(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1の実施形態)
以下、本発明の回転電機の固定子を適用した第1の実施形態に係る車載用電動圧縮機について図面を参照して説明する。
本実施形態に係る車載用電動圧縮機は、走行用の電動モータと内燃機関を走行駆動源とするハイブリッド車に搭載されるスクロール型の電動圧縮機である。
車載用電動圧縮機は、車両用空調装置における冷媒回路の一部を構成している。
車両用空調装置は、車載用電動圧縮機のほか、図示はしないが、凝縮器としてのコンデンサと、レシーバと、膨張弁及びエバポレータを備えたクーリングユニットと、これらの機器を接続する配管を備えている。
【0020】
図1に示すように、車載用電動圧縮機(以下「圧縮機」と表記する)10は、流体としての冷媒を圧縮する圧縮機構11と、圧縮機構11を駆動する回転電機としての電動モータ12が一体化された圧縮機である。
圧縮機10のハウジング13は金属製のハウジングであり、本実施形態ではアルミ系金属材料により形成されている。
ハウジング13は、第1ハウジング体14と、第2ハウジング体15を有している。
第1ハウジング体14の端面と第2ハウジング体15の端面は接合され、第1ハウジング体14および第2ハウジング体15はボルト16により一体的に固定されている。
因みに、この実施形態の圧縮機10は、エンジンルーム内において横置き状態にて設置される。
【0021】
圧縮機10の第1ハウジング体14の内部には、圧縮機構11と電動モータ12とが収容されている。
圧縮機構11は固定スクロール17および可動スクロール18を備え、圧縮機構11には固定スクロール17および可動スクロール18により圧縮室19が形成されている。
可動スクロール18と対向して噛合する固定スクロール17が第1ハウジング体14に固定されている。
第1ハウジング体14の上部側には吸入口20が形成されている。
吸入口20は外部冷媒回路(図示せず)と接続されており、外部冷媒回路は第1ハウジング体14の内部と連通する。
圧縮機10の圧縮運転時には、低圧の冷媒は外部冷媒回路から吸入口20を通過し、第1ハウジング体14の内部に送入される。
【0022】
第2ハウジング体15の内部には圧縮室19と連通する吐出室21が形成されている。
第2ハウジング体15の上部には吐出口22が形成されており、吐出口22は外部冷媒回路と連通する。
第2ハウジング体15には、吐出室21と吐出口22との間を連通する連通路23が形成されている。
【0023】
第1ハウジング体14内における固定スクロール17と電動モータ12との間には、軸支部材24が設けられている。
軸支部材24は、圧縮機構11の一部を構成し、電動モータ12が備える回転軸25の一方の端部を軸支する軸受26を備えている。
回転軸25の他方の端部は、軸受27を介して第1ハウジング体14に支持されている。
軸支部材24には圧縮室19と連通する吸入ポート28が形成されており、吸入口20から第1ハウジング体14内に取り込まれた冷媒は、吸入ポート28を通じて圧縮室19へ導入される。
また、軸支部材24には、固定側ピン29が圧入により固定されており、固定側ピン29は可動スクロール18へ向けて突出している。
固定側ピン29は可動スクロール18の回転(自転)を防止する自転防止機構である。
【0024】
回転軸25の固定スクロール17側の端部には、固定スクロール17側へ突出する偏心軸30が設けられている。
偏心軸30は回転軸25の軸心Pに対して偏心した位置に設定されており、回転軸25が回転すると偏心軸30は回転軸25の軸心Pに対して偏心して回転する。
偏心軸30の外周には、ドライブブシュ31が相対回動可能に嵌合されている。
【0025】
ドライブブシュ31の外周には、可動スクロール18が軸受32を介して旋回自在に連結されている。
回転軸25が回転するとき、可動スクロール18は自転防止機構である固定側ピン29により回転(自転)を行うことなく、軸心Pの周囲を旋回する。
つまり、可動スクロール18は軸心Pの周囲を非自転状態にて旋回可能に設けられている。
【0026】
冷媒が吸入ポート28を通じて圧縮室19へ導入され、圧縮室19の容積減少により圧縮室19の冷媒は圧縮される。
固定スクロール17の中心に吐出室21と連通する吐出ポート33が形成されており、吐出ポート33を開閉する吐出弁34が備えられている。
