特許第6103038号(P6103038)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6103038
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/329 20060101AFI20170316BHJP
   H01L 29/868 20060101ALI20170316BHJP
   H01L 29/861 20060101ALI20170316BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
   H01L29/91 B
   H01L29/91 D
   H01L29/06 301G
   H01L29/06 301V
【請求項の数】10
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-506750(P2015-506750)
(86)(22)【出願日】2014年3月14日
(86)【国際出願番号】JP2014057012
(87)【国際公開番号】WO2014148400
(87)【国際公開日】20140925
【審査請求日】2015年8月5日
(31)【優先権主張番号】特願2013-58528(P2013-58528)
(32)【優先日】2013年3月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】河野 涼一
(72)【発明者】
【氏名】椎木 崇
【審査官】 綿引 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−114550(JP,A)
【文献】 特開2000−150859(JP,A)
【文献】 特開2012−186318(JP,A)
【文献】 特開2014−075384(JP,A)
【文献】 特開2014−038937(JP,A)
【文献】 特開平08−316480(JP,A)
【文献】 特開2012−151143(JP,A)
【文献】 特開平06−334188(JP,A)
【文献】 特開2008−263217(JP,A)
【文献】 特開2000−049360(JP,A)
【文献】 特開2009−164486(JP,A)
【文献】 特開2005−093550(JP,A)
【文献】 特開2002−270857(JP,A)
【文献】 特開2003−101039(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/329
H01L 21/82−8258
H01L 27/04−098
H01L 29/861−885
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の半導体基板と、
該半導体基板の第1主面に形成され、主たる電流を流す活性領域と、
該活性領域を取り囲んで配置されるエッジ終端構造と、
前記活性領域に形成された第2導電型の第1半導体領域と、
前記エッジ終端構造を構成する複数の第2導電型の第2半導体領域と、
前記第1主面上に形成され、前記第1半導体領域に電気的に接続する第1主電極と、
前記第2半導体領域と前記第1半導体領域の間に、前記第1主電極から深さ方向に絶縁膜を挟んで離間した抵抗領域となる第2導電型の第3半導体領域と、
前記第1主電極が前記半導体基板と接触する外周端部からさらに外周方向の前記半導体基板表面に形成され、前記第3半導体領域の他に抵抗の異なる2つ以上の第2導電型拡散領域と、を備え、
前記2つ以上の第2導電型拡散領域のうち第1の拡散領域が、前記第3半導体領域と前記第1半導体領域の間に両方に連接する第2導電型の第4半導体領域であり、
前記2つ以上の第2導電型拡散領域のうち第2の拡散領域が、前記第2半導体領域側で前記第3半導体領域より不純物濃度が高くかつ拡散深さが深い第2導電型の第5半導体領域であり、
前記第4半導体領域の拡散深さが前記第3半導体領域の拡散深さより深く、
前記第4半導体領域の不純物濃度が前記第3半導体領域の不純物濃度より低いことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記第4半導体領域は、前記第1主電極と接することを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記第4半導体領域および前記第5半導体領域のうち少なくとも1つの領域は前記第1半導体領域の拡散深さよりも深いことを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記第4半導体領域の外周方向の幅は5μm以上50μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の半導体装置。
【請求項5】
第1導電型の半導体基板と、
該半導体基板の第1主面に形成され、主たる電流を流す活性領域と、
該活性領域を取り囲んで配置されるエッジ終端構造と、
前記活性領域に形成された第2導電型の第1半導体領域と、
前記エッジ終端構造を構成する複数の第2導電型の第2半導体領域と、
前記第1主面上に形成され、前記第1半導体領域に電気的に接続する第1主電極と、
前記第2半導体領域と前記第1半導体領域の間に、前記第1主電極から深さ方向に絶縁膜を挟んで離間した抵抗領域となる第2導電型の第3半導体領域と、
前記第1主電極が前記半導体基板と接触する外周端部からさらに外周方向の前記半導体基板表面に形成され、前記第3半導体領域の他に抵抗の異なる2つ以上の第2導電型拡散領域と、を備え、
前記第3半導体領域の深さ方向の積分濃度が、前記第1半導体領域の不純物濃度より高く、
前記2つ以上の第2導電型拡散領域のうち第1の拡散領域が、前記第3半導体領域よりも拡散深さが深く不純物濃度が高いとともに該第3半導体領域の外周側に接続する第2導電型の第5半導体領域であり、
前記2つ以上の第2導電型拡散領域のうち第2の拡散領域が、前記第1半導体領域が前記第1主電極の外周端部から外周方向に延在した部分であるとともに前記第3半導体領域に接続することを特徴とする半導体装置。
【請求項6】
前記第1半導体領域の延在部分の長さが2μm以上35μm以下であることを特徴とする請求項5に記載の半導体装置。
【請求項7】
第1導電型の半導体基板と、
該半導体基板の第1主面に形成され、主たる電流を流す活性領域と、
該活性領域を取り囲んで配置されるエッジ終端構造と、
前記活性領域に形成された第2導電型の第1半導体領域と、
前記エッジ終端構造を構成する複数の第2導電型の第2半導体領域と、
前記第1主面上に形成され、前記第1半導体領域に電気的に接続する第1主電極と、
前記第2半導体領域と前記第1半導体領域の間に、前記第1主電極から深さ方向に絶縁膜を挟んで離間した抵抗領域となる第2導電型の第3半導体領域と、
