【文献】
M.Era, S. Morimoto, and S. Saito,Organic-inorganic heterostructure electroluminescent device using a layerd perovskite semiconductor (C6H5C2H4NH3)2PBI4,Applied Physics Letters,米国,American Institute of Physics,1994年 6月 9日,Vol.65, No.6,676-678
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
透明電極と背面電極との間に発光層が介在するEL素子であって、前記発光層が下記一般式(1)若しくは(2)に示す有機無機混成ペロブスカイト化合物、または下記一般式(3)に示す無機ペロブスカイト化合物の少なくとも一種を被膜形成または吸着させた多孔質微粒子で構成されていることを特徴とする分散型無機EL素子。
CH3NH3M1X3 (1)
(式中、M1は、2価の金属イオンであり、Xは、F,Cl,Br,Iである。)
(R1R2NH2)2M1X4 (2)
(式中、R1は炭素数2以上のアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、複素環基または芳香族複素環基であり、R2は、Hまたはメチル基であり、M1は、2価の金属イオンであり、Xは、F,Cl,Br,Iである。)
CsM2X3 (3)
(式中、M2は、2価の金属イオンであり、Xは、F,Cl,Br,Iである。)
前記多孔質微粒子表面に形成された被膜または吸着体が、上記一般式(1)若しくは(2)に示す有機無機混成ペロブスカイト化合物、または上記一般式(3)に示す無機ペロブスカイト化合物を構成し得る前駆体を含む溶液を用いて形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載した分散型無機EL素子。
前記発光層の前記透明電極側若しくは前記背面電極側のいずれかの間または両方の間に、絶縁層をさらに有することを特徴とする請求項1及至請求項4に記載した分散型無機EL素子。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本願発明の分散型無機EL素子について詳細に記述する。
【0018】
1.分散型無機EL素子の構造
図1は、本願発明の分散型EL素子の構造の1例を示す断面図である。分散型無機EL素子1は、基板2上に形成された背面電極3と、透明基板7上に積層された透明導電層6からなる透明電極8と、背面電極3と透明導電層6との間に形成された発光層5とから構成されている。
図3および
図4に模式的に示すとおり、発光層5は多孔質微粒子51の表面にペロブスカイト化合物(有機無機混成ペロブスカイト化合物若しくは無機ペロブスカイト化合物またはこれらの混合物)52が被膜状または吸着体として形成されている。また、
図2は、背面電極3と発光層5の間に絶縁層4を設けた1例を示す断面図である。なお、本願発明では、絶縁層4は、発光層5の背面電極3側だけでなく、発光層5の透明電極8側、背面電極3側と透明電極8側の両方にも設けることができる。背面電極3と透明導電層6に交流電圧を印加することにより、発光層を構成する発光体が発光する。以下、発光層5、透明電極8、背面電極3、絶縁層4の順で説明する。
【0019】
[1] 発光層
本願発明の発光層は多孔質微粒子の表面にペロブスカイト化合物(有機無機混成ペロブスカイト化合物若しくは無機ペロブスカイト化合物またはこれらの混合物)が被膜状または吸着体として形成されている。
【0020】
(1)有機無機混成ペロブスカイト化合物A
有機無機混成ペロブスカイト化合物とは、単一の分子スケール・コンポジット内に有機・無機両成分に特徴的な望ましい物理特性を組み合わせた(有機無機混成の)ペロブスカイト化合物をいう。ペロブスカイトの基本的構造形態は、ABX
3構造であり、頂点共有BX
6八面体の三次元ネットワークを有する。ABX
3構造のB成分は、Xアニオンの八面体配位をとることができる金属カチオンである。Aカチオンは、BX
6八面体間の12の配位孔に位置し、一般に無機カチオンである。Aを無機カチオンから有機カチオンに置換することにより、有機無機混成ペロブスカイト化合物を形成する。
【0021】
本願発明の有機無機混成ペロブスカイト化合物Aは、下記一般式(1)または(2)のいずれかに示す化合物である。
CH
3NH
3M
1X
3 (1)
(式中、M
1は、2価の金属イオンであり、Xは、F,Cl,Br,Iである。)
(R1R2NH2)2M1X4 (2)
(式中、R
1は炭素数2以上のアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、複素環基または芳香族複素環基であり、
R2は、Hまたはメチル基であり、M
1は、2価の金属イオンであり、Xは、F,Cl,Br,Iである。)
【0022】
本願発明の有機無機混成ペロブスカイト化合物Aにおける無機枠組みは、頂点を共有する金属ハロゲン化物八面体の層を有する。陽イオン性有機層からの正の電荷と平衡をとるため、陰イオン性金属ハロゲン化物層(例えば、M
1X
32-,M
1X
42-)は一般に2価の金属である。本願発明の有機無機混成ペロブスカイト化合物Aの陰イオン性金属ハロゲン化物層を構成する金属は、具体的には、M
1(例、Cu
2+,Ni
2+,Mn
2+,Fe
2+、Co
2+、Pd
2+、Ge
2+、Sn
2+、Pb
2+、Eu
2+)である。
【0023】
本願発明の有機無機混成ペロブスカイト化合物Aの陰イオン性金属ハロゲン化物層を構成するハロゲン化物は、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、またはこれらの組合せである。このハロゲン化物は、臭化物、ヨウ化物が好ましい。
【0024】
本願発明の上記一般式(2)のR
1としては、炭素数2〜40の置換または未置換のアルキル基、直鎖、分岐または環状のアルキル鎖(好ましくは炭素数2〜30であり、より好ましくは炭素数2〜20であり、炭素数2〜18がもっとも好ましい)。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基、イコサニル基、ドコサニル基、トリアコンタニル基、テトラアコンタニル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0025】
炭素数2〜40の置換または未置換のアラルキル基としては、アリール基で置換されている低級アルキル基を意味し、アルキル部が直鎖状または分岐鎖状で、好ましい炭素数が1〜5、より好ましくは1であり、アリール部が好ましい炭素数が6〜10、より好ましくは6〜8である。具体的には、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、ナフチルエチル基等が挙げられる。