圧縮された冷媒は、吐出ポート33を通じて吐出室21へ吐出される。
【0027】
圧縮機10は、第1ハウジング体14に接合される駆動回路ケース35を備えている。
駆動回路ケース35は、電動モータ12への電力供給を制御する駆動回路36を保護するケースである。
駆動回路36は、インバータおよびその他の電子部品と、インバータおよびその他の電子部品が固定される基板等を備えている。
インバータは、スイッチング素子を備えており、外部から圧縮機10の駆動に必要な電力の供給を受け、供給される直流電力を交流電力に変換する。
駆動回路ケース35はボルト37により第1ハウジング体14に固定される。
駆動回路36と電気的に接続された気密端子38が、第1ハウジング体14に設置されている。
【0028】
第1ハウジング体14の内部にはクラスタブロック39が設けられ、気密端子38は電動モータ12と電気的に接続されたクラスタブロック39と電気的に接続されている。
このように、電動モータ12と駆動回路36は電気的に接続されており、駆動回路36から気密端子38を介して電動モータ12に通電されると、電動モータ12が駆動され、回転軸25と連結された圧縮機構11が作動される。
【0029】
次に、電動モータ12の詳細を説明する。
電動モータ12は、駆動回路36により三相交流電力の供給を受けて駆動されるモータである。
図1に示すように、電動モータ12が備える回転子としてのロータ40は、回転軸25の軸芯方向に設けた複数の磁石挿入孔を備えたロータコア41と、ロータコア41の磁石挿入孔に埋設された永久磁石42を有している。
ロータコア41は、磁性体の鋼板により製作された複数枚のコア板43を積層することにより形成されている。
ロータコア41の中心には回転軸25が挿通され、回転軸25とロータコア41は互いに固定されている。
【0030】
電動モータ12が備える固定子としてのステータ44は、第1ハウジング体14の内壁に固定される環状のステータコア45を有している。
図2(a)に示すように、ステータコア45の内周には、複数配列されたティース46間にスロット47が形成されている。
本実施形態では、ティース46およびスロット47の数は30個であり、ティース46およびスロット47は周方向に等間隔を以って配列されている。
スロット47は、U相のスロット47Uと、V相のスロット47Vと、W相のスロット47Wとから構成されている。
スロット47Uには、ステータコア45の最外周となるU相の巻線48Uが波巻きにより巻回されている。
スロット47Vには、U相の巻線48Uの内周側となるV相の巻線48Vが波巻きにより巻回されている。
スロット47Wには、ステータコア45の最内周となるW相の巻線48Wが波巻きにより巻回されている。
【0031】
複数相の巻線48(48U、48V、48W)はステータコア45のコイルを形成する。
導電性の巻線48(48U、48V、48W)は、銅線により形成される芯線の外周面にエナメルによる絶縁被膜を形成したものである。
各スロットには絶縁シート(図示せず)が挿入されており、各相の巻線48(48U、48V、48W)はスロット47(47U、47V、47W)の内壁面と絶縁されている。
【0032】
図2(a)において、巻線48U、48V、48Wを実線により示す部分は、スロット47U、47V、47W外に配置されたステータコア45の一方の端面側(圧縮機構11側)のコイルエンド部50(50U、50V、50W)である。
また、巻線48U、48V、48Wを破線により示す部分は、スロット47U、47V、47W外に配置されたステータコア45の他方の端面側(駆動回路36側)のコイルエンド部51(51U、51V、51W)である。
各相の巻線48U、48V、48Wを実線により示す部分と、巻線48U、48V、48Wを破線により示す部分との間は、各相の巻線48U、48V、48Wにおいて対応するスロット47U、47V、47Wを通る部分である。
【0033】
図2(a)に示すように、各相の巻線48U、48V、48Wの始端側は、互いに束ねられてリード線56として一方のコイルエンド部50から引き出され、クラスタブロック39において対応する入力端子57U、57V、57Wと電気的に接続されている。
従って、U相のスロット47Uに挿通されているU相の巻線48Uは、クラスタブロック39における入力端子57Uを介して駆動回路36と電気的に接続されている。