前記第1主電極が前記半導体基板と接触する外周端部からさらに外周方向の前記半導体基板表面に形成され、前記第3半導体領域の他に抵抗の異なる2つ以上の第2導電型拡散領域と、を備え、
前記第3半導体領域は、前記第1半導体領域が前記第1主電極の外周端部から外周方向に延在した部分であり、
前記2つ以上の第2導電型拡散領域のうち第1の拡散領域が、前記第3半導体領域よりも拡散深さが深く不純物濃度が高いとともに該第3半導体領域の外周側に接続する第2導電型の第5半導体領域であり、
前記2つ以上の第2導電型拡散領域のうち第2の拡散領域が、前記絶縁膜に接する前記第3半導体領域の表面から前記第3半導体領域を貫通して配置される第2導電型の第6半導体領域であり、
該第6半導体領域の不純物濃度が前記第3半導体領域の不純物濃度より高いことを特徴とする半導体装置。
【請求項8】
前記第6半導体領域と前記第1半導体領域の間に配置される前記第3半導体領域の不純物濃度と拡散深さが前記第1半導体領域の不純物濃度と拡散深さに等しいことを特徴とする請求項7に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記第3半導体領域の不純物濃度と拡散深さが前記第1半導体領域の不純物濃度と拡散深さに等しいことを特徴とする請求項7に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記第2導電型拡散領域を備えることにより、前記第1主電極の外周端部よりも内周側に逆回復電流を分流させることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一つに記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パワー半導体モジュールなどの半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネ化の要求に対して、パワー半導体モジュールの適用拡大が進んでいる。このパワー半導体モジュールの一例について説明する。図8は、パワー半導体モジュール500の要部回路図である。このパワー半導体モジュール500の回路は、コンバータ部81、ブレーキ部82およびインバータ部83で構成されている。
【0003】
コンバータ部81は、U相、V相、W相の3相からなり、各相は上下アームで構成され、各アームはダイオード84からなる。ブレーキ部82は、ダイオード85とIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)86とからなる。ブレーキ部82において、ダイオード85とIGBT86とは、直列接続されている。
【0004】
インバータ部83は、U相、V相、W相の3相からなり、各相は上下アームで構成される。インバータ部83における1アームは、IGBT87とダイオードであるFWD(フリーホイーリングダイオード)88とからなる。IGBT87とFWD88は、逆並列に接続されている。インバータ部83において、IGBT87およびFWD88はそれぞれ単体または複数個並列接続される場合もある。インバータ部83に用いられるFWD88には、逆回復モードがあり、この逆回復モードで破壊が起こり易いので、高い逆回復耐量が求められる。
【0005】
図9は、従来のFWD88の要部断面図である。図9の断面図はエッジ終端構造付近を拡大した図であり、例えば特許文献4の図1に近い構造を示している。図9において、FWD88は、n半導体基板51に形成されたnドリフト領域52上に配置されるpアノード領域54およびアノード端部領域55、nドリフト領域52の延在部であるn-領域53上に配置されるpガードリング領域58およびpストッパ領域59を備える。また、FWD88は、pアノード領域54上とアノード端部領域55上に配置されるアノード電極60を備える。
【0006】
また、FWD88は、pガードリング領域58、pストッパ領域59上に配置される絶縁膜61を備える。また、FWD88は、pガードリング領域58に電気的に接続するガードリング電極62、pストッパ領域59に電気的に接続するストップ電極63を備える。前記のアノード端部領域55の不純物濃度および拡散深さは、pガードリング領域58の不純物濃度および拡散深さと同じである。
【0007】
また、FWD88は、nドリフト領域52の下に配置されるnカソード領域65と、nカソード領域65に電気的に接続するカソード電極66を備える。FWD88において、pアノード領域54が形成される領域が活性部64であり、pガードリング領域58、pストッパ領域59、絶縁膜61が形成される領域がエッジ終端構造67である。尚、図中の符号52はnドリフト領域を示し、符号53はnドリフト領域52の延在部であるn-領域を示している。これらの領域52、53を総称して単にドリフト領域と呼ぶこともある。
【0008】
つぎに、図8の3相のインバータ回路(インバータ部83)に負荷として図示しないモータなどのインダクタンスを接続した場合のインバータ回路(インバータ部83)の回路動作を説明する。ここでは、U相とV相に着目して、例えば、U相の上アームのIGBT87とW相の下アームのIGBT87が共にオンしてモータに電流を流してモータを回転させる場合について説明する。実際は、W相の上アームもしくは下アームにも電流が流れるが、ここでは説明を簡単にするために省き、U相とV相の単相のインバータにモータが接続した場合について説明する。
【0009】
U相の上アームのIGBT87とW相の下アームのIGBT87はオン、オフを繰り返し、オンの期間を長くするとモータに流れる電流が増大し、オフの期間を長くするとモータに流れる電流が減少する。この電流の増減によって、モータの回転数やトルクが制御される。以下、FWD88がオンしているときを通電時、FWD88がオン状態からオフ状態に移行するときを逆回復時と呼ぶ。
【0010】
図10は、IGBT87とFWD88の電圧電流波形を示す説明図である。図10を用いて、前記の動作を区間に分けて説明する。
(1)A区間は、IGBT87がオンしてモータに電流が供給された状態である。IGBT87がオンしてモータに電流が供給された状態ではFWD88には電流が流れていない。
(2)B区間は、IGBT87がオフした状態である。このとき、モータに流れる電流は行き場を失い、他のアームのFWD88を介して、インバータ部83を流れる。この電流は、還流電流といわれ、FWD88にとっては順方向電流となる。このFWD88に順方向電流が流れているときが「通電時」である。
(3)Cの区間は、IGBT87を再度オンさせた状態である。IGBT87のオンにより流れる電流は、モータに流れる電流とこのIGBT87に直列接続するFWD88の逆電流となる。FWD88に流れる逆電流は、FWD88が逆回復した段階で停止し、全ての電流はモータに流れる。この一連の動作を繰り返してモータに流れる電流は制御される。FWD88に流れる逆電流が逆回復電流であり、この逆回復電流が流れているときが「逆回復時」である。