【0026】
アルケニル基は、好ましくは炭素数3〜30であり、より好ましくは炭素数3〜20であり、炭素数3〜12が最も好ましい。例えば、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、2−ブテニル基、オレイル基、アリル基等が挙げられる。アルキニル基としては、アセチレニル、プロパルギル基、3−ペンチニル基、2−ヘキシルニル、2−デカニルを挙げることが出来る。
【0027】
アリール基としては、好ましくは炭素数6〜30の単環または二環のアリール基(例えばフェニル、ナフチル等が挙げられる。)であり、より好ましくは炭素数6〜20のフェニル基または炭素数10〜24のナフチル基であり、更に好ましくは炭素数6〜12のフェニル基または炭素数10〜16のナフチル基である。例えばフェニル基、p−クロロフェニル基、メシチル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、アントリル基、アズレニル基、アセナフテニル基、フルオレニル基、フェナントリル基、インデニル基、ピレニル基、ビフェニリル基等が挙げられる。これらの基は更に置換基を有していてもよい。一般式(1)において、複素環基としては、例えば、ピロリジル基、イミダゾリジル基、モルホリル基、オキサゾリジル基等が挙げられる。これらの基は更に置換基を有していてもよい。
【0028】
芳香族複素環基としては、例えばフリル基、チエニル基、ピリジル基、ピリダジニル基、ピリミジニル基、ピラジニル基、トリアジニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾリル基、キナゾリニル基、カルバゾリル基、カルボリニル基、ジアザカルバゾリル基(前記カルボリニル基のカルボリン環を構成する任意の炭素原子の一つが窒素原子で置き換わったものを示す)、フタラジニル基等が挙げられる。これらの基は更に置換基を有していてもよい。
【0029】
本願発明の有機無機混成ペロブスカイト化合物Aの具体例としては、CH
3NH
3PbI
3、CH
3NH
3PbBr
3、(CH
3(CH
2)
nCHCH
3NH
3)
2PbI
4[n=5〜8]、(C
6H
5C
2H
4NH
3)
2PbBr
4がある。
【0030】
本願発明の有機無機混成ペロブスカイト化合物Aは、溶液を用いた自己組織化反応により合成することができる。
【0031】
本願発明の有機無機混成ペロブスカイト化合物Aの被膜あるいは吸着体は、ペロブスカイト化合物Aを有機溶剤に溶解した後、グラビア塗布法、バー塗布法、印刷法、スプレー法、スピンコーティング法、ディップ法、ダイコート法等の塗布方法によって形成できる。なお、有機溶剤は、後述する絶縁性多孔質微粒子を溶解し、分解し、あるいは膨潤しない溶剤を選定する必要がある。
【0032】
(2)無機ペブロスカイト化合物B
本願発明の無機ペロブスカイト化合物Bは、下記一般式(3)に示されるものである。
CsM
2X
3 (3)
(式中、M
2は、2価の金属イオンであり、Xは、F,Cl,Br,Iである。)
【0033】
本願発明の無機ペロブスカイト化合物Bの陰イオン性金属ハロゲン化物層を構成する金属は、具体的には、M
2(例、Cu2+,Ni2+,Mn2+,Fe2+、Co2+、Pd2+、Ge2+、Sn2+、Pb2+、Eu2+)である。
【0034】
本願発明の無機ペロブスカイト化合物Bの陰イオン性金属ハロゲン化物層を構成するハロゲン化物は、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、またはこれらの組合せである。このハロゲン化物は、臭化物、ヨウ化物が好ましい。
【0035】
本願発明の無機ペロブスカイト化合物Bの具体例としては、CsSnI
3、CsSnBr
3がある。
【0036】
本願発明の無機ペロブスカイト化合物Bは、溶液を用いた自己組織化反応により合成することができる。ペロブスカイト化合物Bを有機溶剤に溶解した後、グラビア塗布法、バー塗布法、印刷法、スプレー法、スピンコーティング法、ディップ法、ダイコート法等の塗布方法によって形成できる。なお、有機溶剤は、後述する絶縁性多孔質微粒子を溶解し、分解し、あるいは膨潤しない溶剤を選定する必要がある。
【0037】
(3)有機無機混成ペロブスカイト化合物Aおよび無機ペロブスカイト化合物Bに用いる溶剤
本願発明に用いる有機無機混成ペロブスカイト化合物A溶液および無機ペロブスカイト化合物B溶液を調製するための溶剤としては、有機無機混成ペロブスカイトAおよび無機ペロブスカイト化合物Bを溶解できるものであれば特に限定するものではない。エステル類(例、メチルホルメート、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテート、ペンチルアセテート等)、ケトン類(例、γ-ブチロラクトン、Nメチル-2-ピロリドン、アセトン、ジメチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等)、エーテル類(例、ジエチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、4−メチルジオキソラン、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、アニソール、フェネトール等)、アルコール類(例、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノール、メトキシプロパノール、ジアセトンアルコール、シクロヘキサノール、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール等)、グリコールエーテル(セロソルブ)類(例、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールジメチルエーテル等)、アミド系溶剤(例、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等)、ニトリル系溶剤(例、アセトニトリル、イソブチロニトリル、プロピオニトリル、メトキシアセトニトリル等)、カーボート系剤(例、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等)、ハロゲン化炭化水素(例、塩化メチレン、ジクロロメタン、クロロホルム等)、炭化水素(例、n−ペンタン、シクロヘキサン、n−ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等)、ジメチルスルホキシドがある。これらは分岐構造若しくは環状構造を有していてもよい。エステル類、ケトン類、エーテル類およびアルコール類の官能基(即ち、−O−、−CO−、−COO−、−OH)のいずれかを二つ以上有していてもよい。エステル類、ケトン類、エーテル類およびアルコール類の炭化水素部分における水素原子は、ハロゲン原子(特に、フッ素原子)で置換されていてもよい。
