【文献】
Christian Sterwerf ,他3名,High TMR ratio Co2FeSi and Fe2CoSi based magnetic tunnel junctions,IEEE Transactions on Magnetics,米国,2013年 8月 9日,Vol.49, No.7,p.4386-4389
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1強磁性金属層と前記第2強磁性金属層の少なくとも一方が、前記結晶界面に対して垂直な磁気異方性を有している請求項1〜17のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
強磁性材料を探索したところFe
2CoSiは軟磁性であることが確認された。すなわち、Fe
2CoSiは磁気センサ、メモリセンサ、MRAM等の磁気抵抗効果素子の自由層に適用できる材料であり、今後の発展が期待される。一方で、Fe
2CoSiはまだ十分な検討が進められていない材料である。そのため、Fe
2CoSiを磁気抵抗効果素子に用いた場合に、どのような問題が発生するかについて十分な報告がされていない。
このような背景のもと、自由層にFe
2CoSiを用いる検討を行ったところ、十分なMR比が得られない場合があった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、軟磁性材料であるFe
2CoSiを含み、高いMR比を有する磁気抵抗効果素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、トンネルバリア層と強磁性層を積層する際の格子の整合状態を設定することで、高いMR比を有する磁気抵抗効果素子が得られることを見出した。
すなわち、本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0009】
(1)本発明の一態様にかかる磁気抵抗効果素子は、第1強磁性金属層と、第2強磁性金属層と、前記第1強磁性金属層と前記第2強磁性金属層との間に設けられたトンネルバリア層とを有し、前記トンネルバリア層は立方晶の結晶構造を有し、前記第1強磁性金属層又は前記第2強磁性金属層は、Fe
2CoSiで表される立方晶の結晶構造を有する材料により構成され、前記トンネルバリア層と前記第1強磁性金属層又は前記第2強磁性金属層との結晶界面の少なくとも一部において、前記トンネルバリア層を構成する結晶の結晶面と、前記第1強磁性金属層又は前記第2強磁性金属層を構成する結晶の結晶面とが、0°又は45°傾いて整合している。
【0010】
(2)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記トンネルバリア層がMgO、MgAl
2O
4、γ−Al
2O
3、ZnAl
2O
4またはこれらの混晶材料のいずれかにより構成され、前記結晶界面において、前記トンネルバリア層を構成する結晶の結晶面と、前記第1強磁性金属層又は前記第2強磁性金属層を構成する結晶の結晶面とが、45°傾いて整合していてもよい。
【0011】
(3)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記トンネルバリア層がMgOにより構成されていてもよい。
【0012】
(4)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記トンネルバリア層がMgAl
2O
4により構成されていてもよい。
【0013】
(5)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記トンネルバリア層がγ−Al
2O
3により構成されていてもよい。
【0014】
(6)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記トンネルバリア層がZnAl
2O
4により構成されていてもよい。
【0015】
(7)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記トンネルバリア層がMgGa
2O
4、ZnGa
2O
4、CdAl
2O
4またはこれらの混晶材料のいずれかにより構成されていてもよい。
【0016】
(8)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記トンネルバリア層がMgGa
2O
4により構成され、前記結晶界面において、前記トンネルバリア層を構成する結晶の結晶面と、前記第1強磁性金属層又は前記第2強磁性金属層を構成する結晶の結晶面とが、45°傾いて整合していてもよい。
【0017】
(9)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記トンネルバリア層がMgGa
2O
4により構成され、前記結晶界面において、前記トンネルバリア層を構成する結晶の結晶面と、前記第1強磁性金属層又は前記第2強磁性金属層を構成する結晶の結晶面とが、0°傾いて整合していてもよい。
【0018】
(10)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記トンネルバリア層がMgGa
2O
4により構成され、前記結晶界面において、前記トンネルバリア層を構成する結晶の結晶面と、前記第1強磁性金属層又は前記第2強磁性金属層を構成する結晶の結晶面とが、0°傾いて整合している部分と45°傾いて整合している部分とが混在していてもよい。
【0019】
(11)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記トンネルバリア層がZnGa
2O
4により構成され、前記結晶界面において、前記トンネルバリア層を構成する結晶の結晶面と、前記第1強磁性金属層又は前記第2強磁性金属層を構成する結晶の結晶面とが、45°傾いて整合していてもよい。
【0020】
(12)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記トンネルバリア層がZnGa
2O
4により構成され、前記結晶界面において、前記トンネルバリア層を構成する結晶の結晶面と、前記第1強磁性金属層又は前記第2強磁性金属層を構成する結晶の結晶面とが、0°傾いて整合していてもよい。