V相のスロット47Vに挿通されているV相の巻線48Vは、クラスタブロック39における入力端子57Vを介して駆動回路36と電気的に接続されている。
W相のスロット47Wに挿通されているU相の巻線48Wは、クラスタブロック39における入力端子57Wを介して駆動回路36と電気的に接続されている。
【0034】
一方、
図2(a)に示すように、各相の巻線48U、48V、48Wの終端側は、ステータコア45の一方の端面側における各相のコイルエンド部50U、50V、50Wと対応して引き出された巻線48U、48V、48Wによる引出部49を備えている。
図2(b)に示すように、引出部49の先端は互いに束ねられ、各相の巻線48U、48V、48Wの芯線を互いに半田付けにより結束して電気的に接続して結線接続部49Aを形成しており、結線接続部49Aは電動モータ12の中性点Nとなる。
結線接続部49Aを含む引出部49の一部は、樹脂フィルム58が何重にも巻回されて形成された絶縁部材59により被覆されている。
結線接続部49A側に位置する樹脂フィルム58の先端は封止されている。
なお、絶縁部材59は、結線接続部49A側が長手方向の先端部59Aとなり、引出部49側が長手方向の基部59Bとなる。
【0035】
図2(b)では樹脂フィルム58を単層により示しているが、実際には何重にも巻回された複数層にて形成されている。
なお、絶縁部材59の引出部49側の端部付近を絞って絞り部59Cを形成しており、絞り部59Cは絶縁部材59内に冷媒が入り難いようにしている。
中性点Nを形成する結線接続部49Aは、絶縁部材59により絶縁性が保たれている。
引出部49および絶縁部材59は、次に説明する紐60によりステータコア45の一方の端面側におけるコイルエンド部50に固定される。
【0036】
図3(a)に示すように、ステータコア45の一方の端面においてスロット47U外に配置されるコイルエンド部50Uとスロット47V外に配置されるコイルエンド部50Vとの間には第1の相間絶縁シート52が周方向にわたって介在されている。
また、ステータコア45の一方の端面においてスロット47V外に配置されるコイルエンド部50Vとスロット47W外に配置されるコイルエンド部50Wとの間には第2の相間絶縁シート53が周方向にわたって介在されている。
第1の相間絶縁シート52および第2の相間絶縁シート53は、樹脂材料により形成された帯状の樹脂シートであり、周方向の両端部は重ねられている。
【0037】
図3(b)に示すように、ステータコア45の他方の端面においてスロット47U外に配置されるコイルエンド部51Uとスロット47V外に配置されるコイルエンド部51Vとの間には第3の相間絶縁シート54が周方向にわたって介在されている。
また、ステータコア45の一方の端面においてスロット47V外に配置されるコイルエンド部51Vとスロット47W外に配置されるコイルエンド部51Wとの間には第4の相間絶縁シート55が周方向にわたって介在されている。
第3の相間絶縁シート
54および第4の相間絶縁シート
55は、樹脂材料により形成された帯状の樹脂シートであり、周方向の両端部は重ねられている。
【0038】
次に、コイルエンド部50、51の緊縛について説明する。
本実施形態では、
図4、
図5に示すように、ステータコア45の一方の端面側におけるコイルエンド部50(50U、50V、50W)は1本の紐60により緊縛される。
また、ステータコア45の他方の端面側におけるコイルエンド部51(51U、51V、51W)は別の1本の紐60により緊縛される。
なお、
図4では、リード線および相間絶縁シート52、53の図示を省略する。
また、
図5では、説明の便宜上、ステータコア45およびコイルエンド部50、51の一部を平面的に展開して示した展開図としており、
図5では区別しやすいようにコイルエンド部50U、51Uにのみハッチングを施している。
【0039】
ステータコア45における一方の端面側のコイルエンド部50について詳細に説明する。
コイルエンド部50U、50V、50Wとステータコア45との間には、複数の空間(ティース空間61、62、63)が区画されている。
【0040】
U相の巻線48Uのコイルエンド部50Uとステータコア45との間には、ティース空間62が中央に位置し、ティース空間61、63はティース空間62の両端側に位置する。
また、V相の巻線48Vのコイルエンド部50Vとステータコア45との間には、ティース空間63が中央に位置し、ティース空間61、62はティース空間63の両端側に位置する。
