特許第6102913号(P6102913)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6102913封止用樹脂組成物およびこれを用いた電子装置
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  • 特許6102913-封止用樹脂組成物およびこれを用いた電子装置 図000044
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6102913
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】封止用樹脂組成物およびこれを用いた電子装置
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/62 20060101AFI20170316BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20170316BHJP
   C08G 59/32 20060101ALI20170316BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20170316BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
   C08G59/62
   C08L63/00 B
   C08G59/32
   H01L23/30 R
【請求項の数】9
【全頁数】46
(21)【出願番号】特願2014-504662(P2014-504662)
(86)(22)【出願日】2013年2月26日
(86)【国際出願番号】JP2013001088
(87)【国際公開番号】WO2013136685
(87)【国際公開日】20130919
【審査請求日】2015年12月7日
(31)【優先権主張番号】特願2012-61136(P2012-61136)
(32)【優先日】2012年3月16日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-61137(P2012-61137)
(32)【優先日】2012年3月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】吉田 顕二
(72)【発明者】
【氏名】鵜川 健
(72)【発明者】
【氏名】田中 祐介
【審査官】 岸 智之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/007827(WO,A1)
【文献】 特開2005−314525(JP,A)
【文献】 特開平07−292066(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/074517(WO,A1)
【文献】 特開平04−255714(JP,A)
【文献】 特開平04−359919(JP,A)
【文献】 特開2013−043958(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/011662(WO,A1)
【文献】 特開2005−082624(JP,A)
【文献】 特開2003−261746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00 − 59/72
C08L 1/00 − 101/16
C08K 3/00 − 13/08
H01L 23/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール樹脂硬化剤と、エポキシ樹脂とを含み、
前記フェノール樹脂硬化剤が、式(1A)で表されるフェノール樹脂硬化剤であり、前記エポキシ樹脂が、式(2A)で表されるエポキシ樹脂であって、
前記エポキシ樹脂が有するグリシジルエーテル基の総数をMとし、前記エポキシ樹脂が有する水酸基の総数をNとしたとき、M/(M+N)の値が0.50以上、0.97以下である、封止用樹脂組成物。
(式(1A)中、2つのYは、それぞれ互いに独立して、式(1C)で表されるヒドロキシフェニル基を表し、Xは、式(1E)で表されるヒドロキシフェニレン基を表し、nは0以上の数を表し、nが2以上の場合、2つ以上のXは、それぞれ互いに独立して、同一であっても異なっていてもよい。)
(式(1C)及び(1E)中、Rは、それぞれ互いに独立して、炭素数1〜5の炭化水素基を表し、bは0〜3の整数、dは0〜2の整数を表す。)
(式(2A)中、2つのYは、それぞれ互いに独立して、式(2B)または式(2C)で表されるグリシジル化フェニル基を表し、Xは、式(2D)または式(2E)で表されるグリシジル化フェニレン基を表し、nは0以上の数を表し、nが2以上の場合、2つ以上のXは、それぞれ互いに独立して、同一であっても異なっていてもよい。)
(式(2B)〜(2E)中、R、R、R、およびRは、それぞれ互いに独立して、炭素数1〜5の炭化水素基を表し、aは0〜4の整数、bは0〜3の整数、cは0〜3の整数、dは0〜2の整数、e、gはそれぞれ互いに独立して、0または1の整数、f、hはそれぞれ互いに独立して、0〜2の整数を表す。)
【請求項2】
前記フェノール樹脂硬化剤の水酸基当量が、90g/eq以上、190g/eq以下である、請求項1に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂のエポキシ当量が、160g/eq以上、290g/eq以下である、請求項1または2に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項4】
前記フェノール樹脂硬化剤の前記封止用樹脂組成物中の含有率をA1(質量%)、前記エポキシ樹脂の前記封止用樹脂組成物中の含有率をA2(質量%)としたとき、A1/(A1+A2)の値が、0.2以上、0.9以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項5】
前記封止用樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度(Tg)が、200℃以上であり、前記硬化物の、大気雰囲気下、200℃で1000時間加熱したときの重量減少率が、0.3%以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項6】
高化式フローテスターによって測定した粘度が1Pa・s以上、14Pa・s以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項7】
当該封止用樹脂組成物を金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒の条件で、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmに注入成形し、次いで、175℃で4時間加熱処理して硬化物を得た時、当該硬化物の260℃における曲げ弾性率が1500N/mm以上、2500N/mm以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項8】
当該封止用樹脂組成物を金型温度175℃、注入圧力7.4MPa、硬化時間120秒の条件で、直径50mm、厚さ3mmに注入成形し、次いで、175℃で4時間加熱処理して硬化物を得た時、85℃、相対湿度85の環境下で168時間加湿処理した当該硬化物が0.1%以上、0.35%以下の吸水率を有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の封止用樹脂組成物で封止された電子部品を備える、電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封止用樹脂組成物およびこれを用いた電子装置に関する。より詳細には、例えば、半導体のような電子部品を封止するための樹脂組成物、およびこのような樹脂組成物で封止された電子部品を備える装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気エネルギーの有効活用等の観点から、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)を用いた素子が搭載されたSiC/GaNパワー半導体装置が注目されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような素子は、従来のSiを用いた素子に比べて、その電力損失が大幅に低減できるばかりでなく、より高い電圧や大電流、200℃以上といった高温下であっても動作することが可能であるため、従来のSiパワー半導体装置では適用が難しかった用途への展開が期待されている。
【0004】
このように、SiC/GaNを用いた素子(半導体素子)に代表される、過酷な状況下で動作可能な素子は、これらの素子を保護するために半導体装置に設けられる半導体封止材に対しても従来以上の耐熱性が求められている。
【0005】
ここで、従来のSiパワー半導体装置では、半導体封止材として、接着性、電気的安定性等の観点から、エポキシ系の樹脂組成物の硬化物を主材料として含む樹脂組成物が用いられている。
【0006】
このような樹脂組成物の硬化物の耐熱性を表す指標として、一般的には、ガラス転移温度(Tg)が用いられている。これはTg以上の温度領域では、封止用の樹脂組成物(硬化物)がゴム状になり、これに起因してその強度や接着強度が低下することによる。そのため、Tgを上げるための方法として、樹脂組成物中に含まれるエポキシ樹脂のエポキシ基当量、または、硬化剤(フェノール樹脂硬化剤)の水酸基当量を下げることにより架橋密度を上げたり、それら官能基(エポキシ基および水酸基)間を繋ぐ構造を剛直な構造にする等の手法がとられる。
【0007】
また、Tg以外に、樹脂組成物の耐熱性を表す指標として、熱分解による重量減少率が用いられる。樹脂組成物の重量減少は、結合エネルギーが低いエポキシ樹脂と硬化剤の連結部分の熱分解により起こる。そのため、官能基密度が高い半導体封止材では、重量減少率の低下を図ることは不利とされる。したがって、重量減少率の低下を図るための手法と、前述の高Tgを得るための手法とでは、その目的が相反する。
【0008】
したがって、樹脂組成物の耐熱性の向上を図るには、エポキシ樹脂と硬化剤とで形成される樹脂骨格と官能基密度とを最適な条件で設計し、高いTgを有するとともに、低い重量減少率を有するように設計された樹脂組成物の実現が望まれている。
【0009】
また、半導体、電子部品の分野においては、近年、生産性に重大な影響を及ぼす、連続成形性の向上も急務となっており、このような観点から、前記特性に加え、連続成形における金型の汚れ、およびバリ残りによるエアベント詰まり等に起因する、半導体封止材に生じる未充填の改善も望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−167035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような背景を鑑み、接着性、電気的安定性、難燃性、成形性、および耐熱性をバランス良く有する半導体封止材を形成し得る樹脂組成物を提供するものである。本発明は、特に、耐熱性において高Tgと重量減少の低減化を両立させた樹脂組成物を提供するものである。また、本発明は、このような樹脂組成物で電子部品を封止することにより得られる電子装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によると、フェノール樹脂硬化剤と、エポキシ樹脂とを含み、前記フェノール樹脂硬化剤が、式(1A)で表されるフェノール樹脂硬化剤であ、前記エポキシ樹脂が、式(2A)で表されるエポキシ樹脂であって前記エポキシ樹脂が有するグリシジルエーテル基の総数をMとし、前記エポキシ樹脂が有する水酸基の総数をNとしたとき、M/(M+N)の値が0.50以上、0.97以下である、封止用樹脂組成物が提供される。
(式(1A)中、2つのYは、それぞれ互いに独立して、(1C)で表されるヒドロキシフェニル基を表し、Xは、(1E)で表されるヒドロキシフェニレン基を表し、nは0以上の数を表し、nが2以上の場合、2つ以上のXは、それぞれ互いに独立して、同一であっても異なっていてもよい。)
(式(1及び(1E)中、は、それぞれ互いに独立して、炭素数1〜5の炭化水素基を表し、bは0〜3の整数、dは0〜2の整数を表す。)
(式(2A)中、2つのYは、それぞれ互いに独立して、式(2B)または式(2C)で表されるグリシジル化フェニル基を表し、Xは、式(2D)または式(2E)で表されるグリシジル化フェニレン基を表し、nは0以上の数を表し、nが2以上の場合、2つ以上のXは、それぞれ互いに独立して、同一であっても異なっていてもよい。)
(式(2B)〜(2E)中、R、R、R、およびRは、それぞれ互いに独立して、炭素数1〜5の炭化水素基を表し、aは0〜4の整数、bは0〜3の整数、cは0〜3の整数、dは0〜2の整数、e、gはそれぞれ互いに独立して、0または1の整数、f、hはそれぞれ互いに独立して、0〜2の整数を表す。)
【0014】
本発明の一実施形態によると、上記封止用樹脂組成物において、上記フェノール樹脂硬化剤の水酸基当量が、90g/eq以上、190g/eq以下である。
【0015】
本発明の一実施形態によると、上記封止用樹脂組成物において、上記エポキシ樹脂のエポキシ当量が、160g/eq以上、290g/eq以下である。
【0017】
本発明の一実施形態によると、上記封止用樹脂組成物において、上記フェノール樹脂硬化剤の上記封止用樹脂組成物中の含有率をA1(質量%)、上記エポキシ樹脂の上記封止用樹脂組成物中の含有率をA2(質量%)としたとき、A1/(A1+A2)の値が、0.2以上、0.9以下である。
【0018】
本発明の一実施形態によると、上記封止用樹脂組成物において、前記封止用樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度(Tg)が、200℃以上であり、前記硬化物の、大気雰囲気下、200℃で1000時間加熱したときの重量減少率が、0.3%以下である
【0019】
本発明の一実施形態によると、上記封止用樹脂組成物は、高化式フローテスターによって測定した粘度が1Pa・s以上、14Pa・s以下である
【0020】
本発明の一実施形態によると、上記封止用樹脂組成物において、当該封止用樹脂組成物を金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒の条件で、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmに注入成形し、次いで、175℃で4時間加熱処理して硬化物を得た時、当該硬化物の260℃における曲げ弾性率が1500N/mm以上、2500N/mm以下である。
【0021】
本発明の一実施形態によると、上記封止用樹脂組成物において、当該封止用樹脂組成物を金型温度175℃、注入圧力7.4MPa、硬化時間120秒の条件で、直径50mm、厚さ3mmに注入成形し、次いで、175℃で4時間加熱処理して硬化物を得た時、85℃、相対湿度85の環境下で168時間加湿処理した当該硬化物が0.1%以上、0.35%以下の吸水率を有する
【0022】
また、本発明によると、上記封止用組成物で封止された電子部品を備える電子装置が提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明において、上記フェノール樹脂硬化剤および上記エポキシ樹脂の少なくとも一方は、式(1A)または式(2A)で表されるようなビフェニル構造を有する。これにより、樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度(Tg)を向上させることができるとともに、樹脂組成物の硬化物の重量減少率を低減させることができる。この結果、樹脂組成物の硬化物の接着性、電気的安定性、難燃性のような特性を維持しつつ、高いTgと低い重量減少率とを両立させることができる。さらにかかる構成により、得られる樹脂組成物は、優れた成形性を備える。また、このようなビフェニル構造を有することにより、得られる樹脂組成物は難燃性を有する。そのため、200℃以上の高温下で水を放出し、重量減少率の増加を招く可能性のある金属水酸化物系難燃剤を使用することなく、難燃性を有する樹脂組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
図1】本発明の樹脂組成物を用いた電子装置を半導体装置に適用した場合の一例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の樹脂組成物および電子装置を、実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0026】
まず、本発明の電子装置について説明する。なお、以下では、本発明の樹脂組成物を用いた電子装置(本発明の電子装置)を、半導体装置に適用した形態で説明する。また、以下で挙げる半導体パッケージは一例であり、半導体チップの好ましい態様としては、炭化ケイ素(SiC)および窒化ガリウム(GaN)を用いた半導体チップが挙げられる。
【0027】
(半導体装置)
図1は、本発明の樹脂組成物を用いた電子装置を、半導体装置に適用した場合の例を示す縦断面図である。すなわち、なお、以下の説明では、図1中の上側を「上」、下側を「下」と記載する。
【0028】
図1に示す半導体装置10は、QFP(Quad Flat Package)型の半導体パッケージであり、電子部品としての半導体チップ(半導体素子)20と、半導体チップ20を接着層60を介して支持するダイパッド30と、半導体チップ20と電気的に接続されたリード40と、半導体チップ20を封止するモールド部(封止部)50とを有する。
【0029】
半導体チップ20としては、SiC(炭化ケイ素)またはGaN(窒化ガリウム)を用いた半導体チップが挙げられる。ダイパッド30は、金属基板から構成され、半導体チップ20を支持する支持体として機能する。ダイパッド30は、例えば、Cu、Fe、Ni、またはこれらの合金(例えば、Cu系合金、Fe−42Niのような鉄・ニッケル系合金)から構成される金属基板、この金属基板の表面に銀メッキまたはNi−Pdメッキが施された基板、またはこのNi−Pdメッキの表面にPd層の安定性を向上するための金メッキ(金フラッシュ)層が設けられた基板であり得る。
【0030】
ダイパッド30の平面視形状は、通常、半導体チップ20の平面視形状に対応し、例えば、正方形、長方形等の四角形である。ダイパッド30の外周部には、複数のリード40が、放射状に設けられている。
【0031】
このリード40のダイパッド30と反対側の端部は、モールド部50から突出(露出)している。リード40は、導電性材料から構成され、例えば、前述したダイパッド30の材料と同一のものを用いることができる。
【0032】
リード40は、その表面に錫メッキ等が施されていてもよく、これにより、マザーボードが備える端子に半田を介して半導体装置10を接続する場合に、半田とリード40との密着性を向上させることができる。
【0033】
ダイパッド30には、接着層60を介して半導体チップ20が固着(固定)されている。
この接着層60は、特に限定されないが、例えば、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤、ポリイミド系接着剤およびシアネート系接着剤から形成される。
【0034】
半導体チップ20は、電極パッド21を備え、この電極パッド21とリード40とが、ワイヤー22で電気的に接続されている。これにより、半導体チップ20と各リード40とが電気的に接続されている。ワイヤー22を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、Au線、Al線、Cu線、Ag線が挙げられる。
【0035】
ダイパッド30、ダイパッド30の上面側に設けられた各部材、およびリード40の内側の部分は、モールド部50により封止されている。その結果として、リード40の外側の端部がモールド部50から突出している。
【0036】
このモールド部50は、本発明の樹脂組成物の硬化物により構成される。このモールド部50は、例えば、トランスファーモールド等の成形方法を用いて、上記のように各部材を本発明の樹脂組成物で封止し、その後、80℃〜200℃程度の温度で、10分〜10時間程度の時間をかけて樹脂組成物を完全硬化させることにより形成される。
【0037】
また、半導体チップ20として、SiC(炭化ケイ素)またはGaN(窒化ガリウム)から形成される半導体チップを用いる場合、上記の背景技術で説明したように、モールド部50には、接着性、電気的安定性、難燃性、成形性および耐熱性(特に耐熱性において高Tgと重量減少の低減化との両立)に優れることが求められる。
【0038】
以下、本発明の樹脂組成物について説明する。
(樹脂組成物)
本発明の樹脂組成物は、フェノール樹脂硬化剤と、エポキシ樹脂とを含み、フェノール樹脂硬化剤が、式(1A)で表されるフェノール樹脂硬化剤であるか、または、エポキシ樹脂が、式(2A)で表されるエポキシである。

