【実施例】
【0021】
(実験例1)
上記「発明を実施するための形態」と同一の方法で電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、電池A1と称する。
【0022】
(実験例2)
正極活物質として、表面の一部にジルコニウムとフッ素を含む化合物を固着させたコバルト酸リチウム(以下、表面改質コバルト酸リチウムと称することがある)と、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムとを、90:10の質量比で混合したものを用いた以外は、上記実験例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、電池A2と称する。
【0023】
(実験例3)
正極活物質として、上記表面改質コバルト酸リチウムと、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムとを、70:30の質量比で混合したものを用いた以外は、上記実験例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、電池A3と称する。
【0024】
(実験例4)
正極活物質として、上記表面改質コバルト酸リチウムと、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムとを、60:40の質量比で混合したものを用いた以外は、上記実験例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、電池A4と称する。
【0025】
(実験例5)
正極活物質として、上記表面改質コバルト酸リチウムと、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムとを、95:5の質量比で混合したものを用いた以外は、上記実験例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、電池A5と称する。
【0026】
(実験例6)
正極活物質として、上記表面改質コバルト酸リチウムのみを用いた以外は、上記実験例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、電池A6と称する。
【0027】
(実験例7)
正極活物質として、表面改質コバルト酸リチウムと、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムとを、30:70の質量比で混合したものを用いた以外は、上記実験例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、電池A7と称する。
【0028】
(実験例8)
正極活物質として、ジルコニウムとフッ素を含む化合物を固着させていないコバルト酸リチウム(以下、表面非改質コバルト酸リチウムと称することがある)のみ用いたこと以外は、上記実験例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、電池B1と称する。
【0029】
(実験例9)
正極活物質として、上記表面非改質コバルト酸リチウムとニッケルコバルトマンガン酸リチウムとを、80:20の質量比で混合したものを用いた以外は、上記実験例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、電池B2と称する。
【0030】
(実験例10)
正極活物質として、上記表面非改質コバルト酸リチウムとニッケルコバルトマンガン酸リチウムとを、90:10の質量比で混合したものを用いた以外は、上記実験例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、電池B3と称する。
【0031】
(実験例11)
正極活物質として、上記表面非改質コバルト酸リチウムとニッケルコバルトマンガン酸リチウムとを、70:30の質量比で混合したものを用いた以外は、上記実験例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、電池B4と称する。
【0032】
(実験例12)
正極活物質として、上記表面非改質コバルト酸リチウムとニッケルコバルトマンガン酸リチウムとを、60:40の質量比で混合したものを用いた以外は、上記実験例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、電池B5と称する。
【0033】
(実験例13)
正極活物質として、上記表面非改質コバルト酸リチウムとニッケルコバルトマンガン酸リチウムとを、95:5の質量比で混合したものを用いた以外は、上記実験例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、電池B6と称する。
【0034】
(実験例14)
