(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記仮想直線上には、前記遊星側内円弧部及び前記太陽側内円弧部と共に、前記遊星側外円弧部及び前記太陽側外円弧部が位置することを特徴とする請求項1に記載のバルブタイミング調整装置。
【背景技術】
【0002】
クランク軸と連動して回転する駆動回転体に対して、カム軸と連動して回転する従動回転体の回転位相を、遊星歯車の遊星運動により調整するバルブタイミング調整装置は、従来から知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示される装置では、駆動回転体の駆動側太陽内歯車部と従動回転体の従動側太陽内歯車部とに対して、遊星歯車の駆動側遊星外歯車部と従動側遊星外歯車部とがそれぞれ偏心状態で噛合している。これにより、小型の体格で大きな減速比を得ることができるので、例えば車両の挟いスペースに搭載される内燃機関の付設装置として、好適となる。
【0004】
また、特許文献1の開示装置では、遊星歯車と駆動回転体とがそれぞれ遊星ベアリングと太陽ベアリングとにより径方向内側から軸受されると共に、遊星キャリアがそれら両ベアリングにより径方向外側から軸受されている。これにより、駆動回転体の駆動側太陽内歯車部に対して遊星キャリアが相対回転するのに応じて、遊星歯車を円滑に遊星運動させることができるので、回転位相に応じたバルブタイミングの調整応答性を高めることが可能となっている。
【0005】
さらに、特許文献1の開示装置において遊星歯車は、遊星キャリアと遊星ベアリングとの間に介装される弾性部材により、当該遊星ベアリングを介して、駆動回転体及び従動回転体に対する偏心側へと付勢されている。これにより、駆動側太陽内歯車部及び駆動側遊星外歯車部の噛合部分と、従動側太陽内歯車部及び従動側遊星外歯車部の噛合部分とでは、歯打ちによる異音及び摩耗を抑止することが可能となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さて、特許文献1の開示装置において遊星ベアリングは、遊星歯車を径方向内側から軸受する外輪と、遊星キャリアを径方向外側から軸受する内輪との間において、複数の球状転動体が二列介装された複列式構造となっている。また、同様に特許文献1の開示装置において太陽ベアリングは、駆動回転体を径方向内側から軸受する外輪と、遊星キャリアを径方向外側から軸受する内輪との間において、複数の球状転動体が二列介装された複列式構造となっている。しかし、近年特に、内燃機関の付設装置にはさらなる小型化が求められていることから、外輪と内輪との間に複数の球状転動体が一列介装されてなる単列式構造の遊星ベアリング及び太陽ベアリングへと変更することを、本発明者らは鋭意研究をしてきた。
【0008】
このような鋭意研究の結果、単列式の採用により小型化は達成できるものの、遊星ベアリング及び太陽ベアリングの各内輪に軸受される遊星キャリアの姿勢が不安定となるために、新たな問題の生じることが判明した。具体的にその問題とは、太陽ベアリング及び遊星ベアリングのそれぞれにおいて内輪が球状転動体と転がり接触する周方向の複数箇所の中でも、弾性部材による荷重の作用する箇所が遊星キャリアの姿勢変動に起因して増えてしまうというものである。即ち、内輪と球状転動体との接触界面にて接触面圧の発生箇所が増えることになるので、耐久性の低下を招く懸念があった。
【0009】
