特許第6103126号(P6103126)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6103126導電性組成物、その製造方法、および導電性材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6103126
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】導電性組成物、その製造方法、および導電性材料
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20170316BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20170316BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20170316BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20170316BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C08K9/04
   H01B1/22 A
   H01B1/00 E
   H01B5/14 Z
【請求項の数】9
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2016-211923(P2016-211923)
(22)【出願日】2016年10月28日
【審査請求日】2016年10月28日
(31)【優先権主張番号】特願2016-15287(P2016-15287)
(32)【優先日】2016年1月29日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100128484
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 司
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】長井 裕之
(72)【発明者】
【氏名】野上 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】上杉 隆彦
【審査官】 繁田 えい子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−184143(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
H01B 1
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅粉(A)の表面に下記一般式(1)または一般式(2)で表されるアスコルビン酸またはその誘導体(B)が付着している表面処理銅粉(AB)と、バインダ樹脂(C)と、リン酸基を有する分散剤または酸性基およびアミノ基を有する分散剤(D)とを含む、導電性組成物。
一般式(1)
【化1】
(一般式(1)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、または置換基を有してよいアシル基を表す。)
一般式(2)
【化2】
(一般式(2)中、R11およびR12は、それぞれ独立に、水素原子、または置換基を有してよいアルキル基を表す。)
【請求項2】
一般式(1)で表されるアスコルビン酸またはその誘導体(B)のR1およびR2が水素原子である、請求項1に記載の導電性組成物。
【請求項3】
銅粉(A)100質量部に対し、アスコルビン酸またはその誘導体(B)が1〜30質量部である、請求項1または2に記載の導電性組成物。
【請求項4】
表面処理銅粉(AB)100質量部に対し、前記分散剤(D)が0.1〜10質量部である、請求項1〜いずれか1項に記載の導電性組成物。
【請求項5】
銅前駆体(Y)を更に含有する、請求項1〜いずれか1項に記載の導電性組成物。
【請求項6】
銅粉(A)の表面に下記一般式(1)または一般式(2)で表されるアスコルビン酸またはその誘導体(B)を付着させ、表面処理銅粉(AB)を得、
前記表面処理銅粉(AB)と、バインダ樹脂(C)と、酸性基を有する分散剤(D)とを混合する、導電性組成物の製造方法。
一般式(1)
【化3】
(一般式(1)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、または置換基を有してよいアシル基を表す。)
一般式(2)
【化4】
(一般式(2)中、R11およびR12は、それぞれ独立に、水素原子、または置換基を有してよいアルキル基を表す。)
【請求項7】
前記分散剤(D)がリン酸基を有する分散剤である、請求項6に記載の導電性組成物の製造方法。
【請求項8】
前記分散剤(D)がアミノ基をさらに有する、請求項6または7に記載の導電性組成物の製造方法。
【請求項9】
基材と、請求項1〜いずれか1項に記載の導電性組成物の乾燥物または硬化物である導電膜とを備えた導電性材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性組成物、およびその製造方法に関する。さらに、本発明は、基材と、導電性組成物の乾燥物または硬化物である導電膜とを備えた導電性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品、導電性シート用の薄膜形成手段あるいは導電回路の形成手段として、エッチング法および印刷法が知られている。エッチング法は、金属被膜の一部をエッチング液で除去することで所望の形状の回路パターンを得る方法であるが、一般的に工程が煩雑、かつ別途、廃液処理が必要であるため、費用や環境負荷の問題がある。また、エッチング法によって形成された導電回路は、アルミニウムや銅など金属材料等で形成されたものであるため、折り曲げ等の物理的衝撃に対して弱いという問題がある。
【0003】
そこで、これらの問題を解決してより安価に導電回路を形成するために、導電性ペーストが注目を集めている。導電性ペーストを印刷することにより、容易に導電回路を形成できる。さらに電子部品の小型軽量化、生産性の向上、低コスト化の実現が期待できるので、印刷可能な導電性ペーストについての研究開発が精力的になされ、多くの提案がなされている。
【0004】
導電性ペーストとしては、高い導電性を確保する観点から、銀(Ag)を主成分とした銀ペーストが主に用いられていた。しかしながら、銀ペーストは高温・高湿下での通電で、銀原子がイオン化して電界に引かれて移動するイオンマイグレーション(電析)が生じ易い。配線回路上にイオンマイグレーションが発生すると、回路間の短絡が起こり、配線回路の信頼性が低下するおそれがある。
【0005】
そこで、電子機器や配線の信頼性を高めるため、銀に代えて銅を用いた導電ペーストを用いる技術が提案されている。銅はイオンマイグレーションが起こりにくいため、電気回路の接続信頼性を高めることが可能である。また、そのイオンマイグレーション性の低さから銀では困難であった、配線間で電気信号を交互に送る回路パターンも、銅ペーストを用いることで可能になる。
【0006】
しかしながら、一般に銅粉は酸化し易く、高湿度の環境下に曝露すると、環境中に含まれる水分や酸素などの反応によって銅酸化物を生じ易い。このため、銅ペーストを焼成して形成した導電膜は、酸化被膜の影響により導電膜全体の体積抵抗率が高くなり易いという問題がある。
【0007】
このような問題を解決するため、銅ペーストに配合する銅粉末を湿式還元法により製造する技術が提案されているが、回路配線用の導電ペーストにおける体積抵抗率の上昇は、十分に改善されていないのが実情であった。
【0008】
回路配線用の銅ペーストにおける通電のメカニズムは、焼成時の塗膜の体積変化によって銅粉同士が圧着されることによるもので、銅粉表面の酸化状態や、塗膜内の樹脂の充填構造により導電性は大きく影響を受ける。
【0009】
従来から、銅ペースト中にカテコール、レゾルシン、ハイドロキノンのような還元作用を有する物質(以下、還元剤という)を配合し、銅粉表面の酸化を防止する技術が提案されている(例えば特許文献1)。また、アスコルビン酸の還元作用を利用して銅粉表面の酸化を防止する技術が提案されている(例えば特許文献2および3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−73780号公報
【特許文献2】国際公開第2014/104032号公報
【特許文献3】特開2015−049988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記したように、銅粉表面の酸化を抑制することは、銅ペーストを用いて形成する導電膜において重要である。しかしながら、特許文献1〜3に記載された方法では、配合した還元剤が銅の酸化を十分には抑制できない。本発明は、大気下で焼成(以下、乾燥または硬化ともいうことがある)した場合であっても、良好な導電性および耐湿熱性を示す導電膜を形成することができる導電性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、銅粉表面の酸化を抑制すると共に銅粉間の接触を強固にすることが重要であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、銅粉(A)の表面に下記一般式(1)または一般式(2)で表されるアスコルビン酸またはその誘導体(B)が付着している表面処理銅粉(AB)と、バインダ樹脂(C)と、酸性基を有する分散剤(D)とを含む、導電性組成物に関する。