(式(1A)中、2つのYは、それぞれ互いに独立して、式(1B)または式(1C)で表されるヒドロキシフェニル基を表し、Xは、式(1D)または式(1E)で表されるヒドロキシフェニレン基を表し、nは0以上の数を表し、nが2以上の場合、2つ以上のXは、それぞれ互いに独立して、同一であっても異なっていてもよい。)

(式(1B)〜(1E)中、RおよびRは、それぞれ互いに独立して、炭素数1〜5の炭化水素基を表し、aは0〜4の整数、bは0〜3の整数、cは0〜3の整数、dは0〜2の整数を表す。)

(式(2A)中、2つのYは、それぞれ互いに独立して、式(2B)または式(2C)で表されるグリシジル化フェニル基を表し、Xは、式(2D)または式(2E)で表されるグリシジル化フェニレン基を表し、nは0以上の数を表し、nが2以上の場合、2つ以上のXは、それぞれ互いに独立して、同一であっても異なっていてもよい。)

(式(2B)〜(2E)中、R、R、R、およびRは、それぞれ互いに独立して、炭素数1〜5の炭化水素基を表し、aは0〜4の整数、bは0〜3の整数、cは0〜3の整数、dは0〜2の整数、e、gはそれぞれ互いに独立して、0または1の整数、f、hはそれぞれ互いに独立して、0〜2の整数を表す。)
【0039】
以下、樹脂組成物に含まれる各成分について説明する。
(フェノール樹脂硬化剤)
本発明の一実施形態において、本発明の樹脂組成物に用いられるフェノール樹脂硬化剤は、式(1A)で表される重合体である。なお、本明細書において、重合体とは、式(1A)および式(1B)においてn=0である化合物も含む。

(式(1A)中、2つのYは、それぞれ互いに独立して、式(1B)または式(1C)で表されるヒドロキシフェニル基を表し、Xは、式(1D)または式(1E)で表されるヒドロキシフェニレン基を表し、nは0以上のを表し、nが2以上の場合、2つ以上のXは、それぞれ互いに独立して、同一であっても異なっていてもよい。)

(式(1B)〜(1E)中、RおよびRは、それぞれ互いに独立して、炭素数1〜5の炭化水素基を表し、aは0〜4の整数、bは0〜3の整数、cは0〜3の整数、dは0〜2の整数を表す。)
【0040】
式(1A)で表されるフェノール樹脂硬化剤において、nは、平均値であり、0〜6が好ましく、0〜3がより好ましく、0〜1がさらに好ましい。また、式(1A)で表わされるフェノール樹脂硬化剤の数平均分子量は、390以上1000以下が好ましく、400以上600以下がより好ましく、400以上550以下がさらに好ましく、特に400以上500以下が好ましい。このようなフェノール樹脂硬化剤は、複数の水酸基で置換された芳香環を有するため、水素結合に由来する分子間の相互作用が強く、従来の樹脂に比べ、成形性、特に連続成形時の充填性において、従来の流動性や硬化性の概念とは異なる特異な挙動を示す場合がある。上記範囲内の数平均分子量を有するフェノール樹脂硬化剤を用いることにより、優れた硬化性および良好な連続成形性を有する樹脂組成物が得られるとともに、その硬化物は、高いガラス転移温度と低い重量減少率を有する。なお、nの値は、数平均分子量、上記のXおよびY、ならびにビフェニル骨格の構造とその構成比から算出できる。
【0041】
式(1A)で表されるフェノール樹脂硬化剤において、式(1B)〜(1E)中のRおよびRは、それぞれ互いに独立して、炭素数1〜5の炭化水素基を表わす。炭素数が5以下であれば、得られる樹脂組成物の反応性が低下して、成形性が損なわれてしまうのを確実に防止することができる。
【0042】
置換基RおよびRの具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、t−ペンチル基等のアルキル基が挙げられ、これらの中でも、メチル基であるのが好ましい。これにより、樹脂組成物の硬化性と疎水性のバランスを特に優れたものとすることができる。
【0043】
式(1B)および式(1D)におけるaおよびcは、同一のベンゼン環に結合する置換基Rの数を表し、aは、互いに独立して、0〜4の整数であり、cは、互いに独立して、0〜3の整数である。式(1C)および式(1E)におけるbおよびdは、同一のベンゼン環に結合する置換基Rの数を表し、bは、互いに独立して、0〜3であり、dは、互いに独立して、0〜2の整数であり、a、b、c、およびdは、好ましくは、0または1の整数である。
【0044】
本発明の一実施形態によれば、式(1A)で表されるフェノール樹脂硬化剤は、式(1B)で表される一価ヒドロキシフェニル基、および式(1D)で表される一価ヒドロキシフェニレン基、ならびに式(1C)で表される二価ヒドロキシフェニル基、および式(1E)で表される二価ヒドロキシフェニレン基を含む。
【0045】
式(1B)で表される一価ヒドロキシフェニル基と、式(1D)で表される一価ヒドロキシフェニレン基とを含むフェノール樹脂硬化剤を用いることにより、得られる樹脂組成物は、優れた難燃性、低吸水率、耐半田性を有する。
【0046】
さらに、式(1C)で表される二価ヒドロキシフェニル基と、式(1E)で表される二価ヒドロキシフェニレン基とを含むフェノール樹脂硬化剤は、フェノール性水酸基の密度が高いことから、得られる樹脂組成物の硬化物は高いガラス転移温度(Tg)を有する。一般に、式(1A)で表されるフェノール樹脂硬化剤のようなフェノール性水酸基を有する重合体は、フェノール性水酸基の密度が高くなるにつれて、その重量減少率は高くなる。しかしながら、式(1A)で表されるフェノール樹脂硬化剤とエポキシ樹脂との架橋体は、Tgの上昇に伴う重量減少率の上昇が抑制される。この理由は必ずしも明らかではないが、架橋体のビフェニル骨格と二価のフェノールを連結するメチレン基部分が、立体的嵩高さにより保護されて、比較的熱分解を受けにくいためと考えられる。
【0047】
式(1A)で表されるフェノール樹脂硬化剤において、式(1B)で表わされるヒドロキシフェニル基の数と、式(1D)で表わされるヒドロキシフェニレン基の数との合計をkとし、kの平均値k0とし、式(1C)で表わされるヒドロキシフェニル基の数と、式(1E)で表わされるヒドロキシフェニレン基の数との合計をmとし、mの平均値をm0とした場合、k0/m0の値は、0/100〜82/18であるのが好ましく、20/80〜80/20であるのがより好ましく、25/75〜75/25であるのがさらに好ましい。k0/m0の値が上記範囲にあることにより、流動特性、耐半田性、難燃性、連続成形性、耐熱性のバランスに優れた樹脂組成物を、経済的に得ることができる。
【0048】
なお、k0およびm0の値は、電界脱離質量分析(Field Desorption Mass Spectrometry;FD−MS)で測定される相対強度比を質量比とみなして算術計算することによって求めることができる。あるいは、H−NMRまたはC−NMR測定によっても求めることができる。
【0049】
本発明の一実施形態において、式(1A)で表されるフェノール樹脂に加え、またはこれに代えて、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂のようなノボラック型樹脂;トリフェノールメタン型フェノール樹脂のような多官能型フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂のような変性フェノール樹脂;フェニレン骨格および/またはビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレンおよび/またはビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂のようなアラルキル型樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールFのようなビスフェノール化合物が用いられ得る。
【0050】
本発明の一実施形態において、上記フェノール樹脂に加え、重付加型の硬化剤、触媒型の硬化剤、縮合型の硬化剤等が用いられ得る。
【0051】
重付加型の硬化剤としては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、メタキシレンジアミンのような脂肪族ポリアミン;ジアミノジフェニルメタン、m−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホンのような芳香族ポリアミン;ジシアンジアミド、有機酸ジヒドラジドのようなポリアミン化合物;ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸のような脂環族酸無水物;無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸のような芳香族酸無水物等を含む酸無水物;フェノール樹脂、ポリビニルフェノールに代表されるフェノールポリマーのようなフェノール樹脂硬化剤;ポリサルファイド、チオエステル、チオエーテルのようなポリメルカプタン化合物;イソシアネートプレポリマー、ブロック化イソシアネートのようなイソシアネート化合物;カルボン酸含有ポリエステル樹脂のような有機酸類等が挙げられる。
【0052】
触媒型の硬化剤としては、例えば、ベンジルジメチルアミン、2,4,6−トリスジメチルアミノメチルフェノールのような3級アミン化合物;2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾールのようなイミダゾール化合物;BF錯体のようなルイス酸等が挙げられる。
【0053】
縮合型の硬化剤としては、例えば、レゾール型フェノール樹脂のようなフェノール樹脂硬化剤;メチロール基含有尿素樹脂のような尿素樹脂;メチロール基含有メラミン樹脂のようなメラミン樹脂等が挙げられる。
【0054】
これらの中でも、難燃性、耐湿性、電気特性、硬化性、保存安定性等のバランスの点からフェノール樹脂硬化剤が好ましい。
【0055】
(フェノール樹脂硬化剤の製造方法)
式(1A)で表されるフェノール樹脂硬化剤は、以下の方法で製造することができる。
【0056】
式(1A)で表されるフェノール樹脂硬化剤は、例えば、式(3)で表されるビフェニレン化合物と、式(4)で表される一価フェノール化合物と、式(5)で表される二価フェノール化合物とを、酸性触媒下で反応させることにより製造できる。

(式(3)中、Zは、水酸基、ハロゲン原子、または炭素数1〜6のアルコキシ基を表す。)

(式(4)中、Rは、炭素数1〜5の炭化水素基を表し、aは0〜4の整数を表す。)

