特許第6103223号(P6103223)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6103223
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】蓄電装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/06 20060101AFI20170316BHJP
   H01M 2/04 20060101ALI20170316BHJP
   H01M 2/08 20060101ALI20170316BHJP
   H01M 2/30 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
   H01M2/06 A
   H01M2/04 A
   H01M2/08 A
   H01M2/30 Z
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-146620(P2013-146620)
(22)【出願日】2013年7月12日
(65)【公開番号】特開2015-18757(P2015-18757A)
(43)【公開日】2015年1月29日
【審査請求日】2016年1月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小島 昌人
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 雅巳
(72)【発明者】
【氏名】木下 恭一
【審査官】 浅野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−138634(JP,A)
【文献】 特開2011−070824(JP,A)
【文献】 特開2009−289617(JP,A)
【文献】 特開2002−231192(JP,A)
【文献】 特開2010−007103(JP,A)
【文献】 特開2000−106152(JP,A)
【文献】 特開2013−175516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/02〜2/08
H01M 2/20〜2/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極組立体を挿入可能な開口部を有するケース本体と、前記開口部を塞ぐ蓋体とで構成されたケース内に、前記電極組立体が収容されるとともに前記蓋体が前記開口部を塞ぐ状態で前記ケース本体に溶接された蓄電装置であって、
前記ケース本体及び前記蓋体はアルミニウム又はアルミニウム合金製であり、
前記蓋体は、貫通部材が貫通する孔を有し、
前記蓋体は、前記蓋体に当接するシール部材により前記貫通部材との間がシールされており、
前記貫通部材は、前記シール部材が軸方向に圧縮された状態で前記蓋体に固定されており、
前記蓋体の前記シール部材と当接する部分には、熱伝導率が150W/(m・K)以上のセラミック層が形成されていることを特徴とする蓄電装置。
【請求項2】
前記蓋体は、前記蓋体に当接する絶縁部材により前記貫通部材との間が絶縁されており、前記蓋体の前記絶縁部材と当接する部分には、熱伝導率が150W/(m・K)以上のセラミック層が形成されている請求項1に記載の蓄電装置。
【請求項3】
前記セラミック層は、前記孔の内周面にも形成されている請求項1又は請求項2に記載の蓄電装置。
【請求項4】
前記セラミック層は、窒化アルミニウムを主成分とした窒化物層である請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の蓄電装置。
【請求項5】
前記窒化物層は、窒化処理により形成されたものである請求項4に記載の蓄電装置。
【請求項6】
前記蓄電装置は二次電池である請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の蓄電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電装置に係り、詳しくは、ケースの蓋体に設けられた孔を貫通する貫通部材がシール部材を介して、かつシール部材が軸方向に圧縮された状態で蓋体に固定された密閉構造の蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
EV(Electric Vehicle)やPHV(Plug-in Hybrid Vehicle)などの車両には、走行用モータへの供給電力を蓄える蓄電装置としての二次電池が搭載されている。二次電池として、電極組立体をケース本体と蓋体を溶接して形成されたケース内に収容して構成されたものがある。また、ケース本体内に収容された電極組立体には、電極端子が電気的に接続されている。電極端子は、蓋体の孔を貫通して、かつ蓋体との電気的絶縁性が確保された状態でケース本体の内部から外部に突出している。
