【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下において“%”は、特に断らない限り質量%を意味する。
<分析方法、条件>
【0031】
[ガスクロマトグラフィー]
ガスクロマトグラフィーは、島津製作所製GC−17AとキャピラリーカラムとしてULBON製 HR−1(0.32mmφ×25m×0.50μm)を用いた。昇温条件は100℃から300℃まで5℃/min.で昇温した。
【0032】
[エチルアダマンタンの転化率]
ガスクロマトグラフィー分析により、原料のエチルアダマンタンの重量割合(wt%)を内部標準法により求め、転化率を下記式により算出した。
転化率(mol%)=100−{原料の残存量/原料の仕込み量×100}
[エチルアダマンタンジカルボン酸エステル化合物収率、エステル化合物組成比]
ガスクロマトグラフィー分析により、生成物である数種類のエチルアダマンタンジカルボン酸エステル化合物(以下“ジ体”と略すことがある)の重量割合(wt%)を内部標準法により求め、ジ体合計収率、各ジ体の生成比を下記式により算出した。なお、ジ体には、後述するように比較的生成量の多い3種類の成分があり、これらを各々、ジ体〔A〕、ジ体〔B〕、ジ体〔C〕と称し、これら3種以外の成分はその他のジ体とする。
{ジ体合計収率(モル%)}={ジ体〔A〕取得量/280.4+ジ体〔B〕取得量/294.4+ジ体〔C〕取得量/308.4+その他のジ体取得量/294.4}/{原料の仕込み量/164.3}×100
{ジ体組成比(%)}={各ジ体組成(ジ体〔A〕、ジ体〔B〕、ジ体〔C〕、その他のジ体)(%)}/{ジ体合計組成(%)}×100
【0033】
[GC−MS]
Waters社製GC−MS装置 GCT Premier
【0034】
[NMR]
装置 :Bruker Avance 600II(600MHz−NMR)
モード:Proton、Carbon、Carbon(Inverse gate decoupling法)、DEPT90°、135°、HSQC、HMBC、COSY
溶媒 :CDCl3(重クロロホルム)
内部標準物質:テトラメチルシラン
【0035】
<実施例1>
エチルアダマンタンジカルボン酸ジメチルエステル化合物の製造
【0036】
【化6】
(式中m、nは0又は1の数値である。)
【0037】
[カルボニル化工程]
ナックドライブ式攪拌機と上部に3個の入口ノズル、底部に1個の抜き出しノズルを備え、ジャケットにより内部温度を抑制できる内容積500mlのステンレス製オートクレーブに、冷却下1−エチルアダマンタン(上海博康精細化工有限公司製)66.0g(0.40mol)、無水HF241.2g(12.05mol),BF
3 20.4g(0.30mol)を仕込み、内容物を撹拌し液温を78℃に昇温した後、一酸化炭素により3MPaまで昇圧した。その後、圧力を3MPa、液温を78℃に3時間保ってカルボニル化反応させた。
【0038】
[エステル化工程]
引き続いて、反応温度を5℃まで冷却した後、メタノールをオートクレーブ上部より25.7g(0.80モル)供給して、撹拌下にて1時間エステル化を行った。
反応液をオートクレーブ底部より氷水中に抜き出し、油相と水相を分離した後、油相を2%苛性ソーダ水溶液100mlで2回,蒸留水100mlで2回洗浄し、10gの無水硫酸ナトリウムで脱水した。
得られた反応液をガスクロマトグラフィーで内部標準分析した結果、転化率99.1モル%,ジ体合計収率48.2モル%(1−エチルアダマンタン基準)であり、ジ体〔A〕、ジ体〔B〕、ジ体〔C〕、その他のジ体のジ体組成比は其々14.7%、57.2%、12.5%、15.6%であった。
【0039】
[生成物の単離精製]
得られた液を理論段数20段の精留塔を用いて精留を行ったところ(留出温度165℃、真空度5torr)、主留部分としてジ体〔A〕13.0%、ジ体〔B〕53.2%、ジ体〔C〕11.6%、その他のジ体15.4%のものが55.9g(蒸留収率90.4モル%、エステル化反応液基準)で得られた。蒸留による組成比率の大きな変動はなかった。