(式(5)中、Rは、炭素数1〜5の炭化水素基を表し、bは0〜3の整数を表す。)
【0057】
式(3)で表される化合物中のZにおいて、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子等が挙げられる。また、炭素数1〜6のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペントキシ基、2−メチルブトキシ基、3−メチルブトキシ基、t−ペントキシ基、n−ヘキトキシ基、1−メチルペントキシ基、2−メチルペントキシ基、3−メチルペントキシ基、4−メチルペントキシ基、2,2−ジメチルブトキシ基、2,3−ジメチルブトキシ基、2,4−ジメチルブトキシ基、3,3−ジメチルブトキシ基、3,4−ジメチルブトキシ基、4,4−ジメチルブトキシ基、2−エチルブトキシ基および1−エチルブトキシ基等が挙げられる。
【0058】
このような式(3)で表される化合物としては、具体的には、例えば、4,4'−ビスクロロメチルビフェニル、4,4'−ビスブロモメチルビフェニル、4,4'−ビスヨードメチルビフェニル、4,4'−ビスヒドロキシメチルビフェニル、4,4'−ビスメトキシメチルビフェニル等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、4,4'−ビスメトキシメチルビフェニルまたは4,4'−ビスクロロメチルビフェニルが好ましい。4,4'−ビスメトキシメチルビフェニルは、比較的低温で合成が可能であり、反応副生成物の留去や取り扱いが容易であるという観点から好ましく用いられ、4,4'−ビスクロロメチルビフェニルは、微量の水分の存在に起因して発生するハロゲン化水素を酸触媒として利用することができるという観点から好ましく用いられる。
【0059】
式(4)で表される一価フェノール化合物としては、例えば、フェノール、o−クレゾール、p−クレゾール、m−クレゾール、フェニルフェノール、エチルフェノール、n−プロピルフェノール、イソプロピルフェノール、t−ブチルフェノール、キシレノール、メチルプロピルフェノール、メチルブチルフェノール、ジプロピルフェノール、ジブチルフェノール、ノニルフェノール、メシトール、2,3,5−トリメチルフェノール、2,3,6−トリメチルフェノール等が挙げられ、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、フェノール、o−クレゾールが好ましく、特にフェノールが、エポキシ樹脂との反応性に優れるという観点から、より好ましく用いられる。
【0060】
式(5)で表される二価フェノール化合物としては、例えば、レゾルシノール、カテコール、ヒドロキノン等が挙げられ、これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、レゾルシノールおよびヒドロキノンが、樹脂組成物の反応性という観点から好ましく用いられ、さらに、レゾルシノールが比較的低温でフェノール樹脂硬化剤の合成ができるという観点からより好ましく用いられる。
【0061】
さらに、酸性触媒としては、特に限定されないが、例えば、蟻酸、シュウ酸、p−トルエンスルホン酸、塩酸、硫酸、燐酸、酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、およびルイス酸等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0062】
なお、式(3)で表される化合物中のZが、ハロゲン原子である場合、反応時の副生成物であるハロゲン化水素が、酸性触媒として作用する。そのため、酸性触媒を使用する必要がなく、少量の水を添加することで速やかに反応を開始させることができる。
【0063】
このようなフェノール樹脂硬化剤の製造方法では、得られるフェノール樹脂硬化剤の数平均分子量が好ましくは390以上1000以下、より好ましくは400以上600以下、さらに好ましくは400以上550以下、特に好ましくは400以上500以下となるように、反応条件を調整できる。例えば、合計1モルの前記一価フェノール化合物と前記二価フェノール化合物に対して、ビフェニレン化合物を0.01〜0.8モル、必要に応じて酸性触媒を0.01〜0.05モルを反応させ、その後この反応物を80〜170℃の温度で、窒素フローにより発生ガスおよび水分を系外へ排出しながら、1〜20時間反応させる。そして、反応終了後に残留する未反応モノマー(例えば、ベンジル化合物やジヒドロキシナフタレン化合物)、反応副生物(例えば、ハロゲン化水素、メタノール)、触媒を減圧蒸留、水蒸気蒸留等の方法で留去することによって、所望の数平均分子量を有するフェノール樹脂硬化剤を得ることができる。
【0064】
また、このようなフェノール樹脂硬化剤の製造方法では、得られるフェノール樹脂硬化剤に含まれる式(1B)の一価フェノール化合物と式(1D)の二価フェノール化合物の配合比率(k0/m0)が、好ましくは0/100〜82/18、より好ましくは20/80〜80/20、さらに好ましくは25/75〜75/25となるように、反応条件を調整できる。例えば、合計100モル%の一価フェノール化合物と二価フェノール化合物に対して、一価フェノール化合物を、好ましくは15〜85mol%、より好ましくは20〜80mol%であり、さらに好ましくは20〜75mol%の量で反応させることができる。一価フェノール化合物の配合比率が上記下限値以上であれば、原料コストの上昇を抑えることができ、得られる樹脂組成物が、流動性に優れるものとすることができる。一価フェノール化合物の配合比率が上記上限値以下であれば、得られる樹脂組成物が、耐熱性に優れ、成形温度において充分な硬度を有するため、成形性に優れたものとすることができる。一価フェノール化合物の配合比率が上記上限値以下であれば、原料コストの上昇を抑えることができ、得られる樹脂組成物が、流動特性、耐半田性および難燃性に優れ、成形温度において充分な靭性を有するため、成形性に優れたものとすることができる。以上のように2種のフェノール化合物の配合比率を上述の範囲とすることで、流動特性、耐半田性、難燃性、耐熱性、および成形性特に連続成形性のバランスに優れた樹脂組成物を、経済的に得ることができる。
【0065】
式(1A)で表されるフェノール樹脂硬化剤の数平均分子量、水酸基当量、k0/m0の値は、当業者に公知のフェノール樹脂の合成方法の手法を用いて調整することができる。例えば、フェノール樹脂硬化剤のk0/m0の値は、合成に使用する一価フェノール化合物および二価フェノール化合物の配合比率により調整することができる。より具体的には、フェノール樹脂硬化剤の合成に用いる一価フェノール化合物と二価フェノール化合物の合計量に対する、ビフェニレン化合物の量を、モル比で1:1に近づける等の方法で、高分子量および高粘度を有するフェノール樹脂硬化剤を得ることができる。一方、フェノール樹脂硬化剤の合成に用いる一価フェノール化合物と二価フェノール化合物の合計量に対する、ビフェニレン化合物のモル比を減らす、酸触媒の配合量を減らす、ハロゲン化水素ガスが発生する場合にはこれを窒素気流等で速やかに系外に排出する、反応温度を下げる等の手法によって、高分子量成分の生成を低減させ、前記の好ましい範囲の数平均分子量を有するフェノール樹脂硬化剤を得ることができる。この場合、反応の進行は、式(3)のビフェニレン化合物と、式(4)の一価フェノール化合物および式(5)の二価フェノール化合物との反応で副生成するハロゲン化水素またはアルコールのガスの発生状況や、あるいは反応途中の生成物の分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフ法により測定することにより、確認することができる。
【0066】
本発明の一実施形態において、樹脂組成物中のフェノール樹脂硬化剤の量は、樹脂組成物全体に対して、1質量%以上、20質量%以下であるのが好ましく、2質量%以上、15質量%以下であるのがより好ましく、3質量%以上、10質量%以下であるのがさらに好ましい。上記範囲内でフェノール樹脂硬化剤を用いることにより、得られる樹脂組成物は、優れた硬化性、耐熱性および耐半田性をバランス良く有する。
【0067】
フェノール樹脂硬化剤として、式(1A)で表されるフェノール樹脂硬化剤を用いる場合、このフェノール樹脂硬化剤が、使用する全硬化剤に対して、50質量%以上の量であることが好ましい。これにより、式(1A)で表されるフェノール樹脂硬化剤の性能を確実に発揮させることができる。
【0068】
(エポキシ樹脂)
本発明の一実施形態において、本発明の樹脂組成物に用いられるエポキシ樹脂は、式(2A)で表される重合体である。

(式(2A)中、2つのYは、それぞれ互いに独立して、式(2B)または式(2C)で表されるグリシジル化フェニル基を表し、Xは、式(2D)または式(2E)で表されるグリシジル化フェニレン基を表し、nは0以上のを表し、nが2以上の場合、2つ以上のXは、それぞれ互いに独立して、同一であっても異なっていてもよい。)

