(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる半導体装置の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および−は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0025】
(実施の形態1)
まず、実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法により作製(製造)される半導体装置の一例としてトレンチゲート型IGBTの構造について説明する。
図1は、実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法により製造される半導体装置の一例を示す断面図である。
図1の紙面左側には、エミッタ電極7とn
++エミッタ領域3との境界から半導体基板の深さ方向における不純物濃度分布を示す。
図1に示す実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法により製造される半導体装置において、n
-ドリフト層1となる半導体基板の内部には、おもて面側の表面層にpベース領域2が設けられている。
【0026】
pベース領域2の内部には、半導体基板のおもて面に露出するようにn
++エミッタ領域3が設けられている。n
++エミッタ領域3の不純物濃度は、n
-ドリフト層1の不純物濃度よりも高い。n
++エミッタ領域3およびpベース領域2を貫通しn
-ドリフト層1に達するトレンチ4が設けられている。トレンチ4の側壁および底面に沿って、ゲート絶縁膜5が設けられている。トレンチ4の内部には、ゲート絶縁膜5の内側に、トレンチ4に埋め込まれるようにゲート電極6が設けられている。
【0027】
エミッタ電極7は、pベース領域2およびn
++エミッタ領域3に接する。また、エミッタ電極7は、層間絶縁膜8によってゲート電極6と電気的に絶縁されている。また、n
-ドリフト層1となる半導体基板の内部には、裏面側の表面層にp
+コレクタ層9が設けられ、裏面側のp
+コレクタ層9よりも深い領域に第1の半導体層としてのn
+フィールドストップ(FS)層10が設けられている。このn
+フィールドストップ層10は、半導体基板の深さ方向の異なる位置に形成される複数のn
+層10a〜10cからなる。コレクタ電極11は、p
+コレクタ層9に接する。p
+コレクタ層9の不純物濃度は、コレクタ電極11とのオーミックコンタクトが得られる程度に高い。
【0028】
n
+フィールドストップ層10の各n
+層10a〜10cは、それぞれp
+コレクタ層9とほぼ平行となるように、半導体基板の深さ方向に直交する方向に延在する。また、各n
+層10a〜10cは、それぞれ一様な厚さで設けられている。半導体基板の最も裏面側に位置するn
+層10cは、p
+コレクタ層9から離れていてもよいし、p
+コレクタ層9に接していてもよい。n
+フィールドストップ層10の不純物濃度は、n
-ドリフト層1の不純物濃度よりも高い。n
+フィールドストップ層10は、水素誘起ドナーによる半導体層である。この水素誘起ドナーとは、プロトン照射により半導体基板の深さ方向に導入された水素原子とその周囲の空孔・複空孔を含む複合的な格子欠陥から誘起されたドナーのことである。
【0029】
次に、実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法の概論について説明する。
図2は、実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法の概要を示すフローチャートである。
図2に示すように、実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法においては、まず、半導体基板のおもて面に、おもて面電極のコンタクトとなる各半導体領域を形成する(ステップS1)。次に、半導体基板のおもて面におもて面電極を形成する(ステップS2)。次に、半導体基板のおもて面に表面保護膜を形成する(ステップS3)。次に、半導体基板の裏面を研削またはエッチングなどにより除去し、半導体基板の厚さを一様に薄く(薄板化)する(ステップS4)。
【0030】
次に、半導体基板の裏面に、n
+フィールドストップ層を形成するためのプロトン照射を行う(ステップS5)。ステップS5のプロトン照射は、裏面電極とのコンタクトとなる半導体層よりも深い領域に照射可能な程度の照射エネルギーで行う。次に、第1アニールによって、ステップS5で照射されたプロトンを活性化(ドナー化)させる(ステップS6)。ここで活性化とは、水素誘起ドナーを形成する他に、プロトン照射によって半導体基板内に導入された多量の結晶欠陥(結晶の乱れ、ディスオーダー)を低減することも意味している。このディスオーダーの残留は、漏れ電流やオン電圧(導通時の電圧降下)の増加をもたらす。このステップS5およびS6により、半導体基板の内部の裏面側の深い領域に、n
+フィールドストップ層が形成される。ステップS6の第1アニールの温度は、例えばプロトン照射により形成された水素誘起ドナーを減少あるいは消失させない程度の温度であることが好ましい。
【0031】
そして、
図1に示すように、半導体基板の深さ方向に複数のn
+層10a〜10cを形成する場合、半導体基板の裏面側からプロトン照射を行うため、半導体基板の裏面から最も離れた深いpベース領域2に近い側のn
+層10aから順に半導体基板の裏面側へかけてn
+層10bを形成した後、n