【0038】
(4)絶縁性多孔質微粒子
本願発明における絶縁性多孔質微粒子は、その体積固有抵抗率(体積抵抗率、あるいは比低抗とも言う)が10
8Ω・cm以上が好ましく、さらには10
10Ω・cm以上が好ましい。絶縁性多孔質微粒子の素材は有機物である樹脂絶縁材料でもよく、無機絶縁材料でもよく、あるいはこれらの混合体でもよく、その利用方法によって最適な材料を選べばよい。
【0039】
本願発明の樹脂絶縁材料としては、例えばエポキシ樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、シアネート樹脂、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール樹脂、全芳香族ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、芳香族液晶ポリエステル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂又はビスマレイミド、トリアジン樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸セルロース材料、カーボンナノチューブ、フラーレン等の炭素材料を使用することができる。無機絶縁材料としては酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、窒化アルミニウム、白雲母、金雲母、マイカナイト、マイカレックス、石綿、磁器、ステアタイト、アルミナ磁器、酸化チタン磁器、硼珪酸ガラス、石英ガラス、木材、紙、水酸化アルミニウム又は炭酸カルシウムなどを挙げることができる。
【0040】
樹脂絶縁材料と無機絶縁材料を併用して使用する場合は、樹脂絶縁材料内に含有された無機絶縁材料(粒子)は、無機絶縁フィラーを構成し、樹脂絶縁材料の熱膨張率を低減するとともに樹脂絶縁部の剛性を高めるものである。特に酸化ケイ素を主成分とする無機絶縁材料を用いることができる。なお、その他の好ましい併用される無機絶縁材料は、酸化ケイ素を主成分として、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウム又は炭酸カルシウム等を含有するものを用いても構わない。また、無機絶縁粒子は、酸化ケイ素を65重量%〜100重量%含有することが望ましい。この無機絶縁粒子は、例えば球状に形成されており、粒径は0.5μm〜5.0μmが好ましく、樹脂絶縁材料内における含有量は50体積%〜85体積%が好ましく、各方向への熱膨張率は0ppm/℃〜7ppm/℃が好ましい。
【0041】
本願発明では、導電性微粒子の表面を絶縁層で被覆した絶縁性被覆導電性微粒子を使用することができる。例えば、導電性材料からなる微粒子を電気絶縁性物質の皮膜で被覆した電気接続用異方導電性微粒子がある。また、導電性微粒子の外周に絶縁性材料を微粒子の形で設けて絶縁被覆導電性微粒子がある。
【0042】
(5)絶縁性多孔質微粒子層
本願発明の絶縁性多孔質微粒子層を形成するためには、絶縁性多孔質微粒子のペーストまたは分散液を導電性基板上に塗布し、加熱を行うことにより乾燥焼成して膜を形成する。溶媒としては、水、上述した有機無機混成ペロブスカイト化合物Aおよび無機ペロブスカイト化合物Bに用いる溶媒であれば任意に選択できる。単独であっても混合物であっても良く、乾燥速度の観点から沸点が200℃以下のものが好ましい。 ペーストまたは分散液には、分散安定化剤、粘度調整剤、被膜形成促進剤として、以下に述べる分散剤、バインダーも併用される。また、塗布方法としては、グラビア塗布法、バー塗布法、印刷法、スプレー法、スピンコーティング法、ディップ法、ダイコート法等が挙げられる。
【0043】
上記の絶縁性多孔質微粒子によって構成される絶縁性多孔質微粒子層において、層内を空孔が占める体積分率で示される空孔率は、50%〜90%であることが好ましく、50%〜90%であることがさらに好ましい。絶縁性多孔質微粒子層は、2種類以上の微粒子群を含むことができる。
【0044】
なお、絶縁性多孔質微粒子表面に有機無機混成ペロブスカイト化合物を被覆又は吸着させるには、あらかじめ絶縁性多孔質微粒子層を作製した後、有機無機混成ペロブスカイト化合物の溶液を一般に知られている塗布方法で吸着させてもよいし、絶縁性多孔質微粒子層の製膜過程で、本発明の有機無機混成ペロブスカイト化合物を吸着させてもよい。
【0045】
(6)分散剤
本願発明の絶縁性多孔質微粒子には、界面活性剤等の分散剤、分散媒を含有させてもよい。分散剤を用いることで、分散媒中で安定に分散した分散域が得られる。通常、バインダー材料として分類されるような高分子なども分散能があれば分散剤として含む。
【0046】
上記分散剤として用いることができる界面活性剤としては、イオン性界面活性剤のものと非イオン性界面活性剤のものに分けられるが、本発明ではいずれの界面活性剤を用いることも可能である。イオン性界面活性剤としては、例えば以下のような界面活性剤があげられる。かかる界面活性剤は単独でもしくは2種以上を混合して用いることができる。
【0047】
イオン性界面活性剤は、陽イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤および陰イオン性界面活性剤にわけられる。陽イオン性界面活性剤としては、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩などがあげられる。両イオン性界面活性剤としては、アルキルベタイン系界面活性剤、アミンオキサイド系界面活性剤がある。陰イオン性界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸塩等の芳香族スルホン酸系界面活性剤、モノソープ系アニオン性界面活性剤、エーテルサルフェート系界面活性剤、フォスフェート系界面活性剤、カルボン酸系界面活性剤であり、中でも、分散能、分散安定能、高濃度化に優れることから、芳香環を含むもの、すなわち芳香族系イオン性界面活性剤が好ましく、特にアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルフェニルエーテルスルホン塩等の芳香族スルホン酸系界面活性剤等の芳香族系イオン性界面活性剤が好ましい。
【0048】
非イオン性界面活性剤としては、例えば以下のような界面活性剤をあげられる。かかる界面活性剤は単独でもしくは2種以上を混合して用いることができる。
【0049】
