチルアダマンタンジカルボン酸エステル化合物とする。反応装置の腐食性の観点から、この際、エチルアダマンタンジカルボン酸フロライド反応液に所定量のアルコールを添加していく方法が好ましい。
また、カルボニル化反応で生成したエチルアダマンタンジカルボン酸フロライド反応液は、直接エステル化反応の原料として使用することができるが、(I)過剰のHFを留去した後、蒸留等の常法により精製し、エステル化工程の原料として用いることもできるし、(II)過剰のHFを留去した後、加水分解させて相当するカルボン酸を得て、該カルボン酸を蒸留等の常法により精製後にエステル化工程の原料として用いることもできる。
【0025】
【化5】
(式中Rは炭素数1〜4のアルキル基、m、nは0又は1の数値である。)
【0026】
エステル化工程で用いられる具体的なアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、t−ブチルアルコールが挙げられる。これらの内、反応性の観点からメタノールまたはエタノールが好ましい。
【0027】
アルコールの使用量は、カルボニル化工程の原料1−エチルアダマンタンに対して1.0〜2.5モル倍、好ましくは1.5〜2.2モル倍である。アルコールのモル比が1.0モル倍以上であれば、未反応フロライドの残量が少なく、後工程での装置腐食が小さいことから好ましく、アルコールの分子間脱水反応で生成する水による装置腐食を抑制する観点から2.5モル倍以下が好ましい。
【0028】
エステル化工程の反応温度は、化学式(1)で表されるエチルアダマンタンジカルボン酸エステル化合物の分解抑制の観点から−40℃以上20℃以下である。反応温度を−40℃以上にすることで、エステル化速度を高め収率を向上させることができる。また、20℃以下にすることで、エステルの分解を抑制するとともに、アルコールの脱水反応による水の副生を抑制することができる。
【0029】
得られた式(1)で表されるエチルアダマンタンジカルボン酸エステル化合物を含む反応液からHFを留去した後、蒸留等の常法により精製する。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下において“%”は、特に断らない限り質量%を意味する。
<分析方法、条件>
【0031】
[ガスクロマトグラフィー]
ガスクロマトグラフィーは、島津製作所製GC−17AとキャピラリーカラムとしてULBON製 HR−1(0.32mmφ×25m×0.50μm)を用いた。昇温条件は100℃から300℃まで5℃/min.で昇温した。
【0032】
[エチルアダマンタンの転化率]
ガスクロマトグラフィー分析により、原料のエチルアダマンタンの重量割合(wt%)を内部標準法により求め、転化率を下記式により算出した。
転化率(mol%)=100−{原料の残存量/原料の仕込み量×100}
[エチルアダマンタンジカルボン酸エステル化合物収率、エステル化合物組成比]
ガスクロマトグラフィー分析により、生成物である数種類のエチルアダマンタンジカルボン酸エステル化合物(以下“ジ体”と略すことがある)の重量割合(wt%)を内部標準法により求め、ジ体合計収率、各ジ体の生成比を下記式により算出した。なお、ジ体には、後述するように比較的生成量の多い3種類の成分があり、これらを各々、ジ体〔A〕、ジ体〔B〕、ジ体〔C〕と称し、これら3種以外の成分はその他のジ体とする。
{ジ体合計収率(モル%)}={ジ体〔A〕取得量/280.4+ジ体〔B〕取得量/294.4+ジ体〔C〕取得量/308.4+その他のジ体取得量/294.4}/{原料の仕込み量/164.3}×100
{ジ体組成比(%)}={各ジ体組成(ジ体〔A〕、ジ体〔B〕、ジ体〔C〕、その他のジ体)(%)}/{ジ体合計組成(%)}×100
【0033】
[GC−MS]
Waters社製GC−MS装置 GCT Premier
【0034】
[NMR]
装置 :Bruker Avance 600II(600MHz−NMR)
モード:Proton、Carbon、Carbon(Inverse gate decoupling法)、DEPT90°、135°、HSQC、HMBC、COSY
溶媒 :CDCl3(重クロロホルム)
内部標準物質:テトラメチルシラン
【0035】
<実施例1>
エチルアダマンタンジカルボン酸ジメチルエステル化合物の製造
【0036】
【化6】
(式中m、nは0又は1の数値である。)
【0037】
[カルボニル化工程]