+層10cを形成する。
【0032】
この際、ステップS5のプロトン照射とステップS6の第1アニールを一組として、設けるn
+層の数の分だけこれらステップS5,ステップS6を繰り返す。詳細は後述するが、n
+層10a〜10cの深さに対応して、ステップS5におけるプロトン照射の加速電圧は深いほど高く、ステップS6におけるアニール温度は深いほど高くする。ここで、アニール温度が高いほど、ドナー化率は下がる傾向にあるため、半導体基板の裏面からの深さ方向で見て深い位置のn
+層10aを先に形成し、その後、半導体基板の裏面側へかけてn
+層10bを形成してから最も裏面側のn
+層10cを形成する。隣り合うn
+層同士は、接していてもよいし、離れていてもよい。
【0033】
ここで、ドナー化率とは、1つのn
+層において、照射(注入)したプロトンのドーズ量で、n
+層のドーピング濃度をn
+層の幅の範囲で深さ方向に積分した積分濃度を割ったときの割合である。例えば、プロトンのドーズ量が1×10
14/cm
2の場合、1つのn
+層の積分濃度が1×10
13/cm
2であれば、ドナー化率は10%である。また、n
+層の幅とは、例えばn
+層のドーピング濃度がピーク濃度から表面および裏面に向かってそれぞれ減少し、半導体基板のドーピング濃度と同じ値まで外挿したときの2つの交点の間の距離と考えればよい。
【0034】
次に、薄板化された半導体基板の裏面に、裏面電極とのコンタクトとなる半導体層を形成するための不純物イオンをイオン注入する(ステップS7)。ステップS7のイオン注入は、後の工程で形成される裏面電極とのオーミックコンタクトが得られる程度に高いドーズ量で行う。次に、第2アニールによって、ステップS7で注入された不純物イオンを活性化させる(ステップS8)。ステップS8により、半導体基板の内部の裏面側の表面層に、裏面電極とのコンタクトとなる半導体層(例えば、コレクタ層)が形成される。
【0035】
その後、例えばスパッタリングなどの物理気相成長法により半導体基板の裏面に裏面電極を形成し(ステップS9)、実施の形態1にかかる半導体装置が完成する。
【0036】
次に、この実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法について、
図1に示すトレンチゲート型IGBTを作製する場合を例に具体的に説明する。
図3〜
図12は、実施の形態1にかかる製造途中の半導体装置を示す断面図である。まず、
図3に示すように、n
-ドリフト層1となる半導体基板を用意する。次に、
図4に示すように、半導体基板のおもて面に、一般的な方法によりpベース領域2、n
++エミッタ領域3、トレンチ4、ゲート絶縁膜5およびゲート電極6からなるトレンチゲート型のMOS(金属−酸化膜−半導体からなる絶縁ゲート)構造を形成する。
【0037】
次に、
図5に示すように、スパッタリングによって、半導体基板のおもて面にエミッタ電極7となるアルミニウムシリコン(AlSi)膜を堆積する。次に、アルミニウムシリコン膜をパターニングして配線パターンを形成した後、アニールを行う。これにより、半導体基板のおもて面にエミッタ電極7が形成される。次に、エミッタ電極7を覆うように、半導体基板のおもて面に表面保護膜(不図示)となる例えばポリイミド膜を塗布する。次に、ポリイミド膜をパターニングしエミッタ電極7の一部を露出させた後、ポリイミド膜をキュア(焼成)する。次に、半導体基板の裏面を例えば研削して、半導体基板を薄板化した後、半導体基板を洗浄して付着物を除去する。
【0038】
次に、半導体基板のn
-ドリフト層1の深さ方向に複数のn
+層10a〜10cを形成する。はじめに、一つめのn
+層10aを形成する。
図6に示すように、半導体基板の裏面から所定量離れた最も深い領域にプロトン21aを照射する。この際、プロトン照射の加速電圧は、半導体基板の裏面からの深さに応じて最も高い値で行う。例えば、n
+層の裏面からの深さを約100μmとする場合は3MeV、同じく約50μmとする場合は2MeV、同じく約20μmあるいはそれ以下とする場合は1MeV以下、というように決めればよい。
【0039】
例えば、n
+層10aの基板裏面からの深さを60μmとする場合、対応するプロトンの加速エネルギーは2.31MeVである。n
+層10aの基板裏面からの深さは、素子の定格電圧にもよるが、20μm〜100μmが典型的な範囲となる。この深さ範囲に対応するプロトンの加速エネルギーの範囲は、例えば1.17MeV〜3.13MeVである。なお、プロトン照射のドーズ量は、形成するn
+層のピーク濃度などに応じて決めればよい。例えば、プロトン照射のドーズ量は、1×10
11/cm
2以上1×10
15/cm
2以下であってもよい。
【0040】
次に、
図7に示すように、第1アニールによって、照射されたプロトン21aを活性化し、半導体基板の裏面から所定量離れた深い領域にn
+層10aを形成する。この第1アニールのうち、n
+層10aの形成は、半導体基板の裏面からの深さに対応して、形成しようとする複数のn
+層10a〜10cのうち最も高い温度で行う。例えば、400℃とする。これにより、
図7の左側に示すように、半導体基板の表面側のpベース領域2に最も近い側に不純物濃度が高い一つめのn
+層10aが形成される。このように基板裏面から最も深いn
+層10aに必要なアニール温度は、例えば380℃以上450℃以下、好ましくは400℃以上420℃以下である。
【0041】
次に、二つめのn
+層10bを形成する。具体的には、
図8に示すように、半導体基板の裏面から所定量離れ、n