正極活物質として、上記ニッケルコバルトマンガン酸リチウムのみを用いた以外は、上記実験例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、電池B7と称する。
【0035】
(実験例15)
正極活物質として、表面改質時に、(NH
4)
2ZrF
6に代えて炭酸ジルコニウムアンモニウム((NH
4)
2ZrO(CO
3)
2)を用いたこと以外は実験例1と同様にし、ジルコニウムの酸化物が表面に固着した表面改質コバルト酸リチウムを得た(400℃の熱処理も実施)。このコバルト酸リチウムと、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムとを、80:20の混合比で混合したものを用いた以外は、上記実験例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、電池C1と称する。
【0036】
(実験例16)
正極活物質として、表面改質時に、(NH
4)
2ZrF
6に代えて炭酸ジルコニウムアンモニウム((NH
4)
2ZrO(CO
3)
2)を用いたこと以外は実験例1と同様にし、ジルコニウムの酸化物が表面に固着した表面改質コバルト酸リチウムを得た(400℃の熱処理も実施)。さらに、この活物質にフッ化リチウム粉末を混合し、酸化ジルコニウムとフッ化リチウムが別々に固着したコバルト酸リチウムを得た。なお、ジルコニウムとフッ素のモル比は、1:6であった。このコバルト酸リチウムとニッケルコバルトマンガン酸リチウムとを、80:20の混合比で混合したものを用いた以外は、上記実験例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、電池D1と称する。
【0037】
(実験例17)
正極活物質として、表面の一部にジルコニウムとフッ素を含む化合物を固着させていないニッケルコバルトマンガン酸リチウム(以下、表面非改質ニッケルコバルトマンガン酸リチウムと称することがある)に代えて、表面の一部にジルコニウムとフッ素を含む化合物を固着させたニッケルコバルトマンガン酸リチウム(以下、表面改質ニッケルコバルトマンガン酸リチウムと称することがある)を用いたこと以外は、上記実験例1と同様にして電池を作製した。尚、表面改質ニッケルコバルトマンガン酸リチウムは、上記表面改質コバルト酸リチウムを作製する方法と同様の方法で作製した。得られた正極活物質について、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察したところ、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムの表面の一部に、平均粒子径100nm以下のジルコニウムとフッ素を含む化合物が固着していることが認められた。また、ジルコニウムの固着量をICPにより測定したところ、ジルコニウム元素換算で、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムに対して0.047質量%であった。フッ素の量を測定したところ、イオンクロマトグラフィーによりFの量は0.058質量%であり、ZrとFのモル比は1:6であった。
このようにして作製した電池を、以下、電池E1と称する。
【0038】
(実験例18)
コバルト酸リチウムに対して、MgとAlを各1.5モル%固溶したコバルト酸リチウム粒子500gを用意した。このコバルト酸リチウム粒子を1.5リットルの純水中に投入し、これを攪拌しながら、100mlの純水に硝酸エルビウム五水和物(Er(NO
3)
3・5H
2O)1.13gを溶解させた水溶液を添加した。このとき、この溶液のpHが9になるように10質量%の水酸化ナトリウム水溶液を適宜加えて、コバルト酸リチウム粒子の表面に水酸化エルビウムを付着させた。そして、これを吸引ろ過して処理物を濾取し、この処理物を120℃で乾燥させて、水酸化エルビウムが表面に分散かつ付着されたコバルト酸リチウム粒子を得た。
【0039】
次に、得られた正極活物質を攪拌しながら、25gの純水に0.28gのフッ化アンモニウム(NH
4F)を溶解させた水溶液を噴霧した。その後、400℃で6時間空気中で熱処理した。
【0040】
得られた正極活物質について、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察したところ、コバルト酸リチウムの表面の一部に、平均粒子径100nm以下のエルビウムとフッ素を含む化合物が固着していることが認められた。エルビウムの固着量をICPにより測定したところ、コバルト酸リチウムに対して0.085質量%であった。イオンクロマトグラフィーによりFのフッ素の量を測定したところ、コバルト酸リチウムに対し0.029質量%であり、エルビウムとFのモル比は1:3であった。
【0041】