非イオン性界面活性剤の例としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの糖エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレン樹脂酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸ジエチルなどの脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリプロピレングリコールなどのエーテル系界面活性剤、ポリオキシアルキレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルジブチルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルベンジルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルビスフェニルエーテル、ポリオキシアルキルクミルフェニルエーテル等の芳香族系非イオン性界面活性剤があげられる。中でも、分散能、分散安定能、高濃度化に優れることから、芳香族系非イオン性界面活性剤が好ましく、中でもポリオキシエチレンフェニルエーテルが好ましい。
【0050】
界面活性剤以外にも各種高分子材料も分散剤として用いることができる。例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリスチレンスルホン酸アンモニウム塩、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩等の水溶性ポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(Na−CMC)、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アミロース、シクロアミロース、キトサン等の糖類ポリマー、
ポリチオフェン、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリイソチアナフテン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン等の導電性ポリマーおよびそれらの誘導体が使用できる。
【0051】
(7)バインダー
バインダーとしては、導電性塗料に使用されている各種の有機および無機バインダー、すなわち透明な有機または無機ポリマーまたはその前駆体が使用できる。
【0052】
有機バインダーは熱可塑性、熱硬化性、あるいは紫外線、電子線などの放射線硬化性のいずれであってもよい。適当な有機バインダーの例としては、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリアミド系(ナイロン6、ナイロン11、ナイロン66、ナイロン6、10等)、ポリエステル系(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、シリコーン系ポリマー、ビニル系樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリスチレン誘導体、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール等)、ポリケトン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリアセタール、フッ素樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラニン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、セルロース系ポリマー、蛋白質類(ゼラチン、カゼイン等)、キチン、ポリペプチド、多糖類、ポリヌクレオチドなど有機ポリマー、ならびこれらのポリマーの前駆体(モノマー、オリゴマー)がある。これらは単に溶剤の蒸発により、あるいは熱硬化または光もしくは放射線照射による硬化により有機ポリマー系透明被膜(マトリックス)を形成することができる。
【0053】
有機ポリマー系バインダーとして好ましいのは、放射線もしくは光によりラジカル重合硬化可能な不飽和結合を有する化合物であり、これはビニル基ないしビニリデン基を有するモノマー、オリゴマー、あるいはポリマーである。この種のモノマーとしてはスチレン誘導体(スチレン、メチルスチレン等)、アクリル酸もしくはメタクリル酸またはそれらの誘導体(アルキルアクリートもしくはメタクリレート、アリルアクリレートもしくはメタクリレート等)、酢酸ビニル、アクリロニトリル、イタコン酸等がある。オリゴマーあるいはポリマーは、主鎖に二重結合を有する化合物または直鎖の両末端にアクリロイルもしくはメタクリロイル基を有する化合物が好ましい。この種のラジカル重合硬化性バインダーは、高硬度で耐擦過性に優れ、透明度の高い導電フィルム膜を形成することができる。
【0054】
無機ポリマー系バインダーの例としては、シリカ、酸化錫、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム等の金属酸化物のゾル、あるいは無機ポリマーの前駆体となる加水分解または熱分解性の有機リン化合物および有機ボロン化合物、ならびに有機シラン化合物、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機鉛化合物、有機アルカリ土類金属化合物などの有機金属化合物がある。加水分解性または熱分解性の有機金属化合物の具体的例は、アルコキシドまたはその部分加水分解物、酢酸塩などの低級カルボン酸塩、アセチルアセトンなどの金属錯体である。
【0055】
これらの1種もしくは2種以上の無機ポリマー系バインダーを焼成すると、酸化物または複合酸化物からなるガラス質の無機ポリマー系透明被膜(マトリックス)を形成することができる。無機ポリマー系マトリックスは、一般にガラス質であり、高硬度で耐擦過性に優れ、透明性も高い。
【0056】
[2]透明電極
(1)透明電極基板
本願発明の導電性電極基板は、ガラスまたは透明プラスチック基板からなる透明基板上に透明導電層を有する構成である。プラスチック基板材料としては、無着色で透明性が高く、耐熱性が高く、耐薬品性及びガス遮断性に優れ、かつ低コストの材料が好適である。好適な材料としては、例えば、ポリエステル類(例、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)など)、スチレン類(例、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)など)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAr)、ポリスルホン(PSF)、ポリエステルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、透明ポリイミド(PI)、シクロオレフィンコポリマー(商品名アートンなど)及び脂環式ポリオレフィン(商品名ゼオノアなど)などが用いられる。なかでも、化学的安定性とコストの点で、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、脂環式ポリオレフィンが特に好ましい。なお、これらのプラスチック基板の構造やその組成においては特に限定されず、本願発明の色素増感型光電変換素子を構成するに値するものであれば、利用することができる。
