(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6103249
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】電波吸収体及び電波暗室
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20170316BHJP
H01Q 17/00 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
H05K9/00 M
H01Q17/00
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-104635(P2014-104635)
(22)【出願日】2014年5月20日
(65)【公開番号】特開2015-220411(P2015-220411A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2015年3月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079290
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100136375
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 弘実
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 寿文
(72)【発明者】
【氏名】平井 義人
(72)【発明者】
【氏名】栗原 弘
(72)【発明者】
【氏名】柳川 太成
【審査官】
遠藤 邦喜
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−229691(JP,A)
【文献】
特開2005−032781(JP,A)
【文献】
特開平07−022769(JP,A)
【文献】
実開平03−039898(JP,U)
【文献】
米国特許第07940204(US,B1)
【文献】
特開2007−067395(JP,A)
【文献】
特開2009−158826(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
H01Q 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底面における外形形状が方形をなす中空構造体を備え、前記中空構造体の外表面の一部が前記方形の各辺に対し非平行面であって、少なくとも前記非平行面が板状電波吸収材で構成されており、
前記非平行面と、前記底面に平行な断面との交線が、前記方形の各辺に対し非平行であることを特徴とする電波吸収体。
【請求項2】
前記電波吸収材が板状電波吸収材であり、前記板状電波吸収材は先端側に向けて折れ曲がって先端側面を形成しており、前記先端側面と前記底面に平行な断面との交線が前記方形の各辺に対し非平行であることを特徴とする請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項3】
板状突出部を有しかつ底面における外形形状が方形をなす中空構造体を備え、前記板状突出部が前記方形の各辺に対する非平行面を有し、前記中空構造体の外表面の少なくとも一部及び前記非平行面が電波吸収材で構成されており、
前記非平行面と、前記底面に平行な断面との交線が、前記方形の各辺に対し非平行であることを特徴とする電波吸収体。
【請求項4】
前記中空構造体は、四角錐と、前記四角錐の稜線に沿って突出する前記板状突出部とを有することを特徴とする請求項3に記載の電波吸収体。
【請求項5】
前記電波吸収材が板状電波吸収材であることを特徴とする請求項3又は4に記載の電波吸収体。
【請求項6】
前記非平行面と前記底面に平行な断面との交線が、前記方形の一辺に対して成す角度αは30°≦α≦60°であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の電波吸収体。
【請求項7】
前記先端側面と前記底面に平行な断面との交線が、前記方形の一辺に対して成す角度αは30°≦α≦60°であることを特徴とする請求項2に記載の電波吸収体。
【請求項8】