本発明は、以上説明した問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、小型化と耐久性向上とを両立させるバルブタイミング調整装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するために開示された発明は、内燃機関に付設され、クランク軸からのトルク伝達によりカム軸(2)が開閉する動弁のバルブタイミングを調整するバルブタイミング調整装置(1)において、駆動側太陽内歯車部(12)を有し、クランク軸と連動して回転する駆動回転体(10)と、駆動側太陽内歯車部よりも軸方向のカム軸側に従動側太陽内歯車部(24)を有し、カム軸と連動して回転する従動回転体(20)と、駆動回転体及び従動回転体とは径方向に偏心して配置される遊星歯車(30)であって、当該偏心側にて駆動側太陽内歯車部に噛合する駆動側遊星外歯車部(32)と、駆動側遊星外歯車部よりもカム軸側且つ当該偏心側にて従動側太陽内歯車部に噛合する従動側遊星外歯車部(34)とを有し、駆動側遊星外歯車部と従動側遊星外歯車部とが一体に遊星運動することにより、駆動回転体に対する従動回転体の回転位相を調整する遊星歯車と、遊星歯車を径方向内側から軸受する遊星外輪(42)と、遊星外輪よりも径方向内側の遊星内輪(44)との間に複数の遊星球状転動体(46)が一列介装されてなる単列式の遊星ベアリング(40)と、駆動回転体を径方向内側から軸受する太陽外輪(72)と、太陽外輪よりも径方向内側の太陽内輪(74)との間に複数の太陽球状転動体(76)が一列介装されてなる単列式の太陽ベアリング(70)と、遊星内輪及び太陽内輪により径方向外側から軸受され、駆動側太陽内歯車部に対して相対回転することにより、遊星歯車を遊星運動させる遊星キャリア(50)と、遊星内輪と遊星キャリアとの間に介装され、遊星ベアリングを介して遊星歯車を偏心側へ付勢すると共に、遊星キャリアを偏心側とは反対側へ付勢する弾性部材(60)とを、備え、遊星歯車が駆動回転体及び従動回転体とは偏心する径方向に沿って規定される縦断面を、偏心規定断面(S)と定義すると、偏心規定断面のうち偏心側において遊星外輪の軌道溝(43)を構成する遊星側外円弧部(43po)の中心(Cpo)と、偏心規定断面のうち偏心側とは反対側である反偏心側において太陽外輪の軌道溝(73)を構成する太陽側外円弧部(73so)の中心(Cso)とを、結ぶように想定される仮想直線(L)上には、偏心規定断面のうち偏心側において遊星内輪の軌道溝(45)を構成する遊星側内円弧部(45pi)と、偏心規定断面のうち反偏心側において太陽内輪の軌道溝(75)を構成する太陽側内円弧部(75si)とが、位置
し、遊星ベアリングにおいて遊星外輪の軌道溝(43)は、遊星内輪の軌道溝(45)に対して、部分的に径方向に重なるようにしてカム軸側とは反対側である反カム軸側にずれることにより、遊星外輪は、遊星側外円弧部の中心(Cpo)よりもカム軸側にて遊星球状転動体と転がり接触し、遊星内輪は、遊星側外円弧部の中心(Cpo)よりも反カム軸側にて遊星球状転動体と転がり接触し、太陽ベアリングにおいて太陽外輪の軌道溝(73)は、太陽内輪の軌道溝(75)に対して、部分的に径方向に重なるようにしてカム軸側にずれることにより、太陽外輪は、太陽側外円弧部の中心(Cso)よりも反カム軸側にて太陽球状転動体と転がり接触し、太陽内輪は、太陽側外円弧部の中心(Cso)よりもカム軸側にて太陽球状転動体と転がり接触することを特徴とする。
【0011】
この発明によると、遊星内輪と遊星キャリアとの間に介装される弾性部材は、遊星ベアリングを介して遊星歯車を径方向の偏心側へ付勢すると共に、遊星キャリアを当該偏心側とは反対側へ付勢する。ここで、遊星歯車の偏心する径方向に沿った偏心規定断面では、偏心側における遊星側外円弧部の中心と、反偏心側における太陽側外円弧部の中心とを結んだ仮想直線上に、偏心側における遊星側内円弧部と、反偏心側における太陽側内円弧部とが位置する。これにより単列式遊星ベアリングでは、偏心規定断面のうち偏心側箇所又は当該偏心側箇所との周方向の近傍箇所にて、遊星内輪が遊星球状転動体と転がり接触する界面に、弾性部材による荷重が集中して作用する。それと共に単列式太陽ベアリングでは、偏心規定断面のうち反偏心側箇所又は当該反偏心側箇所との周方向の近傍箇所にて、太陽内輪が太陽球状転動体と転がり接触する箇所に、弾性部材による荷重が集中して作用する。このようにして荷重作用が仮想直線に沿って集中することによれば、遊星キャリアの姿勢を安定化させると同時に、接触面圧の発生箇所を当該荷重作用の集中箇所に限定することができる。