+層10aより浅い領域にプロトン21bを照射する。この際、プロトン照射の加速電圧は、半導体基板の裏面からの深さに応じた値で行い、n
+層10a形成時の加速電圧よりも低い中程度の値で行う。例えば、n
+層10bの基板裏面からの深さを30μmとする場合、対応するプロトンの加速エネルギーは1.5MeVである。n
+層10bの基板裏面からの深さは、素子の定格電圧にもよるが、10μm〜50μmが典型的な範囲となる。この深さ範囲に対応するプロトンの加速エネルギーの範囲は、例えば0.74MeV〜2.07MeVである。
【0042】
次に、
図9に示すように、第1アニールによって、照射されたプロトン21bを活性化し、半導体基板の裏面から所定量離れ、n
+層10aより浅い位置にn
+層10bを形成する。この第1アニールのうち、n
+層10bの形成は、半導体基板の裏面からの深さに対応して、形成しようとする複数のn
+層10a〜10cのうち中程度の温度で行う(n
+層10a形成時のアニール温度以下の温度)。例えば、n
+層10bを形成するためのアニール温度は380℃である。これにより、
図9の左側に示すように、半導体基板のおもて面側のpベース領域2から見てn
+層10aよりさらに離れた領域に不純物濃度が高い二つめのn
+層10bを形成することができる。このように基板裏面から2番目に深いn
+層10bに必要なアニール温度は、例えば350℃以上420℃以下、好ましくは370℃以上390℃以下である。
【0043】
次に、三つめのn
+層10cを形成する。具体的には、
図10に示すように、半導体基板の裏面から所定量離れ、n
+層10bより浅い領域にプロトン21cを照射する。この際、プロトン照射の加速電圧は、半導体基板の裏面からの深さに応じた値で行い、n
+層10b形成時の加速電圧よりも低く、最も低い値で行う。例えば、n
+層10cの基板裏面からの深さを10μmとする場合、対応するプロトンの加速エネルギーは0.74MeVである。n
+層10cの基板裏面からの深さは5μm〜20μmが典型的な範囲となる。このときの加速エネルギーの範囲は、例えば0.45MeV〜1.17MeVである。
【0044】
次に、
図11に示すように、第1アニールによって、照射されたプロトン21cを活性化し、半導体基板の裏面から所定量離れ、n
+層10bより浅い位置にn
+層10cを形成する。この第1アニールのうち、n
+層10cの形成は、半導体基板の裏面からの深さに対応して、形成しようとする複数のn
+層10a〜10cのうち最も低い温度で行う(n
+層10b形成時のアニール温度以下の温度)。例えば、n
+層10cを形成するためのアニール温度は360℃である。これにより、
図11の左側に示すように、半導体基板の表面側のpベース領域2から見てn
+層10bよりさらに離れた領域に不純物濃度が高い三つめのn
+層10cを形成することができる。このように基板裏面から3番目に深い(
図11では基板裏面から最も浅い)n
+層10cに必要なアニール温度は、例えば340℃以上400℃以下、好ましくは350℃以上370℃以下、さらに好ましくは下限値を350℃よりも大きくするものである。
【0045】
上記のように、複数回行う第1アニールは、例えばプロトン照射により形成された水素誘起ドナーを減少もしくは消失させない程度の温度で行うことが好ましい。なお、アニール処理時間は0.5時間〜10時間としてもよい。
【0046】
この後、半導体基板の研削された裏面に、例えばボロンイオン(B
+)などのp型不純物イオンをイオン注入する。そして、
図12に示すように、第2アニールによって、半導体基板の裏面に注入されたp型不純物イオンを活性化し、半導体基板の裏面の表面層にp
+コレクタ層9を形成する。そして、例えばアルミニウムを主成分とする金属でできたコレクタ電極11を形成するための前処理として、シリコン(Si)半導体層とアルミニウム膜とのコンタクト抵抗を小さくするためのフッ化水素(HF)処理を行う。次に、例えばスパッタリングにより、半導体基板の裏面にアルミニウム、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)および金(Au)を順に堆積して、これら4層の金属膜が積層されてなるコレクタ電極11を形成する。次に、コレクタ電極11の表面成形性を改善させるための金属アニールを行う。これにより、
図1に示したトレンチゲート型IGBTが完成する。
【0047】
上記の説明では、プロトン照射と、第1アニールとを組にして、プロトン照射とアニールとを交互に行うこととした。このプロトン照射工程およびアニール工程の組は、n
+フィールドストップ層10が半導体基板の裏面から最も深い位置となる組から順に行った。これに限らず、複数回行われる第1アニールのうち、n
+層10a〜10cの形成に必要なアニール温度が同じ場合には、複数回のプロトン照射後に1回のアニールを行って複数のn
+層を形成するようにしてもよい。例えば、n
+層10b,10cのアニール温度が同じ場合には、n
+層10b,10cについてそれぞれ異なる条件で2回のプロトン照射を行った後、一つの条件(アニール温度)により、まとめて1回のアニールを行ってもよく、この場合、アニール回数を減らすことができ、製造の工程数を減らすことができるようになる。
【0048】
また、第1アニールの一部について、第2アニールと同じ条件(アニール温度)でよい場合には、これら第1アニールの一部と第2アニールとを同時に行うこともできる。ただし、第1アニールおよび第2アニールの温度は、以前に行ったアニール以下の温度で行う。また、複数回行われる第2アニールのうちの最後の第2アニールと金属アニールとが同じアニール温度である場合、第2アニールを金属アニールと同時に行ってもよい。