一般式(1)
【化5】
(一般式(1)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、または置換基を有してよいアシル基を表す。)
一般式(2)
【化6】
(一般式(2)中、R11およびR12は、それぞれ独立に、水素原子、または置換基を有してよいアルキル基を表す。)
【0014】
また、本発明は、銅粉(A)の表面に前記アスコルビン酸またはその誘導体(B)を付着させ、表面処理銅粉(AB)を得、前記表面処理銅粉(AB)と、バインダ樹脂(C)と、酸性基を有する分散剤(D)とを混合する、導電性組成物の製造方法に関する。
【0015】
さらに、本発明は、基材と、前記の導電性組成物の乾燥物または硬化物である導電膜とを備えた導電性材料に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、大気下での焼成においても良好な導電性を示し、電気回路形成に使用可能な導電性組成物およびその硬化物、積層物を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1で用いた表面処理銅粉(AB)の粒子表面の状態を走査型電子顕微鏡で観察した図である。
図2】実施例1で用いた表面処理銅粉(AB)の粒子表面の状態をエネルギー分散型X線分析装置で観察し、炭素と銅を元素マッピングした図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[導電性組成物]
本発明の導電性組成物は、前記したように銅粉(A)の表面をアスコルビン酸またはその誘導体(B)(以下、単純にアスコルビン酸誘導体(B)ともいう)で処理してなる表面処理銅粉(AB)と、バインダ樹脂(C)と、酸性基を有する分散剤(D)を含む。
【0019】
<表面処理銅粉(AB)>
本発明に使用される表面処理銅粉(AB)は、導電性組成物の導電成分となるものである。表面処理銅粉(AB)は、銅粉(A)表面の少なくとも一部にアスコルビン酸誘導体(B)が付着しているものである。アスコルビン酸誘導体(B)で銅粉(A)表面の少なくとも一部を被覆することによって、銅粉(A)表面近傍に還元性物質であるアスコルビン酸誘導体を存在させることができる結果、導電性組成物を大気中で焼成する際に形成される銅酸化物をより効率的に還元させ、銅に戻すことが可能であり、導電性を向上させることができる。
【0020】
<銅粉(A)>
銅粉(A)のD50平均粒子径は、0.1〜30μmの範囲内にあることが好ましく、0.1〜10μmの範囲内にあることがより好ましい。D50平均粒子径が0.1μm以上であることで、導電膜内における粒子同士の接触抵抗をより低減し、導電性を向上させることができる。また、D50平均粒子径が30μm以下であることで、スクリーン印刷を行って導電膜を作製する際、より平滑な導電膜を形成することができる。なお、D50平均粒子径は、レーザー回折粒度分布測定装置を用いて求めた体積粒度分布の累積50%における粒度の意である。
【0021】
銅粉(A)の形状は、所望の導電性が得られればよく、形状は限定されない。具体的には、例えば、球状、フレーク状、葉状、樹枝状、プレート状、針状、棒状、ブドウ状等の公知の形状のものが使用できる。
【0022】
<アスコルビン酸誘導体(B)>
本発明で用いるアスコルビン酸またはその誘導体(B)は下記一般式(1)または一般式(2)で表されるものである。銅酸化物に対する還元力は、アスコルビン酸誘導体(B)中のエンジオール構造に起因する。従って、該構造を残す形でアスコルビン酸の誘導体を合成し、溶解度や極性を適宜調製して用いることも可能である。
【0023】
一般式(1)
【化7】
(一般式(1)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、または置換基を有してよいアシル基を表す。)
【0024】
一般式(1)中のR1およびR2におけるアシル基(−COR)とは、炭素数1から18の直鎖状、分岐鎖状、単環状または縮合多環状の脂肪族が結合したカルボニル基、または、炭素数6から10の単環状あるいは縮合多環状アリール基が結合したカルボニル基を表す。
【0025】
アシル基として具体的には、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、シクロペンチルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、クロトノイル基、イソクロトノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、1−ナフトイル基、2−ナフトイル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
R1およびR2におけるアシル基は、それぞれ、アシル基内の水素原子が置換基で置換されていても良く、これにより、さらに溶解性や極性を調節することも可能である。ここで置換基としては、ヒドロキシル基、ハロゲン原子等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0027】
一般式(2)
【化8】
(一般式(2)中、R11およびR12は、それぞれ独立に、水素原子、または置換基を有してよいアルキル基を表す。)
【0028】
一般式(2)は、アスコルビン酸の側鎖に存在する2つの水酸基をアルデヒドまたはケトンと反応させることで、アセタール構造またはケタール構造が形成された誘導体である。
【0029】
一般式(2)中のR11およびR12におけるアルキル基としては、炭素数1から18の直鎖状、分岐鎖状、単環状または縮合多環状アルキル基が挙げられる。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、tert−オクチル基、ネオペンチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基、ノルボルニル基、および、4−デシルシクロヘキシル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
R11およびR12におけるアルキル基は、それぞれ、アルキル基内の水素原子が置換基で置換されていても良く、これにより、さらに溶解性や極性を調節することも可能である。ここで、置換基としては、ヒドロキシル基、ハロゲン原子等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
さらに、R11とR12は、一体となって環構造を形成してもよい。
【0032】
一般式(1)または一般式(2)で表されるアスコルビン酸誘導体(B)のうち、最も安価に入手でき、かつ、溶解度が低いために銅粉(A)の表面から溶解または脱離し難い点で、一般式(1)におけるR1およびR2が水素原子であるアスコルビン酸が好ましい。また、アスコルビン酸誘導体(B)は、銅粉(A)に対して、2種以上を併用してもよい。
【0033】
本発明において用いられる「アスコルビン酸」とは、一般にビタミンCと呼称されるL−アスコルビン酸、すなわち、(R)−3,4−ジヒドロキシ−5−((S)−1,2−ジヒドロキシエチル)フラン−2(5H)−オンのみならず、その光学異性体(D体)をも含む。また、これらの立体異性体である、エリソルビン酸のD体およびL体をも含む。立体異性体や光学異性体であっても、還元能の発現に必要なエンジオール構造を有し、同等の還元能を発現することが可能である。さらに、これらの光学異性体の混合物であるDL体も本発明における「アスコルビン酸」として使用できる。
【0034】
本発明におけるアスコルビン酸誘導体(B)としては、以下に示すような化合物が例示できる。なお、本発明におけるアスコルビン酸誘導体(B)は、これらの代表例に限定されるものではない。各化学構造中の「*」はX、YまたはZがアスコルビン酸の五員環部位に結合する位置を示す。
【0035】
【化9】
【0036】
【化10】
【0037】
【化11】
【0038】
<表面処理銅粉(AB)の製造方法>
表面処理銅粉(AB)は、以下の方法に限定されるものではないが、例えば、分散用または変形用メディアを用い、銅粉(A)とアスコルビン酸誘導体(B)とを衝突させることにより得ることができる。分散用または変形用メディアとしては、ガラス、スチール、ジルコニア等を材質とする球状ビーズを用いることができる。
【0039】
この接触工程は、乾式、湿式いずれの方法でも行うことができる。
【0040】
すなわち、乾式の場合、例えば、銅粉(A)、アスコルビン酸誘導体(B)および分散用または変形用メディアを容器に入れ、封をした後、容器ごと回転したり振動したり、あるいは容器内を撹拌したりすることにより、これらを衝突させ、銅粉(A)を変形させながらアスコルビン酸誘導体(B)の一部または全部を銅粉(A)の表面に付着させた後、分散または変形用メディアを分離することで、表面処理銅粉(AB)を得ることができる。
