特許第6103134号(P6103134)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6103134電解液、電気化学デバイス、リチウムイオン二次電池、及び、モジュール
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  • 特許6103134-電解液、電気化学デバイス、リチウムイオン二次電池、及び、モジュール 図000061
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6103134
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】電解液、電気化学デバイス、リチウムイオン二次電池、及び、モジュール
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20170316BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20170316BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20170316BHJP
   H01G 11/64 20130101ALI20170316BHJP
   H01G 11/60 20130101ALI20170316BHJP
【FI】
   H01M10/0567
   H01M10/0569
   H01M10/052
   H01G11/64
   H01G11/60
【請求項の数】12
【全頁数】66
(21)【出願番号】特願2016-510393(P2016-510393)
(86)(22)【出願日】2015年3月24日
(86)【国際出願番号】JP2015058964
(87)【国際公開番号】WO2015147003
(87)【国際公開日】20151001
【審査請求日】2016年5月27日
(31)【優先権主張番号】特願2014-67015(P2014-67015)
(32)【優先日】2014年3月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 倫明
(72)【発明者】
【氏名】谷 明範
(72)【発明者】
【氏名】木下 信一
(72)【発明者】
【氏名】島田 朋生
(72)【発明者】
【氏名】有馬 博之
【審査官】 小川 知宏
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567
H01G 11/60
H01G 11/64
H01M 10/052
H01M 10/0569
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水系溶媒(I)と、電解質塩(II)と、一般式(1)で示される化合物(III)とを含むことを特徴とする電解液。
【化1】
(式中、Rfは、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜20のフッ素化アルキル基、又は、環状構造を含む炭素数3〜20のフッ素化アルキル基を表す。Rは、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜20のアルキレン基、又は、環状構造を含む炭素数3〜20のアルキレン基を表す。Rが有する水素原子の一部又は全部はフッ素原子に置換されていてもよい。Rf及びRのいずれも、炭素数が2以上のときは、酸素原子同士が互いに隣接しない限り、炭素原子間に酸素原子を含んでいてもよい。)
【請求項2】
Rfは、CF−又はCF−CH−であることを特徴とする請求項1記載の電解液。
【請求項3】
Rは、−CH−、−CH−CH−、又は−CH−CH−CH−であることを特徴とする請求項1又は2記載の電解液。
【請求項4】
非水系溶媒(I)は、フッ素化環状カーボネート又は非フッ素化環状カーボネートを含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電解液。
【請求項5】
非水系溶媒(I)は、フッ素化鎖状カーボネート又は非フッ素化鎖状カーボネートを含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電解液。
【請求項6】
非水系溶媒(I)は、フッ素化環状カーボネートを含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電解液。
【請求項7】
フッ素化環状カーボネートは、式(2)〜(7)で示される化合物からなる群より選択される少なくとも一つの化合物であることを特徴とする請求項4又は6記載の電解液。
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【請求項8】
非水系溶媒(I)はフッ素化鎖状カーボネートを含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の電解液。
【請求項9】
フッ素化鎖状カーボネートは、(2,2,2−トリフルオロエチル)メチルカーボネート及び(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)メチルカーボネートからなる群より選択される少なくとも一つの化合物であることを特徴とする請求項5又は8記載の電解液。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の電解液を備えることを特徴とする電気化学デバイス。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載の電解液を備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項12】
請求項11記載のリチウムイオン二次電池を備えることを特徴とするモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解液、電気化学デバイス、リチウムイオン二次電池、及び、モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機、ノート型パーソナルコンピュータ等の携帯用電子機器の急速な進歩に伴い、その主電源やバックアップ電源に用いられる電池に対する高容量化への要求が高くなっており、ニッケル・カドミウム電池やニッケル・水素電池に比べてエネルギー密度の高いリチウムイオン二次電池等の非水系電解液電池である電気化学デバイスが注目されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の電解液としては、LiPF、LiBF、LiN(CFSO、LiCF(CFSO等の電解質を、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の高誘電率溶媒と、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の低粘度溶媒との混合溶媒に溶解させた非水系電解液が代表例として挙げられる。
【0004】
また、リチウムイオン二次電池の負極活物質としては主にリチウムイオンを吸蔵・放出することができる炭素質材料が用いられており、天然黒鉛、人造黒鉛、非晶質炭素等が代表例として挙げられる。更に高容量化を目指してシリコンやスズ等を用いた金属又は合金系の負極も知られている。正極活物質としては主にリチウムイオンを吸蔵・放出することができる遷移金属複合酸化物が用いられており、遷移金属の代表例としてはコバルト、ニッケル、マンガン、鉄等が挙げられる。
【0005】
しかしながら、このようなリチウムイオン二次電池は、活性の高い正極と負極を使用しているため、電極と電解液との副反応により、充放電容量が低下することが知られている。そのような電池特性を改良するために、非水系溶媒や電解質について種々の検討がなされている。
【0006】
特許文献1には、ニトリル基を2個以上有する有機化合物を添加した電解液を用いることにより、ニトリル基の分極による大きな双極子モーメントが高電圧での充電時における正極上での電解液酸化分解を抑制し、これにより電池特性が向上することが提案されている。
【0007】
特許文献2には、特定のニトリル化合物を用いることにより、電池の熱安定性を向上させた電極表面被膜形成剤が開示されている。
【0008】
特許文献3には、電解液中にフッ素化されたニトリル化合物を含有することにより、充放電効率及び保存特性に優れた非水系電解液二次電池が開示されている。
【0009】
特許文献4には、イソシアネート基を有する化合物を非水系電解液に添加することで、負極上での溶媒の分解反応が抑制され、電池のサイクル特性が向上することが開示されている。
【0010】
特許文献5には、脂肪族ニトリル化合物が正極活物質の表面と錯物を形成して正極上に保護膜を形成すれば、過充電時に及び/又は電池の外部からの物理的な衝撃時に電池の安全性が高まることが提案されている。
【0011】
特許文献6には、アルカリ金属電気化学セル、特に、一次リチウム電気化学セルのパルス放電特性を向上させることを目的として、非水電解液の中に硫酸塩を添加剤として加えることが提案されている。
【0012】
特許文献7には、リチウム電池の寿命及び高温度耐性を向上させることを目的として、シアノ基、イソシアネート基、チオシアネート基、及び、イソチオシアネート基から選択される少なくとも一つの置換基を含むスルホン酸塩系化合物を使用することが提案されている。
【0013】
特許文献8には、リチウム電池の高温サイクル特性を向上させることを目的としてC(sp)−C(sp)不飽和炭化水素結合を有する硫酸エステル系化合物を使用することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平7−176322号公報
【特許文献2】特開2002−302649号公報
【特許文献3】特開2003−7336号公報
【特許文献4】特開2005−259641号公報
【特許文献5】国際公開第2005/069423号
【特許文献6】米国特許出願公開第2001/0006751号明細書
【特許文献7】米国特許第7824578号明細書
【特許文献8】米国特許第6444360号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、近年の電池に対する高性能化への要求は、ますます高くなっており、特に高温保存特性については、ガス発生を抑制することが求められるが、従来技術によってはガス発生の抑制が充分ではなかった。
【0016】
本発明は、上記課題を解決すべくされたものであり、非水系電解液電池の電気化学デバイスにおいて、ガス発生を抑制する電解液と、この電解液を用いた電気化学デバイス、リチウムイオン二次電池、及び、モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、電解液がフッ素化環状カーボネート又はフッ素化鎖状カーボネートを含むと特にガスが発生しやすいこと、驚くべきことに、ニトリル基を有する特定のフッ素化合物がガスの発生を抑制することを見出し、また、ガス発生の少ない非フッ素化環状カーボネート又は非フッ素化鎖状カーボネートにおいてもニトリル基を有する特定のフッ素化合物がガスの発生を抑制することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0018】
すなわち、本発明は、非水系溶媒(I)と、電解質塩(II)と、一般式(1)で示される化合物(III)とを含むことを特徴とする電解液である。
【0019】
【化1】
(式中、Rfは、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜20のフッ素化アルキル基、又は、環状構造を含む炭素数3〜20のフッ素化アルキル基を表す。Rは、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜20のアルキレン基、又は、環状構造を含む炭素数3〜20のアルキレン基を表す。Rが有する水素原子の一部又は全部はフッ素原子に置換されていてもよい。Rf及びRのいずれも、炭素数が2以上のときは、酸素原子同士が互いに隣接しない限り、炭素原子間に酸素原子を含んでいてもよい。)
【0020】
Rfは、CF−又はCF−CH−であることが好ましい。
【0021】
Rは、−CH−、−CH−CH−、又は−CH−CH−CH−であることが好ましい。
【0022】
上記非水系溶媒(I)は、フッ素化環状カーボネート又は非フッ素化環状カーボネートを含有することが好ましく、フッ素化環状カーボネートを含有することがより好ましい。
【0023】
上記非水系溶媒(I)は、フッ素化鎖状カーボネート又は非フッ素化鎖状カーボネートを含有することが好ましく、フッ素化鎖状カーボネートを含有することがより好ましい。
【0024】
上記フッ素化環状カーボネートは、式(2)〜(7)で示される化合物からなる群より選択される少なくとも一つの化合物であることが好ましい。
【0025】
【化2】
【0026】
【化3】
【0027】
【化4】
【0028】
【化5】
【0029】
【化6】
【0030】
【化7】
【0031】
上記フッ素化鎖状カーボネートは、(2,2,2−トリフルオロエチル)メチルカーボネート及び(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)メチルカーボネートからなる群より選択される少なくとも一つの化合物であることが好ましい。
【0032】
本発明はまた、上述の電解液を備えることを特徴とする電気化学デバイスである。
【0033】
本発明はまた、上述の電解液を備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池である。
【0034】
本発明はまた、上述のリチウムイオン二次電池を備えることを特徴とするモジュールである。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、ガス発生を抑制する電解液、電気化学デバイス、リチウムイオン二次電池、及び、モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本明細書に記載の方法で式(15)で示される化合物を合成したときのH−NMRによる分析結果の一例。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明は、非水系溶媒(I)と、電解質塩(II)と、一般式(1)で示される化合物(III)とを含むことを特徴とする電解液である。
【0038】
【化8】
【0039】
(式中、Rfは、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜20のフッ素化アルキル基、又は、環状構造を含む炭素数3〜20のフッ素化アルキル基を表す。Rは、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜20のアルキレン基、又は、環状構造を含む炭素数3〜20のアルキレン基を表す。Rが有する水素原子の一部又は全部はフッ素原子に置換されていてもよい。Rf及びRのいずれも、炭素数が2以上のときは、酸素原子同士が互いに隣接しない限り、炭素原子間に酸素原子を含んでいてもよい。)
【0040】
このため、本発明の電解液を用いれば、ガス発生が抑制されたリチウムイオン二次電池等の電気化学デバイスを提供することができる。
【0041】
一般式(1)において、Rfは、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜20のフッ素化アルキル基、又は、環状構造を含む炭素数3〜20のフッ素化アルキル基を表す。
【0042】
直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜20のフッ素化アルキル基としては、CF−、CF−CH−、CH−CF−、CF−CF−CF−、CF−CH−CF−、CF−CH(CF)−、CF−CF(CH)−、CHCFCF−、CHFCFCF−、CFHCFCF−、CFCFCFCF−、CFCHCFCF−等が挙げられる。
【0043】
環状構造を含む炭素数3〜20のフッ素化アルキル基としては、1〜5個の水素原子がフッ素原子に置換されたシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられるがこの限りではない。
【0044】
Rfは、炭素数が2以上のときは、酸素原子同士が互いに隣接しない限り、例えば、CF−O−CF−構造のように、炭素原子間に酸素原子を含んでいてもよいが、炭素原子間に酸素原子を含まないフッ素化アルキル基であることが好ましい。
【0045】
上記Rfは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜20のフッ素化アルキル基であることが好ましく、CF−、CF−CH−、CH−CF−、CF−CF−CF−、CF−CH−CF−、CF−CH(CF)−、CF−CF(CH)−、CHCFCF−、CHFCFCF−、CFHCFCF−、CFCFCFCF−、又はCFCHCFCF−であることがより好ましく、CF−、CF−CF−、CF−CF−CF−、又はCF−CH−であることが更に好ましく、CF−又はCF−CH−であることが特に好ましい。