【0057】
プラスチック基板の耐熱性は、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上、及び、線熱膨張係数が40ppm/℃以下の少なくともいずれかの物性を満たすことが好ましい。なお、プラスチック基板のTg及び線膨張係数は、JIS K 7121に記載のプラスチックの転移温度測定方法、及び、JIS K 7197に記載のプラスチックの熱機械分析による線膨張率試験方法により測定する。プラスチックフィルムのTgや線膨張係数は、添加剤などによって調整することができる。このような耐熱性に優れる熱可塑性樹脂として、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN:120℃)、ポリカーボネート(PC:140℃)、脂環式ポリオレフィン(例えば日本ゼオン(株)製 ゼオノア1600:160℃)、ポリアリレート(PAr:210℃)、ポリエーテルスルホン(PES:220℃)、ポリスルホン(PSF:190℃)、シクロオレフィンコポリマー(COC:特開2001−150584号公報の化合物:162℃)、フルオレン環変性ポリカーボネート(BCF−PC:特開2000−227603号公報の化合物:225℃)、脂環変性ポリカーボネート(IP−PC:特開2000−227603号公報の化合物:205℃)、アクリロイル化合物(特開2002−80616号公報の化合物:300℃以上)、ポリイミド等が挙げられ(括弧内はTgを示す)、これらは本願発明における基材として好適である。なかでも、特に透明性が求められる用途には、脂環式ポレオレフィンを使用することが好ましい。
【0058】
(2)透明導電層
本願発明の電極基板に付与する透明導電層の素材としては、導電性金属類(例、白金、金、銀、銅、アルミニウム、インジウム、チタン)、導電性炭素(カーボンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ)、導電性金属酸化物(例、酸化スズ、酸化亜鉛)または導電性複合金属酸化物(例、インジウム‐スズ酸化物、インジウム−亜鉛酸化物)がある。高い光学的透明性を有するという点で、導電性金属酸化物、導電性複合金属酸化物が好ましく、耐熱性と化学安定性に優れるという点で、インジウム‐スズ複合酸化物(ITO)やインジウム‐亜鉛酸化物(IZO)が特に好ましい。その素材においては、組成内容は他の素材との混合でもよく、また形態なども限定されるものではない。また導電性層の形成においても、その方法は限定されるものではなく、スパッタ法、蒸着法さらには分散物を塗布する方法などが選定できる。透明基板上に透明電極層を設けた電極基板の光透過率(測定波長:500nm)は、60%以上が好ましく、75%以上であることがさらに好ましく、80%以上が最も好ましく、特には85%以上が好ましい。前記電極基板の導電性と透明性は、透明導電層の形成方法を最適化することで、例えば、蒸着時間、分散液塗布量などを最適化することで、両立させることができる。
【0059】
本願発明においては、低い表面抵抗値を達成するために、導電層に金属を用いることができる。金属メッシュ構造からなる透明導電性層を形成することにより高い透明性も達成できる。低抵抗の金属材料(例、銅、銀、アルミニウム、白金、金、チタン、ニッケルなど)を用いて金属メッシュ構造からなる透明導電性層を形成することが好ましい。この場合には、導電層には集電のための補助リードをパターニングなどにより配置させることができる。補助リードも導電層と同様に低抵抗の金属材料(例、銅、銀、アルミニウム、白金、金、チタン、ニッケルなど)によって形成される。補助リードを含めた表面の抵抗値は本発明の目的に有ったものであれば特に限定されない。ここで補助リードのパターンは透明基板に蒸着、スパッタリングなどにより形成し、さらにその上に酸化スズ、ITO膜、IZO膜などからなる透明導電層を設けることも好ましい。
【0060】
[3]背面電極
背面電極は、導電性のある任意の材料を選択できる。金、例えば、銀、白金、銅、鉄、アルミニウムなどの金属、グラファイト、カーボンナノチューブ等の炭素材料、インジュウム錫酸化物(ITO)の導電性材料で被膜形成した透明電極、白金、アルミニウムを蒸着した電極基板がある。
【0061】
[4]絶縁層
(1)高誘電材料
本願発明の絶縁層は、誘電率と絶縁性が高く、かつ誘電破壊開電圧が高い材料(以下、「高誘電率材料」という。)であれば任意の材料を選択できる。これらは金属酸化物、窒化物から選択され、例えばTiO
2、BaTiO
3、SrTiO
3、PbTiO
3、KNbO
3、Ta
2O
5、BaTa
2O
6、LiTaO
3、Y
2O
3、Al
2O
3、ZrO
2、ZnSなどが用いられる。絶縁層の形態は、均一膜であっても、多孔質微粒子膜であってもよい。
【0062】
導電性電極基板上に絶縁層を形成するためには、高誘電率材料のペーストまたは分散液を導電性基板上に塗布し、加熱を行うことにより乾燥焼成して膜を形成する。溶媒としては、ブタノール等のアルコール類、ヘキサン、トルエン等の炭化水素類及びその混合物であって、乾燥速度の観点から沸点が100℃前後のものが好ましい。 ペーストまたは分散液には、分散安定化剤、粘度調整剤、被膜形成促進剤として、以下に述べる分散剤、バインダーも併用される。また、塗布方法としては、グラビア塗布法、バー塗布法、印刷法、スプレー法、スピンコーティング法、ディップ法、ダイコート法等が挙げられる。
【0063】
(2)分散剤
高誘電材料は、界面活性剤等の分散剤、分散媒を含有させて用いられる。本願発明でいう分散剤は、分散媒中における高誘電材料の分散性を向上させる機能を有する剤をいう。分散剤を用いることで、分散媒中で安定に分散した分散域が得られる。通常、バインダー材料として分類されるような高分子なども高誘電材料の分散能があれば分散剤として含む。
【0064】
上記分散剤として用いることができる界面活性剤としては、イオン性界面活性剤のものと非イオン性界面活性剤のものに分けられるが、本発明ではいずれの界面活性剤を用いることも可能である。イオン性界面活性剤としては、例えば以下のような界面活性剤があげられる。かかる界面活性剤は単独でもしくは2種以上を混合して用いることができる。
【0065】