【0041】
また、湿式の場合は、銅粉(A)、アスコルビン酸誘導体(B)、液状媒体、分散用または変形用メデイアを容器に入れ、前記のように回転・振動・撹拌等することにより、これらを衝突させた後、ナイロンメッシュやステンレスメッシュ等で分散または変形用メディアを除去し、次いで液状媒体を除去し、乾燥することで、表面処理銅粉(AB)を得ることができる。
【0042】
上記、分散用または変形用メディアを銅粉(A)に衝突させる分散工程を実施するに際しては、ビーズミル、ボールミル、シェイカー等の公知の分散手法が使用できる。
【0043】
湿式分散をする場合に使用する液状媒体は、アルコール系、ケトン系、エステル系、芳香族系、炭化水素系等の公知の液状媒体が挙げられ、これらの2種以上を混合して使用してもよく、分散が実施される温度で液状をなすものであれば特に限定されない。
【0044】
このような液状媒体の中で、アスコルビン酸誘導体(B)の溶解度が比較的低い貧溶媒を使用すると、特に効率的に所望の量で銅粉(A)の表面にアスコルビン酸誘導体(B)を付着させることができるため、好ましい。アスコルビン酸誘導体(B)の貧溶媒としては、トルエン、キシレン、ヘキサン、オクタン、イソプロパノール、酢酸エチル、さらには、これらの混合溶媒を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
特に、分散用または変形用メディアと液状媒体とを用いる湿式分散は、簡便な操作で、銅粉(A)表面をアスコルビン酸誘導体(B)で均一かつ効率的に被覆しやすいという点で好ましい。さらに、この湿式分散では、粒子同士の接触面積の大きいフレーク状、あるいは、葉状の被覆銅粉(AB)が得られ、その結果、優れた初期導電性を発現し、さらに、その導電性を維持することができるので好ましい。
【0046】
アスコルビン酸誘導体(B)は、銅粉(A)100質量部に対し1〜30質量部用いることが好ましく、5〜10質量部の範囲内にあることがさらに好ましい。アスコルビン酸を1質量部以上とすることで、焼成時における表面処理銅粉(AB)の銅の酸化を抑え、さらに表面処理銅粉(AB)とバインダ樹脂(C)との親和性を上げることができる。また、アスコルビン酸を30質量部以下にすることで、表面処理銅粉(AB)同士の凝集を抑えることができる。
【0047】
<バインダ樹脂(C)>
バインダ樹脂(C)は、バインダ樹脂(C)および表面処理銅粉(AB)の合計100質量%のうち、5〜40質量%を配合することが好ましく、5〜25質量%がより好ましい。5質量%以上になることで導電性被膜の基材との密着性がより向上し、機械強度も向上する。また、40質量%以下になることで導電性がより向上する。
【0048】
バインダ樹脂(C)としては、例えば、アクリル樹脂、ポリブタジエン系樹脂、エポキシ化合物、オキセタン樹脂、ピペラジンポリアミド樹脂、付加型エステル樹脂、縮合型エステル樹脂、アミノ樹脂、ポリ乳酸樹脂、オキサゾリン樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、ビニル系樹脂、ジエン系樹脂、テルペン樹脂、石油樹脂、セルロース系樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン変性ポリエステル樹脂、エポキシ変性ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、スチレン樹脂、スチレン−(メタ)アクリル樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ブチラール樹脂、アセタール樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンウレア樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アルキッド樹脂、ポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、ケトン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、シリコーン樹脂、ニトロセルロース、セルロース・アセテート・ブチレート(CAB)樹脂、セルロース・アセテート・プロピオネート(CAP)樹脂、ロジン、ロジンエステル、およびマレイン酸樹脂等の公知の樹脂が挙げられ、本発明の導電性組成物、導電膜、および、導電性材料に求められる物性に応じて、適宜選択することができる。また、バインダ樹脂(C)は、単独または2種類以上を併用できる。
【0049】
前記ポリエステル樹脂は、水酸基およびカルボキシル基の少なくともいずれかを有することが好ましい。ポリエステル樹脂は、多塩基酸とポリオール等との反応、または多塩基酸エステルとポリオール等とのエステル交換反応等、公知の合成法で合成できる。また、ポリエステル樹脂にカルボキシル基を付与する方法は、公知の手法が使用できるが、例えばポリエステル樹脂を重合後、180〜230℃でε−カプロラクトンなどの環状エステルを後付加(開環付加)してブロック化する方法、または無水トリメリット酸、無水フタル酸などの酸無水物を付加する方法等が挙げられる。また、ポリエスエル樹脂は飽和ポリエステルが好ましい。
【0050】
前記多塩基酸は、例えば芳香族ジカルボン酸、直鎖脂肪族ジカルボン酸、環状脂肪族ジカルボン酸等、および3官能以上のカルボン酸等が好ましい。なお、多塩基酸は、酸無水物基含有化合物を含む。多塩基酸は、単独または2種類以上を併用できる。
【0051】
芳香族ジカルボン酸は、例えばテレフタル酸、およびイソフタル酸等が挙げられるが、これらに限定されない。また、直鎖脂肪族ジカルボン酸は、例えばアジピン酸、セバシン酸、およびアゼライン酸等が挙げられるが、これらに限定されない。また、環状脂肪族ジカルボン酸は、例えば1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ジカルボンキシ水素添加ビスフェノールA、ダイマー酸、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、および3−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられるが、これらに限定されない。また、3官能以上のカルボン酸は、無水トリメリット酸、および無水ピロメリット酸等が挙げられるが、これらに限定されない。その他のカルボン酸は、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸、5−スルホイソフタル酸ナトリウム塩等のスルホン酸金属塩含有ジカルボン酸等も挙げられるが、これらに限定されない。
【0052】
前記ポリオールは、ジオール、および3個以上の水酸基を有する化合物が好ましい。ジオールは、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、および1,4−ブタンジオール、およびネオペンチルグリコール等が挙げられるが、これらに限定されない。3個以上の水酸基を有する化合物は、トルメチロールプロパン、グリセリン、およびペンタエリスリトール等が挙げられるが、これらに限定されない。ポリオールは、単独または2種類以上を併用できる。
【0053】
前記ポリウレタン樹脂は、ポリオールとジイソシアネートと鎖延長剤のジオール化合物とを反応させた、末端に水酸基を有する化合物である。ポリウレタン樹脂は、鎖延長剤を使用して分子鎖を延ばすことができる。鎖延長剤は、一般的にはジオール等が好ましい。ポリウレタン樹脂は、公知の合成法で合成できる。
【0054】
ポリウレタン樹脂の合成に使用するポリオールは、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、およびポリブタジエングリコール等が好ましい。ポリオールは単独または2種類以上を併用できる。
【0055】
ポリエーテルポリオールは、酸化エチレン、酸化プロピレン、およびテトラヒドロフラン等の重合体、ならびにこれらの共重合体である。
【0056】
ポリエステルポリオールは、前記ポリエステル樹脂で説明したポリオールと多塩基酸のエステルである。
【0057】
ポリカーボネートポリオールは、1)ジオールまたはビスフェノールと、炭酸エステルとを反応させた化合物、および2)ジオールまたはビスフェノールを、アルカリの存在下でホスゲンと反応させた化合物等が好ましい。炭酸エステルは、例えばジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート、およびプロピレンカーボネート等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
ジイソシアネートは、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族イソシアネート等が好ましい。ジイソシアネートは単独または2種類以上を併用できる。
【0059】