【0012】
したがって、以上の如き発明では、小型化を達成する単列式遊星ベアリング及び単列式太陽ベアリングの採用にあっても、その小型化と共に耐久性向上を両立させることが可能である。
【0013】
また、開示された別の発明において、仮想直線上には、遊星側内円弧部及び太陽側内円弧部と共に、遊星側外円弧部及び太陽側外円弧部が位置する。
【0014】
この発明によると、単列式遊星ベアリングでは、偏心規定断面のうち偏心側箇所又は当該偏心側箇所との周方向の近接箇所にて、遊星内輪及び遊星外輪がそれぞれ遊星球状転動体と転がり接触する界面に、弾性部材による荷重が集中して作用する。それと共に単列式太陽ベアリングでは、偏心規定断面のうち反偏心側箇所又は当該反偏心側箇所との周方向の近接箇所にて、太陽内輪及び太陽外輪がそれぞれ太陽球状転動体と転がり接触する箇所に、弾性部材による荷重が集中して作用する。このようにして荷重作用が仮想直線に沿って集中することによれば、遊星キャリア及び両ベアリングの姿勢を安定化させると同時に、接触面圧の発生箇所を当該荷重作用の集中箇所に限定することができる。したがって、耐久性向上の効果の度合いを高めることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1に示すように、本発明の一実施形態によるバルブタイミング調整装置1は、車両の内燃機関においてクランク軸(図示しない)からカム軸2へクランクトルクを伝達する伝達系に、付設されている。ここでカム軸2は、内燃機関の「動弁」のうち吸気弁(図示しない)をクランクトルクの伝達により開閉する。そこで、装置1は、吸気弁のバルブタイミングを調整する。
【0018】
(基本構成)
以下、装置1の基本構成を説明する。
図1〜3に示すように装置1は、アクチュエータ4、通電制御回路部7及び位相調整ユニット8等から構成されている。
【0019】
図1に示すアクチュエータ4は、例えばブラシレスモータ等の電動モータであり、ハウジングボディ5及び制御軸6を有している。ハウジングボディ5は、内燃機関の固定節に固定され、制御軸6を回転自在に軸受している。通電制御回路部7は、例えば駆動ドライバ及びその制御用マイクロコンピュータ等から構成され、ハウジングボディ5の外部及び/又は内部に配置されている。通電制御回路部7は、電気的に接続されるアクチュエータ4への通電を制御することで、制御軸6を回転駆動する。
【0020】
図1〜3に示すように位相調整ユニット8は、駆動回転体10、従動回転体20、遊星歯車30、遊星ベアリング40、太陽ベアリング70、遊星キャリア50及び弾性部材60を備えている。
【0021】
中空の金属製駆動回転体10は、位相調整ユニット8の他の構成要素20,30,40,50,60を内部に収容している。駆動回転体10は、円環板状の太陽歯車部材11を有底円筒状のスプロケット部材13と段付円筒状のカバー部材14との間に挟持した状態で、それら部材11,13,14を共締めしてなる。
【0022】
図1,2に示すように太陽歯車部材11は、歯底円の径方向内側に歯先円を有した駆動側太陽内歯車部12を、周壁部の内周面に形成している。
図1に示すようにスプロケット部材13は、周方向に等間隔ずつあけた箇所から径方向外側へ突出する複数のスプロケット歯19を、周壁部の外周面に形成している。スプロケット部材13は、それらスプロケット歯19とクランク軸の複数のスプロケット歯との間にてタイミングチェーン(図示しない)が掛け渡されることで、クランク軸と連繋する。かかる連繋により、クランク軸から出力されるクランクトルクがタイミングチェーンを通じてスプロケット部材13に伝達されるときには、駆動回転体10が当該クランク軸と連動して一定方向(