【0046】
一般式(1)において、Rは、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜20のアルキレン基、又は、環状構造を含む炭素数3〜20のアルキレン基を表す。いずれのアルキレン基も、炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部がフッ素原子に置換されていてもよい。しかしながら、いずれのアルキレン基も、フッ素原子を有さないことが好ましい。
直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜20のアルキレン基としては、−CH−、−CH−CH−、−CH(CH)−、−CH−CH−CH−、−CH(CH)−CH−、−CH−CH(CH)−等が挙げられる。
環状構造を含む炭素数3〜20のアルキレン基としては、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基等が挙げられる。
【0047】
Rは、炭素数が2以上のときは、酸素原子同士が互いに隣接しない限り、例えば、−CH−O−CH−構造のように、炭素原子間に酸素原子を含んでいてもよいが、炭素原子間に酸素原子を含まないことが好ましい。
【0048】
上記Rは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜20のアルキレン基であることが好ましく、−CH−、−CH−CH−、−CH(CH)−、−CH−CH−CH−、−CH(CH)−CH−、又は−CH−CH(CH)−であることがより好ましく、−CH−、−CH−CH−、又は−CH−CH−CH−であることが更に好ましく、−CH−CH−であることが特に好ましい。
【0049】
上記一般式(1)で示される化合物(III)として、特に好ましい化合物を具体的に化学式で記載すると以下のとおりである。
【0050】
【化9】
【0051】
上記式(8)〜(19)で示される化合物は、例えば、フッ素化アルキルスルホン酸クロリド誘導体にシアノ基含有アルコール誘導体および塩基を作用させることにより、合成することができる。具体的には、例えば、下記の方法で合成することができる。
【0052】
【化10】
【0053】
(式中、Rf及びRは上述したものと同じである。)
【0054】
以下、上記反応式に示す合成ルートに沿って、フッ素化スルホン酸シアノアルキルエステルを合成する方法について、より具体的に説明する。
【0055】
例えば、上記式(12)で示される化合物は公知の合成法によって合成することができる。
無水トリフルオロメタンスルホン酸(1等量)に、ピリジン(1等量)およびエチレンシアノヒドリン(1等量)をジクロロメタン溶媒下で作用させることにより、上記式(12)に示す含フッ素アルキルスルホン酸シアノエチルエステルを得ることができる。
文献:Journal of Medicinal Chemistry, 1991,vol. 34, 1363−1368
【0056】
また、上記式(15)で示される化合物は下記合成法によって合成することができる。
まず、100mLの3口フラスコに2,2,2−トリフルオロエタンスルホン酸クロリド(14.1g/77mmol)を加え、次いで、塩化メチレン(14.1mL)、エチレンシアノヒドリン(5g/70mmol)を加え、0℃に冷却する。そして、これに、トリエチルアミン(8.54g/84.4mmol)を20mLシリンジにてゆっくりと滴下する。0℃〜室温で3時間反応させることにより、対応するフッ素化スルホン酸シアノエチルエステル粗体が得られる。
得られた粗体をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:不二シリシア社製、塩化メチレン溶媒)で精製することで、単離収率70%で対応するフッ素化スルホン酸シアノアルキルエステルを得ることができる。
なお、同定はH−NMRにて行うことができる。
【0057】
上記合成法によって合成した化合物のH−NMRによる分析結果を図1に示す。H−NMR測定は重クロロホルム溶媒にて行った。H−NMR(270MHz、重アセトン)、δ:2.86ppm(2H、t),3.99ppm(2H、q),4.52ppm(2H、t)。
【0058】
一般式(1)で示される化合物(III)の分子量は、153以上が好ましく、170以上がより好ましく、189以上が更に好ましい。また、上記分子量は289以下が好ましく、271以下がより好ましい。
【0059】
本発明の電解液において、一般式(1)で示される化合物(III)の含有量は、電解液中0.01〜12質量%であることが好ましく、電解液中0.01〜10質量%であることがより好ましい。含有量が上記範囲内であると、ガス発生を抑制する電解液とすることができる。
【0060】
一般式(1)で示される化合物(III)の含有量は、電解液中0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上が更に好ましく、8質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0061】
本発明の電解液は、非水系溶媒(I)を含む。
【0062】
非水系溶媒(I)は、フッ素化環状カーボネート、非フッ素化環状カーボネート、不飽和結合を有する環状カーボネート、非フッ素化鎖状カーボネート、及び、フッ素化鎖状カーボネートからなる群より選択される少なくとも1種を含むことも好ましい。
【0063】
ここで述べる非フッ素化とはフッ素原子を含まない構造であることを意味する。
フッ素化環状カーボネートは、フッ素化飽和環状カーボネートであり、後述する不飽和結合を有する環状カーボネートとは異なる。
【0064】
非水系溶媒(I)は、耐酸化性に優れることから、フッ素化環状カーボネートを含むことがより好ましい。
非水系溶媒(I)は、耐酸化性に優れることから、フッ素化鎖状カーボネートを含むことがより好ましい。
【0065】
非水系溶媒(I)は、以下の溶媒のいずれかであることが好ましい。
(a−1)非フッ素化環状カーボネート及び非フッ素化鎖状カーボネートを含む溶媒
(a−2)非フッ素化環状カーボネート、非フッ素化鎖状カーボネート及び不飽和結合を有する環状カーボネートを含む溶媒
(a−3)非フッ素化環状カーボネート、非フッ素化鎖状カーボネート及びフッ素化環状カーボネートを含む溶媒
(a−4)非フッ素化環状カーボネート、非フッ素化鎖状カーボネート、フッ素化環状カーボネート及び不飽和結合を有する環状カーボネートを含む溶媒
(b−1)フッ素化環状カーボネート及びフッ素化鎖状カーボネートを含む溶媒
(b−2)フッ素化環状カーボネート、フッ素化鎖状カーボネート及び不飽和結合を有する環状カーボネートを含む溶媒
【0066】
非水系溶媒(I)が非フッ素化環状カーボネート及び非フッ素化鎖状カーボネートを含む場合、非フッ素化環状カーボネートと非フッ素化鎖状カーボネートとの体積比は、19/1〜1/19であることが好ましく、8/2〜2/8であることがより好ましい。
非水系溶媒(I)がフッ素化環状カーボネート及びフッ素化鎖状カーボネートを含む場合、フッ素化環状カーボネートとフッ素化鎖状カーボネートとの体積比は、19/1〜1/19であることが好ましく、8/2〜2/8であることがより好ましい。
【0067】
本発明の電解液は、更に、不飽和結合を有する環状カーボネートを含むことが好ましい。
【0068】
上記非水系溶媒(I)は、環状カーボネートを含むことが好ましい。上記環状カーボネートとしては、フッ素化環状カーボネート、非フッ素化環状カーボネート、及び、不飽和結合を有する環状カーボネートが挙げられるが、耐酸化性に優れる点からフッ素化環状カーボネートがより好ましい。
【0069】
(フッ素化環状カーボネート)
上記フッ素化環状カーボネートとしては、下記一般式(A):
【0070】
【化11】
(式中、X〜Xは同じか又は異なり、夫々−H、−F、エーテル結合を有してもよいフッ素化アルキル基、又は、エーテル結合を有してもよいフッ素化アルコキシ基を表す。ただし、X〜Xの少なくとも1つは−Fである。)で表されるフッ素化環状カーボネート(A)が挙げられる。
【0071】
上記非水系溶媒(I)がフッ素化環状カーボネート(A)を含むものであると、該溶媒(I)を含む電解液をリチウムイオン二次電池等に適用した場合に、負極に安定な被膜を形成することができ、負極での電解液の副反応を充分に抑制することができる。その結果、極めて安定で優れた充放電特性が得られる。
【0072】
なお、本明細書中で「エーテル結合」は、−O−で表される結合である。
【0073】
上記一般式(A)において、低温での粘性の低下、引火点の上昇、更には電解質塩の溶解性の向上が期待できることから、X〜Xは、−H、−F、フッ素化アルキル基(a)、エーテル結合を有するフッ素化アルキル基(b)、又は、フッ素化アルコキシ基(c)であることが好ましい。
【0074】
上記一般式(A)において、X〜Xの少なくとも1つは−Fであるが、誘電率、耐酸化性が良好な点から、X〜Xの少なくとも1つ又は2つが、−Fであることが好ましい。
【0075】
上記フッ素化アルキル基(a)は、アルキル基が有する水素原子の少なくとも1つをフッ素原子で置換したものである。フッ素化アルキル基(a)の炭素数は、1〜20が好ましく、2〜17がより好ましく、2〜7が更に好ましく、2〜5が特に好ましい。
【0076】
炭素数が大きくなりすぎると低温特性が低下したり、電解質塩の溶解性が低下したりするおそれがあり、炭素数が少な過ぎると、電解質塩の溶解性の低下、放電効率の低下、更には粘性の増大等がみられることがある。
【0077】
上記フッ素化アルキル基(a)のうち、炭素数が1のものとしては、CFH−、CFH−及びCF−が挙げられる。
【0078】
上記フッ素化アルキル基(a)のうち、炭素数が2以上のものとしては、下記一般式(a−1):
−R− (a−1)
(式中、Rはフッ素原子を有していてもよい炭素数1以上のアルキル基;Rはフッ素原子を有していてもよい炭素数1〜3のアルキレン基;ただし、R及びRの少なくとも一方はフッ素原子を有している)で示されるフッ素化アルキル基が、電解質塩の溶解性が良好な点から好ましく例示できる。なお、R及びRは、更に、炭素原子、水素原子及びフッ素原子以外の、その他の原子を有していてもよい。
【0079】
は、フッ素原子を有していてもよい炭素数1以上のアルキル基である。Rとしては、炭素数1〜16の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が好ましい。Rの炭素数としては、1〜6がより好ましく、1〜3が更に好ましい。
【0080】
として、具体的には、直鎖状又は分岐鎖状の非フッ素化アルキル基として、CH−、CHCH−、CHCHCH−、CHCHCHCH−、
【0081】
【化12】
【0082】
等が挙げられる。
【0083】
また、Rがフッ素原子を有する直鎖状のアルキル基である場合、CF−、CFCH−、CFCF−、CFCHCH−、CFCFCH−、CFCFCF−、CFCHCF−、CFCHCHCH−、CFCFCHCH−、CFCHCFCH−、CFCFCFCH−、CFCFCFCF−、CFCFCHCF−、CFCHCHCHCH−、CFCFCHCHCH−、CFCHCFCHCH−、CFCFCFCHCH−、CFCFCFCFCH−、CFCFCHCFCH−、CFCFCHCHCHCH−、CFCFCFCFCHCH−、CFCFCHCFCHCH−、HCF−、HCFCH−、HCFCF−、HCFCHCH−、HCFCFCH−、HCFCHCF−、HCFCFCHCH−、HCFCHCFCH−、HCFCFCFCF−、HCFCFCHCHCH−、HCFCHCFCHCH−、HCFCFCFCFCH−、HCFCFCFCFCHCH−、FCH−、FCHCH−、FCHCF−、FCHCFCH−、FCHCFCF−、CHCFCH−、CHCFCF−、CHCFCHCF−、CHCFCFCF−、CHCHCFCF−、CHCFCHCFCH−、CHCFCFCFCH−、CHCFCFCHCH−、CHCHCFCFCH−、CHCFCHCFCH−、CHCFCHCFCHCH−、CHCFCHCFCHCH−、HCFClCFCH−、HCFCFClCH−、HCFCFClCFCFClCH−、HCFClCFCFClCFCH−等が挙げられる。
【0084】
また、Rがフッ素原子を有する分岐鎖状のアルキル基である場合、
【0085】
【化13】
【0086】
【化14】
【0087】
等が好ましく挙げられる。ただし、−CHや−CFという分岐を有していると粘性が高くなりやすいため、その数は少ない(1個)かゼロであることがより好ましい。
【0088】
はフッ素原子を有していてもよい炭素数1〜3のアルキレン基である。Rは、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。このような直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基を構成する最小構造単位の一例を下記に示す。Rはこれらの単独又は組合せで構成される。
【0089】
(I)直鎖状の最小構造単位:
−CH−、−CHF−、−CF−、−CHCl−、−CFCl−、−CCl
【0090】
(II)分岐鎖状の最小構造単位:
【0091】
【化15】
【0092】
なお、以上の例示のなかでも、塩基による脱HCl反応が起こらず、より安定なことから、Clを含有しない構成単位から構成されることが好ましい。
【0093】
は、直鎖状である場合には、上述した直鎖状の最小構造単位のみからなるものであり、なかでも−CH−、−CHCH−又はCF−が好ましい。電解質塩の溶解性をより一層向上させることができる点から、−CH−又は−CHCH−がより好ましい。
【0094】
は、分岐鎖状である場合には、上述した分岐鎖状の最小構造単位を少なくとも1つ含んでなるものであり、一般式:−(CX)−(XはH、F、CH又はCF;XはCH又はCF。ただし、XがCFの場合、XはH又はCHである)で表されるものが好ましく例示できる。これらは特に電解質塩の溶解性をより一層向上させることができる。
【0095】
好ましいフッ素化アルキル基(a)としては、例えばCFCF−、HCFCF−、HCFCF−、CHCF−、CFCFCF−、HCFCFCF−、HCFCFCF−、CHCFCF−、CFCH−、HCFCH−、CFCFCH−、HCFCFCH−、HCFCFCH−、CHCFCH−、CFCFCFCH−、CFCFCFCFCH−、HCFCFCFCH−、HCFCFCFCH−、CHCFCFCH−、CFCHCH−、HCFCHCH−、CFCFCHCH−、HCFCFCHCH−、HCFCFCHCH−、CHCFCHCH−、CFCFCFCHCH−、HCFCFCFCHCH−、HCFCFCFCHCH−、CHCFCFCHCH−、
【0096】
【化16】
【0097】
【化17】
【0098】
【化18】
【0099】
等が挙げられる。
【0100】
が直鎖状の、好ましいフッ素化アルキル基(a)の具体例としては、例えばCFCH−、HCFCH−、CFCFCH−、HCFCFCH−、HCFCFCH−、CHCFCH−、CFCFCFCH−、HCFCFCFCH−、HCFCFCFCH−、CHCFCFCH−、CFCHCH−、HCFCHCH−、CFCFCHCH−、HCFCFCHCH−、HCFCFCHCH−、CHCFCHCH−、CFCFCFCHCH−、HCFCFCFCHCH−、HCFCFCFCHCH−、CHCFCFCHCH−、
【0101】
【化19】
【0102】
等が挙げられる。
【0103】
が分岐鎖状の、好ましいフッ素化アルキル基(a)の具体例としては、例えば
【0104】
【化20】
【0105】
等が挙げられる。
【0106】
上記エーテル結合を有するフッ素化アルキル基(b)は、エーテル結合を有するアルキル基が有する水素原子の少なくとも1つをフッ素原子で置換したものである。上記エーテル結合を有するフッ素化アルキル基(b)は、炭素数が2〜17であることが好ましい。炭素数が多過ぎると、フッ素化環状カーボネート(A)の粘性が高くなり、また、フッ素含有基が多くなることから、誘電率の低下による電解質塩の溶解性低下や、他の溶剤との相溶性の低下がみられることがある。この観点から上記エーテル結合を有するフッ素化アルキル基(b)の炭素数は2〜10が好ましく、2〜7がより好ましい。
【0107】
上記エーテル結合を有するフッ素化アルキル基(b)のエーテル部分を構成するアルキレン基は直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基でよい。そうした直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基を構成する最小構造単位の一例を下記に示す。
【0108】
(I)直鎖状の最小構造単位:
−CH−、−CHF−、−CF−、−CHCl−、−CFCl−、−CCl
【0109】
(II)分岐鎖状の最小構造単位:
【0110】
【化21】
【0111】
アルキレン基は、これらの最小構造単位単独で構成されてもよく、直鎖状(I)同士、分岐鎖状(II)同士、又は、直鎖状(I)と分岐鎖状(II)との組み合わせにより構成されてもよい。好ましい具体例は、後述する。
【0112】
なお、以上の例示のなかでも、塩基による脱HCl反応が起こらず、より安定なことから、Clを含有しない構成単位から構成されることが好ましい。
【0113】
更に好ましいエーテル結合を有するフッ素化アルキル基(b)としては、一般式(b−1):
−(ORn1− (b−1)
(式中、Rはフッ素原子を有していてもよい、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基;Rはフッ素原子を有していてもよい、好ましくは炭素数1〜4のアルキレン基;n1は1〜3の整数;ただし、R及びRの少なくとも1つはフッ素原子を有している)で示されるものが挙げられる。
【0114】
及びRとしては以下のものが例示でき、これらを適宜組み合わせて、上記一般式(b−1)で表されるエーテル結合を有するフッ素化アルキル基(b)を構成することができるが、これらのみに限定されるものではない。
【0115】
(1)Rとしては、一般式:XC−(Rn2−(3つのXは同じか又は異なりいずれもH又はF;Rは炭素数1〜5のフッ素原子を有していてもよいアルキレン基;n2は0又は1)で表されるアルキル基が好ましい。
【0116】
n2が0の場合、Rとしては、CH−、CF−、HCF−及びHCF−が挙げられる。
【0117】
n2が1の場合の具体例としては、Rが直鎖状のものとして、CFCH−、CFCF−、CFCHCH−、CFCFCH−、CFCFCF−、CFCHCF−、CFCHCHCH−、CFCFCHCH−、CFCHCFCH−、CFCFCFCH−、CFCFCFCF−、CFCFCHCF−、CFCHCHCHCH−、CFCFCHCHCH−、CFCHCFCHCH−、CFCFCFCHCH−、CFCFCFCFCH−、CFCFCHCFCH−、CFCFCHCHCHCH−、CFCFCFCFCHCH−、CFCFCHCFCHCH−、HCFCH−、HCFCF−、HCFCHCH−、HCFCFCH−、HCFCHCF−、HCFCFCHCH−、HCFCHCFCH−、HCFCFCFCF−、HCFCFCHCHCH−、HCFCHCFCHCH−、HCFCFCFCFCH−、HCFCFCFCFCHCH−、FCHCH−、FCHCF−、FCHCFCH−、CHCF−、CHCH−、CHCFCH−、CHCFCF−、CHCHCH−、CHCFCHCF−、CHCFCFCF−、CHCHCFCF−、CHCHCHCH−、CHCFCHCFCH−、CHCFCFCFCH−、CHCFCFCHCH−、CHCHCFCFCH−、CHCFCHCFCHCH−、CHCHCFCFCHCH−等が例示できる。
【0118】
n2が1であり、かつRが分岐鎖状のものとしては、
【0119】
【化22】
【0120】
等が挙げられる。
【0121】
ただし、−CHや−CFという分岐を有していると粘性が高くなりやすいため、Rが直鎖状のものがより好ましい。
【0122】
(2)上記一般式(b−1)の−(ORn1−において、n1は1〜3の整数であり、好ましくは1又は2である。なお、n1=2又は3のとき、Rは同じでも異なっていてもよい。
【0123】
の好ましい具体例としては、次の直鎖状又は分岐鎖状のものが例示できる。
【0124】
直鎖状のものとしては、−CH−、−CHF−、−CF−、−CHCH−、−CFCH−、−CFCF−、−CHCF−、−CHCHCH−、−CHCHCF−、−CHCFCH−、−CHCFCF−、−CFCHCH−、−CFCFCH−、−CFCHCF−、−CFCFCF−等が例示できる。
【0125】
分岐鎖状のものとしては、
【0126】
【化23】
【0127】
等が挙げられる。
【0128】
上記フッ素化アルコキシ基(c)は、アルコキシ基が有する水素原子の少なくとも1つをフッ素原子で置換したものである。上記フッ素化アルコキシ基(c)は、炭素数が1〜17であることが好ましい。より好ましくは、炭素数1〜6である。
【0129】
上記フッ素化アルコキシ基(c)としては、一般式:XC−(Rn3−O−(3つのXは同じか又は異なりいずれもH又はF;Rは好ましくは炭素数1〜5のフッ素原子を有していてもよいアルキレン基;n3は0又は1;ただし3つのXのいずれかはフッ素原子を含んでいる)で表されるフッ素化アルコキシ基が特に好ましい。
【0130】
上記フッ素化アルコキシ基(c)の具体例としては、上記一般式(a−1)におけるRとして例示したアルキル基の末端に酸素原子が結合したフッ素化アルコキシ基が挙げられる。
【0131】
フッ素化アルキル基(a)、エーテル結合を有するフッ素化アルキル基(b)、及び、フッ素化アルコキシ基(c)のフッ素含有率は10質量%以上が好ましい。フッ素含有率が低過ぎると、引火点の上昇効果が充分に得られないおそれがある。この観点から上記フッ素含有率は、12質量%以上がより好ましく、15質量%以上が更に好ましい。上限は通常85質量%である。
【0132】
なお、フッ素化アルキル基(a)、エーテル結合を有するフッ素化アルキル基(b)、及び、フッ素化アルコキシ基(c)のフッ素含有率は、各基の構造式に基づいて、{(フッ素原子の個数×19)/各基の式量}×100(%)により算出した値である。
【0133】
また、誘電率、耐酸化性が良好な点からは、フッ素化環状カーボネート(A)全体のフッ素含有率は5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。上限は通常76質量%である。
【0134】
なお、フッ素化環状カーボネート(A)全体のフッ素含有率は、フッ素化環状カーボネート(A)の構造式に基づいて、{(フッ素原子の個数×19)/フッ素化環状カーボネート(A)の分子量}×100(%)により算出した値である。
【0135】
上記フッ素化環状カーボネート(A)の具体例としては、耐電圧が高く、電解質塩の溶解性も良好なフッ素化環状カーボネートとして、例えば、
【0136】
【化24】
等が挙げられる。
【0137】
他に、
【0138】
【化25】
【0139】
等が使用できる。
【0140】
なお、本発明におけるフッ素化環状カーボネート(A)は、上述した具体例のみに限定されるものではない。
【0141】
また、フッ素化環状カーボネートとして、一般式(B):
【0142】
【化26】
(式中、X〜Xは同じか又は異なり、夫々−H、エーテル結合を有してもよいフッ素化アルキル基、又は、エーテル結合を有してもよいフッ素化アルコキシ基を表す。)で表されるフッ素化環状カーボネート(B)が挙げられる。
【0143】
上記フッ素化環状カーボネート(B)を含むことにより、より安定で優れた充放電特性が得られる。
【0144】
上記一般式(B)において、X〜Xの少なくとも1つは、−H、エーテル結合を有してもよいフッ素化アルキル基、又は、エーテル結合を有してもよいフッ素化アルコキシ基であるが、誘電率、耐酸化性が良好な点から、X〜Xの1つ又は2つが、−H、エーテル結合を有してもよいフッ素化アルキル基、又は、エーテル結合を有してもよいフッ素化アルコキシ基であることが好ましい。
【0145】
また、低温での粘性の低下、引火点の上昇、更には電解質塩の溶解性の向上が期待できることから、X〜Xの少なくとも1つが、フッ素化アルキル基(a)、エーテル結合を有するフッ素化アルキル基(b)、又は、フッ素化アルコキシ基(c)であることが好ましい。
【0146】
上記フッ素化アルキル基(a)、上記エーテル結合を有するフッ素化アルキル基(b)、及び、上記フッ素化アルコキシ基(c)としては、上述した一般式(A)中のX〜Xのフッ素化アルキル基(a)、エーテル結合を有するフッ素化アルキル基(b)、及び、フッ素化アルコキシ基(c)と同様のものを挙げることができる。
【0147】
上記フッ素化環状カーボネート(B)としては、具体的には、例えば、以下が挙げられる。
【0148】
上記一般式(B)において、X〜Xの少なくとも1つがフッ素化アルキル基(a)であり、かつ残りが全て−Hであるフッ素化環状カーボネート(B)の具体例としては、
【0149】
【化27】
【0150】
【化28】
【0151】
【化29】
【0152】
【化30】
【0153】
【化31】
【0154】
【化32】
等が挙げられる。
【0155】
上記一般式(B)において、X〜Xの少なくとも1つが、エーテル結合を有するフッ素化アルキル基(b)、又は、フッ素化アルコキシ基(c)であり、かつ残りが全て−Hであるフッ素化環状カーボネート(B)の具体例としては、
【0156】
【化33】
【0157】
【化34】
【0158】
【化35】
【0159】
【化36】
【0160】
【化37】
【0161】
【化38】
【0162】
等が挙げられる。
【0163】
なお、上記フッ素化環状カーボネート(B)は、上述した具体例のみに限定されるものではない。
【0164】
フッ素化環状カーボネートとしては、フッ素化環状カーボネート(A)及びフッ素化環状カーボネート(B)のなかでも、耐酸化性および誘電率に優れる点から、式(2)〜(7)で示される化合物が特に好ましい。
【0165】
【化39】
【0166】
【化40】
【0167】
【化41】
【0168】
【化42】
【0169】
【化43】
【0170】
【化44】
【0171】
上記フッ素化環状カーボネート(A)及び(B)の含有量は、非水系溶媒(I)100体積%中、0.5体積%以上が好ましく、5体積%以上がより好ましく、10体積%以上が更に好ましく、また、50体積%以下が好ましく、35体積%以下がより好ましく、25体積%以下が更に好ましい。
【0172】
(非フッ素化環状カーボネート)
非フッ素化環状カーボネートとしては、炭素数2〜4のアルキレン基を有する環状カーボネートが挙げられる。
【0173】
炭素数2〜4のアルキレン基を有する、非フッ素化環状カーボネートの具体的な例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートが挙げられる。なかでも、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートがリチウムイオン解離度の向上に由来する電池特性向上の点から特に好ましい。
【0174】
非フッ素化環状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0175】
非フッ素化環状カーボネートの含有量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、1種を単独で用いる場合の含有量は、非水系溶媒(I)100体積%中5体積%以上が好ましく、より好ましくは10体積%以上である。この範囲とすることで、電解液の誘電率の低下に由来する電気伝導率の低下を回避し、電解液を用いた電気化学デバイスの大電流放電特性、負極に対する安定性、サイクル特性を良好な範囲としやすくなる。
【0176】
また、上記含有量は、95体積%以下が好ましく、より好ましくは90体積%以下、さらに好ましくは85体積%以下である。この範囲とすることで、電解液の粘度を適切な範囲とし、イオン伝導度の低下を抑制し、ひいては電解液を用いた電気化学デバイスの負荷特性を良好な範囲としやすくなる。
【0177】
(不飽和結合を有する環状カーボネート)
不飽和結合を有する環状カーボネート(以下、「不飽和環状カーボネート」ともいう。)としては、炭素−炭素二重結合または炭素−炭素三重結合を有する環状カーボネートであれば、特に制限はなく、任意の不飽和カーボネートを用いることができる。なお、芳香環を有する環状カーボネートも、不飽和環状カーボネートに包含されることとする。
【0178】
不飽和環状カーボネートとしては、ビニレンカーボネート類、芳香環または炭素−炭素二重結合または炭素−炭素三重結合を有する置換基で置換されたエチレンカーボネート類、フェニルカーボネート類、ビニルカーボネート類、アリルカーボネート類、カテコールカーボネート類等が挙げられる。
【0179】
ビニレンカーボネート類としては、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、4,5−ジメチルビニレンカーボネート、フェニルビニレンカーボネート、4,5−ジフェニルビニレンカーボネート、ビニルビニレンカーボネート、4,5−ジビニルビニレンカーボネート、アリルビニレンカーボネート、4,5−ジアリルビニレンカーボネート、4−フルオロビニレンカーボネート、4−フルオロ−5−メチルビニレンカーボネート、4−フルオロ−5−フェニルビニレンカーボネート、4−フルオロ−5−ビニルビニレンカーボネート、4−アリル−5−フルオロビニレンカーボネート等が挙げられる。
【0180】
芳香環又は炭素−炭素二重結合又は炭素−炭素三重結合を有する置換基で置換されたエチレンカーボネート類の具体例としては、ビニルエチレンカーボネート、4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4−メチル−5−ビニルエチレンカーボネート、4−アリル−5−ビニルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネート、4,5−ジエチニルエチレンカーボネート、4−メチル−5−エチニルエチレンカーボネート、4−ビニル−5−エチニルエチレンカーボネート、4−アリル−5−エチニルエチレンカーボネート、フェニルエチレンカーボネート、4,5−ジフェニルエチレンカーボネート、4−フェニル−5−ビニルエチレンカーボネート、4−アリル−5−フェニルエチレンカーボネート、アリルエチレンカーボネート、4,5−ジアリルエチレンカーボネート、4−メチル−5−アリルエチレンカーボネート等が挙げられる。
【0181】
なかでも、特に(1)で示される化合物と併用するのに好ましい不飽和環状カーボネートとしては、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、4,5−ジメチルビニレンカーボネート、ビニルビニレンカーボネート、4,5−ビニルビニレンカーボネート、アリルビニレンカーボネート、4,5−ジアリルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4−メチル−5−ビニルエチレンカーボネート、アリルエチレンカーボネート、4,5−ジアリルエチレンカーボネート、4−メチル−5−アリルエチレンカーボネート、4−アリル−5−ビニルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネート、4,5−ジエチニルエチレンカーボネート、4−メチル−5−エチニルエチレンカーボネート、4−ビニル−5−エチニルエチレンカーボネートが挙げられる。また、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネートはさらに安定な界面保護被膜を形成するので、特に好ましい。
【0182】
不飽和環状カーボネートの分子量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。分子量は、好ましくは、80以上、250以下である。この範囲であれば、非水系電解液に対する不飽和環状カーボネートの溶解性を確保しやすく、本発明の効果が十分に発現されやすい。不飽和環状カーボネートの分子量は、より好ましくは85以上であり、また、より好ましくは150以下である。
【0183】
不飽和環状カーボネートの製造方法は、特に制限されず、公知の方法を任意に選択して製造することが可能である。
【0184】
不飽和環状カーボネートは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0185】
上記不飽和環状カーボネートの含有量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。上記不飽和環状カーボネートの含有量は、非水系溶媒(I)100質量%中0.001質量%以上が好ましく、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上である。また、上記含有量は、5質量%以下が好ましく、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。上記範囲内であれば、電解液を用いた電気化学デバイスが十分なサイクル特性向上効果を発現しやすく、また、高温保存特性が低下し、ガス発生量が多くなり、放電容量維持率が低下するといった事態を回避しやすい。
【0186】
(非フッ素化鎖状カーボネート)
上記非フッ素化鎖状カーボネートとしては、フッ素原子を含まない、炭素数3〜7の鎖状カーボネートが好ましく、炭素数3〜7のジアルキルカーボネートがより好ましい。
【0187】