【0011】
図11は、FWD88に流れる正孔の挙動について説明する図であり、(a)は通電時の図、(b)は逆回復時の図である。図11においては、FWD88に流れる正孔の挙動、特に、活性部64からエッジ終端構造67における挙動を示している。尚、通電時には活性部64の下部のnドリフト領域52においても正孔・電子対の蓄積が生じるが、図示は省略している。
【0012】
図11(a)の通電時においては、pアノード領域54からnドリフト領域52およびnドリフト領域52の延在部のn-領域53に正孔が注入(図11(a)における符号71を参照)される。この正孔を中和するように、nカソード領域65からnドリフト領域52およびn-領域53に電子が注入される。その結果、nドリフト領域52およびn-領域53には、過剰な正孔と過剰な電子が存在した状態(正孔・電子対の蓄積状態)で順方向電流が流れる。この過剰な正孔と電子が存在して順方向電流が流れている状態は、伝導度変調と呼ばれ、nドリフト領域52およびn-領域53の抵抗が大幅に低下している状態である。つまり、通電時には、nドリフト領域52およびn-領域53には過剰な正孔と電子が蓄積されている。
【0013】
図11(b)の逆回復において、IGBT87が再度オンし、FWD88が逆回復電流が流れる逆回復過程に移行する。この逆回復時では、nドリフト領域52およびn-領域53に蓄積した正孔と電子は、正孔の引き抜き(図11(b)における符号73を参照)はpアノード領域54およびアノード端部領域55で行われ、電子はnカソード領域65に引き抜かれて逆回復電流となる。過剰な正孔と電子がnドリフト領域52およびn-領域53に存在しなくなった段階で逆回復電流がなくなり、FWD88はオフ状態になる。
【0014】
前記のアノード端部領域55とnドリフト領域52とのpn接合は、深さ方向に凸状の形状を有している。そのため、pアノード領域54の平坦な底部に比べると電流集中がし易い。また、エッジ終端構造67下のn-領域53に蓄積した正孔は、逆回復時にアノード端部領域55に集中して流れるため、FWD88の破壊を引き起こす。
【0015】
アノード端部領域55への電流を集中し難くする方法として、pアノード領域54とエッジ終端構造67であるpガードリング領域58の間に抵抗領域56を設ける延長構造68とする方法(例えば、下記特許文献1の図1を参照)がある。また、局部的にpアノード領域54およびエッジ終端構造67とnドリフト領域52およびその延在部のn-領域53の接合付近のライフタイムを短くする方法なども開示されている(例えば、下記特許文献2の図1を参照)。
【0016】
図12は、延長構造68を有するFWD88の要部断面図である。図12に示したFWD88と図9に示したFWD88との違いは、pアノード領域54とエッジ終端構造67であるpガードリング領域58の間に、pアノード領域54を外周方向に延在させた抵抗領域56が設けられている点である。この抵抗領域56の上面では、アノード電極60は絶縁膜を介して離間させている。この延長構造68を適用することで逆回復時に延長端部領域57への電流集中が緩和されるため、FWD88の破壊が防止される。
【0017】
また、下記特許文献3の例えば図3には、ガードリングより低濃度で浅く、アノード低濃度層より高濃度で深い中間層について記載されている。但し、この中間層はガードリングとは繋がっていない。また、コンタクト端部と低濃度層は接触している。また、下記特許文献4の例えば図1図5には、前記従来例と同じ構造で抵抗による作用が記載されている。また、下記特許文献5の例えば図1には、コンタクト端部がアノード層よりも深くて低濃度と示唆されるpリングで覆っている構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特許3444081号公報
【特許文献2】特開2005−340528号公報
【特許文献3】特開2000−114550号公報
【特許文献4】特開2000−49360号公報
【特許文献5】特開2009−38213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、前記の図12に示すような延長構造にした場合、その抵抗領域56の抵抗値Rpoの選択が重要になる。抵抗値Rpoを最適値に設定しないと、抵抗領域56において、エッジ終端構造67側または活性部64側の端部で電流集中が起こり易くなりFWD88の破壊が生じる。
【0020】
図13は、図12のFWD88において、抵抗領域56の抵抗値Rpoが最適値より小さい場合の正孔の挙動を示し、(a)は通電時の図、(b)は逆回復時の図である。図13(a)に示すように、通電時には正孔の注入(図13(a)における符号71を参照)が広い領域で行われる。通電時は、定格電流と順方向電圧降下の積である電力損失は十分小さいので、発熱等の素子破壊は生じない。
【0021】
しかし、図13に示したFWD88においては、逆回復時には、正孔の引き抜き(図13(b)における符号73を参照)が行われ、抵抗値Rpoの低い抵抗領域56の端部である延長端部領域57に電流集中が生じる。エッジ終端構造67の下部に蓄積したキャリアは、延長端部領域57から低抵抗の抵抗領域56に流入してpアノード領域54からアノード電極60に通過する。このとき、延長端部領域57よりも外周側のn-領域53に蓄積したキャリアは、延長端部領域57に集中する。この電流集中により、ポアソンの式に従って延長端部領域57の電界強度が増強され、この延長端部領域57で破壊が起こる。
【0022】
図14は、図12のFWD88において、抵抗領域56の抵抗値Rpoが最適値より大きい場合の正孔の挙動を示し、(a)は通電時の図、(b)は逆回復時の図である。図14(a)に示すように、通電時には正孔の注入が広い領域で行われる(図14(a)における符号71を参照)。ただし、抵抗領域56の抵抗Rpoが大きいため、コンタクト端30からチップ外周側に向かうほど、正孔注入量は減少する。それでも、通電時は、定格電流と順方向電圧降下の積である電力損失は十分小さいので、発熱等の素子破壊は生じない。
【0023】
しかし、図14に示したFWD88においては、逆回復時には、図14(b)に示すように、抵抗値Rpoの高い抵抗領域56には正孔が流入しにくくなり、正孔の引き抜き(図14(b)における符号73を参照)は抵抗領域56を通過しない。このため、コンタクト端30よりも外周に蓄積された正孔は全て、コンタクト端30に向かって集中する。これにより、pアノード領域54と抵抗領域56の接続箇所であるコンタクト端30に電流が過大に集中して、この箇所で素子破壊が起こる。このように、抵抗領域56の抵抗値Rpoが小さ過ぎても大き過ぎても逆回復時に素子破壊を生じ易くなる。