【0021】
(13)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記トンネルバリア層がZnGa
2O
4により構成され、前記結晶界面において、前記トンネルバリア層を構成する結晶の結晶面と、前記第1強磁性金属層又は前記第2強磁性金属層を構成する結晶の結晶面とが、0°傾いて整合している部分と45°傾いて整合している部分とが混在していてもよい。
【0022】
(14)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記トンネルバリア層がCdAl
2O
4により構成され、前記結晶界面において、前記トンネルバリア層を構成する結晶の結晶面と、前記第1強磁性金属層又は前記第2強磁性金属層を構成する結晶の結晶面とが、45°傾いて整合していてもよい。
【0023】
(15)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記トンネルバリア層がCdAl
2O
4により構成され、前記結晶界面において、前記トンネルバリア層を構成する結晶の結晶面と、前記第1強磁性金属層又は前記第2強磁性金属層を構成する結晶の結晶面とが、0°傾いて整合していてもよい。
【0024】
(16)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記トンネルバリア層がCdAl
2O
4により構成され、前記結晶界面において、前記トンネルバリア層を構成する結晶の結晶面と、前記第1強磁性金属層又は前記第2強磁性金属層を構成する結晶の結晶面とが、0°傾いて整合している部分と45°傾いて整合している部分とが混在していてもよい。
【0025】
(17)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記トンネルバリア層がCdGa
2O
4により構成され、前記結晶界面において、前記トンネルバリア層を構成する結晶の結晶面と、前記第1強磁性金属層又は前記第2強磁性金属層を構成する結晶の結晶面とが、0°傾いて整合していてもよい。
【0026】
(18)上記態様にかかる磁気抵抗効果素子において、前記第1強磁性金属層と前記第2強磁性金属層の少なくとも一方が、前記結晶界面に対して垂直な磁気異方性を有していてもよい。
【0027】
(19)本発明の一態様にかかる磁気センサは、上記態様にかかる磁気抵抗効果素子を用いたものである。
【0028】
(20)本発明の一態様にかかる磁気メモリは、上記態様にかかる磁気抵抗効果素子を用いたものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、軟磁性材料であるFe
2CoSiを含み、高いMR比を有する磁気抵抗効果素子をえることができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0032】
「磁気抵抗効果素子」
図1は、本実施形態にかかる磁気抵抗効果素子の断面模式図である。
図1に示す磁気抵抗効果素子10は、基板11上に設けられている。
図1に示す磁気抵抗効果素子10は、基板11側から下地層4、第1強磁性金属層1、トンネルバリア層3、第2強磁性金属層2、キャップ層5の順に積層されている。下地層4及びキャップ層5は必須の層ではなく、除いてもよい。
【0033】
(第1強磁性金属層、第2強磁性金属層)
第1強磁性金属層1は、第2強磁性金属層2より保磁力が大きい。すなわち、第1強磁性金属層1の磁化が一方向に固定され、第2強磁性金属層2の磁化の向きが相対的に変化することで、磁気抵抗効果素子10として機能する。第1強磁性金属層1は固定層または参照層と呼ばれ、第2強磁性金属層2は自由層または記録層と呼ばれる。
【0034】
第1強磁性金属層1には、公知の材料を用いることができる。例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属及びこれらの金属を1種以上含み強磁性を示す合金を用いることができる。またこれらの金属と、B、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とを含む合金を用いることもできる。具体的には、Co−FeやCo−Fe−Bが挙げられる。
【0035】
またより高い出力を得るためにはCo
2FeSiなどのホイスラー合金を用いることが好ましい。ホイスラー合金は、X
2YZの化学組成をもつ金属間化合物を含み、Xは、周期表上でCo、Fe、Ni、あるいはCu族の遷移金属元素または貴金属元素であり、Yは、Mn、V、CrあるいはTi族の遷移金属でありXの元素種をとることもでき、Zは、III族からV族の典型元素である。例えば、Co
2FeSi、Co
2MnSiやCo
2Mn
1−aFe
aAl
bSi
1−bなどが挙げられる。
【0036】
また、第1強磁性金属層1の第2強磁性金属層2に対する保磁力をより大きくするために、第1強磁性金属層1と接する材料としてIrMn,PtMnなどの反強磁性材料を用いても良い。さらに、第1強磁性金属層1の漏れ磁場を第2強磁性金属層2に影響させないようにするため、シンセティック強磁性結合の構造としても良い。
【0037】
さらに第1強磁性金属層1の磁化の向きを積層面に対して垂直にする場合には、CoとPtの積層膜を用いることが好ましい。具体的には、第1強磁性金属層1は[Co(0.24nm)/Pt(0.16nm)]
6/Ru(0.9nm)/[Pt(0.16nm)/Co(0.16nm)]
4/Ta(0.2nm)/FeB(1.0nm)とすることができる。
【0038】
第2強磁性金属層2の材料として、Fe
2CoSiが用いられる。Fe
2CoSiは軟磁性材料である。そのため、第1強磁性金属層1より第2強磁性金属層2のスピンは磁化反転しやすく、自由層として最適である。またFe
2CoSiは立方晶の結晶構造を有する。また、Fe
2CoSiはこの組成比に必ずしも限定されない。FeとCoは互いに、元素の位置を交換することができるため、Feが2よりも大きく成りえる。同様に、Coが1よりも大きくなりえる。軟磁性材料としての機能は少なくともFeがCoよりも多い場合に生じる。
【0039】