前記電波吸収材は誘電体の表面に抵抗層を設けたものであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の電波吸収体。
【請求項9】
前記電波吸収材は誘電体に抵抗材料を含有させたものであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の電波吸収体。
【請求項10】
前記中空構造体の底面側に磁性損失材料を配設したことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の電波吸収体。
【請求項11】
室内側側壁面と天井面のうち少なくとも一つの面に、請求項1乃至10のいずれかに記載の電波吸収体が、先端側が室内側となり、かつ底面の一辺が床面と平行となるように複数配置されていることを特徴とする電波暗室。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空構造を有する電波吸収体及びそれを用いた電波暗室に関する。
【背景技術】
【0002】
電波暗室に用いる電波吸収体として、従来から中実のピラミッド形(四角錐)やくさび形の電波吸収体、あるいは軽量化やコストダウンのため内部を中空にしたピラミッド形やくさび形の電波吸収体が多く使用されている。
【0003】
中空の電波吸収体はカーボン等の抵抗材料を含有した板状電波吸収材や、表面に抵抗層を形成した板状電波吸収材で構成されることが一般的である。板状電波吸収材の例として、内部にカーボンを含有した発泡スチロール板、内部にカーボンを含有した段ボール構造の混抄紙やプラスチック板、表面に抵抗層を形成した発泡スチロール板等が挙げられる。
【0004】
ところで、板状電波吸収材は、入射電波の電界に対し板状電波吸収材が平行の場合は吸収、表面反射がともに大きく、垂直の場合は吸収、表面反射とも小さいという電波吸収特性を有している。
【0005】
図10は、板状電波吸収材を組み合わせた中空ピラミッド形電波吸収体の従来例であって、同図(A)は電波到来方向よりみた平面図、同図(B)は側面図、同図(C)は同図(B)のXC−XC線断面図である。この場合、
図10(C)の断面図において入射電波の電界に平行な電波吸収材1は吸収、表面反射が大きく、垂直な電波吸収材2は吸収、表面反射が小さい。つまり、波長が小さい高周波においては、電波入射方向から見た
図10(A)の領域Aでは入射電波の電界に対し電波吸収材が平行なため吸収が大きいが、領域Bでは電界に対し電波吸収材が垂直のため吸収が小さく、この領域から大きな反射を生じる。また、
図11(A),(B)のように
図10の電波吸収体3が複数並んだ場合、領域Aにおける表面反射が大きいため同図(B)に示すような多重反射も大きくなる。
【0006】
以上の結果、従来の中空形状の電波吸収体の場合には高周波における電波吸収特性が低いという問題があることがわかる。
【0007】
電波暗室を構成するための電波吸収体として下記特許文献1、特許文献2及び特許文献3が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開平1−171096号公報
【特許文献2】特許第4988060号公報
【特許文献3】特許第4420253号公報
【0009】
特許文献1は、
図12(A),(B)に示すように、電波暗室の側壁面(あるいは側面扉)に複数の電波吸収体を取り付ける場合に、山形の電波吸収材を並列配置した電波吸収体5を、床面6と側壁面7との交線に対して45°程度傾斜させて側壁面7(あるいは側面扉)に取り付けている。
【0010】
この場合、入射電波の電界方向が水平、垂直(水平偏波又は垂直偏波)のいずれにおいても、電波吸収体5の外面と電界方向は垂直にならないため、高周波での電波吸収特性の改善効果が期待されるが、電波暗室壁面の端部や扉等の開口付近においては
図12(A),(B)に示すようにギザギザ状に電波吸収体が並べられない部分が生じてしまう。このギザギザ部分からの反射が電波暗室性能を低下させるため、特別に加工した電波吸収体でこの部分を埋めなければならないという問題がある。
【0011】
特許文献2は、ピラミッド形電波吸収体を45°傾けて複数個一体化した電波吸収体ユニットを示す。この場合、電波吸収体ユニットの外周形状はジグザグ形状となるため、特許文献1と同様の問題が生じる。つまり、電波暗室壁面の端部や扉等の開口付近において電波吸収体が並べられない部分が生じてしまうから、特別に加工した電波吸収体でこの部分を埋めなければならないという問題がある。