(式(2B)〜(2E)中、R、R、R、およびRは、それぞれ互いに独立して、炭素数1〜5の炭化水素基を表し、aは0〜4の整数、bは0〜3の整数、cは0〜3の整数、dは0〜2の整数、e、gはそれぞれ互いに独立して、0または1の整数、f、hはそれぞれ互いに独立して、0〜2の整数を表す。)
【0069】
式(2A)で表されるエポキシ樹脂において、nは平均値であり、0〜6が好ましく、0〜3がより好ましく、0〜1がさらに好ましい。また、式(2A)で表わされるエポキシ樹脂の数平均分子量は450以上2000以下が好ましく、500以上1000以下がより好ましく、500以上800以下がさらに好ましく、500以上700以下が最も好ましい。このようなエポキシ樹脂は、その硬化過程において、複数の水酸基を有する芳香環を含有するフェノール樹脂硬化剤に由来する水素結合の相互作用の影響を強く受け、従来の樹脂に比べ、成形性、特に連続成形時の充填性において、従来の流動性や硬化性の概念とは異なる特異な挙動を示す場合がある。上記範囲内の数平均分子量を有するエポキシ樹脂を用いることにより、優れた硬化性および良好な連続成形性を有する樹脂組成物が得られるとともに、その硬化物は、高いガラス転移温度と低い重量減少率を有する。なお、nは、数平均分子量、上記のXおよびY、ならびにビフェニル骨格の構造とその構成比から算出できる。
【0070】
式(2A)で表されるエポキシ樹脂において、式(2B)〜(2E)中のR、R、R、およびRは、それぞれ互いに独立して、炭素数1〜5炭化水素基を表す。炭素数が5以下であれば、得られる樹脂組成物の反応性が低下して、成形性が損なわれてしまうのを確実に防止することができる。
【0071】
置換基R、R、R、およびRの具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、t−ペンチル基等が挙げられ、これらの中でも、メチル基であるのが好ましい。これにより、樹脂組成物の硬化性と疎水性のバランスを特に優れたものとすることができる。
【0072】
式(2B)および式(2D)におけるaおよびcは、同一のベンゼン環に結合する置換基RまたはRの数を表し、aは、互いに独立して、0〜4の整数であり、cは、互いに独立して、0〜3の整数であり、式(2C)および式(2E)におけるbおよびdは、同一のベンゼン環に結合する置換基RまたはRの数を表し、bは、互いに独立し、0〜3であり、dは、互いに独立して、0〜2の整数であり、a、b、c、およびdは、好ましくは0または1の整数である。
【0073】
式(2B)および式(2D)におけるeおよびgは、同一のベンゼン環に結合する水酸基の数を表し、式(2B)および式(2D)における(1−e)および(1−g)は、同一のベンゼン環に結合するグリシジルエーテル基の数を表す。eおよびgは、それぞれ互いに独立して、0または1の整数であることから、式(2B)および式(2D)において、同一のベンゼン環には、1つの水酸基または1つのグリシジルエーテル基が結合する。また、式(2C)および式(2E)におけるfおよびhは、同一のベンゼン環に結合する水酸基の数を表し、式(2C)および式(2E)における(2−f)および(2−h)は、同一のベンゼン環に結合するグリシジルエーテル基の数を表す。fおよびhは、それぞれ互いに独立して、0以上2以下の整数であることから、式(2C)および式(2E)において、同一のベンゼン環には、水酸基が結合しないときには、2つのグリシジルエーテル基が結合するか、1つの水酸基が結合するときには、1つのグリシジルエーテル基が結合するか、または2つの水酸基が結合するときには、グリシジルエーテル基が結合しない。このように、式(2A)で表される重合体(エポキシ樹脂)は、ベンゼン環に結合する官能基の全てがグリシジルエーテル基ではなく、グリシジルエーテル基の他に水酸基が一部連結(残存)している。
【0074】
本発明の一実施形態において、式(2A)で表されるエポキシ樹脂において、該エポキシ樹脂が有するグリシジルエーテル基の総数をMとし、該エポキシ樹脂が有する水酸基の総数をNとしたとき、M/(M+N)の値は、好ましくは0.50以上0.97以下、より好ましくは0.70以上0.97以下、さらに好ましくは0.85以上0.97以下である。なお、M/(M+N)の値は、エポキシ樹脂の原料であるフェノール樹脂の水酸基当量にグリシジル基が付加した値を理想的なエポキシ当量EPCとし、実測のエポキシ当量をEPAとしたとき、EPC/EPAの値を算出することにより求めることができる。
【0075】
上記範囲のM/(M+N)の値を有するエポキシ樹脂は、樹脂組成物に用いられる離型剤に対し、適度な相溶性を有する。そのため、得られる樹脂組成物の硬化物(モールド部50)を、金型(成形型)を用いて連続成形する際に、金型の汚れ、およびバリ残りによるエアベント詰まり等の発生を的確に抑制または防止することができ、金型の汚れのみならず、硬化物の未充填部の発生を低減させることができる。したがって、このようなエポキシ樹脂を含む樹脂組成物は、その成形後の硬化物の連続成形性に優れる。
【0076】
本発明の一実施形態によれば、式(2A)で表されるエポキシ樹脂は、式(2B)で表される1つのグリシジルエーテル基を有するグリシジル化フェニル基、および式(2D)で表される1つのグリシジルエーテル基を有するグリシジル化フェニレン基、ならびに式(2C)で表される2つのグリシジルエーテル基を有するグリシジル化フェニル基、および式(2E)で表される2つのグリシジルエーテル基を有するグリシジル化フェニレン基を含む。
【0077】
式(2B)で表される1つのグリシジルエーテル基を有するグリシジル化フェニル基と、式(2D)で表される1つのグリシジルエーテル基を有するグリシジル化フェニレン基とを含むエポキシ樹脂を用いることにより、得られる樹脂組成物は、優れた難燃性、低吸水率、耐半田性をを有する。
【0078】
さらに、式(2C)で表される2つのグリシジルエーテル基を有するグリシジル化フェニル基と、式(2E)で表される2つのグリシジルエーテル基を有するグリシジル化フェニレン基とを含むエポキシ樹脂は、グリシジルエーテル基の密度が高いことから、得られる樹脂組成物の硬化物は、高いガラス転移温度(Tg)を有する。一般に、このような式(2A)で表されるエポキシ樹脂において、グリシジルエーテル基の密度が高くなるにつれて、その重量減少率は高くなる。しかしながら、式(2A)で表されるエポキシ樹脂と、上記のフェノール樹脂硬化剤との架橋体は、Tgの上昇に伴う重量減少率の上昇が抑制される。この理由はかならずしも明らかではないが、架橋体のビフェニル骨格と一価または二価のフェノールを連結するメチレン基部分が、立体的嵩高さにより保護されて、比較的熱分解を受けにくいためと考えられる。
【0079】
本発明の一実施形態において、式(2A)で表されるエポキシ樹脂に加え、またはこれに代えて、例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、スルフィド型エポキシ樹脂、ジヒドロキシアントラセン型エポキシ樹脂のような結晶性エポキシ樹脂;メトキシナフタレン骨格含有ノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂のようなノボラック型エポキシ樹脂;芳香族炭化水素とホルムアルデヒドとを縮合して得た樹脂をフェノールで変性し、さらにエポキシ化して得られるフェノール変性芳香族炭化水素−ホルムアルデヒド樹脂型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、テトラキスヒドロキシフェニルエタン型エポキシ樹脂のような多官能エポキシ樹脂;フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂のようなアラルキル型エポキシ樹脂;ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレンの2量体をグリシジルエーテル化して得られるエポキシ樹脂のようなナフトール型エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレートのようなトリアジン核含有エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂のような有橋環状炭化水素化合物変性フェノール型エポキシ樹脂;フェノールフタレインとエピクロルヒドリンとを反応して得られるフェノールフタレイン型エポキシ樹脂を用いることができる。これらのエポキシ樹脂は、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0080】
上記のエポキシ樹脂のうち、結晶性エポキシ樹脂は、流動性に優れる点で好ましく、多官能エポキシ樹脂は、良好な高温保管特性(HTSL)で好ましく、フェノールフタレイン型エポキシ樹脂は、後述する無機充填材含有率が低い場合でも優れた難燃性、高温保管特性(HTSL)、耐半田性のバランスに優れる点で好ましく、フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂のようなアラルキル型エポキシ樹脂、フェノール変性芳香族炭化水素−ホルムアルデヒド樹脂型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂は、耐半田性に優れる点で好ましく、ナフトール型エポキシ樹脂およびメトキシナフタレン骨格含有ノボラック型エポキシ樹脂のような分子中にナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂は、難燃性と高温保管特性(HTSL)のバランスに優れる点で好ましい。
【0081】
(エポキシ樹脂の製造方法)
式(2A)で表されるエポキシ樹脂は、以下の方法で製造することができる。
【0082】
式(2A)で表されるエポキシ樹脂は、例えば、式(1A)で表されるフェノール樹脂硬化剤と、エピクロルヒドリンとを反応させて、フェノール樹脂硬化剤が有する水酸基をグリシジルエーテル基に置換することにより製造することができる。その際、使用する原料の式(1A)で表されるフェノール樹脂硬化剤の選定は、硬化剤として好ましい態様のものを採用することが可能である。なお、この水酸基の一部を、グリシジルエーテル基で置換することなく残存させることで、所望のM/(M+N)の値を有する式(2A)で表されるエポキシ樹脂を得ることができる。
【0083】
より詳しくは、式(1A)で表されるフェノール樹脂硬化剤と、過剰のエピクロルヒドリンとを混合する。その後、この混合物を、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのようなアルカリ金属水酸化物の存在下で、好ましくは50〜150℃、より好ましくは60〜120℃の温度で、好ましくは1〜10時間程度の時間反応させる。そして、反応終了後に、過剰のエピクロルヒドリンを蒸留除去し、残留物をメチルイソブチルケトン等の有機溶剤に溶解し、ろ過し、水洗して無機塩を除去し、次いで有機溶剤を留去することによってエポキシ樹脂を得る。
【0084】
なお、エピクロルヒドリンの添加量は、原料のフェノール樹脂硬化剤の水酸基当量に対して2〜15倍モル程度に設定されているのが好ましく、2〜10倍モル程度に設定されているのがより好ましい。さらに、アルカリ金属水酸化物の添加量は、フェノール樹脂硬化剤の水酸基当量に対して0.8〜1.2倍モル程度に設定されているのが好ましく、0.9〜1.1倍モル程度に設定されているのがより好ましい。
【0085】
式(1A)で表されるフェノール樹脂硬化剤が有する水酸基の一部のみを、グリシジルエーテル基で置換する方法としては、I:エピクロルヒドリンの添加量を通常より低減する、II:溶媒を用いてエピクロルヒドリンとフェノール樹脂硬化剤の頻度因子を低減する、III:反応時間を短めに設定する、IV:反応温度を下げる、などの方法が好ましく用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0086】
反応条件を調整することにより、式(1A)で表されるフェノール樹脂硬化剤が有する水酸基の一部を、グリシジルエーテル基に置換させることなく残存させることができ、式(2A)で表されるエポキシ樹脂を確実に得ることができる。
【0087】
本発明の一実施形態において、樹脂組成物中における全エポキシ樹脂の量は、樹脂組成物全体に対して、1質量%以上、20質量%以下であるのが好ましく、2質量%以上、15質量%以下であるのがより好ましく、3質量%以上、10質量%以下であるのがさらに好ましい。上記範囲内でエポキシ樹脂を用いることにより、得られる樹脂組成物は、優れた硬化性、耐熱性および耐半田性をバランス良く有する。
【0088】
エポキシ樹脂として、式(2A)で表されるエポキシ樹脂を用いる場合、このエポキシ樹脂が、使用する全エポキシ樹脂に対して、50質量%以上の量であることが好ましい。これにより、式(2A)で表されるエポキシ樹脂の性能を確実に発揮させることができる。
【0089】
また、樹脂組成物は、耐湿信頼性の観点から、イオン性不純物であるNaイオンやClイオンを極力含まないことが好ましい。さらに、樹脂組成物の硬化性の観点から、エポキシ樹脂のエポキシ当量は、100g/eq以上、500g/eq以下であることが好ましい。
【0090】
本発明の一実施形態において、樹脂組成物は、フェノール樹脂硬化剤として式(1A)で表される重合体と、エポキシ樹脂として式(2A)で表される重合体とを含む。ここで、式(1A)で表される重合体は、式(1C)で表される二価ヒドロキシフェニル基と、式(1E)で表される二価ヒドロキシフェニレン基のうち少なくとも一方を有し、式(2A)で表される重合体は、式(2C)で表される2つのグリシジルエーテル基を有するグリシジル化フェニル基と、式(2E)で表される2つのグリシジルエーテル基を有するグリシジル化フェニレン基のうち少なくとも一方を有する。
【0091】
すなわち、式(1A)で表される重合体では、その主骨格を構成するフェニル基に2つの水酸基が導入され、式(2A)で表される重合体では、その主骨格を構成するフェニル基に2つのグリシジルエーテル基が導入されている。かかる構成とすることで、式(1A)で表される重合体では、水酸基密度の向上が図られ、式(2A)で表される重合体では、エポキシ基密度の向上を図ることができる。
【0092】
フェノール樹脂硬化剤が式(1A)で表される重合体であり、エポキシ樹脂が式(2A)で表される重合体である場合、これら双方の官能基密度の向上が図られているため、エポキシ樹脂同士がフェノール樹脂硬化剤を介して架橋することにより形成される硬化物の架橋密度が高くなる。その結果、かかる硬化物のガラス転移温度(Tg)が向上する。
【0093】
本発明の一実施形態において、フェノール樹脂硬化剤が式(1A)で表される重合体であり、エポキシ樹脂が式(2A)で表される重合体である場合、これらの重合体が、同一の主骨格を有し得る。すなわち、式(1A)で表される重合体では、その主骨格を構成するフェニル基に水酸基が導入され、式(2A)で表される重合体では、その主骨格を構成するフェニル基にグリシジルエーテル基が導入されている以外は同一の構造単位を有するような態様とすることができる。言い換えると、これらの重合体は、共通の主骨格を有する構造単位を含有する。
【0094】
一般に、樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度(Tg)を向上させるために、官能基密度を高くした場合には、これに反して、エポキシ基(グリシジルエーテル基)と水酸基との反応により形成される架橋点(連結部分)が熱分解することに起因して、重量減少率が高くなる。しかし、本発明の上述の実施形態では、官能基密度を高くしたとしても、架橋点の熱分解に起因する重量減少を防止または抑制することができる。これは、式(1A)で表される重合体および前記一般式(2A)で表される重合体の双方が、共通の主骨格を有する構造単位を含有するためと推察される。さらに、前述の通り、フェノール樹脂硬化剤とエポキシ樹脂との架橋体中に存在するメチレン基が、これら重合体の立体的嵩高さにより保護されて、二次的な分解が抑制されるためと推察される。
【0095】
上述のように、樹脂組成物が、フェノール樹脂硬化剤として式(1A)で表される重合体と、エポキシ樹脂として式(2A)で表され重合体とを、主成分として含むことにより、樹脂組成物の硬化物のTgの向上と、硬化物の重量減少率の低減との双方を実現することができる。その結果、樹脂組成物を硬化して得られる硬化物は、接着性、電気的安定性、難燃性、成形性、特に連続成形性および耐熱性に優れたものとなり、特に耐熱性において高Tgと重量減少の低減化を両立させることができる。
【0096】
具体的には、樹脂組成物をかかる構成とすることで、その硬化物のTgを、好ましくは180℃以上、より好ましくは200℃以上、300℃以下、さらに好ましくは220℃以上、250℃以下とすることができ、かつ、その重量減少率を、好ましくは0.3%以下、より好ましくは0.07%以上、0.25%以下、さらに好ましくは0.07%以上、0.2%以下とすることができる。硬化物のTgおよび重量減少率をかかる範囲内に設定できれば、高温下でも樹脂硬化物の劣化が生じにくいため、SiCやGaNなどの半導体素子を搭載したパッケージの半導体封止材として使用可能である。
【0097】
なお、硬化物の重量減少率は、例えば、以下の方法で測定できる。まず、樹脂組成物の円盤状試験片を形成し、この試験片を175℃で4時間硬化し、その後、125℃で20時間乾燥し、冷却後の重量を測定し、初期重量を求める。次に、この試験片を、大気雰囲気下、200℃の高温槽に投入し、1000時間加熱し、冷却後の重量を測定し、処理重量を求める。初期重量に対する処理重量の割合を求めることにより、重量減少率を算出することができる。
【0098】
本発明の一実施形態において、式(1A)で表されるフェノール樹脂硬化剤の、樹脂組成物中の含有率をA1(質量%)とし、式(2A)で表されるエポキシ樹脂の、樹脂組成物中の含有率をA2(質量%)としたとき、A1/(A1+A2)の値は、好ましくは、0.2以上、0.9以下であり、より好ましくは、0.3以上、0.7以下である。上記範囲を採用することにより、グリシジルエーテル基と水酸基とで形成される架橋点の数が適切な範囲内に調整され、より確実に硬化物のTgを向上させることができる。
【0099】
本発明の一実施形態において、式(1A)で表されるフェノール樹脂硬化剤の水酸基当量の下限値は、好ましくは90g/eq以上、より好ましくは100g/eq以上に設定される。また、その水酸基当量の上限値は、好ましくは190g/eq以下、より好ましくは180g/eq以下、さらに好ましくは170g/eq以下に設定される。
【0100】
本発明の一実施形態において、式(2A)で表されるエポキシ樹脂のエポキシ当量の上限値、下限値は、上述の式(1A)で表されるフェノール樹脂硬化剤の水酸基がグリシジルエーテル基に置換された場合の理論値であることが好ましい。
【0101】
本発明の一実施形態において、用いるエポキシ樹脂が、水酸基を有する場合、すなわち、エポキシ樹脂中のベンゼン環に、グリシジルエーテル基と水酸基とが結合している場合、このようなエポキシ樹脂のエポキシ当量は、上記理論値の好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上であれば本発明の効果を発現し得る。前記範囲とすることで、離型剤との適度な相溶性を有し、得られる樹脂組成物の連続成形性を優れたものとすることができる。具体的には、式(2A)で表されるエポキシ樹脂のエポキシ当量の下限値は、好ましくは150g/eq以上、より好ましくは160g/eq以上、さらに好ましくは170g/eq以上、さらにより好ましくは180g/eq以上である。また、そのエポキシ当量の上限値は、好ましくは400g/ep以下、好ましくは290g/eq以下、より好ましくは285g/ep以下、さらに好ましくは260g/eq以下、さらにより好ましくは240g/eq以下に設定されている。下限値および上限値をかかる範囲内に設定することにより、エポキシ基と水酸基との反応により形成される架橋点が適切な範囲内に設定され、より確実に硬化物の高Tg化を図ることができる。
【0102】
下限値および上限値をかかる範囲内に設定することにより、エポキシ基と水酸基との反応により形成される架橋点が適切な範囲内に設定され、より確実に硬化物の高Tg化を図ることができる。
【0103】
なお、式(1A)の水酸基の50%がグリシジル化されている場合のような低いグリシジル基転化率を有するエポキシ樹脂を用いる場合、エポキシ樹脂中に存在する水酸基が硬化剤の役割を担うことも可能である。
【0104】
(その他の成分)
本発明の樹脂組成物は、フェノール樹脂硬化剤およびエポキシ樹脂に加え、以下に示す成分を含み得る。
【0105】
(無機充填材)
無機充填材は、樹脂組成物の硬化に伴う吸湿量の増加や、強度の低下を低減する機能を有するものであり、当該分野で一般的に用いられる無機充填材を使用することができる。
【0106】
無機充填材としては、例えば、溶融シリカ、球状シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化珪素および窒化アルミ等が挙げられ、これらの無機質充填材は、単独でも混合して使用してもよい。
【0107】
無機充填材の粒径は、金型キャビティへの充填性の観点から、0.01μm以上、150μm以下であることが好ましい。
【0108】
樹脂組成物中における無機充填材の量の下限値は、樹脂組成物の全質量に対して、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは83質量%以上であり、さらに好ましくは85質量%以上である。下限値が上記範囲内であると、得られる樹脂組成物の硬化に伴う吸湿量の増加や、強度の低下が低減でき、したがって良好な耐半田クラック性を有する硬化物を得ることができる。また、相対的に樹脂分が減るため、重量減少率を抑制することができる。
【0109】
また、樹脂組成物中の無機充填材の量の上限値は、樹脂組成物の全質量に対して、好ましくは93質量%以下であり、より好ましくは91質量%以下であり、さらに好ましくは90質量%以下である。上限値が上記範囲内であると、得られる樹脂組成物は良好な流動性を有するとともに、良好な成形性を備える。
【0110】
なお、後述する、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物や、硼酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、三酸化アンチモン等の無機系難燃剤を用いる場合には、これらの無機系難燃剤と上記無機充填材の合計量を上記範囲内とすることが好ましい。
【0111】
(硬化促進剤)
硬化促進剤は、エポキシ樹脂のエポキシ基とフェノール樹脂系硬化剤の水酸基との反応を促進する機能を有するものであり、当該分野で一般に使用される硬化促進剤が用いられる。
【0112】
硬化促進剤の具体例としては、有機ホスフィン、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等のリン原子含有化合物;1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、ベンジルジメチルアミン、2−メチルイミダゾール等が例示されるアミジンや3級アミン、さらには前記アミジン、アミンの4級塩等の窒素原子含有化合物が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、硬化性の観点からはリン原子含有化合物が好ましく、また耐半田性と流動性の観点では、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物が特に好ましく、連続成形における金型の汚染が軽度である点では、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等のリン原子含有化合物は特に好ましい。
【0113】
樹脂組成物で用いることができる有機ホスフィンとしては、例えばエチルホスフィン、フェニルホスフィン等の第1ホスフィン;ジメチルホスフィン、ジフェニルホスフィン等の第2ホスフィン;トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等の第3ホスフィンが挙げられる。
【0114】
樹脂組成物で用いることができるテトラ置換ホスホニウム化合物としては、例えば下記一般式(6)で表される化合物等が挙げられる。
【0115】