第2強磁性金属層2の磁化の向きを積層面に対して垂直にする場合には、第2強磁性金属層2の厚みを2.5nm以下とすることが好ましい。第2強磁性金属層2とトンネルバリア層の界面で、第2強磁性金属層2に垂直磁気異方性を付加することができる。また、垂直磁気異方性は第2強磁性金属層2の膜厚を厚くすることによって効果が減衰するため、第2強磁性金属層2の膜厚は薄い方が好ましい。
【0040】
磁気センサとして磁気抵抗効果素子を活用させるためには、外部磁場に対して抵抗変化が線形に変化することが好ましい。一般的な強磁性層の積層膜では磁化の方向が形状異方性によって積層面内に向きやすい。この場合、例えば外部から磁場を印可して、第1強磁性金属層と第2強磁性金属層の磁化の向きを直交させることによって外部磁場に対して抵抗変化が線形に変化する。しかしながらこの場合、磁気抵抗効果素子の近くに磁場を印可させる機構が必要であり、集積を行う上で望ましくない。そのため強磁性金属層自体が垂直な磁気異方性を持つことが好ましい。
【0041】
ここでは、磁気抵抗効果素子10として、第1強磁性金属層1を磁化固定層とし、第2強磁性金属層2を磁化自由層としている、いわゆるボトムピン構造の例を挙げたが、磁気抵抗効果素子10の構造は特に限定されるものではない。第1強磁性金属層1を磁化自由層とし、第2強磁性金属層を磁化固定層としたトップピン構造としてもよい。この場合、第1強磁性金属層1を構成する材料が、Fe
2CoSiとなる。
【0042】
(トンネルバリア層)
トンネルバリア層3は非磁性絶縁材料からなる。トンネルバリア層3の膜厚は、一般的に3nm以下の厚さである。金属材料によってトンネルバリア層3を挟み込むと金属材料の原子が持つ電子の波動関数がトンネルバリア層3を超えて広がるため、回路上に絶縁体が存在するにも関わらず電流が流れる。磁気抵抗効果素子10は、トンネルバリア層3を強磁性金属材料(第1強磁性金属層1及び第2強磁性金属層2)で挟み込む構造であり、挟み込んだ強磁性金属のそれぞれの磁化の向きの相対角によって抵抗値が決定される。
【0043】
磁気抵抗効果素子10には、通常のトンネル効果を利用したものとトンネル時の軌道が限定されるコヒーレントトンネル効果が支配的なものがある。通常のトンネル効果では強磁性材料のスピン分極率によって磁気抵抗効果が得られるが、コヒーレントトンネルではトンネル時の軌道が限定される。そのため、コヒーレントトンネルが支配的な磁気抵抗効果素子では、強磁性金属材料のスピン分極率以上の効果が期待できる。コヒーレントトンネル効果を発現するためには、強磁性金属材料及びトンネルバリア層3が結晶化し、特定の方位で接合することが好ましい。
【0044】
トンネルバリア層3は立方晶の結晶構造を有する。ここで「立方晶の結晶構造」とは、立方晶が部分的に歪んだ結晶構造も含む。トンネルバリア層3は、単体のバルクとして存在する訳ではなく、薄膜として形成されている。またトンネルバリア層3は、単層で存在する訳ではなく、複数の層が積層された積層体の一部として存在する。そのため、トンネルバリア層3は、立方晶が部分的に歪んだ結晶構造も取りうる。一般的に、トンネルバリア層3の立方晶からのずれはわずかであり、構造を評価する測定方法の精度に依存する。
【0045】
トンネルバリア層3は、MgO、MgAl
2O
4、γ−Al
2O
3、ZnAl
2O
4、MgGa
2O
4、ZnGa
2O
4、CdAl
2O
4及びCdGa
2O
4からなる群から選択されるいずれか、又は、これらの混晶により構成されていることが好ましい。なお、ここで示す組成式は理論式として示しており、実際にはこの組成式から比率がずれる範囲も含まれる。例えば、酸素欠損が生じMgAl
2O
4−α(αは実数)となる場合や、MgとAlの比率が変化しMg
1−βAl
2+βO
4(βは実数)となる場合や、Mgのサイトが欠損したMg
1−γAl
2O
4(γは実数)となる場合等を含む。
【0046】
MgOは岩塩型構造をとり、MgAl
2O
4、γ−Al
2O
3、ZnAl
2O
4、MgGa
2O
4、ZnGa
2O
4、CdAl
2O
4及びCdGa
2O
4はスピネル構造をとる。岩塩型構造もスピネル構造も立方晶に含まれる。そのため、いずれの材料も立方晶であり、Fe
2CoSiからなる強磁性金属層と整合することができる。なお、ここで言うスピネル構造とは、規則性スピネル構造とスケネル構造のいずれも含む概念である。
【0047】
図2は、スピネル型結晶構造を模式的に示した図である。スピネル構造は、陽イオンと酸素イオンにより構成された結晶構造である。スピネル構造において陽イオンが配置される部分は、酸素が4配位するAサイトと、酸素が6配位するBサイトがある。
図2において、符号Oは酸素イオン、符号AはAサイト、符号BはBサイト、符号a
spinelはスピネル構造の格子定数を意味する。
【0048】
スケネル構造は、スピネル構造の陽イオンが不規則化した構造である。スケネル構造は、酸素イオンの配列はスピネルとほぼ同等の最密立方格子を取っているものの、陽イオンの原子配列が乱れている。規則性スピネル構造では、酸素イオンの四面体空隙及び八面体空隙に陽イオンは規則正しく配列する。これに対し、スケネル構造では陽イオンがランダムに配置され、本来では占有されない酸素原子の四面体位置及び八面体位置に陽イオンが位置する。その結果、スケネル構造は結晶の対称性が変わり、規則性スピネル構造に対して実質的に格子定数が半減した構造となっている。
【0049】
図3は、規則性スピネル及びスケネル構造の構成単位を示す図である。規則性スピネル及びスケネル構造は、
図3(a)〜(e)に示す5つの構成単位を取ることが可能である。
図3(a)〜(c)はFm−3mの空間群の対称性を有し、
図3(d)及び(e)はF−43mの空間群の対称性を有する。スケネル構造は、これらの構造のいずれかにより構成されてもよいし、これらが混ざり合って構成されていてもよい。
図3(a)〜(e)において、符号Oは酸素イオン、符号Cは陽イオンが入るサイト、符号a
spinel/2はスピネル構造の格子定数の半分を意味し、スケネル構造の格子定数を意味する。陽イオンが入るサイトは、
図2におけるAサイト又はBサイトのいずれかに対応する。
【0050】
例えば、トンネルバリア層3がMgAl
2O
4、ZnAl
2O
4、MgGa
2O
4、ZnGa
2O
4、CdAl
2O
4及びCdGa