イオン性界面活性剤は、陽イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤および陰イオン性界面活性剤にわけられる。陽イオン性界面活性剤としては、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩などがあげられる。両イオン性界面活性剤としては、アルキルベタイン系界面活性剤、アミンオキサイド系界面活性剤がある。陰イオン性界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸塩等の芳香族スルホン酸系界面活性剤、モノソープ系アニオン性界面活性剤、エーテルサルフェート系界面活性剤、フォスフェート系界面活性剤、カルボン酸系界面活性剤であり、中でも、分散能、分散安定能、高濃度化に優れることから、芳香環を含むもの、すなわち芳香族系イオン性界面活性剤が好ましく、特にアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルフェニルエーテルスルホン塩等の芳香族スルホン酸系界面活性剤等の芳香族系イオン性界面活性剤が好ましい。
【0066】
非イオン性界面活性剤としては、例えば以下のような界面活性剤をあげられる。かかる界面活性剤は単独でもしくは2種以上を混合して用いることができる。
【0067】
非イオン性界面活性剤の例としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの糖エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレン樹脂酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸ジエチルなどの脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリプロピレングリコールなどのエーテル系界面活性剤、ポリオキシアルキレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルジブチルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルベンジルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルビスフェニルエーテル、ポリオキシアルキルクミルフェニルエーテル等の芳香族系非イオン性界面活性剤があげられる。中でも、分散能、分散安定能、高濃度化に優れることから、芳香族系非イオン性界面活性剤が好ましく、中でもポリオキシエチレンフェニルエーテルが好ましい。
【0068】
界面活性剤以外にも各種高分子材料も分散剤として用いることができる。例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリスチレンスルホン酸アンモニウム塩、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩等の水溶性ポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(Na−CMC)、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アミロース、シクロアミロース、キトサン等の糖類ポリマー、
ポリチオフェン、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリイソチアナフテン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン等の導電性ポリマーおよびそれらの誘導体が使用できる。
【0069】
(3)バインダー
バインダーとしては、導電性塗料に使用されている各種の有機および無機バインダー、すなわち透明な有機または無機ポリマーまたはその前駆体が使用できる。
【0070】
有機バインダーは熱可塑性、熱硬化性、あるいは紫外線、電子線などの放射線硬化性のいずれであってもよい。適当な有機バインダーの例としては、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリアミド系(ナイロン6、ナイロン11、ナイロン66、ナイロン6、10等)、ポリエステル系(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、シリコーン系ポリマー、ビニル系樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリスチレン誘導体、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール等)、ポリケトン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリアセタール、フッ素樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラニン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、セルロース系ポリマー、蛋白質類(ゼラチン、カゼイン等)、キチン、ポリペプチド、多糖類、ポリヌクレオチドなど有機ポリマー、ならびこれらのポリマーの前駆体(モノマー、オリゴマー)がある。これらは単に溶剤の蒸発により、あるいは熱硬化または光もしくは放射線照射による硬化により有機ポリマー系透明被膜(マトリックス)を形成することができる。
【0071】
有機ポリマー系バインダーとして好ましいのは、放射線もしくは光によりラジカル重合硬化可能な不飽和結合を有する化合物であり、これはビニル基ないしビニリデン基を有するモノマー、オリゴマー、あるいはポリマーである。この種のモノマーとしてはスチレン誘導体(スチレン、メチルスチレン等)、アクリル酸もしくはメタクリル酸またはそれらの誘導体(アルキルアクリートもしくはメタクリレート、アリルアクリレートもしくはメタクリレート等)、酢酸ビニル、アクリロニトリル、イタコン酸等がある。オリゴマーあるいはポリマーは、主鎖に二重結合を有する化合物または直鎖の両末端にアクリロイルもしくはメタクリロイル基を有する化合物が好ましい。この種のラジカル重合硬化性バインダーは、高硬度で耐擦過性に優れ、透明度の高い導電フィルム膜を形成することができる。
【0072】
無機ポリマー系バインダーの例としては、シリカ、酸化錫、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム等の金属酸化物のゾル、あるいは無機ポリマーの前駆体となる加水分解または熱分解性の有機リン化合物および有機ボロン化合物、ならびに有機シラン化合物、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機鉛化合物、有機アルカリ土類金属化合物などの有機金属化合物がある。加水分解性または熱分解性の有機金属化合物の具体的例は、アルコキシドまたはその部分加水分解物、酢酸塩などの低級カルボン酸塩、アセチルアセトンなどの金属錯体である。