(式(6)において、Pはリン原子を表し、R8、R9、R10およびR11は、芳香族基またはアルキル基を表し、Aはヒドロキシル基、カルボキシル基、チオール基から選ばれる少なくとも1つの官能基が結合した芳香環を有する芳香族有機酸のアニオンを表し、AHはヒドロキシル基、カルボキシル基、チオール基から選ばれる少なくとも1つの官能基が結合した芳香環を有する芳香族有機酸を表し、xおよびyは1〜3の数であり、zは0〜3の数であり、かつx=yである。)
【0116】
式(6)で表される化合物は、例えば以下のようにして得られるが、これに限定されるものではない。まず、テトラ置換ホスホニウムハライドと芳香族有機酸と塩基を有機溶剤に混ぜ均一に混合し、その溶液系内に芳香族有機酸アニオンを発生させる。次いで水を加えると、式(6)で表される化合物を沈殿させることができる。式(6)で表される化合物において、リン原子に結合するR8、R9、R10およびR11がフェニル基であり、かつAHはヒドロキシル基を芳香環に有する化合物、すなわちフェノール類であり、かつAは該フェノール類のアニオンであるのが好ましい。本発明における前記フェノール類とは、フェノール、クレゾール、レゾルシン、カテコールなどの単環式フェノール類、ナフトール、ジヒドロキシナフタレン、アントラキノールなどの縮合多環式フェノール類、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールSなどのビスフェノール類、フェニルフェノール、ビフェノールなどの多環式フェノール類などが例示される。
【0117】
ホスホベタイン化合物としては、例えば、式(7)で表される化合物等が挙げられる。
【0118】

(式(7)において、X1は炭素数1〜3のアルキル基を表し、Y1はヒドロキシル基を表し、eは0〜5の整数であり、fは0〜3の整数である。)
【0119】
式(7)で表される化合物は、例えば以下のようにして得られる。まず、第三ホスフィンであるトリ芳香族置換ホスフィンとジアゾニウム塩とを接触させ、トリ芳香族置換ホスフィンとジアゾニウム塩が有するジアゾニウム基とを置換させる工程を経て得られる。しかしこれに限定されるものではない。
【0120】
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物としては、例えば、式(8)で表される化合物等が挙げられる。
【0121】

(式(8)において、Pはリン原子を表し、R12、R13およびR14は炭素数1〜12のアルキル基または炭素数6〜12のアリール基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよく、R15、R16およびR17は水素原子または炭素数1〜12の炭化水素基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよく、またはR15とR16が結合して環式基を形成してもよい。)
【0122】
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物に用いるホスフィン化合物としては、例えばトリフェニルホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、トリナフチルホスフィン、トリス(ベンジル)ホスフィン等の芳香環に無置換またはアルキル基、アルコキシル基等の置換基が存在するものが好ましく、アルキル基、アルコキシル基等の置換基としては1〜6の炭素数を有するものが挙げられる。入手しやすさの観点からはトリフェニルホスフィンが好ましい。
【0123】
またホスフィン化合物とキノン化合物との付加物に用いるキノン化合物としては、o−ベンゾキノン、p−ベンゾキノン、アントラキノン類が挙げられ、中でもp−ベンゾキノンが保存安定性の点から好ましい。
【0124】
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物の製造方法としては、有機第三ホスフィンとベンゾキノン類の両者が溶解することができる溶媒中で接触、混合させることにより付加物を得ることができる。溶媒としてはアセトンやメチルエチルケトン等のケトン類で付加物への溶解性が低いものがよい。しかしこれに限定されるものではない。
【0125】
式(8)で表される化合物において、リン原子に結合するR12、R13およびR14がフェニル基であり、かつR15、R16およびR17が水素原子である化合物、すなわち1,4−ベンゾキノンとトリフェニルホスフィンを付加させた化合物は、樹脂組成物の硬化物の熱時弾性率を低下させる点で好ましい。
【0126】
ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物としては、例えば式(9)で表される化合物等が挙げられる。
【0127】

(式(9)において、Pはリン原子を表し、Siは珪素原子を表し、R18、R19、R20およびR21は、それぞれ、芳香環または複素環を有する有機基、あるいは脂肪族基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよく、X2は、基Y2およびY3と結合する有機基であり、X3は、基Y4およびY5と結合する有機基であり、Y2およびY3は、プロトン供与性基がプロトンを放出してなる基を表し、同一分子内の基Y2およびY3が珪素原子と結合してキレート構造を形成し、Y4およびY5はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基を表し、同一分子内の基Y4およびY5が珪素原子と結合してキレート構造を形成し、X2、およびX3は互いに同一であっても異なっていてもよく、Y2、Y3、Y4、およびY5は互いに同一であっても異なっていてもよく、Z1は芳香環または複素環を有する有機基、あるいは脂肪族基である。)
【0128】
式(9)において、R18、R19、R20およびR21としては、例えば、フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ナフチル基、ヒドロキシナフチル基、ベンジル基、メチル基、エチル基、n−ブチル基、n−オクチル基およびシクロヘキシル基等が挙げられ、これらの中でも、フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ヒドロキシナフチル基等の置換基を有する芳香族基もしくは無置換の芳香族基がより好ましい。
【0129】
また、式(9)において、X2は、Y2およびY3と結合する有機基である。同様に、X3は、基Y4およびY5と結合する有機基である。Y2およびY3はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内の基Y2およびY3が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。同様にY4およびY5はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内の基Y4およびY5が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。基X2およびX3は互いに同一であっても異なっていてもよく、基Y2、Y3、Y4、およびY5は互いに同一であっても異なっていてもよい。このような式(9)中の−Y2−X2−Y3−、およびY4−X3−Y5−で表される基は、プロトン供与体が、プロトンを2個放出してなる基で構成されるものであり、プロトン供与体としては、分子内にカルボキシル基、または水酸基を少なくとも2個有する有機酸が好ましく、さらには隣接する芳香環を構成する炭素にカルボキシル基または水酸基を少なくとも2個有する芳香族化合物が好ましく、芳香環を構成する炭素に水酸基を少なくとも2個有する芳香族化合物がより好ましく、例えば、カテコール、ピロガロール、1,2−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、2,2'−ビフェノール、1,1'−ビ−2−ナフトール、サリチル酸、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、クロラニル酸、タンニン酸、2−ヒドロキシベンジルアルコール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,2−プロパンジオールおよびグリセリン等が挙げられるが、これらの中でも、カテコール、1,2−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレンがより好ましい。
【0130】
また、式(9)中のZ1は、芳香環または複素環を有する有機基または脂肪族基を表し、これらの具体的な例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基およびオクチル基等の脂肪族炭化水素基や、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基およびビフェニル基等の芳香族炭化水素基、グリシジルオキシプロピル基、メルカプトプロピル基、アミノプロピル基およびビニル基等の反応性置換基等が挙げられるが、これらの中でも、メチル基、エチル基、フェニル基、ナフチル基およびビフェニル基が熱安定性の面から、より好ましい。
【0131】
ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物の製造方法としては、メタノールを入れたフラスコに、フェニルトリメトキシシラン等のシラン化合物、2,3−ジヒドロキシナフタレン等のプロトン供与体を加えて溶かし、次に室温攪拌下ナトリウムメトキシド−メタノール溶液を滴下する。さらにそこへ予め用意したテトラフェニルホスホニウムブロマイド等のテトラ置換ホスホニウムハライドをメタノールに溶かした溶液を室温攪拌下滴下すると結晶が析出する。析出した結晶を濾過、水洗、真空乾燥すると、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物が得られる。しかし、これに限定されるものではない。
【0132】
本発明の好ましい硬化促進剤としては、式(6)〜(9)で表される化合物があるが、重量減少率抑制、および成形性の確保の観点から、かかる化合物を用いることにより、硬化促進作用がより高温で発現し、その後すばやく硬化させることができる。ここで、硬化促進作用が低温で発現しないということは、樹脂が溶融している状態、すなわち低粘度の状態が長時間保たれることになり、流動性が改善されることになる。また、前述の通り、重量減少の観点から、無機充填材の充填量を高くし、熱分解を起こす樹脂分の量を減らすことが、本発明には有効であるが、無機充填材を高充填にすると増粘してしまうため、硬化促進作用がより高温で発現する硬化促進剤が本発明の樹脂組成物を設計する上で有効である。
【0133】
換言すれば、式(6)〜(9)で表される化合物を硬化促進剤として用いることにより、無機充填材の充填量を上げつつ、樹脂組成物の溶融時における増粘を抑制または防止することが可能となるため、重量減少率を抑える設計が可能である。
【0134】
硬化促進剤の配合割合は、全樹脂組成物中0.1質量%以上、1質量%以下であることがより好ましい。硬化促進剤の配合割合が上記範囲内であると、充分な硬化性を得ることができる。また、硬化促進剤の配合割合が上記範囲内であると、充分な流動性を得ることができる。
【0135】
(芳香環を構成する2個以上の隣接する炭素原子にそれぞれ水酸基が結合した化合物)
芳香環を構成する2個以上の隣接する炭素原子にそれぞれ水酸基が結合した化合物(A)(以下、単に、「化合物(A)」と言うことがある。)は、これを用いることにより、フェノール樹脂系硬化剤とエポキシ樹脂との架橋反応を促進させる硬化促進剤として、潜伏性を有しないリン原子含有硬化促進剤を用いた場合であっても、樹脂組成物の溶融混練中での反応を抑えることができる。
【0136】
かかる化合物(A)が含まれることにより、より高せん断条件下での封止材の形成が可能となり、樹脂組成物の流動特性向上、および連続成形におけるパッケージ表面離型成分の浮き出し、あるいは金型表面の離型成分の蓄積を抑制することによって金型の清掃サイクルを軽減する効果を有する点で好ましい。
【0137】
また、化合物(A)は、樹脂組成物の溶融粘度を下げ、流動性を向上させる効果があるほか、詳細な機構は不明ながら、耐半田性が向上する効果も有する。
【0138】
化合物(A)としては、式(10)で表される単環式化合物または式(11)で表される多環式化合物等を用いることができ、これらの化合物は水酸基以外の置換基を有していてもよい。
【0139】

(式(10)において、R22およびR26はどちらか一方が水酸基であり、一方が水酸基のとき、他方は水素原子、水酸基または水酸基以外の置換基であり、R23、R24およびR25は水素原子、水酸基または水酸基以外の置換基である。)
【0140】