2O
4からなる場合、Aサイトが非磁性の二価の陽イオンであるMg、Zn、Cdのいずれかとなり、BサイトがAl、Gaのいずれかとなる。トンネルバリア層3がγ―Al
2O
3の場合、CサイトにAlが入り、一部が欠損する。
【0051】
トンネルバリア層3の格子構造の繰返しの単位が変わると、強磁性金属層を構成する材料との電子構造(バンド構造)との組み合わせが変化し、コヒーレントトンネル効果による大きなTMRエンハンスが現れる。例えば、非磁性のスピネル材料であるMgAl
2O
4の空間群はFd−3mであるが、格子定数が半減した不規則化したスピネル構造の空間群はFm−3mもしくはF−43mに変化する。
【0052】
(下地層)
基板11の第1強磁性金属層1側の面には、下地層4が形成されていてもよい。下地層4を設けると、基板11上に積層される第1強磁性金属層1を含む各層の結晶配向性、結晶粒径等の結晶性を制御することができる。
【0053】
下地層4は、導電性および絶縁性のいずれでもよいが、下地層4に通電する場合は導電性材料を用いることが好ましい。
例えば1つの例として、下地層4には(001)配向したNaCl構造を有し、Ti,Zr,Nb,V,Hf,Ta,Mo,W,B,Al,Ceの群から選択される少なくとも1つの元素を含む窒化物の層を用いることができる。
【0054】
別の例として、下地層4にはABO
3の組成式で表される(002)配向したペロブスカイト系導電性酸化物の層を用いることができる。ここで、サイトAはSr、Ce、Dy、La、K、Ca、Na、Pb、Baの群から選択された少なくとも1つの元素を含み、サイトBはTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Nb、Mo、Ru、Ir、Ta、Ce、Pbの群から選択された少なくとも1つの元素を含む。
【0055】
別の例として、下地層4には(001)配向したNaCl構造を有し、かつMg、Al、Ceの群から選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物の層を用いることができる。
【0056】
別の例として、下地層4には(001)配向した正方晶構造または立方晶構造を有し、かつAl、Cr、Fe、Co、Rh、Pd、Ag、Ir、Pt、Au、Mo、Wの群から選択される少なくとも1つの元素を含む層を用いることができる。
【0057】
また下地層4は一層に限られず、上述の例の層を複数層積層してもよい。下地層4の構成を工夫することにより磁気抵抗効果素子10の各層の結晶性を高め、磁気特性の改善が可能となる。
【0058】
(キャップ層)
また第2強磁性金属層2のトンネルバリア層3と反対側の面には、キャップ層5が形成されていることが好ましい。キャップ層5は、第2強磁性金属層2から元素の拡散を抑制することができる。またキャップ層5は、磁気抵抗効果素子10の各層の結晶配向性にも寄与する。その結果、キャップ層5を設けることで、磁気抵抗効果素子10の第1強磁性金属層1及び第2強磁性金属層2の磁性の安定化し、磁気抵抗効果素子10を低抵抗化することができる。
【0059】
キャップ層5には、導電性が高い材料を用いることが好ましい。例えば、Ru、Ta、Cu、Ag、Au等を用いることができる。またキャップ層5は、原子番号がイットリウム以上の非磁性金属により構成されていることが好ましい。当該非磁性金属によりキャップ層5が構成されていると、第2強磁性金属層2にスピンが蓄積されやすくなり、高いMR比を実現可能となる。
【0060】
キャップ層5の結晶構造は、隣接する強磁性金属層の結晶構造に合せて適宜設定することが好ましい。キャップ層5の厚みは、歪み緩和効果が得られ、さらにシャントによるMR比の低下が見られない範囲であればよく、1nm以上30nm以下が好ましい。
【0061】
キャップ層5の上にスピン軌道トルク配線を形成してもよい。
ここで、スピン軌道トルク配線は、磁気抵抗効果素子10の積層方向に対して交差する方向に延在し、該スピン軌道トルク配線に磁気抵抗効果素子10の積層方向に対して直交する方向に電流を流す電源に電気的に接続され、その電源と共に、磁気抵抗効果素子10に純スピン流を注入するスピン注入手段として機能する。
【0062】
スピン軌道トルク配線は、電流が流れるとスピンホール効果によって純スピン流が生成される材料からなるものである。ここで、スピンホール効果とは、材料に電流を流した場合にスピン軌道相互作用に基づき、電流の向きに直交する方向に純スピン流が誘起される現象である。
【0063】
(基板)
磁気抵抗効果素子10は基板11上に形成される。基板11は、平坦性に優れた材料を用いることが好ましい。基板11は目的とする製品によって異なる。例えば、MRAMの場合、磁気抵抗効果素子の下にはSi基板で形成された回路を用いることができる。あるいは、磁気ヘッドの場合、加工しやすいAlTiC基板を用いることができる。
【0064】
次いで、磁気抵抗効果素子10を構成する各層の関係性について具体的に説明する。
【0065】
(トンネルバリア層と第1強磁性金属層又は第2強磁性金属層との関係)
トンネルバリア層3と軟磁性材料を含む第1強磁性金属層1又は第2強磁性金属層2との結晶界面の少なくとも一部において、トンネルバリア層3を構成する結晶の結晶面と、第1強磁性金属層1又は第2強磁性金属層2を構成する結晶の結晶面とが、0°又は45°傾いて整合している。
【0066】
ここで整合しているのは、Fe
2CoSiにより構成される強磁性層とトンネルバリア層3である。以下、上記と同様に、第2強磁性金属層2がFe
2CoSiにより構成されているものとし、第2強磁性金属層2とトンネルバリア層3の整合について説明する。
【0067】
まず、トンネルバリア層3を構成する結晶の結晶面と、第2強磁性金属層2を構成する結晶の結晶面とが、0°傾いて整合している場合について説明する。
【0068】
図4は、トンネルバリア層3を構成する結晶の結晶面3Aと、第2強磁性金属層2を構成する結晶の結晶面2Aとが、0°傾いて整合している場合を模式的に示した斜視図である。理解を容易にするために、トンネルバリア層3を構成する結晶の結晶面3Aと、第2強磁性金属層2を構成する結晶の結晶面2Aとを離して図示している。またトンネルバリア層3を構成する結晶の単位格子U
3と第2強磁性金属層2を構成する結晶の単位格子U