その後、表面の一部にエルビウムとフッ素を含む化合物を固着させたコバルト酸リチウムと、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(ニッケル、コバルト、及びマンガンが等比で含まれている)とが質量比で70:30となるように混合して、2種の正極活物質から成る正極活物質粉末を作製したこと以外は、上記実験例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、電池F1と称する。
【0042】
(実験例19)
硝酸エルビウム五水和物に代えて、硝酸サマリウム六水和物(Sm(NO
3)
3・6H
2O)1.14gを用いたこと以外は、上記実験例18と同様にして、電池を作製した。
サマリウム、フッ素の固着量はそれぞれ0.077質量%、0.029質量%であり、サマリウムとフッ素のモル比は1:3であった。
このようにして作製した電池を、以下、電池G1と称する。
【0043】
(実験例20)
硝酸エルビウム五水和物に代えて、硝酸ネオジム六水和物(Nd(NO
3)
3・6H
2O)1.12gを用いたこと以外は、上記実験例18と同様にして、電池を作製した。
ネオジム、フッ素の固着量はそれぞれ0.074質量%、0.029質量%であり、ネオジムとフッ素のモル比は1:3であった。
このようにして作製した電池を、以下、電池H1と称する。
【0044】
(実験例21)
硝酸エルビウム五水和物に代えて、硝酸ランタン六水和物(La(NO
3)
3・6H
2O)1.11gを用いたこと以外は、上記実験例18と同様にして、電池を作製した。
ランタン、フッ素の固着量はそれぞれ0.071質量%、0.029質量%であり、ランタンとフッ素のモル比は1:3であった。
このようにして作製した電池を、以下、電池I1と称する。
【0045】
(実験例22)
硝酸エルビウム五水和物に代えて、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO
3)
2・6H
2O)0.65gを用いたこと、及び、25gの純水に0.28gのフッ化アンモニウムを溶解させた水溶液に代えて、25gの純水に0.19gのフッ化アンモニウムを溶解させた水溶液を用いたこと以外は、上記実験例18と同様にして、電池を作製した。
マグネシウム、フッ素の固着量はそれぞれ0.012質量%、0.019質量%であり、マグネシウムとフッ素のモル比は1:2であった。
このようにして作製した電池を、以下、電池J1と称する。
【0046】
(実験例23)
硝酸エルビウム五水和物に代えて、硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO
3)
3・9H
2O)0.96gを用いたこと以外は、上記実験例18と同様にして、電池を作製した。
アルミニウム、フッ素の固着量はそれぞれ0.014質量%、0.029質量%であり、アルミニウムとフッ素のモル比は1:3であった。
このようにして作製した電池を、以下、電池K1と称する。
(実験例24)
正極活物質として、表面の一部にエルビウムとフッ素を含む化合物を固着させていないニッケルコバルトマンガン酸リチウムに代えて、表面の一部にエルビウムとフッ素を含む化合物を固着させたニッケルコバルトマンガン酸リチウムを用いたこと以外は、上記実験例18と同様にして電池を作製した。尚、表面の一部にエルビウムとフッ素を含む化合物を固着させたニッケルコバルトマンガン酸リチウムは、表面の一部にエルビウムとフッ素を含む化合物を固着させたコバルト酸リチウムを作製する方法と同様の方法で作製した。得られた正極活物質について、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察したところ、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムの表面の一部に、平均粒子径100nm以下のエルビウムとフッ素を含む化合物が固着していることが認められた。また、ジルコニウムの固着量をICPにより測定したところ、エルビウム元素換算で、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムに対して0.085質量%であった。フッ素の量を測定したところ、イオンクロマトグラフィーによりFの量は0.029質量%であり、ErとFのモル比は1:3であった。
このようにして作製した電池を、以下、電池L1と称する。
【0047】
[実験1]
上記の電池A1〜A7、B1〜B7及びC1〜L1について、下記条件にて充放電し、60℃充電保存後の低温放電時容量維持率を調べたので、それらの結果を表1に示す。
【0048】
〔1サイクル目の充放電条件〕
・1サイクル目の充電条件
1.0It(750mA)の電流で電池電圧が4.40Vとなるまで定電流充電を行い、更に、4.40Vの電圧で電流値が37.5mAとなるまで定電圧充電を行った。
・1サイクル目の放電条件
1.0It(750mA)の電流で電池電圧が2.75Vとなるまで定電流放電を行った。