非フッ素化鎖状カーボネートとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−n−プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、n−プロピルイソプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチル−n−プロピルカーボネート、n−ブチルメチルカーボネート、イソブチルメチルカーボネート、t−ブチルメチルカーボネート、エチル−n−プロピルカーボネート、n−ブチルエチルカーボネート、イソブチルエチルカーボネート、t−ブチルエチルカーボネート等が挙げられる。
【0188】
なかでも、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−n−プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、n−プロピルイソプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチル−n−プロピルカーボネートが好ましく、特に好ましくはジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートである。
【0189】
非フッ素化鎖状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0190】
(フッ素化鎖状カーボネート)
フッ素化鎖状カーボネートは、フッ素原子を有する鎖状カーボネート類である。
【0191】
上記フッ素化鎖状カーボネートのフッ素含有率は10〜70.0質量%である。フッ素含有率が上記範囲内にあるフッ素化鎖状カーボネートを含む電解液は、電気化学デバイスの高温保存特性やサイクル特性を向上させることができる。上記フッ素含有率の下限は25質量%が好ましく、30.0質量%がより好ましい。上記フッ素含有率の上限は60.0質量%が好ましく、55.0質量%がより好ましい。
【0192】
上記フッ素含有率は、フッ素化鎖状カーボネートの構造式に基づいて、{(フッ素原子の個数×19)/フッ素化鎖状カーボネートの分子量}×100(%)により算出した値である。
【0193】
フッ素化鎖状カーボネートとしては、例えば一般式(C):
RfOCOORf (C)
(式中、Rf及びRfは、同じか又は異なり、フッ素原子を有していてもよく、エーテル結合を有していてもよい炭素数1〜11のアルキル基である。ただし、Rf及びRfの少なくとも一方はエーテル結合を有していてもよい炭素数1〜11の含フッ素アルキル基である。)で示される含フッ素カーボネートが、難燃性が高く、かつレート特性や耐酸化性が良好な点から好ましい。Rf及びRfの炭素数は、1〜5であることが好ましい。
【0194】
Rf及びRfとしては、例えば、CF−、CFCH−、HCFCH−、HCFCFCH−、CFCFCH−、(CFCH−、H(CFCFCH−、CF−CF−等の含フッ素アルキル基、COCF(CF)CH−、COCF(CF)CFOCF(CF)CH−、COCF(CF)CH−、CFOCF(CF)CH−、COC(CFCH−等のエーテル結合を有する含フッ素アルキル基、CH−、C−、C−、C−等のフッ素非含有アルキル基が例示できる。これらの基のなかから、フッ素化鎖状カーボネートのフッ素含有率が上記範囲内となる組み合わせを選択すればよい。
【0195】
上記フッ素化鎖状カーボネートとして具体的にはFCHCHOCOOCH、HCFCHOCOOCH、(CFCHO)CO、(HCFCFCHO)CO、(CFCFCHO)CO、((CFCHO)CO、(H(CFCFCHO)CO、(COCF(CF)CFOCF(CF)CHO)CO、(COCF(CF)CHO)CO、CHOCOOCHCFCF、CHOCOOCHCFCFH、COCOOCHCFCFH、CHOCOOCHCF、COCOOCHCF、CFCFCHOCOOCHCFCFH、COCF(CF)CHOCOOC、HCFCFCHOCOOC、(CFCHOCOOCH、CHOCOOCF等が例示できる。
【0196】
上記フッ素化鎖状カーボネートとしては、なかでも、(CFCHO)CO、(HCFCFCHO)CO、(CFCFCHO)CO、((CFCHO)CO、(H(CFCFCHO)CO、(COCF(CF)CFOCF(CF)CHO)CO、(COCF(CF)CHO)CO、CHOCOOCHCFCF、CHOCOOCHCFCFH、COCOOCHCFCFH、CHOCOOCHCF、COCOOCHCF、CFCFCHOCOOCHCFCFH、COCF(CF)CHOCOOC、HCFCFCHOCOOC、(CFCHOCOOCH、及び、CHOCOOCFからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。特に好ましくは、CHOCOOCHCF、及び、CHOCOOCHCFCFHからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0197】
フッ素化鎖状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0198】
上記フッ素化鎖状カーボネートは、非水系溶媒(I)100体積%中、好ましくは5体積%以上、より好ましくは10体積%以上、更に好ましくは15体積%以上である。このように下限を設定することにより、電解液の粘度を適切な範囲とし、イオン伝導度の低下を抑制し、ひいては電解液を用いた電気化学デバイスの大電流放電特性を良好な範囲としやすくなる。また、上記フッ素化鎖状カーボネートは、非水系溶媒(I)100体積%中、90体積%以下、より好ましくは85体積%以下であることが好ましい。このように上限を設定することにより、電解液の誘電率の低下に由来する電気伝導率の低下を回避し、電解液を用いた電気化学デバイスの大電流放電特性を良好な範囲としやすくなる。
【0199】
上記非水系溶媒(I)はまた、環状カルボン酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、エーテル系化合物等を含んでいてもよい。
【0200】
(環状カルボン酸エステル)
環状カルボン酸エステルとしては、炭素原子数が3〜12のものが好ましい。
【0201】
具体的には、ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトン、ガンマカプロラクトン、イプシロンカプロラクトン等が挙げられる。中でも、ガンマブチロラクトンがリチウムイオン解離度の向上に由来する電池特性向上の点から特に好ましい。
【0202】
環状カルボン酸エステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0203】
環状カルボン酸エステルの含有量は、通常、非水系溶媒100体積%中、好ましくは5体積%以上、より好ましくは10体積%以上である。この範囲であれば、非水系電解液の電気伝導率を改善し、電解液を用いた電気化学デバイスの大電流放電特性を向上させやすくなる。また、環状カルボン酸エステルの含有量は、好ましくは50体積%以下、より好ましくは40体積%以下である。このように上限を設定することにより、非水系電解液の粘度を適切な範囲とし、電気伝導率の低下を回避し、負極抵抗の増大を抑制し、非水系電解液二次電池の大電流放電特性を良好な範囲としやすくなる。
【0204】
(鎖状カルボン酸エステル)
鎖状カルボン酸エステルとしては、炭素数が3〜7のものが好ましい。具体的には、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−t−ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸−n−プロピル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸−n−ブチル、プロピオン酸イソブチル、プロピオン酸−t−ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸−n−プロピル、酪酸イソプロピル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、イソ酪酸−n−プロピル、イソ酪酸イソプロピル等が挙げられる。
【0205】
中でも、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸−n−ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸−n−プロピル、プロピオン酸イソプロピル、酪酸メチル、酪酸エチル等が、粘度低下によるイオン伝導度の向上の点から好ましい。
【0206】
鎖状カルボン酸エステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0207】
鎖状カルボン酸エステルの含有量は、通常、非水系溶媒100体積%中、好ましくは10体積%以上、より好ましくは15体積%以上である。このように下限を設定することで、電解液の電気伝導率を改善し、電解液を用いた電気化学デバイスの大電流放電特性を向上させやすくなる。また、鎖状カルボン酸エステルの含有量は、非水系溶媒100体積%中、好ましくは60体積%以下、より好ましくは50体積%以下である。このように上限を設定することで、負極抵抗の増大を抑制し、電解液を用いた電気化学デバイスの大電流放電特性、サイクル特性を良好な範囲としやすくなる。
【0208】
(エーテル系化合物)
エーテル系化合物としては、一部の水素がフッ素にて置換されていてもよい炭素数3〜10の鎖状エーテル、及び炭素数3〜6の環状エーテルが好ましい。
【0209】
炭素数3〜10の鎖状エーテルとしては、ジエチルエーテル、ジ(2−フルオロエチル)エーテル、ジ(2,2−ジフルオロエチル)エーテル、ジ(2,2,2−トリフルオロエチル)エーテル、エチル(2−フルオロエチル)エーテル、エチル(2,2,2−トリフルオロエチル)エーテル、エチル(1,1,2,2−テトラフルオロエチル)エーテル、(2−フルオロエチル)(2,2,2−トリフルオロエチル)エーテル、(2−フルオロエチル)(1,1,2,2−テトラフルオロエチル)エーテル、(2,2,2−トリフルオロエチル)(1,1,2,2−テトラフルオロエチル)エーテル、エチル−n−プロピルエーテル、エチル(3−フルオロ−n−プロピル)エーテル、エチル(3,3,3−トリフルオロ−n−プロピル)エーテル、エチル(2,2,3,3−テトラフルオロ−n−プロピル)エーテル、エチル(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−n−プロピル)エーテル、2−フルオロエチル−n−プロピルエーテル、(2−フルオロエチル)(3−フルオロ−n−プロピル)エーテル、(2−フルオロエチル)(3,3,3−トリフルオロ−n−プロピル)エーテル、(2−フルオロエチル)(2,2,3,3−テトラフルオロ−n−プロピル)エーテル、(2−フルオロエチル)(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−n−プロピル)エーテル、2,2,2−トリフルオロエチル−n−プロピルエーテル、(2,2,2−トリフルオロエチル)(3−フルオロ−n−プロピル)エーテル、(2,2,2−トリフルオロエチル)(3,3,3−トリフルオロ−n−プロピル)エーテル、(2,2,2−トリフルオロエチル)(2,2,3,3−テトラフルオロ−n−プロピル)エーテル、(2,2,2−トリフルオロエチル)(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−n−プロピル)エーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−n−プロピルエーテル、(1,1,2,2−テトラフルオロエチル)(3−フルオロ−n−プロピル)エーテル、(1,1,2,2−テトラフルオロエチル)(3,3,3−トリフルオロ−n−プロピル)エーテル、(1,1,2,2−テトラフルオロエチル)(2,2,3,3−テトラフルオロ−n−プロピル)エーテル、(1,1,2,2−テトラフルオロエチル)(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−n−プロピル)エーテル、ジ−n−プロピルエーテル、(n−プロピル)(3−フルオロ−n−プロピル)エーテル、(n−プロピル)(3,3,3−トリフルオロ−n−プロピル)エーテル、(n−プロピル)(2,2,3,3−テトラフルオロ−n−プロピル)エーテル、(n−プロピル)(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−n−プロピル)エーテル、ジ(3−フルオロ−n−プロピル)エーテル、(3−フルオロ−n−プロピル)(3,3,3−トリフルオロ−n−プロピル)エーテル、(3−フルオロ−n−プロピル)(2,2,3,3−テトラフルオロ−n−プロピル)エーテル、(3−フルオロ−n−プロピル)(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−n−プロピル)エーテル、ジ(3,3,3−トリフルオロ−n−プロピル)エーテル、(3,3,3−トリフルオロ−n−プロピル)(2,2,3,3−テトラフルオロ−n−プロピル)エーテル、(3,3,3−トリフルオロ−n−プロピル)(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−n−プロピル)エーテル、ジ(2,2,3,3−テトラフルオロ−n−プロピル)エーテル、(2,2,3,3−テトラフルオロ−n−プロピル)(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−n−プロピル)エーテル、ジ(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−n−プロピル)エーテル、ジ−n−ブチルエーテル、ジメトキシメタン、メトキシエトキシメタン、メトキシ(2−フルオロエトキシ)メタン、メトキシ(2,2,2−トリフルオロエトキシ)メタンメトキシ(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)メタン、ジエトキシメタン、エトキシ(2−フルオロエトキシ)メタン、エトキシ(2,2,2−トリフルオロエトキシ)メタン、エトキシ(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)メタン、ジ(2−フルオロエトキシ)メタン、(2−フルオロエトキシ)(2,2,2−トリフルオロエトキシ)メタン、(2−フルオロエトキシ)(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)メタンジ(2,2,2−トリフルオロエトキシ)メタン、(2,2,2−トリフルオロエトキシ)(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)メタン、ジ(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)メタン、ジメトキシエタン、メトキシエトキシエタン、メトキシ(2−フルオロエトキシ)エタン、メトキシ(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン、メトキシ(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)エタン、ジエトキシエタン、エトキシ(2−フルオロエトキシ)エタン、エトキシ(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン、エトキシ(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)エタン、ジ(2−フルオロエトキシ)エタン、(2−フルオロエトキシ)(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン、(2−フルオロエトキシ)(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)エタン、ジ(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン、(2,2,2−トリフルオロエトキシ)(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)エタン、ジ(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)エタン、エチレングリコールジ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。
【0210】
炭素数3〜6の環状エーテルとしては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、3−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン、2−メチル−1,3−ジオキサン、4−メチル−1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン等、及びこれらのフッ素化化合物が挙げられる。
【0211】