2を拡大して図示している。
【0069】
トンネルバリア層3は単位格子U
3が密に配列して構成されている。トンネルバリア層3の単位格子U
3は、<a
3、b
3、c
3>の基本ベクトルを有する。トンネルバリア層3は立方晶であるため、基本ベクトルa
3、b
3、c
3はそれぞれ直交し、基本ベクトルa
3、b
3、c
3の大きさはそれぞれ等しい。
【0070】
同様に、第2強磁性金属層2は単位格子U
2が密に配列して構成されている。第2強磁性金属層2の単位格子U
2は、<a
2、b
2、c
2>の基本ベクトルを有する。第2強磁性金属層2も立方晶であるため、基本ベクトルa
2、b
2、c
2はそれぞれ直交し、基本ベクトルa
2、b
2、c
2の大きさはそれぞれ等しい。
【0071】
トンネルバリア層3を構成する結晶の結晶面3Aと、第2強磁性金属層2を構成する結晶の結晶面2Aとが、0°傾いて整合しているということは、以下の2つの条件を満たす。
【0072】
第1の条件は、結晶面3Aを構成する基本ベクトルa
3、b
3の向きと、結晶面2Aを構成する基本ベクトルa
2、b
2の向きと、が一致することである。
【0073】
第2の条件は、結晶面3Aを構成する基本ベクトルa
3、b
3の大きさが、結晶面2Aを構成する基本ベクトルa
2、b
2の大きさの正整数倍又は1/正整数倍であることである。すなわち、|a
3|=n|a
2|(nは正整数又は1/正整数である)・・・(1)を満たすことである。なお、単位格子の基本ベクトルの大きさは等しいため、一般式(1)を満たせば、|b
3|=n|b
2|を満たす。
【0074】
第1の条件を満たすと、二つの結晶面2A、3Aを構成する単位格子U
2、U
3の辺の向きが一致する。その結果、
図4に示すように、第2強磁性金属層2の立方晶の単位格子U
2上に、トンネルバリア層3の立方晶の単位格子U
3が辺を揃えて形成される(以下、CoC(Cubic on Cubic)と言うことがある。)。
【0075】
また第2の条件を満たすと、
図5に示すように、磁気抵抗効果素子10の積層方向から見て単位格子U
2と単位格子U
3との頂点の位置が、少なくとも数周期に1回揃う。
図5は、トンネルバリア層3を構成する結晶の結晶面3Aと、第2強磁性金属層2を構成する結晶の結晶面2Aとが、0°傾いて整合している場合を模式的に示した平面図である。
【0076】
立方晶の結晶構造において単位格子の頂点の位置には、原子が配置される。そのため、単位格子U
2と単位格子U
3との頂点の位置が少なくとも数周期に1回揃うと、積層方向から見て第2強磁性金属層2の原子とトンネルバリア層3の原子が重畳する位置に配設される。そのため、第2強磁性金属層2とトンネルバリア層3の結晶界面において、積層方向に重畳する位置同士の原子が接続し、第2強磁性金属層2とトンネルバリア層3が格子歪を生じることなく整合する。
【0077】
ここで、第2強磁性金属層2とトンネルバリア層3の整合の度合いを格子整合度と言う指標で表すことができる。格子整合度は、以下のように定義できる。
【0079】
一般式(2)において、|a
3|はトンネルバリア層3の基本ベクトルの大きさ(単位格子の大きさ)、すなわち格子定数であり、|a
2|は第2強磁性金属層2の基本ベクトルの大きさ(単位格子の大きさ)、すなわち格子定数である。nは正整数又は1/正整数である。
【0080】
第2強磁性金属層2とトンネルバリア層3の格子整合度は、10以内となることが好ましく、5以内となることがより好ましい。またn=1であることが好ましい。n=1であれば、単位格子U
2と単位格子U
3との頂点の位置が1対1で対応する。
【0081】
次いで、トンネルバリア層3を構成する結晶の結晶面3Aと、第2強磁性金属層2を構成する結晶の結晶面2Aとが、45°傾いて整合している場合について説明する。
【0082】
図6は、トンネルバリア層3を構成する結晶の結晶面3Aと、第2強磁性金属層2を構成する結晶の結晶面2Aとが、45°傾いて整合している場合を模式的に示した斜視図である。理解を容易にするために、トンネルバリア層3を構成する結晶の結晶面3Aと、第2強磁性金属層2を構成する結晶の結晶面2Aとを離して図示している。またトンネルバリア層3を構成する結晶の単位格子U
3と第2強磁性金属層2を構成する結晶の単位格子U
2を拡大して図示している。
【0083】
トンネルバリア層3を構成する結晶の結晶面3Aと、第2強磁性金属層2を構成する結晶の結晶面2Aとが、45°傾いて整合しているということは、以下の2つの条件を満たす。
【0084】
第1の条件は、結晶面3Aを構成する基本ベクトルa
3、b
3の向きと、結晶面2Aを構成する基本ベクトルa
2、b
2の向きと、積層方向を軸に45°傾いていることである。
【0085】
第2の条件は、結晶面3Aを構成する基本ベクトルa
3、b
3の大きさが、結晶面2Aを構成する基本ベクトルa
2、b
2の大きさに2
1/2を乗じた値の正整数倍又は1/正整数倍であることである。すなわち、|a
3|=n|2
1/2・a
2|(nは正整数又は1/正整数である)・・・(3)を満たすことである。なお、単位格子の基本ベクトルの大きさは等しいため、一般式(3)を満たせば、|b
3|=n|2
1/2・b
2|を満たす。
【0086】
第1の条件を満たすと、結晶面3Aを構成する単位格子面に対し、結晶面2Aを構成する単位格子面が積層方向を軸に45°回転する。すなわち、
図7に示すように、結晶面2Aを構成する単位格子面の対角線の向きと、結晶面3Aを構成する単位格子面の辺の向きが一致する。
図7は、トンネルバリア層3を構成する結晶の結晶面3Aと、第2強磁性金属層2を構成する結晶の結晶面2Aとが、45°傾いて整合している場合を模式的に示した平面図である。
【0087】
その結果、
図6に示すように、第2強磁性金属層2の立方晶の単位格子U
2上に、トンネルバリア層3の立方晶の単位格子U
3が積層方向を軸に45°傾いて積層される(以下、R45(Rotation 45°)と言うことがある。)。
【0088】
また第2の条件を満たすと、
図7に示すように、磁気抵抗効果素子10の積層方向から見て単位格子U
2の対角線方向の頂点の位置と単位格子U
3の辺方向の頂点の位置が、少なくとも数周期に1回揃う。
【0089】