【0003】
特許文献1には、蓋体に対する電極端子の取り付け構造として、次の構成が開示されている。図6に示すように、電極端子としての正極端子60は、図示しない電極組立体の正極と接続される内部端子61と、蓋体70の孔70aから外部に突出して外部機器と接続される円柱状の外部端子63と、内部端子61が電池内部側の面に固定される一方、外部端子63が電池外部側の面に固定される接続板62とを有する。この接続板62と蓋体70との間には絶縁体72が介在されるとともに、この絶縁体72には外部端子63が挿通される挿通孔72aが形成されている。そして、蓋体70の内面と絶縁体72との間にシール部材73を、絶縁体72と接続板62との間にシール部材74を配置した状態で、絶縁部材75とワッシャ76とを介して、ナット77が外部端子63に螺着されている。負極端子も同様の構成で蓋体70に固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−87613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、蓄電装置の軽量化を図るため、ケースをアルミニウム系金属製とした場合、シール部材によるシール性を高めるために、シール部材を強い軸力で締め付けると、純アルミ系の柔らかいA1010などで製造された蓋体の当接面が変形し、シール性能が低下してしまう場合がある。また、蓄電装置が車両に搭載された状態で車両が走行する際に発生する振動で、圧縮された状態のシール部材と当接する蓋体の接触面が摩耗して、シール性能が低下してしまう。
【0006】
本発明は、前記の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、ケースをアルミニウム系金属製とした場合、貫通部材が蓋体に形成された孔を貫通した状態でシール部材を介して蓋体に固定された蓄電装置が長期間振動を受けても、ケースの密閉性を確保することができる蓄電装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する蓄電装置は、電極組立体を挿入可能な開口部を有するケース本体と、前記開口部を塞ぐ蓋体とで構成されたケース内に、前記電極組立体が収容されるとともに前記蓋体が前記開口部を塞ぐ状態で前記ケース本体に溶接された蓄電装置であって、前記ケース本体及び前記蓋体はアルミニウム又はアルミニウム合金製であり、前記蓋体は、貫通部材が貫通する孔を有し、前記蓋体は、前記蓋体に当接するシール部材により前記貫通部材との間がシールされており、前記貫通部材は、前記シール部材が軸方向に圧縮された状態で前記蓋体に固定されており、前記蓋体の前記シール部材と当接する部分には、熱伝導率が150W/(m・K)以上のセラミック層が形成されている。ここで、「軸方向」とは、貫通部材が蓋体を貫通する方向を意味する。
【0008】
この構成によれば、貫通部材を固定するため蓋体に形成された孔を介してケース内部とケース外部との気密性を確保するシール部材と、アルミニウム又はアルミニウム合金製の蓋体との当接部に熱伝導率が150W/(m・K)以上のセラミック層が形成されている。セラミックのビッカース硬度は、アルミニウム又はアルミニウム合金のそれより二桁大きいため、蓄電装置の振動により蓋体とシール部材との接触面が相対移動することによる蓋体の摩耗が抑制される。また、セラミックのヤング率は、アルミニウムのそれより数倍程度大きいため、シール部材を強い軸力で締め付けた場合における蓋体のシール部材との接触面の変形が抑制される。その結果、シール部材のシール性能の悪化が抑制防止される。また、セラミック層の熱伝導率が小さいと、蓋体とケース本体とを溶接する際、セラミック層に比べて線膨張係数の大きなアルミニウム又はアルミニウム合金製の蓋体の熱分布が生じることで熱応力分布ができ、蓋体が歪むことによりシール性が悪くなる。しかし、セラミック層は、熱伝導率が150W/(m・K)以上あるため、蓋体とケース本体とを溶接する際、アルミニウム又はアルミニウム合金製の蓋体の熱応力分布に起因して蓋体が歪むことは抑制され、蓋体の歪みによるシール性の悪化が防止される。したがって、ケースをアルミニウム又はアルミニウム合金製とした場合、貫通部材が蓋体に形成された孔を貫通した状態でシール部材を介して蓋体に固定された蓄電装置が長期間振動を受けても、ケースの密閉性を確保することができる。
【0009】
前記蓋体は、前記蓋体に当接する絶縁部材により前記貫通部材との間が絶縁されており、前記蓋体の前記絶縁部材と当接する部分には、熱伝導率が150W/(m・K)以上のセラミック層が形成されていることが好ましい
【0010】