図2,3の時計方向)に回転する。
【0023】
図1,3に示すように有底円筒状の金属製従動回転体20は、スプロケット部材13の径方向内側に配置されている。従動回転体20は、スプロケット部材13に同軸上に内嵌されることで、駆動回転体10を径方向内側から軸受している。軸方向において従動回転体20は、太陽歯車部材11及びスプロケット部材13の間に配置されている。従動回転体20は、カム軸2に同軸上に連結される連結部22を、底壁部により形成している。かかる連結により従動回転体20は、カム軸2により片持ち支持されることで、駆動回転体10と同一方向(
図3の時計方向)に回転しつつ、駆動回転体10に対しては相対回転可能となっている。
【0024】
従動回転体20は、歯底円の径方向内側に歯先円を有した従動側太陽内歯車部24を、周壁部の内周面に形成している。従動側太陽内歯車部24は、駆動側太陽内歯車部12とは軸方向のカム軸2側(以下、
図1及び後述の
図4に示すように、単に「カム軸側」という)にずれて径方向では重ならない箇所に、配置されている。従動側太陽内歯車部24の内径は、駆動側太陽内歯車部12の内径よりも小さく設定されている。従動側太陽内歯車部24の歯数は、駆動側太陽内歯車部12の歯数よりも少なく設定されている。
【0025】
図1〜3に示すように段付円筒状の金属製遊星歯車30は、従動回転体20のうち周壁部の径方向内側から太陽歯車部材11の径方向内側に跨って、配置されている。遊星歯車30は、回転体10,20とは径方向に偏心している。遊星歯車30は、歯底円の径方向外側に歯先円を有した駆動側遊星外歯車部32と従動側遊星外歯車部34とを、周壁部の外周面に形成している。
【0026】
回転体10,20に対して遊星歯車30が径方向に偏心する偏心側(以下、
図2,3及び後述の
図4に示すように、単に「偏心側」という)では、駆動側遊星外歯車部32は駆動側太陽内歯車部12と噛合している。従動側遊星外歯車部34は、駆動側遊星外歯車部32とはカム軸側にずれて径方向では重ならない箇所に、形成されている。従動側遊星外歯車部34の外径は、駆動側遊星外歯車部32とは相異なる径として、駆動側遊星外歯車部32の外径よりも小さく設定されている。従動側遊星外歯車部34の歯数は、駆動側遊星外歯車部32の歯数よりも少なく設定されている。従動側遊星外歯車部34は、偏心側において従動側太陽内歯車部24と噛合している。
【0027】
図1〜3に示すように金属製遊星ベアリング40は、駆動側遊星外歯車部32及び従動側遊星外歯車部34の径方向内側に跨って、配置されている。遊星ベアリング40は、回転体10,20とは径方向に偏心している。遊星ベアリング40は、遊星外輪42と遊星内輪44との間に複数の遊星球状転動体46が一列介装されてなる単列式ラジアル軸受であり、特に本実施形態では単列式深溝玉軸受である。遊星外輪42は、遊星歯車30に同軸上に圧入されることで、当該歯車30を径方向内側から軸受している。
図1,4に示すように遊星外輪42は、径方向外側へ凹んで周方向に連続する円環状溝により、軸方向では対称な断面円弧形の軌道溝43を形成している。一方、遊星外輪42よりも径方向内側に配置される遊星内輪44は、径方向内側へ凹んで周方向に連続する円環状溝により、軸方向では対称な断面円弧形の軌道溝45を形成している。これらの軌道溝43,45は、相互間に配置される各遊星球状転動体46の外周面に対して、転がり接触する。
【0028】
