特許第6102918号(P6102918)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6102918
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】導電性ポリイミドフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/08 20060101AFI20170316BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20170316BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20170316BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20170316BHJP
   H01B 1/24 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
   C08L79/08 Z
   C08K3/04
   C08G73/10
   C08J5/18CFG
   H01B1/24 B
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-511230(P2014-511230)
(86)(22)【出願日】2013年4月17日
(86)【国際出願番号】JP2013061360
(87)【国際公開番号】WO2013157568
(87)【国際公開日】20131024
【審査請求日】2016年2月24日
(31)【優先権主張番号】特願2012-96654(P2012-96654)
(32)【優先日】2012年4月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】小川 紘平
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼田 正美
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 卓
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−181833(JP,A)
【文献】 特開2011−065020(JP,A)
【文献】 特開2008−225181(JP,A)
【文献】 特開2005−206616(JP,A)
【文献】 特開2007−063492(JP,A)
【文献】 特開平03−157428(JP,A)
【文献】 特開2004−131659(JP,A)
【文献】 特開平08−143665(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 79/08
C08G 73/10−73/16
C08K 3/04
C08J 5/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電付与剤とポリイミド樹脂を含有する導電性ポリイミドフィルムの製造方法において、
(A)3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4'−オキシジアニリン、並びに、
3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物および/またはp−フェニレンジアミンを含む、
テトラカルボン酸二無水物およびジアミン化合物を反応させてなるポリアミド酸、
(B)導電付与剤、および、
(C)ジアルキルピリジンと、ポリアミド酸中のアミド酸1モルに対し0.1〜1.6モル当量の無水酢酸とを含むイミド化促進剤
を含有する塗膜を乾燥およびイミド化することを特徴とする、
導電性ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項2】
テトラカルボン酸二無水物100モル%において、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が10〜100モル%、および、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物が0〜90モル%含有され、
ジアミン化合物100モル%において、4,4'−オキシジアニリンが50〜100モル%、および、p−フェニレンジアミンが0〜50モル%含有される、
請求項1に記載の導電性ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項3】
(B)導電付与剤が炭素系導電性粒子を含む、請求項1乃至2のいずれかに記載の導電性ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項4】
(B)導電付与剤が(A)ポリアミド酸100重量部に対して1〜50重量部含まれる、請求項1乃至3のいずれかに記載の導電性ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項5】
(C)イミド化促進剤のジアルキルピリジンの使用量が、(A)ポリアミド酸中のアミド酸1モルに対し0.1〜4.0モル当量の範囲内である、請求項1乃至4のいずれかに記載の導電性ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項6】
導電性ポリイミドフィルムの厚みが1〜100μmの範囲である、請求項1乃至5のいずれかに記載の導電性ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項7】
導電性ポリイミドフィルムは、厚み方向の体積抵抗率が1.0×10-1〜1.0×102Ωcmの範囲内、および/または、表面抵抗率が1.0×101〜1.0×104Ω/□の範囲内である、請求項1乃至6のいずれかに記載の導電性ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項8】