前記セラミック層は、前記孔の内周面にも形成されていることが好ましい。この構成によれば、貫通部材の位置決めを貫通部材が孔の内周面と当接することで行う構成としても支障がない。
【0011】
前記セラミック層は、窒化アルミニウムを主成分とした窒化物層であることが好ましい。この構成によれば、熱伝導率が150W/(m・K)以上のセラミック層の形成が、熱伝導率が150W/(m・K)以上の他のセラミック層を形成する場合に比べて容易になる。
【0012】
前記窒化物層は、窒化処理により形成されたものであることが好ましい。窒化物(窒化アルミニウム)の溶射で蓋体の表面に窒化物層を形成したものに比べ、窒化物層は、窒化処理により形成されたもの、即ちアルミニウム又はアルミニウム合金製の蓋体の表面を窒化させて窒化物層を形成したものであるため、蓋体に対するセラミック層の密着性が高い。
【0013】
前記蓄電装置は二次電池である。この構成によれば、二次電池は、前述の蓄電装置が有する効果と同様の効果を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ケースをアルミニウム又はアルミニウム合金製とした場合、貫通部材が蓋体に形成された孔を貫通した状態でシール部材を介して蓋体に固定された蓄電装置が長期間振動を受けても、ケースの密閉性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(a)は二次電池の模式断面図、(b)は正極端子の取り付け状態を示す断面図、(c)は(b)の一点鎖線で囲んだ部分の拡大図。
図2】(a)は電極端子等を取り付ける前の蓋体の平面図、(b)は(a)のA−A線断面図。
図3】二次電池モジュールの概略部分斜視図。
図4】別の実施形態の二次電池の断面図。
図5】別の実施形態の正極端子の取り付け状態を示す断面図。
図6】従来技術の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、二次電池に具体化した一実施形態を図1図3にしたがって説明する。
図1(a)に示すように、蓄電装置としての二次電池10は、ケース11に積層型の電極組立体12が収容されている。また、ケース11には、電解液(図示せず)も収容されている。ケース11は、有底四角筒状のケース本体13と、ケース本体13に電極組立体12を挿入可能な開口部13aを閉塞する蓋体14とからなる。蓋体14のケース本体13と対向する面の周縁には段差部14aが形成され、蓋体14とケース本体13との溶接箇所がケース11の周面となるように蓋体14がケース本体13と嵌合した状態で、ケース本体13と蓋体14とは溶接によって接合されている。この実施形態の二次電池10は、リチウムイオン二次電池である。ケース本体13及び蓋体14は、アルミニウム系金属製である。アルミニウム系金属とは、アルミニウム又はアルミニウム合金を意味する。アルミニウム合金とは、例えば、アルミニウムを主成分とし、銅、マンガン、亜鉛、シリコン、マグネシウムなどが添加されたものを含み、熱処理型合金も含む。
【0017】
蓋体14には、貫通部材としての電極端子、即ち正極端子15及び負極端子16が固定されている。正極端子15及び負極端子16は、雄ねじ部15a,16a及び鍔部15b,16bを有する。正極端子15及び負極端子16は、蓋体14に形成された電極端子取り付け孔14b(図1(b),(c)及び図2(b)に図示)を、鍔部15b,16bがケース11の内側に位置する状態で、蓋体14を貫通した雄ねじ部15a,16aに螺合するナット17により、蓋体14に締め付け固定されている。正極端子15及び負極端子16は、複数の二次電池10を電気的に接続するバスバー18をボルト19により締め付け固定可能に構成されている。
【0018】
詳述すると、図1(b)に示すように、正極端子15にはその上端(ケース11からの突出端)からねじ穴20が形成され、ねじ穴20に螺合されるボルト19によりバスバー18が正極端子15に締結固定されるようになっている。なお、ナット17と蓋体14との間には絶縁部材21が設けられている。また、正極端子15の鍔部15bと蓋体14との間にはシール部材22が介在する。図示しないが、負極端子16にも同様にねじ穴が形成され、そのねじ穴に螺合されるボルト19によりバスバー18が負極端子16に締結固定されるようになっている。また、負極端子16においてもナット17と蓋体14との間には絶縁部材が設けられ、鍔部16bと蓋体14との間にシール部材22が介在する。即ち、電極端子は、蓋体14に形成された電極端子取り付け孔14bを貫通した状態で、かつ蓋体14の内面と対向する対向面である鍔部15b,16bとの間にシール部材22が配置され、かつシール部材が圧縮された状態で蓋体14に取り付けられている。シール部材22としてOーリングが使用されている。
【0019】