【0049】
他に、以下のような例えば3つの条件を用いて複数(多段)のn
+層を形成してもよい。一つめの条件は、n
+層が照射面(基板裏面)から深い位置に配置されるほど、1つ当たりのn
+層のプロトンのドーズ量は低め(5×10
12/cm
2〜5×10
13/cm
2)とする点である。ドーズ量を低めに設定することで、加速エネルギーが高いことによる結晶性のダメージを、低ドーズ量により減らすようにする。
【0050】
二つめの条件は、n
+層が照射面に近くなる、すなわちn
+層が浅くなるほど、1つ当たりのn
+層のプロトンのドーズ量は高め(3×10
13/cm
2〜3×10
14/cm
2)とする点である。加速エネルギーが低くなることにより、加速エネルギーが高い場合よりも結晶性へのダメージは小さくなるため、その分プロトンのドーズ量を高くしてもよい。
【0051】
三つめの条件は、照射面に最も近い(最も浅い)n
+層10cの近傍のディスオーダーは、他の基板裏面から深い箇所のn
+層10a,10bに比べて、残留量が高くてもよい点である。ここでディスオーダーの残留量とは、平たく言えばキャリア移動度が結晶の理論値よりも低くなる割合であると考えてよい。pベース領域2とn
-ドリフト層1との間のpn接合から伸びる空乏層は、最も浅いn
+層10cでその伸長を抑えることにより、それ以上深くは広がらなく設計してもよい。これにより、基板裏面から最も浅いn
+層10cよりも基板裏面までの間にディスオーダーが残留していても、漏れ電流への影響を小さくすることができる。また、ゲートがオンの導通時には、基板裏面のp
+コレクタ層9からの正孔の注入効率をディスオーダーにより小さくすることができるため、例えばオン電圧とターンオフ損失とのトレードオフ特性も改善することができる。
【0052】
以上、説明したように、実施の形態1によれば、n
+フィールドストップ層10として、半導体基板の深さ方向に複数の不純物濃度が高いn
+層10a〜10cを形成することにより、これら複数(多段)のn
+層10a〜10cによって、pベース領域2とn
-ドリフト層1との間のpn接合から伸びる空乏層がp
+コレクタ層9に達することを防止する。
【0053】
そして、プロトン照射とアニールとを組とし、プロトン照射とアニールの条件を半導体基板上で形成しようとするn
+層の位置に応じて規定することにより、複数のn
+層の不純物濃度をいずれも高めることができるようになる。このように、複数回のプロトン照射の条件に適合したアニール条件を用いてアニールすることにより、各プロトン照射により形成された各結晶欠陥を回復させ、かつ各キャリア濃度を高くできる。また、漏れ電流増加等の電気特性不良を改善することができるようになる。
【0054】
また、上記のn
+フィールドストップ層10として形成する複数のn
+層10a〜10cの数は、半導体基板厚さや半導体素子の耐圧クラス(あるいは定格電圧)等に応じた数を設けることができる。定格電圧が高いほど半導体基板の厚さを厚くする必要がある。そのため、この半導体基板の厚さを厚くするにしたがって、n
+フィールドストップ層10として形成するn
+層の数を増やすようにしてもよい。例えば、定格電圧が600Vなら1〜3個、同じく1200Vなら2〜4個、同じく1700Vなら3〜5個、同じく3300Vなら4〜6個、などであってもよい。
【0055】
(実施の形態2)
図13は、実施の形態2にかかる半導体装置の製造方法により製造される半導体装置の一例を示す断面図である。実施の形態2にかかる半導体装置の製造方法が実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法と異なる点は、IGBTに代えてダイオードを作製する点である。
【0056】
図13に示す実施の形態2にかかる半導体装置の製造方法により製造される半導体装置において、n
-型の半導体基板31の内部には、おもて面側の表面層にp
+アノード領域32が選択的に設けられている。符号34は層間絶縁膜である。アノード電極(入力電極)33は、p
+アノード領域32に接する。また、n
-型の半導体基板31の内部には、裏面側の表面層にn
+カソード層(第1半導体層)35が設けられ、裏面側のn
+カソード層35よりも深い領域にn
+フィールドストップ層36が設けられている。
【0057】
n
+フィールドストップ層36の構成は、実施の形態1のn
+フィールドストップ層と同様に、半導体基板の深さ方向に複数のn
+層36a〜36cからなる。カソード電極(出力電極)37は、n
+カソード層35に接する。n
+カソード層35の不純物濃度は、カソード電極37とのオーミックコンタクトが得られる程度に高い。
【0058】
以上、説明した実施の形態2においても、実施の形態1と同様の工程により製造することができる。これにより、プロトン照射およびアニールを組として複数回条件を変えて行うことにより、複数のn
+層を形成することができるようになる。そして、複数回のプロトン照射の条件に適合したアニール条件を用いてアニールすることにより、各プロトン照射により形成された水素誘起ドナー層の濃度(ドーピング濃度)を高くできるようになる。また、プロトン照射によって導入された各結晶欠陥(ディスオーダー)を回復させることで、漏れ電流増加等の電気特性不良を改善することができるようになる。そして、実施の形態2によれば、ダイオードを形成する場合においても、所望のドーピング濃度を有するn