図1に示すように金属製太陽ベアリング70は、カバー部材14の径方向内側において、回転体10,20と同軸上に配置されている。太陽ベアリング70は、太陽外輪72と太陽内輪74との間に複数の太陽球状転動体76が一列介装されてなる単列式ラジアル軸受であり、特に本実施形態では単列式深溝玉軸受である。太陽外輪72は、カバー部材14に同軸上に圧入されることで、駆動回転体10を径方向内側から軸受している。
図1,4に示すように太陽外輪72は、径方向外側へ凹んで周方向に連続する円環状溝により、軸方向では対称な断面円弧形の軌道溝73を形成している。一方、太陽外輪72よりも径方向内側に配置される太陽内輪74は、径方向内側へ凹んで周方向に連続する円環状溝により、軸方向では対称な断面円弧形の軌道溝75を形成している。これらの軌道溝73,75は、相互間に配置される各太陽球状転動体76の外周面に対して、転がり接触する。
【0029】
図1〜3に示すように部分偏心円筒状の金属製遊星キャリア50は、太陽内輪74及び遊星内輪44の径方向内側に跨って、配置されている。遊星キャリア50は、回転体10,20及び制御軸6とは同軸上となる円筒面状の入力部51を、周壁部の内周面に形成している。入力部51には、継手53と嵌合する連結溝52が設けられ、当該継手53を介して制御軸6が遊星キャリア50と連結されている。かかる連結により遊星キャリア50は、制御軸6と一体に回転可能となっている。
【0030】
図1に示すように遊星キャリア50は、回転体10,20と同軸上に配置される円筒面状の太陽軸受部56を、周壁部の外周面に形成している。太陽軸受部56は、微小なクリアランスをあけて同軸上に外嵌された太陽内輪74により、径方向外側から軸受されている。かかる軸受により遊星キャリア50は、駆動側太陽内歯車部12に対して相対回転可能となっている。
【0031】
図1〜3に示すように遊星キャリア50は、回転体10,20とは偏心して配置される円筒面状の遊星軸受部54を、周壁部の外周面に形成している。かかる形成形態の遊星軸受部54は、カム軸側とは反対側(以下、
図1,4に示すように、「反カム軸側」という)の太陽軸受部56に対しても、偏心している。遊星軸受部54は、微小なクリアランスをあけて同軸上に外嵌された遊星内輪44により、径方向外側から軸受されている。かかる軸受により、遊星ベアリング40を介して遊星キャリア50に軸受される遊星歯車30は、駆動側太陽内歯車部12に対する遊星キャリア50の相対回転に従って、遊星運動可能となっている。ここで特に、駆動側太陽内歯車部12に対する遊星キャリア50の相対回転時には、駆動側遊星外歯車部32と従動側遊星外歯車部34とは、それぞれ駆動側太陽内歯車部12と従動側太陽内歯車部24と噛合しつつ、一体に遊星運動する。尚、本実施形態において遊星運動とは、遊星歯車30が自身の周方向へ自転しつつ、遊星キャリア50の回転方向へ公転する運動をいう。
【0032】
金属製弾性部材60は、遊星軸受部54の周方向二箇所に開口した収容凹部55に、それぞれ一つずつ個別に収容されている。各弾性部材60は、概ねU字状断面の板ばねである。各弾性部材60は、遊星内輪44の内周面と、遊星キャリア50のうち遊星軸受部54の径方向内側に凹む収容凹部55の底面との間に介装されることで、圧縮弾性変形した状態に保持されている。ここで
図4の縦断面として、
図2,3の如く遊星歯車30及び遊星ベアリング40が回転体10,20とは偏心する径方向に沿って規定される偏心規定断面Sを定義すると、各弾性部材60は、当該偏心規定断面Sに関して線対称位置に配置されている。かかる配置下、各弾性部材60が弾性変形により発生する復原力の合力は、偏心側へ向かって遊星内輪44に作用すると共に、偏心側とは反対側(以下、
図2〜4に示すように、「反偏心側」という)へ向かって遊星キャリア50に作用する。したがって、各弾性部材60は、遊星ベアリング40を介して遊星歯車30を偏心側へ付勢していると共に、遊星キャリア50を反偏心側へ付勢しているのである。
【0033】