導電性ポリイミドフィルムは、引裂伝播抵抗が130〜250g/mmの範囲内である、請求項1乃至7のいずれかに記載の導電性ポリイミドフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性ポリイミドフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムは、高い機械的強度、耐熱性、耐薬品性等の理由から航空宇宙分野から電子材料分野まで幅広い分野において実用化されている。また、そのポリイミドフィルムに導電性を付与した導電性ポリイミドフィルムは、金属系電子材料の代替材料として有用であり、特に電磁シールド材、静電吸着用フィルム、帯電防止剤、画像形成装置部品、電池の電極用材料、電子デバイスなどに好適に使用され得る。また、上記使用用途に長期にわたって応えるためには、導電性ポリイミドフィルムは少なくとも電気特性、ならびに、機械特性に優れていることが求められる。
【0003】
導電性ポリイミドフィルムは、通常、以下の工程で製造される。
(1)導電付与剤を分散させたポリアミド酸溶液を支持体上に流延し、塗膜を形成する工程、
(2)溶媒の揮散・除去及びイミド化転化を行う工程。
【0004】
従来、極性有機溶媒中にカーボンブラックなどの導電付与剤を分散させた後に、テトラカルボン酸二無水物とジアミン成分を添加し反応させてポリアミド酸溶液とし、これをイミド化させていたが、分散性が低く、導電付与剤の凝集が起こりやすいといった問題がある。
【0005】
そこで、上記工程(2)を実質的に熱のみで行う熱イミド化法に有効な方法が、例えば、特許文献1に開示されている。
【0006】
具体的には、特許文献1では、低分子量のアミン化合物を溶媒に添加し、特定の導電性指標のカーボンブラックを分散させることで、溶媒中でカーボンブラックが分散されたポリアミド酸溶液を製造する方法が提案され、実施例では熱イミド化させて半導電性ポリイミドベルトを得ている。
【0007】
しかし、熱イミド化法はポリイミドフィルム製造における工程(2)に要する時間が極めて長時間となるため、生産性に劣る傾向がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−302769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一方、化学イミド化法により導電性ポリイミドフィルムを製法する場合には、イミド化や乾燥工程時においてカーボンブラックなどの導電付与剤が再凝集するという化学イミド化法に特有の問題があり、化学イミド化法に適した改良が必要になる。
【0010】
そこで、導電性ポリイミドフィルムを化学イミド化法により製造する方法を検討してきたところ、テトラカルボン酸二無水物およびジアミン化合物として、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4'−オキシジアニリン、並びに、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物および/またはp−フェニレンジアミンを使用すると、化学イミド化法におけるカーボンブラックなどの導電付与剤の再凝集、および、ピンホールの発生が抑制され、所望の電気抵抗率を有する導電性ポリイミドフィルムを製造できる知見を得た。
【0011】
中でも、フィルム強度の点からイミド化促進剤としてイソキノリンを使用するのが好ましいことを見出したものの、イソキノリンはタールの蒸留から生成する副生物であり、生産量に限界があるために大量に必要となった場合、入手が困難となる可能性がある点が量産化の実現には課題となる。
【0012】
そこで、本発明は、フィルム強度と、電気特性に優れた導電性ポリイミドフィルムを生産性よく製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記事情に鑑み、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、特定のテトラカルボン酸二無水物およびジアミン化合物からなるポリアミド酸をジアルキルピリジンと無水酢酸とを含有するイミド化促進剤によりイミド化する方法が有効であることの知見を得た。この方法によれば、得られる導電性ポリイミドフィルムは、カーボンブラックなどの導電付与剤の再凝集とピンホールの発生とが抑制され、所望通りの抵抗率を有するとともに、イソキノリンを使用して得られる導電性ポリイミドフィルムと同等のフィルム強度を有することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、導電付与剤とポリイミド樹脂を含有する導電性ポリイミドフィルムの製造方法において、
(A)3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4'−オキシジアニリン、並びに、
3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物および/またはp−フェニレンジアミンを含む、
テトラカルボン酸二無水物およびジアミン化合物を反応させてなるポリアミド酸、
(B)導電付与剤、および、
(C)ジアルキルピリジンと、ポリアミド酸中のアミド酸1モルに対し0.1〜1.6モル当量の無水酢酸とを含むイミド化促進剤
を含有する塗膜を乾燥およびイミド化することを特徴とする、導電性ポリイミドフィルムの製造方法に関する。
【0015】
本発明の導電性ポリイミドフィルムの製法方法において、上記(A)は、テトラカルボン酸二無水物100モル%において、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が10〜100モル%、および、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物が0〜90モル%含有され、
ジアミン化合物100モル%において、4,4'−オキシジアニリンが50〜100モル%、および、p−フェニレンジアミンが0〜50モル%含有されることが好ましい。
【0016】
本発明の導電性ポリイミドフィルムの製法方法において、上記(B)導電付与剤が炭素系導電性粒子を含むことが好ましい。
【0017】
本発明の導電性ポリイミドフィルムの製法方法において、上記(B)導電付与剤が(A)ポリアミド酸100重量部に対して1〜50重量部含まれることが好ましい。
【0018】