【0024】
特に、コンタクト端30に電流が集中しやすい理由を説明する。図15は、図14(b)のダイオードにおいて、逆回復時の等電位線と正孔の引き抜き(図14(b)における符号73を参照)の関係を示した模式図である。図15において、コンタクト端30よりチップ外周方向では、等電位線41は図のように活性部に向かって湾曲するため、その勾配はコンタクト端30に向かって集中する。符号23は正孔の引き抜きを示している。正孔は、この等電位線41(ポテンシャル)の勾配に沿って空間電荷領域を駆け下りるため、コンタクト端30よりチップ外周側に蓄積された正孔は、全てコンタクト端30に集中することになる。
【0025】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、エッジ終端構造領域と活性部の境界で発生しやすい電流集中を回避し、高い逆回復耐量を有する半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
前記の目的を達成するために、この発明の半導体装置は、第1導電型の半導体基板の第1主面に第2導電型の第1半導体領域を備え、該第1半導体領域を取り囲んで配置されるエッジ終端構造を構成する複数の第2導電型の第2半導体領域を備える。また、前記第1半導体領域に電気的に接続する第1主電極を前記第1主面上に備え、前記第2半導体領域と前記第1半導体領域の間に、前記第1主電極から深さ方向に絶縁膜を挟んで離間した抵抗領域となる第2導電型の第3半導体領域を備える。そして、この半導体装置において、前記第1主電極が前記半導体基板と接触する外周端部からさらに外周方向の該半導体基板表面に、前記第3半導体領域の他に抵抗の異なる2つ以上の第2導電型拡散領域を備えるとともに、前記第3半導体領域および前記2つ以上の第2導電型拡散領域のいずれか1つが前記第1半導体領域に接続する構成とする。
【0027】
また、この発明の半導体装置は、上記の発明において、前記第3半導体領域および前記2つ以上の第2導電型拡散領域のうち少なくとも1つの領域の拡散深さが残余の領域の拡散深さよりも深く、かつ前記第1半導体領域の拡散深さよりも深いとよい。
【0028】
また、この発明の半導体装置は、上記の発明において、前記2つ以上の第2導電型拡散領域のうち第1の拡散領域が、前記第3半導体領域と前記第1半導体領域の間に両方に連接する第2導電型の第4半導体領域であり、前記2つ以上の第2導電型拡散領域のうち第2の拡散領域が、前記第2半導体領域側で前記第3半導体領域より不純物濃度が高くかつ拡散深さが深い第2導電型の第5半導体領域であり、前記第4半導体領域の拡散深さが前記第3半導体領域の拡散深さより深く、前記第4半導体領域の不純物濃度が前記第3半導体領域の不純物濃度より低いとよい。
【0029】
また、この発明の半導体装置は、上記の発明において、前記第4半導体領域の外周方向の幅は5μm以上50μm以下であるとよい。
【0030】
また、この発明の半導体装置は、上記の発明において、前記第3半導体領域の深さ方向の積分濃度が、前記第1半導体領域の不純物濃度より高く、前記2つ以上の第2導電型拡散領域のうち第1の拡散領域が、前記第3半導体領域よりも拡散深さが深く不純物濃度が高いとともに該第3半導体領域の外周側に接続する第2導電型の第5半導体領域であり、前記2つ以上の第2導電型拡散領域のうち第2の拡散領域が、前記第1半導体領域が前記第1主電極の外周端部から外周方向に延在した部分であるとともに前記第3半導体領域に接続するとよい。
【0031】
また、この発明の半導体装置は、上記の発明において、前記第1半導体領域の延在部分の長さが2μm以上50μm未満であるとよい。
【0032】
また、この発明の半導体装置は、上記の発明において、前記第3半導体領域は、前記第1半導体領域が前記第1主電極の外周端部から外周方向に延在した部分であり、前記2つ以上の第2導電型拡散領域のうち第1の拡散領域が、前記第3半導体領域よりも拡散深さが深く不純物濃度が高いとともに該第3半導体領域の外周側に接続する第2導電型の第5半導体領域であり、前記2つ以上の第2導電型拡散領域のうち第2の拡散領域が、前記絶縁膜に接する前記第3半導体領域の表面から前記第3半導体領域を貫通して配置される第2導電型の第6半導体領域であり、該第6半導体領域の不純物濃度が前記第3半導体領域の不純物濃度より高いとよい。
【0033】
また、この発明の半導体装置は、上記の発明において、前記第6半導体領域と前記第1半導体領域の間に配置される前記第3半導体領域の不純物濃度と拡散深さが前記第1半導体領域の不純物濃度と拡散深さに等しいとよい。
【0034】
また、この発明の半導体装置は、上記の発明において、前記第3半導体領域の不純物濃度と拡散深さが前記第1半導体領域の不純物濃度と拡散深さに等しいとよい。
【0035】
また、この発明の半導体装置は、上記の発明において、前記第2導電型拡散領域を備えることにより、前記第1主電極の外周端部よりも内周側に逆回復電流を分流させるとよい。
【0036】
前記の目的を達成するために、この発明の半導体装置は、第1導電型の半導体基板と、該半導体基板の第1主面に形成され、主たる電流を流す活性領域と、該活性領域を取り囲んで配置されるエッジ終端構造と、を備える。前記活性領域に第2導電型の第1半導体領域を備え、前記エッジ終端構造を構成する複数の第2導電型の第2半導体領域を備える。前記第1半導体領域に電気的に接続する第1主電極を前記第1主面上に備え、前記第2半導体領域と前記第1半導体領域の間に、前記第1主電極から深さ方向に絶縁膜を挟んで離間した抵抗領域となる第2導電型の第3半導体領域を備える。前記第1主電極が前記半導体基板と接触する外周端部からさらに外周方向の前記半導体基板表面に、前記第3半導体領域の他に抵抗の異なる2つ以上の第2導電型拡散領域を備える。そして、この半導体装置において、前記第3半導体領域の深さ方向の積分濃度が、前記第1半導体領域の不純物濃度より高く、前記2つ以上の第2導電型拡散領域のうち第1の拡散領域が、前記第3半導体領域よりも拡散深さが深く不純物濃度が高いとともに該第3半導体領域の外周側に接続する第2導電型の第5半導体領域であり、前記2つ以上の第2導電型拡散領域のうち第2の拡散領域が、前記第1半導体領域が前記第1主電極の外周端部から外周方向に延在した部分であるとともに前記第3半導体領域に接続する構成とする。
【0037】