そして、W相の巻線48Wのコイルエンド部50Wとステータコア45との間には、ティース空間61が中央に位置し、ティース空間62、63はティース空間61の両端側に位置する。
【0041】
最外周となるU相の巻線48Uのコイルエンド部50Uは、中央のティース空間62を除いて両端側に配置されるティース空間61、63に紐60を挿通することによって緊縛されている。
コイルエンド部50Vは、中央のティース空間63を除いて両端側に配置されるティース空間61、62に紐60を挿通することによって緊縛されている。
コイルエンド部50Wは、中央のティース空間61を除いて両端側に配置されるティース空間62、63に紐を挿通することによって緊縛されている。
従って、紐60は、一定の間隔で複数の空間に挿通されており、具体的には、紐60が挿通されるティース空間(挿通空間)と紐60が挿通されないティース空間(非挿通空間)とが、複数のティース46の位置に対応して交互に配設されている。
各コイルエンド部50U、50V、50Wでは、中央のティース空間(非挿通空間)を除いて両端側に配置される2箇所のティース空間(挿通空間)に紐60が通され、各コイルエンド部50U、50V、50Wは紐60により互いに緊縛される。
【0042】
紐60のレーシング(編み方)は、紐60を挿通した挿通空間と紐60を挿通しない非挿通空間が交互となる他は、公知のレーシングと基本的に同じである。
最外周となるU相の巻線48Uのコイルエンド部50Uでは、輪にした紐60をティース空間63の内周側から外周側へ通し、外周側に通された輪の紐60をコイルエンド部50V側に用意されている紐60の輪に通している。
紐60の輪を通したティース空間63からの紐60の輪の中に、コイルエンド部50Uの端部側から輪にした紐60を通し、コイルエンド部50Uの内周側から外周側へ通した側の紐60の輪を残す。
次に、ティース空間62を飛ばしてティース空間61の内周側から外周側へ輪にした紐60を通し、コイルエンド部50Uの外周側で残した紐60の輪に、ティース空間61を通した紐60を通す。
このようにして、コイルエンド部50U〜50Wの全周にわたって紐60を編み込むことにより、紐60がコイルエンド部50U〜50Wにおいて網目状に編み込まれる。
【0043】
ところで、本実施形態では、ステータコア45の一方の端面側におけるコイルエンド部50(50U、50V、50W)は1本の紐60により緊縛されるが、絶縁部材59も紐60によりコイルエンド部50に固定される。
絶縁部材59は、外力が特に加わらない状態では、直線状の形態もしくは直線に近い緩やかな湾曲線状の形態となるが、
図4、
図6に示すように、紐60によりコイルエンド部50に沿うように円弧状に変形されて固定されている。
本実施形態では、絶縁部材59が主にコイルエンド部50Uに固定されるように紐60が編み込まれているほか、絶縁部材59に掛かる紐60の箇所が増えるように、絶縁部材59の長手方向の先端部59Aと基部59Bには、それぞれさらに紐60が掛け回されている。
【0044】
図5、
図6に示すように、紐60が挿通される空間のうち、絶縁部材59が配置されているコイルエンド部50Uのティース空間63は、絶縁部材59の先端部59Aに対応して配置されており、ステータコア45の軸方向において絶縁部材59の先端部59Aの位置とほぼ一致する。
二重にした紐60が、絶縁部材59の先端部59Aの位置とほぼ一致するティース空間63の内周側から外周側へ通され、このティース空間63を通した二重の紐60を、コイルエンド部50V側において用意されている紐60の輪に通す。
図5、
図6に示すように、紐60の輪に通した紐60を、コイルエンド部50Uの端部側において外周側から内周側へ通
すことにより、コイルエンド部50Uの端部側において外周側から内周側へ通した紐60が、絶縁部材59の先端部59Aに掛かる。
絶縁部材59の先端部59Aに掛けた紐60を、さらにもう一度、ティース空間63において内周側から外周側へ通している。
そして、再度ティース空間63を通した紐60は、コイルエンド部50Uのティース空間62の近くで輪を残す。
次に、コイルエンド部50Uの端部側において内周側から外周側へ通し、内周側から外周側へ通した紐60を、残した紐60の輪に通す。
よって、紐60は、コイルエンド部50の外周側において、先端部59Aに対応して配置されるティース空間63から2本ずつ広がるように配置されている。