(式(11)において、R27およびR33はどちらか一方が水酸基であり、一方が水酸基のとき、他方は水素原子、水酸基または水酸基以外の置換基であり、R28、R29、R30、R31およびR32は水素原子、水酸基または水酸基以外の置換基である。)
【0141】
式(10)で表される単環式化合物の具体例としては、例えば、カテコール、ピロガロール、没食子酸、没食子酸エステルまたはこれらの誘導体が挙げられる。
【0142】
式(11)で表される多環式化合物の具体例としては、例えば、1,2−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレンおよびこれらの誘導体が挙げられる。これらのうち、流動性と硬化性の制御のしやすさから、芳香環を構成する2個の隣接する炭素原子にそれぞれ水酸基が結合した化合物が好ましい。また、混練工程での揮発を考慮した場合、母核は低揮発性で秤量安定性の高いナフタレン環である化合物とすることがより好ましい。この場合、化合物(A)を、具体的には、例えば、1,2−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレンおよびその誘導体等のナフタレン環を有する化合物とすることができる。これらの化合物(A)は1種類を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0143】
かかる化合物(A)の配合割合は、全樹脂組成物中に0.01質量%以上、1質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.03質量%以上、0.8質量%以下、特に好ましくは0.05質量%以上、0.5質量%以下である。化合物(A)の配合割合の下限値が上記範囲内であると、樹脂組成物の充分な低粘度化および流動性向上効果を得ることができる。また、化合物(A)の配合割合の上限値が上記範囲内であると、樹脂組成物の硬化性の低下や硬化物物性の低下を引き起こすおそれが少ない。
【0144】
(カップリング剤)
カップリング剤は、樹脂組成物中に無機充填材が含まれる場合に、エポキシ樹脂と無機充填材との密着性を向上させる機能を有するものであり、例えば、シランカップリング剤等が用いられる。
【0145】
シランカップリング剤としては、各種のものを用いることができるが、アミノシランを用いるのが好ましい。これにより、樹脂組成物の流動性および耐半田性を向上させることができる。
【0146】
アミノシランとしては、特に限定されないが、例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニルγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニルγ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−6−(アミノヘキシル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(3−(トリメトキシシリルプロピル)−1,3−ベンゼンジメタナミン等が挙げられる。
【0147】
ところで、アミノシランは密着性に優れるものの、樹脂組成物中の無機充填材やエポキシ樹脂のエポキシ基と比較的低温で反応、結合するために、金属表面と充分密着、結合を形成できない場合がある。しかるに、カップリング剤として第二級アミン構造を有するシランカップリング剤を用いた場合には、流動性および耐半田性をより高いレベルでバランスさせることができる。その理由として、フェノール樹脂系硬化剤中の二価ヒドロキシフェニレン構造は、酸性であることから、より塩基性が高い第二級アミンである第二級アミン構造を有するシランカップリング剤と併用することで、酸−塩基相互作用を形成し、両者が互いにキャッピング効果を発現していることが推測される。
【0148】
すなわち、このキャッピング効果によって、第二級アミン構造を有するシランカップリング剤とエポキシ樹脂、およびフェノール樹脂系硬化剤とエポキシ基との反応が遅延し、樹脂組成物の見掛けの流動性が向上し、一方の第二級アミン構造を有するシランカップリング剤は、より金属表面と吸着、結合することができるものと考えられる。
【0149】
第二級アミン構造を有するシランカップリング剤としては、特に限定されないが、例えば、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニルγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニルγ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−6−(アミノヘキシル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(3−(トリメトキシシリルプロピル)−1,3−ベンゼンジメタナミン等が挙げられる。これらのなかでも、N−フェニルγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニルγ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(3−(トリメトキシシリルプロピル)−1,3−ベンゼンジメタナミン等のフェニル基と第二級アミン構造を有するシランカップリング剤は、流動性に優れ、連続成形時の金型汚れが軽度である点で好ましい。これらのカップリング剤としては、上述のアミノシランは1種類を単独で用いても2種類以上を併用しても、その他のシランカップリング剤と併用してもよい。また、併用できる他のシランカップリング剤の例としては特に限定されるものではないが、エポキシシラン、アミノシラン、ウレイドシラン、メルカプトシラン等が挙げられるが、エポキシ樹脂と無機充填材との間で反応し、エポキシ樹脂と無機充填材の界面強度を向上させるものが好ましい。また、シランカップリング剤は、前述の化合物(A)と併用することで、樹脂組成物の溶融粘度を下げ、流動性を向上させるという化合物(A)の効果を高めることもできるものである。
【0150】
エポキシシランとしては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。また、ウレイドシランとしては、例えば、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が挙げられる。また、アミノシランの1級アミノ部位をケトンまたはアルデヒドを反応させて保護した潜在性アミノシランカップリング剤を用いてもよい。また、メルカプトシランとしては、例えば、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシランのほか、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドのような熱分解することによってメルカプトシランカップリング剤と同様の機能を発現するシランカップリング剤等を用いてもよい。またこれらのシランカップリング剤は予め加水分解反応させたものを配合してもよい。これらのシランカップリング剤は1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
【0151】
アミノシランと併用できる他のシランカップリング剤のうち、シリコンチップ表面のポリイミドや基板表面のソルダーレジスト等の有機部材への密着性という観点ではエポキシシランが好ましく、連続成形性という観点では、メルカプトシランが好ましい。
【0152】
シランカップリング剤等のカップリング剤の配合割合の下限値としては、全樹脂組成物中0.01質量%以上が好ましく、より好ましくは0.05質量%以上、特に好ましくは0.1質量%以上である。シランカップリング剤等のカップリング剤の配合割合の下限値が上記範囲内であれば、エポキシ樹脂と無機充填材との界面強度が低下することがなく、電子装置における良好な耐半田クラック性を得ることができる。また、シランカップリング剤等のカップリング剤の配合割合の上限値としては、全樹脂組成物中1質量%以下が好ましく、より好ましくは0.8質量%以下、特に好ましくは0.6質量%以下である。シランカップリング剤等のカップリング剤の配合割合の上限値が上記範囲内であれば、エポキシ樹脂と無機充填材との界面強度が低下することがなく、装置における良好な耐半田クラック性を得ることができる。また、シランカップリング剤等のカップリング剤の配合割合が上記範囲内であれば、樹脂組成物の硬化物の吸水性が増大することがなく、電子装置における良好な耐半田クラック性を得ることができる。
【0153】
(無機難燃剤)
無機難燃剤は、樹脂組成物の難燃性を向上させる機能を有するものであり、一般に使用される無機難燃剤が用いられる。
【0154】
具体的には、燃焼時に脱水、吸熱することによって燃焼反応を阻害する金属水酸化物や、燃焼時間の短縮することができる複合金属水酸化物が好ましく用いられる。
【0155】
金属水酸化物としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化ジルコニアを挙げることができる。
【0156】
複合金属水酸化物としては、2種以上の金属元素を含むハイドロタルサイト化合物であって、少なくとも一つの金属元素がマグネシウムであり、かつ、その他の金属元素がカルシウム、アルミニウム、スズ、チタン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、または亜鉛から選ばれる金属元素であればよく、そのような複合金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム・亜鉛固溶体が市販品で入手が容易である。
【0157】
なかでも、耐半田性と連続成形性のバランスの観点からは水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム・亜鉛固溶体が好ましい。
【0158】
無機難燃剤は、単独で用いても、2種以上用いてもよい。また、連続成形性への影響を低減する目的から、シランカップリング剤等の珪素化合物やワックス等の脂肪族系化合物等で表面処理を行って用いてもよい。
【0159】
なお、本発明では前記無機難燃剤を使用することは差し支えないが、好ましくは無機難燃剤を125℃で20時間乾燥処理し、デシケータ−内で冷却後の重量を初期重量として、200℃の高温槽に前記無機難燃剤を投入し、1000時間加熱処理、デシケータ内で冷却後の重量を処理後重量とした場合の初期重量に対する処理後の重量減少率が0.1重量%以上である難燃剤を使用しないことが好ましく、さらには無機難燃剤を使用せず、難燃性を有するレジンのみで樹脂組成物を構成することが望ましい。
【0160】
すなわち、本発明の樹脂組成物において、必須成分として含まれる上記一般式(1A)で表されるフェノール樹脂系硬化剤と、上記一般式(2A)で表されるエポキシ樹脂とは、ともに、難燃作用のあるビフェニル骨格を有することから高い難燃性を有し、難燃剤としての機能をも有している。そのため、200℃以上の高温下で水を放出し、その結果、硬化物の重量減少率の増加を招く可能性のある金属水酸化物系難燃剤の配合を省略したとしても、難燃剤を添加した場合と同様の特性を、樹脂組成物に付与することができる。
【0161】
また、上述したその他の成分以外に、カーボンブラック、ベンガラ、酸化チタン等の着色剤;カルナバワックス等の天然ワックス、ポリエチレンワックス等の合成ワックス、ステアリン酸やステアリン酸亜鉛等の高級脂肪酸およびその金属塩類もしくはパラフィン等の離型剤;シリコーンオイル、シリコーンゴム等の低応力添加剤を適宜配合してもよい。
【0162】
なお、上述したような本発明の樹脂組成物は、フェノール樹脂系硬化剤、エポキシ樹脂、さらにはその他の成分を、例えば、ミキサー等を用いて常温でそれぞれ均一に混合し、その後、必要に応じて、加熱ロール、ニーダーまたは押出機等の混練機を用いて溶融混練し、続いて必要に応じて冷却、粉砕することにより、所望の分散度や流動性等に調整することができる。
【0163】
また、本実施形態では、本発明の電子装置を、前記説明等で述べた場合に限定されず、各種の形態の半導体パッケージに適用することができ、例えば、デュアル・インライン・パッケージ(DIP)、プラスチック・リード付きチップ・キャリヤ(PLCC)、クワッド・フラット・パッケージ(QFP)、ロー・プロファイル・クワッド・フラット・パッケージ(LQFP)、スモール・アウトライン・パッケージ(SOP)、スモール・アウトライン・Jリード・パッケージ(SOJ)、薄型スモール・アウトライン・パッケージ(TSOP)、薄型クワッド・フラット・パッケージ(TQFP)、テープ・キャリア・パッケージ(TCP)、ボール・グリッド・アレイ(BGA)、チップ・サイズ・パッケージ(CSP)、マトリクス・アレイ・パッケージ・ボール・グリッド・アレイ(MAPBGA)、チップ・スタックド・チップ・サイズ・パッケージ等のメモリやロジック系素子に適用されるパッケージのみでなく、パワートランジスタなどのパワー系素子を搭載するTO−220等のパッケージにも好ましく適用することができる。
【0164】
本発明の樹脂組成物は、上記のフェノール樹脂硬化剤およびエポキシ樹脂、ならびに必要に応じて上記のその他の成分を、当該分野で通常用いられる方法により混合することにより得ることができる。
【0165】
このようにして得られる本発明の樹脂組成物は、その硬化物のガラス転移温度(Tg)が、200℃以上である。また、この硬化物を、大気雰囲気下、200℃で1000時間加熱したときの重量減少率が、0.3%以下、好ましくは0.2%以下である。
【0166】
本発明の一実施形態において、上記樹脂組成物は、高化式粘度測定装置(島津製作所株式会社製、CFT500)を用いて、ノズル径0.5mmφ、長さ1mmのノズルを使用して、測定温度125℃、荷重40kgで測定した際の、高化式粘度が、1Pa・s以上、14Pa・s以下、好ましくは、2Pa・s以上、13Pa・s以下である。高化式粘度が上記範囲内であることにより、樹脂組成物を電子部品の封止に用いた場合、その低温成形性に優れる。
【0167】
本発明の一実施形態において、上記樹脂組成物の硬化物の、260℃における曲げ弾性率は、1500N/mm以上、2500N/mm以下であり、より好ましくは、1600N/mm以上、2400N/mm以下である。曲げ弾性率が上記範囲内であることにより、硬化物の熱応力を小さくすることができる。
【0168】
本発明の一実施形態において、上記樹脂組成物の吸水率は、0.1%以上、0.35%以下である。吸水率が上記範囲内であることにより、樹脂組成物を電子部品の封止に用いた場合、その成形性に優れる。
【0169】
以上、本発明の樹脂組成物および電子装置について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0170】
例えば、本発明の樹脂組成物には、同様の機能を発揮し得る、任意の成分が添加されていてもよい。
【0171】
また、本発明の電子装置の各部の構成は、同様の機能を発揮し得る任意のものと置換することができ、あるいは、任意の構成のものを付加することもできる。
以下参考形態の例を付記する。
1.
フェノール樹脂硬化剤と、エポキシ樹脂とを含み、
前記フェノール樹脂硬化剤が、式(1A)で表されるフェノール樹脂硬化剤であるか、または、前記エポキシ樹脂が、式(2A)で表されるエポキシ樹脂である、封止用樹脂組成物。
(式(1A)中、2つのYは、それぞれ互いに独立して、式(1B)または式(1C)で表されるヒドロキシフェニル基を表し、Xは、式(1D)または式(1E)で表されるヒドロキシフェニレン基を表し、nは0以上の数を表し、nが2以上の場合、2つ以上のXは、それぞれ互いに独立して、同一であっても異なっていてもよい。)
(式(1B)〜(1E)中、RおよびRは、それぞれ互いに独立して、炭素数1〜5の炭化水素基を表し、aは0〜4の整数、bは0〜3の整数、cは0〜3の整数、dは0〜2の整数を表す。)
(式(2A)中、2つのYは、それぞれ互いに独立して、式(2B)または式(2C)で表されるグリシジル化フェニル基を表し、Xは、式(2D)または式(2E)で表されるグリシジル化フェニレン基を表し、nは0以上の数を表し、nが2以上の場合、2つ以上のXは、それぞれ互いに独立して、同一であっても異なっていてもよい。)
(式(2B)〜(2E)中、R、R、R、およびRは、それぞれ互いに独立して、炭素数1〜5の炭化水素基を表し、aは0〜4の整数、bは0〜3の整数、cは0〜3の整数、dは0〜2の整数、e、gはそれぞれ互いに独立して、0または1の整数、f、hはそれぞれ互いに独立して、0〜2の整数を表す。)
2.
前記フェノール樹脂硬化剤が、前記式(1A)で表されるフェノール樹脂硬化剤であり、前記フェノール樹脂硬化剤の水酸基当量が、90g/eq以上、190g/eqである、1.に記載の封止用樹脂組成物。
3.
前記エポキシ樹脂が、前記式(2A)で表されるエポキシ樹脂であり、前記エポキシ樹脂のエポキシ当量が、160g/eq以上、290g/eq以下である、1.に記載の封止用樹脂組成物。
4.
前記エポキシ樹脂が、前記式(2A)で表されるエポキシ樹脂であり、前記エポキシ樹脂が有するグリシジルエーテル基の総数をMとし、前記エポキシ樹脂が有する水酸基の総数をNとしたとき、M/(M+N)の値が0.50以上、0.97以下である、1.〜3.のいずれかひとつに記載の封止用樹脂組成物。
5.
前記フェノール樹脂硬化剤が、前記式(1A)で表されるフェノール樹脂硬化剤であり、前記エポキシ樹脂が、前記式(2A)で表されるエポキシ樹脂である、1.〜4.のいずれかひとつに記載の封止用樹脂組成物。
6.
前記フェノール樹脂硬化剤の前記樹脂組成物中の含有率をA1(質量%)、前記エポキシ樹脂の前記樹脂組成物中の含有率をA2(質量%)としたとき、A1/(A1+A2)の値が、0.2以上、0.9以下である、1.〜5.のいずれかひとつに記載の封止用樹脂組成物。
7.
フェノール樹脂硬化剤と、エポキシ樹脂を含む封止用樹脂組成物であって、
前記封止用樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度(Tg)が、200℃以上であり、前記硬化物の、大気雰囲気下、200℃で1000時間加熱したときの重量減少率が、0.3%以下である、封止用樹脂組成物。
8.
前記フェノール樹脂硬化剤が、式(1A)で表されるフェノール樹脂硬化剤であるか、または、前記エポキシ樹脂が、式(2A)で表されるエポキシ樹脂である、7.に記載の封止用樹脂組成物。
(式(1A)中、2つのYは、それぞれ互いに独立して、式(1B)または式(1C)で表されるヒドロキシフェニル基を表し、Xは、式(1D)または式(1E)で表されるヒドロキシフェニレン基を表し、nは0以上の数を表し、nが2以上の場合、2つ以上のXは、それぞれ互いに独立して、同一であっても異なっていてもよい。)
(式(1B)〜(1E)中、RおよびRは、それぞれ互いに独立して、炭素数1〜5の炭化水素基を表し、aは0〜4の整数、bは0〜3の整数、cは0〜3の整数、dは0〜2の整数を表す。)
(式(2A)中、2つのYは、それぞれ互いに独立して、式(2B)または式(2C)で表されるグリシジル化フェニル基を表し、Xは、式(2D)または式(2E)で表されるグリシジル化フェニレン基を表し、nは0以上の数を表し、nが2以上の場合、2つ以上のXは、それぞれ互いに独立して、同一であっても異なっていてもよい。)
(式(2B)〜(2E)中、R、R、R、およびRは、それぞれ互いに独立して、炭素数1〜5の炭化水素基を表し、aは0〜4の整数、bは0〜3の整数、cは0〜3の整数、dは0〜2の整数、e、gはそれぞれ互いに独立して、0または1の整数、f、hはそれぞれ互いに独立して、0〜2の整数を表す。)
9.
前記フェノール樹脂硬化剤が、前記式(1A)で表されるフェノール樹脂硬化剤であり、前記フェノール樹脂硬化剤の水酸基当量が、90g/eq以上、190g/eq以下である、7.または8.に記載の封止用樹脂組成物。
10.
前記エポキシ樹脂が、前記式(2A)で表されるエポキシ樹脂であり、前記エポキシ樹脂のエポキシ当量が、160g/eq以上、290g/eq以下である、7.〜9.のいずれかひとつに記載の封止用樹脂組成物。
11.
前記エポキシ樹脂が、前記式(2A)で表されるエポキシ樹脂であり、前記エポキシ樹脂が有するグリシジルエーテル基の総数をMとし、前記エポキシ樹脂が有する水酸基の総数をNとしたとき、M/(M+N)の値が0.50以上、0.97以下である、7.〜10.のいずれかひとつに記載の封止用樹脂組成物。
12.
前記フェノール樹脂硬化剤が、前記式(1A)で表されるフェノール樹脂硬化剤であり、前記エポキシ樹脂が、前記式(2A)で表されるエポキシ樹脂である、7.〜11.のいずれかひとつに記載の封止用樹脂組成物。
13.
前記フェノール樹脂硬化剤の前記樹脂組成物中の含有率をA1(質量%)、前記エポキシ樹脂の前記樹脂組成物中の含有率をA2(質量%)としたとき、A1/(A1+A2)の値が、0.2以上、0.9以下である、7.〜12.のいずれかひとつに記載の封止用樹脂組成物。
14.
1Pa・s以上、14Pa・s以下の高化式粘度を有する、1.〜13.のいずれかひとつに記載の封止用樹脂組成物。
15.
前記封止用樹脂組成物の硬化物は、1500N/mm以上、2500N/mm以下の260℃における曲げ弾性率を有する、1.〜14.のいずれかひとつに記載の封止用樹脂組成物。
16.
0.1%以上、0.35%以下の吸水率を有する、1.〜15.のいずれかひとつに記載の封止用樹脂組成物。
17.
1.〜16.のいずれかひとつに記載の封止用樹脂組成物で封止された電子部品を備える、電子装置。
【実施例】
【0172】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
なお、本発明はこれらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0173】
1.原材料の準備
まず、各実施例および各比較例の樹脂組成物で用いた原材料を以下に示す。
なお、特に記載しない限り、各成分の配合量は、質量部とする。
【0174】
(フェノール樹脂硬化剤1;MFBA型フェノールの合成)
セパラブルフラスコに撹拌装置、温度計、還流冷却器、窒素導入口を装着し、1,3−ジヒドロキシベンゼン(東京化成工業社製、「レゾルシノール」、融点111℃、分子量110、純度99.4%)291質量部、フェノール(関東化学社製特級試薬、「フェノール」、融点41℃、分子量94、純度99.3%)235質量部、あらかじめ粒状に砕いた4,4'−ビスクロロメチルビフェニル(和光純薬工業社製、「4,4'−ビスクロロメチルビフェニル」、融点126℃、純度95%、分子量251)125質量部を、セパラブルフラスコに秤量し、窒素置換しながら加熱し、フェノールの溶融の開始に併せて攪拌を開始した。
【0175】
その後、系内温度を110〜130℃の範囲に維持しながら3時間反応させた後、加熱し、140〜160℃の範囲に維持しながら3時間反応させた。
【0176】
なお、上記の反応によって系内に発生した塩酸ガスは、窒素気流によって系外へ排出した。
【0177】
反応終了後、150℃、2mmHgの減圧条件で未反応成分を留去した。次いで、トルエン400質量部を添加し、均一溶解させた後、分液漏斗に移し、蒸留水150質量部を加えて振とうした後に、水層を棄却する操作(水洗)を洗浄水が中性になるまで繰り返し行った後、油層を125℃減圧処理することによってトルエン、残留未反応成分等の揮発成分を留去し、下記式(12A)で表されるフェノール樹脂硬化剤1(重合体)を得た。
なお、このフェノール樹脂硬化剤1における水酸基当量は135であった。
【0178】
また、電界脱離質量分析(Field Desorption Mass Spectrometry;FD−MS)により測定・分析された相対強度比を質量比とみなして算術計算することにより得られた、水酸基が1個の構造単位の繰り返し数kの平均値k0、水酸基が2個の構造単位の繰り返し数mの平均値m0の比k0/m0は、0.98/1であり、数平均分子量は460であった。
【0179】
なお、前記数平均分子量はWaters社製アライアンス(2695セパレーションズモデュール、2414リフラクティブインデックスディテクター、TSKゲルGMHHR−Lx2+TSKガードカラムHHR−Lx1、移動相:THF、0.5ml/分)を用い、カラム温度40.0℃、示差屈折率計温度40.0℃、サンプル注入量100μlの条件にてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により数平均分子量を測定した。
【0180】