ナックドライブ式攪拌機と上部に3個の入口ノズル、底部に1個の抜き出しノズルを備え、ジャケットにより内部温度を抑制できる内容積500mlのステンレス製オートクレーブに、冷却下1−エチルアダマンタン(上海博康精細化工有限公司製)66.0g(0.40mol)、無水HF241.2g(12.05mol),BF 20.4g(0.30mol)を仕込み、内容物を撹拌し液温を78℃に昇温した後、一酸化炭素により3MPaまで昇圧した。その後、圧力を3MPa、液温を78℃に3時間保ってカルボニル化反応させた。
【0038】
[エステル化工程]
引き続いて、反応温度を5℃まで冷却した後、メタノールをオートクレーブ上部より25.7g(0.80モル)供給して、撹拌下にて1時間エステル化を行った。
反応液をオートクレーブ底部より氷水中に抜き出し、油相と水相を分離した後、油相を2%苛性ソーダ水溶液100mlで2回,蒸留水100mlで2回洗浄し、10gの無水硫酸ナトリウムで脱水した。
得られた反応液をガスクロマトグラフィーで内部標準分析した結果、転化率99.1モル%,ジ体合計収率48.2モル%(1−エチルアダマンタン基準)であり、ジ体〔A〕、ジ体〔B〕、ジ体〔C〕、その他のジ体のジ体組成比は其々14.7%、57.2%、12.5%、15.6%であった。
【0039】
[生成物の単離精製]
得られた液を理論段数20段の精留塔を用いて精留を行ったところ(留出温度165℃、真空度5torr)、主留部分としてジ体〔A〕13.0%、ジ体〔B〕53.2%、ジ体〔C〕11.6%、その他のジ体15.4%のものが55.9g(蒸留収率90.4モル%、エステル化反応液基準)で得られた。蒸留による組成比率の大きな変動はなかった。
【0040】
<生成物の同定>
主生成物について、さらに、理論段数50段の精留塔を使用して精留し、ジ体〔A〕、ジ体〔B〕、ジ体〔C〕を分取した。3成分は、GC−MSで分子量は其々280、294、308であった。
また、各成分について、前記NMR装置を用いて、1H−NMR測定、13C−NMR測定、13C−NMR測定(Inverse gate decoupling法)、dept90−NMR測定、dept135−NMR測定、HSQC−NMR測定、HMBC−NMR測定、COSY−NMR測定を行った。
1H−NMR測定及び13C−NMR測定の結果を以下に示し、Inverse gate decoupling法によるNMR測定、dept135°、90°−NMR測定、HSQC−NMR測定、HMBC−NMR測定、COSY−NMR測定及び結果を図1〜24に示す。
【0041】
[実施例1で得られたジ体〔A〕のNMR測定結果]
1H−NMR(600MHz、CDCl3、TMS、ppm)δ:0.821(t,3H)、1.212(m,2H)、1.417(d,2H)、1.583(m,4H)、1.792(d,4H)、1.986(m,2H)、2.215(m,1H)、3.667(s,6H)
13C−NMR(600MHz、CDCl3、TMS、ppm)δ:6.90、28.33、33.95、36.73、37.66、39.57、39.95、40.77、41.81、51.77、177.36
【0042】
図1はInverse gate decoupling法による13C−NMR測定の結果を示す。図1から、2つのカルボニル炭素は等価であることが分る。図2はDEPT135°−NMR測定の結果を示す。二級炭素原子である3番と5番と6番と7番と8番が下向きに検出されていることと、四級炭素原子である4番と9番のピーク消失が分る。図3はDEPT90°−NMR測定の結果を示す。三級炭素原子である10番のピークが強く検出されていることが分る。図4図5はHSQC−NMR測定の結果を示す(図5は、図4における0.6〜2.8ppm部分の測定結果の拡大図である)。図4図5により、各炭素原子と結合する水素原子について把握される。図6図7はHMBC−NMR測定の結果を示す(図7は、図6における−0.2〜2.7ppm部分の測定結果の拡大図である)。図6図7により、各炭素原子と2結合離れた水素原子について把握される。図8はCOSY−NMR測定の結果を示す。隣り合う炭素原子の水素原子について把握される。
これらの測定結果から総合的に判断して、ジ体〔A〕はジメチル-5−エチルアダマンタン −1,3−ジカルボキシレートであると同定された。
【0043】
[実施例1で得られたジ体〔B〕のNMR測定結果]
1H−NMR(600MHz、CDCl3、TMS、ppm)δ:0.801(t,3H)、1.191(m,2H)、1.302(m,2H)、1.384(m,2H)、1.1.512(m,4H)、1.677(m,2H)、1.757(d,2H)、2.157(m,3H)、3.653(s,6H)