+フィールドストップ層を形成することができる。
【0059】
(実施例)
次に、半導体層のドーピング濃度について検証した。
図14は、周知の広がり抵抗(Spread Resistance)測定法によって測定した、実施例にかかる半導体装置のキャリア濃度分布を示す特性図である。実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法に従い、プロトン照射(ステップS5)および第1アニール(ステップS6)を行った試料を用意した(以下、実施例とする)。
【0060】
n
+層10a〜10cのうち、n
+層10aが半導体基板の裏面からの深さが最も深く、プロトン照射時の加速電圧が最も高い。n
+層10cが半導体基板の裏面からの深さが最も浅く、プロトン照射時の加速電圧が最も低い。加速電圧の値は、深さに応じて高い順にn
+層10a、n
+層10b、n
+層10cとなる。また、アニール温度についても、高い順にn
+層10a、n
+層10b、n
+層10cとなる。例えば、アニール温度は、n
+層10aが450℃、n
+層10bおよびn
+層10cが380℃である。このような場合、n
+層10bおよびn
+層10cは、2度のプロトン照射後、1度のアニール(温度380℃)で行うことができる。
【0061】
図14に示す結果より、実施例では、半導体基板の深さ方向に複数のn
+層10a〜10cとして不純物濃度を高くすることができることが確認された。特に、n
+層10a〜10cの箇所以外で不純物濃度が極端に落ち込む領域がないことから、プロトン照射によって導入されたディスオーダーも十分低減できている。また、n
+層10a〜10cの領域でそれぞれ高い不純物濃度を示すことから、活性化率の高い水素誘起ドナー層を得ることができることが示されている。例えば、従来の方法のように、複数のn
+層10a〜10cをまとめて一括で同じ温度でアニールし、しかもこのアニール温度が低いとき、プロトン照射によってディスオーダー層ができることで電子および正孔の移動度が低下するため、n
+層10a〜10cの箇所以外で不純物濃度が極端に落ち込む領域ができる。しかしながら、本発明の実施例ではこれを防止できる。また、複数のn
+層10a〜10cをまとめて一括で同じ温度でアニールし、しかもこのアニール温度が高いとき(500℃よりも高い温度)、水素誘起ドナー層は濃度が減少もしくは消失し、半導体基板の裏面から浅い側のn
+層10cの不純物濃度が低くなる。しかしながら、本発明の実施例では、水素誘起ドナーの減少を抑制できた。
【0062】
(実施の形態3)
次に、本発明にかかる半導体装置の製造方法の複数回のプロトン注入において、1段目のn
+フィールドストップ層のプロトンピーク位置の好ましい位置について、実施の形態3として説明する。1段目のn
+フィールドストップ層とは、ダイオードの場合はカソード層側、IGBTの場合はコレクタ層側となる基板裏面から、基板の深さ方向で最も深い箇所に位置するn
+フィールドストップ層のことである。
【0063】
図17は、一般的なIGBTのターンオフ発振波形を示す特性図である。コレクタ電流が定格電流の1/10以下の場合、蓄積キャリアが少ないために、ターンオフが終わる手前で発振することがある。コレクタ電流をある値に固定して、異なる電源電圧V
CCにてIGBTをターンオフさせる。このとき、電源電圧V
CCがある所定の値を超えると、コレクタ・エミッタ間電圧波形において、通常のオーバーシュート電圧のピーク値を超えた後に、付加的なオーバーシュートが発生するようになる。そして、この付加的なオーバーシュート(電圧)がトリガーとなり、以降の波形が振動する。電源電圧V
CCがこの所定の値をさらに超えると、付加的なオーバーシュート電圧がさらに増加し、以降の振動の振幅も増加する。このように、電圧波形が振動を始める閾値電圧を発振開始閾値V
RROと呼ぶ。この発振開始閾値V
RROが高ければ高いほど、IGBTはターンオフ時に発振しないことを示すので好ましい。
【0064】
発振開始閾値V
RROは、IGBTのpベース領域とn
-ドリフト層との間のpn接合からn
-ドリフト層を広がる空乏層(厳密には、正孔が存在するので空間電荷領域)が、複数のプロトンピークのうち最初に達する1段目(最もpベース領域側)のプロトンピークの位置に依存する。その理由は、次のとおりである。ターンオフ時に空乏層がpベース領域とn
-ドリフト層との間のpn接合からn
-ドリフト層を広がるときに、空乏層端が1つ目(最もpベース領域側)のn
+フィールドストップ層に達することでその広がりが抑えられ、蓄積キャリアの掃き出しが弱まる。その結果、キャリアの枯渇が抑制され、ターンオフ発振波形の発振が抑えられる。
【0065】
ターンオフ時の空乏層は、pベース領域とn
-ドリフト層との間のpn接合からコレクタ電極に向かって深さ方向に沿って広がる。このため、空乏層端が最初に達するn
+フィールドストップ層のピーク位置は、pベース領域とn
-ドリフト層との間のpn接合に最も近いn
+フィールドストップ層となる。そこで、半導体基板の厚さ(エミッタ電極とコレクタ電極とに挟まれた部分の厚さ)をW
0とし、空乏層端が最初に達するn
+フィールドストップ層のピーク位置の、コレクタ電極と半導体基板の裏面との界面(境界)からの深さ(以下、裏面からの距離とする)をXとする。ここで、距離指標Lを導入する。距離指標Lは、下記の(1)式であらわされる。
【0067】
上記(1)式に示す距離指標Lは、ターンオフ時に、増加するコレクタ・エミッタ間電圧V
CEが電源電圧V