図1(a)に示すように、正極端子15は鍔部15bに接合された導電部材23を介して電極組立体12の正極タブ12pに電気的に接続されている。負極端子16は鍔部16bに接合された導電部材24を介して電極組立体12の負極タブ12nに電気的に接続されている。
【0020】
次に蓋体について詳述する。
図1(a)に示すように、蓋体14には、ケース11内に電解液を注入するための注液孔25が設けられており、注液孔25は封止部材26により閉塞されている。封止部材26はアルミニウム系金属製で、蓋体14に溶接されている。
【0021】
蓋体14には、ケース11内の圧力が設定された圧力に上昇したときに開放する安全弁27が設けられている。安全弁27はアルミニウム系金属製で、蓋体14に形成された安全弁取り付け孔28内に収容されて蓋体14に溶接されている。
【0022】
図2(a),(b)に示すように、蓋体14は、1個の注液孔25と、1個の安全弁取り付け孔28と、2個の電極端子取り付け孔14bとを有する。電極端子取り付け孔14bは蓋体14の長手方向端部寄りに設けられ、安全弁取り付け孔28は蓋体14の中央に設けられている。注液孔25は安全弁取り付け孔28と一方の電極端子取り付け孔14bとの中間に設けられている。
【0023】
図2(a),(b)に示すように、蓋体14には、少なくともシール部材22と当接する部分に、熱伝導率が150W/(m・K)以上のセラミック層としての窒化物層30が形成されている。窒化物層30は、電極端子取り付け孔14bの内周面及び電極端子取り付け孔14bの周縁に形成されている。この実施形態では窒化物層30として窒化アルミニウム(AlN)を主成分とした窒化物層30が形成されている。窒化物層30は、厚さが5μm程度である。窒化物層30は、バレル窒化法により形成されたものである。窒化物層30は、窒化アルミニウム(AlN)のみから構成されているのではなく、バレル窒化法で使用された充填粉末の材質(例えば、アルミナやマグネシウム等)も含まれている。
【0024】
次に、蓋体14に窒化物層30を形成する方法を説明する。窒化物層30の形成は、バレル窒化法により行われる。バレル窒化法として、例えば、特開2012−1788号公報に開示されている方法と基本的に同様な方法が使用される。具体的には、側方から見て正八角形のバレル容器内に、アルミニウム系金属製の蓋体14と、研磨剤としてのアルミナ粉末と、活性化粉末としてのマグネシウム粉末とを充填粉末として入れた状態で、容器内を窒素ガス雰囲気とし、ヒータで容器内を所定の窒化温度まで加熱する。窒化温度は、通常600℃程度である。その状態で容器を揺動あるいは回転させる。
【0025】
蓋体14の電極端子取り付け孔14bの内面及び周縁のみに窒化物層30を形成するため、蓋体14の窒化物層30を形成すべき以外の部分にマスキング材を取り付けた状態で窒化処理を行う。マスキング材としては、例えば、塗布式のガス浸炭防止剤、ガス窒化防止剤を用いることができる。また、例えば、酸化硼素にポリエチレン等の熱可塑性樹脂、シリカ、アルミナ等の無機添加材を混練分散した粉体をレーザー照射、高周波加熱等により所望の部分のみに熱融着することでマスキング材を設けることができる。バレル容器内が窒素雰囲気下で窒化温度に加熱された状態で、バレル容器が揺動あるいは回転されることにより、蓋体14のマスキング材が取り付けられた部分以外の部分、即ち蓋体14の電極端子取り付け孔14bの内面及び周縁のみに窒化物層30が形成される。窒化物層30が形成された後、マスキング材が除去される。マスキング材の除去は、蓋体14をケース本体13に溶接するための溶接代を設けるためであり、少なくとも溶接代となる蓋体14の周縁部のマスキング材料を除去すればよく、必ずしも、全てのマスキング材料を除去する必要はない。この実施形態ではマスキング材が全て除去された蓋体14として図示している。
【0026】
次に前記のように構成された二次電池10の作用を説明する。
二次電池10は、ケース本体13内に電極組立体12が収容された後、蓋体14がケース本体13の開口部13aを覆う状態で、ケース本体13に対して溶接により気密状態に接合される。蓋体14の電極端子取り付け孔14bの内面及び周縁に、アルミナ層のように熱伝導率が低い(23W/(m・K))セラミック層が形成されている場合は、溶接のため、蓋体14の周縁である溶接箇所が加熱された際、線膨張係数の大きなアルミニウム系金属製の蓋体14の熱分布が生じることで熱応力分布ができる。その結果、蓋体14が歪み、蓋体14の歪みによりシール性が悪化する。しかし、窒化物層30のように熱伝導率が150W/(m・K)以上と高いセラミック層の場合は、蓋体14に熱応力分布ができず、蓋体14が歪まないため支障は無い。
【0027】