【0073】
これらの1種もしくは2種以上の無機ポリマー系バインダーを焼成すると、酸化物または複合酸化物からなるガラス質の無機ポリマー系透明被膜(マトリックス)を形成することができる。無機ポリマー系マトリックスは、一般にガラス質であり、高硬度で耐擦過性に優れ、透明性も高い。
【実施例】
【0074】
次に本願発明を実施するための形態を実施例として、以下に示す。
【0075】
<実施例1>
(1)有機無機混成ペロブスカイト化合物A−1〔CH
3NH
3PbBr
3〕の合成と溶液調製
三口フラスコ内に、メチルアミン〔CH
3NH
2〕1gと脱水メタノール〔CH
3OH〕100mlを入れ、窒素バブリングを行いながら臭化水素酸〔HBr〕を加えてpHを3〜4程度に調整した後、マグネッチックスターラーにより1時間撹拌した。この溶液をエバポレーターで蒸留した後、40℃で乾燥し、再精製することにより臭化メチルアミン〔CH
3NH
3Br〕を合成した。次に合成した臭化メチルアミン〔CH
3NH
3Br〕と臭化鉛〔PbBr
2〕をモル比1:1の割合で、
ジメチルホルムアミド〔(CH
3)
2NCHO〕に10重量%濃度となるように混合して溶解し、有機無機混成ペロブスカイト化合物A−1〔CH
3NH
3PbBr
3〕の
ジメチルホルムアミド〔(CH
3)
2NCHO〕溶液を調製した。
【0076】
(2)絶縁性多孔質微粒子膜の形成
酸化アルミニウム(和光純薬工業製,粒径:40〜50nm,体積抵抗率:>10
15Ω・cm)2.5gを、ポリエチレングリコール(分子量約20000)2gを溶解したエタノール溶液20mlに添加撹拌して、酸化アルミニウムの低粘性分散液を調製した。前記酸化アルミニウムの低粘性分散液をスピンコート法により5000rpmの回転速度でITO膜を付けたガラス基板上に成膜し、500℃で30分加熱乾燥させることにより膜厚約1μmの絶縁性多孔質微粒子膜を形成した。
【0077】
(3)分散型無機EL素子の作製
前記有機無機混成ペロブスカイト化合物A−1〔CH
3NH
3PbBr
3〕の
ジメチルホルムアミド〔(CH
3)
2NCHO〕溶液を0.2μmフィルター付きのシリンジで前記絶縁性多孔質微粒子膜上に所定量滴下し、レべリングを確認した後に、60度の熱風循環式オーブン中で10分間加熱乾燥して発光層を作製した。次に、陰極であるアルミニウム基板を発光層に重ね合わせることにより、分散型無機EL素子を作製した。
【0078】
(4)分散型無機EL素子の評価
このようにして作製した分散型無機EL素子に100V、400Hzの交流電圧を印加したところ、有機無機混成ペロブスカイト化合物A−1〔CH
3NH
3PbBr
3〕に由来する緑色発光が得られた。
【0079】
<実施例2>
(1)有機無機ペロブスカイト化合物A−2〔CH
3NH
3SnBr
3〕の合成と溶液調製
三口フラスコ内に、メチルアミン〔CH
3NH
2〕1gとメタノール〔CH
3OH〕100mlを入れ、窒素バブリングを行いながら臭化水素酸〔HBr〕を加えてpHを3〜4程度に調整した後、マグネッチックスターラーにより1時間撹拌した。この溶液をエバポレーターで蒸留した後、40℃で乾燥し、再精製することにより臭化メチルアミン〔CH
3NH
3Br〕を合成した。次に合成した臭化メチルアミン〔CH
3NH
3Br〕と臭化錫(SnBr
2)をモル比1:1の割合で、アセトニトリル〔CH
3CN〕に10重量%濃度となるように溶解し、有機無機混成ペロブスカイト化合物A−2〔CH
3NH
3SnBr
3〕のアセトニトリル〔CH
3CN〕溶液を調製した。
【0080】
(2)絶縁性多孔質微粒子膜の形成
酸化アルミニウム(和光純薬工業製,粒径:40〜50nm,体積抵抗率:>10
15Ω・cm)2.5gを、ポリエチレングリコール(分子量約20000)2gを溶解したエタノール溶液20mlに添加撹拌して、酸化アルミニウムの低粘性分散液を調製した。前記酸化アルミニウムの低粘性分散液をスピンコート法により5000rpmの回転速度でITO膜を付けたガラス基板上に成膜し、500℃で30分加熱乾燥させることにより膜厚約1μmの絶縁性多孔質微粒子膜を形成した。
【0081】
(3)分散型無機EL素子の作製
前記有機無機混成ペロブスカイト化合物A−2〔CH
3NH
3SnBr
3〕のアセトニトリル〔CH
3CN〕溶液を0.2μmフィルター付きのシリンジで前記絶縁性多孔質微粒子膜上に所定量滴下し、レべリングを確認した後に、60度の熱風循環式オーブン中で10分間加熱乾燥して発光層を作製した。次に、陰極であるアルミニウム基板を発光層に重ね合わせることにより、分散型無機EL素子を作製した。
【0082】
(4)分散型無機EL素子の評価
このようにして作製した分散型無機EL素子に100V、400Hzの交流電圧を印加したところ、有機無機混成ペロブスカイト化合物A−2〔CH
3NH
3SnBr
3〕に由来する赤色発光が得られた。
【0083】
<実施例3>
(1)有機無機ペロブスカイト化合物A−3〔[C
6H
11(CH
3)NH
2]
2PbBr
4〕の合成と溶液調製
三口フラスコ内に、光活性アミン〔C
6H
11(CH
3)NH
2〕1mlと脱水メタノール〔CH
3OH〕100mlを入れ、窒素バブリングを行いながら臭化水素酸〔HBr〕を加えてpHを4〜5程度に調製した後、マグネッチックスターラーにより1時間撹拌した。この溶液をエバポレーターで蒸留した後、40℃で乾燥し、再精製することにより光活性アミンの臭化物〔C
6H
11(CH
3)NH
3Br〕を合成した。次に合成した光活性アミンの臭化物〔C
6H
11(CH
3)NH
3Br〕と臭化鉛〔PbBr
2〕をモル比
2:1の割合で、テトラヒドロフラン〔C
4H
8O〕に5重量%濃度となるように溶解し、有機無機混成ペロブスカイト化合物A−3〔[C
6H
11(CH
3)NH
2]
2PbBr
4〕のテトラヒドロフラン〔C
4H
8O〕溶液を調製した。
【0084】
(2)絶縁性多孔質微粒子膜の形成
酸化アルミニウム(和光純薬工業製,粒径:40〜50nm,体積抵抗率:>10
15Ω・cm)2.5gを、ポリエチレングリコール(分子量約20000)2gを溶解したエタノール溶液20mlに添加撹拌して、酸化アルミニウムの低粘性分散液を調製した。前記酸化アルミニウムの低粘性分散液をスピンコート法により5000rpmの回転速度でITO膜を付けたガラス基板上に成膜し、500℃で30分加熱乾燥させることにより膜厚約1μmの絶縁性多孔質微粒子膜を形成した。
【0085】
(3)分散型無機EL素子の作製
前記有機無機混成ペロブスカイト化合物A−3[〔C
6H
11(CH
3)NH
2〕
2PbBr
4]のテトラヒドロフラン〔C
4H