以上の構成を備えた位相調整ユニット8では、駆動回転体10に対する従動回転体20の回転位相を、制御軸6の回転状態に応じて調整する。故に、かかる回転位相の調整に応じて、内燃機関の運転状況に適したバルブタイミング調整が実現される。
【0034】
具体的には、制御軸6が駆動回転体10と同速に回転することで、遊星キャリア50が駆動側太陽内歯車部12に対して相対回転しないときには、遊星歯車30をなす各外歯車部32,34が遊星運動せずに回転体10,20と連れ回りする。その結果、回転位相が実質的に不変となって、バルブタイミングが保持調整される。一方、制御軸6が駆動回転体10に対し低速又は逆方向に回転することで、遊星キャリア50が駆動側太陽内歯車部12に対する遅角方向へ相対回転すると、各外歯車部32,34の遊星運動により従動回転体20が駆動回転体10に対する遅角方向へ相対回転する。その結果、回転位相が遅角変化して、バルブタイミングが遅角調整される。また一方、制御軸6が駆動回転体10よりも高速に回転することで、遊星キャリア50が駆動側太陽内歯車部12に対する進角方向へ相対回転すると、各外歯車部32,34の遊星運動により従動回転体20が駆動回転体10に対する進角方向へ相対回転する。その結果、回転位相が進角変化して、バルブタイミングが進角調整される。
【0035】
(位相調整ユニットの詳細構成)
以下、位相調整ユニット8の詳細構成を説明する。
【0036】
図1に示すように従動回転体20は、周壁部のうち開口側の軸方向端面により、円環平面状のスラスト軸受部26を形成している。スラスト軸受部26は、遊星歯車30のうち外歯車部32,34間を径方向に接続する円環平面状の接続部36に対して、軸方向に摺接している。かかる摺接によりスラスト軸受部26は、遊星歯車30をカム軸側から軸受している。
【0037】
図4に示すように、遊星ベアリング40において遊星外輪42の軌道溝43は、遊星内輪44の軌道溝45に対して、径方向では部分的に重なるようにして反カム軸側にずれている。特に本実施形態では、軸方向長さが実質同一且つそれぞれの軌道溝43,45が軸方向中央部に形成された遊星外輪42と遊星内輪44とは、例えばフラッシュグラウンド加工により、軸方向に所定量δpだけずらされている。その結果として軌道溝43,45同士も、軸方向に実質同量δpだけずらされている。ここで、
図4の偏心規定断面Sのうち偏心側において軌道溝43を構成する遊星側外円弧部43poを定義すると共に、同断面Sのうち偏心側において軌道溝45を構成する遊星側内円弧部45piを定義する。すると、ずらし量δpの設定により軌道溝43は、遊星側外円弧部43poの中心Cpoよりもカム軸側にて、遊星球状転動体46と転がり接触可能となっている。また、ずらし量δpの設定により軌道溝45は、遊星側内円弧部45piの中心Cpi及び遊星側外円弧部43poの中心Cpoよりも反カム軸側にて、遊星球状転動体46と転がり接触可能となっている。
【0038】
尚、
図4は、偏心規定断面S上の偏心側箇所において、軌道溝43,45が遊星球状転動体46と転がり接触している状態を、代表的に例示している。即ち実際には、遊星球状転動体46の配列ピッチの範囲内で偏心規定断面S上の偏心側箇所から周方向にずれた箇所において、軌道溝43,45が遊星球状転動体46と転がり接触している状態も、発生することになる。
【0039】
さらに
図4に示すように、太陽ベアリング70において太陽外輪72の軌道溝73は、太陽内輪74の軌道溝75に対して、径方向では部分的に重なるようにしてカム軸側にずれている。特に実施形態では、軸方向長さが実質同一且つそれぞれの軌道溝73,75が軸方向中央部に形成された太陽外輪72と太陽内輪74とは、例えばフラッシュグラウンド加工により、軸方向に所定量δsだけずらされている。その結果として軌道溝73,75同士も、軸方向に実質同量δsだけずらされている。ここで、