蓋体14とシール部材22との間のシール性を高めるため、ナット17の締め付け力を大きくすると、即ち強い軸力で締め付けると、窒化物層30が形成されていない場合は、アルミニウム系金属製の蓋体14の絶縁部材21やシール部材22との当接面が変形し、シール性能が低下してしまう場合がある。また、二次電池10が車両に搭載された状態で車両が走行する際に発生する振動で、圧縮された状態のシール部材22と当接する蓋体14の接触面が摩耗して、シール性能が低下してしまう。特にフォークリフト等の産業車両では、乗用車に比べて振動が激しいため、摩耗が生じ易い。
【0028】
しかし、蓋体14には、絶縁部材21やシール部材22と対向する位置に窒化物層30が形成されているため、強い軸力で締め付けても、アルミニウム系金属製の蓋体14の絶縁部材21やシール部材22との当接面の変形が抑制防止される。また、圧縮された状態でケース11が長期間振動しても、蓋体14の摩耗が抑制され、シール部材22のシール性能の低下が抑制防止される。
【0029】
図3に示すように、二次電池10は、通常は複数の二次電池10がバスバー18を介して直列に接続された組電池を構成した状態で使用される。ボルト19によりバスバー18を正極端子15あるいは負極端子16に締め付け固定する場合、正極端子15あるいは負極端子16がシール部材22を蓋体14に押圧する力が強くなる。しかし、蓋体14の電極端子取り付け孔14bの周縁には窒化物層30が形成されているため、シール性能の低下が抑制防止される。
【0030】
この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)蓄電装置(二次電池10)は、電極組立体12を挿入可能な開口部13aを有するケース本体13と、開口部13aを塞ぐ蓋体14とで構成されたケース11内に、電極組立体12が収容されるとともに蓋体14が開口部13aを塞ぐ状態でケース本体13に溶接されている。そして、ケース本体13及び蓋体14はアルミニウム系金属製であり、蓋体14は、貫通部材としての正極端子15や負極端子16が貫通する孔(電極端子取り付け孔14b)を有し、貫通部材は、シール部材22を介して、かつシール部材22が軸方向(貫通部材が蓋体14を貫通する方向)に圧縮された状態で蓋体14に固定されている。電極端子取り付け孔14bの周りの少なくとも片面に熱伝導率が150W/(m・K)以上のセラミック層(窒化物層30)が形成されている。したがって、ケース11をアルミニウム系金属製とした場合、貫通部材(正極端子15及び負極端子16)が蓋体14に形成された孔(電極端子取り付け孔14b)を貫通した状態でシール部材22を介して蓋体14に固定された蓄電装置が長期間振動を受けても、ケース11の密閉性を確保することができる。また、金属製の蓋体14と電極端子(正極端子15及び負極端子16)とは絶縁部材21を介して電気的絶縁性を確保しているが、蓋体14に形成されたセラミック層(窒化物層30)の存在により、絶縁性が向上する。
【0031】
(2)セラミック層は、貫通部材あるいはシール部材22との接触面圧の大きな位置に形成されている。そのため、蓋体14の摩耗が効率良く抑制される。
(3)セラミック層は、電極端子取り付け孔14bの内周面にも形成されている。この構成によれば、貫通部材の位置決めを貫通部材が電極端子取り付け孔14bの内周面と当接することで行う構成としても支障がなく、貫通部材を所定の位置に固定する構成が簡単になる。
【0032】
(4)セラミック層は、窒化アルミニウムを主成分とした窒化物層30である。この構成によれば、熱伝導率が150W/(m・K)以上の他のセラミック層を形成する場合に比べて製造が容易になる。
【0033】
(5)窒化物層30は、窒化処理により形成されたものである。窒化物(窒化アルミニウム)の溶射で蓋体14の表面に窒化物層30を形成したものに比べ、窒化物層30は、窒化処理により形成されたもの、即ちアルミニウム系金属製の蓋体14の表面を窒化させて窒化物層30を形成したものであるため、蓋体14に対するセラミック層の密着性が高い。
【0034】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
図4に示すように、注液孔25を塞ぐ封止部材26として、蓋体14を貫通する貫通部材としてのブラインドリベット41を使用してもよい。ブラインドリベット41は、ケース11内への電解液の注入が行われた後、蓋体14に形成された孔としての注液孔25をスリーブ42が蓋体14の外面からケース11の内側へ貫通した状態で固定される。ブラインドリベット41は、フランジ43と蓋体14との間にシール部材としての樹脂製ワッシャ44が介装された気密状態で蓋体14に固定されている。蓋体14の表面には、注液孔25の周縁及び内周面にセラミック層として窒化物層30が形成されている。この実施形態では、注液孔25の封止部材26が蓋体に溶接されずに、ブラインドリベット41で塞がれている。しかし、蓋体14には、ブラインドリベット41や樹脂製ワッシャ44との当接面に窒化物層30が形成されているため、ブラインドリベット41が蓋体14に固定された状態で長期間振動を受けても、ケース11の密閉性を確保することができる。