【0045】
紐60が挿通される空間のうち、絶縁部材59が配置されているコイルエンド部50Vのティース空間62は、絶縁部材59の基部59Bに対応して配置されており、ステータコア45の軸方向において絶縁部材59の基部59Bの位置とほぼ一致する。
二重にした紐60が、絶縁部材59の基部59Bの位置とほぼ一致するティース空間62の内周側から外周側へ通され、このティース空間62を通した二重の紐60を、コイルエンド部50U側において用意されている紐60の輪に通す。
図5、
図6に示すように、紐60の輪に通した紐60を、コイルエンド部50Vの端部側において外周側から内周側へ通
すことにより、コイルエンド部50Vの端部側において外周側から内周側へ通した紐60が、絶縁部材59の基部59Bに掛かる。
絶縁部材59の基部59Bに掛けた紐60を、さらにもう一度、ティース空間62において内周側から外周側へ通している。
そして、再度ティース空間62を通した紐60は、コイルエンド部50Wのティース空間61の近くで輪を残す。
よって、紐60は、コイルエンド部50の外周側において、基部59Bに対応して配置されるティース空間62から2本ずつ広がるように配置されている。
また、紐60は、先端部59A及び基部59Bに対応して配置される一対の空間(コイルエンド部50Uのティース空間63とコイルエンド部50Vのティース空間62)に挿通されており、一対の挿通空間の間には、他の挿通空間(コイルエンド部50Uのティース空間61)が配置されている。
【0046】
このように、コイルエンド部50では、紐60によるコイルエンド部50の緊縛とともに紐60により絶縁部材59をコイルエンド部50に固定する。
そして、絶縁部材59の先端部59A及び基部59Bに掛かるように、先端部59A及び基部59Bでは紐60の編み込みを増やしている。
つまり、コイルエンド部50における絶縁部材59の無い部位では、紐60の編み込みを増やすことはせず、絶縁部材59の先端部59A及び基部59Bに対応する部位では紐60の編み込みを増やしており、絶縁部材59に掛かる紐60の箇所を増やしている。
なお、本実施形態では、絶縁部材59がコイルエンド部50の径方向外側寄りに固定されている。
これは、コイルエンド部50に沿う絶縁部材59の湾曲をできるだけで緩やかにして半田付けされている結線接続部49Aの変形による破損を防止するためである。
絶縁部材59の設置位置がコイルエンド部50の径方向外側寄りであれば、コイルエンド部50の径方向中心側よりも湾曲が緩やかになる。
なお、絶縁部材59が大きく湾曲すると、半田付けされている結線接続部49Aが破損するおそれがある。
【0047】
次に、ステータコア45における他方の端面側のコイルエンド部51について詳細に説明する。
コイルエンド部51U、51V、51Wとステータコア45との間には、複数の空間(ティース空間64、65、66)が区画されている。
【0048】
U相の巻線48Uのコイルエンド部51Uとステータコア45との間には、ティース空間65が中央に位置し、ティース空間64、66はティース空間65の両端側に位置する。
また、V相の巻線48Vのコイルエンド部51Vとステータコア45との間には、ティース空間66が中央に位置し、ティース空間64、65はティース空間66の両端側に位置する。
そして、W相の巻線48Wのコイルエンド部51Wとステータコア45との間には、ティース空間64が中央に位置し、ティース空間65、66はティース空間61の両端側に位置する。
【0049】
最外周となるU相の巻線48Uのコイルエンド部51Uは、ティース空間64、66を除いて中央に配置されるティース空間65に紐60を挿通することによって緊縛されている。
コイルエンド部51Vは、ティース空間64、65を除いて中央に配置されるティース空間66に紐60を挿通することによって緊縛されている。
コイルエンド部51Wは、ティース空間65、66を除いて中央に配置されるティース空間64に紐60を挿通することによって緊縛されている。
従って、紐60は、一定の間隔で複数の空間に挿通されており、具体的には、紐60が挿通されるティース空間(挿通空間)と紐60が挿通されないティース空間(非挿通空間)とが、複数のティース46の位置に対応して交互に配設されている。