図4の偏心規定断面Sのうち反偏心側において軌道溝73を構成する太陽側外円弧部73soを定義すると共に、同断面Sのうち反偏心側において軌道溝75を構成する太陽側内円弧部75siを定義する。すると、ずらし量δsの設定により軌道溝73は、太陽側外円弧部73soの中心Csoよりも反カム軸側にて、太陽球状転動体76と転がり接触可能となっている。また、ずらし量δsの設定により軌道溝75は、太陽側内円弧部75siの中心Csi及び太陽側外円弧部73soの中心Csoよりもカム軸側にて、太陽球状転動体76と転がり接触可能となっている。
【0040】
尚、
図4は、偏心規定断面S上の偏心側箇所において、軌道溝73,75が太陽球状転動体76と転がり接触している状態を、代表的に例示している。即ち実際には、太陽球状転動体76の配列ピッチの範囲内で偏心規定断面S上の偏心側箇所から周方向にずれた箇所において、軌道溝73,75が太陽球状転動体76と転がり接触している状態も、発生することになる。
【0041】
以上の構成下、さらに偏心規定断面Sにおいては、遊星側外円弧部43poの中心Cpoと太陽側外円弧部73soの中心Csoとを
図4の如くストレートに結んだ仮想直線Lが、想定される。すると、本実施形態では、遊星側内円弧部45pi及び太陽側内円弧部75siが仮想直線L上に位置していると共に、遊星側外円弧部43po及び太陽側外円弧部73soも仮想直線L上に位置しているのである。
【0042】
(作用効果)
以上説明した本実施形態の作用効果を、以下に説明する。
【0043】
本実施形態によると、遊星内輪44と遊星キャリア50との間に介装される弾性部材60は、遊星ベアリング40を介して遊星歯車30を偏心側へ付勢すると共に、遊星キャリア50を反偏心側へ付勢する。ここで、遊星歯車30の偏心する径方向に沿った偏心規定断面Sでは、偏心側における遊星側外円弧部43poの中心Cpoと、反偏心側における太陽側外円弧部73soの中心Csoとを結んだ仮想直線L上に、偏心側における遊星側内円弧部45piと、反偏心側における太陽側内円弧部75siとが位置する。これにより単列式遊星ベアリング40では、偏心規定断面Sのうち偏心側箇所又は当該偏心側箇所との周方向の近傍箇所にて、遊星内輪44が遊星球状転動体46と転がり接触する界面に、弾性部材60による荷重が集中して作用する。それと共に単列式太陽ベアリング70では、偏心規定断面Sのうち反偏心側箇所又は当該反偏心側箇所との周方向の近傍箇所にて、太陽内輪74が太陽球状転動体76と転がり接触する箇所に、弾性部材60による荷重が集中して作用する。このようにして荷重作用が仮想直線Lに沿って集中することによれば、遊星キャリア50の姿勢を安定化させると同時に、接触面圧の発生箇所を当該荷重作用の集中箇所に限定することができる。
【0044】
したがって、以上の如き本実施形態では、小型化を達成する単列式遊星ベアリング40及び単列式太陽ベアリング70の採用にあっても、その小型化と共に耐久性向上を両立させることが可能である。
【0045】
ここで特に、本実施形態の仮想直線L上には、遊星側内円弧部45pi及び太陽側内円弧部75siと共に、遊星側外円弧部43po及び太陽側外円弧部73soが位置する。このような本実施形態によると、単列式遊星ベアリング40では、偏心規定断面Sのうち偏心側箇所又は当該偏心側箇所との周方向の近接箇所にて、遊星内輪44及び遊星外輪42がそれぞれ遊星球状転動体46と転がり接触する界面に、弾性部材60による荷重が集中して作用する。それと共に単列式太陽ベアリング70では、偏心規定断面Sのうち反偏心側箇所又は当該反偏心側箇所との周方向の近接箇所にて、太陽内輪74及び太陽外輪72がそれぞれ太陽球状転動体76と転がり接触する箇所に、弾性部材60による荷重が集中して作用する。このようにして荷重作用が仮想直線Lに沿って集中することによれば、遊星キャリア50及び両ベアリング40,70の姿勢を安定化させると同時に、接触面圧の発生箇所を当該荷重作用の集中箇所に限定することができる。したがって、耐久性向上の効果の度合いを高めることが可能である。