本発明の導電性ポリイミドフィルムの製法方法において、上記(C)イミド化促進剤のジアルキルピリジンの使用量が、上記(A)ポリアミド酸中のアミド酸1モルに対し0.1〜4.0モル当量の範囲内であることが好ましい。
【0019】
本発明の導電性ポリイミドフィルムの製法方法において、導電性ポリイミドフィルムの厚みが1〜100μmの範囲であることが好ましい。
【0020】
本発明の導電性ポリイミドフィルムの製法方法において、導電性ポリイミドフィルムは、厚み方向の体積抵抗率が1.0×10-1〜1.0×102Ωcmの範囲内、および/または、表面抵抗率が1.0×101〜1.0×104Ω/□の範囲内であることが好ましい。
【0021】
本発明の導電性ポリイミドフィルムの製法方法において、導電性ポリイミドフィルムは、引裂伝播抵抗が130〜250g/mm(1.27〜2.45N/mm)の範囲内であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の製造方法によれば、フィルム強度と電気特性に優れた導電性ポリイミドフィルムを生産性よく作製することが出来る。
【0023】
本発明の製法は、所望通りの抵抗率を有する導電性ポリイミドフィルムの量産化に適する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0025】
本発明の製法で使用される(A)ポリアミド酸は、ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物とを反応することによって得られるものであるが、ジアミン化合物およびテトラカルボン酸二無水物として、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物および4,4'−オキシジアニリンを含み、さらに、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物および/またはp−フェニレンジアミンを含むことを特徴とする。
【0026】
本発明の製法においては、ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物の成分として、少なくとも、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4'−オキシジアニリン、並びに、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物および/またはp−フェニレンジアミンが含まれていればよく、本発明の効果を損なわない範囲であれば、これら以外のテトラカルボン酸二無水物および/またはジアミン化合物を併用してポリアミド酸の改質を行っても良い。
【0027】
テトラカルボン酸二無水物には、3,3'、4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物および3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物の他に、例えば、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3',4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4'−オキシフタル酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(4−フェノキシフェニル)プロパンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)及びそれらの類似物などを併用できる。これらの中でも、工業的に入手しやすい点から、ピロメリット酸二無水物、4,4'−オキシフタル酸二無水物、2,3,3',4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(4−フェノキシフェニル)プロパンテトラカルボン酸二無水物を好ましく併用できる。これらは一種のみを使用してもよいが、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
ジアミン化合物には、4,4'−オキシジアニリンおよびp−フェニレンジアミンの他に、例えば、4,4'−ジアミノジフェニルプロパン、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3'−ジクロロベンジジン、3,3'−ジメチルベンジジン、2,2'−ジメチルベンジジン、3,3'−ジメトキシベンジジン、2,2'−ジメトキシベンジジン、4,4'−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3'−ジアミノジフェニルスルホン、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、3,3'−オキシジアニリン、3,4'−オキシジアニリン、1,5−ジアミノナフタレン、4,4'−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4'−ジアミノジフェニルシラン、4,4'−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4'−ジアミノジフェニルN−メチルアミン、4,4'−ジアミノジフェニル N−フェニルアミン、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼン、ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、ビス{4−(3−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、4,4'−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4'−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3'−ジアミノベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン及びそれらの類似物などを使用できる。