13C−NMR(600MHz、CDCl3、TMS、ppm)δ:6.96、28.70、33.36、33.56、35.75、37.79、39.97、40.85、442.23、42.46、43.10、45.82、47.90、51.22、51.68、171.89、177.69
【0044】
図9はInverse gate decoupling法による13C−NMR測定の結果を示す。図9から、2つのカルボニル炭素は等価ではないことが分る。図10はDEPT135°−NMR測定の結果を示す。二級炭素原子である5番と6番と6番と7番と8番と10番と11番と12番と13番が下向きに検出されていることと、四級炭素原子である9番と14番と15番のピーク消失が分る。図11はDEPT90°−NMR測定の結果を示す。三級炭素原子である16番のピークが強く検出されていることが分る。図12図13はHSQC−NMR測定の結果を示す(図13は、図12における0.6〜2.7ppm部分の測定結果の拡大図である)。図12図13により、各炭素原子と結合する水素原子について把握される。図14図15はHMBC−NMR測定の結果を示す(図15は、図14における0.5〜2.4ppm部分の測定結果の拡大図である)。図14図15により、各炭素原子と2結合離れた水素原子について把握される。図16はCOSY−NMR測定の結果を示す。隣り合う炭素原子の水素原子について把握される。
これらの測定結果から総合的に判断して、ジ体〔B〕はメチル−3−エチル−5−(2−メトキシ−2−オキソエチル)アダマンタン−1−ジカルボキシレートであると同定された。
【0045】
[実施例1で得られたジ体〔C〕のNMR測定結果]
1H−NMR(600MHz、CDCl3、TMS、ppm)δ:0.785(t,3H)、1.159(m,2H)、1.275(m,4H)、1.321(m,2H)、1.376(m,2H)、1.479(m,4H)、2.127(m,5H)、3.647(s,6H)
13C−NMR(600MHz、CDCl3、TMS、ppm)δ:7.03、29.15、33.75、33.99、35.77、40.11、42.01、45.92、46.86、47.90、51.12、172.06
【0046】
図17はInverse gate decoupling法による13C−NMR測定の結果を示す。図17から、2つのカルボニル炭素は等価であることが分る。図18はDEPT135°−NMR測定の結果を示す。二級炭素原子である3番と4番と5番と6番と7番と8番が下向きに検出されていることと、四級炭素原子である9番と10番のピーク消失が分る。図19はDEPT90°−NMR測定の結果を示す。三級炭素原子である11番のピークが強く検出されていることが分る。図20図21はHSQC−NMR測定の結果を示す(図21は、図20における0.5〜2.4ppm部分の測定結果の拡大図である)。図20図21により、各炭素原子と結合する水素原子について把握される。図22図23はHMBC−NMR測定の結果を示す(図23は、図22における−0.2〜2.5ppm部分の測定結果の拡大図である)。図22図23により、各炭素原子と2結合離れた水素原子について把握される。図24はCOSY−NMR測定の結果を示す。隣り合う炭素原子の水素原子について把握される。
これらの測定結果から総合的に判断して、ジ体〔C〕はジメチル−2,2−(5−エチルアダマンタン−1,3−ジイル)ジアセテートであると同定された。
【0047】
<実施例2>
カルボニル化反応圧力を2MPaで行った以外は実施例1と同様にカルボニル化とエステル化と反応生成液の処理を行った。得られた反応液をガスクロマトグラフィーで内部標準分析した結果、転化率99.1モル%,ジ体合計収率39.5モル%(1−エチルアダマンタン基準)であり、ジ体〔A〕、ジ体〔B〕、ジ体〔C〕、その他のジ体のジ体組成比は其々7.2%、61.0%、13.6%、18.2%であった。
【0048】
<実施例3>
カルボニル化反応時間を6時間で行った以外は実施例2と同様にカルボニル化とエステル化と反応生成液の処理を行った。得られた反応液をガスクロマトグラフィーで内部標準分析した結果、転化率99.1モル%,ジ体合計収率45.0モル%(1−エチルアダマンタン基準)であり、ジ体〔A〕、ジ体〔B〕、ジ体〔C〕、その他のジ体のジ体組成比は其々16.5%、54.3%、11.6%、17.5%であった。
【0049】
<実施例4>