前記の目的を達成するために、この発明の半導体装置は、第1導電型の半導体基板と、該半導体基板の第1主面に形成され、主たる電流を流す活性領域と、該活性領域を取り囲んで配置されるエッジ終端構造と、を備える。前記活性領域に第2導電型の第1半導体領域を備え、前記エッジ終端構造を構成する複数の第2導電型の第2半導体領域を備える。前記第1主面上に、前記第1半導体領域に電気的に接続する第1主電極を備え、前記第2半導体領域と前記第1半導体領域の間に、前記第1主電極から深さ方向に絶縁膜を挟んで離間した抵抗領域となる第2導電型の第3半導体領域を備える。前記第1主電極が前記半導体基板と接触する外周端部からさらに外周方向の前記半導体基板表面に、前記第3半導体領域の他に抵抗の異なる2つ以上の第2導電型拡散領域を備える。そして、この半導体装置において、前記第3半導体領域は、前記第1半導体領域が前記第1主電極の外周端部から外周方向に延在した部分であり、前記2つ以上の第2導電型拡散領域のうち第1の拡散領域が、前記第3半導体領域よりも拡散深さが深く不純物濃度が高いとともに該第3半導体領域の外周側に接続する第2導電型の第5半導体領域であり、前記2つ以上の第2導電型拡散領域のうち第2の拡散領域が、前記絶縁膜に接する前記第3半導体領域の表面から前記第3半導体領域を貫通して配置される第2導電型の第6半導体領域であり、該第6半導体領域の不純物濃度が前記第3半導体領域の不純物濃度より高い構成とする。
【0038】
この発明によれば、pアノード領域とエッジ終端構造を構成するpガードリング領域の間に抵抗領域を設け、さらに、pアノード領域と抵抗領域の間に両者に接する低濃度のp拡散領域を設ける。また、前記p拡散領域の表面層に高濃度領域を設けることで、アノード電極のコンタクト端部近辺への電流集中を抑える。
【0039】
また、この発明によれば、pアノード領域より拡散深さの深く、pガードリング領域の拡散深さより浅い抵抗領域を、pアノード領域とpガードリング領域に接して配置し、さらに、pアノード領域がアノード電極に接する箇所の端部をpアノード領域の端部から内部に向かって後退させ、この後退量を2μm〜50μmとすることで、アノード電極のコンタクト端部近辺への電流集中を抑える。
【0040】
また、この発明によれば、抵抗領域に抵抗領域の不純物濃度より高く、拡散深さが深い高濃度領域を設けることで、アノード電極のコンタクト端部近辺への電流集中を抑える。
【発明の効果】
【0041】
この発明によれば、エッジ終端構造領域と活性部の境界で発生しやすい電流集中を回避し、高い逆回復耐量を有する半導体装置を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1図1は、この発明の実施例1に係る半導体装置100の要部断面図である。
図2図2は、図1の構造での正孔の挙動を説明する図であり、(a)は通電時の図、(b)は逆回復時の図である。
図3図3は、この発明の実施例2に係る半導体装置200の要部断面図である。
図4図4は、この発明の実施例3に係る半導体装置300の要部断面図である。
図5図5は、アノードコンタクト後退量と電界強度の関係を示す図である。
図6図6は、この発明の実施例4に係る半導体装置400の要部断面図である。
図7図7は、実施例1〜4の半導体装置100〜400のpアノード領域4付近の要部構成図である。
図8図8は、パワー半導体モジュール500の要部回路図である。
図9図9は、従来のFWD88の要部断面図である。
図10図10は、IGBT87とFWD88の電圧電流波形を示す説明図である。
図11図11は、FWD88に流れる正孔の挙動について説明する図であり、(a)は通電時の図、(b)は逆回復時の図である。
図12図12は、延長構造68を有するFWD88の要部断面図である。
図13図13は、図12のFWD88において、抵抗領域56の抵抗値Rpoが最適値より小さい場合の正孔の挙動を示し、(a)は通電時の図、(b)は逆回復時の図である。
図14図14は、図12のFWD88において、抵抗領域56の抵抗値Rpoが最適値より大きい場合の正孔の挙動を示し、(a)は通電時の図、(b)は逆回復時の図である。
図15図15は、図14(b)のダイオードにおいて、逆回復時の等電位線と正孔の引き抜き(図14(b)における符号73を参照)の関係を示した模式図である。
図16図16は、実施例1のダイオードの断面において、逆回復時の等電位線41と正孔の引き抜き(図16における符号23を参照)の関係を示した模式図である。
図17図17は、実施例3のダイオードの断面において、逆回復時の等電位線41と正孔の引き抜き(図17における符号23を参照)の関係を示した模式図である。
図18図18は、実施例4のダイオードの断面において、逆回復時の等電位線41と正孔の引き抜き(図18における符号23を参照)の関係を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
実施の形態を以下の実施例で説明する。以下の説明において、領域の先頭に付されたpは導電型がp型、nは導電型がn型であることを示す。また、以下の説明において、半導体基板となるウェハーを個々の半導体装置に断片化した状態を、適宜チップとして説明する。
【実施例1】
【0044】
図1は、この発明の実施例1に係る半導体装置100の要部断面図である。図1においては、図8のFWD88に相当するFWDの要部断面であり、活性部端部付近から半導体基板の外周部までの半導体装置の要部断面を示している。図1において、半導体装置100は、nドリフト領域2の上面に配置されるpアノード領域4を備えている。nドリフト領域2上には、pアノード領域4と接して配置され、pアノード領域4よりも低濃度で拡散深さの深いp拡散領域5が設けられている。nドリフト領域2の外延部のn-領域3には、エッジ終端構造17などが形成される。
【0045】
-領域3上には、p拡散領域5と接して配置される抵抗領域6と、抵抗領域6と接して配置される抵抗端部領域7と、抵抗端部領域7と離して配置される複数本のpガードリング領域8と、pガードリング領域8と離して配置されるpストッパ領域9と、が設けられている。n半導体基板1に形成される各領域は、n半導体基板1におけるnドリフト領域2とその外延部のn-領域3には形成されない。
【0046】
また、半導体装置100は、pアノード領域4とp拡散領域5に電気的に接続して配置されるアノード電極10を備える。以下の説明においては、アノード電極10が、pアノード領域4またはそれに接続するp型の拡散層の表面に接続している接触面の端の部分を、コンタクト端30と呼ぶ。また、以下の説明においては、さらに、コンタクト端30からチップ外周側に向かって抵抗端部領域7の外周端部までの領域を、緩衝領域18と呼ぶ。
【0047】
半導体装置100は、緩衝領域18に電気抵抗(以下、単に抵抗と呼ぶ)の異なる3つかそれ以上のp型領域を有することを特徴の一つとしている。実施例1の半導体装置100は、コンタクト端30に接続しているp拡散領域5と、p型拡散領域とその外周側で接続する抵抗領域6と、抵抗領域6とその外周側に接続する抵抗端部領域7の3つの領域を有している。
【0048】