上述のように、立方晶の結晶構造において単位格子の頂点の位置には、原子が配置される。そのため、単位格子U
2と単位格子U
3との頂点の位置が少なくとも数周期に1回揃うと、積層方向から見て第2強磁性金属層2の原子とトンネルバリア層3の原子が重畳する位置に配設される。そのため、第2強磁性金属層2とトンネルバリア層3の結晶界面において、積層方向に重畳する位置同士の原子が接続し、第2強磁性金属層2とトンネルバリア層3が格子歪を生じることなく整合する。
【0090】
ここまで、第2強磁性金属層2とトンネルバリア層3の結晶界面において、第2強磁性金属層2の単位格子U
2とトンネルバリア層3の単位格子U
3とがConCで積層している場合、R45で積層している場合について説明した。しかしながら、
図4及び
図6に示す結晶界面の描像は、あるミクロな一点を模式化したものである。そのため、よりマクロな視点では、結晶界面のある部分はConCで積層し、別の部分はR45で積層している場合もある。すなわち、第2強磁性金属層2とトンネルバリア層3の結晶界面において、0°傾いて整合している部分と45°傾いて整合している部分とが混在していてもよい。
【0091】
トンネルバリア層3を構成する具体的な材料に対して、Fe
2CoSiからなる第2強磁性金属層2とトンネルバリア層3がとりうる好ましい結晶界面の積層状態について説明する。
【0092】
トンネルバリア層3がMgO、MgAl
2O
4、γ−Al
2O
3、ZnAl
2O
4またはこれらの混晶材料のいずれかにより構成される場合、第2強磁性金属層2とトンネルバリア層3はR45の関係を満たすことが好ましい。この関係を満たすことで、格子整合度が10%以内となる。
【0093】
またトンネルバリア層がMgGa
2O
4、ZnGa
2O
4、CdAl
2O
4またはこれらの混晶材料のいずれかにより構成されている場合、第2強磁性金属層2とトンネルバリア層3はConCの関係を満たしても、R45の関係を満たしても、これらが混在した関係を満たし得てもよい。この関係を満たすことで、格子整合度が10%以内となる。
またトンネルバリア層がZnGa
2O
4、CdAl
2O
4またはこれらの混晶材料のいずれかにより構成され、第2強磁性金属層2とトンネルバリア層3がConCの関係を満たす場合は、格子整合度が5%以内となり、特に好ましい。
【0094】
さらに、トンネルバリア層がCdGa
2O
4により構成されている場合、第2強磁性金属層2とトンネルバリア層3はConCの関係を満たすことが好ましい。この関係を満たすことで、格子整合度が10%以内となる。
【0095】
上述のように、本実施形態にかかる磁気抵抗効果素子10は、トンネルバリア層3と軟磁性材料を含む第1強磁性金属層1又は第2強磁性金属層2との結晶界面の少なくとも一部において、ConC、R45、又はこれらが混在した状態で、単位格子が積層している。そのため、格子整合度が小さくなり、磁気抵抗効果素子10内の格子歪が小さくなる。その結果、軟磁性材料であるFe
2CoSiを含み、高いMR比を有する磁気抵抗効果素子10が得られる。
【0096】
(素子の形状、寸法)
磁気抵抗効果素子10を構成する第1強磁性金属層1、トンネルバリア層3及び第2強磁性金属層2からなる積層体は柱状の形状である。積層体を平面視した形状は、円形、四角形、三角形、多角形等の種々の形状をとることができるが、対称性の面から円形であることが好ましい。すなわち、積層体は円柱状であることが好ましい。
【0097】
積層体が円柱状である場合、平面視の直径が80nm以下であることが好ましく、60nm以下であることがより好ましく、30nm以下であることがさらに好ましい。直径が80nm以下であると、強磁性金属層中にドメイン構造ができにくくなり、強磁性金属層におけるスピン分極と異なる成分を考慮する必要が無くなる。さらに、30nm以下であると、強磁性金属層中に単一ドメイン構造となり、磁化反転速度や確率が改善する。また小型化された磁気抵抗効果素子において、特に低抵抗化の要望が強い。
【0098】
(使用時の構成)
図8は、本発明の一態様に係る磁気抵抗効果素子を備える磁気抵抗効果デバイスの側面模式図である。また
図9は、磁気抵抗効果デバイスを積層方向から平面視した模式図である。磁気抵抗効果デバイス20は、
図1に示すキャップ層5の第2強磁性金属層2と反対側の面には、電極層12が形成されている。下地層4は導電性を有し、電極層12と交差して配設されている。下地層4と電極層12の間には、電源13と電圧計14が設けられている。下地層4と電源13及び電圧計14はコンタクト電極15により接続されている。電源13により下地層4と電極層12に電圧を印加することにより、第1強磁性金属層1、トンネルバリア層3及び第2強磁性金属層2からなる積層体の積層方向に電流が流れる。この際の印加電圧は電圧計14でモニターされる。
【0099】
(評価方法)
磁気抵抗効果素子の評価方法について、
図8と
図9を例に説明する。上述のように、
図9に示すように電源13と電圧計14を配置し、一定の電流、あるいは、一定の電圧を磁気抵抗効果素子に印可する。電圧、あるいは電流を外部から磁場を掃引しながら測定することによって、磁気抵抗効果素子の抵抗変化が観測される。
【0100】
MR比は、一般的に以下の式で表される。
MR比(%)=(R
AP−R
P)/R
P×100
R
Pは第1強磁性金属層1と第2強磁性金属層2の磁化の向きが平行の場合の抵抗であり、R
APは第1強磁性金属層1と第2強磁性金属層2の磁化の向きが反平行の場合の抵抗である。
【0101】
このように、本実施形態を用いた磁気抵抗効果素子は磁気センサやMRAMなどのメモリとして使用することが可能である。
【0102】
(製造方法)
磁気抵抗効果素子10を構成する下地層4、第1強磁性金属層1、トンネルバリア層3、第2強磁性金属層2およびキャップ層5は、例えば、マグネトロンスパッタ装置を用いて形成される。
【0103】
下地層4は公知の方法で作製することができる。例えば、スパッタガスとしてArと窒素とを含む混合ガスを用いた反応性スパッタ法により作製することができる。
【0104】
トンネルバリア層3は公知の方法で作製することができる。例えば、第1強磁性金属層1上に金属薄膜をスパッタし、プラズマ酸化あるいは酸素導入による自然酸化を行い、その後の熱処理によって形成される。成膜法としてはマグネトロンスパッタ法のほか、蒸着法、レーザアブレーション法、MBE法など通常の薄膜作製法を用いることもできる。