【0012】
特許文献3は、
図13(A),(B)に示すように、中空角錐11の各側面を成す側面形成部12と、各側面形成部12から同一面で各側面形成部12の一方の稜線をはみ出すように延長した延長部13とを有し、1本の稜線に対して延長部13が1つだけ存在する、電波吸収体10を示す。電波吸収体10の底面側には板状フェライト焼結体(フェライトタイル)等の磁性損失体15が配設されている。この特許文献3は延長部13の存在により低周波から高周波まで広範囲にわたって良好な電波吸収特性が得られるとしている。但し、各側面形成部12及びこれと同一面で延長した延長部13は、入射電波の電界方向に平行又は垂直となるため、入射電波の電界方向に垂直となる領域に起因する電波吸収特性の低下を無視できない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明はこうした状況を認識してなされたものであり、その目的は、中空構造であっても高周波における電波吸収特性を改善できる電波吸収体及びそれを用いた電波暗室を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の態様は電波吸収体である。この電波吸収体は、底面における外形形状が方形をなす中空構造体を備え、前記中空構造体の外表面の一部が前記方形の各辺に対し非平行面であって、少なくとも前記非平行面が
板状電波吸収材で構成されており、
前記非平行面と、前記底面に平行な断面との交線が、前記方形の各辺に対し非平行であることを特徴とする。
【0015】
前記第1の態様において、前記電波吸収材が板状電波吸収材であり、前記板状電波吸収材は先端側に向けて折れ曲がって先端側面を形成しており、前記先端側面と前記底面に平行な断面との交線が前記方形の各辺に対し非平行であるとよい。
【0016】
本発明の第2の態様も電波吸収体である。この電波吸収体は、板状突出部を有しかつ底面における外形形状が方形をなす中空構造体を備え、前記板状突出部が前記方形の各辺に対する非平行面を有し、前記中空構造体の
外表面の少なくとも一部及び前記非平行面が電波吸収材で構成されて
おり、
前記非平行面と、前記底面に平行な断面との交線が、前記方形の各辺に対し非平行であることを特徴とする。
【0017】
前記第2の態様において、前記中空構造体は、四角錐と、前記四角錐の稜線に沿って突出する板状突出部を有するとよい。
【0018】
前記第1又は第2の態様において、前記電波吸収材が板状電波吸収材であるとよい。
【0019】
前記第1又は第2の態様において、前記非平行面と前記底面に平行な断面との交線が、前記方形の一辺に対して成す角度αは30°≦α≦60°であるとよい。
【0020】
前記第1の態様において、前記電波吸収材が板状電波吸収材であり、前記板状電波吸収材は先端側に向けて折れ曲がって先端側面を形成している場合に、前記先端側面と前記底面に平行な断面との交線が、前記方形の一辺に対して成す角度αは30°≦α≦60°であるとよい。
【0021】
前記第1又は第2の態様において、前記電波吸収材は誘電体の表面に抵抗層を設けたものであるとよい。
【0022】
前記第1又は第2の態様において、前記電波吸収材は誘電体に抵抗材料を含有させたものであるとよい。
【0023】
前記第1又は第2の態様において、前記中空構造体の底面側に磁性損失材料を配設した構成であるとよい。
【0024】
本発明の第3の態様は電波暗室である。この電波暗室は、室内側側壁面と天井面のうち少なくとも一つの面に、前記第1又は第2の態様に係る電波吸収体が、先端側が室内側となり、かつ底面の一辺が床面と平行となるように複数配置されていることを特徴とする。
【0025】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法やシステムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る電波吸収体によれば、底面における外形形状が方形をなす中空構造体を備える場合において、前記方形の各辺に対して非平行な面、すなわち非平行面を有するため、高周波における電波吸収特性を改善可能である。また、このような電波吸収体を用いることで電波吸収特性の優れた電波暗室を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る電波吸収体であって、(A)は斜視図、(B)は電波入射方向から見た平面図、(C)は正面図、(D)はこれに使用する板状電波吸収材の一例を示す拡大断面図、(E)これに使用する板状電波吸収材の他の例を示す拡大断面図。