これらの抵抗が異なるとは、具体的には各3領域の不純物(ドーピング)濃度を半導体基板の表面から深さ方向に積分した積分濃度が異なることである。また、各3領域のシート抵抗は、積分濃度にキャリア移動度(p型層の場合は正孔)と電荷素量を掛けた値の逆数であるので、各3領域のシート抵抗が異なると言っても良い。尚、各3領域のうち2つが同じ抵抗(積分濃度、シート抵抗)であってもよい。緩衝領域18には、少なくとも異なる2種類の抵抗値を有する3つのp型領域があればよい。
【0049】
半導体装置100は、n-領域3上、抵抗領域6上、抵抗端部領域7上、pガードリング領域8上、pストッパ領域9上に配置される絶縁膜11を備える。また、半導体装置100は、pガードリング領域8上に電気的に接続して絶縁膜11上に配置されるガードリング電極12と、pストッパ領域9上に電気的に接続して配置されるストップ電極13を備える。絶縁膜11としては、PSG(リンガラス)膜、熱酸化膜(フィールド酸化膜も含む)、および酸化膜とPSG膜の積層膜などがある。図1は一層の絶縁膜で示したが、その中で、例えば、厚さが薄い箇所は熱酸化膜だけで、厚さが厚い箇所は熱酸化膜の上にPSG膜を堆積させた複合膜であってもよい。
【0050】
半導体装置100は、nドリフト領域2の下とその延在部のn-領域3下に配置されるnカソード領域15と、nカソード領域15に電気的に接続して配置されるカソード電極16を備える。前記のnドリフト領域2と延在部のn-領域3は、n半導体基板1で各拡散領域が形成されない。nドリフト領域2と延在部のn-領域3の不純物濃度は、n半導体基板1の不純物濃度と同じであり、例えば1013cm-3程度である。nドリフト領域2と延在部のn-領域3の不純物濃度は、n半導体基板1の不純物濃度と異なっていてもよい。
【0051】
前記のpアノード領域4は、不純物濃度を例えば2×1016cm-3程度(例えば3×1015cm-3〜1×1017cm-3)とし、その拡散深さを例えば5μm程度(例えば3μm〜7μm)とすることができる。この場合、pアノード領域4の積分濃度は、拡散分布がガウシアンであると仮定すると、積分濃度は約4×1012cm-2(例えば4×1011cm-2〜3×1013cm-2)で、シート抵抗は約4000Ω/□(1000Ω/□〜30000Ω/□)である。
【0052】
前記のpガードリング領域8は、不純物濃度が高いp領域(p+)である。pガードリング領域8は、不純物濃度を例えば1018cm-3〜1019cm-3程度またはそれ以上とし、その拡散深さを例えば10μm(例えば7μm〜15μm)程度とすることができる。この場合、pガードリング領域8の積分濃度は約3×1014cm-2(例えば2×1014cm-2〜4×1015cm-2)で、シート抵抗は約220Ω/□(例えば30Ω/□〜300Ω/□)である。
【0053】
前記の抵抗端部領域7は、pガードリング領域8と不純物濃度および拡散深さが同じp領域である。この抵抗端部領域7は、pガードリング領域8の一部と見なすこともできる。前記の抵抗領域6は、不純物濃度を1017cm-3程度(例えば3×1016cm-3〜3×1017cm-3)とし、その拡散深さを例えば7μm程度(例えば5μm〜10μm)のp領域(p)とすることができる。この場合、抵抗領域6の積分濃度は約2.5×1013cm-2(例えば5×1012cm-2〜1×1014cm-2)で、シート抵抗は約1100Ω/□(例えば400Ω/□〜3000Ω/□)である。
【0054】
p拡散領域5は、低濃度のp領域(p-)である。p拡散領域5は、不純物濃度を例えば3×1015cm-3程度(例えば1015cm-3〜1016cm-3)とし、その拡散深さを例えば10μm程度(8μm以上15μm以下)の低濃度のp領域(p-)とすることができる。この場合、p拡散領域5の積分濃度は約1.4×1012cm-2(例えば4×1011cm-2〜6×1012cm-2)で、シート抵抗は約10000Ω/□(例えば2000Ω/□〜30000Ω/□)である。これは、前記の抵抗領域6の不純物濃度より低く、拡散深さは深い。このp拡散領域5はn-領域3への正孔の注入を抑えて蓄積する正孔量を少なくする働きがあり、逆回復時のpアノード領域4での電流集中を緩和する働きがある。
【0055】
このp拡散領域5の底部5aを平坦化するために、その幅Wを5μm〜50μmの範囲にするとよい。5μm未満では平坦化の程度が小さ過ぎて、この箇所での電流集中が大きくなる。一方、50μm超ではpアノード領域4の面積が小さくなり、FWDのオン電圧を上昇させる。また、好ましくは、10μm〜30μmの範囲がよい。半導体装置100において、pアノード領域4と、p拡散領域5のうちコンタクト端30までを活性部14とする。また、pガードリング領域8、pストッパ領域9、絶縁膜11が形成される領域をエッジ終端構造17とする。
【0056】
n半導体基板1の裏面には、nドリフト領域2の下とその延在部のn-領域3の下に不純物濃度が1018cm-3程度で拡散深さが1μm程度の高濃度のnカソード領域15が配置され、このnカソード領域15に電気的に接続するカソード電極16が配置される。カソード電極16は、例えばTi/Ni/Auの3層金属膜で形成される。アノード電極10、ガードリング電極12およびストップ電極13は、例えばAl−Si膜で形成される。
【0057】
図2は、図1の構造での正孔の挙動を説明する図であり、(a)は通電時の図、(b)は逆回復時の図である。図2においては、図11と同様に、通電時には活性部14の下部のnドリフト領域2においても正孔・電子対の蓄積が生じるが、図示は省略している。図2(a)において、通電時は、抵抗領域6に接するp拡散領域5からの正孔の注入21はpアノード領域4よりも小さい。また、抵抗領域6からの正孔の注入21は、コンタクト端30からエッジ終端構造17側に向かって小さくなる。
【0058】
一方、抵抗領域6の外端部6aと接するエッジ終端構造17の最内周に隣接して設けられた抵抗端部領域7からの正孔の注入21は、抵抗端部領域7の不純物濃度が高いため、抵抗領域6の内端部6bからの正孔の注入21より大きくなる。そのため、正孔の注入21が大きくなる箇所は抵抗領域6の外端部6aおよび内端部6bに分散される。また、p拡散領域5からの正孔の注入21aは、不純物濃度が低いため抑制される。また、不純物濃度が低いために、p拡散領域5自体は、電流制限抵抗体Rとして機能する。そのため、抵抗領域6に接するp拡散領域5からの正孔の注入21aは、p拡散領域5を設けない場合に比べて抑制されて、電流集中が抑えられる。
【0059】
図2(b)において、逆回復時は、エッジ終端構造17の下部に蓄積した正孔の蓄積22は、抵抗端部領域7や抵抗領域6から引き抜かれる。この正孔の引き抜き(図2(b)における符号23を参照)は抵抗端部領域7や抵抗領域6では抵抗値Rpが高いため、正孔が抵抗領域6を通ってpアノード領域4に異動するときに電位差が生じる。この電位差は、抵抗領域6の抵抗にもよるが、およそ100〜200Vである。