中でも、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、エトキシメトキシメタン、エチレングリコールジ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルが、リチウムイオンへの溶媒和能力が高く、イオン解離性を向上させる点で好ましく、特に好ましくは、粘性が低く、高いイオン伝導度を与えることから、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、エトキシメトキシメタンである。
【0212】
エーテル系化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0213】
エーテル系化合物の配合量は、通常、非水系溶媒100体積%中、好ましくは5体積%以上、より好ましくは10体積%以上、さらに好ましくは15体積%以上、また、好ましくは70体積%以下、より好ましくは60体積%以下、さらに好ましくは50体積%以下である。
【0214】
この範囲であれば、鎖状エーテルのリチウムイオン解離度の向上と粘度低下に由来するイオン伝導度の向上効果を確保しやすく、負極活物質が炭素質材料の場合、鎖状エーテルがリチウムイオンと共に共挿入されて容量が低下するといった事態を回避しやすい。
【0215】
本発明の電解液は、更に、目的に応じて適宜助剤を含有していてもよい。
【0216】
上記助剤としては、以下に示されるフッ素原子を有する不飽和環状カーボネート、過充電防止剤、その他の助剤、等が挙げられる。
【0217】
(フッ素原子を有する不飽和環状カーボネート)
フッ素原子を有する不飽和環状カーボネートとして、不飽和結合とフッ素原子とを有する環状カーボネート(以下、「フッ素化不飽和環状カーボネート」と略記する場合がある)を用いることも好ましい。フッ素化不飽和環状カーボネートが有するフッ素原子の数は1以上があれば、特に制限されない。中でもフッ素原子が通常6以下、好ましくは4以下であり、1個又は2個のものが最も好ましい。
【0218】
フッ素化不飽和環状カーボネートとしては、フッ素化ビニレンカーボネート誘導体、芳香環又は炭素−炭素二重結合を有する置換基で置換されたフッ素化エチレンカーボネート誘導体等が挙げられる。
【0219】
フッ素化ビニレンカーボネート誘導体としては、4−フルオロビニレンカーボネート、4−フルオロ−5−メチルビニレンカーボネート、4−フルオロ−5−フェニルビニレンカーボネート、4−アリル−5−フルオロビニレンカーボネート、4−フルオロ−5−ビニルビニレンカーボネート等が挙げられる。
【0220】
芳香環又は炭素−炭素二重結合を有する置換基で置換されたフッ素化エチレンカーボネート誘導体としては、4−フルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4−アリルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−ビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−アリルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−4−アリルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−アリルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4,5−ジアリルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4,5−ジアリルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4−フェニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−フェニルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−5−フェニルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−フェニルエチレンカーボネート等が挙げられる。
【0221】
なかでも、特に一般式(1)で表される化合物(III)と併用するのに好ましいフッ素化不飽和環状カーボネートとしては、4−フルオロビニレンカーボネート、4−フルオロ−5−メチルビニレンカーボネート、4−フルオロ−5−ビニルビニレンカーボネート、4−アリル−5−フルオロビニレンカーボネート、4−フルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4−アリルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−ビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−アリルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−4−アリルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−アリルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4,5−ジアリルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4,5−ジアリルエチレンカーボネートが、安定な界面保護被膜を形成するので、より好適に用いられる。
【0222】
フッ素化不飽和環状カーボネートの分子量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。分子量は、好ましくは、50以上であり、また、250以下である。この範囲であれば、電解液に対するフッ素化環状カーボネートの溶解性を確保しやすく、本発明の効果が発現されやすい。
【0223】
フッ素化不飽和環状カーボネートの製造方法は、特に制限されず、公知の方法を任意に選択して製造することが可能である。分子量は、より好ましくは100以上であり、また、より好ましくは200以下である。
【0224】
フッ素化不飽和環状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有してもよい。また、フッ素化不飽和環状カーボネートの含有量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。フッ素化不飽和環状カーボネートの含有量は、通常、電解液100質量%中、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.2質量%以上であり、また、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。この範囲内であれば、電解液を用いた電気化学デバイスが十分なサイクル特性向上効果を発現しやすく、また、高温保存特性が低下し、ガス発生量が多くなり、放電容量維持率が低下するといった事態を回避しやすい。
【0225】
(過充電防止剤)
本発明の電解液において、電解液を用いた電気化学デバイスが過充電等の状態になった際に電池の破裂・発火を効果的に抑制するために、過充電防止剤を用いることができる。
【0226】
過充電防止剤としては、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2−フルオロビフェニル、o−シクロヘキシルフルオロベンゼン、p−シクロヘキシルフルオロベンゼン等の上記芳香族化合物の部分フッ素化物;2,4−ジフルオロアニソール、2,5−ジフルオロアニソール、2,6−ジフルオロアニソール、3,5−ジフルオロアニソール等の含フッ素アニソール化合物等が挙げられる。中でも、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物が好ましい。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。2種以上併用する場合は、特に、シクロヘキシルベンゼンとt−ブチルベンゼン又はt−アミルベンゼンとの組み合わせ、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン等の酸素を含有しない芳香族化合物から選ばれる少なくとも1種と、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の含酸素芳香族化合物から選ばれる少なくとも1種を併用するのが過充電防止特性と高温保存特性のバランスの点から好ましい。
【0227】
(その他の助剤)
本発明の電解液には、公知のその他の助剤を用いることができる。その他の助剤としては、エリスリタンカーボネート、スピロ−ビス−ジメチレンカーボネート、メトキシエチル−メチルカーボネート等のカーボネート化合物;無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、無水ジグリコール酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物及びフェニルコハク酸無水物等のカルボン酸無水物;2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ジビニル−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン等のスピロ化合物;エチレンサルファイト、1,3−プロパンスルトン、1−フルオロ−1,3−プロパンスルトン、2−フルオロ−1,3−プロパンスルトン、3−フルオロ−1,3−プロパンスルトン、1−プロペン−1,3−スルトン、1−フルオロ−1−プロペン−1,3−スルトン、2−フルオロ−1−プロペン−1,3−スルトン、3−フルオロ−1−プロペン−1,3−スルトン、1,4−ブタンスルトン、1−ブテン−1,4−スルトン、3−ブテン−1,4−スルトン、フルオロスルホン酸メチル、フルオロスルホン酸エチル、メタンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸エチル、ブスルファン、スルホレン、ジフェニルスルホン、N,N−ジメチルメタンスルホンアミド、N,N−ジエチルメタンスルホンアミド、ビニルスルホン酸メチル、ビニルスルホン酸エチル、ビニルスルホン酸アリル、ビニルスルホン酸プロパルギル、アリルスルホン酸メチル、アリルスルホン酸エチル、アリルスルホン酸アリル、アリルスルホン酸プロパルギル、1,2−ビス(ビニルスルホニロキシ)エタン等の含硫黄化合物;1−メチル−2−ピロリジノン、1−メチル−2−ピペリドン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン及びN−メチルスクシンイミド等の含窒素化合物;亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリフェニル、メチルホスホン酸ジメチル、エチルホスホン酸ジエチル、ビニルホスホン酸ジメチル、ビニルホスホン酸ジエチル、ジエチルホスホノ酢酸エチル、ジメチルホスフィン酸メチル、ジエチルホスフィン酸エチル、トリメチルホスフィンオキシド、トリエチルホスフィンオキシド等の含燐化合物;ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘプタン等の炭化水素化合物、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、ベンゾトリフルオライド等の含フッ素芳香族化合物等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの助剤を添加することにより、高温保存後の容量維持特性やサイクル特性を向上させることができる。
【0228】
その他の助剤の配合量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。その他の助剤は、電解液100質量%中、好ましくは、0.01質量%以上であり、また、5質量%以下である。この範囲であれば、その他助剤の効果が十分に発現させやすく、高負荷放電特性等の電池の特性が低下するといった事態も回避しやすい。その他の助剤の配合量は、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.2質量%以上であり、また、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0229】
本発明の電解液は、電解質塩(II)を含む。
【0230】
上記電解質塩(II)としては、任意のものを用いることができるが、リチウム塩が好ましい。
【0231】
リチウム塩としては、電池用電解液に用いることが知られているものであれば特に制限がなく、任意のものを用いることができ、具体的には以下のものが挙げられる。
【0232】
例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiAlF、LiSbF、LiTaF、LiWF等の無機リチウム塩;
LiWOF等のタングステン酸リチウム類;
HCOLi、CHCOLi、CHFCOLi、CHFCOLi、CFCOLi、CFCHCOLi、CFCFCOLi、CFCFCFCOLi、CFCFCFCFCOLi等のカルボン酸リチウム塩類;
FSOLi、CHSOLi、CHFSOLi、CHFSOLi、CFSOLi、CFCFSOLi、CFCFCFSOLi、CFCFCFCFSOLi等のスルホン酸リチウム塩類;
LiN(FCO)、LiN(FCO)(FSO)、LiN(FSO、LiN
(FSO)(CFSO)、LiN(CFSO、LiN(CSO、リチウム環状1,2−パーフルオロエタンジスルホニルイミド、リチウム環状1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミド、LiN(CFSO)(CSO)等のリチウムイミド塩類;
LiC(FSO、LiC(CFSO、LiC(CSO等のリチウムメチド塩類;
リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムビス(オキサラト)ボレート等のリチウムオキサラトボレート塩類;
リチウムテトラフルオロオキサラトフォスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)フォスフェート、リチウムトリス(オキサラト)フォスフェート等のリチウムオキサラトフォスフェート塩類;
その他、LiPF(CF、LiPF(C、LiPF(CFSO、LiPF(CSO、LiBFCF、LiBF、LiBF、LiBF(CF、LiBF(C、LiBF(CFSO、LiBF(CSO等の含フッ素有機リチウム塩類;等が挙げられる。
【0233】
中でも、LiPF、LiBF、LiSbF、LiTaF、FSOLi、CFSOLi、LiN(FSO、LiN(FSO)(CFSO)、LiN(CFSO、LiN(CSO、リチウム環状1,2−パーフルオロエタンジスルホニルイミド、リチウム環状1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミド、LiC(FSO、LiC(CFSO、LiC(CSO、リチウムビスオキサラトボレート、リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムテトラフルオロオキサラトホスフェート、リチウムジフルオロビスオキサラトフォスフェート、LiBFCF、LiBF、LiPF(CF、LiPF(C等が出力特性やハイレート充放電特性、高温保存特性、サイクル特性等を向上させる効果がある点から特に好ましい。
【0234】
これらのリチウム塩は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合の好ましい一例は、LiPFとLiBFや、LiPFとFSOLi等の併用であり、負荷特性やサイクル特性を向上させる効果がある。
【0235】
この場合、電解液全体100質量%に対するLiBF或いはFSOLiの濃度は配合量に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、本発明の電解液に対して、通常、0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上であり、また、通常30質量%以下、好ましくは20質量%以下である。
【0236】
また、他の一例は、無機リチウム塩と有機リチウム塩との併用であり、この両者の併用は、高温保存による劣化を抑制する効果がある。有機リチウム塩としては、CFSOLi、LiN(FSO、LiN(FSO)(CFSO)、LiN(CFSO、LiN(CSO、リチウム環状1,2−パーフルオロエタンジスルホニルイミド、リチウム環状1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミド、LiC(FSO、LiC(CFSO、LiC(CSO、リチウムビスオキサラトボレート、リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムテトラフルオロオキサラトホスフェート、リチウムジフルオロビスオキサラトフォスフェート、LiBFCF、LiBF、LiPF(CF、LiPF(C等であるのが好ましい。この場合には、電解液全体100質量%に対する有機リチウム塩の割合は、好ましくは0.1質量%以上、特に好ましくは0.5質量%以上であり、また、好ましくは30質量%以下、特に好ましくは20質量%以下である。