前記ポリウレタンウレア樹脂は、ポリオールとジイソシアネートとを反応させて末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを合成し、さらにポリアミンと反応させた化合物である。また、ポリウレタンウレア樹脂は、分子量を調整するため必要に応じて反応停止剤を反応させることができる。ポリオールおよびジイソシアネートは、前記ポリウレタン樹脂で説明した化合物を使用することが好ましい。ポリアミンはジアミンが好ましい。反応停止剤は、ジアルキルアミン、モノアルコール等が好ましい。ポリウレタンウレア樹脂は、公知の合成法で合成できる。
【0060】
ポリウレタン樹脂およびポリウレタンウレア樹脂は、水酸基に加えて、カルボキシル基を有することが好ましい。具体的には、合成の際、ジオールの一部をカルボキシル基含有ジオールに置き換えて合成する方法で得られる。前記ジオールは、ジメチロールプロピオン酸、およびジメチロールブタン酸等が好ましい。
【0061】
導電性ペーストがポリウレタン樹脂またはポリウレタンウレア樹脂を含む場合、形成される導電性被膜の硬さがより向上する。
【0062】
ポリウレタン樹脂またはポリウレタンウレア樹脂を合成する際には溶剤を使用できる。具体的には、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、脂肪族系溶剤、芳香族系溶剤、およびカーボネート系溶剤等が好ましい。溶剤は、単独または2種類以上を併用できる。
【0063】
エステル系溶剤は、例えば酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、乳酸エチル、および炭酸ジメチル等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
ケトン系溶剤は、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、イソホロン、およびシクロヘキサノン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
グリコールエーテル系溶剤は、例えばエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、およびエチレングリコールモノブチルエーテル等のモノエーテル、ならびにこれらの酢酸エステル;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、およびプロピレングリコールモノエチルエーテル等、ならびにこれらの酢酸エステル;等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
脂肪族系溶剤は、例えばn−ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0067】
芳香族系溶剤としては、トルエン、キシレン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
カーボネート系溶剤としては、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどの鎖状カーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどの環状カーボネート等を挙げられるが、これらに限定されない。
【0069】
前記エポキシ樹脂は、エポキシ基および水酸基を有する化合物であり、公知の化合物を使用できる。エポキシ樹脂は、ビスフェノールAおよびビスフェノールFに代表される、芳香族ジオールとエピクロルヒドリンとを反応させて得たポリグリシジルエーテルが好ましい。エポキシ樹脂は、高分子エポキシ樹脂である、いわゆるフェノキシ樹脂を使用することも好ましい。これらは、単独または2種類以上を併用できる。
【0070】
以下、本発明の導電性組成物で使用するバインダ樹脂(C)の選定の具体例として、導電性ペースト、および、導電性接着剤や導電性シートの2例について述べる。なお、本発明の用途はこれらに限定されるものではない。
【0071】
<導電性ペーストに使用する場合>
まず、本発明の導電性組成物を、配線回路を作製するための導電性ペーストに使用する場合、バインダ樹脂(C)としては、基材への密着性、溶剤への溶解性、導電性組成物に必要な塗膜の機械強度の観点から、フェノキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンウレア樹脂、およびエポキシ樹脂からなる群より選ばれることが好ましい。また、これらは、酸性基を有する分散剤(D)と組み合わせた場合に、表面処理銅粉(AB)の分散性に優れる面でも好ましい。これらのバインダ樹脂は、単独または2種以上を併用できる。
【0072】
この場合のバインダ樹脂(C)の数平均分子量(以下、Mnという)は、10,000〜50,000が好ましく、20,000〜40,000がより好ましい。Mnが10,000以上になることで導電性組成物の環境信頼性が向上し、特に耐湿熱性がより向上する。なお、Mnは、GPC(ゲルパーミッションクロマトグラフィー)で測定したポリスチレン換算の数値である。また、配線回路の環境信頼性とは、85℃、湿度85%の環境下に置かれても、導電性組成物や導電膜自体の酸化による劣化がなく、導電膜の基材(例えばITOフィルム)に対する密着性が劣化し難いことである。
【0073】
この場合のバインダ樹脂(C)のガラス転移温度(以下、Tgという)は、5〜100℃が好ましく、10〜95℃がより好ましい。Tgが5℃以上になると配線回路の耐湿熱性がより向上する。また、Tgが100℃以下になると配線回路と基材との密着性がより向上する。なお、Tgは、DSC(示差走査熱量計)にて測定した数値である。
【0074】
この場合のバインダ樹脂は、上記Mnと上記Tgを同時に満足すると配線回路の信頼性がより向上するため、最も好ましい。
【0075】
<導電性接着剤や導電性シートに使用する場合>
次に、本発明の導電性組成物を、導電性接着剤や導電性シート等に使用する場合、バインダ樹脂(C)としては、接着性、可撓性、塗加工性の観点から、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンウレア樹脂、付加型エステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ピペラジンポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂が特に好ましい。また、これらは、酸性基を有する分散剤(D)と組み合わせた場合に、表面処理銅粉(AB)の分散性に優れる面でも好ましい。これらのバインダ樹脂は、単独または2種以上を併用できる。
【0076】
この場合のバインダ樹脂は熱硬化性であることがさらに好ましく、具体的には、構造中に硬化反応の起点となるカルボキシル基を有することが好ましい。さらに、これらのバインダ樹脂(C)と硬化剤を併用することも可能である。
【0077】
この場合のバインダ樹脂(C)の酸価は特に限定されないが、3〜100mgKOH/gが好ましく、3〜70mgKOH/gがより好ましい。特に好ましくは、3〜40mgKOH/gである。バインダ樹脂(C)の酸価を3〜100mgKOH/gの範囲にすることで可撓性と環境信頼性がより向上する。
【0078】
この場合のバインダ樹脂(C)のTgは−30〜30℃が好ましく、−20〜20℃がより好ましい。Tgを−30〜30℃の範囲にすることで、可撓性および接着強度がより向上する。
【0079】
この場合のバインダ樹脂(C)の重量平均分子量(以下、Mwという)は、20,000〜100,000が好ましい。Mwを20,000〜100,000とすることで、可撓性および接着強度がより向上する
【0080】
熱硬化性のバインダ樹脂(C)と併用する硬化剤としては、バインダ樹脂(C)中のカルボキシル基と反応することが可能な官能基を複数有する材料である。例えばエポキシ化合物、イソシアネート化合物、アミン化合物、アジリジン化合物、有機金属化合物、酸無水物基含有化合物、フェノール化合物等の公知の化合物が挙げられる。好ましくは、エポキシ化合物、またはアジリジン化合物である。硬化剤は、単独または2種類以上を併用できる。
【0081】
<酸性基を有する分散剤(D)>
本発明において酸性基を有する分散剤(D)は、分散し難い表面処理銅粉(AB)を導電性組成物中で分散するために使用する。また、導電性組成物が分散剤を含むとバインダ樹脂と表面処理銅粉(AB)の微粒子が混和しやすく分散性が向上するため、ペーストの粘度が下がり、印刷時に塗工膜内の表面処理銅粉(AB)の微粒子がより密に配列しやすくなり、粒子間の接点を向上させることが可能になる。このような分散剤は、樹脂型分散剤であることが好ましい。
【0082】
樹脂型分散剤は、一般に、分散対象である粒子に吸着する親和性部位と、バインダ樹脂に親和性が高い部位とを有するポリマー(樹脂)の分散剤である。前記親和性部位は、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、水酸基、マレイン酸基等の酸性基等が挙げられる。本発明では、表面処理銅粉(AB)に対する親和性部位として酸性基を有すことが必要である。表面処理銅粉(AB)に強固に吸着してしまうと、焼成時においても銅粒子間の導電パスを妨げてしまうため、適度な吸着能をもつ酸性基が好ましい。また、酸性基の中でも銅との吸脱着がよいリン酸基が好ましい。
【0083】