・休止
上記充電と放電との間の休止間隔は10分間とした。
【0049】
〔60℃充電保存の条件〕
上記1サイクル目の充電条件と同様の条件で充電し、60℃で恒温槽に70時間放置した。そして、室温にまで冷却してから、室温にて上記1サイクル目の放電条件と同様の条件で放電した。
【0050】
[25℃の放電容量の測定]
25℃にて上記の条件で充放電サイクル試験を1回行って、放電容量Q1(25℃の放電容量Q1)を測定した。
【0051】
[−20℃の放電容量の測定]
25℃にて上記1サイクル目の充電条件と同様の条件で充電した後、−20℃の恒温槽に4時間放置した。そして、−20℃の環境のまま、1.0It(750mA)の電流で電池電圧が2.75Vとなるまで定電流充電を行って、放電容量Q2(−20℃の放電容量Q2)を測定した。
【0052】
下記(1)式から低温放電時容量維持率を求めた。
低温放電時容量維持率(%)=(−20℃の放電容量Q2/25℃の放電容量Q1)×100(%)
【0053】
【表1】
【0054】
(電池A1〜A7、電池B1〜B7、電池C1〜E1についての考察)
表1から明らかなように、ジルコニウムとフッ素を含む化合物で表面改質したコバルト酸リチウムとニッケルコバルトマンガン酸リチウムとを95:5から60:40の混合比率で混合した(即ち、電池A6の正極活物質と電池B7の正極活物質とを混合した)正極活物質を用いた電池A1〜A5は、ジルコニウムとフッ素を含む化合物で表面改質したコバルト酸リチウムを単独で正極活物質として使用した電池A6や、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムを単独で正極活物質として使用した電池B7や、ジルコニウムとフッ素を含む化合物で表面改質したコバルト酸リチウムとニッケルコバルトマンガン酸リチウムとを30:70の混合比率で混合した電池A7に比べて、低温放電時容量維持率が高くなることがわかる。即ち、電池A1〜A5における各特性は、電池A6と電池B7とにおける各特性の範囲内に存在するのではなく、各特性の範囲を超えて存在していることがわかる(例えば、電池A6では58.4%であり、電池B7では30.6%なので、これら電池A6の正極活物質と、電池B7の正極活物質とを混合した電池A1〜A6では、30.6〜58.4%の間にあると想定されるが、実際には62.2%以上であって、想定範囲を超えていることがわかる)。これは、2種の正極活物質を所定の割合で混合したことによって、相乗効果が発揮されたことに起因するものと考えられる。また、上記の結果より、ジルコニウムとフッ素を含む化合物で表面改質したコバルト酸リチウムとニッケルコバルトマンガン酸リチウムとの混合質量比は、95:5〜60:40にするのが好ましい。
【0055】
これに対して、表面の一部にジルコニウムとフッ素を含む化合物を付着させていないコバルト酸リチウム(以下、表面非改質コバルト酸リチウムと称することがある)とニッケルコバルトマンガン酸リチウムとを混合した(即ち、電池B1の正極活物質と、電池B7の正極活物質とを混合した)正極活物質を用いた電池B2〜B6では、表面非改質コバルト酸リチウムを単独で正極活物質として使用した電池B1に比べると、低温放電時容量維持率が高くなっているが、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムを単独で正極活物質として使用した電池B7に比べると、低温放電時容量維持率が低くなっていることがわかる。即ち、電池B2〜B6における各特性は、電池B1と電池B7との範囲内に存在するだけである。したがって、電池B2〜B7の場合には、上記電池A1〜A5の場合とは異なり、2種の正極活物質を混合したことによって、相乗効果は発揮されていないことがわかる。
【0056】
以上のような実験結果となったのは、以下に示す理由によるものと考えられる。即ち、電池A1〜A5では、ジルコニウムとフッ素からなる化合物の存在により、コバルト酸リチウムにおけるコバルトの触媒性が低下し、これがニッケルコバルトマンガン酸リチウムにも作用するため、ニッケル、コバルト、マンガンの溶出を抑制する効果が発揮される。しかも、このようにニッケルコバルトマンガン酸リチウムの活性化を抑制できることに起因して、コバルト酸リチウムの活性化を一層抑止できるので、電解液の分解をより抑えることができる。このような相乗効果が発揮されることによって、正極活物質の表面に不活性な層が形成されるのを抑制でき、この結果、放電性能が飛躍的に向上したものと考えられる。これに対して、電池B2〜B6ではジルコニウムとフッ素からなる化合物が存在しないので、このような相乗効果を発揮しえず、低温放電時容量維持率が向上しないものと考えられる。電池A6では、コバルト酸リチウムしかないために、相乗効果が得られていない。電池A7では、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムがコバルト酸リチウムに対して過剰なため、ジルコニウムとフッ素を含む化合物によるコバルト酸リチウムの活性化抑制効果が十分に得られない。電池C1では、固着元素がジルコニウムのみで、フッ素を含