【0237】
電解液中のこれらのリチウム塩の濃度は、本発明の効果を損なわない限り、その含有量は特に制限されないが、電解液の電気伝導率を良好な範囲とし、良好な電池性能を確保する点から、電解液中のリチウムの総モル濃度は、好ましくは0.3mol/L以上、より好ましくは0.4mol/L以上、さらに好ましくは0.5mol/L以上であり、また、好ましくは3mol/L以下、より好ましくは2.5mol/L以下、さらに好ましくは2.0mol/L以下である。
【0238】
リチウムの総モル濃度が低すぎると、電解液の電気伝導率が不十分の場合があり、一方、濃度が高すぎると、粘度上昇のため電気伝導度が低下する場合があり、電池性能が低下する場合がある。
【0239】
本発明の電解液は、上述した、一般式(1)で示される化合物(III)、及び、電解質塩(II)を非水系溶媒(I)に溶解させる等の公知の方法で調製される。
【0240】
本発明の電解液は、ガス発生を抑制し、安定した電池特性を有するので、非水系電解液電池である電気化学デバイスの電解液として好適である。
【0241】
本発明の電解液を備えた電気化学デバイスもまた、本発明の一つである。
【0242】
上記電気化学デバイスとしては、リチウムイオン二次電池、キャパシタ(電解二重層キャパシタ)、ラジカル電池、太陽電池(特に色素増感型太陽電池)、燃料電池、各種電気化学センサー、エレクトロクロミック素子、電気化学スイッチング素子、アルミニウム電解コンデンサ、タンタル電解コンデンサ等が挙げられる。なかでもリチウムイオン二次電池、電解二重層キャパシタが好適であり、特にリチウムイオン二次電池が好適である。
【0243】
本発明の電解液を備えたリチウムイオン二次電池もまた、本発明の一つである。
【0244】
以下に、本発明の電解液を用いた電気化学デバイスについて説明する。
【0245】
上記電気化学デバイスは、公知の構造をとることができ、典型的には、イオン(例えば、リチウムイオン)を吸蔵及び放出可能な負極及び正極と、上述した本発明の電解液とを備える。
【0246】
<負極>
まず、負極に使用される負極活物質について述べる。負極活物質としては、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵・放出可能なものであれば、特に制限はない。具体例としては、炭素質材料、合金系材料、リチウム含有金属複合酸化物材料等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、また2種以上を任意に組み合わせて併用してもよい。
【0247】
(負極活物質)
負極活物質としては、炭素質材料、合金系材料、リチウム含有金属複合酸化物材料等が挙げられる。
【0248】
負極活物質として用いられる炭素質材料としては、
(1)天然黒鉛、
(2)人造炭素質物質並びに人造黒鉛質物質を400〜3200℃の範囲で1回以上熱処理した炭素質材料、
(3)負極活物質層が少なくとも2種以上の異なる結晶性を有する炭素質からなり、かつ/又はその異なる結晶性の炭素質が接する界面を有している炭素質材料、
(4)負極活物質層が少なくとも2種以上の異なる配向性を有する炭素質からなり、かつ/又はその異なる配向性の炭素質が接する界面を有している炭素質材料、
から選ばれるものが、初期不可逆容量、高電流密度充放電特性のバランスがよく好ましい。また、(1)〜(4)の炭素質材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0249】
上記(2)の人造炭素質物質並びに人造黒鉛質物質としては、天然黒鉛を石炭系コークス、石油系コークス、石炭系ピッチ、石油系ピッチなどで表面を被覆し熱処理したもの、天然黒鉛を石炭系コークス、石油系コークス、石炭系ピッチ、石油系ピッチニードルコークス、ピッチコークス及びこれらを一部もしくはすべてを黒鉛化した炭素材、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ピッチ系炭素繊維等の有機物の熱分解物、炭化可能な有機物及びこれらの炭化物、又は炭化可能な有機物をベンゼン、トルエン、キシレン、キノリン、n−へキサン等の低分子有機溶媒に溶解させた溶液及びこれらの炭化物等が挙げられる。
【0250】
負極活物質として用いられる合金系材料としては、リチウムを吸蔵・放出可能であれば、リチウム単体、リチウム合金を形成する単体金属及び合金、又はそれらの酸化物、炭化物、窒化物、ケイ化物、硫化物若しくはリン化物等の化合物のいずれであってもよく、特に制限されない。リチウム合金を形成する単体金属及び合金としては、13族及び14族の金属・半金属元素(即ち炭素を除く)を含む材料であることが好ましく、より好ましくはアルミニウム、ケイ素及びスズ(以下、「特定金属元素」と略記する場合がある)の単体金属及びこれら原子を含む合金又は化合物である。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0251】
特定金属元素から選ばれる少なくとも1種の原子を有する負極活物質としては、いずれか1種の特定金属元素の金属単体、2種以上の特定金属元素からなる合金、1種又は2種以上の特定金属元素とその他の1種又は2種以上の金属元素とからなる合金、並びに、1種又は2種以上の特定金属元素を含有する化合物、及びその化合物の酸化物、炭化物、窒化物、ケイ化物、硫化物若しくはリン化物等の複合化合物が挙げられる。負極活物質としてこれらの金属単体、合金又は金属化合物を用いることで、電池の高容量化が可能である。
【0252】
また、これらの複合化合物が、金属単体、合金又は非金属元素等の数種の元素と複雑に結合した化合物も挙げられる。具体的には、例えばケイ素やスズでは、これらの元素と負極として動作しない金属との合金を用いることができる。例えば、スズの場合、スズとケイ素以外で負極として作用する金属と、さらに負極として動作しない金属と、非金属元素との組み合わせで5〜6種の元素を含むような複雑な化合物も用いることができる。
【0253】
これらの負極活物質の中でも、電池にしたときに単位質量当りの容量が大きいことから、いずれか1種の特定金属元素の金属単体、2種以上の特定金属元素の合金、特定金属元素の酸化物、炭化物、窒化物等が好ましく、特に、ケイ素及び/又はスズの金属単体、合金、酸化物や炭化物、窒化物等が、単位質量当りの容量及び環境負荷の観点から好ましい。
【0254】
負極活物質として用いられるリチウム含有金属複合酸化物材料としては、リチウムを吸蔵・放出可能であれば、特に制限されないが、高電流密度充放電特性の点からチタン及びリチウムを含有する材料が好ましく、より好ましくはチタンを含むリチウム含有複合金属酸化物材料が好ましく、さらにリチウムとチタンの複合酸化物(以下、「リチウムチタン複合酸化物」と略記する場合がある)である。即ちスピネル構造を有するリチウムチタン複合酸化物を、電気化学デバイス用負極活物質に含有させて用いると、出力抵抗が大きく低減するので特に好ましい。
【0255】
また、リチウムチタン複合酸化物のリチウムやチタンが、他の金属元素、例えば、Na、K、Co、Al、Fe、Ti、Mg、Cr、Ga、Cu、Zn及びNbからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素で置換されているものも好ましい。
【0256】
上記金属酸化物が、一般式(D)で表されるリチウムチタン複合酸化物であり、一般式(D)中、0.7≦x≦1.5、1.5≦y≦2.3、0≦z≦1.6であることが、リチウムイオンのドープ・脱ドープの際の構造が安定であることから好ましい。
【0257】
LiTi(D)
[一般式(D)中、Mは、Na、K、Co、Al、Fe、Ti、Mg、Cr、Ga、Cu、Zn及びNbからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表わす。]
上記の一般式(D)で表される組成の中でも、
(a)1.2≦x≦1.4、1.5≦y≦1.7、z=0
(b)0.9≦x≦1.1、1.9≦y≦2.1、z=0
(c)0.7≦x≦0.9、2.1≦y≦2.3、z=0
の構造が、電池性能のバランスが良好なため特に好ましい。
【0258】
上記化合物の特に好ましい代表的な組成は、(a)ではLi4/3Ti5/3、(b)ではLiTi、(c)ではLi4/5Ti11/5である。
また、Z≠0の構造については、例えば、Li4/3Ti4/3Al1/3が好ましいものとして挙げられる。
【0259】
<負極の構成と作製法>
電極の製造は、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のいずれの方法を用いることができる。例えば、負極活物質に、バインダー(結着剤)、溶媒、必要に応じて、増粘剤、導電材、充填材等を加えてスラリーとし、これを集電体に塗布、乾燥した後にプレスすることによって形成することができる。
【0260】
また、合金系材料を用いる場合には、蒸着法、スパッタ法、メッキ法等の手法により、上述の負極活物質を含有する薄膜層(負極活物質層)を形成する方法も用いられる。
【0261】
(結着剤)
負極活物質を結着するバインダーとしては、電解液や電極製造時に用いる溶媒に対して安定な材料であれば、特に制限されない。
【0262】
具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、芳香族ポリアミド、ポリイミド、セルロース、ニトロセルロース等の樹脂系高分子;SBR(スチレン・ブタジエンゴム)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム、NBR(アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、エチレン・プロピレンゴム等のゴム状高分子;スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物;EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体)、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物等の熱可塑性エラストマー状高分子;シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α−オレフィン共重合体等の軟質樹脂状高分子;ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体等のフッ素系高分子;アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0263】
負極活物質に対するバインダーの割合は、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましく、0.6質量%以上が特に好ましく、また、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、8質量%以下が特に好ましい。負極活物質に対するバインダーの割合が、上記範囲を上回ると、バインダー量が電池容量に寄与しないバインダー割合が増加して、電池容量の低下を招く場合がある。また、上記範囲を下回ると、負極電極の強度低下を招く場合がある。
【0264】
特に、SBRに代表されるゴム状高分子を主要成分に含有する場合には、負極活物質に対するバインダーの割合は、通常0.1質量%以上であり、0.5質量%以上が好ましく、0.6質量%以上がさらに好ましく、また、通常5質量%以下であり、3質量%以下が好ましく、2質量%以下がさらに好ましい。また、ポリフッ化ビニリデンに代表されるフッ素系高分子を主要成分に含有する場合には負極活物質に対する割合は、通常1質量%以上であり、2質量%以上が好ましく、3質量%以上がさらに好ましく、また、通常15質量%以下であり、10質量%以下が好ましく、8質量%以下がさらに好ましい。
【0265】
(スラリー形成溶媒)
スラリーを形成するための溶媒としては、負極活物質、バインダー、並びに必要に応じて使用される増粘剤及び導電材を溶解又は分散することが可能な溶媒であれば、その種類に特に制限はなく、水系溶媒と有機系溶媒のどちらを用いてもよい。
【0266】
水系溶媒としては、水、アルコール等が挙げられ、有機系溶媒としてはN−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、アセトン、ジエチルエーテル、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスファルアミド、ジメチルスルホキシド、ベンゼン、キシレン、キノリン、ピリジン、メチルナフタレン、ヘキサン等が挙げられる。
【0267】
特に水系溶媒を用いる場合、増粘剤に合わせて分散剤等を含有させ、SBR等のラテックスを用いてスラリー化することが好ましい。なお、これらの溶媒は、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0268】
(集電体)
負極活物質を保持させる集電体としては、公知のものを任意に用いることができる。負極の集電体としては、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属材料が挙げられるが、加工し易さとコストの点から特に銅が好ましい。
【0269】
また、集電体の形状は、集電体が金属材料の場合は、例えば、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられる。中でも、好ましくは金属薄膜、より好ましくは銅箔であり、さらに好ましくは圧延法による圧延銅箔と、電解法による電解銅箔があり、どちらも集電体として用いることができる。
【0270】
集電体の厚さは、通常1μm以上、好ましくは5μm以上であり、通常100μm以下、好ましくは50μm以下である。負極集電体の厚さが厚過ぎると、電池全体の容量が低下し過ぎることがあり、逆に薄過ぎると取り扱いが困難になることがあるためである。
【0271】
(集電体と負極活物質層との厚さの比)
集電体と負極活物質層の厚さの比は特に制限されないが、「(電解液注液直前の片面の負極活物質層厚さ)/(集電体の厚さ)」の値が、150以下が好ましく、20以下がさらに好ましく、10以下が特に好ましく、また、0.1以上が好ましく、0.4以上がさらに好ましく、1以上が特に好ましい。集電体と負極活物質層の厚さの比が、上記範囲を上回ると、高電流密度充放電時に集電体がジュール熱による発熱を生じる場合がある。また、上記範囲を下回ると、負極活物質に対する集電体の体積比が増加し、電池の容量が減少する場合がある。
【0272】
<正極>
(正極活物質)
以下に、正極に使用される正極活物質について述べる。本願発明に用いられる正極活物質は、以下の3つの条件のいずれかを満たすリチウムイオンの挿入・脱離が可能な機能を有するリチウム遷移金化合物粉体であることが好ましい。
1.pH10.8以上であるリチウム遷移金属化合物粉体。
2.Mo、W、Nb、Ta及びReから選ばれる少なくとも1種以上の元素を有する化合物とB元素および/またはBi元素を有する化合物を含有するリチウム遷移金属化合物粉体。
3.細孔半径80nm以上800nm未満にピークを有するリチウム遷移金属化合物粉体。
【0273】
(リチウム遷移金属化合物)
リチウム遷移金属化合物とは、Liイオンを脱離、挿入することが可能な構造を有する化合物であり、例えば、硫化物やリン酸塩化合物、リチウム遷移金属複合酸化物などが挙げられる。硫化物としては、TiSやMoSなどの二次元層状構造をもつ化合物や、一般式MeMo(MeはPb,Ag,Cuをはじめとする各種遷移金属)で表される強固な三次元骨格構造を有するシュブレル化合物などが挙げられる。リン酸塩化合物としては、オリビン構造に属するものが挙げられ、一般的にはLiMePO(Meは少なくとも1種以上の遷移金属)で表され、具体的にはLiFePO、LiCoPO、LiNiPO、LiMnPOなどが挙げられる。リチウム遷移金属複合酸化物としては、三次元的拡散が可能なスピネル構造や、リチウムイオンの二次元的拡散を可能にする層状構造に属するものが挙げられる。スピネル構造を有するものは、一般的にLiMe(Meは少なくとも1種以上の遷移金属)と表され、具体的にはLiMn、LiCoMnO、LiNi0.5Mn1.5、LiCoVOなどが挙げられる。層状構造を有するものは、一般的にLiMeO(Meは少なくとも1種以上の遷移金属)と表され、具体的にはLiCoO、LiNiO、LiNi1−xCo、LiNi1−x−yCoMn、LiNi0.5Mn0.5、Li1.2Cr0.4Mn0.4、Li1.2Cr0.4Ti0.4、LiMnOなどが挙げられる。