これらの中でも、工業的に入手しやすい点から、4,4'−ジアミノジフェニルプロパン、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、3,3'−オキシジアニリン、3,4'−オキシジアニリン、1,5−ジアミノナフタレン、4,4'−ジアミノジフェニルシラン、4,4'−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4'−ジアミノジフェニルN−メチルアミン、4,4'−ジアミノジフェニル N−フェニルアミン、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼン、ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、ビス{4−(3−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、4,4'−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4'−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3'−ジアミノベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノンが好ましく併用できる。これらは一種のみを使用してもよいが、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
本発明において、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の含有量は、特に限定されるわけではないが、所望の導電性を有する導電性ポリイミドフィルムが得られる点で、テトラカルボン酸二無水物の全モル数100モル%において10〜100モル%含有されることが好ましく、20〜90モル%含有されることがより好ましく、30〜70モル%含有されることがさらに好ましい。
【0030】
本発明において、4,4'−オキシジアニリンの含有量は、特に限定されるわけではないが、所望の導電性を有する導電性ポリイミドフィルムが得られやすい点で、ジアミン化合物の全モル数100モル%において50〜100モル%含有されることが好ましく、60〜95モル%含有されることがより好ましく、70〜90モル%含有されることがさらに好ましい。
【0031】
本発明において、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物は、p−フェニレンジアミンが含まれる場合は必ずしも含有されなくても良いが、ピンホールの発生が抑制された導電性ポリイミドフィルムが得られやすい点で、含有されることが好ましく、その含有量は、特に限定されるわけではないが、テトラカルボン酸二無水物の全モル数100モル%において90モル%以下含有されることが好ましく、10〜80モル%含有されることがより好ましく、30〜70モル%含有されることがさらに好ましい。
【0032】
本発明において、p−フェニレンジアミンは、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物が含まれる場合は含有されなくても良いが、ピンホールの発生が抑制された導電性ポリイミドフィルムが得られやすい点で、含有されることが好ましく、その含有量は、特に限定されるわけではないが、ジアミン化合物の全モル数100モル%において50モル%以下含有されることが好ましく、5〜40モル%含有されることがより好ましく、5〜30モル%含有されることがさらに好ましい。
【0033】
ポリアミド酸の製造としては公知のあらゆる方法を用いることができ、通常、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物を、実質的等モル量を有機溶媒中に溶解させて、制御された温度条件下で、上記テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物の重合が完了するまで攪拌することによって製造される。
【0034】
ポリアミド酸を合成するための好ましい溶媒は、ポリアミド酸を溶解する溶媒であればいかなるものも用いることができるが、アミド系の極性有機溶媒すなわちN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどであり、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが特に好ましく用い得る。これらは単独で用いても良いし、併用しても良い。
【0035】
さらに、上記溶媒以外の溶媒として、ジメチルスルホキシド、クレゾール、フェノール、キシレノール等のフェノール類、ベンゾニトリル、ジオキサン、ブチロラクトン、キシレン、シクロヘキサン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン等を用いても良く、これらも単独で用いても良いし、併用しても良い。
【0036】
ポリアミド酸溶液は通常5〜35wt%が好ましく、10〜30wt%の濃度で得られることがより好ましい。この範囲の濃度である場合に適当な分子量と溶液粘度を得ることができる。
【0037】
重合方法としてはあらゆる公知の方法およびそれらを組み合わせた方法を用いることができる。すなわち、
1)ジアミン化合物を有機極性溶媒中に溶解し、これと実質的に等モルのテトラカルボン酸二無水物を反応させて重合する方法。
2)テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過小モル量のジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端に酸無水物基を有するプレポリマーを得る。続いて、全工程においてテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物が実質的に等モルとなるようにジアミン化合物を用いて重合させる方法。
3)テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過剰モル量のジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマーを得る。続いてここにジアミン化合物を追加添加後、全工程においてテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物が実質的に等モルとなるようにテトラカルボン酸二無水物を用いて重合する方法。