まないためにコバルト酸リチウムの活性化抑制効果が十分に得られない。電池D1では、コバルト酸リチウムに、ジルコニウム化合物としてのジルコニウム酸化物とフッ素化合物としてのフッ化リチウムが別々に付着したものが用いられているが、相乗効果を発揮していない。この結果は、ジルコニウムとフッ素が少なくとも結合した化合物として表面に付着したものでないと効果が得られないことを示している。
【0057】
尚、電池A1〜A5について比較すると、電池A1〜A3及びA5は電池A4に比べて特に向上していることがわかる。したがって、ジルコニウムとフッ素を含む化合物で表面改質したコバルト酸リチウムとニッケルコバルトマンガン酸リチウムとの混合質量比は95:5〜70:30にするのが特に好ましい。さらに、ジルコニウムとフッ素を含む化合物で表面改質したコバルト酸リチウムとニッケルコバルトマンガン酸リチウムとの混合質量比は90:10〜70:30であることが特に好ましい。
【0058】
以上のようにコバルト酸リチウムの表面の一部にジルコニウムとフッ素を含む化合物が固着し、且つ、このコバルト酸リチウムとニッケルコバルトマンガン酸リチウムとを所定の割合で混合した正極活物質を用いることで、電解液の分解と正極活物質中の金属溶出とを効果的に抑制できる。したがって、高温で充電状態で放置した後も、低温放電時容量維持率が高い電池を得ることができる。
【0059】
尚、コバルト酸リチウムの表面の一部にジルコニウムとフッ素を含む化合物が固着した状態とは、
図3に示すように、コバルト酸リチウム粒子21の表面に、大部分のジルコニウムとフッ素を含む化合物粒子22が固着された状態をいうものである。即ち、当該状態には、
図4に示すように、コバルト酸リチウム粒子21とジルコニウムとフッ素を含む化合物粒子22とを単に混合して、一部のジルコニウムとフッ素を含む粒子22がコバルト酸リチウム粒子21とたまたま接している状態は含まない。上記ジルコニウムとフッ素を含む化合物としては、ZrF
4もしくはLi
2ZrF
6を主として含むものを用いるのが好ましく、フッ素の一部が酸素と置き換わっていてもよいが、FとOの比(F/O)がモル比で2以上であることが好ましい。これらを用いると、コバルト酸リチウム表面における活性度の抑制効果が高く、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムと組み合わせたときの効果が一層発揮される。
【0060】
ここで、正極活物質の総量に対するニッケルコバルトマンガン酸リチウムの割合を、1質量%以上70質量%未満に規制するのは、以下に示す理由による。
正極活物質の総量に対するニッケルコバルトマンガン酸リチウムの割合が1質量%未満になると、コバルト酸リチウムの量が多くなり過ぎるため、表面の一部にジルコニウムとフッ素からなる化合物が固着されていても、やはり電解液の分解量が多くなって、放電電圧が低下する場合がある。一方、正極活物質の総量に対するニッケルコバルトマンガン酸リチウムの割合が70質量%以上になると、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムの割合が高くなり過ぎて、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムの活性化を十分に抑制できなくなることがある。
このようなことを考慮すれば、正極活物質の総量に対するニッケルコバルトマンガン酸リチウムの割合は、3質量%以上50質量%以下であることが望ましく、特に、5質量%以上30質量%以下であることが望ましい。
【0061】
また、電池E1と電池A1を比べると、コバルト酸リチウムの表面の一部のみならず、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムの表面の一部にもジルコニウムとフッ素を含む化合物が固着していると低温放電時容量維持率が一層高くなっている。したがって、コバルト酸リチウムの表面の一部のみならず、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムの表面の一部にもジルコニウムとフッ素を含む化合物を固着させることで低温放電時容量維持率を更に向上させることができる。
【0062】
これは、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムにもコバルト、ニッケル等が含まれるため、電解液の分解が生じることがあるが、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムの表面の一部にジルコニウムとフッ素を含む化合物を固着させておけば、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムの表面における電解液の分解反応を抑制できる効果が発現するためと考えられる。但し、その効果は、主としてコバルト酸リチウムの表面の一部に固着させたジルコニウムとフッ素を含む化合物に起因するものと考えられる。