【0105】
ついで、トンネルバリア層3上にFe
2CoSiからなる第2強磁性金属層2を成膜する。成膜法としてはマグネトロンスパッタ法のほか、蒸着法、レーザアブレーション法、MBE法など通常の薄膜作製法を用いることもできる。
【0106】
この際、トンネルバリア層3と第2強磁性金属層2の接合界面をR45の整合状態にする場合は、第2強磁性金属層2の成膜時の温度を少なくとも300度以上で行う。また接合界面をConCの整合状態にする場合も、第2強磁性金属層2の成膜時の温度を少なくとも300度以上で行う。さらに、接合界面をR45とConCの混在状態にする場合は、第2強磁性金属層2の成膜時の温度を少なくとも300度未満で行う。成膜時の温度を調整することによって、それぞれの接合状態を変えることが可能である。
【0107】
得られた第2強磁性金属層2上にキャップ層5を公知の方法で作製する。そして、下地層4、第1強磁性金属層1、トンネルバリア層3、第2強磁性金属層2およびキャップ層5が順に積層された積層膜が得られる。
【0108】
得られた積層膜は、アニール処理することが好ましい。反応性スパッタで形成した層は、アモルファスであり結晶化する必要がある。例えば、強磁性金属層としてCo−Fe−Bを用いる場合は、Bの一部がアニール処理により抜けて結晶化する。
【0109】
アニール処理して製造した磁気抵抗効果素子10は、アニール処理しないで製造した磁気抵抗効果素子10と比較して、MR比が向上する。アニール処理によって、下地層4が部分的に結晶化し、これによりトンネルバリア層3のトンネルバリア層の結晶サイズの均一性および配向性が向上するためであると考えられる。
【0110】
アニール処理としては、Arなどの不活性雰囲気中で、300℃以上500℃以下の温度で、5分以上100分以下の時間加熱した後、2kOe以上10kOe以下の磁場を印加した状態で、100℃以上500℃以下の温度で、1時間以上10時間以下の時間加熱することが好ましい。
【実施例】
【0111】
(格子整合度)
第2強磁性金属層として機能するFe
2CoSiと、トンネルバリア層として機能するMgO、MgAl
2O
4、γ−Al
2O
3、ZnAl
2O
4、MgGa
2O
4、ZnGa
2O
4、CdAl
2O
4及びCdGa
2O
4の格子定数を求め、CoCで整合した場合と、R45で整合した場合の格子整合度を求めた。求めた結果を表1に示す。
【0112】
Fe
2CoSi及びトンネルバリア層の格子定数は4軸X線回折装置を用いて評価を行った。格子定数の評価において、実施例の第2強磁性金属層及びトンネルバリア層の膜厚では格子定数を決定することが困難である。
【0113】
そのため予備的測定として、格子定数を求めるために熱酸化膜付きSi基板上にトンネルバリア層(厚み100nm)を形成した基板を用いた。熱酸化膜付きSi基板は表面がアモルファスのSiOxであり、トンネルバリア層を形成する際の影響を受けにくい。また、トンネルバリア層(厚み100nm)は基板による格子歪みの影響が十分緩和される膜厚であり、十分な構造解析のためのX線強度を得ることができる膜厚である。
【0114】
実施例で得られる膜厚は予備的測定と完全には一致しないが、同等の値を示し、予備的測定から求めた格子定数を実施例で得られた格子定数と見なすことができる。トンネルバリア層はMgOの場合は岩塩型構造、その他の材料の場合はスケネル構造として格子定数を求めた。
【0115】
【表1】
【0116】
次いで、実際に磁気抵抗効果素子を作製し、磁気抵抗効果素子のMR比を測定した。実際のMR比の測定は、上記のトンネルバリア層と結晶界面の整合状態の組合せのうち一部を行った。
【0117】
(実施例1)
熱酸化珪素膜が設けられた基板上に、マグネトロンスパッタ法を用いた成膜により、磁気抵抗効果素子の各層を作製した。
まず、下地層として、Ta(5nm)/Ru(3nm)を成膜した。その後、下地層上に第1強磁性金属層として、IrMn(12nm)/CoFe(10nm)/Ru(0.8nm)/CoFe(7nm)を順に積層した。
【0118】
次いで、第1強磁性金属層上に、トンネルバリア層としてMgO、第2強磁性金属層としてFe
2CoSiを積層した。トンネルバリア層の厚みは表2に記載の厚みとし、Fe
2CoSiの厚みは、3nmとした。トンネルバリア層と第2強磁性金属層の整合状態はR45であった。トンネルバリア層と第2強磁性金属層の間の整合状態がR45とするために、成膜時の基板の温度を350度として成膜を行った。
【0119】
さらに、第2強磁性金属層上に、キャップ層としてRu(3nm)/Ta(5nm)を形成し積層体を得た。得られた積層体をアニール装置に設置し、Ar中で450℃の温度で10分処理した後、8kOeを印加した状態で280℃の温度で6時間処理した。
【0120】
次に
図8、9に示す構成の素子を作製した。まず、キャップ層5の上に、電極層12を形成した。次いで、電極層12の90度回転した向きになるように電子線描画を用いてフォトレジストの形成を行った。イオンミリング法によってフォトレジスト下以外の部分を削り取り、基板である熱酸化珪素膜を露出させ、下地層4の形状を形成した。さらに、下地層4の形状の括れた部分に、電子線描画を用いて80nmの円柱状になる様にフォトレジストを形成し、イオンミリング法によってフォトレジスト下以外の部分を削り取り、下地層4を露出させた。その後、SiOxを絶縁層としてイオンミリングによって削られた部分に形成した。80nmの円柱状のフォトレジストはここで除去した。
図6、7のコンタクト電極15の部分だけ、フォトレジストが形成されないようにし、イオンミリング法によって絶縁層を除去し、下地層4を露出させた。その後、Auを形成し、コンタクト電極15を形成した。
【0121】
(比較例1)
トンネルバリア層と第2強磁性金属層の整合状態をConCとしたこと以外は実施例1と同様にした。成膜時の基板の温度を250度として成膜することによりトンネルバリア層と第2強磁性金属層の間の整合状態をエピタキシャル成長しない状態とした。エピタキシャル成長しない状態とはトンネルバリア層と第2強磁性金属層の界面がそろっていない状態であり、R45、ConC、及びR45とConCの混在状態のいずれの状態でもない。第2強磁性金属層はトンネルバリア層に対して決まった方位を持っていない多結晶の状態である。これはトンネルバリア層上に第2強磁性金属層が成膜される際に、第2強磁性金属層が十分な熱エネルギーが与えられなかったためトンネルバリア層上で結晶方位の再構成が出来なかったためと理解することができる。