【
図2】同じく第1の実施の形態であって、(A)は断面位置(上段、中段、下段)を追加した斜視図、(B)は上段の断面位置の断面図、(C)は中段の断面位置の断面図、(D)は下段の断面位置の断面図、(E)は入射電波の電界に対し非平行の領域Cが広いことを示す電波入射方向から見た平面図。
【
図3】本発明の第2の実施の形態に係る電波吸収体であって、(A)は斜視図、(B)は電波入射方向から見た平面図、(C)は正面図。
【
図4】本発明の第3の実施の形態に係る電波吸収体であって、(A)は斜視図、(B)は電波入射方向から見た平面図、(C)は正面図。
【
図5】本発明の第4の実施の形態に係る電波吸収体であって、(A)は斜視図、(B)は電波入射方向から見た平面図、(C)は正面図。
【
図6】第1の実施の形態に係る電波吸収体の板状延長部の寸法を変化させた形態であって、(A)は第5の実施の形態、(B)は第6の実施の形態、(C)は第7の実施の形態をそれぞれ示す斜視図。
【
図7】第1乃至第3の実施の形態の電波吸収特性と特許文献3(
図13)の電波吸収体の電波吸収特性とを対比したグラフ。
【
図8】本発明の第8の実施の形態に係る電波暗室であって、(A)は電波入射方向から見た平面図、(B)は側断面図。
【
図9】本発明の第9の実施の形態に係る電波暗室であって、(A)は電波入射方向から見た平面図、(B)は側断面図。
【
図10】板状電波吸収材を組み合わせた中空ピラミッド形電波吸収体の従来例であって、(A)は電波入射方向から見た平面図、(B)は頂点を通る断面による側断面図、(C)は前記側断面図のXC−XC線断面図。
【
図11】
図10の中空ピラミッド形電波吸収体を複数連続配置した場合であって、(A)は電波入射方向から見た平面図、(B)は頂点を通る断面による正断面図である。
【
図12】特許文献1の電波吸収体の配置であって、(A)は斜視図、(B)は電波吸収体を複数連続配置した場合の正面図。
【
図13】特許文献3の電波吸収体(比較例)であって、(A)は電波入射方向から見た平面図、(B)は側面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態を詳述する。なお、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理等には同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は発明を限定するものではなく例示であり、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0029】
図1(A)〜(E)及び
図2(A)〜(E)で本発明の第1の実施の形態に係る電波吸収体20を説明する。これらの図において、底板29は低誘電率誘電体、例えば発泡スチロールで、縦横厚み600mm×600mm×50mmの正方形板である。この上に(電波入射側に)、底面における外形形状が底板29と同寸法の正方形をなすように4枚の板状電波吸収材31を組み合わせた中空構造体30が載置され、接着等で一体化されている。底板29の背後には板状フェライト焼結体(フェライトタイル)等の磁性損失体40が配設されている。底板29は磁性損失体40に接着等で取り付けられる。底板29は中空構造体30の補強及び磁性損失体40への取り付けのために設けられる部材であり、省略可能である。
【0030】
中空構造体30を構成する4枚の板状電波吸収材31は、底辺が正方形の底板29の一辺に接続し、かつ底板29の一辺に平行な二等辺三角形の平行面31aとなる外面部分を残して、先端側に向けて折れ曲がって先端側外面を形成している。この先端側外面は、底板29の各辺に非平行で、一辺に対して角度α(30°≦α≦60°、より好ましくはα=45°)をなす非平行面31bである。これらの4枚の電波吸収材31は接着剤、接着テープ等で相互に組み合わされて中空多面体(但し、底面のみ開口している)と、前記中空多面体から突出した板状突出部としての板状延長部32とを形成する。板状延長部32の外面は、非平行面31bに含まれており、非平行面31bのうち隣接する電波吸収材31の非平行面31bから突出する部分である。中空構造体30の高さは900mm、二等辺三角形の平行面31aの高さは524mm、板状延長部32の高さは376mmである。また、板状延長部32の先端部の突出長は354mmである。