【0040】
<生成物の同定>
主生成物について、さらに、理論段数50段の精留塔を使用して精留し、ジ体〔A〕、ジ体〔B〕、ジ体〔C〕を分取した。3成分は、GC−MSで分子量は其々280、294、308であった。
また、各成分について、前記NMR装置を用いて、1H−NMR測定、13C−NMR測定、13C−NMR測定(Inverse gate decoupling法)、dept90−NMR測定、dept135−NMR測定、HSQC−NMR測定、HMBC−NMR測定、COSY−NMR測定を行った。
1H−NMR測定及び13C−NMR測定の結果を以下に示し、Inverse gate decoupling法によるNMR測定、dept135°、90°−NMR測定、HSQC−NMR測定、HMBC−NMR測定、COSY−NMR測定及び結果を
図1〜24に示す。
【0041】
[実施例1で得られたジ体〔A〕のNMR測定結果]
1H−NMR(600MHz、CDCl3、TMS、ppm)δ:0.821(t,3H)、1.212(m,2H)、1.417(d,2H)、1.583(m,4H)、1.792(d,4H)、1.986(m,2H)、2.215(m,1H)、3.667(s,6H)
13C−NMR(600MHz、CDCl3、TMS、ppm)δ:6.90、28.33、33.95、36.73、37.66、39.57、39.95、40.77、41.81、51.77、177.36
【0042】
図1はInverse gate decoupling法による
13C−NMR測定の結果を示す。
図1から、2つのカルボニル炭素は等価であることが分る。
図2はDEPT135°−NMR測定の結果を示す。二級炭素原子である3番と5番と6番と7番と8番が下向きに検出されていることと、四級炭素原子である4番と9番のピーク消失が分る。
図3はDEPT90°−NMR測定の結果を示す。三級炭素原子である10番のピークが強く検出されていることが分る。
図4、
図5はHSQC−NMR測定の結果を示す(
図5は、
図4における0.6〜2.8ppm部分の測定結果の拡大図である)。
図4、
図5により、各炭素原子と結合する水素原子について把握される。
図6、
図7はHMBC−NMR測定の結果を示す(
図7は、
図6における−0.2〜2.7ppm部分の測定結果の拡大図である)。
図6、
図7により、各炭素原子と2結合離れた水素原子について把握される。
図8はCOSY−NMR測定の結果を示す。隣り合う炭素原子の水素原子について把握される。
これらの測定結果から総合的に判断して、ジ体〔A〕はジメチル-5−エチルアダマンタン −1,3−ジカルボキシレートであると同定された。
【0043】
[実施例1で得られたジ体〔B〕のNMR測定結果]
1H−NMR(600MHz、CDCl3、TMS、ppm)δ:0.801(t,3H)、1.191(m,2H)、1.302(m,2H)、1.384(m,2H)、1.1.512(m,4H)、1.677(m,2H)、1.757(d,2H)、2.157(m,3H)、3.653(s,6H)
13C−NMR(600MHz、CDCl3、TMS、ppm)δ:6.96、28.70、33.36、33.56、35.75、37.79、39.97、40.85、442.23、42.46、43.10、45.82、47.90、51.22、51.68、171.89、177.69
【0044】
図9はInverse gate decoupling法による
13C−NMR測定の結果を示す。
図9から、2つのカルボニル炭素は等価ではないことが分る。
図10はDEPT135°−NMR測定の結果を示す。二級炭素原子である5番と6番と6番と7番と8番と10番と11番と12番と13番が下向きに検出されていることと、四級炭素原子である9番と14番と15番のピーク消失が分る。
図11はDEPT90°−NMR測定の結果を示す。三級炭素原子である16番のピークが強く検出されていることが分る。