【0060】
このため、正孔の引き抜き(図2(b)における符号23aを参照)の量は少なく、蓄積した正孔の蓄積22の殆どはp拡散領域5およびpアノード領域4で引き抜かれる。また、p拡散領域5の濃度は、pアノード領域4よりも低濃度で、かつ、拡散深さが深い。そのため、蓄積した正孔の蓄積22は、コンタクト端30へ向かうだけでなく、p拡散領域5よりも内周側のpアノード領域4に分流されるこの分流が、コンタクト端30への電流集中を緩和するために、逆回復耐量が向上する。
【0061】
この逆回復電流の「分流」が生じる理由について、図16を用いて説明する。図16は、実施例1のダイオードの断面において、逆回復時の等電位線41と正孔の引き抜き(図16における符号23を参照)の関係を示した模式図である。等電位線41は、特に低電圧側のみ記載し、高電圧側(nカソード領域15側)の方は図示を省略する。
【0062】
逆回復時に、p拡散領域5におけるアノード電極10と同電位の線(空乏層端となる)は、pアノード領域4よりも低濃度のために浅く分布する。一方、電位が高くなると、p拡散領域5が深い拡散のため、等電位線41は深さ方向に伸びる。すなわち、pアノード領域4および抵抗領域6よりも深く等電位線41が分布する。これにより、このp拡散領域5のpn接合近辺では、電位の勾配は緩やかになる。つまり電界強度が緩和される。正孔は、電位勾配に沿って空間電荷領域を駆け下りるので、正孔はこの緩和領域を避けて電位勾配の急な方、すなわちpアノード領域4の側に落ちるようになる。
【0063】
さらに、コンタクト端30は、低濃度のp拡散領域5内部に位置している。そのため、正孔は、このp拡散領域5の高抵抗の影響を受け、それより低抵抗であるpアノード領域4の方からアノード電極10に流れるようになる。すなわち、正孔電流がp拡散領域5よりもpアノード領域4の方に分流されるようになる。尚、緩衝領域18の3つのp型拡散領域は、前述のように、積分濃度の他に少なくとも2つの異なる拡散深さを有するようにしてもよく、分流の効果を一層強くできる。
【0064】
以上の理由により、正孔はコンタクト端30に集中せずにpアノード領域4からアノード電極10に流れ、コンタクト端30への電流集中が緩和され素子破壊は防止される。また、前記したように、p拡散領域5を設けることで、通電時と共に逆回復時での電流集中を防止することができる。その結果、高い逆回復耐量を有する半導体装置100を製作することができる。
【実施例2】
【0065】
図3は、この発明の実施例2に係る半導体装置200の要部断面図である。実施例1との違いは、pアノード領域4上とp拡散領域5上に拡散深さの浅い高濃度のp領域25(p+)を形成した点である。p拡散領域5の表面濃度が低い場合に、アノード電極10とのオーミック接触が困難になり、接触抵抗が大きくなる。接触抵抗が大きくなると、p拡散領域5からの正孔の引き抜き量が減少し、正孔の引き抜きの殆どがpアノード領域4で行われる。そうすると、pアノード領域4で電流集中が発生し素子破壊を招く。
【0066】
これを防止する方策として、p拡散領域5の不純物濃度を低くしたまま、アノード電極10との接触抵抗を小さくするために、p拡散領域5より不純物濃度が高く拡散深さが浅いp領域25を設けるとよい。p領域25を設けることで、p拡散領域5で引き抜かれる正孔の量が多くなり、pアノード領域での電流集中が改善されて、素子破壊を防止することができる。
【0067】
尚、前記の実施例1および実施例2ではpガードリング領域8の不純物濃度が高く、p拡散領域5の不純物濃度を低くしたが、pガードリング領域8の不純物濃度をp拡散領域5の不純物濃度に合わせる場合もある。このように合わせた場合には、両者を同時に形成できるので、半導体装置100、200の製造コストを低減できる。
【実施例3】
【0068】
図4は、この発明の実施例3に係る半導体装置300の要部断面図である。この半導体装置300の実施例1との違いは、以下の2点である。1点目は、pアノード領域4および抵抗領域6の拡散深さより深く、pガードリング領域8の拡散深さより浅い抵抗領域26をpアノード領域4と抵抗端部領域7に接して配置することである。2点目は、pアノード領域4がアノード電極10と接触する箇所の端部を抵抗領域26から離した(後退させた)ことである。図4においては、絶縁膜11は、リンガラスのPSG膜11bと熱酸化膜11aの二層絶縁膜で示した。
【0069】
実施例3の緩衝領域18も、3つの異なる抵抗領域を有する。第1の抵抗領域は、コンタクト端30からチップ外周に距離Tだけ延在する(あるいは後退する)pアノード領域4である。第2の抵抗領域は、pアノード領域4の外延部と接続する抵抗領域26である。第3の抵抗領域は、抵抗領域26の外周側に接続する抵抗端部領域7である。
【0070】
前記した抵抗領域26を前記のpアノード領域4の拡散深さより深くすることで、この抵抗領域26で引き抜かれる正孔量は多くなり、pアノード領域4も含めて正孔の引き抜きが均等化される。また、前記の抵抗領域26の表面不純物濃度を抵抗領域6の表面不純物濃度と等しくした場合には、抵抗領域26の拡散深さが抵抗領域6の拡散深さより深いために、抵抗領域26の抵抗値Rp1は抵抗領域6の抵抗値Rp(図3参照)より小さくなる。
【0071】
すなわち、pアノード領域4と抵抗領域26のそれぞれの積分濃度が異なる。抵抗端部領域7は、pガードリング領域8と同じ程度に高濃度で拡散深さが深いため、抵抗値は低くなる。その結果、抵抗領域6より抵抗領域26の方が正孔の引き抜き効果が高くなり、pアノード領域4も含めて正孔の引き抜きが均等化される。
【0072】
尚、抵抗領域26を前記の抵抗領域6と拡散深さを同じにする場合もある。但し、抵抗領域26を前記の抵抗領域6と拡散深さを同じにする場合、pアノード領域4の拡散深さよりは深くする。この素子構成においては、アノード電極10と接触しないpアノード領域4の外周部は抵抗体Raとして働く。つまり、抵抗領域26から後退したpアノード領域4の後退箇所27は、実施例1および2のp拡散領域5のような働きをする。
【0073】
実施例3のダイオードが、コンタクト端30への電流集中を緩和できる理由について、図17を用いて説明する。図17は、実施例3のダイオードの断面において、逆回復時の等電位線41と正孔の引き抜き(図17における符号23を参照)の関係を示した模式図である。等電位線41は、特に低電圧側のみ記載し、高電圧側(nカソード領域15側)の方は図示を省略する。
【0074】