4)テトラカルボン酸二無水物を有機極性溶媒中に溶解及び/または分散させた後、実質的に等モルとなるようにジアミン化合物を用いて重合させる方法。
5)実質的に等モルのテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物の混合物を有機極性溶媒中で反応させて重合する方法。
などのような方法である。これら方法を単独で用いても良いし、部分的に組み合わせて用いることもできる。
【0038】
また、重合度を上げる目的で、有機酸、もしくは無機酸を反応溶液中に適量添加することが公知であり、本発明においても使用することができる。有機酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等を挙げることができ、無機酸としては、リン酸、炭酸等を挙げることができる。これらは単独で用いても、2種以上併用して用いてよい。
【0039】
重合度を上げるための有機酸もしくは無機酸の添加量は一義的に決まっているわけではないが、たとえば極性有機溶媒100重量部に対して、50重量部以下添加されていれば良く、10重量部以下添加されることがより好ましい。50重量部より多くしても有機酸、もしくは無機酸の添加によるそれ以上の効果が得られないだけでなく、重合したポリアミド酸が分解してしまうことがあり、好ましくない。
【0040】
本発明の製法で使用される(B)導電付与剤は、特に限定されるわけではないが、いわゆるフィラー系導電性樹脂組成物に含有されうる導電性フィラーであれば、公知のものを用いることができ、例えば、アルミニウム粒子、SUS粒子、炭素系導電性粒子、銀粒子、金粒子、銅粒子、チタン粒子、合金粒子などを挙げることができる。これらの中でも、比重が小さく、導電性フィルムの軽量化が容易であるなどの理由で炭素系導電性粒子を好ましく用いることができる。炭素系導電性粒子にはケッチェンブラック、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、カーボンナノチューブなどが挙げられるが、材料そのものの導電性が比較的高く、樹脂に対して少量の添加量で高い導電性が得られやすい点から、特にケッチェンブラックやカーボンナノチューブを好ましく用いることが出来る。
【0041】
導電付与剤は、ポリアミド酸100重量部に対して1〜50重量部含まれることが好ましく、5〜20重量部がより好ましい。1重量部より少ないと導電性が低下し、導電性フィルムとしての機能が損なわれる場合があり、逆に50重量部より多いと得られる導電性フィルムの機械特性が低下し、取り扱いが困難となる場合がある。
【0042】
ポリアミド酸と導電付与剤との複合化、すなわち、導電付与剤を分散させたポリアミド酸溶液の調製は、例えば、
1.重合前または途中に重合反応液に導電付与剤を添加する方法、
2.重合完了後、3本ロールなどを用いて導電付与剤を混錬する方法、
3.導電付与剤を含む分散液を用意し、これをポリアミド酸溶液に混合する方法、
などが挙げられ、いかなる方法を用いてもよい。導電付与剤による製造ラインの汚染を最も小さく抑えられる点から、導電付与剤を含む分散液をポリアミド酸溶液に混合する方法、特に塗膜を製造する直前に混合する方法が好ましい。導電付与剤を含む分散液を用意する場合、ポリアミド酸の重合溶媒と同じ溶媒を用いるのが好ましい。導電付与剤を良好に分散させ、また分散状態を安定化させるために分散剤、増粘剤等をフィルム物性に影響を及ぼさない範囲内で用いてもよい。導電付与剤が凝集を伴わずに安定的に分散させやすい点から、分散剤としてポリイミドの前駆体であるポリアミド酸溶液を少量添加することが好ましい。
【0043】
上記複合化では、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、コロイドミル、ジェットミル、ローラーミルなどを用いることが好ましい。ビーズミル、ボールミル等の方法で流動性のある液体状態になるように分散させると、フィルム化工程において、導電付与剤を分散させたポリアミド酸溶液の取り扱いが良好となる。メディア径は、特に限定されるわけではないが、10mm以下が好ましい。
【0044】
得られる導電性ポリイミドフィルムのすべり性、摺動性、熱伝導性、耐コロナ性、ループスティフネス等のフィルムの諸特性を改善する目的でフィラーを使用してもよい。フィラーとしてはいかなるものを用いても良いが、好ましい例としてはシリカ、酸化チタン、アルミナ、窒化珪素、窒化ホウ素、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、雲母などが挙げられる。
【0045】
フィラーの粒子径は改質すべきフィルム特性と添加するフィラーの種類によって決定されるため、特に限定されるものではないが、一般的には平均粒径が0.05〜100μmが好ましく、より好ましくは0.1〜75μm、更に好ましくは0.1〜50μm、特に好ましくは0.1〜25μmである。粒子径が0.05μmを下回ると改質効果が現れにくい場合があり、一方、100μmを上回ると表面性を大きく損なったり、機械的特性が大きく低下したりする場合がある。
【0046】
フィラーの添加部数についても改質すべきフィルム特性やフィラー粒子径などにより適宜設定できるため特に限定されるものではない。一般的にフィラーの添加量はポリイミド100重量部に対して0.01〜100重量部が好ましく、より好ましくは0.01〜90重量部、更に好ましくは0.02〜80重量部である。フィラー添加量が0.01重量部を下回るとフィラーによる改質効果が現れにくい場合があり、100重量部を上回るとフィルムの機械的特性が大きく損なわれる場合がある。
【0047】
フィラーの添加方法は、上述した複合化・分散方法を同様に適用でき、導電付与剤の複合化・分散時に一緒に添加しても良いし、別途添加しても良い。
【0048】
本発明の製法は、イミド化促進剤を用いる化学イミド化法で上記ポリアミド酸をポリイミドに転化させるため、短時間の乾燥で済み、生産性に優れる。
【0049】