8O〕溶液を0.2μmフィルター付きのシリンジで前記絶縁性多孔質微粒子膜上に所定量滴下し、レべリングを確認した後に、60度の熱風循環式オーブン中で10分間加熱乾燥して発光層を作製した。次に、陰極であるアルミニウム基板を発光層に重ね合わせることにより、分散型無機EL素子を作製した。
【0086】
(4)分散型無機EL素子の評価
このようにして作製した分散型無機EL素子に100V、400Hzの交流電圧を印加したところ、有機無機混成ペロブスカイト化合物A−3〔[C
6H
11(CH
3)NH
2]
2PbBr
4〕に由来する青色発光が得られた。
【0087】
<実施例4>
(1)無機ペロブスカイト化合物B〔CsSnI
3〕の合成
ヨウ化セシウム〔CsI〕と
ヨウ化錫(SnI2)をモル比1:1の割合で、
ジメチルホルムアミド〔(CH
3)
2NCHO〕に10重量%濃度となるように溶解し、無機ペロブスカイト化合物B
〔CsSnI3〕の
ジメチルホルムアミド〔(CH
3)
2NCHO〕溶液を調製した。
【0088】
(2)絶縁性多孔質微粒子膜の形成
酸化アルミニウム(和光純薬工業製,粒径:40〜50nm,体積抵抗率:>10
15Ω・cm)2.5gを、ポリエチレングリコール(分子量約20000)2gを溶解したエタノール溶液20mlに添加撹拌して、酸化アルミニウムの低粘性分散液を調製した。前記酸化アルミニウムの低粘性分散液をスピンコート法により5000rpmの回転速度でITO膜を付けたガラス基板上に成膜し、500℃で30分加熱乾燥させることにより膜厚約1μmの絶縁性多孔質微粒子膜を形成した。
【0089】
(3)分散型無機EL素子の作製
前記無機ペロブスカイト化合物B〔CsSnBr
3〕の
ジメチルホルムアミド〔(CH
3)
2NCHO〕溶液を0.2μmフィルター付きのシリンジで前記絶縁性多孔質微粒子膜上に所定量滴下し、レべリングを確認した後に、60度の熱風循環式オーブン中で10分間加熱乾燥して発光層を作製した。次に、陰極であるアルミニウム基板を発光層に重ね合わせることにより、分散型無機EL素子を作製した。
【0090】
(4)分散型無機EL素子の評価
このようにして作製した分散型無機EL素子に100V、400Hzの交流電圧を印加したところ、無機ペロブスカイト化合物B〔CsSnBr
3〕に由来する弱い赤色発光が得られた。
【0091】
<実施例5>
(1)絶縁層つきガラス基板の作製
ITO膜を付けたガラス基板上に、100メッシュスクリーンを用いてチタン酸バリウムペースト(デュポン製7153)をスクリーン印刷し、120℃、30分間乾燥して絶縁層(厚さ15μm)を形成した。
【0092】
(2)絶縁性多孔質微粒子膜の形成
酸化アルミニウム(和光純薬工業製,粒径:40〜50nm,体積抵抗率:>10
15Ω・cm)2.5gを、ポリエチレングリコール(分子量約20000)2gを溶解したエタノール溶液20mlに添加撹拌して、酸化アルミニウムの低粘性分散液を調製した。前記酸化アルミニウムの低粘性分散液をスピンコート法により5000rpmの回転速度で、前記絶縁層を形成したITO膜を付けたガラス基板上に成膜し、500℃で30分加熱乾燥させることにより膜厚約1μmの絶縁性多孔質微粒子膜を形成した。
【0093】
(3)分散型無機EL素子の作製
実施例1において用いた有機無機混成ペロブスカイト化合物A−1〔CH
3NH
3PbBr
3〕の
ジメチルホルムアミド〔(CH
3)
2NCHO〕溶液を0.2μmフィルター付きのシリンジで前記絶縁性多孔質微粒子膜上に所定量滴下し、レべリングを確認した後に、60度の熱風循環式オーブン中で10分間加熱乾燥して発光層を作製した。次に、陰極であるアルミニウム基板を発光層に重ね合わせることにより、分散型無機EL素子を作製した。
【0094】
(4)分散型無機EL素子の評価
このようにして作製した分散型無機EL素子に100V、400Hzの交流電圧を印加したところ、有機無機混成ペロブスカイト化合物A−1〔CH
3NH
3PbBr
3〕に由来する強い緑色発光が得られた。これは、実施例1の場合に発光強度が強く、絶縁層があることで発光強度が増加することがわかる。
【0095】
<実施例6>
(1)多層分散型無機EL素子の作製
酸化アルミニウム(和光純薬工業製,粒径:40〜50nm,体積抵抗率:>10
15Ω・cm)2.5gを、ポリエチレングリコール(分子量約20000)2gを溶解したエタノール溶液20mlに添加撹拌して、酸化アルミニウムの低粘性分散液を調製した。前記酸化アルミニウムの低粘性分散液をスピンコート法により5000rpmの回転速度で、前記絶縁層を形成したITO膜を付けたガラス基板上に成膜し、500℃で30分加熱乾燥させることにより膜厚約1μmの絶縁性多孔質微粒子膜(第1絶縁性多孔膜)を形成した。前記第1絶縁性多孔膜上に、実施例3で用いた有機無機混成ペロブスカイト化合物A−3〔[C
6H
11(CH
3)NH
2]
2PbBr
4〕のテトラヒドロフラン〔C
4H
8O〕溶液を0.2μmフィルター付きのシリンジで所定量滴下し、レべリングを確認した後に、60度の熱風循環式オーブン中で10分間加熱乾燥して発光層(第1発光層、青色発光)を作製した。
【0096】
次に、発光層(第1発光層、青色発光)上に、上述のように膜厚約1μmの絶縁性多孔質微粒子膜(第2絶縁性多孔膜)を形成した。前記第2絶縁性多孔膜上に、実施例1で用いた有機無機混成ペロブスカイト化合物A−1〔CH
3NH
3PbBr
3〕の
ジメチルホルムアミド〔(CH
3)
2NCHO〕溶液を0.2μmフィルター付きのシリンジで所定量滴下し、レべリングを確認した後に、60度の熱風循環式オーブン中で10分間加熱乾燥して発光層(第2発光層、緑色発光)を作製した。
【0097】
さらに、発光層(第2発光層、緑色発光)上に、上述のように膜厚約1μmの絶縁性多孔質微粒子膜(第3絶縁性多孔膜)を形成した。前記第3絶縁性多孔膜上に、実施例2で用いた有機無機混成ペロブスカイト化合物A−2〔CH
3NH
3SnBr
3〕のアセトニトリル〔CH
3CN〕溶液を0.2μmフィルター付きのシリンジで所定量滴下し、レべリングを確認した後に、60度の熱風循環式オーブン中で10分間加熱乾燥して発光層(第3発光層、赤色発光)を作製した。陰極であるアルミニウム基板を発光層3に密着して重ね合わせることにより、多層分散型無機EL素子を作製した。
【0098】
(4)分散型無機EL素子の評価
このようにして作製した多層分散型無機EL素子に100V、400Hzの交流電圧を印加したところ、白色発光が得られた。各発光層の青色、緑色、赤色が合成されて白色光になったと思われる。
【0099】
<比較例1>
酸化チタン(昭和電工製,粒径:25〜35nm,体積抵抗率:10
-1Ω・cm)を多孔質微粒子膜形成素材として用いた他は、実施例1と同様にして、分散型無機EL素子を作製し、100V、400Hzの交流電圧を印加したところ、全く発光現象が見られなかった。多孔質微粒子膜形成素材の絶縁性(体積低効率)の大きさが発光現象の有無に関連している。