各コイルエンド部51U、51V、51Wでは、中央のティース空間(挿通空間)に紐60が通され、中央のティース空間の両端側となる2箇所のティース空間(非挿通空間)は紐60を非挿通とし、各コイルエンド部51U、51V、51Wは紐60により互いに緊縛される。
【0050】
紐60のレーシングは、コイルエンド部50U〜50Wと同様に、紐60を挿通した挿通空間と紐60を挿通しない非挿通空間が交互となる他は、公知のレーシングと基本的に同じである。
最外周となるU相の巻線48Uのコイルエンド部51Uでは、輪にした紐60をティース空間65の内周側から外周側へ通し、外周側に通された輪の紐60をコイルエンド部51Uのティース空間66側に用意されている紐60の輪に通している。
紐60の輪を通したティース空間65からの紐60の輪の中に、コイルエンド部51Uの端部側から輪にした紐60を通し、コイルエンド部51Uの内周側から外周側へ通した側の紐60の輪を残す。
次に、ティース空間64を飛ばしてコイルエンド部51Uの隣となるコイルエンド部51Vのティース空間66の内周側から外周側へ輪にした紐60を通し、コイルエンド部51Uの外周側で残した紐60の輪に、ティース空間66を通した紐60を通す。
このようにして、コイルエンド部51U〜51Wの全周にわたって紐60を編み込むことにより、紐60がコイルエンド部51U〜51Wにおいて網目状に編み込まれる。
なお、コイルエンド部51では、絶縁部材59が存在しないため、紐60の編み込みを増やすことなく、コイルエンド部51におけるレーシングが行われる。
従って、紐60を通したティース空間と紐60を通さないティース空間が周方向にわたって交互に位置する。
【0051】
紐60のレーシングは、公知のレーシング装置(図示せず)により行われる。
コイルエンド部50、51は、レーシングに先立ってプレス装置により環状に成形されている。
本実施形態では、ステータコア45における一方の端面側のコイルエンド部50と他方の端面側のコイルエンド部51とを同時にレーシングを行う。
レーシング前のコイルエンド部50には、絶縁部材59を1本の巻線48によりコイルエンド部50の端面に仮止めされており、その後のレーシングにより紐60によるコイルエンド部50の緊縛とともに絶縁部材59はコイルエンド部50に固定される。
【0052】
本実施形態の電動モータ12のステータ44および圧縮機10は以下の作用効果を奏する。
(1)各コイルエンド部50(51)とステータコア45のティース46との間に複数の空間(ティース空間61〜63(64〜65))が区画されるが、紐60は一定の間隔で複数の空間に挿通され、紐60が挿通された空間に絶縁部材59の先端部59A及び基部59Bを固定する紐60をさらに挿通している。よって、紐60は一定の間隔で複数の空間に挿通されているので、紐60が一定の間隔で複数の空間に挿通されていない場合と比較して紐を挿通する作業効率の低下を防止することができる。また、紐60が挿通される空間のうち、絶縁部材59の先端部59A及び基部59Bに対応して配置される空間に、さらに紐60を挿通することにより、絶縁部材59の先端部59A及び基部59Bがコイルエンド部50に固定されているので、コイルエンド部50に対する絶縁部材59の移動を防止することができる。従って、紐60を挿通する作業効率の低下防止と絶縁部材59の移動防止とを両立させることができる。
【0053】
(2)紐60は、コイルエンド部50の外周側において、先端部59A及び基部59Bに対応して配置される空間(ティース空間63、62)から2本ずつ広がるように配置されているので、コイルエンド部50の緊縛と絶縁部材59の固定とを強固に行うことができる。
(3)複数の空間は、紐60が挿通される複数の挿通空間と紐60が挿通されない複数の非挿通空間とからなり、複数の挿通空間と複数の非挿通空間とが、複数のティース46の位置に対応して交互に配設されている。このため、紐60が挿通されない複数の非挿通空間により、紐60の使用量を低減させることができる。
【0054】
(4)紐60は、先端部59A及び基部59Bがコイルエンド部50に固定されるように、先端部59A及び基部59Bに対応して配置される一対の挿通空間(ティース空間63、62)に挿通されているので、どちらか一方のみに挿通されている場合と比較して、絶縁部材50の固定をさらに強固に行うことができる。
(5)先端部59A及び基部59Bに対応して配置される一対の挿通空間(ティース空間63、62)の間には、他の挿通空間(ティース空間61)が配置されているので、絶縁部材59が長手方向に一定の長さを有していても、確実に固定することができる。