【0122】
(参考例1)
第2強磁性金属層をFeとしたこと以外は実施例1と同様にした。Feの格子定数は、4.053であり、整合状態がR45で格子整合度は3.9であった。
【0123】
(実施例2)
トンネルバリア層をMgAl
2O
4としたこと以外は、実施例1と同様に磁気抵抗効果素子を作製した。成膜時の基板の温度を380度として成膜することによりトンネルバリア層と第2強磁性金属層の間の整合状態をR45とした。
【0124】
(比較例2)
トンネルバリア層と第2強磁性金属層の整合状態をConCとしたこと以外は実施例2と同様にした。成膜時の基板の温度を280度として成膜することによりトンネルバリア層と第2強磁性金属層の間の整合状態をConCとした。
【0125】
(実施例3)
トンネルバリア層をZnGa
2O
4としたこと以外は、実施例1と同様に磁気抵抗効果素子を作製した。成膜時の基板の温度を280度として成膜した後、360度に昇温し、30分保持した後、高温したことによりトンネルバリア層と第2強磁性金属層の間の整合状態をR45とした。
【0126】
(実施例4)
トンネルバリア層と第2強磁性金属層の整合状態をConCとしたこと以外は実施例3と同様にした。成膜時の基板の温度を360度として成膜することによりトンネルバリア層と第2強磁性金属層の間の整合状態をConCとした。
【0127】
(実施例5)
トンネルバリア層と第2強磁性金属層の整合状態をConCとR45の混在状態としたこと以外は実施例3と同様にした。成膜時の基板の温度を280度として成膜すること によりトンネルバリア層と第2強磁性金属層の間の整合状態をConCとR45の混在状態とした。整合状態がConCとR45の場合、混在状態の割合によって格子整合度は変化する。そのため、具体的な格子整合度は算出しなかった。
【0128】
(実施例6)
トンネルバリア層をMgGa
2O
4とZnGa
2O
4の混晶であるMg
0.5Zn
0.5Ga
2O
4としたこと以外は、実施例1と同様に磁気抵抗効果素子を作製した。成膜時の基板の温度を280度として成膜した後、365度に昇温し、30分保持した後、高温したことによりトンネルバリア層と第2強磁性金属層の間の整合状態をR45とした。
【0129】
(実施例7)
トンネルバリア層と第2強磁性金属層の整合状態をConCとしたこと以外は実施例6と同様にした。成膜時の基板の温度を365度として成膜することによりトンネルバリア層と第2強磁性金属層の間の整合状態をConCとした。
【0130】
(実施例8)
トンネルバリア層と第2強磁性金属層の整合状態をConCとR45の混在状態としたこと以外は実施例6と同様にした。成膜時の基板の温度を280度として成膜することによりトンネルバリア層と第2強磁性金属層の間の整合状態をConCとR45の混在状態とした。
【0131】
実施例1〜8、比較例1及び2、参考例1において、トンネルバリア層と第2強磁性金属層の整合状態が、R45、ConC、又はこれらの混在状態のいずれに該当するかは、電子線回折測定によって確認した。
【0132】
なお、電子線回折測定だけでなく、X線回折測定でも確認することができる。電子線回折測定の場合は膜厚の全ての回折パターンを同時に観測するため、R45、ConC、又はこれらの混在状態を回折パターンのシミュレーション結果と比較することで容易に確認することができる。X線回折測定の場合も同様であるが、シミュレーション結果に基づいた比較をするためには多くの測定時間が必要である。また、積層方向から観測する場合、表面に近い層は強度が強くなり、表面から遠い層は強度が弱くなるため、評価が見誤る可能性がある。しかしながら、X線回折測定の場合は格子歪みによる格子定数の変化も検出できるという利点がある。
【0133】
上述の評価方法に準じて、得られた磁気抵抗効果素子の面積抵抗値(RA)及びMR比を測定した。MR比はバイアス電圧1Vを印加した場合のMR比である。そして、測定されたMR比と格子整合度の関係を表2に示す。
【0134】
なお、RAは、印加されるバイアス電圧を磁気抵抗効果素子の積層方向に流れた電流で割ることで得られる抵抗値を、各層が接合される面の面積で割り、単位面積における抵抗値に規格化したものであり、単位はΩ・μm
2である。印加するバイアス電圧及び磁気抵抗効果素子の積層方向に流れる電流値を電圧計及び電流計で計測し、求めることができる。
【0135】
【表2】
【0136】
実施例1と比較例1を比較すると、トンネルバリア層がMgOの場合、R45でFe
2CoSiと整合することで格子整合度が小さくなり(すなわち、格子整合性が高まり)、MR比が高くなっている。そのMR比は、強磁性層にFeを用いた場合(参考例1)と同等である。また実施例2及び比較例2に示すように、トンネルバリア層がMgAl
2O
4の場合も同様の傾向が確認された。
【0137】
一方、トンネルバリア層がZnGa
2O
4の場合、R45(実施例3)、ConC(実施例4)、及びこれらの混在状態(実施例5)のいずれにおいても格子整合度が10%以下であり、高いMR比を実現できている。またトンネルバリア層が混晶の場合でも同様の結果が確認された。
【0138】
すなわち、上記表1において格子整合度が10%以下であれば高いMR比を実現することができ、格子整合度が5%以下であれば非常に高いMR比を実現することができることが分かる。
【解決手段】この磁気抵抗効果素子は、第1強磁性金属層と、第2強磁性金属層と、前記第1強磁性金属層と前記第2強磁性金属層との間に設けられたトンネルバリア層とを有し、前記トンネルバリア層は立方晶の結晶構造を有し、前記第1強磁性金属層又は前記第2強磁性金属層は、Fe
CoSiで表される立方晶の結晶構造を有する材料により構成され、前記トンネルバリア層と前記第1強磁性金属層又は前記第2強磁性金属層との結晶界面の少なくとも一部において、前記トンネルバリア層を構成する結晶の結晶面と、前記第1強磁性金属層又は前記第2強磁性金属層を構成する結晶の結晶面とが、0°又は45°傾いて整合している。