本発明において、酸性基を有する分散剤(D)のうち樹脂型分散剤としては、市販されているものを使用することもできる。市販品としては、例えば、ビックケミー社製のDISPER BYK−102、110、111、118、170、171、174、2096、BYK−P104、P104S、P105、220S、共栄社化学株式会社製のフローレン G−700、GW−1500、G−100SF、AF−1000、AF−1005、LUBRIZOL社製のSOLSPERSE−3000、21000、36000、36600、41000、41090、43000、44000、46000、55000、SOLPLUS−D520、D540、L400等が挙げられる。
【0084】
本発明で用いる酸性基を有する分散剤(D)は、アミノ基をさらに有すことが好ましい。アミノ基は一級、二級、三級のいずれでもよい。アミノ基は前記酸性基を中和していることが好ましい。
【0085】
詳細な理由はまだ不明であるが、アミノ基を持つ物質で酸性基を中和した樹脂型分散剤の好適な理由は以下のように考えている。導電性組成物において、アミノ基を持つ物質が表面処理銅粉(AB)中のアスコルビン酸に配位し、焼成時に熱がかかると、アミノ基を持つ物質が表面処理銅粉(AB)中のアスコルビン酸を活性型の分子骨格に変化させ、焼成時に形成された銅酸化物とアスコルビン酸との酸化還元反応を促進させる。さらに、加熱によってアスコルビン酸が消費され、露出した銅表面にアミノ基を持つ物質が配位することで、焼成時における銅の酸化、および湿熱環境下における銅の酸化を抑制することができると考察している。
【0086】
配位強度を考慮すると、アミノ基を持つ物質は、分子末端に水酸基を保有するアルカノールアミン骨格を持つことがさらに好ましい。
【0087】
樹脂型分散剤において、バインダ樹脂に親和性が高い部位としては、例えばポリウレタン、およびポリアクリレート等のポリカルボン酸エステルポリアミド;ポリカルボン酸、ポリカルボン酸(部分)アミン塩、ポリカルボン酸アンモニウム塩、ポリカルボン酸アルキルアミン塩、ポリシロキサン、長鎖ポリアミノアマイドリン酸塩、および水酸基含有ポリカルボン酸エステル;ポリ(低級アルキレンイミン)と遊離のカルボキシル基を有するポリエステルとの反応で合成したアミド、およびその塩等が挙げられる。
【0088】
また、他のバインダ樹脂に親和性が高い部位としては、ポリエステル、ポリエーテル、ポリエステルエーテル、ポリウレタン等のポリリン酸(塩);ポリリン酸、ポリリン酸(部分)アミン塩、ポリリン酸アンモニウム塩、ポリリン酸アルキルアミン塩等が挙げられる。
【0089】
また、他のバインダ樹脂に親和性が高い部位としては、(メタ)アクリル酸−スチレン共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル系、変性ポリアクリレート系、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド付加化合物、および繊維系誘導体樹脂等が挙げられる。
【0090】
本発明において、酸性基を有する分散剤(D)のうち、さらにアミノ基を有する樹脂型分散剤としては、市販されているものを使用することもできる。市販品としては、例えば、ビックケミー社製のANTI−TERRA−U、U100、204、DISPER BYK−106、130、140、142、145、180、BYK−9076、共栄社化学株式会社製のフローレン G−820XF、LUBRIZOL社製のSOLSPERSE−26000、53095、SOLPLUS−D530等が挙げられる。
【0091】
本発明の導電性組成物は、表面処理銅粉(AB)100質量部に対し、酸性基を有する分散剤(D)を0.1〜10質量部含むことが好ましく、0.6〜1質量部がより好ましい。分散剤(D)を0.1質量部以上含むことで表面処理銅粉(AB)の分散性がより向上する。また、分散剤(D)を10質量部以下にすることで導電性被膜の導電性がより向上する。
【0092】
<銅前駆体(Y)>
本発明の導電性組成物は、さらに銅前駆体を含むことができる。銅前駆体とは焼成時に銅へと変化する物質である。
【0093】
銅前駆体(Y)は、銅前駆体(Y)および表面処理銅粉(AB)の合計100質量%のうち、0.1〜50質量%を配合することが好ましく、1〜15質量%がより好ましい。0.1質量%以上とすることで表面処理銅粉(AB)同士をつなぎ、導電パスがより強固になる接点強化効果により導電性が向上する。また、50質量%以下とすることで、表面処理銅粉(AB)の耐酸化効果が十分に発揮される。
【0094】
本発明において、銅前駆体(Y)としては、例えば、酢酸銅、トリフルオロ酢酸銅、プロピオン酸銅、酪酸銅、イソ酪酸銅、2−メチル酪酸銅、2−エチル酪酸銅、吉草酸銅、イソ吉草酸銅、ピバリン酸銅、ヘキサン酸銅、ヘプタン酸銅、オクタン酸銅、2−エチルヘキサン酸銅、ノナン酸銅などの脂式カルボン酸との銅塩、マロン酸銅、コハク酸銅、マレイン酸銅等のジカルボン酸との銅塩、安息香酸銅、サリチル酸銅などの芳香族カルボン酸との銅塩、ギ酸銅、ヒドロキシ酢酸銅、グリオキシル酸銅、乳酸銅、シュウ酸銅、酒石酸銅、リンゴ酸銅、クエン酸銅などの還元力を有するカルボン酸との銅塩、硝酸銅、シアン化銅、及び銅アセチルアセトナート等が挙げられる。これらの中でも、成分中の銅含有率が高いギ酸銅が好ましい。
【0095】
本発明の導電性組成物が銅前駆体(Y)を含む場合は、さらに、銅前駆体に対する銅化反応促進剤をも含んでいてもよい。銅前駆体に対する銅化反応促進剤とは、銅イオンや銅塩に対する配位能力を有する官能基を分子内に1つ以上有する化合物であり、銅前駆体(Y)と混合することで相互作用し、銅前駆体(Y)の分解温度、すなわち銅化温度を低下させる材料である。銅イオンや銅塩に対する配位能力を有する官能基は、主として、酸素原子、窒素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を有する官能基であり、更に具体的には、例えば、チオール基、アミノ基、ヒドラジノ基、アミド基、ニトリル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシカルボニル基等を挙げることができる。また、銅化反応促進剤は、低分子化合物であっても高分子化合物であってもよい。
【0096】
銅化反応促進剤の構造は特に限定されるものではないが、銅前駆体の分解温度の低下幅が大きく、導電性組成物の焼成温度を低く抑えられる点で、アミノ基を有する化合物、チオール基を有する化合物から選ばれることが好ましく、さらに、分解温度の低下幅が最も大きく、異臭も少ない点でアミノ基を有する化合物が最も好ましい。
【0097】
アミノ基を有する銅化反応促進剤としては、脂肪族アミン、環状アミン、芳香族アミンが挙げられ、さらに具体的には、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、イソブチルアミン、t−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、n−オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、n−ドデシルアミン、n−ヘキサデシルアミン、オレイルアミン、ステアリルアミン、エタノールアミン、ベンジルアミン、N−メチル−n−プロピルアミン、メチル−i−プロピルアミン、メチル−i−ブチルアミン、メチル−t−ブチルアミン、メチル−n−ヘキシルアミン、メチルシクロヘキシルアミン、メチル−n−オクチルアミン、メチル−2−エチルヘキシルアミン、メチル−n−ドデシルアミン、メチル−n−トリデシルアミン、メチル−n−ヘキサデシルアミン、メチルステアリルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジオクチルアミン、ジドデシルアミン、ジステアリルアミン、ジエタノールアミン、トリエチルアミン、ジエチルトリエチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、トリドデシルアミン、トリステアリルアミン、トリエタノールアミン、メチルベンジルアミン、アニリン、N,N−ジメチルアニリン、p−トルイジン、N−メチルアニリン、4−ブチルアニリン、ピロリジン、ピロール、ピペリジン、ピリジン、ヘキサメチレンイミン、ピラゾール、イミダゾール、ピペラジン、N−メチルピペラジン、N−エチルピペラジン、DBU等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0098】
<導電性粒子、導電性複合微粒子>
本発明の導電性組成物は、さらに導電性粒子を含むことができる。導電粒子としては、例えば、銀、金、白金、銅、ニッケル、マンガン、錫、インジウム等が挙げられる。
【0099】
本発明の導電性組成物は、さらに導電性複合微粒子を含むことができる。導電性複合微粒子は、核体の表面を被覆した被覆層を有する導電性微粒子である。ここで核体は、安価で導電性が高い銅であり、被覆層は、導電性が高く酸価による抵抗値の劣化が少ない銀である。銀は、例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、マンガン、錫、およびインジウム等との合金であってもよい。
【0100】