【0031】
なお、各板状電波吸収材31は、例えば
図1(D)のように発泡スチロール等の低誘電率誘電体32(あるいはダンボール構造等の見かけ上低誘電率となる誘電体)の表面にカーボン等の抵抗層33を設けたものである。但し、同図(E)のように発泡スチロール等の低誘電率誘電体32(あるいはダンボール構造等の見かけ上低誘電率となる誘電体)中にカーボン等の抵抗材料を含有、分散させたものであってもよい。
図1(D)の場合、抵抗層33がある方が中空構造体30の外面となるように使用することが好ましいが、内面となるように使用することもできる。
【0032】
図2(A)は中空構造体30に断面位置(上段、中段、下段)を追加した斜視図であり、同図(B)は中空構造体30の底面に平行な上段の断面位置(板状延長部32を通過する平行平面で切断したとき)の断面図である。底面の一辺に対して角度α(30°≦α≦60°、より好ましくはα=45°)だけ傾斜した非平行面31bで中空角錐部分が形成されているとともに、中空角錐部分から張り出した板状延長部32の外面が非平行面31bの延長部分で形成されていることがわかる。
図2(C)は中段の断面位置(二等辺三角形の平行面31aの頂点同士を通過する平行平面で切断したとき)の断面図であり、底面の一辺に対して前記角度αだけ傾斜した非平行面31bで中空角錐部分が形成されている。
図2(D)は下段の断面位置(平行面31a及び非平行面31bの両方を通過する平行平面で切断したとき)の断面図であり、中空構造体30の底辺に平行な四辺の平行面31aの間に前記角度αだけ傾斜した非平行面31bが位置する八角形の断面となっている。この結果、
図2(E)のように、電波入射方向から見たとき中空構造体30は入射電波の電界に対し角度α(30°≦α≦60°、より好ましくはα=45°)をなす非平行の領域Cが広くなっていることがわかる。
【0033】
図7は第1の実施の形態の電波吸収体20と同じ底面寸法(600mm×600mm)及び同じ高さ寸法(900mm、但し、磁性損失体15の厚みは含まない)の
図13の電波吸収体を比較例として、第1乃至第3の実施の形態と比較例の電波吸収特性データを示す。但し、第1乃至第3の実施の形態及び比較例共に使用する電波吸収材は
図1(D)の低誘電率誘電体32の表面に抵抗層33を設けたものである。また、第1乃至第3の実施の形態における角度α=45°で、各実施の形態及び比較例共に磁性損失体としてフェライトタイルを有し、複数個並べて配置し、垂直偏波の電波を入射させたときの測定データである。
【0034】
本発明の第1の実施の形態と比較例とを対比した場合、1GHz〜18GHzの殆どの帯域で第1の実施の形態の方が反射減衰量(dB)が勝っている。
【0035】
本実施の形態によれば、下記の効果を奏することができる。
【0036】
(1)
図2の各断面からわかるように、電波吸収体20が有する中空構造体30は底面(正方形)の一辺に対し、角度α(30°≦α≦60°、より好ましくはα=45°)だけ傾いた板状電波吸収材31の外面、つまり非平行面31aを備える形状である。このため、電波暗室の壁面や天井面に電波吸収体20を配置するときに、壁面と天井面の境界線或いは床面と壁面の境界線に平行に中空構造体30の底面の一辺を配列する一般的な配置であっても、通常一般的な水平または垂直偏波の入射電波の電界に対して、非平行面31aは角度α(30°≦α≦60°、より好ましくはα=45°)をなす。このため、入射電波の電界に対し板状電波吸収材31が平行の場合と垂直の場合のほぼ中間の吸収、表面反射となる。電波入射方向から見た場合(
図2(E))、中間的な吸収、表面反射となる電波吸収材31で広範囲にカバーされているため(領域C)、高周波においても大きな反射を生じる領域がほとんどなく、また電波吸収体が複数並んだ場合における多重反射も軽減されるため、高周波においても良好な電波吸収特性を実現できる。
【0037】
なお、角度αが30°未満の場合や、60°より大きい場合は、入射電波の電界に対して垂直に近い面が存在することになり、電波吸収特性の改善効果が少なくなる。