図12、
図13はHSQC−NMR測定の結果を示す(
図13は、
図12における0.6〜2.7ppm部分の測定結果の拡大図である)。
図12、
図13により、各炭素原子と結合する水素原子について把握される。
図14、
図15はHMBC−NMR測定の結果を示す(
図15は、
図14における0.5〜2.4ppm部分の測定結果の拡大図である)。
図14、
図15により、各炭素原子と2結合離れた水素原子について把握される。
図16はCOSY−NMR測定の結果を示す。隣り合う炭素原子の水素原子について把握される。
これらの測定結果から総合的に判断して、ジ体〔B〕はメチル−3−エチル−5−(2−メトキシ−2−オキソエチル)アダマンタン−1−ジカルボキシレートであると同定された。
【0045】
[実施例1で得られたジ体〔C〕のNMR測定結果]
1H−NMR(600MHz、CDCl3、TMS、ppm)δ:0.785(t,3H)、1.159(m,2H)、1.275(m,4H)、1.321(m,2H)、1.376(m,2H)、1.479(m,4H)、2.127(m,5H)、3.647(s,6H)
13C−NMR(600MHz、CDCl3、TMS、ppm)δ:7.03、29.15、33.75、33.99、35.77、40.11、42.01、45.92、46.86、47.90、51.12、172.06
【0046】
図17はInverse gate decoupling法による
13C−NMR測定の結果を示す。
図17から、2つのカルボニル炭素は等価であることが分る。
図18はDEPT135°−NMR測定の結果を示す。二級炭素原子である3番と4番と5番と6番と7番と8番が下向きに検出されていることと、四級炭素原子である9番と10番のピーク消失が分る。
図19はDEPT90°−NMR測定の結果を示す。三級炭素原子である11番のピークが強く検出されていることが分る。
図20、
図21はHSQC−NMR測定の結果を示す(
図21は、
図20における0.5〜2.4ppm部分の測定結果の拡大図である)。
図20、
図21により、各炭素原子と結合する水素原子について把握される。
図22、
図23はHMBC−NMR測定の結果を示す(
図23は、
図22における−0.2〜2.5ppm部分の測定結果の拡大図である)。
図22、
図23により、各炭素原子と2結合離れた水素原子について把握される。
図24はCOSY−NMR測定の結果を示す。隣り合う炭素原子の水素原子について把握される。
これらの測定結果から総合的に判断して、ジ体〔C〕はジメチル−2,2−(5−エチルアダマンタン−1,3−ジイル)ジアセテートであると同定された。
【0047】
<実施例2>
カルボニル化反応圧力を2MPaで行った以外は実施例1と同様にカルボニル化とエステル化と反応生成液の処理を行った。得られた反応液をガスクロマトグラフィーで内部標準分析した結果、転化率99.1モル%,ジ体合計収率39.5モル%(1−エチルアダマンタン基準)であり、ジ体〔A〕、ジ体〔B〕、ジ体〔C〕、その他のジ体のジ体組成比は其々7.2%、61.0%、13.6%、18.2%であった。
【0048】
<実施例3>
カルボニル化反応時間を6時間で行った以外は実施例2と同様にカルボニル化とエステル化と反応生成液の処理を行った。得られた反応液をガスクロマトグラフィーで内部標準分析した結果、転化率99.1モル%,ジ体合計収率45.0モル%(1−エチルアダマンタン基準)であり、ジ体〔A〕、ジ体〔B〕、ジ体〔C〕、その他のジ体のジ体組成比は其々16.5%、54.3%、11.6%、17.5%であった。
【0049】
<実施例4>
カルボニル化反応のBF
3仕込み量を13.6g(0.20mol)で行った以外は実施例2と同様にカルボニル化とエステル化と反応生成液の処理を行った。得られた反応液をガスクロマトグラフィーで内部標準分析した結果、転化率99.0モル%,ジ体合計収率36.3モル%(1−エチルアダマンタン基準)であり