【0274】
なかでも、リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物又はLiCoOが好ましい。
【0275】
上記リチウム遷移金属化合物粉体は、リチウムイオン拡散の点からオリビン構造、スピネル構造、層状構造を有するものが好ましい。中でも層状構造を有するものが特に好ましい。
【0276】
また、上記リチウム遷移金属化合物粉体は、異元素が導入されてもよい。異元素としては、B,Na,Mg,Al,K,Ca,Ti,V,Cr,Fe,Cu,Zn,Sr,Y,Zr,Nb,Ru,Rh,Pd,Ag,In,Sb,Te,Ba,Ta,Mo,W,Re,Os,Ir,Pt,Au,Pb,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Bi,N,F,S,Cl,Br,Iの何れか1種以上の中から選択される。これらの異元素は、リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物の結晶構造内に取り込まれていてもよく、あるいは、リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物の結晶構造内に取り込まれず、その粒子表面や結晶粒界などに単体もしくは化合物として偏在していてもよい。
【0277】
(添加剤)
本発明では、Mo、W、Nb、Ta及びReから選ばれる少なくとも1種以上の元素(以下、「添加元素1」ともいう。)を有する化合物(以下、「添加剤1」ともいう。)およびB及びBiから選ばれる少なくとも1種の元素(以下、「添加元素2」ともいう。)を有する化合物(以下、「添加剤2」ともいう。)を用いてもよい。
【0278】
これらの添加元素1の中でも、効果が大きい点から、添加元素1がMoまたはWであることが好ましく、Wであることが最も好ましい。また、これらの添加元素2の中でも、工業原料として安価に入手でき、かつ軽元素である点から、添加元素2がBであることが好ましい。
【0279】
添加元素1を有する化合物(添加剤1)の種類としては、本発明の効果を発現するものであればその種類に格別の制限はないが、通常は酸化物が用いられる。
【0280】
添加剤1の例示化合物としては、MoO、MoO、MoO、MoO、Mo、Mo、LiMoO、WO、WO、WO、WO、W、W、W1849、W2058、W2470,W2573、W40118、LiWO、NbO、NbO、Nb、Nb、Nb・nHO、LiNbO、TaO、Ta、LiTaO、ReO、ReO、Re、Reなどが挙げられ、工業原料として比較的入手し易い、又はリチウムを包含するといった点から、好ましくはMoO、LiMoO、WO、LiWOが挙げられ、特に好ましくはWOが挙げられる。これらの更なる添加剤1は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0281】
添加元素2を含有する化合物(添加剤2)の種類としては、本発明の効果を発現するものであればその種類に格別の制限はないが、通常はホウ酸、オキソ酸の塩類、酸化物、水酸化物などが用いられる。これらの添加剤2の中でも、工業原料として安価に入手できる点から、ホウ酸、酸化物であることが好ましく、ホウ酸であることが特に好ましい。
【0282】
添加剤2の例示化合物としては、BO、B、B、B、BO、BO、B13、LiBO、LiB、Li、HBO、HBO、B(OH)、B(OH)、BiBO、Bi、Bi、Bi(OH)などが挙げられ、工業原料として比較的安価かつ容易に入手できる点から、好ましくはB、HBO、Biが挙げられ、特に好ましくは、HBOが挙げられる。これらの添加剤2は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0283】
また、添加剤1及び添加剤2の合計の添加量の範囲としては、主成分を構成する遷移金属元素の合計モル量に対して、下限としては、通常0.1モル%以上、好ましくは0.3モル%以上、より好ましくは0.5モル%以上、特に好ましくは1.0モル%以上、上限としては、通常8モル%未満、好ましくは5モル%以下、より好ましくは4モル%以下、特に好ましくは3モル%以下である。下限を下回ると、上記効果が得られなくなる可能性があり、上限を超えると電池性能の低下を招く可能性がある。
【0284】
(正極活物質の製造法)
正極活物質の製造法としては、無機化合物の製造法として一般的な方法が用いられる。特に球状ないし楕円球状の活物質を作成するには種々の方法が考えられるが、例えば、遷移金属の原料物質を水等の溶媒中に溶解ないし粉砕分散して、攪拌をしながらpHを調節して球状の前駆体を作成回収し、これを必要に応じて乾燥した後、LiOH、LiCO、LiNO等のLi源を加えて高温で焼成して活物質を得る方法等が挙げられる。
【0285】
正極の製造のために、前記の正極活物質を単独で用いてもよく、異なる組成の2種以上を、任意の組み合わせ又は比率で併用してもよい。この場合の好ましい組み合わせとしては、LiCoOとLiNi0.33Co0.33Mn0.33などのLiMn若しくはこのMnの一部を他の遷移金属等で置換したものとの組み合わせ、あるいは、LiCoO若しくはこのCoの一部を他の遷移金属等で置換したものとの組み合わせが挙げられる。
【0286】
(リチウム遷移金属系化合物粉体の製法)
上記リチウム遷移金属系化合物粉体を製造する方法は、特定の製法に限定されるものではないが、リチウム化合物と、Mn、Co及びNiから選ばれる少なくとも1種の遷移金属化合物と、上述の添加剤とを、液体媒体中で粉砕し、これらを均一に分散させたスラリーを得るスラリー調製工程と、得られたスラリーを噴霧乾燥する噴霧乾燥工程と、得られた噴霧乾燥体を焼成する焼成工程を含む製造方法により、好適に製造される。
【0287】
例えば、リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物粉体を例にあげて説明すると、リチウム化合物、ニッケル化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、並びに、上述の添加剤を液体媒体中に分散させたスラリーを噴霧乾燥して得られた噴霧乾燥体を、酸素含有ガス雰囲気中で焼成して製造することができる。
【0288】
以下に、本発明の好適態様であるリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物粉体の製造方法を例にあげて、リチウム遷移金属系化合物粉体の製造方法について詳細に説明する。
【0289】
I)スラリー調製工程
上記リチウム遷移金属系化合物粉体を製造するに当たり、スラリーの調製に用いる原料化合物のうち、リチウム化合物としては、LiCO、LiNO、LiNO、LiOH、LiOH・HO、LiH、LiF、LiCl、LiBr、LiI、CHOOLi、LiO、LiSO、ジカルボン酸Li、クエン酸Li、脂肪酸Li、アルキルリチウム等が挙げられる。これらリチウム化合物の中で好ましいのは、焼成処理の際にSO、NO等の有害物質を発生させない点で、窒素原子や硫黄原子、ハロゲン原子を含有しないリチウム化合物であり、また、焼成時に分解ガスを発生する等して、噴霧乾燥粉体の二次粒子内に分解ガスを発生するなどして空隙を形成しやすい化合物であり、これらの点を勘案すると、LiCO、LiOH、LiOH・HOが好ましく、特にLiCOが好ましい。これらのリチウム化合物は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0290】
また、ニッケル化合物としては、Ni(OH)、NiO、NiOOH、NiCO、2NiCO・3Ni(OH)・4HO、NiC・2HO、Ni(NO・6HO、NiSO、NiSO・6HO、脂肪酸ニッケル、ニッケルハロゲン化物等が挙げられる。この中でも、焼成処理の際にSO、NO等の有害物質を発生させない点で、Ni(OH)、NiO、NiOOH、NiCO、2NiCO・3Ni(OH)・4HO、NiC・2HOのようなニッケル化合物が好ましい。また、更に工業原料として安価に入手できる観点、及び反応性が高い、という観点からNi(OH)、NiO、NiOOH、NiCO、さらに焼成時に分解ガスを発生する等して、噴霧乾燥粉体の二次粒子内に空隙を形成しやすい、という観点から、特に好ましいのはNi(OH)、NiOOH、NiCOである。これらのニッケル化合物は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0291】
また、マンガン化合物としてはMn、MnO、Mn等のマンガン酸化物、MnCO、Mn(NO、MnSO、酢酸マンガン、ジカルボン酸マンガン、クエン酸マンガン、脂肪酸マンガン等のマンガン塩、オキシ水酸化物、塩化マンガン等のハロゲン化物等が挙げられる。これらのマンガン化合物の中でも、MnO、Mn、Mn、MnCOは、焼成処理の際にSO、NO等のガスを発生せず、更に工業原料として安価に入手できるため好ましい。これらのマンガン化合物は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0292】
また、コバルト化合物としては、Co(OH)、CoOOH、CoO、Co、Co、Co(OCOCH・4HO、CoCl、Co(NO・6HO、Co(SO4)・7HO、CoCO等が挙げられる。中でも、焼成工程の際にSO、NO等の有害物質を発生させない点で、Co(OH)、CoOOH、CoO、Co、Co、CoCOが好ましく、更に好ましくは、工業的に安価に入手できる点及び反応性が高い点でCo(OH)、CoOOHである。加えて焼成時に分解ガスを発生する等して、噴霧乾燥粉体の二次粒子内に空隙を形成しやすい、という観点から、特に好ましいのはCo(OH)、CoOOH、CoCOである。これらのコバルト化合物は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0293】
また、上記のLi、Ni、Mn、Co原料化合物以外にも他元素置換を行って前述の異元素を導入したり、後述する噴霧乾燥にて形成される二次粒子内の空隙を効率よく形成させたりすることを目的とした化合物群を使用することが可能である。なお、ここで使用する、二次粒子の空隙を効率よく形成させることを目的として使用する化合物の添加段階は、その性質に応じて、原料混合前又は混合後の何れかを選択することが可能である。特に、混合工程によって機械的剪断応力が加わるなどして分解しやすい化合物は混合工程後に添加することが好ましい。添加剤としては、前述の通りである。
【0294】
原料の混合方法は特に限定されるものではなく、湿式でも乾式でもよい。例えば、ボールミル、振動ミル、ビーズミル等の装置を使用する方法が挙げられる。原料化合物を水、アルコール等の液体媒体中で混合する湿式混合は、より均一な混合が可能であり、かつ焼成工程において混合物の反応性を高めることができるので好ましい。
【0295】
混合の時間は、混合方法により異なるが、原料が粒子レベルで均一に混合されていればよく、例えばボールミル(湿式又は乾式)では通常1時間から2日間程度、ビーズミル(湿式連続法)では滞留時間が通常0.1時間から6時間程度である。
【0296】
なお、原料の混合段階においてはそれと並行して原料の粉砕が為されていることが好ましい。粉砕の程度としては、粉砕後の原料粒子の粒径が指標となるが、平均粒子径(メジアン径)として通常0.6μm以下、好ましくは0.55μm以下、さらに好ましくは0.52μm以下、最も好ましくは0.5μm以下とする。粉砕後の原料粒子の平均粒子径が大きすぎると、焼成工程における反応性が低下するのに加え、組成が均一化し難くなる。ただし、必要以上に小粒子化することは、粉砕のコストアップに繋がるので、平均粒子径が通常0.01μm以上、好ましくは0.02μm以上、さらに好ましくは0.05μm以上となるように粉砕すればよい。このような粉砕程度を実現するための手段としては特に限定されるものではないが、湿式粉砕法が好ましい。具体的にはダイノーミル等を挙げることができる。
【0297】
なお、スラリー中の粉砕粒子のメジアン径は、公知のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置によって、屈折率1.24を設定し、粒子径基準を体積基準に設定して測定されたものである。測定の際に用いる分散媒としては、0.1重量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用い、5分間の超音波分散(出力30W、周波数22.5kHz)後に測定を行った。
【0298】
II)噴霧乾燥工程
湿式混合後は、次いで通常乾燥工程に供される。乾燥方法は特に限定されないが、生成する粒子状物の均一性や粉体流動性、粉体ハンドリング性能、乾燥粒子を効率よく製造できる等の観点から噴霧乾燥が好ましい。
【0299】
(噴霧乾燥粉体)
上記リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物粉体等のリチウム遷移金属系化合物粉体の製造方法においては、原料化合物と上述の添加剤とを湿式粉砕して得られたスラリーを噴霧乾燥することにより、一次粒子が凝集して二次粒子を形成してなる粉体を得る。一次粒子が凝集して二次粒子を形成してなる噴霧乾燥粉体の形状的特徴の確認方法としては、例えば、SEM観察、断面SEM観察が挙げられる。
【0300】
III)焼成工程
上述の噴霧乾燥工程で得られた噴霧乾燥粉体は、焼成前駆体として、次いで焼成処理される。
【0301】
この焼成条件は、組成や使用するリチウム化合物原料にも依存するが、傾向として、焼成温度が高すぎると一次粒子が過度に成長し、粒子間の焼結が進行し過ぎ、比表面積が小さくなり過ぎる。逆に低すぎると異相が混在し、また結晶構造が発達せずに格子歪が増大する。また比表面積が大きくなりすぎる。焼成温度としては、通常1000℃以上、好ましくは1010℃以上、より好ましくは1025℃以上、最も好ましくは1050℃以上であり、好ましくは1250℃以下、より好ましくは1200℃以下、更に好ましくは1175℃以下である。
【0302】
焼成には、例えば、箱形炉、管状炉、トンネル炉、ロータリーキルン等を使用することができる。焼成工程は、通常、昇温・最高温度保持・降温の三部分に分けられる。二番目の最高温度保持部分は必ずしも一回とは限らず、目的に応じて二段階又はそれ以上の段階をふませてもよく、二次粒子を破壊しない程度に凝集を解消することを意味する解砕工程又は、一次粒子或いはさらに微小粉末まで砕くことを意味する粉砕工程を挟んで、昇温・最高温度保持・降温の工程を二回又はそれ以上繰り返してもよい。
【0303】
焼成を二段階で行う場合、一段目はLi原料が分解し始める温度以上、融解する温度以下で保持することが好ましく、たとえば炭酸リチウムを用いる場合には一段目の保持温度は400℃以上が好ましく、より好ましくは450℃以上、さらに好ましくは500℃以上、最も好ましくは550℃以上が好ましく、通常950℃以下、より好ましくは900℃以下、さらに好ましくは880℃以下、最も好ましくは850℃以下である。
【0304】
最高温度保持工程に至る昇温工程は通常1℃/分以上20℃/分以下の昇温速度で炉内を昇温させる。この昇温速度があまり遅すぎても時間がかかって工業的に不利であるが、あまり速すぎても炉によっては炉内温度が設定温度に追従しなくなる。昇温速度は、好ましくは2℃/分以上、より好ましくは3℃/分以上で、好ましくは18℃/分以下、より好ましくは15℃/分以下である。
【0305】
最高温度保持工程での保持時間は、温度によっても異なるが、通常前述の温度範囲であれば15分以上、好ましくは30分以上、更に好ましくは45分以上、最も好ましくは1時間以上で、24時間以下、好ましくは12時間以下、更に好ましくは9時間以下、最も好ましくは6時間以下である。焼成時間が短すぎると結晶性のよいリチウム遷移金属系化合物粉体が得られ難くなり、長すぎるのは実用的ではない。焼成時間が長すぎると、その後解砕が必要になったり、解砕が困難になったりするので、不利である。
【0306】
降温工程では、通常0.1℃/分以上20℃/分以下の降温速度で炉内を降温させる。降温速度があまり遅すぎても時間がかかって工業的に不利であるが、あまり速すぎても目的物の均一性に欠けたり、容器の劣化を早めたりする傾向にある。降温速度は、好ましくは1℃/分以上、より好ましくは3℃/分以上で、好ましくは15℃/分以下である。
【0307】
焼成時の雰囲気は、得ようとするリチウム遷移金属系化合物粉体の組成によって適切な酸素分圧領域があるため、それを満足するための適切な種々ガス雰囲気が用いられる。ガス雰囲気としては、例えば、酸素、空気、窒素、アルゴン、水素、二酸化炭素、及びそれらの混合ガス等を挙げることができる。リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物粉体については、空気等の酸素含有ガス雰囲気を用いることができる。通常は酸素濃度が1体積%以上、好ましくは10体積%以上、より好ましくは15体積%以上で、100体積%以下、好ましくは50体積%以下、より好ましくは25体積%以下の雰囲気とする。
【0308】