このように、本発明の一つの局面によれば、コバルト酸リチウムと、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムの両方の表面の一部にジルコニウムとフッ素を含む化合物が付着させることができる。
【0063】
ジルコニウムとフッ素を含む化合物の平均粒径が100nm以下であることが望ましい。
平均粒径が100nmを超えると、同じ質量のジルコニウムとフッ素の化合物を付着させても、付着部位が一部に偏ってしまうため、上述の効果が十分に発揮されないことがある。
【0064】
ジルコニウムとフッ素を含む化合物の平均粒径の下限は0.1nm以上であることが好ましく、特に1nm以上であることが望ましい。ジルコニウムとフッ素を含む化合物の平均粒径が0.1nm未満となると、ジルコニウムとフッ素を含む化合物が小さ過ぎて、正極活物質表面を過剰に覆うことになる。
【0065】
(電池F1〜L1についての考察)
エルビウムとフッ素、サマリウムとフッ素、ネオジムとフッ素、ランタンとフッ素をそれぞれ含む化合物で表面改質したコバルト酸リチウムを用いた電池F1〜I1、マグネシウムとフッ素を含む化合物で表面改質したコバルト酸リチウムを用いた電池J1、及びマグネシウムとフッ素を含む化合物で表面改質したコバルト酸リチウムを用いた電池K1においても、電池B1〜B7と比較して、低温放電時容量維持率が高かった。
【0066】
電池F1〜I1、J1及びK1においても、ジルコニウムとフッ素とを含む化合物で表面改質したコバルト酸リチウムを用いた電池A1〜A5と同様、表面改質したコバルト酸リチウムと、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムとを所定の割合で混合したことによって、相乗効果が発揮されたと推察される。
【0067】
特に、希土類元素を含む化合物で表面改質したコバルト酸リチウム用いた電池F1〜I1は、ジルコニウムとフッ素とを含む化合物で表面改質したコバルト酸リチウム用いた電池A1〜A5に比べて、低温放電時容量維持率が高くなっている。
【0068】
希土類元素とフッ素を含む化合物でコバルト酸リチウムを表面改質した場合においては、ジルコニウムとフッ素を含む化合物を表面改質に用いた場合よりもコバルトの触媒作用を抑制する効果が高くなる。これにより、コバルト、マンガン、ニッケルの溶出と、電解液の分解をいっそう抑制する効果が生じる。結果的に、正極活物質の表面に不活性な層が形成されるのを抑制でき、放電性能が向上したものと考えられる。希土類元素としてエルビウムを用いた場合において、特に上記効果が発揮される。
【0069】
また、電池F1と電池L1を比べると、コバルト酸リチウムの表面の一部のみならず、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムの表面の一部にもエルビウムとフッ素を含む化合物が固着していると低温放電時容量維持率が一層高くなっている。したがって、コバルト酸リチウムの表面の一部のみならず、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムの表面の一部にもエルビウムとフッ素を含む化合物を固着させることで低温放電時容量維持率を更に向上させることができる。
【0070】
これは、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムにもコバルト、ニッケル等が含まれるため、電解液の分解が生じることがあるが、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムの表面の一部にエルビウムとフッ素を含む化合物を固着させておけば、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムの表面における電解液の分解反応を抑制できる効果が発現するためと考えられる。但し、その効果は、主としてコバルト酸リチウムの表面の一部に固着させたエルビウムとフッ素を含む化合物に起因するものと考えられる。
【0071】
尚、本発明の実施形態ではジルコニウム、エルビウム、サマリウム、ネオジム、ランタン、マグネシウム及びアルミニウムから選択される1種とフッ素を含む化合物を例に挙げて説明したが、これに限定されず、フッ素を含む化合物であれば本発明の効果が得られる。上記の実施形態に記載したもの以外としては、チタン及び希土類元素から選ばれる少なくとも一種とフッ素とを含む化合物を好適に用いることができる。これは、以下の理由による。
【0072】