CCに一致するときに、pベース領域とn
-ドリフト層との間のpn接合からn
-ドリフト層1に広がる空乏層(正しくは空間電荷領域)の端部(空乏層端)の、当該pn接合からの距離を示す指標である。平方根の内部の分数の中で、分母はターンオフ時の空間電荷領域(空乏層)の空間電荷密度を示している。周知のポアソンの式は、divE=ρ/ε
Sで表され、Eは電界強度、ρは空間電荷密度でρ=q(p−n+N
d−N
a)である。qは電荷素量、pは正孔濃度、nは電子濃度、N
dはドナー濃度、N
aはアクセプタ濃度、ε
Sは半導体の誘電率である。特にドナー濃度N
dは、n
-ドリフト層を深さ方向に積分し、積分した区間の距離で割った平均濃度とする。
【0068】
この空間電荷密度ρは、ターンオフ時に空間電荷領域(空乏層)を駆け抜ける正孔濃度pとn
-ドリフト層の平均的なドナー濃度N
dとで記述され、電子濃度はこれらよりも無視できるほど低く、アクセプタが存在しないため、ρ≒q(p+N
d)と表すことができる。このときの正孔濃度pは、IGBTの遮断電流によって決まり、特に素子の定格電流密度が通電している状況を想定するため、p=J
F/(qv
sat)で表される。J
Fは素子の定格電流密度であり、v
satはキャリアの速度が所定の電界強度で飽和した飽和速度である。
【0069】
上記ポアソンの式を距離xで2回積分し、電圧VとしてE=−gradV(周知の電界Eと電圧Vとの関係)であるため、境界条件を適当にとれば、V=(1/2)(ρ/ε
S)x
2となる。この電圧Vが、定格電圧V
rateの1/2としたときに得られる空間電荷領域の長さxを、上記の距離指標Lとしているのである。その理由は、インバータ等の実機では、電圧Vとなる動作電圧(電源電圧V
CC)を、定格電圧V
rateの半値程度とするためである。n
+フィールドストップ層は、ドーピング濃度をn
-ドリフト層よりも高濃度とすることで、ターンオフ時に広がる空間電荷領域の伸びを、n
+フィールドストップ層において広がり難くする機能を有する。IGBTのコレクタ電流がMOSゲートのオフにより遮断電流から減少を始めるときに、空乏層が最初に達するn
+フィールドストップ層のピーク位置が、ちょうどこの空間電荷領域の長さにあれば、蓄積キャリアがn
-ドリフト層に残存した状態で、空間電荷領域の伸びを抑えることができるので、残存キャリアの掃出しが抑えられる。
【0070】
実際のターンオフ動作は、例えばIGBTモジュールを周知のPWMインバータでモーター駆動するときには、電源電圧V
CCや遮断電流が固定ではなく可変であることが多い。このため、このような場合では、空乏層が最初に達するn
+フィールドストップ層のピーク位置の好ましい位置に、ある程度の幅を持たせる必要がある。発明者らの検討の結果、空乏層が最初に達するn
+フィールドストップ層のピーク位置の裏面からの距離Xは、
図19に示す表のようになる。
図19は、本発明にかかる半導体装置において空乏層が最初に達するフィールドストップ層の位置条件を示す図表である。
図19には、定格電圧V
rateが600V〜6500Vのそれぞれにおいて、最初に空乏層端が達するn
+フィールドストップ層のピーク位置の裏面からの距離Xを示している。ここで、X=W
0−γLとおき、γは係数である。このγを、0.7〜1.6まで変化させたときのXを示している。
【0071】
図19に示すように、各定格電圧V
rateでは、素子(IGBT)が定格電圧V
rateよりも10%程度高い耐圧を持つように、安全設計をする。そして、オン電圧やターンオフ損失がそれぞれ十分低くなるように、
図19に示すような半導体基板の総厚(研削等によって薄くした後の仕上がり時の厚さ)とし、n
-ドリフト層を平均的な比抵抗とする。平均的とは、n
+フィールドストップ層を含めたn
-ドリフト層全体の平均濃度および比抵抗である。定格電圧V
rateによって、定格電流密度J
Fも
図19に示したような典型値となる。定格電流密度J
Fは、定格電圧V
rateと定格電流密度J
Fとの積によって決まるエネルギー密度が、およそ一定の値となるように設定され、ほぼ
図19に示す値のようになる。これらの値を用いて上記(1)式に従い距離指標Lを計算すると、
図19に記載した値となる。最初に空乏層端が達するn
+フィールドストップ層のピーク位置の裏面からの距離Xは、この距離指標Lに対してγを0.7〜1.6とした値を半導体基板の厚さW
0から引いた値となる。
【0072】
これら距離指標Lおよび半導体基板の厚さW
0の値に対して、ターンオフ発振が十分抑えられるような、最初に空乏層端が達するn
+フィールドストップ層のピーク位置の裏面からの距離Xを定める係数γは、次のようになる。
図16は、電圧波形が振動を始める閾値電圧について示す特性図である。具体的には、
図16には、γに対する発振開始閾値V
RROの依存性を、典型的ないくつかの定格電圧V
rate(600V、1200V、3300V)について示す。ここで、縦軸は、発振開始閾値V
RROを定格電圧V
rateで規格化している。3つの定格電圧ともに、γが1.5以下で発振開始閾値V
RROを急激に高くできることが分かる。
【0073】
前述のように、インバータ等の実機では、電圧Vとなる動作電圧(電源電圧V
CC)を定格電圧V
rateの半値程度とするため、電源電圧V
CCを定格電圧V
rateの半値とするときには、少なくともIGBTのターンオフ発振は生じないようにしなければならない。すなわち、V
RRO/V
rateの値は0.5以上とする必要がある。
図16から、V
RRO/V