(6)圧縮機10を振動や衝撃が発生する車両に搭載しても、振動等による絶縁部材59のステータコア45の径方向外側への移動を防止することができるから、圧縮機10は車載用電動圧縮機として好適である。
(7)絶縁部材59の基部59Bに掛かる紐60の箇所を増やすことは、潤滑油を含む冷媒の樹脂フィルム58内への浸入を妨げることを助長する。このため、冷媒に含まれる潤滑油が中性点Mの絶縁性を低下させる性質の潤滑油であっても、潤滑油を含む冷媒を樹脂フィルム58内へ浸入し難くすることができる。
【0055】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る車載用電動圧縮機について図面を参照して説明する。
本実施形態は、絶縁部材59に掛かる紐60の箇所を増やす対象を絶縁部材59の先端部59Aのみとした例である。
本実施形態では、絶縁部材59に掛かる紐60の箇所を増やす対象が、第1の実施形態と異なるだけであるから、第1の実施形態の符号を共通して用いる。
【0056】
本実施形態の絶縁部材59が固定されている状態を
図7に示すが、絶縁部材59の先端部59Aにおける紐60の掛け方は、第1の実施形態における絶縁部材59の先端部59Aにおける紐60の掛け方と同じである。
二重にした紐60が、絶縁部材59の先端部59Aの位置とほぼ一致するティース空間63の内周側から外周側へ通され、このティース空間63を通した二重の紐60を、コイルエンド部50V側において用意されている紐60の輪に通す。
紐60の輪に通した紐60を、コイルエンド部50Uの端部側において外周側から内周側へ通
すことにより、コイルエンド部50Uの端部側において外周側から内周側へ通した紐60が、絶縁部材59の先端部59Aに掛かる。
絶縁部材59の先端部59Aに掛けた紐60を、さらにもう一度、ティース空間63において内周側から外周側へ通している。
そして、再度ティース空間63を通した紐60は、コイルエンド部50Uのティース空間62の近くで輪を残す。
次に、コイルエンド部50Uの端部側において内周側から外周側へ通し、内周側から外周側へ通した紐60を、残した紐60の輪に通す。
【0057】
本実施形態では、絶縁部材59に掛かる紐60の箇所を増やす対象を絶縁部材59の先端部59Aのみとしたから、第1の実施形態よりも紐60の使用量を低減することができる。
例えば、絶縁部材59の基部59Bが、引出部49により規制されてステータコア45の径方向外側に飛び出しにくい場合に、本実施形態を適用することができる。
絶縁部材59の先端部59Aはステータコア45の径方向外側に最も飛び出し易いが、絶縁部材59の先端部59Aに紐60が掛かることにより、先端部59Aのステータコア45の径方向外側への突出を確実に防止することができる。
【0058】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態に係る車載用電動圧縮機について図面を参照して説明する。
本実施形態は、絶縁部材59に掛かる紐60の箇所を増やす対象を絶縁部材59の基部59Bのみとした例である。
本実施形態では、絶縁部材59に掛かる紐60の箇所を増やす対象が、第1の実施形態と異なるだけであるから、第1の実施形態の符号を共通して用いる。
【0059】
絶縁部材59の基部59Bにおける紐60の掛け方は、第1の実施形態における絶縁部材59の基部59Bにおける紐60の掛け方と同じである。
二重にした紐60が、絶縁部材59の基部59Bの位置とほぼ一致するティース空間62の内周側から外周側へ通され、このティース空間62を通した二重の紐60を、コイルエンド部50U側において用意されている紐60の輪に通す。
紐60の輪に通した紐60を、コイルエンド部50Uの端部側において外周側から内周側へ通
すことにより、コイルエンド部50Uの端部側において外周側から内周側へ通した紐60が、絶縁部材59の基部59Bに掛かる。
絶縁部材59の基部59Bに掛けた紐60を、さらにもう一度、ティース空間62において内周側から外周側へ通している。
そして、再度ティース空間62を通した紐60は、コイルエンド部50Uのティース空間61の近くで輪を残す。
次に、コイルエンド部50Vの端部側において内周側から外周側へ通し、内周側から外周側へ通した紐60を、残した紐60の輪に通す。