正極活物質表面では、コバルト酸リチウムの触媒性が高いために、電解液の酸化分解反応が生じる。この酸化分解反応により生成する分解物は、再分解反応や電解液との反応を繰り返しながら、負極に移動するだけでなく、正極表面にも付着して正極表面にリチウムイオンの導電性の低い層が形成される。ここで、コバルト酸リチウムの表面に上記のようなフッ素を含む化合物が付着していると、コバルト酸リチウムの触媒性を低下させるだけでなく、上記のようなフッ素を含む化合物が分解物ラジカルを吸着するために、コバルト酸リチウム表面でのリチウムイオン導電性の低い層が形成されないと考えられる。但し、上記に含まれないフッ素化合物、例えばフッ化リチウムでは十分な抑制効果は得られない。
【0073】
上記希土類元素としては、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムから選択される少なくとも一種を用いることができる。特に、ネオジム、サマリウム、エルビウム、ランタンを用いることが好ましい。
【0074】
マグネシウム、チタン、アルミニウム及び希土類元素から選択される少なくとも一種とフッ素を含む化合物が固着したコバルト酸リチウムと、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムとの混合質量比は、ジルコニウムとフッ素を含む化合物で表面改質したコバルト酸リチウムを用いた電池の場合と同様、95:5〜60:40にするのが好ましく、さらに好ましくは、90:10〜70:30である。上記範囲であれば、2種の正極活物質を混合したことによる相乗効果が発揮されると推測される。
【0075】
マグネシウムとフッ素を含む化合物としては、例えば、MgF
2、LiMgF
3、NaMgF
3、KMgF
3等を主として含むものを用いるのが好ましい。アルミニウムとフッ素を含む化合物としては、例えば、AlF
3、LiAlF
4、NaAlF
4、KAlF
4等を主として含むものを用いるのが好ましい。チタンとフッ素を含む化合物としては、例えば、TiF
4、LiTiF
5、NaTiF
5、KTiF
5等を主として含むものを用いるのが好ましい。希土類元素とフッ素を含む化合物としては、例えば、ErF
3、LiErF
4、NaErF
4、KErF
4、SmF
3、LiSmF
4、NaSmF
4、KSmF
4、SmF
3、LiSmF
4、NaSmF
4、KSmF
4、NdF
3、LiNdF
4、NaNdF
4、KNdF
4、LaF
3、LiLaF
4、NaLaF
4、KLaF
4等を主として含むものを用いるのが好ましい。フッ素の一部が酸素と置き換わっていてもよいが、FとOの比(F/O)がモル比で2以上であることが好ましい。これらを用いると、コバルト酸リチウム表面における活性度の抑制効果が高く、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムと組み合わせたときの効果が一層発揮される。
【0076】
正極活物質の総量に対するニッケルコバルトマンガン酸リチウムの割合は、ジルコニウムとフッ素を含む化合物で表面改質したコバルト酸リチウムを用いた電池の場合と同様、1質量%以上70質量%未満が好ましく、さらには3質量%以上50質量%以下、より好ましくは5質量%以上30質量%以下である。
【0077】
コバルト酸リチウムの表面の一部のみならず、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムの表面の一部にもマグネシウム、チタン、アルミニウム及び希土類元素から選ばれる少なくとも一種とフッ素を含む化合物を固着させることで、ジルコニウムとフッ素を含む化合物で表面改質したコバルト酸リチウムを用いた電池の場合と同様、低温放電時容量維持率を更に向上させることができると推測される。
【0078】
マグネシウム、チタン、アルミニウム及び希土類元素から選ばれる少なくとも一種とフッ素を含む化合物は、ジルコニウムとフッ素を含む化合物と同様、平均粒径が100nm以下であることが好ましい。平均粒径の下限は0.1nm以上であることが好ましく、特に1nm以上が好ましい。
【0079】
本発明の一つの局面によれば、上述した非水電解質二次電池用正極と、負極と、電解質とを含むことを特徴とする。
【0080】
本発明のその他の局面によれば、下記のような事項に即したものを用いることができる。
(その他の事項)
(1)コバルト酸リチウムやニッケルコバルトマンガン酸リチウムの表面の一部に、ジルコニウムとフッ素を含む化合物を付着する方法としては、正極活物質粉末を混合しながら、ジルコニウムとフッ素を含む化合物を含む溶液を噴霧する方法等によって得ることができる他、ジルコニウムとフッ素を含む化合物を合成したのち、活物質と混合したり、混合後に500℃以下の温度で熱処理するといったことで得ることができる。コバルト酸リチウムやニッケルコバルトマンガン酸リチウムの表面の一部に、希土類元素、マグネシウム、チタンやアルミニウムとフッ素を含む化合物を付着する方法としては、正極活物質に希土類元素、マグネシウム、チタンやアルミニウムを含む化合物を付着させたのち、フッ素を含む水溶液を噴霧する方法等によって得ることができる。フッ素を含む水溶液の溶質としては、例えば、NH