(式(12A)中、2つのYは、それぞれ互いに独立して、下記式(12B)または下記式(12C)で表されるヒドロキシフェニル基を表し、Xは、下記式(12D)または下記式(12E)で表されるヒドロキシフェニレン基を表す。)
【0181】
【0182】
(フェノール樹脂硬化剤2;MFBA型フェノールの合成)
前記(フェノール樹脂硬化剤1;MFBA型フェノールの合成)において、レゾルシノールを374質量部、フェノールを141質量部、4,4'−ビスクロロメチルビフェニル100質量部とした以外はすべてフェノール樹脂硬化剤1の合成と同様の操作を行い、式(12A)で表されるフェノール樹脂硬化剤2(重合体)を得た。
なお、このフェノール樹脂硬化剤2における水酸基当量は120であった。
【0183】
また、電界脱離質量分析により測定・分析された相対強度比を質量比とみなして算術計算することにより得られた、水酸基が1個の構造単位の繰り返し数kの平均値k0、水酸基が2個の構造単位の繰り返し数mの平均値m0の比k0/m0は、0.51/1であり、数平均分子量は480であった。
【0184】
(フェノール樹脂硬化剤3;BA型フェノールの準備)
ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂(明和化成株式会社製、MEH−7851SS。水酸基当量203g/eq)を用意した。
【0185】
(フェノール樹脂硬化剤4;TPM型フェノールの準備)
トリフェニルメタン型フェノール樹脂(明和化成株式会社製、MEH−7500。水酸基当量97g/eq)を用意した。
【0186】
(エポキシ樹脂(a−1);MFBA型エポキシの合成)
セパラブルフラスコに撹拌装置、温度計、還流冷却器、窒素導入口を装着し、前述のフェノール樹脂硬化剤1を100質量部、エピクロルヒドリン(東京化成工業株式会社製)300質量部、トルエン50質量部を秤量し、100℃に加熱して溶解させた後、水酸化ナトリウム(固形細粒状、純度99%試薬)45質量部を3時間かけて徐々に添加し、さらに2時間反応させた。次にトルエン200質量部を加えて溶解させた後、蒸留水150質量部を加えて振とうし、水層を棄却する操作(水洗)を洗浄水が中性になるまで繰り返し行った後、油層を125℃、2mmHgの減圧条件でエピクロルヒドリンを留去した。得られた固形物にメチルイソブチルケトン300質量部を加えて溶解し、70℃に加熱し、30質量%水酸化ナトリウム水溶液9.5質量部を1時間かけて添加し、さらに1時間反応した後、静置し、水層を棄却した。油層に蒸留水150質量部を加えて水洗操作を行い、洗浄水が中性になるまで同様の水洗操作を繰り返し行った後、加熱減圧によってメチルイソブチルケトンを留去することによりエポキシ樹脂(a−1)を得た。
【0187】
このエポキシ樹脂(a−1)は、下記式(13A)で表される化合物において、グリシジルエーテル基の一部が水酸基として残存することで、そのエポキシ当量が220g/eqとなっているものであり、かかる点から、M/(M+N)が0.87であることが確認されている。すなわち、原料のフェノール樹脂硬化剤1の水酸基当量135から算出される一般式(13A)で表されるエポキシ樹脂の理論エポキシ当量が191であるため、エポキシ樹脂(a−1)の各重合体が有するグリシジルエーテル基の数の総数をMとし、各重合体が有する水酸基の数の総数をNとしたときのM/(M+N)が0.87となることが確認されている。また、エポキシ樹脂(a−1)の数平均分子量は530であった。
【0188】
なお、理論エポキシ当量に対するずれ0.13に相当する水酸基が残存していることは、得られたエポキシ樹脂(a−1)を過剰のアセチル化剤で反応させ、NMRで解析したところ、生成したエステルの約13%がフェノール性水酸基に基づくエステルであったことからも裏付けられている。
【0189】

(式(13A)中、2つのYは、それぞれ互いに独立して、下記式(13B)または下記式(13C)で表されるグリシジル化フェニル基を表し、Xは、下記式(13D)または下記式(13E)で表されるグリシジル化フェニレン基を表す。)
【0190】
【0191】
(エポキシ樹脂(a−2);MFBA型エポキシの合成)
フェノール樹脂硬化剤2(120質量部)を用いること以外はエポキシ樹脂(a−1)の手順と同様に合成を行い、エポキシ樹脂(a−2)を得た。
【0192】
このエポキシ樹脂(a−2)は、そのエポキシ当量が190g/eqとなっているものであり、かかる点から、M/(M+N)が0.93であることが確認されている。すなわち、原料のフェノール樹脂硬化剤2の水酸基当量120から算出される一般式(13A)で表されるエポキシ樹脂の理論エポキシ当量が176であるため、エポキシ樹脂(a−2)のM/(M+N)が0.93となることが確認されている。得られたエポキシ樹脂(a−2)の数平均分子量は650であった。
【0193】
(エポキシ樹脂(a−3);MFBA型エポキシの合成)
セパラブルフラスコに撹拌装置、温度計、還流冷却器、窒素導入口を装着し、前述のフェノール樹脂硬化剤1を100質量部、エピクロルヒドリン(東京化成工業株式会社製)600質量部を秤量し、100℃に加熱して溶解させた後、水酸化ナトリウム(固形細粒状、純度99%試薬)90質量部を4時間かけて徐々に添加し、さらに3時間反応させた。次にトルエン200質量部を加えて溶解させた後、蒸留水150質量部を加えて振とうし、水層を棄却する操作(水洗)を洗浄水が中性になるまで繰り返し行った後、油層を125℃2mmHgの減圧条件でエピクロルヒドリンを留去した。得られた固形物にメチルイソブチルケトン300質量部を加えて溶解し、70℃に加熱し、30質量%水酸化ナトリウム水溶液19質量部を1時間かけて添加し、さらに1時間反応した後、静置し、水層を棄却した。油層に蒸留水150質量部を加えて水洗操作を行い、洗浄水が中性になるまで同様の水洗操作を繰り返し行った後、加熱減圧によってメチルイソブチルケトンを留去することによりエポキシ樹脂(a−3)を得た。
【0194】
このエポキシ樹脂(a−3)は、上記式(13A)で表される化合物において、グリシジルエーテル基の一部が水酸基として残存することで、そのエポキシ当量が193g/eqとなっているものであり、かかる点から、M/(M+N)が0.99であることが確認されている。すなわち、原料のフェノール樹脂硬化剤1の水酸基当量135から算出される一般式(13A)で表されるエポキシ樹脂の理論エポキシ当量が191であるため、エポキシ樹脂(a−3)のM/(M+N)が0.99となることが確認されている。得られたエポキシ樹脂(a−3)の数平均分子量は650であった。
【0195】
(エポキシ樹脂(a−4);BA型エポキシの準備)
ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂型エポキシ樹脂(日本化薬株式会社製、NC3000。エポキシ当量276g/eq)を用意した。
【0196】
(エポキシ樹脂(a−5);TPM型エポキシの準備)
トリフェニルメタン型エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製、1032H−60。エポキシ当量171g/eq)を用意した。
【0197】
(エポキシ樹脂(b−1);MFBA型エポキシの合成)
セパラブルフラスコに撹拌装置、温度計、還流冷却器、窒素導入口を装着し、前述のフェノール樹脂硬化剤1を100質量部、エピクロルヒドリン(東京化成工業株式会社製)400質量部を秤量し、100℃に加熱して溶解させた後、水酸化ナトリウム(固形細粒状、純度99%試薬)60質量部を4時間かけて徐々に添加し、さらに3時間反応させた。次にトルエン200質量部を加えて溶解させた後、蒸留水150質量部を加えて振とうし、水層を棄却する操作(水洗)を洗浄水が中性になるまで繰り返し行った後、油層を125℃2mmHgの減圧条件でエピクロルヒドリンを留去した。得られた固形物にメチルイソブチルケトン300質量部を加えて溶解し、70℃に加熱し、30質量%水酸化ナトリウム水溶液13質量部を1時間かけて添加し、さらに1時間反応した後、静置し、水層を棄却した。油層に蒸留水150質量部を加えて水洗操作を行い、洗浄水が中性になるまで同様の水洗操作を繰り返し行った後、加熱減圧によってメチルイソブチルケトンを留去し、下記式(13A)で表される化合物を含むエポキシ樹脂(b−1)(エポキシ当量200g/eq)を得た。エポキシ樹脂(b−1)の数平均分子量は560であった。