【0060】
本実施形態では、絶縁部材59に掛かる紐60の箇所を増やす対象を絶縁部材59の基部59Bのみとしたから、第1の実施形態よりも紐60の使用量を低減することができる。
絶縁部材59の基部59Bが先端部59Aよりもステータコア45の径方向外側に飛び出し易い場合には、絶縁部材59の基部59Bに紐60が掛かることにより、基部59Bのステータコア45の径方向外側への突出を確実に防止することができる。
【0061】
(変形例)
次に、第1の実施形態の変形例について説明する。
本変形例では、絶縁部材59の先端部59A及び基部59Bにおける紐60の掛け方が、第1の実施形態における絶縁部材59の先端部59A及び基部59Bにおける紐60の掛け方と異なる。
本変形例による絶縁部材59のコイルエンド部の固定状態を
図9に示す。
【0062】
図9に示すように、紐60が挿通される空間のうち、絶縁部材59が配置されているコイルエンド部50Uのティース空間63は、絶縁部材59の先端部59Aに対応して配置されており、ステータコア45の軸方向において絶縁部材59の先端部59Aと位置がほぼ一致する。
図9に示すように、紐60は、コイルエンド部50Uの外周側において、ティース空間63から2本ずつ広がるように配置されて2辺を形成するとともに、2辺を含んだ略四角形状が形成されるように編み込まれている。
コイルエンド部50Uのティース空間63において内周側から外周側へ通した紐60の輪に、コイルエンド部50Uの端部側において内周側から外周側へ通した紐60を通す。
コイルエンド部50Uの端部側において内周側から外周側へ通した紐60が絶縁部材59の先端部59Aに掛かる。
一方、紐60が挿通される空間のうち、絶縁部材59が配置されているコイルエンド部50Vのティース空間62は、絶縁部材59の基部59Bに対応して配置されており、ステータコア45の軸方向において絶縁部材59の基部59Bと位置がほぼ一致する。
紐60は、コイルエンド部50Vの外周側において、ティース空間62から2本ずつ広がるように配置されて2辺を形成するとともに、2辺を含んだ略四角形状が形成されるように編み込まれている。
コイルエンド部50Vのティース空間62において内周側から外周側へ通した紐60の輪に、コイルエンド部50Vの端面側において内周側から外周側へ通した紐60を通す。
コイルエンド部50Vの端部側において内周側から外周側へ通した紐60が絶縁部材59の基部59Bに掛かる。
本変形例は第1の実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0063】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、例えば、次のように変更してもよい。
【0064】
○ 上記の実施形態(変形例を含む)では、車載用電動圧縮機に適用した例を説明したが、本発明の回転電機の固定子は、車載用電動圧縮機以外に適用してもよい。また、電動モータや発電機等の回転電機に適用してもよい。
○ 上記の実施形態(変形例を含む)では、車載用電動圧縮機としてスクロール型の電動圧縮機としたが、圧縮機構の形式はスクロール型に限定されない。例えば、斜板式ピストン型の電動圧縮機でもよく、あるいはベーン型の電動圧縮機としてもよい。
○ 上記の実施形態では、ステータコアにおけるティースおよびスロットの数を30個としたが、ステータコアにおけるティースおよびスロットの数は、電動モータとして成立する数であれば特に制限されない。
○ 上記の実施形態(変形例を含む)では、ステータコアの一方の端面側におけるコイルエンド部に絶縁部材を固定するようにしたがこの限りではない。絶縁部材ステータコアの他方の端面側におけるコイルエンド部に固定してもよい。
○ 上記の実施形態(変形例を含む)では、絶縁部材に掛かる紐の箇所を増やす対象を、絶縁部材の先端部及び基部の少なくとも一方を対象としたが、この限りではない。例えば、絶縁部材の先端部及び基部に対応して配置される一対の挿通空間の間に配置される他の挿通空間にも、さらに紐を挿通してもよい。絶縁部材を固定する紐の使用量は増えるが、従来と比べると少ない使用量で済む。また、絶縁部材のコイルエンド部に対する固定が強化されるとともにコイルエンド部の紐による緊縛を強化することができる。
○ 上記の実施形態(変形例を含む)では、絶縁部材59に絞り部59Cを形成したが、絞り部59Cを形成しなくてもよい。