【0038】
(2) 電波暗室の壁面や天井面に電波吸収体20を配置するときに、壁面と天井面の境界線或いは床面と壁面の境界線に平行に中空構造体30の底面の一辺を配列する一般的な配置であればよく、
図12の特許文献1のような特殊な配置形態とする必要がなく、電波暗室壁面の端部や扉等の開口付近に生じる隙間を特別に加工した電波吸収体で埋める作業が不要である。このため、低コストで電波暗室を構成可能である。
【0039】
(3) 4枚の板状電波吸収材31を先端側に向けて折り曲げて先端側外面(正方形の底面に平行な断面との交線が正方形の各辺に対し非平行となる非平行面31a)を形成しており、中空構造体30の製造が容易であり、製造コストが安価である。
【0040】
(4) 中空構造体30は多面体部分から突出した板状延長部32を有することで、さらに電波吸収特性を向上させることができる。
【0041】
図3(A)〜(C)で本発明の第2の実施の形態に係る電波吸収体21を説明する。前述の第1の実施の形態の中空構造体30では底板29の一辺に平行な二等辺三角形の平行面31aは、底板29に対する垂直面よりも内側に傾いているが、この第2の実施の形態における中空構造体50では、底板29の一辺に平行な二等辺三角形の平行面51aが底板29に対して垂直に立ち上がるように、電波吸収材51における平行面51aと非平行面51bの寸法関係を定めている。すなわち、中空構造体50の高さは900mmであるが、二等辺三角形の平行面51aの高さは450mm、板状延長部52の高さも450mmである。その他の構成は前述の第1の実施の形態と同じである。
【0042】
図7の電波吸収特性データにおいて、この第2の実施の形態と前記比較例とを対比した場合、1GHz〜18GHzの殆どの帯域で第2の実施の形態の方が反射減衰量(dB)が勝っている。
【0043】
この第2の実施の形態においても、前述の第1の実施の形態と同様の作用効果が得られる。
【0044】
図4(A)〜(C)で本発明の第3の実施の形態に係る電波吸収体22を説明する。この場合、底板29上に載置固定される中空構造体60は、4枚の板状電波吸収材61を組み合わせた正四角錐65の稜線から、逆三角形状に突出する板状突出部としての板状延長部62を形成したものである。板状延長部62の外面は、底板29の正方形に合致する正四角錐65の底辺に対し角度α(30°≦α≦60°、より好ましくはα=45°)をなす非平行面61bを形成している。板状延長部62は板状電波吸収材61の延長部分を、正四角錐の側面(平行面61a)に対して折り曲げ形成したもの、あるいは板状電波吸収材61とは別体の逆三角形状の板状電波吸収材を接着剤や接着テープ等で正四角錐の稜線に沿って(稜線から突出するように)一体化したものであってもよい。中空構造体60及び板状延長部62の高さは900mmで、板状延長部62の先端部の突出長は354mmである。その他の構成は前述の第1の実施の形態と同様である。
【0045】
図7の電波吸収特性データにおいて、この第3の実施の形態と前記比較例とを対比した場合、1GHz〜18GHzの殆どの帯域で第3の実施の形態の方が反射減衰量(dB)が勝っている。
【0046】
この第3の実施の形態においても、前述の第1の実施の形態と同様の作用効果が得られる。
【0047】
図5(A)〜(C)で本発明の第4の実施の形態に係る電波吸収体23を説明する。この場合、底板29上に載置固定される中空構造体70は、板状電波吸収材71を2箇所折り曲げて、一面開口の中空四面体80を4個作製し、中空四面体80の開口面に対向する三角形面80aが中空正四角錐75の側面を形成するように接着剤や接着テープ等で連結一体化したものである。中空正四角錐75の底辺は底板29の正方形に合致し、中空四面体80の三角形面(平行面)80aに対して折れ曲がって立ち上がった逆三角形の板状突出部72は先端側の一辺72aにおいて互いに突き合わされ、接着剤や接着テープ等で接合されている。板状突出部72は中空正四角錐75の稜線に沿って突出し、板状突出部72の先端側の一辺72aは、中空正四角錐75の底辺に対して角度α(30°≦α≦60°、より好ましくはα=45°)をなしており、従って全部で4対ある板状突出部72の逆三角形の外面は、中空正四角錐75の底辺に対して角度αをなす非平行面72bとなる。その他の構成は前述の第1の実施の形態と同様である。