カルボニル化反応のBF仕込み量を13.6g(0.20mol)で行った以外は実施例2と同様にカルボニル化とエステル化と反応生成液の処理を行った。得られた反応液をガスクロマトグラフィーで内部標準分析した結果、転化率99.0モル%,ジ体合計収率36.3モル%(1−エチルアダマンタン基準)であり
、ジ体〔A〕、ジ体〔B〕、ジ体〔C〕、その他のジ体のジ体組成比は其々18.6%、58.1%、7.6%、15.8%であった。
【0050】
<実施例5>
カルボニル化反応のBF仕込み量を34.1g(0.50mol)で行った以外は実施例2と同様にカルボニル化とエステル化と反応生成液の処理を行った。得られた反応液をガスクロマトグラフィーで内部標準分析した結果、転化率98.9モル%,ジ体合計収率26.6モル%(1−エチルアダマンタン基準)であり、ジ体〔A〕、ジ体〔B〕、ジ体〔C〕、その他のジ体のジ体組成比は其々15.6%、47.1%、14.3%、23.0%であった。
【0051】
<実施例6>
カルボニル化反応の各仕込み量を1−エチルアダマンタン33.0g(0.20mol)、無水HF160.8g(8.03mol),BF 10.2g(0.15mol)、にした以外は実施例2と同様にカルボニル化とエステル化と反応生成液の処理を行った。得られた反応液をガスクロマトグラフィーで内部標準分析した結果、転化率98.9モル%,ジ体合計収率45.4モル%(1−エチルアダマンタン基準)であり、ジ体〔A〕、ジ体〔B〕、ジ体〔C〕、その他のジ体のジ体組成比は其々10.5%、56.7%、13.7%、19.0%であった。
【0052】
<実施例7>
カルボニル化反応のHF仕込み量を160.8g(8.03mol)で行った以外は実施例2と同様にカルボニル化とエステル化と反応生成液の処理を行った。得られた反応液をガスクロマトグラフィーで内部標準分析した結果、転化率99.3モル%,ジ体合計収率27.9モル%(1−エチルアダマンタン基準)であり、ジ体〔A〕、ジ体〔B〕、ジ体〔C〕、その他のジ体のジ体組成比は其々11.4%、57.6%、9.3%、21.7%であった。
【0053】
<実施例8>
カルボニル化反応温度を86℃で行った以外は実施例2と同様にカルボニル化とエステル化と反応生成液の処理を行った。得られた反応液をガスクロマトグラフィーで内部標準分析した結果、転化率99.0モル%,ジ体合計収率37.2モル%(1−エチルアダマンタン基準)であり、ジ体〔A〕、ジ体〔B〕、ジ体〔C〕、その他のジ体のジ体組成比は其々10.5%、54.5%、14.3%、20.7%であった。
【0054】
<実施例9>
カルボニル化反応温度を70℃で行った以外は実施例2と同様にカルボニル化とエステル化と反応生成液の処理を行った。得られた反応液をガスクロマトグラフィーで内部標準分析した結果、転化率99.1モル%,ジ体合計収率42.2モル%(1−エチルアダマンタン基準)であり、ジ体〔A〕、ジ体〔B〕、ジ体〔C〕、その他のジ体のジ体組成比は其々18.5%、56.1%、10.9%、14.5%であった。
【0055】
<実施例10>
カルボニル化反応温度を50℃で行った以外は実施例2と同様にカルボニル化とエステル化と反応生成液の処理を行った。得られた反応液をガスクロマトグラフィーで内部標準分析した結果、転化率98.8モル%,ジ体合計収率24.0モル%(1−エチルアダマンタン基準)であり、ジ体〔A〕、ジ体〔B〕、ジ体〔C〕、その他のジ体のジ体組成比は其々8.2%、75.0%、10.6%、6.2%であった。
【0056】
<実施例11>
カルボニル化反応の各仕込み量を1−エチルアダマンタン33.0g(0.20mol)、無水HF201.0g(10.04mol),BF 10.2g(0.15mol)、一酸化炭素圧3MPa、反応時間6時間で行った以外は実施例9と同様にカルボニル化とエステル化と反応生成液の処理を行った。得られた反応液をガスクロマトグラフィーで内部標準分析した結果、転化率100モル%,ジ体合計収率55.1モル%(1−エチルアダマンタン基準)であり、ジ体〔A〕、ジ体〔B〕、ジ体〔C〕、その他のジ体のジ体組成比は其々13.2%、60.9%、12.5%、13.4%であった。
【0057】
表1に、各実施例の反応条件、及び反応成績をまとめて示す。
【0058】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明で得られる新規エチルアダマンタンジカルボン酸エステル化合物は、各種の工業化学原料、光学機能性材料や電子機能性材料の製造原料として有用である。
図1
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図24