導電性粒子および導電性複合微粒子の形状は、所望の導電性が得られればよく形状は限定されない。具体的には、例えば、球状、フレーク状、葉状、樹枝状、プレート状、針状、棒状、ブドウ状が好ましい。また、これらの異なる形状の導電性粒子または導電性複合微粒子を2種類混合してもよい。導電性粒子および導電性複合微粒子は、単独または2種類以上を併用できる。
【0101】
<溶剤>
本発明の導電性組成物は、さらに溶剤を含むことができる。溶剤を含むことで表面処理銅粉(AB)の分散が容易になり、印刷に適した粘度に調整がし易くなる。溶剤は、使用する樹脂の溶解性や印刷方法等の種類に応じて、選択することができる。溶剤は、単独または2種類以上を併用できる。
【0102】
具体的には、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、脂肪族系溶剤、芳香族系溶剤、および、アルコール系溶剤等が好ましい。
【0103】
エステル系溶剤としては、ポリウレタン樹脂またはポリウレタンウレア樹脂を合成の際に使用できる溶剤として例示したものが同様に例示できる。さらに、ε−カプロラクトン、およびγ―ブチロラクトン等の環状エステル系溶剤も例示できる。
【0104】
ケトン系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、脂肪族系溶剤は、ポリウレタン樹脂またはポリウレタンウレア樹脂を合成の際に使用できる溶剤として例示したものが同様に例示できる。
【0105】
芳香族系溶剤は、例えばトルエン、キシレン、テトラリン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0106】
アルコール系溶剤は、例えば、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、ターピネオール等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0107】
溶剤の量は特に限定されないが、表面処理銅粉(AB)、バインダ樹脂(C)、および酸性基を有する分散剤(D)の総質量100質量部に対して、5〜400質量部程度が好ましく、さらに好ましくは、5〜300質量部程度である。溶剤の量が上記の範囲にあることで、後述する印刷ないし塗工方法に好適に対応することが可能となる。
【0108】
<その他の添加剤>
本発明の導電性組成物は、必要に応じて、バインダ樹脂に対する硬化剤、還元剤、耐摩擦向上剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、芳香剤、硬化剤、酸化防止剤、有機顔料、無機顔料、消泡剤、可塑剤、難燃剤、および保湿剤等を含むことができる。
【0109】
<導電性組成物の調製方法>
本発明の導電性組成物は、上段で説明した原料を所定の割合で配合して攪拌機で混合することで調製できる。攪拌機は、プラネタリーミキサー、およびディスパー等の公知の装置を使用できる。また、攪拌機に加えて、分散を行うことで表面処理銅粉(AB)をより微細に分散できる。分散機は、ボールミル、ビーズミル、および3本ロール等が挙げられる。
【0110】
[導電性材料]
本発明の導電性組成物を用い、導電性材料を得ることができる。即ち、基材上に、本発明の導電性組成物を印刷または塗工し、乾燥または焼成することにより、基材上と、導電性組成物の硬化物である導電膜とを備えた導電性材料を得ることができる。
【0111】
この印刷または塗工は、例えばスクリーン印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、グラビアオフセット印刷の他、グラビアコート方式、キスコート方式、ダイコート方式、リップコート方式、コンマコート方式、ブレード方式、ロールコート方式、ナイフコート方式、スプレーコート方式、バーコート方式、スピンコート方式、ディップコート方式等の公知の塗工方法を使用できる。
【0112】
また、印刷後、熱により乾燥または焼成工程を行なうことが好ましい。乾燥または焼成工程は、熱風オーブン、赤外線オーブン、およびマイクロウエーブオーブン、ならびにこれらを複合した複合オーブン等の公知の乾燥または焼成装置が挙げられる。
【0113】
さらに、熱による焼成に際しては、いわゆる光焼成を採用することもできる。光焼成は塗工膜が持つ光吸収波長域内の波長の光を瞬間的に塗工膜に照射し、受光した塗工膜が輻射により加熱または光分解反応が発生し、短時間で塗工膜を焼成する手法である。照射する光の種類はとくに限定されないが、例えば、水銀灯、メタルハライドランプ、ケミカルランプ、キセノンランプ、カーボンアーク灯、レーザー光等が挙げられる。熱風オーブン等による一般的な熱焼成に比して、光焼成は短時間で焼成できるので、銅粉の酸化を抑制でき、長時間の加熱による基材の劣化を抑制できるので好ましい。また、照射光に光吸収帯を持たなければ、熱に弱い基材を使用することも可能になる。また、レーザー光を照射光とした場合は、その照射面積を変化させることにより、塗工膜上の任意の箇所に導電性を発現させることが可能である。
【0114】
また、大気中での焼成時の銅粉の酸化を抑制するために、導電性組成物を印刷し、乾燥した後、加圧し、表面処理銅粉(AB)同士の間の空隙を潰し、焼成前の導電膜中の空気を減らしてから焼成したり、あるいは加圧しつつ焼成途中の導電膜中の空気を減らしながら焼成することが好ましい。また、加圧時の環境は常圧環境でも減圧環境でもよい。
【0115】
加圧してから焼成する場合には、熱風オーブン等による一般的な熱硬化の他、前述の光焼成も採用できる。加圧しつつ焼成する場合には、特にその手法は限定されないが、例えば加熱したロールを用いた加圧、熱プレス等が挙げられ、中でもより均一に熱と圧をかけられる熱プレスの利用が好ましい。
【0116】
熱プレスの加工条件は、特に限定されないが、温度120〜190℃程度、圧力1〜3MPa程度、時間1〜60分程度の条件で行うことが一般的である。また、加熱圧着後に120〜190℃で10〜90分間熱硬化を行う場合もある。
【0117】
基材としては、種々の形状のものがあり特に限定されないが、シート状基材が好ましい。シート状基材としては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリイミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリフェレンサルファイドフィルム、ポリパラフェニレンテレフタルアミドフィルム、ポリエーテルニトリルフィルム、ポリエーテルサルホンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、およびポリアクリルフィルム等が挙げられる。また、これらのフィルム上にITO(スズドープ酸化インジウム)層を形成したITOフィルム、およびガラス板上にITO層を形成したITOガラスも挙げられる。また、シート状基材は、セラミック板上にITO層を形成したITOセラミックも挙げられる、なお、ITO層は、フィルムないし板の全面に形成する必要はなく部分的で形成されていてもよい。シート状基材は、リフロー工程を行なう場合、ポリフェレンサルファイドおよびポリイミドが好ましく、リフロー工程を行なわない場合、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。シート状以外の基材としては、ガラス繊維にエポキシ樹脂を含浸した基板などが挙げられる。
【0118】
シート状基材の厚みは、特に限定されないが、50〜350μm程度であり、100〜250μmがより好ましい。前記範囲の厚みによりシート状基材の機械特性、形状安定性、寸法安定性、およびハンドリング等が適切になりやすい。
【0119】
導電膜の厚みは、特に限定されないが、回路描画用途では、通常3〜30μmが好ましく、4〜10μmがより好ましい。厚みが3〜30μmになることでシート状基材と密着性がより向上する。また、導電膜をシート状の導電層などとして扱う用途では、1〜100μmが好ましく、3〜50μmがより好ましい。厚みが1〜100μmの範囲にあることで導電性と、折り曲げ耐性などその他の物性を両立しやすくなる。
【0120】
導電膜には、他の材料を積層してもよい。
【0121】
本発明に係る導電性組成物用いて形成した配線回路は、例えば、携帯電話、スマートフォン、タブレット端末、ノート型PC、カーナビゲーション等のタッチパネルディスプレイに好適に用いることができる。また、ディスプレイがなくとも、配線回路を備えた電子機器等、例えばデジタルカメラ、ビデオカメラ、CD・DVDプレーヤー等に制限なく使用できる。さらに、導電性組成物を使用して形成した配線回路を用いたRFIDのアンテナ回路、ワイヤレス給電装置の受信用コイルおよび送信用コイルについても使用できる。
【0122】
また、本発明に係る導電性組成物は、大気焼成においても良好な導電性を持つと共に、基材密着性、耐熱耐湿度環境信頼を保持する導電性シートを提供することができる。導電性シートの種類としては、異方導電性シート、静電除去シート、グランド接続用シート、メンブレン回路用、導電性ボンディングシート、熱伝導性シート、ジャンパー回路用導電シート、電磁波シールド用導電性シートなどが好適に挙げられる。
【実施例】
【0123】
以下、実施例、比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を意味する。