【0048】
この第4の実施の形態においても、中空正四角錐75の底辺に対して角度α(30°≦α≦60°、より好ましくはα=45°)をなす非平行面72bが4対ある板状突出部72の逆三角形の外面で構成されるため、前述の第1の実施の形態と実質的に同様の作用効果が得られる。
【0049】
図6は第1の実施の形態に係る電波吸収体の板状延長部の寸法を変化させた形態であって、(A)は第5の実施の形態、(B)は第6の実施の形態、(C)は第7の実施の形態をそれぞれ示す。
図6(A)の第5の実施の形態に係る電波吸収体24は板状突出部としての板状延長部32の先端幅を小さくした場合、同図(B)の第6の実施の形態に係る電波吸収体25は板状延長部32の先端縁に傾斜をつけて中心に向かって尖った形状とした場合、同図(C)の第7の実施の形態に係る電波吸収体26は板状延長部を無くした場合をそれぞれ示す。第5乃至第7の実施の形態において、中空構造体30の高さは900mm、二等辺三角形の平行面31aの高さは524mm、板状延長部32の高さは376mmである。その他の構成は、第1の実施の形態と同じである。
【0050】
これらの第5乃至第7の実施の形態においても、中空構造体30が非平行面31bを有することで、第1の実施の形態に準ずる作用効果が得られる。
【0051】
図8(A),(B)で本発明の第8の実施の形態に係る電波暗室を説明する。第8の実施の形態に係る電波暗室100は、電波暗室の内壁面を構成するシールドパネル101(導体板が片面又は両面に設けられたパネル)の室内側の面に第1の実施の形態に係る電波吸収体20が相互に隣接して多数配置固定されている。このとき、電波吸収体20の先端側(中空構造体30の配置されている側)が室内側となる。通常、電波暗室の側壁面及び天井面を
図8のように構成する。
【0052】
第1の実施の形態に係る電波吸収体20を用いることで、壁面や天井面に電波吸収体20を配置するときに、壁面と天井面の境界線或いは床面と壁面の境界線に平行に中空構造体30の底面の一辺を配列する一般的な配置構造を採用できる。このため、低コストで電波吸収特性の優れた電波暗室を構成可能である。
【0053】
図9(A),(B)で本発明の第9の実施の形態に係る電波暗室を説明する。第9の実施の形態に係る電波暗室110は、電波暗室の内壁面を構成するシールドパネル101(導体板が片面又は両面に設けられたパネル)の室内側の面に第2の実施の形態に係る電波吸収体21が相互に隣接して多数配置固定されている。このとき、電波吸収体21の先端側(中空構造体50の配置されている側)が室内側となる。通常、電波暗室の側壁面及び天井面を
図9のように構成する。
【0054】
第2の実施の形態に係る電波吸収体21を用いる場合、中空構造体50の底板29の一辺に平行な二等辺三角形の平行面51aが底板29に対して垂直に立ち上がった面となる。このため、第9の実施の形態に係る電波暗室を構成したときに平行面51aは電波入射方向に露出しない。このため、平行面51aは電波吸収材でなくともよい。但し、平行面51aも電波吸収材である方が電波吸収特性はいっそう良好となる。なお、その他の作用効果は第8の実施の形態と同様である。
【0055】
以上、実施の形態を例に本発明を説明したが、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスには請求項に記載の範囲で種々の変形が可能であることは当業者に理解されるところである。以下、変形例について触れる。
【0056】
前述の各実施の形態で用いる板状電波吸収材は、平板状のものに限定されず、角錐や多面体の複数の面を有するように予め成型したものを使用することができる。
【0057】
前述の各実施の形態では、正方形の底板に中空構造体の底面外形を合致させたが、長方形の底板に中空構造体の底面外形を合致させる構成であってもよい。
【符号の説明】
【0058】
1,2 電波吸収材
3,10,20,21,22,23,24,25,26 電波吸収体
15,40 磁性損失体
29 底板
30,50,60,70 中空構造体
31,51,61,71 板状電波吸収材
31a,51a,61a 平行面
31b,51b,61b,72b 非平行面
32,52,62 板状延長部
33 抵抗層
65,75 正四角錐
72 板状突出部
80 中空四面体
100,110 電波暗室
101 シールドパネル