rateの値が0.5以上となるのは、γが0.2以上1.5以下であるので、少なくともγを0.2〜1.5とすることが好ましい。
【0074】
また、図示しない600V〜1200Vの間(800Vや1000Vなど)、1200V〜3300Vの間(1400V,1700V,2500Vなど)、および3300V以上(4500V、6500Vなど)のいずれにおいても、
図16に示す3つの曲線からは大きく逸脱せず、これら3つの曲線と同様の依存性(γに対する発振開始閾値V
RROの値)を示す。
図16から、γが0.7〜1.4の範囲で、いずれの定格電圧V
rateも発振開始閾値V
RROを十分高くすることができる領域であると分かる。
【0075】
γが0.7より小さくなると、発振開始閾値V
RROは定格電圧V
rateのおよそ80%以上であるものの、n
+フィールドストップ層がpベース領域に近くなるため、素子のアバランシェ耐圧が定格電圧V
rateより小さくなる場合が生じる。そのため、γは0.7以上が好ましい。また、γが1.4より大きくなると、発振開始閾値V
RROは定格電圧V
rateの約70%から急速に減少し、ターンオフ発振が発生し易くなる。したがって、γは1.4以下であるのが好ましい。より好ましくは、γが0.8〜1.3の範囲内、さらに好ましくはγが0.9〜1.2の範囲内であれば、素子のアバランシェ耐圧を定格電圧V
rateよりも十分高くしつつ、発振開始閾値V
RROを最も高くすることができる。
【0076】
この
図16に示す本願発明の効果で重要な点は、いずれの定格電圧V
rateにおいても、発振開始閾値V
RROを十分高くできるγの範囲は、ほぼ同じ(例えば0.7〜1.4)ことである。これは、空乏層が最初に到達するn
+フィールドストップ層のピーク位置の裏面からの距離Xの範囲を、W
0−L(γ=1)を中心とすることが最も効果的なためである。γ=1.0を含むことが最も効果的なのは、パワー密度(定格電圧V
rateと定格電流密度J
Fとの積)が略一定(例えば1.8×10
5〜2.6×10
5VA/cm
2)となることに起因する。つまり、ターンオフ等のスイッチング時に、素子の電圧が定格電圧V
rate相当になったときに、空間電荷領域端の距離(深さ)は上記(1)式で示す距離指標L程度となり、この距離指標Lの位置に裏面から最も深いn
+フィールドストップ層のピーク位置があれば(すなわちγが約1.0)、スイッチング時の発振を抑制することができる。そして、パワー密度が略一定なので、距離指標Lは定格電圧V
rateに比例するようになる。これにより、どの定格電圧V
rateにおいても、γ=1.0を略中心に含む範囲とすれば発振開始閾値V
RROを十分高くでき、スイッチング時の発振抑制効果を最も大きくすることができる。
【0077】
以上より、最初に空乏層端が達するn
+フィールドストップ層のピーク位置の裏面からの距離Xを上記範囲とすることで、ターンオフ時にIGBTは蓄積キャリアを十分残存させることができ、ターンオフ時の発振現象を抑えることができる。したがって、いずれの定格電圧V
rateにおいても、最初に空乏層端が達するn
+フィールドストップ層のピーク位置の裏面からの距離Xは、距離指標Lの係数γを上述の範囲とすることがよい。これにより、ターンオフ時の発振現象を効果的に抑制することができる。
【0078】
また、
図19では、定格電圧V
rateが600V以上において、上述のように裏面から最も深い1つ目(1段目)のn
+フィールドストップ層の裏面からの深さをγ=1程度とする場合、距離指標Lはいずれの定格電圧V
rateも20μmより深いことがわかる。すなわち基板裏面から最も深い1段目のプロトンピークを形成するためのプロトンの平均飛程Rpを基板裏面から15μmよりも深く、20μm以上とする理由は、まさにこの発振抑制効果を最も高くするためである。
【0079】
以上のように、良好なスイッチング特性を得るためには、半導体基板の裏面から少なくとも15μmよりも深い領域にn
+フィールドストップ層を形成する必要がある。なお、上記の距離指標Lの考え方、およびγの好ましい範囲については、IGBTだけでなく、ダイオードにおいても同様の範囲とすることが可能である。すなわち、ダイオードに適用する場合、ターンオフ時の発振現象を逆回復時の発振現象と置き換えて考えればよく、ダイオードにおける逆回復時の発振の起きやすさ、および抑制する作用効果についても、IGBTのターンオフ時と類似している。
【0080】
図20は、実施の形態1にかかる半導体装置のフィールドストップ層のエミッタ電極と基板おもて面との界面からの深さを示す説明図である。
図20(a)には、複数のn
+フィールドストップ層を形成したIGBTの断面図を示す。
図20(b)には、
図20(a)の切断線A−A’に沿ったネットドーピング濃度分布を、エミッタ電極7と基板おもて面との界面からの具体的な距離(深さ)を挙げて示す。n
-ドリフト層1のp
+コレクタ層9側の内部には、基板裏面からの深さの異なるn
+フィールドストップ層10を例えば3段形成している。基板裏面から最も深いn
+フィールドストップ層10(n
+層10a)のピーク位置の、基板裏面からの距離Xは50μmである。これは、
図19に示す図表に基づいて距離指標Lを58.2μmとし、γを1.2とした場合である。また、
図20(b)に図示したLの矢印は、例えばpベース領域2とn
-ドリフト層1との間のpn接合13からの距離(長さ)を示している。符号12はnバッファ層である。
【0081】
図21は、実施の形態2にかかる半導体装置のフィールドストップ層のアノード電極と基板おもて面との界面からの深さを示す説明図である。