【0035】
○ 蓋体14とケース本体13とは、蓋体14のケース本体13と対向する面の周縁に段差部14aが形成され、蓋体14とケース本体13との溶接箇所がケース11の周面となるように蓋体14がケース本体13と嵌合した状態で、互いに溶接により接合された構成に限らない。例えば、図4に示すように、蓋体14の周面がケース本体13の開口端部に嵌合する状態で、蓋体14とケース本体13とが溶接により接合された構成であってもよい。また、ケース本体13の開口端部の内側に段差部が形成され、蓋体14がその段差部に嵌合した状態で蓋体14とケース本体13とが溶接により接合された構成であってもよい。
【0036】
○ 貫通部材としての正極端子や負極端子を、蓋体14に対する電気的絶縁性を確保し、かつケースの気密性を確保した状態で固定する構成として、特許文献1と同様な構成を採用してもよい。正極端子を例にして説明すると、図5に示すように、正極端子51は、電極組立体の正極と接続される内部端子52と、蓋体14の電極端子取り付け孔14bから外部に突出する外部端子53と、内部端子52が電池内部側の面に固定される一方、外部端子53が電池外部側の面に固定される接続板54とを有する。この接続板54と蓋体14との間には絶縁体55が介在されるとともに、この絶縁体55には外部端子53が挿通される挿通孔55aが形成されている。そして、蓋体14の内面と絶縁体55との間にシール部材56を、絶縁体55と接続板54との間にシール部材57を配置した状態で、絶縁部材58と樹脂製ワッシャ59とを介して、ナット17が外部端子53に螺着されている。
【0037】
蓋体14のケース内面側に位置するように、蓋体14と正極端子51との間に絶縁体55を配置した場合、電極端子取り付け孔14bを介したケース内部からケース外部への漏れ経路は、絶縁体55の両面に存在するため、絶縁体55と蓋体14との間及び絶縁体55と正極端子51との間にそれぞれシール部材56,57が必要となる。負極端子も同様の構成で蓋体14に固定されている。蓋体14の表面には、電極端子取り付け孔14bの周縁及び内周面にセラミック層として窒化物層30が形成されている。この場合、複数の二次電池10を電気的に接続するバスバー18の正極端子51や負極端子への固定は、外部端子53に貫通された状態にバスバー18を配置して、外部端子53に螺合される図示しないナットで、バスバー18を締め付け固定する。そのため、正極端子15や負極端子16にねじ穴20を形成してそのねじ穴20に螺合するボルト19でバスバー18を締め付け固定する構成に比べて、正極端子51や負極端子の雄ねじ部を有する部分を細く形成することができる。
【0038】
○ 前記実施形態では、窒化物層30を形成する際に蓋体14に形成したマスキング材を窒化物層30形成後に全て除去したが、ケース本体13と溶接するための溶接代となる部分のマスキング材を除去して、その他の部分のマスキング材を残してもよい。
【0039】
○ セラミック層は、熱伝導率が150W/(m・K)以上であればよく、窒化物層30に限らず、他のセラミック層、例えば、炭化ケイ素(SiC)層であってもよい。
○ セラミック層は、蓋体14に固定される貫通部材が貫通する孔の周りの少なくとも片面に形成されていればよく、孔としての電極端子取り付け孔14bや注液孔25の内周面や孔の両端部周縁の全てに設ける必要はない。例えば、電極端子が電極端子取り付け孔14bの内周面と接触しない状態で電極端子取り付け孔14bを貫通して蓋体14に固定される構成の場合は、電極端子取り付け孔14bの内周面にセラミック層を形成しなくてもよい。
【0040】
○ 電極組立体12は積層型に限らず、巻回型であってもよい。
○ 二次電池10は電解液が必須ではなく、電解質として電解液を使用する構成であっても、電解液を使用せずに固体電解質や高分子電解質を使用する構成であってもよい。
【0041】
○ 蓄電装置が搭載される車両は、フォークリフトやショベルローダ等の産業車両に限らず、乗用車であってもよい。また、運転者を必要とする車両に限らず無人搬送車であってもよい。
【0042】
○ 蓄電装置は、二次電池10に限らず、例えば、電気二重層キャパシタやリチウムイオンキャパシタ等のようなキャパシタであってもよい。
【符号の説明】
【0043】
10…蓄電装置としての二次電池、11…ケース、12…電極組立体、13…ケース本体、13a…開口部、14…蓋体、14b…孔としての電極端子取り付け孔、15…貫通部材としての正極端子、16…貫通部材としての負極端子、22,56,57…シール部材、25…孔としての注液孔、30…セラミック層としての窒化物層、41…貫通部材としてのブラインドリベット。
図1
図2
図3
図4
図5
図6