本発明で使用される(C)イミド化促進剤は、触媒としてジアルキルピリジン、および化学脱水剤として無水酢酸を使用することを特徴とする。
【0050】
ジアルキルピリジンとしては、例えば、2,3−ジメチルピリジン、2,4−ジメチルピリジン、2,5−ジメチルピリジン、2,6−ジメチルピリジン、3,4−ジメチルピリジン、3,5−ジメチルピリジン、3,5−ジエチルピリジン、2−メチル−5−エチルピリジンなどが挙げられる。これら化合物は、単独で用いても良いし、2種類以上の混合物として用いてもよい。
【0051】
ジアルキルピリジンの使用量としては、ポリアミド酸中のアミド酸1モルに対し0.1〜4.0モル当量が好ましく、0.3〜3.0モル当量がより好ましく、0.5〜2.0モル当量がさらに好ましい。0.1モル当量より少ないと触媒としての作用が不十分となり、乾燥・焼成過程でフィルム破断、機械特性低下等の問題が生じる場合がある。一方、4.0モル当量より多い場合、イミド化の進行が早くなり、取扱いが困難になる場合がある。
【0052】
本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲で、触媒としてジアルキルピリジン以外の3級アミン化合物を併用してもよい。例えば、キノリン、イソキノリン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン等を使用できる。
【0053】
本発明においては、化学脱水剤に無水酢酸を使用する。
【0054】
無水酢酸の使用量は、ポリアミド酸中のアミド酸1モルに対し、0.1〜1.6モル当量であり、0.2〜1.5モル当量が好ましく、0.3〜1.4モル当量がより好ましく、0.3〜1.3モル当量が更に好ましく、0.3〜0.99モル当量が特に好ましい。0.1モル当量より少ないと化学脱水剤の作用によるイミド化が不十分となり、乾燥・焼成過程でフィルムが破断したり、機械特性が低下する。一方、1.6モル当量より多い場合、イミド化の進行が早くなり取扱いが困難になったり、さらに乾燥・焼成過程でフィルム破断、機械特性低下等の問題が生じたりする。
【0055】
本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲で、化学脱水剤には酸無水物の他に、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物、ハロゲン化低級脂肪族酸無水物等を併用してもよい。
【0056】
本発明に使用される(C)イミド化促進剤は溶剤を含んでいても良い。溶剤にはポリアミド酸溶液に含まれるものと同種であることが好ましい。
【0057】
(A)ポリアミド酸に(C)イミド化促進剤を添加するときのイミド化促進剤の温度は10℃以下が好ましく、5℃以下がより好ましく、0℃以下がさらに好ましい。10℃より高温になると、イミド化の進行が早く、取扱いが困難になる場合がある。
【0058】
本発明の製法は、(A)ポリアミド酸、(B)導電付与剤、(C)イミド化促進剤を含む塗膜を乾燥・イミド化させることで導電性ポリイミドフィルムを形成する。
【0059】
塗膜を形成する塗布法としては、例えばダイコート法、スプレー法、ロールコート法、回転塗布法、バー塗布法、インクジェット法、スクリーン印刷法、スリットコート法などの公知の方法を適宜採用することが出来る。前記のいずれかの塗布法等により金属ドラムや金属ベルト等の支持体上に塗膜し室温から200℃程度の温度で自己支持性乾燥フィルムを得た後、さらにフィルムを固定し、最終温度が600℃程度の温度まで加熱し、導電性ポリイミドフィルムを得る。フィルムの固定は、ピンテンター方式、クリップテンター方式、ロール懸垂方式など公知の方法を適宜採用することが出来、その形態にとらわれない。
【0060】
加熱温度は適宜設定できる。高温ではイミド化が早く進行するため、キュア工程時間が短縮でき、生産性の面で好ましい。但し、温度が高すぎると、熱分解を起こす可能性がある。一方、温度が低すぎると、イミド化が遅く進行するため、キュア工程時間を多く要する。
【0061】
加熱時間に関しては、実質的にイミド化および乾燥が完結するに十分な時間を取ればよく、一義的に限定されるものではないが、一般的には1〜900秒程度の範囲で適宜設定される。
【0062】
本発明の製法は、支持体上における塗膜の厚み、ポリアミド酸の濃度、導電付与剤の重量部数を適宜調整することで導電性ポリイミドフィルムの厚みを適宜設定できる。塗膜の厚みは1〜1000μmが好ましい。1μmより薄いとフィルムの機械的特性が低下する場合があり、1000μmより厚いと支持体上で流動し厚みの制御が困難な場合がある。最終的な導電性ポリイミドフィルムの厚みは1〜100μmが好ましく、5〜50μmであることがより好ましい。1μmより薄いとフィルムの機械的特性が不足する場合があり、100μmより厚いと均一なイミド化および乾燥が困難になりやすく、機械的特性が不均一になったり、発泡等の局所的欠陥が発生しやすくなったりする場合がある。
【0063】
本発明の製法で得られる導電性ポリイミドフィルムは、熱イミド化法によって得られる導電性ポリイミドフィルムと同等の電気抵抗率を実現しつつ、熱イミド化法よりも生産性を大きく向上できる。また、本発明の製法で得られる導電性ポリイミドフィルムは、ピンホールの発生が効果的に抑えられる。発明の製法は、ポリイミドの種類や導電付与剤の種類、添加量などを適宜設定できるため、得られる導電性ポリイミドフィルムの厚み方向の体積抵抗率、および表面抵抗率を所望通りに調整できる。
【0064】
金属系電子材料の代替として有用である点から、導電性ポリイミドフィルムの厚み方向の体積抵抗率は1.0×10-1〜1.0×102Ωcmの範囲内が好ましく、1.0×10-1〜8.0×101Ωcmの範囲内がより好ましく、1.0×10-1〜5.0×101Ωcmの範囲内がさらに好ましい。また、導電性ポリイミドフィルムの表面抵抗率は1.0×101〜1.0×104Ω/□の範囲内が好ましく、1.0×101〜5.0×103Ω/□の範囲内がより好ましく、1.0×101〜3.0×103Ω/□の範囲内がさらに好ましい。
【0065】
本発明の製法によって得られる導電性ポリイミドフィルムは、製膜時におけるフィルム搬送が安定的に行える観点から、引裂伝播抵抗は130g/mm(1.27N/mm)以上が好ましく、132g/mm(1.29N/mm)以上がより好ましく、135g/mm(1.32N/mm)以上がさらに好ましい。