(式(13A)中、2つのYは、それぞれ互いに独立して、下記式(13B)または下記式(13C)で表されるグリシジル化フェニル基を表し、Xは、下記式(13D)または下記式(13E)で表されるグリシジル化フェニレン基を表す。)
【0198】
【0199】
(エポキシ樹脂(b−2);MFBA型エポキシの合成)
フェノール樹脂系硬化剤2(120質量部)を用いること以外はエポキシ樹脂(b−1)の手順と同様に合成を行い、上記式(13A)で表される化合物を含むエポキシ樹脂2(エポキシ当量185g/eq)を得た。得られたエポキシ樹脂2の数平均分子量は670であった。
【0200】
(エポキシ樹脂(b−3);BA型エポキシの準備)
ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂型エポキシ樹脂(日本化薬株式会社製、NC3000。エポキシ当量276g/eq)を用意した。
【0201】
(エポキシ樹脂(b−4);TPM型エポキシの準備)
トリフェニルメタン型エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製、1032H−60。エポキシ当量171g/eq)を用意した。
【0202】
(無機充填材1)
無機充填材1としては、溶融球状シリカ(電気化学工業社製「FB560」、平均粒径30μm)を用意した。
【0203】
(無機充填材2)
無機充填材2としては、溶融球状シリカ(アドマテックス社製「SO−25R」、平均粒径0.5μm)を用意した。
【0204】
(硬化促進剤1)
硬化促進剤1としては、トリフェニルホスフィン(ケイアイ化成社製、「PP−360」)を用意した。
【0205】
(硬化促進剤2)
硬化促進剤2としては、下記式(14)で示される硬化促進剤を用意した。
【0206】
【0207】
[硬化促進剤2の合成方法]
メタノール1800gを入れたフラスコに、フェニルトリメトキシシラン249.5g、2,3−ジヒドロキシナフタレン384.0gを加えて溶かし、次に室温攪拌下28%ナトリウムメトキシド−メタノール溶液231.5gを滴下した。さらにそこへ予め用意したテトラフェニルホスホニウムブロマイド503.0gをメタノール600gに溶かした溶液を室温攪拌下滴下すると結晶が析出した。析出した結晶を濾過、水洗、真空乾燥し、桃白色結晶の硬化促進剤2を得た。
【0208】
(シランカップリング剤1)
シランカップリング剤1としては、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−803)を用意した。
【0209】
(無機難燃剤1)
無機難燃剤1としては、水酸化アルミニウム(住友化学株式会社製、CL−303;200℃/1000hrsの重量減少率が0.25%)を用意した。
【0210】
(ワックス)
ワックス(離型剤)としては、カルナバ(日興ファイン社製、「ニッコウカルナバ」、融点83℃)を用意した。
【0211】
(着色剤)
着色剤としては、カーボンブラック(三菱化学社製、「MA600」)を用意した。
【0212】
2.樹脂組成物の製造
[実施例(a−1)]
フェノール樹脂硬化剤1(5.34質量部)、エポキシ樹脂(a−1)(8.71質量部)、無機充填材1(75.00質量部)、無機充填材2(10.00質量部)、硬化促進剤1(0.15質量部)、シランカップリング剤1(0.20質量部)、ワックス(0.30質量部)、着色剤(0.30質量部)をそれぞれ秤量し、これらをミキサーを用いて混合した後、ロールを用いて100℃、5分混練することにより混練物を得た。次いで、この混練物を、冷却後粉砕することで実施例(a−1)の樹脂組成物を得た。
【0213】
[実施例(a−2)〜(a−7)、比較例(c−1)〜(c−2)、比較例(a−1)〜(a−2)]
フェノール樹脂硬化剤、エポキシ樹脂、無機充填材、硬化促進剤の種類および秤量する量を表1に示すように変更したこと以外は前記実施例(a−1)と同様にして、実施例(a−2)〜(a−7)、比較例(c−1)〜(c−2)、比較例(a−1)〜(a−2)の樹脂組成物を得た。
[実施例(b−1)]
フェノール樹脂系硬化剤1(5.66質量部)、エポキシ樹脂(b−1)(8.39質量部)、無機充填材1(75.00質量部)、無機充填材2(10.00質量部)、硬化促進剤1(0.15質量部)、シランカップリング剤1(0.20質量部)、ワックス(0.30質量部)、着色剤(0.30質量部)をそれぞれ秤量し、これらをミキサーを用いて混合した後、表面温度が95℃と25℃の2本ロールを用いて混練することにより混練物を得た。次いで、この混練物を、冷却後粉砕することで実施例(b−1)の樹脂組成物を得た。
【0214】
[実施例(b−2)〜(b−7)、比較例(c−3)、比較例(b−1)〜(b−2)]
フェノール樹脂系硬化剤、エポキシ樹脂、無機充填材、硬化促進剤の種類および秤量する量を表2に示すように変更したこと以外は前記実施例(a−1)と同様にして、実施例(b−2)〜(b−7)、比較例(c−3)、比較例(b−1)〜(b−2)の樹脂組成物を得た。
【0215】
3.評価
得られた各実施例および各比較例の樹脂組成物を、以下の方法で評価した。
【0216】
3−1.スパイラルフロー(SF)の評価
低圧トランスファー成形機(コータキ精機社製、「KTS−15」)を用いて、ANSI/ASTM D 3123−72に準じたスパイラルフロー測定用金型に、175℃、注入圧力6.9MPa、保圧時間120秒の条件で、各実施例および各比較例の樹脂組成物を注入し、流動長を測定し、これをスパイラルフローとした。
【0217】
スパイラルフローは、流動性のパラメータであり、数値が大きい方が、流動性が良好である。単位はcm。SiCまたはGaNパワー半導体パッケージへ適用して、モジュールを封止するためには、60cm以上となっていることが好ましい。
【0218】
3−2.ガラス転移温度(Tg)の評価
各実施例および各比較例の樹脂組成物のガラス転移温度は、JIS K 6911に準じて測定した。
【0219】
すなわち、各実施例および各比較例の樹脂組成物について、トランスファー成形機を用いて、金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間90秒で、80mm×10mm×4mmの試験片を成形し、175℃2時間で後硬化し、動的粘弾性(エーアンドディ社製、「DDV−25GP」)を測定し(昇温速度:5℃/分、周波数:10Hz、荷重:800g)、tanδピーク温度をガラス転移温度として読み取った。
【0220】
3−3.耐燃性の評価
低圧トランスファー成形機(コータキ精機社製、「KTS−30」)を用いて、金型温度175℃、注入時間15秒、硬化時間120秒、注入圧力9.8MPaの条件で、各実施例および各比較例の樹脂組成物を注入成形して、3.2mm厚の耐燃試験片を作製した。
【0221】
得られた耐熱試験片について、UL94垂直法の規格に則り耐燃試験を行った。
なお、表1および表2には、判定後の耐燃ランク(クラス)を示した。
【0222】
3−4.重量減少率の評価
低圧トランスファー成形機(コータキ精機社製、「KTS−30」)を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120sの条件で、各実施例および各比較例の樹脂組成物から、直径50mm、厚さ3mmの円盤状試験片を成形し、175℃で4時間後硬化した。その後、125℃で20時間乾燥処理し、冷却後の重量を初期重量とした。次いで、大気下200℃の高温槽に円盤試験片を投入し、1000時間加熱処理、冷却後の重量を処理後重量とした。
なお、表1および表2には、熱処理前後の重量減少率を百分率で示した。
【0223】
3−5.連続成形性の評価
各実施例および各比較例の樹脂組成物を粉末成型プレス機(玉川マシナリー株式会社製、S−20−A)にて、重量15g、サイズφ18mm×高さ約30mmとなるよう調整し、打錠圧力600Paにて打錠してタブレットを得た。
【0224】
得られたタブレットを装填したタブレット供給マガジンを成形装置内部にセットした。成形には、成形装置として低圧トランスファー自動成形機(第一精工(株)製、GP−ELF)を用いて、金型温度175℃、成形圧力9.8MPa、硬化時間120秒間の条件で、樹脂組成物によりシリコンチップ等を封止して80ピンQFP(Cu製リードフレーム、パッケージ外寸:14mm×20mm×2.0mm厚、パッドサイズ:8.0mm×8.0mm、チップサイズ7.0mm×7.0mm×0.35mm厚)を得る成形を、連続で700ショットまで行った。
【0225】
この際、25ショット毎に、金型表面の汚れ状態とパッケージの成形状態(未充填の有無)とを確認し、最初に金型の汚れが確認できたショット数、また金型汚れが発生しなかった場合には○印を表1および表2の「金型表面状態」の項に、最初に未充填が確認できたショット数、また未充填が発生しなかった場合には○印を表1および表2の「充填不良」の項に、それぞれ記載した。
【0226】
なお、金型の表面汚れは、成形した半導体装置の表面に転写してしまう場合や、未充填の前兆である場合があり、好ましくはない。
【0227】
3−6.高化式粘度の評価
高化式フローテスター((株)島津製作所・製CFT−500)を用いて、125℃、圧力40kgf/cm、キャピラリー径0.5mmの条件で高化式粘度を測定した。単位はPa・s。
【0228】
3−7.曲げ弾性率の評価
低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製、KTS−30)を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒の条件で、樹脂組成物を注入成形し、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの成形物を得た。得られた成形物を、後硬化として175℃で4時間加熱処理したものを試験片とし、熱時曲げ弾性率をJIS K 6911に準じて260℃の雰囲気温度下で測定した。単位はN/mm
【0229】
3−8.吸水率の評価
低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製、KTS−30)を用いて、金型温度175℃、注入圧力7.4MP、硬化時間120秒の条件で、樹脂組成物を注入成形して直径50mm、厚さ3mmの試験片を作製し、175℃で4時間後硬化した。その後、得られた試験片を85℃、相対湿度85の環境下で168時間加湿処理し、加湿処理前後の重量変化を測定し吸湿率を求めた。単位は%(質量%)。

【0230】
以上のようにして得られた各実施例、比較例の樹脂組成物における評価結果を、それぞれ、下記の表1および表2に示す。
【0231】
実施例(a−2)〜(a−7)、比較例(c−1)〜(c−2)、比較例(a−1)〜(a−2)について、表1に示したように、各実施例(a−1)〜(a−7)では、硬化物の耐燃性および流動性の特性を維持しつつ、硬化物のガラス転移温度(Tg)の向上および重量減少率の低下、さらには優れた連続成形性の並立を実現することができた。
【0232】
また硬化促進剤として前記一般式(6)〜(9)で表される化合物の事例の1つである硬化促進剤2を用いた実施例(a−2)〜(a−7)では流動性、成形性がさらに優れることもわかった。
【0233】
これに対して、比較例(a−1)では、Tgが200℃より遥かに低く、比較例(c−1)ではTg、重量減少率が実施例に比べ劣るものであり、比較例(a−2)では耐燃性、重量減少率、流動性、連続成形性が劣るものであり、比較例(c−2)は本発明の特徴である、グリシジルエーテル基の数の総数をMとし、各重合体が有する水酸基の数の総数をNとしたときのM/(M+N)が0.97を超えている事例であり、連続成形性が実施例に比べ劣るものである。いずれも本発明の特徴であるSiCやGaNなどの半導体素子を搭載したパッケージの半導体封止材として好適な「高温下でも樹脂の劣化を生じにくいため長時間動作を可能とする」という特徴が得られないものや連続成形性が劣るものである。
【0234】
実施例(b−2)〜(b−7)、比較例(c−3)、比較例(b−1)〜(b−2)について、表2に示したように、各実施例(b−1)〜(b−7)では、硬化物の耐燃性および成形性特に連続成形性の中でも充填性の特性を維持しつつ、硬化物のガラス転移温度(Tg)の向上および重量減少率の低下の双方を実現することができた。
【0235】
これに対して、比較例(b−1)では、Tgが200℃より遥かに低く、比較例(c−3)ではTg、重量減少率が実施例に比べ劣るものであり、比較例(b−2)では耐燃性、重量減少率、流動性、連続成形性が劣るものであり、いずれも本発明の特徴であるSiCやGaNなどの半導体素子を搭載したパッケージの半導体封止材として好適な「高温下でも樹脂の劣化を生じにくいため長時間動作を可能とする」という特徴が得られないものである。
図1