【0124】
[銅粉(A)]
A1:樹枝銅粉(D50粒子径10μm、BET比表面積0.3m/g)
A2:球状銅粉(D50粒子径6.5μm、BET比表面積0.13m/g)
A3:球状銅粉(D50粒子径1.1μm、BET比表面積0.64m/g)
【0125】
<銅粉のD50粒子径測定>
レーザー回折粒度分布測定装置「SALD−3000」(島津製作所社製)を用いて、体積粒度分布の累積粒度(D50)を測定した。
【0126】
<BET比表面積>
流動式比表面積測定装置「フローソーブII」(島津製作所社製を用いて測定した表面積より以下の計算式により算出した値を比表面積と定義し記載した。
比表面積(m/g)=表面積(m)/粉末質量(g)
【0127】
[アスコルビン酸またはその誘導体(B)]
B1:L−アスコルビン酸
B2:6−O−パルミトイル−L−アスコルビン酸
B3:(+)−5,6−O−イソプロピリデン−L−アスコルビン酸
【0128】
[表面処理銅粉(AB)]
ガラス瓶内に、銅粉A1:26.87gと、アスコルビン酸誘導体B1:L−アスコルビン酸:1.34gと、トルエン33gと、1mmのガラスビーズ25gとを加えて、激しく振り混ぜた。その後、ナイロンメッシュを用いて濾過することで、攪拌物からガラスビーズを取り除き、さらに減圧濾過によって、攪拌物からトルエンを濾別し、固形物を得た。固形物をさらに真空乾燥することで、表面処理銅粉(AB)を得た。
【0129】
得られた表面処理銅粉(AB)の粒子表面の状態を走査型電子顕微鏡S−4300(HITACHI製)にて加速電圧5kV、10000倍にて観察し(図1)、さらに、エネルギー分散型X線分析装置EX−370(堀場製作所製)を用いて炭素と銅を元素マッピングした(図2)。炭素の分布はアスコルビン酸誘導体B1に相当するので、前記の観察から、銅粉A1の表面にアスコルビン酸誘導体B1が付着している表面処理銅粉(AB)であることが確認された。
【0130】
また、この表面処理銅粉(AB)を窒素下で550℃まで昇温して、有機物に由来する重量減少を調べたところ、添加したアスコルビン酸誘導体B1のほぼ全量が銅粉A1と一体化していることを確認した。
【0131】
[銅前駆体(Y)]
ギ酸銅四水和物を40℃で真空乾燥して無水ギ酸銅を得た後、乳鉢で5分間解砕した。
【0132】
[バインダ樹脂(C)]
<バインダ樹脂C1>
JER1256(ビスフェニールA型エポキシ樹脂、Mn=25,000、Tg95℃、エポキシ当量7,500、水酸基価190、三菱化学社製)40部をイソホロン30部、γ−ブチロラクトン30部に溶解し、不揮発分40%のバインダ樹脂Cの溶液を得た。
【0133】
<バインダ樹脂C2>
攪拌機、温度計、還流冷却器、滴下装置、窒素導入管を備えた反応容器に、アジピン酸とテレフタル酸及び3−メチル−1,5−ペンタンジオールから得られるMn=1006であるジオール414部、ジメチロールブタン酸8部、イソホロンジイソシアネート145部、及びトルエン40部を仕込み、窒素雰囲気下90℃で3時間反応させた。これに、トルエン300部を加えて、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーの溶液を得た。次に、イソホロンジアミン27部、ジ−n−ブチルアミン3部、2−プロパノール342部、及びトルエン576部を混合したものに、得られたウレタンプレポリマーの溶液816部を添加し、70℃で3時間反応させ、ポリウレタン樹脂の溶液を得た。これに、トルエン144部、2−プロパノール72部を加えて、固形分30%であるポリウレタン樹脂(バインダ樹脂C2)溶液を得た。Mwは54,000、Tgは−7℃、酸価は3mgKOH/gであった。
【0134】
<バインダ樹脂C3>
攪拌機、温度計、滴下装置、還流冷却器、ガス導入管を備えた反応容器にメチルエチルケトン50部を入れ、容器に窒素ガスを注入しながら80℃に加熱して、同温度でメタクリル酸3部、n−ブチルメタクリレート32部、ラウリルメタクリレート65部、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル4部の混合物を1時間かけて滴下して重合反応を行った。滴下終了後、さらに80℃で3時間反応させた後、アゾビスイソブチロニトリル1部をメチルエチルケトン50部に溶解させたものを添加し、さらに80℃で1時間反応を継続した後、室温まで冷却した。次いでメチルエチルケトンで希釈することで固形分30%のカルボキシル基を含有するアクリル樹脂(バインダ樹脂C3)溶液を得た。Mwは27,000、Tgは−11℃、酸価は20mgKOH/gであった。
【0135】
<バインダ樹脂C4>
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、導入管、温度計を備えた4口フラスコに、ポリカーボネートジオ−ル(クラレポリオールC−2090)195.1部、主鎖用の酸無水物基含有化合物としてテトラヒドロ無水フタル酸(リカシッドTH:新日本理化株式会社製)29.2部、溶剤としてトルエン350部を仕込み、窒素気流下、攪拌しながら60℃まで昇温し、均一に溶解させた。続いてこのフラスコを110℃に昇温し、3時間反応させた。その後、40℃に冷却後、ビスフェノールA型エポキシ化合物(YD−8125:新日鐵化学株式会社製:エポキシ当量=175g/eq)26部、触媒としてトリフェニルホスフィン4部を添加して110℃に昇温し、8時間反応させた。室温まで冷却後、側鎖用の酸無水物基含有化合物としてテトラヒドロ無水フタル酸11.56部を添加し、110℃で3時間反応させた。室温まで冷却後、トルエンで固形分30%になるよう調整し、付加型ポリエステル樹脂溶液(バインダ樹脂C4)を得た。Mwは15,000、Tgは−25℃、酸価は25mgKOH/gであった。
【0136】
<バインダ樹脂C5>
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、導入管、温度計を備えた4口フラスコに、セバシン酸54.5部、5−ヒドロキシイソフタル酸5.5部、ダイマージアミン「プリアミン1074」(クローダジャパン株式会社製、アミン価210.0mgKOH/g)148.4部、イオン交換水を100部仕込み、発熱の温度が一定になるまで撹拌した。温度が安定したら110℃まで昇温し、水の流出を確認してから、30分後に温度を120℃に昇温し、その後、30分ごとに10℃ずつ昇温しながら脱水反応を続けた。温度が230℃になったら、そのままの温度で3時間反応を続け、約2KPaの真空下で、1時間保持した。その後、温度を低下し、トルエン146部、2−プロパノール146部で希釈して、ポリアミド樹脂(バインダ樹脂C5)溶液を得た。Mwは36,000、Tgは5℃、酸価は12mgKOH/gであった。
【0137】
なお、バインダ樹脂のMn、Mw、Tg、エポキシ当量、酸価および水酸基価は以下の方法に従って求めた。
【0138】
<Mn、Mwの測定>
装置 :GPC(ゲルパーミッションクロマトグラフィー)
機種 :昭和電工(株)社製 Shodex GPC−101
カラム:昭和電工(株)社製 GPC KF−G+KF805L+KF803L+KF8 02
検出器:示差屈折率検出器 昭和電工(株)社製 Shodex RI−71
溶離液:THF
流量 :サンプル側:1mL/分、リファレンス側:0.5mL/分
温度 :40℃
サンプル:0.2%THF溶液(100μLインジェクション)
検量線:東ソー(株)社製の下記の分子量の標準ポリスチレン12点を用いて検量線を作成した。
F128(1.09×10)、F80(7.06×10)、F40(4.27×10)、F20(1.90×10)、F10(9.64×10)、F4(3.79×10)、F2(1.81×10)、F1(1.02×10)、A5000(5.97×10)、A2500(2.63×10)、A1000(1.05×10)、A500(5.0×10)。
ベースライン:GPC曲線の最初のピークの立ち上がり点を起点とし、リテンションタイム25分(分子量3,150)でピークが検出されなかったので、これを終点とした。そして、両点を結んだ線をベースラインとして、分子量を計算した。
【0139】
<Tgの測定>
装置:セイコーインスツル(株)社製示差走査熱量分析計DSC−220C
試料:約10mg(0.1mgまで量る)
昇温速度:10℃/分にて200℃まで測定
Tg温度:低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、融解ピークの低温側の曲線に勾配が最大になる点で引いた折線の交点の温度とした。
【0140】
<エポキシ当量の測定>
JIS K 7236 に準拠して測定した。
【0141】
<水酸基価、酸価の測定>
JIS K 0070 に準拠して測定した。
【0142】
[分散剤(D)]
D1:リン酸基を含有するポリエステル/ポリエーテル分散剤であり、酸基をアルカノールアミンで中和した分散剤(ビックケミー社製 DISPER BYK−180)
D2:リン酸基を含有するポリエステル/ポリエーテル分散剤(ビックケミー社製 DISPER BYK−110)
D3:国際公開第2008/007776号公報に記載の芳香族カルボン酸をもつポリエステル分散剤
D4:分散剤D3をアルカノールアミンで中和