4F,NaF、KF等を好適に用いることが出来る。
【0081】
(2)上記コバルト酸リチウムは、Al、Mg、Ti、Zr等の物質を固溶していたり、粒界に含まれていても良い。また、コバルト酸リチウムの表面には、希土類化合物の他、Al、Mg、Ti、希土類等の化合物も固着していても良い。これらの化合物が固着されていても、電解液と正極活物質との接触を抑制できるからである。
【0082】
(3)上記ニッケルコバルトマンガン酸リチウムとしては、ニッケルとコバルトとマンガンとのモル比が、1:1:1であったり、5:3:2である等、公知の組成のものを用いることができるが、特に、正極容量を増大させうるように、ニッケルやコバルトの割合がマンガンより多いものを用いることが好ましい。
【0083】
(4)本発明に用いる非水電解質の溶媒は限定するものではなく、非水電解質二次電池に従来から用いられてきた溶媒を使用することができる。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネートや、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネートや、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステルを含む化合物や、プロパンスルトン等のスルホン基を含む化合物や、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,2−ジオキサン、1,4−ジオキサン、2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテルを含む化合物や、ブチロニトリル、バレロニトリル、n−ヘプタンニトリル、スクシノニトリル、グルタルニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル、1,2,3−プロパントリカルボニトリル、1,3,5−ペンタントリカルボニトリル等のニトリルを含む化合物や、ジメチルホルムアミド等のアミドを含む化合物等を用いることができる。特に、これらのHの一部がFにより置換されている溶媒が好ましく用いられる。また、これらを単独又は複数組み合わせて使用することができ、特に環状カーボネートと鎖状カーボネートとを組み合わせた溶媒や、さらにこれらに少量のニトリルを含む化合物やエーテルを含む化合物が組み合わされた溶媒が好ましい。
一方、非水電解質の溶質としては、従来から用いられてきた溶質を用いることができ、LiPF
6、LiBF
4、LiN(SO
2CF
3)
2、LiN(SO
2C
2F
5)
2、LiPF
6-x(C
nF
2n-1)
x[但し、1<x<6、n=1又は2]等が例示され、更に、これらの1種もしくは2種以上を混合して用いても良い。溶質の濃度は特に限定されないが、電解液1リットル当り0.8〜1.5モルであることが望ましい。
【0084】
(5)本発明に用いる負極としては、従来から用いられてきた負極を用いることができ、特に、リチウムを吸蔵放出可能な炭素材料、あるいはリチウムと合金を形成可能な金属またはその金属を含む合金化合物が挙げられる。 炭素材料としては、天然黒鉛や難黒鉛化性炭素、人造黒鉛等のグラファイト類、コークス類等を用いることができ、合金化合物としては、リチウムと合金可能な金属を少なくとも1種類含むものが挙げられる。特に、リチウムと合金形成可能な元素としてはケイ素やスズであることが好ましく、これらが酸素と結合した、酸化ケイ素や酸化スズ等も用いることもできる。また、上記炭素材料とケイ素やスズの化合物とを混合したものを用いることができる。
上記の他、エネルギー密度は低下するものの、負極材料としてはチタン酸リチウム等の金属リチウムに対する充放電の電位が、炭素材料等より高いものも用いることができる。
【0085】
(6)正極とセパレータとの界面、又は、負極とセパレータとの界面には、従来から用いられてきた無機物のフィラーからなる層を形成することができる。フィラーとしても、従来から用いられてきたチタン、アルミニウム、ケイ素、マグネシウム等を単独もしくは複数用いた酸化物やリン酸化合物、またその表面が水酸化物等で処理されているものを用いることができる。
上記フィラー層の形成は、正極、負極、或いはセパレータに、フィラー含有スラリーを直接塗布して形成する方法や、フィラーで形成したシートを、正極、負極、或いはセパレータに貼り付ける方法等を用いることができる。
【0086】
(7)本発明に用いるセパレータとしては、従来から用いられてきたセパレータを用いることができる。具体的には、ポリエチレンからなるセパレータのみならず、ポリエチレン層の表面にポリプロピレンからなる層が形成されたものや、ポリエチレンのセパレータの表面にアラミド系の樹脂等の樹脂が塗布されたものを用いても良い。