【0046】
さらに本実施形態のように、遊星側外円弧部43poの中心Cpoよりもカム軸側と反カム軸側とにてそれぞれ、遊星外輪42と遊星内輪44とを遊星球状転動体46に転がり接触させることによれば、円弧部45pi,43poを仮想直線L上に位置させ易い。それと共に、太陽側外円弧部73soの中心Csoよりも反カム軸側とカム軸側とにてそれぞれ、太陽外輪72と太陽内輪74とを太陽球状転動体76に転がり接触させることによれば、円弧部75si,73soを仮想直線L上に位置させ易い。これらのことから、遊星キャリア50及び両ベアリング40,70の姿勢の安定化と荷重作用の集中箇所の限定とを確実に達成して、耐久性向上の効果の信頼度を高めることが可能である。
【0047】
またさらに本実施形態によると、各回転体10,20の内歯車部12,24と噛合する遊星歯車30に遊星外輪42が圧入されることで、当該遊星外輪42の軌道溝43を構成する遊星側外円弧部43poの中心Cpoを、正確に位置決めできる。それと共に、駆動回転体10に太陽外輪72が圧入されることで、当該太陽外輪72の軌道溝73を構成する太陽側外円弧部73soの中心Csoを、正確に位置決めできる。故にこうして、仮想直線Lを想定するための各中心Cpo,Csoが位置決めされることによれば、当該仮想直線L上に内円弧部45pi,75siが位置する状態も、当該仮想直線L上に外円弧部43po,73soが位置する状態も、定常的に維持し得る。故に、遊星キャリア50及び両ベアリング40,70の姿勢の安定化と荷重作用の集中箇所の限定とを確実に達成して、耐久性向上の効果の信頼度を高めることが可能となる。
【0048】
加えて本実施形態の遊星歯車30は、従動回転体20のスラスト軸受部26によりカム軸側から軸受される。これにより遊星歯車30の姿勢が安定することによれば、当該遊星歯車30との間に遊星ベアリング40を挟んだ状態となる遊星キャリア50の姿勢についても、安定させ得る。故に、各内円弧部45pi,75siや外各円弧部43po,73soを仮想直線L上に位置させる効果と相俟って、耐久性向上の効果の度合いを高めることが可能となる。
【0049】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、当該実施形態に限定して解釈されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態に適用することができる。
【0050】
具体的に変形例1では、
図5に示すように、遊星歯車30のうち例えば接続部36等をカム軸側から軸受するスラスト軸受部126を、駆動回転体10のうち例えばスプロケット部材13等に形成してもよい。また、変形例2では、遊星歯車30をカム軸側から軸受するスラスト軸受部を、回転体10,20のいずれにも設けなくてもよい。
【0051】
変形例3では、微小なクリアランスをあけて遊星歯車30に同軸上に内嵌した遊星外輪42により、当該歯車30を径方向内側から軸受してもよい。また、変形例4では、微小なクリアランスをあけてカバー部材14に同軸上に内嵌した太陽外輪72により、駆動回転体10を径方向内側から軸受してもよい。
【0052】
変形例5では、遊星キャリア50を同軸上に圧入した遊星内輪44により、当該キャリア50を径方向外側から軸受してもよい。また、変形例6では、遊星キャリア50を同軸上に圧入した太陽内輪74により、当該キャリア50を径方向外側から軸受してもよい。
【0053】
変形例7では、遊星側外円弧部43po及び太陽側外円弧部73soを仮想直線L上には位置させずに、遊星側内円弧部45pi及び太陽側内円弧部75siのみを仮想直線L上に位置させてもよい。