このような製造方法において、リチウム遷移金属系化合物粉体、例えば前記特定の組成を有するリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物粉体を製造するには、製造条件を一定とした場合には、リチウム化合物、ニッケル化合物、マンガン化合物、及びコバルト化合物と、添加剤とを液体媒体中に分散させたスラリーを調製する際、各化合物の混合比を調整することで、目的とするLi/Ni/Mn/Coのモル比を制御することができる。
【0309】
このようにして得られたリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物粉体等のリチウム遷移金属系化合物粉体によれば、容量が高く、低温出力特性、保存特性に優れた、性能バランスのよいリチウム二次電池用正極材料が提供される。
【0310】
<正極の構成と作製法>
以下に、正極の構成について述べる。正極は、正極活物質と結着剤とを含有する正極活物質層を、集電体上に形成して作製することができる。正極活物質を用いる正極の製造は、常法により行うことができる。即ち、正極活物質と結着剤、並びに必要に応じて導電材及び増粘剤等を乾式で混合してシート状にしたものを正極集電体に圧着するか、又はこれらの材料を液体媒体に溶解又は分散させてスラリーとして、これを正極集電体に塗布し、乾燥することにより、正極活物質層を集電体上に形成されることにより正極を得ることができる。
【0311】
正極活物質の、正極活物質層中の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは82質量%以上、特に好ましくは84質量%以上である。また上限は、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下である。正極活物質層中の正極活物質の含有量が低いと電気容量が不十分となる場合がある。逆に含有量が高すぎると正極の強度が不足する場合がある。
【0312】
(結着剤)
正極活物質層の製造に用いる結着剤としては、特に限定されず、塗布法の場合は、電極製造時に用いる液体媒体に対して溶解又は分散される材料であればよいが、具体例としては、上述した負極の製造に用いる結着剤と同様のものが挙げられる。なお、これらの物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0313】
正極活物質層中の結着剤の割合は、通常0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは1.5質量%以上であり、通常80質量%以下、好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下、最も好ましくは10質量%以下である。結着剤の割合が低すぎると、正極活物質を十分保持できずに正極の機械的強度が不足し、サイクル特性等の電池性能を悪化させてしまう場合がある。一方で、高すぎると、電池容量や導電性の低下につながる場合がある。
【0314】
(スラリー形成溶媒)
スラリーを形成するための溶媒としては、正極活物質、導電材、結着剤、並びに必要に応じて使用される増粘剤を溶解又は分散することが可能な溶媒であれば、その種類に特に制限はなく、水系溶媒と有機系溶媒のどちらを用いてもよい。水系媒体としては、例えば、水、アルコールと水との混合媒等が挙げられる。有機系媒体としては、例えば、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メチルナフタレン等の芳香族炭化水素類;キノリン、ピリジン等の複素環化合物;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸メチル、アクリル酸メチル等のエステル類;ジエチレントリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン等のアミン類;ジエチルエーテル、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル類;N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;ヘキサメチルホスファルアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。
【0315】
(集電体)
正極集電体の材質としては特に制限されず、公知のものを任意に用いることができる。具体例としては、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ、チタン、タンタル等の金属材料;カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が挙げられる。中でも金属材料、特にアルミニウムが好ましい。
【0316】
集電体の形状としては、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられ、炭素材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が挙げられる。
【0317】
また、集電体の表面に導電助剤が塗布されていることも、集電体と正極活物質層の電気接触抵抗を低下させる観点で好ましい。導電助剤としては、炭素や、金、白金、銀等の貴金属類が挙げられる。
【0318】
集電体と正極活物質層の厚さの比は特には限定されないが、(電解液注液直前の片面の正極活物質層の厚さ)/(集電体の厚さ)の値が20以下であることが好ましく、より好ましくは15以下、最も好ましくは10以下であり、下限は、0.5以上が好ましく、より好ましくは0.8以上、最も好ましくは1以上の範囲である。この範囲を上回ると、高電流密度充放電時に集電体がジュール熱による発熱を生じる場合がある。この範囲を下回ると、正極活物質に対する集電体の体積比が増加し、電池の容量が減少する場合がある。
【0319】
<セパレータ>
正極と負極との間には、短絡を防止するために、通常はセパレータを介在させる。この場合、本発明の電解液は、通常はこのセパレータに含浸させて用いる。
【0320】
セパレータの材料や形状については特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のものを任意に採用することができる。中でも、本発明の電解液に対し安定な材料で形成された、樹脂、ガラス繊維、無機物等が用いられ、保液性に優れた多孔性シート又は不織布状の形態の物等を用いるのが好ましい。
【0321】
樹脂、ガラス繊維セパレータの材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、芳香族ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン、ガラスフィルター等を用いることができる。中でも好ましくはガラスフィルター、ポリオレフィンであり、さらに好ましくはポリオレフィンである。これらの材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0322】
セパレータの厚さは任意であるが、通常1μm以上であり、5μm以上が好ましく、8μm以上がさらに好ましく、また、通常50μm以下であり、40μm以下が好ましく、30μm以下がさらに好ましい。セパレータが、上記範囲より薄過ぎると、絶縁性や機械的強度が低下する場合がある。また、上記範囲より厚過ぎると、レート特性等の電池性能が低下する場合があるばかりでなく、電気化学デバイス全体としてのエネルギー密度が低下する場合がある。
【0323】
さらに、セパレータとして多孔性シートや不織布等の多孔質のものを用いる場合、セパレータの空孔率は任意であるが、通常20%以上であり、35%以上が好ましく、45%以上がさらに好ましく、また、通常90%以下であり、85%以下が好ましく、75%以下がさらに好ましい。空孔率が、上記範囲より小さ過ぎると、膜抵抗が大きくなってレート特性が悪化する傾向がある。また、上記範囲より大き過ぎると、セパレータの機械的強度が低下し、絶縁性が低下する傾向にある。
【0324】
また、セパレータの平均孔径も任意であるが、通常0.5μm以下であり、0.2μm以下が好ましく、また、通常0.05μm以上である。平均孔径が、上記範囲を上回ると、短絡が生じ易くなる。また、上記範囲を下回ると、膜抵抗が大きくなりレート特性が低下する場合がある。
【0325】
一方、無機物の材料としては、例えば、アルミナや二酸化ケイ素等の酸化物、窒化アルミや窒化ケイ素等の窒化物、硫酸バリウムや硫酸カルシウム等の硫酸塩が用いられ、粒子形状もしくは繊維形状のものが用いられる。
【0326】
形態としては、不織布、織布、微多孔性フィルム等の薄膜形状のものが用いられる。薄膜形状では、孔径が0.01〜1μm、厚さが5〜50μmのものが好適に用いられる。上記の独立した薄膜形状以外に、樹脂製の結着剤を用いて上記無機物の粒子を含有する複合多孔層を正極及び/又は負極の表層に形成させてなるセパレータを用いることができる。例えば、正極の両面に90%粒径が1μm未満のアルミナ粒子を、フッ素樹脂を結着剤として多孔層を形成させることが挙げられる。
【0327】
以下、電池設計について、説明する。
<電極群>
電極群は、上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介してなる積層構造のもの、及び上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介して渦巻き状に捲回した構造のもののいずれでもよい。電極群の体積が電池内容積に占める割合(以下、電極群占有率と称する)は、通常40%以上であり、50%以上が好ましく、また、通常90%以下であり、80%以下が好ましい。
【0328】
電極群占有率が、上記範囲を下回ると、電池容量が小さくなる。また、上記範囲を上回ると空隙スペースが少なく、電池が高温になることによって部材が膨張したり電解質の液成分の蒸気圧が高くなったりして内部圧力が上昇し、電池としての充放電繰り返し性能や高温保存等の諸特性を低下させたり、さらには、内部圧力を外に逃がすガス放出弁が作動する場合がある。
【0329】
<集電構造>
集電構造は、特に制限されないが、本発明の電解液による高電流密度の充放電特性の向上をより効果的に実現するには、配線部分や接合部分の抵抗を低減する構造にすることが好ましい。この様に内部抵抗を低減させた場合、本発明の電解液を使用した効果は特に良好に発揮される。
【0330】
電極群が積層構造のものでは、各電極層の金属芯部分を束ねて端子に溶接して形成される構造が好適に用いられる。一枚の電極面積が大きくなる場合には、内部抵抗が大きくなるので、電極内に複数の端子を設けて抵抗を低減することも好適に用いられる。電極群が上記の捲回構造のものでは、正極及び負極にそれぞれ複数のリード構造を設け、端子に束ねることにより、内部抵抗を低くすることができる。
【0331】
<外装ケース>
外装ケースの材質は用いられる電解液に対して安定な物質であれば特に制限されない。具体的には、ニッケルめっき鋼板、ステンレス、アルミニウム又はアルミニウム合金、マグネシウム合金等の金属類、又は、樹脂とアルミ箔との積層フィルム(ラミネートフィルム)が用いられる。軽量化の観点から、アルミニウム又はアルミニウム合金の金属、ラミネートフィルムが好適に用いられる。
【0332】
金属類を用いる外装ケースでは、レーザー溶接、抵抗溶接、超音波溶接により金属同士を溶着して封止密閉構造とするもの、若しくは、樹脂製ガスケットを介して上記金属類を用いてかしめ構造とするものが挙げられる。ラミネートフィルムを用いる外装ケースでは、樹脂層同士を熱融着することにより封止密閉構造とするもの等が挙げられる。シール性を上げるために、樹脂層の間にラミネートフィルムに用いられる樹脂と異なる樹脂を介在させてもよい。特に、集電端子を介して樹脂層を熱融着して密閉構造とする場合には、金属と樹脂との接合になるので、介在する樹脂として極性基を有する樹脂や極性基を導入した変成樹脂が好適に用いられる。
【0333】
<保護素子>
保護素子として、異常発熱や過大電流が流れた時に抵抗が増大するPTC(Positive Temperature Coefficient)、温度ヒューズ、サーミスター、異常発熱時に電池内部圧力や内部温度の急激な上昇により回路に流れる電流を遮断する弁(電流遮断弁)等を使用することができる。上記保護素子は高電流の通常使用で作動しない条件のものを選択することが好ましく、保護素子がなくても異常発熱や熱暴走に至らない設計にすることがより好ましい。
【0334】
<外装体>
本発明の電気化学デバイスは、通常、上記の電解液、負極、正極、セパレータ等を外装体内に収納して構成される。この外装体は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のものを任意に採用することができる。具体的に、外装体の材質は任意であるが、通常は、例えばニッケルメッキを施した鉄、ステンレス、アルミニウム又はその合金、ニッケル、チタン等が用いられる。
【0335】
また、外装体の形状も任意であり、例えば円筒型、角形、ラミネート型、コイン型、大型等のいずれであってもよい。
【0336】
また、本発明のリチウムイオン二次電池を備えたモジュールも本発明の一つである。
【0337】
以上のように、本発明の電解液はガス発生が抑制され、電池特性に優れたものである。このため、ハイブリッド自動車用や分散電源用の大型リチウムイオン二次電池等の電気化学デバイス用の電解液として特に有用であり、そのほか小型のリチウムイオン二次電池等の電気化学デバイス用の電解液としても有用である。
【0338】
実施例及び比較例
次に本発明を実施例及び比較例に基づいて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0339】
1L PFAボトルに表1及び表2に記載の溶媒を、表1及び表2に記載の容量比で混合した。この溶媒に、表1及び表2に記載の非水電解質塩を、表1及び表2に記載の重量比で混合し電解液を得た。得られた電解液に、添加剤として表1及び表2に記載の鎖状スルホン酸エステル化合物(含フッ素スルホン酸エステル誘導体)等を、表1及び表2に記載の添加量で添加し、実施例及び比較例の電解液を得た。
【0340】
(ラミネートセルの作製)
LiNi1/3Mn1/3Co1/3とカーボンブラックとポリフッ化ビニリデン(呉羽化学(株)製、商品名:KF−7200)を92/3/5(質量比)で混合した正極活物質をN−メチル−2−ピロリドンに分散してスラリー状とした正極合剤スラリーを準備した。アルミ集電体上に、得られた正極合剤スラリーを均一に塗布し、乾燥して正極合剤層(厚さ50μm)を形成し、その後、ローラプレス機により圧縮成形して、正極積層体を製造した。正極積層体を打ち抜き機で5.0mm×7.0mmの大きさに打ち抜き、正極を作製した。
【0341】
別途、人造黒鉛粉末に、蒸留水で分散させたスチレン−ブタジエンゴムを固形分で4質量%となるように加え、ディスパーザーで混合してスラリー状としたものを負極集電体(厚さ10μmの銅箔)上に均一に塗布し、乾燥し、負極合剤層を形成した。その後、ロールプレス機により圧縮成形し、打ち抜き機で5.0mm×7.0mmの大きさに打ち抜き、負極を作製した。
【0342】
上記の正極を厚さ20μmの微孔性ポリエチレンフィルム(セパレータ)を介して正極と負極を対向させ、アルミラミネートフィルム(大日本印刷(株)製)中に組み立て、上記で得られた非水電解液を注入し、電解液がセパレータなどに充分に浸透した後、封止し予備充電、エージングを行い、アルミラミネート製のリチウムイオン二次電池を作製し、ガス量測定を実施した。
ガス量測定は、1.0C、4.35Vにて充電電流が1/10Cになるまで充電を行った。上記セルの体積をアルキメデス法で測り、その後85℃の恒温槽の中に1日保存し、保存後セルの体積を同様に測定し、保存前後の体積変化をガス量として表1及び表2に示した。
【0343】
表1及び2中の略号は次の化合物を表す。
EC:エチレンカーボネート
PC:プロピレンカーボネート
EMC:エチルメチルカーボネート
DEC:ジエチルカーボネート
VC:ビニレンカーボネート
【0344】
表1及び2中の各成分は、それぞれ下記に示すとおりである。
成分(a):下記化学式(12)で示される化合物
成分(b):下記化学式(15)で示される化合物
【0345】
成分(a):
【0346】
【化45】
【0347】
成分(b):
【0348】
【化46】
【0349】
FEC:フルオロエチレンカーボネート
【0350】
【化47】
【0351】
DFEC:ジフルオロエチレンカーボネート
【0352】
【化48】
【0353】
トリフルオロエチルエチレンカーボネート:
【0354】
【化49】
【0355】
トリフルオロメチルエチレンカーボネート:
【0356】
【化50】
【0357】
【表1】
【0358】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0359】
本発明の電解液は、リチウムイオン二次電池等の電気化学デバイスに好適に利用できる。
図1