、ジ体〔A〕、ジ体〔B〕、ジ体〔C〕、その他のジ体のジ体組成比は其々18.6%、58.1%、7.6%、15.8%であった。
【0050】
<実施例5>
カルボニル化反応のBF
3仕込み量を34.1g(0.50mol)で行った以外は実施例2と同様にカルボニル化とエステル化と反応生成液の処理を行った。得られた反応液をガスクロマトグラフィーで内部標準分析した結果、転化率98.9モル%,ジ体合計収率26.6モル%(1−エチルアダマンタン基準)であり、ジ体〔A〕、ジ体〔B〕、ジ体〔C〕、その他のジ体のジ体組成比は其々15.6%、47.1%、14.3%、23.0%であった。
【0051】
<実施例6>
カルボニル化反応の各仕込み量を1−エチルアダマンタン33.0g(0.20mol)、無水HF160.8g(8.03mol),BF
3 10.2g(0.15mol)、にした以外は実施例2と同様にカルボニル化とエステル化と反応生成液の処理を行った。得られた反応液をガスクロマトグラフィーで内部標準分析した結果、転化率98.9モル%,ジ体合計収率45.4モル%(1−エチルアダマンタン基準)であり、ジ体〔A〕、ジ体〔B〕、ジ体〔C〕、その他のジ体のジ体組成比は其々10.5%、56.7%、13.7%、19.0%であった。
【0052】
<実施例7>
カルボニル化反応のHF仕込み量を160.8g(8.03mol)で行った以外は実施例2と同様にカルボニル化とエステル化と反応生成液の処理を行った。得られた反応液をガスクロマトグラフィーで内部標準分析した結果、転化率99.3モル%,ジ体合計収率27.9モル%(1−エチルアダマンタン基準)であり、ジ体〔A〕、ジ体〔B〕、ジ体〔C〕、その他のジ体のジ体組成比は其々11.4%、57.6%、9.3%、21.7%であった。
【0053】
<実施例8>
カルボニル化反応温度を86℃で行った以外は実施例2と同様にカルボニル化とエステル化と反応生成液の処理を行った。得られた反応液をガスクロマトグラフィーで内部標準分析した結果、転化率99.0モル%,ジ体合計収率37.2モル%(1−エチルアダマンタン基準)であり、ジ体〔A〕、ジ体〔B〕、ジ体〔C〕、その他のジ体のジ体組成比は其々10.5%、54.5%、14.3%、20.7%であった。
【0054】
<実施例9>
カルボニル化反応温度を70℃で行った以外は実施例2と同様にカルボニル化とエステル化と反応生成液の処理を行った。得られた反応液をガスクロマトグラフィーで内部標準分析した結果、転化率99.1モル%,ジ体合計収率42.2モル%(1−エチルアダマンタン基準)であり、ジ体〔A〕、ジ体〔B〕、ジ体〔C〕、その他のジ体のジ体組成比は其々18.5%、56.1%、10.9%、14.5%であった。
【0055】
<実施例10>
カルボニル化反応温度を50℃で行った以外は実施例2と同様にカルボニル化とエステル化と反応生成液の処理を行った。得られた反応液をガスクロマトグラフィーで内部標準分析した結果、転化率98.8モル%,ジ体合計収率24.0モル%(1−エチルアダマンタン基準)であり、ジ体〔A〕、ジ体〔B〕、ジ体〔C〕、その他のジ体のジ体組成比は其々8.2%、75.0%、10.6%、6.2%であった。
【0056】
<実施例11>
カルボニル化反応の各仕込み量を1−エチルアダマンタン33.0g(0.20mol)、無水HF201.0g(10.04mol),BF
3 10.2g(0.15mol)、一酸化炭素圧3MPa、反応時間6時間で行った以外は実施例9と同様にカルボニル化とエステル化と反応生成液の処理を行った。得られた反応液をガスクロマトグラフィーで内部標準分析した結果、転化率100モル%,ジ体合計収率55.1モル%(1−エチルアダマンタン基準)であり、ジ体〔A〕、ジ体〔B〕、ジ体〔C〕、その他のジ体のジ体組成比は其々13.2%、60.9%、12.5%、13.4%であった。
【0057】
表1に、各実施例の反応条件、及び反応成績をまとめて示す。
【0058】
【表1】