D5:アクリル基を含有するシランカップリング剤(信越化学工業社製 KBM−5103)
【0143】
[硬化剤]
硬化剤1:エポキシ化合物(アデカレジンEP−4100、ビスフェノールA系、エポキシ当量=190g/Eq、ADEKA社製)
硬化剤2:アジリジン化合物(ケミタイトPZ−33、日本触媒社製)
【0144】
[導電粒子]
銀コート銅:樹枝状粉(D50粒子径:11μm、銀コート率:10%、BET比表面積:0.2m/g
【0145】
<実施例1>
バインダ樹脂C1の溶液:25部(固形分40質量%)、分散剤D1:0.68部(固形分80質量%)、前記表面処理銅粉(AB):90部(銅粉A1:85.7質量部、アスコルビン酸誘導体B1:4.3質量部を含む)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート:3.2部をプラネタリーミキサーにて混合後し、次いで3本ロールを使用して分散することで導電性組成物を調製した。得られた導電性組成物は、不揮発分が約84.6%であり、不揮発分中、表面処理銅粉(AB)は約89.5%、エポキシ樹脂は約10%、分散剤は約0.5%であった。
【0146】
<実施例2〜22>
実施例1と同様に、銅粉(A)およびアスコルビン酸誘導体(B)の種類と量を変更し、表面処理銅粉(AB)を得た後、分散剤(D)の種類と量を変更し、表1〜3に示す組成の導電性組成物を調製した。なお、実施例2〜22で用いた表面処理銅粉(AB)はいずれも、実施例1と同様、銅粉表面にアスコルビン酸誘導体(B)が付着して存在していることを確認した。
【0147】
<実施例23、24>
実施例1と同様にして、バインダ樹脂C1の溶液:25部(バインダ樹脂C1:10質量部を含む)、分散剤D1:0.68部(不揮発分:0.54部を含む)、前記表面処理銅粉(AB):81部(銅粉A1:77.1質量部、アスコルビン酸誘導体B1:3.9質量部を含む)、無水ギ酸銅:9部、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート:3.2部をプラネタリーミキサーにて混合後し、次いで3本ロールを使用して分散することで導電性組成物を調製した。得られた導電性組成物は、不揮発分が約84.6%であり、不揮発分中、表面処理銅粉(AB)は約80.6%、エポキシ樹脂は約10%、分散剤は約0.5%であった。
【0148】
<実施例25、26>
表4に示したように、実施例23の組成にさらに銅化反応促進剤としてステアリルアミンを添加し、実施例23と同様の操作をすることで、導電性組成物を得た。
【0149】
<実施例27〜40>
それぞれの固形分が表4、5に示す組成となるように配合し、希釈溶媒として、トルエン−イソプロピルアルコール(質量比2:1)の混合溶媒をさらに添加して不揮発分濃度が45%となるようにした。この混合物をディスパーで10分間撹拌することにより、導電性組成物を得た。
【0150】
<比較例1>
表3に示すように、アスコルビン酸誘導体B1も分散剤D1も用いずに、導電性組成物を調製した。
【0151】
<比較例2>
表3に示すように、分散剤D1は用いたが、アスコルビン酸誘導体B1を用いずに導電性組成物を調製した。
【0152】
<比較例3>
表3に示すように、銅粉A1をバインダ樹脂C1に分散する際に、アスコルビン酸誘導体B1と分散剤D1とを用いて導電性組成物を調製した。すなわち、表面処理銅粉(AB)は用いていない。
【0153】
<比較例4>
表3に示すように、表面処理銅粉(AB)は用いたが、分散剤D1は用いずに導電性組成物を調製した。
【0154】
<比較例5>
表3に示すように、表面処理銅粉(AB)は用いたが、酸性基のない分散剤D5を用いて導電性組成物を調製した。
【0155】
<比較例6、7>
表5に示すように、アスコルビン酸誘導体B1を用いずに導電性組成物を調製した。
【0156】
なお、比較例1〜5の分散・混合方法は実施例1と同様に、また、比較例6、7の希釈、分散・混合方法は実施例27と同様に、それぞれ実施した。
【0157】
<導電性シートの作製>
実施例1〜26、比較例1〜5については、厚さ75μmのコロナ処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、PETフィルムという)上に、得られた導電性組成物を、縦15mm×横30mmのパターン形状にスクリーン印刷し、以下のいずれかの条件で乾燥・加熱させ、膜厚が約10〜25μmの導電性シートを得た。なお、導電性シートの厚みはMH−15M型測定器(ニコン社製)を用いて測定した。
【0158】
実施例27〜40、比較例6、7については、ポリイミドフィルムにバーコーターを用いて塗工し、以下のいずれかの条件で乾燥・加熱させ、膜厚が約5〜12μmの導電性シートを得た。なお、導電性シートの厚みはMH−15M型測定器(ニコン社製)を用いて測定した。
【0159】
乾燥・加熱条件は以下のとおりである。
加熱条件1:150℃オーブンにて30分間大気中にて乾燥した。
加熱条件2:80℃で30分間大気乾燥した後、150℃にて1MPaで2分間、大気下で加熱加圧プレスした。次いでプレス機から取り出し、150℃×30分間大気加熱した。
加熱条件3:80℃で30分間大気乾燥した後、150℃にて1MPaで30分間、大気下で加熱加圧プレスした。
加熱条件4:100℃で2分間大気乾燥した後、150℃にて2MPaで30分間、大気下で加熱加圧プレスした。
【0160】
<初期・耐湿熱性試験後の表面抵抗値>
・初期
導電性シート作製後3時間以内に、導電性シートの表面抵抗値を25℃、湿度50%雰囲気下にてロレスタGXMCP−T610測定機(三菱化学アナリテック社製)の直列4探針プローブ(LSP)を用いて測定した。
・耐湿熱性試験後
得られた導電性シートを別途85℃、湿度85%の環境下に24時間放置した後、25℃、湿度50%雰囲気下に移した後、同様にして表面抵抗値を測定した。
【0161】
<体積抵抗率の算出>
上記方法で測定された表面抵抗値、および膜厚を以下の式に代入して導電性シートの体積抵抗率を算出した。
体積抵抗率(Ω・cm)=(表面抵抗率:Ω/□)×(膜厚:cm)
なお、1.0×10を超えるものについては、OVER RANGEとして、「1.0×10↑」と表記した。
【0162】
【表1】
【0163】
【表2】
【0164】
【表3】
【0165】
【表4】
【0166】
【表5】
【0167】
表1〜2から明らかなように、実施例1〜20の導電性組成物は良好な導電性および耐湿熱性を示す。
【0168】
一方、表3に示すように、アスコルビン酸誘導体を全く含まない比較例1、2は、初期抵抗値すら10Ω・cmを大きく超え、導電性ペースト、導電性シートとは程遠い。アスコルビン酸誘導体を含むとはいうものの、予め銅粉の表面を処理せず、バインダ樹脂との分散時に単に配合した比較例3は、比較例1、2よりは初期抵抗値が小さくはなるが、耐湿熱性が良くない。また、表面処理銅粉(AB)は使用してもバインダ樹脂との分散時に分散剤(D)を用いない比較例4や酸性基のない分散剤D5を用いる比較例5も比較例3と同様、比較例1、2よりは初期抵抗値が小さくはなるが、耐湿熱性が良くない。
【0169】
銅前駆体を含む実施例23は、銅前駆体を含まない実施例1に比して、耐湿熱性試験後の導電性の低下が抑制される。
【0170】
表3および4に示すように熱プレスした実施例21、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40は、プレスしない場合に比して良好な導電性を示し、その導電性が耐湿熱性試験後にも高レベルで維持される。
【0171】
銅前駆体を含んでいてもアスコルビン酸誘導体を全く含まない比較例6の初期導電性は、銅前駆体とアスコルビン酸誘導体とを含む実施例29の初期導電性に遠く及ばない。
【0172】
また、銅前駆体を含んでいてもアスコルビン酸誘導体を全く含まない導電性ペーストは、熱プレスした場合(比較例7)、熱プレスしない場合(比較例6)よりは、多少は初期導電性の向上は認められるが、耐湿熱性試験により導電性は著しく低下する。
【0173】
一方、銅前駆体とアスコルビン酸誘導体とを含む導電性ペーストは、熱プレスした場合(実施例30)、熱プレスしない場合(実施例29)より初期導電性が著しく向上するとともに、耐湿熱性試験後もその導電性を極めて高レベルで維持できる。
【0174】
本発明に係る導電性組成物は、大気焼成において、熱プレスしなくても良好な導電性を発現でき、熱プレスすることによって、基材密着性、耐熱耐湿度環境信頼を保持する導電性シートを提供することができる。また、本発明に係る導電性組成物用いて形成した配線回路は、例えば、携帯電話、スマートフォン、タブレット端末、ノート型PC等のタッチパネルディスプレイ、RFID用アンテナ回路、ワイヤレス給電用コイルに好適に用いることができる。
【要約】
【課題】 本発明は、大気下で焼成した場合であっても、良好な導電性および耐湿熱性を示す導電膜を形成することができる導電性組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 銅粉(A)の表面にアスコルビン酸誘導体(B)が付着している表面処理銅粉(AB)と、バインダ樹脂(C)と、酸性基を有する分散剤(D)とを含む、導電性組成物。
【選択図】 なし
図1
図2