【0066】
本発明の製造方法によれば、金属系電子材料、電磁シールド材、静電吸着用フィルム、帯電防止剤、画像形成装置部品、電池の電極用材料、電子デバイス等において好適な導電性ポリイミドフィルムを安定的に製造、供給することができる。
【実施例】
【0067】
本発明について、実施例および比較例に基づいて効果をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【0068】
実施例および比較例で得られた導電性ポリイミドフィルムの耳強度、体積抵抗率、表面抵抗率、引裂伝播抵抗およびピンホールの発生率は、以下のとおりに測定および評価した。
【0069】
(耳強度)
乾燥時にピン枠に固定したフィルムの端部分を手で引き伸ばした。その端部の強度を耳強度とした。
○:参考例2のフィルム端部と比較して同等以上の強度を有する。
×:参考例2のフィルム端部と比較して脆く、容易に切断する。
【0070】
(体積抵抗率)
得られた導電性ポリイミドフィルムを15mm□のサイズに切り抜き、両面の中央部10mm□の領域に金薄膜をスパッタ法により形成させた。金薄膜にそれぞれ銅箔を1MPaの加圧により密着させ、2つの銅箔の間に電流Iを流したときの、電位Vを測定し、測定値V/Iを体積抵抗率とした。抵抗値の測定にはLCR HiTESTER(3522−50、日置電機社製)を用いた。
【0071】
(表面抵抗率)
測定にはLORESTA−GP(MCP−T610、三菱アナリテック社製)を用い、4探針プローブを得られた導電性ポリイミドフィルム表面に押し当てて表面抵抗率を測定した。
【0072】
(引裂伝播抵抗)
得られた導電性ポリイミドフィルムの引裂伝播抵抗はJIS K 7128 トラウザー引裂法に準じて測定した。
【0073】
(ピンホールの発生率)
製造したフィルムの背面から光源を照射し、フィルムを貫通する光があればピンホールと見なしてカウントした。フィルム0.12m2においてカウントされた個数から1m2あたりのピンホールの平均発生率を算出した。光源にはキセノンライト(ULTRA STINGER、ストリーム社製)を用いた。発生するピンホールの個数が1m2あたり10個以下であれば、ピンホールの発生が抑制されていると判断した。
【0074】
(合成例1)
重合用の有機溶媒として、N,N−ジメチルフォルムアミド(DMF)を用い、テトラカルボン酸二無水物として3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)50モル%および3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)50モル%を、ジアミン化合物として4,4'−オキシジアニリン(ODA)85モル%およびp−フェニレンジアミン(p−PDA)15モル%を使用し、実質的にテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物が等モル%になるよう反応槽に添加して攪拌、重合することによりポリアミド酸溶液を合成した。このとき、得られるポリアミド酸溶液の固形分濃度は15重量%、粘度は300〜400Pa・s(東機産業社製E型粘度形;TVE−22H、測定温度:23℃、ローター:3°×R14、回転数:1rpm、測定時間:120s)となるように合成を行った。
【0075】
得られたポリアミド酸溶液10重量部、ケッチェンブラック(ECP600JD、ライオン株式会社製)1重量部、および、DMF20重量部をボールミルで分散処理を施し、カーボン分散液を得た。分散には5mmφのジルコニア球を用い、回転数600rpmで30分間の処理時間とした。
【0076】
さらに、得られたカーボン分散液100重量部、および、得られたポリアミド酸溶液183重量部を混合し、均一にしてカーボン分散ポリアミド酸溶液を得た。このとき、ポリアミド酸100重量部に対し、ケッチェンブラックは10重量部であった。
【0077】
(比較合成例1)
重合用の有機溶媒として、N,N−ジメチルフォルムアミド(DMF)を用い、テトラカルボン酸二無水物として3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)100モル%を、ジアミン化合物として4,4'−オキシジアニリン(ODA)100モル%を使用し、実質的にテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物が等モル%になるよう反応槽に添加して攪拌、重合することによりポリアミド酸溶液を合成した。このとき、得られるポリアミド酸溶液の固形分濃度は15重量%、粘度は300〜400Pa・s(東機産業社製E型粘度形;TVE−22H、測定温度:23℃、ローター:3°×R14、回転数:1rpm、測定時間:120s)となるように合成を行った。
【0078】
得られたポリアミド酸溶液10重量部、ケッチェンブラック(ECP600JD、ライオン株式会社製)1重量部、および、DMF20重量部をボールミルで分散処理を施し、カーボン分散液を得た。分散には5mmφのジルコニア球を用い、回転数600rpmで30分間の処理時間とした。
【0079】
さらに、得られたカーボン分散液100重量部、および、得られたポリアミド酸溶液183重量部を混合し、均一にしてカーボン分散ポリアミド酸溶液を得た。このとき、ポリアミド酸100重量部に対し、ケッチェンブラックは10重量部であった。
【0080】
(実施例1)
合成例1で得たカーボン分散ポリアミド酸溶液100g(アミド酸を46.1ミリモル含む)に対し、3,5−ジエチルピリジン8.7g(64.3ミリモル)、無水酢酸4.2g(41.1ミリモル、アミド酸1モルに対し0.9モル当量)およびDMF6.7gからなるイミド化促進剤を添加して均一にしたものを、アルミ箔上に最終厚みが25μmになるよう、かつ40cm幅で流延し、120℃で216秒間乾燥を行い、自己支持性フィルムを得た。自己支持性フィルムをアルミ箔から剥離した後、ピンに固定し、250℃で200秒間乾燥し、続けて400℃で64秒間乾燥を行って、導電性ポリイミドフィルムを得た。得られた導電性ポリイミドフィルムの耳強度、体積抵抗率、表面抵抗率、引裂伝播抵抗およびピンホールの発生率を測定した。その結果を表1に示す。