図21(a)には、複数のn
+フィールドストップ層を形成したダイオードの断面図を示す。
図21(b)には、
図21(a)の切断線B−B’に沿ったネットドーピング濃度分布を、アノード電極33と基板おもて面との界面からの具体的な距離(深さ)を挙げて示す。n
-ドリフト層となる半導体基板31のn
+カソード層35側の内部には、裏面からの深さの異なるn
+フィールドストップ層36を例えば3段形成している。また、基板裏面から最も深いn
+フィールドストップ層36(n
+層36a)のピーク位置の、基板裏面からの距離Xは50μmである。これは、
図19に示す図表に基づいて距離指標Lを58.2μmとし、γは1.2とした場合である。また、
図21(b)に図示したLの矢印は、例えばp
+アノード領域32とn
-ドリフト層との間のpn接合38からの距離(長さ)を示している。
【0082】
(実施の形態4)
本発明にかかる半導体装置の製造方法におけるプロトンの加速エネルギーについて、実施の形態4として説明する。上記のγの範囲を満たすように、空乏層が最初に達するn
+フィールドストップ層のピーク位置が基板裏面からの距離Xを有するように当該n
+フィールドストップ層を実際にプロトン照射で形成するには、プロトンの加速エネルギーを、以下に示す
図18の特性図から決めればよい。
図18は、本発明にかかる半導体装置のプロトンの平均飛程とプロトンの加速エネルギーとの関係を示す特性図である。
【0083】
発明者らは鋭意研究を重ねた結果、プロトンの平均飛程Rp(n
+フィールドストップ層のピーク位置)と、プロトンの加速エネルギーEとについて、プロトンの平均飛程Rpの対数log(Rp)をx、プロトンの加速エネルギーEの対数log(E)をyとすると、下記(2)式の関係があることを見出した。
【0084】
y=−0.0047x
4+0.0528x
3−0.2211x
2+0.9923x+5.0474 ・・・(2)
【0085】
図18は、上記(2)式を示す特性図であり、プロトンの所望の平均飛程Rpを得るためのプロトンの加速エネルギーを示している。
図18の横軸はプロトンの平均飛程Rpの対数log(Rp)であり、log(Rp)の軸数値の下側の括弧内に対応する平均飛程Rp(μm)を示す。また、縦軸はプロトンの加速エネルギーEの対数log(E)であり、log(E)の軸数値の左側の括弧内に対応するプロトンの加速エネルギーEを示す。上記(2)式は、実験等によって得られた、プロトンの平均飛程Rpの対数log(Rp)と加速エネルギーの対数log(E)との各値を、x(=log(Rp))の4次の多項式でフィッティングさせた式である。
【0086】
なお、上記(2)式に示すフィッティング式を用いて所望のプロトンの平均飛程Rpからプロトン照射の加速エネルギーEを算出(以下、算出値Eとする)して、この加速エネルギーの算出値Eでプロトンをシリコン基板に注入した場合における、実際の加速エネルギーE’と実際に広がり抵抗(SR)測定法等によって得られた平均飛程Rp’(プロトンピーク位置)との関係は、以下のように考えればよい。
【0087】
加速エネルギーの算出値Eに対して、実際の加速エネルギーE’がE±10%程度の範囲にあれば、実際の平均飛程Rp’も所望の平均飛程Rpに対して±10%程度の範囲に収まり、測定誤差の範囲内となる。そのため、実際の平均飛程Rp’の所望の平均飛程Rpからのバラつきが、ダイオードやIGBTの電気的特性へ与える影響は、無視できる程度に十分小さい。したがって、実際の加速エネルギーE’が算出値E±10%の範囲にあれば、実際の平均飛程Rp’は実質的に設定どおりの平均飛程Rpであると判断することができる。あるいは、実際の加速エネルギーE’を上記(2)式に当てはめて算出した平均飛程Rpに対して、実際の平均飛程Rp’が±10%以内に収まれば、問題ない。
【0088】
実際の加速器では、加速エネルギーEおよび平均飛程Rpはいずれも上記の範囲(±10%)に収まり得るため、実際の加速エネルギーE’および実際の平均飛程Rp’は、所望の平均飛程Rpと算出値Eとで表される上記(2)式に示すフィッティング式にしたがっていると考えて、全く差支えない。さらに、バラつきや誤差の範囲が、平均飛程Rpに対して±10%以下であればよく、好適には±5%に収まれば、申し分なく上記(2)式に従っていると考えることができる。
【0089】
上記(2)式を用いることにより、所望のプロトンの平均飛程Rpを得るのに必要なプロトンの加速エネルギーEを求めることができる。上述したn
+フィールドストップ層を形成するためのプロトンの各加速エネルギーEも、上記(2)式を用いており、実際に上記の加速エネルギーE’でプロトンを照射した試料を周知の広がり抵抗測定法にて測定した実測値ともよく一致する。したがって、上記(2)式を用いることで、極めて精度よく、プロトンの平均飛程Rpに基づいて必要なプロトンの加速エネルギーEを予測することが可能となった。
【0090】
以上において本発明は、上述した実施の形態に限らず、フィールドストップ層を設けることができるさまざまな半導体装置に適用することが可能である。例えば、実施の形態1ではトレンチゲート型IGBTを例に説明したが、プレーナゲート型IGBTに適用してもよい。また、各実施の形態では、出力電極とのコンタクトとなる半導体層(コレクタ層、カソード層)を形成するための不純物導入方法は、イオン注入に限らず、種々変更可能である。また、各実施の形態では第1導電型をn型とし、第2導電型をp型としたが、本発明は第1導電型をp型とし、第2導電型をn型としても同様に成り立つ。