逆回復時の等電位線41は、pアノード領域4よりも拡散深さが深い抵抗領域26において、nドリフト領域2の方に押し出される。すなわち、実施例1と同様に、pアノード領域4と抵抗領域26の境界近傍で、等電位線41の分布が広くなり、電位勾配が緩和される。その結果、正孔の引き抜き(図17における符号23を参照)は、コンタクト端30よりもpアノード領域4の方に分流される。さらに、コンタクト端30を、pアノード領域4と抵抗領域26の境界よりも後退させているために、コンタクト端30への電流集中は回避されるようになる。これにより、正孔はコンタクト端30に集中せずにpアノード領域4からアノード電極に流れ、コンタクト端30への電流集中が緩和され素子破壊は防止される。この後退箇所27の幅(後退量Tとする)を適正な値に設定することで、逆回復時において、pアノード領域4での電流集中が抑制されて素子破壊を防止できる。
【0075】
つぎに、後退量Tと電界強度Eの関係を説明する。図5は、アノードコンタクト後退量と電界強度の関係を示す図である。縦軸のEは任意スケールである。電界強度Eは逆回復時の電界強度である。素子が破壊する電界強度は図の範囲外であるが、高い信頼性で確保するためには、図示した発明の範囲にする必要がある。つまり、後退量Tを2μm〜35μmの範囲にするとよい。この範囲を超えると電界強度が高くなり、高い信頼性が得られなくなる。また、さらに好ましい範囲は、3μm〜10μmである。
【0076】
以上のように、緩衝領域18の3つのp型拡散領域は、積分濃度の他に少なくとも2つの異なる拡散深さを有するようにしてもよく、分流の効果を一層強くできる。
【実施例4】
【0077】
図6は、この発明の実施例4に係る半導体装置400の要部断面図である。前記の実施例1および実施例2との違いは、p拡散領域5を除去し、抵抗領域6の中間付近に高濃度のp拡散領域28を配置した点である。この高濃度のp拡散領域28は抵抗領域6の不純物濃度より高く、その拡散深さを深くしている。この高濃度のp拡散領域28は蓄積した正孔を効率よく引き抜けるため、電流集中が緩和されて、素子破壊を防止できる。
【0078】
尚、この高濃度のp拡散領域28は、抵抗領域6内であれば任意の箇所に配置することができる。また、p拡散領域28とpアノード領域4との間に配置される抵抗領域6をpアノード領域4と同時に形成して不純物濃度と拡散深さを同じにする場合もある。さらに、抵抗領域6全域をpアノード領域4と同時に形成して不純物濃度と拡散深さを同じにする場合もある。この場合は製造工程が簡略化されるので製造コストを低減できる。
【0079】
実施例4の緩衝領域18も、3つの異なる抵抗領域を有する。第1の抵抗領域は、コンタクト端30からpアノード領域4がチップ外周側に延在する抵抗領域6である。第2の抵抗領域は、pアノード領域4の外延部と接続するp拡散領域28である。第3の抵抗領域は、第1と同じ抵抗領域6である。この場合、緩衝領域18の抵抗値は、pアノード領域4と同じ濃度分布の抵抗領域6と、p拡散領域28の2種類である。
【0080】
実施例4のダイオードが、コンタクト端30への電流集中を緩和できる理由について、図18を用いて説明する。図18は、実施例4のダイオードの断面において、逆回復時の等電位線41と正孔の引き抜き(図18における符号23を参照)の関係を示した模式図である。等電位線41は、特に低電圧側のみ記載し、高電圧側(nカソード領域15側)の方は図示を省略する。
【0081】
逆回復時の等電位線41は、pアノード領域4および抵抗領域6よりも拡散深さが深いp拡散領域28において、nドリフト領域2の方に押し出される。すなわち、実施例1と同様に、抵抗領域6とp拡散領域28の境界近傍で、等電位線41の分布が広くなり、電位勾配が緩和される。その結果、正孔の引き抜き23は、コンタクト端30よりもpアノード領域4の方に分流される。これにより、正孔はコンタクト端30に集中せずにpアノード領域4からアノード電極10に流れ、コンタクト端30への電流集中が緩和され素子破壊は防止される。
【0082】
また、p拡散領域28は、抵抗領域6のチップ外周方向における中間位置よりも、pアノード領域4側に形成すれば、分流の効果は大きくできる。さらに上述のように、緩衝領域18の3つのp型拡散領域は、積分濃度の他に少なくとも2つの異なる拡散深さを有するようにしてもよく、分流の効果を一層強くできる。
【0083】
上述した実施例1〜4における半導体装置100〜400のpアノード領域4付近の構成は、例えばつぎのような構成がある。図7は、実施例1〜4の半導体装置100〜400のpアノード領域4付近の要部構成図である。ここでは8種類の例を示した。
(1)nドリフト領域2上に不純物濃度が低いp-アノード領域31を配置し、その上にアノード電極10を配置する(同図(a))。
(2)(1)のp-アノード領域31上全域に拡散深さの浅い高濃度のp領域32を配置し、その上にアノード電極10を配置する。この太線で示すp領域32は図3に示すp領域25に相当する。(同図(b))。
(3)(2)のp領域32をp-アノード領域31上の全域でなく選択的に配置する(同図(c))。
(4)(1)のp-アノード領域31内に高濃度のp領域33を選択的に配置する(同図(d))。
(5)(1)のp-アノード領域31を不純物濃度が高い、拡散深さが浅いpアノード領域34に置き換える(同図(e))。
(6)(5)のpアノード領域34上の全域に拡散深さの浅い高濃度のp領域32を配置し、その上にアノード電極10を配置する(同図(f))。
(7)(5)のpアノード領域34を選択的に配置する(同図(g))。
(8)(7)のアノード電極10下の全域に拡散深さの浅い高濃度のp領域32を配置する(同図(h))。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上のように、本発明にかかる半導体装置は、パワー半導体モジュールに有用である。
【符号の説明】
【0085】
1 n半導体基板
2 nドリフト領域
3 n-領域
4,54 pアノード領域
5,28 p拡散領域
5a 底部
6,26,56 抵抗領域
6a 外端部
6b 内端部
7 抵抗端部領域
8 pガードリング領域
9 pストッパ領域
10,60 アノード電極
11 絶縁膜
11a 熱酸化膜
11b PSG膜
12 ガードリング電極
13 ストップ電極
14,64 活性部
15 nカソード領域
16 カソード電極
17,67 エッジ終端構造
18 緩衝領域
21,21a,71 正孔の注入
22 正孔の蓄積
23,23a,73 正孔の引き抜き
25 p領域
27 後退箇所
30 コンタクト端
31 p-アノード領域
32,33 p領域
34 pアノード領域
41 等電位線
57 延長端部領域
68 延長構造
87 IGBT
88 FWD
100,200,300,400 半導体装置
W,T 幅
R,Ra 抵抗体
Rp,Rp1 抵抗値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18