【0081】
(実施例2)
合成例1で得たカーボン分散ポリアミド酸溶液100g(アミド酸を46.1ミリモル含む)に対し、3,5−ジエチルピリジン8.7g(64.3ミリモル)、無水酢酸2.4g(23.0ミリモル、アミド酸1モルに対し0.5モル当量)およびDMF8.5gからなるイミド化促進剤を添加して均一にしたものを、アルミ箔上に最終厚みが25μmになるよう、かつ40cm幅で流延し、120℃で216秒間乾燥を行い、自己支持性フィルムを得た。自己支持性フィルムをアルミ箔から剥離した後、ピンに固定し、250℃で200秒間乾燥し、続けて400℃で64秒間乾燥を行って、導電性ポリイミドフィルムを得た。得られた導電性ポリイミドフィルムの耳強度、体積抵抗率、表面抵抗率、引裂伝播抵抗およびピンホールの発生率を測定した。その結果を表1に示す。
【0082】
(実施例3)
合成例1で得たカーボン分散ポリアミド酸溶液100g(アミド酸を46.1ミリモル含む)に対し、3,5−ジメチルピリジン8.7g(81.2ミリモル)、無水酢酸4.2g(41.1ミリモル、アミド酸1モルに対し0.9モル当量)およびDMF6.7gからなるイミド化促進剤を添加して均一にしたものを、アルミ箔上に最終厚みが25μmになるよう、かつ40cm幅で流延し、120℃で216秒間乾燥を行い、自己支持性フィルムを得た。自己支持性フィルムをアルミ箔から剥離した後、ピンに固定し、250℃で200秒間乾燥し、続けて400℃で64秒間乾燥を行って、導電性ポリイミドフィルムを得た。得られた導電性ポリイミドフィルムの耳強度、体積抵抗率、表面抵抗率、引裂伝播抵抗およびピンホールの発生率を測定した。その結果を表1に示す。
【0083】
(比較例1)
合成例1で得たカーボン分散ポリアミド酸溶液100g(アミド酸を46.1ミリモル含む)に対し、3,5−ジエチルピリジン8.7g(64.3ミリモル)、無水酢酸8.7g(85.2ミリモル、アミド酸1モルに対し1.8モル当量)およびDMF6.7gからなるイミド化促進剤を添加して均一にしたものを、アルミ箔上に最終厚みが25μmになるよう、かつ40cm幅で流延し、120℃で216秒間乾燥を行い、自己支持性フィルムを得た。自己支持性フィルムをアルミ箔から剥離した後、ピンに固定し、250℃で200秒間乾燥し、続けて400℃で64秒間乾燥を行った。ピンに固定した部分のフィルムが一部破断した。
【0084】
(比較例2)
合成例1で得たカーボン分散ポリアミド酸溶液100g(アミド酸を46.1ミリモル含む)に対し、3,5−ジメチルピリジン8.7g(81.2ミリモル)、無水酢酸9.6g(94.0ミリモル、アミド酸1モルに対し2.0モル当量)およびDMF5.0gからなるイミド化促進剤を添加して均一にしたものを、アルミ箔上に最終厚みが25μmになるよう、かつ40cm幅で流延し、120℃で216秒間乾燥を行い、自己支持性フィルムを得た。自己支持性フィルムをアルミ箔から剥離した後、ピンに固定し、250℃で200秒間乾燥し、続けて400℃で64秒間乾燥を行った。ピンに固定した部分のフィルムが一部破断した。
【0085】
(比較例3)
比較合成例1で得たカーボン分散ポリアミド酸溶液100g(アミド酸を46.1ミリモル含む)に対し、3,5−ジエチルピリジン12.4g(91.6ミリモル)、無水酢酸9.3g(91.3ミリモル、アミド酸1モルに対し2.0モル当量)およびDMF7.3gからなるイミド化促進剤を添加して均一にしたものを、アルミ箔上に最終厚みが12.5μmになるよう、かつ40cm幅で流延し、120℃で70秒間乾燥を行い、自己支持性フィルムを得た。自己支持性フィルムをアルミ箔から剥離した後、ピンに固定し、300℃で11秒間乾燥し、続けて450℃で60秒間乾燥を行った。ピンに固定した部分のフィルムが一部破断した。
【0086】
(参考例1)
合成例1で得たカーボン分散ポリアミド酸溶液100g(アミド酸を46.1ミリモル含む)に対し、イソキノリン8.3g(64.3ミリモル)、無水酢酸2.4g(23.0ミリモル、アミド酸1モルに対し0.5モル当量)およびDMF8.7gからなるイミド化促進剤を添加して均一にしたものを、アルミ箔上に最終厚みが25μmになるよう、かつ40cm幅で流延し、120℃で216秒間乾燥を行い、自己支持性フィルムを得た。自己支持性フィルムをアルミ箔から剥離できなかったため、導電性ポリイミドフィルムを得ることができなかった。
【0087】
(参考例2)
合成例1で得たカーボン分散ポリアミド酸溶液100g(アミド酸を46.1ミリモル含む)に対し、イソキノリン8.3g(64.3ミリモル)、無水酢酸8.3g(81.3ミリモル、アミド酸1モルに対し1.8モル当量)およびDMF5.5gからなるイミド化促進剤を添加して均一にしたものを、アルミ箔上に最終厚みが25μmになるよう、かつ40cm幅で流延し、120℃で216秒間乾燥を行い、自己支持性フィルムを得た。自己支持性フィルムをアルミ箔から剥離した後、ピンに固定し、250℃で200秒間乾燥し、続けて400℃で64秒間乾燥を行って、導電性ポリイミドフィルムを得た。得られた導電性ポリイミドフィルムの耳強度、体積抵抗率、表面抵抗率、引裂伝播抵抗およびピンホールの発生率を測定した。その結果を表1に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
表1に示されるとおり、無水酢酸の使用量が本発明の範囲を超える比較例1〜2に比較し、本発明の実施例1〜3で得られる導電性ポリイミドフィルムはフィルム強度に優れることが分かる。
【0090】
テトラカルボン酸二無水物として3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を、ジアミン化合物として4,4'−オキシジアニリンを反応させてなるポリアミド酸を使用した比較例3で得られる導電性ポリイミドフィルムと比較して、本発明の実施例1〜3で得られる導電性ポリイミドフィルムではピンホールの発生が抑制されていることが明らかである。
【0091】
本発明の実施例1〜3では、イミド化促進剤としてイソキノリンを使用した参考例2で得られる導電性のポリイミドフィルムと同等のフィルム強度と電気特性を有し、かつピンホールの発生が抑制された導電性ポリイミドフィルムが得られることが分かる。